(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】熱電発電システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20240403BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20240403BHJP
H10N 10/10 20230101ALI20240403BHJP
【FI】
H02M7/12 Z
H02N11/00 A
H10N10/10 C
(21)【出願番号】P 2020014820
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】515135114
【氏名又は名称】株式会社Eサーモジェンテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大畑 惠一
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 道生
(72)【発明者】
【氏名】南部 修太郎
【審査官】阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-081493(JP,A)
【文献】特開2004-229458(JP,A)
【文献】特開平06-153549(JP,A)
【文献】特開2004-047947(JP,A)
【文献】特開2020-008576(JP,A)
【文献】特開2002-233153(JP,A)
【文献】特開2000-245068(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046289(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02N 11/00
H10N 10/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に装着されるウェアラブル・デバイスを駆動する熱電発電システムであって、
生体に装着して、生体と外気との温度差で発電する熱電発電モジュールと、
前記熱電発電モジュールの出力を、前記ウェアラブル・デバイスを駆動可能な電圧に昇圧する昇圧回路と、
前記熱電発電モジュールの出力を、前記昇圧回路の入力電圧に変換する電圧変換回路と、
を備え、
前記熱電発電モジュールは、生体と外気との温度差に応じて、正負両極性の直流電圧が出力され、
前記電圧変換回路は、直流電圧を交流電圧に変換する発振回路と、該発振回路の交流電圧を整流する整流回路とで構成されており、前記熱電発電モジュールで出力される正負何れの極性の電圧に対して、正極性の電圧に変換するように構成されて
おり、
前記発振回路は、該発振回路の交流電圧出力を昇圧するトランスを備える、熱電発電システム。
【請求項2】
前記発振回路は、自励発振回路で構成されている、請求項1に記載の熱電発電システム。
【請求項3】
前
記発振回路は、正極性の直流電圧入力で発振す
る発振回路と、負極性の直流電圧入力で発振す
る発振回路とを並列接続した並列回路で構成されている、請求項
1または2に記載の熱電発電システム。
【請求項4】
前
記発振回路において、トランスの昇圧回路が正帰還回路に組み込まれており、入力より大きな交流電圧出力を発生することを特徴とする請求項
1~3の何れか1項に記載の熱電発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に密着させ、生体と外気との温度差により発電できる熱電発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
予防医療の重要性から、生体に常時密着させて、生体の医療データのセンシング、管理、通信機能等を行うウェアラブル・デバイスの研究開発が活発である。生体に常時密着させるため、デバイスの徹底的な小型・省電力化が図られているが、同時にそのデバイスを駆動する電源もウェアラブル化する必要がある。
【0003】
デバイスを駆動する電源として、従来は、小型電池が検討されている。しかしながら、電池の交換コストが大きな課題になっており、生体の発熱を活かしたエネルギー・ハーベスティング技術による自立電源の開発要望が強い。
【0004】
ウェアラブル・デバイスを駆動する電源として、熱電素子を用いる場合、生体と外気との温度差が小さいため、熱電素子の出力は非常に小さい。従って、熱電素子の出力を、ウェアラブル・デバイスを駆動できる電圧に昇圧する必要がある。例えば、非特許文献1には、腕時計をつける腕に、熱電素子を装着し、生体の熱を外気に放出することにより得た温度差で発電した出力を、昇圧回路(DC-DCコンバータ)を用いて1.5Vに昇圧し、この昇圧電圧を、腕時計の駆動電源にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】まてりあ 第38巻第3号(1999年)、頁257-259
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱電発電モジュールの出力を、ウェアラブル・デバイスの駆動電源とする熱電発電システムでは、熱電発電モジュールを生体に密着させ、生体の熱を発熱源とし、その熱を外気に放出することに得た温度差で発電することを想定している。従って、DC-DCコンバータは、熱電発電モジュールの正極性の電圧の出力を昇圧する回路である。
【0007】
しかしながら、使用環境によっては、熱電発電モジュールの出力が、負極性の電圧になることがある。例えば、砂漠等で外気温が体温より高い場合や、太陽光が熱電発電モジュールに当たって吸熱するような場合等では、温度差は逆転し、熱電発電モジュールの出力が逆転して、負極性の電圧となる。このような場合、DC-DCコンバータは動作しないことになる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、その主な目的は、使用環境によって、熱電発電モジュールの出力が正負両極性の電圧に変化しても、生体に装着されるウェアラブル・デバイスを駆動可能な電圧を供給することができる熱電発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る熱電発電システムは、生体に装着されるウェアラブル・デバイスを駆動する熱電発電システムであって、生体に装着して、生体と外気との温度差で発電する熱電発電モジュールと、熱電発電モジュールの出力を、ウェアラブル・デバイスを駆動可能な電圧に昇圧する昇圧回路と、熱電発電モジュールの出力を、昇圧回路の入力電圧に変換する電圧変換回路と、を備え、熱電発電モジュールは、生体と外気との温度差に応じて、正負両極性の電圧が出力され、電圧変換回路は、熱電発電モジュールで出力される正負何れの極性の電圧に対して、正極性の電圧に変換する回路で構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用環境によって、熱電発電モジュールの出力が正負両極性の電圧に変化しても、生体に装着されるウェアラブル・デバイスを駆動可能な電圧を供給することができる熱電発電システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における熱電発電システムのブロック図である。
【
図3】電圧変換回路の他の構成を示した回路図である。
【
図4】自励発振回路の構成を示したブロック図である。
【
図5】熱電発電システムの他の構成を示したブロック図である。
【
図6】正電圧入力自励発振回路の構成を示した回路図である。
【
図7】負電圧入力自励発振回路の構成を示した回路図である。
【
図8】自励発振回路の他の構成を示した回路図である。
【
図9】自励発振回路の入力動作を説明した回路図である。
【
図10】自励発振回路の入力動作を説明した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態における熱電発電システムの構成を示したブロック図である。なお、本実施形態における熱電発電システムは、生体に装着されるウェアラブル・デバイスを駆動する電圧を供給する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態における熱電発電システム100は、熱電発電モジュール1と、電圧変換回路2と、昇圧回路3とを備える。昇圧回路3は、具体的には、DC-DCコンバータで構成される。
【0015】
熱電発電モジュール1は、生体に装着されて、生体と外気との温度差で発電する。昇圧回路3は、熱電発電モジュール1の出力を、ウェアラブル・デバイスを駆動可能な標準電圧に昇圧する。電圧変換回路2は、熱電発電モジュール1の出力を、昇圧回路3の入力電圧に変換する。
【0016】
熱電発電モジュール1は、生体と外気との温度差に応じて、正負両極性の電圧が出力される。例えば、生体の温度が外気の温度よりも高い場合には、端子1aに対して端子1bに、正極性の電圧が発生する。一方、外気の温度が生体の温度よりも高い場合には、端子1aに対して端子1bに、負極性の電圧が発生する。
【0017】
電圧変換回路2は、熱電発電モジュール1で出力される正負何れの極性の電圧に対して、正極性の電圧に変換する回路で構成されている。電圧変換回路2で出力される正極性の電圧は、昇圧回路3に入力され、昇圧回路3で、ウェアラブル・デバイスを駆動可能な標準電圧に昇圧される。標準電圧としては、1.5V、3V、5V、12V等である。昇圧回路3で昇圧された標準電圧は、ウェアラブル・デバイスに供給され、ウェアラブル・デバイスを駆動する。
【0018】
電圧変換回路2は、例えば、
図2に示すように、全波整流回路4で構成することができる。ここで、全波整流回路4は、ブリッジ整流回路からなる。全波整流回路4は、正負両極性の入力電圧に対して、正極性の電圧に変換できる。ただし、出力を得るためには、入力電圧は、整流素子(ダイオード)の順方向電圧V
Fより大きくなければならない。
【0019】
熱電発電モジュール1にかかる温度差は1℃程度と極めて小さい。そのため、熱電素子の材料として、主たる適用範囲(室温から100℃)で最もゼーベック係数が大きい、すなわち温度差1℃あたりの起電力が最も大きいBiTe系を用いても、その起電力は1素子当たり約0.2mVと極めて小さい。そのため、多数の熱電素子を直列接続して熱電発電モジュール1を構成する必要があるが、そのような熱電発電モジュール1においても、出力電圧は小さい。それ故、全波整流回路4に使用する整流素子(ダイオード)は、順方向電圧VFの低いものである必要がある。
【0020】
一般的なSiデバイスでは、順方向電圧VFがpn接合ダイオードより約半分の0.4V程度のショットキーバリアダイオードを用いることが好ましい。あるいは、pn接合ダイオードを用いる場合には、バンドギャップが小さく、順方向電圧VFが0.2V程度の、InAs、InSb等の化合物半導体デバイスを用いることが好ましい。
【0021】
電圧変換回路2は、
図3に示すように、自励発振回路5と、自励発振回路5のAC出力を整流する整流回路6とで構成されていてもよい。熱電発電モジュール1で出力されるDC電圧を、自励発振回路5によりAC電圧に変換し、このAC電圧を整流回路6でDC電圧に整流する。これにより、熱電発電モジュール1で出力される正負何れの極性の電圧に対して、正極性の電圧を得ることができる。
【0022】
自励発振回路5は、例えば、
図4に示すように、正極性のDC電圧入力で発振する自励発振回路(正電圧入力自励発振回路)51と、負極性のDC電圧入力で発振する自励発振回路(負電圧入力自励発振回路)52とを並列接続した並列回路で構成することができる。
【0023】
なお、
図5に示すように、自励発振回路5と、整流回路6との間に、トランス7を設けてもよい。自励発振回路5で変換されたAC電圧を、トランス7で昇圧することによって、高いAC電圧を整流回路6に入力することができる。これにより、整流回路6、及び、後段の昇圧回路(DC-DCコンバータ)3の動作を容易にすることができる。トランス7の巻数比が、例えば1:20の場合、0.1VのAC電圧が、1V以上のAC電圧に昇圧されるため、汎用的な整流回路6や昇圧回路(DC-DCコンバータ)を用いることができる。
【0024】
正電圧入力自励発振回路51は、例えば、
図6に示すような構成の非安定マルチバイブレータを用いることができる。能動素子は、低い正極性の電圧で動作可能なエンハンスメント型N型MOSFET81、82が用いられる。
【0025】
同様に、負電圧入力自励発振回路52は、例えば、
図7に示すような構成の非安定マルチバイブレータを用いることができる。能動素子は、低い負極性の電圧で動作可能なエンハンスメント型P型MOSFET91、92が用いられる。
【0026】
(本実施形態の変形例)
図8は、自励発振回路5の他の回路構成を示した回路図である。自励発振回路において、MOSFET81、91のゲートからドレインへの正帰還回路にトランス7を組み込み、極小のDC電圧入力でも大きなAC電圧出力を得られるようにしたものである。正負両極性のDC電圧に対応してAC電圧出力が得られるように、エンハンスメント型N型MOSFET81で構成される回路と、エンハンスメント型P型MOSFET91で構成される回路とが並列接続されている。
【0027】
図9に示すように、正極性のDC電圧入力に対して、エンハンスメント型N型MOSFET81で構成される回路がアクティブとなる。また、
図10に示すように、負極性のDC電圧入力に対して、エンハンスメント型P型MOSFET91で構成される回路がアクティブとなる。巻数比が、例えば1:20のトランス7を用いれば、0.1VのAC電圧が、1V以上のAC電圧に昇圧されたAC出力が得られるため、後段に、汎用的な整流回路6や昇圧回路(DC-DCコンバータ)を用いることができる。
【0028】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 熱電発電モジュール
2 電圧変換回路
3 昇圧回路(DC-DCコンバータ)
4 全波整流回路(ブリッジ整流回路)
5 自励発振回路
6 整流回路
7 トランス
51 正電圧入力自励発振回路
52 負電圧入力自励発振回路
81、82 エンハンスメント型N型MOSFET
91、92 エンハンスメント型P型MOSFET
100 熱電発電システム