(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20240403BHJP
G01M 3/32 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G01N23/223
G01M3/32 A
(21)【出願番号】P 2022003823
(22)【出願日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】名越 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】上月 利晃
(72)【発明者】
【氏名】藤本 悠城
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-7928(JP,A)
【文献】特開2003-215073(JP,A)
【文献】特開2010-217020(JP,A)
【文献】特開2002-098658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01M 3/00-3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室に配置された試料に1次X線を照射し発生する2次X線の強度を検出室に配置された検出器を用いて測定する蛍光X線分析装置であって、
少なくとも前記検出室を含んで真空引きされる真空室と、
前記真空室外に駆動源を有して前記真空室内の機械的な動作を行う複数の駆動部と、
前記真空室の真空度を監視しながら、前記駆動部を一つずつ動作させ、各動作の前後において前記真空室の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該駆動部を真空漏れ箇所として特定し、その旨を表示手段に表示および/または記録手段に記録させる真空漏れ箇所特定手段とを備えた蛍光X線分析装置。
【請求項2】
試料室に配置された試料に1次X線を照射し発生する2次X線の強度を検出室に配置された検出器を用いて測定する蛍光X線分析装置であって、
少なくとも前記検出室を含んで真空引きされる真空室と、
前記真空室外に駆動源を有して前記真空室内の機械的な動作を行う複数の駆動部と、
前記真空室の真空度を監視し、単数の前記駆動部の動作および複数の前記駆動部の重複する動作について、各動作の前後において前記真空室の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該単数または複数の駆動部を真空漏れ箇所として特定し、その旨を表示手段に表示および/または記録手段に記録させる真空漏れ箇所特定手段とを備えた蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置において、
前記試料室が前記検出室に連通していて前記真空室に含まれる蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空引きされる真空室外に駆動源を有して真空室内の機械的な動作を行う複数の駆動部を備えた蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光X線分析装置は、試料室に配置された試料に1次X線を照射し発生する2次X線の強度を検出室に配置された検出器を用いて測定するにあたり、試料交換や各試料に応じた適切な光学系の設定のために、例えば、試料交換機、フィルター交換機、ダイヤフラム交換機、スリット交換機、分光素子交換機、ゴニオメーターなどのような、駆動源を有して真空室内の機械的な動作を行う複数の駆動部を備えている。ここで、真空室は、少なくとも検出室を含んで真空引きされる。
【0003】
モーター等の駆動源を真空引きされる真空室内に配置するのは好ましくないため、駆動源は、真空室外に配置され、真空室の周壁、上部または底部に設けられた孔を貫通する軸等を介して、真空室内の機械的な動作を行うための動力を伝達する。真空室に設けられた孔とそれを貫通する軸等との間は、相対運動可能なようにシールされているが、シール部材の経時劣化等により真空室の真空漏れの原因となり、劣化が進むと、必要な真空度に到達できないために蛍光X線分析装置が使用できない状態になる。
【0004】
真空室の真空漏れに関しては、真空室の真空度等を計測する計測手段を備え、分析中の真空度の異常を検出して、真空制御系に関連する警告情報または異常情報、異常が発生した時の数分前からの真空度の計測値の時系列を表示する蛍光X線分析装置がある(特許文献1の請求項1、段落0017、0018等参照)。なお、この蛍光X線分析装置における試料室および分光室からなる分析室が、本発明における真空引きされる真空室に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この蛍光X線分析装置では、真空室の真空漏れと駆動部との関連性については考慮されていないため、表示される情報からは、複数の駆動部のうちどの駆動部が真空漏れ箇所であるかは特定できない。そのため、警告情報または異常情報が表示されても、その後のメンテナンス等の処置に時間を要し、特に、測定が実質上不可能であるとの異常情報が表示された場合には、真空漏れに対する修理が完了するまでの、蛍光X線分析装置を使用できない期間が長くなってしまう。
【0007】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、駆動部に起因する真空室の真空漏れについて、自動的に該当駆動部を特定して検出できる蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成は、試料室に配置された試料に1次X線を照射し発生する2次X線の強度を検出室に配置された検出器を用いて測定する蛍光X線分析装置であって、少なくとも前記検出室を含んで真空引きされる真空室と、前記真空室外に駆動源を有して前記真空室内の機械的な動作を行う複数の駆動部と、前記真空室の真空度を監視しながら、前記駆動部を一つずつ動作させ、各動作の前後において前記真空室の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該駆動部を真空漏れ箇所として特定し、その旨を表示手段に表示および/または記録手段に記録させる真空漏れ箇所特定手段とを備えている。
【0009】
第1構成の蛍光X線分析装置においては、真空漏れ箇所特定手段が、真空室の真空度を監視しながら、駆動部を一つずつ動作させ、各動作の前後において真空室の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該駆動部を真空漏れ箇所として特定するので、駆動部に起因する真空室の真空漏れについて、自動的に該当駆動部を特定して検出できる。それゆえ、特定後のメンテナンス等の処置に要する時間を短縮できるとともに、所定の域値を適切に設定することにより、測定が実質上不可能となる前に予防的に処置を行うことができる。
【0010】
本発明の第2構成は、試料室に配置された試料に1次X線を照射し発生する2次X線の強度を検出室に配置された検出器を用いて測定する蛍光X線分析装置であって、少なくとも前記検出室を含んで真空引きされる真空室と、前記真空室外に駆動源を有して前記真空室内の機械的な動作を行う複数の駆動部と、前記真空室の真空度を監視し、単数の前記駆動部の動作および複数の前記駆動部の重複する動作について、各動作の前後において前記真空室の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該単数または複数の駆動部を真空漏れ箇所として特定し、その旨を表示手段に表示および/または記録手段に記録させる真空漏れ箇所特定手段とを備えている。
【0011】
第2構成の蛍光X線分析装置においては、真空漏れ箇所特定手段が、分析、分析前の初期化、自動診断等のメンテナンスを含む日常の運転中において、真空室の真空度を監視し、単数の駆動部の動作および複数の駆動部の重複する動作について、各動作の前後において真空室の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該単数または複数の駆動部を真空漏れ箇所として特定するので、駆動部に起因する真空室の真空漏れについて、自動的に該当駆動部を特定して検出できる。それゆえ、特定後のメンテナンス等の処置に要する時間を短縮できるとともに、所定の域値を適切に設定することにより、測定が実質上不可能となる前に予防的に処置を行うことができる。
【0012】
第1、第2構成の蛍光X線分析装置においては、前記試料室が前記検出室に連通していて前記真空室に含まれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1、第2実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。
図1に示すように、この装置は、試料4に1次X線3を照射し発生する蛍光X線等の2次X線5の強度を、検出器10を用いて測定する蛍光X線分析装置であって、試料4が配置される試料室15が、検出器10が設置される検出室16に連通していて、試料室15および検出室16が、真空引きされる真空室17となる。
【0015】
そして、この装置は、X線を発生するX線管1と、X線管1から発生したX線のうち所定の波長範囲のX線強度の減衰率を大きくさせたX線を、試料4に照射する1次X線3として通過させるフィルター2と、試料4から発生する2次X線5を検出器10側からみて視野制限するダイヤフラム6と、ダイヤフラム6を通過した2次X線を、方向を限定して通過させる発散スリット(ソーラースリット)7と、発散スリット7を通過した2次X線を分光する分光素子8と、分光素子8で分光された2次X線を、方向を限定して通過させる受光スリット(ソーラースリット)9と、受光スリット9を通過した2次X線の強度を測定する、検出器10、波高分析器11およびスケーラー12とを備えている。波高分析器11およびスケーラー12は、マルチチャンネルアナライザーであってもよい。
【0016】
さらに、この装置は、背景技術として説明した蛍光X線分析装置と同様に、試料交換や各試料に応じた適切な光学系の設定のために、真空室17外にモーター等の駆動源(図示せず)を有して真空室17内の機械的な動作を行う複数の駆動部18A-18G(模式的にブロックで図示している)を備えている。駆動源は、真空室17外に配置され、真空室17の周壁、上部または底部に設けられた孔を貫通する軸等を介して、真空室17内の機械的な動作を行うための動力を伝達する。真空室17に設けられた孔とそれを貫通する軸等との間は、相対運動可能なようにシールされている。
【0017】
試料4は、試料ホルダ13を介して試料台14に載置され、駆動部18Aである試料交換機により交換される。また、種々の波長の2次X線の強度を測定できるように、分光素子8と受光スリット9および検出器10とは、駆動部18Hであるゴニオメーターにより連動される。すなわち、この蛍光X線分析装置は、波長分散型であって走査型の装置である。フィルター2、ダイヤフラム5、発散スリット7、分光素子8、受光スリット9、検出器10は、一つずつしか図示していないが、実際にはそれぞれにおいて、種類(性能)の異なるものが複数備えられ、対応する駆動部18B,18C,18D,18E,18F,18Gであるフィルター交換機、ダイヤフラム交換機、発散スリット交換機、分光素子交換機、受光スリット交換機、検出器交換機により、任意のものが選択される。
【0018】
スケーラー12からの信号は、装置全体を制御するコンピューター等の制御手段24に入力される。また、真空室17内には真空度を監視するための圧力センサー20が設けられており、その出力も制御手段24に入力される。第1実施形態の蛍光X線分析装置は、制御手段24に搭載されるプログラムとして真空漏れ箇所特定手段23Aを備えており、真空漏れ箇所特定手段23Aは、真空室17の真空度を監視しながら、駆動部18A-18Gを一つずつ動作させ、各動作の前後において真空室17の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該駆動部を真空漏れ箇所として特定し、その旨を液晶ディスプレイ等の表示手段19に表示させるとともに、ハードディスク等の記録手段21に記録させる。なお、表示手段19での表示、記録手段21での記録は、いずれか一方のみを行ってもよい。
【0019】
次に、この装置の動作について説明する。操作者が、定期的に、または必要に応じて、図示しない入力手段から、真空漏れのチェックを行う旨を制御手段24に入力すると、真空漏れ箇所特定手段23Aは、真空室17の真空度を監視しながら、駆動部18A-18Gを一つずつ動作させ、各動作の前後において真空室17の真空度の変化が所定の域値、例えば0.2Pa以上になった場合に、つまり真空室17において圧力が0.2Pa以上高くなって、真空度が0.2Pa以上悪化した場合に、当該駆動部を真空漏れ箇所として特定し、その旨を表示手段19に表示させるとともに、記録手段21に記録させる。
【0020】
例えば、フィルター交換機である駆動部18Bの動作の前後において真空度の変化が0.2Pa以上になった場合には、駆動部18Bが真空漏れ箇所として特定され、「フィルター交換機の駆動に伴い真空度が悪化しました。フィルター交換機のシール部材が劣化している可能性があります。弊社サービスにご連絡ください。」などのように、表示手段19に表示されるとともに、記録手段21に記録される。
【0021】
このように、第1実施形態の蛍光X線分析装置においては、真空漏れ箇所特定手段23Aが、真空室17の真空度を監視しながら、駆動部18A-18Gを一つずつ動作させ、各動作の前後において真空室17の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該駆動部を真空漏れ箇所として特定するので、駆動部18A-18Gに起因する真空室17の真空漏れについて、自動的に該当駆動部を特定して検出できる。それゆえ、特定後のメンテナンス等の処置に要する時間を短縮できるとともに、所定の域値を適切に設定することにより、測定が実質上不可能となる前に予防的に処置を行うことができる。
【0022】
次に、本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。第2実施形態の蛍光X線分析装置は、上述の第1実施形態の蛍光X線分析装置と比べると、真空漏れ箇所特定手段23Bの内容のみが異なっているので、真空漏れ箇所特定手段23Bとそれによる第2実施形態の蛍光X線分析装置の動作についてのみ説明する。
【0023】
第2実施形態の蛍光X線分析装置の真空漏れ箇所特定手段23Bは、真空室17の真空度を監視し、単数の駆動部の動作および複数の駆動部の重複する動作について、各動作の前後において真空室17の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該単数または複数の駆動部を真空漏れ箇所として特定し、その旨を表示手段19に表示させるとともに、記録手段21に記録させる。なお、表示手段19での表示、記録手段21での記録は、いずれか一方のみを行ってもよい。
【0024】
第2実施形態の蛍光X線分析装置においては、操作者による真空漏れのチェックを行う旨の入力は必要なく、真空漏れ箇所特定手段23Bは、分析、分析前の初期化、自動診断等のメンテナンスを含む日常の運転中において、真空室17の真空度を監視し、単数の駆動部の動作および複数の駆動部の重複する動作について、各動作の前後において真空室17の真空度の変化が所定の域値、例えば0.2Pa以上になった場合に、当該単数または複数の駆動部を真空漏れ箇所として特定し、その旨を表示手段19に表示させるとともに、記録手段21に記録させる。
【0025】
例えば、分析中に、分光素子交換機である駆動部18Eおよび検出器交換機である駆動部18Gの重複する動作について、その動作の前後において真空度の変化が0.2Pa以上になった場合には、駆動部18Eおよび駆動部18Gが真空漏れ箇所として特定され、「分光素子交換機および検出器交換機の駆動に伴い真空度が悪化しました。分光素子交換機および/または検出器交換機のシール部材が劣化している可能性があります。弊社サービスにご連絡ください。」などのように、表示手段19に表示されるとともに、記録手段21に記録される。
【0026】
このように、第2実施形態の蛍光X線分析装置においては、真空漏れ箇所特定手段23Bが、分析、分析前の初期化、自動診断等のメンテナンスを含む日常の運転中において、真空室17の真空度を監視し、単数の駆動部の動作および複数の駆動部の重複する動作について、各動作の前後において真空室17の真空度の変化が所定の域値以上になった場合に、当該単数または複数の駆動部を真空漏れ箇所として特定するので、駆動部18A-18Gに起因する真空室17の真空漏れについて、自動的に該当駆動部を特定して検出できる。それゆえ、特定後のメンテナンス等の処置に要する時間を短縮できるとともに、所定の域値を適切に設定することにより、測定が実質上不可能となる前に予防的に処置を行うことができる。
【0027】
なお、第1、第2実施形態の蛍光X線分析装置において、試料室15が検出室16に連通していて、試料室15および検出室16が真空引きされる真空室17となるとしたが、試料4が真空では飛散する液体または粉体であるような場合には、両室を隔壁で分離して連通させず、検出室16のみを真空引きされる真空室17としてもよい。この場合に真空漏れ箇所特定手段23A,23Bによる特定の対象となるのは、真空室17である検出室16内の機械的な動作を行う駆動部18D-18Gである。
【0028】
また、本発明の蛍光X線分析装置においては、第1実施形態での真空漏れ箇所特定手段23Aと第2実施形態での真空漏れ箇所特定手段23Bを両方備えてもよい。この場合には、真空漏れ箇所特定手段23Bにより、分析、分析前の初期化、自動診断等のメンテナンスを含む日常の運転中において、操作者が特に意識することなく、駆動部18A-18Gに起因する真空室17の真空漏れのチェックが行われ、例えば、重複して動作する複数の駆動部18E,18Gが真空漏れ箇所として特定された場合に、真空漏れ箇所特定手段23Aにより、さらに真空漏れ箇所を絞り込むことができる。
【0029】
さらに、第1、第2実施形態の蛍光X線分析装置は、波長分散型でかつ走査型の蛍光X線分析装置として説明したが、本発明の蛍光X線分析装置は、波長分散型でかつ多元素同時分析型の蛍光X線分析装置でもよいし、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置でもよい。本発明を実施する蛍光X線分析装置によって、具体的にどのような駆動部を備えるかは異なる。
【符号の説明】
【0030】
3 1次X線
4 試料
5 2次X線
17 真空室
18A-H 駆動部
19 表示手段
21 記録手段
23A,23B 真空漏れ箇所特定手段