(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】加工用治具、加工機、及びワークの加工方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/22 20060101AFI20240403BHJP
B23Q 3/02 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B23Q17/22 A
B23Q3/02 A
(21)【出願番号】P 2020093170
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和木 謙治
(72)【発明者】
【氏名】佐野 行拓
(72)【発明者】
【氏名】田村 佳広
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05305992(US,A)
【文献】実開昭58-117327(JP,U)
【文献】実開昭62-178031(JP,U)
【文献】実開昭62-133106(JP,U)
【文献】特開昭57-136109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/02,17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して着脱自在に固定される固定部と、
前記ワークを加工する加工機の位置決め基準壁の表面に当接する球状の当接部と、
前記固定部と前記当接部とを連結し、前記ワークの表面からの前記当接部の頂点の高さ位置を調節する調節部と、を備え、
前記当接部は、表面よりも内部に配置され且つ接触式3次元測定器のプローブを受け止めて支持するプローブ受部分を有
し、
前記プローブ受部分は、球状の先端部を有する前記プローブの前記先端部の中心と前記当接部の中心とが一致する位置で前記プローブを支持するように、前記当接部の前記表面から前記当接部の中心まで延びて形成されている、加工用治具。
【請求項2】
前記プローブ受部分は、前記当接部の前記固定部側とは反対側の端部よりも前記固定部側に配置されている、請求項
1に記載の加工用治具。
【請求項3】
前記調節部は、
内周面に雌ネジが形成された筒状の本体部と、
前記本体部の前記雌ネジに螺合されて前記本体部の筒軸方向一端から出退自在に配置されたネジ軸と、
前記本体部又は前記ネジ軸に固定された操作部と、を有する、請求項1
又は2に記載の加工用治具。
【請求項4】
前記調節部は、前記ネジ軸の前記本体部との軸周りの相対位置を規制する規制部を有する、請求項
3に記載の加工用治具。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の前記加工用治具と、
前記加工用治具と接触可能に配置された定盤と、
前記加工用治具と接触可能且つ前記定盤の表面に対して垂直に配置された少なくとも1つの位置決め基準壁と、を備える、加工機。
【請求項6】
ワークに対して着脱自在に固定される固定部と、前記ワークを加工する加工機の位置決め基準壁の表面に当接する球状の当接部と、前記固定部と前記当接部とを連結し、前記ワークの表面からの前記当接部の頂点の高さ位置を調節する調節部と、を備え、前記当接部が、表面よりも内部に配置され且つ接触式3次元測定器のプローブを受け止めて支持するプローブ受部分を有する、加工用治具を用い、前記ワークの表面に前記固定部を固定する第1ステップと、
前記調節部により、前記ワークの表面からの前記当接部の前記頂点の前記高さ位置を調節する第2ステップと、
前記第2ステップ後に、前記固定部が固定された前記ワークを、前記位置決め基準壁の前記表面に前記当接部が当接するように配置する第3ステップと、
前記第3ステップ後に前記ワークを加工する第4ステップと、を有し、
前記第1ステップでは、球状の先端部を有する前記プローブの前記先端部の中心と前記当接部の中心とが一致する位置で前記プローブを支持するように、前記当接部の前記表面から前記当接部の中心まで延びて形成されている前記プローブ受部分を有する、前記加工用治具を用い、
前記第2ステップでは、前記プローブを前記プローブ受部分に接触させて、前記ワークに前記固定部を固定した状態で前記当接部を前記位置決め基準壁の前記表面に当接させたときの前記ワークと前記加工機との相対位置を予め前記接触式3次元測定器により測定し、その測定結果に基づいて前記高さ位置を調節する、ワークの加工方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを加工する際に用いられる加工用治具、加工機、及びワークの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の台車枠等の構造物を製造する場合、構造物の製造途中のワークは、例えば、所定の加工機により加工される。
【0003】
ワークを加工機により機械加工する場合、ワークは、例えば、加工機の正確な座標位置に予め配置される必要がある。このため、例えば、作業者がワークの表面に罫書線を記入した後、ワークに記入された罫書線に基づいて、ワークと加工機との座標位置が合わせられる。
【0004】
ワークに罫書線を記入する方法としては、作業者が定盤を用いて手作業でワークに罫書線を記入する方法の他、例えば特許文献1に開示されるように、光学式3次元測定器を用いてワークの3次元モデルを構築し、この3次元モデルと設計モデルとを比較することによりワークと設計モデルとの座標位置を合わせた上で、3次元モデルに基づいてワークに罫書線を記入する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した各方法によれば、例えば、作業者がワークに罫書線を記入し、加工機内にワークを配置した後、ワークと加工機との座標を位置合わせする必要がある。このため、作業者の作業負担が増大する。また、ワークと加工機との座標の位置合わせ中は、加工機による加工作業を行えないため、加工機を用いた構造物の製造効率が低下する。
【0007】
そこで本発明は、ワークを加工機により加工する場合において、作業者の作業負担を軽減しながらワークと加工機とを迅速に位置合わせ可能にすると共に、加工機を用いた構造物の製造効率が低下するのを防止可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る加工用治具は、ワークに対して着脱自在に固定される固定部と、前記ワークを加工する加工機の位置決め基準壁の表面に当接する球状の当接部と、前記固定部と前記当接部とを連結し、前記ワークの表面からの前記当接部の頂点の高さ位置を調節する調節部と、を備え、前記当接部は、表面よりも内部に配置され且つ接触式3次元測定器のプローブを受け止めて支持するプローブ受部分を有する。
【0009】
上記構成を有する加工用治具では、当接部は球状であり、ワークを加工する加工機の位置決め基準壁の表面に当接するように配置される。当接部を位置決め基準壁の表面に当接させた場合、位置決め基準壁の表面と当接部の中心位置との間の最短距離は、加工用治具が固定されたワークが歪を生じていても変化しない。
【0010】
よって、例えば、加工機とワークとを位置合わせしようとする座標軸方向に延びるように、予めワークに対して固定部を固定し、調節部を操作して、ワークの表面からの当接部の高さ位置を前記最短距離を見込んだ所定値に調節しておき、当接部を位置決め基準壁の表面に当接させるだけで、ワークの歪の状態に関わらず、ワークと加工機とを前記座標軸方向で容易且つ正確に位置合わせできる。
【0011】
また、例えば、接触式3次元測定器を用いた測定結果により得られるワークの3次元モデルの座標空間において、プローブ受部分に支持されたプローブの位置から導き出される当接部の中心位置を把握することで、当接部と位置決め基準壁との間の最短距離を確認して、ワークの表面からの当接部の高さ位置を前記所定値となるように迅速かつ正確に設定できる。これにより、作業者の作業負担を軽減しながらワークと加工機との位置合わせを迅速に行える。
【0012】
また、ワークに対する固定部の固定と、調節部の操作とは、加工機外で行えるため、加工機内でワークと加工機とを位置合わせする作業を削減できる。よって、加工機を用いた構造物の製造効率が低下するのを防止できる。
【0013】
本発明の一態様に係る加工機は、上記した加工用治具と、前記加工用治具と接触可能に配置された定盤と、前記加工用治具と接触可能且つ前記定盤の表面に対して垂直に配置された少なくとも1つの位置決め基準壁と、を備える。
【0014】
上記構成の加工機によれば、前記加工用治具を用いることで、作業者の作業負担を軽減しながらワークと加工機との位置合わせを迅速に行える。
【0015】
本発明の一態様に係るワークの加工方法は、ワークに対して着脱自在に固定される固定部と、前記ワークを加工する加工機の位置決め基準壁の表面に当接する球状の当接部と、前記固定部と前記当接部とを連結し、前記ワークの表面からの前記当接部の頂点の高さ位置を調節する調節部と、を備え、前記当接部が、表面よりも内部に配置され且つ接触式3次元測定器のプローブを受け止めて支持するプローブ受部分を有する、加工用治具を用い、前記ワークの表面に前記固定部を固定する第1ステップと、前記調節部により、前記ワークの表面からの前記当接部の前記頂点の前記高さ位置を調節する第2ステップと、前記第2ステップ後に、前記固定部が固定された前記ワークを、前記位置決め基準壁の前記表面に前記当接部が当接するように配置する第3ステップと、前記第3ステップ後に前記ワークを加工する第4ステップと、を有し、前記第2ステップでは、前記プローブを前記プローブ受部分に接触させて、前記ワークに前記固定部を固定した状態で前記当接部を前記位置決め基準壁の前記表面に当接させたときの前記ワークと前記加工機との相対位置を予め前記接触式3次元測定器により測定し、その測定結果に基づいて前記高さ位置を調節する。
【0016】
上記方法によれば、前記加工用治具を用い、第1~4ステップを行うことで、作業者の作業負担を軽減しながらワークと加工機との位置合わせを迅速に行える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ワークを加工機により加工する場合において、作業者の作業負担を軽減しながらワークと加工機とを迅速に位置合わせできると共に、加工機を用いた構造物の製造効率が低下するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る接触式3次元測定器と加工用治具とを示す図である。
【
図3】加工用治具が固定されたワークを加工機と位置合わせするときの様子を示す図である。
【
図4】
図1の加工用治具を用いてワークと加工機とを位置合わせする方法のフローチャートである。
【
図5】第1変形例に係る加工用治具の部分的な側面図である。
【
図6】第2変形例に係る加工用治具の部分的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る接触式3次元測定器1(以下、単に測定器1と称する。)と加工用治具10とを示す図である。
図2は、
図1の加工用治具10の側面図である。
【0020】
測定器1は、構造物の製造途中のワークであるワークWの立体構造の複数位置の座標を測定し、測定結果に基づいてワークWの3次元モデルを構築する。
図1に示すように、測定器1は、一例としてアーム式であり、アームユニット2とコンピュータ3とを備える。アームユニット2は、多軸(一例として6軸)式であり、連結された複数のアーム2a~2dを有する。最も先端側のアーム2dには、長尺状のプローブ2eが設けられている。プローブ2eには、球状に形成されてワークWと接触する先端部2fが設けられている。プローブ2eの先端部2fは、作業者により手動で移動される。構造物は、一例として鉄道車両用台車枠であり、ワークWは、応力除去焼鈍後の台車枠である。
【0021】
アームユニット2は、基台2gと複数の関節部分とを更に有する。基台2gは、ワークWの表面又は床面等に配置される。本実施形態の基台2gは、ワークWの表面に固定される。ワークWの表面に基台2gを固定する場合、ワークWに基台2gを締結部材等により固定してもよい。
【0022】
各関節部分では、隣接する2つのアーム2a~2dが所定の回転軸回りに相対的に回転する。各間接部分には、エンコーダが内蔵されている。隣接する2つのアーム2a~2dの回転量は、エンコーダにより検出され、その検出信号が、ケーブル4による有線通信、又は無線通信によりコンピュータ3に入力される。これにより測定器1では、作業者がプローブ2eの先端部2fの位置を手動で移動させて、ワークWの表面に先端部2fを接触させることにより、ワークWの表面の3次元の座標位置を測定することが可能である。
【0023】
コンピュータ3は、一例としてパーソナルコンピュータであり、演算部と記憶部(いずれも不図示)との他、作業者の入力情報を受け付ける入力部3aと、作業者に所定情報を表示する表示部3bとを有する。
【0024】
記憶部には、制御プログラムと各種情報とが記憶されている。この情報には、入力部3aを介して入力される設定情報の他、アームユニット2により測定されたワークWの複数の座標位置の情報と、ワークWの設計図である3次元の設計モデル(3DCG)のデータとが含まれる。
【0025】
演算部は、制御プログラムに基づいて、アームユニット2により測定されたワークWの複数の位置情報を読み込むと共に、この位置情報が示す座標位置を、ワークWの設計モデルが置かれたモデル空間(仮想空間)内の座標にプロットし、表示部3bに表示させる。本実施形態のコンピュータ3では、一例として、演算部が、CPUにより実現される。また記憶部が、RAM、ROM、及びHDDにより実現される。なお測定器1は、アーム式以外の方式のものでもよい。
【0026】
加工用治具10は、ワークWと、ワークWを機械加工する加工機5との座標(ここでは3次元座標)を位置合わせするために用いられる。加工機5は、一例として門型加工機である。加工機5は、加工用治具10と、定盤9と、加工用治具10と接触可能且つ定盤9の表面に対して垂直に配置された少なくとも1つの位置決め基準壁を備える。具体的に加工機5は、この位置決め基準壁として、X軸方向に垂直な壁面を有する第1位置決め基準壁(定盤)7、及び、Y軸方向に垂直な壁面を有する第2位置決め基準壁8を有する。また定盤9は、Z軸方向に垂直な壁面を有する第3位置決め基準壁を兼ねている(
図3参照)。以下、第1位置決め基準壁7、第2位置決め基準壁8、及び、定盤9を、基準壁7~9とも称する。
【0027】
図1~4に示すように、加工用治具10は、ワークWの表面に固定される。本実施形態では、複数の加工用治具10が、測定器1により座標位置が測定されたワークWの表面の複数位置に固定される。
【0028】
加工用治具10は、球状の先端部2fを有するプローブ2eが設けられた測定器1と組み合わせて用いられる。加工用治具10は、固定部11、当接部12、及び調節部13を備える。固定部11は、ワークWに対して着脱自在に固定される。一例として、固定部11は、ワークWの表面に磁力により着脱自在に固定される。固定部11のワークWと対向する面は、一例として平坦面であり、ワークWの表面と面接触する。なお、ワークWの表面に対する固定部11の固定方式は、磁力を利用する方式以外の方式でもよい。
【0029】
当接部12は、球状である。各々の加工用治具10の当接部12は、ワークWを加工機5に対して設置する際に、加工機5の基準壁7~9のうち対応する対象のいずれかの表面に当接するように配置されている。当接部12は、表面よりも内部に配置され且つ測定器1のプローブ2eを受け止めて支持するプローブ受部分12aを有する。プローブ受部分12aは、球状の先端部2fを有するプローブ2eの先端部2fの中心O1と、当接部12の中心O2とが一致する位置で、プローブ2eを支持するように、当接部12の表面から当接部12の中心O2まで延びて形成されている。プローブ受部分12aは、当接部12の固定部11側とは反対側の端部よりも固定部11側に配置されている。
【0030】
本実施形態のプローブ受部分12aは、当接部12の外部から内部に向けて内径が漸減する円錐状の内部空間を有するように形成されている。プローブ受部分12aは、プローブ2eの先端部2fと全周方向に環状に接触する。プローブ受部分12aは、プローブ2eの先端部2fを挿入し易いように、プローブ2eの先端部2fに対して十分に大きい開口径を有するように形成されている。
【0031】
プローブ受部分12aの内部の奥側にプローブ2eの先端部2fを挿入した状態において、プローブ受部分12aは、プローブ2eの先端部2fと接触する。この状態では、プローブ受部分12aに対するプローブ2eの先端部2fの姿勢が変化しても、当接部12の中心O2とプローブ2eの先端部2fの中心O1とは一致する。これにより、ワークWの表面に固定された加工用治具10に向けて、アームユニット2がどのような姿勢で延びていても、測定器1により、当接部12の中心O1の座標位置を正確に測定できる。
【0032】
調節部13は、固定部11と当接部12とを連結し、ワークWの表面からの当接部12の頂点の高さ位置を調節する。本実施形態の調節部13は、内周面に雌ネジが形成された筒状の本体部14と、本体部14の雌ネジに螺合されて本体部14の筒軸方向一端から出退自在に配置されたネジ軸(第1ネジ軸15及び第2ネジ軸16)と、ネジ軸15に挿通され且つ固定されたリング状の第1操作部17と、ネジ軸16に挿通され且つ固定されたリング状の第2操作部18とを有する。
【0033】
本体部14は、円筒状であり、当接部12と反対側に固定部11が配置されている。本体部14の雌ネジには、第1ネジ軸15が螺合されている。第1ネジ軸15は、内周面に第2ネジ軸16と螺合する雌ネジが形成されている。操作部17は、第1ネジ軸15に固定され、操作部18は、第2ネジ軸16に固定されている。
【0034】
本体部14に対してネジ軸15,16の少なくともいずれかを軸周りに相対的に往復回転させることで、本体部14から突出するネジ軸15,16の突出量が調節される。また第1ネジ軸15に対して第2ネジ軸16を軸回りに相対的に往復回転させることで、第1ネジ軸15から当接部12に向けて突出する第2ネジ軸16の突出量が調節される。操作部17は、第1ネジ軸15又は本体部14のいずれかに固定されていればよい。
【0035】
固定部11をワークWに対して固定した状態で、本体部14に対してネジ軸15,16を軸周りに相対的に往復回転させることにより、ワークWの表面からの当接部12の高さ位置が変化する。複数本のネジ軸15,16を各軸方向に伸縮可能に組み合わせることで、調節部13の調節幅を拡大できる。なお、調節部13が有するネジ軸の本数は、1本でもよいし、3本以上でもよい。
【0036】
本実施形態の本体部14には、第1ネジ軸15の径方向外方から内方にネジを締結することにより、第1ネジ軸15の本体部14との軸周りの相対位置を規制する規制部19が設けられている。また操作部17には、第2ネジ軸16の径方向外方から内方にネジを締結することにより、第2ネジ軸16の第1ネジ軸15との軸周りの相対位置を規制する規制部20が設けられている。操作部18は、第2ネジ軸16の当接部12側の端部に位置している。
【0037】
図2に示すように、本実施形態では、プローブ受部分12aは、第1ネジ軸15の軸方向に垂直な方向に開口している。第1ネジ軸15に垂直な方向から見て、プローブ受部分12aの当接部12内での輪郭部分をなす一対の直線の間の角度は、一例として、30°以上180°未満の範囲の値に設定されている。プローブ受部分12aにプローブ2eを挿入し易く、且つ、プローブ受部分12aの周縁を加工機5の基準壁7~9に当たりにくくするため、前記角度は、30°以上120°以下の範囲の値であることが望ましく、30°以上90°以下の範囲の値であることが一層望ましい。
【0038】
ここで、当接部12が球状であるため、ワークWの表面に固定部11を固定した状態において、当接部12を加工機5の基準壁7~9のいずれかに当接させた場合、測定器1を用いて構築されたワークWの3次元モデルが設計モデルに対して歪を生じているか否かに関わらず、基準壁7~9のうち当接部12が当接した対象と当接部12の中心O2との最短距離は一定であり、且つ、ワークWの3次元モデルの座標中心と当接部12の中心O2との間の最短距離も一定である。
【0039】
よって、ワークWの3次元モデルのX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のそれぞれに対応するように、ワークWに複数の加工用治具10を固定すれば、各加工用治具10の当接部12を加工機5の対応する基準壁に当接させたときの加工機5の座標中心と、ワークWの3次元モデルの座標中心とのずれを把握できる。
【0040】
従って、加工機5内にワークWを配置する前に、ワークWの表面からの各加工用治具10の当接部12の中心O2の位置を所定値に予め調節しておけば、加工機5内にワークWを配置して、各当接部12を対応する基準壁に当接させるだけで、加工機5の座標と、ワークWの3次元モデルの座標と一致させ、加工機5とワークWとを位置合わせすることができる。
【0041】
以下、測定器1と加工用治具10とを用いて、ワークWを加工機5と相対的に位置合わせする方法を例示する。
図3は、加工用治具10が固定されたワークWを加工機5と位置合わせするときの様子を示す図である。
図4は、
図1の加工用治具10を用いてワークWと加工機5とを位置合わせする方法のフローチャートである。
【0042】
まず作業者は、加工機5外部の作業スペースにて、アームユニット2を適切な場所に配置し、測定器1をワークWの表面に固定する。
図1に示すように、本実施形態では、ワークWの表面にアームユニット2の基台2gを固定する。なお、測定器1は必ずしもワークWの表面に固定する必要はなく、測定の前後において、ワークWの3次元モデルの座標中心との相対位置関係が一定に保たれる位置に固定されていればよい。
【0043】
この状態で、作業者は、アームユニット2のプローブ2eの先端部2fを、ワークWの表面の複数箇所に接触させる。このときのワークWの表面との接触点の位置及び数は、ワークWを設計モデルの座標系とワークWの原点座標系とが互いに関連し変換できるように、適宜設定される。これにより作業者は、ワークWの表面の複数の接触点の相対位置の座標を測定してコンピュータ3の記憶部に記録する。
【0044】
作業者は、上記のように測定器1によって測定された現実空間のワークWの座標位置に基づいて、設計モデルの座標系の位置に対応するワークWの測定された座標位置を求めるように、コンピュータ3を操作する。コンピュータ3の演算部は、制御プログラムにより、測定された各接触点の現実空間の座標位置を設計モデルの座標系の座標位置へ座標変換する。これにより、測定結果に基づいて、設計モデルの座標系にワークWの3次元モデルが構築されると共に、この3次元モデルと設計モデルとの座標合わせが行われる(S1)。この座標合わせの後、プローブ2eの先端部2fの位置が、3次元モデル及び設計モデルのモデル空間内に対応し、コンピュータ3の表示部3bに表示される。
【0045】
次に作業者は、ワークWの表面の所定位置に加工用治具10を固定する(S2)。本実施形態では、ワークWの3次元モデルのX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のそれぞれに対応するように、ワークWの表面に複数の加工用治具10を固定する。このとき、固定部11をワークWの表面に確実に固定する。ここで言う複数とは、3次元モデルのX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のそれぞれに対応する少なくとも合計3個以上の個数を示す。
図3に示すように、本実施形態では一例として、8個の加工用治具10をワークWの表面に固定している。
【0046】
次に作業者は、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のうち、位置合わせしようとする軸方向(一例としてX軸方向)に対応するようにワークWの表面に固定した加工用治具10のプローブ受部分12aに、プローブ2eの先端部2fを挿入する。そして、先端部2fをプローブ受部分12aにより保持した状態で、先端部2fの中心O1(当接部12の中心O2)の座標位置を測定する(S3)。
【0047】
次に作業者は、加工用治具10の当接部12を仮に基準壁(ここでは第1位置決め基準壁7)に当接させたときのワークWの3次元モデルのX軸の中心位置(0点)と加工機5のX軸中心線の中心位置(0点)との間のX軸方向の相対的なずれ量を、測定器1の測定結果により確認する。そして、この測定結果に基づいて、このずれ量が0となる目標(相対)位置に当接部12が配置されるように、加工用治具10の調節部13を調節する(S4)。
【0048】
このS4での調節は、本実施形態では、ワークWを加工機5内に配置する前に、本体部14からのネジ軸15,16の突出量を調節することにより行われる。S4でのずれ量の読み取りは、コンピュータ3の表示部3bの表示内容により容易且つ迅速に把握される。調節完了後、作業者は、調節部13の調節内容が変わらないように、規制部19,20を操作する。これにより、各加工用治具10のワークWに対する当接部12の位置が固定される(S5)。
【0049】
次に作業者は、ワークWに固定した全ての加工用治具10の調節が完了したか否かを判定する(S6)。S6において、作業者は、全ての加工用治具10の調節が完了していないと判定した場合、ステップをS3に戻し、まだ加工用治具10の調節が完了していない他の加工用治具10について、S3~S6を同様に順次行う。本実施形態では、これにより、Y軸方向及びZ軸方向の各方向において、加工用治具10のワークWに対する当接部12の位置が適切に調節されて固定される(S5)。
【0050】
S6において、作業者は、全ての加工用治具10の調節が完了したと判定した場合、次に、各加工用治具10を固定したワークWを加工機5内に配置し、各加工用治具10を対応する基準壁に静かに当接させる(
図3,S7)。これにより、ワークWと加工機5との相対的な位置合わせが完了し、フローは終了する。
【0051】
その後、作業者は加工機5によりワークWを加工する。このとき、加工機5に対してワークWが適切に設定されているため、ワークWの加工予定部分が加工機5により正確に加工される。
【0052】
このように、本実施形態のワークWの加工方法は、加工用治具10を用い、ワークWの表面に固定部11を固定する第1ステップと、調節部13により、ワークWの表面からの当接部12の頂点の高さ位置を調節する第2ステップと、第2ステップ後に、固定部11が固定されたワークWを、位置決め基準壁7~9の表面に当接部12が当接するように配置する第3ステップと、第3ステップ後にワークWを加工する第4ステップと、を有する。第2ステップでは、プローブ2eをプローブ受部分12aに接触させて、ワークWに固定部11を固定した状態で当接部12を位置決め基準壁7~9の表面に当接させたときのワークWと加工機5との相対位置を予め測定器1により測定し、その測定結果に基づいて前記高さ位置を調節する。この方法によれば、加工用治具10を用い、第1~4ステップを行うことで、作業者の作業負担を軽減しながらワークWと加工機5との位置合わせを迅速に行える。
【0053】
以上説明したように、加工用治具10では、当接部12は球状であり、加工機5の位置決め基準壁7~9の表面に当接するように配置される。当接部12を加工機5の位置決め基準壁7~9の表面に当接させた場合、加工機5の位置決め基準壁7~9のうち当接した対象の表面と当接部12の中心O2の位置との間の最短距離は、加工用治具10が固定されたワークWが歪を生じていても変化しない。
【0054】
よって、例えば、加工機5とワークWとを位置合わせしようとする座標軸方向に延びるように、予めワークWに対して固定部11を固定し、調節部13を操作して、ワークWの表面からの当接部12の高さ位置を前記最短距離を見込んだ所定値に調節しておき、当接部12を加工機5の位置決め基準壁7~9の表面に当接させるだけで、ワークWの歪の状態に関わらず、ワークWと加工機5とを座標軸方向で容易且つ正確に位置合わせできる。そのため、その後ワークWをその位置で固定することで、加工機5内でのワークWのセッティングを迅速に完了できる。
【0055】
また、例えば、測定器1を用いた測定結果により得られるワークWの3次元モデルの座標空間において、プローブ受部分12aに支持されたプローブ2eの位置から導き出される当接部12の中心O2の位置を把握することで、各々の当接部12と、対応する位置決め基準壁7~9との間の最短距離を確認して、ワークWの表面からの当接部12の高さ位置を前記所定値となるように迅速かつ正確に設定できる。これにより、ワークWを加工機5により加工する場合において、作業者の作業負担を軽減しながらワークWと加工機5との位置合わせを迅速に行える。
【0056】
また、ワークWに対する固定部11の固定と、調節部13の操作とは、加工機5外で行えるため、加工機5内でワークWと加工機5とを位置合わせする作業を削減できる。よって、加工機5を用いた構造物の製造効率が低下するのを防止できる。また、加工用治具10を加工機5に固定する必要がないため、加工機5に加工用治具10を固定するための固定部分を別途設ける必要がない。また、加工機5に加工用治具10を固定することにより加工機5の基準壁7~9が位置ずれを生じる問題を回避できる。
【0057】
またプローブ受部分12aは、球状の先端部2fを有するプローブ2eの中心O1と当接部12の中心O2とが一致する位置でプローブ2eを支持するように、当接部12の表面から当接部12の中心O2まで延びて形成されている。このように、プローブ2eの中心O1と当接部12の中心O2とが一致することで、ワークWに加工用治具10を固定した状態において、測定器1のプローブ2eをプローブ受部分12aに支持させるだけで、当接部12の中心O2の座標位置を測定器1により迅速に把握できる。
【0058】
またプローブ受部分12aは、当接部12の固定部11側とは反対側の端部よりも固定部11側に偏在している。これにより、当接部12を加工機5の基準壁7~9に当接させる場合に、当接部12の球状表面を基準壁7~9に当接させ、加工機5とワークWとを位置決めし易くできる。
【0059】
また調節部13は、内周面に雌ネジが形成された筒状の本体部14と、本体部14の雌ネジに螺合されて本体部14の筒軸方向一端から出退自在に配置されたネジ軸15,16と、ネジ軸15,16に固定された操作部17,18とを有する。これにより、操作部17,18を操作してネジ軸15,16を軸周りに回転させることで、調節部13の長さ寸法を変化させることができ、ワークWの表面からの当接部12の高さ位置を容易に調節できる。
【0060】
また調節部13は、第1ネジ軸15の本体部14との軸周りの相対位置を規制する規制部19を有する。これにより、本体部14と第1ネジ軸15とにより調節されたワークWの表面からの当接部12の高さ位置を適切に固定できる。また調節部13は、第2ネジ軸16の第1ネジ軸15との軸周りの相対位置を規制する規制部20を更に有する。これにより、第1ネジ軸15と第2ネジ軸16とにより調節されたワークWの表面からの当接部12の高さ位置も適切に固定できる。
【0061】
また加工機5は、加工用治具10と、加工用治具10と接触可能に配置された定盤9と、加工用治具10と接触可能且つ定盤9の表面に対して垂直に配置された少なくとも1つの基準壁7,8と、を備える。この構成の加工機5によれば、加工用治具10を用いることで、作業者の作業負担を軽減しながらワークWと加工機5との位置合わせを迅速に行える。
【0062】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図5は、第1変形例に係る加工用治具110の部分的な側面図である。
図5に示すように、加工用治具110の当接部112は、プローブ受部分112aを有する。このプローブ受部分112aは、針状の先端部102fを有するプローブ102eが設けられた接触式3次元測定器のプローブ102eを支持する。プローブ受部分112aは、プローブ102eの先端部102の先端O3と当接部112の中心O4とが一致する位置でプローブ102eを支持するように、当接部112の表面から当接部112の中心O4まで延びて形成されている。
【0063】
本変形例においても、プローブ受部分プローブ102eは、プローブ102eの先端部2fを挿入し易いように、プローブ102eの先端部102fに対して十分に大きい開口径を有するように形成されている。このような当接部112を備える加工用治具110によっても、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0064】
図6は、第2変形例に係る加工用治具210の部分的な側面図である。
図6に示すように、加工用治具210の当接部212は、全体としては球状であるが、当接部212の調節部13側が部分的に切除されている。このため、当接部212のネジ軸15,16の軸方向の寸法は、一例として、当接部212のネジ軸15,15に垂直な方向の寸法の70%以上100%未満の範囲の値に設定されている。この数値範囲は、ワークWの種類や加工用治具210のワークWに対する固定位置等に応じて、適宜設定可能である。プローブ受部分212aは、プローブ受部分12aと同様の構成を有する。このように、部分的に球状である当接部212を備える加工用治具210によっても、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成を変更、追加、又は削除できる。構造物は、当然ながら鉄道車両の台車枠に限定されず、その他のものであってもよい。また上記実施形態では、接触式3次元測定器のプローブが、球状又は針状の先端部を有するものとしたが、プローブの形状はこれに限定されず、例えば多角形状や柱状の他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
W ワーク
1 接触式3次元測定器
2e,102e プローブ
2f,102f 先端部
5 加工機
7 第1位置決め基準壁(位置決め基準壁)
8 第2位置決め基準壁(位置決め基準壁)
9 第3位置決め基準壁(定盤)
10,110,210 加工用治具
11 固定部
12,112,212 当接部
12a,112a,212a プローブ受部分
13 調節部
14 本体部
17,18 操作部