(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】地盤改良材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/02 20060101AFI20240403BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20240403BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240403BHJP
C09K 3/00 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C09K17/02 P ZAB
C09K17/10 P
E02D3/12 102
C09K3/00 S
(21)【出願番号】P 2020031679
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸一
(72)【発明者】
【氏名】野崎 隆人
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】肥後 康秀
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-108610(JP,A)
【文献】特開昭54-006309(JP,A)
【文献】特開平04-155008(JP,A)
【文献】特開2006-143976(JP,A)
【文献】特開平06-057735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/02
E02D 3/12
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料及び
炭酸ガス濃度が3,000~8,000mg/リットルである炭酸ガス含有水を含むスラリーからなる
地盤改良材を製造するための方法であって、
水に炭酸ガスを吹き込むことによって、上記炭酸ガス含有水を調製する炭酸ガス含有水調製工程と、
上記セメント系材料と、上記炭酸ガス含有水を混合して、スラリーの形態を有する上記地盤改良材を調製するスラリー調製工程、
を含み、
上記スラリー調製工程における上記地盤改良材の調製直後のpHが11.6~12.6であることを特徴とする地盤改良材
の製造方法。
【請求項2】
上記セメント系材料100質量部に対する上記炭酸ガス含有水の量が50~150質量部である請求項
1に記載の地盤改良材
の製造方法。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の地盤改良材の製造方法によって、上記地盤改良材を得た後、上記地盤改良材を地盤中に注入して混合し、上記地盤改良材によって固化してなる改良地盤を形成させることを特徴とする地盤の改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の抑制のため、二酸化炭素の排出量の低減が重要な課題になっている。
例えば、特許文献1には、(A)ムライトとアノーサイトのいずれか一方または両方を含むセメント混合用粉末、及び、ポルトランドセメントを含む粉末状セメント組成物、(B)水、及び、(C)骨材、を含むセメント混練物の硬化体を、炭酸化してなることを特徴とするセメント質硬化体が記載されている。該セメント質硬化体によれば、ポルトランドセメント以外の粉末材料を含むものの、常温(20℃程度)で養生を行なった場合であっても、養生工程において多量の二酸化炭素を吸収することにより、排出される二酸化炭素の量を大幅に削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、セメントの製造過程等において発生する二酸化炭素を有効利用することができ、地盤からの重金属類(例えば、六価クロム化合物)の溶出を抑制することができる地盤改良材、及び、該地盤改良材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント系材料及び炭酸ガス含有水を含むスラリーからなる地盤改良材によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1] セメント系材料及び炭酸ガス含有水を含むスラリーからなることを特徴とする地盤改良材。
[2] 上記炭酸ガス含有水の炭酸ガス濃度が150~8,000mg/リットルである前記[1]に記載の地盤改良材。
[3] 上記セメント系材料100質量部に対する上記炭酸ガス含有水の量が50~150質量部である前記[1]又は[2]に記載の地盤改良材。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の地盤改良材を製造するための方法であって、水に炭酸ガスを吹き込むことによって、上記炭酸ガス含有水を調製する炭酸ガス含有水調製工程と、上記セメント系材料と、上記炭酸ガス含有水を混合して、スラリーの形態を有する上記地盤改良材を調製するスラリー調製工程、を含む地盤改良材の製造方法。
[5] 上記スラリー調製工程における上記地盤改良材の調製直後のpHが、11.6~13.0である前記[4]に記載の地盤改良材の製造方法。
[6] 前記[4]又は[5]に記載の地盤改良材の製造方法によって、上記地盤改良材を得た後、上記地盤改良材を地盤中に注入して混合し、上記地盤改良材によって固化してなる改良地盤を形成させることを特徴とする地盤の改良方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の地盤改良材によれば、セメントの製造過程等において発生する二酸化炭素を有効利用することができ、地盤からの重金属類(例えば、六価クロム化合物)の溶出を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の地盤改良材は、セメント系材料及び炭酸ガス含有水を含むスラリーからなるものである。
本明細書中、セメント系材料とは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等のセメント、及び、これらのセメントを主な材料(通常、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上)として含み、かつ、任意に配合可能な混和材を含むものをいう。
混和材の例としては、高炉スラグ微粉末、石灰石粉末、フライアッシュ、シリカフューム、石膏粉末等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セメントを主な材料として含むセメント系固化材の市販品の例としては、太平洋セメント社製の「ジオセット」(商品名)等が挙げられる。
【0008】
炭酸ガス含有水は、通常、水に炭酸ガス(二酸化炭素)を吹き込むことによって得られたものである。
炭酸ガス含有水の炭酸ガスの濃度は、好ましくは150~8,000mg/リットル、より好ましくは500~7,800mg/リットル、より好ましくは1,000~7,600mg/リットル、さらに好ましくは1,500~7,500mg/リットル、さらに好ましくは3,000~7,400mg/リットル、特に好ましくは5,000~7,300mg/リットルである。該濃度が150mg/リットル以上であれば、重金属類の溶出抑制効果がより大きくなる。また、より多くの二酸化炭素を利用することができるため、二酸化炭素の排出量を低減する効果がより大きくなる。該量が8,000mgを超えるものは、製造が困難である。また、スラリー調製直後のpHが過度に低くなり(11.6未満)、地盤と地盤改良材を混合した際の改良体の強度が大きく低下することがある。
【0009】
セメント系材料100質量部に対する炭酸ガス含有水の量は、好ましくは50~150質量部、より好ましくは60~140質量部、さらに好ましくは70~130質量部、特に好ましくは80~120質量部である。上記量が50質量部以上であれば、地盤改良材を用いて地盤の改良を行う際の作業性が向上する。上記量が150質量部以下であれば、改良後の地盤の強度をより大きくすることができる。
【0010】
本発明の地盤改良材を製造する方法の一例としては、水に炭酸ガスを吹き込むことによって、炭酸ガス含有水を調製する炭酸ガス含有水調製工程と、セメント系材料と、炭酸ガス含有水を混合して、スラリーの形態を有する地盤改良材を調製するスラリー調製工程、を含む方法が挙げられる。
【0011】
炭酸ガス含有水調製工程において、水に炭酸ガスを吹き込む方法としては、例えば、水中に設置された炭酸ガス供給手段(例えば、炭酸ガスを含む気体を供給するための排気管等)を用いて、水中に炭酸ガスを含む気体を吹き込む方法等が挙げられる。炭酸ガス含有水中の炭酸ガスの濃度の向上や処理効率向上等の観点から、上記吹き込みは加圧下で行ってもよい。
炭酸ガスを含む気体は、炭酸ガスのみからなる気体であってもよいが、入手の容易性等の観点から、炭酸ガスを、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上、さらに好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは40体積%以上、さらに好ましくは60体積%以上、特に好ましくは80体積%以上の割合で含む気体である。該割合が5体積%以上であれば、より短時間で炭酸ガス含有水を得ることができる。
炭酸ガスを含む気体の例としては、セメント製造工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約20体積%)、または、該排ガスからの分離回収ガス(炭酸ガス濃度:約100体積%)等が挙げられる。
【0012】
スラリー調整工程において、セメント系材料と炭酸ガス含有水を混合する方法は、特に限定されるものではなく、セメント系材料に炭酸ガス含有水を添加、混合してもよく、炭酸ガス含有水にセメント系材料を添加、混合してもよく、セメント系材料と炭酸ガス含有水を同時に混合槽に投入し、混合してもよい。
スラリー調製工程における地盤改良材の調製直後のpHは、好ましくは11.6~13.0、より好ましくは11.7~12.9、さらに好ましくは11.8~12.8、特に好ましくは11.9~12.7である。上記pHが11.6以上であれば、地盤と地盤改良材を混合した際の改良体の強度の低下を抑えることができる。スラリーのpHが12.9以下であれば、重金属類の溶出抑制効果をより大きくすることができる。
【0013】
本発明の地盤の改良方法は、上述した地盤改良材の製造方法によって、地盤改良材を得た後、地盤改良材を地盤中に注入して混合し、地盤改良材によって固化してなる改良地盤を形成させる方法である。
改良の対象となる地盤は、地盤からの重金属類の溶出を抑制するという本発明の目的から、重金属類を含むものが好適である。
重金属類とは、カドミウム及びその化合物、六価クロム化合物、シアン、水銀及びその化合物、セレン及びその化合物、鉛及びその化合物、ひ素及びその化合物、フッ素及びその化合物、及び、ホウ素及びその化合物(土壌汚染対策法(平成15年)において第二種特定有害物質として挙げられているもの)のいずれかである。なお、フッ素及びホウ素は重金属ではないが、フッ素及びその化合物、及び、ホウ素及びその化合物は重金属類に含まれるものとする。中でも、溶出をより抑制することができる観点から、六価クロム化合物が好ましい。
【0014】
地盤への地盤改良材の添加量は、対象となる地盤の種類及び性状、施工条件、改良後の地盤に求められる強度等によっても異なるが、地盤改良材中のセメント系材料の量として、対象となる地盤1m3当たり、好ましくは50~500kg、より好ましくは80~450kg、特に好ましくは100~400kgである。該量が50kg以上であれば、改良後の地盤の強度(例えば、一軸圧縮強さ)をより大きくすることができる。該量が500kg以下であれば、コストの増大を防ぐことができる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)炭酸ガス含有水A(炭酸ガスの濃度:7,200mg/リットル);水に、炭酸ガス濃度が99.9体積%である気体を吹き込んだもの
(2)炭酸ガス含有水B(炭酸ガスの濃度:4,300mg/リットル);水に、炭酸ガス濃度が99.9体積%である気体を吹き込んだもの
(3)炭酸ガス含有水C(炭酸ガスの濃度:1,800mg/リットル);水に、炭酸ガス濃度が99.9体積%である気体を吹き込んだもの
(4)土壌A;粘性土
(5)土壌B;火山灰質粘性土に分類される関東ローム(表1中、「ローム」と示す。)
(6)水;上水道水
【0016】
[実施例1~3]
セメント系材料100質量部と、表1に示す種類の炭酸ガス含有水100質量部を、同時に混合槽内に投入し混合して、スラリー状の地盤改良材を得た。混合直後のスラリーのpHを表1に示す。
土壌Aに該地盤改良材を、土壌1m3に対して、セメント系材料が150kgとなる量で添加し、ホバートミキサを用いて3分間混合して、改良土を得た。
改良土からの六価クロム化合物の溶出量を、環境省告示第18号に準拠して測定した。
[比較例1]
炭酸ガス含有水の代わりに、水を用いる以外は実施例1と同様にして、改良土を得た後、改良土からの六価クロム化合物の溶出量等を実施例1と同様にして測定した。
また、実施例1~3の各々について、比較例1(水を使用したもの)に対する、六価クロム化合物の溶出量の低減率{(比較例の六価クロム化合物の溶出量-実施例の六価クロム溶出量)÷比較例の六価クロム化合物の溶出量×100(%)}を算出した。
【0017】
[実施例4~6]
土壌Aの代わりに、土壌Bを使用し、土壌Bに該地盤改良材を、土壌1m3に対して、セメント系材料が300kgとなる量で添加する以外は実施例1と同様にして、改良土を得た後、改良土からの六価クロム化合物の溶出量等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例2]
炭酸ガス含有水の代わりに、水を用いる以外は実施例2と同様にして、改良土を得た後、改良土からの六価クロム化合物の溶出量等を実施例1と同様にして測定した。
また、実施例4~6の各々について、比較例2(水を使用したもの)に対する、六価クロム化合物の溶出量の低減率を実施例1と同様にして算出した。
結果を表1に示す。
【0018】
【0019】
表1から、実施例1~3と比較例1を比較すると、実施例1~3における六価クロム溶出量(0.022~0.026mg/リットル)は、比較例1における六価クロム溶出量(0.028mg/リットル)よりも小さいことがわかる。
また、実施例1~3の、比較例1(水を使用したもの)に対する、六価クロム化合物の溶出量の低減率は、7.1~21.4%であった。
また、実施例4~6と比較例2を比較すると、実施例2における六価クロム溶出量(0.071~0.084mg/リットル)は、比較例2における六価クロム溶出量(0.091mg/リットル)よりも小さいことがわかる。
また、実施例4~6の、比較例2(水を使用したもの)に対する、六価クロム化合物の溶出量の低減率は、7.7~22.0%であった。