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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】コイル部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20240403BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240403BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240403BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20240403BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01F17/04 F
B22F1/00 Y
B22F3/24 B
H01F1/33
H01F41/04 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019157979
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036559
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-07-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】織茂 洋子
(72)【発明者】
【氏名】柏 智男
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/013183(WO,A1)
【文献】特開2014-143286(JP,A)
【文献】特開2014-138134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
B22F 1/00
B22F 3/24
H01F 1/33
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性合金粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備えたコイル部品であって、
前記磁性体は、
軟磁性合金粒子として、合金成分がFe、Si及びCrから実質的になる第1粒子と、合金成分としてFe及びSi、並びにSi及びCr以外の、Feより酸化しやすい元素を含む第2粒子とを含み、
前記第2粒子の平均粒径は、前記第1粒子の平均粒径よりも小さく、
前記第1粒子は、その表面に、Si及びCrを含む非晶質酸化物膜を備え、
前記第2粒子は、その表面に、前記Si及びCr以外の、Feより酸化しやすい元素を含む結晶質酸化物の層を備え、
複数の前記第1粒子同士を接合する接着部を含み、かつ
前記接着部は、前記結晶質酸化物の層を形成する結晶質酸化物が、前記第2粒子を離れて、前記第1粒子同士の接触部又は前記第1粒子同士の間の空隙に、複数の前記第1粒子に跨がるように形成されている
ことを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記軟磁性合金粒子中のFeの質量比率が30~98%である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記結晶質酸化物が単結晶である、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記Feより酸化しやすいSi及びCr以外の元素が、Al又はMnである、請求項1~3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記接着部が、前記軟磁性合金粒子間の空隙を閉塞している、請求項1~4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項6】
軟磁性合金粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備えたコイル部品の製造方法であって、
(a)軟磁性合金粉末として、合金成分がFe、Si及びCrから実質的になる第1粉末と、合金成分としてFe及びSi、並びにSi及びCr以外の、Feより酸化しやすい元素を含むと共に、前記第1粉末よりも平均粒径が小さい第2粉末とを準備すること、
(d)前記第1粉末と前記第2粉末とを混合して混合粉末を得ること、
(e)前記(d)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること、
(f)前記(e)で得られた成形体を、酸素濃度が10ppm~800ppmの雰囲気中にて、500℃~900℃の温度で熱処理して磁性体を得ること、及び
(g)下記(1)又は(2)の少なくとも一方を行うこと
(1)前記(e)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること
(2)前記(f)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置すること
を含むコイル部品の製造方法。
【請求項7】
前記(d)に先立って、
(b)前記第1粉末を構成する各粒子の表面に、Si含有物質を付着させること
をさらに行う、請求項6に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項8】
前記(b)の処理を行った第1粉末に対して、
(c1)不活性ガス雰囲気中にて100℃~700℃の温度で、又は酸素濃度が100ppm以下の雰囲気中にて100℃~300℃の温度で、熱処理すること
をさらに行う、請求項7に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項9】
前記(b)の処理を行った第1粉末に対して、
(c2)酸素濃度が3ppm~100ppmの雰囲気中にて、300℃~900℃の温度で熱処理すること
をさらに行う、請求項7に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項10】
前記(d)に先立って、
(c2)前記(a)にて準備した第1粉末を、酸素濃度が3ppm~100ppmの雰囲気中にて、300℃~900℃の温度で熱処理すること
をさらに行う、請求項6に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のコイル部品を搭載した回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品においては、磁性体及び導体の組合せにより、インダクタンス特性等の基本的な特性が決定される。特に、磁性体を構成する磁性材料がコイル部品の特性に及ぼす影響は大きいため、コイル部品の構造や使用環境等に応じて、これを使い分けるのが通常である。例えば、自動車用のコイル部品では、高電圧下での動作が要求されることから、絶縁耐力に優れるフェライト系の磁性材料が採用されることが多かった。
【0003】
しかし、近年では、自動車用のコイル部品において、フェライト系に代えて金属磁性材料が使用され始めている。これは、金属磁性材料が、フェライト系材料よりも磁気飽和しにくいため、コイル部品の小型化が可能であることによる。近年、自動車の電子化に伴って、使用される電子部品点数は増加傾向にある。他方、電子部品及びこれを搭載した基板の設置スペースは限られるため、各電子部品の小型化が要求されている。そこで、該要求に応えるべく、金属磁性材料を備えたコイル部品が採用され始めているのである。
【0004】
金属磁性材料は、磁気飽和しにくい点ではフェライト系よりも有利であるが、電気的絶縁性ではこれに劣っている。このため、金属磁性材料製の磁性体は、高電圧下では通電してしまうおそれがあった。金属磁性材料製の磁性体は、金属磁性粒子同士が互いに接触して構成されている。そこで、該磁性体の電気的絶縁性を向上させる手段として、金属磁性粒子表面を電気的に絶縁することに着目した種々のものが検討されてきた。
【0005】
また、自動車用のコイル部品は、振動や温度差に晒されることから、これを構成する磁性体には高い機械的な強度や耐久性も要求される。金属磁性材料製の磁性体の機械的な強度や耐久性は、主に金属磁性粒子同士の接合により発現するため、金属磁性粒子表面を電気的に絶縁すると同時に該粒子同士の接合を行うことも知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、鉄、ケイ素及び鉄よりも酸化しやすい元素を含む軟磁性合金粒子の成形体を大気中で熱処理して、該粒子の表面に金属酸化物からなる酸化層を生成させ、該酸化層を介して該粒子同士を結合させることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、Fe―Si―Cr系軟磁性合金粉末の粒子表面にTEOS又はコロイダルシリカ等のSi化合物を被覆ないし付着させ、成形した後、大気中で熱処理して、該粒子同士を、酸化物相を介して結合させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-249774号公報
【文献】特開2015-126047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の各手段によれば、機械的強度に優れた磁性体及びコイル部品が得られるとされているが、磁性体ないしコイル部品には、更なる機械的強度の向上が求められている。
【0010】
そこで本発明は、機械的強度が向上されたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために種々の検討を行ったところ、本発明者は、下記[1]~[4]の特徴を有するコイル部品が、高い機械的強度を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]磁性体が、大小2種類の軟磁性合金粒子で構成されている。
[2]粒径の大きな軟磁性合金粒子の表面に、Siを含む非晶質酸化物膜が形成されている。
[3]粒径の小さな軟磁性合金粒子の表面に、結晶質酸化物の層が形成されている。
[4]前記結晶質酸化物が、複数の粒径の大きな軟磁性合金粒子に跨がる接着部を形成している。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の実施形態は、軟磁性合金粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備えたコイル部品であって、前記磁性体は、軟磁性合金粒子として、合金成分がFe、Si及びCrから実質的になる第1粒子と、合金成分としてFe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi及びCr以外の元素を含む第2粒子とを含み、前記第2粒子の平均粒径は、前記第1粒子の平均粒径よりも小さく、前記第1粒子は、その表面に、Si及びCrを含む非晶質酸化物膜を備え、前記第2粒子は、その表面に、前記Feより酸化しやすいSi及びCr以外の元素を含む結晶質酸化物の層を備え、かつ前記結晶質酸化物が、複数の前記第1粒子に跨がる接着部を形成していることを特徴とするコイル部品である。
【0013】
また、本発明の第2の実施形態は、軟磁性合金粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備えたコイル部品の製造方法であって、
(a)軟磁性合金粉末として、合金成分がFe、Si及びCrから実質的になる第1粉末と、合金成分としてFe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi及びCr以外の元素を含むと共に、前記第1粒子よりも平均粒径が小さい第2粉末とを準備すること、
(d)前記第1粉末と前記第2粉末とを混合して混合粉末を得ること、
(e)前記(d)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること、
(f)前記(e)で得られた成形体を、酸素濃度が10ppm~800ppmの雰囲気中にて、500℃~900℃の温度で熱処理して磁性体を得ること、及び
(g)下記(1)又は(2)の少なくとも一方を行うこと

(1)前記(e)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること
(2)前記(f)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置すること

を含むコイル部品の製造方法である。
【0014】
さらに、本発明の第3の実施形態は、前述のコイル部品を搭載した回路基板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機械的強度が向上されたコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品中の磁性体における微細構造(異種粒子の接触態様)の説明図
図2】本発明において絶縁層が非晶質であることの確認手順を示す説明図
図3】本発明の一実施形態に係るコイル部品中の磁性体における微細構造(第1粒子同士の接触態様)の説明図
図4】本発明の一実施形態に係るコイル部品中の磁性体において、第1粒子同士が接着部を介して接合している状態を示す説明図
図5】本発明の一実施形態に係るコイル部品中の磁性体において、粒子間の空隙を接着部が閉塞している状態を示す説明図
図6】本発明の実施例及び比較例で作製したコイル部品の外観を示す模式図
図7】本発明の実施例及び比較例で行った3点曲げ試験における試験片の支持及び載荷の態様を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0018】
[コイル部品]
本発明の第1の実施形態に係るコイル部品(以下、単に「第1実施形態」と記載することがある。)は、軟磁性合金粒子を含む磁性体と、該磁性体の内部又は表面に配置された導体とを備える。前記磁性体には、軟磁性合金粒子として、合金成分がFe、Si及びCrから実質的になる第1粒子と、合金成分としてFe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi及びCr以外の元素を含む第2粒子とが含まれる。そして、前記第2粒子の平均粒径は、前記第1粒子の平均粒径よりも小さい。また、前記第1粒子は、その表面に、Si及びCrを含む非晶質酸化物膜を備え、前記第2粒子は、その表面に、前記Feより酸化しやすいSi及びCr以外の元素を主成分とする結晶質酸化物の層を備える。さらに、前記結晶質酸化物は、複数の前記第1粒子に跨がる接着部を形成している。
以下、第1実施形態における磁性体及び導体について詳述する。
【0019】
<磁性体について>
第1実施形態における磁性体は、図1に示すように、表面に非晶質酸化膜212を備える第1粒子21と、表面に結晶質酸化物の層222を備える、第1粒子より平均粒径の小さい第2粒子22とを備える。
【0020】
第1粒子21は、合金成分がFe、Si及びCrから実質的になる。ここで、「実質的になる」とは、不可避不純物以外は他の成分を含まないことを意味する。そして、表面に形成された非晶質酸化膜212と、その内部に位置する合金部分211とを備える。後述する第2粒子に比べて平均粒径が大きいこと、及び後述するように非晶質酸化膜212の厚みが薄く、合金部分211の割合が相対的に高いことから、第1粒子21は、磁性体の磁気特性を主として担うことになる。第1粒子21における合金成分の割合は特に限定されないが、Feの含有量が多いほど優れた磁気特性が得られるため、所期の電気的絶縁性及び耐酸化性が得られる範囲でなるべくFe含有量を多くすることが好ましい。好適なFeの含有量は30質量%以上であり、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。他方、Feの含有量は、98質量%以下とすることが好ましい。また、Siの含有量については、合金部分211の電気抵抗を高めて、渦電流による磁気特性の低下を抑制する点で、1質量%以上とすることが好ましい。さらに、Crの含有量については、合金部分211中のFeの酸化を抑制して高い磁気特性を保持する点で、0.2質量%以上とすることが好ましい。
【0021】
第1粒子21表面の非晶質酸化膜212は、構成元素としてSi、Cr及びOを含み、非晶質である。該酸化膜212がSiを含む非晶質であることで、薄い厚みで高い電気的絶縁性を付与できる。また、該酸化膜212がCrを含むことで、合金部分211のFeの酸化による特性の低下を抑制できる。非晶質酸化膜212は、非晶質の状態が保たれていれば、Si、Cr及びO以外の元素を含有してもよく、その種類及び含有量も特に限定されない。したがって、後述するように、非晶質酸化膜212を、第1粒子表面へのSi含有物質の付着によって形成する場合には、Si及びCr以外の元素を含むSi含有物質を使用してもよい。ただし、Feについては、比較的低濃度で非晶質酸化物膜が結晶化し、これにより磁性体ないしコイル部品の電気的絶縁性が大幅に低下してしまうため、極力含有しないことが好ましい。
【0022】
ここで、酸化物膜212が非晶質であることは、以下の手順で確認する。まず、磁性体から切り出した薄片状試料を高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)で観察し、電子顕微鏡像におけるコントラスト(明度)の差異により認識される酸化物膜について、フーリエ変換により逆空間図形を得る(図2の(1)参照)。なお、この逆空間図形は、ナノビーム回折で得られたものであれば、HR-TEM以外の測定装置を用いたものでもよい。次いで、得られた逆空間図形において、ビーム入射位置からの距離rごとに、信号強度の平均値Ir,avgを算出する。すなわち、ビーム入射位置から等距離rにある複数の点で信号強度Iを測定し、これらを平均する。次いで、得られたIr,avg及びrに基づいて、動径分布関数を得る(図2の(2)参照)。次いで、動径分布関数において、r=0以外の点で信号強度が最大となる点rpを求める(図2の(3)参照)。最後に、ビーム入射位置からrの距離にある各点での信号強度を回転角θに対してプロットし、各点の信号強度のうち最大のものIrp,maxと最小のものIrp,minとを比較する(図2の(4)参照)。そして、Irp,maxの値がIrp,minの値の1.5倍未満となった場合に、観察した酸化物膜を非晶質と判定する。
【0023】
第2粒子22は、合金成分としてFe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi及びCr以外の元素(以下、「M」ないし「M元素」と記載することがある。)を含む。そして、表面に形成された結晶質酸化物の層222と、その内部に位置する合金部分221とを備える。第2粒子22は、結晶質酸化物の層222が前述した非晶質酸化膜212に比べて厚く形成され、該層222を介して隣接する軟磁性合金粒子と強固に接合されることで、磁性体の機械的強度の向上に寄与する。一般的に、軟磁性合金粒子の表面に形成される酸化物層の厚みが増すことは、合金部分の割合の減少を意味するため、磁気特性の点では不利に働く。しかし、第1実施形態では、第2粒子22の平均粒径を前記第1粒子21よりも小さくすることで、前述した不利の影響を低減している。第2粒子22における合金成分の割合は特に限定されないが、磁気特性を保持する点からは、所期の電気的絶縁性及び耐酸化性が得られる範囲でなるべくFe含有量を多くすることが好ましい。好適なFeの含有量は30質量%以上であり、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。他方、Feの含有量は、98質量%以下とすることが好ましい。また、Siの含有量については、合金部分221の電気抵抗を高めて、渦電流による磁気特性の低下を抑制する点で、1質量%以上とすることが好ましい。さらに、M元素の含有量については、合金部分221中のFeの酸化及びこれに起因する磁気特性の低下を抑制する点で、0.2質量%以上とすることが好ましい。
【0024】
第2粒子の合金成分であるM元素としては、Al、Zr、Ti、Mn、Ni等が例示される。これらのうち、酸化物の機械的強度が高く、結晶質酸化物の層222及び後述する接着部23を高強度化できる点で、Al又はMnが好ましい。
【0025】
第2粒子22表面の結晶質酸化物の層222は、前述したM元素を主成分とする。ここで、本明細書における主成分とは、質量基準の含有割合が最も多い成分をいう。結晶質酸化物の層222は、前述のとおり、隣接する軟磁性合金粒子と強固に接合され、磁性体の機械的強度の向上に寄与する。前記結晶質酸化物の層222は、より高強度の磁性体が得られる点で、単結晶であることが好ましい。ここで、結晶質酸化物の層222が単結晶であることは、以下の手順により確認する。
【0026】
まず、コイル部品の中央部から、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、厚さ50nm~100nmの薄片試料を取り出した後、直ちに環状暗視野検出器及びエネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、磁性体部分の観察を行う。次いで、電子顕微鏡像のコントラスト(明度)の差異から、軟磁性合金粒子の内部に位置する合金部分を識別し、当該部分について、200nm×200nmの領域の組成をEDSによりZAF法で算出し、これを合金部分の組成とする。ここで、STEM―EDSの測定条件は、加速電圧を200kV、電子ビーム径を1.0nmとし、合金部分の各点における6.22keV~6.58keVの範囲の信号強度の積算値が25カウント以上となるように測定時間を設定する。次いで、得られた合金部分の組成が、M元素を含む場合、当該合金部分を含む軟磁性合金粒子を第2粒子と判定する。次いで、電子顕微鏡像において、第2粒子と判定された軟磁性合金粒子の表面近傍に位置する、合金部分とはコントラストが異なる箇所を結晶質酸化物の層と判定し、当該層について電子線回折パターンを測定する。そして、当該回折パターンが二次元点配列のネットパターン(格子状のスポット)となった場合、当該層は単結晶であると判定する。
【0027】
なお、前述した合金部分の組成の決定方法は、非晶質酸化物膜212及び結晶質酸化物の層222の組成の決定にも用いられる。
【0028】
第2粒子22は、第1粒子21よりも小さな平均粒径を有する。このことにより、表面に結晶質酸化物の層222が厚く形成されていても、磁気特性への悪影響を抑えることができる。第2粒子22の平均粒径は、第1粒子21のそれに対する比率が0.02~0.5であることが好ましい。該比率を0.02以上とすることで、粒子同士の接合強度を高めることができる。他方、該比率を0.5以下とすることで、磁気特性への悪影響を抑えることができる。各粒子の平均粒径としては、例えば、第1粒子を5μm~20μmとすることができ、第2粒子を0.1μm~2μmとすることができる。ここで、各粒子の平均粒径は、以下の手順により算出する。
【0029】
まず、コイル部品の磁性体を研磨して断面(研磨面)を出す。次いで、研磨面を走査型電子顕微鏡にて観察する。観察する際の加速電圧は、研磨面の表面近傍の電子情報を選択的に得るために、2kV程度にとどめる。また、観察は、金属磁性粒子部と粒子間の酸化膜部とが判別しやすいように、反射電子像にて行い、得られた画像を保存する。その際の倍率は2000倍~5000程度とする。次いで、観察を行った箇所についてEDSによる面分析を行い、含まれる元素の差異に基づいて、各粒子が第1粒子又は第2粒子のいずれであるかを判定する。次いで、保存した画像内の金属磁性粒子について、長径及び短径を測長し、その平均値を当該金属磁性粒子の粒径とする。最後に、得られた各粒子の粒径と前述の判定結果とから、第1粒子及び第2粒子のそれぞれについて算術平均値を算出し、それぞれ第1粒子の平均粒径、第2粒子の平均粒径とする。
【0030】
第1実施形態における磁性体では、図3に示すように、前述した結晶質酸化物の層222を形成するM元素の酸化物が、第2粒子22を離れて前述の第1粒子21同士の接触部にまで達し、複数の第1粒子21に跨がる接着部23を形成している。第1粒子21同士の接触部は、非晶質酸化物膜212同士が接触しているため、高い接着強度を得ることは困難であった。しかし、前記接着部23により前記接触部が補強されるため、接着強度が向上し、機械的強度の高い磁性体が得られる。前記接着部23は、図4に示すように、第1粒子21同士を、これを介して接合するように配置されてもよい。ここで、第1粒子21同士が接着部23を介して接合されているとは、隣接する第1粒子21同士が接着部23で隔てられており、直接接触していないことを意味する。
【0031】
また、前記接着部23は、図5に示すように、軟磁性合金粒子21ないし22間の空隙を閉塞していることが好ましい。これにより、磁性体の空隙率が減少し、機械的強度がさらに向上する。
【0032】
第1実施形態における磁性体は、所期の特性が得られる範囲で、前述した第1粒子及び第2粒子以外の軟磁性金属粒子や各種フィラー等を含んでもよい。
【0033】
<導体について>
導体の材質、形状及び配置は特に限定されず、要求特性に応じて適宜決定すればよい。材質の一例としては、銀若しくは銅、又はこれらの合金等が挙げられる。また、形状の一例としては、直線状、ミアンダー状、平面コイル状、螺旋状等が挙げられる。さらに、配置の一例としては、被覆付きの導線を磁性体の周囲に巻回したものや、各種形状導体を磁性体内部に埋め込んだもの等が挙げられる。
【0034】
[コイル部品の製造方法]
本発明の第2実施形態に係るコイル部品の製造方法(以下、単に「第2実施形態」と記載することがある。)は、下記の処理ないし操作を含む。
(a)軟磁性合金粉末として、合金成分がFe、Si及びCrから実質的になる第1粉末と、合金成分としてFe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi及びCr以外の元素(M元素)を含むと共に、前記第1粒子よりも平均粒径が小さい第2粉末とを準備すること。
(d)前記第1粉末と前記第2粉末とを混合して混合粉末を得ること。
(e)前記(d)で得られた混合粉末を成形して成形体を得ること。
(f)前記(e)で得られた成形体を、酸素濃度が10ppm~800ppm以下の雰囲気中にて、500℃~900℃の温度で熱処理して磁性体を得ること。
(g)(1)前記(e)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること、又は(2)前記(f)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置することの少なくとも一方を行うこと。
以下、前記必須の処理操作及びこれに追加して行われる任意の処理操作の一部について詳述する。なお、第2実施形態では、以下に詳述する処理操作以外の、当業者に知られている処理操作を行ってもよいことは言うまでもない。
【0035】
<処理操作(a)について>
第2実施形態では、軟磁性合金粉末として、合金成分がFe、Si及びCrから実質的になる第1粉末と、合金成分としてFe及びSi、並びにM元素を含むと共に、前記第1粒子よりも平均粒径が小さい第2粉末とを使用する。これは、本発明完成の過程で、本発明者が得た以下の知見に基づくものである。すなわち、Fe及びSi、並びにFeより酸化しやすいSi以外の元素を含む軟磁性合金粒子のうち、Feより酸化しやすいSi以外の元素としてCrのみを含むものは、他の元素を含むものに比べて、低酸素雰囲気中で熱処理した際に、電気的絶縁性が高く、かつ厚みの小さい酸化層が形成されるというものである。そして、この知見と、磁性体の磁気特性への影響は、粒径の大きな粒子の特性の方が、粒径の小さな粒子のそれよりも大きいとの事実とを合わせ見た結果、本発明者は、電気的絶縁性が高く、かつ厚みの小さい酸化層が形成される点で磁気特性上有利なFe-Si-Cr系の軟磁性合金粒子を大粒径とし、電気的絶縁性はあまり高くないものの厚みの大きな酸化層が形成される点で機械的強度上有利なFe-Si-M系の軟磁性合金粒子を小粒径とすることで、磁気特性を保持しつつ強度の高い磁性体を得ることに想到したのである。以下、各粒子で構成される軟磁性合金粉末について詳述する。
【0036】
第1粉末及び第2粉末に共通する合金成分であるFeは、該各粉末を構成する軟磁性合金粒子の磁気特性に寄与するものである。このため、いずれの粉末においても、後述する熱処理によって軟磁性合金粒子の表面に所期の酸化物が形成される範囲で、Fe含有量をなるべく多くすることが好ましい。好適なFeの含有量は30質量%以上であり、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。他方、Feの含有量が多くなりすぎると、その酸化の影響で、各粉末を構成する軟磁性合金粒子の表面に所期の酸化物が形成されないおそれがある。このため、Feの含有量は、98質量%以下とすることが好ましい。
【0037】
第1粉末及び第2粉末に共通する合金成分であるSiは、該各粉末を構成する軟磁性合金粒子の電気的絶縁性に寄与するものである。また、第1粉末においては、後述する熱処理によって軟磁性合金粒子の表面に形成される電気的絶縁性の高い非晶質酸化物膜の主成分となるものである。軟磁性合金粒子に所期の電気的絶縁性を付与する点、及び第1粉末を構成する軟磁性合金粒子(第1粒子)の表面全体に非晶質酸化物膜を形成する点から、各粉末におけるSi含有量は1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。他方、各粉末を構成する軟磁性合金粒子の磁気特性を保持する点から、Si含有量は10質量%以下とすることが好ましく、8質量%以下とすることがより好ましく、5質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
第1粉末の必須成分であるCrは、軟磁性合金粒子中のFeの酸化及びこれに起因する磁気特性の低下を抑制する作用を有する。これに加えて、軟磁性合金粒子中のCrは、後述する熱処理によって該粒子の表面に拡散し、前述したSiと共に非晶質酸化物膜を形成する。これにより、該粒子内部に位置する合金部分への酸素の拡散が抑制され、Feの酸化及び拡散に起因する非晶質酸化物膜の結晶化が抑止されることで、非晶質酸化物膜の安定性が向上する。前述の作用を十分に発揮させる点から、第1粒子におけるCrの含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましい。他方、軟磁性合金粒子中のFeの含有割合を高めると共に、該粒子中のCrの偏析を抑制して優れた磁気特性を得る点から、第1粒子におけるCrの含有量は5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
第2粉末の必須成分であるM元素は、前述のCrと同様に、軟磁性合金粒子中のFeの酸化及びこれに起因する磁気特性の低下を抑制する作用を有する。これに加えて、軟磁性合金粒子中のM元素は、後述する熱処理によって該粒子の表面に拡散し、結晶質酸化物の層を形成する。この層は、前述の非晶質酸化物膜に比べて厚く形成される。このため、非晶質酸化物膜同士による接合に比べて、隣接する軟磁性合金粒子との接合強度が高まると共に、該粒子間の空隙の体積が減少し、磁性体の機械的強度が向上する。
【0040】
M元素としては、Al、Zr、Ti、Mn、Ni等が例示される。これらのうち、熱処理により形成される酸化物の機械的強度が高く、軟磁性合金粒子同士の接合部を高強度化できる点で、Al又はMnが好ましい。
【0041】
第2粉末としては、第1粉末よりも平均粒径の小さなものを使用する。このことで、後述する熱処理により、軟磁性合金粒子の表面に結晶質酸化物の層が厚く形成された場合でも、磁気特性への悪影響を抑えることができる。第2粉末の平均粒径の第1粉末のそれに対する比率は、0.02~0.5であることが好ましい。該比率を0.02以上とすることで、結晶質酸化物の層の形成による粒子同士の接合強度の向上効果を十分に発揮させることができる。他方、該比率を0.5以下とすることで、磁気特性への悪影響を抑えることができる。各粉末の平均粒径としては、例えば、第1粉末を5μm~20μmとすることができ、第2粉末を0.1μm~2μmとすることができる。この平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0042】
<処理操作(d)について>
処理操作(d)では、第1粉末と前記第2粉末とを混合して混合粉末を得る。この際、所期の特性を有する磁性体が得られる範囲で、第1粉末及び第2粉末以外の軟磁性金属粉末や各種フィラー等を混合してもよい。
第1粉末と第2粉末との混合方法としては、粉体の混合に慣用されている方法を採用できる。一例として、リボンブレンダー又はV型混合機等の各種混合機を用いる用法や、ボールミルによる混合等が挙げられる。
【0043】
<処理操作(e)について>
処理操作(e)では、前記(d)で得られた混合粉末を成形して成形体を得る。
成形方法は特に限定されず、例えば、前記混合粉末と樹脂とを混合して金型等の成形型に供給し、プレス等により加圧した後、樹脂を硬化させる方法が挙げられる。また、前記混合粉末を含むグリーンシートを積層・圧着する方法を採用してもよい。
【0044】
金型等を用いたプレス成形で成形体を得る場合、プレスの条件は、混合粉末及びこれと混合する樹脂の種類やこれらの配合割合等に応じて適宜決定すればよい。
前記混合粉末と混合する樹脂としては、該混合粉末を構成する軟磁性合金粒子同士を接着して成形及び保形が可能で、かつ後述する(f)の加熱処理によって炭素分等を残存させることなく揮発するものであれば特に限定されない。一例として、分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、及びビニル樹脂等が挙げられる。また、樹脂と共に、あるいは樹脂に代えて、ステアリン酸又はその塩、リン酸又はその塩、及びホウ酸及びその塩に代表される潤滑剤を使用してもよい。樹脂ないし潤滑剤の添加量は、成形性及び保形性等を考慮して適宜決定すればよく、例えば、軟磁性合金粉末100質量部に対して0.1~5質量部とすることができる。
【0045】
グリーンシートを積層・圧着して成形体を得る場合、吸着搬送機等を用いて個々のグリーンシートを積み重ね、プレス機を用いて熱圧着する方法が採用できる。圧着された積層体から複数のコイル部品を得る場合には、該積層体を、ダイシング機やレーザー切断機等の切断機を用いて分割してもよい。
この場合、グリーンシートは、典型的には、軟磁性合金粉末とバインダーとを含むスラリーを、ドクターブレードやダイコーター等の塗工機により、プラスチックフィルム等のベースフィルムの表面に塗布・乾燥することで製造される。使用するバインダーとしては、軟磁性合金粉末をシート状に成形し、その形状を保持できるとともに、加熱により炭素分等を残存させることなく除去できるものであれば特に限定されない。一例として、ポリビニルブチラールをはじめとするポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。前記スラリーを調製するための溶媒も特に限定されず、ブチルカルビトールをはじめとするグリコールエーテル等を用いることができる。前記スラリー中の各成分の含有量は、採用するグリーンシートの成形方法や調製するグリーンシートの厚み等に応じて適宜調節すればよい。
【0046】
<処理操作(f)について>
処理操作(f)では、前記(e)で得られた成形体を、酸素濃度が10ppm~800ppmの雰囲気中にて、500℃~900℃の温度で熱処理して磁性体を得る。これにより、成形体中の樹脂(バインダー)を揮発除去すると共に、第2粉末を構成する軟磁性合金粒子(第2粒子)の表面に結晶質酸化物を生成させて、軟磁性合金粒子同士を接合する。成形体中の樹脂(バインダー)を揮発除去する熱処理は、処理操作(f)に先立って、これとは別個に行ってもよい。その場合、熱処理の雰囲気は酸素濃度を10ppm以上とし、熱処理温度はFeの酸化を抑制するために400℃以下とすることが好ましい。
【0047】
熱処理雰囲気中の酸素濃度は、10ppm~800ppmとする。熱処理雰囲気中の酸素濃度を10ppm以上とすることで、軟磁性合金粉末を構成する軟磁性合金粒子の表面を酸化して、粒子同士を電気的に絶縁すると共に、酸化物を介して粒子同士を接合できる。第2粉末を構成する軟磁性合金粒子(第2粒子)中のM元素の酸化を促進し、十分な量の結晶質酸化物を生成させて軟磁性合金粒子同士を強固に接合する点からは、前記酸素濃度は、100ppm以上とすることが好ましく、200ppm以上とすることがより好ましい。他方、熱処理雰囲気中の酸素濃度を800ppm以下とすることで、第1粉末を構成する軟磁性合金粒子(第1粒子)中のFeの酸化、及びこれに起因する該粒子表面での結晶質酸化物の生成を抑制できる。前記酸素濃度は、500ppm以下とすることが好ましく、300ppm以下とすることがより好ましい。
【0048】
熱処理温度は、500℃~900℃とする。熱処理温度を500℃以上とすることで、軟磁性合金粉末を構成する軟磁性合金粒子の表面を酸化して、粒子同士を電気的に絶縁すると共に、酸化物を介して粒子同士を接合できる。前記熱処理温度は、550℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましい。他方、熱処理温度を900℃以下とすることで、第1粉末を構成する軟磁性合金粒子(第1粒子)中のFeの酸化、及びこれに起因する該粒子表面での結晶質酸化物の生成を抑制できる。前記熱処理温度は、850℃以下とすることが好ましく、800℃以下とすることがより好ましい。
【0049】
熱処理時間は、第2粒子の表面に形成された結晶質酸化物が成長し、第1粒子同士の接触部まで到達するものであればよい。一例として、30分以上とすることができ、1時間以上とすることが好ましい。他方、第1粒子の表面に結晶質の酸化膜が生成するのを防ぐと共に、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を5時間以下とすることができ、3時間以下とすることが好ましい。
【0050】
ここで、第1粉末を構成する軟磁性合金粒子(第1粒子)中のFeの酸化、及びこれに起因する該粒子表面での結晶質酸化物の生成は、熱処理雰囲気中の酸素濃度又は熱処理温度の少なくとも一方を低くするか、熱処理時間を短くすることで抑制できる。このため、例えば、熱処理雰囲気中の酸素濃度を高くする必要がある状況下で、結晶質酸化物の生成を極力抑えたい場合には、熱処理温度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。また、熱処理温度を高くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。さらに、熱処理時間を長くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理温度を低く設定すればよい。
【0051】
<処理操作(g)について>
処理操作(g)では、導体若しくはその前駆体を配置する。ここで、導体とは、そのままコイル部品中で導体となるものであり、導体の前駆体とは、コイル部品中で導体となる導電性の材料に加えてバインダー樹脂等を含み、熱処理によって導体となるものである。導体若しくはその前駆体の配置の仕方には、下記2通りの方法がある。
【0052】
(1)前記(e)において、前記成形体の内部又は表面に、導体若しくはその前駆体を配置すること
成形体を、上述したプレス成形で得る場合には、予め導体若しくはその前駆体を配置した金型中に軟磁性合金の混合粉末を充填し、プレスする方法が採用できる。これにより、成形体の内部に導体若しくはその前駆体を配置できる。
【0053】
また、成形体を、上述したグリーンシートの積層・圧着で得る場合には、グリーンシート上に導体ペーストの印刷等により導体の前駆体を配置した後、積層・圧着する方法が採用できる。これにより、積層体の内部又は表面に導体若しくはその前駆体を配置できる。
使用する導体ペーストとしては、導体粉末と有機ビヒクルとを含むものが挙げられる。導体粉末としては、銀若しくは銅又はこれらの合金等の粉末が用いられる。導体粉末の粒径は特に限定されないが、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))が1μm~10μmのものが用いられる。有機ビヒクルの組成は、グリーンシートに含まれるバインダーとの相性を考慮して決定すればよい。一例として、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂を、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル系溶剤に溶解ないし膨潤させたものが挙げられる。導体ペーストにおける導体粉末及び有機ビヒクルの配合比率は、使用する印刷機に好適なペーストの粘度や形成しようとする導体パターンの膜厚等に応じて適宜調節することができる。
【0054】
前述したいずれの場合においても、配置された導体の前駆体は、引き続き行われる処理操作(f)により導体を形成する。
【0055】
(2)前記(f)を行った後に、前記磁性体の表面に導体を配置すること
この場合は、得られた磁性体に被覆付きの導線を巻回す方法や、該磁性体の表面に導体ペーストの印刷等により導体の前駆体を配置した後、焼成炉等の加熱装置を用いて焼付け処理を行う方法で導体を配置できる。
【0056】
<処理操作(b)について>
第2実施形態では、前述の処理操作(d)に先立って、前記処理操作(a)で準備した第1粉末を構成する各粒子(第1粒子)の表面に、Si含有物質を付着させること(処理操作(b))を行ってもよい。
【0057】
処理操作(b)では、第1粉末を構成する軟磁性合金粒子(第1粒子)の表面に、Si含有物質を付着させる。これにより、第1粒子の表面に、非晶質膜が均一な厚みで生成しやすくなる。
使用するSi含有物質としては、テトラエトキシシラン(TEOS)を始めとするシランカップリング剤や、コロイダルシリカを始めとするシリカ微粒子等が例示される。Si含有物質の使用量は、その種類や軟磁性合金粒子の粒径等に応じて適宜決定できる。
第1粉末を構成する軟磁性合金粒子(第1粒子)の表面にSi含有物質を付着させる方法としては、これが液状である場合には、粒子に対する噴霧又は粒子の浸漬を行った後乾燥する方法が例示される。また、Si含有物質が微粒子状である場合には、乾式混合や、これが分散したスラリーとの接触(噴霧又は浸漬)後に乾燥する方法が例示される。さらに、シランカップリング剤を用いたゾルゲル法による被覆を採用してもよい。
【0058】
<処理操作(c1)について>
前記(b)の処理操作を行う場合には、該処理操作後の第1粉末に対して、不活性ガス雰囲気中にて100℃~700℃の温度で、又は酸素濃度が100ppm以下の雰囲気中にて100℃~300℃の温度で、熱処理を行ってもよい(処理操作(c1))。ここで、不活性ガスとは、N又は希ガスを意味する。これにより、第1粉末を構成する合金粒子(第1粒子)の表面に付着したSi含有物質が、Si及びOを含む非晶質の薄膜を形成し、また形成された薄膜の機械的強度ないし金属粒子への付着強度が向上する。該薄膜は、コイル部品中の磁性体において絶縁層として機能し、軟磁性合金粒子間を電気的に絶縁する。
【0059】
熱処理温度は、100℃以上とすることが好ましい。これにより、前述した非晶質薄膜の形成が促進される。また、形成された薄膜の機械的強度ないし金属粒子への付着強度が向上する。しかし、熱処理温度が高すぎると、軟磁性金属粉末の酸化や、非晶質薄膜の結晶化が顕著になり、得られる磁性体の特性が低下する。このため、100ppm以下の酸素を含む雰囲気中での熱処理においては、熱処理温度は300℃以下とすることが好ましい。他方、不活性雰囲気中での熱処理においては、軟磁性金属粉末の酸化はほとんど起こらないため、熱処理温度の上限を700℃とすることができる。
【0060】
熱処理温度での保持時間は特に限定されないが、非晶質薄膜の形成を十分に行う点、及び形成された薄膜の機械的強度ないし金属粒子への付着強度を十分に高める点からは、30分以上とすることが好ましく、50分以上とすることがより好ましい。他方、結晶質膜の生成を抑制すると共に、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を2時間以下とすることが好ましく、1.5時間以下とすることがより好ましい。
【0061】
<処理操作(c2)について(1)>
また、第2実施形態では、前述の処理操作(c1)に代えて、Si含有物質が表面に付着した第1粉末に対して、酸素濃度が3ppm~100ppmの雰囲気中にて300℃~900℃の温度で熱処理を行ってもよい(処理操作(c2))。これにより、第1粉末を構成する合金粒子(第1粒子)中のSi又はCrの該粒子表面への拡散及び該表面での酸化が起こる。このとき、第1粒子の表面には非晶質の酸化物薄膜が形成されるため、Si含有物質に由来する非晶質薄膜と相まって、十分な厚みの非晶質薄膜を形成できる。該薄膜は、コイル部品中の磁性体において絶縁層として機能し、これが形成された第1粒子を、隣接する他の合金粒子から電気的に絶縁する。このため、電気的絶縁性に優れ、駆動時の損失が小さい磁性体ないしコイル部品を得ることができる。
【0062】
熱処理雰囲気中の酸素濃度を3ppm以上とし、熱処理温度を300℃以上とすることで、合金成分であるSi及びCrと酸素との反応が促進される。そして、このことにより、第1粉末を構成する軟磁性合金粒子(第1粒子)の表面を電気的絶縁性の高い非晶質膜で覆うことができる。他方、熱処理雰囲気中の酸素濃度を100ppm以下とし、熱処理温度を900℃以下とすることで、第1粒子中のFe過度な酸化及びこれに起因する粒子表面での結晶質酸化物の生成を抑制できる。そして、このことにより、磁気特性及び電気的絶縁性の低下が抑止される。前記酸素濃度は、5ppm以上とすることが好ましい。また、前記酸素濃度は、50ppm以下とすることが好ましく、30ppm以下とすることがより好ましく、10ppm以下とすることがさらに好ましい。他方、記熱処理温度は、350℃以上とすることが好ましく、400℃以上とすることがより好ましい。また、前記熱処理温度は、850℃以下とすることが好ましく、800℃以下とすることがより好ましい。
【0063】
熱処理温度での保持時間は特に限定されないが、非晶質膜を十分な厚みとする点からは、30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。他方、結晶質膜の生成を抑制すると共に、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を5時間以下とすることが好ましく、3時間以下とすることがより好ましい。
【0064】
ここで、前述した第1粒子中のFeの過度な酸化及びこれに起因する第1粒子表面での結晶質酸化物の生成は、熱処理雰囲気中の酸素濃度又は熱処理温度の少なくとも一方を低くするか、熱処理時間を短くすることで抑制できる。このため、例えば、熱処理雰囲気中の酸素濃度を高くする必要がある状況下で、Feの酸化を極力抑えたい場合には、熱処理温度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。また、熱処理温度を高くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理時間を短く設定すればよい。さらに、熱処理時間を長くする必要がある場合には、熱処理雰囲気中の酸素濃度を低く、又は熱処理温度を低く設定すればよい。
【0065】
<処理操作(c2)について(2)>
前述の処理操作(c2)は、前述の処理操作(b)を行っていない第1粉末に対して行ってもよい。これにより、第1粉末を構成する軟磁性合金粒子(第1粒子)の表面に、Si、Cr及びOを含む非晶質の酸化物薄膜が、均一な厚さで形成される。該薄膜は、コイル部品中の磁性体において絶縁層として機能し、軟磁性合金粒子間を電気的に絶縁する。このため、絶縁層の厚みの揃った、磁気特性に優れる磁性体ないしコイル部品を得ることができる。また、この場合、前述の処理操作(b)を行った場合に比べて絶縁層の厚みを薄くできるため、第1粒子内部の合金部分の比率を高めることができ、より磁気特性に優れる磁性体ないしコイル部品を得ることができる。
【0066】
以上説明した第2実施形態によれば、表面に電気的絶縁性の高い非晶質酸化物膜が形成された大粒径の軟磁性合金粒子と、該粒子よりも小粒径の軟磁性合金粒子とが、機械的強度の高い結晶質酸化物によって接合された磁性体が得られる。これにより、該磁性体を備えたコイル部品の機械的強度を向上させることが可能となる。
【0067】
[回路基板]
本発明の第3の実施形態に係る回路基板(以下、単に「第3実施形態」と記載することがある。)は、第1実施形態に係るコイル部品を載せた回路基板である。
回路基板の構造等は限定されず、目的に応じたものを採用すればよい。
第3実施形態は、第1実施形態に係るコイル部品を使用することで、振動や衝撃を受けても破損しにくいものとなる。
【実施例
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
まず、第1粉末として、Feを94.5wt%、Siを2.0wt%及びCrを3.5wt%含み、残部が不可避不純物である、平均粒径4μmの軟磁性合金粉末を準備した。また、第2粉末として、Feを97.0wt%、Siを2.0wt%及びAlを1.0wt%含み、残部が不可避不純物である、平均粒径2μmの軟磁性合金粉末を準備した。次いで、前記第1粉末に対して、酸素濃度7ppmの雰囲気下で700℃にて1時間の熱処理を行った。次いで、該熱処理後の第1粉末90質量部を、10質量部の前記第2粉末、並びにポリビニルブチラール(PVB)系のバインダー樹脂及び分散媒と混合してスラリーを調製し、これを自動塗工機によりシート状に成形し、グリーンシートを得た。次いで、このグリーンシートにAgペーストを印刷して内部導体の前駆体を形成した。次いで、このグリーンシートを積層・圧着した後個片化して成形体を得た。次いで、この成形体を、酸素濃度800ppmの雰囲気下で800℃にて1時間の熱処理を行って、内部導体を備える磁性体を得た。最後に、内部導体に接続する外部電極を形成し、図6に示す形状のコイル部品を得た。
また、内部電極の前駆体を形成していない前記グリーンシートを積層・圧着し、円板状に加工した成形体を前述の条件で熱処理して、直径7mm、厚さ0.5mm~0.8mmの円板状の試験用磁性体を得た。
さらに、内部電極の前駆体を形成していない前記グリーンシートを積層・圧着し、直方体状に加工した成形体を前述の条件で熱処理して、長さ50mm、幅5mm、厚さ4mmの直方体状の試験用磁性体を得た。
【0070】
<軟磁性合金粒子の平均粒径測定>
得られたコイル部品について、上述した方法で、軟磁性合金の第1粒子及び第2粒子の平均粒径を測定したところ、第1粒子が4μm、第2粒子が2μmとなった。
【0071】
<酸化物膜及び酸化物層の構造及び組成の確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の軟磁性合金粒子表面に形成された酸化膜ないし酸化物層の構造及び組成を、上述した方法で確認した。その結果、第1粒子表面には、Si及びCrを含有する非晶質酸化物膜が形成されていることが判明した。また、第2粒子表面には、Alを主成分とする結晶質酸化物(Al)の層が形成されていることが判明した。さらに、第1粒子同士の接触部には、接触している複数の第1粒子に跨がるように、第2粒子表面と同様の酸化物が形成されていることも確認された。
【0072】
<透磁率の測定>
得られたコイル部品について、測定装置としてLCRメーター(アジレントテクノロジー社製 4285A)を用い、周波数10MHzにて比透磁率の測定を行った。得られた比透磁率は32であった。
【0073】
<電気的絶縁性の評価>
コイル部品の電気的絶縁性を、前述した円板状の試験用磁性体の体積抵抗率及び絶縁破壊電圧により評価した。
前述した円板状の試験用磁性体の両面全体に、スパッタリングによりAu膜を形成して評価用試料とした。
得られた評価用試料について、JIS-K6911に準じて体積抵抗率を測定した。試料の両面に形成されたAu膜を電極とし、該電極間に、電界強度が60V/cmとなるように電圧を印加して抵抗値を測定し、該抵抗値から体積抵抗率を算出した。評価用試料の体積抵抗率は500Ω・cmであった。
また、得られた評価用試料の絶縁破壊電圧は、試料の両面に形成されたAu膜を電極とし、該電極間に電圧を印加して電流値を測定することで行った。印加電圧を徐々に上げて電流値を測定し、該電流値から算出される電流密度が0.01A/cmとなった電圧から算出される電界強度を破壊電圧とした。評価用試料の絶縁破壊電圧は6.2kV/cmであった。
【0074】
<機械的強度の評価>
コイル部品の機械的強度を、前述した直方体状の試験用磁性体(試験片)の3点曲げ試験により評価した。
前記試験片に対して、図7に示す態様で支持及び載荷を行い、これが破壊したときの最大荷重Wから、曲げモーメントMおよび断面二次モーメントIを考慮して、下記(式1)により破応力σを算出した。前述の試験を10個の試験片について行い、破応力σの平均値を、実施例1に係る磁性体の破応力とした。得られた破応力は、17kgf/mmであった。
【0075】
【数1】
【0076】
[実施例2]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
以下の点を除き、実施例1と同様の方法で、実施例2に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
第2粉末、バインダー樹脂及び分散媒との混合に先立って、第1粉末を、エタノール及びアンモニア水を含む混合溶液中に分散し、これにテトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール及び水を含む処理液を混合・撹拌した後、ろ過により第1粉末を分離し、これを乾燥した。そして、該処理後の第1粉末を、第2粉末、バインダー樹脂及び分散媒と混合した。また、成形体の熱処理条件を、酸素濃度800ppmの雰囲気下で800℃にて1時間とした。
【0077】
<酸化物膜及び酸化物層の構造及び組成の確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の軟磁性合金粒子表面に形成された酸化膜ないし酸化物層の構造及び組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、実施例1と同様の構造及び組成を有する酸化物膜及び酸化物層が形成されていることが確認された。
【0078】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は30、評価用試料の抵抗率は510Ω・cm、絶縁破壊電圧は5.6kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は16kgf/mmであった。
【0079】
[実施例3]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
第1粉末を熱処理することなく第2粉末、バインダー樹脂及び分散媒と混合してスラリーを調製したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例3に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
【0080】
<酸化物膜及び酸化物層の構造及び組成の確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の軟磁性合金粒子表面に形成された酸化膜ないし酸化物層の構造及び組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、実施例1と同様の構造及び組成を有する酸化物膜及び酸化物層が形成されていることが確認された。
【0081】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は34、評価用試料の抵抗率は470Ω・cm、絶縁破壊電圧は5.2kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は17kgf/mmであった。
【0082】
[比較例1]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
第2粉末を使用せず、軟磁性合金粉末として第1粉末のみを使用した以外は実施例3と同様の方法で、比較例1に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
【0083】
<酸化物膜及び酸化物層の構造及び組成の確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の軟磁性合金粒子表面に形成された酸化膜ないし酸化物層の構造及び組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、軟磁性合金粒子の表面及び該粒子同士の接触部に、結晶質酸化物の存在は認められなかった。
【0084】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は28、評価用試料の抵抗率は10Ω・cm、絶縁破壊電圧は0.92kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は7kgf/mmであった。
【0085】
[比較例2]
<コイル部品及び試験用磁性体の作製>
第1粉末を使用せず、軟磁性合金粉末として第2粉末のみを使用した以外は実施例3と同様の方法で、比較例2に係るコイル部品及び試験用磁性体を作製した。
【0086】
<酸化物膜及び酸化物層の構造及び組成の確認>
得られたコイル部品について、磁性体中の軟磁性合金粒子表面に形成された酸化膜ないし酸化物層の構造及び組成を、実施例1と同様の方法で確認したところ、軟磁性合金粒子の表面に、非晶質酸化物膜の存在は認められなかった。
【0087】
<コイル部品及び試験用磁性体の評価>
得られたコイル部品及び試験用磁性体の特性を、実施例1と同様の方法で測定した。コイル部品の比透磁率は22、評価用試料の抵抗率は20Ω・cm、絶縁破壊電圧は1.0kV/cm、磁性体の3点曲げによる破壊応力は9kgf/mmであった。
【0088】
以上の結果を、まとめて表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例と比較例との対比から、軟磁性合金粒子として、第1粒子及びこれよりも平均粒径の小さい第2粒子を含み、該各粒子が特定構造の酸化物膜ないし酸化物層を介して接合された磁性体を備えるコイル部品は、該構成を有さない磁性体を備えるコイル部品に比べて、高い機械的強度を有するといえる。また、前述の構成によれば、透磁率も上昇しており、磁気特性に優れたコイル部品が得られるといえる。さらに、前述の構成によれば、抵抗率及び絶縁破壊電圧も上昇しており、電気的絶縁性に優れるコイル部品が得られるともいえる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、機械的強度が向上されたコイル部品が提供される。本発明に係るコイル部品は、振動や衝撃を受けても破損しにくいため、自動車等の用途に好適である。また、本発明の好ましい形態によれば、磁気特性が向上されたコイル部品が提供されるため、部品の小型化が可能となる点でも、本発明は有用なものである。さらに、本発明の好ましい形態によれば、電気的絶縁性が向上されたコイル部品が提供されるため、高電圧が印加される自動車等の用途に好適である。
【符号の説明】
【0092】
1 コイル部品
2 磁性体
21 第1粒子
211 (第1粒子の)合金部分
212 非晶質酸化物膜
22 第2粒子
221 (第2粒子の)合金部分
222 結晶質酸化物の層
23 接着部
3 外部電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7