(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】災害時多目的船の停泊施設
(51)【国際特許分類】
E02B 3/20 20060101AFI20240403BHJP
E02B 3/06 20060101ALI20240403BHJP
E01D 18/00 20060101ALI20240403BHJP
B63B 35/44 20060101ALI20240403BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20240403BHJP
E04H 3/08 20060101ALI20240403BHJP
E04H 3/02 20060101ALI20240403BHJP
B63C 1/12 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
E02B3/20 Z
E02B3/06
E01D18/00 C
B63B35/44 Z
B63B35/00 W
E04H3/08 B
E04H3/02 A
B63C1/12
(21)【出願番号】P 2020128224
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】桑原 智樹
(72)【発明者】
【氏名】羽子田 康之
(72)【発明者】
【氏名】池田 将
(72)【発明者】
【氏名】横山 稔
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-292649(JP,A)
【文献】特開2010-115009(JP,A)
【文献】特開2002-068078(JP,A)
【文献】特開平09-183399(JP,A)
【文献】特公昭49-027829(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/20
E02B 3/06
E01D 18/00
B63B 35/44
B63B 35/00
E04H 3/08
E04H 3/02
B63C 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
災害時多目的船が停泊可能な岸壁と、
前記岸壁に沿って設けられ、少なくとも1つの岸壁側出入口を有し、前記災害時多目的船と少なくとも一つの目的を共有する建物と、
前記岸壁に対する前記災害時多目的船の水平方向への移動の規制及びその解除が可能な水平拘束具と、
前記災害時多目的船の前記建物に対する鉛直方向の位置を所定の規定高さに調整するとともに、前記規定高さにある前記災害時多目的船の前記鉛直方向への移動の規制及びその解除が可能な鉛直拘束装置と、を備え
、
前記鉛直拘束装置は、前記災害時多目的船の船底を支持する少なくとも3本の柱部材と、前記柱部材を昇降する昇降装置とを有し、前記柱部材が上昇することにより前記災害時多目的船を前記規定高さまで持ち上げるように構成されている、
災害時多目的船の停泊施設。
【請求項2】
前記規定高さにある前記災害時多目的船において、乗船口の前記鉛直方向の位置が前記岸壁側出入口の前記鉛直方向の位置と実質的に同一である、
請求項1に記載の災害時多目的船の停泊施設。
【請求項3】
前記規定高さにある前記災害時多目的船の計画最小喫水線が、前記岸壁に対し規定された計画最高潮位よりも高く、前記計画最高潮位が大潮且つ満潮時の潮位の平均値又は過去最高潮位である、
請求項1又は2に記載の災害時多目的船の停泊施設。
【請求項4】
前記災害時多目的船の乗船口と前記建物の前記岸壁側出入口とに掛け渡される略水平な搭乗橋を、更に備える、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の災害時多目的船の停泊施設。
【請求項5】
前記水平拘束具が、前記災害時多目的船の乗船口と前記岸壁側出入口とに掛け渡される搭乗橋としての機能を有する、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の災害時多目的船の停泊施設。
【請求項6】
前記建物が医療施設であり、前記災害時多目的船が病院船である、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の災害時多目的船の停泊施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時多目的船の停泊施設に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は自ら宿泊施設、食料等保管施設及び発電等のライフライン供給施設を持つ。このような船舶の優位性を活用して、大規模自然災害やパンデミックなどの非常事態が発生した時に、海から非常事態発生地へアプローチする災害時多目的船が知られている。災害時多目的船は、大規模災害などの非常事態の発生時に、医療活動や行方不明者の捜索・救助、人員・物資の輸送、被災者の支援(給食・給水、入浴)等に利用されうる。災害時多目的船のうち、船内で医療行為を行うことを主要な機能とする船舶が病院船である。病院船には、手術室、集中治療室、高度医療資機材等、陸上の病院と同等の医療機能が搭載される。
【0003】
病院船の出航が必要となるような大規模自然災害やパンデミックなどの非常事態は、頻繁に起こるものではない。したがって、多額の費用を投じて病院船を建造したとしても、平時に有効活用できなければ、その活動の機会は限られてしまう。
【0004】
例えば、特許文献1では、災害発生時に災害支援物資を載置してタグボートで被災地へ曳航される浮体構造物を、平時にコンテナを保管するコンテナヤードとして利用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、有事に災害時多目的船を直ちに出航させるという観点では、平時に災害時多目的船を所定の港に停泊させておくことが望ましい。しかし、船舶は、波浪、風、潮汐等の影響を受けやすい。悪天候で大波となれば、船舶が大きく揺れて船内での活動が制限される。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、災害時多目的船の停泊施設、及び、停泊中の災害時多目的船を含めた港湾構造物であって、災害時多目的船を平時は動揺することなく停泊させておき、有事には速やかな出航を可能とするものを、提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る災害時多目的船の停泊施設は、
災害時多目的船が停泊可能な岸壁と、
前記岸壁に沿って設けられ、少なくとも1つの岸壁側出入口を有し、前記災害時多目的船と少なくとも一つの目的を共有する建物と、
前記岸壁に対する前記災害時多目的船の水平方向への移動の規制及びその解除が可能な水平拘束具と、
前記災害時多目的船の前記建物に対する鉛直方向の位置を所定の規定高さに調整するとともに、前記規定高さにある前記災害時多目的船の前記鉛直方向への移動の規制及びその解除が可能な鉛直拘束装置と、を備え、
前記鉛直拘束装置は、前記災害時多目的船の船底を支持する少なくとも3本の柱部材と、前記柱部材を昇降する昇降装置とを有し、前記柱部材が上昇することにより前記災害時多目的船を前記規定高さまで持ち上げるように構成されていることを特徴としている。
【0009】
【0010】
上記構成の災害時多目的船の停泊施設によれば、水平拘束具によって岸壁に対する災害時多目的船の水平方向の移動が規制される。また、鉛直拘束装置によって、建物に対する災害時多目的船の鉛直方向位置が規定高さに調整されたうえで、岸壁に対する災害時多目的船の鉛直方向の移動が規制される。これにより、災害時多目的船は、波浪や潮汐の影響を受けて動揺せずに、岸壁に対して一定の位置を維持する。このように、災害時多目的船を平時は動揺することなく停泊させておくことができ、船内での活動は動揺を理由として制限されない。よって、平時の災害時多目的船は建物の付属的構造物として、或いは、建物の機能を拡張する構造物として活用され得る。また、有事には、水平拘束具及び鉛直拘束装置による規制を解除することにより、災害時多目的船は速やかに出航可能な状態となりうる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、災害時多目的船の停泊施設であって、災害時多目的船を平時は動揺することなく停泊させておき、有事には速やかな出航を可能とするものを、提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る港湾構造物の全体的な構成を示す平面図である。
【
図2】
図2は、鉛直拘束装置の構成を説明する港湾構造物の断面図である。
【
図3】
図3は、船舶が規定高さにある状態を説明する港湾構造物の断面図である。
【
図4】
図4は、船舶と建物が搭乗橋で接続された状態を説明する港湾構造物の断面図である。
【
図5】
図5は、変形例に係る港湾構造物の全体的な構成を示す平面図である。
【
図6】
図6は、岸壁のバリエーションを説明する変形例に係る港湾構造物の全体的な構成を示す平面図である。
【
図7】
図7は、鉛直拘束装置の構成を説明する変形例に係る港湾構造物の断面図である。
【
図8】
図8は、船舶が規定高さにある状態を説明する変形例に係る港湾構造物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る港湾構造物1の全体的な構成を示す平面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る港湾構造物1は、停泊施設6と、病院船50とを備える。病院船50は、災害時多目的船5の一例である。
【0014】
〔病院船50(災害時多目的船5)〕
病院船50は、平時には停泊施設6に停泊している。病院船50は船内で医療行為を行うことを主要な機能とする。病院船50には、例えば、手術室、集中治療室、病室、検査室、高度医療資機材等、陸上の医療施設と同等の医療機能が搭載される。病院船50は、大規模自然災害やパンデミックなどの非常事態が発生したときに出航し、海から非常事態発生地へアプローチして、医療活動に利用される。
【0015】
病院船50には少なくとも1箇所の乗船口51が設けられている。一般に、乗船口51は病院船50の左舷に設けられるが、これに限定されない。
【0016】
〔停泊施設6〕
停泊施設6には、岸壁2と、少なくとも1つの建物3と、鉛直拘束装置9とが設けられている。停泊施設6には、病院船50が停泊するための停泊領域10が規定されている。停泊領域10の大きさは病院船50と対応しており、例えば、病院船50の外形よりも一回り大きな平面視略矩形を呈する。
【0017】
岸壁2は、港湾において病院船50が停泊するために設けられた接岸施設である。岸壁2は矢板式、重力式、及び桟橋式などの公知の構造であってよい。また、岸壁2の一部分が、桟橋などの岸壁とは異なる態様の接岸施設で構成されていてもよい。岸壁2は、停泊領域10を縁取る平面視四辺のうち少なくとも一辺に沿って設けられている。但し、岸壁2は、停泊領域10を縁取る平面視四辺のうち二辺又は三辺に沿って設けられていてもよい。
【0018】
建物3は、岸壁2に沿って陸上に建てられている。建物3は、陸地に定着する建造物であって、屋根、周壁、及び、少なくとも1箇所の岸壁側出入口31を有する。岸壁側出入口31は、停泊領域10に向かって開口している。また、建物3と災害時多目的船5とは少なくとも1つの目的を共有する。本実施形態において、災害時多目的船5は病院船50であり、建物3は医療施設であり、病院船50と建物3とは医療サービスを提供する目的を共有する。この医療施設は、病院や診療所であってよい。
【0019】
鉛直拘束装置9は、建物3に対する病院船50の鉛直方向の位置を規定高さに調整する。但し、建物3は岸壁2に対し位置固定されていることから、鉛直拘束装置9は岸壁2に対する病院船50の鉛直方向の位置を規定高さに調整すると読み替えることができる。病院船50が規定高さにあるとき、病院船50の乗船口51の鉛直方向の位置Heと、建物3の岸壁側出入口31の鉛直方向の位置とが、所定の関係にある。
【0020】
例えば、規定高さにある病院船50の乗船口51の鉛直方向の位置Heは、建物3の岸壁側出入口31の鉛直方向の位置と実質的に同一であってよい。この「実質的同一」には、病院船50の乗船口51と建物3の岸壁側出入口31とを結ぶ直線が水平である場合と、この直線の勾配(垂直距離対水平距離)が1/12以下の範囲である場合とが含まれてよい。
【0021】
また、例えば、規定高さにある病院船50の乗船口51の鉛直方向の位置Heと、建物3の岸壁側出入口31の鉛直方向の位置との差が所定の値(又は、所定の数値範囲内)であってよい。
【0022】
更に、鉛直拘束装置9は、規定高さにある病院船50の岸壁2に対する鉛直方向への移動の規制及びその解除が可能に構成されている。つまり、規定高さに調整された病院船50は、鉛直拘束装置9によって規定高さが維持される。
【0023】
本実施形態に係る鉛直拘束装置9は、病院船50の船底を支持可能な少なくとも3本の柱部材91と、柱部材91を昇降する昇降装置92とを有する。
【0024】
図2は、
図1に示す港湾構造物1が備える鉛直拘束装置9を説明する図である。
図2に示すように、各柱部材91は停泊領域10の海底から鉛直方向に延びており、頂部に船底支持部93が設けられている。柱部材91は、船底支持部93で病院船50の船底と接触して、病院船50を支持する。
【0025】
昇降装置92は、柱部材91の船底支持部93を鉛直方向に昇降するように構成されている。昇降装置92は、例えば、流体圧シリンダであってよい。
【0026】
〔水平拘束具8〕
港湾構造物1は、少なくとも1つの水平拘束具8を更に備える。水平拘束具8は、停泊施設6及び病院船50のいずれか一方に設けられていてよい。水平拘束具8は、岸壁2に対し病院船50の水平方向への移動の規制及びその解除が可能なように構成されている。
【0027】
本実施形態に係る水平拘束具8は、ロッド状又はアーム状の長尺部材である。水平拘束具8は、長手方向の一方に第1端部81を有し、長手方向の他方の端部に第2端部82を有する。水平拘束具8は、剛体であって、例えば型鋼などの鋼材で構成されている。
【0028】
水平拘束具8の第1端部81は、岸壁2に設けられた係留部23に、ボルト等により締結されている。水平拘束具8の第2端部82は、病院船50の船体に設けられた連結部53に、ボルト等の締結具により結合されている。但し、水平拘束具8の第1端部81及び第2端部82のうち少なくとも一方が、水平方向に揺動可能にピン接合されていてもよい。
【0029】
本実施形態においては、複数の水平拘束具8は、病院船50の左舷と岸壁2とを船幅方向に繋ぐ第1水平拘束具8aと、病院船50の船尾と岸壁2と船長方向に繋ぐ第2水平拘束具8bとの2本の水平拘束具8を含む。これにより病院船50は、岸壁2に対し水平方向の移動が規制される。但し、水平拘束具8の病院船50への結合箇所やその数は上記に限定されるものではなく、病院船50の岸壁2に対する水平方向の移動を規制することができればよい。
【0030】
〔係留方法〕
ここで、港湾構造物1において病院船50を停泊施設6へ係留させる作業の手順について説明する。係留作業は、満潮時に行われることが望ましい。
【0031】
まず、病院船50を、岸壁2へ接岸させ、停泊領域10で停止させ、投錨する。次に、鉛直拘束装置9の柱部材91を上昇させる。一段階目は、各柱部材91を、その船底支持部93が病院船50の船底に接触するまで上昇させる。二段階目は、病院船50を傾けずに規定高さまで持ち上げるように、全ての柱部材91をバランスさせながら上昇させる。
図3は、病院船50が規定高さにある状態を説明する港湾構造物1の断面図である。
図3に示すように、規定高さにある病院船50の質量の一部が柱部材91で支持される。鉛直拘束装置9によって支持されることによって鉛直下方への移動が阻止される。また、潮汐によって海面が上昇しても、病院船50が柱部材91で支持されている範囲においては、病院船50は浮き上がることなく鉛直拘束装置9によって支持された状態が維持され、鉛直上方へ移動しない。このように、鉛直拘束装置9は、病院船50を規定高さまで持ち上げるとともに、岸壁2に対する病院船50の鉛直方向への移動を規制する。
【0032】
なお、規定高さにある病院船50の計画最小喫水線55は、所定の計画最高潮位WLmよりも高位置であることが望ましい。ここで「計画最小喫水線55」は、病院船50に構造上規定される水平なラインであって、病院船50が最小限の装備をしているときの設計上の喫水線である。計画最高潮位WLmは、停泊領域10の大潮且つ満潮時の潮位の平均値、又は、過去最高潮位であってよい。これにより、鉛直拘束装置9によって規定高さまで持ち上げられた病院船50は、例え大潮且つ満潮となっても、浮き上がることなく鉛直拘束装置9によって支持された状態が維持され、それより鉛直上方へ移動しない。
【0033】
続いて、岸壁2と病院船50とが水平拘束具8で接続される。水平拘束具8は、岸壁2に対する病院船50の水平方向への移動を規制する。このようにして、病院船50は岸壁2に対して鉛直方向及び水平方向への移動が規制された状態となる。
【0034】
図1に戻って、病院船50と建物3との間の人間又は物の往来が滞りなく行われるようにするために、病院船50の乗船口51と建物3の岸壁側出入口31との間が搭乗橋35で接続されてよい。本実施形態においては、乗船口51の鉛直方向の位置Heと岸壁側出入口31の鉛直方向の位置とが略等しいことから、搭乗橋35の通路は略水平となり、特にカートに載せられた機器や患者を移動に適している。なお、乗船口51と岸壁側出入口31とに高低差があっても、バリアフリー基準を満たすスロープを有する搭乗橋35でこれらを接続可能であればよい。
【0035】
搭乗橋35は、建物3、岸壁2、及び病院船50のうちいずれに設けられていてもよい。搭乗橋35は、水平拘束具8としての機能を有していてもよい。つまり、搭乗橋35によって岸壁2と病院船50とが接続されていてよい。例えば、図4に示すように、搭乗橋35が岸壁2の係留部23及び病院船50と剛的に接続されることによって、搭乗橋35が岸壁2に対する病院船50の水平方向の移動を規制するように構成されていてもよい。
【0036】
以上のようにして岸壁2に係留されて停泊施設6に停泊している病院船50は、平時には、建物3の付属的構造物として、或いは、建物3の機能を拡張する構造物として活用され得る。病院船50は、風、波浪や潮汐の影響を受けて動揺せずに、岸壁2に対して一定の位置を維持する。よって、動揺を理由として船内での活動は制限されない。
【0037】
〔出航方法〕
停泊施設6に停泊している病院船50は、非常事態が発生したときに出航する。以下、出航の手順について説明する。出航は、満潮時に行われることが望ましい。
【0038】
まず、患者や出航に不要な機材などを病院船50から建物3へ移動させるとともに、出航に必要な機材や資材、人材を病院船50へ移動させる。次に、搭乗橋35と病院船50との結合を解除し、水平拘束具8と病院船50との結合を解除する。水平拘束具8が病院船50側に設けられている場合には、水平拘束具8と岸壁2との結合を解除する。これにより、岸壁2に対する病院船50の水平方向への移動の規制が解除される。
【0039】
続いて、鉛直拘束装置9の柱部材91を降下させる。柱部材91の降下に伴い、病院船50も徐々に降下する。柱部材91は、船底支持部93が病院船50の船底から離れるまで、即ち、柱部材91が病院船50を支持しなくなる状態となるまで降下する。これにより、岸壁2に対する病院船50の鉛直方向の移動の規制が解除される。このようにして、病院船50は岸壁2に対して鉛直方向及び水平方向への移動の規制が解除された状態となる。病院船50は、抜錨されて、病院船50を目的地へ向かって出航する。
【0040】
〔総括〕
以上に説明した通り、本実施形態に係る港湾構造物1は、
災害時多目的船5(例えば、病院船50)と、
災害時多目的船5が停泊可能な岸壁2と、岸壁2に沿って設けられ、少なくとも1つの岸壁側出入口31を有し、災害時多目的船5と少なくとも一つの目的を共有する建物3とを有する停泊施設6と、
災害時多目的船5及び停泊施設6のうちいずれか一方に設けられ、岸壁2に対する災害時多目的船5の水平方向への移動の規制及びその解除が可能な水平拘束具8と、
災害時多目的船5の建物3に対する鉛直方向の位置を所定の規定高さに調整するとともに、規定高さにある災害時多目的船5の鉛直方向への移動の規制及びその解除が可能な鉛直拘束装置9と、を備える。
【0041】
また、以上に説明した通り、本実施形態に係る停泊施設6は、
災害時多目的船5が停泊可能な岸壁2と、
岸壁2に沿って設けられ、少なくとも1つの岸壁側出入口31を有し、災害時多目的船5と少なくとも一つの目的を共有する建物3と、
災害時多目的船5及び岸壁2のうちいずれか一方に設けられ、岸壁2に対する災害時多目的船5の水平方向への移動の規制及びその解除が可能な水平拘束具8と、
災害時多目的船5の建物3に対する鉛直方向の位置を所定の規定高さに調整するとともに、規定高さにある災害時多目的船5の鉛直方向への移動の規制及びその解除が可能な鉛直拘束装置9と、を備える。
【0042】
上記構成の災害時多目的船5の停泊施設6及び港湾構造物1によれば、水平拘束具8によって岸壁2に対する災害時多目的船5の水平方向の移動が規制される。また、鉛直拘束装置9によって、災害時多目的船5の乗船口51の鉛直方向の位置Heと岸壁側出入口31の鉛直方向の位置とが所定の関係となるように調整されたうえで、岸壁2に対する災害時多目的船5の鉛直方向の移動が規制される。これにより、災害時多目的船5は、波浪や潮汐の影響を受けて動揺せずに、建物3(又は、それが固定された岸壁2)に対して一定の位置を維持する。このように、災害時多目的船5を平時は動揺することなく停泊させておくことができ、船内での活動は動揺を理由として制限されない。よって、平時の災害時多目的船5は建物3の付属的構造物として、或いは、建物3の機能を拡張する構造物として活用され得る。また、有事には、水平拘束具8及び鉛直拘束装置9による規制を解除することにより、災害時多目的船5は速やかに出航可能な状態となりうる。
【0043】
また、本実施形態に係る港湾構造物1及び停泊施設6において、乗船口51の鉛直方向の位置Heが建物3の岸壁側出入口31の鉛直方向の位置と実質的に同一であってよい。
【0044】
このように、乗船口51の鉛直方向の位置Heが建物3の岸壁側出入口31の鉛直方向の位置と実質的に同一であることによって、両者を接続する通路(例えば、
図1及び5の搭乗橋35)が設けられた場合に当該通路が略水平となって、物の搬送や人の往来に優位である。
【0045】
また、規定高さにある災害時多目的船5の計画最小喫水線55が、岸壁2に対し規定された計画最高潮位WLmよりも高いことが望ましい。ここで、計画最高潮位WLmは、大潮且つ満潮時の潮位の平均値又は過去最高潮位である。
【0046】
これにより、潮汐や高潮などで海面が上昇しても、規定高さにある災害時多目的船5が柱部材91で支持された状態が保持され、災害時多目的船5が浮き上がらない。
【0047】
また、本実施形態に係る港湾構造物1及び停泊施設6において、鉛直拘束装置9は、停泊施設6に設けられた、災害時多目的船5の船底を支持する少なくとも3本の柱部材91、及び、柱部材91を昇降する昇降装置92を有し、柱部材91が上昇することにより災害時多目的船5を規定高さまで持ち上げるように構成されている。規定高さにある災害時多目的船5の質量の一部は、柱部材91で支持される。
【0048】
上記構成の鉛直拘束装置9によれば、柱部材91を上昇させて災害時多目的船5を柱部材91で支持させた状態とすることにより、災害時多目的船5の鉛直方向の移動を規制する(制限する)ことができる。更に、柱部材91を降下させて災害時多目的船5から柱部材91を離すことにより、災害時多目的船5の鉛直方向の移動の規制を解除することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る港湾構造物1及び停泊施設6は、岸壁2、災害時多目的船5及び建物3のうちいずれか一つに設けられ、災害時多目的船5の乗船口51と建物3の岸壁側出入口31とに掛け渡される略水平な搭乗橋35を、更に備える。
【0050】
上記において、水平拘束具8のうち少なくとも一つが、災害時多目的船5の乗船口51と岸壁側出入口31とに掛け渡される搭乗橋35としての機能を有していてもよい。
【0051】
このように、建物3と災害時多目的船5とを接続する搭乗橋35が設けられることで、建物3と災害時多目的船5とが略水平な直通通路で接続される。これにより、建物3と災害時多目的船5との往来が容易となり、また、有事には災害時多目的船5から建物3へ(又は、その逆へ)機器や物資を速やかに搬送することができる。
【0052】
本実施形態に係る港湾構造物1及び停泊施設6において、建物3が医療施設であり、災害時多目的船5が病院船50である。
【0053】
このように、本発明によれば病院船50を平時には陸上の医療施設の付属的構造物として、或いは、病院の機能を拡張する構造物として活用され得る。また、有事には、病院船50の患者を隣接する医療施設へ移動させれば出航の準備が整い、病院船50を速やかに出航させることができる。
【0054】
〔変形例〕
次に、上記実施形態に係る港湾構造物1及び停泊施設6の変形例を説明する。
図5は、変形例に係る港湾構造物1Aの全体的な構成を示す平面図である。
図5に示す港湾構造物1Aは、前述の実施形態に係る港湾構造物1と対比して鉛直拘束装置9の構成が異なる点で相違する。そこで、以下では、港湾構造物1Aの鉛直拘束装置9Aについて詳細に説明し、上記実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0055】
図5に示すように、港湾構造物1Aに設けられた岸壁2は、停泊領域10を縁取る平面視四辺のうち少なくとも二辺に設けられている。
図5に示す例では、病院船50の右舷、左舷、及び、船尾と対峙するように、停泊領域10の平面視四辺のうち隣接する三辺に岸壁2の壁が設けられている。そして、停泊領域10の平面視四辺のうち残りの一辺には水門97が設けられている。水門97は、水門開閉装置96によって開閉駆動される。但し、
図6に示すように、病院船50の右舷及び左舷と対峙するように、停泊領域10の平面視四辺のうち対峙する二辺に岸壁2の壁が設けられ、停泊領域10の平面視四辺のうち残りの二辺に水門97a,97bが設けられていてもよい。この水門97a,97bには互いに独立して動作する水門開閉装置96a,96bが設けられる。
【0056】
図5に戻って、水門97が閉じているときは、停泊領域10はその周辺に対して閉鎖され、停泊領域10とその周辺との間の海水の流れが遮断されている。水門97が開いているときは、停泊領域10はその周辺に対し開放され、停泊領域10とその周辺との間の海水の流れが許容されている。なお、停泊領域10の周辺とは、水門97より外側の海のこととする。
【0057】
鉛直拘束装置9Aは、上記の水門97と、水門97を開閉する水門開閉装置96と、停泊領域10から海水を排出する排水ポンプ98、及び、停泊領域10へ海水を給水する給水ポンプ99と、を有する。排水ポンプ98及び給水ポンプ99は、病院船50及び停泊施設6のうちいずれに設けられていてもよい。また、排水ポンプ98及び給水ポンプ99は、一つのポンプがこれらの機能を併せ備えていてもよい。
【0058】
(係留方法)
ここで、港湾構造物1Aにおいて病院船50を停泊施設6へ係留させる作業の手順について説明する。
【0059】
まず、病院船50を、岸壁2へ接岸させ、停泊領域10で停止させ、投錨する。ここで、図5及び図7に示すように、停泊領域10の水面に浮かぶ病院船50の乗船口51の高さHeは建物3の岸壁側出入口31の高さよりも低い。
【0060】
次に、水門開閉装置96を動作させて水門97を閉じる。続いて、給水ポンプ99を動作させて、病院船50が岸壁2に対して規定高さとなるまで、停泊領域10に海水を給水する。
図8は、病院船50が規定高さにある状態を説明する港湾構造物1Aの断面図である。図
5及び図8に示すように、規定高さにある病院船50では、病院船50の乗船口51の鉛直方向の高さ
Heと建物3の岸壁側出入口31の鉛直方向の高さとが実質的に同一である。この「実質的に同一」には、病院船50の乗船口51と建物3の岸壁側出入口31とを結ぶ直線が水平である場合と、この直線の勾配が1/12以下の範囲である場合とが含まれてよい。
【0061】
上記のように鉛直拘束装置9Aによって規定高さまで持ち上げられた病院船50は、停泊領域10に浮かんでいる。停泊領域10は、岸壁2及び水門97によって四方が囲まれており、海水の出入りがない。よって、病院船50は、潮汐や波浪の影響を受けて動揺せず、水位が略一定であるので、病院船50の岸壁2に対する鉛直高さが規定高さに保持される。つまり、病院船50は鉛直方向への移動が規制された状態にある。このように、鉛直拘束装置9Aは、病院船50を規定高さまで持ち上げるとともに、岸壁2に対する病院船50の鉛直方向への移動を規制する。
【0062】
続いて、岸壁2と病院船50とが水平拘束具8で接続される。水平拘束具8は、岸壁2に対する病院船50の水平方向への移動を規制する。このようにして、病院船50は岸壁2に対して鉛直方向及び水平方向への移動が規制された状態となり、風が吹いても流されない。
【0063】
規定高さにある病院船50の乗船口51の高さと、建物3の岸壁側出入口31の高さは略等しい。病院船50の乗船口51と建物3の岸壁側出入口31との間を接続する搭乗橋35で接続されてよい。搭乗橋35は、建物3、岸壁2、及び病院船50のうちいずれに設けられていてもよい。搭乗橋35は、水平拘束具8としての機能を有していてもよい。
【0064】
以上のようにして岸壁2に係留されて停泊施設6に停泊している病院船50は、平時には、建物3の付属的構造物として、或いは、建物3の機能を拡張する構造物として活用され得る。病院船50は、風、波浪や潮汐の影響を受けて動揺せずに、岸壁2に対して一定の位置を維持する。よって、動揺を理由として船内での活動は制限されない。
【0065】
〔出航方法〕
停泊施設6に停泊している病院船50は、非常事態が発生したときに出航する。まず、患者や出航に不要な機材などを病院船50から建物3へ移動させるとともに、出航に必要な機材や資材、人材を病院船50へ移動させる。次に、搭乗橋35と病院船50との結合を解除し、水平拘束具8と病院船50との結合を解除する。水平拘束具8が病院船50側に設けられている場合には、水平拘束具8と岸壁2との結合を解除する。これにより、岸壁2に対する病院船50の水平方向への移動の規制が解除される。
【0066】
続いて、鉛直拘束装置9Aで岸壁2に対し病院船50を降下させる。ここで、排水ポンプ98を動作させて、停泊領域10の水位がその周辺の水位と略等しくなるまで、停泊領域10の海水が排水される。そして、水門開閉装置96を動作させて水門97を開放する。これにより、病院船50の鉛直方向への移動の規制が解除される。このようにして、病院船50は岸壁2に対して鉛直方向及び水平方向への移動の規制が解除された状態となる。病院船50は、抜錨されて、病院船50を目的地へ向かって出航する。
【0067】
以上に説明した通り、本変形例に係る港湾構造物1Aでは、災害時多目的船5に対応した平面視略矩形の停泊領域10が規定され、岸壁2は停泊領域10の平面視四辺のうち少なくとも二辺に設けられ、上記実施形態に係る鉛直拘束装置9に代えて変形例に係る鉛直拘束装置9Aが設けられている。
【0068】
また、本変形例に係る災害時多目的船5の停泊施設6は、災害時多目的船5に対応した平面視略矩形の停泊領域10が規定され、岸壁2は停泊領域10の平面視四辺のうち少なくとも二辺に設けられて、上記実施形態に係る鉛直拘束装置9に代えて変形例に係る鉛直拘束装置9Aが設けられている。
【0069】
上記の鉛直拘束装置9Aは、停泊領域10の平面視四辺のうち残りの辺に設けられた水門97(又は、97a及び97b)、及び、水門97を開閉する水門開閉装置96(又は、96a及び96b)と、停泊領域10から海水を排出する排水ポンプ98、及び、停泊領域10へ海水を給水する給水ポンプ99とを有し、水門97で停泊領域10を閉鎖したうえで給水ポンプ99で停泊領域10へ給水することにより災害時多目的船5を規定高さまで上昇させ、排水ポンプ98で停泊領域10から排水することにより災害時多目的船5を降下させるように構成されている。排水ポンプ98及び給水ポンプ99は、災害時多目的船5及び岸壁2(停泊領域10)のうちいずれか一方に設けられていてよい。
【0070】
上記構成の港湾構造物1A及び停泊施設6によれば、災害時多目的船5の船体に外力を与えることなく、災害時多目的船5を規定高さまで上昇させたうえ、災害時多目的船5を規定高さに保持することができる。
【0071】
以上に本発明の好適な実施の形態(及び変形例)を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0072】
例えば、上記実施形態及びその変形例において、災害時多目的船5は病院船50であるが、災害時多目的船5は病院船50に限定されない。災害時多目的船5は、医療活動や行方不明者の捜索・救助、人員・物資の輸送、被災者の支援(給食・給水、入浴)等に利用される船舶であればよい。例えば、災害時多目的船5が、被災者の支援(給食・給水、入浴)を行う救援船である場合に建物3は宿泊施設であってよい。例えば、災害時多目的船5が、リハビリ設備を備える船舶である場合に建物3はリハビリ機材を保管する建屋でもよい。
【符号の説明】
【0073】
1,1A:港湾構造物
2 :岸壁
3 :建物
5 :災害時多目的船
6 :停泊施設
8,8a,8b:水平拘束具
9,9A:鉛直拘束装置
10 :停泊領域
31 :岸壁側出入口
35 :搭乗橋
50 :病院船
51 :乗船口
55 :計画最小喫水線
91 :柱部材
92 :昇降装置
96,96a,96b:水門開閉装置
97,97a,97b:水門
98 :排水ポンプ
99 :給水ポンプ