(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】発毛及び/又は育毛用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/55 20060101AFI20240403BHJP
A61K 31/685 20060101ALI20240403BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61K8/55
A61K31/685
A61P17/14
A61P43/00 105
A61Q7/00
(21)【出願番号】P 2022533977
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2021024299
(87)【国際公開番号】W WO2022004632
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-10-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020113073
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021034106
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599035339
【氏名又は名称】株式会社 レオロジー機能食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】藤野 武彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 志郎
(72)【発明者】
【氏名】本庄 雅則
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-516568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールアミン型プラズマローゲンを含有
し、外用剤又は注射剤であることを特徴とする発毛及び/又は育毛
用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛及び/又は育毛を促進する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマローゲンは、抗酸化作用を有するリン脂質の一種で、グリセロリン脂質の一つである。プラズマローゲンは哺乳動物の全ての組織に存在し、人体のリン脂質の約18%を占めるが、特に脳神経、心筋、骨格筋、白血球、精子に多いことが知られている。
【0003】
プラズマローゲンは、神経新生の促進作用や、リポポリサッカロイド(LPS)による神経炎症の抑制作用、脳内アミロイドβ(Aβ)タンパクの蓄積の抑制作用等を有することが知られており、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、統合失調症などの脳神経病において効果があるといわれている。例えば、非特許文献1では、ホタテ由来精製プラズマローゲンを経口投与した患者において、軽度アルツハイマー病の記憶機能を改善することが報告されている。
【0004】
一方、近年、薄毛は、男性のみならず、女性にとっても深刻な問題になりつつある。毛髪は、頭皮から出ている毛幹と頭皮内部の毛根とからなっており、毛根の基端の毛球部には、毛髪をつくる毛母細胞や毛母細胞の働きをコントロールする毛乳頭細胞が存在している。この毛根は、内毛根鞘及び外毛根鞘からなる毛根鞘により頭皮に固定されているが、外毛根鞘には、毛根幹細胞や色素幹細胞が存在するバルジ領域を有し、また、毛母細胞の素となる「CD34陽性細胞」を含んでいるため、毛髪の生成には欠かせない要素の1つと考えられている。
【0005】
また、毛幹を生み出す毛母細胞や毛根周辺の毛根鞘細胞の増殖を促進することが薄毛解消に重要であると考えられている。
【0006】
さらに、頭皮で、新生血管が増加することにより、効率よく毛根に栄養を与えることができ、発毛及び/又は育毛の促進が図られることが知られている。
【0007】
上記のような状況下、これまで、発毛及び/又は育毛に対するプラズマローゲンの影響についての研究はほとんどなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Fujino T.et al, “Efficacy and Blood Plasmalogen Changes by Oral Administration of Plasmalogen in Patients with Mild Alzheimer's Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Trial” EBioMedicine, [17] (2017) 199-205
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、優れた発毛及び/又は育毛効果を有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、プラズマローゲンが、成人ヒト毛包外毛根鞘細胞のAMPK(AMP-activated protein kinase)のリン酸化の促進や、ヒト線維芽細胞の血管内皮増殖因子(VEGF;vascular endothelial growth factor)の発現促進を図り、発毛及び/又は育毛に対して優れた効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]プラズマローゲンを含有することを特徴とする発毛及び/又は育毛用組成物。
[2]前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする上記[1]記載の発毛及び/又は育毛用組成物。
[3]前記動物組織が、貝類、ホヤ及び鳥類から選ばれる動物の組織であることを特徴とする上記[2]記載の発毛及び/又は育毛用組成物。
[4]前記動物組織が、ホタテ類の組織であることを特徴とする上記[2]又は[3]記載の発毛及び/又は育毛用組成物。
[5]前記プラズマローゲンが、エタノールアミン型プラズマローゲンであることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか記載の発毛及び/又は育毛用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物は、優れた発毛及び/又は育毛効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ホタテ由来プラズマローゲン(0.5μg/mL、3時間)処理による、HHORSC細胞(ヒト毛包外毛根鞘細胞)におけるAMPKのリン酸化促進(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す図である。
【
図2】ホタテ由来プラズマローゲン(5μg/mL、7時間)処理による、HHORSC細胞(ヒト毛包外毛根鞘細胞)におけるAMPKのリン酸化促進(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す図である。
【
図3】ホタテ由来プラズマローゲン(5μg/mL、7時間)処理による、HDF-a細胞(ヒト線維芽細胞)におけるVEGF発現の結果を示す図である。
【
図4】各種動物由来のプラズマローゲン(5μg/mL、7時間)処理による、HDF-a細胞(ヒト線維芽細胞)におけるVEGF発現の結果を示す図である。
【
図5】プラズマローゲン溶液を塗布したマウスの剃毛部の発毛の結果(剃毛後1週間経過後及び2週間経過後の代表例)を示す写真である。
【
図6】プラズマローゲンを4週間塗布したマウス皮膚のヘマトキシリン・エオジン染色による毛根の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発毛及び/又は育毛用組成物は、プラズマローゲンを含有することを特徴とする。
本発明の組成物は、ヒト毛包外毛根鞘細胞のAMPKのリン酸化やヒト線維芽細胞のVEGF発現を促進し、発毛及び/又は育毛に対して優れた効果を有する。外毛根鞘細胞は、発毛及び/又は育毛に対して重要な役割を果たしており、これを活性化することにより、発毛及び/又は育毛を促すことができる。また、頭皮の線維芽細胞で分泌されたVEGFが血管内皮細胞に作用することにより新生血管が増加し、効率よく毛根に栄養を与えることにより、発毛及び/又は育毛を促すことができる。
【0015】
すなわち、本発明のプラズマローゲンを含有する組成物は、外毛根鞘細胞のAMPK活性化用組成物や、VEGF発現促進用組成物や、血管新生促進用組成物や、発毛及び/又は育毛用組成物として用いることができる。ここで、本発明における発毛とは、脱毛症の患者の治療など、消失した毛髪を生やすことをいい、育毛とは、薄毛や脱毛の予防など、現在ある毛髪を強い毛髪に育てることをいう。
【0016】
本発明に用いるプラズマローゲンは、抗酸化作用を有するリン脂質の一種で、グリセロリン脂質の一つである。グリセロール骨格のsn-1位にビニールエーテル結合を有することで特徴づけられるグリセロリン脂質に特有のサブクラスであり、多くの哺乳類の組織の細胞膜中に高濃度で確認されている。プラズマローゲンとしては、sn-2位に脂肪酸エステル結合をもつものが好ましい。
【0017】
本発明に用いるプラズマローゲンは、一般にプラズマローゲンに分類されるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、コリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲン、イノシトール型プラズマローゲン、セリン型プラズマローゲンを挙げることができる。これらの中でも、コリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲンが好ましく、エタノールアミン型プラズマローゲンが特に好ましい。
【0018】
本発明のプラズマローゲンは、動物組織から抽出することができる。動物組織としては、プラズマローゲンを含むものであれば特に制限されるものではなく、貝類、ホヤ、ナマコ、サケ、サンマ、カツオなどの水産動物や、鳥類等を挙げることができる。これらの中でも、貝類、ホヤ、鳥類が好ましく、貝類が特に好ましい。用いる部位としては、食用部位(可食部位)が好ましい。これらの動物組織は、切断物であってもよいが、より効率的にプラズマローゲンを抽出できることから、粉砕物を用いることが好ましい。
【0019】
貝類としては、ホタテ類、ムールガイ、アワビ等の食用の二枚貝や巻貝を例示することができ、ホタテ類が特に好ましい。ホタテ類は、イタヤガイ科に属する食用の二枚貝であり、例えば、Mizuhopecten属、Pecten属に属するものを挙げることができる。具体的には、日本で採取されるホタテガイ(学名:Mizuhopecten yessoensis)や、ヨーロッパで採取されるヨーロッパホタテ(学名:Pectenmaximus(Linnaeus))等を挙げることができる。食用部位としては、貝柱、ひも等を挙げることができる。
【0020】
ホヤは、マボヤ科に属する食用の脊索動物であり、マボヤ属、アカボヤ属に属するものを挙げることができる。具体的には、マボヤ(学名:Halocynthia roretzi)や、アカボヤ(学名:Halocynthia aurantium)等を挙げることができる。食用部位としては、身の部分(筋膜体)を挙げることができる。
【0021】
鳥類は、食用の鳥類であれば特に制限されるものではなく、例えば、鶏、烏骨鶏、鴨等を挙げることができる。食用部位としては、プラズマローゲンを豊富に含むムネ肉が好ましい。
【0022】
プラズマローゲンの抽出は、水、有機溶媒、含水有機溶媒を用いて行うことができ、酵素処理を併用することが好ましい。例えば、エタノール抽出法や、ヘキサン抽出法を挙げることができ、エタノール抽出法が好ましい。
【0023】
エタノール抽出法としては、エタノール(含水エタノールを含む)を用いて抽出する方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、特開2019-140919号公報、特開2018-130130号公報、再表2012-039472号公報、特開2010-065167号公報、特開2010-063406号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0024】
ヘキサン抽出法としては、ヘキサンを用いて抽出する方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、再表2009-154309、再表2008-146942号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0025】
本発明の組成物は、経口剤又は非経口剤として使用することができる。
非経口用としては、外用剤や注射剤を挙げることができる。外用剤としては、具体的に、頭皮に適用できるものであれば、特に制限はなく、その形態としては、軟膏剤、クリーム剤、ジェル剤、ローション剤、乳液剤、パック剤、湿布剤等の皮膚外用剤を挙げることができる。具体的には、ヘアトニック、シャンプー、リンス、ポマード、ヘアローション、ヘアクリーム、ヘアトリートメント等の通常、発毛及び/又は育毛用途に用いることができるものが挙げられる。
【0026】
また、経口剤として用いる場合、その形態としては、例えば、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、液状、粒状、棒状、板状、ブロック状、固体状、丸状、ペースト状、クリーム状、カプレット状、ゲル状、チュアブル状、スティック状等を挙げることができる。これらの中でも、カプセル状の形態が好ましい。
【0027】
本発明の発毛及び/又は育毛用組成物は、プラズマローゲンを含有し、発毛及び/又は育毛に用いられる点において、製品として他の製品と区別することができるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、医薬品(医薬部外品を含む)や、化粧品や、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の所定機関より効能の表示が認められた機能性食品などのいわゆる健康食品等を挙げることができる。また、本発明に係る製品の本体、包装、説明書、宣伝物のいずれかに、発毛及び/又は育毛効果がある旨を表示したものが本発明の範囲に含まれる。
【0028】
例えば、化粧品や健康食品においては、具体的に、「髪を生やす」、「発毛を促す」、「毛髪の成長を促す」、「薄毛を防ぐ」、「薄毛が気になる方に」、「抜け毛が気になる方に」等を表示することができる。
【0029】
本発明の組成物におけるプラズマローゲンの含有量としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよい。その形態にもよるが、例えば、プラズマローゲンが、乾燥質量換算で、本発明の組成物全体の10-10質量%以上であることが好ましく、10-5質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。
【0030】
本発明の組成物が経口剤である場合の摂取量としては特に制限はないが、本発明の効果をより顕著に発揮させる観点から、プラズマローゲンの摂取量が、成人の1日当たり、10-6μg/日以上となるように摂取することが好ましく、1μg/日以上となるように摂取することがより好ましく、500μg/日以上となるように摂取することがさらに好ましく、1000μg/日以上となるように摂取することが特に好ましい。その上限は、例えば、20,000μg/日であり、好ましくは10,000μg/日である。
【0031】
本発明の組成物は、1日の摂取量が前記摂取量となるように、1つの容器に、又は例えば2~3の複数の容器に分けて、1日分として収容することができる。
【0032】
本発明の組成物は、必要に応じて、経口剤、外用剤又は注射剤として許容される有効成分(プラズマローゲン)以外の成分を添加して、公知の製剤方法によって製造することができる。
【0033】
本発明の有効成分以外の他の成分としては、例えば、ビタミン、ミネラル、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、動物性油、植物性油を挙げることができる。また、発毛及び/又は育毛剤に適用される炭化水素類、ロウ類、油脂類、エステル類、高級脂肪酸、高級アルコール、界面活性剤、香料、色素、防腐剤、抗酸化剤、紫外線防御剤、アルコール類、pH調整剤等、各種目的に応じた種々の成分を配合してもよい。
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
本発明の組成物の有効成分であるプラズマローゲンによるHHORSC細胞(ヒト毛包外毛根鞘細胞)におけるAMPKのリン酸化促進効果を確認した。
【0036】
[プラズマローゲン]
プラズマローゲンとして、ホタテガイ(学名:Mizuhopecten yessoensis)をエタノールで抽出し、HPLCで精製したエタノールアミン型プラズマローゲン(PlsEtn)を用いた。
【0037】
[細胞培養]
ヒト毛包外毛根鞘細胞として、ScienCell Research Laboratoriesから購入したHuman Hair Outer Root Sheath(HHORSC)細胞(#2420)を用いた。HHORSC細胞は、Mesenchymal Stem Cell Medium(MSCM, #7501)で培養した。継代回数10回までの細胞を実験に用いた。
【0038】
前日から培養したHHORSC細胞に対し、900μLのFMと、PlsEtn(0.5μg又は5μg)を100μLのOpti-MEMTM Reduced Serum Medium(ThemoFisher, #22600050)に予め超音波処理にて懸濁したPlsEtn溶液との混合培地で、所定時間(3時間又は7時間)培養した。
【0039】
[AMPKのリン酸化解析]
HHORSC細胞をバッファーA(0.25Mスクロース,10 mM Hepes-KOH, pH 7.5, 1 mM EDTA, protease inhibitor cocktail)で回収、遠心した。得られた細胞をバッファーAに懸濁し、超音波処理にて破砕、タンパク定量の後、同タンパク量を電気泳動した。次いで、PVDF膜に転写し、Phospho-AMPKα(Thr172)抗体(Cell Signaling technology, #2535S)とAMPKα抗体(Cell Signaling technology, #58315)を用いたウエスタンブロッティングで検出した。シグナルは、Multi Gauge software version 3.0 software(Fuji Film)で定量した。Phospho-AMPKα(Thr172)抗体で得られたシグナルをAMPKα抗体で得られたシグナルで除することで標準化した。さらに、未処理の細胞から得られた値を1として各処理を行った細胞におけるシグナル強度を相対値で示した。3回以上試行し、平均値と標準偏差で示した。
【0040】
図1に、0.5μg/mlのPlsEtn存在下で3時間培養したHHORSC細胞におけるAMPKのリン酸化促進効果(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す。また、
図2に、5μg/mlのPlsEtn存在下で7時間培養したHHORSC細胞におけるAMPKのリン酸化促進効果(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す。
【0041】
図1及び
図2に示すように、PlsEtn存在下で培養したHHORSC細胞では、PlsEtn非存在下で培養した細胞と比較して、AMPKの活性化に必須なAMPKαのリン酸化が亢進された。
以上の結果より、PlsEtnは、HHORSC細胞におけるAMPKのリン酸化を促進し、発毛及び/又は育毛を図ることができると考えられる。
【実施例2】
【0042】
本発明の組成物の有効成分であるプラズマローゲンによるHDF-a細胞(ヒト線維芽細胞)におけるVEGFの発現促進効果を確認した。
【0043】
[プラズマローゲン]
プラズマローゲンは、実施例1と同様に抽出及び精製したエタノールアミン型プラズマローゲン(PlsEtn)を用いた。
【0044】
[細胞培養]
ヒト線維芽細胞として、Human Dermal Fibroblasts-adult(HDF-a)細胞(#2320)を用いた。HDF-a細胞は、Fibroblast Medium (FM, #2301)で培養した。継代回数6回までの細胞を実験に用いた。
【0045】
前日から培養したHDF-a細胞を、5μg/ml PlsEtn存在下で7時間培養した。
また、比較として、PlsEtnの不存在下で、HDF-a細胞を同様に培養した。
【0046】
[VEGFの発現促進解析]
培養したHDF-a細胞を、バッファーA(0.25M スクロース、10mM Hepes-KOH、pH7.5、1mM EDTA)で回収、遠心した。得られた細胞をバッファーAに懸濁し、ソニケーションで破砕、タンパク定量の後、同タンパク量を電気泳動した。次いで、PVDF膜に転写し、抗vascular endothelial growth factor(VEGF)抗体(Protein tech #19003-1-AP)および抗actin抗体 (MBL #M177-3) を用いたウエスタンブロッティングで検出した。得られた各タンパク質のシグナルは、Multi Gauge software version 3.0 software(Fuji Film)で定量し、VEGFのシグナルをactinのシグナルで除することで標準化した。さらに未処理の値を1として各処理時に得られたVEGFのシグナル強度の相対値を2回の試行の平均値と平均値との差で示した。
【0047】
図3に、培養したHDF-a細胞におけるVEGFの発現促進(actinに対するVEGFの相対量)の結果を示す。
【0048】
図3に示すように、PlsEtn存在下で培養したHDF-a細胞では、PlsEtn非存在下で培養した細胞よりも、VEGFの発現が亢進された。したがって、PlsEtnは、VEGFの生合成を促進して血管新生を促し、発毛及び/又は育毛を図ることができると考えられる。
【実施例3】
【0049】
実施例2と同様に、プラズマローゲンによるHDF-a細胞(ヒト線維芽細胞)におけるVEGFの発現促進効果を確認した。本実施例においては、プラズマローゲンとして、ホタテ由来のものの他に、トリ(学名:Gallus gallus domesticus)胸肉由来、ホヤ(学名:Halocynthia roretzi)由来、及びムールガイ(学名:Mytilus Linnaeus)由来のものを用いた。
【0050】
図4に、各種動物由来のプラズマローゲンの存在下で培養したHDF-a細胞におけるVEGFの発現促進(GAPDHに対するVEGFの相対量)の結果を示す。
【0051】
図4に示すように、ホタテ由来のプラズマローゲンと同様に、トリ(胸肉)、ホヤ及びムールガイ由来のプラズマローゲンにおいても、VEGFの発現が亢進された。したがって、各種動物由来のプラズマローゲンは、VEGFの生合成を促進して血管新生を促し、発毛及び/又は育毛を図ることができると考えられる。
【実施例4】
【0052】
マウスを用いてプラズマローゲンによる発毛促進効果を確認した。
【0053】
[プラズマローゲン溶液]
ホタテ由来PlsEtn 51mg、トリ胸肉由来エーテルリン脂質 (PL含量9.1% , PlsEtn : PlsCho = 3:4で含有) 5mgの混合プラズマローゲン(Pls)を5.2mlの70%エタノールで溶解した1%プラズマローゲン溶液を用いた。
【0054】
[実験動物]
実験動物としては、発毛促進評価によく用いられる雄C3Hマウス(7週齢)を用いた。
【0055】
[マウスに対するプラズマローゲン溶液の塗布]
上記7週齢の雄C3Hマウス10匹を予備飼育し、8週齢で、背側皮膚の体毛を動物用電気バリカンで剃毛し、除毛クリームで除毛した。剃毛後48時間後より、10mg/ml Plsを含む70%EtOH溶液の塗布を開始した。塗布の頻度は、5回/週で2週間とし、塗布量は、20μl/cm2とした。また、コントロールとして、プラズマローゲンを含まない70%EtOH溶液を、同様の頻度及び塗布量で塗布した。各処理区につき、マウスは5匹ずつとした。
【0056】
[マウスの発毛の確認]
図5に、剃毛後1週間経過後及び2週間経過後にマウスの剃毛部を観察した結果を示す。
【0057】
図5に示すように、剃毛後2週間経過後、プラズマローゲンを含まない溶液を塗布したマウスの剃毛部には部分的に発毛のない皮膚が確認できるが、プラズマローゲンを含有する溶液を塗布したマウスの剃毛部には全体に発毛が確認でき、発毛の程度に明らかな差が認められた。すなわち、プラズマローゲンに発毛を促進する効果があることが明らかとなった。
【実施例5】
【0058】
毛根の発育期は、休止期に比して、毛根の細胞数が増加、肥大化することが知られている。そこで、プラズマローゲンを所定期間塗布したマウスの皮膚の毛根の様子を確認した。
【0059】
実施例4と同様の方法で、4週間、10mg/ml Plsを含む70%EtOH溶液をマウスに塗布した後、塗布部のマウス皮膚片を取得し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。なお、コントロールとして、プラズマローゲンを含まない70%EtOH溶液を、同様の頻度及び塗布量でマウスに塗布した。
【0060】
図6に、プラズマローゲンを4週間塗布したマウス皮膚のヘマトキシリン・エオジン染色による毛根の顕微鏡写真を示す。図中のスケールバーは、50μmを示す。
【0061】
図6に示すように、プラズマローゲンを含有する溶液を塗布したマウス皮膚では、コントロールに比して、細胞核を染色するヘマトキシリン陽性の大きな細胞集団が観察され、多くの毛根は発育期にあると考えられる。したがって、プラズマローゲンは、毛根の細胞増殖増大を促進し、発毛及び/又は育毛を図ることができると考えられる。
【実施例6】
【0062】
[配合例1]
以下に示す配合により、育毛剤(100g)を製造した。
ホタテ抽出プラズマローゲン 0.5mg
グリセリン 0.5mg
精製水 残部
【0063】
[配合例2]
以下に示す配合により、ハードカプセル剤を製造した。
ホタテ抽出プラズマローゲン 0.5mg
シクロデキストリン 3.3mg
アミノ酸 1.2mg
パインデックス 185.0mg
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の組成物は、外用剤又は経口剤として用いることができるものであり、産業上有用である。