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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】水溶性フェノール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 61/10 20060101AFI20240403BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20240403BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240403BHJP
   C08G 8/00 20060101ALI20240403BHJP
   C08G 8/10 20060101ALI20240403BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C08L61/10
C08K5/092
C08K3/22
C08G8/00 E
C08G8/10
B24D11/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020069467
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021165351
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 一樹
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-355763(JP,A)
【文献】特開2012-062434(JP,A)
【文献】特開2018-150464(JP,A)
【文献】国際公開第2019/123833(WO,A1)
【文献】特開2013-151705(JP,A)
【文献】特開平05-132608(JP,A)
【文献】特開平05-287171(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1970596(CN,A)
【文献】特開2019-173235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 8/00-8/38
B24D 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ触媒として水酸化バリウムを用いて作製されたレゾール樹脂の、樹脂固形分100重量部に対し、クエン酸を0.05~35重量部含有することを特徴とするフェノール樹脂組成物。
【請求項2】
研磨布紙用である請求項1の記載のフェノール樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨布紙作製時に用いられる水溶性フェノール樹脂組成物で、硬化物の経時の色彩変化、特に褐色化を抑えることのできる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、熱、酸、アルカリ、油に対して良好な耐性を示すので、各種成型品、自動車のエンジン用の中子、半導体部品固定用のエポキシ樹脂の硬化剤、フォトレジスト材料、合板用の接着剤として各種分野にて使用されている。
【0003】
特許文献1は、高硬度充填材複合化材料や高硬度無機質材料などを効果的に研磨でき、その上寿命が長く安価な研磨布紙を作製する為の公報で、バインダとして水溶性のフェノール樹脂を使用した例が示してある。この例は、フェノール樹脂が前述の市場以外でも使用されている一例である。
研磨布紙バインダとして用いられる水溶性フェノール樹脂は、製品の外観を整えるために、顔料が添加される場合がある。顔料が添加された場合、フェノール樹脂の褐色化により、著しく変色している様に観測される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-39736
【文献】特開2005-120327
【文献】特開平4-149222
【文献】特開2003-176328
【文献】特開昭62-116653
【文献】特開平7-62048
【0005】
ところで、特許文献2は、加熱加圧硬化した際及び高温雰囲気下に曝した際でも酸化劣化を起こしにくく、よって、例えばプリント配線板用基板の接着剤として用いても金属箔とポリイミドフィルムに対して秀れた接着力を発揮することができる樹脂組成物に関する公報である。
酸化防止剤として、N,N’-ビス(3-(3,3-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン(商品名:IRGANOX MD1024)、若しくは、ペンタエリスリチル-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:IRGANOX 1010)が挙げてあるが、これら酸化防止剤は水に溶解しないので、水溶性フェノール樹脂組成物に添加することはできない。
【0006】
特許文献3は、ノボラック樹脂を合成する際に触媒としてクエン酸を使用した例が示してあるが、硬化物の変色に関しては言及されておらず、変色に関し改善の余地が有った。特許文献4は、レゾール樹脂合成反応の中和剤としてクエン酸を使用した例が示してあるが、pHを7としたとしか記載が無く、クエン酸の添加量は不明瞭で、且つ変色に関する検討は成されておらず、変色に関しては改善の余地が有った。特許文献5は、フェノール樹脂の変色防止剤として、2-メルカプトベンゾチアゾールを使用した例が示してあるが、効果は十分でなかった。特許文献6は、フェノールマンニッヒ塩基次亜りん酸中和物の製造方法が示してあるが、変色防止性能には改善の余地が有った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フェノール樹脂の褐色への変色を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らが鋭意検討を行った結果、フェノール樹脂固形分100重量部に対し、クエン酸を0.05~35重量部含有することを特徴とするフェノール樹脂組成物を提供するに至った。
【発明の効果】
【0009】
フェノール樹脂の硬化物の褐色への変色が防止できるので、研磨布紙作製のバインダとしてだけではなく、さまざまな用途のフェノール樹脂に応用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
フェノール樹脂組成物の一例を示す。
【0011】
本発明のフェノール樹脂組成物は、レゾール樹脂を用いて検討を行った。レゾール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類をアルカリ触媒の存在下反応させる事によって得られる。
【0012】
本願発明のフェノール樹脂組成物に使用されるフェノール樹脂のフェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール、パラ-ターシャリー-ブチルフェノール、パラ-セカンダリー-ブチルフェノール、ナフトール、カテコール、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、ジメチルヒドロキノン、等が挙げられる。
これらフェノール類は、単独で使用しても構わないし、複数個を組み合わせる事もできる。
【0013】
本願発明のフェノール樹脂組成物に使用されるフェノール樹脂のアルデヒド類としては、フェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類であれば使用可能である。
例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン(メタホルムアルデヒド)などを単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
好適なアルデヒドとしては、パラホルムアルデヒドである。添加量としてはフェノール類100重量部に対し92%-パラホルムアルデヒドとして40~100重量部、より好適には50~90重量部である。
【0014】
本願発明のフェノール樹脂組成物に用いられるフェノール樹脂の、フェノール類とアルデヒド類とを反応させる際に用いる触媒としては、特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジエチルエタノールアミン等の塩基性触媒を適宜使用することができる。
これら触媒は、単独で使用しても構わないし、複数個を組み合わせる事もできる。
好適な材料は水酸化バリウムで、フェノール類100重量部に対し1~20重量部、より好適には5~15重量部である。
【0015】
フェノール類とアルデヒド類とを反応させる方法には、特に制限はなく、例えばフェノール類と、アルデヒド類、触媒を一括で仕込み反応させる方法、またはフェノール類と触媒を仕込んだ後、所定の反応温度にてアルデヒド類を添加する方法が挙げられる。
このとき、反応温度は50℃~130℃、より好適には60℃~120℃である。
50℃未満であると反応の進行が遅く、かつ未反応のフェノール類が残存するため好ましくなく、また130℃を超える温度では高分子量成分の生成が促進されるため好ましくない。
反応時間は特に制限はなく、アルデヒド類および触媒の量、反応温度により調整すればよい。
分子量の調整は、反応温度と反応時間の制御で行うことが出来る。
【0016】
本願発明のフェノール樹脂組成物のフェノール樹脂は、停止反応として、酸性成分中和剤を添加する事によって停止する事ができる。中和剤としては、スルファミン酸、ホウ酸、リン酸、シュウ酸、塩酸、硫酸、酢酸、草酸、安息香酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。好適な材料は硫酸で、25%硫酸としてフェノール類100重量部に対し1~10重量部、より好適には3~7重量部添加すれば、反応は停止する。
【0017】
本願発明のフェノール樹脂組成物のフェノール樹脂は、未反応のホルムアルデヒドを捕捉剤として、尿素、エチレン尿素、ブチル尿素、カルボヒドラジド、1,1-ジメチル尿素、1,1-ジエチル尿素、シアノアセチル尿素、シクロヘキシル尿素、アセチル尿素、アリル尿素、1,3-ジアリル尿素、アプロナール、ベンゾイレン尿素、ベンゾイル尿素、ベンジル尿素、1,3-(ヒドロキシメチル)尿素等の尿素および尿素誘導体を添加できる。好適な材料としては尿素で、フェノール類100重量部に対し1~20重量部、より好適には5~15重量部添加すれば、未反応のホルムアルデヒドを十分に捕捉できる。
【0018】
本願発明のフェノール樹脂組成物の一例を示すが、フェノール樹脂は、停止反応、未反応のホルムアルデヒドの捕捉剤を添加、溶解させた後、系中の水を25重量部蒸発させて、20重量部のメタノールを添加して仕上げが行われる。この時のフェノール樹脂固形分は、約77.5%と成る。
【0019】
本願発明のフェノール樹脂組成物は、前述のフェノール樹脂129.03重量部(フェノール樹脂固形分100重量部)に対し、顔料と酸を添加することによって作製することが出来る。顔料は任意であるが、本願では、青顔料として市販のイミンブルーと、赤顔料として御国色素社製、製品名:SAレッド13647を使用した。添加量は前述のフェノール樹脂129.03重量部に対し、6.0重量部である。
酸の添加量は、フェノール樹脂の合成時に用いた水酸化バリウムの量によって決定した。(酸のモル比/水酸化バリウムのモル比)=1を標準として、クエン酸については、この比率が0.05~10まで、量検討を行った。
【0020】
以下に、本発明について実施例、比較例および試験例等を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【実施例
【0021】
<合成樹脂Aの作製方法>
フェノールを100重量部、92%-パラホルムアルデヒドを70重量部、水酸化バリウム8.2gをフラスコに仕込み、過加熱に成らない様に注意し、75℃に昇温した。75℃に保持しながら2時間反応させた後、40℃以下に冷却し、硫酸を3.65g投入、撹拌して反応を停止させた。この後、尿素を9.5g投入し、撹拌溶解させた。水を25重量部蒸発させた後、メタノールを20g添加し、撹拌して均一な溶液とし、合成樹脂Aを得た。この時のフェノール樹脂固形分は、77.5%であった。
【0022】
<実施例1の組成物作製方法>
合成樹脂Aの作製方法で得た合成樹脂Aを129.3g、イミンブルーを6g、50%-クエン酸を0.29g秤取り、均一に成るまで撹拌し、実施例1の組成物を得た。酸の添加量とフェノール樹脂の合成時に用いた水酸化バリウムの量は、(酸のモル比/水酸化バリウムのモル比)=0.05と成る。
【0023】
<実施例2~7、比較例1~10の組成物作製方法>
表1、表2に示す割合で、合成樹脂A、イミンブルー、SAレッド13647、各種酸を秤取り、実施例1の要領で、実施例1~7、比較例1~10の組成物を得た。実施例4、実施例7、比較例1~10の組成物は、酸の添加量とフェノール樹脂の合成時に用いた水酸化バリウムの量は、(酸のモル比/水酸化バリウムのモル比)=1と成る。実施例2~3、実施例4~6は、表1に示す通りである。
【0024】
<フェノール樹脂組成物、硬化物の褐色への変色確認方法>
実施例1~7、比較例1~10の組成物をそれぞれ、硬化後の厚みが約0.9mmに成る様に、径約8cmの平底の浅皿に流し込み、120℃のオーブンに2時間投入し、硬化させた。加温促進試験用と、加温促進試験を行わないブランク、それぞれ2枚づつ試験片を用意した。
硬化物の経時の色彩変化は、加温促進試験にて行った。前述の試験片1枚を、140℃のオーブンに2時間投入し、140℃のオーブンに投入していない試験片と比較して、殆ど変色していない場合を○、著しく褐色への変色した場合を×とした。結果を表3、表4に示す。
【0025】
<研磨布紙代替試験方法>
実施例1~7、比較例1~10の組成物を、固形分が40%と成る様に、(メタノール/水)=(1/1)溶液で希釈した。この希釈液を、50mm×150mmにカットしたろ紙(ADVANTEC526)に含浸させた後、120℃のオーブンに1時間投入し、硬化させた。この硬化後の含浸紙を1つの含浸紙から50mm×35mm×3枚切りだし、3点曲げ試験を行った。
支点間距離は30mm、クロスヘッドスピードは10mm/minで、使用した機器は、T.S.E社製、製品名:オートコム万能試験機AC-50KN-CM-Rである。
曲げ強度が、55MPa以上を○、55MPa未満を×とした。n=3平均である。結果を表3、表4に示す。
【0026】
フェノール樹脂固形分100重量部に対し、クエン酸を0.05~35重量部含有することを特徴とするフェノール樹脂組成物を用いた実施例1~7は、フェノール樹脂組成物、硬化物の褐色への変色を起こさず、研磨布紙代替試験では、添加量を多くした場合でも、55MPaと十分な曲げ強度を示した。
一方、中和以外で酸成分を添加していない比較例1、クエン酸ではない酸を使用した比較例2~10は、曲げ強度は十分な結果であったが、硬化物は褐色への変色が著しかった。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】