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特許7465165ポリマーを含む粒子の水分散体の製造方法、及びブロックポリマーの製造方法
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  • 特許-ポリマーを含む粒子の水分散体の製造方法、及びブロックポリマーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ポリマーを含む粒子の水分散体の製造方法、及びブロックポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20240403BHJP
   C08F 4/40 20060101ALI20240403BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C08F2/44 B
C08F4/40
C08F293/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020118205
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015395
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉孝
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168260(JP,A)
【文献】特開2019-104857(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108794706(CN,A)
【文献】特表2005-513252(JP,A)
【文献】特表2015-500512(JP,A)
【文献】特表2006-512459(JP,A)
【文献】特表2019-502771(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135481(WO,A1)
【文献】特開2019-077774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60
C08F 4/00-4/58
C08F 291/00-297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性モノマー(m1)のポリマーを含む粒子の水分散体の製造方法であって、
前記ラジカル重合性モノマー(m1)とRAFT剤と疎水性物質と水と乳化剤とを含む混合液をミニエマルション化し、体積基準累積50%粒子径が50~300nmのミニエマルションを得る工程と、
前記ミニエマルション中にて前記ラジカル重合性モノマー(m1)を重合する工程と、
を有し、
前記ラジカル重合性モノマー(m1)100質量部に対する前記RAFT剤の割合が0.05~1.5質量部であり、前記疎水性物質が炭素数10以上の炭化水素類である、水分散体の製造方法。
【請求項2】
前記ラジカル重合性モノマー(m1)100質量部に対する前記疎水性物質の割合が0.1~20質量部である、請求項1に記載の水分散体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーの重量平均分子量が20,000以上であり、分子量分散度が2.0未満である、請求項1又は2に記載の水分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水分散体の製造方法により水分散体を製造し、
前記水分散体中でラジカル重合性モノマー(m2)を重合する、ブロックポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記水分散体に前記ラジカル重合性モノマー(m2)を滴下して重合する、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーを含む粒子の水分散体の製造方法、及びブロックポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分子量分布が比較的狭く、末端変性ポリマーやブロックポリマーが合成でき高分子設計の幅が非常にひろがることから、NMP法(ニトロキシドを介するラジカル重合法)、ATRP法(原子移動ラジカル重合法)、TERP法(有機テルル化合物を用いるラジカル重合法)、RAFT重合法(可逆的付加開裂連鎖移動重合法)等のリビングラジカル重合が盛んに研究されている。中でも金属触媒を用いない、温和な条件で合成できる等の理由からRAFT重合法が注目されている。
【0003】
また、有機溶剤等の揮発性有機化合物(VOC)は光化学スモッグの原因になる等の環境面の理由から、その使用量の削減が求められている。その点において、RAFT重合法をはじめとするリビングラジカル重合は、電気的に中性であるラジカル活性末端で反応が進行し、水やイオンの影響を受けないため、水分散系で重合を行う乳化重合、ミニエマルション重合、懸濁重合への適用が期待されている。
【0004】
特許文献1には、RAFTアクリルオリゴマーを用いたミニエマルション重合によりアクリレートポリマーを製造する方法が開示されている。
特許文献2には、水分散系でのRAFT重合に利用できるシード粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-522080号公報
【文献】特開2018-168260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法は、溶媒重合によりRAFTアクリルオリゴマーを合成するため、完全に水分散系での重合とは言えない。また、特許文献1の方法は、スチレンのような、アクリルオリゴマーと相溶性が悪く溶解させることができないモノマーは使用できず、汎用性が高いものではなかった。
特許文献2の方法は、RAFT剤由来の活性末端を有するシード粒子の分子量が低く、得られるブロックポリマーが、実用に耐え得る物性を発現できなかった。また、このシード粒子を用いてRAFT重合を行う場合、スチレン系モノマーやメタクリル酸エステル系モノマーの反応性が低く、得られるポリマーが低分子量又は低収率である、重合の反応速度が遅く生産性が非常に悪い等の問題があった。
【0007】
本発明は、水分散系での重合によって分子量分散度が狭く高分子量のポリマーを生成でき、生産性も良好な粒子の水分散体の製造方法、及び水分散系での重合によって実用に耐え得る十分な物性を発現し得るブロックポリマーを製造でき、生産性も良好なブロックポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
〔1〕ラジカル重合性モノマー(m1)のポリマーを含む粒子の水分散体の製造方法であって、
前記ラジカル重合性モノマー(m1)とRAFT剤と疎水性物質と水と乳化剤とを含む混合液をミニエマルション化し、体積基準累積50%粒子径が50~300nmのミニエマルションを得る工程と、
前記ミニエマルション中にて前記ラジカル重合性モノマー(m1)を重合する工程と、
を有し、
前記ラジカル重合性モノマー(m1)100質量部に対する前記RAFT剤の割合が0.05~1.5質量部である、水分散体の製造方法。
〔2〕前記ラジカル重合性モノマー(m1)100質量部に対する前記疎水性物質の割合が0.1~20質量部である、前記〔1〕の水分散体の製造方法。
〔3〕前記ポリマーの重量平均分子量が20,000以上であり、分子量分散度が2.0未満である、前記〔1〕又は〔2〕の水分散体の製造方法。
〔4〕前記〔1〕~〔3〕のいずれかの水分散体の製造方法により水分散体を製造し、
前記水分散体中でラジカル重合性モノマー(m2)を重合する、ブロックポリマーの製造方法。
〔5〕前記水分散体に前記ラジカル重合性モノマー(m2)を滴下して重合する、前記〔4〕のブロックポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水分散系での重合によって分子量分散度が狭く高分子量のポリマーを生成でき、生産性も良好な粒子の水分散体の製造方法、及び水分散系での重合によって実用に耐え得る十分な物性を発現し得るブロックポリマーを製造でき、生産性も良好なブロックポリマーの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ポリマー(A-1)の貯蔵弾性率の測定結果。
図2】ポリマー(A-15)の貯蔵弾性率の測定結果。
図3】ポリマー(A’-5)の貯蔵弾性率の測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、重量平均分子量及び数平均分子量はそれぞれ、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」とも記す。)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
分子量分散度は、重量平均分子量を数平均分子量で除した値である。
本明細書では、重量平均分子量を「Mw」とも記し、数平均分子量を「Mn」とも記し、分子量分散度を「Mw/Mn」とも記す。
体積基準累積50%粒子径(以下、単に「50%粒子径」とも記す。)は、動的光散乱法により測定される体積基準の粒子径分布において累積値が50%となる粒子径である。
体積基準累積90%粒子径(以下、単に「90%粒子径」とも記す。)は、動的光散乱法により測定される体積基準の粒子径分布において累積値が90%となる粒子径である。
【0012】
〔水分散体の製造方法〕
本発明の一態様は、ラジカル重合性モノマー(m1)(以下、「モノマー(m1)」とも記す。)のポリマー(以下、「ポリマー(A)」とも記す。)を含む粒子(以下、「粒子(C)」とも記す。)の水分散体(以下、「粒子水分散体」とも記す。)の製造方法であって、前記モノマー(m1)とRAFT剤と疎水性物質と水と乳化剤とを含む混合液をミニエマルション化し、50%粒子径が50~300nmのミニエマルションを得る工程(以下、「ミニエマルション化工程」とも記す。)と、前記ミニエマルション中にて前記ラジカル重合性モノマー(m1)を重合する工程(以下、「重合工程」とも記す。)とを有し、前記モノマー(m1)100質量部に対する前記RAFT剤の割合が0.05~1.5質量部である、粒子水分散体の製造方法である。
混合液は、必要に応じて、開始剤をさらに含んでいてもよい。
【0013】
<モノマー(m1)>
モノマー(m1)としては、特に制限されないが、例えば芳香族ビニル、シアン化ビニル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、N-置換マレイミド、マレイン酸が挙げられる。なかでも、ミニエマルション重合の安定性が良いことから疎水性のラジカル重合性モノマーが好ましい。
疎水性のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基(フェニル基等)、アラルキル基(ベンジル基等)等の炭化水素基を有するラジカル重合性モノマーが挙げられる。
【0014】
芳香族ビニルとしては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-,m-又はp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。
シアン化ビニルとしては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル等が挙げられる。
アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル等が挙げられる。
N-置換マレイミドとしては、例えばN-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0015】
モノマー(m1)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
モノマー(m1)としては、芳香族ビニルとシアン化ビニル、例えばスチレンとアクリロニトリルを併用することが好ましい。すなわち、ポリマー(A)は、芳香族ビニルに基づく単位とシアン化ビニルに基づく単位とを有することが好ましい。これらを併用することで、ポリマー(A)が末端変性ポリマーである場合でも、ポリマー(A)をABS樹脂やAS樹脂に相溶又は分散しやすいものにできる。また、ポリマー(A)から得られるブロックポリマーを、ABS樹脂やAS樹脂に相溶又は分散しやすいものにできる。
【0016】
<RAFT剤>
RAFT剤(可逆的付加開裂連鎖移動剤)は、RAFT重合を生じる化合物であり、一般的には、下記式1で示される構造を有する化合物(ジチオベンゾエート、トリチオカーボネート、ジチオカルバメート、キサンタート等のチオカルボニルチオ化合物)が用いられる。
【0017】
【化1】
ZはC=S結合の反応性を制御し、ラジカルの付加・開裂速度に影響する官能基であり、Rは重合反応を再開し、成長ラジカルに対して良好なホモリシス型脱離基である。
【0018】
置換基ZおよびRは使用するモノマーによって応じて適切に選択される必要があり、その指針については多くの文献があり、例えば下記の文献に示されている。
Keddie, D. J., Moad, G., Rizzardo, E., Thang, S. H. : Macromolecules, 45, 5321 (2012).
【0019】
RAFT剤としては、より具体的には、これらに限定されるものではないが、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸、2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニルペンタン酸、2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸、2’-シアノブタン-2’-イル4-クロロ-3,5-ジメチルピラゾール-1-カルボジチオエート、4-[(2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]-4-シアノペンタン酸、3,5-ジメチルピラゾール-1-カルボジチオ酸2’-シアノブタン-2’-イル、3,5-ジメチルピラゾール-1-カルボジチオ酸シアノメチル、N-メチル-N-フェニルジチオカルバミン酸シアノメチル、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル、トリチオ炭酸=ビス[4-(アリルオキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス[4-(2,3-ジヒドロキシプロポキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス{4-[エチル-(2-アセチルオキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸ビス{4-[エチル-(2-ヒドロキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸=ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンジル]等が挙げられる。
【0020】
<疎水性物質>
疎水性物質は、ミニエマルション重合による粒子水分散体の製造安定性、ブロックポリマーの生産性の向上等に寄与する。
ミニエマルション重合では一般に、超音波発振機や圧力ホモジナイザー等を利用して強い剪断力をかけることによって、50~1000nm程度のモノマー油滴(モノマー粒子)を含むミニエマルションを調製する。理想的なミニエマルション重合では、モノマーラジカルが水相と油相に分配されることはなく、モノマー粒子が粒子の核になって重合が進行する。その結果、形成されたモノマー粒子はそのままポリマー粒子に変換され、均質なポリマー粒子を得ることが可能となる。
疎水性物質の不在下でミニエマルション化すると、オストワルド熟成に起因するミセル間のモノマー移行やモノマー油滴同士の合一によりモノマー粒子の粒子径が大きくなり、粒子水分散体の生産性が低下するおそれがある。また、モノマー移行によりRAFT剤の存在しない新たな小粒径の粒子が生成しやすくなり、リビングラジカル重合ではなく通常のラジカル重合でポリマーが生成し、ポリマー(A)やブロックポリマーが製造できないおそれがある。
【0021】
疎水性物質としては、例えば炭素数10以上の炭化水素類、炭素数10以上のアルコール、Mw10000以下の疎水性ポリマー、疎水性モノマー(例えば、炭素数10~30のアルコールのビニルエステル、炭素数12~30のアルコールのビニルエーテル、炭素数12~30の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、炭素数10~30(好ましくは炭素数10~22)のカルボン酸のビニルエステル、p-アルキルスチレン)、疎水性の連鎖移動剤、疎水性の過酸化物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
疎水性物質としては、より具体的には、ヘキサデカン、オクタデカン、イコサン、流動パラフィン、流動イソパラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、オリーブ油、セチルアルコール、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、Mw500~10000のポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0023】
<乳化剤>
乳化剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
乳化剤としては、より具体的には、高級アルコール(例えば炭素数6~30のアルコール)の硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸スルホン酸塩、リン酸塩系(例えば、モノグリセリドリン酸アンモニウム)、脂肪酸塩(例えば、アルケニルコハク酸ジカリウム)、アミノ酸誘導体塩等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型等のノニオン性界面活性剤;アニオン部にカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等を有し、カチオン部にアミン塩、第4級アンモニウム塩等を有する両性界面活性剤等が挙げられる。
これらの乳化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
<開始剤>
開始剤としては、ラジカル重合するためのラジカル重合開始剤であればよく、その種類に特に制限はないが、例えば、アゾ重合開始剤、光重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、加熱により重合を開始できる点で、アゾ重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、レドックス系開始剤が好ましく、アゾ重合開始剤、有機過酸化物がより好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。
【0026】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられる。
【0027】
有機過酸化物としては、例えばペルオキシエステル化合物が挙げられ、その具体例としては、α,α’-ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシマレイックアシッド、t-ブチルペルオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルペルオキシ)イソフタレート、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシド)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジイソノナノイルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジメチルビス(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ビス(t-ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ブチル-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレラート、2-エチルヘキサンペルオキシ酸t-ブチル、ジベンゾイルパーオキシド、パラメンタンハイドロパーオキシド及びt-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0028】
レドックス系開始剤としては、有機過酸化物と硫酸第一鉄とキレート剤と還元剤とを組み合わせたものが好ましい。例えば、クメンヒドロペルオキシドと硫酸第一鉄とピロリン酸ナトリウムとデキストロースとを組み合わせたものや、t-ブチルヒドロパーオキシドとナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート(ロンガリット)と硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムとを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0029】
<混合液>
混合液において、モノマー(m1)100質量部に対するRAFT剤の割合は、0.05~1.5質量部であり、0.1~1.2質量部が好ましい。RAFT剤の割合が前記下限値以上であれば、ポリマー(A)のMw/Mnを後述する好ましい上限値以下としやすく、前記上限値以下であれば、ポリマー(A)の分子量(Mw)を高くしやすい。
【0030】
モノマー(m1)100質量部に対する疎水性物質の割合は、0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、2~10質量部がさらに好ましい。疎水性物質の割合が前記下限値以上であれば、モノマー粒子の粒子径の制御が容易であり、粒子水分散体の生産性が優れる。また、リビングラジカル重合が進行しやすく、ポリマー(A)のMw/Mnを小さくしやすく、ポリマー(A)やブロックポリマーを製造しやすい。疎水性物質の含有量が前記上限値以下であれば、ポリマー(A)やブロックポリマーの物性が良好である。
【0031】
モノマー(m1)100質量部に対する乳化剤の割合は、0.01~10質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、0.5~5質量部がさらに好ましい。乳化剤の割合が前記下限値以上であれば、モノマー粒子の粒子径及び粒子(C)の粒子径を小さくしやすく、粒子水分散体の生産性に優れる。また、粒子(C)中に残る未反応のモノマー(m1)が少なくなり、ブロックポリマーの組成に影響を与えにくい。乳化剤の割合が前記上限値以下であれば、粒子水分散体中に残留する乳化剤が、ポリマー(A)やブロックポリマーの物性に悪影響を与えにくい。
【0032】
モノマー(m1)100質量部に対する開始剤の割合は、モノマー(m1)100質量部に対し、0.03~2質量部が好ましい。また、RAFT剤1モルに対する開始剤の割合は、1モル未満であることが好ましい。
開始剤の含有量が多くなると重合速度が向上するが、通常の乳化重合や、リビングラジカル重合の停止反応等の副反応が生じやすく、ポリマー(A)のMw/Mnが広くなったり粒子(C)中に残る未反応のモノマー(m1)が多くなったりする傾向がある。開始剤の含有量が前記上限値以下であれば、ポリマー(A)のMw/Mnを前記上限値以下としやすい。また、粒子(C)中に残る未反応のモノマー(m1)が少なくなり、ブロックポリマーの組成に影響を与えにくい。
【0033】
混合液の固形分濃度は、作業性、安定性、製造性等の観点から、混合液の総質量に対し、5~50質量%程度が好ましい。
水の含有量は、固形分濃度が前記範囲内となるように、固形分100質量部に対して100~2000質量部程度が好ましい。
混合液の固形分は、水以外の成分の合計である。
【0034】
混合液は、モノマー(m1)、RAFT剤、疎水性物質、水、乳化剤、必要に応じて開始剤を混合することにより調製できる。
混合方法は特に限定されないが、例えば、モノマー(m1)、RAFT剤、疎水性物質、必要に応じて開始剤を混合して油相を調製し、油相に乳化剤、水を添加して混合する方法が挙げられる。乳化剤と水は、別々に添加してもよく、それらを予め混合し乳化剤水溶液として添加してもよい。
得られる混合液においては、モノマー(m1)及び疎水性物質を含む油滴が水中に分散している。
【0035】
<エマルション化工程>
ミニエマルション化工程では、例えば、混合液に対し、せん断処理を施す。せん断処理により、モノマー(m1)及び疎水性物質を含む油滴が引きちぎられ、乳化剤に覆われた微小油滴(モノマー粒子)が形成される。これにより、ミニエマルションが得られる。
せん断処理方法としては、公知の任意の方法を用いることができ、例えば高せん断装置を用いる方法が挙げられる。ミニエマルションを形成できる高せん断装置としては、特に限定されるものではないが、例えば、高圧ポンプ及び相互作用チャンバーからなる乳化装置、超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置等が挙げられる。
高圧ポンプ及び相互作用チャンバーからなる乳化装置としては、特に限定されるものではないが、例えば、SPX Corporation APV社製「圧力式ホモジナイザー」、三丸機械工業製「圧力式ホモジナイザー」、(株)パウレック製「マイクロフルイダイザー」等が挙げられる。
超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置としては、特に限定されるものではないが、例えば、Fisher Scient製「ソニックディスメンブレーター」、(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER」等が挙げられる。
【0036】
ミニエマルションの50%粒子径は、50~300nmであり、50~230nmが好ましく、60~160nmがより好ましく、60~120nmがさらに好ましい。ミニエマルションの50%粒子径が前記下限値以上であれば、ポリマー(A)のMw/Mnを小さくでき、Mw/Mnの小さいブロックポリマーを得ることができる。ミニエマルションの50%粒子径が前記上限値以下であれば、反応速度が良好で生産性に優れる。また、粒子(C)中にモノマー(m1)が残りにくく、ポリマー(A)の分子量(Mw)を高くしやすい。
ミニエマルションの50%粒子径の調整方法としては、例えば、乳化剤の含有量、水の含有量、圧力ホモジナイザーの圧力等を変更し、高せん断装置のせん断力を調整する方法が挙げられる。
【0037】
ミニエマルションの90%粒子径は、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、170nm以下がさらに好ましい。90%粒子径が前記上限値以下であれば、モノマー(m1)の反応速度が良好で生産性に優れる。また、粒子(C)中にモノマー(m1)が残りにくく、所望の組成のブロックポリマーが得られやすい。
【0038】
<重合工程>
ミニエマルションを重合開始温度まで加熱すると、モノマー粒子中のモノマー(m1)が重合し、粒子(C)が生成する。
重合開始温度は、開始剤の種類によっても異なるが、例えば50~120℃である。
重合は、モノマー転化率が70~100%、好ましくは80~98%となるまで行う。
【0039】
得られる粒子水分散体は、ポリマー(A)及び疎水性物質を含む粒子(C)と、水と、乳化剤とを含む。
【0040】
ポリマー(A)は、モノマー(m1)に基づく単位からなるポリマー鎖と、ポリマー鎖の末端に結合した末端基とを有し、末端基は、RAFT剤由来のジチオカーボネート又はトリチオカーボネート構造を含む。
RAFT剤が前記式1で示されるものである場合、ジチオカーボネート又はトリチオカーボネート構造は、Z-C(=S)-S-で表される。Z-C(=S)-S-で表される構造は、Zの結合末端原子(隣接する炭素原子に結合する原子)が硫黄原子(-S-)である場合はトリチオカーボネート構造であり、Zの結合末端が硫黄原子以外の原子である場合はジチオカーボネート構造である。
トリチオカーボネート構造を有するポリマー(A)は、例えば、RAFT剤としてトリチオカーボネートを用いることで得られる。
ジチオカーボネート構造を有するポリマー(A)は、例えば、RAFT剤としてジチオベンゾエート、ジチオカルバメート及びキサンタートからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることで得られる。
ポリマー(A)は、末端変性ポリマーであってもよい。末端変性ポリマーは、末端基にカルボキシ基等の官能基を有する。末端変性ポリマーは、官能基を有するRAFT剤を用いることにより得られる。
【0041】
ポリマー(A)のMwは、20,000以上が好ましく、32,000以上がより好ましく、35,000以上がさらに好ましい。ポリマー(A)のMwが20,000以上であれば、実用に耐え得る分子量を持つブロックポリマーが得られやすい。また、後述するブロックポリマー水分散体の製造において、少量のラジカル重合性モノマー(m2)の添加で実用に耐え得る分子量を持つブロックポリマーを得ることができ、反応系の安定性、反応速度が良好である。
ポリマー(A)のMwは、臨界分子量以上であることが好ましい。臨界分子量については後で詳しく説明する。
また、ポリマー(A)のMwは、500,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましい。Mwが前記上限値以下であれば、ポリマー(A)やポリマー(A)から得られるブロックポリマーを樹脂成形品、粘着剤等に使用した際に成形性やハンドリングが良好である。
ポリマー(A)のMwは、ミニエマルションの体積基準累積50%粒子径、モノマー(m1)に対するRAFT剤の割合の増減で調整できる。例えばモノマー(m1)に対するRAFT剤の割合が増えるほど、ポリマー(A)のMwが小さくなる。
【0042】
ポリマー(A)のMw/Mnは2.0未満が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましい。ポリマー(A)のMw/Mnが2.0未満であれば、RAFT剤由来のジチオカーボネート又はトリチオカーボネート構造を有しないポリマー分子が少なく、ポリマー(A)やブロックポリマーが効率的に得られる。
【0043】
粒子(C)中、ポリマー(A)100質量部に対する疎水性物質の割合は、モノマー(m1)100質量部に対する疎水性物質の割合と同様である。
粒子(C)は、未反応のモノマー(m1)、乳化剤、開始剤、可塑剤等を含んでいてもよい。
【0044】
粒子(C)の50%粒子径は、60~300nmが好ましく、60~230nmが好ましく、60~160nmがより好ましく、60~120nmがさらに好ましい。
粒子(C)の90%粒子径は、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、170nm以下がさらに好ましい。
【0045】
粒子水分散体の固形分濃度は、作業性、安定性、製造性等の観点から、粒子水分散体の総質量に対し、5~50質量%程度が好ましい。
水の含有量は、固形分濃度が前記範囲内となるように、固形分100質量部に対して100~2000質量部程度が好ましい。
粒子水分散体の固形分は、水以外の成分の合計である。
【0046】
得られた粒子水分散体は、そのまま、後述するブロックポリマー水分散体の製造に用いることができる。
必要に応じて、粒子水分散体から粒子(C)を回収してもよい。回収した粒子(C)は、例えば、RAFT剤由来の官能基を活かした末端変性ポリマーとして用いたり、ブロックポリマーの原料として用いたりすることができる。
【0047】
粒子(C)の回収方法としては、例えば、(i)凝固剤を溶解させた熱水中に粒子水分散体を投入して、粒子(C)をスラリー状態に凝析することによって回収する方法(湿式法)、(ii)加熱雰囲気中に粒子水分散体を噴霧することにより、半直接的に粒子(C)を回収する方法(スプレードライ法)等が挙げられる。
【0048】
凝固剤としては、これらに限定されないが、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩等が挙げられる。
【0049】
スラリー状態の粒子(C)から乾燥状態の粒子(C)を得る方法としては、(i)洗浄によって、スラリーに残存する乳化剤残渣、凝固剤残渣を水中に溶出させた後に、このスラリーを遠心脱水機又はプレス脱水機で脱水し、さらに気流乾燥機等で乾燥する方法、(ii)スラリーに対し、圧搾脱水機、押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。
【0050】
以上説明した本態様の製造方法にあっては、水分散系での重合によってMw/Mnが狭く高分子量のポリマーを生成でき、生産性も良好である。
本態様の製造方法にあっては、ポリマー(A)の分子量を臨界分子量以上にすることができる。ポリマー(A)の分子量が臨界分子量以上であれば、ポリマー(A)から得られるブロックポリマーが、実用に耐え得る十分な物性を発現し得る。例えば、ポリマー(A)やブロックポリマーを樹脂成形品、粘着剤等に使用した際に、必要とされる剛性、強度等を発現し得る(Macromolecules Volume 27, Number 17 August 15, 1994;日本レオロジー学会23,4,233,1995;特開平10-147677号公報参照)。
【0051】
臨界分子量(以下、「Mc」とも記す。)とは、希釈されていないポリマーの分子同士の絡み合いが起こるのに必要なポリマー鎖長に対応する分子量である。ポリマーの分子量がMcを超えると、粘度が急激に増大する。
Mcは、ポリマーの種類や組成(ポリマー(A)を形成するモノマー(m1)の組成)によって異なる。Mcは多くの文献に示されている。例えば、これに限定されるものではないが、アクリロニトリル-スチレン共重合体のMc=24,000、ポリスチレンのMc=31,200、ポリメタクリル酸メチルのMc=27,500等が報告されている。実際のMcの測定方法についても数多くの報告がされており、これらに限定されるものではないが、例えば、ポリマーの分子量(Mw)と粘度との関係を示す対数グラフ(横軸:log(分子量)、縦軸:log(粘度))の傾きが1.0から3.4に変化する場所(臨界点)を決定することで、実験的に導出する方法(特表2010-506002号公報参照)。)や、粘弾性測定により貯蔵弾性率を測定した際にゴム平坦領域が発現するかどうか確認する方法等が知られている。
【0052】
〔ブロックポリマー水分散体の製造方法〕
本発明の一態様は、前記した粒子水分散体の製造方法により粒子水分散体を製造し、得られた粒子水分散体中でラジカル重合性モノマー(m2)(以下、「モノマー(m2)」とも記す。)を重合する、ブロックポリマーの製造方法である。
【0053】
粒子水分散体中でモノマー(m2)を重合すると、ポリマー(A)のRAFT剤由来のジチオカーボネート又はトリチオカーボネート構造と、モノマー(m1)に基づく単位からなるポリマー鎖(以下、「ブロック(X)」とも記す。)との間に、モノマー(m2)に基づく単位からなるポリマー鎖(以下、「ブロック(Y)」とも記す。)が形成され、ブロック(X)とブロック(Y)とを有するブロックポリマー(以下、「ブロックポリマー(D)」とも記す。)が生成する。これにより、ブロックポリマー(D)の水分散体が得られる。
【0054】
モノマー(m2)としては、モノマー(m1)と同様のものが使用でき、特に制限されないが、例えば芳香族ビニル、シアン化ビニル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、N-置換マレイミド、マレイン酸が挙げられる。なかでも、ミニエマルション重合の安定性が良いことから疎水性のラジカル重合性モノマーが好ましい。
モノマー(m2)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
モノマー(m2)の組成は通常、モノマー(m1)の組成とは異なる。
【0055】
モノマー(m2)の使用量は、特に限定するものではないが、粒子水分散体の製造時に用いたモノマー(m1)100質量部に対し、1~500質量部が好ましく、1~300質量部がより好ましく、5~250質量部がさらに好ましく、10~200質量部が特に好ましい。モノマー(m2)の使用量が前記下限値以上であれば、ブロックポリマーの機能が発現しやすく、前記上限値以下であれば、ブロックポリマー水分散体の製造時の反応系の安定性、反応速度が良好である。
【0056】
粒子水分散体中でモノマー(m2)を重合するには、例えば、粒子水分散体にモノマー(m2)を添加し、重合開始温度まで加熱する。
モノマー(m2)は、一括で添加してもよく、連続的又は断続的に滴下してもよい。反応系の安定性の点では滴下することが好ましい。
重合開始温度は、開始剤の種類によっても異なるが、例えば50~120℃である。
重合は、モノマー転化率が70~100%、好ましくは80~98%となるまで行う。
【0057】
粒子水分散体にモノマー(m2)を添加して重合する工程を、添加するモノマー(m2)の組成を変更して繰り返してもよい。
【0058】
得られた水分散体からブロックポリマー(D)を回収してもよい。
水分散体からブロックポリマー(D)を回収する方法としては、例えば、(i)凝固剤を溶解させた熱水中に水分散体を投入して、ブロックポリマー(D)をスラリー状態に凝析することによって回収する方法(湿式法)、(ii)加熱雰囲気中に水分散体を噴霧することにより、半直接的にブロックポリマー(D)を回収する方法(スプレードライ法)等が挙げられる。
【0059】
凝固剤としては、これらに限定されないが、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩等が挙げられる。
【0060】
ブロックポリマー(D)のスラリーから乾燥状態のブロックポリマー(D)を得る方法としては、(i)洗浄によって、スラリーに残存する乳化剤残渣、凝固剤残渣を水中に溶出させた後に、このスラリーを遠心脱水機又はプレス脱水機で脱水し、さらに気流乾燥機等で乾燥する方法、(ii)スラリーに対し、圧搾脱水機、押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。
【0061】
<ブロックポリマー(D)>
ブロックポリマー(D)を構成するブロック(X)は1つでも2つ以上でもよい。ブロックポリマー(D)を構成するブロック(Y)は1つでも2つ以上でもよい。
ブロックポリマー(D)としては、例えば、X-Yで表されるジブロック体、X-Y-X又はY-X-Yで表されるトリブロック体、XとYとが交互に連なるテトラブロック体以上のポリブロック体が挙げられる。ここで、Xはブロック(X)を示し、Yはブロック(Y)を示す。ブロックポリマー(D)の構造としては、製造しやすさの点から、X-Yで表されるジブロック体が好ましい。
【0062】
ブロック(X)100質量%に対するブロック(Y)の割合は、1~500質量%が好ましく、1~300質量%がより好ましく、10~200質量%がさらに好ましい。ブロック(Y)の割合が前記下限値以上であれば、ブロックポリマー(D)の機能が発現しやすく、前記上限値以下であれば、ブロックポリマー水分散体の製造時の反応系の安定性、反応速度が良好である。
【0063】
ブロックポリマー(D)のMwは、25,000~550,000が好ましく、37,000~550,000がより好ましく、37,000~350,000がさらに好ましい。ブロックポリマー(D)のMwが前記下限値以上であれば、ブロックポリマー(D)の物性がより優れ、前記上限値以下であれば、ブロックポリマーを樹脂成形品、粘着剤等に使用した際に成形性やハンドリングが良好である。
【0064】
ブロックポリマー(D)のMw/Mnは2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましい。ブロックポリマー(D)のMw/Mnが前記上限値以下であれば、ブロックポリマー(D)の物性がより優れる。
【実施例
【0065】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の例中の「%」及び「部」は、明記しない限りは質量基準である。
以下の例における各種測定及び評価方法は以下の通りである。
【0066】
<粒子径>
モノマー粒子、粒子(C)、ブロックポリマー(D)の粒子径(50%粒子径、90%粒子径)は、マイクロトラック(日機装社製「ナノトラック150」)を用い、測定溶媒としてイオン交換水を用いて測定した。
【0067】
<モノマー転化率>
1gの試料(粒子水分散体又はブロックポリマー水分散体)を130℃で15分間加熱することで水分及び未反応モノマーを揮発させ、残存した固形分からモノマー転化率を求めた。
【0068】
<Mn、Mw>
粒子水分散体又はブロックポリマー水分散体を、凝固剤として塩化カルシウムを用いて60~95℃で凝析させ、脱水、洗浄、乾燥することで、ポリマー(A)又はブロックポリマー(D)を回収した。
得られたポリマー(A)又はブロックポリマー(D)をテトラヒドロフランに溶解し、GPCにより標準ポリスチレン換算のMw及びMw/Mnを求めた。
【0069】
〔実施例1〕
<粒子(C-1)の水分散体の製造>
スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部及び流動パラフィン5質量部に過酸化ラウロイル0.2質量部、2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸0.3質量部を加え溶解させた。得られた溶液を脱イオン水400質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4質量部の水溶液に加え、SMT製HIGH-FLEX DISPERSER HG92で5分間撹拌することで分離しない程度に乳化させた。得られた乳化液を、三丸機械工業(株)製エコナイザー02(小型圧力ホモジナイザー)を用いて50MPaで4回処理することでモノマー粒子の水分散体を得た。水分散体中のモノマー粒子の50%粒子径は70nm、90%粒子径は90nmであった。
【0070】
得られたモノマー粒子の水分散体を冷却管、ジャケット加熱機及び攪拌装置を備えた反応器に入れて窒素置換した後、80℃で180分反応させることでポリマー(A-1)を含む粒子(C-1)の水分散体を得た。モノマー転化率は93%、ポリマー(A-1)のMwは87000、Mw/Mnは1.2、粒子(C-1)の50%粒子径は90nm、90%粒子径は120nmであった。
【0071】
<ブロックポリマー(D-1)の水分散体の製造>
粒子(C-1)の水分散体に80℃でアクリル酸ブチル100質量部を60分間かけて滴下したのち、さらに80℃で180分反応させることでブロックポリマー(D-1)の水分散体を得た。モノマー転化率は96%、ブロックポリマー(D-1)のMwは181000、Mw/Mnは1.3、50%粒子径は115nm、90%粒子径は150nmであった。
【0072】
〔実施例2~15〕
<粒子(C-2)~(C-16)の水分散体の製造>
モノマー(m1)、RAFT剤、疎水性物質、開始剤、乳化剤の種類及び添加量、並びに反応時間を表1~3に示す通りに変更した以外は粒子(C-1)の水分散体の製造と同様にして、粒子(C-2)~(C-16)の水分散体を得た。
【0073】
<ブロックポリマー(D-2)~(D-16)の水分散体の製造>
粒子(C-1)の水分散体の代わりに粒子(C-2)~(C-16)の水分散体を用い、モノマー(m2)の種類及び添加量、並びに反応時間を表1~3に示す通りに変更した以外はブロックポリマー(D-1)の水分散体の製造と同様にして、ブロックポリマー(D-2)~(D-16)の水分散体を得た。
【0074】
〔比較例1~5〕
<粒子(C’-1)~(C’-5)の水分散体の製造>
モノマー(m1)、RAFT剤、疎水性物質、開始剤、乳化剤の種類及び添加量、並びに反応時間を表3に示す通りに変更した以外は粒子(C-1)の水分散体の製造と同様にして、粒子(C-2)~(C-14)の水分散体を得た。
【0075】
<ブロックポリマー(D’-1)~(D’-3)の水分散体の製造>
粒子(C-1)の水分散体の代わりに粒子(C’-1)~(C’-5)の水分散体を用い、モノマー(m2)の種類及び添加量、並びに反応時間を表3に示す通りに変更した以外はブロックポリマー(D-1)の水分散体の製造と同様の操作を行ったところ、粒子(C’-1)、(C’-4)、(C’-5)の水分散体からはブロックポリマー(D’-1)~(D’-3)の水分散体が得られたが、粒子(C’-2)、(C’-3)の水分散体からはブロックポリマーの水分散体が得られなかった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
表1~3中の略号の意味は以下の通りである。
ST:スチレン。
AN:アクリロニトリル。
MMA:メタクリル酸メチル。
BA:アクリル酸ブチル。
RAFT1:2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸。
RAFT2:4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸。
RAFT3:4-クロロ-3,5-ジメチルピラゾール-1-カルボジチオ酸2’-シアノブタン-2’-イル。
RAFT4:S,S-ジベンジルトリチオ炭酸。
LPO:過酸化ラウロイル。
DBS・Na:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム。
【0080】
〔貯蔵弾性率の測定〕
各例で得たポリマー(A)のうちポリマー(A-1)、(A-15)及びポリマー(A’-5)について、以下の手順で貯蔵弾性率を測定した。それぞれの測定結果を図1~3に示す。
ポリマー(A)をプレス成形して厚さ2mm、幅10mm、長さ50mmの成形品を作製し、Anton Paar製MCR301を用い、ひずみ0.1%、周期1Hzの条件で貯蔵弾性率を測定した。
ポリマー(A)の分子量(Mw)が臨界分子量Mcを超えている場合は、貯蔵弾性率の測定結果においてゴム平坦領域が発現する。
図1、2に示すように、ポリマー(A-1)及びポリマー(A-15)は、ゴム平坦領域が発現した。一方、図3に示すように、ポリマー(A’-5)はゴム平坦領域が発現しなかった。
【0081】
表1~3に示すとおり、実施例1~16では、有機溶剤を使用しない水分散系での重合によって、Mw/Mnが小さく高分子量のポリマーを含む粒子の水分散体が得られた。また、この水分散体を用いて得られたブロックポリマーは、実用的な分子量を有し、Mn/Mwが小さかった。ブロックポリマーが実用的な分子量を有し、Mw/Mnが小さければ、耐衝撃性、剛性等の物性に優れる。
一方、比較例1では、RAFT剤の量が少ないため、通常のラジカル重合で生成したポリマーが多く存在し、Mw/Mnが大きかった。また、リビングラジカル重合で生成したポリマーが少なく、ブロックポリマーがほとんど得られなかった。
比較例2では、モノマー粒子が疎水性物質を含まないため、通常のラジカル重合で生成したポリマーがほとんどであることから、粒子(C’-2)中のポリマー(A’-2)のMw/Mnが大きかった。また、リビング重合で生成したポリマーがほとんど存在しないことから、ブロックポリマーが得られなかった。
比較例3では、モノマー粒子の50%粒子径が300nmを超えているため、モノマー転化率が低く、生産性に劣っていた。また、反応がそれ以上進行せず、ブロックポリマーが得られなかった。
比較例4では、モノマー粒子の50%粒子径が50nm未満であるため、粒子(C’-4)中のポリマー(A’-4)のMw/Mnが大きく、ブロックポリマー(D’-2)のMw/Mnが大きかった。
比較例5では、RAFT剤の量が多いため、粒子(C’-5)中のポリマー(A’-5)の分子量が低かった。また、ブロックポリマー(D’-2)を得る際のモノマー転化率が低かった。これは、ポリマー(A’-5)のMwが低いことで、実用的な分子量を持つブロックポリマーを合成するために多量のモノマー(m2)の添加が必要となり、反応系が不安定となったためと考えられる。
図1
図2
図3