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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20240403BHJP
   H01S 3/097 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H02M1/00 Z
H01S3/097 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021020650
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123372
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田坂 泰久
(72)【発明者】
【氏名】山口 英正
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-178225(JP,A)
【文献】特開平07-115238(JP,A)
【文献】特開2013-163503(JP,A)
【文献】特開2021-013235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00,7/48
H01S 3/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器にバースト状の高周波電圧を供給する高周波電源を有する電源装置であって、
前記高周波電源を制御する制御回路と、
前記制御回路に電力を供給する制御電源と、
前記制御回路および前記制御電源を収容する金属製の第2筐体と、
前記第2筐体および前記高周波電源を収容する金属製の第1筐体と、
を備え、
前記第2筐体は、前記第1筐体に対して絶縁され、且つ、前記第1筐体から離隔されている、電源装置。
【請求項2】
前記第2筐体は、絶縁部材を介して前記第1筐体から所定の距離離れた状態で支持される、請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記第2筐体は、信号線を通じて前記レーザ発振器を含む光源装置の筐体と電気的に接続されている請求項1または2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記第2筐体は、前記制御回路および前記制御電源を収容する空間の側面を区画する側板部と、前記側板部の底部を塞ぐ底板部と、を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記レーザ発振器から出力されるレーザの強度を検出する光検出器の検出信号を受信する、請求項1から4のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項6】
前記制御電源から前記制御回路に電力を供給する経路に、高周波信号の伝達を低減するための高周波低減手段が設けられる、請求項1から5のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項7】
前記高周波低減手段はコモンモードチョークを含む、請求項6に記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源装置に高周波電圧を供給する電源装置が知られている。本出願人は、特許文献1において電源装置を開示している。この電源装置は、レーザ発振器にバースト状の高周波電圧を供給する。この電源装置は、レーザ発振器のパルスレーザを検出する光検出器の検出信号を平滑化した信号に基づいて、電源装置の状態を調節するレーザ制御装置を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-192714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、レーザ光源装置の電源装置について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0005】
レーザ光源装置の電源装置では、負荷となるレーザ発振器にバースト状の高周波電圧を供給するとき、光源装置にコモンモード電流が発生する。このコモンモード電流は、浮遊容量とフレームグランドとを介して電源装置に伝達される。コモンモード電流が電源装置の制御回路に流れると、制御回路の誤動作や故障の原因となりうる。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、レーザ光源装置の電源装置に関し、制御回路へのコモンモード電流の影響を低減可能な電源装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の、電源装置は、レーザ発振器にバースト状の高周波電圧を供給する高周波電源を有する電源装置であって、高周波電源を制御する制御回路と、制御回路に電力を供給する制御電源と、制御回路および制御電源を収容する金属製の第2筐体と、第2筐体および高周波電源を収容する金属製の第1筐体と、を備える。第2筐体は、第1筐体に対して絶縁され、且つ、第1筐体から離隔されている。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制御回路へのコモンモード電流の影響を低減可能な電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る電源装置を備えたレーザ加工システムのブロック図である。
図2図1の電源装置を示す側面断面図である。
図3図1のレーザ加工システムの動作説明用のブロック図である。
図4図3のレーザ加工システムの動作波形図である。
図5】第2実施形態に係る電源装置20を備えたレーザ加工システムを示すブロック図である。
図6】比較例の電源装置を備えたレーザ加工システムのブロック図である。
図7図6の電源装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付して他と区別し、総称するときはこれらを省略する。また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。また、構成要素同士を区別するために、符号の末尾に「A、B」等と付すことがあり、区別せずに総称するときはこれらを省略する。
【0013】
[第1実施形態]
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る電源装置20を説明する。図1は、本実施形態の電源装置20を備えたレーザ加工システム100のブロック図である。レーザ加工システム100は、産業用の加工ツールとし使用できる。電源装置20は、高周波電圧Vrを光源装置10に供給する。光源装置10は、高周波電圧Vrにより励振され、パルスレーザLpを発生させるレーザ発振器110(例えば、CO2レーザ)を含み、パルスレーザLpをレーザ加工機90に供給する。レーザ加工機90は、供給されたパルスレーザLpを所定の光学系を介して対象物に照射して穴開け等の加工を行う。
【0014】
電源装置20の第1筐体222のフレームグランド(以下、「FG」という)と、光源装置10の筐体122のFGと、レーザ加工機90の筐体922のFGとは、アース線22を通じて共通に接続される。アース線22は、例えば接地される。
【0015】
電源装置20は、整流器250と、充電電源200と、高周波電源300と、制御電源260と、制御回路140とを含む。整流器250は、受電した3相交流電圧Vcを整流して整流電圧Vpを生成する。充電電源200は、整流電圧Vpを直流電圧Vdに変換する。高周波電源300は、直流電圧Vdを高周波電圧Vrに変換して光源装置10に供給する。制御電源260は、交流電圧Vcを整流・平滑して直流電圧Vg(例えば、5V)を生成し、制御回路140に供給する。制御回路140は、直流電圧Vgで動作し、充電電源200および高周波電源300にタイミングやレベル等を制御するための制御信号を供給する。
【0016】
光源装置10は、レーザ発振器110の一対の放電電極11と、レーザ発振器110から出力されるレーザの強度を検出する光検出器180とを有する。光検出器180は、例えば、フォトダイオード(PD:Photo Diode)である。光検出器180のベース電位側ラインは、筐体122のFGに接続されている。光検出器180の信号線12は制御回路140に接続され、光検出器180の検出信号を制御回路140に供給する。
【0017】
高周波電源300は、レーザ発生用の高周波電圧Vrを発生させるために、スイッチング素子(不図示)を高周波でスイッチング駆動させ、負荷となる光源装置10のレーザ発振器110の放電電極11に供給する。
【0018】
スイッチング素子を高周波でスイッチングさせた場合、レーザ発振器110の放電電極11と筐体122との間には、スイッチング素子の動作に合わせて高電圧が繰り返し印加される。高周波域では、レーザ発振器110の放電電極11と光源装置の筐体122との間の寄生容量Cfのインピーダンスは低下するため、レーザ発振器110の放電電極11から、寄生容量Cfを介して筐体122に流れるコモンモード電流icomが大きくなる。
【0019】
ここで、図6図7を参照して比較例の電源装置20Bを説明する。図6は、比較例の電源装置20Bを備えたレーザ加工システム100Bのブロック図である。この比較例は、発明者らが、本発明の電源装置20を開発する過程で、比較のために検討されたものである。比較例の光源装置10とレーザ加工機90の構成は、本実施形態の電源装置20と同様である。比較例の電源装置20Bは、本実施形態の電源装置20に対して、制御回路140のベース電位側ラインが第1筐体222のFGに接続されており、電気的に繋がっている点で相違し、他の構成は同様である。
【0020】
図7は、電源装置20Bを示す側面断面図である。電源装置20Bの第1筐体222は、直方体空間22hの側面を区画する角筒状の側板部22aと、側板部22aの底部を塞ぐ平板状の底板部22bと、側板部22aの天井部を塞ぐ平板状の上蓋部22cとを有する。側板部22aと、底板部22bと、上蓋部22cとは共通電位とされる。第1筐体222には、制御電源260、制御回路140、整流器250、充電電源200および高周波電源300が主回路として収容されており、制御電源260、制御回路140、整流器250、充電電源200および高周波電源300のベース電位側ラインは第1筐体222のFGに接続されている。
【0021】
比較例では、制御回路140は、第1筐体222およびアース線22を通して光源装置の筐体122と電気的に接続されているため、レーザ発振器110から筐体122に流れるコモンモード電流icomは、アース線22および信号線12を通して制御回路140に流れ込む。このようなコモンモード電流icomが制御回路140に流れると、制御回路140の誤動作や故障の原因となり得る。
【0022】
比較例の説明を踏まえて、本発明の電源装置20を説明する。図2は、本実施形態の電源装置20を示す側面断面図である。本実施形態の電源装置20は、コモンモード電流icomの影響を低減するために、制御電源260と制御回路140とを収容する第2筐体224であって、第1筐体222から絶縁されている第2筐体224を有する。また、制御回路140は、そのベース電位側ラインが第1筐体222のFGに接続されず、第1筐体222から絶縁された第2筐体224に接続されている。
【0023】
第1筐体222を説明する。第1筐体222は、金属製の箱状のケーシングである。第1筐体222は、上下に配列された下空間22jおよび上空間22kの側面を区画する角筒状の側板部22aと、側板部22aの底部を塞ぐ平板状の底板部22bと、側板部22aの天井部を塞ぐ平板状の天井部22dと、下空間22jと上空間22kとを隔てる平板状の隔壁部22eとを有する。下空間22jには、第2筐体224が収容され、第2筐体224には、制御電源260と制御回路140が収容される。上空間22kには、整流器250、充電電源200および高周波電源300が収容される。
【0024】
第2筐体224は、金属製の箱状のケーシングである。第2筐体224は、空間24mの側面を区画する角筒状の側板部24aと、側板部24aの底部を塞ぐ平板状の底板部24bとを有する。側板部24aは、側板部22aから絶縁部材24pを介して内側に所定の距離離れて浮いた状態で支持される。底板部24bは、底板部22bから絶縁部材24pを介して上側に所定の距離離れて浮いた状態で支持される。この構成により、第2筐体224は、第1筐体222と電気的に絶縁される。
【0025】
絶縁部材24pによる離隔距離が小さいと、これらの間の制電容量を介してコモンモード電流icomが制御回路140に漏れる可能性がある。このため、この離隔距離は、制御回路140に漏れるコモンモード電流icomが所望レベル以下になるように設定される。絶縁部材24pによる離隔距離は5mm以上で所望の性能が得られることが示唆されている。本実施形態では、絶縁部材24pによる離隔距離は、一例として20mm~30mmに設定されている。
【0026】
この構成により、本実施形態の電源装置20では、制御回路140のベース電位側ラインと第1筐体222との間のインピーダンスが高くなるので、高周波電源300および光源装置10の高周波駆動で発生するコモンモード電流icomが回り込む経路を限定できる。この結果、コモンモード電流icomによる制御回路140への影響を低減できる。また、第2筐体224は、信号線12を通して光源装置の筐体122のFGと電気的に接地されていてもよい。第1筐体222と第2筐体224で絶縁されていれば、アース線22、信号線12を通して第1筐体222、第2筐体224、筐体122を通るループが形成されないため、コモンモード電流icomが制御回路140に回り込む量を低減できる。
【0027】
次ぎに、図3図4を参照して、レーザ加工システム100の動作を説明する。図3は、レーザ加工システム100の動作説明用のブロック図である。図4は、レーザ加工システム100の動作波形図である。
【0028】
図3を参照して、レーザ加工機90を説明する。レーザ加工機90は、対象物902にレーザパルスビーム904を照射し、対象物902を加工する。対象物902の種類は特に限定されず、また加工の種類も、穴空け(ドリル)、切断などが例示されるが、その限りではない。
【0029】
レーザ加工機90は、光学系910、加工機制御装置920、ステージ930を備える。対象物902はステージ930上に載置され、必要に応じて固定される。
【0030】
加工機制御装置920は、レーザ加工システム100を統括的に制御する。具体的には加工機制御装置920は、電源装置20に対してタイミング信号S1およびレーザパルスビームの強度を指定する強度指令S2を出力する。また加工機制御装置920は、加工処理を記述するデータ(レシピ)にしたがってステージ930を制御するための位置制御信号S3を生成する。
【0031】
ステージ930は、加工機制御装置920からの位置制御信号S3に応じて、対象物902を位置決めし、対象物902とレーザパルスビーム904の照射位置を相対的にスキャンする。ステージ930は、1軸、2軸(XY)あるいは3軸(XYZ)であり得る。
【0032】
高周波電源300およびレーザ発振器110は、加工機制御装置920のタイミング信号S1をトリガとして発振し、パルスレーザLpを発生する。タイミング信号S1は、ハイ、ロー2値をとるパルス信号であり、例えばハイの区間が発光区間に、ローの区間が停止区間となる。パルスレーザLpの発光区間中の強度は、強度指令S2に基づいて設定される。光学系910は、パルスレーザLpに基づくレーザパルスビーム904を対象物902に照射する。光学系910の構成は特に限定されず、ビームを対象物902に導くためのミラー群、ビーム整形のためのレンズやアパーチャなどを含みうる。
【0033】
図3を参照して、光源装置10を説明する。光源装置10は、レーザ発振器110と、光検出器180とを備える。レーザ発振器110は、一対の放電電極、レーザ共振器を形成する一対のミラーなどを備える。
【0034】
光検出器180には、レーザ発振器110から出力されるパルスレーザLpの一部がビームスプリッタなどによって分岐入力される。光検出器180は、パルスレーザLpの強度を検出し、第1検出信号Vs1を制御回路140に供給する。光検出器180は、個々のパルスの強度を検出できる程度の高速応答性を有することが重要で、したがって熱型検出素子ではなく、量子型検出素子を用いることが好ましい。光検出器180が出力する第1検出信号Vs1は、パルスレーザLpの波形に応じたパルス状の信号となる。
【0035】
図3を参照して、電源装置20を説明する。電源装置20は、高周波電圧Vrを生成し、レーザ発振器110の一対の放電電極に印加する。高周波電圧Vrの周波数(同期周波数という)は、レーザ発振器110の一対の放電電極の静電容量と、それに付随するインダクタの共振周波数に応じて規定される。
【0036】
図3を参照して、充電電源200を説明する。充電電源200は、整流電圧Vpを受け、それをもとに直流電圧Vdを生成する。例えば、充電電源200には、制御回路140から、直流電圧Vdの目標レベルを指示する電圧指令S5が入力される。電圧指令S5は、直流電圧Vdの目標値を示すアナログの基準電圧Veであってもよいし、基準電圧Veを示すデジタル値であってもよい。充電電源200は、直流電圧Vdの電圧レベルを基準電圧Veに安定化する。
【0037】
図3を参照して、高周波電源300を説明する。高周波電源300は、直流電圧Vdを受け、それを交流の高周波電圧Vrに変換する。高周波電源300は、直流電圧Vdを交流電圧に変換するインバータと、インバータの出力を昇圧するトランスを含んでもよい。高周波電圧Vrの振幅は直流電圧Vdに比例するから、パルスレーザLpの実効強度は電圧指令S5(基準電圧Ve)に基づいて制御可能である。
【0038】
図3を参照して、制御回路140を説明する。制御回路140には、加工機制御装置920から、タイミング信号S1および強度指令S2が入力される。制御回路140は、タイミング信号S1がハイの間、電源装置20のインバータに、同期周波数の励振信号S4を供給する。これにより電源装置20からレーザ発振器110に、バースト状の高周波電圧Vrが供給され、レーザ発振器110は、タイミング信号S1に応じて、発振と停止を交互に繰り返す。典型的には、タイミング信号S1の繰り返し周波数は1kHz~10kHz程度であり、パルス幅(つまりレーザの励振時間)は数十μsのオーダーである。
【0039】
制御回路140は、強度指令S2に応じて、基準電圧Veを生成する。これにより高周波電圧Vrの振幅、ひいてはパルスレーザLpの強度が、強度指令S2に応じて制御される。
【0040】
次ぎに、光源装置10の基本的な動作を説明する。図4は、光源装置10の動作波形図である。図4には上から順に、タイミング信号S1、励振信号S4、高周波電圧Vr、レーザ発振器110の放電電極に流れる放電電流ID、パルスレーザLpの強度が示される。なお本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0041】
時刻t0にタイミング信号S1がハイとなると、同期周波数を有する励振信号S4が生成される。励振信号S4に応じて高周波電源300がスイッチングすることにより、高周波電圧Vrがレーザ発振器110に供給される。レーザ発振器110の放電電極に高周波電圧Vrが印加されると放電が生じ、放電電流Idが流れはじめる。励振信号S4は、タイミング信号S1がハイとなるオン時間(励振時間)Tonの間、持続する。
【0042】
放電開始後、ある遅延時間の経過後の時刻t1において、パルスレーザLpの強度が増加する。レーザパルスの波形は、レーザ発振器の特性に依存する。この例では、立ち上がりの直後において大きなピークが現れ、その後、平坦な部分が継続する。
【0043】
時刻t2にタイミング信号S1がローとなると、励振信号S4が停止し、高周波電圧Vrも停止する。そうすると放電が徐々に弱まり、やがて消滅する。パルスレーザLpの強度も時刻t2以降、減衰していく。光源装置10は、この動作を繰り返すことにより、パルスレーザLpを生成する。
【0044】
図3に戻り、制御回路140の基本的な動作を説明する。制御回路140は、光検出器180から供給される第1検出信号Vs1を受信する。制御回路140は、第1検出信号Vs1に基づいて、パルスレーザLpの強度(およびエネルギー)を安定化し、温度やガスの劣化などの影響を低減する。制御回路140は、パルス状の第1検出信号Vs1を平滑化する平滑化回路142を含み、平滑化された第2検出信号Vs2に基づいて、電源装置20の状態(動作パラメータ)を調節する。平滑化回路142は、アナログあるいはデジタルのローパスフィルタで構成することができる。ローパスフィルタの時定数(すなわちカットオフ周波数)は、想定されるタイミング信号S1の繰り返し周波数に基づいて定めればよく、例えば、ローパスフィルタの時定数は、1~20ms程度に設定される。例えば、タイミング信号S1の周波数が、1kHz~10kHzである場合に、ローパスフィルタの時定数を5msとした場合、時定数は、タイミング信号S1の周期の5~50倍となる。平滑化回路142が生成する第2検出信号Vs2は、第1検出信号Vs1の連続するいくつかのパルスの実効強度の平均を表すものと把握できる。
【0045】
制御回路140は、第2検出信号Vs2に基づいて得られるレーザの実効強度の検出値が、その目標値と一致するように、フィードバック制御によって電源装置20の動作パラメータを補正する補正部144を含む。実効強度の目標値は、強度指令S2に応じて生成される。本実施の形態では、補正対象の動作パラメータは、高周波電圧Vrの振幅であり、すなわち制御回路140は、直流電圧Vdを補正する。
【0046】
レーザ発振器110の発光期間の直前、直流電圧Vdは目標電圧Veに安定化される。タイミング信号S1に応じて、レーザ発振器110が発振し、パルスレーザLpの強度を示す第1検出信号Vs1が生成される。
【0047】
第1検出信号Vs1は平滑化回路142において平滑化され、第2検出信号Vs2が生成される。この例では、第2検出信号Vs2は、サイクル毎に発光直後にA/Dコンバータによりデジタル値に変換される。このデジタル値とその目標値との誤差に基づいて補正量が生成される。
【0048】
図3を参照して、充電電源200を説明する。充電電源200は、バンクコンデンサ202と、充電回路210と、充電コントローラ230とを備える。充電電源200と高周波電源300の間は、DCリンク204で接続される。DCリンク204には、バンクコンデンサ202が接続される。
【0049】
レーザのショットの終了後、バンクコンデンサ202は放電され、直流電圧Vdは低下する。充電回路210は、次のショットまでに、バンクコンデンサ202に充電電流Icを供給し、直流電圧Vdを回復させる。充電コントローラ230は、DCリンク204の直流電圧Vdが、電圧指令S5に応じた目標電圧Veに近づくように、充電回路210による充電動作を制御する。例えば、充電コントローラ230は、電圧指令S5に基づいて、充電回路210の充電時間および充電回数の少なくとも一方を制御してもよい。
【0050】
充電回路210はスイッチングコンバータ(例えば、降圧DC/DCコンバータ)で構成することができる。充電コントローラ230は、先行するメイン充電と、それに続くサブ充電によって、バンクコンデンサ202を充電してもよい。
【0051】
メイン充電では、電圧指令S5に応じたパルス幅を有するワンショットパルスを生成し、充電回路210を1回、スイッチングし、粗い精度で充電を行う。これにより、バンクコンデンサ202に、大きな充電電流が供給され、直流電圧Vdがおおよそ基準電圧Veに近い電圧レベルまで回復する。続いてサブ充電に移行し、直流電圧Vdが基準電圧Veと一致するように、DC/DCコンバータを数回、スイッチングさせる。
【0052】
高周波電源300は、昇圧トランス302およびインバータ310を備える。昇圧トランス302の2次巻線W2は、レーザ発振器110の放電電極と接続される。インバータ310は、例えば、フルブリッジ回路などを含む。インバータ310の電源端子には、直流電圧Vdが供給される。インバータ310は励振信号S4に応じてスイッチング動作し、昇圧トランス302の1次巻線W1に交流電圧Vaを印加し、2次巻線W2に高周波電圧Vrを発生させる。なおインバータ310や昇圧トランス302の構成は特に限定されない。
【0053】
以上が、レーザ加工システム100の動作の説明である。
【0054】
以上のように構成された本実施形態の電源装置20の特徴を説明する。電源装置20は、レーザ発振器110にバースト状の高周波電圧Vrを供給する高周波電源300を有する電源装置であって、高周波電源300を制御する制御回路140と、制御回路140に電力を供給する制御電源260と、制御回路140および制御電源260を収容する金属製の第2筐体224と、第2筐体224および高周波電源300を収容する金属製の第1筐体222と、を備える。第2筐体224は、第1筐体222に対して絶縁され、且つ、第1筐体222から離隔されている。
【0055】
この構成によれば、制御回路140を収容する金属製の第2筐体224を第1筐体222から浮かすことで、コモンモード電流icomが筐体のFGを通じて制御回路140に流れる経路の一部を遮断できる。この結果、コモンモード電流icomによる、制御回路140の故障や誤動作を減らすことができる。
【0056】
本実施形態では、第2筐体224は、絶縁部材を介して第1筐体222から所定の距離離れた状態で支持されているため、第2筐体224を第1筐体222から電気的に絶縁できる。
【0057】
本実施形態では、第2筐体224は、信号線12を通じてレーザ発振器110を含む光源装置10の筐体122と電気的に接続されているため、第1筐体222と第2筐体224で絶縁されていれば、アース線22、信号線12を通して第1筐体222、第2筐体224、筐体122を通るループが形成されない。この結果、コモンモード電流icomが制御回路140に回り込む量を低減できる。
【0058】
本実施形態では、第2筐体224は、制御回路140および制御電源260を収容する空間の側面を区画する側板部24aと、側板部24aの底部を塞ぐ底板部24bと、を有するため、コモンモード電流icomによる制御回路140および制御電源260の誤動作や故障を減らすことができる。
【0059】
本実施形態では、制御回路140は、レーザ発振器110から出力されるレーザの強度を検出する光検出器180の検出信号を受信するため、検出信号を平滑化した信号に基づいて、電源装置20の動作パラメータを調節できる。
【0060】
[第2実施形態]
次ぎに、本発明の第2実施形態に係る電源装置20の概要を説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。図5は、本実施形態の電源装置20を備えたレーザ加工システム100を示すブロック図であり、図1に対応する。
【0061】
本実施形態は、制御電源260から制御回路140に電力を供給する経路に、高周波信号の伝達を低減するための高周波低減手段270が設けられる点で相違し、他の構成は同様である。重複する説明を省き、高周波低減手段270を説明する。高周波低減手段270は、制御電源260と制御回路140との間の経路で相互に高周波信号の伝達を低減できるものであれば何でもよい。図5の例では、高周波低減手段270は、コモンモードチョークである。コモンモードチョークは、非コモンモード電流に対して低インピーダンスで、コモンモード電流に対して高インピーダンスとなる素子である。コモンモードチョークは、制御電源260と制御回路140との間のコモンモード電流の相互伝達を低減できる。
【0062】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用と効果を奏しうる。加えて本実施形態によれば、制御電源260から制御回路140に電力を供給する経路に、高周波信号の伝達を低減するための高周波低減手段270が設けられているため、コモンモード電流icomが回り込む可能性がある制御電源260と制御回路140との間の経路の高周波インピーダンスを高くし、この経路から制御回路140へ回り込むコモンモード電流icomを低減することができる。この結果、コモンモード電流icomによる、制御回路140の故障や誤動作を一層減らすことができる。また、本実施形態では、高周波低減手段270は、コモンモードチョークを含むため、コモンモード電流icomの回り込み量を一層低減することができる。
【0063】
また、第2筐体224は、信号線12を通じて光源装置の筐体122のFGと電気的に接続されていてもよい。第1筐体222と第2筐体224で絶縁されていれば、アース線22、信号線12を通じて第1筐体222、第2筐体224、筐体122を通るループが形成されないため、コモンモード電流icomが制御回路に回り込む量が低減される。さらに高周波低減手段264があれば、回り込み量を一層低減することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0065】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0066】
実施形態では、第1筐体222が、下空間22jと上空間22kとを隔てる隔壁部22eとを有する例を説明したが、これに限定されない。例えば、第1筐体222は、隔壁部22eを有しなくてもよい。
【0067】
実施形態では、第2筐体224の天井側が開放される例を説明したが、これに限定されない。例えば、第2筐体224の天井側に蓋が設けられてもよい。
【0068】
実施形態では、第2筐体224が箱状である例を説明したが、これに限定されない。例えば、第2筐体224は板状であってもよい。
【0069】
実施形態では、制御回路140が、加工機制御装置920からタイミング信号S1と強度指令S2を受ける例を説明したが、これに限定されない。制御回路140が、加工機制御装置920から信号を受けることは必須ではない。
【0070】
実施形態では、制御電源260が絶縁トランスを備えない例を説明したが、制御電源260は絶縁トランスを備えてもよい。
【0071】
上述した各実施形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0072】
10 光源装置、 20 電源装置、 24a 側板部、 24b 底板部、 24m 空間、 90 レーザ加工機、 110 レーザ発振器、 140 制御回路、 200 充電電源、 222 第1筐体、 224 第2筐体、 260 制御電源、 270 高周波低減手段、 300 高周波電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7