(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】コク味が付与された飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20240403BHJP
A23F 3/16 20060101ALN20240403BHJP
A23F 5/24 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
A23L2/00 E
A23L2/52
A23F3/16
A23F5/24
(21)【出願番号】P 2021144206
(22)【出願日】2021-09-03
【審査請求日】2023-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】烏谷 幸枝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 悠
(72)【発明者】
【氏名】本荘 貴之
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0163238(US,A1)
【文献】特開2019-208495(JP,A)
【文献】特開2017-46597(JP,A)
【文献】特開2005-68114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23F
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a)~d):
飲料調合液を調製する工程a)、
飲料調合液にL-エルゴチオネインを0.3~440ppm(w/w)添加する工程b)、
飲料調合液のpH(20℃)を5.0~7.5に調整する工程c)、及び
L-エルゴチオネインを含有する飲料調合液を加熱する工程d)
を含み、前記工程d)における加熱の条件が、加熱温度(℃)をX、加熱時間(分)をYとしたとき、以下の式(1)の条件:
式(1) Y≧34×(X-60)
-1.1 (ただし、61≦X≦150)
を満たすものである、飲料の製造方法。
【請求項2】
以下の工程a)及びx)~z):
飲料調合液を調製する工程a)、
L-エルゴチオネイン含有溶液を調製する工程x)、
前記L-エルゴチオネイン含有溶液を加熱してL-エルゴチオネイン加熱溶液を調製する工程y)、及び
液中のL-エルゴチオネイン濃度が0.3~440ppm(w/w)となるように、前記飲料調合液と前記L-エルゴチオネイン加熱溶液とを混合する工程z)
を含み、前記工程y)における加熱の条件が、加熱温度(℃)(分)をX、加熱時間(分)をYとしたとき、以下の式(1)の条件:
式(1) Y≧34×(X-60)
-1.1 (ただし、61≦X≦150)
を満たし、pH(20℃)が5.0~7.5である、飲料の製造方法。
【請求項3】
飲料がピラジン類を10~20000ppb含有する、請求項1又は2に記載の飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コク味が付与された飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品の美味しさを決める要因として、味、香り、食感、色などが挙げられるが、近年、美味しさを決める要因として、「コク味」も重要視されるようになっている。「コク味」は、味(味覚)、香り(嗅覚)、食感(触覚)の3つの感覚に関して、より多くの刺激がバランスよく与えられ、濃厚感・複雑さ(complexity)、口の中での広がり(mouthfulness)、持続性(lastingness)を感じる時に認識できる味わいと考えられている(非特許文献1、2)
飲食品にコク味を付与する物質として、ニンニク由来のアリイン、γ-グルタミル-S-アリル-システイン(γ-L-glutamyl-S-allyl-L-cysteine (GSAC))、S-メチルシステインスルホキシド(S-methyl-L-cysteine sulfoxide (SMCS))、タマネギ由来のイソアリイン(S-propenyl-L-cysteine sulfoxide (PeCSO))、イソアリインのγ-グルタミルペプチド(γ-L-glutamyl-PeCSO)などの含硫化合物や、酵母由来のペプチド、糖ペプチド、メイラードペプチドなどのペプチドが、うま味溶液に対して厚みや複雑さ、持続性、広がりを付与することが報告されている(非特許文献3、4、5)。また、タマネギ加熱濃縮物をコンソメスープに添加するとコク味が付与され、特に香りの持続性が高まることが報告されている(非特許文献6)。
【0003】
このようなコク味を付与する物質は、ベース味の濃厚感、持続性や広がりを強める効果を有するものであるが、飲料は、ベースの味(特にうま味)や食感が乏しい性質を有するため、増強され難いという問題があり、飲料に対してコク味を付与できる又は効果的に増強できる方法が望まれている。飲料にコク味を付与することのできる技術としては、例えば、糖類含量を2.5w/v%以下に低減させたコーヒー含有飲料又は茶飲料に、馬鈴薯由来でDEが2以上5未満であるデキストリンを添加する方法(特許文献1)、サイクロデキストリンを添加して飲料のコクを増強する方法(特許文献2)、ブレンド茶、紅茶、コーヒー等の飲食品にD-プシコースを含有する希少糖を添加して加熱することによりコク味を付与する方法(特許文献3)、牛乳およびその他のタンパク飲料に特定のアミノ酸(L-メチオニン、L-リジン、L-ロイシンおよびL-スレオニン)を特定の割合で含有するアミノ酸含有組成物を添加することによりコク味を付与または増強する方法(特許文献4)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-115247号公報
【文献】特開昭54-145268号公報
【文献】特開2014-113059号公報
【文献】特開2009-11209号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】西村敏英、臨床栄養、119(6)、616-617(2011)
【文献】西村敏英、江草愛、月刊フードケミカル、2014-8 Vol.352:25-31、(2014)
【文献】Agricultural and Biological Chemistry 54(1), 163-169, 1990
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 58(1), 108-110, 1994
【文献】Food Chemistry 99, 600-604, 2006
【文献】小田原努、他、第65回日本栄養・食糧学会大会要旨集、p.213(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、飲料にコク味を付与する技術はいくつか知られているが、飲料の種類や風味は昨今多様化しており、既存の技術だけではあらゆる飲料のコク味付与には対応しきれない可能性がある。既存の技術とは異なる新たな方法を開発することで、コク味を良好に付与することができる飲料の種類を少しでも広げていくことは望ましいと言える。
【0007】
本発明は、煩雑な工程や特別な装置を必要とせずに、効果的にコク味が付与された飲料を製造することができる新たな方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、L-エルゴチオネインの加熱物(加熱されたL-エルゴチオネイン)が飲料に効果的にコク味を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
[1]以下の工程a)~d):
飲料調合液を調製する工程a)、
飲料調合液にL-エルゴチオネインを0.3~440ppm(w/w)添加する工程b)、
飲料調合液のpH(20℃)を5.0~7.5に調整する工程c)、及び
L-エルゴチオネインを含有する飲料調合液を加熱する工程d)
を含み、前記工程d)における加熱の条件が、加熱温度(℃)をX、加熱時間(分)をYとしたとき、以下の式(1)の条件:
式(1) Y≧34×(X-60)-1.1 (ただし、61≦X≦150)
を満たすものである、飲料の製造方法。
[2]以下の工程a)及びx)~z):
飲料調合液を調製する工程a)、
L-エルゴチオネイン含有溶液を調製する工程x)、
前記L-エルゴチオネイン含有溶液を加熱してL-エルゴチオネイン加熱溶液を調製する工程y)、及び
液中のL-エルゴチオネイン濃度が0.3~440ppm(w/w)となるように、前記飲料調合液と前記L-エルゴチオネイン加熱溶液とを混合する工程z)
を含み、前記工程y)における加熱の条件が、加熱温度(℃)(分)をX、加熱時間(分)をYとしたとき、以下の式(1)の条件:
式(1) Y≧34×(X-60)-1.1 (ただし、61≦X≦150)
を満たし、pH(20℃)が5.0~7.5である、飲料の製造方法。
[3]飲料がピラジン類を10~20000ppb含有する、[1]又は[2]に記載の飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、加熱されたL-エルゴチオネインを含有させるだけで、効果的にコク味の付与された飲料を製造することができる。この製造では、特殊な設備投資も必要とせず工業生産性に対するマイナス影響が極めて少ないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の実験6の結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明の実施形態が以下の例に限定されるものではない。
本発明は、加熱されたL-エルゴチオネインを有効成分として含有させることにより、飲料にコク味を付与することができることを見出だしたことに基づく。ここで、本発明における「コク味」とは、飲料の味覚的な官能検査に際して、総合的な質量感、厚み・深みのある濃厚な味わい、味の充実感を意味し、本発明における「コク味の付与」とは、「コク味」を増強強化又は強調することを意味する。具体的には、飲料のベースの味(茶、コーヒーなど)の濃厚感、持続性や広がりを強めることや、無味の飲料(水、炭酸水など)である場合には飲み応えとして認識される濃厚感を強めることを表す。
【0012】
(L-エルゴチオネイン)
本発明では、加熱されたL-エルゴチオネイン(L-(+)-Ergothioneine (CAS 58511-63-0))(以下、L-エルゴチオネインをEGTと略す)を有効成分として含有させることにより、飲料にコク味を付与することができることを見出したことに基づく発明である。飲料に非加熱のEGTを添加しても本発明のコク味付与効果は発現しないが、加熱されたEGTを添加することによりコク味付与効果が発現し、無添加の場合と比較して、飲料の「コク」風味を増強強化又は強調する効果が得られる。EGTは、下記式Iで表される化合物であり、熱安定性に優れることが知られているが、この化合物の構造の一部分が加熱処理により変化し、本願発明の効果を奏していると考えられる。
【0013】
【0014】
加熱されたEGTとは、溶液状態にあるEGTに対して61~150℃で後述する式(1)の条件を満たす範囲の時間で加熱されて得られるEGT溶液をいう。ここで、加熱されたEGTの原料となるEGTとしては、化学合成による市販品のEGTを用いてもよいし、EGTを含むキノコ類や酒粕などからの抽出物やその精製品を用いてもよい。EGTの抽出に用いることができるキノコ類としては、ヒラタケ科ヒラタケ属のキノコであるタモギタケ(Golden/Yellow Oyster mushroom)(学名:Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus);ホワイトボタンマッシュルーム、クリミニマッシュルーム、ポータベラ(Portabella)マッシュルーム等のツクリタケ(学名:Agaricus bisporus);ヒラタケ(Grey Oyster Mushroom)(学名:Pleurotus ostreatus);シイタケ(学名:Lentinula edodes);マイタケ(学名:Grifola Frondosa);レイシ(学名:Ganoderma lucidum);ヤマブシタケ(学名:Hericium erinaceus);ヤナギマツタケ(学名:Agrocybe aegerita);アンズタケ(学名:Cantharellus cibarius);ポルチーニ(学名:Boletus edulis);アミガサダケ(学名:Morchella esculenta)等を挙げることができ、これらの1種または複数種類を組み合わせて用いることができる。EGTの含有量の多さから、これらの中では、タモギタケが好ましい。EGTとして抽出物を用いる場合、EGT以外の成分の香味が飲料に影響を及ぼすことがあるため、脱臭処理などを行って粗精製品とすることが好ましい。
【0015】
(飲料)
本発明により得られる飲料は、pH(20℃)が5.0~7.5であることが好ましい。pH(20℃)は、より好ましくは5.5~7.0であり、さらに好ましくは5.5~6.5である。酸味が知覚されるpH5.0未満の飲料では、酸の種類や量、併用する甘味料の種類や量など、コク味をコントロールする方法が種々あるため、本発明の課題が認識され難く、本発明の加熱されたEGT添加によるコク味付与効果が知覚されにくいことがある。一方、飲料のpHが7.5を超える場合、飲料中の溶存二酸化炭素が炭酸イオン(CO3
2-)となることがあるため、味、香り等の刺激バランスの制御が難しく、所望される美味しいコク味を付与することが困難なことがある。飲料のpHは市販のpHメーターを使用して容易に測定することができる。
【0016】
香気物質の中で、ピラジン類は飲食品の風味に広がりを与えることからコク味を付与する物質であると報告されている(斉藤知明:食品のこくとこく味、味と匂誌、11、165-174 (2004))。ベースとなる飲料がピラジン類を含有する飲料である場合、本発明の加熱されたEGT添加によるコク味付与効果が、相加的又は相乗的に発現することから、ピラジン類を含有する飲料は、本発明の飲料の好適な態様の一例である。
【0017】
具体的には、本発明により得られる飲料が、ピラジン類を10~20000ppb含有することが好ましい。ピラジン類を含有する飲料としては、植物の焙煎物(焙煎植物)の抽出物を含有する飲料が例示できる。焙煎植物の原料となる植物としては、緑茶、紅茶、烏龍茶、プーアル茶などのカメリア・シネンシス(Camellia sinensis)に属する茶葉類;ハトムギ、玄米、大麦、ソバなどのイネ科植物、マメ科植物、タデ科植物に属する穀物類;アカネ科コフィア属に属するコーヒー豆類が挙げられる。本明細書中では、茶葉抽出物を主成分として含有する飲料を茶飲料とし、上記カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)に属する植物を含まず、穀物類の抽出物を主成分として含有する飲料を穀物茶飲料とし、コーヒー豆の抽出物を含有する飲料をコーヒー飲料とする。なかでも本発明の効果の顕著さから、本発明の飲料は、麦茶や玄米茶などの穀物茶飲料や緑茶などの茶飲料であることが好ましい。本発明の飲料は、1種類の焙煎植物抽出物を含んでいてもよいし、複数の種類の焙煎植物抽出物を含んでいてもよい。例えば、ブレンド茶なども本発明の好適な態様の一つである。
【0018】
上述のとおり、飲料はピラジン類を10~20000ppb含有することが好ましい。飲料がコーヒー飲料である場合、ピラジン類を2000~20000ppb含有することが好ましく、3000~17000ppb含有することがより好ましく、4000~15000ppb含有することがさらに好ましい。飲料が穀物茶飲料である場合、例えば、1000~10000ppb含有することが好ましく、2000~9000ppb含有することがより好ましく、3000~8000ppb含有することがさらに好ましい。飲料が茶飲料の場合、10~500ppb含有することが好ましく、12~400ppb含有することがより好ましく、15~300ppb含有することがさらに好ましい。なお、本発明におけるピラジン類とは、ピラジン(Pyrazine)、2-メチルピラジン(2-Methylpyrazine)、2,5-ジメチルピラジン(2,5-Dimethyl pyrazine)、2,6-ジメチルピラジン(2,6-Dimethyl pyrazine)、エチルピラジン(Ethyl pyrazine)、2,3-ジメチルピラジン(2,3-Dimethyl pyrazine)、3-エチル-2,5-ジメチルピラジン(3-Ethyl-2,5-dimethylpyrazine)、及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジン(2-Ethyl-3,5-dimethyl pyrazine)の合計値を意味とする。
【0019】
飲料中のピラジン類濃度は、GC/MS測定により求めることができる。定量イオンは以下に示すイオンから、検出感度、ピーク形状、及びピーク分離が良好なものを選択できるが、下記イオンのいずれを用いてもピーク形状又は感度が良好でない場合は、試料液を蒸留水で適切な倍率に希釈するか、SIMモードを用いることができる。
・ピラジン m/z80又は53
・2-メチルピラジン m/z94、67又は53
・2,5-ジメチルピラジン m/z108、81又は109
・2,6-ジメチルピラジン m/z108、67、81又は109
・2,3-ジメチルピラジン m/z67、108、66又は109
・エチルピラジン m/z107、108、80、53又は81
・3-エチル-2,5-ジメチルピラジン m/z135、136、108、107又は121
・2-エチル-3,5-ジメチルピラジン m/z135、136、108又は121
一般的に、飲食品に「とろみ」があると、濃厚な風味を知覚し、「コク味」があると認識される。そのため、飲料がとろみを有していると、本発明の課題が顕在化し難い。一方、とろみのない飲料では、一般には消費者に「コク味」を知覚させることが難しい。本発明は、とろみのない飲料にも「コク味」を付与することができるので、とろみのない飲料は、本発明の製造方法を適用する対象として好ましいといえる。とろみのない飲料とは、具体的には、粘度が20mPa・s以下、好ましくは15mPa・s以下、より好ましくは10mPa・s以下の飲料或いは増粘剤を配合していない飲料をいう。なお、本明細書において、粘度は、B型回転式粘度計を用いて、回転数:60rpm、検体温度:10℃、計測時間:30秒の条件で測定した値をいう。
【0020】
また、油脂の入っている飲食品は、「コク味」があることが経験的に知られている。一方、油脂を含まない飲料では、一般には消費者に「コク味」を知覚させることが難しい。本発明は、油脂を含まない飲料にも「コク味」を付与することができるので、油脂を含まない飲料は本発明の製造方法を適用する対象として好ましいといえる。油脂を含まない飲料とは、乳脂肪などの動物性油脂やパーム油等の植物性油脂(植物加工油脂も含む)を配合していない飲料であり、具体的には、飲料中の脂質含量が1.5w/v%以下、好ましくは1.0w/v%以下、より好ましくは0.5w/v%以下、特に好ましくは0w/v%の飲料をいう。
【0021】
同様に、うま味成分が少ない飲料は、一般には消費者に「コク味」を知覚させることが難しいが、本発明の製造方法を用いることにより「コク味」を付与することができるので、本発明の対象として好ましいといえる。うま味成分が少ない飲料としては、糖類やデキストリン含量が低い飲料や、タンパク質含量が低い飲料が挙げられる。糖類含量が少ない飲料とは、飲料中の炭水化物の含有量の合計が6.0w/v%以下、好ましくは5.0w/v%以下、より好ましくは4.0w/v%以下、さらに好ましくは3.0w/v%以下、特に好ましくは2.0w/v%以下、或いは0w/v%の飲料の飲料をいう。また、タンパク質含量が低い飲料とは、飲料中のタンパク質の含有量が1.5w/v%以下、好ましくは1.0w/v%以下、より好ましくは0.5w/v%以下、特に好ましくは0w/v%の飲料をいう。
【0022】
同様に、可溶性固形分が低い飲料は、一般には消費者に「コク味」を知覚させることが難しいが、本発明の製造方法を用いることにより「コク味」を付与することができるので、本発明の対象として好ましいといえる。可溶性固形分が低い飲料とは、飲料中の可溶性固形分(ブリックス値)が8以下、好ましくは6以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下の飲料をいう。可溶性固形分の下限値は特にないが、飲料中の可溶性固形分(ブリックス値)が0.1以上あると、より効果的にコク味を付与することができるので好ましい。可溶性固形分は、糖度計や屈折計などを用いて得られるブリックス値によって評価することができる。ここで、ブリックス値は、20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値である。単位は「°Bx」、「%」または「度」で表示される。
【0023】
その他、本発明の飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料と同様に、各種添加剤などを配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、香料、エキス類、ビタミン類、ミネラル類、色素類、酸化防止剤などを挙げることができる。
【0024】
本発明の飲料には、便宜上、水等で希釈して飲用に供する濃縮液も含まれるものとする。
(飲料の製造方法)
本発明では、EGTを飲料用の調合液に配合した後に加熱処理することにより、飲料中に加熱されたEGTが含有されるようにしてもよい(方法A)し、加熱されたEGTを飲料に配合してもよい(方法B)。すなわち、以下の工程を有する製造方法の態様を包含する。
【0025】
(方法A)
以下の工程a)~d)を有する飲料の製造方法:
飲料調合液を調製する工程a)、
飲料調合液にEGTを添加する工程b)、
飲料調合液のpHを5.0~7.5に調整する工程c)、及び
EGTを含有する飲料調合液を加熱する工程d)
(方法B)
以下の工程a)及びx)~z)を有する飲料の製造方法:
飲料調合液を調製する工程a)、
EGT含有溶液を調製する工程x)、
前記EGT含有溶液を加熱して、EGT加熱溶液を調製する工程y)、及び
前記飲料調合液と前記EGT加熱溶液とを混合する工程z)。
【0026】
ここで、飲料が緑茶飲料である場合を例に、方法Aについて詳述する。飲料液を調整する工程a)は、(a1)焙煎植物(茶葉)を得る火入れ工程と、(a2)焙煎植物から焙煎植物抽出物(茶葉抽出液)を得る抽出工程と、(a3)茶葉抽出液に必要に応じて酸化防止剤、水等を添加して調合液を調製する工程とを含む。
【0027】
(a1)火入れ工程は、製茶加工プロセスで使用される火入れ機や焙じ機を使用して行うことができる。火入れ工程は、ピラジン類が生成しうる条件を採用することが好ましい。例えば、茶温を100~160℃として5~30分間にわたって行う加熱火入れや、茶温を150~250℃として5~20分間にわたって行う加熱焙煎が挙げられる。
【0028】
(a2)抽出工程では、前記の火入れ茶葉から茶葉抽出液を得る。抽出方法としては、ニーダー抽出、攪拌抽出、ドリップ抽出、カラム抽出等の公知の方法を採用することができる。抽出倍率(抽出用水質量/茶葉質量)及び抽出時間は抽出方法により適宜設定することができるが、例えば、抽出倍率は5~50倍であることが好ましく、10~40倍であることがさらに好ましく、15~30倍であることが特に好ましい。また、抽出時間は3~120分であることが好ましく、7~60分であることが特に好ましい。
【0029】
抽出用水として、例えば、蒸留水、脱塩水、水道水、アルカリイオン水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水や、無機塩類を含有する水などを適宜選択して使用することができる。特に純水やイオン交換水を用いることが好ましい。抽出用水の温度は、抽出効率及び風味の観点から、50~95℃であることが好ましく、60~90℃であることがより好ましい。なお、得られた茶葉抽出物は、冷却後、ろ過及び/又は遠心分離処理により、夾雑物を分離する。
【0030】
(a3)調合工程では、必要に応じて酸化防止剤(アスコルビン酸など)などを配合する。また、最終飲料におけるピラジン類が10~20000ppbとなるように水等で希釈してもよい。
【0031】
工程b)では、飲料調合液にEGTを添加してEGT含有飲料調合液を調製する。EGTは、調合液中のEGT濃度が0.3ppm(w/w)以上、好ましくは0.5ppm(w/w)以上、より好ましくは1ppm(w/w)以上、さらに好ましくは4ppm(w/w)以上、特に好ましくは6ppm(w/w)以上となるように添加する。EGT濃度の上限は特に制限されないが、EGTを多量に添加してもコク味付与効果が高まるわけではないことから、経済的メリットを考慮して、440ppm(w/w)以下程度である。好ましくは300ppm(w/w)以下、より好ましくは200ppm(w/w)以下、さらに好ましくは100ppm(w/w)以下、特に好ましくは80ppm(w/w)以下である。
【0032】
工程c)では、飲料調合液のpHを5.0~7.5に調整する。工程c)に供する飲料調合液は、工程a)で準備した飲料調合液であってもよいし、工程b)でEGTを含有させた飲料調合液であってもよいし、後述する工程d)でEGT含有飲料調合液を加熱した後の飲料調合液であってもよい。また、工程(a3)の調合工程と工程c)とを同時に行ってもよい。飲料調合液のpH調整は、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いて適宜行うことができる。
【0033】
工程d)では、EGTを含有させた飲料調合液を加熱処理する。工程d)は、工程b)のEGTを添加する工程が行われた後であればいつ行われてもよく、工程b)に続いて行ってもよいし、工程b)の後、工程c)を行ってから工程d)を行ってもよい。工程d)では、以下の式(1):
式(1) Y≧34×(X-60)-1.1 (ただし、61≦X≦150)
を満たす条件で加熱を行う。ここで、Xは加熱温度(℃)であり、Yは加熱時間(分)である。本明細書において加熱処理に関して記載される温度は液温を意味する。式(1)を満たす条件で加熱を行った場合、「コク味」を効果的に付与できる加熱されたEGTを得ることができることを見出した。
【0034】
加熱温度は、61~150℃の範囲で、かつ式(1)を満たす条件であれば特に限定されないが、好ましくは65℃以上の温度であり、より好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上である。61℃未満の温度では、EGTの加熱変化が期待できず、本発明の加熱されたEGTによるコク味付与効果が得られないことがある。本発明の効果との関係では、加熱温度の上限値は150℃であり、140℃以下程度が好ましい。
【0035】
加熱時間は、加熱温度に応じて、式(1)を満たす条件であればよい。加熱時間の上限値は通常60分以下であることが好ましく、30分以下がさらに好ましく、15分以下がより好ましい。
【0036】
方法Aで得られた加熱されたEGTを含有する飲料調合液は、そのまま又は希釈して容器詰飲料とすることができる。容器詰飲料を製造する場合は、工程c)又は工程d)の後に、飲料液を容器に充填する工程e)を備える。飲料液を充填する容器としては、一般の飲料と同様に、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合化した紙容器、瓶等の通常の包装容器が挙げられる。
【0037】
次に、飲料が緑茶飲料である場合を例に、方法Bについて詳述する。飲料液を調整する工程a)は、方法Aと同様に、(a1)焙煎植物(茶葉)を得る火入れ工程と、(a2)焙煎植物から焙煎植物抽出物(茶葉抽出液)を得る抽出工程と、(a3)茶葉抽出液に必要に応じて酸化防止剤、水等を添加して調合液を調製する工程とを含む。
【0038】
工程x)では、EGT含有溶液を調製する。溶液中のEGTは1.0ppm以上、好ましくは3.0ppm以上、より好ましくは5ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上である。EGTが溶解状態にあれば、溶液中のEGT濃度に特に上限はないが、通常、10000ppm程度である。EGT溶液の溶媒は、水であることが好ましく、例えば、蒸留水、脱塩水、水道水、アルカリイオン水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水や、無機塩類を含有する水などを適宜選択して使用することができる。EGTとしてキノコ類や酒粕などからの抽出物で液状の形態のものを用いる場合は、そのまま又は必要に応じて濃縮等を行って用いることができる。
【0039】
工程y)では、前記EGT含有溶液を加熱してEGT加熱溶液を調製する。工程y)の加熱の条件は、方法Aにおける工程d)と同じである。なお、工程x)における抽出物の濃縮が加熱濃縮であり、その加熱条件が工程y)の条件を満たす場合には、工程y)を省くこともできる。
【0040】
工程z)では、前記工程a)で調製された飲料調合液と、前記工程y)で得られたEGT加熱溶液とを混合する。混合の際には、混合液中のEGT濃度が、0.3~440ppm(w/w)となるように混合する。混合液中のEGT濃度は、好ましくは0.5ppm(w/w)以上、より好ましくは1ppm(w/w)以上、さらに好ましくは4ppm(w/w)以上、特に好ましくは6ppm(w/w)以上である。また、EGTを多量に添加してもコク味付与効果が高まるわけではないことから、経済的メリットを考慮して、440ppm(w/w)以下であり、好ましくは300ppm(w/w)以下、より好ましくは200ppm(w/w)以下、さらに好ましくは100ppm(w/w)以下、特に好ましくは80ppm(w/w)以下である。
【0041】
混合液のpHが5.0~7.5の範囲内となるように、必要に応じてpHの調整を行う。混合液のpH調整は、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いて適宜行うことができる。
【0042】
本発明の方法Bで得られた混合液は、そのまま又は希釈して容器詰飲料とすることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例中の成分及び物性値は以下の方法により測定した。
(粘度測定)
粘度測定には、B型粘度計を用いた。測定条件は次のとおり。
・使用機種:B型粘度計(TVB-10型・東機産業社製)
・ローター:No.20
・測定試料:400mL
・測定温度:10℃
・測定時間:30秒
・ローター回転数:60rpm
(可溶性固形分の測定)
20℃におけるBrix値を糖用屈折計示度(アタゴ株式会社、RX-5000)で測定した。
【0044】
(ピラジン類の定量)
試料となる飲料液5mlをネジ付き20ml容ガラス瓶(直径18mm,ゲステル社製)に入れてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製セプタム付き金属蓋(ゲステル社製)にて密栓し、固相マイクロ抽出法(SPME)にて香気成分の抽出を行った。定量は、GC/MSのEICモードにて検出されたピーク面積を用い、標準添加法にて行った。使用した機器及び条件を以下に示す。
・SPMEファイバー:StableFlex/SS,50/30μm DVB/CAR/PDMS(スペルコ社製)
・全自動揮発性成分抽出導入装置:MultiPurposeSampler MPS2 XL(ゲステル社製)
・予備加温:40℃ 5分間
・攪拌:なし
・揮発性成分抽出:40℃ 30分間
・揮発性成分の脱着時間:3分間
・GCオーブン:GC7890A(アジレントテクノロジーズ社製)
・カラム:VF-WAXms, 60m×0.25mm i.d. df=0.50μm(アジレントテクノロジーズ社製)
・GC温度条件:40℃(5分間)→5℃/分→260℃(11分間)
・キャリアーガス:ヘリウム,1.2ml/分,流量一定モード
・インジェクション:スプリットレス法
・インレット温度:250℃
・質量分析装置:GC/MS Triple Ouad7000(アジレントテクノロジーズ社製)
・イオン化方式:EI(70eV)
・測定方式:スキャン測定、またはスキャン&SIM同時測定
・スキャンパラメータ:m/z35~ 350
なお、ピラジン類含量は、ピラジン、2-メチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、エチルピラジン、3-エチル-2,5-ジメチルピラジン、2-エチル-3,5-ジメチルピラジンの合計量である。定量イオンは以下に示すイオンを用いた。
・ピラジン m/z80
・2-メチルピラジン m/z67
・2,5-ジメチルピラジン m/z108
・2,6-ジメチルピラジン m/z108
・2,3-ジメチルピラジン m/z108
・エチルピラジン m/z107
・3-エチル-2,5-ジメチルピラジン m/z135
・2-エチル-3,5-ジメチルピラジン m/z135
(脂質、炭水化物、タンパク質の定量)
試料となる飲料液について、食品表示法(平成25年法律第70号)第4条第1項の規定に基づく食品表示基準(平成27年4月1日施行)で定義される脂質、炭水化物、タンパク質含有量をそれぞれ分析した。
【0045】
(実験1)加熱されたEGTのコク味付与効果(緑茶飲料A)
まず、緑茶葉を用いて緑茶飲料を製造した。緑茶葉は、水蒸気熱を茶生葉に加え茶生葉に含まれる酸化酵素を不活性化(殺青)させた後、粗揉、揉捻、中揉及び精揉によって揉込み、乾燥させる一連の荒茶加工を施し、さらに火入れ加工(回転ドラム型火入れ機使用;100℃、10分間)を施して調製した。ニーダー中に65℃に加熱したイオン交換水4000gと前記の緑茶葉130gを入れ、5分間攪拌抽出した。これを30℃以下に冷却し、遠心分離により茶葉を除去して緑茶抽出液を得、緑茶葉由来の可溶性固形分(ブリックス値)が0.3°Bxとなるように水で希釈した。この緑茶抽出液に、400ppmのL-アスコルビン酸と20ppm又は440ppm(w/w)のエルゴチオネイン(EGT)(TETRAHEDRON社製、純度99.5%以上)を添加し、さらに炭酸水素ナトリウムを加えてpH(20℃)を6.4に調整して飲料液を得た。この飲料液を熱交換機により135℃、30秒間加熱処理を行った後、約80℃まで冷却し、350mL耐熱性ペットボトル容器に充填し、密封した後、20℃まで冷却して容器詰飲料を得た(ピラジン含有量:17.4ppb、タンパク質:0%w/v、脂質:0%w/v、炭水化物:0%w/v、可溶性固形分:0.3°Bx、粘度:2mPa・s、pH6.1)。比較として、飲料液を加熱処理せずにそのままペットボトル容器に充填した容器詰飲料(20℃)も製造した。また、EGT無添加とする以外は同様にして、加熱処理を行った容器詰飲料と加熱処理を行っていない容器詰飲料を製造した。
【0046】
得られた容器詰飲料について、専門パネラー5名による飲用試験を実施しコク味を官能評価した。かかる官能評価は、EGT無添加で加熱処理を行っていない飲料を対照として行った。5名の専門パネルに対し、対照飲料及びEGT添加飲料(加熱処理なし、加熱処理あり)それぞれについて、対照とEGT添加飲料を組み合わせたペアを提示し、パネルは提示されたペアのうちどちらの飲料がコク味を感じるか、2点識別試験により評価した。結果を表1に示す。EGTを添加しただけではコク味付与効果は発現しないが、EGTを添加して加熱処理を行うことで、コク味付与効果が発現することが判明した。
【0047】
【0048】
(実験2)EGT濃度の検討(1)
実験1と同様に緑茶抽出液を得、これにEGT 0~440ppm、L-アスコルビン酸350ppmを配合し、炭酸水素ナトリウムを添加してpHを6.4に調整して飲料液を得た。この飲料液を190mL缶容器に180gずつホットパックした後、レトルト殺菌機を用いて135℃で1.5分間の加熱処理を行った。その後、20℃まで冷却して容器詰飲料を得た(ピラジン含有量:17.5ppb、タンパク質:0%w/v、脂質:0%w/v、炭水化物:0%w/v、可溶性固形分:0.3°Bx、pH6.1)。得られた容器詰飲料について、専門パネラー5名による官能評価を実施した。かかる官能評価は、EGT各濃度における加熱処理なしの飲料を対照として、加熱処理ありの飲料のコク味の強さを下記の評価基準に基づいて個々で評価した後、協議の上まとめた。なお、コク味の評価は、実験1においてパネル全員がコク味があると評価したEGT20ppm添加・加熱ありのコク味の強さを4点として評価した。
【0049】
[コク味の評価基準]
4:対照(未加熱品)と比較してコク味を強く感じる
3:対照(未加熱品)と比較してコク味を感じる
2:対照(未加熱品)と比較してわずかにコク味を感じる
1:対照(未加熱品)とコク味の強さは変わらない
表2に結果を示す。加熱されたEGTを0.3ppm以上含有する飲料は、対照に比べてコク味がわずかに感じられるものとなった。また、1.0ppm以上含有する飲料は、効果的にコク味が付与されていた。
【0050】
【0051】
(実験3)EGT濃度の検討(2)
実験2の緑茶飲料の緑茶葉を焙じ茶葉に変える以外は、同様の実験を行った。焙じ茶葉は、摘採後の茶生葉を荒茶加工(殺青、粗揉、揉捻、中揉、精揉、乾燥)し、回転ドラム型焙煎機で180℃15分間の火入れ加工を行って調製した茶葉を用いた。得られた容器詰飲料(ピラジン含有量:147.7ppb、タンパク質:0%w/v、脂質:0%w/v、炭水化物:0%w/v、可溶性固形分:0.3°Bx、粘度:2mPa・s、pH6.1)について、実験2と同様にしてコク味の強さを評価した。
【0052】
表3に結果を示す。焙じ茶飲料においても、加熱されたEGTを0.3ppm以上含有する飲料は、対照に比べてコク味がわずかに感じられるものとなった。また、1.0ppm以上含有する飲料は、効果的にコク味が付与されていた。
【0053】
【0054】
(実験4)EGT濃度の検討(3)
実験2の緑茶飲料を麦茶飲料に変えて同様の実験を行った。六条大麦を熱風焙煎法によりL値32となるまで焙煎焙煎した。この焙煎麦の丸粒30gを1Lの水に浸漬させ、10分間沸騰させてから固液分離して、麦茶抽出液を得、麦茶由来の可溶性固形分(ブリックス値)が0.3°Bxとなるように水で希釈した。これにEGT 0~440ppm、及び炭酸水素ナトリウムを添加してpHを6.5に調整して飲料液を得た。この飲料液を190mL缶容器に180gずつホットパックした後、レトルト殺菌機を用いて135℃で1.5分間の加熱処理を行った。その後、20℃まで冷却して容器詰飲料を得た(ピラジン含有量:5965.5ppb、タンパク質:0%w/v、脂質:0%w/v、炭水化物:0%w/v、可溶性固形分:0.3°Bx、粘度:3mPa・s、pH6.3)。得られた容器詰飲料について、実験2と同様にしてコク味の強さを評価した。
【0055】
表4に結果を示す。麦茶飲料においても、加熱されたEGTを0.3ppm以上含有する飲料は、対照に比べてコク味がわずかに感じられるものとなった。また、1.0ppm以上含有する飲料は、効果的にコク味が付与されていた。
【0056】
【0057】
(実験5)EGT濃度の検討(4)
実験2の緑茶飲料をコーヒー飲料に変えて同様の実験を行った。まず、ブラックコーヒー飲料を製造した。コーヒー豆(グアテマラ種)をコーヒー豆焙煎機を用いて中煎り(L値20)になるまで焙煎した。この焙煎コーヒー豆を粉砕し、ドリップ抽出器を用いて抽出(95℃)してコーヒー豆量(重量)の10倍量のコーヒー抽出液を得、コーヒー豆由来の可溶性固形分(ブリックス値)が1.1°Bxとなるように水で希釈した。これにEGT 0~440ppm、及び炭酸水素ナトリウムを添加してpHを6.3に調整して飲料液を得た。このブラックコーヒー飲料液を熱交換機により100℃で3分加熱処理し、ペットボトルに無菌下で充填して容器詰ブラックコーヒー飲料を得た(ピラジン含有量:9330ppb、タンパク質:0%w/v、脂質:0%w/v、炭水化物:0%w/v、可溶性固形分:0.3°Bx、粘度:3mPa・s、pH6.3)。
【0058】
次に、ミルク入りコーヒー飲料を製造した。上記のコーヒー抽出液(ブリックス値が1.1°Bxとなるように水で希釈したもの)に、ショ糖5.0%w/v、脱脂粉乳1.5%w/v、生クリーム2.0%w/vを加え、さらにEGT0~440ppm、及び炭酸水素ナトリウムを添加してpHを7.0に調整して飲料液を得た。このミルク入りコーヒー飲料液を熱交換機により145℃で20秒間加熱処理し、ペットボトルに無菌下で充填して容器詰ミルク入りコーヒー飲料を得た(ピラジン含有量:4675ppb、タンパク質:0.8%w/v、脂質:0.5%w/v、炭水化物:5.0%w/v、可溶性固形分:7.0°Bx、粘度:5mPa・s、pH6.8)。得られた容器詰飲料について、実験2と同様にしてコク味の強さを評価した。
【0059】
表5に結果を示す。ブラックコーヒー飲料においては、加熱されたEGTを0.3ppm以上含有する飲料は、対照に比べてコク味がわずかに感じられるものとなった。また、1.0ppm以上含有する飲料は、効果的にコク味が付与されていた。また、ミルク入りコーヒー飲料では、加熱されたEGTを0.5ppm以上含有する飲料は、対照に比べてコク味がわずかに感じられるものとなり、1.0ppm以上含有する飲料は、効果的にコク味が付与されていた。ミルク入りコーヒー飲料と比較して、ブラックコーヒー飲料はコク味付与効果がより顕著に発現する傾向にあった。
【0060】
【0061】
(実験6)加熱条件の検討
実験2と同様にして、EGTを20ppm含有する緑茶飲料液を製造した。この飲料液を蓋つきのプラスチック容器に50mLずつ入れ、60~95℃の湯浴にて加熱処理した。また、加熱温度が110℃以上の場合には熱交換機又はレトルト殺菌機を用いて加熱処理し、ペットボトル入り又は缶入りの容器詰飲料を得た。
【0062】
得られた容器詰飲料について、専門パネル4名による飲用試験を実施しコク味を官能評価した。かかる官能評価は、加熱処理を行っていない飲料を対照として行った。専門パネルに対し、対照飲料と加熱処理飲料を組み合わせたペアを提示し、パネルは提示されたペアのうちどちらの飲料がコク味を感じるか、2点識別試験により評価した。
【0063】
対照よりもコク味が明らかに強いと判断される飲料、すなわちパネル4人中3人以上が対照よりも「強い」又は「僅かに強い」と評価した飲料を〇、4人全員が「強い」と評価した飲料を◎として判定した。一方、「強い」又は「僅かに強い」と評価したパネルが4人中3人未満であった飲料を「×」として判定した。結果を表6に示す。また、この判定結果を
図1にプロットした。〇及び◎のデータより、加熱処理による効果が有効である範囲は、加熱温度(℃)をX、加熱時間(分)をYとすると、近似式Y≧34×(X-60)
-1.1で示すことができた。
【0064】
【0065】
(実験7)加熱されたEGTのコク味付与効果(水)
容器入りミネラルウォーター(サントリー天然水)を使用した(pH7.0)。この水に、20ppm(w/w)のEGTを添加して飲料液を得た。この飲料液を熱交換機により135℃、30秒間加熱処理を行った後、約80℃まで冷却し、350mL耐熱性ペットボトル容器に充填し、密封した後、20℃まで冷却して容器詰飲料を得た(ピラジン含有量:0ppb、タンパク質:0%w/v、脂質:0%w/v、炭水化物:0%w/v、可溶性固形分:0°Bx、pH6.9)。比較として、飲料液を加熱処理せずにそのままペットボトル容器に充填した容器詰飲料(20℃)も製造した。また、EGT無添加とする以外は同様にして、加熱処理を行った容器詰飲料と加熱処理を行っていない容器詰飲料を製造した。得られた容器詰飲料(EGT含有水)を、実験1と同様に2点識別試験により評価した。
【0066】
結果を表7に示す。EGTを添加しただけではコク味付与効果は発現しないが、EGTを添加して加熱処理を行うことで、コク味付与効果が発現することが判明した。ただし、水におけるコク味付与効果は実験1の緑茶飲料の場合よりも小さかった。緑茶飲料の場合には、対照と比べてはっきりとコク味が強くなったのに対し、水の場合には、僅かに強く感じられる程度であった。
【0067】
【0068】
(実験8)加熱されたEGTのコク味付与効果(緑茶飲料B)
コク味を付与する飲料として、実験1で製造した容器詰緑茶飲料(EGT無添加、加熱殺菌あり)を用いた。一方、EGTを純水に添加して溶解し、EGTを500ppm(w/w)含有するEGT溶液を調製し、これを190mL缶容器に180gずつホットパックした後、レトルト殺菌機を用いて135℃で1.5分間の加熱処理を行った後、20℃まで冷却して、EGT加熱溶液を製造した。容器詰緑茶飲料を開栓してプラスチックカップに開け、緑茶飲料中のEGT濃度が表8の濃度となるようにEGT加熱溶液を混合して、EGT含有緑茶飲料を製造した(pH6.3)。対照として、EGT加熱溶液と同量の水(EGT無添加)を混合した緑茶飲料も製造した。得られた緑茶飲料について、専門パネラー5名による飲用試験を実施しコク味を官能評価した。かかる官能評価は、EGT無添加の飲料を対照として行った。5名の専門パネルに対し対照とEGT添加飲料を組み合わせたペアを提示し、パネルは提示されたペアのうちどちらの飲料がコク味を感じるか、2点識別試験により評価した。
【0069】
結果を表8に示す。EGT加熱溶液を添加することで、コク味が付与されることが確認できた。EGTが0.5ppm以上となるようにEGT加熱溶液が添加された飲料は、パネルの過半数がコク味が付与されたと評価し、4.0ppm以上となるように添加された飲料は、パネル全員がコク味が付与されていると評価した。
【0070】