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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】飛行用プロペラの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B64F 5/10 20170101AFI20240403BHJP
   B64C 11/24 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B64F5/10
B64C11/24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023162432
(22)【出願日】2023-09-26
【審査請求日】2023-10-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504305522
【氏名又は名称】ヤマコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅広
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0315451(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2023/0081843(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0047879(US,A1)
【文献】特開2018-034783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 11/00
B64C 27/00
B64F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチックからなる外皮で覆われ、当該外皮の内部でプロペラ骨格を構成する主桁とリブ以外の部分が中空である飛行用プロペラの製造方法であって、
設計されたプロペラ形状を有する中子を作製する工程と、
前記中子のプロペラ後縁に対応する部分の一部又は全部に離型シート又は離型剤を付与する工程と、
前記離型シート又は離型剤が付与された前記中子の上下両面に中子前縁を跨ぐと共に中子後縁を跨ぐことなく1枚又は複数枚が積層された前記炭素繊維強化プラスチックのプリプレグシートを貼付する工程と、
前記プリプレグシートのマトリックス樹脂を硬化してプロペラ形状の外皮を成形する工程と、
プロペラ形状に成形された前記炭素繊維強化プラスチックからなる前記外皮の内部から、前記中子のプロペラ後縁に対応する部分に前記離型シート又は離型剤が付与されており且つ前記プリプレグシートが前記中子後縁を跨ぐことなく貼付されていることで上面外皮と下面外皮とが接着していない部位を介して前記中子を取り出す工程と、
面外皮と下面外皮とが接着していない部位を介して、前記中子が取り出された前記外皮の内部に1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブからなる前記プロペラ骨格を挿入する工程と、
前記プロペラ骨格を挿入した前記外皮の上面外皮と下面外皮とが接着していない部位を接着する工程とを介することにより、
製造された前記飛行用プロペラのプロペラ前縁には上面外皮と下面外皮との接着部位を有さず、プロペラ後縁の一部又は全部には上面外皮と下面外皮との接着部位を有することを特徴とする飛行用プロペラの製造方法。
【請求項2】
前記外皮の内部から前記中子を取り出す工程において、
前記中子をプロペラ形状のまま又は分割して取り出すことを特徴とする請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法。
【請求項3】
前記外皮の内部から前記中子を取り出す工程において、
前記中子を溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出すことを特徴とする請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法。
【請求項4】
前記中子は、水溶性樹脂から作製され、前記溶剤は水であって、
前記外皮の内部から前記中子を水で溶解又は膨潤した状態で取り出すことを特徴とする請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法。
【請求項5】
炭素繊維強化プラスチックからなる外皮で覆われ、当該外皮の内部でプロペラ骨格を構成する主桁とリブ以外の部分が中空である飛行用プロペラの製造方法であって、
1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブからなるプロペラ骨格を準備する工程と、
溶剤可溶性の樹脂を用いて、前記プロペラ骨格を内部に包含するプロペラ形状を有する中子を作製する工程と、
前記中子の上下両面に中子前縁及び中子後縁の両方を跨ぐようにして1枚又は複数枚が積層された前記炭素繊維強化プラスチックのプリプレグシートを貼付する工程と、
前記プリプレグシートのマトリックス樹脂を硬化して、プロペラ前縁及びプロペラ後縁に上面外皮と下面外皮との接着部位を有さないプロペラ形状の外皮を成形する工程と、
前記外皮の一部を開放して、前記中子を溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出す工程と、
前記中子を取り出した前記外皮の開放部位を修復する工程とを介することにより、
製造された前記飛行用プロペラの前記外皮の一部に修復した前記開放部位を有することを特徴とする飛行用プロペラの製造方法。
【請求項6】
前記中子は、有機溶剤に可溶性の樹脂から作製され、前記溶剤は当該有機溶剤であって、
前記外皮の内部から前記中子を前記有機溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出すことを特徴とする請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法。
【請求項7】
前記中子は、水溶性樹脂から作製され、前記溶剤は水であって、
前記外皮の内部から前記中子を水で溶解又は膨潤した状態で取り出すことを特徴とする請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行用プロペラ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロペラは、飛行機などに用いられ、動力源からの出力をプロペラの回転による推進力に変えて機体を前進させるための装置である。また、エンジンを動力源とする航空機などに用いられるものに限らず、スポーツとしての人力飛行機や補助動力付人力飛行機などにおいてもプロペラは重要な装置である。更に、近年ではドローン(無人航空機)や空飛ぶ車(空陸両用車)におけるプロペラも種々開発されている。
【0003】
特に、人力飛行機やドローンなどの小型の飛行装置では、構造と強度に加え軽量化できるプロペラが求められる。以下、人力飛行機のプロペラを例にして説明する。人力飛行機の動力源は人であり、人がペダルを踏んで得られるペダルシヤフトの回転を動力伝達機構によりプロペラに伝え、プロペラを回転させることにより飛行する。
【0004】
例えば、民間放送局主催による人力飛行機の滞空距離および飛行時間を競う競技会「鳥人間コンテスト選手権大会」が毎年開催され、機体の改良やプロペラの改良などが毎年話題となる。人力飛行機のプロペラは、機体に合わせて設計したプロペラを如何に丈夫に如何に軽く作るかが重要となる。
【0005】
一般的には、人力飛行機のプロペラは、木材や発泡樹脂などをコア材(芯材)として、表面に炭素繊維を基布としたCFRPやガラス繊維を基布としたGFRPを張り付け成形するものである。しかし、このようなプロペラでは、内部にコア材があり軽量化が難しいという問題があった。
【0006】
そこで、プロペラ内部にできるだけ中空部を設けて軽量化を図るプロペラの作製方法も行われるようになった。例えば、下記非特許文献1及び非特許文献2には、人力飛行機のプロペラの構造や作製方法に関する記述がみられる。これらの方法は、設計したプロペラの外皮を上下面の2枚の外皮に分け、それぞれを作製するものである。
【0007】
具体的には、上下面の2枚の外皮のための2つの型の3Dデータを作る。次に、ケミカルウッドなどの材料をCNC旋盤で切削し上下面の外皮の型を作る。各型の表面に離型処理を施し、バルサ材を張りCFRPのプリプレグシートを積層する。この状態で真空引きしてから炉に入れて加熱し、プリプレグシートの樹脂を硬化させる。これで、上下面の2枚の外皮が完成する。
【0008】
次に、外皮の内側に主桁とリブを配置して固定し、上下面の外皮の周縁をエポキシ系の接着剤などで固定する。上下面の外囲を固定したプロペラの表面に塗装して人力飛行機用のプロペラが完成する。この状態でも、プロペラの外皮はCFRPやバルサ材などが積層されて強度を有し、内部に中空部があって軽量化されている。しかし、この方法は、上下面の2つの型を作製しなければならず、作製コストが高くなるという問題があった。
【0009】
更に、外皮が上下面の2枚からなり、それらの接着部がプロペラの周縁全体にあることから、飛行中に空気抵抗を直接受ける外皮の前縁の接着部が飛行中に剥離するという問題があった。このような剥離を避けるために、前縁の接着剤を多くすれば軽減されるが、前縁の剥離を無くすことはできなかった。また、前縁の接着を過剰にすれば、プロペラの重量が増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】第一工業大学研究報告第22号(2010)pp.31-39
【文献】どぼん会 人力飛行機製作日誌(2011/08/09) (URL:http://dobonkai.blog99.fc2.com/blog-entry-77.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、プロペラの外皮の周縁の接着部を小さく又は最小限にとどめ、特に前縁に接着部を有さず、プロペラとして十分な強度を有すると共に、内部に中空部を設けて軽量化され、且つ、製造コストを抑えた飛行用プロペラ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題の解決にあたり、本発明者は、鋭意研究の結果、プロペラ形状の中子を使用し、外皮を上下面の2枚にすることなく前縁に接着部を設けず、外皮が完成した段階で中子を取り出すことにより、又は、開放部を最小限にして中子を溶解して取り出すことにより、上記目的を達成できることを見出し本発明の完成に至った。
【0014】
また、本発明に係る飛行用プロペラの製造方法は、請求項1の記載によると、
炭素繊維強化プラスチックからなる外皮で覆われ、当該外皮の内部でプロペラ骨格を構成する主桁とリブ以外の部分が中空である飛行用プロペラの製造方法であって、
設計されたプロペラ形状を有する中子を作製する工程と、
前記中子のプロペラ後縁に対応する部分の一部又は全部に離型シート又は離型剤を付与する工程と、
前記離型シート又は離型剤が付与された前記中子の上下両面に中子前縁を跨ぐと共に中子後縁を跨ぐことなく1枚又は複数枚が積層された前記炭素繊維強化プラスチックのプリプレグシートを貼付する工程と、
前記プリプレグシートのマトリックス樹脂を硬化してプロペラ形状の外皮を成形する工程と、
プロペラ形状に成形された前記炭素繊維強化プラスチックからなる前記外皮の内部から、前記中子のプロペラ後縁に対応する部分に前記離型シート又は離型剤が付与されており且つ前記プリプレグシートが前記中子後縁を跨ぐことなく貼付されていることで上面外皮と下面外皮とが接着していない部位を介して前記中子を取り出す工程と、
面外皮と下面外皮とが接着していない部位を介して、前記中子が取り出された前記外皮の内部に1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブからなる前記プロペラ骨格を挿入する工程と、
前記プロペラ骨格を挿入した前記外皮の上面外皮と下面外皮とが接着していない部位を接着する工程とを介することにより、
製造された前記飛行用プロペラのプロペラ前縁には上面外皮と下面外皮との接着部位を有さず、プロペラ後縁の一部又は全部には上面外皮と下面外皮との接着部位を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法であって、
前記外皮の内部から前記中子を取り出す工程において、
前記中子をプロペラ形状のまま又は分割して取り出すことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法であって、
前記外皮の内部から前記中子を取り出す工程において、
前記中子を溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出すことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法であって、
前記中子は、水溶性樹脂から作製され、前記溶剤は水であって、
前記外皮の内部から前記中子を水で溶解又は膨潤した状態で取り出すことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る飛行用プロペラの製造方法は、請求項5の記載によると、
炭素繊維強化プラスチックからなる外皮で覆われ、当該外皮の内部でプロペラ骨格を構成する主桁とリブ以外の部分が中空である飛行用プロペラの製造方法であって、
1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブからなるプロペラ骨格を準備する工程と、
溶剤可溶性の樹脂を用いて、前記プロペラ骨格を内部に包含するプロペラ形状を有する中子を作製する工程と、
前記中子の上下両面に中子前縁及び中子後縁の両方を跨ぐようにして1枚又は複数枚が積層された前記炭素繊維強化プラスチックのプリプレグシートを貼付する工程と、
前記プリプレグシートのマトリックス樹脂を硬化して、プロペラ前縁及びプロペラ後縁に上面外皮と下面外皮との接着部位を有さないプロペラ形状の外皮を成形する工程と、
前記外皮の一部を開放して、前記中子を溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出す工程と、
前記中子を取り出した前記外皮の開放部位を修復する工程とを介することにより、
製造された前記飛行用プロペラの前記外皮の一部に修復した前記開放部位を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法であって、
前記中子は、有機溶剤に可溶性の樹脂から作製され、前記溶剤は当該有機溶剤であって、
前記外皮の内部から前記中子を前記有機溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出すことを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項に記載の飛行用プロペラの製造方法であって、
前記中子は、水溶性樹脂から作製され、前記溶剤は水であって、
前記外皮の内部から前記中子を水で溶解又は膨潤した状態で取り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上記構成によれば、飛行用プロペラは、主桁とリブと外皮からなる。外皮で覆われた内部は、1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブで構成され、その他の部分は中空である。外皮は、1枚又は複数枚が積層された炭素繊維強化プラスチックからなる。プロペラ前縁には上面外皮と下面外皮との接着部位を有さない。一方、プロペラ後縁の一部又は全部には上面外皮と下面外皮との接着部位を有する。
【0023】
このことにより、プロペラの外皮の周縁の接着部を小さくし、特に前縁に接着部を有さず、プロペラとして十分な強度を有すると共に、内部に中空部を設けて軽量化され、且つ、製造コストを抑えた飛行用プロペラを提供することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、飛行用プロペラの製造方法は、最初の工程は、設計されたプロペラ形状を有する中子を作製する。次の工程は、中子のプロペラ後縁に対応する部分の一部又は全部に離型シート又は離型剤を付与する。次の工程は、離型シート又は離型剤が付与された中子の上下両面に中子前縁を跨ぐと共に中子後縁を跨ぐことなく1枚又は複数枚が積層された炭素繊維強化プラスチックのプリプレグシートを貼付する。次の工程は、プリプレグシートのマトリックス樹脂を硬化してプロペラ形状の外皮を成形する。
【0025】
次の工程は、プロペラ形状に成形された炭素繊維強化プラスチックからなる外皮の内部から、中子のプロペラ後縁に対応する部分に離型シート又は離型剤が付与されており且つプリプレグシートが中子後縁を跨ぐことなく貼付されていることで上面外皮と下面外皮とが接着していない部位を介して中子を取り出す。次の工程は、上面外皮と下面外皮とが接着していない部位を介して、中子が取り出された外皮の内部に1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブからなるプロペラ骨格を挿入する。次の工程は、プロペラ骨格を挿入した外皮の上面外皮と下面外皮とが接着していない部位を接着する。
【0026】
このことにより、プロペラの外皮の周縁の接着部を小さく、特に前縁に接着部を有さず、プロペラとして十分な強度を有すると共に、内部に中空部を設けて軽量化され、且つ、製造コストを抑えた飛行用プロペラの製造方法を提供することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、外皮の内部から中子を取り出す工程において、中子をプロペラ形状のまま又は分割して取り出すようにしてもよい。また、中子を溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出すようにしてもよい。この場合、中子を水溶性樹脂から作製し、水で溶解又は膨潤した状態で取り出すようにしてもよい。これらのことにより、上記作用効果を具体的且つ効果的に発揮することができる。
【0028】
また、上記構成によれば、飛行用プロペラは、主桁とリブと外皮からなる。外皮で覆われた内部は、1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブで構成され、その他の部分は中空である。外皮は、1枚又は複数枚が積層された炭素繊維強化プラスチックからなる。プロペラ前縁及びプロペラ後縁には上面外皮と下面外皮との接着部位を有さない。
【0029】
このことにより、プロペラの外皮の周縁の接着部を最小限にとどめ、プロペラとして十分な強度を有すると共に、内部に中空部を設けて軽量化され、且つ、製造コストを抑えた飛行用プロペラを提供することができる。
【0030】
また、上記構成によれば、飛行用プロペラの製造方法は、最初の工程は、1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブからなるプロペラ骨格を準備する。次の工程は、溶剤可溶性の樹脂を用いて、プロペラ骨格を内部に包含するプロペラ形状を有する中子を作製する。次の工程は、中子の上下両面に中子前縁及び中子後縁の両方を跨ぐようにして1枚又は複数枚が積層された炭素繊維強化プラスチックのプリプレグシートを貼付する。次の工程は、プリプレグシートのマトリックス樹脂を硬化して、プロペラ前縁及びプロペラ後縁に上面外皮と下面外皮との接着部位を有さないプロペラ形状の外皮を成形する。次の工程は、外皮の一部を開放して、中子を溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出す。次の工程は、中子を取り出した外皮の開放部位を修復する。
【0031】
このことにより、プロペラの外皮の一部に修復した開放部位を最小限にとどめ、プロペラとして十分な強度を有すると共に、内部に中空部を設けて軽量化され、且つ、製造コストを抑えた飛行用プロペラの製造方法を提供することができる。
【0032】
また、上記構成によれば、中子は、有機溶剤に可溶性の樹脂から作製され、外皮の内部から中子を有機溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出すようにしてもよい。また、中子は、水溶性樹脂から作製され、外皮の内部から中子を水で溶解又は膨潤した状態で取り出すようにしてもよい。これらのことにより、上記作用効果を具体的且つ効果的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態で使用する中子を示す概要平面図である。
図2図1の中子の中子後縁に離型シートを付与した状態を示す概要平面図である。
図3図2の中子の表面にCFRP又はCFRTPのプリプレグシートを貼付する状態を示す概要平面図である。
図4図3の中子の表面全体がCFRP又はCFRTPのプリプレグシートで被覆された状態を示す概要平面図である。
図5図4の中子の表面全体に貼付したCFRP又はCFRTPのマトリックス樹脂を硬化させた後に、プロペラの外皮の内部から中子を取り出す状態を示す概要平面図である。
図6図5の中子を取り出したプロペラの外皮の内部にプロペラ骨格を挿入する状態を示す概要平面図である。
図7図6のプロペラの外皮の内部にプロペラ骨格が挿入され、上面外皮と下面外皮とが接着されて完成した第1実施形態のプロペラを示す概要平面図である。
図8】第2実施形態で使用する中子を示す概要平面図である。
図9図8の中子の表面全体がCFRP又はCFRTPのプリプレグシートで被覆された状態を示す概要平面図である。
図10図9の中子の表面全体に貼付したCFRP又はCFRTPのマトリックス樹脂を硬化させた後に、プロペラの外皮の内部から中子を溶解して取り出す状態を示す概要平面図である。
図11図10のプロペラの外皮の内部から中子が取り出され、取り出した解放部が修復されて完成した第2実施形態のプロペラを示す概要平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
ここで、本発明に係る飛行用プロペラ(以下、単に「プロペラ」という)について具体的に説明する。本発明に係るプロペラは、その用途が人力飛行機に限るものではなく、人力ヘリコプター、補助動力付き人力飛行機、ドローン(無人航空機)、空飛ぶ車(空陸両用車)、模型の飛行機やヘリコプター、その他の各種飛行装置に使用できるものである。
【0035】
また、本発明に係るプロペラは、人力飛行機など動力源の出力の低い飛行装置にも対応できるように軽量化を特徴とする。つまり、軽量化のために内部の中空部を広く作製した場合でも、プロペラの設計強度を維持することができる。具体的には、プロペラの外皮で覆われた内部は、1本の主桁と強度を維持するための必要枚数のリブのみで構成されている。なお、必要により最小限の他の構造物(例えば、補助桁や補助リブなど)を加えて構成してもよい。
【0036】
また、外皮は、軽量化のために1枚又は複数枚が積層された炭素繊維強化プラスチックから構成されている。なお、必要により最小限の他の積層体(例えば、ガラス繊維のGFRPなど)を加えて構成してもよい。
【0037】
本発明において、炭素繊維強化プラスチックとは、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする狭義のCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)、及び、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするCFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)の両方を含むものである。
【0038】
また、本発明に係るプロペラは、第1実施形態によれば、プロペラの前縁には上面外皮と下面外皮との接着部位を有さず、プロペラの後縁の一部又は全部には上面外皮と下面外皮との接着部位を有する。このプロペラの後縁の接着部位は、プロペラの製造段階で使用するプロペラ形状の型(本発明では「中子」という)を取り出すための開放部位である。この開放部位は、中子を取り出した後に上面外皮と下面外皮とを接着した部位となる(詳細は後述する)。
【0039】
一方、第2実施形態によれば、プロペラの前縁及び後縁には上面外皮と下面外皮との接着部位を有さない。第2実施形態においては、プロペラの製造段階で使用するプロペラ形状の型(中子)を主として溶解して取り出すからである(詳細は後述する)。なお、「中子」とは本来、鋳造品において中に空洞があるものを製造する際に、空洞にあたる部分として鋳型の中にはめこむ砂型をいう。本発明においては、プロペラを製造する際に中にはめこむ内部型を表す用語として「中子」を使用する。
【0040】
このように、本発明に係るプロペラは、製造段階で中子を使用し、使用後の中子を取り出すことにより、プロペラ内部を中空にして軽量化を図ることができる。また、飛行中に最も風圧を受ける前縁に接着部位を有さないことで、飛行中の破損を防ぎ設計強度を維持することができる。更に、製造段階で中子を使用することで、上述した従来技術のように上下面の2枚の外皮のための2つの型を使用しない。このことから、プロペラの強度向上だけではなく、製造コストを抑えることができる。
【0041】
次に、本発明に係るプロペラの製造方法を第1及び第2実施形態により説明する。本発明においては、上述のように、プロペラ形状の型(中子)を使用する。
【0042】
≪第1実施形態≫
第1実施形態は、プロペラ形状に成形された炭素繊維強化プラスチックからなる外皮の内部から中子を取り出し、1本の主桁と複数枚のリブからなるプロペラ骨格を挿入する方法である。本第1実施形態の各工程を以下に具体的に説明する。
【0043】
(1)プロペラ形状を有する中子の作製
プロペラは、プロペラ自身の回転運動による速度と機体が前進する速度が合成された流れの中で推進力を得るために複雑な3次元形状となる。本発明においては、設計法を限定するものではなく、いずれかの方法で設計されたプロペラの形状をした型(中子)を使用する。
【0044】
まず、プロペラの設計データを基に、中子を作製する。図1は、第1実施形態で使用する中子10を示す概要平面図である。図1において、中子10の一方のエッジは、プロペラが飛行中に大きな風圧を受けるプロペラ前縁に対応する部分であって、これを中子前縁11とする。また、中子10の他方のエッジは、プロペラを介して空気が流れていくプロペラ後縁に対応する部分であって、これを中子後縁12とする。なお、図1においては、プロペラの各部位での傾斜や厚みなどの3次元形状については省略する。
【0045】
中子10を作製する材料は、特に限定するものではなく、木材、樹脂材、発泡スチロールなどの発泡材など、どのようなものであってもよい。プロペラの設計データを基に、これらの材料の角材をCNC旋盤などで切削してもよい。又は、3Dプリンターを用いて各種樹脂を吐出し、3次元形状の中子10を作製してもよい。
【0046】
(2)中子のプロペラ後縁に対応する部分(中子後縁)の一部又は全部に離型シートを付与
後述するが、プロペラの外皮の材料としてCFRP又はCFRTPのプリプレグシートを使用する。そこで、中子後縁12にマトリックス樹脂に接着しない離型シート13を付与する。図2は、中子10の中子後縁12に離型シート13を付与した状態を示す概要平面図である。プロペラの外皮を成形した際に、この離型シート13の部分では上面外皮と下面外皮とが接着することを防止するためである。
【0047】
なお、離型シート13は、CFRP又はCFRTPのマトリックス樹脂が接着できない素材、例えば、シリコーンゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセタール、フッ素樹脂などのフィルムやテープを使用することが好ましい。また、離型シート13が付与されていない部分にもプリプレグシートのマトリックス樹脂が接着しないように、中子10の表面全体に離型シートを貼付してもよく、或いは、フッ素系又はシリコン系などの離型剤を塗布してもよい。
【0048】
(3)中子の上下両面に炭素繊維強化プラスチックのプリプレグシートを貼付
中子後縁12に離型シート13を付与し表面全体に離型シートを貼付又は離型剤を塗布した状態の中子10の表面全体にCFRP又はCFRTPのプリプレグシートを貼付する。図3は、中子10の表面にCFRP又はCFRTPのプリプレグシート14を貼付する状態を示す概要平面図である。プリプレグシート14を構成する炭素繊維とマトリックス樹脂との組み合わせについては、特に限定するものではない。
【0049】
炭素繊維としては、多数本の炭素繊維束を一方向に引き揃えてシート状にしたUDプリプレグシートであってもよく、又は、炭素繊維織物からなる織物プリプレグシートであってもよい。 炭素繊維織物としては、例えば、3K平織カーボンなどを使用してもよい。また、CFRPのマトリックス樹脂(熱硬化性樹脂)としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などを使用してもよい。一方、CFRTPのマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)としては、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトンなどを使用してもよい。
【0050】
図3において、プリプレグシート14を貼付する際には、CFRPのマトリックス樹脂を硬化させる前の状態で、又は、CFRTPのマトリックス樹脂をメルトさせた状態で中子10の上下面全体に貼付する。また、本発明においては、中子前縁11を跨ぐようにして上下面にプリプレグシート14を貼付する。一方、中子後縁12を跨ぐことなく上面及び下面にプリプレグシート14を貼付する(図3参照)。なお、図3においては、複数枚のプリプレグシート14を積層するが、これに限定されるものではなく、大きな1枚のプリプレグシートを中子10の上下面全体に貼付するようにしてもよい。
【0051】
なお、プリプレグシート14の貼付は、プロペラの構造を考慮して必要な部位に積層すると共に、炭素繊維の配向方向を変化させるなどして貼付することが好ましい。これらのことにより、完成したプロペラは、設計強度を維持すると共に、プロペラ前縁には上面外皮と下面外皮との接着部位を有さず、プロペラ後縁の一部又は全部には上面外皮と下面外皮との接着部位を形成することができる。
【0052】
(4)プリプレグシートのマトリックス樹脂を硬化してプロペラ形状の外皮を成形
図4は、中子の表面全体がCFRP又はCFRTPのプリプレグシートで被覆された状態を示す概要平面図である。図4において、中子10の表面全体は、プリプレグシート14で覆われており、プロペラの形状の外皮20が樹脂の硬化前の状態で形成されている。
【0053】
外皮20の一方のエッジ(中子前縁11を覆う部分)は、プロペラが飛行中に大きな風圧を受けるプロペラ前縁に対応する部分であって、これを外皮前縁21とする。また、外皮20の他方のエッジ(中子後縁12を覆う部分)は、プロペラを介して空気が流れていくプロペラ後縁に対応する部分であって、これを外皮後縁22とする。なお、外皮後縁22においては、外皮20の上面外皮23(図示正面)と下面外皮24(図示裏面)とが離型シート13を挟んで接着することがない。
【0054】
なお、この状態においては、CFRPのマトリックス樹脂は硬化していない。そこで、中子10を内部に保持した外皮20を密封し、内部を真空吸引し脱気する。このようにして、外皮20を中子10の形状に沿わせた状態で加熱炉に投入し、マトリックス樹脂(熱硬化性樹脂)の硬化反応を完結させる。一方、CFRTPの場合には、マトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)が硬化する前に、中子10を内部に保持した外皮20を密封し、内部を真空吸引し脱気する。このようにして、外皮20を中子10の形状に沿わせた状態で冷却し、熱可塑性樹脂を硬化させる。
【0055】
このように、本発明において「硬化」とは、CFRPの熱硬化性樹脂が反応して硬化することに加え、CFRTPの熱可塑性樹脂が高温の軟化状態から低温の結晶状態などに硬化することの両方を含む。これらの操作により、外皮20は、設計されたプロペラの形状を固定することができる。
【0056】
(5)プロペラ形状に成形された外皮の内部から中子を取り出す
図5は、中子10の表面全体に貼付したCFRP又はCFRTPのマトリックス樹脂を硬化させた後に、プロペラの外皮20の内部から中子10を取り出す状態を示す概要平面図である。図5においては、外皮後縁22の上面外皮23と下面外皮24とが接着していない部分から、中子10を取り出すことができる。中子10を取り出した外皮20は、プロペラの形状をして内部が中空となる。
【0057】
なお、図5においては、プロペラ形状のまま中子10を取り出すことができる。よって、取り出した中子10は、再度プロペラの製造に使用することができる。このことにより、プロペラの製造コストを更に抑えることができる。一方、外皮20の内部で中子10を複数の断片に分割すれば、取り出しが容易になる。また、この場合には、離型シート13を短くして、外皮後縁22の上面外皮23と下面外皮24との非接着部位を狭くする。このことにより、プロペラの後縁の接着部位を少なくして、プロペラの強度を更に向上させることができる。
【0058】
一方、中子10を溶剤で溶解する樹脂、好ましくは水溶性樹脂で作製した場合には、外皮20の内部で当該樹脂を溶解又は膨潤した状態で取り出すことができる。水溶性樹脂で中子10作製する場合には、3Dプリンターを利用して作製してもよい。なお、水溶性樹脂としては、完全に溶解する樹脂に限らず、水で膨潤するものでもよい。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(PVOH)などが挙げられる。
【0059】
(6)プロペラ形状に成形された外皮の内部に主桁とリブを挿入
次に、プロペラの強度を確保するために、中空の外皮20の内部に1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブからなるプロペラ骨格を挿入する。図6は、中子10を取り出した外皮20の内部に、プロペラ骨格を挿入する状態を示す概要平面図である。主桁31には、複数のリブ32が固定されプロペラ形状を維持・補強することができる。主桁31には、強度と軽量化を考慮してCFRPロッドなどを使用することが好ましい。また、リブ32には、CFRPボードなどを使用することが好ましい。
【0060】
(7)外皮の上面外皮と下面外皮とが接着していない部位を接着
図7は、外皮20の内部にプロペラ骨格が挿入され、上面外皮23と下面外皮24とが接着されて完成したプロペラ40を示す概要平面図である。このプロペラ40は、上下面を外皮20で覆われ、プロペラ前縁41には上面外皮23と下面外皮24との接着部位を有していない。一方、プロペラ後縁42には上面外皮23と下面外皮24との接着部位を有している。また、外皮20の内部は、1本の主桁31とこれに接続された複数枚のリブ32のみで構成され、その他の部分は中空である。主桁31の一方の端部は、外皮20の外部に突出しており、この部分に接続端子33が設けられ、ペダルシヤフトの回転を伝える動力伝達機構に接続される。
【0061】
次に、本第1実施形態に係るプロペラを各実施例により説明する。なお、本発明は、以下に説明する各実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
本実施例1は、中子の作製を3Dプリンターで行い、プロペラの外皮を炭素繊維織物に熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂として構成するCFRPで作製するものである。以下、具体的に説明する。
【0063】
まず、プロペラの設計データを基に、3Dプリンターを用いて中子10を作製した(図1参照)。本実施例1においては、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合体)により中子を作製した。次に、中子10の中子後縁12に離型シート13を付与した。本実施例1においては、OPPテープ(延伸ポリプロピレンフィルムに粘着剤を塗布した粘着テープ)を使用した(図2参照)。また、離型シート13が付与されていない中子10の表面全体にも、OPPテープを貼付した。
【0064】
次に、中子10の表面全体にCFRPのプリプレグシート14を貼付した。本実施例1においては、炭素繊維織物(3K平織カーボン)に熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含侵したプリプレグシート14のみを使用した。なお、上述したように、中子前縁11を跨ぐようにして中子10の上下面にプリプレグシート14を貼付した。一方、中子後縁12を跨ぐことなく上面及び下面にプリプレグシート14を貼付した(図3参照)。なお、プロペラの強度を補強するため、必要な部分にはプリプレグシート14を積層し、必要により繊維方向を変化させて積層した。このようにして、中子10の表面にプリプレグシート14が貼付され、プロペラ形状をした外皮が形成された(図4参照)。
【0065】
次に、CFRPの熱硬化性樹脂を反応させて硬化し、設計されたプロペラ形状の外皮20を固定した。まず、プリプレグシート14が貼付された中子10を袋に入れて密封し、内部を真空吸引した。次に、この状態の中子10を加熱炉に投入し、80℃に昇温して外皮20のエポキシ樹脂の硬化反応を完結させた。この状態で、外皮20は、設計されたプロペラ形状に固定され、外皮後縁22が開放された状態となっている。
【0066】
次に、プロペラ形状に固定された外皮20の内部から、開放された外皮後縁22を介して中子10を取り出した(図5参照)。次に、中空となった外皮20の内部に、開放された外皮後縁22を介して主桁31とリブ32とからなるプロペラ骨格を挿入した。本実施例1においては、主桁31にはCFRPロッドを使用し、リブ32にはCFRPボードを使用した。なお、主桁31とリブ32とは、予め組み立てた状態のプロペラ骨格として外皮20の内部に挿入し、リブ32の外縁を外皮20の内部に接着固定した(図6参照)。
【0067】
次に、プロペラ骨格が挿入された外皮20の開放された外皮後縁22を封鎖した。本実施例1においては、上面外皮23と下面外皮24とをエポキシ系の接着剤で接着した。このようにして、本実施例1のプロペラ40が完成した(図7参照)。プロペラ40の一方の端部には、主桁31の接続端子33が設けられ、ペダルシヤフトの回転を伝える動力伝達機構に接続される。
【実施例2】
【0068】
本実施例2は、上記実施例1と同様の中子を3Dプリンターで作成し、プロペラの外皮を炭素繊維織物に熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として構成するCFRTPで作製するものである。以下、具体的に説明する。
【0069】
まず、プロペラの設計データを基に、3Dプリンターを用いて中子10を作製した。本実施例2においては、上記実施例1と同様のABS樹脂により中子を作製した。次に、中子10の中子後縁12に上記実施例1と同様のOPPテープを使用して離型シート13を付与した。また、離型シート13が付与されていない中子10の表面全体にも、OPPテープを貼付した。
【0070】
次に、中子10の表面全体にCFRTPのプリプレグシート14を貼付した。本実施例2においては、上記実施例1と同様の炭素繊維織物(3K平織カーボン)に熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂(ナイロン66)を含侵したプリプレグシート14のみを使用した。なお、本実施例2においては、CFRTPを使用することからナイロン66の融点265℃にプリプレグシート14を加熱し、ナイロン66のガラス転移点75℃以上を維持した状態で貼付を行った。
【0071】
次に、CFRTPの熱可塑性樹脂を冷却して硬化し、設計されたプロペラ形状の外皮20を固定した。まず、プリプレグシート14が貼付された中子10を袋に入れて密封し、内部を真空吸引してプリプレグシート14を中子10に密着させると共に脱気した。次に、この状態の中子10を冷却しナイロン66を結晶化した。この状態で、外皮20は、設計されたプロペラ形状に固定され、外皮後縁22が開放された状態となっている。
【0072】
次に、プロペラ形状に固定された外皮20の内部から、開放された外皮後縁22を介して中子10を取り出した。次に、中空となった外皮20の内部に、開放された外皮後縁22を介してプロペラ骨格を挿入し、リブ32の外縁を外皮20の内部に接着固定した。なお、本実施例2においては、上記実施例1と同様のプロペラ骨格を使用した。
【0073】
次に、プロペラ骨格が挿入された外皮20の開放された外皮後縁22を封鎖した。本実施例2においては、上記実施例1と同様にして上面外皮23と下面外皮24とをエポキシ系の接着剤で接着した。このようにして、本実施例2のプロペラ40が完成した。
【実施例3】
【0074】
本実施例3は、水溶性樹脂を使用して中子を3Dプリンターで作成し、プロペラの外皮を上記実施例1と同様の熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂として構成するCFRPで作製するものである。以下、具体的に説明する。
【0075】
まず、プロペラの設計データを基に、3Dプリンターを用いて中子10を作製した。本実施例3においては、水溶性樹脂としてポリビニルアルコール(PVA)により中子を作製した。次に、中子10の中子後縁12に上記実施例1と同様のOPPテープを使用して離型シート13を付与した。なお、本実施例3においては、水溶性樹脂からなる中子を溶解して取り出すので、中子10の表面全体にはOPPテープを貼付しなかった。
【0076】
次に、中子10の表面全体にCFRPのプリプレグシート14を貼付した。本実施例3においては、上記実施例1と同様の炭素繊維織物(3K平織カーボン)に熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含侵したプリプレグシート14のみを使用した。このようにして、中子10の表面にプリプレグシート14が貼付され、プロペラ形状をした外皮が形成された。
【0077】
次に、CFRPの熱硬化性樹脂を反応させて硬化し、設計されたプロペラ形状の外皮20を固定した。本実施例3においては、上記実施例1と同様の操作で外皮20のエポキシ樹脂の硬化反応を完結させた。この状態で、外皮20は、設計されたプロペラ形状に固定され、外皮後縁22が開放された状態となっている。
【0078】
次に、プロペラ形状に固定された外皮20の内部から、開放された外皮後縁22を介して中子10を取り出した。なお、本実施例3においては、中子10を水溶性樹脂であるポリビニルアルコールにより作製した。よって、外皮20の内部から中子10を取り出す際に、中子10を温湯で溶解して取り出すことができ、取り出し操作が容易であった。更に、外皮後縁22の開放部位を小さくすることができ、プロペラ強度を向上させることができる。
【0079】
次に、中空となった外皮20の内部に、開放された外皮後縁22を介してプロペラ骨格を挿入し、リブ32の外縁を外皮20の内部に接着固定した。なお、本実施例3においては、上記実施例1と同様のプロペラ骨格を使用した。次に、プロペラ骨格が挿入された外皮20の開放された外皮後縁22を封鎖した。本実施例3においては、上記実施例1と同様にして上面外皮23と下面外皮24とをエポキシ系の接着剤で接着した。このようにして、本実施例3のプロペラ40が完成した。
【0080】
以上説明したように、本第1実施形態においては、プロペラの外皮の周縁の接着部を小さくし、特に前縁に接着部を有さず、プロペラとして十分な強度を有すると共に、内部に中空部を設けて軽量化され、且つ、製造コストを抑えた飛行用プロペラ及びその製造方法を提供することができる。
【0081】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、1本の主桁と複数枚のリブからなるプロペラ骨格を内部に包含する中子を使用し、プロペラ形状に成形された炭素繊維強化プラスチックからなる外皮の内部から中子を溶解又は膨潤した状態で取り出す方法である。本第2実施形態の各工程を以下に具体的に説明する。
【0082】
(1)1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブからなるプロペラ骨格を準備
本第2実施形態においては、まず、プロペラの強度を確保するために、中空の外皮の内部に配置するプロペラ骨格(1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブ)を準備する。プロペラ骨格の構造は、上記第1実施形態と同様であり、主桁には、強度と軽量化を考慮してCFRPロッドなどを使用することが好ましい。また、リブには、CFRPボードなどを使用することが好ましい。
【0083】
(2)溶剤可溶性の樹脂を用いて、前記プロペラ骨格を内部に包含するプロペラ形状を有する中子を作製
本第2実施形態においては、プロペラ骨格を内部に包含するプロペラ形状を有する中子を使用する。図8は、第2実施形態で使用する中子110を示す概要平面図である。図8において、中子110の一方のエッジは、プロペラが飛行中に大きな風圧を受けるプロペラ前縁に対応する部分であって、これを中子前縁111とする。また、中子110の他方のエッジは、プロペラを介して空気が流れていくプロペラ後縁に対応する部分であって、これを中子後縁112とする。なお、図1においては、プロペラの各部位での傾斜や厚みなどの3次元形状については省略する。
【0084】
図8において、中子110の内部には、1本の主桁131とこれに接続された複数枚のリブ132(図8においては6枚)が固定されたプロペラ骨格が包含されている。なお、主桁131は中子110の内部に埋め込まれているが、リブ132の外縁は中子110の内部に埋め込まれることなく、中子110の表面に露出している。この露出した中子110の表面は、後述するプロペラの外皮の内部に接着してプロペラの強度を補強する。また、中子110の内部にプロペラ骨格が包含されていることにより、中子110は各リブ132により複数のブロックa~fに分割されている(図8においては6ブロック)。
【0085】
本第2実施形態においては、中子110を作製する材料として溶剤可溶性の樹脂を使用する。溶剤可溶性の樹脂としては、特に限定するものではないが、後述する外皮を構成するCFRP又はCFRTPのマトリックス樹脂に影響を及ぼさない溶剤に可溶性であることが必要である。例えば、柑橘類から採取され、安全な溶剤として注目されているリモネンが挙げられる。リモネンに可溶性の樹脂としては、例えば、ポリスチレンや発泡スチロールがあり、また耐衝撃性ポリスチレン(HiPS)を使用することもできる。
【0086】
なお、本発明においては、溶剤可溶性の樹脂として水溶性樹脂を含むものであり、水を溶剤とする水溶性樹脂を使用することが好ましい。水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(PVOH)などが挙げられる。水溶性樹脂を含む溶剤可溶性の樹脂を使用して中子110を作製する場合には、プロペラ骨格を包含することもあり、3Dプリンターを用いることが好ましい。
【0087】
(3)中子の上下両面に1枚又は複数枚が積層された炭素繊維強化プラスチックのプリプレグシートを貼付
中子110の表面全体にCFRP又はCFRTPのプリプレグシートを貼付する。図9は、中子110の表面全体がCFRP又はCFRTPのプリプレグシートで被覆された状態を示す概要平面図である。図9において、外皮120の内部には、プロペラ骨格が包含された中子110が含まれている。なお、本第2実施形態においては、上記第1実施形態と異なり、中子前縁111及び中子後縁112の両方を跨ぐようにして上下面にプリプレグシートを貼付する。このことにより、図9においては、外皮前縁121だけでなく外皮後縁122においても解放された部位がなく、プロペラの設計強度を更に向上させることができる。
【0088】
なお、プリプレグシートを構成する炭素繊維とマトリックス樹脂との組み合わせについては、特に限定するものではない。上記第1実施形態と同様に、炭素繊維としては、UDプリプレグシートや織物プリプレグシートを使用することができる。また、CFRPのマトリックス樹脂(熱硬化性樹脂)とCFRTPのマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)は、上記第1実施形態と同様の各種樹脂を使用することができる。
【0089】
(4)プリプレグシートのマトリックス樹脂を硬化してプロペラ形状の外皮を成形
図9においては、中子110の表面全体は、プリプレグシートで覆われており、プロペラの形状の外皮120のマトリックス樹脂は硬化前の状態にある。そこで、プロペラ骨格を包含した中子110を内部に保持した外皮120のマトリックス樹脂を硬化させる。CFRP及びCFRTPの樹脂の硬化操作は、上記第1実施形態と同様であり、ここでは省略する。
【0090】
(5)外皮の一部を開放して、前記中子を溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出す
本第2実施形態においては、中子110が溶剤可溶性の樹脂で作製されている。また、中子110は、プロペラ骨格を包含している。そこで、本第2実施形態においては、外皮120の一部を開放して、中子110を溶剤で溶解又は膨潤した状態で取り出す。なお、開放部位は最小限にとどめ、外皮120の外皮前縁121及び外皮後縁122に設けないことが好ましい。図10は、中子110の表面全体に貼付したCFRP又はCFRTPのマトリックス樹脂を硬化させた後に、プロペラの外皮120の内部から中子110を溶解して取り出す状態を示す概要平面図である。
【0091】
図10において、中子110は、プロペラ骨格を包含しており、6ブロック(図8のa~f)に分割されている。そこで、各ブロックa~fにそれぞれ対応した小さな解放部a1~f1を設ける。これにより、各解放部a1~f1から外皮120の内部に溶剤を投入し、各ブロックa~fの樹脂を溶解又は膨潤して外部に取り出すことができる。中子110を溶解又は膨潤して取り出した外皮120は、プロペラ骨格を内部に有してプロペラの形状をして内部が中空となる。なお、プロペラ骨格のリブ132は、CFRP又はCFRTPのマトリックス樹脂により外皮120の内部に接着固定されている。
【0092】
(6)中子を取り出した前記外皮の開放された部位を修復
最後に、中子110を溶解又は膨潤して取り出した各解放部a1~f1を接着等により修復する。図11は、プロペラ140の外皮120の内部から中子が取り出され、取り出した解放部a1~f1が修復されて完成した本第2実施形態のプロペラを示す概要平面図である。
【0093】
このプロペラ140は、上下面を外皮120で覆われ、プロペラ前縁141及びプロペラ後縁142には上面外皮と下面外皮との接着部位を有していない。また、外皮120の内部は、1本の主桁131とこれに接続された複数枚のリブ132のみで構成され、その他の部分は中空である。主桁131の一方の端部は、外皮120の外部に突出しており、この部分に接続端子133が設けられ、ペダルシヤフトの回転を伝える動力伝達機構に接続される。
【0094】
次に、本第2実施形態に係るプロペラを実施例により説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例4】
【0095】
本実施例4は、プロペラ骨格を包含した中子の作製を3Dプリンターにより水溶性樹脂で行い、プロペラの外皮を炭素繊維織物に熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂として構成するCFRPで作製するものである。以下、具体的に説明する。
【0096】
まず、主桁131に6枚のリブ132を固定して組み立てたプロペラ骨格を準備した。本実施例4においては、上記実施例1と同様に、主桁131にはCFRPロッドを使用し、リブ132にはCFRPボードを使用した。次に、プロペラの設計データを基に、3Dプリンターを用いてプロペラ骨格を包含する中子110を作製した(図8参照)。本実施例4においては、水溶性樹脂であるポリビニルアルコール(PVA)により110中子を作製した。
【0097】
次に、中子110の表面全体にCFRPのプリプレグシートを貼付した。本実施例4においては、上記実施例1と同様に、炭素繊維織物(3K平織カーボン)に熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含侵したプリプレグシートのみを使用した。なお、上述したように、中子前縁111及び中子後縁112の両方を跨ぐようにして中子110の上下面にプリプレグシートを貼付した(図9参照)。このことにより、外皮前縁121だけでなく外皮後縁122においても解放された部位がない。
【0098】
次に、CFRPの熱硬化性樹脂を反応させて硬化し、設計されたプロペラ形状の外皮120を固定した。まず、プリプレグシートが貼付された中子110を袋に入れて密封し、内部を真空吸引した。次に、この状態の中子110を加熱炉に投入し、80℃に昇温して外皮120のエポキシ樹脂の硬化反応を完結させた。この状態で、外皮120は、設計されたプロペラ形状に固定され、外皮前縁121及び外皮後縁122に開放された部位がなかった。
【0099】
次に、プロペラ形状に固定された外皮120の外皮後縁22に近い部分で、各ブロックa~fに対応する位置に、それぞれ小さな解放部a1~f1として小穴を設けた。次に、各解放部a1~f1から外皮120の内部に温湯を投入し、各ブロックa~fのPVA樹脂を溶解して外部に取り出した(図10参照)。PVA樹脂を取り出した外皮120は、プロペラ骨格を内部に有してプロペラの形状をして内部が中空であった。また、プロペラ骨格の各リブ132は、CFRPのマトリックス樹脂により外皮120の内部に接着固定されていた。
【0100】
次に、PVA樹脂を取り出した各解放部a1~f1の小穴を接着修復した。このようにして、本実施例4のプロペラ140が完成した(図11参照)。プロペラ140の一方の端部には、主桁131の接続端子133が設けられ、ペダルシヤフトの回転を伝える動力伝達機構に接続される。
【0101】
以上説明したように、本第2実施形態においては、プロペラの外皮の周縁の接着部を最小限にとどめ、プロペラとして十分な強度を有すると共に、内部に中空部を設けて軽量化され、且つ、製造コストを抑えた飛行用プロペラ及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0102】
10,110…中子、11、111…中子前縁、12,112…中子後縁、
13…離型シート、14…プリプレグシート、
20,120…外皮、21,121…外皮前縁、22,122…外皮後縁、
23…上面外皮、24…下面外皮、
31,131…主桁、32,132…リブ、33,133…接続端子、
40,140…プロペラ、41,141…プロペラ前縁、42,142…プロペラ後縁、
a~f…ブロック、a1~f1…解放部。
【要約】
【課題】プロペラの外皮の周縁の接着部を小さく又は最小限にとどめ、特に前縁に接着部を有さず、プロペラとして十分な強度を有すると共に、内部に中空部を設けて軽量化され、且つ、製造コストを抑えた飛行用プロペラ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】飛行用プロペラは、主桁とリブと外皮からなる。外皮で覆われた内部は、1本の主桁とこれに接続された複数枚のリブで構成され、その他の部分は中空である。外皮は、1枚又は複数枚が積層された炭素繊維強化プラスチックからなる。プロペラ前縁には上面外皮と下面外皮との接着部位を有さない。一方、プロペラ後縁の一部又は全部には上面外皮と下面外皮との接着部位を有する。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11