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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置及び画像生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20240403BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240403BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01J37/22 501Z
H01J37/28 C
H01J37/147 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021146210
(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公開番号】P2023039177
(43)【公開日】2023-03-20
【審査請求日】2022-12-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】橋口 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】八木 一樹
(72)【発明者】
【氏名】ルス シューユーマン ブルーム
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ダブリュー. リード
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0211820(US,A1)
【文献】特開2001-168017(JP,A)
【文献】特開2010-272398(JP,A)
【文献】特開2007-059370(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187548(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/102603(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上で荷電粒子線を走査し、荷電粒子線の走査に基づき試料から生じる信号を検出する検出器からの検出信号に基づいて画像を生成する荷電粒子線装置であって、
荷電粒子線のブランキングを行うブランカーと、
荷電粒子線の走査中に前記ブランキングを制御して、荷電粒子線を照射する領域に対応する画素と荷電粒子線を照射しない領域に対応する画素とから構成される画像を複数取得する画像取得部と、
取得された複数の画像を積算して積算画像を生成する積算画像生成部とを含み、
前記画像取得部は、
前記画像を取得する際の荷電粒子線のドーズ量を、取得する前記画像の数に比例して大きくする、荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項において、
前記画像取得部は、
前記ブランキングを画素毎に制御する、荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項において、
前記画像取得部は、
前記ブランキングを画素毎にランダムに制御する、荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項において、
前記画像取得部は、
荷電粒子線を照射する領域に対応する画像上の領域が互いに異なり、且つ荷電粒子線を照射しない領域に対応する画像上の領域が互いに異なる複数の画像を取得する、荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項において、
前記ブランカーは、静電シャッターである、荷電粒子線装置。
【請求項6】
試料上で荷電粒子線を走査し、荷電粒子線の走査に基づき試料から生じる信号を検出する検出器からの検出信号に基づいて画像を生成する画像生成方法であって、
荷電粒子線の走査中にブランカーによる荷電粒子線のブランキングを制御して、荷電粒子線を照射する領域に対応する画素と荷電粒子線を照射しない領域に対応する画素とから構成される画像を複数取得する画像取得工程と、
取得された複数の画像を積算して積算画像を生成する積算画像生成工程とを含み、
前記画像取得工程では、
前記画像を取得する際の荷電粒子線のドーズ量を、取得する前記画像の数に比例して大きくする、画像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置及び画像生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
STEMモードでは、ADF(暗視野法)によりZコントラストが得られ、像解釈が直感的であるために、TEMモードに比べて構造把握が容易である。また、位置情報も得られるため、EDS等の分析と組み合わせることで、TEMモードのような平均的な情報ではなく、ピクセルごとにデータを抽出することができるため、一般的には最近では専らSTEMモードが使用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-058363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、通常のスキャン(走査)方法では、細く絞った電子線を左から右側に走査するため、1ピクセル(画像上の1ピクセルに対応する試料上の領域)に当たる電子線量は電流密度が高く、TEMモードよりもSTEMモードの方が一般的に電子線ダメージは大きい。それにより、試料の観察や分析が困難になることがある。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、荷電粒子線の照射によって試料が受けるダメージを低減することが可能な荷電粒子線装置及び画像生成方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る荷電粒子線装置は、試料上で荷電粒子線を走査し、荷電粒子線の走査に基づき試料から生じる信号を検出する検出器からの検出信号に基づいて画像を生成する荷電粒子線装置であって、荷電粒子線のブランキングを行うブランカーと、荷電粒子線の走査中に前記ブランキングを制御して、荷電粒子線を照射する領域に対応する画素と荷電粒子線を照射しない領域に対応する画素とから構成される画像を複数取得する画像取得部と、取得された複数の画像を積算して積算画像を生成する積算画像生成部とを含む。
【0007】
また、本発明に係る画像生成方法は、試料上で荷電粒子線を走査し、荷電粒子線の走査に基づき試料から生じる信号を検出する検出器からの検出信号に基づいて画像を生成する画像生成であって、荷電粒子線の走査中にブランカーによる荷電粒子線のブランキングを制御して、荷電粒子線を照射する領域に対応する画素と荷電粒子線を照射しない領域に対応する画素とから構成される画像を複数取得する画像取得工程と、取得された複数の画像を積算して積算画像を生成する積算画像生成工程とを含む。
【0008】
本発明によれば、荷電粒子線の走査中にブランキングを制御して、荷電粒子線を照射する領域(照射領域)に対応する画素と荷電粒子線を照射しない領域(非照射領域)に対応する画素とから構成される画像を取得するようにすることで、非照射領域が照射領域で発生した熱やチャージ(帯電)の逃げ道となり熱やチャージの拡散が起きるため、荷電粒子線の照射によって試料が受けるダメージを低減することができる。
【0009】
(2)本発明に係る荷電粒子線装置では、前記画像取得部は、前記ブランキングを画素
毎に制御してもよい。
【0010】
また、本発明に係る画像生成方法では、前記画像取得工程において、前記ブランキングを画素毎に制御してもよい。
【0011】
(3)本発明に係る荷電粒子線装置では、前記画像取得部は、前記ブランキングを画素毎にランダムに制御してもよい。
【0012】
また、本発明に係る画像生成方法では、前記画像取得工程において、前記ブランキングを画素毎にランダムに制御してもよい。
【0013】
(4)本発明に係る荷電粒子線装置では、前記画像取得部は、荷電粒子線を照射する領域に対応する画像上の領域が互いに異なり、且つ荷電粒子線を照射しない領域に対応する画像上の領域が互いに異なる複数の画像を取得してもよい。
【0014】
また、本発明に係る画像生成方法では、前記画像取得工程において、荷電粒子線を照射する領域に対応する画像上の領域が互いに異なり、且つ荷電粒子線を照射しない領域に対応する画像上の領域が互いに異なる複数の画像を取得してもよい。
【0015】
(5)本発明に係る荷電粒子線装置及び画像生成方法では、前記ブランカーは、静電シャッターであってもよい。
【0016】
(6)本発明に係る荷電粒子線装置では、前記画像取得部は、前記画像を取得する際の荷電粒子線のドーズ量を、取得する前記画像の数に比例して大きくしてもよい。
【0017】
また、本発明に係る画像生成方法では、前記画像取得工程において、前記画像を取得する際の荷電粒子線のドーズ量を、取得する前記画像の数に比例して大きくしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る荷電粒子線装置の構成の一例を示す図。
図2】第1の実施形態で取得される画像の例を示す図。
図3】第1の実施形態で取得された複数の画像の積算の例を示す図。
図4】本実施形態の手法と従来の手法とでX線カウント数を規格化して比較した結果を示す図。
図5】第2の実施形態で取得された複数の画像の積算の例を示す図。
図6】処理部の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0020】
1.構成
図1は、本実施形態に係る荷電粒子線装置(電子顕微鏡)の構成の一例を示す図である。ここでは、荷電粒子線装置が、走査透過電子顕微鏡(STEM)の構成を有する場合について説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は、走査電子顕微鏡(SEM)の構成を有していてもよいし、集束イオンビーム装置(FIB)の構成を有していてもよい。また、ここでは、電子顕微鏡が分析装置としてエネルギー分散型X線分析装置(EDS、EDX)を備える場合について説明するが、分析装置として電子エネルギー損失分光分析装置(EELS)を備えていてもよいし、分析装置を備えていなくてもよい。なお本実施形態
の電子顕微鏡は図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0021】
図1に示すように、電子顕微鏡1は、電子顕微鏡本体10と、処理部100と、操作部110と、表示部120と、記憶部130とを含む。
【0022】
電子顕微鏡本体10は、電子線源11と、ブランカー12と、集束レンズ13と、走査偏向器14と、対物レンズ15と、試料ステージ16と、中間レンズ17と、投影レンズ18と、透過電子検出器19と、EDS検出器20と、ブランカー制御装置30と、偏向器制御装置31と、多重波高分析器32とを含む。
【0023】
電子線源11は、電子線EB(荷電粒子線の一例)を発生させる。電子線源11は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線EBを放出する。電子線源11としては、例えば、電子銃を用いることができる。
【0024】
ブランカー12は、電子線源11の後段(電子線EBの下流側)に配置されている。ブランカー12は、電子線EBのブランキングを行う。ブランカー12としては、静電シャッター(静電偏向器)を用いる。静電シャッターは、STEMのようなμs或いはnsオーダーでの走査に対応し、高速でオン/オフの切り替えができる。ブランカー12は、ブランカー制御装置30によって制御される。ブランカー制御装置30は、処理部100で生成された制御信号に基づいてブランカー12を制御する。
【0025】
集束レンズ13(コンデンサーレンズ)は、ブランカー12の後段に配置されている。集束レンズ13は、電子線源11で発生した電子線EBを集束して試料Sに照射するためのレンズである。集束レンズ13は、複数のレンズを含んで構成されていてもよい。
【0026】
走査偏向器14は、集束レンズ13の後段に配置されている。走査偏向器14は、電子線EBを偏向させて、集束レンズ13および対物レンズ15で集束された電子線EB(電子プローブ)で試料S上を走査する。走査偏向器14は、電子線EBを偏向させる偏向コイルを有している。走査偏向器14は、偏向器制御装置31によって制御される。偏向器制御装置31は、処理部100で生成された走査信号に基づいて走査偏向器14を制御する。
【0027】
対物レンズ15は、走査偏向器14(走査コイル)の後段に配置されている。対物レンズ15は、電子線EBを集束して試料Sに照射するためのレンズである。
【0028】
試料ステージ16は、試料Sを保持する。試料ステージ16は、試料ホルダー(図示省略)を介して試料Sを保持する。試料ステージ16は、試料ホルダーを移動及び静止させることにより、試料Sの位置決めを行うことができる。試料ステージ16は、ステージ制御装置(図示省略)によって制御され、試料Sを水平方向(電子線EBの進行方向に対して直交する方向)や鉛直方向(電子線EBの進行方向に沿う方向)に移動させることができる。
【0029】
中間レンズ17は、対物レンズ15の後段に配置されている。投影レンズ18は、中間レンズ17の後段に配置されている。中間レンズ17及び投影レンズ18は、試料Sを透過した電子線EBを透過電子検出器19に導く。例えば、中間レンズ17及び投影レンズ18は、対物レンズ15の像面もしくは後焦点面(回折図形が形成される面)を投影して透過電子検出器19上に結像する。
【0030】
透過電子検出器19は、投影レンズ18の後段に配置されている。透過電子検出器19は、試料Sを透過した電子を検出する。
【0031】
EDS検出器20は、電子線EBが照射されることにより試料Sから発生した特性X線を検出する。EDS検出器20としては、例えば、シリコンドリフト検出器(SDD)、Si(Li)検出器等を用いることができる。EDS検出器20の出力信号(出力パルス)は、多重波高分析器32に送られる。
【0032】
多重波高分析器32(マルチチャンネルアナライザー)は、複数のチャンネルを持った波高分析器である。多重波高分析器32は、EDS検出器20の出力信号(出力パルス)をX線のエネルギー毎に計数しEDSスペクトル情報を生成する。多重波高分析器32は、EDSスペクトル情報を処理部100に出力する。
【0033】
操作部110は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部100に出力する。操作部110の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネルなどのハードウェアにより実現することができる。
【0034】
表示部120は、処理部100によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRT、操作部110としても機能するタッチパネルなどにより実現できる。
【0035】
記憶部130は、処理部100の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データを記憶するとともに、処理部100のワーク領域として機能し、その機能はハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0036】
処理部100は、ブランカー制御装置30や偏向器制御装置31、ステージ制御装置等を制御する処理や、電子顕微鏡画像(走査透過電子顕微鏡像)や元素マッピング画像を取得する処理等を行う。処理部100の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部100は、画像取得部102、積算画像生成部104を含む。
【0037】
画像取得部102は、透過電子検出器19から出力された検出信号を、走査信号に同期させて画像化することにより、電子顕微鏡画像を取得する。また、画像取得部102は、多重波高分析器32から出力されたEDSスペクトル情報と走査信号に基づいて、電子線EBの走査領域に対応する各ピクセル(画素)のスペクトル(EDSスペクトル)を求め、画素毎のスペクトルに基づいて、特定エネルギー範囲(ROI)の積算強度をマッピングした元素マッピング画像を取得する。
【0038】
特に本実施形態の画像取得部102は、電子線EBの走査中にブランカー12によるブランキングを画素毎に制御して、電子線EBを照射する領域(以下、照射領域と呼ぶ)に対応する画素と電子線EBを照射しない領域(以下、非照射領域と呼ぶ)に対応する画素とから構成される画像(非照射領域に対応する画素のある不完全な電子顕微鏡画像又は元素マッピング画像)を複数取得し、積算画像生成部104は、画像取得部102で取得された複数の画像を積算して積算画像(1枚の電子顕微鏡画像或いは元素マッピング画像)を取得する。画像取得部102が取得する複数の画像は、照射領域に対応する画像上の領域が互いに少なくとも一部異なり、且つ非照射領域に対応する画像上の領域が互いに少なくとも一部異なる複数の画像である。また、画像取得部102は、電子線源11を制御して、画像を取得する際の電子線EBのドーズ量を、取得する画像の数に比例して大きくするようにしてもよい。
【0039】
2.本実施形態の手法
次に本実施形態の手法について図面を用いて説明する。
【0040】
2-1.第1の実施形態
第1の実施形態では、画像取得部102は、試料S上の照射領域に対応する画像上の領域と試料S上の非照射領域に対応する画像上の領域とが、横方向(主走査方向)に交互に並び、縦方向(副走査方向)のストライプを形成する画像を取得する。図2に、第1の実施形態で取得される画像(不完全な電子顕微鏡画像及び元素マッピング画像)の例を示す。図2に示す各画像において、非照射領域に対応する領域(画素群)は、縦方向に延びる輝度が0(黒色)の矩形領域である。
【0041】
具体的には、走査信号に対してTTL信号(或いは、ピクセルクロック)を同期させ、1水平走査線内の複数の画素に対して照射領域と非照射領域を設定する。例えば、電子線EBの画素滞在時間(1画素当たりの電子線EBの滞在時間、Dwell time)を10μs、ブランキングのオン/オフのタイミングを20μs、デューティ比を1/2にすると、1画素毎に照射する、照射しないという設定(1画素毎にブランキングのオン/オフを切り替える設定)になり、照射領域に対応する1画素幅の領域と非照射領域に対応する1画素幅の領域とが横方向に交互に並ぶ画像が取得される。また、電子線EBの画素滞在時間を10μs、ブランキングのオン/オフのタイミングを40μs、デューティ比を1/2にすると、2画素毎にブランキングのオン/オフを切り替える設定になり、照射領域に対応する2画素幅の領域と非照射領域に対応する2画素幅の領域とが横方向に交互に並ぶ画像が取得される。なお、図2に示す各画像は、複数の画素毎にブランキングのオン/オフを切り替える設定で走査して取得した画像である。また、電子線EBの画素滞在時間を10μs、ブランキングのオン/オフのタイミングを30μs、デューティ比を1/3にすると、横方向に隣接する3画素のうち1画素に照射し、残りの2画素に照射しないという設定になり、照射領域に対応する1画素幅の領域と非照射領域に対応する2画素幅の領域とが横方向に交互に並ぶ画像が取得される。このように1又は複数の画素毎にブランキングのオン/オフを切り替えて走査すると、照射領域では電子線EBによる熱やチャージが発生するが、横方向に隣接する領域には電子線EBが照射されないため、熱やチャージの逃げ道がある(熱やチャージの拡散が起きる)ことにより、電子線EBの照射によって試料Sが受けるダメージを低減することができる。
【0042】
このような画像を、照射領域を変えて複数取得する。すなわち、照射領域に対応する画像上の領域が互いに重複せず且つ非照射領域に対応する画像上の領域が互いに異なる複数の画像を取得する。そして、取得した複数の画像を積算して積算画像(1枚の電子顕微鏡画像又は元素マッピング画像)を生成する。図3に示す例では、複数の画素毎にブランキングのオン/オフを切り替える設定で走査して取得した画像Aと、画像Aと照射領域及び非照射領域が異なる(照射領域と非照射領域を入れ替えた)設定で同じ時間走査して取得した画像Bとを積算して、積算画像(1枚の元素マッピング画像)を生成している。
【0043】
なお、1又は複数の画素毎にブランキングのオン/オフを切り替える設定で2枚の画像を取得する手法では、従来の手法(非照射領域を設定しない手法)と比べると2倍の時間が必要となる。そのため、従来の手法と同様のスループットを得るためには2倍のドーズ量(電流量)が必要となる。また、例えば横方向に隣接する3画素のうち1画素に照射し、残りの2画素に照射しないという設定では、3枚の画像を取得する必要があり、従来の手法と同様のスループットを得るためには3倍のドーズ量が必要となる。すなわち、従来の手法と同様のスループットを得るためには、電子線EBのドーズ量を、取得(積算)する画像の数に比例して大きくする必要がある。
【0044】
1又は複数の画素毎にブランキングのオン/オフを切り替える設定で走査する手法(本実施形態の手法)と、従来の手法とで、X線カウント数(EDS検出器20の出力の計数値)を規格化して比較した。試料Sとしては、チタン酸ストロンチウムを用いた。また、
本実施形態の手法では、電子線EBのドーズ量を従来の手法の約1.9倍とした。図4に、比較結果を示す。図中左側のグラフは、本実施形態の手法でのフレーム毎のX線カウント数であり、右側のグラフは、従来の手法でのフレーム毎のX線カウント数である。左側のグラフでは、フレーム数を重ねてもX線カウントはほぼ変わっていないため、試料Sへのダメージは入っていないと考えられる。一方、右側のグラフでは、フレーム数を重ねるごとにX線カウント数が減少しており、試料Sへのダメージが入っていると考えられる。このように、本実施形態の手法では、従来手法と同様のスループットを得るためにドーズ量を大きくしても、試料Sへのダメージを低減できることが確認された。
【0045】
2-2.第2の実施形態
第2の実施形態では、画像取得部102は、照射領域に対応する画素と非照射領域に対応する画素がランダム(疑似的なランダム)に並ぶ画像を複数取得する。具体的には、電子線EBの走査中にブランキングのオン/オフを画素毎にランダムに制御する(走査領域内の複数の画素に対して照射領域と非照射領域をランダムに設定する)。そして、取得した複数の画像を積算して積算画像を生成する。図5に示す例では、走査中にブランキングを画素毎にランダムに制御して取得した3枚の画像A、B、Cを積算して積算画像を生成している。図5に示す画像A、B、Cにおいて、グレーで塗り潰された矩形領域が非照射領域に対応する画素を示し、その他の矩形領域が照射領域に対応する画素を示している。図5の例では、3画素に1画素の割合でランダムに照射するように且つ画像間で照射領域に対応する画素が互いに重複しないようにブランキングを画素毎に制御して3枚の画像を取得しているが、画像間での照射領域に対応する画素の重複を許容しつつブランキングを画素毎にランダムに制御してもよい。また、照射する割合は、1/n(nは2以上の整数)であってもよいし、その他の割合であってもよい。また、画像上において照射領域に対応する画素が隣接(連続)しないようにブランキングを制御してもよい。
【0046】
第1の実施形態の手法では、照射領域で発生した熱やチャージが逃げる領域が横方向に隣接する領域のみであるが、第2の実施形態の手法では、照射領域の上下方向や斜め方向にも熱やチャージが逃げる領域ができる場合があるため、試料Sへのダメージ低減を更に図れる可能性がある。
【0047】
また、ブランキングを画素毎にランダムに制御して複数の画像を取得する(例えば、n画素に1画素の割合でランダムに照射するように制御してn枚の画像を取得する)手法では、従来の手法と同様のスループットを得るために、取得する画像の数に比例して電子線EBのドーズ量を大きくする必要があるが、第1の実施形態の手法と同様に、ドーズ量を大きくしても、試料Sへのダメージを低減できると考えられる。
【0048】
3.処理
次に、処理部100の処理の一例について図6のフローチャートを用いて説明する。まず、画像取得部102は、変数mに1をセットし(ステップS10)、電子線EBの走査中にブランカー12によるブランキングを画素毎に制御して、照射領域に対応する画素と非照射領域に対応する画素とからなるm番目の画像を取得する(ステップS11)。ここで、第1の実施形態の手法では、1水平走査線内において例えば1又は複数の画素毎にブランキングのオン/オフを切り替える設定で走査を行ってm番目の画像を取得する。このとき、1~m-1番目の画像における照射領域に対応する領域とm番目の画像における照射領域に対応する領域が重複しないようにする。また、第2の実施形態の手法では、走査領域内においてブランキングのオン/オフを画素毎にランダムに制御して走査を行ってm番目の画像を取得する。次に、画像取得部102は、変数mがM(Mは取得する画像の総数、例えば、n画素に1画素の割合で照射する場合、M=n)に達したか否かを判断し(ステップS12)、変数mがMに達していない場合(ステップS12のN)には、変数mに1を加算して(ステップS13)、ステップS11に移行する。変数mがMに達した場
合(ステップS12のY)には、積算画像生成部104は、取得されたM個の画像を積算して積算画像を生成する(ステップS14)。
【0049】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0050】
1…電子顕微鏡(荷電粒子線装置)、10…電子顕微鏡本体、11…電子線源、12…ブランカー、13…集束レンズ、14…走査偏向器、15…対物レンズ、16…試料ステージ、17…中間レンズ、18…投影レンズ、19…透過電子検出器、20…EDS検出器、30…ブランカー制御装置、31…偏向器制御装置、32…多重波高分析器、100…処理部、102…画像取得部、104…積算画像生成部、110…操作部、120…表示部、130…記憶部、EB…電子線、S…試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6