(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】虚血-再灌流障害の治療又は予防方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240403BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240403BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240403BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240403BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240403BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240403BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N ZNA
A61P13/12
A61P9/10
A61P43/00 111
A61P37/02
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K16/46
C07K16/28
C12P21/08
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2020529147
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 AU2018051272
(87)【国際公開番号】W WO2019104385
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-26
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】516179960
【氏名又は名称】シーエスエル リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】インゲラ ビクストレーム
(72)【発明者】
【氏名】アドリアーナ バズ モレッリ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ピアース
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-519517(JP,A)
【文献】国際公開第2007/025166(WO,A2)
【文献】国際公開第2008/017126(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0259824(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0199426(US,A1)
【文献】特表2010-540449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61P 13/12
A61P 9/10
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器若しくは組織移植又は外科手術を行う対象における虚血-再灌流障害の発生を減少又は妨害するための医薬組成物であって、当該医薬組成物が顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)シグナル伝達を阻害する化合物を含み、当該G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物が、G-CSF又はG-CSF受容体(G-CSFR)へ結合するか又は特異的に結合し且つG-CSFシグナル伝達を中和する抗体可変領域を含むタンパク質である、医薬組成物。
【請求項2】
前記臓器移植が腎移植である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物が:
a)対象へ投与される、ここで対象は、組織又は臓器移植のレシピエントである;及び/又は
b)臓器採取前の組織もしくは臓器移植のドナー及び/又は移植前の組織もしくは臓器へ投与される;
ように製剤化されたものである、請求項1又は2記載の
医薬組成物。
【請求項4】
組織又は臓器移植のための医薬組成物、あるいは組織又は臓器移植の転帰を改善するための、あるいは移植された組織又は臓器の機能を改善するための、あるいは移植腎機能発現遅延を予防するための医薬組成物であって、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を含有し、当該化合物が:
a)組織又は臓器の移植前又は移植時に、組織又は臓器移植片レシピエントへ投与され、当該組織又は臓器が、組織又は臓器移植片レシピエントへ移植される;
b)組織又は臓器の採取前に組織又は臓器移植片ドナーへ投与され;組織又は臓器を採取し、そして組織又は臓器を、組織又は臓器移植片レシピエントへ移植する;又は
c)エクスビボにおいて摘出された組織又は臓器へ投与され、摘出された組織又は臓器を、組織又は臓器移植片レシピエントへ移植する;
ように製剤化され、当該G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物が、G-CSF又はG-CSF受容体(G-CSFR)へ結合するか又は特異的に結合し且つG-CSFシグナル伝達を中和する抗体可変領域を含むタンパク質である、医薬組成物。
【請求項5】
臓器又は組織移植前及び移植後に前記化合物をレシピエントに投与するためのものである、請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物が、虚血又は再灌流の前に投与されるように製剤化されたものである、請求項1~5のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物が、虚血又は再灌流の0~48時間前に投与されるように製剤化されたものである、請求項6記載の
医薬組成物。
【請求項8】
前記G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物が、Fvを含むタンパク質である、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記タンパク質が、以下からなる群から選択される、請求項8記載の医薬組成物:
(i)単鎖Fv断片(scFv);
(ii)二量体性scFv(di-scFv);又は
(iii)ダイアボディ;
(iv)トリアボディ;
(v)テトラボディ;
(vi)Fab;
(vii)F(ab’)
2;
(viii)Fv;
(ix)抗体定常領域、Fc又は重鎖定常ドメイン(C
H)2及び/もしくはC
H3へ連結された(i)から(viii)のひとつ;
(x)アルブミン又はその機能断片もしくはバリアント、あるいはアルブミンに結合するタンパク質に連結された(i)から(ix)のひとつ;及び
(xi)抗体。
【請求項10】
前記タンパク質が、
(i)G-CSFRへ結合するか又は特異的に結合する抗体可変領域を含み、且つ配列番号:4に明記した配列を含む重鎖可変領域(V
H)及び配列番号:5に明記した配列を含む軽鎖可変領域(V
L)を含む抗体C1.2Gの、G-CSFRへの結合を競合阻害する;及び/又は
(ii)配列番号:1の111-115、170-176、218-234及び/又は286-300から選択された1又は2又は3又は4の領域内の残基を含むエピトープへ結合する;
請求項1~9のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記タンパク質が:
(i)配列番号:4に明記したアミノ酸配列を含むV
H及び配列番号:5に明記したアミノ酸配列を含むV
Lを含む;又は
(ii)配列番号:2に明記したアミノ酸配列を含むV
H及び配列番号:3に明記したアミノ酸配列を含むV
Lを含む;
抗体である、請求項1~10のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記タンパク質が、配列番号:4に明記したアミノ酸配列を含むVHの3つのCDRを含むVH及び配列番号:5に明記したアミノ酸配列を含むVLの3つのCDRを含むVLを含む抗体である、請求項1~10のいずれか一項記載の
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のデータ
本出願は、2017年11月29日に出願され、且つ「虚血-再灌流障害の治療又は予防方法(Method of treating or preventing ischemia-reperfusion injury)」と題する、オーストラリア特許出願第2017904822号の優先権を主張するものである。この出願の全内容は、引用により本明細書中に組み込まれている。
【0002】
配列表
本出願は、電子形式の配列表と一緒に出願される。この配列表の全内容は、引用により本明細書中に組み込まれている。
【0003】
分野
本開示は、顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)シグナル伝達を拮抗することにより、対象における虚血-再灌流障害を治療又は予防する方法、並びに例えば臓器移植におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
虚血-再灌流障害(IRI)は、虚血、すなわち、例えば移植のための死亡したドナー臓器へなどの組織又は臓器への血液供給の制限又は減少と、それに続く再灌流及び再酸素化により引き起こされる病的状態である。虚血は、細胞への酸素及び栄養素の枯渇、並びに代謝廃棄物の不適切な除去を引き起こし、且つ容易に壊死及び炎症へと繋がり得る。虚血期間後の組織又は臓器の再灌流は、血液供給及び酸素を回復するが、しかし再灌流それ自身は、最初の虚血により引き起こされた酸化及び炎症を強め、且つ更なる損傷を引き起こし得る。再酸素化は、細胞のタンパク質、DNA及び形質膜に酸化的損傷を引き起こし得る。そのような酸化的損傷は次に、フリーラジカルの放出を引き起こすことがあり、結果更なる細胞の損傷を生じる。再灌流障害は、とりわけ、活性酸素種の発生、補体活性化、細胞炎症及び内皮細胞損傷により特徴付けられる。
【0005】
臓器移植において、虚血-再灌流障害は、‘温’IRI又は‘冷’IRIとして規定することができる。温IRIは、臓器移植手術時に現場(in situ)で又は様々な形のショックもしくは外傷の際に起こる。冷IRIは、エクスビボにおける保存時に起こり、且つ通常、臓器移植手術時の温IRIと組合せられる。
【0006】
自然免疫系及び適応免疫系の両方は、虚血-再灌流障害の病態形成において中心的役割を有する。自然免疫に関して、死滅しつつある細胞により放出される危険なシグナルは、Toll-様受容体を活性化し、炎症細胞動員、並びに例えばケモカイン、サイトカイン及びフリーラジカルなどの炎症メディエーターの生成を制御する、細胞因子及び可溶性因子の活性化及び/又は産生につながる。好中球は、虚血及び再灌流後の主要な炎症細胞レスポンダーの一つである。炎症環境において、樹状細胞は、死滅しつつある細胞から抗原を取込み処理し、リンパ節へ移動し、且つ適応免疫系の抗原-特異的細胞を活性化する。従って、虚血-再灌流障害の病態形成は、複雑であり、且つ組織損傷はおそらく、細胞死、微小血管機能障害、転写の再プログラミング、補体の活性化、並びに自然免疫系及び適応免疫系などのいくつかの機序を介して起こる。
【0007】
虚血-再灌流障害は、腎移植を含む移植において頻出する事象であり、短期及び長期の両方での移植腎の転帰を決定する関連因子である。腎移植において、IRIは、内皮細胞及び尿細管上皮細胞に影響を及ぼし、且つ急性腎臓損傷及び移植腎機能発現遅延(DGF)を引き起こし得、これらは移植腎の生存を損ない得る。DGFは、死亡したドナー、又は拡張基準ドナーの腎移植後、より頻出する早期合併症の一つであり、且つIRIにより引き起こされた尿細管上皮細胞壊死により主に引き起こされる(Schroppel Bら、Kidney Int. 2014)。
【0008】
虚血-再灌流障害を治療するための臨床試験において現在試験されている化合物は、エクリズマブが挙げられ、これは補体カスケードのC5成分に対するヒト化されたモノクローナル抗体である(Rother Rら、Nat Biotechnol. 2007)。顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)も、再灌流障害治療の治療薬として研究されている(Nogueiraら、Cell Phys Biochem (2006)、及びLiら、Nephrology (2008)参照)。これらの研究は、G-CSFによる治療は、腎虚血に保護的作用を有することを示している。
【0009】
しかし、虚血-再灌流障害を予防又は治療する効果的療法は、見つかっていない。従って前述のことから、当該技術分野において虚血-再灌流障害により引き起こされる損傷を予防又は治療する戦略及び方法の必要性があることは、当業者には明らかであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
要約
本発明を生む上で、本発明者らは、G-CSFは虚血-再灌流障害において保護的役割を有するという先行技術に対し進め、且つ虚血-再灌流障害に対するG-CSFシグナル伝達の阻害作用を代わりに研究した。本発明者らは、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を投与することにより、虚血-再灌流障害の作用は軽減されたことを発見した。加えて本発明者らは、G-CSFシグナル伝達を阻害することにより、これらは、C5のレベルで補体活性化を阻害するのと同程度まで、虚血-再灌流障害を予防又は治療することができることを発見した。これらの知見は、G-CSFシグナル伝達を阻害することにより、虚血-再灌流障害を予防又は治療する方法の基礎を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従ってある例において、本開示は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)シグナル伝達を阻害する化合物を投与することを含む、対象における虚血-再灌流障害を予防又は治療する方法を提供する。
【0012】
本開示はまた、虚血-再灌流障害の予防又は治療において使用するためのG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物も提供する。
【0013】
本開示はまた、虚血-再灌流障害の予防又は治療のための医薬品の製造における、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の使用も提供する。
【0014】
いくつかの例において、虚血及び/又は再灌流障害は、臓器移植、低温臓器保存、脳死、アテローム性動脈硬化症、血栓症、血栓塞栓症、脂質-塞栓症、外傷、出血、ステント、手術、血管形成術、バイパス手術、全虚血、心筋梗塞、脳卒中、末梢血管疾患、敗血症、腫瘍又はそれらの組合せに起因するか又は関連している。
【0015】
いくつかの例において、虚血-再灌流障害は、温虚血-再灌流障害である。いくつかの例において、虚血-再灌流障害は、冷虚血-再灌流障害である。
【0016】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、対象へ投与される。
【0017】
一例において、虚血-再灌流障害は、以下の1又は複数に起因するか又は関連している:
(i)臓器移植;
(ii)手術;
(iii)外傷;
(iv)敗血症;
(v)腫瘍;及び
(vi)脳卒中。
【0018】
一例において、虚血-再灌流障害は、手術に起因するか又は関連している。一例において、虚血-再灌流障害は、冠動脈バイパス手術、例えば二重バイパス(そこでは2本の冠状動脈がバイパス形成される(例えば、冠動脈左前下行枝(LAD)及び右冠動脈(RCA));三重バイパス(そこでは、例えばLAD、RCA及び冠動脈左回旋枝(LCX)などの、3本の血管が、バイパス形成される);四重バイパス(そこでは、4本の血管が、バイパス形成される(例えば、LAD、RCA、LCX及びLADの第一対角枝));又は、五重バイパス(そこでは5本の動脈が、バイパス形成される)に起因するか又は関連している。
【0019】
一例において、虚血-再灌流障害は、臓器移植、例えば固形臓器移植に起因するか又は関連している。一例において、臓器移植は、腎移植である。一例において、臓器移植は、肝移植手術である。一例において、臓器移植は、心臓移植である。一例において、臓器移植は、膵臓移植である。一例において、臓器移植は、肺移植である。一例において、臓器移植は、胃移植である。一例において、臓器移植は、腸移植である。一例において、臓器移植は、精巣移植である。
【0020】
また更なる例において、臓器移植は、皮膚移植、例えば全層皮膚移植である。
【0021】
一例において、虚血-再灌流障害は、組織移植に起因するか又は関連している。一例において、組織移植は、血管移植である。一例において、組織移植は、皮膚移植、例えば、血管新生された皮膚である。一例において、組織移植は、膵島移植である。一例において、組織移植は、角膜移植である。一例において、組織移植は、骨格筋移植である。
【0022】
虚血-再灌流障害が移植(例えば臓器移植)に起因するか又は関連している場合、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植前、移植時及び/又は移植後に投与することができる。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、対象へ投与され、ここで対象は、組織又は臓器移植のレシピエントである。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、組織又は臓器移植のドナーへ投与される。
【0023】
いくつかの例において、組織又は臓器移植のドナーは、生存ドナーである。いくつかの例において、組織又は臓器移植のドナーは、死亡したドナーである。いくつかの例において、組織又は臓器移植のドナーは、脳死後臓器提供(DBD)ドナーである。いくつかの例において、組織又は臓器移植のドナーは、心臓死後臓器提供(DCD)ドナーである。いくつかの例において、組織又は臓器移植のドナーは、拡張基準ドナー(ECD)である。いくつかの例において、組織又は臓器移植のドナーは、標準基準ドナー(SCD)である。
【0024】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器移植前に、エクスビボにおいて摘出された臓器へ投与される。例えば摘出された臓器は、移植前にG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を含有する溶液により、灌流又は注入することができる。
【0025】
本開示はまた、組織又は臓器移植の方法、もしくは組織又は臓器移植の転帰を改善する方法、もしくは移植された組織又は臓器の機能を改善する方法、もしくは移植腎機能発現遅延を防止する方法も提供し、この方法は、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を、エクスビボにおいて摘出された組織又は臓器へ投与すること、並びに摘出された組織又は臓器を、組織又は臓器移植片レシピエントへ移植することを含む。
【0026】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器移植のドナー及び/又は臓器移植のレシピエント及び/又は摘出された臓器へ投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器移植のドナー及び臓器移植のレシピエントへ投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器移植のドナー及び摘出された臓器へ投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器移植のレシピエント及び摘出された臓器へ投与される。
【0027】
本開示の一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流の前に投与され、例えば移植(例えば、臓器移植)症例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植される臓器の再灌流前に、臓器移植片レシピエントへ投与される(例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植前又は移植時であるが再灌流前、例えば血流を制限するクランプが開放される前に投与される)。
【0028】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血又は再灌流前、0日(例えば、虚血又は再灌流のいずれかの直前)から7日までに投与される。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流又は虚血前、0日から6日又は5日又は4日までに投与される。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流又は虚血の0~72時間前に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流又は虚血の6~48時間前に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流又は虚血の12~36時間前に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流又は虚血の約24時間前に投与される。
【0029】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流又は虚血の少なくとも1時間前(及び再灌流又は虚血の最大7日前まで)に、投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流又は虚血の、少なくとも2又は少なくとも4又は少なくとも6又は少なくとも8又は少なくとも10又は少なくとも12時間、又は少なくとも14時間又は少なくとも16時間又は少なくとも18時間又は少なくとも20時間又は少なくとも22時間又は少なくとも24時間前に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流又は虚血の少なくとも24時間前に投与される。
【0030】
本明細書において化合物の投与の時期を考察する場合、考察は、化合物の反復投与に関連するものとする。例えば化合物は、虚血又は再灌流前0日から7日までに投与されるということに言及する場合は、本開示は、虚血又は再灌流前0日と7日の間の、本化合物の反復投与(例えば、2又は3又は4又は5回など)を包含している。
【0031】
加えて、移植症例において、本化合物は、移植後、複数回投与され得る。
【0032】
本明細書において化合物の投与の時期を考察する場合、本開示はまた、本化合物の単回投与に関する明確な支持を提供するようになるであろう。
【0033】
前述のことから、当業者には、本開示は、移植(例えば、臓器移植)の方法、又は移植(例えば、臓器移植)の転帰の改善、又は移植片(例えば、移植された臓器)の機能の改善、又は移植腎機能発現遅延の予防の方法であって、組織又は臓器の採取前に、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を、移植片ドナーへ投与すること;移植片(例えば、組織/臓器)を採取すること、並びに組織又は臓器を臓器移植片レシピエントへ移植することを含む方法を提供することは明らかであろう。
【0034】
本開示はまた、組織又は臓器ドナー由来の移植片組織又は臓器を、組織又は臓器移植片レシピエントにおいて、組織又は臓器の機能が改善するように調製する方法であって、組織又は臓器の採取前に、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を組織又は臓器ドナーへ投与することを含む方法も提供する。
【0035】
本開示は加えて、組織又は臓器移植片拒絶反応を予防する方法であって、組織又は臓器の採取前に、組織又は臓器ドナーへ、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を投与すること、組織又は臓器を採取すること、及び組織又は臓器を組織又は臓器移植片レシピエントへ移植することを含む方法を提供する。
【0036】
いくつかの例において、本方法は加えて、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を、移植片レシピエントへ投与することを含む。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植片レシピエントへ、移植の前に、又は組織又は臓器を移植する時点もしくはその時点付近で、投与される。別の例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、組織又は臓器移植手術中に、移植片レシピエントへ投与される。
【0037】
本開示は又、臓器移植の方法、もしくは組織又は臓器移植の転帰を改善するため、もしくは移植された組織又は臓器の機能を改善するため、もしくは移植腎機能発現遅延を予防するための方法であって、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を、移植片レシピエントへ、組織又は臓器の移植前に投与し、その後この臓器を、移植片レシピエントへ移植することを含む方法も提供する。
【0038】
一例において、臓器移植片ドナーは、脳死である。例えば、臓器ドナーは、生存し、且つ生命維持装置に繋がれているが、脳死である。追加のドナーは、本明細書において説明されており、且つ本開示のこの例に適用される。
【0039】
臓器ドナーへ投与する場合、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器が採取される前、例えば臓器採取前0~72時間に、投与され得る。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器採取前6~48時間に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器採取前12~36時間に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器採取前約24時間に投与される。
【0040】
脳死ドナーへ投与する場合、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、脳死から臓器採取までの時点で投与することができる。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、脳死宣告から48時間以内に、例えば脳死宣告の24時間又は12時間又は6時間以内に投与される。
【0041】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、単独の投与量として投与される。
【0042】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、複数の投与量で投与される。例えば本化合物は、移植前又は移植時に、移植片レシピエントへ投与され、その後1又は複数の追加投与量が、移植後にこのレシピエントへ投与される。別の例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植片ドナー又は提供される組織もしくは臓器へ投与され、その後1又は複数の追加投与量が、移植後に移植片レシピエントへ投与される。
【0043】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、予防的又は治療的有効量で投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.01mg/kg~約50mg/kg、例えば約0.05mg/kg~約30mg/kgなど、例として約0.1mg/kg~約20mg/kg、例として約1mg/kg~約10mg/kgの投与量で投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.1mg/kg~約1mg/kgで投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.4mg/kg~約0.5mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.1mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.2mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.3mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.4mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.5mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.6mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.7mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約0.8mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約1mg/kgで投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約2mg/kg~約8mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約4mg/kg~約6mg/kgで投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、投与量約5mg/kgで投与される。
【0044】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、好中球減少症を引き起こす量で投与される。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、例えば1週間未満又は5日間未満又は3日間未満又は1日間未満の期間にわたり、一過性の好中球減少症を引き起こす量で投与される。
【0045】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、好中球減少症を引き起こさない量で投与される。
【0046】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、炎症を軽減するか又は予防するのに十分な量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、酸化的損傷を軽減するか又は予防するのに十分な量で投与される。
【0047】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、以下の作用の1又は複数を有するのに十分な量で投与される:
(i)例えば、臓器移植症例において移植された臓器への、好中球の浸潤を減少するか又は防止すること;並びに
(ii)例えば、臓器移植症例において移植された臓器への、マクロファージの浸潤を減少するか又は防止すること。
【0048】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、好中球浸潤を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、マクロファージ浸潤を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、インターロイキン8受容体ベータ(IL-8Rβ)の発現を減少又は阻害するのに十分な量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、単球走化性タンパク質1(MCP-1)の発現を減少又は阻害するのに十分な量で投与される。
【0049】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、以下の作用の1又は複数を有するのに十分な量で投与される:
(i)血清又は血漿中のクレアチニンレベルの増加を減少するか又は防止すること;並びに
(ii)血清又は血漿中の尿素レベルの増加を減少するか又は防止すること。
【0050】
血清又は血漿クレアチニンレベル及び血清又は血漿尿素レベルは、腎機能の尺度であり、且つ本明細書記載のように、例えば腎移植症例において、移植腎機能発現遅延を評価するのに有用である。
【0051】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、血清又は血漿クレアチニンレベルの増加を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、血清又は血漿尿素レベルの増加を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。
【0052】
尿中のアルブミン及び/又は血液の増加したレベルもまた、腎機能障害又は腎臓損傷を示すことができる。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、尿中アルブミンレベルの増加を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、対象の尿中の血液のレベルの増加を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。
【0053】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、例えば、臓器移植症例において移植された臓器の細胞により、以下の1又は複数の発現を減少するか又は阻害するのに十分な量で投与される:
(i)腎臓損傷分子1(KIM-1);
(ii)好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL);
(iii)インターロイキン1ベータ(IL-1β);
(iv)インターロイキン6(IL-6);
(v)腫瘍壊死因子アルファ(TNFα);
(vi)補体成分5a受容体1(C5AR1);
(vii)マクロファージ炎症性タンパク質2-アルファ(MIP2-α);
(viii)細胞間接着分子1(ICAM-1);
(ix)E-セレクチン;
(x)C-X-Cモチーフケモカインリガンド1(CXCL1);
(xi)インターロイキン8受容体ベータ(IL-8Rβ);及び
(xii)単球走化性タンパク質1(MCP-1)。
【0054】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、補体C5活性化を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。
【0055】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、例えば、臓器移植症例において移植された臓器の細胞の表面上への、C5b-9沈着を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。
【0056】
前述の各々を評価する方法は、当該技術分野において公知であるか、及び/又は本明細書において説明されている。更に当業者は、用語「軽減する」が、本明細書において、先に列挙したいずれかの項目が、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の投与前の対象における量と比べて、又は対応する対照の対象における量と比べてのいずれかで、より少ない量であることを指すように使用されることを理解するであろう。
【0057】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、別の化合物と組合せて投与される。いくつかの例において、他の化合物は、硫化水素である。いくつかの例において、他の化合物は、抗炎症性化合物であり、及び/又は具体的には先の(i)-(x)に列挙された分子の1又は複数の発現又は活性を阻害又は減少する。いくつかの例において、他の化合物は、免疫抑制薬、例えばシクロスポリンである。好適な免疫抑制薬は、当該技術分野において公知であり、且つJames及びMannon、Curr Transplant Rep (2015)に記載されたものを含み、これは引用により本明細書中に組み込まれている。あるいは又は加えて、他の化合物は、プレドニソン及び/又はプレドニソロンなどの、コルチコステロイドである。あるいは又は加えて、他の化合物は、メトトレキセートである。あるいは又は加えて、他の化合物は、シクロホスファミドである。あるいは又は加えて、他の化合物は、ミコフェノール酸モフェチルである。いくつかの例において、他の化合物は、Le Lamerら、J Transl Med (2014)に記載されたような、TRO40303である。いくつかの例において、他の化合物は、スーパーオキシドジスムターゼである。いくつかの例において、他の化合物は、メトホルミンである。いくつかの例において、他の化合物は、カンナビノイド又はその合成アナログである。いくつかの例において、他の化合物は、移植手術において通常使用されるものである。
【0058】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、細胞と組合せて投与される。いくつかの例において、この細胞は、間葉系幹細胞などの、幹細胞である。
【0059】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、遺伝子治療と組合せて投与される。
【0060】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、他の化合物と同時に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、他の化合物の前に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、他の化合物の後に投与される。
【0061】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物及び他の化合物の両方は、臓器移植片レシピエントへ投与される。好適な他の化合物は、先に記載されている。
【0062】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植のための臓器の採取前に、臓器移植片ドナーへ投与され、及び他の化合物は、任意にG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物と組合せて、臓器移植片レシピエントへ投与される。好適な他の化合物は、先に記載されている。
【0063】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、G-CSF又はG-CSF受容体(G-CSFR)へ結合する。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、G-CSFへ結合する。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、G-CSF受容体(G-CSFR)へ結合する。
【0064】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、タンパク質である。
【0065】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、G-CSFRに結合するか又は特異的に結合し且つG-CSFシグナル伝達を中和する抗体可変領域を含むタンパク質である。G-CSFRに「結合する」タンパク質又は抗体の本明細書における言及は、G-CSFRへ「特異的に結合する」タンパク質又は抗体について、文字通り(literal)の支持を提供する。
【0066】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、G-CSFへ結合するか又は特異的に結合し、且つG-CSFシグナル伝達を中和する抗体可変領域を含むタンパク質である。G-CSFへ「結合する」タンパク質又は抗体の本明細書における言及は、G-CSFへ「特異的に結合する」タンパク質又は抗体について、文字通りの支持を提供する。
【0067】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、Fvを含むタンパク質である。いくつかの例において、このタンパク質は、以下からなる群から選択される:
(i)単鎖Fv断片(scFv);
(ii)二量体性scFv(di-scFv);又は
(iv)ダイアボディ;
(v)トリアボディ;
(vi)テトラボディ;
(vii)Fab;
(viii)F(ab’)2;
(ix)Fv;
(x)抗体の定常領域、Fc又は重鎖定常ドメイン(CH)2及び/もしくはCH3へ連結された(i)から(ix)のひとつ;
(xi)アルブミン又はその機能断片もしくはバリアント、あるいはアルブミンに結合するタンパク質(例えば、抗体又はその抗原結合断片)に連結された(i)から(ix)のひとつ;又は
(xii)抗体。
【0068】
一例において、このタンパク質は、抗体である。一例において、この抗体は、ネイキッド抗体である。例証的抗体は、WO2012171057に記載されており、これは引用により本明細書中に組み込まれている。
【0069】
一例において、このタンパク質は、細胞表面上に発現されたhG-CSFRへ、少なくとも約5nMの親和性で結合する抗体である。一例において、このタンパク質は、細胞表面上に発現されたhG-CSFRへ、少なくとも約4nMの親和性で結合する抗体である。一例において、このタンパク質は、細胞表面上に発現されたhG-CSFRへ、少なくとも約3nMの親和性で結合する抗体である。一例において、このタンパク質は、細胞表面上に発現されたhG-CSFRへ、少なくとも約2nMの親和性で結合する抗体である。一例において、このタンパク質は、細胞表面上に発現されたhG-CSFRへ、少なくとも約1nMの親和性で結合する抗体である。
【0070】
一例において、このタンパク質は、hG-CSFRを発現しているBaF3細胞のG-CSF-誘導性増殖を、少なくとも約5nMのIC50で阻害する抗体である。一例において、このタンパク質は、hG-CSFRを発現しているBaF3細胞のG-CSF-誘導性増殖を、少なくとも約4nMのIC50で阻害する抗体である。一例において、このタンパク質は、hG-CSFRを発現しているBaF3細胞のG-CSF-誘導性増殖を、少なくとも約3nMのIC50で阻害する抗体である。一例において、このタンパク質は、hG-CSFRを発現しているBaF3細胞のG-CSF-誘導性増殖を、少なくとも約2nMのIC50で阻害する抗体である。一例において、このタンパク質は、hG-CSFRを発現しているBaF3細胞のG-CSF-誘導性増殖を、少なくとも約1nMのIC50で阻害する抗体である。一例において、このタンパク質は、hG-CSFRを発現しているBaF3細胞のG-CSF-誘導性増殖を、少なくとも約0.5nMのIC50で阻害する抗体である。
【0071】
一例において、このタンパク質は、キメラ化、脱-免疫化、ヒト化、ヒトもしくは霊長類化されている。一例において、このタンパク質又は抗体は、ヒトである。
【0072】
一例において、このタンパク質は、配列番号:4に明記した配列を含む重鎖可変領域(VH)及び配列番号:5に明記した配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む抗体C1.2Gの、G-CSFRへの結合を競合阻害する抗体可変領域を含む。
【0073】
一例において、このタンパク質は、配列番号:1の111-115、170-176、218-234及び/又は286-300から選択された1又は2又は3又は4の領域内の残基を含むエピトープへ結合する。
【0074】
一例において、このタンパク質は、配列番号:4に明記したアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)及び配列番号:5に明記したアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む抗体である。
【0075】
一例において、このタンパク質は、配列番号:2に明記したアミノ酸配列を含むVH及び配列番号:3に明記したアミノ酸配列を含むVLを含む抗体である。
【0076】
一例において、このタンパク質は、配列番号:4に明記したアミノ酸配列を含むVHの3つのCDRを含むVH及び配列番号:5に明記したアミノ酸配列を含むVLの3つのCDRを含むVLを含む抗体である。
【0077】
一例において、このタンパク質は、配列番号:2に明記したアミノ酸配列を含むVHの3つのCDRを含むVH及び配列番号:3に明記したアミノ酸配列を含むVLの3つのCDRを含むVLを含む抗体である。
【0078】
一例において、このタンパク質は、以下を含む抗体である:
(i)配列番号:14もしくは18に明記したアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号:15に明記したアミノ酸配列を含む軽鎖;又は
(ii)配列番号:14に明記したアミノ酸配列を含む1本の重鎖、及び配列番号:18に明記したアミノ酸配列を含む1本の重鎖、及び配列番号:15に明記したアミノ酸配列を含む2本の軽鎖。
【0079】
配列表の要諦
配列番号:1 - C-末端ポリヒスチジンタグを伴う、ホモ・サピエンスG-CSFR(hG-CSFR)のアミノ酸25-335
配列番号:2 - C1.2のVH
配列番号:3 - C1.2のVL
配列番号:4 - C1.2GのVH
配列番号:5 - C1.2GのVL
配列番号:6 - C1.2のHCDR1
配列番号:7 - C1.2のHCDR2
配列番号:8 - C1.2のHCDR3
配列番号:9 - C1.2のLCDR1
配列番号:10 - C1.2のLCDR2
配列番号:11 - C1.2のLCDR3
配列番号:12 - C1.2のHCDR3のコンセンサス配列
配列番号:13 - C1.2のLCDR3のコンセンサス配列
配列番号:14 - 安定化したIgG4定常領域を伴うC1.2Gの重鎖
配列番号:15 - カッパ定常領域を伴うC1.2Gの軽鎖
配列番号:16 - 例証的h-G-CSFRの配列
配列番号:17 - C-末端ポリヒスチジンタグを伴う、カニクイザルG-CSFR(cynoG-CSFR)のIg及びCRHドメインを含むポリペプチド
配列番号:18 - 安定化したIgG4定常領域を伴い且つC-末端リジンを欠いているC1.2Gの重鎖。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】
図1は、腎臓の温虚血-再灌流障害モデルにおける、再灌流後24時間の、血清クレアチニン濃度のグラフ表示である。抗-G-CSFR抗体VR81の100μgによるマウスの処置は、血清クレアチニン濃度を、アイソタイプ対照抗体の100μgによるマウスの処置と比べ、有意に低下した。一元配置ANOVA(ボンフェロニ相関による)、*p<0.05、***p<0.005(n=8匹マウス/群)。結果は、2回の独立した実験の代表である-同じく
図7参照。
【0081】
【
図2】
図2は、腎臓の温虚血-再灌流障害モデルにおける、再灌流後24時間の、血漿尿素濃度のグラフ表示である。抗-G-CSFR抗体VR81の100μgによるマウスの処置は、血漿尿素濃度を、アイソタイプ対照抗体の100μgによるマウスの処置と比べ、有意に低下した。対応のないT-検定。*p<0.05(n=8匹マウス/群)。結果は、2回の独立した実験の代表である-同じく
図8参照。
【0082】
【
図3】
図3は、腎臓の組織の高倍率視野(HPF)当たりの好中球カウントのグラフ表示である。抗-G-CSFR抗体VR81の100μgによるマウスの処置は、再灌流後24時間で評価した、温腎臓IRIモデルにおける好中球腎臓浸潤を、アイソタイプ対照抗体の100μgで処理したマウスにおいて認められる好中球浸潤と比べ、有意に低下した。一元配置ANOVA(ボンフェロニ相関による)、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005(n=5~6匹マウス/群)。
【0083】
【
図4】
図4は、腎臓の組織の高倍率視野(HPF)当たりのマクロファージカウントのグラフ表示である。抗-G-CSFR抗体VR81の100μgによるマウスの処置は、再灌流後24時間で評価した、温腎臓IRIモデルにおけるマクロファージ腎臓浸潤を、アイソタイプ対照抗体の100μgで処理したマウスにおいて認められるマクロファージ浸潤と比べ、有意に低下した。一元配置ANOVA(ボンフェロニ相関による)、*p<0.05、**p<0.01(n=5~6匹マウス/群)。
【0084】
【
図5】
図5は、腎臓の組織の高倍率視野(HPF)当たりの(A)好中球及び(B)マクロファージカウントのグラフ表示である。抗-G-CSFR抗体VR81の500μgによるマウスの処置は、再灌流後24時間で評価した、温腎臓IRIモデルにおける好中球及びマクロファージの腎臓浸潤を、アイソタイプ対照抗体の500μgで処理したマウスにおいて認められるマクロファージ浸潤と比べ、有意に低下した。一元配置ANOVA(ボンフェロニ相関による)、****p<0.0001(n=5~6匹マウス/群)。
【0085】
【
図6】
図6は、温IRIモデルにおける、処置したマウスの腎皮質中に認められた尿細管壊死の程度により決定された腎尿細管損傷のグラフ表示である(シャム;抗-G-CSFR抗体VR81の100μg;アイソタイプ対照抗体の100μg)。壊死は、蛍光顕微鏡を使用し、半定量的方法により評価した(Lu Bら、Nephrology 2008)。尿細管壊死の程度は、等級化し、且つ改変されたスコア化システムを使用した(表3参照)。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、ダン多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005(n=3匹であるシャム以外は、n=8匹マウス/群)。
【0086】
【
図7A】
図7は、qRT-PCRにより評価した、温腎臓IRIモデルにおける、腎臓組織中の、KIM-1、NGAL、IL-6、IL-8Rβ/CXCR2、MCP-1/CCL2、CXCL1、MIP-2/CXCL2、ICAM-1、及びC5aRのmRNA発現のグラフ表示である。用量500μg/マウスでのVR81処置は、アイソタイプ対照抗体による処置と比べ、(A)KIM-1、NGAL、IL-6、IL-8Rβ/CXCR2、MCP-1/CCL2、CXCL1の発現を有意に低下した。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、VR81対Ab対照については、ダン多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【0087】
【
図7B】
図7は、qRT-PCRにより評価した、温腎臓IRIモデルにおける、腎臓組織中の、KIM-1、NGAL、IL-6、IL-8Rβ/CXCR2、MCP-1/CCL2、CXCL1、MIP-2/CXCL2、ICAM-1、及びC5aRのmRNA発現のグラフ表示である。用量500μg/マウスでのVR81処置は、アイソタイプ対照抗体による処置と比べ、(B)MIP-2/CXCL2、ICAM-1、及びC5aRの発現を有意に低下した。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、VR81対Ab対照については、ダン多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【0088】
【
図8】
図8は、100μgのアイソタイプ対照抗体で処置したマウス及びシャムマウスと比較した、100μgの抗-G-CSFR抗体VR81又は100μgの抗-C5抗体(BB5.1)で処置したマウスの(A)腎臓及び(B)末梢血中の、フローサイトメトリーにより評価した温腎臓IRIモデルにおける好中球(CD11b
+Gr1
+)の%頻度のグラフ表示である。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスにおいて認められたレベルと比べ、シャムマウス及びVR81又はBB5.1で処置したマウスの腎臓において、好中球(CD11b
+Gr1
+)の有意に低下したレベルが認められた。血液中の好中球集団は、全ての群において類似しており、且つこれらの処置により影響されなかった。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、ダン多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01(n=4匹であるシャム以外は、n=7~8匹マウス/群)。
【0089】
【
図9】
図9は、温腎臓IRIモデルにおける血清クレアチニン濃度のグラフ表示である。100μgの抗-G-CSFR抗体VR81又は100μgの抗-C5抗体BB5.1による処置は、100μgのアイソタイプ対照抗体によるマウス処置と比べ、クレアチニン濃度を、有意に低下した。VR81により認められた減少とBB5.1により認められた減少には、有意差はなかった。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、ダン多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005(n=7~8匹マウス/群)。
【0090】
【
図10】
図10は、温腎臓IRIモデルにおける血漿尿素濃度のグラフ表示である。100μgの抗-G-CSFR抗体VR81又は100μgの抗-C5抗体BB5.1による処置は、100μgのアイソタイプ対照抗体によるマウス処置と比べ、血漿尿素濃度を有意に低下した。VR81により認められた減少とBB5.1により認められた減少には、有意差はなかった。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、ダン多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01(n=7~8匹マウス/群)。
【0091】
【
図11】
図11は、温腎臓IRIモデルにおける血清尿素濃度のグラフ表示である。500μgの抗-G-CSFR抗体VR81によるマウス処置は、500μgのアイソタイプ対照抗体によるマウス処置と比べ、血清尿素濃度を有意に低下した。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、ダン多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01(n=6~8匹マウス/群)。
【0092】
【
図12】
図12は、温腎臓IRIモデルにおける血清クレアチニン濃度のグラフ表示である(平均±SEM)。500μgの抗-G-CSFR抗体(VR81)によるマウス処置は、500μgのアイソタイプ対照抗体によるマウス処置と比べ、血清クレアチニン濃度を有意に低下した。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、ダン多重比較検定、*p<0.05(n=6~8匹マウス/群)。
【0093】
【
図13】
図13は、温腎臓IRIモデルにおける、(A)血液及び(B)腎臓中の好中球(CD11b
+Gr1
+Ly6G
+)%頻度のグラフ表示である。抗-G-CSFR抗体VR81の200μg/マウス及び500μg/マウスによる処置は、500μg/マウスのアイソタイプ対照抗体による処置と比べ、腎臓中の好中球の頻度を有意に低下した。統計:一元配置ANOVA(ボンフェロニ相関による)、*p<0.05、**p<0.01(n=6~7匹マウス/群)。
【0094】
【
図14】
図14は、血漿C5a(A)及び腎臓C5b-9沈着(B)のグラフ表示である。
【0095】
【
図15】
図15は、温腎臓IRIモデルにおける血液及び腎臓中の好中球(CD11b+Gr1+Ly6G+)の頻度のグラフ表示である。虚血1時間前の500μg/マウスの抗-G-CSFR抗体VR81による処置は、アイソタイプ対照抗体による処置と比べ、腎臓中の好中球の頻度を有意に低下した。500μg/マウスの対照抗体BB5.1による処置は、アイソタイプ対照抗体による処置と比べ、腎臓中の好中球の頻度を、有意に低下しなかった。統計:一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、ダン多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01(n=5~8匹マウス/群)。
【発明を実施するための形態】
【0096】
詳細な説明
全般
本明細書を通じて、別に具体的に言及するか又は文脈が別に必要としない限りは、単数の工程、物質の組成物、複数の工程の群又は物質の組成物の群の言及は、それらの工程、物質の組成物、複数の工程の群又は物質の組成物の群の1つ及び多数(すなわち1又は複数)を包含するとされるものである。
【0097】
当業者は、本開示は、具体的に説明されたもの以外に変動及び改変を受けやすいことを理解するであろう。本開示は、そのような変動及び改変の全てを含むことは、理解されるべきである。本開示はまた、個別に又は集合的に、本明細書において言及されるか又は指摘された、工程、特徴、組成物及び化合物の全てを、並びに任意及び全ての組合せ又は任意の2以上の該工程又は特徴も含む。
【0098】
本開示は、本明細書に説明された具体例により範囲が限定されず、これらは単に例証を目的とすることが意図される。機能的に同等の生成物、組成物及び方法は、明確に本開示の範囲内である。
【0099】
本明細書における本開示の任意の例は、別に具体的に言及しない限りは、本開示の任意の他の例に対し、変更すべき所は変更して適用されるものとする。
【0100】
別に具体的に定義されない限りは、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学)に通常理解されるものと同じ意味を有するとされるものとする。
【0101】
別に指摘しない限りは、本開示において使用される組換えタンパク質、細胞培養、及び免疫学的技術は、当業者に周知の標準手法である。そのような技術は、J. Perbal、「分子クローニング実践指針(A Practical Guide to Molecular Cloning)」、John Wiley and Sons (1984);J. Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989);T.A. Brown(編集)、「エッセンシャル分子生物学:実践的アプローチ(Essential Molecular Biology: A Practical Approach)」、第1及び2巻、IRL Press (1991);D.M. Glover及びB.D. Hames(編集)、「DNAクローニング:実践的アプローチ(DNA Cloning: A Practical Approach)」、第1-4巻、IRL Press (1995及び1996);並びに、F.M. Ausubelら(編集)、「分子生物学最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までの改訂版を全て含む);Ed Harlow及びDavid Lane(編集)、「抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbour Laboratory, (1988);並びに、J.E. Coliganら(編集)、「免疫学最新プロトコール(Current Protocols in Immunology)」、John Wiley & Sons(現在までの改訂版を全て含む)などを出典とする文献を通じて記載及び説明される。
【0102】
本明細書における可変領域及びその一部、免疫グロブリン、抗体及びそれらの断片の説明及び定義は、Kabatの「免疫学的関心のあるタンパク質配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」、米国立衛生研究所(NIH)、ベセスダ、Md., 1987及び1991;Borkら、J Mol. Biol. 242, 309-320, 1994;Chothia及びLesk、J. Mol Biol. 196:901 -917, 1987;Chothiaら、Nature 342, 877-883, 1989;及び/又は、Al-Lazikaniら、J Mol Biol 273, 927-948, 1997における考察により、更に明確化されている。
【0103】
例えば「X及び/又はY」のような、用語「及び/又は」、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解されるものとし、且つ両方の意味又はいずれかの意味の明白な支持を提供するとされるものとする。
【0104】
本明細書を通じて、語句「を含む(comprise)」、又は「ひとつを含む(comprises)」もしくは「を含んでいる(comprising)」などの変形は、言及されたひとつの要素、整数もしくは工程、又は複数の要素、整数もしくは工程の群を含むが、任意の他の要素、整数もしくは工程、又は複数の要素、整数もしくは工程の群を排除しないことを暗示していることは理解されるであろう。
【0105】
本明細書において使用される用語「由来する」は、特定された完全体(integer)が、必ずしもその給源から直接ではないが、特定の給源から得られることを指摘するとされるものとする。
【0106】
選択された定義
本開示により企図される「化合物」は、天然化合物、化学低分子化合物又は生物学的化合物又は高分子を含む、様々な形のいずれかをとることができる。化合物の例は、抗体又は抗体の抗原結合断片、核酸、ポリペプチド、ペプチド、及び小型分子を含む。
【0107】
本明細書における「顆粒球コロニー-刺激因子」(G-CSF)の言及は、G-CSFの未変性型、その変異体型、例えばフィルグラスチム及びG-CSF、又はフィルグラスチムのペグ化型などを含む。この用語はまた、G-CSFR(例えば、ヒトG-CSFR)へ結合し且つシグナル伝達を誘導する活性を保持しているG-CSFの変異体型も包含している。
【0108】
G-CSFは、顆粒球生成の主要なレギュレーターである。G-CSFは、骨髄間質細胞、内皮細胞、マクロファージ、及び線維芽細胞により生成され、且つ生成は、炎症刺激により誘導される。G-CSFは、G-CSF受容体(G-CSFR)を介して作用し、これは早期骨髄系前駆細胞、成熟好中球、単球/マクロファージ、T及びBリンパ球、並びに内皮細胞上に発現される。
【0109】
単に命名を目的とし限定するためではなく、ヒトG-CSFRの例証的配列は、NCBI参照配列:NP_000751.1に提示されている(及び配列番号:16と提示される)。他の種由来のG-CSFRの配列は、本明細書に提供される配列及び/もしくは公開された利用可能なデータベースを用いて決定することができ、並びに/又は標準技術(例えば、Ausubelら(編集)、「分子生物学最新プロトコール」、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までの全ての改訂版を含む)、又はSambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に説明されたような)を用いて決定することができる。ヒトG-CSFRの言及は、hG-CSFRと省略され、且つカニクイザルG-CSFRの言及は、cynoG-CSFRと省略されてよい。可溶性G-CSFRの言及は、G-CSFRのリガンド結合領域を含むポリペプチドを指す。G-CSFRのIg及びCRHドメインは、リガンド結合及び受容体二量体化に関与している(Laytonら、J. Biol Chem., 272: 29735-29741, 1997、及びFukunagaら、EMBO J. 10: 2855-2865, 1991)。この受容体のこれらの部位を含むG-CSFRの可溶性型は、この受容体の様々な研究において使用されており、且つこの受容体の位置78、163、及び228での遊離システインの変異は、リガンド結合に影響を及ぼすことなく、この可溶性受容体ポリペプチドの発現及び単離を補助する(Mineら、Biochem., 43: 2458-2464 2004)。
【0110】
本明細書において使用される用語「虚血-再灌流障害」とは、虚血又は酸素欠乏(無酸素症又は低酸素症)の期間の後に、組織又は臓器への血液供給が回復した場合に引き起こされる組織又は臓器の損傷を指す。虚血期間時の血液からの酸素及び栄養素の欠如は、循環の回復が、正常な機能の回復よりもむしろ、酸化的ストレスの誘導を通じた炎症及び酸化的損傷を生じるような状態を作り出す。虚血-再灌流障害(IRI)は、「再灌流障害」、「再灌流傷害」、及び「再酸素化障害」としても公知である。本明細書において使用される「虚血-再灌流障害」は、温虚血-再灌流障害及び冷虚血-再灌流障害の両方を含む。
【0111】
本明細書において使用される用語「虚血(ischemia)」(「虚血(ischaemia)」としても公知)とは、組織への血液供給の制限を指し、これは細胞の代謝に必要な酸素及びグルコースの不足を引き起こし、更に代謝廃棄物の蓄積(buildup)及び除去の減少を引き起こす。
【0112】
本明細書において使用される用語「再灌流」は、組織への血流又は酸素の回復に関する。
【0113】
本明細書において使用される用語「状態」は、正常な機能の破壊又はそれとの干渉を指し、且つ任意の具体的状態に限定されず、疾患又は障害を含むであろう。
【0114】
本明細書において使用される用語「予防している」、「予防する」又は「予防」は、本開示の化合物を投与し、これにより少なくとも部分的に、状態の少なくとも1つの症状の発症を停止又は妨害することを含む。この用語はまた、再発を予防又は防止するための寛解状態の対象の治療も包含している。
【0115】
本明細書において使用される用語「治療している」、「治療する」又は「治療」は、本明細書に説明された化合物を投与し、これにより特定された疾患又は状態の少なくとも1つの症状を軽減又は除去することを含む。
【0116】
本明細書において使用される用語「好中球減少症」は、正常範囲の下限以下の絶対好中球カウント(ANC)、例えば2000個未満細胞/μL血液、又は1500個未満細胞/μL血液、又は1000個未満細胞/μL血液のANC、例えば、500個未満細胞/μL血液のANCを指すように使用される(Sibilleら、2010 Br J Clin Pharmacol 70(5): 736-748参照)。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、重度の好中球減少症を引き起こさない量で投与される。本明細書において使用される用語「重度好中球減少症」は、1000個未満細胞/μL血液の絶対好中球カウント(ANC)を指すように使用される。
【0117】
本明細書において使用される用語「対象」は、ヒトを含む任意の動物、例えば哺乳動物を意味するとされるものとする。例証的対象は、ヒト及び非-ヒト霊長類を含むが、これらに限定されるものではない。例えば、対象はヒトである。
【0118】
ドナー(例えば、臓器ドナー)又はレシピエント(例えば、臓器レシピエント)は、哺乳動物、例えばヒトを含むことは、前述の段落から当業者には明らかであろう。
【0119】
用語「タンパク質」は、1本鎖ポリペプチド、すなわちペプチド結合により連結された一連の連続アミノ酸、又は互いに共有的又は非共有的に連結された一連のポリペプチド鎖(すなわち、ポリペプチド複合体)を含むとされるものとする。例えば、一連のポリペプチド鎖は、好適な化学結合又はジスルフィド結合を使用し、共有的に連結され得る。非-共有結合の例は、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、及び疎水性相互作用を含む。
【0120】
用語「ポリペプチド」又は「ポリペプチド鎖」は、ペプチド結合により連結された一連の連続アミノ酸を意味することは、前述の段落から理解されるであろう。
【0121】
用語「単離されたタンパク質」又は「単離されたポリペプチド」は、誘導の起源又は給源のために、その未変性状態においてそれが随伴する天然に会合される成分とは会合されず;実質的に同じ給源由来の他のタンパク質を含まない、タンパク質又はポリペプチドである。タンパク質は、当該技術分野において公知のタンパク質精製技術を用い、天然に会合された成分を実質的に含まないようにされるか、又は単離により実質的に精製されてよい。「実質的に精製された」とは、タンパク質は、夾雑物質を実質的に非含有、例えば夾雑物質を少なくとも約70%又は75%又は80%又は85%又は90%又は95%又は96%又は97%又は98%又は99%非含有であることを意味する。
【0122】
用語「組換え」は、人工的な遺伝子組換えの産物を意味すると理解されるものとする。従って、抗体の抗原結合ドメインを含む組換えタンパク質の文脈において、この用語は、B細胞成熟時に生じる天然の組換えの産物である、対象の体内に天然に生じる抗体を包含しない。しかし、そのような抗体が単離される場合、これは、抗体の抗原結合ドメインを含む単離されたタンパク質と考えられるべきである。同様に、タンパク質をコードしている核酸が、組換え手段を用いて単離され且つ発現される場合、生じるタンパク質は、抗体の抗原結合ドメインを含む組換えタンパク質である。組換えタンパク質はまた、例えばそれが発現されているような、細胞、組織又は対象内い存在する場合に、人工的組換え手段により発現されたタンパク質も包含している。
【0123】
本明細書において使用される用語「抗原結合部位」は、抗原に結合するか又は特異的に結合することが可能であるタンパク質により形成された構造を意味するとされるものとする。抗原結合部位は、一連の連続アミノ酸ではなく、又は1本鎖ポリペプチド中のアミノ酸でさえもないことを必要とする。例えば、2本の異なるポリペプチド鎖から生成されたFvにおいて、抗原結合部位は、抗原と相互作用するが、一般に各可変領域の1又は複数のCDRに常にあるわけではない、VL及びVHの一連のアミノ酸から作製される。いくつかの例において、抗原結合部位は、VH又はVL又はFvである。
【0124】
当業者は、「抗体」は一般に、例えばVLを含むポリペプチド及びVHを含むポリペプチドなど、複数のポリペプチド鎖で作製された可変領域を含むタンパク質であると考えられることを知っているであろう。抗体はまた一般に、定常ドメインも含み、そのいくつかは、定常領域に配置されることができ、これは、定常断片又は重鎖の場合結晶化可能な断片(Fc)を含む。VH及びVLは相互作用し、1又は少数の密に関連した抗原に特異的に結合することが可能である抗原結合領域を含むFvを形成する。一般に、哺乳動物由来の軽鎖は、κ軽鎖又はλ軽鎖のいずれかであり、並びに哺乳動物由来の重鎖は、α、δ、ε、γ、又はμである。抗体は、任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)又はサブクラスであることができる。用語「抗体」はまた、ヒト化抗体、霊長類化抗体、ヒト抗体及びキメラ抗体も包含する。
【0125】
用語「完全長抗体」、「インタクト抗体」又は「全抗体」は、互換的に使用され、抗体の抗原結合断片に対立するものとして、その実質的にインタクト型の抗体を指す。具体的には、全抗体は、Fc領域を含む、重鎖及び軽鎖を伴うものを含む。定常ドメインは、野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントであってよい。
【0126】
本明細書において使用される「可変領域」は、抗原へ特異的に結合することが可能である、本明細書に定義された抗体の軽鎖及び/又は重鎖の部分を指し、且つ相補性決定領域(CDR);すなわち、CDRl、CDR2、及びCDR3、並びにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む。例証的可変領域は、3つのCDRと一緒に、3又は4のFR(例えば、FR1、FR2、FR3及び任意にFR4)を含む。IgNAR由来のタンパク質の場合、このタンパク質は、CDR2を欠いてよい。VHは、重鎖の可変領域を指す。VLは、軽鎖の可変領域を指す。
【0127】
本明細書において使用される用語「相補性決定領域」(同義語CDR;すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)は、抗体可変領域のアミノ酸残基を指し、その存在は、抗原結合に必須である。各可変領域は典型的には、CDR1、CDR2及びCDR3と規定される、3つのCDR領域を含む。CDR及びFRに割当てられるアミノ酸位置は、Kabatの「免疫学的関心のあるタンパク質配列」、NIH、ベセスダ、Md., 1987及び1991、又は本開示の履行における他の番号付けシステム、例えば、Chothia及びLesk、J. Mol Biol. 196: 901-917, 1987;Chothiaら、Nature 342, 877-883, 1989;及び/又は、Al-Lazikaniら、J Mol Biol 273: 927-948, 1997のカノニカル番号付けシステム;LefrancらのIMGT番号付けシステム、Devel. And Compar. Immunol., 27: 55-77, 2003;又は、Honnegher及びPlukthunのAHO番号付けシステム、J. Mol. Biol., 309: 657-670, 2001に従い規定することができる。例えばKabat番号付けシステムに従い、VHのフレームワーク領域(FR)及びCDRは、以下のように配置される:残基1-30(FR1)、31-35(CDR1)、36-49(FR2)、50-65(CDR2)、66-94(FR3)、95-102(CDR3)及び103-113(FR4)。Kabat番号付けシステムに従い、VL FR及びCDRは、以下のように配置される:残基1-23(FR1)、24-34(CDR1)、35-49(FR2)、50-56(CDR2)、57-88(FR3)、89-97(CDR3)及び98-107(FR4)。本開示は、Kabat番号付けシステムにより規定された、FR及びCDRに限定されないが、先に考察されたものを含む、全ての番号付けシステムを含む。一例において、本明細書におけるCDR(又はFR)の言及は、Kabat番号付けシステムに従うそれらの領域に関する。
【0128】
「フレームワーク領域」(FR)は、CDR残基以外のそれらの可変領域残基である。
【0129】
本明細書において使用される用語「Fv」は、複数のポリペプチド又は単独のポリペプチドのいずれで構成されるかにかかわらず、任意のタンパク質を意味するとされるものとし、ここでVL及びVHは、会合し、且つ抗原結合部位を有する、すなわち抗原への特異的結合が可能である、複合体を形成する。抗原結合部位を形成するVH及びVLは、1本鎖ポリペプチド中又は異なるポリペプチド鎖中であることができる。更に本開示(並びに本開示の任意のタンパク質)のFvは、同じ抗原に結合してもしなくてもよい、複数の抗原結合部位を有してよい。この用語は、抗体に直接由来する断片並びに組換え手段を用いて作製されたそのような断片に対応するタンパク質を包含すると理解されるものとする。いくつかの例において、VHは、重鎖定常ドメイン(CH)1に連結されず、及び/又はVLは、軽鎖定常ドメイン(CL)に連結されない。ポリペプチド又はタンパク質を含む例証的Fvは、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ又はより高次の複合体、又はそれらの定常領域もしくはドメインに連結された前述のいずれか、例えば、CH2又はCH3ドメイン、例えばミニボディを含む。「Fab断片」は、免疫グロブリンの一価の抗原-結合断片からなり、且つインタクトな軽鎖及び重鎖の一部からなる断片を生じる、全抗体の酵素パパインによる消化により作製することができるか、又は組換え手段を用いて作製することができる。抗体の「Fab’断片」は、全抗体のペプシンによる処理、その後の還元により得ることができ、インタクトな軽鎖並びにVH及び1つの定常ドメインを含む重鎖部分からなる分子を生じる。2つのFab’断片が、この手法で処理された1つの抗体について得られる。Fab’断片はまた、組換え手段によっても作製され得る。抗体の「F(ab’)2断片」は、2個のジスルフィド結合により連結された2つのFab’断片のダイマーからなり、且つ全抗体分子の酵素ペプシンによる処理により、その後の還元を伴わずに、得られる。「Fab2」断片は、例えばロイシンジッパー又はCH3ドメインを用いて連結された2つのFab断片を含む組換え断片である。「単鎖Fv」又は「scFv」は、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域が、好適な柔軟なポリペプチドリンカーにより、共有的に連結されている、抗体の可変領域断片(Fv)を含む組換え分子である。
【0130】
抗原との化合物又はその抗原結合部位の相互作用の言及において、本明細書において使用される用語「結合する」は、その相互作用が、抗原上の特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に左右されることを意味する。例えば、抗体は、一般にタンパク質よりもむしろ、特異的タンパク質構造を認識し及び結合する。抗体がエピトープ「A」に結合する場合、標識された「A」及びこのタンパク質を含む反応における、エピトープ「A」(又は遊離の標識されない「A」)を含む分子の存在は、抗体に結合した標識された「A」の量を減少するであろう。
【0131】
本明細書において使用される用語「特異的結合する」又は「特異的に結合する」は、本開示の化合物は、特定の抗原又はそれを発現している細胞と、代わりの抗原又は細胞と化合物が反応又は会合するよりも、より頻繁に、より迅速に、より長い期間及び/又はより大きい親和性で、反応又は会合することを意味すると理解されるものとする。例えば化合物は、G-CSFR(例えばhG-CSFR)に、他のサイトカイン受容体へ又は多反応性(polyreactive)天然抗体により(すなわちヒトにおいて天然に認められた様々な抗原に結合することがわかっている天然に生じる抗体により)通常認識される抗原へ化合物が結合するよりも、かなりより大きい親和性(例えば、20倍又は40倍又は60倍又は80倍から100倍又は150倍又は200倍)で、結合する。一般に、しかし必ずしもではなく、特異的に結合する結合手段への言及、及び各用語は、他の用語の明確な支持を提供すると理解されるものとする。
【0132】
タンパク質又は抗体がポリペプチドへ、別のポリペプチドに関するそのタンパク質の又は抗体のKDよりもより低い解離定数(KD)で結合する場合に、そのタンパク質又は抗体は、そのポリペプチドに「優先的に結合する」と考えられてよい。一例において、タンパク質又は抗体が、別のポリペプチドに関するそのタンパク質の又は抗体のKDよりも、少なくとも約20倍又は40倍又は60倍又は80倍又は100倍又は120倍又は140倍又は160倍より大きい親和性(すなわちKD)で、ポリペプチドへ結合する場合に、そのタンパク質又は抗体は、ポリペプチドへ優先的に結合すると考えられる。
【0133】
明確化を目的とし、及び本明細書において例証された主題を基に当業者に明らかであるように、本明細書における「親和性」の言及は、タンパク質又は抗体のKDの言及である。
【0134】
明確化を目的とし、及び本明細書において説明を基に当業者に明らかであるように、「親和性が少なくとも」の言及は、親和性(又はKD)は、列挙された値と等しいか又はより高い(すなわち親和性として列挙された値はより低い)ことを意味し、すなわち、2nMの親和性は、3nMの親和性よりも大きいことが理解されるであろう。言い換えるとこの用語は、「X又はそれ未満の親和性」であり、ここでXは本明細書において列挙された値である。
【0135】
「IC50が少なくとも」とは、IC50は、列挙された値と等しいか又はより大きい(すなわちIC50として列挙された値はより低い)ことを意味し、すなわち、2nMのIC50は、3nMのIC50よりも大きいことが理解されるであろう。言い換えるとこの用語は、「X又はそれ未満のIC50」であり、ここでXは本明細書において列挙された値である。
【0136】
本明細書において使用される用語「エピトープ」(同義語「抗原決定基」)は、それに抗体の抗原結合部位を含むタンパク質が結合するhG-CSFRの領域を意味すると理解されるものとする。この用語は、それにタンパク質が接触する特定の残基又は構造に必ずしも限定されない。例えば、この用語は、そのタンパク質により接触されたアミノ酸が広がる領域、及び/又はこの領域の外側の5~10もしくは2~5もしくは1~3個のアミノ酸を含む。いくつかの例において、エピトープは、hG-CSFRがフォールディングされる場合に、互いに近くに配置される一連の不連続アミノ酸、すなわち「高次構造エピトープ」を含む。例えば、高次構造エピトープは、配列番号:1の111-115、170-176、218-234及び/又は286-300に対応する領域の1以上もしくは2以上もしくは全ての中のアミノ酸を含む。当業者は、用語「エピトープ」は、ペプチド又はポリペプチドに限定されないことも知っているであろう。例えば、用語「エピトープ」は、糖側鎖、ホスホリル側鎖、又はスルホニル側鎖などの分子の化学的活性表面基(groupings)を含み、ある例において、特定の三次元構造の特徴及び/又は特定の荷電特徴を有し得る。
【0137】
用語「競合阻害」は、本開示のタンパク質(又はその抗原結合部位)は、列挙された抗体又はタンパク質のG-CSFR、例えばhG-CSFRへの結合を減少又は防止することを意味すると理解されるものとする。これは、タンパク質(又は抗原結合部位)及び抗体の、同じ又は重複するエピトープへの、結合に起因してよい。前述のことから、このタンパク質は、抗体の結合を完全に阻害する必要はなく、むしろ統計学的に有意な量だけ、例えば少なくとも約10%又は20%又は30%又は40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%又は95%だけ、結合を減少することのみ必要とされることは明らかであろう。好ましくは、このタンパク質は、抗体の結合を、少なくとも約30%だけ、より好ましくは少なくとも約50%だけ、より好ましくは少なくとも約70%だけ、更により好ましくは少なくとも約75%だけ、より好ましくは少なくとも約80%もしくは85%さえも、より好ましくは少なくとも約90%さえも、減少する。結合の競合阻害を決定する方法は、当該技術分野において公知であり及び/又は本明細書において説明される。例えば、抗体は、タンパク質の存在又は非存在下のいずれかで、G-CSFRに露出される。タンパク質の非存在下よりもより少ない抗体がタンパク質の存在下で結合する場合、このタンパク質は、抗体の結合を競合阻害すると考えられる。一例において、競合阻害は、立体障害に起因しない。
【0138】
2つのエピトープの文脈において「重複する」とは、2つのエピトープは、1つのエピトープに結合するタンパク質(又はその抗原結合部位)が、他方のエピトープに結合するタンパク質(又は抗原結合部位)の結合を競合阻害することを可能にするのに十分な数のアミノ酸残基を共有することを意味するとされるものである。例えば、「重複する」エピトープは、少なくとも1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は20個のアミノ酸を共有する。
【0139】
本明細書において使用される用語「中和する」は、化合物は、G-CSFRを通じて細胞におけるG-CSF-媒介したシグナル伝達をブロック、減少又は防止することが可能であることを意味するとされるものである。中和を決定する方法は、当該技術分野において公知であり、及び/又は本明細書に説明されている。
【0140】
虚血-再灌流障害の予防又は治療
本開示は、例えば、顆粒球コロニー刺激因子G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を投与することを含む、対象において虚血-再灌流障害を治療する方法を提供する。例えばこの化合物は、G-CSF又はG-CSFRに結合する。
【0141】
虚血-再灌流障害は、自然の事象(例えば、心筋梗塞又は脳卒中後の血流の回復)、外傷、腫瘍によるか、あるいは血液又は酸素の減少された供給に供される組織又は臓器への血流又は酸素を回復する1又は複数の手術手技もしくは他の治療的介入により引き起こされ得る。
【0142】
一例において、虚血-再灌流障害は、手術手技により引き起こされる。そのような手術手技は、例えば、冠動脈バイパス、グラフト手術、冠血管形成術、臓器移植手術及び同類のもの(例えば、心肺バイパス手術)を含む。
【0143】
いくつかの例において、虚血及び/又は再灌流障害は、臓器移植、低温臓器保存、脳死、アテローム性動脈硬化症、血栓症、血栓塞栓症、脂質-塞栓症、外傷、出血、ステント、手術、血管形成術、バイパス手術、全虚血、心筋梗塞、脳卒中、末梢血管障害、手術、敗血症、又はそれらの組合せに起因するか又は関連している。
【0144】
いくつかの例において、虚血-再灌流障害は、臓器移植に起因するか又は関連している。いくつかの例において、臓器は、固形臓器である。いくつかの例において、臓器移植は、腎移植である。いくつかの例において、臓器移植は、肝移植である。いくつかの例において、臓器移植は、心臓移植である。いくつかの例において、臓器移植は、膵臓移植である。一例において、臓器移植は、肺移植である、一例において、臓器移植は、胃移植である。一例において、臓器移植は、腸移植である。一例において、臓器移植は、精巣移植である。
【0145】
一例において、虚血-再灌流障害は、組織移植に起因するか又は関連している。一例において、組織移植は、血管移植である。一例において、組織移植は、皮膚移植、例えば血管形成された皮膚である。一例において、組織移植は、膵島移植である。
【0146】
虚血-再灌流障害の作用は、臓器機能障害、梗塞、炎症、酸化的損傷、ミトコンドリア膜電位低下、アポトーシス、再灌流-関連した不整脈、心筋スタニング、心筋脂肪毒性、虚血-由来の瘢痕形成、及びそれらの組合せを含む。腎移植に起因するか又は関連している虚血-再灌流障害に関して、作用はまた、急性腎臓損傷及び移植腎機能発現遅延(DGF)を含む。
【0147】
いくつかの例において、本開示の方法は、移植後の、急性腎損傷の可能性を防止又は減少する。例えば、本開示の方法は、以下の1又は複数のリスクを防止又は減少する:
・血漿クレアチニンレベルの、ベースラインから少なくとも≧0.3mg/dL(26.52μmol/L)又は≧1.5~2倍の増加;
・少なくとも6時間にわたる、1時間当たり尿約0.5mL未満/kg;並びに/又は
・必要とされる腎代替治療。
【0148】
いくつかの例において、本開示の方法は、移植後、例えば腎移植後の移植腎機能発現遅延の可能性を防止又は減少する。当業者が知っているように、移植腎機能発現遅延は、移植腎の転帰、慢性移植腎拒絶反応及び/又は臓器生存の長期にわたる不良に関連している。例えば、本開示の方法は、以下の1又は複数のリスクを防止又は減少する:
・移植腎機能開始前、移植の約7日以内の1回又は複数の血液透析治療の必要性;
・70%未満の、0日目と7日目の間のクレアチニン減少比。
【0149】
いくつかの例において、本開示の方法は、以下の1又は複数の可能性を防止又は減少する:
・原発性(primary)移植腎の非機能:腎臓が、移植後決して適切に機能しない状態、及び患者は、移植にもかかわらず透析を必要とし続ける;並びに/又は
・ゆっくりとした移植腎の機能:3ミリグラム(mg)/dlより大きい血清クレアチニン及び移植後5日目の透析不要と規定。
【0150】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、例えば移植された臓器における、炎症を軽減するか又は予防するのに十分な量で投与される。本明細書において使用される用語「炎症」又は「炎症反応」は、炎症を被る組織において生じる変化のセットに関連している。特に、炎症は、病原体、損傷した細胞又は刺激物を含む、有害な刺激に対する生物学的反応に関連している。炎症を決定する方法は、当該技術分野において公知であり、且つ赤血球沈降速度(ESR)の測定(より高いESRが炎症の指標である)、C-反応性タンパク質(CRP)の測定(CRPのより高いレベルが炎症の指標である)、及び白血球カウント(炎症において増加)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0151】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、例えば移植された臓器における、酸化的損傷を軽減するか又は予防するのに十分な量で投与される。本明細書において使用される「酸化的損傷」は、酸素回復時に活性種により引き起こされ得る生体分子損傷に関連している。酸化的損傷は、過酸化脂質、酸化的DNA損傷及びタンパク質への酸化的損傷に関与してよい。過酸化脂質を決定する方法は、HPLCによるMDA(マロンジアルデヒド)-TBA(チオバルビツール酸)決定、及び質量分析によるイソプロスタン(これはポリ不飽和脂肪酸の過酸化の特異的最終生成物である)の定量を含むが、これらに限定されるものではない。DNA酸化的損傷を決定する方法は、8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(80HdG)の測定を含むが、これに限定されるものではない。タンパク質への酸化的損傷を決定する方法は、キヌレニン(トリプトファン由来)、ビチロシン(これは、代謝的に安定しているように見え、且つ尿中に検出することができる)、バリン及びロイシンの水酸化物、L-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)、オルト-チロシン、2-オキソ-ヒスチジン、グルタミン酸セミアルデヒド及びアジピン酸セミアルデヒドを含む、個々のアミノ酸酸化生成物の定量、並びにカルボニルアッセイ(タンパク質のカルボニル基の測定に関与)を含むが、これらに限定されるものではない。ミトコンドリア膜電位(Δψιη)は、ミトコンドリアの内膜を超えるプロトン勾配の形の膜電位に関連している。ミトコンドリア膜電位低下を評価する方法は、当業者に公知であり、且つJC1色素(Cell Technology)を含む膜電位のモニタリングのための蛍光プローブの使用を含み、この励起波長及び放出波長での全蛍光の測定は、緑色蛍光(485nm及び535nm)並びに赤色蛍光(550nm及び600nm)の定量を可能にする。任意の組織又は臓器の延長された虚血は、ミトコンドリア膜電位低下を誘導することがわかっている。
【0152】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、好中球及び/又はマクロファージ浸潤を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。本明細書において使用される用語「好中球浸潤」及び「マクロファージ浸潤」は、虚血-再灌流障害に起因した炎症反応部位において放出される様々な物質に反応した、組織又は細胞中の好中球及びマクロファージの動員又は蓄積を指す。例えば、好中球及び/又はマクロファージの浸潤は、臓器移植後にドナー臓器組織において引き起こされ得る。好中球及び/又はマクロファージ浸潤を測定する方法は、当業者に公知であろう。例えば、好中球又はマクロファージは、蛍光顕微鏡による視認により直接的に、あるいは罹患組織における好中球/マクロファージに特異的なタンパク質又は酵素の存在量又は活性の測定により間接的に測定することができる。好中球及び/又はマクロファージ浸潤の測定に適した方法は、Soo-Jeong Yuら、Korean J Intern Med (2008)、及びPulliら、PloS One (2013)に説明されている。
【0153】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、補体C5活性化を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。補体C5a活性化を測定する方法は、酵素-結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による血漿C5aレベルの評価を含むが、これに限定されるものではない。
【0154】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、C5b-9沈着を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。C5b-9沈着を測定する方法は、腎切片の免疫蛍光測定染色による分析を含むが、これに限定されるものではない。
【0155】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、以下の1又は複数の発現を減少するのに十分な量で投与される:
・インターロイキン8受容体ベータ(IL-8Rβ);
・単球走化性タンパク質1(MCP-1);
・腎臓損傷分子1(KIM-1);
・好中球ゼラチナーゼ-関連リポカリン(NGAL);
・インターロイキン1ベータ(IL-1β);
・インターロイキン6(IL-6);
・腫瘍壊死因子アルファ(TNFα);
・補体成分5a受容体1(C5AR1);
・マクロファージ炎症タンパク質2-アルファ(MIP2-α);
・細胞間接着分子1(ICAM-1);
・E-セレクチン;及び
・C-X-Cモチーフケモカインリガンド1(CXCL1)。
【0156】
遺伝子の発現レベルを測定する方法は、当該技術分野において公知であろう。例えば、遺伝子の発現レベルは、Riedyら、Biotechniques (1995)に説明されたように、例えばノーザンブロット又は定量的逆転写PCR(qRT-PCR)によりmRNA量を定量することにより、測定することができる。あるいは又は加えて、遺伝子の発現レベルは、例えば、酵素-結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光結合免疫吸着アッセイ(FLISA)、免疫蛍光測定又は免疫ブロッティングにより、遺伝子によりコードされたタンパク質のレベルを定量することにより測定することができる(Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)参照)。
【0157】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、例えば腎移植に関連した、移植腎機能発現遅延を、軽減するか又は予防するのに十分な量で投与される。移植腎機能発現遅延は、急性腎損傷の症状発現であり、移植後乏尿症、増加した自家移植片免疫原性及び急性拒絶反応エピソードのリスク、減少した長期生存を生じる。移植腎機能発現遅延を検出するための好適なバイオマーカーは、NGAL、KIM-1、肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)、インターロイキン18(IL-18)、YKL-40(40kDaヘパリン-及びキチン-結合性糖タンパク質、例えばHakalaら、J Biol Chem 1993)参照、クラスタリン、及びシスタチンCを含む。移植腎機能発現遅延を検出するためのそのようなバイオマーカーは、Malyszkoら、Sci Rep (2015)に説明されており、これは引用により本明細書中に組み込まれている。
【0158】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、血清又は血漿クレアチニンレベルの増加を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。当業者は、増加した血清(又は血漿)クレアチニンレベルは、腎機能障害の指標であることを理解するであろう。腎臓は、例えば虚血-再灌流障害に起因するなど、何らかの理由で損なわれ始めるので、血液中のクレアチニンレベルは、腎臓によるクレアチニンのクリアランス不良のために上昇するであろう。従って異常に高レベルのクレアチニンは、腎臓の機能不良又は不全の可能性を警告している。血清(又は血漿)クレアチニンレベルを測定する好適な方法は、例えばアルカリ性でピクリン酸を使用するヤッフェ反応など、当該技術分野において公知であり、且つPeake及びWhiting、Clin Biochem Rev (2006)において説明されている。
【0159】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、血清又は血漿尿素レベルの増加を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。増加した血清又は血漿尿素レベルは、腎機能障害の指標であり、虚血-再灌流障害の結果生じ得る。血清又は血漿尿素は、当該技術分野において公知の任意の好適な方法により測定することができる。例えば、血清又は血漿尿素は、尿素とのジアセチルの反応(ジアセチルモノオキシムと酸から生成される)で、ジアジンを形成するような、化学的方法によるか、又は例えば、アンモニアを生成し測定するための、ウレアーゼ又はNADHの消費を測定するための、グルタミン酸デヒドロゲナーゼを使用する酵素的方法により測定することができる。例えば、Cell Biolabs社の尿素アッセイキットは、ベルテロー反応を基にしており、この反応では尿素は最初にアンモニアと二酸化炭素に分解され、これを更にアルカリ呈色剤と反応させ、青緑色に着色した生成物を生成し、これを標準分光光度計プレートリーダーにより、580~630nmの光学密度を測定することができる。血清又は血漿尿素レベルを測定する好適な方法は、Lamb Eら、Kidney Function Tests (第25章): Tietz Textbook of Clinical Chemistry and Molecular Diagnostics (2012)において説明されているものを含む。
【0160】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、尿アルブミンレベルの増加を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。増加した尿アルブミンレベルは、腎機能障害の指標であり、虚血-再灌流障害の結果生じ得る。尿アルブミンレベルは、当該技術分野において公知の任意の好適な方法により測定することができる。例えば、尿アルブミンレベルは、微量アルブミン尿試験を用いて測定することができる。
【0161】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、対象の尿中の血液レベルの増加を減少するか又は防止するのに十分な量で投与される。尿中の血液の存在(「血尿」としても公知)は、腎機能障害の指標であり、虚血-再灌流障害の結果生じ得る。対象の尿中の血液のレベルは、当該技術分野において公知の任意の好適な方法により測定することができる。例えば、対象の尿中の血液のレベルは、尿用濾紙(dipstick)を用いるか、又は尿試料の鏡検による赤血球の存在の検出により測定することができる。
【0162】
抗体
一例において、任意の例に従う本明細書記載の化合物は、抗体の抗原結合部位を含むタンパク質である。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、抗体である。いくつかの例において、抗体は、G-CSFRへ結合する。いくつかの例において、抗体は、G-CSFへ結合する。
【0163】
抗体を作製する方法は、当該技術分野において公知であり、及び/又はHarlow及びLane(編集)、「抗体:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory, (1988)に説明されている。一般に、そのような方法において、任意にいずれか好適な又は所望の担体、アジュバント、もしくは医薬として許容し得る賦形剤と共に製剤化された、G-CSFR又はG-CSF(例えば、hG-CSFRもしくはhG-CSF)又はそれらの領域(例えば、細胞外ドメイン)又はそれらの免疫原性断片もしくはエピトープ又はこれを発現及び提示している細胞(すなわち免疫原)は、非-ヒト動物、例えば、マウス、ニワトリ、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギ又はブタへ投与される。この免疫原は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、又は他の公知の経路により投与されてよい。
【0164】
モノクローナル抗体は、本開示により企図される抗体の一つの例証的形状である。用語「モノクローナル抗体」又は「mAb」は、同じ抗原(複数可)に、例えば抗原内の同じエピトープに、結合することが可能である、均一の抗体集団を指す。この用語は、抗体の給源又は抗体が作製される方法に関して限定されることは意図しない。
【0165】
mAbの作製に関して、例えば、US4196265又は前掲のHarlow及びLane(1988)に例示された手順などの、数多くの公知の技術のいずれか一つを、使用して良い。
【0166】
あるいは、ABL-MYC技術(NeoClone、マジソン、WI 53713, USA)を使用し、MAbを分泌する細胞株を作製する(例えば、Largaespadaら、J. Immunol. Methods. 197: 85-95, 1996に記載されたように)。
【0167】
抗体はまた、ディスプレイライブラリー、例えばファージディスプレイライブラリー、例としてUS6300064及び/又はUS5885793に説明されたようなもののスクリーニングにより、作製もしくは単離することもできる。例えば、本発明者らは、ファージディスプレイライブラリー由来の単離された完全ヒト抗体を有する。
【0168】
本開示の抗体は、合成抗体であってよい。例えば、この抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体又は脱-免疫化抗体である。
【0169】
一例において、本明細書記載の抗体は、キメラ抗体である。用語「キメラ抗体」とは、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種(例えば、マウスなどの、マウス種の)に由来した抗体の対応する配列と同一であるか又は相同であるか、あるいは一部は特定の抗体クラス又はサブクラスに属するが、その鎖(複数可)の残りは、別の種(例えば、ヒトなどの霊長類)由来の抗体の対応する配列と同一であるか又は相同であるか、あるいは別の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体を指す。キメラ抗体の作製方法は、例えば、US4816567;及び、US5807715に説明されている。
【0170】
本開示の抗体は、ヒト化されるか又はヒトであってよい。
【0171】
用語「ヒト化抗体」は、非-ヒト種からの抗体由来の抗原結合部位又は可変領域、並びにヒト抗体の構造及び/又は配列を基にした残りの抗体構造を有する、キメラ抗体のサブクラスを指すと理解されるものとする。ヒト化抗体において、抗原結合部位は一般に、ヒト抗体の可変領域中の好適なFR上にグラフトされた非-ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、及びヒト抗体由来の残りの領域を含む。抗原結合部位は、野生型であるか(すなわち非-ヒト抗体のそれと同一)、又は1もしくは複数のアミノ酸置換により改変されてよい。一部の例において、ヒト抗体のFR残基は、対応する非-ヒト残基により置き換えられる。
【0172】
非-ヒト抗体又はそれらの一部(例えば、可変領域)をヒト化する方法は、当該技術分野において公知である。ヒト化は、US5225539、又はUS5585089の方法に従い行うことができる。他の抗体のヒト化の方法は、排除されるものではない。
【0173】
本明細書において使用される用語「ヒト抗体」は、例えばヒト生殖系列細胞又は体細胞など、ヒトにおいて認められる配列に由来するか又は対応する、可変領域(例えば、VH、VL)及び任意に定常領域を有する抗体を指す。
【0174】
例証的ヒト抗体は、本明細書において説明されており、且つC1.2及びC1.2G及び/又はそれらの可変領域を含む。これらのヒト抗体は、非-ヒト抗体と比べ、ヒトにおける低下した免疫原性という利点を提供する。例証的抗体は、WO2012171057に説明されており、これは引用により本明細書中に組み込まれている。
【0175】
抗体結合ドメイン含有タンパク質
単一ドメイン抗体
いくつかの例において、本開示の化合物は、単一ドメイン抗体(これは、用語「ドメイン抗体」又は「dAb」と互換的に使用される)であるか又はこれを含むタンパク質である。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変領域の全て又は一部を含む、1本鎖ポリペプチドである。特定の例において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis社、ウォルサム、MA;例えばUS6248516参照)。
【0176】
ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ
いくつかの例において、本開示のタンパク質は、WO98/044001及び/又はWO94/007921に説明されたものなどの、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ又はより高次のタンパク質複合体であるか又はこれらを含む。
【0177】
1本鎖Fv(scFv)
当業者は、scFvは、1本鎖ポリペプチド中に、VH領域及びVL領域、並びにVHとVLの間にscFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする(すなわち、1本鎖ポリペプチドのVH及びVLについて、互いに会合し、Fvを形成する)ポリペプチドリンカーを含むことを知っているであろう。例えばこのリンカーは、scFvについてより好ましいリンカーの一つである(Gly4Ser)3により、12個過剰なアミノ酸残基を含む。
【0178】
重鎖抗体
重鎖抗体は、それらが重鎖を含むが軽鎖を含まない限りにおいて、抗体の多くの他の形状とは構造的に異なる。従ってこれらの抗体はまた、「重鎖のみ抗体」とも称される。重鎖抗体は、例えば、ラクダ科動物及び軟骨魚類において認められる(IgNARとも称される)。
【0179】
ラクダ科動物由来の重鎖抗体及びそれらの可変領域の全般的説明並びにそれらを作製及び/又は単離及び/又は使用する方法は、とりわけ以下の参考文献において認められる:WO94/04678、WO97/49805及びWO 97/49805。
【0180】
軟骨魚類由来の重鎖抗体及びそれらの可変領域の全般的説明並びにそれらを作製及び/又は単離及び/又は使用する方法は、とりわけWO2005/118629において認められる。
【0181】
他の抗体及び抗体断片
本開示はまた、以下のような他の抗体及び抗体断片も企図している:
(i)US5,731,168に記載されたような、「キーアンドホール」二重特異性タンパク質;
(ii)例えば、US4,676,980に記載されたような、ヘテロコンジュゲートタンパク質;
(iii)例えばUS4,676,980に記載されたような、化学的クロスリンカーを使用し作製された、ヘテロコンジュゲートタンパク質;並びに
(iv)Fab3(例えば、EP19930302894に記載されたような)。
【0182】
V-様タンパク質
本開示の化合物の例は、T細胞受容体である。T細胞受容体は、抗体のFvモジュールに類似した構造に組合せる2個のV-ドメインを有する。Novotnyら、Proc Natl Acad Sci USA 88: 8646-8650, 1991は、どのようにT-細胞受容体の2個のV-ドメイン(アルファ及びベータと称される)を融合し、1本鎖ポリペプチドとして発現するか、並びに更に抗体scFvへ直接類似している疎水性を減少するために、どのように表面残基を変更するかを説明している。2個のV-アルファ及びV-ベータドメインを含む、1本鎖T細胞受容体又は多量体T細胞受容体の作製を説明している他の刊行物は、WO1999/045110又はWO2011/107595を含む。
【0183】
抗原結合ドメインを含む他の非-抗体タンパク質は、V-様ドメインを持つタンパク質を含み、これは一般にモノマー性である。そのようなV-様ドメインを含むタンパク質の例は、CTLA-4、CD28及びICOSを含む。そのようなV-様ドメインを含むタンパク質の更なる開示は、WO1999/045110に含まれる。
【0184】
アドネクチン
一例において、本開示の化合物は、アドネクチン(adnectin)である。アドネクチンは、ループ領域が抗原結合を付与するように改変されている、ヒトフィブロネクチンの10番目のフィブロネクチンIII型(10Fn3)ドメインを基にしている。例えば、10Fn3ドメインのβ-サンドイッチの一端の3つのループは、アドネクチンが抗原を特異的に認識することができるように操作することができる。更なる詳細については、US20080139791又はWO2005/056764を参照されたい。
【0185】
アンチカリン
更なる例において、本開示の化合物は、アンチカリンである。アンチカリンは、ステロイド、ビリン、レチノイド及び脂質などの小型の疎水性分子を輸送する細胞外タンパク質ファミリーである、リポカリンに由来している。リポカリンは、抗原と結合するように操作され得る円錐構造の開放末端に複数のループを伴う、強固なβ-シート二次構造を有する。そのような操作されたリポカリンは、アンチカリンとして公知である。アンチカリンの更なる説明については、US7250297B1又はUS20070224633を参照されたい。
【0186】
アフィボディ
更なる例において、本開示の化合物は、アフィボディである。アフィボディは、抗原に結合するように操作することができる、スタフィロコッカス・アウレウスのプロテインAのZドメイン(抗原結合ドメイン)由来のスカフォールドである。このZドメインは、およそ58個のアミノ酸の3つのヘリックス束からなる。ライブラリーが、表面残基の無作為化により作製されている。更なる詳細については、EP1641818を参照されたい。
【0187】
アビマー
更なる例において、本開示の化合物は、アビマーである。アビマーは、A-ドメインスカフォールドファミリーに由来する、マルチドメインタンパク質である。およそ35個のアミノ酸の未変性ドメインは、限定されたジスルフィド結合された構造を採用する。多様性は、A-ドメインファミリーにより示された天然の多様性のシャッフリングにより作出される。更なる詳細については、WO2002088171を参照されたい。
【0188】
DARPin
更なる例において、本開示の化合物は、人工アンキリンリピートタンパク質(DARPin)である。DARPinは、細胞骨格への内在性膜タンパク質の接着を媒介するタンパク質ファミリーであるアンキリンに由来する。1つのアンキリンリピートは、2つのα-ヘリックス及び1つのβ-ターンからなる33残基モチーフである。これらは、各リピートの第一のα-ヘリックス及びβ-ターンの中の残基を無作為化することにより、異なる標的抗原に結合するように、操作することができる。それらの結合境界面は、モジュール数を増加することにより、増大することができる(親和性成熟法)。更なる詳細については、US20040132028を参照されたい。
【0189】
可溶性G-CSFR
本開示はまた、G-CSF相互作用に関して、天然に生じる膜会合したG-CSFRと競合する、G-可溶性CSFR型についても企図する。当業者は、この受容体の可溶性型を容易に調製することができ、且つ例えば、米国特許第5,589,456号、及びHonjoら、Acta Crystallograph Sect F Struct Biol Cryst Commun. 61(Pt 8):788-790, 2005を参照されたい。
【0190】
脱-免疫化された抗体及びタンパク質
本開示はまた、脱-免疫化された抗体又はタンパク質も企図している。脱-免疫化された抗体及びタンパク質は、1又は複数のエピトープを有し、例えばB細胞エピトープ又はT細胞エピトープが除去され(すなわち変異され)、これにより哺乳動物がこの抗体又はタンパク質に対し免疫応答を生じる可能性を減少する。脱-免疫化された抗体及びタンパク質を作製する方法は、当該技術分野において公知であり、且つ例えば、WO2000/34317、WO2004/108158及びWO2004/064724において説明されている。
【0191】
好適な変異を導入し且つ生じるタンパク質を発現し及びアッセイする方法は、本明細書の説明を基に当業者には明らかであろう。
【0192】
タンパク質への変異
本開示はまた、本開示のタンパク質の変異体型も企図する。これに関して、本明細書に提示されたデータは、行うことができる変化の例に加え、変化することができる本開示のタンパク質のCDR内の部位を指摘している。当業者は、変化は、加えて又は代わりに、本開示の状況においてその機能を阻害するか又は有意に減少することなく、可変領域を含むタンパク質のフレームワーク領域内で作出することができることを理解するであろう。
【0193】
例えば、そのような変異体タンパク質は、本明細書に明記した配列と比べ、1又は複数の保存的アミノ酸置換を含む。いくつかの例において、このタンパク質は、30以下、又は20以下、又は10以下、例えば、9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2の保存的アミノ酸置換を含む。「保存的アミノ酸置換」とは、その中のアミノ酸残基が、類似の側鎖及び/又はヒドロパシー(hydropathicity)及び/又は親水性を有するアミノ酸残基により置き換えられているものである。
【0194】
一例において、変異体タンパク質は、天然に生じるタンパク質と比較した場合に、わずかに1又は2又は3又は4又は5又は6の、又はこれを超えない保存的アミノ酸変化を有する。保存的アミノ酸変化の詳細は、以下に提供される。例えば本明細書の開示から当業者はわかるように、そのような小さい変化は、そのタンパク質の活性を変更しないと合理的に予想され得る。
【0195】
類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において規定されており、これは塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非帯電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0196】
本開示はまた、本開示のタンパク質における、例えばCDR3などのCDRにおける、非-保存的アミノ酸変化(例えば、置換)も企図している。例えば本発明者らは、作出することができる一方で、本開示のタンパク質の活性を保持している、いくつかの非-保存的アミノ酸置換を確定している。一例において、このタンパク質は、例えば、CDR3中などのCDR3中の、6又は5又は4又は3又は2又は1よりも少ない非-保存的アミノ酸置換を含む。
【0197】
本開示はまた、本明細書に明記した配列と比べ、1又は複数の挿入又は欠失も企図する。いくつかの例において、このタンパク質は、10以下、例えば、9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2の挿入及び/又は欠失を含む。
【0198】
定常領域
本開示は、抗体の定常領域を含む本明細書に記載されたタンパク質及び/又は抗体を包含している。これは、Fcへ融合された抗体の抗原結合断片を含む。
【0199】
本開示のタンパク質を作製するのに有用な定常領域の配列は、数多い様々な給源から入手されてよい。いくつかの例において、このタンパク質の定常領域又はその一部は、ヒト抗体から誘導される。この定常領域又はその一部は、IgM、IgG、IgD、IgA及びIgEを含む、任意の抗体クラス、並びにIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む、任意の抗体アイソタイプから誘導されてよい。一例において、定常領域は、ヒトアイソタイプIgG4又は安定化されたIgG4定常領域である。
【0200】
一例において、この定常領域のFc領域は、例えば、未変性又は野生型のヒトIgG1又はIgG3 Fc領域と比べ、エフェクター機能を誘導する低下した能力を有する。一例において、このエフェクター機能は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害活性(ADCC)及び/又は抗体依存性細胞介在性細胞貪食能(ADCP)及び/又は補体依存性細胞傷害活性(CDC)である。Fc領域を含むタンパク質のエフェクター機能のレベルを評価する方法は、当該技術分野において公知であるか、及び/又は本明細書に記載されている。
【0201】
一例において、Fc領域は、IgG4 Fc領域(すなわち、IgG4定常領域由来)、例えばヒトIgG4 Fc領域である。好適なIgG4 Fc領域の配列は、当業者には明らかであり、及び/又は公に利用可能なデータベース(例えば、全米バイオテクノロジー情報センター(NCB)から利用可能)において入手できるであろう。
【0202】
一例において、この定常領域は、安定化されたIgG4定常領域である。用語「安定化されたIgG4定常領域」とは、Fabアーム交換、又はFabアーム交換もしくは半抗体の形成を被る性向、又は半抗体を形成する性向を減少するように改変されているIgG4定常領域を意味すると理解されるであろう。「Fabアーム交換」とは、そこでIgG4重鎖及び結合した軽鎖(半分子)が、別のIgG4分子由来の重-軽鎖対とスワップされている、ヒトIgG4に関するタンパク質改変の種類を指す。従って、IgG4分子は、2つの異なる抗原を認識する2つの異なるFabアームを獲得してよい(二重特異性分子を生じる)。Fabアーム交換は、天然にインビボにおいて起こり、且つ精製された血液細胞又は還元型グルタチオンなどの還元剤により、インビトロにおいて誘導することができる。「半抗体」は、IgG4抗体が解離した場合に、各々単一重鎖及び単一軽鎖を含む、2個の分子を形成する。
【0203】
一例において、安定化されたIgG4定常領域は、Kabatシステムに従いヒンジ領域の位置241に、プロリンを含む(Kabatら、「免疫学的に関心のあるタンパク質配列」、ワシントンDC、アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)、1987及び/又は1991)。この位置は、EU番号付けシステムに従いヒンジ領域の位置228に対応している(Kabatら、「免疫学的に関心のあるタンパク質配列」、ワシントンDC、アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)、2001、並びにEdelmanら、Proc. Natl. Acad. USA, 63, 78-85, 1969)。ヒトIgG4において、この残基は一般にセリンである。セリンのプロリンへの置換後、IgG4ヒンジ領域は、配列CPPCを含む。これに関して、当業者は、「ヒンジ領域」は、抗体の2本のFabアームに可動性を付与する、Fc領域及びFab領域を連結する抗体重鎖定常領域のプロリン-リッチ部分であることを知っているであろう。ヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド結合に関与しているシステイン残基を含む。これは一般に、Kabat番号付けシステムに従い、ヒトIgG1のGlu226からPro243まで伸びているとして規定される。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、同じ位置に、重鎖間ジスルフィド(S-S)結合を形成する、最初と最後のシステイン残基を配置することにより、IgG1配列と、整列させることができる(例えば、WO2010/080538参照)。
【0204】
安定化されたIgG4抗体の追加の例は、ヒトIgG4の重鎖定常領域の位置409のアルギニン(EU番号付けシステムに従う)が、リジン、トレオニン、メチオニン、又はロイシンにより置換されている抗体である(例えば、WO2006/033386に記載されたような)。この定常領域のFc領域は、加えて又は代わりに、405に対応する位置(EU番号付けシステムに従う)に、アラニン、バリン、グリシン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択される残基を含んでよい。任意に、ヒンジ領域は、位置241にプロリンを含む(すなわち、CPPC配列)(前記)。
【0205】
別の例において、Fc領域は、低下したエフェクター機能を有するように改変された領域、すなわち「非-免疫賦活Fc領域」である。例えば、このFc領域は、268、309、330及び331からなる群から選択される1又は複数の位置に置換を含む、IgG1 Fc領域である。別の例において、Fc領域は:E233P、L234V、L235A、及びG236の欠失の1もしくは複数の変化、並びに/又は:A327G、A330S及びP331Sの1又は複数の変化を含む、IgG1 Fc領域である(Armourら、Eur J Immunol. 29:2613-2624, 1999;Shieldsら、J Biol Chem. 276(9):6591-604, 2001)。非-免疫賦活Fc領域の追加例は、例えば、Dall'Acquaら、J Immunol. 177: 1129-1138 2006;及び/又は、Hezareh、J Virol ;75: 12161-12168, 2001に説明されている。
【0206】
別の例において、Fc領域は、例えば、IgG4抗体由来の少なくとも1つのCH2ドメイン及びIgG1抗体由来の少なくとも1つのCH3ドメインを含む、キメラFc領域であり、ここでこのFc領域は、240、262、264、266、297、299、307、309、323、399、409及び427(EU番号付け)からなる群から選択される1又は複数のアミノ酸位置に置換を含む(例えば、WO2010/085682に記載のように)。例証的置換は、240F、262L、264T、266F、297Q、299A、299K、307P、309K、309M、309P、323F、399S、及び427Fを含む。
【0207】
追加の改変
本開示はまた、本開示の抗体又はタンパク質への追加の改変も企図している。
【0208】
例えば、この抗体は、タンパク質の半減期を延長する1又は複数のアミノ酸置換を含む。例えば、この抗体は、新生児Fc領域(FcRn)に関するFc領域の親和性を増大する1又は複数のアミノ酸置換を含むFc領域を含む。例えば、このFc領域は、低いpHでの、例えば約pH6.0での、FcRnに関する増大した親和性を有し、エンドソームにおけるFc/FcRn結合を促進する。一例において、Fc領域は、約pH6で、約pH7.4でのその親和性と比べ、FcRnに関する増大した親和性を有し、このことは細胞リサイクリング後の、Fcの血液への再放出を促進する。これらのアミノ酸置換は、血液からのクリアランスを減少することにより、タンパク質の半減期を延長するために、有用である。
【0209】
例証的アミノ酸置換は、EU番号付けシステムに従い、T250Q及び/又はM428L又はT252A、T254S及びT266F又はM252Y、S254T及びT256E又はH433K及びN434Fを含む。追加の又は代わりのアミノ酸置換は、例えば、US20070135620又はUS7083784に説明されている。
【0210】
一例において、本開示のタンパク質は、追加的に、アルブミン、その機能性断片又はバリアントを含む。一例において、アルブミン、その機能性断片又はバリアントは、ヒト血清アルブミンなどの、血清アルブミンである。一例において、アルブミン、その機能性断片又はバリアントは、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を、例えばわずかに5又は4又は3又は2又は1の置換を含む。本開示における使用に適したアミノ酸置換は、当業者に明らかであり、且つ天然に生じる置換並びに例えば、WO2011051489、WO2014072481、WO2011103076、WO2012112188、WO2013075066、WO2015063611及びWO2014179657に説明されたもののような、操作された置換を含むであろう。
【0211】
タンパク質生成
一例において、任意の例に従う本明細書記載のタンパク質は、例えば、本明細書に記載のような及び/又は当該技術分野において公知であるような、タンパク質の生成に十分な条件下での、ハイブリドーマを培養することにより生成される。
【0212】
組換え発現
別の例において、任意の例に従う本明細書記載のタンパク質は、組換え体である。
【0213】
組換えタンパク質の場合において、これをコードしている核酸は、発現構築体又はベクターへクローニングされ、これは次にそうでなければそのタンパク質を生成しない、宿主細胞、例えば、大腸菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞、例えばシミアンCOS細胞、チャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎(HEK)細胞、もしくは骨髄腫細胞などへトランスフェクションされる。タンパク質の発現に使用される例証的細胞は、CHO細胞、骨髄腫細胞又はHEK細胞である。これらの目的を達成するための分子クローニング技術は、当該技術分野において公知であり、且つ例えば、Ausubelら(編集)、「分子生物学最新プロトコール」、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての改訂版を含む)、又はSambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に説明されている。多種多様なクローニング方法及びインビトロにおける増幅方法が、組換え核酸の構築に適している。組換え抗体を作製する方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、US4816567又はUS5530101を参照されたい。
【0214】
単離後、この核酸は、更なるクローニング(DNAの増幅)のため又は無細胞系もしくは細胞中における発現のために、発現構築体又は発現ベクター中のプロモーターへ、機能的に連結され挿入される。
【0215】
本明細書において使用される用語「プロモーター」は、その最も広い文脈ととられ、且つTATAボックス又はイニシエータエレメントを含む、ゲノム遺伝子の転写制御因子配列を含み、これは、例えば発生上の刺激及び/又は外部刺激に反応して、あるいは組織特異的様式で、核酸の発現を改変する、追加の調節エレメント(例えば、上流活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサー及びサイレンサー)を伴い又は伴わずに、正確な転写開始に必要とされる。本文脈において、用語「プロモーター」はまた、組換え、合成又は融合の核酸、又はそれに機能的に連結される核酸の発現を付与、活性化もしくは増強する誘導体を説明するためにも使用される。例証的プロモーターは、更に発現を増強並びに/又は該核酸の空間的発現及び/もしくは時間的発現を改変するために、1又は複数の特異的調節エレメントの追加のコピーを含むことができる。
【0216】
本明細書において使用される用語「へ機能的に連結される」は、核酸の発現がプロモーターにより制御されるように、核酸に対しプロモーターを配置することを意味する。
【0217】
細胞における発現のために多くのベクターが、利用可能である。ベクター成分は一般に、以下の1又は複数を含むが、これらに限定されるものではない:シグナル配列、タンパク質をコードしている配列(例えば、本明細書に提供される情報に由来)、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列。当業者は、タンパク質の発現に好適な配列を知っているであろう。例証的シグナル配列は、原核生物分泌シグナル(例えば、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、又は熱安定性エンテロトキシンII)、酵母分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダー、又は酸性ホスファターゼリーダー)、又は哺乳動物分泌シグナル(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)を含む。
【0218】
哺乳動物細胞において活性がある例証的プロモーターは、サイトメガロウイルス極初期プロモーター(CMV-IE)、ヒト伸長因子1-αプロモーター(EF1)、核内低分子RNAプロモーター(U1a及びU1b)、α-ミオシン重鎖プロモーター、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β-アクチンプロモーター;CMVエンハンサー/β-アクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーターを含むハイブリッド調節エレメント、又はそれらの活性断片を含む。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1系統(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎系統(懸濁培養液中での成長のためにサブクローニングされた293又は293細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);又は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)が挙げられる。
【0219】
例えば、ピキア・パストリス、サッカロミセス・セレビシアエ及びS.ポンベを含む群から選択される酵母細胞などの、酵母細胞における発現に適した代表的プロモーターは、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、GAL4プロモーター、CUP1プロモーター、PHO5プロモーター、nmtプロモーター、RPR1プロモーター、又はTEF1プロモーターを含むが、これらに限定されるものではない。
【0220】
単離された核酸又はこれを含む発現構築体を発現のために細胞へ導入する手段は、当該技術分野において公知である。所定の細胞について使用される技術は、公知の成功する技術によって決まる。組換えDNAを細胞へ導入する手段は、とりわけ、微量注入、DEAE-デキストランが媒介されたトランスフェクション、リポフェクタミン(Gibco, MD, USA)及び/又はセルフェクチン(cellfectin)(Gibco, MD, USA)を使用することによるなどの、リポソームにより媒介されたトランスフェクション、PEG-媒介型DNA取込み、電気穿孔法、及びDNA-コートされたタングステン又は金粒子(Agracetus社、WI, USA)を使用することによるなどの、微粒子銃がある。
【0221】
タンパク質を生成するために使用される宿主細胞は、使用される細胞型に応じて、様々な培地において培養されてよい。Ham's Fl0(Sigma)、最少必須培地((MEM)、(Sigma))、RPMl-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販の培地は、哺乳動物細胞の培養に適している。本明細書で考察される他の細胞型を培養するための培地は、当該技術分野において公知である。
【0222】
タンパク質の単離
タンパク質を単離する方法は、当該技術分野において公知であるか及び/又は本明細書において説明されている。
【0223】
タンパク質が培養培地へ分泌される場合、そのような発現系からの上清は、最初に例えばAmicon又はMillipore Pellicon限外濾過ユニットなどの市販のタンパク質濃縮フィルターを使用し、濃縮することができる。PMSFなどのプロテアーゼインヒビターは、タンパク質分解を阻害するために、前述の工程のいずれにおいても含まれてよく、且つ抗生物質は、偶発的夾雑物の成長を防止するために、含まれてよい。あるいは又は加えて、上清は、例えば連続遠心分離を使用し、そのタンパク質発現している細胞から濾過及び/又は分離することができる。
【0224】
細胞から調製されるタンパク質は、例えば、イオン交換、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティクロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーもしくはプロテインGクロマトグラフィー)、又は前述の任意の組合せを用いて、精製することができる。これらの方法は、当該技術分野において公知であり、且つ例えば、WO99/57134、又はEd Harlow及びDavid Lane(編集)、「抗体:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory, (1988)において説明されている。
【0225】
当業者はまた、タンパク質は、精製又は検出を促進するタグ、例えばポリ-ヒスチジンタグ、 例えばヘキサ-ヒスチジンタグ、又はインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)タグ、又はシミアンウイルス5(V5)タグ、又はFLAGタグ、又はグルタチオンS-転移酵素(GST)タグなどを含むように、修飾することができることも知っているであろう。生じるタンパク質は次に、アフィニティ精製などの、当該技術分野において公知の方法を用いて精製される。例えば、ヘキサ-hisタグを含むタンパク質は、当該タンパク質を含有する試料を、固体又は半固体の基板上に固定されたヘキサ-hisタグに特異的に結合するニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)に接触させ、試料を洗浄し、未結合のタンパク質を除去し、引き続き結合したタンパク質を溶離することにより、精製される。あるいは又は加えて、タグに結合するリガンド又は抗体は、アフィニティ精製方法において使用される。
【0226】
核酸-ベースのG-CSFシグナル伝達インヒビター
本開示の一例において、本開示の任意の実施例に従い本明細書において説明された治療的方法及び/又は予防的方法は、G-CSF及び/又はG-CSFRの発現を減少することに関与している。例えばそのような方法は、G-CSF又はG-CSFRをコードしている核酸の転写及び/又は翻訳を減少する化合物を投与することに関与している。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、核酸、例えば、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、PNA、干渉性RNA、siRNA、microRNAである。
【0227】
別の例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、G-CSFシグナル伝達を阻害するタンパク質化合物(例えば、抗体又はその抗原結合性断片)をコードしている核酸である。
【0228】
アンチセンス核酸
用語「アンチセンス核酸」は、本開示の任意の例において本明細書記載のポリペプチドをコードしている特異的mRNA分子の少なくとも一部分と相補的であり、且つmRNA翻訳などの転写後事象と干渉することが可能である、DNA又はRNA又はそれらの誘導体(例えば、LNAもしくはPNA)、又はそれらの組合せを意味するとされるものとする。アンチセンス法の使用は、当該技術分野において公知である(例えば、Hartmann及びEndres(編集)、「アンチセンス法マニュアル(Manual of Antisense Methodology)」、Kluwer (1999)参照)。
【0229】
本開示のアンチセンス核酸は、生理的条件下で、標的核酸へ、ハイブリダイズするであろう。アンチセンス核酸は、構造遺伝子もしくはコード領域に又は遺伝子過剰発現もしくはスプライシングの制御に作用する配列に対応する配列を含む。例えばアンチセンス核酸は、G-CSF又はG-CSFRをコードしている核酸の標的コード領域、又は5’-非翻訳領域(UTR)もしくは3’-UTRもしくはこれらの組合せに対応してよい。これは、イントロン配列の一部と相補的であってよく、これは転写時又は転写後に、例えば標的遺伝子のエキソン配列のみへとスプライシングされる。アンチセンス配列の長さは、G-CSF又はG-CSFRをコードしている核酸の、少なくとも19隣接ヌクレオチド、例として少なくとも50ヌクレオチド、例えば少なくとも100、200、500もしくは1000ヌクレオチドなどでなければならない。全遺伝子転写物に相補的な完全長配列が使用されてよい。その長さは、100~2000ヌクレオチドであることができる。アンチセンス配列の標的転写物に対する同一度は、少なくとも90%、例えば、95~100%でなければならない。
【0230】
G-CSF又はG-CSFRに対する例証的アンチセンス核酸は、例えば、WO2011032204に説明されている。
【0231】
触媒活性核酸
用語「触媒活性核酸」とは、個別の物質を特異的に認識し、且つこの物質の化学修飾を触媒する、DNA分子又はDNA-含有分子(当該技術分野において「デオキシリボザイム」もしくは「DNAzyme」としても公知)又はRNA又はRNA-含有分子(同じく「リボザイム」もしくは「RNAzyme」としても公知)を指す。触媒活性核酸中の核酸塩基は、塩基A、C、G、T(及びRNAについてはU)であることができる。
【0232】
典型的には触媒活性核酸は、標的核酸の特異的認識のためのアンチセンス配列、及び酵素活性を切断する核酸(同じく本願明細書において「触媒活性ドメイン」とも称される)を含む。本開示において有用であるリボザイムの型は、ハンマヘッド型リボザイム及びヘアピン型リボザイムである。
【0233】
RNA干渉
RNA干渉(RNAi)は、特定のタンパク質の生成の特異的阻害に有用である。理論により限定されるものではないが、この技術は、関心対象の遺伝子又はその一部のmRNA、この場合はG-CSF又はG-CSFRをコードしているmRNAと本質的に同一である配列を含む、dsRNA分子の存在に頼っている。好都合なことに、このdsRNAは、組換えベクター宿主細胞において単一プロモーターから作製されることができ、ここでセンス配列及びアンチセンス配列には、無関係の配列が隣接しており、これはセンス配列及びアンチセンス配列が、ループ構造を形成する無関係の配列とdsRNA分子を形成するようにハイブリダイズすることを可能にする。本開示に好適なdsRNA分子のデザイン及び作製は、特にWO99/32619、WO99/53050、WO99/49029、及びWO01/34815を考慮し、十分当業者の能力内である。RNAiのためのそのようなdsRNA分子は、短ヘアピンRNA(shRNA)及び二機能性shRNAを含むが、これらに限定されるものではない。
【0234】
ハイブリダイズするセンス配列及びアンチセンス配列の長さは、各々、少なくとも19隣接ヌクレオチド、例えば少なくとも30又は50ヌクレオチドなど、例として少なくとも100、200、500又は1000ヌクレオチドでなければならない。全遺伝子転写物に対応する完全長配列が、使用されてよい。それらの長さは、100~2000ヌクレオチドであることができる。センス配列及びアンチセンス配列の標的転写物に対する同一度は、少なくとも85%、例えば少なくとも90%、95~100%などでなければならない。
【0235】
例証的低分子干渉RNA(「siRNA」)分子は、標的mRNAの約19~21隣接ヌクレオチドと同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、siRNA配列は、ジヌクレオチドAAで始まり、GC-含量約30~70%(例えば、30~60%、40~60%など、例として約45%~55%)を含み、且つ例えば標準BLAST検索により決定されるような、それが導入されるべき哺乳動物のゲノム内の標的以外のあらゆるヌクレオチド配列との高いパーセント同一性を有さない。
【0236】
アプタマー
別の例において、化合物は、核酸アプタマー(適用可能なオリゴマー)である。アプタマーは、例えばG-CSF又はG-CSFRのタンパク質又は小型分子などの、特定の標的分子に結合する能力を提供する二次及び/又は三次構造を形成することが可能である、1本鎖オリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドアナログである。従ってアプタマーは、抗体と類似のオリゴヌクレオチドである。一般にアプタマーは、約15~約100のヌクレオチド、約15~約40ヌクレオチドなど、例として約20~約40ヌクレオチドを含み、その理由は、これらの範囲内に収まる長さのオリゴヌクレオチドは、常法により調製することができるからである。
【0237】
アプタマーは、アプタマーのライブラリーから、単離又は同定されることができる。アプタマーライブラリーは、例えばランダムオリゴヌクレオチドのベクター(又はRNAアプタマーの場合は発現ベクター)へのクローニングにより作製され、ここでこのランダム配列は、PCRプライマーの結合部位を提供する公知の配列に隣接される。所望の生物活性(例えば、G-CSF又はG-CSFRへ特異的に結合する)を提供するアプタマーが、選択される。増大した活性を伴うアプタマーは、例えば、SELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの体系的進化)を用いて、選択される。アプタマーライブラリーの作製及び/又はスクリーニングに適した方法は、例えば、Elloington及びSzostak、Nature 346:818-22, 1990;US 5270163;及び/又は、US 5475096に説明されている。
【0238】
化合物の活性のアッセイ
G-CSFR及びその変異体への結合
本開示の一部の化合物は、hG-CSFのリガンド結合ドメイン、及びhG-CSFRのリガンド結合ドメインの特異的変異体型(例えば、特定の点変異を伴わない又は伴う配列番号:1)に結合し、並びに/又はヒト及びカニクイザルの両方のG-CSFRに結合することは、当業者には、本開示から明らかであろう。タンパク質への結合を評価する方法は、例えば、Scopesの文献(「タンパク質精製:原理と実践(Protein purification: principles and practice)」、第3版、Springer Verlag、1994)に説明されたように、当該技術分野において公知である。そのような方法は一般に、タンパク質の標識、及びこれの固定された化合物との接触に関与している。非特異的に結合したタンパク質を除去するために洗浄した後、標識の量、及び結果的に結合したタンパク質の量が、検出される。当然このタンパク質は固定され、且つG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は標識されることができる。パンニング型アッセイも使用することができる。あるいは又は加えて、表面プラズモン共鳴アッセイを使用することができる。
【0239】
先に説明されたアッセイはまた、化合物のhG-CSFR又はそのリガンド結合ドメイン(例えば配列番号:1)又はその変異体型への結合のレベルを検出するためにも使用することができる。
【0240】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1と結合するのと実質的に同じレベル(例えば、10%又は5%又は1%以内)で、配列番号:1の167位でアラニンがリジンと置換されるか、及び/又は配列番号:1の168位でアラニンがヒスチジンと置換される、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0241】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約100倍又は150倍又は160倍又は200倍より低いレベルで、配列番号:1の287位でアラニンがアルギニンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約160倍より低いレベルで、配列番号:1の287位でアラニンがアルギニンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0242】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約20倍又は40倍又は50倍又は60倍より低いレベルで、配列番号:1の237位でアラニンがヒスチジンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約50倍より低いレベルで、配列番号:1の237位でアラニンがヒスチジンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0243】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約20倍又は40倍又は60倍又は70倍より低いレベルで、配列番号:1の198位でアラニンがメチオニンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約40倍より低いレベルで、配列番号:1の198位でアラニンがメチオニンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0244】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約20倍又は30倍又は40倍より低いレベルで、配列番号:1の172位でアラニンがチロシンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約40倍より低いレベルで、配列番号:1の172位でアラニンがチロシンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0245】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約100倍又は120倍又は130倍又は140倍より低いレベルで、配列番号:1の171位でアラニンがロイシンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約140倍より低いレベルで、配列番号:1の171位でアラニンがロイシンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0246】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約20倍又は40倍又は60倍又は70倍より低いレベルで、配列番号:1の111位でアラニンがロイシンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりも少なくとも約60倍より低いレベルで、配列番号:1の111位でアラニンがロイシンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0247】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりもわずかに5倍又は4倍又は3倍又は2倍又は1倍より低いレベルで、配列番号:1の168位でアラニンがヒスチジンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0248】
一例において、本開示のタンパク質は、それが配列番号:1のポリペプチドと結合するのよりもわずかに5倍又は4倍又は3倍又は2倍又は1倍より低いレベルで、配列番号:1の167位でアラニンがリジンと置換された、配列番号:1のポリペプチドへ結合する。
【0249】
この結合のレベルは、好都合なことに、バイオセンサーを用いて決定される。
【0250】
本開示は、前述の特徴の任意の組合せを企図している。一例において、本明細書において説明されたタンパク質は、先の7段において明記された結合特徴の全てを有する。
【0251】
エピトープマッピング
別の例において、本明細書記載のタンパク質により結合されたエピトープが、マッピングされる。エピトープマッピング法は、当業者には明らかであろう。例として、例えば10~15個のアミノ酸を含むペプチドのような、関心対象のエピトープを含むhG-CSFR配列又はその領域に広がる一連のオーバーラッピングペプチドが、生成される。このタンパク質は次に、それが結合する事が決定される、各ペプチド及びペプチド(複数可)と接触される。これは、それに該タンパク質が結合しているエピトープを含むペプチド(複数可)の決定を可能にする。複数の非-隣接ペプチドが該タンパク質により結合される場合、このタンパク質は、立体構造中に存在するエピトープに結合することができる。
【0252】
あるいは又は加えて、hG-CSFR内のアミノ酸残基は、例えばアラニンスキャニング変異誘発により、変異され、且つタンパク質結合を軽減するか又は予防する変異が決定される。該タンパク質の結合を減少又は防止する任意の変異は、おそらく該タンパク質により結合されたエピトープ内に存在するであろう。
【0253】
更なる方法が、本明細書において例証され、且つこれは、hG-CSFR又はその領域の、本開示の固定されたタンパク質への結合、並びに生じる複合体のプロテアーゼによる消化に関与している。固定されたタンパク質に結合され続けるペプチドは次に、単離され、且つ例えば質量分析を用いて、分析され、それらの配列を決定する。
【0254】
更なる方法は、hG-CSFR又はその領域中の水素の重陽子への転換、及び生じるタンパク質の本開示の固定されたタンパク質への結合に関与している。その後重陽子は水素へと戻るよう転換され、hG-CSFR又はその領域は、単離され、酵素により消化され、且つ例えば質量分析を用い分析され、本明細書記載のタンパク質の結合により水素への転換から保護されている、重陽子を含むそれらの領域を同定する。
【0255】
任意に、hG-CSFRのタンパク質又はそのエピトープの解離定数(Kd)が決定される。hG-CSFR結合タンパク質に関する「Kd」又は「Kd値」は、一例において、放射標識された又は蛍光標識されたhG-CSFR結合アッセイにより測定される。このアッセイは、非標識hG-CSFRの連続滴定の存在下で、標識G-CSFRの最少濃度で、該タンパク質を平衡化する。非結合hG-CSFRを除去するために洗浄した後、標識物の量を決定し、これは該タンパク質のKdの指標である。
【0256】
別の例に従い、Kd又はKd値は、固定されたhG-CSFR又はその領域による、例えば、BIAcore表面プラズモン共鳴(BIAcore社、ピスカタウェイ、NJ)などの、表面プラズモン共鳴アッセイを用い、測定される。
【0257】
いくつかの例において、C1.2もしくはC1.2Gと同様のKd又はより高いKdを有するタンパク質はおそらくhG-CSFRへの結合について競合するので、これらが選択される。
【0258】
競合的結合の決定
モノクローナル抗体C1.2又はC1.2Gの結合を競合阻害するタンパク質を決定するアッセイは、当業者には明らかであろう。例えば、C1.2又はC1.2Gは、例えば、蛍光標識物又は放射性標識物などの、検出可能な標識物にコンジュゲートされる。標識された抗体及び被験タンパク質は次に混合され、且つhG-CSFR又はその領域(例えば、配列番号:1を含むポリペプチド)又はそれを発現している細胞と接触される。次に標識されたC1.2又はC1.2Gのレベルが決定され、且つ該タンパク質の非存在下で標識された抗体が、hG-CSFR、領域又は細胞と接触された場合に決定されたレベルと比較される。標識されたC1.2又はC1.2Gのレベルが、被験タンパク質の存在下で、該タンパク質の非存在下と比べ減少する場合、該タンパク質は、C1.2又はC1.2GのhG-CSFRへの結合を競合阻害すると考えられる。
【0259】
任意に、被験タンパク質は、C1.2又はC1.2Gに対する異なる標識物へ、コンジュゲートされる。この交互(alternate)標識は、被験タンパク質のhG-CSFR又はその領域又は細胞への結合のレベルの検出を可能にする。
【0260】
別の例において、hG-CSFR、その領域又は細胞をC1.2又はC1.2Gと接触させる前に、このタンパク質は、hG-CSFRもしくはその領域(例えば、配列番号:1を含むポリペプチド)又はそれを発現している細胞へ結合することが可能である。該タンパク質の非存在下と比べ、該タンパク質の存在下でC1.2又はC1.2Gに結合した量の減少は、該タンパク質が、hG-CSFRへのC1.2又はC1.2G結合を競合阻害することの指標である。相反(reciprocal)アッセイも、標識されたタンパク質を用い、且つ最初にC1.2又はC1.2GをG-CSFRへ結合させることで行うことができる。この場合、C1.2又はC1.2Gの存在下でhG-CSFRへ結合した標識されたタンパク質の、C1.2又はC1.2Gの非存在下と比べ減少した量は、該タンパク質は、C1.2又はC1.2GのhG-CSFRへの結合を競合阻害することを指摘する。
【0261】
前述のアッセイのいずれかは、例えば本明細書記載のように、それにC1.2又はC1.2Gが結合する、hG-CSFR及び/又は配列番号:1及び/又はhG-CSFRのリガンド結合領域の変異体型により、行うことができる。
【0262】
中和の決定
本開示の一部の例において、化合物は、hG-CSFRシグナル伝達を中和することが可能である。
【0263】
受容体を介したリガンドのシグナル伝達を中和する化合物の能力を評価するための様々なアッセイが、当該技術分野において公知である。
【0264】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、hG-CSFRへのG-CSF結合を減少又は防止する。これらのアッセイは、標識されたG-CSF及び/又は標識されたタンパク質を使用する、本明細書において説明したような競合的結合アッセイとして行うことができる。
【0265】
別の例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、CD34+骨髄細胞が、G-CSF存在下で培養される場合に、CFU-Gの形成を減少する。そのようなアッセイにおいて、CD34+骨髄細胞は、被験化合物の存在又は非存在下で、G-CSF(例えば、約10ng/ml細胞培養培地)、及び任意に幹細胞因子(例えば、約10ng/ml細胞培養培地)が存在する半固形細胞培養培地において培養される。顆粒球クローン(CFU-G)が形成されるのに十分な時間の後、クローン又はコロニーの数が決定される。G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の存在下でのコロニーの数の、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の非存在下と比べた減少は、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物はG-CSFシグナル伝達を中和することを示す。G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の複数の濃度を試験することにより、IC50、すなわちCFU-G形成の最大阻害の50%が生じる濃度が、決定される。一例において、IC50は、0.2nM以下、0.1nM以下など、例えば0.09nM以下、又は0.08nM以下、又は0.07nM以下、又は0.06nM以下、又は0.05nM以下である。一例において、IC50は、0.04nM以下である。別の例において、IC50は、0.02nM以下である。前述のIC50は、本明細書記載の任意のCFU-Gアッセイに関連している。
【0266】
更なる例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、G-CSFの存在下で培養される、hG-CSFRを発現する細胞(例えば、BaF3細胞)の増殖を減少する。細胞は、G-CSFの存在下(例えば、0.5ng/ml)、並びに被験化合物の存在又は非存在下で、培養される。細胞増殖を評価する方法は、当該技術分野において公知であり、且つ例えば、MTT還元及びチミジン組み込みを含む。本化合物の非存在下で観察されたレベルと比べ、増殖のレベルを減少する化合物は、G-CSFシグナル伝達を中和すると考えられる。本化合物の複数の濃度を試験することにより、IC50、すなわち細胞増殖の最大阻害の50%が生じる濃度が決定される。一例において、IC50は、6nM以下、5.9nM以下などである。別の例において、IC50は、2nM以下、又は1nM以下、又は0.7nM以下(or cell)、又は0.6nM以下、又は0.5nM以下である。前述のIC50は、本明細書記載の任意の細胞増殖アッセイに関連している。
【0267】
更なる例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、G-CSF投与後のインビボにおける造血幹細胞及び/もしくは内皮前駆細胞の動員を減少し、並びに/又は例えばG-CSF投与後の、インビボにおける好中球の数を減少する(しかしこれは必須ではない)。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、任意にG-CSFまたはその修飾型(例えば、ペグ化されたG-CSF又はフィルグラスチム)の投与前、投与時又は投与後に投与される。造血幹細胞(例えば、CD34及び/もしくはThy1を発現している)並びに/又は内皮前駆細胞(例えば、CD34及びVEGFR2を発現している)並びに/又は好中球(形態学的に同定されるか、及び/もしくは例えば、CD10、CD14、CD31及び/又はCD88を発現している)の数が、評価される。該化合物の非存在下で認められるレベルと比べ、細胞(複数可)のレベルを減少する化合物は、G-CSFシグナル伝達を中和すると考えられる。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、好中球減少症を引き起こすことなく、好中球の数を減少する。
【0268】
G-CSFシグナル伝達の中和を評価する他の方法は、本開示により企図されている。
【0269】
エフェクター機能の決定
本明細書において考察したように、本開示のタンパク質の一部は、エフェクター機能を減少する。ADCC活性を評価する方法は、当該技術分野において公知である。
【0270】
一例において、ADCC活性のレベルは、51Cr放出アッセイ、ユウロピウム放出アッセイ又は35S放出アッセイを用いて評価される。これらのアッセイの各々において、G-CSFRを発現している細胞は、G-CSFシグナル伝達を阻害する列挙された化合物の1又は複数と共に、該化合物がその細胞により取り込まれるのに十分な時間及び条件下で培養される。35S放出アッセイの場合、hG-CSFRを発現する細胞は、35S-標識されたメチオニン及び/又はシステインと共に、新たに合成されたタンパク質へ標識されたアミノ酸が取り込まれるのに十分な時間、培養することができる。次に細胞は、該タンパク質の存在又は非存在下、並びに免疫エフェクター細胞、例えば末梢血単核細胞(PBMC)及び/又はNK細胞の存在下で、培養される。その後細胞培養培地中の51Cr、ユウロピウム及び/又は35Sの量が検出され、且つ該タンパク質の存在下で、タンパク質の非存在下と比較し、ほとんど又は全く変化しない(あるいは、ヒトIgG1 Fcを含む抗-hG-CSFR抗体の存在下で観察されたレベルと比べ、本化合物の減少したレベル)ことは、該タンパク質は、減少したエフェクター機能を有することを示している。タンパク質により誘導されるADCCのレベルを評価するアッセイを明らかにしている刊行物の例としては、Hellstromら、Proc. Natl Acad. Sci. USA 83:7059-7063, 1986、及びBruggemannら、J. Exp. Med. 166:1351-1361, 1987が挙げられる。
【0271】
タンパク質により誘導されるADCCのレベルを評価する他のアッセイは、フローサイトメトリーに関するACTI(商標)非放射性細胞傷害アッセイ(CellTechnology社、CA, USA)、又はCytoTox96(登録商標)非放射性細胞傷害アッセイ(Promega社、WI, USA)がある。
【0272】
このタンパク質は、C1qへ結合することができ、且つCDCを誘導することを確認するC1q結合アッセイもまた実行することができる。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoroら、J. Immunol. Methods 202: 163, 1996参照)。
【0273】
半減期の決定
本開示に包含された一部のタンパク質は、改善された半減期を有し、例えば、修飾されないタンパク質と比べ、それらの半減期を延長するように修飾される。改善された半減期を有するタンパク質を決定する方法は、当業者には明らかであろう。例えば、タンパク質の新生児Fc受容体(FcRn)へ結合する能力が、評価される。これに関して、FcRnに関する増加した結合親和性は、該分子の血清半減期を増大する(例えば、Kimら、Eur J Immunol., 24:2429, 1994参照)。
【0274】
本開示のタンパク質の半減期はまた、例えばKimら、Eur J of Immunol 24:542, 1994に記載された方法に従い、薬物動態試験により測定することもできる。この方法に従い、放射標識されたタンパク質が、マウスへ静脈内注射され、その血漿濃度が、例えば注射後3分から72時間まで、時間の関数として、定期的に測定される。こうして得られたクリアランス曲線は、二相性であり、すなわちアルファ相とベータ相がある。このタンパク質のインビボにおける半減期の決定のために、ベータ相のクリアランス率が計算され、且つ野生型又は非修飾タンパク質のそれと比較される。
【0275】
治療的有効性
虚血-再灌流障害を治療する化合物の有効性は、インビボアッセイを用いて評価することができる。例えば、Bohlら、Am J Physiol Heart Circ Physiol (2009)、Hartsockら、J Vis Exp (2016)、Greenbergら、Methods Enzymol (2008)、又はZhangら、The FASEB Journal (2016)に説明されたような、マウスモデルを使用する。
【0276】
組成物
いくつかの例において、本明細書記載の化合物は、従来の無毒の医薬的に許容し得る担体を含有する剤形において経口、非経口、吸入スプレーで、吸着、吸収、局所的、経直腸、経鼻、口腔内、膣内、脳室内、移植されたリザーバーを介して、あるいは任意の他の簡便な剤形により、投与することができる。本明細書において使用される用語「非経口」は、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、脳室内、胸骨内、及び頭蓋内の注射又は注入の技術を含む。
【0277】
投与に適した形状の化合物(例えば医薬組成物)を調製する方法は、当該技術分野において公知であり、且つ例えば、「レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」(第18版、Mack Publishing社、イーストン、Pa., 1990)及び米国薬局方(USP):国民医薬品集(NF)(Mack Publishing社、イーストン、Pa., 1984)に記載された方法を含む。
【0278】
この開示の医薬組成物は、静脈内投与又は皮下投与、臓器もしくは関節の体腔もしくは管腔への投与などの非経口的投与に、特に有用である。投与のための組成物は、医薬として許容し得る担体、例えば水性担体中に溶解したG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の溶液を、通常含むであろう。例えば、緩衝食塩水及び同類のものなどの、様々な水性担体を使用することができる。これらの組成物は、pH調節剤及び緩衝剤、毒性調節剤及び同類のもの、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム及び同類のものなどの、生理的条件に近似するのに必要とされる医薬として許容し得る補助物質を含んでよい。これらの製剤における本開示の化合物の濃度は、広範に変動することができ、且つ選択された特定の投与様式及び患者の必要性に従い、主に液体容積、粘度、体重及び同類のものを基に、選択されるであろう。担体の例は、水、食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンを含む。混合油及びオレイン酸エチルなどの非水性ビヒクルもまた、使用されてよい。リポソームもまた、担体として使用されてよい。これらのビヒクルは、例えば緩衝剤及び保存剤などの、等張性及び化学安定性を増強する添加剤を少量含有してよい。
【0279】
製剤時に、本開示の化合物は、剤形と互換性のある様式で且つ治療的/予防的に有効であるような量で投与されるであろう。製剤は、先に説明した注射用液剤の形状などの、様々な剤形で、容易に投与されるが、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤又は他の経口投与のための固形物、坐剤、ペッサリー、点鼻薬又はスプレー、エアロゾル、吸入剤、リポソーム形状及び同類のものなどの、他の医薬として許容し得る形状も企図される。医薬の「徐放」カプセル剤又は組成物もまた、使用されてよい。徐放製剤は一般に、長期間にわたり一定の薬物レベルを生じるように設計され、且つ本開示の化合物を送達するために使用されてよい。
【0280】
WO2002/080967は、例えば喘息の治療のための、抗体を含有するエアロゾル化された組成物を投与するための、組成物及び方法を説明しており、これも、本開示のタンパク質の投与に適している。
【0281】
組合せ療法
一例において、本開示の化合物は、組合せたもしくは追加の治療工程として、又は治療用製剤の追加成分としてのいずれかで、本明細書記載の疾患又は状態の治療に有用な別の化合物と組合せて投与される。
【0282】
例えば、この他の化合物は、抗炎症性化合物である。あるいは又は加えて、他の化合物は、免疫抑制薬である。あるいは又は加えて、他の化合物は、プレドニソン及び/又はプレドニソロンなどの、コルチコステロイドである。あるいは又は加えて、他の化合物は、メトトレキセートである。あるいは又は加えて、他の化合物は、シクロホスファミドである。あるいは又は加えて、他の化合物は、ミコフェノール酸モフェチルである。あるいは又は加えて、他の化合物は、組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)である。
【0283】
いくつかの例において、この他の化合物は、以下の1又は複数の発現又は活性を阻害もしくは減少する:
(i)腎臓損傷分子1(KIM-1);
(ii)好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL);
(iii)インターロイキン1ベータ(IL-1β);
(iv)インターロイキン6(IL-6);
(v)腫瘍壊死因子アルファ(TNFα);
(vi)補体成分5a受容体1(C5AR1);
(vii)マクロファージ炎症性タンパク質2-アルファ(MIP2-α);
(viii)細胞間接着分子1(ICAM-1);
(ix)E-セレクチン;
(x)C-X-Cモチーフケモカインリガンド1(CXCL1);
(xi)インターロイキン8受容体ベータ(IL-8Rβ);及び
(xii)単球走化性タンパク質1(MCP-1)。
【0284】
いくつかの例において、他の化合物は、硫化水素である。いくつかの例において、他の化合物は、シクロスポリンである。いくつかの例において、他の化合物は、Le Lamerら、J Transl Med (2014)に説明されたような、TRO40303である。いくつかの例において、他の化合物は、スーパオキシド・ジスムターゼである。いくつかの例において、他の化合物は、カンナビノイド又はその合成アナログである。
【0285】
いくつかの例において、他の化合物は、移植手術において通常使用されるものである。
【0286】
一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、この他の化合物と同時に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、この他の化合物の前に投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、この他の化合物の後に投与される。
【0287】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、細胞と組合せて投与される。いくつかの例において、この細胞は、間葉系幹細胞などの、幹細胞である。
【0288】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、遺伝子治療と組合せて投与される。
【0289】
用量及び投与時期
本開示の化合物の好適な用量は、具体的化合物、治療されるべき状態及び/又は治療される対象に応じて変動するであろう。例えば、最適又は有用な用量を決定するために、準最適な用量で開始し、且つこの用量を増分により修飾することにより、好適な用量を決めることは、熟練した医師の能力内である。あるいは、治療/予防のための適切な量を決定するために、細胞培養アッセイ又は動物試験からのデータを使用し、ここで適量は、ほとんど又は全く毒性がない活性化合物のED50を含む循環濃度の範囲内である。この用量は、利用される剤形及び利用される投与経路に応じてこの範囲内で変動してよい。治療的/予防的有効量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。投与量は、細胞培養において決定されたように、IC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する化合物の濃度)を含む範囲の循環血漿濃度の範囲に到達するように、動物モデルにおいて処方されてよい。そのような情報を使用し、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定されてよい。
【0290】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、全身投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、局所投与される。
【0291】
対象において虚血-再灌流障害を予防又は治療するために、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、必ずしも対象へ直接投与されなくてよいことは、当業者により理解されるであろう。例えば、この化合物は、対象への移植前に、臓器ドナー又は臓器(例えば、摘出された臓器)へ投与されてよく、これにより移植後に対象において生じる虚血-再灌流障害の作用を減少する。従って、対象における虚血-再灌流障害は、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の対象への直接投与を伴わずに、治療することができる。
【0292】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、対象へ投与される。いくつかの例において、対象は、臓器移植片レシピエントである。
【0293】
いくつかの例において、本開示の方法は、本明細書に記載の化合物の予防的又は治療的有効量を投与することを含む。
【0294】
用語「治療的有効量」は、投与される場合に、対象の予後及び/もしくは様相を改善する量並びに/又はその状態の臨床診断又は臨床的特徴を観察もしくは受容するレベルを下回るレベルにまで、本明細書記載の臨床状態の症状の1又は複数の症状を軽減もしくは阻害する量である。投与されるべき量は、治療されるべき状態の特定の特徴、治療されるべき状態の種類及び段階、投与様式、並びに全身の健康状態、他の疾患、年齢、性別、遺伝子型、及び体重などの対象の特徴に応じて決まるであろう。当業者は、これら及び他の要因に応じて、適切な用量を決定することができるであろう。従ってこの用語は、特定の量、例えば化合物の重量又は容量に本開示を限定するものとしては解釈されるべきではなく、むしろ本開示は、対象において言及された結果を達成するのに十分なG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の量を包含する。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の治療的有効量は、好中球減少症を誘導しない。
【0295】
本明細書において使用される用語「予防的有効量」とは、臨床状態の1又は複数の検出可能な症状の開始を予防又は阻害又は遅延する、化合物の十分な量を意味するとされるものとする。当業者は、量は、その状態に対し、例えば、投与される具体的化合物及び/又は特定の対象及び/又は状態の種類もしくは重症度もしくはレベル及び/又は素因(遺伝子又はそれ以外)に応じて変動することを知っているであろう。従ってこの用語は、特定の量、例えば化合物の重量又は量に本開示を限定するものとしては解釈されるべきではなく、むしろ対象において言及された結果を達成するのに十分なG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の量を包含する。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の予防的な有効量は、好中球減少症を誘導しない。
【0296】
本明細書記載の化合物のインビボ投与に関して、常用の投薬量は、1日当たり個人の体重1kgにつき約10ngから最大約100mgまで変動する。それらの用量及び範囲の例は、本明細書において説明されている。数日以上にわたる反復投与に関して、治療されるべき疾患又は障害の重症度に応じ、治療は、所望の症状の抑制が達成されるまで、持続することができる。
【0297】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.1mg/kg~約30mg/kg、例えば約1mg/kg~約10mg/kg、又は約2mg/kg~8mg/kg、又は約4mg/kg~6mg/kgなどの初回(又は負荷)投与量で投与される。G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は次に、約0.01mg/kg~約5mg/kg、例えば約0.05mg/kg~約1mg/kgなど、例として約0.1mg/kg~約1mg/kg、例えば約0.1mg/kg又は0.5mg/kg又は1mg/kg又は2mg/kg又は3mg/kg又は4mg/kg又は5mg/kgなど、より低い維持量で投与され得る。維持量は、7~30日毎に、例えば10~15日毎など、例として10又は11又は12又は13又は14又は15日毎に投与されてよい。これに関して、維持量は、例えば臓器移植手術後の、長期間にわたり、対象の血液中でこの化合物の治療的に有効なレベルを維持するために、使用することができる。
【0298】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.1mg/kg~約1mg/kgの投与量で投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.4mg/kg~約0.5mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.1mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.2mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.3mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.4mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.5mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.6mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.7mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.8mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約1mg/kgの投与量で投与される。
【0299】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約0.01mg/kg~約50mg/kg、例えば約0.1mg/kg~約40mg/kgなど、例として約2mg/kg~約30mg/kg、例として約5mg/kg~約25mg/kgの投与量で投与される。
【0300】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約2mg/kg~約8mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約4mg/kg~約6mg/kgの投与量で投与される。
【0301】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約10mg/kg~約40mg/kgの投与量で投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約20mg/kg~約30mg/kgの投与量で投与される。
【0302】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約5mg/kgの投与量で投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約10mg/kgの投与量で投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、約25mg/kgの投与量で投与される。
【0303】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、より高い負荷投与量又はより低い維持量を伴わずに投与される。
【0304】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、単回投与量として投与される。
【0305】
いくつかの例において、例えば、7~30日毎、例えば10~22日毎など、例として10~15日毎、例として10又は11又は12又は13又は14又は15又は16又は17又は18又は19又は20又は21又は22日毎など、多数回の投与量が投与される。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物、7日毎又は14日毎又は21日毎に投与される。
【0306】
いくつかの例において、療法を開始する時点で、哺乳動物は、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物が、わずかに7連続日又は6連続日又は5連続日又は4連続日投与される。
【0307】
治療に適切に反応しない哺乳動物の場合、1週間に反復投与量が投与されてよい。あるいは又は加えて、漸増する投与量が投与されてよい。
【0308】
別の例において、有害反応を経験している哺乳動物に関して、初回(又は負荷)投与量は、 1週間のうちの数日間にわたるか、又は連続する数日間にわたり分割されてよい。
【0309】
本開示の方法に従う化合物の投与は、例えば、レシピエントの生理的状態、投与の目的が治療的であるか又は予防的であるかどうか、及び熟練した医師に公知の他の要因に応じて、連続して又は間欠的であることができる。化合物の投与は、予め選択された期間にわたり、本質的に連続してよいか、又は例えば、状態の進行時又は進行後のいずれかで、一連の間をあけた投与量であってよい。
【0310】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前に投与される。従っていくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前の0日(例えば虚血直前)から7日の間に投与される。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前の0日から6日又は5日又は4日の間に投与される。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前の0から48時間の間に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前の12から36時間の間に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前の約24時間に投与される。他の例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血後に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前及び虚血後に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血時に、例えば組織又は臓器移植手術時に投与される。
【0311】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前の少なくとも1時間に投与される(例えば、虚血前7日以上を超えて(out to))。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、虚血前の少なくとも2もしくは少なくとも4もしくは少なくとも6もしくは少なくとも8もしくは少なくとも10もしくは少なくとも12時間、又は少なくとも14時間又は少なくとも16時間又は少なくとも18時間又は少なくとも20時間又は少なくとも22時間又は少なくとも24時間に投与される。
【0312】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前に投与される。従っていくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前の0日(例えば再灌流直前)から7日の間に投与される。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前の0日から6日又は5日又は4日の間に投与される。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前の0から48時間の間に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前の12から36時間の間に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前の約24時間に投与される。他の例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流後に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前及び再灌流後に投与される。
【0313】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前の少なくとも1時間に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前の少なくとも2もしくは少なくとも4もしくは少なくとも6もしくは少なくとも8もしくは少なくとも10もしくは少なくとも12時間、又は少なくとも14時間又は少なくとも16時間又は少なくとも18時間又は少なくとも20時間又は少なくとも22時間又は少なくとも24時間(例えば7日以上を超えて)に投与される。
【0314】
組織又は臓器移植
虚血-再灌流障害が、組織又は臓器移植に起因するか又は関連している場合、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植前、移植時又は移植後のいずれかに投与されることができる。従って、いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植前に投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植時、例えば、その時点で移植された臓器への血流が回復されるクランプ開放前に移植された臓器へ投与される。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、移植後に投与される。
【0315】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、対象へ投与され、ここでこの対象は、組織又は臓器移植のレシピエントである。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流前に、組織又は臓器移植のレシピエントへ投与される。一例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、再灌流後に、組織又は臓器移植のレシピエントへ投与される。
【0316】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、組織又は臓器の摘出前に、組織又は臓器移植のドナーへ投与される。
【0317】
いくつかの例において、組織又は臓器移植のドナーは、生存ドナーである。いくつかの例において、このドナーは、死亡したドナーである。死亡したドナーは、臓器の質、並びに/又は循環機能及び呼吸機能の停止の順番及び機序に応じて、いくつかの群に分けることができる。死亡したドナーの分類は、Panduranga及びAkinloluの文献(Clin J Am Soc Nephrol 4: 1827-1831, 200)に説明されている。
【0318】
いくつかの例において、ドナーは、脳死後提供(DBD)ドナーであり、また「脳死」ドナーとも称される。DBDドナーは、根本の(primary)脳死を有するが、自発の又は医学的手段(例えば、人工呼吸器、薬物、冠動脈内バルーンポンプ、又は体外機械式酸素供給装置)のいずれかにより、循環系は機能し続けているドナーである。いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、臓器摘出前に、DBDドナーへ提供され、且つ血液循環により移植の可能性のある臓器へ分布される。
【0319】
いくつかの例において、ドナーは、心臓死後に提供する(DCD)ドナーであり、「心臓死後提供」ドナー又は「非-心臓-拍動ドナー」とも称される。DCDドナーは、臓器摘出前に循環機能が喪失された(例えば心臓死)ドナーである。いくつかの例において、心臓-肺バイパス装置によるなどの人工循環が、DCDドナーへ投与された本化合物を摘出及び移植が意図された臓器(複数)へ送達するために、必要とされることがある。DCDドナーは更に、更なる亜群に分類することができる。いくつかの例において、DCDドナーは、管理されたDCD(cDCD)ドナーである。cDCDドナーは、生命維持が断たれ(withdrawn)、且つ手術室の管理された環境内でその家族が臓器提供について書面による同意を提出したドナーである。いくつかの例において、DCDドナーは、管理されないDCD(uDCD)ドナーである。uDCDドナーとは、例えば、臓器提供の同意書が得られる前に、院内の緊急救命室又は他の場所で息を引き取り、且つ同意書が得られるまで、臓器を冷却するために、カテーテルが大腿血管及び腹膜に留置されている、ドナーである。uDCDドナーはまた、臓器提供に同意しているが、臓器の調達時にCPRを必要とする心停止を罹患したドナーでもある。
【0320】
いくつかの例において、ドナーは、拡張基準ドナー(ECD)である。ECDは、死亡時に、年齢60歳以上であるか、又は年齢50~59歳であり、且つ以下の3つの基準のうちいずれか2つを有する、ドナーである:(1)死因が、脳血管事故である;(2)全身性高血圧の既応歴;並びに(3)終末期(terminal)血清クレアチニンが1.5mg/dL以上。
【0321】
いくつかの例において、ドナーは、標準基準ドナー(SCD)である。SCDは、年齢50歳未満であるドナーである。一般に、提供が脳死後に行われ且つECDの基準(前記参照)のいずれにも合致しない全ての死亡したドナーは、SCDと考えられる。
【0322】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、脳死判定後直ちに、又は所定の法的倫理的且つ患者の検討事項が実行可能になると脳死後できるだけ早く、投与される。指導医(attendant physician)又は移植外科医は、適切なドナーからの臓器摘出及び摘出された臓器の好適なレシピエントへの移植のタイミングに影響を及ぼす多くの因子を認めるであろう。従っていくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、脳死の発生と移植が意図された臓器の除去の間のいずれかの時点で、ドナーへ投与される。
【0323】
いくつかの例において、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物は、組織又は臓器移植前に、摘出された組織又は臓器へ、エクスビボにおいて投与される。例えば、摘出された組織又は臓器は、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を含有する溶液を、移植前に灌流又は注入することができる。
【0324】
キット
本開示の別の例は、前述のような虚血-再灌流障害の治療に有用な化合物を含むキットを提供する。
【0325】
一例において、このキットは、(a)任意に医薬として許容し得る担体もしくは希釈剤中の、本明細書記載のG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を含む、容器;並びに(b)対象における虚血-再灌流障害の作用を軽減するための指示を記した添付文書:を含む。
【0326】
本開示のこの例に従い、添付文書は、容器上に存在する又は容器と関連づけられている。好適な容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジなどを含む。これらの容器は、ガラス又はプラスチックなど、様々な材料から形成されてよい。容器は、虚血-再灌流障害の治療に有効である組成物を保持するか又は含み、且つ無菌のアクセスポートを有することができる(例えば、容器は、皮下注射針により穿孔可能である栓を有する静脈内溶液用バッグ又はバイアルであってよい)。この組成物中の少なくとも1種の活性物質は、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物である。ラベル又は添付文書は、提供される化合物及び任意の他の医薬品の投薬量及び投薬間隔に関する具体的指針と共に、この組成物が、治療適格対象、例えば臓器移植片レシピエントを治療するために使用されることを指摘している。このキットは更に、注射用静菌水(BWFI)、リン酸-緩衝食塩水、リンゲル液、及び/又はデキストロース溶液などの、医薬として許容し得る希釈緩衝液を含む追加の容器を含んでよい。キットは更に、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、及び注射器を含む、商業的及び使用者の視点から望ましい他の物質を含んでよい。
【0327】
本開示は、以下の非限定的実施例を含む。
【実施例】
【0328】
実施例
実施例1:方法及び材料
マウス
10~12週齢の成体雄C57BL/6野生型マウスを、Animal Resource Centre、パース、オーストラリアから入手した。マウスは、St. Vincent's Hospital Melbourne内の承認された動物施設において飼育し、且つ動物が関与する全ての実験は、St. Vincent's Hospital Melbourneの動物倫理委員会により承認された。
【0329】
温腎虚血-再灌流障害モデル
マウスに、ケタミン85mg/kg及びキシラジン15mg/kgのi.p.投与により麻酔をかけた。マウスに麻酔がかかった後、手術中はそれらの中核体温を37℃に維持するために、これらをヒーティングパッド上に配置した。正中線腹部切開を行い、腎茎を鈍切開した。右腎摘出術後、微小血管クランプ(Roboz、ロックビル、MD)を、左腎茎上に22分間配置し、その一方で動物は、インキュベーター内で37℃に維持し且つ十分に水分を与えた(hydrate)。虚血後にクランプを取り除き、腎臓を観察し、完全な再灌流を確認した。その後手術創傷を、5-0シルクで2層で縫合した。この手技の間は、温い通常の食塩水(100ml/kg)を、腹腔へ滴下した。このマウスは、ヒーティングランプ下で2時間かけて回復させ、その後ヒーティングパッド上に維持した。マウスを、再灌流後24時間で安楽死させ、血液試料及び腎臓試料を得た。シャム手術したマウスは、IRはせずに、右腎摘出術のみを受けた。
【0330】
抗体
抗-マウスG-CSFR(Ch5E2-VR81-mIgG1κ)、アイソタイプ対照(BM4、マウスアイソタイプIgG1κ)又は抗-C5抗体(muBB5.1-mIgG1κ)(Rother Rら、Nat Biotechnol. 2007)を、虚血開始前24時間に、0.2mlのPBS中100μg/マウスで、腹腔内へ注射した。投与量漸増試験において、抗-マウスG-CSFR(Ch5E2-VR81-mIgG1κ)を、0.2mlのPBS中200μg/マウス又は500μg/マウスで、虚血前24時間、腹腔内へ注射した。アイソタイプ対照は、最高投与量である500μg/マウスで注射した。VR81は、マウスG-CSFRの細胞外ドメインに対して生成された、マウスモノクローナルIgG1κ抗体であり、且つ説明されたように、G-CSFRへのG-CSF結合を遮断する(Campbellら、Journal of Immunology, 197(11) (2016) 4392-4402)。これに関して、VR81は、本明細書及びWO2012171057において説明された、C1.2及びC1.2Gに関するマウスサロゲート抗体である。
【0331】
腎機能の評価
腎機能は、再灌流後24時間での、血清クレアチニン及び血清又は血漿尿素の測定により評価した。クレアチニンは、Roche COBAS Integra 400 Plus分析装置上で分析し、ヤッフェ法を基にした動態比色アッセイを用いて測定した。Cell Biolabs社の尿素アッセイキットは、ベルテロー反応を基にしている。尿素は最初に、アンモニアと二酸化炭素に分解され、これを更にアルカリ呈色剤と反応させ、青緑色に着色した生成物を生じ、これは、標準分光光度プレートリーダーにより、580~630nmの光学密度で測定することができる。
【0332】
腎組織学及びスコア化
腎臓組織切片(4mm)は、10%ホルマリン固定し、パラフィン包埋し、その後H&Eで染色した。組織学スコアは、半定量的方法により評価した(Lu Bら、Nephrology 2008)。簡単に述べると、最低2つの切片中の皮質、皮質-髄質接合部、及び髄質の各々における3つの高倍率視野を、盲検様式で評価した。尿細管壊死の程度を等級化し、且つ改変したスコア化システムを使用した:0=正常腎;1=最少(#10%関与);2=軽度(10~25%関与);3=中等度(26~50%関与);4=重度(51~75%関与);及び、5=非常に重度(.75%関与)
【0333】
補体活性化及び沈着
マウス血漿中の補体の活性化を、マウスC5a DuoSet ELISAキット(DY2150;R&D Systems、ミネアポリス、MN)を製造業者の指示に従い用いて測定した。腎切片中のC5b-9の沈着は、免疫蛍光測定により測定した(下記参照)。
【0334】
免疫蛍光測定
瞬間凍結した生検試料を、厚さ5mm切片に切り出し、風乾させ、直ちに処理するか又は更なる分析まで280℃で貯蔵するかのいずれかを行った。アセトンで固定し且つ水和した後、これらの切片を、以下を用いて染色した:ウサギ抗-マウスC9 Alexa 488(Bioss Antibodies、ウォバーン、MA)、ラット抗-マウスLy-6GFITC(Hycult Biotech)、ラット抗-マウスF4/80FITC(Bio-Rad、ローリー、NC)、又はFITC-コンジュゲートしたアイソタイプ-合致した対照Ab:ラットIgG1(BD Biosciences、サンディエゴ、CA)。これらのスライドを、蛍光/共焦点顕微鏡(Nikon A1R)を用いて分析した。生の積分された密度としての蛍光強度の定量は、操作しないTIFF画像上で、ImageJソフトウェア、バージョン10.2(National Institutes of Health)を用いて行った。
【0335】
RNA抽出、相補的DNA合成、及び定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
凍結したマウス腎臓から総RNAを、PureLink RNAミニキット(Life Technologies、カールスバッド、CA)を製造業者の指示に従い用いて単離した。総RNAの質及び量は、NanoDrop分光光度計(NanoDrop Technologies、オックスフォードシャー、UK)を用いて決定した。第一鎖相補的DNA合成は、0.5μgオリゴ(dT)プライマー及び1μgランダムプライマー(両方共Invitrogen、カールスバッド、CAから)を含有する50μL反応混合液中で、1.0μg総RNAを、70℃で10分間インキュベーションすることにより、実行した。次に、10mM dNTP、300U SuperScript III組換えリボヌクレアーゼインヒビター、60U RNaseOUT組換えリボヌクレアーゼインヒビター、0.1M DTT、及び5第1鎖緩衝液(全てInvitrogenから)を含有する50μL反応混合液を、添加した。逆転写を、42℃で1時間、及び70℃で10分間行った。相補的DNAは、-20℃で貯蔵した。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を、TaqMan Universal PCRマスターミックスシステム(Applied Biosystem、ベッドフォード、MA)を製造業者の指示に従い用いて行った。
【0336】
腎臓の消化及び末梢血の調製
腎臓の1/8片を、外科用メスによりより小さい小片へ切断し、これらを500ulコラゲナーゼI型(2mM EDTA含有PBS中10ug/ml)中で、37℃で30分間、振盪条件下で、消化した。この組織消化物を、70umストレーナーを通過させることにより、細胞を単離した。赤血球を、RCRB緩衝液(156mM NH4Cl、11.9mM NaHCO3、0.097mM EDTA、pH7.3)を使用し溶解した。細胞は、最後に、2mM EDTA含有PBS中に浮遊させた。
【0337】
末梢血を、EDTA-コートされたチューブに採取し、赤血球を、RCRB緩衝液(前記)を用いて溶解し、細胞を2mM EDTA含有PBS中に再浮遊させた。
【0338】
フローサイトメトリー
腎臓及び末梢血の単細胞浮遊液を、2mM EDTAを含むPBS中に再浮遊させた。細胞を、以下のAbにより染色した:PE-コンジュゲートした抗-マウスGr-1(R86-8C5;BD Biosciences)、アロフィコシアニンCy7-コンジュゲートした抗-マウスLy6G(1A8;BD Biosciences)、FITC-コンジュゲートした抗-マウスCD11b(M1/70;BD Biosciences)、PECy7-コンジュゲートした抗-マウスCD69(H1.2F3;BD Biosciences)、eFluor450-コンジュゲートした抗-マウスCD62L(MEL-14;eBiosecience)、アロフィコシアニン-コンジュゲートした抗-マウスCD45.2(104;eBioseciences)。FcRブロック抗-マウスCD16/32(93;Biolegend)を添加し、非特異的結合を減少させ、且つFixable Live/Dead Yellow(Thermo Fisher Scientific)を用い、死滅細胞を取り除いた。試料を、BD Cytofix固定用緩衝液(BD Biosciences)を用いて一晩固定し、その後FlowJoソフトウェアを用い、BD Fortessa上で解析した。
【0339】
統計解析
統計学的検定は、GraphPad Prismソフトウェアを用いて行った。複数の群を、検定後ボンフェロニ相関による一元配置ANOVA、又はダン多重比較検定によるクラスカル・ウォリス検定を用いて比較した。2群を、対のないスチューデントt検定(両側)又はマン・ホイットニーU検定を用いて比較した。結果は、平均±SEMとして表した。p値<0.05は、統計学的に有意と見なした。
【0340】
実施例2:温腎臓IRIモデルにおけるG-CSFシグナル伝達の阻害は、血清クレアチニン及び血漿尿素濃度を減少する
温腎虚血-再灌流障害(IRI)に供されたマウスにおけるG-CSFシグナル伝達の阻害は、腎臓損傷を軽減するかどうかを評価するために、血清クレアチニン及び血漿/血清尿素濃度の分析を行った。
【0341】
血清クレアチニン濃度の有意な減少が、100μgのアイソタイプ対照抗体で処置したマウスにおける血清クレアチニン濃度(n=8;平均±SEM;134.38±20.57)と比べ、100μgの抗-G-CSFR抗体(VR81)で処置したマウス(n=8;平均±SEM;66.13±25.18)において認められた(
図1、表1)。
【0342】
血漿尿素濃度の有意な減少が、アイソタイプ対照抗体(n=8;平均±SEM;292.49±21.35)と比べ、抗-G-CSFR抗体(VR81)で処置したマウス(n=8;平均±SEM;159.02±44.42)において認められた(
図2、表1)。IRI前に抗-G-CSFR抗体(VR81)で処置したマウスにおける血清クレアチニン及び血漿尿素の濃度は、処置又は手術に供さなかったマウス(シャム)において認められる濃度と同等であった(
図1及び2;表1)。更に、VR81で処置したマウスにおける血清クレアチニン及び血漿尿素の濃度は、抗-C5抗体(BB5.1)で処置したマウスにおいて認められる濃度とは統計学的差異はなかった(
図9及び10)。
【0343】
表1:100μg抗-G-CSFR抗体(VR81)又はアイソタイプ対照抗体の腹腔内(IP)処置したマウスにおける血清クレアチニン及び血漿尿素レベル-温腎臓IRIモデル
【表1】
【0344】
実施例3:温腎臓IRIモデルにおけるG-CSFシグナル伝達の阻害は、腎組織における炎症浸潤を減少する
温腎虚血-再灌流障害(IRI)に供したマウスへの抗-G-CSFR抗体(VR81)の投与の作用を評価するために、腎組織への好中球及びマクロファージの浸潤を、実施例1に従い、免疫蛍光測定顕微鏡法により測定した。
【0345】
腎臓の皮質髄質接合部での尿細管間質内の好中球及びマクロファージの浸潤は、100μgアイソタイプ対照抗体で処置したマウスと比べ、100μg抗-G-CSFR抗体(VR81)で処置したマウスにおいて有意に減少された。シャムマウスにおいて浸潤は、ほとんど/全く認められなかった(
図3及び4)。一元配置ANOVA(ボンフェロニ相関による)を、有意性の検定に使用した。
【0346】
別の実験において、好中球及びマクロファージの浸潤はまた、200μg、及び500μgのVR81で処置したマウスにおいても、500μgアイソタイプ対照抗体で処置したマウスと比べ、有意に減少した(表2及び
図5)。
【0347】
表2:腎臓の皮質髄質接合部での尿細管間質内の好中球及びマクロファージ浸潤の減少。ダゴスティーノ・ピアソンオムニバス正規性検定。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、VR81、対、Ab対照に関する、ダン多重比較検定(* p<0.05、** p<0.01)。
【表2】
【0348】
実施例4:温腎臓IRIモデルにおけるG-CSFシグナル伝達の阻害は、腎皮質の壊死を減少する
腎皮質における腎臓損傷を、100μg抗-G-CSFR抗体(VR81)で処置したマウスの温腎臓IRIモデルにおいて評価した。尿細管壊死の程度を等級化し、表3に従い、尿細管損傷(TI)スコアとして表した。TIは、腎尿細管損傷の関与の割合を評価する2名の独立したオペレーターにより、処置群に関する情報なしに判定した(壊死、円柱形成、細胞膨潤、及び膨張)。
【0349】
減少した尿細管損傷の傾向が、抗-G-CSFR抗体(VR81)で処置したマウスの腎臓において認められた(
図6;1匹のマウスにつき2つの独立した評価の平均が示された)。シャムマウスは、予想されたように尿細管損傷は示さなかった。
【0350】
表3:腎皮質中の壊死細胞の割合及び対応する尿細管損傷(TI)スコアを規定する参照表
【表3】
【0351】
実施例5:腎組織におけるKIM-1、NGAL、IL-6、IL-8Rβ/CXCR2、MCP-1/CCL2、CXCL1、MIP-2/CXCL2、ICAM-1、及びC5aRのmRNA発現-温腎臓IRIモデル
最初の実験において、マウスには、温腎臓IRIモデルにおいて、虚血/再灌流障害が誘導される24時間前に、100μg/マウスの抗-G-CSFR抗体VR81を注射した。再灌流後、実施例1に説明したように、RNAを、腎臓から単離し、qRT-PCRに供した。KIM-1、NGAL、IL-6、IL-8Rβ/CXCR2、MCP-1/CCL2、ICAM-1、C5aR、IL-1β、TNFα、CXCL1、MIP-2/CXCL2及びE-セレクチンのmRNA転写レベルを、決定した。これらの遺伝子の転写レベルを、定量し、且つGAPDHに対し規準化した。
【0352】
24時間での、用量100μg/マウスの抗-G-CSFR抗体(VR81)処置は、アイソタイプ対照抗体による処置と比べ、NGAL、IL-6、IL-8Rβ/CXCR2、ICAM-1、C5aR、MIP-2/CXCL2、MCP-1/CCL2、E-セレクチン、及びCXCL1の遺伝子発現を減少した。これらのデータは、G-CSFシグナル伝達の阻害は、IRIに関連した炎症反応の軽減において有効であることを示唆している。先の遺伝子の減少した発現の同様のパターンが、抗-C5抗体(BB5.1)で処置したマウスの腎臓において認められた。
【0353】
最初の結果は、VR81の投与量200μg/マウス又は500μg/マウスを用い、確認した。表4及び
図7は、用量500μg/マウスでのVR81処置は、アイソタイプ対照抗体による処置に比べ、KIM-1、NGAL、IL-6、IL-8Rβ/CXCR2、ICAM-1、C5aR、MIP-2/CXCL2、MCP-1/CCL2、及びCXCL1の発現を有意に減少することを示している。
【0354】
【0355】
実施例6:G-CSFシグナル伝達の阻害は、温腎臓IRIモデルにおける腎臓への好中球浸潤を減少する
腎臓好中球(CD11b+Gr1+)及び白血球(CD11b-Gr1-CD45.2+)を、実施例1に説明した方法に従い、組織消化及びフローサイトメトリーにより、数え上げた。生存細胞の割合は、総細胞集団のPI染色を基に決定した。
【0356】
アイソタイプ対照抗体で処置したマウスと比べ、好中球の減少した数が、100μg/マウスの抗-GCSFR抗体(VR81)又は抗-C5抗体(BB5.1)で処置したマウス(及びシャムマウス)の腎臓において認められた(
図8A)。末梢血好中球数は、全ての実験群において類似していた(
図8B)。
【0357】
同様に、200μg/マウス又は500μg/マウスのVR81で処置したマウスの腎臓において認められた好中球の数には、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスと比べ、有意な減少が存在した(
図13A)。しかし、アイソタイプ対照抗体と比べ、末梢血において認められた好中球の有意な減少は、存在しなかった(
図13B)。
【0358】
これらのデータは、抗-G-CSFR抗体(VR81)による処置は、腎臓への好中球浸潤を減少し、且つ末梢血中の好中球の数には有意に影響を及ぼさないことを示唆している。
【0359】
マウスの実験群全てについて、腎臓又は末梢血中の好中球によるCD69又はCD62Lの発現について、有意差は認められなかった。
【0360】
抗-G-CSFR抗体(VR81)又は抗-C5抗体(BB5.1)で処置したマウスの腎臓における白血球(CD11b-Gr1-CD45.2+)の割合において、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスと比べ、有意差は認められなかった。
【0361】
実施例7:温腎臓IRIモデルにおけるVR81投与量漸増
実施例1に説明した温腎臓IRIモデルにおける投与量漸増試験において、虚血-再灌流障害の24時間前に、抗-マウスG-CSFR抗体(VR81)を、投与量200μg/マウス又は500μg/マウスで注射した。500μg/マウスのアイソタイプ対照抗体で処置したマウスを、対照として利用した。
【0362】
表5並びに
図11及び12に示したように、500μgのVR81で処置したマウスにおいて、血清クレアチニン及び血清尿素レベルの有意な減少が存在したが、200μgのVR81、又は500μgのアイソタイプ対照抗体で処置したマウスにおいては、これは存在しなかった。
【0363】
表5:VR81の200μg及び500μg/マウスを投与したマウスにおける血清クレアチニン及び血清尿素レベル。ダゴスティーノ・ピアソンオムニバス正規性検定。一元配置ANOVAクラスカル・ウォリス検定、VR81、対、Ab対照に関する、ダン多重比較検定(*p<0.05、**p<0.01)。
【表5】
【0364】
実施例8;G-CSFシグナル伝達の阻害は、温腎臓IRIモデルにおける補体C5活性化及びC5b-9沈着を減少する
温腎虚血-再灌流障害(IRI)に供したマウスへの抗-G-CSFR抗体(VR81)投与の作用を評価するために、実施例1に従い、補体C5活性化を、マウスC5a ELISAキットを用いる血漿中のC5aの分析により測定し、且つC5b-9沈着を、腎臓切片の免疫蛍光染色により測定した。
【0365】
表6及び
図14Aに示したように、500μgのVR81で処置したマウスの血漿C5aレベルにおいて、500μgのアイソタイプ対照抗体で処置したマウスと比べ、有意な減少が存在した。
【0366】
同じく、表6及び
図14Bに示したように、500μgのVR81で処置したマウスの腎臓中のC5b-9沈着においても、500μgのアイソタイプ対照抗体で処置したマウスと比べ、有意な減少が存在した。
【0367】
表6:VR81の200μg又は500μgで処置したマウスにおける補体C5活性化及びC5b-9沈着。(Ab対照に対して、*p<0.05、**p<0.02、***p<0.001)
【表6】
【0368】
実施例9:温腎臓IRIモデルにおいて虚血の1時間前のG-CSFシグナル伝達のインヒビターの投与は、腎臓及び血液における好中球の頻度を減少する
温腎臓IRIモデルにおいて虚血の1時間前のマウスへの抗-G-CSFR抗体(VR81)の投与の作用を評価するために、腎臓及び血液中の好中球(CD11b+Gr1+Ly6G+)の頻度を、実施例1に説明した方法に従う、組織消化及びフローサイトメトリーにより測定した。500μg/マウスの抗-C5抗体、BB5.1を、比較のために使用した。
【0369】
虚血の1時間前の、500μg/マウスの抗-G-CSFR抗体VR81による処置は、アイソタイプ対照抗体による処置と比べ、血液中及び腎臓中の好中球の頻度を有意に減少した(
図15)。500μg/マウスの対照抗体BB5.1による処置は、アイソタイプ対照抗体による処置と比べ、腎臓中の好中球の頻度を有意に減少しなかった。これらの結果は、虚血の24時間前の処置は有効ではない(
図13)のに対し、虚血の1時間前の、G-CSFシグナル伝達のインヒビターによる処置は、血液中及び腎臓中の好中球数を有意に減少するのに十分であることを明らかにしている。
【配列表】