(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ログ壁の設置構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/70 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
E04B2/70
(21)【出願番号】P 2019177180
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-07-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592190969
【氏名又は名称】株式会社アールシーコア
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100126147
【氏名又は名称】川上 成年
(72)【発明者】
【氏名】原田 喜秀
(72)【発明者】
【氏名】河野 光邦
(72)【発明者】
【氏名】井谷 真由美
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-303248(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0154334(US,A1)
【文献】米国特許第04463532(US,A)
【文献】特開2020-180490(JP,A)
【文献】特開2021-021187(JP,A)
【文献】特開平06-057852(JP,A)
【文献】特開平02-132240(JP,A)
【文献】特開平07-259196(JP,A)
【文献】特開2008-038491(JP,A)
【文献】特開2003-176585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/70
E04C 1/00
E04B 1/58
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸太組構法で
構成され、複数のログ壁
からなるログ壁の設置構造であって、
前記複数のログ壁の中の、一部のログ壁は、
第1ログ材の一端部と第2ログ材の一端部とが上下水平方向にずれ可能に嵌合
または当接して構成されたジョイント構造部が、2以上、上下に連続して構成された、水平剛性を低下させるためのスリット構造部、を有
し、
前記スリット構造部を有することにより、偏心率の所定の要求値を充足させた、ログ壁
の設置構造。
【請求項2】
前記第1ログ材の一端部は溝部を有し、前記第2ログ材の一端部は突起部を有し、
前記ジョイント構造部は、前記溝部と前記突起部とが嵌合して構成され、
前記スリット構造部は、前記ジョイント構造部の前記溝部及び前記突起部が上下に整列して構成された、請求項1に記載のログ壁
の設置構造。
【請求項3】
前記溝部の断面形状は矩形であり、前記突起部の断面形状は矩形である、請求項2に記載のログ壁
の設置構造。
【請求項4】
前記溝部の断面形状は谷状であり、前記突起部の断面形状は山状である、請求項2に記載のログ壁
の設置構造。
【請求項5】
前記ジョイント構造部は、前記第1ログ材の一端部と前記第2ログ材の一端部とが相欠きにて当接して構成された、請求項1に記載のログ壁
の設置構造。
【請求項6】
前記ジョイント構造部は、前記第1ログ材の一端部の斜面と前記第2ログ材の一端部の斜面とが当接して構成された、請求項1に記載のログ壁
の設置構造。
【請求項7】
前記スリット構造部の両側に緊結材を設けた、請求項1から6のいずれかに記載のログ壁
の設置構造。
【請求項8】
前記スリット構造部を、水平構面と接続したログ材には設けない、請求項1から7のいずれかに記載のログ壁
の設置構造。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のログ壁
の設置構造を有するログハウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ログ壁に関する。
【背景技術】
【0002】
丸太組構法の建物(以下、ログハウスともいう)における耐力壁の剛性は、ダボのせん断剛性を用いて算出する。これにより、剛性率や偏心率を計算する。ログハウスの偏心率は、例えば、0.3より小さいことが要求される(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】国土交通省国土技術政策総合研究所、独立行政法人建築研究所、日本建築行政会議、財団法人日本建築センター、ログハウス協会編集、「2003年版丸太組構法技術基準解説及び設計・計算例」第2版第4刷、工学図書株式会社、平成30年8月20日、P.79)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物の北側などの開口部が少ない壁面と、建物の南側などの開口部が多い壁面とでは、壁の水平剛性が異なる。従来のログハウスでは、偏心率の基準を満たすために、ダボの本数を調整して水平剛性を調整していた。しかしながら、レイアウトによってはダボの本数だけでは調整することが難しい場合もある。
【0005】
本発明は、これらのような従来の問題を解決するためになされたもので、ダボの本数の調整のみによらず、ログ壁の水平剛性を調整することが可能なログ壁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、丸太組構法で構成され、複数のログ壁からなるログ壁の設置構造であって、複数のログ壁の中の、一部のログ壁は、第1ログ材の一端部と第2ログ材の一端部とが上下水平方向にずれ可能に嵌合または当接して構成されたジョイント構造部が、2以上、上下に連続して構成された、水平剛性を低下させるためのスリット構造部、を有し、スリット構造部を有することにより、偏心率の所定の要求値を充足させた、ログ壁の設置構造である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のログ壁によれば、ダボの本数によらず、ログ壁の水平剛性を調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図7】偏心率算出に用いたログハウスの四方のログ壁の例を示す図。
【
図8】スリット構造部がある場合とない場合との剛心の位置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、実施形態のログ壁の正面図である。ログ壁1はログハウス(不図示)の外壁の1つである。ログ壁1は、ログ材101~312が積層して構成される。ログ材101~103は各々一本のログ材が積層する。ログ材103の下には、ログ材201とログ材301が後述するジョイント構造部a
1にて、上下水平方向にずれ可能に嵌合して積層する。
【0010】
ログ材201とログ材301の下部には、ログ材202とログ材302が後述するジョイント構造部a2にて、上下水平方向にずれ可能に嵌合し、ログ材201とログ材301のジョイント構造部a1とログ材202とログ材302のジョイント構造部a2とが整列して積層する。以下、同様にして、ログ材212とログ材312まで積層する。なお、ログ材の積層数はこれに限られない。
【0011】
ここで、ログ材201とログ材301のジョイント構造部a1から、ログ材212とログ材312のジョイント構造部a12までを、上下に整列させて形成された構造を、スリット構造部Aとする。
【0012】
最上部のログ材101の上部には、間仕切りランナー、2階床、屋根等の水平構面(不図示)が備わる。最下部のログ材212、312の下部には調整材や土台等(いずれも不図示)が備わる。ログ材101~312は、上下に貫通して設けられた通しボルト401~404により固定される。図に示すように、スリット構造部Aの両側には、通しボルト402、403が配置される。ログ材101~312は、ダボ列501~503により、上下のログ材同士が固定される。なお、
図1では、説明のために、ボルト401~404及びダボ列501~503は実線にて記載されているが、実際には、ログ材内に配置される。
【0013】
図2は、ジョイント構造部の平面図である。
図3は、ジョイント構造部の分解平面図である。ここでは、ログ材201とログ材301とが、ずれ可能に嵌合したジョイント構造部a
1を代表として説明するが、他のログ材202~212、302~312及び他のジョイント構造部a
2~a
12も同様の構成である。
【0014】
図2(a)に示すように、ログ材301とログ材201とが水平方向に嵌合している。その嵌合部をジョイント構造部a
1とする。ジョイント構造部a
1は、ログ材301とログ材201と、矩形断面の突起部2011と矩形断面の溝部3011が、上下水平方向にずれ可能に嵌合して構成される。
【0015】
図3に示すように、ログ材301は一端面に上下方向の矩形断面の溝部3011を有する。溝部3011は、側面3011a、3011cと底面3011bを有する。溝部3011の深さはd
1である。ログ材301は、溝部3011の両側に平面部3012、3013を有する、ログ材301は上面に実部3014を有する。
【0016】
ログ材201は一端面に上下方向の矩形断面の突起部2011を有する。突起部2011は、側面2011a、2011cと先端面2011bを有する。突起部2011の高さはd2である。ここで、突起部2011の高さd2は、溝部3011の深さd1より、小さくしてもよい。
【0017】
ログ材201は、突起部2011の両側に平面部2012、2013を有する、平面部2012、2013には防水材2014、2015がそれぞれ埋設される。ログ材201は上面に実部2016を有する。なお、防水材2014、2015の位置はこれに限られない。
図2(b)に示すように、突起部2011の、側面2011a、2011cに各々設けてもよい。
【0018】
ジョイント構造部a1は、ログ材301とログ材201と、矩形断面の突起部2011と矩形断面の溝部3011が摺動可能に嵌合してなる。ジョイント構造部における嵌合は、ある程度の上下方向のずれ(スライド)が可能となるように、突起部と溝部と間にある程度の隙間がある嵌合(「すきまばめ」や「遊動嵌合」ともいう)とすることが好ましい。
【0019】
図4は、ログ材の端面を示す図である。
図4(a)に示すように、ログ材301は上面に実部3014を有し、下面に実部3014と係合可能な形状を有する下溝部3015を有する。ログ材301の端面には溝部3011が上下方向に延伸して備わる。
【0020】
図4(b)に示すように、ログ材201は上面に実部2016を有し、下面に実部2016と係合可能な形状を有する下溝部2017を有する。なお、実部2016と実部3014とは同一形状であり、下溝部2017と下溝部3015とは同一形状である。ログ材201の端面には突起部2011が上下方向に延伸して備わる。
【0021】
突起部2011の両側には、防水材2014、2015が上下方向に延伸して埋設される。
【0022】
次に、スリット構造部Aの作用について説明する。
【0023】
ジョイント構造部a1~a12は、突起部2011~2121と矩形断面の溝部3011~3121が、各々ずれ可能に嵌合して構成される。このようなずれ可能なジョイント構造部a1~a12が連続的に整列してスリット構造部Aが構成されるため、スリット構造部Aは、上下水平方向にずれ可能となり、ログ壁1の水平剛性を低下させることができる。
【0024】
図1に示すように、スリット構造部Aの両側には、通しボルト402、403が備わる。これにより、スリット構造部Aにより分割されたログ壁1の回転を抑えることができる。
【0025】
例えば、ログ壁1の水平剛性がログハウスの他のログ壁に比べて極端に高くなるような場合には、
図1に示すように、ログ壁1に構造スリット部Aを設けることで、ログ壁1をB部とC部に分割する。こうすることで、ログ壁1の水平剛性を全体として低下させることができ、それによってログ壁1の水平剛性を低めてログハウスのバランス良くする(すなわち、偏心率の基準を満たす)ことが可能である。
【0026】
ログハウスのログ壁1にスリット構造部Aを設けることで、ログハウスのログ壁ごとに開口部の幅や数が異なる場合でも、ログ壁毎に水平剛性を調整することができるため、バランスの良い強度の高いログハウスの構成が可能となる。
【0027】
また、
図1に示すように、スリット構造部Aを、水平構面に接続するログ部材101には設けないことでもよい。これにより、2階床等の水平構面の強度及び剛性の低下を防止することができる。
【0028】
上記実施形態では、矩形断面の突起と矩形断面の溝が嵌合するジョイント構造部について説明したが、ジョイント構造部はこれに限られない。
【0029】
図5に示すように、ログ材301の端面とログ材201の端面とが当接するジョイント構造部であってもよい。
図6(a)に示すように、ログ材301の端面とログ材201の端面とが相欠きにて当接したジョイント構造部であってもよい。
図6(b)に示すように、突起部の断面形状は山状であり、溝部の断面形状は谷状であってもよい。また、突起部は台形等の断面形状であってもよい。
図6(c)に示すように、ログ材301の端部の斜面とログ材201の端部の斜面とが当接するジョイント構造部であってもよい。これらジョイント構造部を上下に整列させてスリット構造部を構成してもよい。
【0030】
以上説明したように、実施形態のログ壁によれば、ダボの本数の調整を行わずに水平剛性の調整が可能となり、これにより偏心率の基準を満たすことができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0032】
図7は、偏心率算出に用いたログハウスの四方のログ壁の例を示す。
図7(a)から(d)は、ログハウスの1階部分の壁を方向毎に抜き出した図である。図の簡略化のため、図では四方の各ログ壁が一枚の板のように図示されているが、実際には、各ログ壁は、複数のログ材が水平に積層して構成される。
【0033】
図7(a)は、南側のログ壁WALL2を示す。図に示すように、ログ壁WALL2は掃き出し窓用等の大開口O
S1と腰窓用等の開口O
S2と玄関ドア用等の開口O
S3を有する。
【0034】
図7(b)は、東側のログ壁WALL3を示す。図に示すように、ログ壁WALL3は、開口O
E1、O
E2を有する。
図7(c)は、北側のログ壁WALL4を示す。図に示すように、ログ壁WALL4は、開口O
N1、O
N2、O
N3を有する。また、ログ壁WALL4は、所定の位置に上述したスリット構造部Sを有する。なお、以後の偏心率の算出では、このスリット構造部Sがある場合と、ない場合について、偏心率の算出を行うものとする。
【0035】
図7(d)は、西側のログ壁WALL5を示す。図に示すように、ログWALL5は、開口O
W1、O
W2、O
W3を有する。
【0036】
図7(a)と
図7(c)からわかるように、南側のログ壁WALL2には、掃き出し窓等が配置されることが多いため、開口O
S1、O
S2、O
S3の面積の和は、北側のログ壁WALL4の開口O
N1、O
N2、O
N3の面積の和より大きくなる。
【0037】
図8は、スリット構造部Sがある場合とない場合との剛心の位置を計算した結果を示す図である。
図8(a)は、積雪50cm、勾配低減ありの条件下での剛心R
1,R
2の位置を示し、
図8(b)は、積雪150cm、勾配低減なしの条件下の剛心R
1,R
2の位置を示す。図中のGは重心を示し、R
1はスリット有りの場合の剛心を示し、R
2はスリットなしの場合の剛心を示す。
【0038】
重心の位置と剛心の位置からログハウスの偏心率が算出される。なお、偏心率の算出法に関しては非特許文献1に開示されている。
【0039】
図8(a)、(b)において、スリット構造部Sがない場合の偏心率は、それぞれ0.365、0.380となる。南側のログ壁WALL2は、開口が大きいため水平剛性が低いが、北側のログ壁WALL4は開口が小さいため水平剛性が高く、スリット構造部Sがない場合には、偏心率が大きく、ログハウスの剛性バランスが悪くなる。
【0040】
図8(a)、(b)において、スリット構造部Sがある場合の偏心率は、それぞれ0.279、0.294と、0.3を下回る値となり、要求値を充足できる。このように、北側のログ壁WALL4にスリット構造Sを設けることにより、偏心率が小さくなり、ログハウスの剛性バランスがよくなることがわかる。
【0041】
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1:ログ壁、101~103、201~212、301~312:ログ材、401~404:通しボルト、501~503:ダボ