IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 南京航空航天大学の特許一覧

特許7465039音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置
<>
  • 特許-音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置 図1
  • 特許-音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置 図2
  • 特許-音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置 図3
  • 特許-音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置 図4
  • 特許-音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置
(51)【国際特許分類】
   B64D 47/00 20060101AFI20240403BHJP
   B64C 27/04 20060101ALI20240403BHJP
   G10K 11/178 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B64D47/00
B64C27/04
G10K11/178 140
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023537354
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 CN2022073718
(87)【国際公開番号】W WO2023103168
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】202111476971.X
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519291342
【氏名又は名称】南京航空航天大学
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 弥生
(74)【代理人】
【識別番号】100185672
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】史 勇傑
(72)【発明者】
【氏名】馬 太行
(72)【発明者】
【氏名】胡 志遠
(72)【発明者】
【氏名】徐 国華
(72)【発明者】
【氏名】劉 洋
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-53197(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0117579(US,A1)
【文献】米国特許第4967550(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0402492(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0277089(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0019536(US,A1)
【文献】特表2002-532339(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107230472(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107220412(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112487730(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 47/00
B64C 27/04
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置であって、前記装置は、環状スピーカアレイ、複数の力励振器、エラーマイクロホン、ANCコントローラ、コックピットセンサ及び航空機搭載コンピュータを含み、
前記環状スピーカアレイは胴体の上方のハブの外側に設置され、前記力励振器はヘリコプターのブレードの後縁に設置され、各ブレードの後縁には複数の前記力励振器が設置され、前記航空機搭載コンピュータと前記コックピットセンサは、両方ともヘリコプターのコックピットの内部に設置され、前記ANCコントローラは、それぞれ前記環状スピーカアレイ及び前記エラーマイクロホンに接続され、前記航空機搭載コンピュータは、それぞれ前記コックピットセンサ及び前記エラーマイクロホンに接続され、
前記力励振器は、厚み騒音と逆位相の力騒音を生成するために用いられ、前記力励振器はさらに、ローターの負荷騒音を低減させ、ブレード-渦干渉騒音を抑制するために用いられ、前記航空機搭載コンピュータには騒音放射球データベースが記憶され、前記騒音放射球データベースは、飛行速度に関する騒音放射球のセット、揚力係数に関する騒音放射球のセット、ブレードディスク迎角に関する騒音放射球のセット及びブレード先端速度に関する騒音放射球のセットを含み、前記コックピットセンサは、ローターのリアルタイムな飛行パラメータを取得するために用いられ、前記飛行パラメータは、飛行速度、揚力係数、ブレードディスク迎角及びブレード先端速度を含み、前記航空機搭載コンピュータは、前記飛行パラメータ及び前記騒音放射球データベースに基づいて前記飛行パラメータに対応する騒音放射球を取得し、前記騒音放射球を騒音低減対象領域に放射して、騒音低減対象領域の騒音を取得するために用いられ、前記騒音放射球の球面には前記飛行パラメータに対応する音場特性が記憶され、前記エラーマイクロホンは、騒音制御目標と前記騒音低減対象領域の騒音との間のエラーベクトルを前記ANCコントローラに伝達するために用いられ、前記ANCコントローラは、前記エラーベクトルに基づいて、前記環状スピーカアレイが前記エラーベクトルと逆位相の騒音を生成するように制御するために用いられることを特徴とする音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置。
【請求項2】
前記ブレードの後縁は0.7R~1.0Rであり、Rはブレードの半径であることを特徴とする請求項1に記載の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置。
【請求項3】
前記力励振器は、分散型の後縁サブウィング、ジェット及びブレード先端ウイングレットを含むことを特徴とする請求項1に記載の音響アレイとプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置。
【請求項4】
各ブレードの後縁に設置された前記力励振器の数は同じであることを特徴とする請求項1に記載の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置。
【請求項5】
前記力励振器によって生成された励振力F=Fsin(nφ+φ)、式中、Fは励振力を表し、前記励振力は、厚み騒音と逆位相の力騒音を生成するために用いられ、Fはn次励振力の振幅を表し、φはブレードの方位角を表し、φは力励振器のトリガ初期位相を表すことを特徴とする請求項1に記載の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置。
【請求項6】
前記航空機搭載コンピュータは、前記飛行パラメータに基づいて数値補間法を利用して前記騒音放射球データベースから補間して、前記飛行パラメータに対応する騒音放射球を取得するために用いられる請求項1に記載の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置。
【請求項7】
前記航空機搭載コンピュータは、前記騒音放射球を二次球音源として使用し、前記騒音放射球の半径と騒音低減対象領域との間の距離に基づいて、音の幾何学的減衰及び大気吸音の影響のみを考慮し、騒音減衰計算式を使用して騒音低減対象領域の騒音を取得するために用いられることを特徴とする請求項6に記載の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置。
【請求項8】
前記装置は、球状スピーカアレイをさらに含み、
前記球状スピーカアレイは、キャビンの前部又は側部に設置され、前記球状スピーカアレイは前記ANCコントローラに接続され、前記ANCコントローラは、前記エラーマイクロホンから伝達された騒音制御目標と騒音低減対象領域の騒音との間のエラーベクトルを受信し、前記球状スピーカアレイが前記エラーベクトルと逆位相の騒音を生成するように制御するために用いられることを特徴とする請求項1に記載の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年12月06日に中国特許庁に提出され、出願番号が202111476971.Xであり、発明の名称が「音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置」である中国特許出願の優先権を主張し、その内容全体は参照により本出願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ヘリコプターの騒音低減の技術分野に関し、特に音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置に関する。
【背景技術】
【0003】
ヘリコプターは、ユニークな垂直離着陸、ホバリング、旋回及び超低空飛行能力により、軍事、民間の分野で幅広い用途を有し、特に緊急事態への対応において、かけがえのない役割を果たしている。近年、世界中のヘリコプターの幅広い応用に伴い、騒音が大きいという欠点もますます人々の注目を集めている。現在、国際民間航空機間であっても、各国の航空局の騒音耐空性規制であっても、いずれもヘリコプターの騒音問題をヘリコプターの安全性、信頼性などとほぼ同等の地位に上げ、騒音制御は、現代のヘリコプターの設計においてますます重要な検討事項になってきている。ヘリコプターの外部騒音の音源は多いため、各種又は大部分の騒音を効果的に低減できる抑制技術を探すことは、ヘリコプターの発展・使用に対して重要な意義を有する。
【0004】
現在、ヘリコプターの騒音低減技術は、以下のカテゴリーに分類できる。
【0005】
第1のカテゴリーの技術は、ブレードの空力形状設計に基づく受動騒音抑制技術である。ヘリコプターのローターの騒音は、ブレードの形状に密接に関連している。研究者は、主にブレードの空力形状を変え、例えば、ブレード先端をテーパー、後退させ、ブレードの外端に薄い翼型を使用し、又は翼幅方向に大きく変形するブレード形状を設計することでローターの騒音を低減させる。例えば、AH-64ヘリコプターのローターブレードは後退ブレード先端を用いて、騒音レベルを約2dB低下させ、ブラックホークは、騒音レベルを低下させるために、これまでの各回の改善設計を経て、ローターブレード先端が最初の矩形から下反角を付けたテーパー形式に変更され、欧州で開発されたBlue-edgeローターブレードは、ダブルスイープブレード(前進-後退の組み合わせ)を用いることにより、水平飛行状態でのローターの空力騒音を2~3dB低下させることができる。
【0006】
このカテゴリーの技術の本質は、ブレードの形状を変えてローターの空力環境を改善することにより、騒音を抑制することである。ローターの空力性能は、ブレードの形状によって直接決定されるため、ローターが優れた空力性能を有することを確保するために、低騒音ローターを設計する際に騒音と性能設計の間でトレードオフにさせる必要がある。したがって、この技術の主な欠点は、騒音抑制効果が弱く、飛行状態に自己適応できないことである。
【0007】
第2のカテゴリーの技術は、高次高調波制御(High harmonic control、HHC)、個別ブレード制御(Individual blade control、IBC)などのブレード運動制御に基づく能動抑制技術である。この技術では、ハブの固定リングの上方または下方に作動装置が増設され、ブレード全体または個別ブレードを駆動して高周波運動を行い、ブレードのねじれを変え、ブレードの空力負荷分布及びフラッピング運動の変化を引き起こし、ブレード-渦干渉距離を長くすることにより、ローターブレード-渦干渉騒音の制御を実現する。
【0008】
このカテゴリーの技術の本質は、ブレード先端渦の特徴を変えることにより、ブレード-渦干渉現象を弱めることであり、その主な欠点は、ブレード-渦干渉騒音のみを抑制でき、騒音を低減させると同時に振動を増加させるという悪影響を引き起こすことである。
【0009】
第3のカテゴリーの技術は、飛行軌跡制御に基づく騒音抑制技術である。ヘリコプターの飛行中の騒音放射は、ローター自体の騒音レベルに関連するだけでなく、飛行方式及び姿勢などにも依存する。この技術は、この特徴を利用して、飛行軌跡(飛行姿勢、位置及び操作などを含む)の変化により、ローター騒音の音圧レベル及び伝播方向特性を変え、特定の領域又は位置での騒音放射強度を低下させることにより、騒音低減を実現する。
【0010】
このカテゴリーの技術は、騒音の伝播方向を変え、又は騒音が大きい飛行状態を回避するだけであり、ヘリコプター自体の騒音レベルを低下させる能力を備えておらず、真の騒音抑制技術ではない。
【0011】
要約すると、現在のヘリコプターの騒音低減技術には、騒音抑制能力が弱く、抑制タイプが限られ、飛行状態の自己適応性が低いという問題があり、全領域、全タイプのヘリコプター騒音の騒音低減をどのように達成するかは、当業者が早急に解決すべき問題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、全領域、全タイプのヘリコプター騒音の騒音低減を達成するために、音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の技術的解決手段は以下のとおりである。
【0014】
音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置であって、前記装置は、環状スピーカアレイ、複数の力励振器、エラーマイクロホン、ANCコントローラ、コックピットセンサ及び航空機搭載コンピュータを含み、前記環状スピーカアレイは胴体の上方のハブの外側に設置され、前記力励振器はヘリコプターのブレードの後縁に設置され、各ブレードの後縁には複数の前記力励振器が設置され、前記航空機搭載コンピュータと前記コックピットセンサは、両方ともヘリコプターのコックピットの内部に設置され、前記ANCコントローラは、それぞれ前記環状スピーカアレイ及び前記エラーマイクロホンに接続され、前記航空機搭載コンピュータは、それぞれ前記コックピットセンサ及び前記エラーマイクロホンに接続され、前記力励振器は、厚み騒音と逆位相の力騒音を生成するために用いられ、前記力励振器はさらに、ローターの負荷騒音を低減させ、ブレード-渦干渉騒音を抑制するために用いられ、前記航空機搭載コンピュータには、騒音放射球データベースが記憶され、前記騒音放射球データベースは、飛行速度に関する騒音放射球のセット、揚力係数に関する騒音放射球のセット、ブレードディスク迎角に関する騒音放射球のセット及びブレード先端速度に関する騒音放射球のセットを含み、前記コックピットセンサは、ローターのリアルタイムな飛行パラメータを取得するために用いられ、前記飛行パラメータは、飛行速度、揚力係数、ブレードディスク迎角及びブレード先端速度を含み、前記航空機搭載コンピュータは、前記飛行パラメータ及び前記騒音放射球データベースに基づいて、前記飛行パラメータに対応する騒音放射球を取得し、前記騒音放射球を騒音低減対象領域に放射して、騒音低減対象領域の騒音を取得するために用いられ、前記騒音放射球の球面には、前記飛行パラメータに対応する音場特性が記憶され、前記エラーマイクロホンは、騒音制御目標と前記騒音低減対象領域の騒音との間のエラーベクトルを前記ANCコントローラに伝達するために用いられ、前記ANCコントローラは、前記エラーベクトルに基づいて、前記環状スピーカアレイが前記エラーベクトルと逆位相の騒音を生成するように制御するために用いられる。
【0015】
任意選択で、前記ブレードの後縁は0.7R~1.0Rであり、Rはブレードの半径である。
【0016】
任意選択で、前記力励振器は、分散型の後縁サブウィング、ジェット及びブレード先端のウィングレットを含む。
【0017】
任意選択で、各ブレードの後縁に設置された前記力励振器の数は同じである。
【0018】
任意選択で、前記力励振器によって生成された励振力
F=Fsin(nφ+φ)、式中、Fは励振力を表し、前記励振力は、厚み騒音と逆位相の力騒音を生成するために用いられ、Fはn次励振力の振幅を表し、φはブレードの方位角を表し、φは力励振器のトリガ初期位相を表す。
【0019】
任意選択で、前記航空機搭載コンピュータは、前記飛行パラメータに基づいて数値補間法を使用して前記騒音放射球データベースから補間して、前記飛行パラメータに対応する騒音放射球を取得するために用いられる。
【0020】
任意選択で、前記航空機搭載コンピュータはさらに、前記騒音放射球を二次球音源として使用し、前記騒音放射球の半径と騒音低減対象領域との間の距離に基づいて、音の幾何学的減衰及び大気吸音の影響のみを考慮し、騒音減衰計算式を使用して騒音低減対象領域の騒音を取得するために用いられる。
【0021】
任意選択で、前記装置は、球状スピーカアレイをさらに含み、前記球状スピーカアレイは、キャビンの前部又は側部に設置され、前記球状スピーカアレイは、前記ANCコントローラに接続され、前記ANCコントローラは、前記エラーマイクロホンから伝達された騒音制御目標と騒音低減対象領域の騒音との間のエラーベクトルを受信し、前記球状スピーカアレイが前記エラーベクトルと逆位相の騒音を生成するように制御するために用いられる。
【発明の効果】
【0022】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
本発明が開示する音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置は、ローターハブに環状スピーカアレイを設置し、ブレードの後縁に非定常力励振器を配置し、能動騒音低減制御原理(Active Noise Cancellation、ANC)を利用して、元の音場の音波と逆位相の音場を構築し、騒音を相殺することにより、全領域、全タイプのヘリコプター騒音の騒音低減を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明をさらに説明する。
【0024】
図1】本発明の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置の実施例の構造図である。
図2】本発明の改善されたフィードフォワード型ANCシステム及び従来のフィードフォワード型ANCシステムの概略図である。
図3】本発明の騒音放射球の概略図である。
図4】本発明の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制システムの構造概略図である
図5】本発明の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制システムの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例における図面を参照しながら、本発明の実施例における技術的解決手段を詳しく説明し、明らかに、説明された実施例は本発明の一部の実施例に過ぎず、すべての実施例ではない。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的な労働をせずに取得したすべての他の実施例は、いずれも本発明の技術的範囲に属する。
【0026】
本発明は、全領域、全タイプのヘリコプター騒音の騒音低減を実現するために、音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置を提供することを目的とする。
【0027】
本発明の上記目的、特徴及び利点をより明らかで分かりやすくするために、以下、図面及び具体的な実施形態を参照して、本発明をさらに詳しく説明する。
【0028】
図1は、本発明の音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置の実施例の構造図である。図1を参照して、この音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置は、環状スピーカアレイ101、複数の力励振器102、エラーマイクロホン103、ANCコントローラ104、コックピットセンサ105及び航空機搭載コンピュータ106を含む。
【0029】
環状スピーカアレイ101は、胴体上方のハブの外側に設置され、力励振器102は、ヘリコプターのブレードの後縁に設置され、各ブレードの後縁には、複数の力励振器102が設置され、航空機搭載コンピュータ106とコックピットセンサ105は、両方ともヘリコプターのコックピットの内部に設置され、ANCコントローラ104は、それぞれ環状スピーカアレイ101及びエラーマイクロホン103に接続され、航空機搭載コンピュータ106は、それぞれコックピットセンサ105及びエラーマイクロホン103に接続される。
【0030】
力励振器102は、厚み騒音と逆位相の力騒音を生成するために用いられ、力励振器102はさらに、ローターの負荷騒音を低減させ、ブレード-渦干渉騒音を抑制するために用いられ、航空機搭載コンピュータ106には騒音放射球データベースが記憶され、騒音放射球データベースは、飛行速度に関する騒音放射球のセット、揚力係数に関する騒音放射球のセット、ブレードディスク迎角に関する騒音放射球のセット及びブレード先端速度に関する騒音放射球のセットを含み、コックピットセンサ105は、ローターのリアルタイムな飛行パラメータを取得するために用いられ、飛行パラメータは、飛行速度、揚力係数、ブレードディスク迎角及びブレード先端速度を含み、航空機搭載コンピュータ106は、飛行パラメータ及び騒音放射球データベースに基づいて、飛行パラメータに対応する騒音放射球を取得し、騒音放射球を騒音低減対象領域に放射して、騒音低減対象領域の騒音を取得するために用いられ、騒音放射球の球面には飛行パラメータに対応する音場特性が記憶され、エラーマイクロホン103は、騒音制御目標と騒音低減対象領域の騒音との間のエラーベクトルをANCコントローラ104に伝達するために用いられ、ANCコントローラ104は、エラーベクトルに基づいて、環状スピーカアレイ101がエラーベクトルと逆位相の騒音を生成するように制御するために用いられる。
【0031】
具体的には、ブレードの後縁は0.7R~1.0Rであり、Rはブレードの半径である。
【0032】
力励振器102は、分散型の後縁サブウィング、ジェット及びブレード先端のウィングレットを含む。力励振器102の具体的な実装は、分散型の後縁サブウィング、ジェット及びブレード先端のウィングレットなどの様々な形態であってもよい。すべての力励振器102は、原理的な観点からまとめて力励振器と呼ばれるが、具体的な実装では、サブウィング、ジェット、ウィングレットなどを有してもよい。
【0033】
力励振器102によって生成された励振力F=Fsin(nφ+φ)、式中、Fは励振力を表し、励振力は、厚み騒音と逆位相の力騒音を生成するために用いられ、Fはn次励振力の振幅を表し、φはブレードの方位角を表し、φは力励振器102のトリガ初期位相を表す。
【0034】
航空機搭載コンピュータ106は、飛行パラメータに基づいて数値補間法を使用して騒音放射球データベースから補間して、飛行パラメータに対応する騒音放射球を取得するために用いられる。航空機搭載コンピュータ106は、騒音放射球を二次球音源として使用し、騒音放射球の半径と騒音低減対象領域との間の距離に基づいて、音の幾何学的減衰及び大気吸音の影響のみを考慮し、騒音減衰計算式を使用して騒音低減対象領域の騒音を取得するために用いられる。
【0035】
さらに、この音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置は、球状スピーカアレイをさらに含み、球状スピーカアレイは、キャビンの前部又は側部に設置され、球状スピーカアレイはANCコントローラ104に接続され、ANCコントローラ104は、エラーマイクロホン103から伝達された騒音制御目標と騒音低減対象領域の騒音との間のエラーベクトルを受信し、球状スピーカアレイがエラーベクトルと逆位相の騒音を生成するように制御するために用いられる。
【0036】
この実施例では、各ブレードの後縁に設置された力励振器102の数は同じである。
【0037】
この音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置は、ブレードの後縁に設置された力励振器102を用いて全領域の騒音を抑制し、具体的には以下を含む。
【0038】
1、厚み騒音に対する抑制であって、具体的には以下のとおりである。励振力が式(1)に示すような非定常力を生成でき、かつ力の方向が翼型の翼弦方向と平行になるように、ブレードの外端(0.7R~1.0R、Rはブレードの半径である)の後縁に力励振器102(各力励振器102によって生成された力はいずれも翼型に平行である)を配置する。ここで、力励振器102の数及び配置位置は、具体的なタイプ及び騒音低減のニーズに応じて決定する必要がある。
F=Fsin(nφ+φ)....(1)
ここで、Fは励振力であり、Fはn次励振力の振幅を表し、φはブレードの方位角であり、φは初期位相である。
【0039】
音響学の基本的な制御方程式、すなわちFW-H方程式から分かるように、ブレードの回転中に力励振器102によって生成された翼弦方向、周期的な非定常空力は平面内の力騒音を生成することができ、この騒音の波形はブレード自体の厚み騒音の波形と同じである。この特性を利用して、力励振器102のトリガ初期位相(初期位相)を制御することにより、厚み騒音の位相と逆位相となるように力騒音波形の位相角を変え、このようにして、励振力の騒音と厚み騒音の2列の音波が逆位相干渉を形成し、互いに相殺することができ、それにより元の騒音を抑制する。翼弦方向の非定常力による力雑音の伝播方向性と厚み雑音の方向性とが完全に一致するため、この方法は、全領域にわたって雑音を抑制することができる。
【0040】
2、ブレード-渦干渉騒音に対する抑制であって、具体的には以下のとおりである。力励振器102は動作中にブレードの翼幅方向の空力を変更でき、初期位相を制御することにより、ブレードの局所的な空力分布を改善し、ローターの負荷騒音を低減させ、また、力励振器102によって生成された空力は、ブレード先端渦の生成及び伝播経路に影響を与えることができるため、局所位置でブレード先端渦がローター平面から離れ、それによりブレード-渦干渉騒音を抑制する。
【0041】
この音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制装置は、スピーカアレイ(環状スピーカアレイ101及び球状スピーカアレイを含む)を用いて、局所領域の騒音の指向性抑制を行い、力励振器102は全領域で騒音を小幅に低減させることができ、スピーカアレイの導入により、局所関心領域の騒音をより大幅に抑制することができ、具体的には以下を含む。
【0042】
1、ANC原理を利用して、外部自由音場の制御について、フィードフォワード型ANCシステムを用いる。図2の(a)部分は従来のフィードフォワード型ANCシステムの概略図を示し、図2の(b)部分は本発明の改善されたフィードフォワード型ANCシステムの概略図を示し、図2の(a)部分に示すように、胴体の外部にスピーカアレイ(二次音源)を配置し、参照マイクロホンから取得した関心領域の騒音信号(制御された騒音)に基づいて、スペクトル分析を行い、電気-音響変換器を制御することにより、スピーカ音響アレイは制御された騒音と逆位相の騒音を生成することができ、2つの音場を合成すると騒音を低減させることができる。ANCに基づくスピーカアレイ制御方法は、制御された雑音の各次周波数及び位相から合成された音波波形に基づいているため、より多くのタイプの雑音を制御することができ、広帯域雑音信号を処理するために用いることもできる。騒音は、多くの周波数成分から構成され、各成分は、それ自体の周波数及び位相に従って全体的な騒音波形を合成する。位相相殺は、実際には、それぞれの周波数での対応する位相相殺を指す。
【0043】
2、ローターによって生成された騒音は球音源と見なすことができるため、ハブの外側、胴体の上方に環状スピーカアレイ101を配置することにより、スピーカアレイ(反騒音音源)とローター(元の騒音音源)は空間的に高い位置類似性を有し、騒音を制御しやすい。
【0044】
3、単一の環状スピーカアレイ101は、効果が高く、より良好な騒音低減効果を得るために、機器の取り付けの実行可能性を考慮して、キャビンの前部又は側部に球状スピーカアレイを配置してもよく、球状スピーカアレイを利用して配置領域の騒音低減を強化する。環状スピーカアレイ101及び球状スピーカアレイはすべて、局所的な騒音低減のためのものである。環状スピーカアレイは必須であり、球状スピーカアレイは必要に応じて追加することができ、すなわち、まず環状スピーカアレイ101をハブに配置し、効果を高めるために球状スピーカアレイを追加することができる。
【0045】
4、フィードフォワード型ANCシステムは、スピーカアレイが制御された騒音と逆位相の騒音を生成するように制御するために用いられる。フィードフォワード型ANCシステムは、非常に高いロバスト性を有するが、ヘリコプターの騒音制御に適用される場合、最大の問題は、参照マイクロホンを任意の前方位置に取り付けることができず、すなわち、関心領域の騒音特性をリアルタイムで取得できないため、完全なフィードバックシステムを構築できないことである。本発明は、図2の(b)部分に示されるヘリコプター騒音抑制のための改善されたフィードフォワード型ANCシステムを提案し、このシステムでは、従来のフィードフォワード型ANCシステムにおける実際の基準スピーカの代わりに仮想参照マイクロホンが設計され、システムの閉ループ動作が実現される。仮想参照マイクロホン上の騒音特性は、以下のステップを実施することによって得ることができる。
【0046】
騒音放射球を計算する。図3に示すように、単一の騒音放射球は、ハブの中心を球心とし、半径がブレードの半径の2~5倍の半球面であり、この球面には具体的な飛行状態でのローターの音場特性が記憶される。騒音放射球は、ヘリコプターの空力騒音プログラム(既存のプログラム)によって計算し、取得できる。
【0047】
騒音放射球データベースを確立する。ローター騒音特性は、4つの飛行パラメータ、すなわち、飛行速度、揚力係数、ブレードディスク迎角及びブレード先端速度によって記述される。ヘリコプターの特徴、使用目標などに基づいて、上記4つの飛行パラメータの範囲及び離散精度を決定し、飛行速度などのパラメータのうち、任意の1つを取り、計算範囲を0~300km/h、10km/hの間隔で選択でき、飛行速度に関する騒音放射球のセットを計算し、その後、揚力係数に関する騒音放射球のセット、ブレードディスク迎角に関する騒音放射球のセット及びブレード先端速度に関する騒音放射球のセットを順次計算し、分類して記憶することにより、騒音放射球データベースを形成する。ここで、騒音放射球の計算は、本分野の通常の操作であり、ヘリコプターの空力騒音プログラムがあれば、騒音放射球を計算することができる。
【0048】
騒音放射球を選択及び補間する。上記で確立された騒音放射球データベースは、コックピットの内部に位置する航空機搭載コンピュータ106に記憶される。データベースはすべての飛行状態をカバーできないため、実際の使用では、コックピットセンサに基づいて、飛行速度、揚力係数、ブレードディスク迎角及びブレード先端速度の4つの飛行パラメータのリアルタイム値を取得し、数値補間(一般的な数値補間法)によって騒音放射球データベースから補間し、現在の飛行状態を反映する騒音放射球を取得する。ここで、現在の飛行状態は、航空機が現在の飛行速度、揚力係数、ブレードディスク迎角及びブレード先端速度の4つの飛行パラメータで飛行する場合の状態である。現在の飛行状態は、現在の飛行パラメータに対応する。
【0049】
仮想参照マイクロホン雑音を計算する。仮想参照マイクロホンは、騒音低減関心領域(騒音低減対象領域)に設置された実際の参照マイクロホンに相当し、仮想参照マイクロホンの設置位置が騒音低減関心領域となる。騒音放射球の半径が固定されているため、騒音関心領域は、一般に、この球面上に位置しない。したがって、補間によって得られた騒音放射球を仮想参照マイクロホンの位置にさらに放射して、仮想参照マイクロホン上の騒音特性、すなわち、仮想参照マイクロホンから取得された関心領域の騒音信号(制御された騒音)を取得する必要がある。このステップの実施は、騒音放射球を二次球音源とすることができ、騒音放射球の半径と仮想参照マイクロホンの位置との間の距離に基づいて、音の幾何学的減衰及び大気吸音の影響のみを考慮し、騒音減衰計算式により、関心領域における騒音、即ち仮想参照マイクロホンの騒音信号を取得することができる。
【0050】
仮想基準スピーカ信号を取得した後、この信号と目標量(達成しようとする騒音制御効果)との差に基づいて、図2の(b)部分に示されるエラーマイクロホン103の信号を取得し、エラーマイクロホン103はエラー成分(エラーベクトル)をANCコントローラ104に伝達し、ANCコントローラ104によってスピーカアレイ、すなわち、図2の(b)部分の二次音源の出力信号を自動的に調整し、より適切な反騒音を生成して騒音を抑制することにより、完全なフィードフォワード制御を形成する。
【0051】
本発明は、スピーカアレイを使用してヘリコプターの外部騒音を抑制し、スピーカアレイとブレードの後縁の力励振器を組み合わせ、全領域、全タイプの騒音低減能力を有するヘリコプターの空力騒音の能動的抑制技術を提案し、無限自由音場内に基準スピーカを配置できないという問題に対して、データ融合の概念に基づいて、仮想基準スピーカを構築する方法を提案し、ヘリコプターの騒音抑制用の改善されたフィードフォワードANCシステム(改善されたフィードフォワード型ANCシステム)を確立する。
【0052】
本発明は、音響アレイ及びプロペラでの制御を統合したヘリコプター用能動騒音抑制技術及びシステムを提案し、ここで、システムの具体的な構造は、図4図5に示すように、ハブの環状スピーカアレイ、コックピット外側のスピーカアレイ及びブレードの後縁の力励振器を含む。この技術は、能動騒音低減制御原理を利用して、ブレードの後縁に力励振器を配置することにより非定常の空力を生成し、一方では、厚み騒音と逆位相の音波を生成でき、他方では、ローターブレード先端渦を破壊できることにより、回転騒音及びブレード-渦干渉騒音の全領域制御を実現する。力励振器は、狭いブレード空間及び空力性能の制約によって制限されるため、騒音抑制の幅(すなわち、騒音低減のデシベル数)は限られる。関心のある方向の騒音抑制能力を強化するために、ローターハブ又は胴体の前方にスピーカを設置し、元の音場の音波と逆位相の音場を構築し、局所領域の騒音抑制を指向的に強化することにより、全領域、全タイプのヘリコプター騒音の騒音低減を実現する。
【0053】
本発明が提案するスピーカアレイ及びブレードのプロペラでのアクティブ制御を統合したヘリコプターの空力騒音の能動抑制技術は、スピーカアレイ及びプロペラでのアクティブ制御の具体的な実装方法及びシステムの配置形態を提供し、ローターハブ又は胴体の前方に環状スピーカアレイを設置し、ブレードの後縁に非定常力励振器を配置し、能動騒音低減制御原理を利用して、元の音場の音波と逆位相の音場を構築し、騒音を相殺することにより、全領域、全タイプのヘリコプター騒音の騒音低減を実現し、ヘリコプターの騒音放射レベルが大きく、使用が限られるという問題を効果的に解決する。
【0054】
従来技術に比べて、本発明は以下の利点を有する。
【0055】
(1)自己適応性が高い。本発明の騒音抑制技術は、能動制御技術のカテゴリーに属し、ヘリコプターの飛行と動作状態に基づいて制御法則をリアルタイムで調整して、最適な騒音抑制効果を達成することができ、受動騒音低減技術に比べて、飛行状態への適応性が高いという利点を有し、同時に、このシステムはブレード自体の空力性能に対する影響が小さい。
【0056】
(2)マルチタイプの騒音抑制能力を有する。従来の騒音抑制技術はすべて、単一タイプの騒音を対象とし、本発明における後縁力励振に基づくプロペラでの制御はブレード-渦干渉騒音、厚み騒音を抑制できるが、ANCスピーカアレイは回転騒音及び広帯域騒音を抑制でき、これによりヘリコプターのマルチタイプの騒音を同時に抑制し、騒音抑制効果を大幅に向上させる。
【0057】
(3)全領域/局所的な騒音低減の組み合わせを実現する。上記のように、プロペラでの制御方法は、ローターの厚み騒音及びブレード-渦干渉騒音を全領域にわたって抑制することができ、ANCスピーカアレイに基づいて特定の領域の騒音抑制を強化することができ、それにより全領域/局所的な騒音低減を組み合わせた騒音抑制技術を実現する。
【0058】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳しく説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、当業者が有する知識の範囲内において、本発明の主旨を逸脱することなく種々の変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5