(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】原子炉監視方法および原子炉監視装置
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20240403BHJP
G21D 3/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G21C17/00 210
G21C17/00 240
G21D3/00 A
(21)【出願番号】P 2021043205
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】光安 岳
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-333433(JP,A)
【文献】特開昭55-065195(JP,A)
【文献】特開平07-134196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0080585(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 7/00- 7/36
G21C 17/00-17/14
G21D 1/00- 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心内
に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、前記第1線出力密度の補正によって得られた、前記燃料棒の第2線出力密度が、前記炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定
し、
前記第2線出力密度の上昇速度を求め、前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定し、
前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限を超えており、前記上昇速度が前記設定上昇速度を超えているとき、前記上昇速度が前記設定上昇速度以下の第1上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を低減させることを特徴とする原子炉監視方法。
【請求項2】
炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、前記第1線出力密度の補正によって得られた、前記燃料棒の第2線出力密度が、前記炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定し、
前記第2線出力密度の上昇速度を求め、前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定し、
前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限を超えており、前記上昇速度が前記設定上昇速度以下であるとき、前記上昇速度を維持したまま原子炉出力を上昇させる
ことを特徴とする原子炉監視方法。
【請求項3】
炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、前記第1線出力密度の補正によって得られた、前記燃料棒の第2線出力密度が、前記炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定し、
前記第2線出力密度の上昇速度を求め、前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定し、
前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限を超えており、前記上昇速度が前記設定上昇速度よりも小さいとき、前記上昇速度が前記設定上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を増加させる
ことを特徴とする原子炉監視方法。
【請求項4】
炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、前記第1線出力密度の補正によって得られた、前記燃料棒の第2線出力密度が、前記炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定し、
前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限を超えたとき、前記第2線出力密度の上昇速度を求め、前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定
し、
前記上昇速度が前記設定上昇速度を超えているとき、前記上昇速度が前記設定上昇速度以下の第1上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を低減させることを特徴とする原子炉監視方法。
【請求項5】
炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、前記第1線出力密度の補正によって得られた、前記燃料棒の第2線出力密度が、前記炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定し、
前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限を超えたとき、前記第2線出力密度の上昇速度を求め、前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定し、
前記上昇速度が前記設定上昇速度以下であるとき、前記上昇速度を維持したまま原子炉出力
を上昇させる
ことを特徴とする原子炉監視方法。
【請求項6】
炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、前記第1線出力密度の補正によって得られた、前記燃料棒の第2線出力密度が、前記炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定し、
前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限を超えたとき、前記第2線出力密度の上昇速度を求め、前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定し、
前記上昇速度が前記設定上昇速度よりも小さいとき、前記上昇速度が前記設定上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を増加させる
ことを特徴とする原子炉監視方法。
【請求項7】
前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限以下になっている範囲では、前記第2線出力密度の上昇速度が、前記設定上昇速度以下の第1上昇速度よりも大きな第2上昇速度である請求項
1または
4に記載の原子炉監視方法。
【請求項8】
炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、前記第1線出力密度の補正によって得られた、前記燃料棒の第2線出力密度が、前記炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定し、
前記第2線出力密度の上昇速度を求め、前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限に達したときにおける、前記第2線出力密度の上昇速度が設定上昇速度を超えているとき、原子炉出力の上昇を停止させ、前記設定上昇速度を超えている前記第2線出力密度の上昇速度が、前記設定上昇速度以下になるように、
前記原子炉出力の上昇率を低減させて
前記原子炉出力を上昇させる
ことを特徴とする原子炉監視方法。
【請求項9】
炉心内
に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、第1線出力密度の補正によってその燃料棒の第2線出力密度を求める線出力密度補正装置と、第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られる燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定する第1判定装置と
、前記第2線出力密度の上昇速度を求める上昇速度算出装置、および前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定する第2判定装置と、を備えていることを特徴とする原子炉監視装置。
【請求項10】
炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、第1線出力密度の補正によってその燃料棒の第2線出力密度を求める線出力密度補正装置と、第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られる燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定する第1判定装置と、
前記第1判定装置が、前記第2線出力密度が線出力密度の制限範囲の上限に達していると判定するとき、前記第2線出力密度の上昇速度を求める上昇速度算出装置、および前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定する第2判定装置
と、を備え
ていることを特徴とする原子炉監視装置。
【請求項11】
前記上昇速度が前記設定上昇速度以下になっているとの判定情報が前記第2判定装置から入力されるとき、前記上昇速度を維持して原子炉出力を上昇させる原子炉出力制御装置を備えた請求項
10に記載の原子炉監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉監視方法および原子炉監視装置に係り、特に、沸騰水型原子炉に適用可能な原子炉監視方法および原子炉監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉内の炉心に装荷される燃料集合体に含まれる燃料棒は、通常の運転時、および故障や誤操作による異常時にも、健全性が維持されなければならない。そこで、燃料棒を破損させず安全に運転するための運転制限範囲が決められており、この運転制限範囲を逸脱しないように炉心流量および制御棒操作によって原子炉出力を制御している。運転制限範囲は、発熱により燃料棒の破損が発生しない上限値である熱的制限値によって決められる。熱的制限値には、最小限界出力比(MCPR)および最大線出力密度(LHGR)がある。MCPRは、燃料棒破損の原因となる冷却水の沸騰遷移を発生させる燃料集合体の出力(限界出力)と実際の燃料集合体の出力との比である限界出力比(CPR)の最小値を示す。LHGRは、燃料棒の単位長さ当たりの発生出力(LHGR)の炉心内における最大値であり、燃料集合体自らの発熱によって燃料被覆管が歪まないか否かを把握するために用いる。原子力プラントの運転にあたっては、これらの熱的制限値を超えないようにしなければならない。
【0003】
改良型BWR(ABWR)プラントにおいては、複数の制御棒を同時に駆動するなど複雑な制御棒操作が要求される。具体的には、制御棒引抜き操作時に、引抜き対象の制御棒周りの出力が局所的に短時間で大きくなることを防止するために、ロッドブロックモニタが機能する。ロッドブロックモニタでは引抜きによる原子炉出力の上昇に対して制限レベルが3段階で設定されている。従来のBWRプラントでは、原子炉出力がその制限レベルに到達する度に、運転員が、炉内状況を確認し、セットアップと呼ばれる制限レベルの引き上げ操作を行う必要がある。このように、制御棒操作が煩雑となるため、ABWRプラントでは制御棒操作および炉心流量制御を自動化して自動出力調整運転を可能にし、運転員の手動でのセットアップ操作を不要としている。ただし、この自動出力調整運転は、上記の熱的制限値が安全な範囲にあることが前提となっている。このため、自動出力調整運転時には、熱的制限値を常に監視しなくてはならない。
【0004】
そこで、炉心を複数の領域に分割し、分割されたそれらの領域ごとに、限界出力比(CPR)および線出力密度(LHGR)をオンラインで監視する熱的制限値監視装置が設けられている。熱的制限値監視装置は、熱的制限値が許容範囲内であるとき、ロッドブロックモニタに対してセットアップを許可するセットアップ信号を出力し続ける。熱的制限値が許容範囲を逸脱したときには、その熱的制限値監視装置は、ロッドブロックモニタへのセットアップ信号の出力を停止し、制御棒制御手段に自動出力調整運転の解除信号を出力する。
【0005】
熱的制限値監視装置の一例が特開平5-134080号公報に記載されている。この特開平5-134080号公報の熱的制限値監視装置では、プロセスコンピュータの炉心性能計算とリンクさせて、熱的制限値に対する運転余裕度が小さい時には、熱的制限値の監視演算を短周期で行い、運転余裕度が大きい時には、監視演算を長周期で行うようにしている。熱的制限値監視装置の演算内容を以下に説明する。熱的制限値監視装置では、炉心内の複数の位置に配置された局所領域中性子モニタ(LPRM)検出器の出力信号と、炉心流量、全ての制御棒の位置、および炉心性能計算装置(プロセスコンピュータ)によって求められた炉心性能計算結果を入力し、入力したこれらのデータを用いて、熱的制限値を概算し、求められた熱的制限値が設定値を超えたか否かを判定する。具体的には、炉心性能計算装置の炉心性能計算結果から精度良く算出された熱的制限値を初期値として入力し、それぞれの領域ごとに領域内に設置されているLPRM検出器出力の平均値を求め、炉心性能計算装置の炉心性能計算時のLPRM検出器の出力値との比をとり、これに炉心流量、制御棒位置の要素からなる係数を掛け合わせCPR、およびLHGRを求め、これが初期値によって定められた設定値を超えた時に熱的制限値を超えたと判定する。すなわち、それぞれの領域ごとに炉心性能計算時のCPRとLHGRに対して、最新時刻のCPRとLHGRの時間的な変化量をLPRM検出器の出力変化から算出し、この変化量をもとに熱的制限値を超えたか否かを判断している。
【0006】
熱的制限値の監視は、通常運転時だけでなく、原子炉起動時にも実施される。特開昭58-201093号公報には、原子炉起動時に必要となる、ならし運転法(PCIOMR)による原子炉出力上昇時において燃料棒の健全性を確保するために、時々刻々の線出力密度データを記録することで、線出力密度の変化率を評価し、ならし運転の出力上昇率を監視する技術が開示されている。このように、原子炉出力が変化する場合には、燃料棒の健全性を確保するために、線出力密度の変化率も監視することが望ましい。
【0007】
特開2003-161796号公報に記載された燃料棒熱的特性評価方法では、炉心内に装荷された燃料集合体の各単位ノードに対して計算した燃料集合体単位ノード出力分布に、燃料集合体の核燃料棒ごとのピーキング係数(単位ノードごとの燃焼度とボイド係数を関数として与えられる)を掛けることにより、全部または特定の燃料棒に対する、単位ノードの熱的特性を計算している。この求められた単位ノードの熱的特性と、燃料棒毎の単位ノード燃焼度との関係で定められた制限値との比較により、燃料棒の熱的健全性を評価している。
【0008】
原子炉に用いられる最新の燃料棒では、燃料の高性能化、およびこれまでの燃料破損事例から、線出力密度の上昇率に制限をかけることで、燃料棒の健全性を向上させることが期待されている。制限値は燃料棒毎の燃焼度により異なるため、燃料棒毎に監視する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平5-134080号公報
【文献】特開昭58-201093号公報
【文献】特開2003-161796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、最新の燃料棒では、原子炉起動時だけでなく、原子炉運転時においても線出力密度の上昇率を監視することが望ましいが、燃料棒毎の燃焼度によって制限値が異なる。炉心性能計算装置(プロセスコンピュータ)による炉心性能計算では、燃料棒毎の燃焼度および線出力密度を算出しているが、制御棒操作および炉心流量の調節などによる短時間応答には計算時間が間に合わないため、熱的制限値監視装置側で判断する必要がある。
【0011】
また、炉心に装荷された燃料集合体の燃料棒における線出力密度上昇速度の制限は、ある程度の高線出力密度領域での制限であり、低線出力密度領域では自由な出力上昇が可能である。
【0012】
本発明の目的は、線出力密度がその制限範囲の上限に達したかの判定精度を向上させることができる原子炉監視方法および原子炉監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成する本発明の原子炉監視方法における特徴は、炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、前記第1線出力密度の補正によって得られた、前記燃料棒の第2線出力密度が、前記炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定し、
前記第2線出力密度の上昇速度を求め、前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定し、
前記第2線出力密度が前記制限範囲の上限を超えており、前記上昇速度が前記設定上昇速度を超えているとき、前記上昇速度が前記設定上昇速度以下の第1上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を低減させることにある。
【0014】
補正された、その燃料棒の第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定するため、第2線出力密度が、燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかの判定精度を向上させることができる。
【0015】
上記の目的を達成する本発明の原子炉監視装置における特徴は、炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、第1線出力密度の補正によってその燃料棒の第2線出力密度を求める線出力密度補正装置と、第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られる燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定する第1判定装置と、前記第2線出力密度の上昇速度を求める上昇速度算出装置、および前記上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定する第2判定装置と、を備えていることにある。
【0016】
(A1)炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、その第1線出力密度の補正によって得られた、その燃料棒の第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定する原子炉監視方法であって、
第2線出力密度の上昇速度を求め、その上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定するその原子炉監視方法における、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0017】
なお、上記の(A1)の構成のうち、「炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、その第1線出力密度の補正によって得られた、その燃料棒の第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定する原子炉監視方法であって」の記載は、請求項1に記載された構成に対応する。また、上記の(A1)の構成のうち、「第2線出力密度の上昇速度を求め、その上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定するその原子炉監視方法」の記載は、請求項1に記載された構成に対応する。
【0018】
(A2)好ましくは、上記の(A1)において、その燃料棒の第2線出力密度がその線出力密度の制限範囲の上限に達していると判定されたときに、自動停止信号が原子炉出力制御装置に入力され、その自動停止信号を入力した原子炉出力制御装置によって、原子炉出力の自動制御が停止され、第2線出力密度が、燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかの判定における第1判定情報、および第2線出力密度の上昇速度を求め、その上昇速度が設定上昇速度以下になっているかの判定における第2判定情報に応じて、操作盤から出力される制御指令によって、(a)第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が設定上昇速度を超えているときにおける、その上昇速度がその設定上昇速度以下の第1上昇速度となる、原子炉出力の上昇率の低減、(b)その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が前記設定上昇速度以下であるときにおける、その上昇速度を維持したままの原子炉出力の上昇、および(c)その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度がその設定上昇速度よりも小さいときにおける、その上昇速度がその設定上昇速度になる、原子炉出力の上昇率の増加を停止する、のうちの1つの制御が実施されることが望ましい。
【0019】
(B1)炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、その第1線出力密度の補正によって得られた、その燃料棒の第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定する原子炉監視方法であって、
その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えたとき、第2線出力密度の上昇速度を求め、その上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定するその原子炉監視方法において、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0020】
なお、上記の(B1)の構成のうち、「炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、その第1線出力密度の補正によって得られた、その燃料棒の第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定する原子炉監視方法であって」の記載は、請求項1に記載された構成に対応する。また、上記の(B1)の構成のうち、「その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えたとき、第2線出力密度の上昇速度を求め、その上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定するその原子炉監視方法」の記載は、請求項4に記載された構成に対応する。
【0021】
(B2)好ましくは、上記の(B1)において、その上昇速度が設定上昇速度を超えていると判定されたときに、自動停止信号が原子炉出力制御装置に入力され、その自動停止信号を入力した原子炉出力制御装置によって、原子炉出力の自動制御が停止され、第2線出力密度が、燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかの判定における第1判定情報、および第2線出力密度の上昇速度を求め、その上昇速度が設定上昇速度以下になっているかの判定における第2判定情報に応じて、操作盤から出力される制御指令によって、(a)第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が設定上昇速度を超えているときにおける、その上昇速度がその設定上昇速度以下の第1上昇速度となる、原子炉出力の上昇率の低減の制御が実施されることが望ましい。
【0022】
(C1)炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、第1線出力密度の補正によってその燃料棒の第2線出力密度を求める線出力密度補正装置と、第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られる燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定する第1判定装置とを備えた原子炉監視装置であって、
その第2線出力密度の上昇速度を求める上昇速度算出装置、およびその上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定する第2判定装置を備えた原子炉監視装置における、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0023】
なお、上記の(C1)の構成のうち、「炉心内配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、第1線出力密度の補正によってその燃料棒の第2線出力密度を求める線出力密度補正装置と、第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られる燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定する第1判定装置とを備えた原子炉監視装置であって」の記載は、請求項9に記載された構成に対応する。また、上記の(C1)の構成のうち、「その第2線出力密度の上昇速度を求める上昇速度算出装置、およびその上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定する第2判定装置を備えた原子炉監視装置」の記載は、請求項9に記載された構成に対応する。
【0024】
(C2)好ましくは、上記の(C1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が設定上昇速度を超えているとき、その上昇速度がその設定上昇速度以下の第1上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を低減させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0025】
(C3)好ましくは、上記の(C1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度がその設定上昇速度以下であるとき、その上昇速度を維持して原子炉出力を上昇させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0026】
(C4)好ましくは、上記の(C1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度がその設定上昇速度よりも小さいとき、その上昇速度がその設定上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を増加させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0027】
(C5)好ましくは、上記の(C1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限以下になっている範囲では、その第2線出力密度の上昇速度が、その設定上昇速度以下の第1上昇速度よりも大きな第2上昇速度になるように、原子炉出力を上昇させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0028】
(C6)好ましくは、上記の(C1)において、その第1判定装置によってその上昇速度が設定上昇速度以下になっているかが判定されるときにその第1判定装置から出力される自動停止信号を入力し、この自動停止信号に基づいて原子炉出力の自動制御を停止させる原子炉出力制御装置であって、自動制御が停止された状態において、第2線出力密度が、燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかの判定を行うその第1判定装置から出力される第1判定情報、およびその上昇速度算出装置から出力されるその上昇速度が、設定上昇速度以下になっているかの判定を行う第2判定装置から出力される第2判定情報に応じて、操作盤から出力される制御指令によって、(a)第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が設定上昇速度を超えているときにおける、その上昇速度がその設定上昇速度以下の第1上昇速度となる、原子炉出力の上昇率の低減、(b)その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度がその設定上昇速度以下であるときにおける、その上昇速度を維持したままの原子炉出力の上昇、および(c)その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度がその設定上昇速度よりも小さいときにおける、その上昇速度がその設定上昇速度になる、原子炉出力の上昇率の増加を停止する、のうちの1つの制御を実施するその原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0029】
(D1)炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、第1線出力密度の補正によってその燃料棒の第2線出力密度を求める線出力密度補正装置と、第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られる燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定する第1判定装置とを備えた原子炉監視装置であって、
その第1判定装置がその第2線出力密度が線出力密度の制限範囲の上限に達していると判定するとき、その第2線出力密度の上昇速度を求める上昇速度算出装置、およびその上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定する第2判定装置を備えた原子炉監視装置における、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0030】
なお、上記の(D1)の構成のうち、「炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、第1線出力密度の補正によってその燃料棒の第2線出力密度を求める線出力密度補正装置と、第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られる燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定する第1判定装置とを備えた原子炉監視装置であって」の記載は、請求項9に記載された構成に対応する。また、上記の(D1)の構成のうち、「その第1判定装置が、その第2線出力密度が線出力密度の制限範囲の上限に達していると判定するとき、その第2線出力密度の上昇速度を求める上昇速度算出装置、およびその上昇速度が設定上昇速度以下になっているかを判定する第2判定装置を備えた原子炉監視装置」の記載は、請求項10に記載された構成に対応する。
【0031】
(D2)好ましくは、上記の(D1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が設定上昇速度を超えているとき、その上昇速度がその設定上昇速度以下の第1上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を低減させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0032】
(D3)好ましくは、上記の(D1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度がその設定上昇速度以下であるとき、その上昇速度を維持して原子炉出力を上昇させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0033】
(D4)好ましくは、上記の(D1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が前記設定上昇速度よりも小さいとき、その上昇速度がその設定上昇速度になるように、原子炉出力の上昇率を増加させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0034】
(D5)好ましくは、上記の(D1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限以下になっている範囲では、その第2線出力密度の上昇速度が、その設定上昇速度以下の第1上昇速度よりも大きな第2上昇速度になるように、原子炉出力を上昇させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0035】
(D6)好ましくは、上記の(D1)において、その第2判定装置によってその上昇速度が設定上昇速度以下になっているかが判定されるときにその第2判定装置から出力される自動停止信号を入力し、この自動停止信号に基づいて原子炉出力の自動制御を停止させる原子炉出力制御装置であって、自動制御が停止された状態において、第2線出力密度が、燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかの判定における第1判定情報、および上昇速度算出装置から出力されるその上昇速度が、設定上昇速度以下になっているかの判定を行う第2判定装置から出力される第2判定情報に応じて、操作盤から出力される制御指令によって、(a)第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が設定上昇速度を超えているときにおける、その上昇速度がその設定上昇速度以下の第1上昇速度となる、原子炉出力の上昇率の低減、(b)その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度が前記設定上昇速度以下であるときにおける、その上昇速度を維持したままの原子炉出力の上昇、および(c)その第2線出力密度がその制限範囲の上限を超えており、その上昇速度がその設定上昇速度よりも小さいときにおける、その上昇速度がその設定上昇速度になる、原子炉出力の上昇率の増加を停止する、のうちの1つの制御を実施するその原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【0036】
(E1)炉心内に配置された中性子検出器の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって求められた、燃料棒の第1線出力密度を補正し、第1線出力密度の補正によってその燃料棒の第2線出力密度を求める線出力密度補正装置と、第2線出力密度が、その炉心性能計算によって得られる燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかを判定する第1判定装置とを備えた原子炉監視装置における、さらに好ましい構成を以下に説明する。
(E2)好ましくは、上記の(E1)において、その第2線出力密度がその制限範囲の上限に達したときにおける、その第2線出力密度の上昇速度が、設定上昇速度を超えているとき、原子炉出力の上昇を停止させ、その設定上昇速度を超えているその第2線出力密度の上昇速度が、その設定上昇速度以下になるように、原子炉出力の上昇率を低減させて、原子炉出力を上昇させる原子炉出力制御装置を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、補正された線出力密度が、燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達したかの判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の好適な一実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例1の原子炉監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示された実施例1の原子炉監視方法に用いられた、沸騰水型原子炉に適用される原子炉監視装置の構成図である。
【
図4】線出力密度上昇速度制限範囲を示す説明図である。
【
図5】
図2に示された判定装置で判定された、制限範囲に対する判定結果を表示した表示装置の表示画像の一例を示す説明図である。
【
図6】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例2の原子炉監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図6に示された実施例2の原子炉監視方法に用いられた、沸騰水型原子炉に適用される原子炉監視装置の構成図である。
【
図8】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例3の原子炉監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図8に示された実施例3の原子炉監視方法に用いられた、沸騰水型原子炉に適用される原子炉監視装置の構成図である。
【
図10】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例4の原子炉監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図11】
図10に示された実施例4の原子炉監視方法に用いられた、沸騰水型原子炉に適用される原子炉監視装置の構成図である。
【
図12】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例5の原子炉監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図13】
図12に示された実施例5の原子炉監視方法に用いられた、沸騰水型原子炉に適用される原子炉監視装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の各実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0040】
本発明の好適な一実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例1の炉心監視方法を、
図1および
図2を用いて説明する。この炉心監視方法を説明する前に、この炉心監視方法が適用される原子力プラント1の概要について説明する。
【0041】
原子力プラント1は、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)である原子炉2を有する改良型沸騰水型原子力プラント(ABWRプラント)である。原子炉2は、原子炉圧力容器3および複数のインターナルポンプ5を有する。環状のダウンカマ8が、炉心4を取り囲む炉心シュラウド(図示せず)の外面と原子炉圧力容器3の内面との間に形成される。複数のインターナルポンプ5が原子炉圧力容器3の鏡部に取り付けられ、インターナルポンプ5のインペラがダウンカマ8内に配置される。
【0042】
炉心4が原子炉圧力容器3内に配置される。複数の燃料集合体22が、
図3に示すように、炉心4に装荷されている。燃料集合体22相互間に挿入される制御棒6が炉心4に配置される。各制御棒6は複数の制御棒駆動機構7に別々に連結される。炉心4内には、特開平5-134080号公報の
図3に示されるように、炉心4に配置される1体の制御棒6に隣接してその制御棒6を取り囲む4体の燃料集合体22により一つのセルが構成される。炉心4には、このようなセルが複数存在する。そのセルを構成する4体の燃料集合体22のそれぞれは、下端部が一つの燃料支持金具(図示せず)に保持され、上端部が炉心4の上端部に位置する上部格子板(図示せず)に形成された一つの升目内に挿入されて上部格子板によって支持される。
【0043】
図2に示す中性子束検出装置24は、炉内計装管9、および炉内計装管9内に配置された4個の中性子検出器(例えば、核分裂電離箱など)10を有する。複数の中性子束検出装置24が、
図3に示すように、炉心4において燃料集合体相互間に形成される水ギャップ内で上部格子板の真下に配置される。4つのセルが、中性子束検出装置24に隣接して配置され、その中性子束検出装置24を取り囲んでいる。各中性子束検出装置24の炉内計装管9内に配置された4個の中性子検出器(LPRM)10それぞれが、コネクタ11およびケーブル12を介して後述の中性子束監視装置15に接続されている。
【0044】
1つの中性子束検出装置24、例えば、
図3に示された中性子束検出装置24に含まれる4個の中性子検出器10は、実際に配置されている位置だけでなく、或る条件の下で、中性子束検出装置24が配置されていない、炉心4内の位置における中性子束も検出しているとみなされている。これについては、
図3に示された中性子束検出装置24Aを用いて具体的に説明する。
図3に△で示された位置25B,25Cおよび25Dのそれぞれには、中性子束検出装置24が配置されていない。セル相互間の水ギャップに存在する位置25Bは、炉心4の横断面における中心を通るY軸に対して、中性子束検出装置24Aが配置された位置と線対称となる位置であり、また、セル相互間の水ギャップに存在する位置25Dは、炉心4の横断面における中心を通るX軸に対して、中性子束検出装置24Aが配置された位置と線対称となる位置である。セル相互間の水ギャップに存在する位置25Cは、X軸に対して位置25Bと線対称になる位置であって、且つY軸に対して位置25Dと線対称になる位置である。
【0045】
このような条件を満足している位置25B,25Cおよび25Dのそれぞれにおける、炉心4の軸方向における中性子束分布は、中性子束検出装置24Aが配置された位置におけるその軸方向における中性子束分布と実質的に同じである。このため、中性子束検出装置24A内で軸方向に配置された4個の中性子検出器10のそれぞれは、中性子束検出装置24Aが配置された位置における中性子束だけでなく、位置25B,25Cおよび25Dのそれぞれにおける中性子束も測定していることになる。中性子束検出装置24A以外の他の全ての中性子束検出装置24も、中性子束検出装置24Aと同様に、炉心4内において、上記の条件を満足する他の3つの位置での中性子束も測定していると言える。
【0046】
中性子検出器10(特開平5-134080号公報の
図3に示されたLPRM11)を内部の4箇所の位置にそれぞれに配置した炉内計装管9(特開平5-134080号公報の
図3に示されたLPRMストリング12)、すなわち、中性子束検出装置24が、セルのコーナーの一つに対向して、燃料集合体22相互間に形成された水ギャップに配置されている。例えば、この一つの中性子束検出装置24に隣接する4体の燃料集合体のそれぞれを別々に含む各セルが、その中性子束検出装置24の周囲に位置している。その中性子束検出装置24の炉内計装管9内に配置された4個の中性子検出器10が、別々に、それらのセル内に存在する各燃料集合体に対して、燃料有効長を軸方向において等分割してなる4つの領域のそれぞれに位置するように、配置されている。
【0047】
原子力プラント1に設けられた本実施例の原子炉監視装置14は、原子炉出力制御装置13、中性子束監視装置15、線出力密度補正装置16、炉心性能計算装置(プロセスコンピュータ)17、判定装置18(第1判定装置)、記憶装置19および表示装置20を有する。各ケーブル12に接続される中性子束監視装置15が線出力密度補正装置16に接続される。炉心性能計算装置17も線出力密度補正装置16に接続される。線出力密度補正装置16が判定装置18に接続され、判定装置18が原子炉出力制御装置13に接続される。記憶装置19および表示装置20が判定装置18に接続される。
【0048】
原子力プラント1に適用した原子炉監視方法を、
図1に示す手順に基づいて以下に説明する。本実施例の原子炉監視方法では、原子炉監視装置14が用いられ、
図1に示されるステップS1~S5,S10,S11,S13およびS14の各工程が実施される。
【0049】
ステップS1の工程が実施される前に、原子力プラント1が起動される。原子力プラント1が起動されると、原子炉出力制御装置13の自動制御により、炉心4に挿入されている制御棒6を制御棒駆動機構7により引き抜いて、原子炉2が未臨界状態から臨界状態になる。さらに、原子炉出力制御装置13による自動制御により炉心4に挿入されている制御棒6が引き抜かれて昇温昇圧工程が行われ、原子炉圧力容器3内の冷却水の温度が定格温度になり、原子炉圧力容器3の圧力が定格圧力になる。その後、上記の自動制御によって制御棒6がさらに引き抜かれて原子炉出力が0%から定格出力である100%出力まで上昇される。
【0050】
まず、中性子束φ1が求められる(ステップS1)。原子炉出力が約数%に上昇したとき、中性子検出信号が各中性子検出器10から出力される。各中性子検出器10から出力された中性子検出信号は、各ケーブル12を介して中性子束監視装置15に入力される。この中性子検出信号はパルス電流である。中性子束監視装置15は、それぞれの中性子検出器10から出力されたそのパルス電流を中性子検出器10ごとに計数し、中性子検出器10ごとに計数率を求める。中性子束監視装置15は、計数率を相対出力に換算した値である中性子束φ1を中性子検出器10ごとに求める。求められた各中性子束φ1は、中性子検出器10が配置された、炉心4内の半径方向の位置および軸方向の位置での値となる。
【0051】
炉心性能計算により、線出力密度LHGR0,i(第1線出力密度)および燃焼度を求める(ステップS2)。原子炉監視装置14の炉心性能計算装置17は、炉心性能計算によって、例えば、炉心4内の全ての燃料集合体22を対象にし、燃料集合体22内の燃料棒毎に、或る時点での、各単位ノードにおける線出力密度LHGR0,i、および各単位ノードと中性子検出器10の位置における中性子束φ0を算出する。求められた各燃料棒に対するそれらの単位ノード毎の線出力密度LHGR0,i、および各単位ノードの中性子束φ0は、炉心性能計算装置17の記憶装置に記憶される。求められた線出力密度LHGR0,iおよびその中性子束φ0のそれぞれは、炉心性能計算による予測値である。
【0052】
線出力密度LHGR0,iの「i」は、中性子束検出装置24Aの周囲に配置されて中性子束検出装置24に隣接して配置される4体の燃料集合体22のそれぞれに含まれる燃料棒に付された番号(燃料棒番号)である。1体の燃料集合体22に含まれる燃料棒の本数がn本である場合、iは、連続している1,2,3,………,およびnのいずれかの番号である。中性子束検出装置24Aが配置された炉心4内の位置に対して、前述の条件を満足する位置25B,25Cおよび25Dのそれぞれの位置の周囲に配置されてそれぞれの位置に隣接して配置される4体の燃料集合体22内のn本の燃料棒にも、iとして、1,2,3,………,およびnのいずれかの番号が付されている。後述の線出力密度LHGR1,iにおける「i」も、線出力密度LHGR0,iと同様に、該当する燃料集合体22に含まれるn本の燃料棒に付された番号(1,2,3,………,およびnのいずれか)である。さらに、後述の比Riおよび線出力密度制限値LHGRlimit,iのそれぞれの「i」も、LHGR0,iおよびLHGR1,iと同様に、燃料集合体22に含まれるn本の燃料棒に付された番号(1,2,3,………,およびnのいずれか)である。炉心4に装荷された全ての燃料集合体22(それぞれ、n本の燃料棒を含む)に含まれる各燃料棒には、番号i(1,2,3,………,およびnのいずれか)が付されている。例えば、LHGR0,5,LHGR1,5,LHGRlimit,5およびR5のそれぞれは、燃料集合体22に含まれるn本の燃料棒のうちの5番の燃料棒に対する線出力密度LHGR0およびLHGR1,線出力密度制限値LHGRlimitおよび比Rのそれぞれを表している。
【0053】
中性子束φ1を用いて線出力密度LHGR0,iを補正し、線出力密度LHGR1,i(第2線出力密度)を求める(ステップS3)。線出力密度補正装置16は、中性子束監視装置15によって求められた、中性子検出器10の位置における中性子束φ1と炉心性能計算によって求められた中性子検出器10の位置における中性子束φ0に基づいて、当該中性子検出器10がカバーする各単位ノードにおける中性子束の差異の割合φ1/φ0を用い、各単位ノードの中性子束φ1を求める。次に、各単位ノードの中性子束φ1および炉心性能計算装置17による炉心性能計算によって求められた、燃料棒毎の各単位ノードにおける線出力密度LHGR0,iおよび各単位ノードにおける中性子束φ0のそれぞれを入力する。線出力密度補正装置16は、入力した、単位ノード毎の中性子束φ1、および炉心性能計算装置17による炉心性能計算によって求められた、燃料棒毎の各単位ノードに対する線出力密度LHGR0,i(i番の燃料棒の或る単位ノードにおける線出力密度LHGR0)、および各単位ノードにおける中性子束φ0のそれぞれを下記に示す式(1)に代入して、燃料棒毎の、各単位ノードにおける線出力密度LHGR1,i(i番の燃料棒の或る単位ノードにおける線出力密度LHGR1)を求める。
【0054】
【0055】
ただし、Cは、係数であり、事前の炉心解析により求められる。
【0056】
なお、式(1)によって線出力密度LHGR1,iを求めることは、炉心性能計算で求められた線出力密度LHGR0,iを中性子束監視装置15で求めた中性子束φ1によって補正することを意味する。
【0057】
式(1)を用いた、中性子束φ1による線出力密度LHGR0,iの補正について、具体的に説明する。
【0058】
炉心4に配置された1本の中性子束検出装置24(例えば、中性子束検出装置24A)の周囲には、この中性子束検出装置24に隣接して4体の燃料集合体22が存在する。この中性子束検出装置24と関連して、前述の条件を満足する、炉心4内の他の3つの位置のそれぞれの周囲にも、それぞれの位置に隣接して4体の燃料集合体22が存在する。1本の中性子束検出装置24が配置された位置、およびこの中性子束検出装置24と関連して、前述の条件を満足する他の3つの位置のそれぞれに隣接する4体の燃料集合体22、すなわち、合計16体の燃料集合体22のそれぞれにおいて、炉心性能計算により、燃料棒毎に各単位ノードにおける線出力密度LHGR0,iおよびその中性子束φ0が求められる。線出力密度補正装置16は、1本の中性子束検出装置24が配置された位置での中性子束分布における単位ノード毎の中性子束φ1、およびその1本の中性子束検出装置24と関連する16体の燃料集合体22内の燃料棒毎に、各単位ノードにおける線出力密度LHGR0,i、および各単位ノードにおけるその中性子束φ0を式(1)に代入し、16体の燃料集合体22のそれぞれの燃料棒毎に各単位ノードにおける線出力密度LHGR1,iを求める。
【0059】
同様に、その1本の中性子束検出装置24以外の他の全ての中性子束検出装置24のそれぞれについても、上記したように、関連する16体の燃料集合体22のそれぞれの燃料棒毎に各単位ノードにおける線出力密度LHGR1,iが求められる。
【0060】
式(1)により得られた、炉心4内に装荷された全ての燃料集合体22に含まれる燃料棒毎の、各単位ノードにおける線出力密度LHGR1,iが、線出力密度補正装置16から判定装置18に入力される。判定装置18には、炉心性能計算装置17において炉心性能計算にて求められた、燃料棒毎の各単位ノードにおける燃焼度が入力される。
【0061】
記憶装置19は、燃料棒毎の、線出力密度に関する制限範囲データを記憶している。制限範囲データは、燃料集合体22の種類毎、および燃料棒内の核燃料物質の種類毎に記憶装置19に準備されている。なお、燃料集合体22の種類とは9×9燃料集合体および10×10燃料集合体等であり、核燃料物質の種類とはUO
2およびMOX等である。その制限範囲データは燃焼度と線出力密度の関係で表され、この制限範囲データの一例が
図3に示されている。その制限範囲データが記憶装置19から判定装置18に入力される。
【0062】
線出力密度LHGR1,iが、燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に達しているかを判定する(ステップS4)。判定装置18は、燃料棒毎に各単位ノードにおける線出力密度および燃焼度を基に、各単位ノードにおける線出力密度LHGR1,iが燃焼度と線出力密度により規定される線出力密度の制限範囲の上限に到達しているかを判定する。「線出力密度LHGR1,iが線出力密度の制限範囲の上限に到達している」とは、「線出力密度LHGR1,iが線出力密度の制限範囲の上限の値になった」および「線出力密度LHGR1,iが線出力密度の制限範囲の上限を超えている」を含んでいる。線出力密度LHGR1,iが線出力密度の制限範囲の上限を超えている場合には、線出力密度LHGR1,iは、既に、制限範囲の上限を通過している。
【0063】
ステップS4の工程を具体的に説明する。判定装置18において、燃焼度に対応する線出力密度制限値LHGRlimit,iに対する、或る燃料棒の或る単位ノードにおける線出力密度LHGR1,iの比Riが、下記に示す式(2)を用いて求められる。その比Riが1未満であれば、或る燃料棒の或る単位ノードにおける線出力密度LHGR1,iは、判定装置18において線出力密度の制限範囲の上限未満であると判定される。このとき、ステップS4の工程における判定は「NO」となる。
【0064】
【0065】
もし、その比Riが1以上であれば、或る燃料棒の或る単位ノードにおける線出力密度LHGR1,iは、判定装置18で線出力密度の制限範囲の上限に到達していると判定される。このとき、ステップS4の工程における判定は「YES」となる。
【0066】
判定装置18は、式(2)で求めた比R
iの値、炉心4に装荷された燃料集合体22の種類およびこの燃料集合体22に含まれる燃料棒内に存在する核燃料物質の種類に応じた、記憶装置19から取り込んだ制限範囲データを表示装置20に出力する。判定装置18から出力された情報が表示された、表示装置20の画像の一例を
図5に示す。この画像には、線出力密度の制限範囲、燃料棒毎の各単位ノードにおける、燃焼度に対応した線出力密度LHGR
1,iおよび式(2)で求めた比R
iの値が含まれている。燃料棒毎に、燃焼度に対応した線出力密度制限値LHGR
limit,i(線出力密度の制限範囲の上限)に対する線出力密度LHGR
1,iの比R
iのうちで最も大きい比R
iを、表示装置20に表示してもよい。
図5に示された「0.98」は比R
iの値の一例を示している。さらに、判定装置18は、燃料棒毎の各単位ノードにおける線出力密度LHGR
1,iに対する、制限範囲に関する判定情報である「制限範囲の上限未満である」または「制限範囲の上限を超えている」を、表示装置20に出力する。この判定情報は、該当する線出力情報LHGR
1,iと関連付けて表示装置20に表示される。もし、制限範囲に関する判定情報が多すぎて表示装置20への表示が不可能な場合には、その判定情報のうち「制限範囲の上限を超えている」のみを表示装置20に表示してもよい。運転員は、表示装置20に表示された、判定装置18から出力された判定情報を見ることによって、炉心4に装荷された燃料集合体22に含まれる燃料棒の健全性を把握することができる。
【0067】
判定装置18によるステップS4の判定は原子力プラント1の運転中において継続して行われており、前述した判定情報は判定装置18から継続して出力される。
【0068】
なお、線出力密度の制限範囲の上限である線出力密度制限値LHGRlimit,iは、燃料棒の単位長さ当たりの最大発熱量である最大線出力密度よりも低い値である。線出力密度LHGR1,iが最大線出力密度になったとき、制御棒駆動機構7およびインターナルポンプ5のいずれかの原子炉出力調節装置の操作が停止される。しかしながら、線出力密度LHGR1,iが線出力密度の制限範囲の上限(線出力密度制限値LHGRlimit,i)に到達したときにも原子炉出力調節装置の操作が停止されるがこれは原子炉出力調節装置の操作の一次的な停止であり、後述するように、ならし運転方法により線出力密度LHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度以下にすれば、原子炉出力調節装置の操作により、線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限を超える原子炉出力の上昇が可能になる。これに対し、線出力密度LHGR1,iが最大線出力密度になったときには、原子炉出力調節装置の操作が停止され、線出力密度LHGR1,iが最大線出力密度を超えるような原子力プラント1の運転はできない。
【0069】
原子炉出力の上昇を継続する(ステップS5)。判定装置18から出力された判定情報は、原子炉出力制御装置13にも出力される。その判定情報が「制限範囲の上限未満である」(例えば、比Riが1未満)である場合には、原子炉出力制御装置13が、原子炉出力調節装置である制御棒駆動機構7およびインターナルポンプ5のいずれかに制御信号を出力する。この結果、制御棒駆動機構7による制御棒6の操作、またはインターナルポンプ5による炉心流量の制御が行われる。このような操作により、線出力密度LHGR1,iが少なくとも線出力密度の制限範囲の上限に到達するまで、原子炉出力が上昇される。原子炉出力制御装置13による制御棒駆動機構7またはインターナルポンプ5の制御は、制御棒駆動機構7またはインターナルポンプ5に制御信号が原子炉出力制御装置13から出力されることによって行われる。
【0070】
ステップS5およびS1~S4の各工程は、ステップS4の工程の判定が「YES」になるまで、繰り返される。
【0071】
原子炉出力の上昇を停止する(ステップS13)。判定装置18は、ステップS4の工程における判定において「YES」と判定し、燃料棒毎の各単位ノードにおける線出力密度LHGR1,iに対する、制限範囲に関する判定情報である「線出力密度LHGR1,iが線出力密度の制限範囲の上限に到達している」を、原子炉出力制御装置13及び表示装置20に出力する。その判定情報を入力した原子炉出力制御装置13は、操作されている原子炉出力調整装置である制御棒駆動機構7およびインターナルポンプ5のいずれかの操作を停止するため、原子炉出力の制御が一時的に停止される。このため、原子炉出力の上昇は、一時的に停止される。そのような原子炉出力の制御の一時的な停止は、線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限(LHGRlimit,i)になったときにおいても行われる。
【0072】
PCIOMR運転法により原子炉出力を上昇させる(ステップS14)。ステップS13の工程によって原子炉出力の上昇が一時的に停止された状態において、原子炉出力が目標原子炉出力(例えば、定格運転時の100%出力、または、負荷追従運転時における、100%出力未満の目標原子炉出力)に到達していないときには、例えば、前述のならし運転法、すなわち、PCIOMR運転法による出力上昇が行われる。における制御棒引き抜き停止後の炉心流量制御による原子炉出力の上昇割合となるように、原子炉出力制御装置13によってインターナルポンプ5の回転数を増加させ、線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限を超えた領域においても、原子炉出力を上記の目標出力まで上昇させることができる。
【0073】
炉心流量制御の替りに、制御棒駆動機構7として改良型制御棒駆動機構(FMCRD)を用いることにより、線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限を超えた領域において、原子炉出力を上昇させてもよい。改良型制御棒駆動機構は、通常操作時には、モータを用いて、制御棒を微小駆動させることができ、燃料集合体22に与える影響は水圧駆動の制御棒駆動機構よりも小さくなる。
【0074】
このような原子炉出力の上昇時には、線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限を超えた領域における、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が、後述の実施例2で述べる設定上昇速度よりも小さくなる。
【0075】
ステップS14の工程により原子炉出力を上昇させているとき、原子炉出力が目標出力になったかが判定される(ステップS10)。原子炉出力が目標出力になっていないとき、すなわち、ステップS10での判定が「NO」であるとき、ステップS1の工程以降の該当する各工程が、ステップS10の工程の判定が「YES」になるまで実施される。なお、BWRにおける原子炉出力は、原子炉圧力容器3から排出される蒸気のエネルギーと原子炉圧力容器3に供給される給水が有するエネルギーの差に基づいて求められる。
【0076】
ステップS10の工程における判定が「YES」になったとき、原子炉出力の上昇を停止する(ステップS11)。原子炉出力が目標出力まで上昇したとき、原子炉出力制御装置13が、インターナルポンプ5の操作を停止させて、原子炉出力の上昇を停止させる。原子炉出力が目標出力に到達した後においては、原子炉出力を目標出力に維持させる原子炉出力の制御が、原子炉出力制御装置13によって行われる。原子炉出力が目標出力に到達した後では、燃料集合体22内の燃料棒に含まれた核燃料物質に含まれる核分裂性物質が核分裂によって消費されることにより、原子炉出力が目標出力よりも低下する。この原子炉出力の低下を補償するため、原子炉出力制御装置13によって制御棒駆動機構7が操作され、制御棒6が炉心4から引き抜かれ、原子炉出力を目標出力まで上昇させる。このような原子炉出力を目標出力に維持させる操作が、1つの運転サイクルが終了するまで継続される。
【0077】
本実施例によれば、中性子検出器10の出力信号に基づいて得られた中性子束を用いて、炉心性能計算によって得られた、燃料棒ごとの線出力密度を補正し、補正された線出力密度LHGR1,iが、その炉心性能計算によって得られた燃焼度に対応する、線出力密度LHGR1,iの制限範囲の上限に到達したかを判定するため、線出力密度LHGR1,iが、その燃焼度に対応する、線出力密度の制限範囲の上限に到達したかの判定精度が向上する。
【0078】
本実施例では、線出力密度LHGR1,iが燃焼度に対応する制限範囲の上限を超えたとき、原子炉出力制御装置13による、制御棒駆動機構7およびインターナルポンプ5の原子炉出力調節装置の操作を速やかに停止でき、結果的に、その原子炉出力調節装置を用いた出力制御が速やかに停止されるため、燃料棒の健全性を維持することができる。
【実施例2】
【0079】
本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例2の原子炉監視方法を、
図6および
図7を用いて説明する。
【0080】
原子力プラント1Aは、実施例1の原子炉監視装置14に線出力密度上昇速度計算装置21を追加し、原子炉監視装置14の原子炉出力制御装置13を原子炉出力制御装置13Aに替えた構成を有する原子炉監視装置14A(
図7参照)を備える。原子炉監視装置14Aにおける原子炉出力制御装置13Aおよび線出力密度上昇速度計算装置21以外の構成は、原子炉監視装置14と同じである。原子炉監視装置14Aにおける記憶装置19は、燃料棒毎の、線出力密度に関する制限範囲データ以外に、線出力密度の上昇速度に係る制限速度データも記憶している。線出力密度上昇速度計算装置21は、図示されていないが、線出力密度LHGR
1,iの上昇速度を算出する上昇速度算出装置27および算出された線出力密度LHGR
1,iの上昇速度が設定上昇速度以下であるかを判定する上昇速度判定装置28を有している。上昇速度算出装置27は、線出力密度補正装置16、上昇速度判定装置28および表示装置20のそれぞれに接続される。上昇速度判定装置28は、原子炉出力制御装置13A、記憶装置19および表示装置20のそれぞれに接続される。
【0081】
本実施例の原子炉監視方法では、
図6に示されるステップS1~S12の各工程が実施される。
【0082】
ステップS1~S3の各工程が、実施例1と同様に実施される。ステップS3の工程において、線出力密度補正装置16における補正により得られた、炉心4に装荷された全ての燃料集合体22に含まれる燃料棒毎の、各単位ノードに対する線出力密度LHGR1,iは、線出力密度補正装置16から、判定装置18(第1判定装置)と共に上昇速度算出装置27に出力される。
【0083】
判定装置18は、実施例1と同様に、ステップS4の工程における判定を実施し、「線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限に到達している」(ステップS4の判定が「YES」)および「線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限未満である」(ステップS4の判定が「NO」)のいずれかの、制限範囲に関する判定情報を、原子炉出力制御装置13Aに出力する。
【0084】
ステップS4の判定が、「NO」、すなわち、「制限範囲の上限未満である」(例えば、比Riが1未満)であるとき、ステップS5の工程が実施される。このステップS5の工程では、原子炉出力制御装置13Aは、実施例1のステップS5のと同様に、線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限に達するまで、制御棒駆動機構7およびインターナルポンプ5のいずれかを制御して、制御棒駆動機構7による制御棒6の炉心4からの引き抜きまたはインターナルポンプ5による炉心流量の増加を実施し、原子炉出力の上昇を上昇させる。このようにして、原子炉出力の上昇が継続される。
【0085】
ステップS5およびS1~S4の各工程は、実施例1と同様に、ステップS4の工程の判定が「YES」になるまで、繰り返される。
【0086】
線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限未満であるときには、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下であっても、設定上昇速度を超えていてもどちらでもよい。ただし、制限範囲の上限未満であるときには、その上限未満の領域において、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えている場合には、原子炉出力が目標出力になるまでに要する時間が短縮される。
【0087】
線出力密度LHGR1,iの上昇速度を求める(ステップS12)。上昇速度算出装置27は、線出力密度補正装置16から出力された、全ての燃料集合体22に含まれる燃料棒毎の、各単位ノードに対する線出力密度LHGR1,iを入力する。そして、上昇速度算出装置27は、入力した、燃料棒毎の、各単位ノードに対する線出力密度LHGR1,iに基づいて、時々刻々の線出力密度LHGR1,iの上昇速度を求める。求められた時々刻々の線出力密度LHGR1,iの上昇速度は、線出力密度上昇速度計算装置21のメモリに格納される。上昇速度算出装置27において求められた線出力密度LHGR1,iの上昇速度は、線出力密度上昇速度計算装置21の上昇速度判定装置(第2判定装置)28および表示装置20のそれぞれに入力される。その線出力密度LHGR1,iの上昇速度は、表示装置20に表示される。
【0088】
原子炉出力制御装置13Aにより自動で実施されるステップS6~S11の各工程を詳細に説明する。
【0089】
線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下であるかを判定する(ステップS6)。上昇速度判定装置28は、上昇速度算出装置27で求められた線出力密度LHGR1,iの上昇速度を入力する。その上昇速度判定装置28では、求められた線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下であるかを判定する。上昇速度判定装置28におけるステップS6の判定は、判定装置18におけるステップS4の判定、および上昇速度算出装置27における線出力密度LHGR1,iの上昇速度の算出が行われている間、継続して実施されている。上昇速度判定装置28で生成された、上昇速度に関する判定情報は、原子炉出力制御装置13Aに入力される。原子炉出力制御装置13Aに入力される、上昇速度に関する判定情報は、「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」および「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えている」のいずれかである。
【0090】
判定装置18、上昇速度判定装置28のそれぞれから出力された判定情報は、原子炉出力制御装置13Aに入力される。
【0091】
設定上昇速度以下のLHGR1,iの上昇速度を維持しながら原子炉出力を上昇させる、または、設定上昇速度よりも小さいLHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度まで増加させて、原子炉出力を上昇させる(ステップS9)。設定上昇速度以下のLHGR1,iの上昇速度を維持しながら原子炉出力を増加させるか、または設定上昇速度よりも小さいLHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度まで増加させて、原子炉出力を上昇させるかは、運転員が、予め、操作盤から原子炉出力制御装置13Aに制御指令を出力することによって行われる。
【0092】
原子炉出力制御装置13AによるステップS9の工程の制御を以下に説明する。原子炉出力制御装置13Aが、判定装置18から「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」(ステップS4の判定が「YES」)を、その上昇速度判定装置28から「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」(ステップS6の判定が「YES」)を入力したとき、原子炉出力制御装置13Aでは、ステップS9の工程を実施する制御が行われる。上昇速度算出装置27で算出された線出力密度LHGR1,iの上昇速度は、原子炉出力制御装置13Aに入力される。原子炉出力制御装置13Aが「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」(ステップS4の工程の判定が「YES」)および「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」(ステップS6の工程の判定が「YES」)のそれぞれの判定情報を入力したときには、原子炉出力制御装置13Aは、設定上昇速度以下の線出力密度LHGR1,iの上昇速度になるように、制限範囲の上限を超えている領域において、原子炉出力を上昇させる。
【0093】
原子炉出力制御装置13Aが「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」および「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」のそれぞれの判定情報を入力したときには、原子炉出力制御装置13Aは、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度であるのか、それとも、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度よりも小さいのかを判定する。線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度であるときには、原子炉出力制御装置13Aは、制限範囲の上限を超えた領域において、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を維持するように、原子炉出力を上昇させる。
【0094】
また、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度よりも小さいときには、原子炉出力制御装置13Aは、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度にできるだけ近づけるように変更し、制限範囲の上限を超えた領域においては、変更された上昇速度で線出力密度LHGR1,iを増加させるように、制御棒駆動機構7またはインターナルポンプ5を操作するとよい。その結果、制限範囲の上限を超えた領域における、原子炉出力の上昇に要する時間を更に短縮できる。好ましくは、制限範囲の上限を超えた領域における線出力密度LHGR1,iの上昇速度を、設定上昇速度にすることが望ましい。原子炉出力制御装置13Aは、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度まで増加させ、その後、設定上昇速度の、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を維持するように、原子炉出力を上昇させる。
【0095】
ステップS9の工程により原子炉出力を上昇させているとき、ステップS10の工程の判定が実施される。ステップS10での判定が「NO」であるとき、ステップS1の工程以降の該当する各工程が、ステップS10の工程の判定が「YES」になるまで実施される。ステップS10の工程の判定が「YES」になると、原子炉出力の上昇が停止される(ステップS11)。
【0096】
原子炉出力の上昇が停止される(ステップS7)。原子炉出力制御装置13Aは、判定装置18から「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」(ステップS4の判定が「YES」)を、上昇速度判定装置28から「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えている」(ステップS6の判定が「NO」)を入力したとき、原子炉出力制御装置13Aは、原子炉出力の上昇を停止させる。原子炉出力の上昇停止は、制御棒駆動機構7およびインターナルポンプ5のいずれかの原子炉出力調節装置の操作を停止することによって実現される。
【0097】
線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下になるように、原子炉出力の上昇率を調節する(ステップS8)。線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えているとき、原子炉出力制御装置13Aは、原子炉出力調節装置であるインターナルポンプ5の回転速度を低減させて原子炉出力の上昇率を減少させ、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度以下になるように、好ましくは、設定上昇速度になるように調節する。調節の完了後、原子炉出力制御装置13Aは、調節された、設定上昇速度以下の線出力密度LHGR1,iの上昇速度になるように、原子炉出力を上昇させる。
【0098】
ステップS8の工程により原子炉出力を上昇させているとき、ステップS10の工程の判定が実施される。ステップS10での判定が「NO」であるとき、ステップS1の工程以降の該当する各工程が、ステップS10の工程の判定が「YES」になるまで実施される。ステップS10の工程の判定が「YES」になると、原子炉出力の上昇が停止される(ステップS11)。
【0099】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例によれば、以下の各効果も得ることができる。
【0100】
制限範囲の上限以下の領域では、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を前述の設定上昇速度よりも大きくすることができるため、線出力密度LHGR1,iを制限範囲の上限まで増加させるのに要する時間を短縮させることができ、結果的に、原子炉出力を目標原子炉出力まで上昇させるのに要する時間を短縮することができる。
【0101】
線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限を超える領域では、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下になるため、その上限を超える領域においても燃料棒の健全性が維持される。
【0102】
線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限を超える領域において、線出力密度LHGR1の上昇速度を設定上昇速度にすることによって、その上限を超える領域における、原子炉出力の上昇に要する時間を短縮することができる。
【0103】
さらに、本実施例では、原子炉出力制御装置13Aが判定装置18から出力された判定情報である「線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限に到達している」、および上昇速度判定装置28から出力された判定情報である「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」を入力したとき、原子炉出力制御装置13Aは、ステップS9の工程において、「設定上昇速度以下のLHGR1,iの上昇速度を維持しながら原子炉出力を上昇させる、または、設定上昇速度よりも小さいLHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度まで増加させて、原子炉出力を上昇させる」という制御を行っている。実施例1でも、ステップS9の工程において同様な制御を行っている。しかしながら、本実施例では、上昇速度算出装置27で算出された線出力密度LHGR1,iの上昇速度を用い、上昇速度判定装置28において線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下であるかの判定を行っている。本実施例では、上昇速度算出装置27で算出された線出力密度LHGR1,iの上昇速度を用いている関係上、実際の線出力密度LHGR1,iの上昇速度をステップS6の判定に反映させることができ、その上昇速度が設定上昇速度以下であるかの判定の精度を向上させることができる。
【0104】
その結果、線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限を超えた領域における線出力密度LHGR1,iの上昇速度を、実施例1でのその領域で実現されるその上昇速度よりも設定上昇速度に近づけることができる。このため、本実施例では、その制限範囲の上限を超えた領域での線出力密度LHGR1,iの上昇速度を、実施例1における、その制限範囲の上限を超えた領域での線出力密度LHGR1,iの上昇速度よりも大きくすることができる。これは、本実施例における、その制限範囲の上限を超えた領域での原子炉出力の上昇率が、実施例1におけるその領域でのそれよりも大きくできることを意味し、本実施例における、その制限範囲の上限を超えた領域において原子炉出力の上昇に要する時間が、実施例1よりも短縮される。なぜならば、制限範囲の上限を超えた領域での線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下になっているかの判定を行っていない実施例1では、領域での線出力密度LHGR1,iの上昇速度を、安全性を見込んで、保守的に、非常に低い値に設定しがちになるからである。
【実施例3】
【0105】
本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例3の原子炉監視装置を、
図9を用いて説明する。
【0106】
原子力プラント1Bは、実施例2の原子炉監視装置14Aにおいて、原子炉出力制御装置13Aを原子炉出力制御装置13Bに替え、判定装置18と線出力密度上昇速度計算装置21を接続した構成を有する原子炉監視装置14Bを備える。すなわち、実施例2の原子炉監視装置14Aでは判定装置18と上昇速度算出装置27は接続されていないが、原子炉監視装置14Bでは判定装置18と上昇速度算出装置27が接続されている。原子炉監視装置14Bにおいて、原子炉出力制御装置13B、および判定装置18と上昇速度算出装置27を接続した以外の構成は、原子炉監視装置14Aと同じである。
【0107】
判定装置18は、原子炉出力制御装置13B、および上昇速度算出装置27のそれぞれに接続される。判定装置18で得られた判定情報は、原子炉出力制御装置13B、および上昇速度算出装置27のそれぞれに入力される。
【0108】
本実施例の原子炉監視方法では、
図8に示されるステップS1~S12の各工程が実施される。
【0109】
本実施例において、原子炉出力制御装置13Bは、自動で、ステップS5およびS7~S11の各工程を実施している。
【0110】
本実施例においても、実施例2と同様に、ステップS1~S5の各工程が実施される。本実施例では、ステップS12の工程において、上昇速度算出装置27によって、実施例2のステップS12と同様に、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が求められる。
【0111】
線出力密度LHGR1,iの上昇速度を求める(ステップS12)。上昇速度算出装置27は、判定装置18から、判定情報である「線出力密度LHGR1,iが制限範囲の上限に到達している」を入力したとき、線出力密度LHGR1,iの上昇速度の算出を開始する。線出力密度補正装置16から出力された、全ての燃料集合体22に含まれる燃料棒毎の、各単位ノードに対する線出力密度LHGR1,iに基づいて、その上昇速度算出装置27は時々刻々の線出力密度LHGR1,iの上昇速度を算出する。求められた時々刻々の線出力密度LHGR1,iの上昇速度は、線出力密度上昇速度計算装置21のメモリに格納される。算出された線出力密度LHGR1,iの上昇速度は、上昇速度判定装置28および表示装置20のそれぞれに入力される。その線出力密度LHGR1,iの上昇速度は、表示装置20に表示される。
【0112】
線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下であるかを判定する(ステップS6)。上昇速度判定装置28は、上昇速度算出装置27で算出された線出力密度LHGR1,iの上昇速度を入力して、実施例2と同様に、その上昇速度が設定上昇速度以下であるかを判定する。上昇速度判定装置28で生成された、上昇速度に関する判定情報は、原子炉出力制御装置13Bに入力される。
【0113】
原子炉出力制御装置13Bが、判定装置18から「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」を、その上昇速度判定装置28から「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」を入力したとき、原子炉出力制御装置13Bは、実施例2と同様に、ステップS9の工程を実施する。上昇速度算出装置27で算出された線出力密度LHGR1,iの上昇速度は、原子炉出力制御装置13Bに入力される。「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」および「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」のそれぞれの判定情報を入力した原子炉出力制御装置13Bは、設定上昇速度以下の線出力密度LHGR1,iの上昇速度になるように、制限範囲の上限を超えている領域において、原子炉出力を上昇させる。原子炉出力制御装置13Aが「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」および「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」のそれぞれの判定情報を入力したときには、原子炉出力制御装置13Bは、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度であるのか、それとも、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度よりも小さいのかを判定する。線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度であるときには、原子炉出力制御装置13Bは、制限範囲の上限を超えた領域において、設定上昇速度を維持するように、原子炉出力を上昇させる。線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度よりも小さいときには、原子炉出力制御装置13Bは、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度まで増加させ、その後、制限範囲の上限を超えた領域において、設定上昇速度の、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を維持するように、原子炉出力を上昇させる。なお、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度よりも小さいときには、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度まで上昇させずに、設定上昇速度に近づけ、その領域において、設定上昇速度未満の上昇速度で線出力密度LHGR1,iを上昇させてもよい。
【0114】
また、原子炉出力制御装置13Bは、判定装置18から「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」を、その上昇速度判定装置28から「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えている」を入力したとき、原子炉出力制御装置13Aは、実施例2と同様に、ステップS7およびS8のそれぞれの工程を順次実施する。
【0115】
ステップS9の工程またはステップS7およびS8の各工程が終了したとき、原子炉出力制御装置13BはステップS10の判定を実施する。ステップS10の判定が「YES」の場合には、原子炉出力制御装置13BはステップS11の工程を実施する。ステップS10での判定が「NO」である場合には、原子炉出力制御装置13Bは、ステップS1の工程以降の該当する各工程を、ステップS10の工程の判定が「YES」になるまで実施する。
【0116】
本実施例は実施例2で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、上昇速度算出装置27における、線出力密度LHGR1,iの上昇速度の算出、および上昇速度判定装置28における線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えているか否かの判定は、その上昇速度算出装置27が判定装置18から「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」という判定情報を入力したときに行われる。上昇速度判定装置28が「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」という判定情報を入力しているときには、上昇速度算出装置27は線出力密度LHGR1,iの上昇速度の算出を行わず、さらに、上昇速度判定装置28は線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えているか否かの判定を行わない。このため、本実施例における線出力密度上昇速度計算装置21の作動時間は、実施例2におけるその作動時間よりも短くすることができる。
【実施例4】
【0117】
本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例4の原子炉監視方法を、
図10および
図11を用いて説明する。
【0118】
原子力プラント1Cは、実施例3の原子炉監視装置14Bにおいて、原子炉出力制御装置13Bを原子炉出力制御装置13Cに替え、判定装置18から自動停止信号を出力できるようにした構成を有する原子炉監視装置14Cを備える。原子炉監視装置14Cにおいて、原子炉出力制御装置13C、および判定装置18からの自動停止信号を原子炉出力制御装置13Cに入力するようにした構成以外の構成は、原子炉監視装置14Bと同じである。
【0119】
本実施例の原子炉監視方法では、
図10に示されるステップS1~S11、S15およびS16の各工程が実施される。
【0120】
本実施例でも、実施例3で実施されるステップS1~S4の各工程が実施される。
【0121】
中性子検出器10から中性子検出信号が出力されない、原子炉出力が数%よりも低いとき、および原子炉出力が、例えば、10%等の高い状態において、ステップS4の判定が「NO」であるときには、判定装置18からは自動停止信号が出力されない。自動停止信号が判定装置18から出力されないときには、原子炉出力制御装置13Cによる自動制御によって、原子炉出力調整装置である制御棒駆動機構7により制御棒6を操作、またはインターナルポンプ5による炉心流量の増加が行われ、原子炉出力が上昇される。ステップS5の工程における「原子炉出力の上昇の継続」のための原子炉出力の上昇は、原子炉出力制御装置13Cによる自動制御によって行われる。
【0122】
判定装置18から自動停止信号が出力されたときにおける手動での原子力プラント1の運転操作を以下に説明する。
【0123】
自動停止信号が出力される(ステップS15)。判定装置18が実施するステップS4の工程おいて「YES」と判定されたとき、判定装置18は自動停止信号を出力する。出力された自動停止信号は、原子炉出力制御装置13Cに入力される。
【0124】
自動制御が停止される(ステップS16)。判定装置18から自動停止信号が出力されているときには、原子炉出力制御装置13Cによる自動制御が停止されるため、原子炉出力制御装置13Cは、自動で、ステップS7~S9の各工程を実施しない。ただし、判定装置18から自動停止信号が出力されているときであっても、原子炉出力制御装置13Cは、自動で、ステップS10およびS11の各工程を実施する。判定装置18から自動停止信号が出力されているとき、ステップS7~S9の各工程は、運転員の手動操作により操作盤から出力される制御指令によって実施される。
【0125】
判定装置18から自動停止信号が出力されていないときにおいても、判定装置18におけるステップS4の工程の判定、上昇速度算出装置27におけるステップS12の工程における線出力密度LHGR1,iの上昇速度の算出、および上昇速度判定装置28におけるステップS6の工程における判定が実施される。なお、判定装置18から自動停止信号が出力されていないとき、および判定装置18から自動停止信号が出力されているときにかかわらず、ステップS10およびS11の各工程は、原子炉出力制御装置13Cによって自動的に実施される。
【0126】
判定装置18のステップS4の工程で得られた判定情報、上昇速度算出装置27のステップS12の工程で算出された線出力密度LHGR1,iの上昇速度、および上昇速度判定装置28のステップS6の工程で得られた判定情報のそれぞれは、表示装置20に表示される。自動停止信号が出力されて原子炉出力制御装置13Cにおける自動制御が停止された後、運転員が、表示装置20に表示された情報を見ながら、操作盤に設けられたボタンおよびレバー等を手動で操作することにより、操作盤から出力される制御指令に基づいてステップS9の工程、またはステップS7およびS8の各工程が実施される。
【0127】
ステップS4での判定が「制限範囲の上限に到達している」(「YES」)であり、ステップS6での判定が「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」(「YES」)であるとき、これらの判定情報および上昇速度算出装置27で求められた線出力密度LHGR1,iの上昇速度の情報が表示装置20に表示される。これらの情報を見た運転員によって、ステップS9の工程が実施されるように、手動により、操作盤で必要な操作が行われる。この結果、操作盤から出力された制御指令に基づいて、実施例2と同様に、ステップS9の工程が実施される。
【0128】
ステップS9の工程が終了した後、原子炉出力制御装置13Cによって、原子炉出力が目標出力になっていなく、ステップS10の工程で「NO」であると判定されたとき、ステップS1の工程以降の該当する各工程が、ステップS10の工程の判定が「YES」になるまで実施される。ただし、この場合においても、ステップS7~S9の各工程は、手動で実施される。
【0129】
ステップS4での判定が「制限範囲の上限に到達している」(「YES」)であり、ステップS6での判定が「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えている」(「NO」)であるとき、これらの判定情報および上昇速度算出装置27で求められた線出力密度LHGR1,iの上昇速度の情報が表示装置20に表示される。これらの情報を見た運転員によって、ステップS7およびS8の工程が順次実施されるように、手動により、操作盤で必要な操作が行われる。この結果、操作盤から出力された制御指令に基づいて、実施例2と同様に、ステップS7およびS8の各工程が順次実施される。その後、原子炉出力制御装置13Cで、原子炉出力が目標出力になっていなく、ステップS10の工程で「NO」であると判定されたとき、ステップS1の工程以降の該当する各工程が、ステップS10の工程の判定が「YES」になるまで実施される。そして、ステップS11の工程が実施されて、原子炉出力の上昇が停止される。
【0130】
実施例4は実施例3で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、判定装置18から出力された自動停止信号が原子炉出力制御装置13Cに入力されて、原子炉出力制御装置13Cによる自動制御が停止される。原子炉出力制御装置13Cによる自動制御が停止されるため、本実施例では、炉心内燃料の異常の可能性が考えられる場合に、より保守的で安全性の高い原子炉出力の制御が可能となる。
【実施例5】
【0131】
本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子炉に適用される実施例4の原子炉監視方法を、
図12および
図13を用いて説明する。
【0132】
原子力プラント1Dは、実施例3の原子炉監視装置14Bにおいて、原子炉出力制御装置13Bを原子炉出力制御装置13Dに替え、線出力密度上昇速度計算装置21、すなわち、上昇速度判定装置28から自動停止信号を出力できるようにした構成を有する原子炉監視装置14Dを備える。原子炉監視装置14Dにおいて、原子炉出力制御装置13D、および上昇速度判定装置28からの自動停止信号を原子炉出力制御装置13Dに入力するようにした構成以外の構成は、原子炉監視装置14Bと同じである。
【0133】
本実施例の原子炉監視方法では、
図12に示されるステップS1~S11、S15およびS16の各工程が実施される。
【0134】
本実施例でも、実施例3で実施されるステップS1~S6およびS12の各工程が実施される。
【0135】
中性子検出器10から中性子検出信号が出力されない、原子炉出力が数%よりも低いとき、および原子炉出力が、例えば、10%等の高い状態において、ステップS6の判定が「YES」であるときには、上昇速度判定装置28からは自動停止信号が出力されない。自動停止信号が上昇速度判定装置28から出力されないときには、原子炉出力制御装置13Dによる自動制御によって、原子炉出力調整装置である制御棒駆動機構7により制御棒6を操作、またはインターナルポンプ5による炉心流量の増加が行われ、原子炉出力が上昇される。ステップS5の工程における「原子炉出力の上昇の継続」のための原子炉出力の上昇は、原子炉出力制御装置13Cによる自動制御によって行われる。
【0136】
さらに、ステップS6の判定が「YES」であって、自動停止信号が上昇速度判定装置28から出力されないときには、「線出力密度が制限範囲の上限を超えている」(ステップS4の判定が「YES」)および「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度以下である」(ステップS6の判定が「YES」)のそれぞれの判定情報を入力した原子炉出力制御装置13Dは、実施例3と同様に、自動でステップS9の工程の制御を実施し、原子炉出力を上昇させる。ステップS9の工程においては、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度であるときには、制限範囲の上限を超えた領域において、設定上昇速度で原子炉出力を上昇させる。原子炉出力制御装置13Dは、線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度よりも小さいときには、線出力密度LHGR1,iの上昇速度を設定上昇速度まで増加させ、その後、制限範囲の上限を超えた領域において、その設定上昇速度で原子炉出力を上昇させる。
【0137】
ステップS9の工程が終了した後、原子炉出力制御装置13Dによって、原子炉出力が目標出力になっていなく、ステップS10の工程で「NO」であると判定されたとき、ステップS1の工程以降の該当する各工程が、ステップS10の工程の判定が「YES」になるまで実施される。そして、ステップS11の工程が実施されて、原子炉出力の上昇が停止される。
【0138】
上昇速度判定装置28から自動停止信号が出力されたときにおける手動での原子力プラント1の運転操作を以下に説明する。
【0139】
自動停止信号が出力される(ステップS15)。上昇速度判定装置28が実施するステップS6の工程おいて「NO」と判定されたとき、上昇速度判定装置28は自動停止信号を出力する。出力された自動停止信号は、原子炉出力制御装置13Dに入力される。
【0140】
自動制御が停止される(ステップS16)。上昇速度判定装置28から自動停止信号が出力されているときには、原子炉出力制御装置13Dによる自動制御が停止されるため、原子炉出力制御装置13Dは、自動で、ステップS7及びS8の各工程を実施しない。ただし、上昇速度判定装置28から自動停止信号が出力されているときであっても、原子炉出力制御装置13Dは、自動で、ステップS10およびS11の各工程を実施する。上昇速度判定装置28から自動停止信号が出力されているとき、ステップS7及びS8の各工程は、運転員の手動操作により操作盤から出力される制御指令によって実施される。
【0141】
上昇速度判定装置28から自動停止信号が出力されていないときにおいても、判定装置18におけるステップS4の工程の判定、上昇速度算出装置27におけるステップS12の工程における線出力密度LHGR1,iの上昇速度の算出、上昇速度判定装置28におけるステップS6の工程における判定が実施される。ステップS10およびS11の各工程は、原子炉出力制御装置13Dによって自動的に実施される。なお、上昇速度判定装置28から自動停止信号が出力されていないときにおいても、ステップS10およびS11の各工程は、原子炉出力制御装置13Dによって自動的に実施される。
【0142】
ステップS4での判定が「制限範囲の上限に到達している」(「YES」)であり、ステップS6での判定が「線出力密度LHGR1,iの上昇速度が設定上昇速度を超えている」(「NO」)であるとき、これらの判定情報および上昇速度算出装置27で求められた線出力密度LHGR1,iの上昇速度の情報が表示装置20に表示される。原子炉出力制御装置13Dにおける自動制御が停止された後、運転員が、表示装置20に表示された情報を見ながら、ステップS7およびS8の工程が順次実施されるように、操作盤に設けられた、必要なボタンおよびレバー等を手動で操作する。この結果、操作盤から出力された制御指令に基づいて、実施例3と同様に、ステップS7およびS8の各工程が順次実施される。その後、原子炉出力制御装置13Dによって、原子炉出力が目標出力になっていなく、ステップS10の工程で「NO」であると判定されたとき、ステップS1の工程以降の該当する各工程が、ステップS10の工程の判定が「YES」になるまで実施される。そして、ステップS11の工程が実施されて、原子炉出力の上昇が停止される。
【0143】
本実施例は実施例3で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、上昇速度判定装置28から出力された自動停止信号が原子炉出力制御装置13Dに入力されて、原子炉出力制御装置13Dによる自動制御が停止される。原子炉出力制御装置13Dによる自動制御が停止されるため、本実施例では、炉心内燃料の異常の可能性が考えられる場合に、より保守的で安全性の高い出力制御が可能としつつ、上昇速度判定装置28の監視により高速な出力上昇が可能となる。
【0144】
実施例1ないし5のそれぞれは、インターナルポンプを有するABWRプラントだけでなく、再循環ポンプ及びジェットポンプを有する沸騰水型原子力プラントにも適用することができる。
【符号の説明】
【0145】
1,1A,1B,1C,1D…原子力プラント、3…原子炉圧力容器、4…炉心、5…インターナルポンプ5…制御棒駆動機構、9…炉内計装管、10…中性子検出器、13,13A,13B,13C,13D…原子炉出力制御装置、14,14A,14B,14C,14D…原子炉監視装置、15…中性子束監視装置、16…線出力密度補正装置、17…炉心性能計算装置、18…判定装置、21…線出力密度上昇速度計算装置、24…中性子束検出装置、27…上昇速度算出装置、28…上昇速度判定装置。