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▶ セキスイ ダイアグノスティックス エルエルシーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】アセトアミノフェンアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20240403BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20240403BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20240403BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240403BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 31/167 20060101ALN20240403BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20240403BHJP
   A61P 25/04 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
C12Q1/34
C12N9/14
G01N31/22 122
G01N33/50 Z
G01N21/78 Z
A61K31/167
A61P29/00
A61P25/04
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2021510286
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 US2019030558
(87)【国際公開番号】W WO2019213489
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】62/666,282
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520429576
【氏名又は名称】セキスイ ダイアグノスティックス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Sekisui Diagnostics, LLC
【住所又は居所原語表記】One Wall Street, Burlington, MA 01803, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロバート エイコーン
(72)【発明者】
【氏名】ヘレン コーディ
(72)【発明者】
【氏名】グラハム コル
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521622(JP,A)
【文献】特開昭53-023977(JP,A)
【文献】米国特許第04224034(US,A)
【文献】特表平05-505243(JP,A)
【文献】特開2004-217576(JP,A)
【文献】Lawrence H. Keith,National Toxicology Program's chemical solubility compendium,Lewis Publishers,1991年
【文献】Anal. Chim. Acta (2001) vol.443, issue 1, p.165-169
【文献】Clin. Chim. Acta (1990) vol.187, issue 2, p.95-104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
C12Q 1/34
C12N 9/14
G01N 31/22
G01N 33/50
G01N 21/78
A61K 31/167
A61P 29/00
A61P 25/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定するためのキットであって、
アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するためのアリールアシルアミダーゼを含む第1試薬(R1)と;
p-アミノフェノールと酸化カップリングするためのキシレノール発色団を含む第2試薬(R2)と;
前記キシレノール発色団と前記p-アミノフェノールとの酸化カップリングを触媒するのに適切な触媒とを含み、
前記キシレノール発色団は、2,5-ジメチルフェノールであり、前記触媒は、MnCl水和物であり、
R2は、DMSOに溶解された2,5-ジメチルフェノールを含み、
前記キットは、1,000mg/lの無菌の非発熱性脂肪エマルジョンであって、20%の大豆油、1.2%の卵黄リン脂質、2.25%のグリセリン及び注射用水を含むエマルジョンの存在下で15.1μg/mLのアセトアミノフェンを検出することができることを特徴とする、キット。
【請求項2】
前記試料が水性試料であることを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記水性試料が血清または血漿であることを特徴とする、請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記第1試薬(R1)および前記第2試薬(R2)が液状で安定であることを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
前記キットは、アセトアミノフェン決定アッセイを実施するための説明をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のキットであって
記説明には、
前記試料をR1と第1の水性系希釈剤と接触させ、加水分解溶液を形成するステップと;
前記試料中のアセトアミノフェンをp-アミノフェノールに転化する加水分解反応を可能にするように前記加水分解溶液をインキュベートするステップと;
前記加水分解溶液をR2と、第2の水性系希釈剤と接触させ、酸化カップリング溶液を形成し、ここでR2が2,5-ジメチルフェノールおよびDMSOを含むステップと;
前記触媒の存在下で、前記キシレノール発色団が前記p-アミノフェノールと結合して着色生成物を形成する酸化カップリング反応を可能にするように前記酸化カップリング溶液をインキュベートするステップと;
形成された前記着色生成物の量を決定し、前記着色生成物の量は、前記試料中に最初に存在するアセトアミノフェンの量に比例するステップとを規定することを特徴とする、キット。
【請求項6】
前記アッセイが、i)生体液中に存在する生体分子、またはii)治療レベルのN-アセチルシステイン(NAC)の存在下で信頼できることを特徴とする、請求項5に記載のキットであって、前記生体分子が、ビリルビンおよびヘモグロビンからなる群から選択されるか、あるいは前記NACの治療レベルが800mg/Lを超える、キット。
【請求項7】
R1は、10U/L~5000U/Lの濃度でアリールアシルアミダーゼを含むことを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項8】
R2は、0.075g/L~115g/Lの濃度でキシレノール発色団を含むことを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項9】
前記触媒が0.0005g/L~1.000g/Lの濃度でR1中に存在することを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項10】
R2は、0.075g/L~115g/Lの濃度で2,5-ジメチルフェノールを含み、かつ、前記触媒が、MnCl・4HOであり、2.5g/L~20g/Lの濃度でR1中に存在することを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項11】
R2は、0.005g/L~5.000g/Lの濃度で還元グルタチオンをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項12】
R1は、タンパク質可溶化剤、タンパク質安定剤、酵素安定剤、金属キレート剤、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、賦形剤、またはそれらの組み合わせをさらに含むか、および/またはR2が、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤および賦形剤の1つ以上をさらに含む、請求項1に記載のキット
【請求項13】
前記酵素安定剤が、ポリビニルピロリドン40,000MW、BSAフラクションV、トレハロース、p-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上である、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
R1が、932.7U/Lのアリールアシルアミダーゼおよび0.0525g/LのMnCl・4HOを含み、
R2が、3.75g/Lの2,5-ジメチルフェノールおよび0.5g/Lの還元グルタチオンを含むことを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項15】
水性試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定する方法であって、
アセトアミノフェンを加水分解してp-アミノフェノールを形成するステップと;
前記p-アミノフェノールを適切な触媒の存在下でキシレノール発色団と酸化カップリングして着色生成物を形成するステップと;
形成された前記着色生成物の量を決定し、形成された前記着色生成物の量は、前記水性試料中に存在するアセトアミノフェンの量に比例するステップとを含み、
前記方法は、前記水性試料に治療レベルのN-アセチルシステイン(NAC)が存在するか又は存在しない場合に信頼でき、
前記キシレノール発色団は、2,5-ジメチルフェノールであり、前記触媒は、MnCl水和物であり、
かつ、R2は、事前にDMSOに溶解された2,5-ジメチルフェノールを含むことを特徴とする、方法。
【請求項16】
前記アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するステップにおいて、前記アセトアミノフェンをアリールアシルアミダーゼと接触させることを含むことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記キシレノール発色団が、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択され、かつ、
前記触媒が、弱酸化剤であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記水性試料が、血清または血漿であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
水性試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定するためのアッセイであって、
アリールアシルアミダーゼ酵素を含む第1試薬(R1)および水性系希釈剤と、前記水性試料とを接触させて、加水分解溶液を形成するステップと;
記加水分解溶液を希釈するステップと;
前記アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに転化する加水分解反応を可能にするように前記加水分解溶液をインキュベートするステップと;
事前にDMSOに溶解されたキシレノール発色団を含む第2試薬(R2)と、前記加水分解溶液とを接触させ、酸化カップリング溶液を形成するステップと;
適切な触媒の存在下で、前記キシレノール発色団が前記p-アミノフェノールに結合して着色生成物を形成する酸化カップリング反応を可能にするように、前記酸化カップリング溶液をインキュベートするステップ、ここで、前記触媒は金属塩であり、と;
形成された前記着色生成物の量を決定し、形成された前記着色生成物の量は、前記水性試料中に存在するアセトアミノフェンの量に比例するステップとを含み、
前記アッセイは、前記水性試料中に治療レベルのN-アセチルシステイン(NAC)が存在するか又は存在しない場合に信頼できることを特徴とする、アッセイ。
【請求項20】
R1は、10U/L~5000U/Lの濃度でアリールアシルアミダーゼを含むことを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項21】
前記キシレノール発色団が、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項22】
前記触媒が金属塩であり、かつ前記触媒が0.0005g/L~1.000g/Lの濃度でR1中に存在することを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項23】
R2は、0.075g/L~115g/Lの濃度で2,5-ジメチルフェノールを含むか、および/または、前記触媒は、MnCl・4H0であり、かつ2.5g/L~20g/Lの濃度でR1中に存在するか、および/または、R2は、0.005g/L~5.000g/Lの濃度で還元グルタチオンをさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項24】
R1が、タンパク質可溶化剤、タンパク質安定剤、酵素安定剤、金属キレート剤、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、または賦形剤の1つ以上をさらに含むか、前記希釈剤が脱イオン水であり、加水分解反応前に、前記加水分解溶液が前記希釈剤で1:1希釈されたか、および/または、R2が、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤または賦形剤の1つ以上をさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項25】
前記酵素安定剤が、PVP-40、BSAフラクションV、トレハロース、p-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸及びそれらの組み合わせからなるから群から選択される、請求項24に記載のアッセイ
【請求項26】
R1が、932.7U/Lのアリールアシルアミダーゼおよび0.0525g/LのMnCl・4H0を含み、かつ、R2が、3.75g/Lの2,5-ジメチルフェノールおよび0.500g/Lの還元グルタチオンを含むことを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項27】
前記加水分解反応および前記酸化カップリング反応が、それぞれ37℃の温度で3~10分間行われ、
前記加水分解反応が、8.6のpHで行われ、酸化カップリング反応が、10.8のpHで行われることを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項28】
前記アセトアミノフェンの濃度が、前記加水分解反応終了時と前記酸化カップリング反応終了時の吸光度の差を得、標準または一連の標準との差を比較することにより決定され、前記吸光度が、610nm~665nmの波長で測定されることを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項29】
前記吸光度が、660nmの波長で測定されることを特徴とする、請求項28に記載のアッセイ
【請求項30】
前記水性試料が、血清または血漿であることを特徴とする、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項31】
水性試料中のp-アミノフェノールの濃度を決定する方法であって、
弱酸化剤である触媒の存在下で、前記p-アミノフェノールと、事前にDMSOに溶解されたキシレノール発色団とを酸化カップリングして着色生成物を形成し、前記キシレノール発色団が2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択されるステップ、ここで、前記触媒は金属塩であり、と;
形成された前記着色生成物の量を決定し、形成された前記着色生成物の量は、前記水性試料中に最初に存在するp-アミノフェノールの量に比例しているステップとを含むことを特徴とする、方法。
【請求項32】
前記触媒が、MnCl水和物であり、前記キシレノール発色団が、2,5-ジメチルフェノールであることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2018年5月3日に出願された米国仮特許出願62/666,282の利益を主張し、その内容は、その全てを参照して本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、試料中に存在するp-アミノフェノールの濃度を決定するためのアッセイに関する。より詳しくは、本発明は、試料中に存在するアセトアミノフェンの濃度を決定するための酵素ベースのアッセイの改善に関する。
【背景技術】
【0003】
薬物毒性は急性肝不全の主な原因である。肝不全の評価について、臨床検査は診断で重要な役割を果たし、適切な治療を適時に開始することができる。
【0004】
アセトアミノフェン(N-アセチル-p-アミノフェノール)は、以前から長期にわたり鎮痛薬と解熱薬として処方されている。処方箋なしで広く利用でき、風邪やインフルエンザの治療薬などの多くの一般的な治療用製剤の活性成分である。この薬は広く普及しているため、肝機能障害患者において疑われる肝毒性物質のリストの上位に挙げられている。
【0005】
アセトアミノフェンは治療用量ではほとんど副作用を引き起こさないが、長期にわたって過度に使用すると、肝毒性と腎毒性につながることが報告されている。アセトアミノフェンを急性に過剰摂取すると、グルタチオンの枯渇と肝臓での有毒代謝物の蓄積を引き起こし、重度または致命的な肝不全を引き起こす可能性がある。
【0006】
アセトアミノフェンを過剰に摂取すると、反応性の高い中間体であるN-アセチル-p-ベンゾキノニアミンが肝臓に蓄積する。この中間体は、肝臓でのチオール、特にグルタチオンと反応する。グルタチオンはグルタチオンジスルフィド(GSSG)に酸化される。肝臓でGSSGが過剰が過剰となると、壊死を引き起こす。アセトアミノフェン毒性は、一般に約20mg/dL(1324μmol/L)以上の血清濃度で報告されている。
【0007】
前記グルタチオン前駆体であるN-アセチルシステイン(NAC)は、アセトアミノフェンの過剰摂取に対する解毒剤として投与されることが多い。投与されたNACの約70%は肝臓で代謝される。NACは、少なくとも以下の理由で解毒剤として機能すると考えられている:グルタチオンの前駆体であり、強力な抗酸化剤であり、肝臓におけるGSSG還元酵素の効率を高める。NACの投与は、グルタチオンの貯蔵を補充し、肝臓におけるGSSGの蓄積を防止することによって、少なくともある程度に、アセトアミノフェンの過剰摂取によって引き起こされる損傷を最小限に抑えるか、または防ぐと考えられている。
【0008】
高濃度のNACは、一般的に初期負荷用量で投与され、その後、治療の過程を通じてNACは維持量で投与される。負荷用量では、NACの血清中濃度は2000mg/Lまたはそれ以上になり、維持量では、約800mg/L~1000mg/Lになることが多い。NAC治療の過程を通してアセトアミノフェンのレベルを監視し、NACへの不必要または過度の暴露を避けながら適切な治療レベルを維持することが望ましい。
【0009】
偶発的または意図的なアセトアミノフェンの過剰摂取は、大幅に増加している。アセトアミノフェンの過剰摂取の診断と治療では、早期発見と体内の薬物の正確な測定を必要とする。含まれるアセトアミノフェンの量は、臨床医が患者に適切な治療用量を迅速に投与できるように、迅速かつ正確に決定する必要がある。生体試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するための迅速で信頼できる強固な臨床分析に対して、高い需要がある。
【0010】
生体試料中のアセトアミノフェンのレベルを決定するための公知の方法としては、例えば、種々のクロマトグラフィー法および分光光度法が挙げられる。
【0011】
気液クロマトグラフィーと高速液体クロマトグラフィーは、生体試料中のアセトアミノフェンのレベルの決定に対して信頼できる正確な方法であることが証明されている。しかし、どちらも高価な機器と高い技術スキルを必要とする冗長な手段である。このような方法は、迅速な結果が必要なStat実験室には特に適していない。
【0012】
示差吸光光度法は広く用いられているが、時間のかかる溶媒抽出を必要とするため、臨床分析では望ましくない。より迅速な分光光度法は、一般的に望ましい特異性を提供することができない。
【0013】
比色分析技術には、単純な比色測定と酵素ベースの比色アッセイが含まれる。様々な免疫ベースのアッセイも利用できるが、これらは一般的に、より高価であり、特に臨床環境では望ましくない。
【0014】
酵素ベースのアッセイは、免疫ベースのアッセイに比べて便利で経済的であるが、ビリルビンやヘモグロビンなどの、患者試料に頻繁に存在する生体分子から干渉されやすい傾向があるため、信頼性が低い。患者試料中のこのような分子のレベルの上昇は、偽陽性の結果を引き起こす可能性があり(例えば、Bertholfら,2003を参照)、誤診や、不適切な選択または治療の用量につながる可能性がある。
【0015】
既知の酵素アッセイは、治療レベルのNACの存在下で干渉を受けることも知られている。したがって、酵素アッセイは、アセトアミノフェンのレベルを正確に測定できないため、NAC治療の過程で、一般的に、アセトアミノフェンのレベルを監視するために使用することはできない。これは、公知の酵素アセトアミノフェンアッセイの顕著な欠点である。
【0016】
既知の酵素アッセイは、アリールアシルアミダーゼ、発色性(chromogenic,color-forming)化合物、およびカップリング反応を触媒するのに十分な酸化電位の酸化剤、の3つの主成分を使用する。
【0017】
アリールアシルアミダーゼは、アセトアミノフェンのアミド結合を切断し、p-アミノフェノールとアセテートを生成させる。次いで、p-アミノフェノールは酸化触媒の存在下で酸化カップリング反応中に発色性化合物と反応して着色生成物を形成する。代表的な触媒としては、過マンガン酸塩、過ヨウ素酸塩、過硫酸塩、酢酸塩などの活性酸素または官能基を有する金属塩または金属錯体の類が挙げられる。吸光度の変化は、典型的には着色生成物のピーク吸光度を捉える波長で測定されるが、ここでは試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定することに用いられる。得られた吸光度値と、既知のアセトアミノフェン濃度を有し、同じ方法でアッセイを行った標準または一連の標準とを比較することにより決定することができる。形成された着色生成物のモル数は、典型的には、試料中に最初に存在するアセトアミノフェンのモル数に比例する。
【0018】
最も初期の酵素ベースによるアセトアミノフェンアッセイは、非常に長いインキュベーション時間を必要とし、加水分解および酸化カップリング反応のそれぞれに1時間以上がかかるため、緊急な臨床環境での使用には不適当である。
【0019】
Hammondら(1984)は、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するアシルアシラミダーゼを用いて、血清中のアセトアミノフェン濃度を決定するための、迅速な酵素ベースのアッセイを開発した。前記p-アミノフェノールは、その後、硫酸銅によって触媒される酸化カップリング反応でo-クレゾールと反応し、インドフェノール染料を形成する。この染料のピーク波長(615nm)での吸光度の変化は、アセトアミノフェンのレベルを決定するために使用される。この方法は、アセトアミノフェンを迅速に検出できるが、治療レベルのNACの存在によって大きく干渉を受けるため、NAC治療中に確実に使用することができない。酸化触媒の存在下でo-クレゾールを利用する類似の方法は、ビリルビン干渉を起こしやすく(Bertholfら,2003)、高ビリルビン血症患者において偽陽性の結果をもたらす。
【0020】
Morrisら(1990)は、試料中のアセトアミノフェンを測定するための自動酵素ベースのアッセイを開示した。一般に、臨床検査室にとっては、自動アッセイが好ましい。この方法では、アリールアシルアミダーゼを用いてアセトアミノフェンをp-アミノフェノールへと加水分解し、続いてマンガンイオンの存在下で8-ヒドロキシキノリンと酸化カップリングし青色生成物を形成する。それらの試薬は、保存安定性のために凍結乾燥され、使用する前に再構成(reconstitute)する必要がある。再構成工程に係るアッセイは、液状で安定なアッセイよりも望ましくなく、エラーが起こりやすくなる。
【0021】
発色団として8-ヒドロキシキノリンまたはその誘導体を用いた既知のアセトアミノフェンアッセイは、治療レベル(すなわち>800mg/L)のNACの存在下で干渉を受ける。Bulgerら(US8,236,519B2)は、8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸(8-HQ5SA)または8-ヒドロキシキノリンヘミサルフェートのいずれかを発色団として含有する2つの市販されるアセトアミノフェンアッセイのテスト(Sekisui Diagnostics P.E.I. Inc.,PEI,カナダ)を開示した。NACが存在しない場合にも正確なアセトアミノフェン測定が見られたが、治療レベルのNACの存在下で、アセトアミノフェンの回収が大幅に(つまり、約10%以上)減少した。NACの存在は、アセトアミノフェンのp-アミノフェノールへの酵素的転換ではなく、アッセイにおける酸化カップリング反応に影響を与えることを発見した。8-HQ5SAと8-HQHSアッセイとは回収にかなりの違いがあり、8-HQ5SAアッセイは、NAC干渉による影響をより顕著に受けやすく、NACが存在する場合、前記発色団の化学構造のわずかな違いでさえ、前記カップリング反応に重要に作用する可能性があることを示している。
【0022】
陳ら(2004)は、作業場でのアニリンへの暴露を評価するために尿中のp-アミノフェノールを定量するためのアッセイを記述した。in vivoで吸収されたアニリンの約15~60%がp-アミノフェノールに酸化されるため、尿中p-アミノフェノールのレベルは、アニリン毒性のバイオマーカーとして機能する。尿中に排泄される共役形態から、遊離したp-アミノフェノールを放出するために、尿に対して酸性化し、前処理しなければならない。このアッセイは、2,5-ジメチルフェノール(p-キシレノール)を発色団として用いて着色生成物を形成する酸化カップリング反応を含む。前記カップリング反応は、強酸化剤である過ヨウ素酸ナトリウムによって触媒され、着色生成物を形成する。まだ調査も実証もされていないが、尿中のp-アミノフェノールのレベルの定量化は、アセトアミノフェンの過剰摂取を評価するのに役立つ可能性があると推測された。
【0023】
AfshariとLui(2001)は、血清中のアセトアミノフェンの定量のための非酵素的方法を記述した。まず、抽出により遊離した非結合アセトアミノフェンを、内因性干渉物質から分離した後、加熱(すなわち10分間沸騰する)しながら酸でp-アミノフェノールに加水分解した。これは酵素反応と比較すると非選択性の加水分解反応である。該当の加水分解反応後、強酸化剤である過ヨウ素酸ナトリウムの存在下でp-アミノフェノールと2,5-ジメチルフェノール(p-キシレノール)とを酸化カップリングさせ、着色生成物を形成する。試料からのアセトアミノフェンの抽出と試料の沸騰が必要であるため、緊急な臨床環境に適用できず、また自動化にも適しない。
【0024】
酵素によるアセトアミノフェンアッセイは、免疫ベースのアッセイよりも便利で低価であるが、多くの臨床実験室では、試料中のNACの存在の影響を受けない免疫ベースのアッセイがより好まれる。NAC治療の過程で確実にアセトアミノフェンのレベルを測定することが望ましい。免疫ベースのアッセイは、患者の試料にしばしば存在するビリルビンやヘモグロビンなどの生体分子の存在下で、干渉による影響を受けにくい。血清中のビリルビンとヘモグロビンの濃度は、それぞれの患者で予測できないため、これらの分子によって干渉されやすいアッセイは、すべての患者にとって信頼できる強固な臨床検査を提供できない。
【0025】
以上のような経緯により、Bulgerら(US8,236,519B2)は、NACの存在の有無にかかわらず、正確で信頼でき、また従来の免疫ベースのアッセイよりも安価である迅速なアセトアミノフェンアッセイを開示した。Bulgerら(US8,236,519B2)によって開示されたアッセイは、既知のアッセイに比べると、ビリルビンやヘモグロビンなどの患者試料に存在する生体分子からの干渉による影響を受けにくい。
【0026】
脂質分子(脂肪血症)の存在が最も一般的な事前分析干渉の一つであり、この干渉がリポタンパク質粒子の蓄積によって生じる試料の濁度に起因することは、当分野でよく知られている。脂肪血症は、光の吸収の増加を引き起こし、分光光度法による試験に影響を及ぼす。
【0027】
従って、NACの存在の有無にかかわらず正確で信頼でき、また従来の免疫ベースのアッセイよりも安価で、既知のアッセイと比較して患者試料に存在する脂質分子からの干渉を受けにくい、迅速なアセトアミノフェンアッセイを提供することが望ましい。
【0028】
発明の概要
本発明は基本的に、試料中のp-アミノフェノールの定量的決定のための信頼できるアッセイに関する。より詳しくは、本発明は、試料中のアセトアミノフェンの定量的決定のための酵素ベースのアッセイに関する。このアッセイは、NACの存在の有無に関わらず正確で信頼できる結果を提供し、NAC治療中のアセトアミノフェンのレベルを測定するために使用できるという点で、従来技術に比較しより多くの利点を有する。特定の実施形態において、前記アッセイは、既知のアッセイと比較して、性能の改善および生体分子からの干渉の低減という付加的な利点を有する。特に、前記アッセイは、既知のアッセイと比較して、NACの存在の有無に関わらず、性能の改善および脂質分子からの干渉の低減という付加的な利点を有する。
【0029】
驚くべきことに、p-アミノフェノールとの酸化カップリング反応で発色団としてキシレノール化合物を選択すると、他の既知の発色団と比較して、NACの存在下で精度が向上し、干渉が減少することが発見された。さらに、ジメチルスルホキシド(DMSO)をキシレノール発色団の溶媒として使用すると、水や水系溶媒の場合に比べて、NACの存在下で精度が向上し、脂質分子からの干渉が低減することが図らずも発見された。
【0030】
一態様において、本発明は、水性試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定する方法を提供する。この方法は、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するステップと;適切な触媒の存在下で前記p-アミノフェノールをキシレノール発色団と酸化カップリングさせて着色生成物を形成するステップと;形成された着色生成物の量を決定するステップとを含む。形成される着色生成物の量は、前記水性試料中に最初に存在するアセトアミノフェンの量に比例する。この方法は、水性試料中に治療レベルのN-アセチルシステイン(NAC)が存在する、または存在しない場合、および脂質分子などの他の追加の干渉物が存在する、または存在しない場合に適用する。
【0031】
別の態様において、本発明は、水性試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定するためのアッセイを提供する。前記アッセイは、前記水性サンプルを、アリールアシルアミダーゼ酵素および適切な希釈剤を含む第1の試薬(R1)と接触させて加水分解溶液を形成し、必要に応じて前記加水分解溶液を希釈するステップと;前記アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに転化する加水分解反応を可能にするため前記加水分解溶液をインキュベートするステップと;前記加水分解溶液を、キシレノール発色団と適切な希釈剤を含む第2試薬(R2)と接触させて酸化カップリング溶液を形成するステップと;適切な触媒の存在下で、前記キシレノール発色団が前記p-アミノフェノールに結合して着色生成物を形成する酸化カップリング反応を可能にするため、前記酸化カップリング溶液をインキュベートするステップと;形成された着色生成物の量を決定し、形成された着色生成物の量は、前記水性試料中に最初に存在するアセトアミノフェンの量に比例するステップとを含む。前記アッセイは、水性試料中に治療レベルのN-アセチルシステイン(NAC)が存在するかまたは存在しない場合、および脂質分子のような他の追加の干渉物が存在するかまたは存在しない場合に適用する。
【0032】
別の態様において、本発明は、水性試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定する方法を提供する。前記方法は、前記試料をアリールアシルアミダーゼと接触させることにより、前記試料中の前記アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに転化するステップと;触媒の存在下で前記p-アミノフェノールをキシレノール発色団に酸化カップリングし、染料を形成するステップと;前記染料の濃度を決定し、最初の前記試料中のアセトアミノフェンの量は、形成された前記染料の量に比例するステップとを含む。
【0033】
別の態様において、本発明は、血液試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定するためのキットを提供する。前記キットは、アリールアシルアミダーゼ、キシレノール、および触媒を含む。
【0034】
別の態様において、本発明は、NACが存在するかまたは存在しない場合に水性試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定するためのキットを提供する。前記キットは、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するアリールアシルアミダーゼを含有する第1試薬(Rl)を含む第1の容器と;前記p-アミノフェノールに酸化カップリングするためのキシレノール発色団を含有する第2の試薬(R2)を含む第2の容器とを備える。ここで、RlまたはR2はさらに、キシレノール発色団のp-アミノフェノールへのカップリングを触媒するのに適切な触媒を含む。
【0035】
別の態様において、本発明は、試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定するためのキットを提供する。前記キットは、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するアリールアシルアミダーゼを含有する第1試薬(Rl)を含む第1の容器と;前記p-アミノフェノールに酸化カップリングするためのキシレノール発色団を含有する第2の試薬(R2)を含む第2の容器と;前記キシレノール発色団と前記p-アミノフェノールとの酸化カップリングを触媒するのに適切な触媒とを含む。ここで、前記キシレノール発色団が2,5-ジメチルフェノールであり、前記触媒がMnCl水和物であり、R2がDMSOに溶解された2,5-ジメチルフェノールを含み、前記キットは、1,000mg/lのイントラリピッド(R)の存在下で15.1μg/mLのアセトアミノフェンを検出することができる。一態様に係るキットにおいて、前記試料は水性試料である。別の態様に係るキットにおいて、前記水性試料は血清または血漿である。
【0036】
一実施形態に係るキットにおいて、前記試薬は液状で安定である。別の実施形態に係るキットにおいて、前記キットは、アセトアミノフェン決定アッセイを実施するための説明をさらに備える。一態様において、前記説明は、前記試料をRlと第1の適切な希釈剤と接触させ、加水分解溶液を形成するステップと;前記試料中のアセトアミノフェンをp-アミノフェノールに転化する加水分解反応を可能にするように前記加水分解溶液をインキュベートするステップと;前記加水分解溶液をR2と、必要に応じて第2の適切な希釈液と接触させ、酸化カップリング溶液を形成し、ここでR2は2,5-ジメチルフェノールおよびDMSOを含むステップと;前記触媒の存在下で、前記キシレノール発色団が前記p-アミノフェノールと結合して着色生成物を形成する酸化カップリング反応を可能にするように前記酸化カップリング溶液をインキュベートするステップと;形成された前記着色生成物の量を決定し、前記着色生成物の量は、前記試料中に最初に存在するアセトアミノフェンの量に比例するステップとを規定する。
【0037】
一実施形態に係るキットにおいて、前記アッセイは、i)生体液中に存在する生体分子、またはii)治療レベルのN-アセチルシステイン(NAC)の存在下で信頼できる。別の態様に係るキットにおいて、前記生体分子は、基本的にビリルビンおよびヘモグロビンからなる群から選択される。別の態様に係るキットにおいて、前記NACの治療レベルは800mg/Lを超える。別の態様に係るキットにおいて、Rlは約10U/L~約5000U/Lの濃度でアリールアシルアミダーゼを含む。別の態様に係るキットにおいて、R2は約0.075g/L~約115g/Lの濃度でキシレノール発色団を含む。さらに別の態様に係るキットにおいて、前記触媒が約0.0005g/L~約1.000g/Lの濃度でRlに存在する。別の態様に係るキットにおいて、R2は、約0.075g/L~約115g/Lの濃度で2,5-ジメチルフェノールを含み、前記触媒がMnCl.4H20であり、約2.5g/L~約20g/Lの濃度でRlに存在する。別の態様に係るキットにおいて、R2は約0.005g/L~約5.000g/Lの濃度で還元グルタチオンをさらに含む。さらに別の態様に係るキットにおいて、Rlは、可溶化剤、タンパク質安定剤、酵素安定剤、金属キレート剤、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、賦形剤、またはそれらの組み合わせをさらに含む。
【0038】
一実施形態に係るキットにおいて、前記酵素安定剤は、基本的にポリビニルピロリドン40,000MW、BSAフラクションV、トレハロース、p-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0039】
別の態様に係るキットにおいて、R2は、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤および賦形剤の1つ以上をさらに含む。さらに別の態様に係るキットにおいて、Rlは、約932.7U/Lのアリールアシルアミダーゼおよび約0.0525g/LのMnCl.4H20を含み、R2は、約3.75g/Lの2,5-ジメチルフェノールおよび約0.5g/Lの還元グルタチオンを含む。
【0040】
別の態様において、本発明は、水性試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定する方法を提供する。前記方法は、アセトアミノフェンを加水分解してp-アミノフェノールを形成するステップと;前記p-アミノフェノールを適切な触媒の存在下で酸化カップリングして着色生成物を形成するステップと;形成された前記着色生成物の量を決定し、形成された前記着色生成物の量は、前記水性試料中に存在するアセトアミノフェンの量に比例するステップとを含み、
前記アッセイは、前記水性試料中に治療レベルのN-アセチルシステイン(NAC)が存在するか又は存在しない場合に信頼でき、前記キシレノール発色団は2,5-ジメチルフェノールであり、前記触媒はMnCl水和物であり、前記キシレノール発色団は2,5-ジメチルフェノールであり、前記触媒は、MnCl水和物であり、かつ、R2は、事前にDMSOに溶解された2,5-ジメチルフェノールを含む。
【0041】
一実施形態に係る方法において、前記アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するステップにおいて、前記アセトアミノフェンをアリールアシルアミダーゼと接触させることを含む。別の実施形態に係る方法において、前記キシレノール発色団は、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択される。一態様に係る方法において、前記触媒は弱酸化剤である。一態様に係る方法において、前記キシレノール発色団は2,5-ジメチルフェノールであり、前記触媒がMnCl無水物または水和物である。一態様に係る方法において、前記水性試料は血清または血漿である。
【0042】
別の態様において、本発明は、水性試料中のアセトアミノフェンの濃度を決定するためのアッセイを提供する。前記アッセイは、アリールアシルアミダーゼ酵素および適切な希釈剤を含む第1試薬(Rl)と、前記水性試料とを接触させて、加水分解液を形成するステップと;必要に応じて、前記加水分解溶液を希釈するステップと;前記アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに転化する加水分解反応を可能にするため前記加水分解溶液をインキュベートするステップと;事前にDMSOに溶解されたキシレノール発色団を含む第2試薬(R2)と、前記加水分解液とを接触させ、酸化カップリング溶液を形成するステップと;適切な触媒の存在下で、前記キシレノール発色団が前記p-アミノフェノールに結合して着色生成物を形成する酸化カップリング反応を可能にするため、前記酸化カップリング溶液をインキュベートするステップと;形成された前記着色生成物の量を決定し、形成された前記着色生成物の量は、前記水性試料中に存在するアセトアミノフェンの量に比例するステップとを含む。ここで前記アッセイは、前記水性試料中に治療レベルのN-アセチルシステイン(NAC)が存在するか又は存在しない場合に信頼できる。
【0043】
一実施形態に係るアッセイにおいて、Rlは約10U/L~約5000U/Lの濃度でアリールアシルアミダーゼを含む。一実施形態に係るアッセイにおいて、前記キシレノール発色団は、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択される。一実施形態に係るアッセイにおいて、前記触媒は弱酸化触媒であり、かつ前記触媒は約0.0005g/L~約1.000g/Lの濃度でRl中に存在する。
【0044】
一実施形態に係るアッセイにおいて、R2は、約0.075g/L~約115g/Lの濃度で2,5-ジメチルフェノールを含み、および/または前記触媒がMnCl.4H20であり、また約2.5g/L~20g/Lの濃度でRl中に存在する。一実施形態に係るアッセイにおいて、R2はさらに、約0.005g/L~約5.000g/Lの濃度で還元グルタチオンを含む。一実施形態に係るアッセイにおいて、Rlはさらに、タンパク質可溶化剤、タンパク質安定剤、酵素安定剤、金属キレート剤、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、または賦形剤の1つ以上を含む。一実施形態に係るアッセイにおいて、前記酵素安定剤は、PVP-40、BSAフラクションV、トレハロース、p-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸及びそれらの組合せからなるから群から選択される。一実施形態に係るアッセイにおいて、R2はさらに、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤または賦形剤の1つ以上を含む。一実施形態に係るアッセイにおいて、前記希釈剤は脱イオン水であり、前記加水分解溶液は加水分解反応前に、前記希釈液で約1:1に希釈される。
【0045】
一実施形態に係るアッセイにおいて、Rlは、約932.7U/Lのアリールアシルアミダーゼおよび約0.0525g/LのMnCl.4H20を含み、また、R2は、約7.5g/Lの2,5-ジメチルフェノールと約0.500g/Lの還元グルタチオンを含む。一実施形態に係るアッセイにおいて、前記加水分解反応および前記酸化カップリング反応はそれぞれ約37℃の温度で約3~10分間行われ、前記加水分解反応は約8.6のpHで行われ、酸化カップリング反応は約10.8のpHで行われる。
【0046】
一態様に係るアッセイにおいて、前記アセトアミノフェンの濃度は、前記加水分解反応終了時と前記酸化カップリング反応終了時の吸光度の差を取得し、その差を標準または一連の標準と比較することにより決定され、前記吸光度は約610nm~665nmの波長で測定される。一実施形態に係るアッセイにおいて、前記吸光度は約660nmの波長で測定される。一実施形態に係るアッセイにおいて、前記水性試料は血清または血漿である。
【0047】
別の態様において、本発明は、水性試料中のp-アミノフェノールの濃度を決定する方法を提供する。前記方法は、弱酸化剤である触媒の存在下で、前記p-アミノフェノールと、事前にDMSOに溶解されたキシレノール発色団とを酸化カップリングして着色生成物を形成し、前記キシレノール発色団が2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択されるステップと;形成された前記着色生成物の量を決定し、形成された前記着色生成物の量は、前記水性試料中に最初に存在するp-アミノフェノールの量に比例しているステップとを含む。一実施形態に係る方法において、前記触媒はMnCl水和物であり、前記キシレノール発色団は2,5-ジメチルフェノールである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明は、試料中のp-アミノフェノールの定量的決定のための信頼できるアッセイに関する。より詳しくは、本発明は、試料中のアセトアミノフェンの定量的決定のための酵素ベースのアッセイに関する。前記アッセイは、NACが存在するかまたは存在しない場合、または脂質分子などの他の付加的な干渉物が存在するかまたは存在しない場合に正確で信頼できる結果を提供するという点で、従来技術よりも利点を有する。特定の実施形態において、前記アッセイは、既知のアッセイと比較して、生体分子からの干渉が低減されるという付加的な利点を有する。
【0049】
試験される試料は、水性試料が好ましく、これはそれらが水性塩基成分を有することを意味する。アッセイで試験され得る例示的な水性試料としては、水、全血、血漿、血清、リンパ、胆汁、尿、脊髄液、痰、唾液、汗、便分泌物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、骨格筋、心臓、腎臓、肺、脳、骨髄、皮膚等のヒト又は動物組織の液体製剤をアッセイすることもできる。例示的な液体製剤は、組織ホモジネートおよびその上清を含む。
【0050】
一実施形態において、試験される水性試料は、血漿、血清、または尿である。別の実施形態において、水性試料は、血漿または血清である。一実施形態において、水性試料は血清である。
【0051】
本発明のアッセイは、最初の加水分解ステップなしで行うことができ、すなわちp-アミノフェノールが試料中でそのまま測定される場合、最も典型的には、前記アッセイは試料中のアセトアミノフェンのレベルを測定するために使用されるため、p-アミノフェノールと選択された発色団との酸化カップリングの前に、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解する必要がある。本発明によれば、前記選択された発色団はキシレノール発色団である。非酵素的加水分解反応を行ってもよいが、好ましい反応は、アセトアミノフェンからp-アミノフェノールへの酵素的転換である。
【0052】
本発明のアッセイは、典型的には2つの部分で行われる。第1の部分は、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに酵素的加水分解することに関する。第2の部分は、適切な触媒の存在下でキシレノール発色団とp-アミノフェノールとを酸化カップリングさせて着色生成物を形成することに関する。いくつかの実施形態において、好ましい触媒は、弱酸化剤の中から選択される。その後、前記試料中の前記アセトアミノフェンの濃度は、例えば、所定の波長での吸光度の変化を測定し、既知のアセトアミノフェン濃度を有する標準または一連の標準と比較することによって決定することができる。
【0053】
一実施形態において、前記アッセイは、次のようにして行われる2部分のアッセイである。
【0054】
第1の部分では、試料の分割単位を、前記酵素を含む第1試薬(Rl)と接触させて加水分解溶液を形成する。前記第1試薬は、酵素試薬とも呼ばれる。前記試料とRlを含む前記加水分解溶液を混合して、必要に応じて希釈する。
【0055】
一実施形態において、必要に応じて行われる前記希釈ステップは、脱イオン水などの適切な希釈剤でRlの1:1希釈を行う。前記溶液を混合し、前記加水分解反応を適当な温度で続けることにより、前記試料中の前記アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに前記加水分解させる。吸光度値は、所定の波長で得られる。
【0056】
第2の部分では、加水分解が終了した後、任意にDMSOまたは別の極性非プロトン性溶媒に任意に溶解された前記キシレノール発色団を含む第2試薬(R2)を、前記加水分解液に加え、得られた混合物を簡単に混合する。第2試薬(R2)は、発色団試薬と呼ばれる場合がある。前記キシレノール発色団とp-アミノフェノールとの酸化カップリングは、適切な触媒の存在を必要とする。好ましい実施形態において、前記酸化カップリング反応のための触媒は、Rlの成分であり、これにより、前記触媒と発色団は、RlとR2とが結合するまで混合しない。あるいは、前記触媒がR2の成分であってもよく、またはRlとR2の混合物に添加されて前記酸化カップリングを促してもよい。前記酸化カップリング反応は、適切な温度で続ける。終了の後、約600nmから約665nmの範囲の所定の波長で吸光度は測定され、第1の部分と第2の部分の間の吸光度の変化が計算される。
【0057】
前記試料中に最初に存在するアセトアミノフェンの量を決定するために、吸光度の変化は、濃度が既知であるアセトアミノフェンを用いて同じ方法で調整された標準、または一連の標準と比較される。希釈係数を考慮する必要がある。このような計算は、当業者にとって通常の手段である。
【0058】
この2部分のアッセイは、抽出または分離が不要で、2つの試薬のみが使用されるため、自動化に適する。板上希釈(on board dilution)および混合ステップは、自動化方法で行うこともできる。このようなアッセイを実施するための自動化機器は、当該技術分野において周知である。あるいは、前記アッセイは手動で行われてもよい。
【0059】
前記加水分解反応に好ましい酵素は、アリールアシルアミダーゼ酵素である。アリールアシルアミダーゼ酵素はアニリドのアニリンへの加水分解を触媒し、IUB(国際生化学連合)番号E.C.3.5.1.13によって同定される。このクラスの酵素は、CAS登録番号が9025-18-7である。アリールアシルアミダーゼ酵素は、通常、細菌などの微生物によって生成され、前記の微生物から分離される。アリールアシルアミダーゼ酵素の非限定的な例および微生物からのそれらの製造方法は、例えば、Hammondらによって米国特許第4,430,433号に記載されている。
【0060】
適切な反応条件下でアセトアミノフェンのp-アミノフェノールへの加水分解を効果的に触媒することができる限り、任意の適切なアリールアシルアミダーゼ酵素が本発明に従って使用できる。反応条件は、本発明から逸脱しない範囲に選択された特定の酵素を考慮し、当業者によって最適化され得る。
【0061】
前記アリールアシルアミダーゼは、任意の適当量で存在してもよい。前記アリールアシルアミダーゼは、試料中に存在するアセトアミノフェンのほぼ全てがp-アミノフェノールに転化されるような十分な濃度で存在することが好ましい。一実施形態において、Rlは約10U/L~約5000U/L、約600U/L~約1200U/L、または約800U/L~約1000U/Lの濃度でアリールアシルアミダーゼを含む。一実施形態において、Rlは、約932.7U/Lの濃度でアリールアシルアミダーゼを含む。
【0062】
Rlの溶媒または希釈剤は、アッセイに悪影響を及ぼさない任意の適切な水性系溶媒または希釈剤であってもよい。一実施形態において、前記溶媒または希釈剤は、水であり、好ましくは蒸留水、脱イオン水、または逆浸透水である。一実施形態において、前記希釈剤は脱イオン水である。前記溶媒または希釈剤は、種々の添加剤および成分を含んでもよい。
【0063】
アリールアシルアミダーゼに加えて、Rlは、さらに触媒、補因子、タンパク質可溶化剤、タンパク質安定剤、酵素安定剤、金属キレート剤、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、希釈剤、溶媒、賦衝剤等の一つまたは複数を含んでもよい。
【0064】
一実施形態において、Rlは酸化カップリング反応のための触媒を含む。酸化カップリング反応を十分に触媒できる限り、任意の適切な触媒を、任意の適切な濃度で、本発明に従い使用できる。例示的な触媒としては、過マンガン酸塩、過ヨウ素酸塩、過硫酸塩、酢酸塩、その他の金属塩が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、前記触媒は、FeCl、MnCl、CuSO、KIOまたはそれらの誘導体から選択される金属塩である。好ましい実施形態において、前記触媒は弱酸化剤である。一実施形態において、前記弱酸化触媒は、塩化マンガン(II)、即ちMnClである。一実施形態において、前記触媒は、塩化マンガン(II)の四水和物、即ちMnCl.4H20である。
【0065】
特定の実施形態において、触媒は約0.0005g/L約1.000 g/L、または約0.005g/L~約1.000g/L、または約0.010g/L~約0.100g/L、または約0.025g/L~約0.075g/L、または約0.040g/L~約0.040g/L~約0.060g/Lの濃度でRlに存在する。一実施形態において、Rlは、約0.0525g/Lの濃度でMnCl.4H20を触媒として含む。前記MnCl.4H20は、その触媒特性以外に他の機能をも果たすことができ、例えば、MnCl.4H20は、酵素安定剤としても作用し得、それによって酵素試薬(Rl)の貯蔵寿命を改善すると考えられる。
【0066】
一実施形態において、Rlは、少なくとも1つのタンパク質安定剤を含む。タンパク質安定剤は、前記試薬中に存在する酵素の安定化に役立ち、前記試薬の保存期間を長くする。任意の適切なタンパク質安定剤またはその組み合わせが本発明に従い利用できる。
【0067】
好ましいタンパク質安定剤の1つはPVP-40であり、前記試薬におけるタンパク質可溶化剤としても作用し得る。本発明者らは、PVP-40が前記試薬中のタンパク質の存在によるアッセイ中の測定誤差を低減または削除し、前記試薬中のタンパク質の沈殿を防止し、それにより試薬の保存期間およびアッセイの全体的な性能を改善できることを見出した。一実施形態において、Rlは、約0.1g/L~約10g/L、または約0.5g/L~約5g/L、または約1g/L~約3g/Lの濃度でPVP-40を含む。一実施形態において、Rlは、約2g/Lの濃度でPVP-40を含む。
【0068】
一実施形態において、RlはPVP-40、BSAフラクションV、トレハロース、p-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸又はそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのタンパク質安定剤を含む。一実施形態において、少なくとも1つの酵素安定剤は、PVP-40、BSAフラクションV、トレハロースおよびp-ヒドロキシ安息香酸ナトリウムまたはp-ヒドロキシ安息香酸の組み合わせを含む。前記BSAフラクションVは、例えば約0.1g/L~約10g/L、または約0.5g/L~約5g/L、または約1g/L~約2.5g/Lの濃度で存在し得る。
【0069】
一実施形態において、Rlは、約1g/Lの濃度でBSAフラクションVを含む。一実施形態において、トレハロースは、例えば約0.1g/L~約10g/L、または約0.5g/L~約5g/L、または約1g/L~約2.5g/Lの濃度で存在し得る。一実施形態において、Rlは、約4.04g/Lの濃度でトレハロースを含む。前記p-ヒドロキシ安息香酸またはp-ヒドロキシ安息香酸は、例えば約0.1g/L~約10g/L、または約0.5g/L~約5g/L、または約1g/L~約2.5g/Lの濃度で存在し得る。一実施形態において、Rlは、約1g/Lの濃度でp-ヒドロキシ安息香酸ナトリウムを含む。一実施形態において、Rlは、約1g/Lの濃度でp-ヒドロキシ安息香酸を含む。
【0070】
一実施形態において、Rlは約2g/LのPVP-40;約1g/LのBSAフラクションV;約4.04g/Lのトレハロース;および約1g/lのp-ヒドロキシ安息香酸ナトリウムを含む。
【0071】
Rlは、必要に応じて緩衝剤を含んでもよい。任意の適切な緩衝液が本発明に従い利用できる。適切な緩衝液は、リン酸塩、ピロリン酸塩、リン酸カリウム、CAPS(N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸)、CAPS/メタホウ酸塩、CAPS/カーボネート、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメムエタン(TRIS)、2{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}-l-エタンスルホン酸(TES)、TRIS/カーボネート、4-(2-ヒドロキシエチル)-l-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3-[4-[2-ヒドロキシエチル]-l-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPES)、2-ヒドロキシ-3-{N-[トリス(ヒドロキシメチル)]アミノ}-プロパンスルホン酸(TAPSO)およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0072】
前記緩衝剤は、例えば、約1~10g/Lまたは約5~8g/Lの濃度で存在し得る。一実施形態において、RlはCAPS緩衝剤を含む。一実施形態において、Rlは、約6.4または6.5g/Lの濃度でCAPS緩衝剤を含む。
【0073】
Rlは、必要に応じて防腐剤を含んでもよい。任意の適切な防腐剤が本発明に従い利用できる。適当な防腐剤としては、硫酸ゲンタマイシン、アジ化ナトリウム、および安息香酸ナトリウムが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、Rlは、約0.001g/L~約0.1g/L、または約0.01g/L~約0.05g/Lの濃度でゲンタマイシン硫酸塩を含む。一実施形態において、Rlは、約0.01g/Lのゲンタマイシン硫酸塩を含む。一実施形態において、Rlは、約0.001g/L~約0.1g/L、または約0.01g/L~約0.05g/Lの濃度でアジ化ナトリウムを含む。一実施形態において、Rlは、約0.05g/Lのアジ化ナトリウムを含む。一実施形態において、Rlは、約0.01g/Lのゲンタマイシン硫酸塩および約0.05g/Lのアジ化ナトリウムを含む。
【0074】
Rlは、必要に応じて金属キレート剤を含んでもよい。本発明において、任意の適切な金属キレート剤は利用できる。適切な金属キレート剤は、EDTAを含むが、これに限定されない。一実施形態において、Rlは、約0.001g/L~約0.1g/L、または約0.01g/L~約0.05g/Lの濃度でEDTAを含む。一実施形態において、Rlは、約0.025g/Lの濃度でEDTAを含む。
【0075】
Rlは、任意に界面活性剤を含んでもよい。任意の適切な界面活性剤が本発明に従い利用できる。例示的な界面活性剤としては、BrijTM-35、TritonTM X-100、Olin-lOGTM、TXTM-102、TX-405TM、Zonyl FSNTM、TX-100TM、およびTX-165TMが含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
前記加水分解反応は、好ましくは、pHが約5.9~約12.0、または約6.5~約9.0、または約7.5~約9.4、好ましくは約8~9の範囲で行われる。一実施形態において、pHは約8.6である。
【0077】
RlのpHは、本分野で知られている任意の適切な手段によって調整され得る。例えば、NaOHまたは他の任意の適切な塩基が、pHを増加させるために使用され得る。HClまたは他の任意の適切な酸は、pHを減少させるために使用され得る。一実施形態において、RlのpHはNaOHを用いて調整される。一実施形態において、Rlは、約500μL/L~約1000μL/Lの量で2N NaOHを含む。一実施形態において、Rlは約833μL/Lの2N NaOHを含む。
【0078】
例示的なRl製剤は、以下の表1に示される。この例示的な実施形態において、Rlは、酵素およびアジ化ナトリウム以外の各成分を総体積が100%未満である適切な希釈剤に添加して調製してもよく、前記希釈剤は、蒸留水、脱イオン水または逆浸透水であることが好ましい。次いで、pHをNaOHで所望の範囲に調整した後、アジ化ナトリウムを添加する。最後に酵素を加える。次いで、希釈剤で前記製剤を100%の体積にする。
【0079】
本発明の一実施形態に係る自動化アッセイにおいて、10μLの試料(または対照/または標準)をキュベットにおける100μLのRlに添加する。次いで、Rlを、100μLの水、好ましくは脱イオン水、蒸留水または逆浸透水にて1:1で板上希釈を行い、溶液を簡単に混合する。前記加水分解反応はキュベットで行われる。体積は50μl、100μl、200μl、210μl、250μl、300μl、400μl、500μlおよびそれ以上を含むがこれに限定されない。特定の自動化機器(すなわち化学分析装置)に必要なキュベットのサイズに応じて調整され得る。一実施形態において、前記化学分析装置はHitachi 717(R)化学分析装置(Roche Diagnostics)である。
【0080】
前記加水分解反応は、約10℃~約60℃、または約30℃~約50℃、または約35℃~約40℃の温度で行われる。一実施形態において、前記加水分解反応は約37℃の温度で行われる。
【0081】
前記試料(または標準)中に存在するアセトアミノフェンがほぼ全て加水分解されるのに十分な時間は、典型的には約2~20分、または約3~10分である。一実施形態において前記加水分解反応は約5分間継続される。低温度では一般的に長い反応時間が必要となるため、選択する温度に応じて反応時間を最適化することができる。
【0082】
加水分解反応が終了した後、前記試料(または標準)中のアセトアミノフェンは基本的にすべてp-アミノフェノールに転化され、その後、酸化カップリングステップを行う。
【0083】
本発明の一実施形態に係る自動化アッセイにおいて、前記酸化カップリングのステップは、前記発色団を含む第2試薬(R2)を前記加水分解溶液を含むキュベットに直接添加されることによって開始され、必要に応じて、前記発色団は事前にDMSO溶解されている。上述の実施形態において、200μLのR2を前記加水分解液に添加して簡単に混合することで、キュベット中、最終の酸化カップリング反応体積が410μL(10μLの試料+100μLのR1+100μLの水+200μLのR2)になる。
【0084】
好ましい発色団はキシレノール発色団である。Bulgerら(US8,236,519B2)は、前記第2の試薬(R2)にキシレノール発色団を選択する場合に、2段階のアッセイでNACの存在下での干渉を有意に減少させたことを開示した。NACの存在下で干渉が大幅に低減された場合に、それらのアッセイを用いてNAC処置を受けている患者からの試料を分析することができる。Bulgerら(US8,236,519B2)は、少なくとも2000mg/Lまでの治療レベルのNACの存在下で信頼性の高いセトアミノフェン測定を開示した。
【0085】
脂質分子(脂肪血症)の存在は最も一般的な事前分析的干渉の一つであり、この干渉がリポタンパク質粒子の蓄積によって生じる試料の濁度に起因することは、当分野でよく知られている。脂肪血症は、光の吸収の増加を引き起こし、分光光度法による試験に影響を及ぼす。吸収される光の量は、波長に反比例し、300~700nmに減少し、その間特定の吸収ピークはない。したがって、前記吸光度がスペクトルのその部分で最も高いため、分光法を用いて低波長を検出するアッセイや方法は、脂肪血症の影響を受ける。吸光度は、前記試料中の脂質の量に比例する。
【0086】
典型的には、従来の技術では、脂肪血症試料を治療する前に脂質の除去、例えば、超遠心分離、極性溶媒または試料希釈を用いた抽出を行うことが推薦される。これらのプロトコルはそれぞれ欠点があり、例えば、超遠心分離機はコストが高く、アッセイの感度は低下する。
【0087】
本発明者らは驚くべきことに、Bulgerらによって開示された2段階のアセトアミノフェンアッセイにおいて、前記キシレノール発色団を含む第2の試薬(R2)にDMSOを添加することにより、NAC含有試料中に脂質分子が存在することでアッセイにおける干渉を有意に減少させることを発見した。
【0088】
従って、DMSOをR2に添加することによりアセトアミノフェンアッセイにおける脂肪血症の干渉を低減するという、DMSOによる驚くべき効果によれば、本発明のアッセイは、NAC治療を受けている患者からの試料に使用することを推奨できるほか、脂質分子を除去することなく、(濃度が最大約3000mg/dLであるトリグリセリドを含むがこれに限定されない)脂質分子を含む試料にも使用できるという点で、従来のアッセイよりも優れている。
【0089】
本発明者らは驚くべきことに、Bulgerらによって開示された2段階のアセトアミノフェンアッセイにおいて、前記キシレノール発色団を含む第2の試薬(R2)にDMSOを添加することにより、NAC含有試料に対するアッセイの感度が高くなることを発見した。
【0090】
これらの驚くべき結果によれば、本アッセイは、NAC治療中に受けている患者からの脂肪血症試料での使用に推奨できるという点で、従来技術のアッセイよりも有利である。また、患者からの試料中の脂質分子の含有量の経時的変動を施術者が注意する必要がない。患者試料の脂肪血症値は、患者の最後の食事のタイミングおよび内容に部分的に依存することが本分野で十分に実証された。
【0091】
脂肪血症試料の他の原因は、本分野でよく知られ、例えばフレドリクソン型I型、IV型、V型、高脂血症、糖尿病、アルコール依存症、腎疾患、非アルコール性脂肪性肝障害およびHIV感染、または特定の薬の服用による疾患などの様々な原発および続発性障害を有する患者からの試料を含む。
【0092】
本発明において、任意の適切なキシレノール発色団、例えば、2,5-ジメチルフェノール、3,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、3,5-ジメチルフェノールまたは2,3-ジメチルフェノールが利用できる。好ましいキシレノール発色団の使用は、治療レベルのNACの存在下でアッセイへの干渉が最も小さくなる。実験において、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールまたは2,3-ジメチルフェノールは、1471mg/LのNACで干渉アッセイに有意な干渉を示さなかった。一実施形態において、前記キシレノール発色団は2,5-ジメチルフェノール(p-キシレノール)である。
【0093】
前記キシレノール発色団は、任意の適切な濃度で酸化カップリング反応途中に存在し得る。しかし、初期試料中に存在するアセトアミノフェン濃度を正確に計算するためには、前記発色団は、理想的にha、前記加水分解液中のp-アミノフェノールの最大モル濃度を満たすかまたはそれを超えるモル濃度で存在し、当該モル濃度は、初期試料中のアセトアミノフェンの量に比例する。
【0094】
一実施形態において、R2は、約0.075g/L~約115g/L、または約2.5g/L~約20g/L、または約5g/L~約10g/Lの濃度でキシレノール発色団を含む。一実施形態において、前記キシレノール発色団は、2,5-ジメチルフェノールであり、かつ約7.5g/Lの濃度でR2に存在する。好ましい実施形態において、前記発色団は、DMSOに事前に溶解された後、R2の他の成分に添加される。好ましい実施形態において、DMSOに事前に溶解された前記発色団は、2,5-ジメチルフェノールである。
【0095】
前記酸化カップリング反応を適当な時間枠で行うためには、適切な触媒の存在が必要である。前記触媒は、RlまたはR2の成分であってもよいし、RlとR2の混合物に添加してもよい。本発明において、例えば、過マンガン酸塩、過ヨウ素酸塩、過硫酸塩、および種々の金属塩などの種々の触媒を使用することができる。一実施形態において、前記触媒は、FeCl、MnCl、CuS0、またはKIOのような金属塩である。好ましい実施形態において、前記触媒はMnCl無水物または水和物を含む。好ましい実施形態において、弱酸化剤であるMnClは、試験した他の金属塩と比較してp-キシレノールとの酸化カップリングステップを触媒するのに特に有効である。
【0096】
典型的には、アセトアミノフェンアッセイにおける酸化カップリングステップについては、強力な酸化電位を有する触媒を選択し、前記カップリング反応の完了を促すのに十分なエネルギーを提供する。一般に用いられる触媒は、亜硝酸ナトリウム、硫酸銅、酢酸マンガンなどの反応性酸素または官能基を含む金属塩種である。例えば、既知のアセトアミノフェンアッセイは、酢酸マンガン(すなわちSekisui Diagnostics P.E.I.Inc.,PEI,カナダ)によって触媒されたヒドロキシキノリンまたはその誘導体;過ヨウ素酸塩(GDS Diagnostics)または硫酸銅(Hammondら、1984)によって触媒されたo-クレゾール;または過ヨウ素酸ナトリウム(AfshariとLui、2001)によって触媒されたp-キレノールを利用している。このようなアセトアミノフェンアッセイは干渉を示すことが知られている。例えば、生体試料中の高濃度のビリルビンの存在による干渉は、そのような試料において誤った結果を引き起こす。
【0097】
Bulgerらは、強力な酸化触媒の使用が、従来のアセトアミノフェンアッセイで見られるビリルビン干渉の要因となる可能性があることが明らかにした。例えば、いくつかの試薬メーカーは、過ヨウ素酸塩を、ビリルビンを選択的に破壊してビリベルジンを形成することから、ビリルビンの測定に使用している。ビリルビンがビリベルジンまたはさらなる酸化生成物に酸化され、吸光度が顕著に変化し、従来のアッセイで見られる干渉を引き起こす可能性がある。Bulgerらは、(a)弱酸化剤が2,5-ジメチルフェノールのようなキシレノール発色団とp-アミノフェノールと酸化カップリング反応をうまく促進できること;また、(b)弱酸化剤の使用がアッセイにおけるビリルビン干渉に積極的な効果をもたらすことを開示した。
【0098】
具体的には、Bulgerらは、過ヨウ素酸ナトリウムまたは活性酸素種を含む他の強力な酸化剤よりも低い酸化電位を有する例示的な触媒としてMnClなどの弱い酸化剤を選択すると、反応においてp-アミノフェノールの2,5-ジメチルフェノールへのカップリングを触媒するのに十分なエネルギーを提供することを開示した。さらに、Bulgerらは、触媒として弱い酸化剤を選択すると、アッセイにおけるビリルビン干渉を大幅に減少できることを開示した。これは臨床的観点から非常に望ましい発見である。Bulgerらは、試験した他の触媒と比較して、MnClは、反応を促進するために必要な濃度が低く、またアッセイでより強い発色現像を引き起こすことをさらに開示した。Bulgerらは、試薬中に触媒を少なく使用することで、前記触媒が患者試料中に存在する他の試薬成分、または生物学的または化学的成分と反応する可能性を低減し、アッセイを改善できることを開示した。
【0099】
触媒として弱酸化剤を選択すると、キシレノール発色団が自動酸化する可能性、および試薬に存在する他の成分との経時的な反応性が低減し、これにより試薬安定性を向上させ、液状で安定な試薬の貯蔵寿命を延ばすことができる。当業者は、強酸化剤と弱酸化剤を区別することができ、本発明の実施形態に係る触媒として適切な弱酸化剤を選択することができる。
【0100】
Bulgerらは、発色団試薬に抗酸化剤を添加すると、試薬の経時的な色安定性を更に向上できることを明らかにした。具体的には、Bulgerらは、発色団アッセイでは一般的に見られない成分である還元グルタチオンを添加し、発色団試薬における経時的な発色現像を防止する(キシレノール自動酸化の防止に一部起因する可能性がある)ことにより、試薬の安定性を向上できることを明らかにした。グルタチオンはまた捕捉剤としても機能し、酸化カップリング反応に干渉する可能性のある試薬中のラジカルを除去する可能性がある。
【0101】
Bulgerらは、ヒドロキシルアミン、3,3’-チオジプロピオン酸、チオ尿素または還元グルタチオンを用いた検討を開示し、ここで、試薬に対して色の経時的な変化を定性的および定量的に監視した。Bulgerらは、還元グルタチオンを試薬に添加することが、経時的な発色現像に最も有効であることを明らかにした。
【0102】
したがって、R2は、必要に応じて抗酸化剤を含有することができる。本発明においては、任意の適切な抗酸化剤を利用できる。一実施形態において、R2は、約0.005g/L~約5.00g/L、または約0.05g/L~約5g/L、または約0.1g/L~約1g/Lの濃度で抗酸化物質を含む。好ましい実施形態において、前記抗酸化剤はグルタチオンである。還元グルタチオンが特に好ましい。一実施形態において、R2は、約0.5g/Lの濃度で還元グルタチオンを含む。
【0103】
R2は、必要に応じて、1つまたは複数の緩衝剤または界面活性剤またはその組み合わせを含んでもよい。本発明において、例えば前記加水分解溶液に関して上述した、任意の適切な緩衝剤または界面活性剤を利用できる。前記試薬中の界面活性剤の存在は、特に低アセトアミノフェンレベル(すなわち、<200μmol/L)でアッセイにおける脂肪血症による干渉を抑制する可能性がある。
【0104】
一実施形態において、R2は、約10~50g/Lまたは約15~30g/Lまたは約20~30g/Lの濃度でTRISを含む。一実施形態において、R2は約24.2g/LのTRISを含む。一実施形態において、R2は、約5~20g/Lまたは約10~15g/Lの濃度で炭酸ナトリウムを含む。一実施形態において、R2は約10.6g/Lの炭酸ナトリウムを含む。一実施形態において、R2は約24.2g/LのTRISおよび約10.6g/Lの炭酸ナトリウムを含む。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記カップリング反応は、約9~12、または約9.5~11.5、または好ましくは約10~11の塩基性pHで約37℃で行われる。一実施形態において、pHは約10より大きい。一実施形態において、pHは約10.8である。
【0106】
前記試薬のpHは、本分野で知られている任意の適切な手段によって調整され得る。一実施形態において、NaOHペレットを約1g/L~約4g/L、または約2g/L~約3g/L濃度でR2に加える。一実施形態において、R2は約2.5g/LのNaOHペレットを含む。
【0107】
Bulgerらによって開示された例示的なR2製剤を以下の表2に示す。これらの例示的な実施形態によれば、R2を調製する場合、グルタチオンおよび2,5-ジメチルフェノールを最後にこの順序で添加することを薦める。
【0108】
アッセイ試薬のpHは、調製後に確認され、必要に応じてさらに調整することができる。
【0109】
前記酸化カップリング反応は、約10℃~約60℃、または約30℃~約50℃、または約35℃~約40℃の温度で行うことができる。好ましい一実施形態において、酸化カップリング反応は約37℃の温度で行う。
【0110】
キシレノール発色団は前記反応混合物中に存在するp-アミノフェノールほぼすべてとカップリングするのに十分な時間(典型的には約2~20分または約3~10分であるが、これらに限定されない)で前記酸化カップリング反応を進行させることができる。一実施形態において、酸化カップリング反応は約5分間続ける。一般的に、低温度では長い反応時間が必要となるため、選択された温度に応じて反応時間を最適化することができる。
【0111】
前記キシレノール発色団とp-アミノフェノールの前記酸化カップリングは、青色生成物(すなわち染料)を形成し、これは、適切な波長で前記アッセイ混合物の吸光度の変化を測定することによって検出され得る。前記酸化カップリング反応終了時の吸光度から前記加水分解反応終了時の吸光度を差し引く。最初の試料に存在するアセトアミノフェンの化学量論量は、形成された染料のそれとほぼ同等である。
【0112】
得られた染料の吸光度は、波長の範囲にわたって測定することができる。前記染料の最大吸光度は、典型的には約610~615nmで現れる。典型的には、比色アッセイで測定するために選択される波長は、ピーク吸光度が現れる波長である。二色性分析装置が利用される場合、二色性ブランキング測定(bichromatic blanking measurement)は、アッセイにおけるバックグラウンドノイズを最小化するために一次測定から差し引かれる約700nm~約850nmを含むがこれらに限定されない代替波長(alternate wavelength)で行われる。アッセイにおけるバックグラウンドノイズを最小限に抑える他の既知の方法も使用され得る。
【0113】
Bulgerらは、オフピーク波長(すなわち、ピークではなく吸光度曲線の肩)で吸光度を測定すると、アッセイにおけるビリルビンおよびヘモグロビンの生体分子からの干渉を有意に減少できることを開示した。約640nm~約680nm、または650nm~670nm、好ましくは約660nmの波長で吸光度を測定し、ビリルビンまたはヘモグロビンの存在下でのアセトアミノフェンの測定精度が有意に改善したことがわかった。ビリルビンおよびヘモグロビン干渉は、既知のアセトアミノフェンアッセイに関連する一般的な欠点である。従って、アッセイにおける干渉を最小限に抑えるために、吸光度は、640nm~約680nm、または約650nm~670nm、好ましくは約660nmで測定することができるが、これらの波長に限定されない。
【0114】
一実施形態において、吸光度は約610~665nmで測定される。
【0115】
当業者は、試薬溶液中の成分とその相対的な割合は本発明から逸脱することなく変化させることができるが、単一の溶液および溶液の組み合わせのいずれにおいても、曇り、沈殿および他の汚染要素の存在を避けるべきであることを認識しているであろう。アッセイが液状で安定である場合、例えば酵素や発色団の安定性などの試薬またはその成分の安定性に悪影響を及ぼす可能性のある変更は、慎重に評価する必要がある。
【0116】
例示的な一実施形態において、本発明に係る2部分のアセトアミノフェンアッセイについて、以下に簡単にまとめる。
【0117】
第1の部分は、キュベットで特定の試料対試薬比で患者の血清または血漿試料に酵素試薬(Rl)を添加することを含む。例えばHitachi717では、10μLの試料と、脱イオン水で板上希釈された100μLのRlとが、加水分解溶液を形成する。この溶液を、自動分析装置上で例えば5分の設定時間、37℃でインキュベートすることができる。この間に、前記試薬中に存在するアリールアシルアミダーゼ酵素は、試薬中のアセトアミノフェン分子のアミド結合を切断してp-アミノフェノールとアセテートを形成する。吸光度の測定値は、発色団試薬の導入前に、設定された波長および一定の時間間隔でモニターされる。
【0118】
第2の部分は、前記発色団試薬(R2)を設定された時間間隔と一定の体積で前記加水分解液(試薬+Rl、希釈)に導入する。例えばHitachi717では、200μLのR2を導入し、反応をテスト持続時間の終了まで設定された時間間隔でモニターする。前記R2中のキシレノール発色団(好ましくは2,5-ジメチルフェノール)は、DMSOに事前に溶解された後、R2の他の成分に添加されることが好ましく、塩基性pHで触媒の存在下で第1の部分で得られたp-アミノフェノールと酸化カップリングする。2,5-ジメチルフェノールは、25x過剰で、最大22.5x、最大20x、最大l7.5x、最大15x、最大l2.5x、最大10x、または最大5倍過剰で存在し、好ましくは12.5x過剰で存在する。好ましい一実施形態において、前記酸化カップリングステップは、マンガンカチオンの存在下で行われる。前記反応により、約610nmで最大吸収ピークを有する着色錯体を生成する。
【0119】
この分析装置は、R2添加前の吸光度と反応終了時の吸光度の差を取り、バックグラウンドノイズを修正する。光学的濃度の違いは、前記試料から発生した吸光度の量である。吸光度の変化を検量線と比較して、最初試料中のアセトアミノフェン濃度を計算することができる。
【0120】
好ましい実施形態において、吸光度は、アッセイにおける特定の生体分子からの干渉を最小限に抑えるために660nmで測定される。
【0121】
特定の理論に拘束されることを望まないが、アセトアミノフェンの濃度は、ランベルト・ベールの法則A=εclとして知られている法則に従って吸光度の強度に正比例すると考えられている。
A=吸光度(特定の波長下);
ε=モル吸光係数(あらゆる化学物質のための定数);
l=光路長(すなわち1cm);
c=溶質の濃度。
【0122】
したがって、モル吸光係数と光路長が一定であるため、溶質の濃度(この場合はアセトアミノフェン)は、吸光度に正比例する。
【0123】
一実施形態において、最終反応混合物中の濃度は以下の通りである。ここでは、2,5-ジメチルフェノールはDMSO溶解されている。
1)227.5U/L アシルアシルアミダーゼ
2)0.0128g/L MnCl
3)1.83g/L 2,5-ジメチルフェノール
4)0.244g/L グルタチオン
【0124】
本発明のアッセイは、部品のキット(kit of parts)として製造・販売され得る。キット中の試薬は、再構成を必要とする粉末または凍結乾燥試薬であってもよい。このような粉末または凍結乾燥試薬の製造方法は、本分野で知られている。好ましくは、試薬は、液状で安定な試薬である。液状で安定な試薬は使いやすく、再構成時にエラーが発生しにくくなる。
【0125】
一つの実施形態において、キットは、酵素試薬(Rl)を含む容器と;発色団試薬(R2)を含む容器と;必要に応じて、発色団を溶解するためのDMSOの使用を指定するアッセイを実施するための指示とを備える。前記キットは、さらに、アセトアミノフェン標準および線形標準セットを調製するための指示を含んでもよい。
【実施例
【0126】
実施例1
表1および2は、Bulgerらに開示された例示的な酵素および発色団試薬を提供する。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
前記試薬は、脱イオン水などの適当な希釈剤で調製することができる。
【0130】
実施例2
表1および2に開示されている例示的な酵素および発色団試薬を使用したNACの非存在下および存在下でのアッセイの性能
脱イオン水中において既知の濃度(すなわち、250μmol/L、1000μmol/L、1500μmol/L、2000μmol/L、および2500μmol/L)を有する一連のアセトアミノフェン標準液を用意した。各標準のアリコート10μLをHitachi 717(R)分析装置(Roche Diagnostics)のキュベットで100μLのRlに加え、その後、100μLの脱イオン水で板上希釈した。各混合物を37℃で5分間インキュベートし、それぞれの初期吸光度値を得た。200μLのR2アリコートを各キュベットに添加し、酸化カップリング反応を5分間行い最終吸光度値を得た。660nmでの最終吸光度と初期吸光度との差から、アセトアミノフェンの濃度を計算し、800nmでの吸光度を差し引くことより、バックグラウンドノイズを補正した。各既知濃度の結果を以下の表3に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
準備された血清ベースの線形材料を用いて線形評価を行った。試料濃度は最大3000μmol/Lまで評価した。
【0133】
【表4】
【0134】
このアッセイは、幅広いアセトアミノフェン濃度にわたるアセトアミノフェン濃度を正確に測定できることを実証した。
【0135】
NACの存在下での性能を評価するために、75mgのNACを1000μLの脱イオン水に溶解させることにより、ストック溶液を作った。これにより、75g/Lまたは75000mg/LのNAC濃縮ストック溶液を得た。
【0136】
水中の濃度が既知のアセトアミノフェンアリコート2.5mlを試験管に添加し、50μLのNACストック溶液でスパイクして、既知のアセトアミノフェン濃度(すなわち、245μmol/L、490μmol/L、980μmol/L、1470μmol/L、1960μmol/L、および2450μmol/L)を有する一連のスパイク標準を用意した。スパイクされた各アセトアミノフェン標準は、NAC濃度が1471mg/Lで、これはNACの治療中に患者血清に見られる値であった。NACは経時的に劣化するので、試料はスパイクの1時間以内に分析された。
【0137】
前記アッセイは、上述の通り行った。スパイクされた標準アリコート10μLをHitachi 717(R)のキュベットで100μLのRlに加え、続いて板上希釈を行った。各混合物を37℃で5分間インキュベートし、初期吸光度値を得た。200μLのR2アリコートを各キュベットにそれぞれ添加し、前記酸化カップリング反応を5分間行った。660nmでの吸光度差に基づいて、バックグラウンドを補正し、アセトアミノフェンの濃度を算出した。方法の比較はSiemens Advia(R)1650上で行うことにより、8-HQ誘導体を発色団として使用する公知のアッセイとを比較した。種々の既知のアセトアミノフェン濃度の結果を以下の表4に示す。
【0138】
【表5】
【0139】
p-キシレノールを発色団として使用したアッセイは、8-HQ誘導体を発色団として使用したアッセイと比較して、NACの存在下での干渉に耐える。臨床分析における干渉のカットオフは、差が一般的に10%であり、好ましくは5%未満である。
【0140】
実施例3
キシレノール発色団の比較
キシレノール発色団の比較は、実施例1のR2製剤中の前記発色団を置換することにより行った。それ以外のパラメータは同じであった。R2緩衝剤とグルタチオンのストック溶液を作り、その後、6つの組に分けた。7.5g/Lの各異性体をそれぞれ対応した組に溶解することにより、それぞれ異なる異性体を有する6種類の「異なる」発色団試薬を作成した。Rlは変更しないため、分析において唯一の変数はR2における発色団であった。酵素試薬(R1)は、25℃でpH8.6であったが、6つの異性のキシレノール試薬それぞれ25℃でpH11.5であった。既知の各異性体の結果を以下の表5に示す。
【0141】
その結果、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、および2,3-ジメチルフェノールがNACの存在下で許容可能な線形の結果を得た。最適な性能は、2,5-ジメチルフェノールおよび2,6-ジメチルフェノールの場合に見られた。
【0142】
【表6】
【0143】
実施例4 イントラリピッド(R)の存在下における2,5-ジメチルフェノールの評価
2,5-ジメチルフェノールの評価は、既知濃度のアセトアミノフェンの含むイントラリピッド(R)スパイク血清を用いて行った。その結果、治療レベル(<200μmol/L)のアセトアミノフェンで、前記2,5-ジメチルフェノール発色団は200mg/dLのイントラリピッド(R)で±10%の許容限界内で回収した。テストは、Siemens Advia(R) 1650で行った。
【0144】
ウェブサイト「https://www.rxlist.com/intralipid-20-drug.htm」によると、イントラリピッド(R)20%は、カロリーと必須脂肪酸の供給源として静脈内投与用に調製された無菌の非発熱性脂肪エマルジョンであり、20%の大豆油、1.2%の卵黄リン脂質、2.25%のグリセリン、及び注射用水からなる。
【0145】
まず、10mlの血清を大きな試験管にプールし、混合した。その後、前記血清に対して2.1mgの試薬グレードアセトアミノフェンでスパイクし、溶解するまで混合した。スパイクしたプールから、1つのアリコート4.75mlをピペットで取り出し、対照プールとしてマークされた大きな試験管に入れた。4.75mlの第2のアリコートをピペットで取り出し、テストプールとしてマークされた第2の大きな試験管に入れた。対照プールでは、250μLの食塩水をプールに追加し、十分に混合した。テストプールにおいて、20%のイントラリピッド(R)溶液の250μLを加え、十分に混合した。干渉セットは、対照プールとテストプールを様々なレベルで混合することにより調製され、異なるイントラリピッド(R)濃度を作成したが、アセトアミノフェン濃度は維持した。2,5-ジメチルフェノールは、少なくとも200mg/dLのイントラリピッド(R)に対して許容できる結果を示した。
【0146】
実施例5(改善されたアッセイ)
表1および2に示されるアセトアミノフェンアッセイの再配合(Reformulation)、アッセイの効率を向上させるように設計された。一態様において、表2に示したアセトアミノフェンアッセイのR2色試薬製造ステップは非常に遅く、その主な理由は発色団の溶解が遅かったためであった。したがって、表1および2に開示されたアセトアミノフェンアッセイに2つの変更を行った。まず、発色団である2,5-ジメチルフェノールを事前にDMSOに溶解した後、発色団試薬(R2)の他の成分に添加した。次に、発色団試薬(R2)組成物中の発色団である2,5-ジメチルフェノールの濃度を半分に低減した。表1および2に示された配合において、2,5-ジメチルフェノールは24x過剰で存在した。再配合アッセイでは、前記濃度が12x過剰に減少した。
【0147】
再配合アセトアミノフェンアッセイは、以下にまとめる。表1および2に示されたアッセイに関する変更は、下線付きで太字で強調表示される。
【0148】
【表7】
【0149】
上記表に示された再配合アセトアミノフェンアッセイは、R2色試薬調製ステップの速度を著しく向上させた。この改善は、R2色試薬の他の成分に添加する前に2,5-ジメチルフェノール発色団の濃度を半分に低減してDMSOに事前に溶解させたことにより実現され、その安定性を予想外に改善した。
【0150】
しかしながら、上記表に示された再配合アセトアミノフェンアッセイに起因する全く予想外の性質は、脂肪血症干渉を有意に改善した。実施例4に示されるように、表1および2に示されたアセトアミノフェンアッセイに対して、再配合アセトアミノフェンアッセイでの脂肪血症による干渉の減少は、イントラリピッド(R)スパイク血清を用いて実証された。
【0151】
実施例4では、表1および2の配合を用いたアセトアミノフェンアッセイは、200mg/lのイントラリピッド(R)の存在下で15.3μg/mLのアセトアミノフェンを検出することができた(下記表7を参照)。しかしながら、上記表6に記載した再配合アセトアミノフェンアッセイでは、発色団である2,5、ジントロフェノールをDMSOに溶解して濃度を12.5X過剰にし、1,000mg/lのイントラリピッド(R)の存在下で15.1μg/mLのアセトアミノフェンを検出することができ(下記表8を参照)、これにより、表1および2に示されたアセトアミノフェンアッセイと比較して、再配合アッセイでは驚くべき有意な脂肪血症耐性が実証された。2,5-ジメチルフェノール発色団の溶解度を向上させることにより、R2色試薬調製プロセスの速度を向上させるために、他の溶媒に対しても試験した。エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールが正常に使用されたが、DMSOのみが、さらなる脂肪血症干渉試験に選択された。
【0152】
【表8】
【0153】
【表9】
【0154】
実施例6 パラメータの変更によりヘモグロビンとビリルビン干渉を低減した。
【0155】
ヘモグロビン干渉はアセトアミノフェンアッセイの公知の欠点である。1000mg/dLのヘモグロビンでスパイクした100μmol/Lのアセトアミノフェン試料に対してUltrospecTM 3300スキャンを行い、興味深い観察を行った。100μmol/Lのアセトアミノフェン試料と100μmol/L+l000mg/dLのヘモグロビン試料の間のODシフトは、660nmよりも600nmではるかに大きく、それが吸光度ピークの肩にあったが、一次波長と二次波長の間に良好なODシフトを提供した。したがって、一次波長として660nmを使用し、二次波長として800nmを維持して、さらにテストを実施した。
【0156】
その結果、一次波長を600nmから660nmに変更すると、アッセイにおけるヘモグロビンとビリルビンの両方の存在下での干渉を有意に減少させたことが実証された。分析は、Hitachi 717およびSiemens Advia(R) 1650の両方で行った。血清に対して設定された濃度でアセトアミノフェンをスパイクし、次いで様々な濃度で干渉物質をスパイクした。変更されたアッセイは、NAC、ビリルビンおよびヘモグロビンの存在下で許容可能なレベル(すなわち<10%)の干渉を示した。
【0157】
本発明の上記の実施形態は、単なる例であることを意図している。
【0158】
本発明の範囲から逸脱することなく、当業者は、特定の実施形態に対して変更、修正、および変形を行うことができ、本発明は、添付された特許請求の範囲のみによって定義される。
【0159】
引用されるすべての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。