IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キリンビバレッジ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ムレ臭が抑制された容器詰紅茶飲料
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/16 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A23F3/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019220496
(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公開番号】P2021087404
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩子
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 あかね
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 万菜伽
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-189729(JP,A)
【文献】日本食品工業学会誌,1994年,Vol.41,No.11,pp.768-777
【文献】LWT-Food Science and Technology,2018年,Vol.94,pp.142-162
【文献】Journal of Tea Science,2017年,Vol.37,No.5,pp.465-475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つを満たすような濃度で含有させた、長期保存用の容器詰紅茶飲料。
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppbであり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppbであり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが50~750ppbである;
【請求項2】
さらに、以下の(I)~(III)のいずれか1つ、2つ又は3つを満たす請求項1に記載の容器詰紅茶飲料。
(I)(E)-2-ヘプテナール及び(E,E)-2,4-へプタジエナールを含有し、
かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対する(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度の比率が0.011~15である;
(II)(E)-2-ヘプテナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.11~150である;
(III)(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.67~150である;
【請求項3】
飲料のpHが3.0~7.0である請求項1又は2に記載の容器詰紅茶飲料。
【請求項4】
加温販売用である請求項1~3のいずれかに記載の容器詰紅茶飲料。
【請求項5】
100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料の製造において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つを満たすような濃度で含有させる工程を有することを特徴とする、長期保存用の容器詰紅茶飲料の製造方法。
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppbであり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppbであり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが50~750ppbである;
【請求項6】
容器詰紅茶飲料が、さらに、以下の(I)~(III)のいずれか1つ、2つ又は3つを満たす請求項に記載の容器詰紅茶飲料の製造方法。
(I)(E)-2-ヘプテナール及び(E,E)-2,4-へプタジエナールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対する(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度の比率が0.011~15である;
(II)(E)-2-ヘプテナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.11~150である;
(III)(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.67~150である;
【請求項7】
100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料の製造において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つを満たすような濃度で含有させる工程を有することを特徴とする容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制方法。
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppbであり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppbであり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが50~750ppbである;
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌処理等によるムレ臭が抑制された容器詰紅茶飲料、及びその製造方法、並びに、容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制方法等に関する。より詳しくは、容器詰紅茶飲料の加熱殺菌等により発生するムレ臭の発生が抑制された容器詰紅茶飲料、及びその製造方法、並びに、容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
茶飲料は、独特な香気と、苦味、渋味が醸し出す爽やかな風味から、古くから嗜好飲料、健康飲料として親しまれてきた代表的な飲料である。茶飲料には、緑茶、半発酵茶(烏龍茶)、発酵茶(紅茶)等、各種の茶から調製されたものがあり、近年は、缶詰、ペットボトル詰、又は紙パック等の容器詰飲料として、流通に供されている。紅茶飲料は、紅茶の独特な香気と、苦味、渋味をもつ味覚から、嗜好の面から或いは健康志向の面から、茶飲料の中でも特に愛用されている飲料の一つであり、各種香味バリエーションに調製された紅茶飲料が、缶やペットボトルなどに充填された容器詰紅茶飲料として提供されている。紅茶飲料の中には、紅茶葉の抽出された味覚を果汁やミルクを加えずに味わう、ストレートタイプのものも、提供されている。
【0003】
一般的に、茶飲料は、茶葉を熱水、温水、或いは常温水で抽出後、茶葉残渣を除去した抽出液を所望とする濃度に調整し製造されている。容器詰紅茶飲料の製造においては、容器詰紅茶飲料の保存性を高めるために加熱殺菌処理を行うことが必要とされている。しかし、このような加熱殺菌処理等により、紅茶抽出液中のフレッシュなグリーン香が低下し、ムレた茶葉の臭い(ムレ臭)、スパイシーな臭い(スパイシー臭)、スモーキーな臭い(スモーキー臭)などのオフフレーバーが増加する。これらのオフフレーバーには、加熱殺菌処理により増加するケトン類、チオール類、フェノール類などの香気成分が関連していると考えられている。
【0004】
緑茶飲料において、殺菌及び経時的に生じるオフフレーバー(ムレ臭や雑味)をマスキングする方法として、特許文献1には、Brix10~50°に濃縮した緑茶抽出液に対して、0.5~3倍容量のエタノールを添加し、不溶物を除去してなる茶飲料用添加剤を、緑茶飲料に、緑茶エキス固形分として0.0002~0.004質量%添加する方法が開示されている。しかし、この方法は、紅茶飲料におけるムレ臭を効果的に抑制する方法ではない。
【0005】
ところで、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールは脂肪酸分解物である。ヘプテナールやヘプタジエナールは油脂の劣化により生じる揮発性有機化合物であり、不快臭の原因となることが知られている(特許文献2及び3)。また、オクタノールは油臭を有することが知られている。
【0006】
しかし、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、特定の濃度範囲で容器詰紅茶飲料に含有させると、容器詰紅茶飲料の加熱殺菌等により生じるムレ臭を抑制し得ることは、これまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4464099号公報
【文献】特開2014-002082号公報
【文献】特表2019-518773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、加熱殺菌処理等によるムレ臭が抑制された容器詰紅茶飲料、及びその製造方法、並びに、容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の背景技術で述べたように、容器詰紅茶飲料には、加熱殺菌処理等により、紅茶抽出液中のフレッシュなグリーン香が低下し、ムレた茶葉の臭い(ムレ臭)、スパイシーな臭い(スパイシー臭)、スモーキーな臭い(スモーキー臭)などのオフフレーバーが増加するという問題がある。出願人は、これらのオフフレーバーをある程度低下させるために、容器詰紅茶飲料の製造において、以下の(p)~(r)の方法を検討してきた。
(p)使用する紅茶葉の発酵度が高いほど、より強いムレ臭が発生するので、発酵度の低い紅茶葉を使用する;
(q)紅茶葉の抽出温度が高いほど、より強いムレ臭が発生するので、紅茶葉をやや低めの温度(約65~80℃)で抽出する;
(r)ムレ臭をより強くマスキングするために紅茶飲料への香料の添加率を増加する;
【0010】
しかし、上記(p)の方法には、発酵度の低い紅茶葉を使用すると、紅茶飲料の渋みが強くなり、また、紅茶飲料の色も十分な濃さが得られず淡いオレンジ色となってしまうという問題や、発酵度の低い紅茶葉は市場への供給量が少なく、比較的多くの量を安定的に確保することが難しいという問題や、発酵度の低い紅茶葉は高価格で容器詰紅茶飲料の製造コストが増加してしまうという問題があった。また、上記(q)の方法には、紅茶葉の抽出温度がやや低いと、紅茶葉の抽出効率が低下し、より多くの紅茶葉が必要となって、容器詰紅茶飲料の製造コストが増加してしまうという問題があった。また、上記(r)の方法には、香料の添加率を増加すると、容器詰紅茶飲料の香りが人工的な香りとなってしまうという問題や、香料の使用量が増加すると、容器詰紅茶飲料の製造コストが増加してしまうという問題があった。
【0011】
このように、容器詰紅茶飲料のムレ臭への対策方法はいずれも十分ではなかった。本発明者らは、上記課題を解決すべく、様々な方法を鋭意検討する中で、
100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料において、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の脂肪酸分解物を、特定の濃度で含有させることで、加熱殺菌処理などにより発生するムレ臭を抑制でき、かつ、紅茶飲料としての香味を保持できるという知見を見いだし、本発明を完成するに至った。前述の脂肪酸分解物は、オフフレーバーの原因ともなる物質であり、そのような物質によって、ムレ臭を抑制できるという知見は、当業者にとって意外であった。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つを満たすような濃度で含有させた容器詰紅茶飲料;
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppbであり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppbであり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが50~750ppbである;
(2)さらに、以下の(I)~(III)のいずれか1つ、2つ又は3つを満たす上記(1)に記載の容器詰紅茶飲料;
(I)(E)-2-ヘプテナール及び(E,E)-2,4-へプタジエナールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対する(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度の比率が0.011~15である;
(II)(E)-2-ヘプテナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.11~150である;
(III)(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.67~150である;
(3)飲料のpHが3.0~7.0である上記(1)又は(2)に記載の容器詰紅茶飲料;
(4)加温販売用である上記(1)~(3)のいずれかに記載の容器詰紅茶飲料;
(5)長期保存用である上記(1)~(4)のいずれかに記載の容器詰紅茶飲料;
(6)100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料の製造において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つを満たすような濃度で含有させる工程を有することを特徴とする容器詰紅茶飲料の製造方法;
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppbであり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppbであり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが50~750ppbである;
(7)容器詰紅茶飲料が、さらに、以下の(I)~(III)のいずれか1つ、2つ又は3つを満たす上記(6)に記載の容器詰紅茶飲料の製造方法;
(I)(E)-2-ヘプテナール及び(E,E)-2,4-へプタジエナールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対する(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度の比率が0.011~15である;
(II)(E)-2-ヘプテナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.11~150である;
(III)(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.67~150である;
(8)100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料の製造において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つを満たすような濃度で含有させる工程を有することを特徴とする容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制方法;
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppbであり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppbであり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが50~750ppbである;などに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加熱殺菌処理等によるムレ臭が抑制された容器詰紅茶飲料、及びその製造方法、並びに、容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、
[1]100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質(以下、「特定の物質」とも表示する。)を、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つ(又は2つ又は3つ)を満たすような濃度(以下、「特定の濃度」とも表示する。)で含有させた容器詰紅茶飲料(以下、「本発明の容器詰紅茶飲料」とも表示する。);
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppbであり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppbであり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが50~750ppbである;や、
[2]100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料の製造において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、前述の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つ(又は2つ又は3つ)を満たすような濃度で含有させる工程を有することを特徴とする容器詰紅茶飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。);や、
[3]100~1000ppmの茶ポリフェノールを含有する容器詰紅茶飲料の製造において、
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質を、前述の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つ(又は2つ又は3つ)を満たすような濃度で含有させる工程を有することを特徴とする容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制方法(以下、「本発明の抑制方法」とも表示する。);
などの実施態様を含んでいる。
【0015】
本発明の容器詰紅茶飲料は、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質(特定の物質)を、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つ(又は2つ又は3つ)を満たすような濃度で含有させたこと以外は、用いる紅茶原料、その他の任意成分、及び容器詰紅茶飲料の製造方法並びに製造条件において、通常の容器詰紅茶飲料と特に相違する点はない。
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppbであり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppbであり、かつ、オクタノールが750ppb以下である;
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下であり、(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下であり、かつ、オクタノールが50~750ppbである;
【0016】
(特定の物質)
本発明における特定の物質とは、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質である。(E)-2-ヘプテナール((E)-2-Heptenal)は、trans-2-ヘプテナールとも呼ばれ、(E,E)-2,4-へプタジエナールは、trans, trans-2, 4-へプタジエナールとも呼ばれ、オクタノール(Octanol)は、1-オクタノール、n-オクタノールとも呼ばれる。
本発明における特定の物質は市販品を用いることができる。
【0017】
本発明の容器詰紅茶飲料中の特定の物質の濃度としては、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールから選択される1種又は2種以上の物質が、以下の(i)~(iii)の少なくともいずれか1つ(又は2つ又は3つ)を満たすような濃度が挙げられる。なお、以下の(i)は、少なくとも(E)-2-ヘプテナールを含む場合の、特定の物質の濃度範囲の組合せであり、以下の(ii)は、少なくとも(E,E)-2,4-へプタジエナールを含む場合の、特定の物質の濃度範囲の組合せであり、以下の(iii)は、少なくともオクタノールを含む場合の、特定の物質の濃度範囲の組合せである。
【0018】
(i)(E)-2-ヘプテナールが5~450ppb(好ましくは5~300ppb、より好ましくは25~300ppb、さらに好ましくは25~200ppb、より好ましくは50~200ppb)であり、
(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下(好ましくは5~75ppb、50ppb以下、5~50ppb、10~50ppb、25~50ppb、35ppb以下、10~35ppb、25ppb以下、5~25ppb、10~25ppb、10ppb以下、5~10ppb、5ppb以下、1~5ppb、1ppb未満、又は、0ppb)であり、かつ、
オクタノールが750ppb以下(好ましくは50~750ppb、500ppb以下、50~500ppb、75~500ppb、100~500ppb、300ppb以下、50~300ppb、75~300ppb、100~300ppb、200ppb以下、50~200ppb、75~200ppb、100~200ppb、100ppb以下、50~100ppb、75~100ppb、75ppb以下、50~75ppb、50ppb以下、10~50ppb、10ppb未満、又は、0ppb)である;
【0019】
(ii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下(好ましくは5~450ppb、300ppb以下、5~300ppb、25~300ppb、100~300ppb、200ppb以下、25~200ppb、50~200ppb、100~200ppb、100ppb以下、5~100ppb、25~100ppb、50~100ppb、25ppb以下、1~25ppb、5~25ppb、5ppb以下、1~5ppb、1ppb未満、又は、0ppb)であり、
(E,E)-2,4-へプタジエナールが5~75ppb(好ましくは5~50ppb、より好ましくは10~50ppb、さらに好ましくは10~35ppbや25~50ppb)であり、かつ、
オクタノールが750ppb以下(好ましくは50~750ppb、500ppb以下、50~500ppb、75~500ppb、100~500ppb、300ppb以下、50~300ppb、75~300ppb、100~300ppb、200ppb以下、50~200ppb、75~200ppb、100~200ppb、100ppb以下、50~100ppb、75~100ppb、75ppb以下、50~75ppb、50ppb以下、10~50ppb、10ppb未満、又は、0ppb)である;
【0020】
(iii)(E)-2-ヘプテナールが450ppb以下(好ましくは50~750ppb、500ppb以下、50~500ppb、75~500ppb、100~500ppb、300ppb以下、50~300ppb、75~300ppb、100~300ppb、200ppb以下、50~200ppb、75~200ppb、100~200ppb、100ppb以下、50~100ppb、75~100ppb、75ppb以下、50~75ppb、50ppb以下、10~50ppb、10ppb未満、又は、0ppb)であり、
(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppb以下(好ましくは5~75ppb、50ppb以下、5~50ppb、10~50ppb、25~50ppb、35ppb以下、10~35ppb、25ppb以下、5~25ppb、10~25ppb、10ppb以下、5~10ppb、5ppb以下、1~5ppb、1ppb未満、又は、0ppb)であり、かつ、オクタノールが50~750ppb(好ましくは50~500ppb、より好ましくは50~300ppb、さらに好ましくは50~200ppbや50~100ppbや75~200ppbや75~100ppb)である;
【0021】
本発明の容器詰紅茶飲料中の特定の物質の濃度は、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS法)により測定することができる。かかるGC-MS法の測定条件として、Yang et. al., Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol.37, No.12, 946~952 (1990)の947頁左下の「4.機器及び分析条件」に記載の条件を挙げることができる。
【0022】
本発明の容器詰紅茶飲料中に2種類又は3種類の特定の物質が含まれている場合には、それら2種類又は3種類の特定の物質が、(i)~(iii)の少なくともいずれか2つ又は3つを満たすような濃度であることに加えて、2種類の特定の物質の濃度の比率が以下の(I)~(III)のいずれか1つ、2つ又は3つを満たしていることが、ムレ臭をより十分に抑制する観点や、長期保存した際のスパイシー臭及びスモーキー臭をより十分に抑制する観点から好ましい。なお、以下の(I)は本発明の容器詰紅茶飲料が(E)-2-ヘプテナール及び(E,E)-2,4-へプタジエナールを含有している場合の濃度比率であり、以下の(II)は、(E)-2-ヘプテナール及びオクタノールを含有している場合の濃度の比率であり、以下の(III)は、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールを含有している場合の濃度の比率である。
(I)(E)-2-ヘプテナール及び(E,E)-2,4-へプタジエナールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対する(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度の比率が好ましくは0.011~15、より好ましくは0.017~10、さらに好ましくは0.05~2、より好ましくは0.05~0.5である;
(II)(E)-2-ヘプテナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が好ましくは0.11~150、より好ましくは0.17~100、さらに好ましくは0.25~20、より好ましくは0.5~10、0.5~5である;
(III)(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールを含有し、かつ、容器詰紅茶飲料中の(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度に対するオクタノール濃度の比率が0.67~150、より好ましくは1~100、さらに好ましくは2~50、より好ましくは2~20である;
【0023】
容器詰紅茶飲料における「特定の物質の濃度」や「2種類の特定の物質の濃度の比率」の調整は、容器詰紅茶飲料に特定の物質を含有させる(又は添加する)量を調整することにより行うことができる。
なお、容器詰紅茶飲料に特定の物質を特定の濃度で含有させることには、容器詰紅茶飲料中の特定の物質の濃度が特定の濃度となるように、容器詰紅茶飲料の製造工程のいずれかで特定の物質を紅茶飲料に含有させる(好ましくは添加する)方法が含まれ、その方法には、特定の物質の添加量を容器詰紅茶飲料の液体容量に換算した場合に特定の濃度となるような方法も含まれる。
【0024】
(茶ポリフェノール濃度)
本発明における茶ポリフェノール濃度とは、本発明の容器詰紅茶飲料中の総ポリフェノール濃度を酒石酸鉄吸光光度法(好ましくは、日本食品分析センター編、「五訂 日本食品標準成分分析マニュアルの解説」、中央法規、2001年7月、p.252に記載の公定法(酒石酸鉄法))にて測定した値を意味する。
【0025】
本発明の容器詰紅茶飲料中の茶ポリフェノール濃度としては、100~1000ppmが挙げられ、ムレ臭を抑制する意義がより高い点で、茶ポリフェノール濃度はある程度以上であることが好ましく、また、ムレ臭をより十分に抑制する観点から、ある程度以下であることが好ましい。具体的には、本発明の容器詰紅茶飲料中の好ましい茶ポリフェノール濃度としては、好ましくは100~800ppm、より好ましくは150~700ppm、さらに好ましくは200~600ppmが挙げられる。
【0026】
(紅茶飲料)
なお、紅茶飲料とは、農水省の紅茶飲料の品質表示ガイドラインにより:『茶樹の芽葉を自家酵素発酵させたもの(これに香料を加えたものを含む。)から抽出若しくは浸出したもの(これらの濃縮又は粉末化したものを希釈したもの含む。)又はこれらに糖類、乳製品、果汁、香料等を加えたものを容器に密封した飲料であって直接飲料に供するもの』と定義されている。
【0027】
本発明の容器詰紅茶飲料に用いられる紅茶抽出原料としては、特に制限されず、紅茶葉からの抽出液やその加工品類(濃縮液体エキス、粉末エキスなど)など、従来、紅茶飲料の製造に用いられている紅茶抽出原料を用いることができる。また、香味設計に合せて自由に選択することができる。紅茶抽出液・紅茶エキスなどの原料となる紅茶葉の種類、抽出条件の調整、複数茶葉の併用などは、特に限定されず、香味設計に合せて自由に選択することができる。なお、ムレ臭が生じ易いため、本発明の意義がより高くなる点で、用いる紅茶葉の発酵度が比較的高いものを用いる方法や、紅茶葉の抽出を80℃超で行う方法が好ましく挙げられる。本発明の容器詰紅茶飲料における紅茶抽出原料の含量としては、特に制限されないが、紅茶飲料中の総ポリフェノール濃度が前述の範囲となるような含量が好ましく挙げられる。
【0028】
茶は、緑茶、半発酵茶(ウーロン茶)、発酵茶(紅茶)と、発酵度が高くなるにしたがって、単量体のカテキンの重合が進み、テアフラビン等、重合カテキンの形成が進む。本発明の容器詰紅茶飲料においては、紅茶飲料の非ガレート型カテキン/ガレート型カテキンの比が、1.1以下であるとして特徴づけることができる。より好ましくは、非ガレート型カテキン/ガレート型カテキンの比が、1以下、さらに好ましくは、非ガレート型カテキン/ガレート型カテキンの比が、0.9以下であるとして特徴づけることができる。
【0029】
また、本発明の容器詰紅茶飲料においては、紅茶飲料の非エピ体カテキン/エピ体カテキンの比が1.5以下であるとして特徴づけることができる。より好ましくは、非エピ体カテキン/エピ体カテキンの比が、1.2以下、さらに好ましくは、非エピ体カテキン/エピ体カテキンの比が、1以下であるとして特徴づけることができる。
【0030】
茶葉には、茶ポリフェノールとしてタンニンが含まれ、茶の渋味の原因物質となっている。タンニンの一種として、カテキンがあり、非重合カテキンとしては、次の主要な8種に分けられる:(1)カテキン(C);(2)エピカテキン(EC);(3)カテキンガレート(Cg);(4)エピカテキンガレート(ECg);(5)ガロカテキン(GC);(6)ガロカテキンガレート(GCCg);(7)エピガロカテキン(EGC);(8)エピガロカテキンガレート(EGCg)。該非重合カテキンにおいて、後に「ガレート」が付くものを、「ガレート型」と呼び、頭に「エピ」が付くものを、「エピ体」と呼ぶ。
【0031】
(任意成分)
本発明の容器詰紅茶飲料は、本発明の効果を損なわない範囲で、容器詰紅茶飲料に通常用いられている任意成分(例えば甘味料、乳成分、酸化防止剤、栄養物質、香料など)が添加されていてもよいが、ムレ臭がより強く感じられて本発明の意義がより高くなる点で、甘味料、乳成分のいずれか一方又は両方を含まないことが好ましい。
【0032】
(pH)
本発明の容器詰紅茶飲料の製造において、紅茶飲料のpHを調整しなくてもよいが、容器詰紅茶飲料の香味をより長期に保持する観点から、pHを例えば3~7、好ましくは4~7、より好ましくは5~7に調整することができる。該pHの調整は、容器詰紅茶飲料の、香味設計に応じて、各種アルカリ塩をpH調整剤として添加することにより行うことができる。pH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、その他ナトリウム塩を含むアルカリ剤などの群から選ばれる1種又は2種以上のアルカリ剤を用いることが好ましく、炭酸水素ナトリウムなどのナトリウム塩を用いることがさらに好ましい。
【0033】
(容器)
本発明の容器詰紅茶飲料における容器としては、ペットボトル、ポリプロピレンボトル、ポリ塩化ビニルボトル等の樹脂ボトル容器;ビン容器;缶容器;等の容器が挙げられる。
【0034】
(殺菌)
該容器詰紅茶飲料の製造工程における殺菌は、金属缶のように充填後に加熱殺菌できる場合にあっては、食品衛生法に定められた殺菌条件等で殺菌処理を行うことができる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、充填前に該飲料を、あらかじめ上記と同等の殺菌条件で、例えばプレート式熱交換器等を用いて高温短時間殺菌(UHT殺菌)した後、一定の温度まで冷却し、殺菌済み容器に充填する等の方法を採用することができる。
【0035】
(販売温度)
本発明の容器詰紅茶飲料の小売店又は自動販売機での販売温度は、特に制限されないが、スパイシー臭及びスモーキー臭がより多く生じ易く、本発明の意義がより高くなる点から、本発明の容器詰紅茶飲料は加温販売用の容器詰紅茶飲料であることが好ましい。かかる加温販売としては、容器詰紅茶飲料を50~70℃に加温して販売することが挙げられる。
【0036】
(長期保存)
本発明の容器詰紅茶飲料は、長期保存用でなくてもよいが、本発明の意義がより高くなる点から、長期保存用であることが好ましい。長期保存用の容器詰紅茶飲料とは、賞味期限が180日間以上である容器詰紅茶飲料を意味し、賞味期限の上限が450~540日間の範囲内である容器詰紅茶飲料を好ましく挙げることができる。
【0037】
(ムレ臭の抑制)
本発明において、「ムレ臭」とは茶葉が蒸れたような香りであれば特に限定されないが、例えば、ふかし芋のような香り、ゆで栗のような香り、マッシュルームのような香り、又はこれらの香りのうち2種又は3種の香りが混合した香り等を意味する。本発明において、「ムレ臭が抑制された」容器詰紅茶飲料とは、本発明の3種類の特定の物質のいずれも含有させない(又は添加しない)こととすること以外は、同種の原料を同じ最終濃度となるように用いて同じ製法で製造した容器詰紅茶飲料(以下、「コントロール飲料」とも表示する。)と比較して、ムレ臭が抑制された(低下した)容器詰紅茶飲料を意味する。
【0038】
ある容器詰紅茶飲料におけるムレ臭が、コントロール飲料と比較してどのようであるか(例えば、抑制されているかどうか)、あるいはムレ臭の抑制の程度は、訓練されたパネラーであれば、容易かつ明確に決定することができる。評価の基準や、パネラー間の評価のまとめ方は、一般的な方法を用いることができる。容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度を評価するパネラーの人数は1名であってもよいが、客観性がより高い評価を得る観点から、パネラーの人数の下限を、例えば2名以上、好ましくは3名以上とすることができ、また、評価試験をより簡便に実施する観点から、パネラーの人数の上限を、例えば20名以下、10名以下とすることができる。パネラーが2名以上の場合の容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度の評価は、その容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度についてのパネラー全員の評価の平均を採用してもよい。各評価基準に整数の評価点が付与されている場合、パネラー全員の評価点の平均値をその容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度の評価として採用してもよい。前述のように、評価点の平均値を採用する場合は、その平均値の小数第1位又は第2位(好ましくは小数第2位)を四捨五入した値を採用してもよい。なお、パネラーが2名以上である場合には、各パネラーの評価のばらつきを低減するために、実際の官能評価試験を行う前に、各パネラーの評価基準ができるだけ揃うように評価基準を共通化する作業を行っておくことが好ましい。かかる共通化作業としては、ムレ臭の抑制の程度が既知の複数種の容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度を各パネラーで評価した後、その評価点を比較し、各パネラーの評価基準に大きな乖離が生じないように確認することが挙げられる。また、このような評価基準に関する事前の共通化作業により、評価点が1、2、3、4、5である場合の、各パネラーによるムレ臭の抑制の程度の評価の標準偏差が0.5以内となるようにしておくことが好ましい。
【0039】
ある容器詰紅茶飲料におけるムレ臭が、コントロール飲料と比較してどのようであるか(例えば、抑制されているかどうか)、あるいはムレ臭の抑制の程度は、例えば、後述の実施例の試験2に記載の評価基準(表3)等を用いた方法と同様の方法、好ましくは、後述の実施例の試験2に記載の評価基準(表3)等を用いた方法と同じ方法を好適に用いることができる。より具体的には、コントロール飲料におけるムレ臭の程度と比較して、わずかにでもムレ臭を抑制している容器詰紅茶飲料(例えば表3の評価基準によるパネラーの評価点の平均点が1.5点以上(好ましくは2点以上)である容器詰紅茶飲料)は、ムレ臭が抑制された容器詰紅茶飲料に含まれる。
【0040】
(スパイシー臭及びスモーキー臭の抑制)
本発明において、スパイシー臭としては特に限定されないが、例えば、クローブのような香り、ナツメグのような香り、又はこれらの香りが混合した香り等を意味する。スモーキー臭としては特に限定されないが、例えば、燻製のような香り、焦げた香り、又はこれらの香りが混合した香り等を意味する。また、「スパイシー臭及びスモーキー臭が抑制された」容器詰紅茶飲料とは、ある容器詰紅茶飲料と、そのコントロール飲料を、例えば50~70℃条件下で3週間以上(好ましくは3~6週間)保管した場合に、コントロール飲料と比較してスパイシー臭及びスモーキー臭が抑制された(低下した)容器詰紅茶飲料を意味する。
【0041】
ある容器詰紅茶飲料におけるスパイシー臭及びスモーキー臭が、コントロール飲料と比較してどのようであるか(例えば、抑制されているかどうか)あるいはその抑制の程度は、訓練されたパネラーであれば、容易かつ明確に決定することができる。評価の基準や、パネラー間の評価のまとめ方は、一般的な方法を用いることができる。容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度を評価するパネラーの人数は1名であってもよいが、客観性がより高い評価を得る観点から、パネラーの人数の下限を、例えば2名以上、好ましくは3名以上とすることができ、また、評価試験をより簡便に実施する観点から、パネラーの人数の上限を、例えば20名以下、10名以下とすることができる。パネラーが2名以上の場合の容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度の評価は、その容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度についてのパネラー全員の評価の平均を採用してもよい。各評価基準に整数の評価点が付与されている場合、パネラー全員の評価点の平均値をその容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度の評価として採用してもよい。前述のように、評価点の平均値を採用する場合は、その平均値の小数第1位又は第2位(好ましくは小数第2位)を四捨五入した値を採用してもよい。なお、パネラーが2名以上である場合には、各パネラーの評価のばらつきを低減するために、実際の官能評価試験を行う前に、各パネラーの評価基準ができるだけ揃うように評価基準を共通化する作業を行っておくことが好ましい。かかる共通化作業としては、スパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度が既知の複数種の容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度を各パネラーで評価した後、その評価点を比較し、各パネラーの評価基準に大きな乖離が生じないように確認することが挙げられる。また、このような評価基準に関する事前の共通化作業により、評価点が1、2、3、4、5である場合の、各パネラーによるスパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度の評価の標準偏差が0.5以内となるようにしておくことが好ましい。
【0042】
ある容器詰紅茶飲料におけるスパイシー臭及びスモーキー臭が、コントロール飲料と比較してどのようであるか(例えば、抑制されているかどうか)、あるいはその抑制の程度は、例えば、後述の実施例の試験4に記載の評価基準(表10)等を用いた方法と同様の方法、好ましくは、後述の実施例の試験4に記載の評価基準(表10)等を用いた方法と同じ方法を好適に用いることができる。より具体的には、コントロール飲料におけるスパイシー臭及びスモーキー臭の程度と比較して、わずかにでもスパイシー臭及びスモーキー臭を抑制している容器詰紅茶飲料(例えば表10の評価基準によるパネラーの評価点の平均点が1.5点以上(好ましくは2点以上)である容器詰紅茶飲料)は、スパイシー臭及びスモーキー臭が抑制された容器詰紅茶飲料に含まれる。
【0043】
以下に、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0044】
[試験1]様々な脂肪酸分解物を容器詰紅茶飲料に含有させることによる、容器詰紅茶飲料の香味への影響
脂肪酸分解物は、前述のとおり、オフフレーバーの原因物質とされている。しかし、本発明者は、このような脂肪酸分解物であっても、その種類や濃度によっては、容器詰紅茶飲料の香味に好適な影響を与えるものがあるかもしれないと考え、予備的な実験として、以下の10種類の脂肪酸分解物が容器詰紅茶飲料の香味に与える影響を検討した。
【0045】
(1.紅茶抽出物の調製)
ケニア・インドネシアブレンド紅茶葉100gを、90℃のイオン交換水3000gに入れ、6分間抽出した。得られた茶葉入りの抽出液は、固液分離(濾過)処理し、その後室温で遠心分離処理して、上清を、紅茶抽出液(紅茶抽出物)として得た。
【0046】
(2.容器詰紅茶飲料の調製)
上記の(1.紅茶抽出物の調製)の方法で紅茶葉から抽出した紅茶抽出物に、適量のL-アスコルビン酸と炭酸水素ナトリウムを添加して混合液を調製した。この混合液に、後述の表2に記載の10種類の脂肪酸分解物をそれぞれ50ppbずつ含有させ、10種類の紅茶飲料を調製した。各紅茶飲料をUHT法にて殺菌した(120℃4分間同等以上)後、PETボトルに充填を行い、試験例1~10の容器詰紅茶飲料を得た。
【0047】
(3.官能評価試験)
得られた試験例1~10の各容器詰紅茶飲料について、8名の専門パネルにより、オフフレーバーが許容範囲かについて以下の表1の評価基準で官能評価試験を行った。また、オフフレーバーが許容範囲を超えている場合は、専門パネルにより、そのオフフレーバーの香味について自由記述での官能評価を行った。なお、「オフフレーバー」は紅茶本来の持つ華やかな香りから変質した香りを目安に評価した。
【0048】
【表1】
【0049】
試験例1~10の容器詰紅茶飲料についての官能評価試験の結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2の結果から、10種類の脂肪酸分解物のうち、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールの3種類は、50ppbの濃度ではオフフレーバーが許容範囲内であることが示された。そこで、これら3種類の脂肪酸分解物(以下、単に「物質」とも表示する。)については、以下の試験2にて、より詳細な検討を行うこととした。
【0052】
[試験2]3種の物質を容器詰紅茶飲料に含有させることによる、容器詰紅茶飲料のムレ臭等への影響
容器詰紅茶飲料を加熱殺菌すると、グリーン香が低下し、ムレた茶葉のようなオフフレーバー(いわゆる「ムレ臭」)や、スパイシーなオフフレーバーが増加することが知られている。そこで、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールの3種類の物質のいずれか1種類を容器詰紅茶飲料に含有させると、容器詰紅茶飲料の加熱殺菌により生じるムレ臭等にどのような影響が生じるかを以下の方法により検討した。
【0053】
(1.紅茶抽出物の調製)
ケニア・インドネシアブレンド紅茶葉100gを、90℃のイオン交換水3000gに入れ、6分間抽出した。得られた茶葉入りの抽出液は、固液分離(濾過)処理し、その後室温で遠心分離処理して、上清を、紅茶抽出液(紅茶抽出物)として得た。この紅茶抽出液の茶ポリフェノール濃度を、酒石酸鉄吸光光度法を用いて測定したところ、400ppmであった。
【0054】
(2.容器詰紅茶飲料の調製)
上記の(1.紅茶抽出物の調製)の方法で紅茶葉から抽出した紅茶抽出物に、適量のL-アスコルビン酸と炭酸水素ナトリウムを添加して混合液を調製した。この混合液に、3種類の物質のうちいずれか1種類を、後述の表6に記載の濃度となるようにそれぞれ含有させ、各紅茶飲料を調製した。各紅茶飲料をUHT法にて殺菌した(120℃4分間同等以上)後、PETボトルに充填を行い、各容器詰紅茶飲料(実施例1~10、比較例2~7の容器詰紅茶飲料)を得た。また、上記3種の物質のいずれも含有させずに調製して、比較例1の容器詰紅茶飲料を得た。
【0055】
(3.官能評価試験)
得られた実施例1~10及び比較例1~7の各容器詰紅茶飲料について、8名の専門パネルにより、容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度及び、ムレ臭以外のオフフレーバーの低さの程度について官能評価試験を行った。ムレ臭の抑制の程度は、3種のいずれの物質も含有させていない比較例1の容器詰紅茶飲料のムレ臭を基準として、物質を含有させた実施例の容器詰紅茶飲料のムレ臭が抑制されている程度を以下の表3の基準により評価した。また、ムレ臭以外のオフフレーバーの低さの程度は、以下の表4の基準により評価した。なお、ムレ臭以外のオフフレーバーとして、添加した脂肪酸分解物(上記3種の物質のいずれか1種又は2種の物質)由来のオフフレーバーを評価した。また、各パネルの評価のばらつきを低減するために、ムレ臭の抑制の程度が既知の複数種の容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度を各パネルで評価した後、その評価点を比較し、各パネルの評価基準に大きな乖離が生じないように確認し、また、各パネルの評価点の標準偏差が0.5以内であることも確認した。これと同様の確認作業を、ムレ臭以外のオフフレーバーの低さの程度についても8名のパネルで行った。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
ムレ臭の抑制の程度、ムレ臭以外のオフフレーバーの低さの程度のいずれにおいても、各容器詰紅茶飲料について8名の専門パネルの評価点の平均点を算出し、その平均点をその容器詰紅茶飲料の評価とした。
【0059】
また、各容器詰紅茶飲料について、以下の表5の基準で総合評価(〇又は×)を行った。
【0060】
【表5】
【0061】
実施例1~10及び比較例1~7の各容器詰紅茶飲料の評価結果を以下の表6に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
表6の結果から、3種類のうちいずれの物質((E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール、オクタノール)も、所定の濃度で容器詰紅茶飲料に含有させると、ムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制できることが示された。容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制する観点から、(E)-2-ヘプテナールの濃度として、5~450ppb、好ましくは5~300ppb、より好ましくは25~300ppb、さらに好ましくは25~200ppb、より好ましくは50~200ppbなどが好ましく挙げられ、(E,E)-2,4-へプタジエナールの濃度として、5~75ppb、好ましくは5~50ppb、より好ましくは10~50ppb、さらに好ましくは10~35ppbや25~50ppbなどが好ましく挙げられ、オクタノールの濃度として、50~750ppb、好ましくは50~500ppb、より好ましくは50~300ppb、さらに好ましくは50~200ppbや50~100ppbや75~200ppbや75~100ppbなどが好ましく挙げられる。
【0064】
[試験3]2種の物質を併用することによる、容器詰紅茶飲料のムレ臭等への影響
(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール及びオクタノールの3種類の物質のうち、2種類を容器詰紅茶飲料に含有させると、容器詰紅茶飲料の加熱殺菌により生じるムレ臭等にどのような影響が生じるかを、上記試験2と同様の方法により検討した。
【0065】
具体的には、3種類の物質のうち、2種類を併用したこと以外は、上記試験2と同じ方法で、実施例11~16の容器詰紅茶飲料を調製し(物質の種類や濃度は表7参照)、これらの容器詰紅茶飲料について上記試験2と同じ方法で官能評価試験を行った。その結果を以下の表7に示す。
【0066】
【表7】
【0067】
なお、表7における「B/A C/A」は、(E)-2-へプテナールの濃度を「A」、(E,E)-2,4-へプタジエナールの濃度を「B」、オクタノールの濃度を「C」と表したときの、B/A(Aに対するBの割合)、又は、C/A(Aに対するCの割合)を表す。
【0068】
表7の結果から分かるように、物質として、(E)-2-ヘプテナールと(E,E)-2,4-へプタジエナールを併用した場合や、(E)-2-ヘプテナールとオクタノールを併用した場合であっても、容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制できることが示された。なお、(E,E)-2,4-へプタジエナール、オクタノールはそれぞれ単独で効果があったことから(表6)、(E)-2-ヘプテナールと(E,E)-2,4-へプタジエナールを併用した場合(表7)や、(E)-2-ヘプテナールとオクタノールを併用した場合(表7)と同様に、(E,E)-2,4-へプタジエナールとオクタノールを併用した場合も、容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制できる蓋然性が高いと考えられる。
【0069】
表7の結果から、容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制する観点から、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対する(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度の比率(すなわち「B/A」)として、好ましくは0.05~0.5、より好ましくは0.05~0.35、さらに好ましくは0.05~0.25などが好ましく挙げられる。
ただし、3種の物質をそれぞれ単独で用いた場合の結果である表6から得られた知見(「(E)-2-ヘプテナールの濃度として、5~450ppb、好ましくは5~300ppb、より好ましくは25~300ppb、さらに好ましくは25~200ppb、より好ましくは50~200ppb」、「(E,E)-2,4-へプタジエナールの濃度として、5~75ppb、好ましくは5~50ppb、より好ましくは10~50ppb、さらに好ましくは10~35ppbや25~50ppb」)と表7の結果を併せ考慮すると、
(E)-2-ヘプテナールが450ppbで(E,E)-2,4-へプタジエナールが5ppbである場合(「B/A」≒0.011)や、
(E)-2-ヘプテナールが300ppbで(E,E)-2,4-へプタジエナールが5ppbである場合(「B/A」≒0.017)や、
(E)-2-ヘプテナールが5ppbで(E,E)-2,4-へプタジエナールが50ppbである場合(「B/A」≒10)や、
(E)-2-ヘプテナールが5ppbで(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppbである場合(「B/A」≒15)も容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制できる蓋然性が高いと考えられる。したがって、表6及び表7の結果から、容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制する観点から、「B/A」として、0.011~15、0.011~10、0.017~15、0.017~10、0.05~2、0.05~0.5なども挙げられる。
【0070】
表7の結果から、容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制する観点から、容器詰紅茶飲料中の(E)-2-ヘプテナール濃度に対するオクタノール濃度の比率(すなわち「C/A」)として、好ましくは0.5~5、より好ましくは0.5~3.5、さらに好ましくは0.5~2.5などが好ましく挙げられる。
ただし、3種の物質をそれぞれ単独で用いた場合の結果である表6から得られた知見(「(E)-2-ヘプテナールの濃度として、5~450ppb、好ましくは5~300ppb、より好ましくは25~300ppb、さらに好ましくは25~200ppb、より好ましくは50~200ppb」、「オクタノールの濃度として、50~750ppb、好ましくは50~500ppb、より好ましくは50~300ppb、さらに好ましくは50~200ppbや50~100ppbや75~200ppbや75~100ppb」)と表7の結果を併せ考慮すると、
(E)-2-ヘプテナールが450ppbでオクタノールが50ppbである場合(「C/A」≒0.11)や、
(E)-2-ヘプテナールが300ppbでオクタノールが50ppbである場合(「C/A」≒0.17)や、
(E)-2-ヘプテナールが5ppbでオクタノールが500ppbである場合(「C/A」≒100)や、
(E)-2-ヘプテナールが5ppbでオクタノールが750ppbである場合(「C/A」≒150)も容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制できる蓋然性が高いと考えられる。したがって、表6及び表7の結果から、容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制する観点から、「C/A」として、0.11~150、0.11~100、0.17~150、0.17~100、0.25~20、より好ましくは0.5~10、0.5~5なども挙げられる。
【0071】
また、(E,E)-2,4-へプタジエナールとオクタノールを併用した場合の結果は図7には記載されていないが、3種の物質をそれぞれ単独で用いた場合の結果である表6から得られた知見(「(E,E)-2,4-へプタジエナールの濃度として、5~75ppb、好ましくは5~50ppb、より好ましくは10~50ppb、さらに好ましくは10~35ppbや25~50ppb」、「オクタノールの濃度として、50~750ppb、好ましくは50~500ppb、より好ましくは50~300ppb、さらに好ましくは50~200ppbや50~100ppbや75~200ppbや75~100ppb」を考慮すると、
(E,E)-2,4-へプタジエナールが75ppbでオクタノールが50ppbである場合(「C/B」≒0.67)や、
(E,E)-2,4-へプタジエナールが50ppbでオクタノールが50ppbである場合(「C/B」≒1)や、
(E,E)-2,4-へプタジエナールが5ppbでオクタノールが500ppbである場合(「C/B」≒100)や、
(E,E)-2,4-へプタジエナールが5ppbでオクタノールが750ppbである場合(「C/B」≒150)も容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制できる蓋然性が高いと考えられる。
したがって、容器詰紅茶飲料中の(E,E)-2,4-へプタジエナール濃度に対するオクタノールの比率(すなわち「C/B」)として、
したがって、表6などの結果から、容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制する観点から、「C/A」として、0.67~150、0.67~100、1~150、1~100、2~50、2~20なども挙げられる。
【0072】
[試験4]茶ポリフェノール濃度による、容器詰紅茶飲料のムレ臭等への影響
容器詰紅茶飲料中の茶ポリフェノール濃度が、容器詰紅茶飲料の加熱殺菌により生じるムレ臭等にどのような影響が生じるかを、以下の方法により検討した。
【0073】
(1.紅茶抽出物の調製)
茶ポリフェノール濃度が100ppm、200ppm、400ppm、600ppm、800ppmである5種類の紅茶抽出液を以下の方法でそれぞれ調製した。
所定量のケニア・インドネシアブレンド紅茶葉を、90℃の所定量のイオン交換水に入れ、6分間抽出した。茶ポリフェノール濃度が100ppm、200ppm、400ppm、600ppm、800ppmである紅茶抽出液の調製には、紅茶葉とイオン交換水の合計重量に対して、紅茶葉をそれぞれ0.15重量%、0.3重量%、0.6重量%、0.9重量%、1.2重量%用いた。得られた茶葉入りの抽出液は、固液分離(濾過)処理し、その後室温で遠心分離処理して、上清を、紅茶抽出液(紅茶抽出物)として得た。これらの5種類の紅茶抽出液の茶ポリフェノール濃度を、酒石酸鉄吸光光度法を用いて測定し、それぞれ100ppm、200ppm、400ppm、600ppm、800ppmであることを確認した。
【0074】
(2.容器詰紅茶飲料の調製)
上記の(1.紅茶抽出物の調製)の方法で紅茶葉から抽出したそれぞれの紅茶抽出物に、適量のL-アスコルビン酸と炭酸水素ナトリウムを添加して、茶ポリフェノール濃度が所定の各混合液を調製した。これらの混合液に、(E)-2-ヘプテナールとオクタノールを、後述の表9に記載の濃度となるようにそれぞれ含有させ、各紅茶飲料を調製した。各紅茶飲料をUHT法にて殺菌した(120℃4分間同等以上)後、PETボトルに充填を行い、各容器詰紅茶飲料(実施例17~21の容器詰紅茶飲料)を得た。また、上記2種類の物質のいずれも含有させずに調製して、比較例8~12の容器詰紅茶飲料を得た。
【0075】
(3.官能評価試験)
得られた実施例17~21及び比較例8~12の各容器詰紅茶飲料について、8名の専門パネルにより、容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度について官能評価試験を行った。ムレ臭の抑制の程度は、その実施例の容器詰紅茶飲料と茶ポリフェノール濃度が同じであり、かつ、(E)-2-ヘプテナールとオクタノールのいずれの物質も含有させていない比較例の容器詰紅茶飲料のムレ臭を基準として、その実施例の容器詰紅茶飲料のムレ臭が抑制されている程度を以下の表8の基準(5段階)により評価した。なお、各パネルの評価のばらつきを低減するために、ムレ臭の抑制の程度が既知の複数種の容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度を各パネルで評価した後、その評価点を比較し、各パネルの評価基準に大きな乖離が生じないように確認し、また、各パネルの評価点の標準偏差が0.5以内であることも確認した。
【0076】
【表8】
【0077】
各容器詰紅茶飲料におけるムレ臭の抑制の程度について、8名の専門パネルの評価点の平均点を算出し、その平均点をその容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制の程度の評価とし、また、総合評価として、その平均点が2.5点以上である場合を「〇」、1.5点以上2.5点未満である場合を「△」、1.5点未満である場合を「×」と規定した。
【0078】
実施例17~21及び比較例8~12の各容器詰紅茶飲料の評価結果を以下の表9に示す。
【0079】
【表9】
【0080】
表9の結果から分かるように、茶ポリフェノール濃度が100~800ppmのいずれの場合であっても、容器詰紅茶飲料においてムレ臭以外のオフフレーバーを低く保ちつつ、ムレ臭を抑制できることが示されたが、200~600ppmの場合により優れた効果が得られることが示された。なお、紅茶由来成分が濃いほど、発生するムレ臭は強かった。茶ポリフェノール濃度が100ppmの場合(実施例17)のムレ臭の抑制の程度の平均点が、例えば200ppmの場合(実施例18)のその平均点と比較して低いのは、発生するムレ臭がそもそもあまり強くないため、比較例と実施例の差が出にくいことによるものと考えられる。一方、茶ポリフェノール濃度が800ppmの場合は、発生するムレ臭がかなり強く、物質を含有させて抑制できるムレ臭の程度が、例えば200ppmの場合よりも低かった。
【0081】
[試験4]長期加温した容器詰紅茶飲料における、スパイシー臭及びスモーキー臭の抑制効果の確認
加熱殺菌処理した容器詰紅茶飲料において、スパイシー臭やスモーキー臭が発生することは背景技術にも記載したとおりである。かかる容器詰紅茶飲料は、ホットドリンクとして小売店で販売される際にホットショーケース内で長期間加温されると、スパイシー臭、スモーキー臭が増加する。そこで、本発明における特定の物質が、長期加温された容器詰紅茶飲料におけるスパイシー臭及びスモーキー臭に対して抑制効果を発揮するかどうかを、以下の方法で確認した。
【0082】
(1.紅茶抽出物の調製)
ケニア・インドネシアブレンド紅茶葉100gを、90℃のイオン交換水3000gに入れ、6分間抽出した。得られた茶葉入りの抽出液は、固液分離(濾過)処理し、その後室温で遠心分離処理して、上清を、紅茶抽出液(紅茶抽出物)として得た。この紅茶抽出液の茶ポリフェノール濃度を、酒石酸鉄吸光光度法を用いて測定したところ、400ppmであった。
【0083】
(2.容器詰紅茶飲料の調製)
上記の(1.紅茶抽出物の調製)の方法で紅茶葉から抽出した紅茶抽出物に、適量のL-アスコルビン酸と炭酸水素ナトリウムを添加して混合液を調製した。この混合液に、3種類の物質のうちいずれか1種類又は2種類を、後述の表11に記載の濃度となるようにそれぞれ含有させ、各紅茶飲料を調製した。各紅茶飲料をUHT法にて殺菌した(120℃4分間同等以上)後、PETボトルに充填を行い、各容器詰紅茶飲料(実施例22~26の容器詰紅茶飲料)を得た。また、上記3種の物質のいずれも含有させずに調製して、比較例13の容器詰紅茶飲料を得た。
【0084】
(3.官能評価試験)
得られた実施例22~26及び比較例13の容器詰紅茶飲料を、60℃条件下で4週間保管した。その後、これらの各容器詰紅茶飲料について、8名の専門パネルにより、容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度について官能評価試験を行った。スパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度は、3種のいずれの物質も含有させていない比較例13の容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭を基準として、その実施例の容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭が抑制されている程度を以下の表10の基準(5段階)により評価した。なお、各パネルの評価のばらつきを低減するために、スパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度が既知の複数種の容器詰紅茶飲料のスパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度を各パネルで評価した後、その評価点を比較し、各パネルの評価基準に大きな乖離が生じないように確認し、また、各パネルの評価点の標準偏差が0.5以内であることも確認した。
【0085】
【表10】
【0086】
実施例22~26の各容器詰紅茶飲料において、スパイシー臭及びスモーキー臭の抑制の程度について、8名の専門パネルの評価点の平均点をそれぞれ算出し、それぞれの平均点をその容器詰紅茶飲料の評価とした。また、各容器詰紅茶飲料の総合評価として、前述の平均点が2.5点以上である場合を「〇」、1.5点以上2.5点未満である場合を「△」、1.5点未満である場合を「×」と規定した。
【0087】
実施例22~26及び比較例13の各容器詰紅茶飲料の評価結果を以下の表11に示す。
【0088】
【表11】
【0089】
表11の結果から分かるように、3種類の物質のうち、いずれか1種類の物質であっても、いずれか2種類の物質であっても、スパイシー臭及びスモーキー臭を抑制することが示され、特に2種類の物質を併用した場合はスパイシー臭及びスモーキー臭を顕著に抑制することが示された。
【0090】
以上の実施例の結果から、本発明における3種類の物質、すなわち、(E)-2-ヘプテナール、(E,E)-2,4-へプタジエナール、オクタノールは、ムレ臭の他、スパイシー臭及びスモーキー臭に対しても優れた抑制効果を示すことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、加熱殺菌処理等によるムレ臭が抑制された容器詰紅茶飲料、及びその製造方法、並びに、容器詰紅茶飲料のムレ臭の抑制方法等を提供することができる。