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特許7465132医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための方法および装置
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  • 特許-医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための方法および装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/12 20060101AFI20240403BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20240403BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20240403BHJP
   A61B 42/60 20160101ALI20240403BHJP
【FI】
A61B1/12 510
A61L31/00
A61L31/08
A61B42/60
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020055898
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2020182829
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】62/826,408
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510275024
【氏名又は名称】ピコサン オーワイ
【氏名又は名称原語表記】PICOSUN OY
【住所又は居所原語表記】Tietotie 3, FI-02150 Espoo, Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マルコ,プダス
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515865(JP,A)
【文献】特開平10-179507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0127270(US,A1)
【文献】米国特許第05876331(US,A)
【文献】特開2010-057376(JP,A)
【文献】特開2018-122095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0216881(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016004043(DE,A1)
【文献】特表平09-508559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 - 1/32
A61C 1/00 - 19/10
A61L 2/00 - 2/18
A61L 11/00 - 12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための方法(100)であって、前記方法は、
(a)非無菌の医療器具(102)または従来通りに滅菌された医療器具(103)を得ることと、
(b)前記医療器具を堆積および/または分析装置の中に載置することと、
(c)前記医療器具を100hPa未満の圧力に曝露すること(104)と、
(d)前記医療器具を前記残留物に反応する少なくとも1種のガスに曝露すること(105)と、
を含み、
少なくとも(104)および/または(105)の間に、前記残留物は、少なくとも1つのセンサ装置(110)によって検出および/または定量化され、前記センサ装置(110)は、前記堆積および/または分析装置から排出されたガス流の少なくとも一部の中の残留物を検出および/または定量化するように構成されている、方法。
【請求項2】
このようにして得られた医療器具は、化学的に堆積されるコーティングで少なくとも部分的に予め塗布される(101)、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティングは、原子層堆積(ALD)によって前記医療器具の少なくとも一部に予め塗布される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記医療器具は、(104)において10hPa未満の圧力に曝露される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(105)において、前記少なくとも1種のガスは、前記残留物に反応する化学物質を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記医療器具は、複数部品医療器具である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(104)および/または(105)において検出および/または定量化された残留物の濃度が所定の閾値を超えるという条件下で、前記医療器具は、従来の方法による清浄および/または滅菌の手順(103)に戻される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(105)において検出および/または定量化された残留物の濃度が所定のレベルに属する条件下で、前記医療器具は廃棄に供される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1つ以上の医療器具を受け入れるように構成された少なくとも1つの反応チャンバーを備える、医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための堆積および/または分析装置であって、その反応チャンバーにおいては、前記医療器具は、100hPa未満の圧力に、およびその後に前記残留物に反応する少なくとも1種のガスに曝露され、前記堆積および/または分析装置は少なくとも1つのセンサ装置(110)を備え、前記センサ装置(110)は、前記堆積および/または分析装置から排出されたガス流の少なくとも一部の中の残留物を検出および/または定量化するように構成されていることを特徴とする、堆積および/または分析装置。
【請求項10】
化学蒸着反応器として構成されている、請求項に記載の堆積および/または分析装置。
【請求項11】
原子層堆積反応器として構成されている、請求項または10に記載の堆積および/または分析装置。
【請求項12】
前記堆積および/または分析装置は、医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するために使用される、請求項11のいずれか1項に記載の堆積および/または分析装置。
【請求項13】
前記医療器具は、複数部品医療器具である、請求項12に記載の堆積および/または分析装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、医療器具を清浄するための機器および方法に関する。特に本発明は、清浄することに加えて、汚染の痕跡の存在を検出し、かつ前記医療器具の表面にあるそれを分析することを可能にする機器および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内科的および外科的処置は、多くの場合に際立った特徴部および/または狭い空洞またはチャネルを含む複数部品からなる器具の使用を必要とすることが多い。さらに前記医療器具は金属、ガラス、セラミックスおよび/またはプラスチックを含む異なる材料で作られている場合がある。例示的な複数部品からなる器具としては、一般的な手術器具、顕微鏡手術器具および歯科用器具ならびに内視鏡が挙げられる。
【0003】
内視鏡検査は中空の体腔または器官の内部の診査を行う医療処置である。柔軟な内視鏡(例えば、胃鏡、十二指腸鏡、結腸鏡、S状結腸鏡、腸鏡、鼻咽頭鏡、気管支鏡)または剛性の内視鏡(いくつかの気管支鏡、腹腔鏡)のいずれかの内視鏡がヒトの疾患の診断および治療で使用され、体液および分泌物によって容易に汚染される。
【0004】
柔軟な内視鏡は、管状シース内部にファイバーオプティックスおよび狭いチャネルを含む複雑な装置である。管状内視鏡の外面は清浄、消毒および最終的には滅菌の問題を引き起こすことはないが、その本体に挿入される小型の器具ならびに組織試料採取または外科手術のためのツールを導入するため、出血を凝固させるため、あるいは流体を吸引および注入するなどの他の目的のために使用される他のチャネルおよび管状の装置は滅菌するのが困難である。特に柔軟な内視鏡は高温滅菌に耐えられない材料で作られており、その狭い(小さい直径の)チャネルに関して当該器具の長さが原因で不適切な滅菌というリスクが存在する。
【0005】
現在のところ、ヒトの体内に挿入することを必要とする内視鏡ならびに他の医療器具は、手作業および当該器具を消毒することを目的とする液体物質を用い、内視鏡を通る前記物質の流れを利用することによって清浄することが多い。この状況は、内視鏡内部の長いチャネルが原因で滅菌プロセスの結果を監視するのが困難であるという事実により悪化し、従って清浄された内視鏡の大多数は、危険な微生物をある患者から別の患者に移すという点で患者を脅威にさらす微生物をなお含んでいる。細菌の滅菌に対する耐性は、滅菌努力に抵抗する内視鏡チャネル内部でのバイオフィルムの形成によって説明することができる。
【0006】
特定の滅菌方法は、任意に真空においてガスを利用して医療器具を滅菌する。ガス状の滅菌剤としては、例えば米国特許出願公開第2017/0252471A1号(Patel)において考察されているようなエチレンオキシド、ホルムアルデヒドおよび過酸化水素が挙げられる。但し全ての上記化合物は有毒であり、残留物を残し、かつ/またはその後に広範囲な洗浄を必要とする可能性が高い。
【0007】
実際に、限定されるものではないが内視鏡を含む全ての上記内科的もしくは外科的器具は健康管理施設によってなされる大きな投資を意味し、従ってこれらの器具の適切な取り扱いおよび清浄は支出を抑えるために重要である。
【0008】
この点に関して、複数回使用のために医療装置を滅菌することに関連する清浄作業の清浄効率を監視する分野における更新がなお望まれている。特に内視鏡などの複雑な複数部品からなる医療装置の清浄に関連する課題に対処しなければならない。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、従来の技術の限界および欠点から生じる問題のそれぞれを解決するか少なくとも軽減することにある。この目的は、医療器具を清浄し、かつその表面にある有機残留物などの残留物を検出するための方法および関連する装置の様々な実施形態によって達成される。
【0010】
一態様では、医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための方法が独立請求項1に記載されている内容に従って提供される。
【0011】
一実施形態では、本方法は、(a)非無菌もしくは従来通りに滅菌された医療器具を得ることと、(b)前記器具を堆積および/または分析装置の中に載置することと、(c)前記器具を100hPa未満の圧力に曝露することと、(d)前記器具を残留物に反応する少なくとも1種のガスに曝露することとを含む。
【0012】
一実施形態では、本方法は、(a)で得られた医療器具の少なくとも一部に化学的に堆積されるコーティングを予め塗布することをさらに含む。一実施形態では、当該コーティングは原子層堆積(ALD)によって前記器具の少なくとも一部に予め塗布する。
【0013】
一実施形態では、当該器具は、(c)において10hPa未満、好ましくは1hPa未満、最も好ましくは0.1hPa未満の圧力に曝露される。
【0014】
一実施形態では、当該器具は、(d)において残留物に反応する少なくとも1種のガスに曝露され、ここで前記少なくとも1種のガスは、残留物に反応する少なくとも1種の化学物質を含有する。
【0015】
一実施形態では、当該医療器具は内視鏡などの複数部品からなる医療器具である。
【0016】
一実施形態では、本方法は、少なくとも(c)および/または(d)の間に少なくとも1つのセンサ装置によって残留物を検出および/または定量化することを含む。一実施形態では、前記少なくとも1つのセンサ装置は、堆積および/または分析装置から排出されたガス流の少なくとも一部の中の残留物を検出および/または定量化するように構成されている。
【0017】
一実施形態では、本方法は、(c)および(d)のいずれか1つにおいて検出および/または定量化された残留物の濃度が所定の閾値を超える場合に当該医療器具を従来の方法による清浄および/または滅菌の手順に戻すことを含む。
【0018】
一実施形態では、本方法は、(d)において検出および/または定量化された残留物の濃度が所定のレベルに属する場合に、当該医療器具が廃棄に供されることを含む。
【0019】
一態様では、医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための堆積および/または分析装置が独立請求項11に記載されている内容に従って提供される。
【0020】
一実施形態では、本装置は、1つ以上の医療器具を受け入れるように構成された少なくとも1つの反応チャンバーを備え、その反応チャンバーでは、前記医療器具が、100hPa未満の圧力に、およびその後に検出される残留物に反応する少なくとも1種のガスに曝露される。
【0021】
一実施形態では、本装置は化学蒸着反応器として構成されている。一実施形態では、本装置は原子層堆積反応器として構成されている。一実施形態では、本装置は残留物を検出および/または分析するための少なくとも1つのセンサ装置を備える。
【0022】
別の態様では、1つ以上の医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するためのいくつかの先の態様の堆積および/または分析装置の使用が独立請求項14に記載されている内容に従って提供される。一実施形態では、当該医療器具は内視鏡などの複数部品からなる医療器具である。
【0023】
特許請求の範囲の範囲および解釈を限定することなく、本明細書に開示されている例示的な実施形態の1つ以上の特定の技術的効果が以下に列挙されている。
【0024】
本明細書によって開示されている方法および装置により、それがなければ清浄が困難である医療器具(例えば、内視鏡などの内部空洞/チャネルを有する複数部品からなる医療器具および/または長い管状医療器具)の効率的な清浄が可能になる。気相で供給される化学物質は(例えば従来の洗浄と比較して)任意の液体よりも良好に小さい空洞を満たす。従って本明細書によって開示されている方法は、単一のコロニーまたは耐性バイオフィルムならびにウイルスおよびプリオンとして存在するかに関わらず、前記医療器具の表面に存在する全種類の微生物、例えば細菌を破壊するのを可能にする。
【0025】
本発明は、効率的な清浄プロセスを行うことに加えて当該医療器具をあらゆる微量の有機汚染、分解産物および/または他の残留物の存在についての分析も行うという大きな利点を提供する。本方法を使用して当該物品がクリーンであるかを確認することができる。言い換えると、本発明は、(新しい)器具を滅菌されたパッケージの中に梱包する製造施設においてのみ通常達成可能なレベルまで一度使用された医療器具を清浄することを可能にする。そのような純度レベルは、従来の清浄および/または滅菌(例えばオートクレーブ滅菌)方法によって達成/制御することができない。
【0026】
ALDなどの化学蒸着技術の利用により、1000:1超の極めて高いアスペクト比を有する空洞および(ナノ)孔のコーティングが可能になる。さらにガスを好適な流動装置によりそのパイプを通して広げることにより、例えばパイプ様器具のために改良された性能を得ることができる。ALDで堆積されたフィルムの別の利点は、それに沿った流体の流れを高める滑らかなコンフォーマルな表面を作り出すことである。場合によっては、撥液コーティング材料を塗布することができる。同様の方法で、ALD堆積フィルムは流体付着を低下させて当該器具のあらゆるさらなる使用における従来の清浄を容易にするように構成されていてもよい。
【0027】
いくつかの従来の処理、例えばオゾン処理では医療器具の特定の部品、例えばプラスチック部品が望ましくない残留物として誤って認識されるといったことが起こり得る。少なくとも1種の金属化合物を含み、かつ当該医療器具に(予め)塗布されたコンフォーマルなコーティングは、それらの(プラスチック)部品が従来の清浄および/または分析の厳しい条件に曝露されるのを防止するか少なくともそのような曝露を減らす。
【0028】
本発明は、当該医療器具をさらなる清浄を必要とする/必要としないものおよび廃棄に供しなければならないもの(これ以上効率的に清浄することができないもの)に分類するという点で汎用性をさらに提供する。
【0029】
高い信頼性で上記のように分類を行うことができるため、本発明は、医療器具のより効率的な再使用を可能にし、従って新しい医療器具の購入に関連するコストを減らすことができる。
【0030】
本開示では、1マイクロメートル(μm)未満の層厚を有する材料を「薄膜」と呼ぶ。
【0031】
「いくつかの」という表現は本明細書では1から開始する任意の正の整数、例えば1、2または3を指し、「複数の」という表現は本明細書では2から開始する任意の正の整数、例えば2、3または4を指す。
【0032】
「第1の」および「第2の」という用語はどんな順序、量または重要性も示してはおらず、むしろ単にある要素を別の要素から区別するために使用されている。
【0033】
本発明はここで、添付の図面を参照して一例としてのみ説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】一実施形態に係る方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は一態様によれば、医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための方法(図1)の提供に関する。「残留物」という用語は、その通常の使用中に医療/手術器具に蓄積または滞留した主に有機性のあらゆる本質的に固体の残留物または残屑、例えば細胞集団、細胞網残屑および周囲汚染などを指す。但し清浄される器具の性質により(検出される残留物は主として有機である)、本方法は例えば本質的に無機の物質および/または有機および無機残留物の組み合わせを検出するように調整することができる。
【0036】
本方法は医療器具などの物品を得ることで開始する。本開示では、このようにして得られた医療器具は、(例えば貯蔵室に)貯蔵され、かつ任意に使用される非無菌の医療器具(102)または従来の方法によって滅菌される医療器具(103)である。従来の使用とは、任意に従来の方法によって清浄および/または滅菌される(洗浄、高圧蒸気滅菌など)、患者の診察および/または治療もしくは外科的処置中の医療器具の使用を指す。
【0037】
当該医療器具は、ヒトの患者または非ヒト動物に対して行われる健康診断、歯科および/または外科手術/介入に使用されるあらゆる再使用可能な(複数回使用)器具であってもよい。
【0038】
場合によっては、前記医療装置は、内部チャネル、空洞および/または突出部または凹部、例えば溝などの内部および外部特徴部のうちのいずれか1つを有する細長い本体として提供される。
【0039】
当該医療器具は、柔軟もしくは剛性の内視鏡装置または前記内視鏡アセンブリと共に提供され、かつ清浄を必要とする任意の補助アプライアンスを含むアセンブリとして構成されていてもよい。内視鏡装置および関連するアセンブリとしては、限定されるものではないが、胃鏡、十二指腸鏡、結腸鏡、S状結腸鏡、腸鏡、腹腔鏡、胸腔鏡、鼻咽頭鏡、気管支鏡、喉頭鏡、膣鏡、膀胱鏡、尿管鏡および関節鏡が挙げられる。
【0040】
いくつかの構成では、挿入物または同様のものを内視鏡の少なくとも一端に配置することができる。そのような場合には、異なる圧力の空気または例えば不活性ガスなどの他のガスを内視鏡のチャネルにわたって生成することができる。
【0041】
従って102では、当該物品を上に示されているように(例えば一般的な医療行為において)貯蔵および/または使用する。103では、当該物品を従来の方法によって清浄/滅菌する。当該物品が密閉/滅菌されたパッケージから得られたものであるが、例えばある意味で使用されておらず、すなわち医療行為において使用されていない場合は、工程103を省略してもよい。
【0042】
当該医療器具の少なくとも一部には101において、原子層堆積(ALD)または代わりとして化学気相蒸着(CVD)などの気相での化学蒸着方法によって堆積されるコーティングを予め塗布することができる。場合によっては、当該コーティングは少なくとも1種の金属化合物を含む。
【0043】
ALD成長メカニズムの基本は当業者に公知である。ALDは少なくとも2種類の反応性前駆体種の少なくとも1つの基板への連続的導入に基づく特殊な化学蒸着方法である。但し、これらの反応性前駆体のうちの1つを、例えばフォトン強化ALDまたはプラズマ支援ALD、例えばPEALDを用いた場合にエネルギーで置き換え、それにより単一の前駆体ALDプロセスを行うことができることを理解されたい。例えば金属などの純元素の堆積は1種のみの前駆体を必要とする。酸化物などの二元化合物は、前駆体化学物質が堆積される二元材料の元素の両方を含有する場合には1種の前駆体化学物質を用いて作り出すことができる。ALDによって成長された薄膜は高密度であり、ピンホールを含まず、かつ均一な厚さを有する。場合によっては、化学気相蒸着(CVD)を利用してもよい。
【0044】
少なくとも1つの基板を典型的には反応容器において時間的に分離された前駆体導入に曝露して、連続的自己飽和表面反応によって材料を基板表面に堆積させる。本出願の文脈ではALDという用語は、全ての適用可能なALDに基づく技術およびあらゆる同等もしくは密接に関連する技術、例えば以下のALDサブタイプ:MLD(分子層堆積)、プラズマ支援ALD、例えばPEALD(プラズマ強化原子層堆積)およびフォトン強化原子層堆積(光ALDまたはフラッシュ強化ALDとしても知られている)などを含む。また当該プロセスはエッチングプロセスであってもよく、その一例はALEプロセスである。なお、PEALDおよびフォトン強化ALDの場合、これらのアディティブ処理はこれらの放射線源に可視化能な表面に限定することができる。
【0045】
ALDは交互の自己飽和表面反応に基づいており、ここでは非反応性(不活性)ガス状担体中の化合物または化学元素として提供される異なる反応物(前駆体)を、基板を収容する反応空間の中に連続的に導入する。反応物の堆積後に当該基板を不活性ガスでパージする。従来のALD堆積サイクルは2つの半反応(導入AおよびパージAと導入BおよびパージB)で進行し、これにより典型的には0.05~0.2nmの厚さの材料の層が自己制御(自己飽和)的に形成される。各前駆体のための典型的な基板曝露時間は0.01~1秒以内の範囲である。
【0046】
導入Aは気相中に第1の前駆体(第1の前駆体蒸気)を含み、導入Bは気相中に第2の前駆体(第2の前駆体蒸気)を含む。不活性ガスおよび真空ポンプは典型的に、パージAおよびパージBの間に反応空間からガス状の反応副生成物および残留する反応物分子をパージするために使用される。堆積順序は少なくとも1つの堆積サイクルを含む。堆積順序により所望の厚さの薄膜またはコーティングが生成されるまで堆積サイクルを繰り返す。また堆積サイクルは、よりシンプルなものまたはより複雑なものであってもよい。例えばこのサイクルは、パージ工程によって分離された3回以上の反応物蒸気導入を含んでもよく、あるいは特定のパージ工程を省略してもよい。他方、光強化ALDはパージのための様々な選択肢と共に1種のみの活性前駆体などの様々な選択肢を有する。全てのこれらの堆積サイクルは、論理演算装置またはマイクロプロセッサーによって制御される時限堆積順序を構成する。
【0047】
従って当該コーティングをALDによって当該医療器具の少なくとも一部に塗布することが好ましい。
【0048】
単独または他の化学蒸着プロセスとの組み合わせで使用されるALDプロセスを使用してコーティングされた表面を(超)疎水性または(超)オムニフォビックにすることができる。後者はほぼあらゆる流体をはじく表面の能力を指す。超疎水性表面は一般に150度超の水滴の接触角を有する表面として定められている。
【0049】
ALD薄膜コーティングは機械的にあまり耐久性がない場合があるが、ALDプロセスは基板表面の本来備わっている親水性もしくは疎水性特性の再生を可能にする。言い換えると、前記表面が使用され、かつそのような使用中に汚染された状態になる前にALDプロセスはいくつかの特定の基板表面に本来備わっている特性を回復させる。さらに、基板が最初に当該基板に特定の特性(疎水性、親水性など)を与えるいくつかの特徴部、例えばナノ構造体または同様のものを含む場合、これらの特徴部は使用中に例えば細胞集団残屑などの残留物により容易に封鎖されたり覆われたりした状態になる。本明細書によって開示されている方法は、基板およびその特徴部の効率的な清浄を提供してこれらの特性を回復させる。
【0050】
再び図1を参照すると、101において当該医療器具の少なくとも一部に予め塗布された少なくとも1つのコーティング層は、例えば当該器具自体に適用される大多数の清浄プロセス(例えば、洗浄剤、オゾン洗浄など)により生じる物質の残留を防止するように構成されていてもよい。追加または代わりとして、コーティング層は残留物がその使用中に(例えば内科的/外科的用途において)前記物品に付着するのを妨害または防止することができる。
【0051】
当該コーティングは例えば生体適合性金属酸化物で作られていてもよい。例として生体適合性金属酸化物としては、限定されるものではないが、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、(二)酸化チタン(TiO)および(二)酸化ジルコニウム(ZrO)が挙げられる。任意の他の好適な化合物を利用することができる。
【0052】
約1~10nmの層などの金属酸化物の十分に薄い層は、当該表面の柔軟性を妨害せず、かつ例えば屈曲するプラスチック部品に使用することができる。コーティング材料および曲げ半径に応じて、約0.1nm~約50nmの範囲内の厚さを有するコーティング層は十分に柔軟であるとみなされる。
【0053】
コーティング101の最上層(最後に堆積された層)は清浄手順を容易にすることができ、かつ最終的に例えばオゾン(O)と反応することができる有機材料で作られていてもよい。有機材料のオゾンまたは同様の作用機序を有する別の化合物との上記反応により有機物質の破壊、次いで反応空間からのその除去/回収が行われる。
【0054】
本方法は、任意にプレコーティングされた医療器具を反応チャンバーを有する堆積および/または分析装置内に載置することを続け、そこでは当該器具を所定の反応環境に曝露する。前記装置/反応チャンバーにおいて、当該器具を所定の圧力に曝露し(104)、かつ検出された残留物に反応する少なくとも1種のガス状化合物(前駆体)に曝露する(105)。工程104および105を連続的または同時に行うことができる。
【0055】
当該装置は好ましくは気相蒸着に基づく技術の原理を利用するように構成されている。全体的実装に関して、反応器100は、フィンランドのPicosun Oy社から入手可能なPicosun R-200 Advanced ALDシステムとして商標登録されているALD設備に基づいていてもよい。それにも関わらず、本発明の概念の基礎をなす特徴は、例えばALD、MLD(分子層堆積)またはCVD装置として具体化される任意の他の化学蒸着反応器の中に組み込むことができる。
【0056】
上記装置は、その内部によって確立された反応空間(堆積空間)を有する反応チャンバーを備える。当該反応器は、反応チャンバー内への流体の流れ(不活性流体および前駆体化合物P1、P2を含有する反応性流体)を媒介するように構成されたいくつかのアプライアンスをさらに備える。上記アプライアンスは、例えばいくつかの吸入ライン/供給経路および関連するスイッチングおよび/または弁などの調整装置として提供される。
【0057】
前駆体P1、P2は本質的にガスの形態で反応空間の中に供給される。少なくとも1つの供給経路を介して反応チャンバーの中に入る反応性流体は好ましくは、不活性担体(ガス)によって運ばれる所定の前駆体化学物質を含むガス状物質である。反応空間内への前駆体化学物質の供給および基板上でのフィルム成長は、例えば三方ALD弁、マスフローコントローラーまたはこの目的に適した任意の他の装置などの上記調整アプライアンスによって調整される。
【0058】
当該装置は、排気流を反応チャンバーから排出するための排気ラインをさらに備える。排気ラインは排気ポンプのためのフォアラインを構成し、かついくつかの構成では好ましくはポンプユニットの上流に閉鎖弁を備えていてもよい。そのようなポンプフォアラインアセンブリは、利用される化学物質との反応を可能にする手段および/または前記化学物質を中和および/または当該装置から除去するための手段をさらに備えていてもよい。上記手段としては、限定されるものではないが、アフターバーナー装置(反応性ガスの混合を行う)、トラップ(化学物質の吸着を行い、かつ流出する物質の粒子がポンプの中に流れるのを防止する)、スクラバーまたは上記組み合わせのうちのいずれか1つなどの一般に公知のALDツールおよびアプライアンスが挙げられる。反応チャンバーからの流体物質の回収を途切れなく行い、それにより好ましくは真空ポンプとして構成されたポンプにより全堆積プロセスの間に連続的に反応チャンバーから流体物質を除去することが好ましい。
【0059】
当該装置の反応チャンバー内に載置された器具を104において本質的に約100ヘクトパスカル(hPa)以下の圧力に曝露する。場合によっては、当該器具を本質的に約10hPa以下、好ましくは本質的に約1hPa以下、最も好ましくは本質的に約0.1hPa以下の圧力に曝露する。当該装置/反応チャンバーにおいて真空条件を作り出すことが好ましい。
【0060】
場合によっては、工程104は反応チャンバー内の温度を所定のレベルに調整することを含んでもよく、このレベルにおいて、当該医療器具の表面に存在している主に有機性の汚染、分解もしくは劣化痕跡などの残留物中に存在する液体は蒸発/気化し始める。場合によっては、反応チャンバーを例えば摂氏100度(℃)以上に加熱してもよい。指示される温度は、所望の(清浄)効果を生じさせるために必要とされる反応性化学物質の存在下で約20℃~約100℃の範囲内などの100℃未満であってもよい。
【0061】
工程104において当該医療器具を任意に高温と組み合わせられた真空条件に供することによって、当該器具を清浄して不純物/残留物を除去する。
【0062】
105では、当該器具を残留物に反応する前駆体化合物を含むかそれからなる少なくとも1種のガスに曝露する。従って器具物品全体を、限定されるものではないが、酸素(O)、オゾン(O)、トリメチルアルミニウム(TMA)、四塩化チタン(TiCl)、ギ酸(CH)およびアンモニア(NH)などの本質的に清浄特性を有する少なくとも1種の化学物質を含有する反応性ガス流に曝露する。
【0063】
なお、ALDは周囲(例えば大気)中で不安定な多くの化学物質を使用する。例えば空気に曝露した場合にTMAなどの前記化学物質は分解して無害な化合物を形成する。
【0064】
多くの一般的なALD反応は、四塩化チタン(TiCl)および水から酸化チタン(TiO)を堆積させるためなどにTiClを利用する。なお、この点に関して、TiClは一般に有毒ガス(滅菌に適している)であるが、そのごく僅かな量のみをALDにおいて使用し、さらに、あらゆる残留するTiClは、例えばアンモニウムガス(NH)などの気相で提供される適当な化合物でさらに中和することができる。
【0065】
共通する化合物として段階101、104および105のうちのいずれか1つにおいて使用された場合に、TiClは当該表面のヒドロキシル(OH-)基と副反応を起こす場合があり、それにより塩酸(HCl)が形成される。TiClについて上に記載したように、塩酸も例えばNHにより中和されて、本例では塩化アンモニウム(NHCl)などの無害な塩を形成することができる。
【0066】
PEALD反応器条件下では、水素などの気体元素の高反応性イオンおよびフリーラジカルが典型的に形成される。これらの高反応性化学種は当該表面と反応し、かつそれらを効率的に綺麗に清浄する。
【0067】
場合によっては当該医療器具を、当該医療器具の曝露される表面に存在しているかそこに付着されている有機物質の分解を引き起こすような例えばオゾン(O)前駆体に曝露する。汚染された医療器具をオゾン導入に曝露することにより、関連するセンサ装置(以下を参照)によって検出することができるCOが形成される。有機物質を破壊/分解することができる(前駆体)化合物が当該医療器具の表面の残留物と反応した場合に、上述した検出可能なCOの放出に伴って前記有機物質の脱気が生じる。
【0068】
ガス流は孔、穴、チャネルおよび空洞などの当該医療器具の表面/中に存在する凸凹を通り抜けることができる。あるいは、ガス流を別個の操作において(例えば、標的とされるガス流の流れを確立することによって)これらの凸凹を通り抜けさせるか押し通してもよい。
【0069】
前記少なくとも1種のガスは残留物に反応する化学物質を含有することが好ましい。
【0070】
一実施形態では、少なくとも段階104および105の間に少なくとも1つの検出器/センサ装置110によって残留物を検出および/または定量化する。センサ装置110は質量分析計などの残留ガス分析(RGA)装置として構成されていてもよい。装置110は、出て行くガス流と共に反応空間(その中に医療器具が配置されている)から排出される物質を測定および/または定量化するように構成されている。
【0071】
センサ装置110はそれぞれ、堆積および/または分析装置から(すなわち反応チャンバーから)排出されたガス流の少なくとも一部の中の残留物を検出および/または定量化するように構成されている。
【0072】
当該センサは、気化される物質(残留する物質の脱気により生じる蒸気)の量を単に測定するように構成されていてもよい。追加または代わりとして、当該センサは排気ガス流中の前駆体化学物質および/または化学反応生成物の量を検出および定量化するように構成されていてもよい。結果に応じて、当該プロセスをいくつかの例示的な戦略に従って継続することができる。以下の手法を採用することができる。
【0073】
(i)物品(医療器具)をクリーンなもの(医療行為/手術で使用されてないもの)とみなし、かつ例えば(段階105において)オゾン(O)などの有機物質の分解を引き起こす化合物による当該物品の脱気中および/または脱気後に適当なセンサ110によって二酸化炭素(CO)などの有機物質が検出されなかった場合には、(プレ)コーティング101などの前記物品のさらなる処理を省略してもよい。その際当該物品は使用できる状態にある。
【0074】
(ii)(i)に記載されているような脱気の間および/または後に顕著な(所定の閾値を超える)有機汚染が検出および/または測定された場合には、処理105の期間を延長してもよい。
【0075】
(iii)あるいは、(i)に記載されているような脱気の間および/または後に顕著な(所定の閾値を超える)有機汚染が検出および/または測定された場合には、当該物品を洗浄103に戻して可能な限り多くの汚染を除去してもよい。従って、工程104および/または105において検出および/または定量化された残留物の濃度が所定の閾値を超えるという条件下では、当該医療器具を従来の方法による清浄および/または滅菌の手順に戻す。当該閾値は、清浄される器具、分析対象の予測される汚染物質、利用される気相および前駆体化合物などに応じて、各バッチおよび/または一連のバッチ(すなわち反応器載置物)のために個々に設定する。
【0076】
異なる閾値を設定してシナリオ(ii)および(iii)を互いから区別してもよい。あるいは、本質的に同じ閾値(ii、iii)を採用してもよい。
【0077】
(iv)ALD(プレ)コーティング101の間および/または反応チャンバーにおいて行われる段階104、105のうちのいずれか1つの間に、測定される残留ガス濃度が許容レベルまで低下しない場合には、当該物品はもはや使用継続が不可能であり、かつ廃棄に供しなければならないと決定することができる。従って、物品を(例えば一度)従来の洗浄に戻した場合に、その後であっても段階101、104および105のうちのいずれか1つで検出および/または定量化された残留物の濃度がなお所定のレベルに属する((ii)および(iii)において指摘されているような閾値を超えている)という条件下では、前記物品/医療器具を廃棄に供する。
【0078】
105において前記物品を廃棄しなければならないということを決定することができるまで、段階104および105のうちのいずれか1つから当該物品を洗浄103、貯蔵および使用こと102ならびにコーティングまたは再コーティング101に戻すことができる(上向きの矢印を参照、図1)。当該コーティングを前記物品の上に再塗布する必要があれば、当該物品を101に戻すことができる。
【0079】
当該物品の最初のコーティング(段階101)の間にも残留物の検出および/または定量化を行うことが好ましい。
【0080】
場合によっては、従来の清浄手順103を省略してもよい。
【0081】
一態様では、本明細書の上に記載してきた内容に従って医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するための堆積および/または分析装置が提供される。当該装置は、1つ以上の医療器具を受け入れるように構成された少なくとも1つの反応チャンバーを備え、この反応チャンバーにおいて前記医療器具を100hPa未満の圧力に曝露し、かつその後に残留物に反応する少なくとも1種のガスに曝露する。
【0082】
堆積および/または分析装置は、好ましくは原子層堆積反応器などの化学蒸着反応器として構成されている。当該装置は好ましくは、反応チャンバー内および/または前記反応チャンバーの下流、例えば真空ポンプフォアライン内、反応チャンバーに接続された状態、または当該ポンプの後に配置されている少なくとも1つのセンサ装置110を備えていてもよい。
【0083】
さらなる態様では、医療器具を清浄し、かつその表面にある残留物を検出するためのいくつかの先の態様に係る堆積および/または分析装置の使用が提供される。一実施形態では、前記使用は内視鏡などの複数部品からなる医療器具の表面の残留物を清浄および検出するために提供される。
【0084】
本発明に係る方法および装置の上記説明は、宇宙船および地球外惑星探査機に使用される物品および関連する試料容器の滅菌および/または必要とされる滅菌レベルの確認のために同等に適合可能であり、かつ完全に適用可能である。
【0085】
本開示に記載されている実施形態を所望どおりに適合および組み合わせ可能であることが当業者によって理解されるであろう。従って本開示は、添付の特許請求の範囲内で当業者によって認識可能な装置および堆積方法のあらゆる可能な修正を包含することが意図されている。
図1