IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図1
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図2
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図3
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図4
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図5
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図6
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図7
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図8
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図9
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図10
  • 特許-ステージ装置および電子ビーム描画装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ステージ装置および電子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/68 20060101AFI20240403BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20240403BHJP
   G03F 9/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01L21/68 K
H01L21/30 541
G03F9/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021106300
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023004546
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 裕文
(72)【発明者】
【氏名】小林 典之
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-45982(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196195(WO,A1)
【文献】特開2004-296583(JP,A)
【文献】特開2012-146774(JP,A)
【文献】特開2005-79373(JP,A)
【文献】特開2015-10705(JP,A)
【文献】特開2002-349569(JP,A)
【文献】国際公開第2007/069713(WO,A1)
【文献】特開2020-4478(JP,A)
【文献】特開2008-78499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/68
H01L 21/027
G03F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定盤と、前記定盤に一体的に固定される脚部と、前記定盤に前記脚部を介して固定状態で支持される案内軸と、前記案内軸に沿って移動する移動体と、前記案内軸と前記移動体との隙間部分に流体膜を形成する静圧流体軸受と、を備えるステージ装置であって、
前記案内軸と前記定盤との相対的な位置ズレを検出する位置ズレ検出部と、
前記位置ズレ検出部が検出する前記位置ズレの検出結果に基づいて、自装置の状態を判定し、その判定結果に応じた情報を出力する状態判定部と、
を備え、
前記位置ズレ検出部は、前記脚部に固定されて前記定盤の基準平面と対向して配置され、前記定盤の前記基準平面までの距離を検出し、
前記状態判定部は、前記位置ズレ検出部が検出する前記位置ズレの検出結果に基づいて、前記定盤の変形を判定する
ステージ装置。
【請求項2】
前記状態判定部は、前記判定結果に応じた情報として、自装置のメンテナンスに関する情報および前記位置ズレを補正するための情報のうち少なくとも一方の情報を出力する
請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記状態判定部は、
前記位置ズレ検出部が検出する前記位置ズレのズレ量を監視する位置ズレ監視部と、
前記位置ズレ監視部が監視している前記ズレ量と予め設定された閾値とを比較することにより、自装置の状態を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に応じた情報を出力する情報出力部と、を含む
請求項1または2に記載のステージ装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記ズレ量が所定のメンテナンス用閾値に達したか否かを判定し、
前記情報出力部は、前記ズレ量が前記メンテナンス用閾値に達したと前記判定部が判定した場合に、前記自装置のメンテナンスに関する情報として、メンテナンスの時期を特定可能な情報を出力する
請求項3に記載のステージ装置。
【請求項5】
前記自装置のメンテナンスに関する情報を表示する表示部をさらに備える
請求項2に記載のステージ装置。
【請求項6】
前記定盤の温度が基準温度になるように制御する温度制御部をさらに備え、
前記判定部は、前記ズレ量が所定の定盤温度制御用閾値に達したか否かを判定し、
前記情報出力部は、前記ズレ量が前記定盤温度制御用閾値に達したと前記判定部が判定した場合に、前記位置ズレを補正するための情報として、前記基準温度の変更を指示する情報を前記温度制御部に出力する
請求項3に記載のステージ装置。
【請求項7】
前記状態判定部は、前記位置ズレ検出部が検出する前記位置ズレのズレ量の経時変化を示す履歴情報を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記履歴情報を読み出すためのインターフェース部と、を備える
請求項1に記載のステージ装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のステージ装置を備え、
前記ステージ装置によって移動可能に支持される試料に電子ビームによってパターンを描画する
電子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置および電子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトマスクの製造工程では、フォトマスクブランクス上に形成されたレジスト膜を電子ビームによって描画する電子ビーム描画装置が用いられている。電子ビーム描画装置には、半導体デバイスの微細化および高精細化に伴って高い描画精度が要求される。描画精度に影響を与える要因の1つに、フォトマスクブランクスなどの基板を移動可能に支持するステージ装置の精度がある。ステージ装置は、定盤と、定盤に固定状態で支持される案内軸と、案内軸に沿って移動する移動体と、を備えている。また、ステージ装置には、案内軸に沿って移動体を滑らかに移動させるために、静圧流体軸受が用いられる場合がある。
【0003】
静圧流体軸受は、案内軸と移動体との隙間部分に潤滑流体によって流体膜を形成することにより、流体膜の厚み寸法分だけ案内軸から移動体を浮上させ、移動体の滑らかな移動を実現する軸受である。静圧流体軸受は、潤滑流体として液体を用いる静圧液体軸受と、潤滑流体として気体を用いる静圧気体軸受とに分類される。案内軸および移動体を真空環境に配置するステージ装置には、静圧空気軸受などの静圧気体軸受が使用される。
【0004】
特許文献1には、「基準面を有する定盤と、該基準面上でガイドに案内されて第1方向に移動する第1移動体と、前記第1方向とは交差する第2方向に移動する第2移動体とを有し、前記第1及び第2移動体は共に前記基準面上に静圧軸受で支持され、基準面に垂直な方向に関し他の移動体に対して互いに非拘束となっていると共に、前記第1移動体と第2移動体の少なくとも一方に設けた予圧機構を設けたことを特徴とする移動案内装置」に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8―318439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静圧空気軸受を使用したステージ装置では、空気膜の形成によって移動体を浮上させるため、案内軸と移動体との隙間部分に圧縮空気を供給し続ける必要がある。その際、案内軸と移動体との接触を避けるには、移動体の浮上量を決める空気膜の厚み寸法を大きくすることが有効である。ただし、案内軸および移動体を真空環境に配置するステージ装置の場合は、空気膜の厚み寸法を大きくすると、真空中に漏れ出す空気の量が増えて真空度が悪化してしまう。このため、真空環境下で静圧空気軸受を使用する場合は、空気膜の厚み寸法を極力小さくすることが求められる。
【0007】
しかしながら、空気膜の厚み寸法を小さくすると、案内軸と移動体とが接触する可能性が高くなる。案内軸と移動体とが接触すると、移動体を正常に移動させることができなくなるだけでなく、ステージ装置を正常な状態に戻すために長い時間が必要になる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、静圧流体軸受によって形成される流体膜の厚み寸法を大きくしなくても、案内軸と移動体との接触を有効に抑制することができるステージ装置および電子ビーム描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、定盤と、定盤に一体的に固定される脚部と、定盤に脚部を介して定盤に固定状態で固定される案内軸と、案内軸に沿って移動する移動体と、案内軸と移動体との隙間部分に流体膜を形成する静圧流体軸受と、を備えるステージ装置であって、案内軸と定盤との相対的な位置ズレを検出する位置ズレ検出部と、位置ズレ検出部が検出する位置ズレの検出結果に基づいて、自装置の状態を判定し、その判定結果に応じた情報を出力する状態判定部と、を備える。位置ズレ検出部は、脚部に固定されて定盤の基準平面と対向して配置され、定盤の基準平面までの距離を検出する。状態判定部は、位置ズレ検出部が検出する位置ズレの検出結果に基づいて、定盤の変形を判定する。
また、本発明は、上記ステージ装置を備え、このステージ装置によって移動可能に支持される試料に電子ビームによってパターンを描画する電子ビーム描画装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、静圧流体軸受によって形成される流体膜の厚み寸法を大きくしなくても、案内軸と移動体との接触を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成例を示す概略側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るステージ装置の構成を示す斜視図である。
図3】エアーステージの要部を示す縦断面図である。
図4】案内軸と移動体との隙間部分に形成される空気膜の厚み寸法が均一な状態を示す図である。
図5】案内軸と移動体との隙間部分に形成される空気膜の厚み寸法が不均一な状態を示す図である。
図6】理想状態のもとで位置ズレ検出センサによって検出される距離を説明する図である。
図7】定盤に変形が生じた場合に位置ズレ検出センサによって検出される距離を説明する図である。
図8】本発明の実施形態に係るステージ装置の処理機能を示すブロック図である。
図9】定盤の温度を制御するための構成例を示す模式図である。
図10】記憶部に記憶される履歴状態を説明する図である。
図11】電子ビーム描画装置の稼働中にステージ装置12内で行われる処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成例を示す概略側面図である。
図1に示すように、電子ビーム描画装置10は、試料11を移動可能に支持するステージ装置12と、電子ビーム13を照射するビーム照射装置14と、を備えている。電子ビーム描画装置10は、ステージ装置12に支持された試料11に電子ビーム13によってパターンを描画する装置である。試料11は、たとえば、レジスト膜が形成されたフォトマスクブランクスである。電子ビーム描画装置10は、電子ビーム露光装置とも呼ばれる。
【0014】
なお、図1において、X方向およびY方向は、それぞれ水平面に平行な方向を示し、Z方向は、鉛直面に平行な方向、即ち鉛直方向を示している。また、図1においては、便宜上、X方向、Y方向およびZ方向を、それぞれ一方向を向く矢羽根で示しているが、X方向は図1の左右方向を意味し、Y方向は図1の奥行き方向(図1の紙面と直交する方向)を意味し、Z方向は図1の上下方向を意味する。この点は、他の図面でも同様である。
【0015】
ステージ装置12は、定盤21と、ステージ機構22と、を備えている。定盤21は、図示しない防振台を介して建物の床などに設置される。定盤21は、基準平面21aを有する。基準平面21aは、水平面(XY平面)と平行に配置される。ステージ機構22は、試料11をX方向およびY方向に移動可能な機構である。ステージ機構22は、後述する案内軸と移動体とを有する。ステージ機構22は、真空チャンバー15内に配置され、真空チャンバー15内で試料11を位置決めする。ステージ装置12の構成については後段で詳しく説明する。
【0016】
ビーム照射装置14は、電子銃14aと、ブランキング電極14bと、3つの電極レンズ14c,14d,14eと、偏向電極14fと、を備えている。電子銃14aは、電子ビーム13を出射する。ブランキング電極14bは、電子銃14aから出射される電子ビーム13をオンオフする。電子ビーム13は、ブランキング電極14bによってオンされた状態では、ブランキング電極14bから3つの電極レンズ14c,14d,14eを経由して偏向電極14fへと到達する。また、電子ビーム13は、ブランキング電極14bによってオフされた状態では、ブランキング電極14bによって遮断される。
【0017】
3つの電極レンズ14c,14d,14eは、電子ビーム13のビーム径を調整したり、電子ビーム13の横断面形状を調整したりするためのレンズである。偏向電極14fは、ビーム照射装置14の光学中心軸に対して電子ビーム13を所定の角度に偏向させる電極である。試料11に対する電子ビーム13の照射位置は、試料11に描画すべきパターンの形状に応じて制御される。また、電子ビーム13の照射位置は、電子ビーム描画装置10が備えるビーム偏向制御部(図示せず)およびステージ制御部(図示せず)によって制御される。ビーム偏向制御部は、偏向電極14fに供給する偏向電流を調整することにより、電子ビーム13の偏向角度を制御する。ステージ制御部は、ステージ機構22が備えるXステージの移動体およびYステージの移動体をそれぞれ空気の圧力差を利用して移動することにより、試料11の位置を制御する。XステージおよびYステージについては後段で詳しく説明する。
【0018】
ここで、本発明者らが着目した課題について説明する。
電子ビーム描画装置10には、極めて高い描画精度が要求される。描画精度は、仮にビーム照射装置14による電子ビーム13の照射位置を精度良く制御できたとしても、試料11の位置決め精度に誤差が生じると、高い精度要求を満たすことが難しくなる。このため、ステージ機構22の主要な構成部品は、歪みが生じにくい材料であるセラミックスなどによって構成され、XステージおよびYステージを移動させるための軸受は静圧空気軸受によって構成される。また、ステージ装置12の土台となる定盤21には、石定盤が用いられる。セラミックスは、応力による変形が小さい、熱による膨張が小さい、耐摩耗性に優れるなどの特長がある。静圧空気軸受は、ボール軸受などに比べて精度が高い、再現性に優れるなどの特長がある。石定盤は、鋳鉄などの金属製の定盤(以下、「金属定盤」という。)に比べて、温度による変形が小さい、耐摩耗性に優れるなどの特長がある。
【0019】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、上述のように変形が小さい材料によって定盤21およびステージ機構22を構成し、かつ、ステージ機構22の軸受に静圧空気軸受を用いた場合でも、高い描画精度の要求を満たしつつ、電子ビーム描画装置10を長期間にわたって正常に稼働させることが難しい状況になっていることが判明した。その理由は、次のような事情による。
【0020】
真空チャンバー15内にステージ装置12を配置した場合は、真空チャンバー15内の真空度を悪化させないために、静圧空気軸受から真空チャンバー15内へと漏れ出す空気の量をできるだけ減らす必要がある。真空チャンバー15内に漏れ出す空気の量は、静圧空気軸受によって形成される空気膜の厚み寸法が小さいほど少なくなる。ただし、空気膜の厚み寸法を小さくすると、ステージ機構22が有する案内軸と移動体とが接触する可能性が高くなる。
【0021】
本発明者らによる検討では、真空チャンバー15内の真空度を維持するには上記空気膜の厚み寸法を10μm以下、好ましくは数μ程度のレベルまで小さくする必要があり、そのような設計条件のもとでは石定盤のわずかな変形さえも、案内軸と移動体とが接触する原因になり得るという結論に至った。また、本発明者らによる検討では、石定盤に変形が生じると、これに起因して案内軸と移動体との相対的な位置ズレが生じ、この位置ズレのズレ量が経時的に徐々に大きくなることで、案内軸と移動体との接触が起こるという結論に至った。
【0022】
そこで、本実施形態に係る電子ビーム描画装置10のステージ装置12は、上記空気膜の厚み寸法に影響を与える案内軸と移動体との相対的な位置ズレを検出する位置ズレ検出部を備え、この位置ズレ検出部が検出する位置ズレの検出結果を基に、案内軸と移動体との接触を避けるための有意な情報が得られる構成となっている。以下、詳しく説明する。
【0023】
まず、ステージ装置12の構成について詳しく説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るステージ装置の構成を示す斜視図である。
図2に示すように、ステージ装置12は、定盤21と、ステージ機構22とを備えている。ステージ機構22は、Xステージ221と、一対のYステージ222とを備えている。
【0024】
Xステージ221は、X方向と平行に配置された案内軸221aと、案内軸221aに沿って移動する移動体221bとを備えている。移動体221bの上面には、描画の試料11を載せて支持するための試料台(図示せず)が取り付けられる。案内軸221aは、X方向と直交する方向で縦に断面したときの形状が矩形になっている。案内軸221aの4つの外面、具体的には案内軸221aの上面、下面、および2つの側面は、それぞれ移動体221bの移動を案内する案内面である。移動体221bは、案内軸221aの4つの外面を取り囲むように断面矩形の筒状に形成されている。移動体221bには図示しない静圧空気軸受が組み込まれている。移動体221bは、案内軸221aの4つの外面に対応する4つの内面を有する。静圧空気軸受は、案内軸221aの4つの外面と、これに近接かつ対向する移動体221bの4つの内面との間に、それぞれ空気膜を形成することにより、案内軸221aに対して移動体221bを浮上させる。これにより、移動体221bは、案内軸221aの軸方向であるX方向に対して静圧空気軸受によって移動自在に支持される。静圧空気軸受を用いたステージはエアーステージとも呼ばれる。また、静圧空気軸受を用いて移動自在(スライド自在)に支持される移動体はスライダとも呼ばれ、移動体の移動を案内する案内軸はステータとも呼ばれる。エアーステージの基本的な構成は、Xステージ221とYステージ222で共通である。以下、Xステージ221に適用されるエアーステージの構成について説明する。
【0025】
図3は、エアーステージの要部を示す縦断面図である。
図3に示すように、エアーステージ120は、ガイド122と、スライダ124と、2つのサーボバルブ126a,126bとを備えている。エアーステージ120は、Xステージ221に相当し、ガイド122は案内軸221aに相当し、スライダ124は移動体221bに相当する。スライダ124は、静圧空気軸受128によってガイド122から浮いた状態に支持されている。静圧空気軸受128は、ガイド122とスライダ124との嵌合部分に空気膜130を形成する。より具体的には、静圧空気軸受128は、スライダ124の内面とこれに対向するガイド122の外面との間(隙間部分)に空気膜130を形成することにより、スライダ124をX方向に移動自在に支持する。
【0026】
ガイド122は、スクエアシャフトによって構成されている。ガイド122には仕切り部132が固定されている。スライダ124には、2つの加圧室150a,150bと、圧縮空気供給用の2つの溝151a,151bと、空気吸引用の複数(図例では合計6つ)の吸引溝152とが形成されている。2つの加圧室150a,150bの外側は、蓋部材153によって閉じられている。また、2つの加圧室150a,150bは、仕切り部132によって仕切られている。以降の説明では、一方の加圧室150aを第1の加圧室150aと記載し、他方の加圧室150bを第2の加圧室150bと記載する。
【0027】
2つの溝151a,151bは、空間的につながっている。各々の溝151a,151bには、図示しない圧縮空気供給源によって圧縮空気が供給され、この圧縮空気の供給によってガイド122の外面とスライダ124の内面との間に空気膜130が形成される。すなわち、2つの溝151a,151bは、図示しない圧縮空気供給源と共に、静圧空気軸受128を構成している。複数の吸引溝152は、空気膜130から真空チャンバー内へと漏れ出す空気の量を減らすために、空気膜130から空気を吸引する溝である。
【0028】
2つのサーボバルブ126a,126bのうち、一方のサーボバルブ126aは第1の加圧室150aの空気圧を制御するバルブであり、他方のサーボバルブ126bは第2の加圧室150bの空気圧を制御するバルブである。2つのサーボバルブ126a,126bは、第1の加圧室150aの空気圧と第2の加圧室150bの空気圧とに差(以下、単に「差圧」ともいう。)を生じさせることにより、スライダ124をX方向に移動させる。具体的には、2つのサーボバルブ126a,126bは、第1の加圧室150aの空気圧を第2の加圧室150bの空気圧よりも高くすることにより、スライダ124を図の右方向に移動させる。また、2つのサーボバルブ126a,126bは、第1の加圧室150aの空気圧を第2の加圧室150bの空気圧よりも低くすることにより、スライダ124を図の左方向に移動させる。また、2つのサーボバルブ126a,126bは、第1の加圧室150aの空気圧と第2の加圧室150bの空気圧とを均等にすることにより、スライダ124を停止状態に維持する。各々のサーボバルブ126a,126bの動作は、スライダ124に取り付けられる試料台の位置を検出する位置センサ(図示せず)の出力信号を基にバルブ制御部(図示せず)によって制御される。位置センサおよびバルブ制御部は、ステージ装置12が備える要素である。以下、試料台の位置を検出する位置検出機構の具体例について説明する。
【0029】
試料台が取り付けられるスライダ124には、X方向およびY方向における試料台の位置を検出するためのミラー(図示せず)が設けられる。ミラーは、X方向を向いて配置される第1の反射面とY方向を向いて配置される第2の反射面とを有する。これに対して、定盤21の基準平面21aには、図示しない2つの位置センサが取り付けられる。各々の位置センサは、図示しないセンサ支持部材を介して定盤21に取り付けられる。一方の位置センサ(以下、「第1の位置センサ」という。)は、第1の反射面に向けてレーザー光を出射し、第1の反射面で反射したレーザー光を受光することにより、X方向における試料台の位置を検出するセンサである。他方の位置センサ(以下、「第2の位置センサ」という。)は、第2の反射面に向けてレーザー光を出射し、第2の反射面で反射したレーザー光を受光することにより、Y方向における試料台の位置を検出するセンサである。
【0030】
Xステージ221に適用されるエアーステージ120が2つのサーボバルブ126a,126bの動作は、X方向における試料台の位置を検出する第1の位置センサの検出結果に基づいて制御される。また、図示はしないが、Yステージ222に適用されるエアーステージが備える2つのサーボバルブの動作は、Y方向における試料台の位置を検出する第2の位置センサの検出結果に基づいて制御される。
【0031】
一対のYステージ222は、以下に述べる共通の構成を有する。
Yステージ222は、Y方向と平行に配置された案内軸222aと、案内軸222aに沿って移動する移動体222bとを備えている。案内軸222aは、Y方向と直交する方向で縦に断面したときの形状が矩形になっている。案内軸222aの4つの外面、具体的には案内軸222aの上面、下面、および2つの側面は、それぞれ移動体222bの移動を案内する案内面である。移動体222bは、案内軸222aの4つの外面を取り囲むように断面矩形の筒状に形成されている。移動体222bには図示しない静圧空気軸受が組み込まれている。移動体222bは、案内軸222aの4つの外面に対応する4つの内面を有する。静圧空気軸受は、案内軸222aの4つの外面と、これに近接かつ対向する移動体222bの4つの内面との間に、それぞれ空気膜を形成することにより、案内軸222aに対して移動体222bを浮上させる。これにより、移動体222bは、案内軸222aの軸方向であるY方向に対して静圧空気軸受によって移動自在に支持される。静圧空気軸受を用いたステージ(エアーステージ)の基本的な構成は、Xステージ221の場合と共通であるため説明を省略する。
【0032】
案内軸222aの両端部はそれぞれ脚部222cによって支持されている。脚部222cは角柱状に形成されている。脚部222cの上端部は案内軸222aの端部にボルト等によって固定され、脚部222cの下端部は台座部222dにボルト等によって固定されている。台座部222dは、定盤21の基準平面21aにボルト等によって固定されている。このような固定構造により、案内軸222aは、定盤21に固定状態で支持されている。脚部222cは、定盤21の基準平面21aに対して垂直に起立している。定盤21の上に案内軸222aを固定するための脚部222cと台座部222dは、一体構造になっていてもよい。
【0033】
一対のYステージ222は、X方向に所定の距離を隔てて配置されている。一対のYステージ222の移動体222b同士は、Xステージ221の案内軸221aによって連結されている。そして、2つの移動体222bが互いに同期してY方向に移動することにより、案内軸221aおよび移動体221bを含むXステージ221の位置がY方向に変化する仕組みになっている。これにより、Xステージ221の移動体221bに取り付けられる試料台を、X方向およびY方向に移動させることができる。
【0034】
次に、位置ズレ検出部の構成について説明する。
本実施形態において、位置ズレ検出部は、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを検出する。位置ズレ検出部が検出する位置ズレは、案内軸222aと移動体222bとの隙間部分に静圧空気軸受によって形成される空気膜の厚み寸法に影響を与える位置ズレである。空気膜の厚み寸法に影響を与える案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレとは、案内軸222aの中心軸と直交する仮想平面における、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを意味する。この位置ズレは、位置ズレ検出部によって直接検出してもよいし間接的に検出してもよい。本実施形態では、一例として、上記空気膜の厚み寸法に影響を与える案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを間接的に検出する場合について説明する。
【0035】
上記図2に示すように、位置ズレ検出部30は、2つの位置ズレ検出センサ30a,30bによって構成されている。位置ズレ検出センサ30aは、脚部222cの4つの側面のうち、X方向を向いて配置される側面に取り付けられ、位置ズレ検出センサ30bは、Y方向を向いて配置される側面に取り付けられている。つまり、2つの位置ズレ検出センサ30a,30bは、水平面内で互いに90度向きを変えて脚部222cに取り付けられている。また、各々の2つの位置ズレ検出センサ30a,30bは、下向きに配置されている。
【0036】
位置ズレ検出センサ30aは、Z方向において定盤21の基準平面21aと対向する状態に配置され、位置ズレ検出センサ30bも、Z方向において定盤21の基準平面21aと対向する状態に配置されている。台座部222dの上面222eは、定盤21の基準平面21aと平行に配置されている。
【0037】
各々の位置ズレ検出センサ30a,30bは、たとえば変位センサによって構成される。変位センサは、センサから対象物までの距離の変化を、対象物の変位量として検出するセンサである。本実施形態において、位置ズレ検出センサ30aは、定盤21の基準平面21aを対象物として、位置ズレ検出センサ30aから定盤21の基準平面21aまでの距離L1を検出する。また、位置ズレ検出センサ30bは、定盤21の基準平面21aを対象物として、位置ズレ検出センサ30bから定盤21の基準平面21aまでの距離L2を検出する。
【0038】
ここで、位置ズレ検出センサ30a,30bを脚部222cに取り付けた理由について説明する。
まず、上述した案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレがゼロ、すなわち理想状態のもとでは、図4に示すように、案内軸222aと移動体222bとの隙間部分に形成される空気膜230の厚み寸法t1,t2,t3,t4が、案内軸222aの軸まわりの全周(4面)にわたって均一な寸法になる。本明細書において、空気膜230の厚み寸法t1,t2,t3,t4は、各々の厚み寸法の最小値で規定するものとする。たとえば、案内軸222aの上面側から下面側に向かって厚み寸法t1が徐々に大きくなるように変化している場合は、案内軸222aの上面側における厚み寸法t1の最小値によって、厚み寸法t1を規定する。
【0039】
これに対し、図5に示すように、定盤21に変形(歪み)が生じ、これによって左右の脚部222cがX方向に傾くと、案内軸222aと移動体222bとの間に相対的な位置ズレが発生する。そして、両者の相対的な位置ズレにより、上記空気膜230の厚み寸法t1,t2,t3,t4が不均一な状態、すなわち厚み寸法のバランスが崩れた状態になる。厚み寸法のバランスが崩れた状態とは、たとえば厚み寸法t1を例に挙げて説明すると、厚み寸法t1の最大値と最小値との差が上記理想状態の場合よりも大きくなった状態をいう。また、上記位置ズレのズレ量が所定量に達すると、少なくともいずれか1つの厚み寸法t1,t2,t3,t4がゼロ、つまり案内軸222aと移動体222bとが接触してしまう。
【0040】
上述のように定盤21に変形が生じた場合、基準平面21aの位置は、定盤21の変形に従って変化し、これによって左右の脚部222cと案内軸222aとに傾きが生じるのに対し、左右の移動体222bの位置(姿勢)は、Xステージ221の案内軸221aによって規制されるためほとんど変化しない。したがって、図6に示すように、上記理想状態のもとで位置ズレ検出センサ30aによって検出される距離がL1aであるとすると、上述のように定盤21に変形が生じた状態では、図7に示すように、位置ズレ検出センサ30aによって検出される距離が、上記L1aとは異なるL1bになる。距離L1aと距離L1bの大小関係は、定盤21の変形の仕方によって決まる。具体的には、左右の台座部222d間の距離が縮む方向に定盤21が変形した場合は、L1a<L1bの関係となる。また、左右の台座部222d間の距離が伸びる方向に定盤21が変形した場合は、L1a>L1bの関係となる。
【0041】
また、定盤21の変形によって左右の脚部222cがX方向に傾いた場合、上記空気膜230の厚み寸法t1,t2,t3,t4は、左右の脚部222cの傾き角度が大きくなるほど、理想状態のときの厚み寸法(図4参照)から大きく変化する。また、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレのズレ量は、左右の脚部222cの傾き角度に応じて大きくなり、左右の脚部222cの傾き角度は、定盤21の変形量に応じて大きくなる。また、位置ズレ検出センサ30aによって検出される距離L1は、左右の脚部222cの傾き角度が大きくなるほど、理想状態のときの距離L1aから大きく変化する。また、位置ズレ検出センサ30bによって検出される距離L2も、定盤21の変形に伴う左右の脚部222cの傾きに応じて変化する。なお、図4図6は、ステージ装置の形状や寸法を正確に反映したものではなく、あくまで発明の理解を助けるためにステージ装置の形状や寸法を誇張して表現している。
【0042】
以上のことから、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレは、上記空気膜230の厚み寸法t1,t2,t3,t4に影響を与えるパラメータとなり、位置ズレ検出センサ30a,30bによって検出される距離L1,L2の変化は、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを示す指標となる。よって、位置ズレ検出センサ30a,30bを脚部222cに取り付けることにより、空気膜230の厚み寸法t1,t2,t3,t4に影響を与える案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを間接的に検出することができる。したがって、位置ズレ検出センサ30a,30bが検出する距離L1,L2に基づいて、ステージ装置12の状態を判定することができる。
以下に、具体的な判定内容を含めたステージ装置12の処理機能について説明する。
【0043】
図8は、本発明の実施形態に係るステージ装置の処理機能を示すブロック図である。
図8に示すように、ステージ装置12は、自装置(ステージ装置12)の状態を判定する状態判定部31と、各種の情報を表示する表示部32と、定盤21の温度を制御する温度制御部33と、を備えている。表示部32は、たとえば液晶表示装置、有機EL表示装置などによって構成される。表示部32は、据え置き型でもよいし携帯型でもよい。
【0044】
温度制御部33は、定盤21の温度が基準温度になるように制御する。定盤21には、たとえば図9に示すように、台座部222dの取り付け位置の近傍を通過するように液体流路36が形成されている。液体流路36は、温度制御部33につながっている。温度制御部33は、図示はしないが、液体流路36を流れる液体(たとえば水)の温度を測定する液温計と、液体の温度を調整する温度調整部とを備えている。液体流路36を流れる液体の温度は、定盤21の温度に依存する。つまり、定盤21の温度は、液体の温度として検出可能である。そこで、温度制御部33は、液温計が測定する液体の温度、即ち定盤21の温度が、基準温度になるように、液体の温度を調整する。
【0045】
状態判定部31には、位置ズレ検出部30による位置ズレの検出結果として、位置ズレ検出センサ30aが検出する距離L1の情報と、位置ズレ検出センサ30bが検出する距離L2の情報とが取り込まれる。状態判定部31は、位置ズレ検出センサ30a,30bから取り込んだ距離L1,L2の情報に基づいて、ステージ装置12の状態を判定し、その判定結果に応じた情報を出力する。また、状態判定部31は、上記判定結果に応じた情報として、ステージ装置12のメンテナンスに関する情報および上記位置ズレを補正するための情報のうち少なくとも一方の情報を出力する。
【0046】
本実施形態においては、一例として、状態判定部31は、上記判定結果に応じた情報として、ステージ装置12のメンテナンスに関する情報および上記位置ズレを補正するための情報の両方を出力するものとする。また、状態判定部31は、ステージ装置12のメンテナンスに関する情報を表示部32に出力し、上記位置ズレを補正するための情報を温度制御部33に出力するものとする。
【0047】
状態判定部31は、位置ズレ検出センサ30aおよび位置ズレ検出センサ30bが検出する位置ズレのズレ量を監視する位置ズレ監視部310と、位置ズレ監視部310が監視しているズレ量と予め設定された閾値とを比較することにより、自装置の状態を判定する判定部312と、位置ズレ検出センサ30aおよび位置ズレ検出センサ30bが検出する位置ズレのズレ量の経時変化を示す履歴情報を記憶する記憶部314と、記憶部314に記憶される履歴情報を読み出すためのインターフェース部316と、判定部312の判定結果に応じた情報を出力する情報出力部318と、を備えている。以下、各部の機能について詳しく説明する。
【0048】
位置ズレ監視部310は、位置ズレ検出センサ30aが検出する距離L1の情報と、位置ズレ検出センサ30bが検出する距離L2の情報とを、それぞれ取り込む。上述したとおり、距離L1の変化は、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを示す指標となる。同様に、距離L2の変化は、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを示す指標となる。したがって、位置ズレ監視部310は、位置ズレ検出センサ30aが検出する距離L1の変化と、位置ズレ検出センサ30bが検出する距離L2の変化とを、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレとして監視する。この場合、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレのズレ量は、位置ズレ検出センサ30aが検出する距離L1の変化量と、位置ズレ検出センサ30bが検出する距離L2の変化量とによって表される。また、距離L1の変化量は、上記理想状態のときの距離L1aと実際に位置ズレ検出センサ30aが検出した距離L1との差によって表される。この点は、距離L2の変化量についても同様である。
【0049】
位置ズレ監視部310は、位置ズレ検出センサ30aおよび位置ズレ検出センサ30bから取り込んだ距離L1,L2の情報を、それぞれ記憶部314に書き込む。これにより、記憶部314には、図10に示すように、位置ズレ検出センサ30aが検出した距離L1の経時変化を示す履歴情報が記憶される。同様に、記憶部314には、位置ズレ検出センサ30bが検出した距離L2の経時変化を示す履歴情報(図示せず)が記憶される。距離L1,L2の経時変化は、位置ズレ検出センサ30aおよび位置ズレ検出センサ30bが検出する位置ズレのズレ量の経時変化に相当する。図10において、縦軸は位置ズレ検出センサ30aが検出した距離L1を示し、横軸は時間を示している。距離L1の変化量ΔLは、上述したとおり距離L1aと距離L1との差によって表され、たとえば、この変化量ΔLが許容範囲Lmを超えると自装置のメンテナンスが必要になる。この点は、距離L2の変化量についても同様である。
【0050】
判定部312は、自装置(ステージ装置12)の状態を判定するために、位置ズレ監視部310が監視しているズレ量と予め設定された閾値とを比較する。判定部312が判定する自装置の状態には、自装置のメンテナンスに関する状態と、定盤21の温度制御に関する状態とがある。自装置のメンテナンスに関する状態には、自装置がメンテナンスを必要とすることなく安定して動作している状態(以下、「安定状態」ともいう。)、自装置のメンテナンスが所定の時期までに必要になる状態(以下、「メンテナンス予告状態」という。)、自装置のメンテナンスが即時に必要な状態(以下、「メンテナンス必要状態」という。)などがある。また、定盤21の温度制御に関する状態には、定盤21の温度が基準温度に一致している状態、定盤21の温度が基準温度からずれているが基準温度の変更が不要な状態、定盤21の温度が基準温度からずれていて基準温度の変更が必要な状態などがある。
【0051】
判定部312は、位置ズレ監視部310が監視しているズレ量と比較するための閾値として、次に述べる2つの閾値を用いる。一つはメンテナンス用閾値であり、もう一つは定盤温度制御用閾値である。各々の閾値の個数は、少なくとも1個であり、必要に応じて2個または3個以上であってもよい。メンテナンス用閾値は、自装置であるステージ装置12のメンテナンスに関する状態を判定するために予め設定される閾値である。定盤温度制御用閾値は、定盤21の温度制御に関する状態を判定するために予め設定される閾値である。
【0052】
インターフェース部316は、外部端末35を接続するためのインターフェースである。外部端末35をインターフェース部316に接続した状態では、記憶部314に記憶されている上記履歴情報を、インターフェース部316を介して外部端末35に読み出すことが可能となる。
【0053】
情報出力部318は、判定部312の判定結果に応じた情報として、自装置のメンテナンスに関する情報と、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを補正するための情報とを出力する。本実施形態においては、上記位置ズレを補正するための情報の一例として、定盤21の温度制御に関する情報を出力するものとする。定盤21の温度は、ステージ装置12が設置される環境温度に影響される。また、定盤21の温度が変化すると、定盤21自体に僅かな変形が生じ、このことが案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレの原因となり得る。このため、定盤21の温度を制御することによって上記位置ズレを補正することが可能となる。
【0054】
また、情報出力部318は、位置ズレ監視部310が監視しているズレ量が所定のメンテナンス用閾値に達したと判定部312が判定した場合に、自装置のメンテナンスに関する情報として、メンテナンスの時期を特定可能な情報を表示部32に出力する。これにより、表示部32は、メンテナンスの時期を特定可能な情報を表示する。この場合、所定のメンテナンス用閾値とは、1つまたは複数のメンテナンス用閾値のうち、メンテナンスの時期を特定可能な情報を出力するタイミングを決めるために予め設定された閾値をいう。また、情報出力部318は、位置ズレ監視部310が監視しているズレ量が所定の定盤温度制御用閾値に達したと判定部312が判定した場合に、定盤21の温度制御に関する情報として、上記基準温度の変更を指示する情報を温度制御部33に出力する。これにより、温度制御部33は、上記指示に従って基準温度を変更し、定盤21の温度が変更後の基準温度になるように制御する。この場合、所定の定盤温度制御用閾値とは、1つまたは複数の定盤温度制御用閾値のうち、上記基準温度の変更を指示する情報を出力するタイミングを決めるために予め設定された閾値をいう。
【0055】
図11は、電子ビーム描画装置10の稼働中にステージ装置12内で行われる処理手順を示すフローチャートである。
まず、位置ズレ監視部310は、位置ズレ検出部30による位置ズレの検出結果を取り込む(ステップS1)。このとき、位置ズレ監視部310は、位置ズレ検出センサ30aが検出する距離L1の情報と、位置ズレ検出センサ30bが検出する距離L2の情報とを取り込む。また、位置ズレ監視部310は、位置ズレ検出部30から取り込んだ位置ズレの検出結果を判定部312に与える。
【0056】
次に、位置ズレ監視部310は、上記ステップS1で取り込んだ位置ズレの検出結果を記憶部314に書き込む(ステップS2)。
次に、判定部312は、位置ズレ監視部310から与えられた位置ズレの検出結果に基づいて、位置ズレのズレ量が所定の定盤温度制御用閾値に達したか否かを判定する(ステップS3)。そして、判定部312は、位置ズレのズレ量が所定の定盤温度制御用閾値に達したと判定した場合は、その判定結果を情報出力部318に通知し、この通知を受けて情報出力部318が基準温度の変更を指示する情報を温度制御部33に出力する(ステップS4)。また、判定部312は、位置ズレのズレ量が所定の定盤温度制御用閾値に達していないと判定した場合は、ステップS4の処理をスキップする。
【0057】
次に、判定部312は、位置ズレ監視部310から与えられた位置ズレの検出結果に基づいて、位置ズレのズレ量が所定のメンテナンス用閾値に達したか否かを判定する(ステップS5)。そして、判定部312は、位置ズレのズレ量が所定のメンテナンス用閾値に達したと判定した場合は、その判定結果を情報出力部318に通知し、この通知を受けて情報出力部318が自装置(ステージ装置12)のメンテナンスに関する情報を表示部32に出力する(ステップS6)。このとき、情報出力部318は、自装置のメンテナンスに関する情報として、メンテナンスの時期を特定可能な情報を出力する。これにより、表示部32には、メンテナンスの時期を特定可能な情報が表示される。メンテナンスの時期を特定可能な情報の具体例としては、「○月△日までにメンテナンスを実施してください。」、「メンテナンス時期まで残り○日間です。」などのメッセージ情報が考えられる。また、判定部312は、位置ズレのズレ量が所定のメンテナンス用閾値に達していないと判定した場合は、ステップS6の処理をスキップする。
【0058】
次に、状態判定部31は、ビーム照射装置14による電子ビームの描画が終了したか否かを確認する(ステップS7)。そして、状態判定部31は、電子ビームの描画が終了していない場合は上記ステップS1に戻って上記同様の処理を行い、電子ビームの描画が終了した場合は一連の処理を終える。
【0059】
なお、上記の処理手順では、ステップS5で位置ズレのズレ量が所定のメンテナンス用閾値に達したと判定部312が判定した場合に、ステップS6で情報出力部318が自装置(ステージ装置12)のメンテナンスに関する情報として、メンテナンスの時期を特定可能な情報を出力するとしたが、本発明はこれに限らない。たとえば、ステップS6で情報出力部318が出力する、自装置のメンテナンスに関する情報は、自装置のメンテナンスに関する状態を知らせる情報であってもよい。具体的には、自装置のメンテナンスに関する情報は、自装置のメンテナンスに関する状態が、安定状態、メンテナンス予告状態およびメンテナンス必要状態のうち、いずれの状態にあるかを知らせる情報であってもよい。また、自装置のメンテナンスに関する状態を知らせる情報は、上記位置ズレのズレ量と予め設定された1つまたは複数のメンテナンス用閾値との比較結果に応じて、状態判定部31から表示部32へと常に出力される構成としてもよい。これにより、電子ビーム描画装置10の使用者(保守点検などを行う者を含む)は、表示部32に表示される情報を目視で確認することにより、ステージ装置12がいずれの状態(安定状態、メンテナンス予告状態、メンテナンス必要状態)にあるかを判別することが可能となる。
【0060】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置10においては、空気膜230の厚み寸法に影響を与える案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを位置ズレ検出部30が検出し、この検出結果を基に状態判定部31がステージ装置12の状態を判定して、その判定結果に応じた情報を出力する。これにより、たとえば電子ビーム描画装置10の使用者は、状態判定部31が出力する情報を基にステージ装置12の状態を把握することができる。このため、使用者は、案内軸222aと移動体222bとが接触しないよう、事前にステージ装置12のメンテナンスを実施することができる。したがって、静圧空気軸受128により形成される空気膜230の厚み寸法を大きくしなくても、案内軸222aと移動体222bとの接触を有効に抑制することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態において、状態判定部31は、上記判定結果に応じた情報として、ステージ装置12のメンテナンスに関する情報を出力する。これにより、ステージ装置12のメンテナンスを適切な時期に実施することが可能となる。その結果、次のような効果が期待できる。
【0062】
ステージ装置12のメンテナンスは、たとえば次のような手順で行われる。まず、定盤21の変形によって脚部222cなどに蓄積された応力を開放するために、台座部222dを定盤21に固定しているボルトを緩める。次に、案内軸222aを支える脚部222cおよび台座部222dの位置を微調整した後、上記ボルトを締め付けて台座部222dを定盤21に固定する。このようなメンテナンス作業は、たとえば電子ビーム描画装置10の稼働計画に基づく年間スケジュールに従って、予め決められた定期メンテナンス時期に実施する分にはほとんど問題はない。しかし、電子ビーム描画装置10の稼働中に移動体222bの動きに異常が生じたために上記メンテナンス作業を実施する場合は、電子ビーム描画装置10の稼働を長時間にわたって停止する必要がある。このため、電子ビーム描画装置10の稼働率が大幅に低下してしまう。また、電子ビーム描画装置10の稼働中に移動体222bの動きに異常が生じないよう、メンテナンス作業を頻繁に実施すると、本来であれば必要のないタイミングでメンテナンス作業を実施することが多くなり、無駄なメンテナンス作業が増えてしまう。
本実施形態によれば、移動体222bの動きに異常が生じる前に、適切なタイミングでメンテナンス作業を実施することができる。このため、無駄なメンテナンス作業を省きつつ、電子ビーム描画装置10の稼働率の低下を抑えることができる。
【0063】
また、本実施形態において、状態判定部31は、上記判定結果に応じた情報として、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを補正するための情報を出力する。これにより、上記位置ズレを長期にわたって小さく抑えることができる。
【0064】
また、本実施形態において、情報出力部318は、上記位置ズレのズレ量が所定のメンテナンス用閾値に達したと判定部312が判定した場合に、ステージ装置12のメンテナンスに関する情報として、メンテナンスの時期を特定可能な情報を出力する。これにより、使用者は、ステージ装置12のメンテナンスをいつ頃までに実施すればよいかを把握することができる。このため、電子ビーム描画装置10の稼働状況を考慮してステージ装置12のメンテナンス実施時期を定めることができる。
【0065】
また、本実施形態において、情報出力部318は、上記位置ズレのズレ量が所定の定盤温度制御用閾値に達したと判定部312が判定した場合に、上記位置ズレを補正するための情報として、基準温度の変更を指示する情報を温度制御部33に出力する。これにより、定盤21の温度変化に起因した位置ズレを抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態において、状態判定部31は、位置ズレ検出部30が検出する上記位置ズレのズレ量の経時変化を示す履歴情報を記憶する記憶部314と、記憶部314に記憶された履歴情報を読み出すためのインターフェース部316と、を備える。これにより、記憶部314に記憶された履歴情報を、インターフェース部316を介して外部端末35に読み出すことができる。その結果、外部端末35の操作者は、記憶部314から読み出した履歴情報を用いて、上記位置ズレのズレ量と定盤21の温度変化との相関を調べることができる。また、外部端末35の操作者は、記憶部314から読み出した履歴情報を用いて、ステージ装置12のメンテナンス時期をより正確に予測することが可能となる。
【0067】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0068】
たとえば、上記実施形態においては、位置ズレ検出センサの一例として変位センサを用いたが、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを検出可能なセンサであれば、変位センサ以外のセンサを用いてもよい。
【0069】
また、上記実施形態において、位置ズレ検出部30は、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを間接的に検出するために、位置ズレ検出センサ30a,30bから定盤21の基準平面21aまでの距離を検出する構成となっているが、本発明はこれに限らず、位置ズレ検出センサ30a,30bから台座部222dの上面222eまでの距離を検出する構成となっていてもよい。
【0070】
また、上記実施形態において、位置ズレ検出部30は、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを間接的に検出する構成となっているが、本発明はこれに限らず、案内軸222aと移動体222bとの相対的な位置ズレを直接検出する構成となっていてもよい。具体的には、たとえば図示はしないが、位置ズレ検出センサとしての変位センサを、移動体222bの4つの主面(上面、下面および2つの側面)に1つずつ取り付け、各々の変位センサから案内軸222aの4つの主面(上面、下面および2つの側面)までの距離を検出する構成となっていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態においては、定盤21の好ましい例として石定盤を挙げたが、本発明はこれに限らず、定盤21として金属定盤を用いてもよい。
【0072】
また、上記実施形態においては、静圧流体軸受の一例として、静圧気体軸受の一種である静圧空気軸受128を挙げたが、本発明はこれに限らず、潤滑流体として水や油などを用いた静圧液体軸受を用いることも可能である。ただし、ステージ機構22を真空中に配置する場合は、静圧流体軸受として静圧気体軸受を用いる必要がある。
【0073】
また、上記実施形態においては、Xステージ221およびYステージ222を備える二軸のステージ機構22を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、一軸のステージ機構に適用してもよい。本発明を二軸のステージ機構22に適用した場合は、一軸のステージ機構に比べて、定盤21の変形による影響が大きいため、より大きな効果が得られる。
【0074】
また、上記実施形態においては、ステージ装置12を備える電子ビーム描画装置10を例に挙げて説明したが、本発明は電子ビーム描画装置10に限らず、ステージ装置12によって移動可能に支持される試料11に所定の処理を行う処理装置に広く適用可能である。処理装置の一例としては、電子ビームを用いて試料の外観や欠陥などを検査する電子ビーム検査装置、あるいは電子ビームを用いた半導体製造装置や半導体検査装置などを挙げることができる。また、処理装置の他の例としては、電子ビームを用いて試料を測定する測定装置や、電子ビームを用いて試料を加工する加工装置などを挙げることができる。
【符号の説明】
【0075】
10…電子ビーム描画装置
11…試料
12…ステージ装置
13…電子ビーム
22…ステージ機構
30…位置ズレ検出部
31…状態判定部
32…表示部
128…静圧空気軸受(静圧流体軸受)
130…空気膜(流体膜)
221a,222a…案内軸
221b,222b…移動体
310…位置ズレ監視部
312…判定部
314…記憶部
316…インターフェース部
318…情報出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11