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特許7465258超解像顕微鏡法のためのレンズアセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】超解像顕微鏡法のためのレンズアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20240403BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20240403BHJP
   G02B 21/26 20060101ALI20240403BHJP
   G02B 21/28 20060101ALI20240403BHJP
   G02B 21/12 20060101ALI20240403BHJP
   G01N 21/64 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/36
G02B21/26
G02B21/28
G02B21/12
G01N21/64 E
G01N21/64 F
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021513197
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 GB2019052494
(87)【国際公開番号】W WO2020053557
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】1814646.4
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518160355
【氏名又は名称】ユナイテッド キングダム リサーチ アンド イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アストベリー,サム
(72)【発明者】
【氏名】トーリー,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】スピンドロウ,クリストファー
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0220266(US,A1)
【文献】特開平04-166905(JP,A)
【文献】特開平05-113529(JP,A)
【文献】Lin Wang,Solid immersion microscopy readily and inexpensively enables 12 nm resolution on plunge-frozen cells,bioRxiv [online],2018年07月20日,<URL : https://www.biorxiv.org/content/10.1101/373647v1.full.pdf>,「Abstract」-「Methods」、図1-5等を参照。, [2023年 3月24日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00 - 21/36
G01N 21/62 - 21/74
G01Q 10/00 - 90/00
G11B 7/00 - 7/013
G11B 7/28 - 7/30
G11B 7/12 - 7/22
G02B 7/02 - 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温環境における試料(40)の顕微鏡撮像に用いるレンズアセンブリ(10)であって、前記レンズアセンブリは、
自身の面を貫通する開口(22)を備える平面マウント(20)と、
撮像用の前記試料を受容するための平面(12)を備える固浸レンズ(14)とを備え、
前記固浸レンズは前記開口の中に装着され、
前記開口(22)は、前記平面マウントと前記固浸レンズとの間に周方向チャネル(30)を備え、
前記平面マウントは複数の尖端(28)を備え、前記複数の尖端は、前記固浸レンズに向かって、かつ任意に前記固浸レンズに触れるように、前記周方向チャネル内に延在する、レンズアセンブリ。
【請求項2】
前記固浸レンズ(14)は無収差固浸レンズ(ASIL)である、請求項1に記載のレンズアセンブリ。
【請求項3】
前記レンズの前記平面(12)は前記マウントの前記面と平行である、請求項1または2に記載のレンズアセンブリ。
【請求項4】
前記固浸レンズ(14)は、前記開口から、前記マウントの前記面から離れる両方向に延在する、請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項5】
前記固浸レンズの赤道領域は前記開口の中に固定される、請求項4に記載のレンズアセンブリ。
【請求項6】
前記周方向チャネルの内側に接着材料(32)をさらに備え、前記接着材料は前記平面マウントと前記固浸レンズとをつなぐ、請求項1から5のいずれか1項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項7】
前記接着材料は前記周方向チャネルの周りに連続的に延在する、請求項6に記載のレンズアセンブリ。
【請求項8】
前記接着材料(32)は各々の前記尖端(28)に位置して前記固浸レンズを前記尖端において前記平面マウントに固定するために硬化する第1の接着材料を備える、請求項6または7に記載のレンズアセンブリ。
【請求項9】
前記接着材料(32)は第2の接着材料をさらに備え、前記第2の接着材料は各々の前記尖端において配置され前記第1の接着材料が硬化した後に硬化し、前記固浸レンズを前記尖端において前記平面マウントにさらに固定するために硬化し、前記第1の接着材料は前記第2の接着材料よりも短い硬化時間を有する、請求項8に記載のレンズアセンブリ。
【請求項10】
前記接着材料(32)は第3の接着材料を備え、前記第3の接着材料は前記周方向チャンネル(30)の長さに沿って配置され前記第1の接着材料が硬化した後に硬化する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記接着材料(32)は第3の接着材料を備え、前記第3の接着材料は前記周方向チャンネルの長さに沿って配置され前記第1の接着材料および前記第2の接着材料が硬化した後に硬化する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記固浸レンズの赤道断面は円形であり、前記開口は円形であり、任意に前記平面マウントの周囲は円形である、請求項1から11のいずれか1項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項13】
前記マウント(20)は、金属、白金、セラミック、および半導体、のうちの少なくとも1つで形成される、請求項1から12のいずれか1項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項14】
試料に対して超解像光学顕微鏡法を実行するための装置であって、
請求項1から13のいずれか1項に記載のレンズアセンブリ(10)と、
前記固浸レンズ(14)の前記平面の上のまたは前記平面(12)に隣接した試料(40)と、
前記試料が配置される極低温環境(42)と、
前記固浸レンズを通して前記試料の超解像光学画像を得るように配置された超解像光学顕微鏡とを備える、装置。
【請求項15】
極低温環境(42)における試料(40)の顕微鏡撮像に用いる固浸レンズ(14)を装着する方法であって、前記固浸レンズには、撮像用の前記試料を受容するための平面(12)が設けられており、前記方法は、
自身の面を貫通する開口(22)を備える平面マウント(20)を提供することと、
周方向チャネルが前記固浸レンズと前記平面マウントとを分離するように、かつ、前記固浸レンズが、前記開口から、前記マウントの前記面から離れる両方向に延在するように、前記固浸レンズ(14)を前記開口の中に装着することとを備え、
前記装着するステップは、各尖端が前記周方向チャネル内にまたは前記周方向チャネル(30)を横切って延在するように、前記固浸レンズを前記尖端の各々に近接してまたは接触させて前記開口(22)の中に配置することを備える、方法。
【請求項16】
前記装着するステップは、接着材料(32)を用いて前記固浸レンズを前記開口の中に固定する後続のステップを備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記固定するステップは、前記尖端(28)の各々に第1の接着材料を配置することにより、前記尖端において前記固浸レンズを前記平面マウントに固定し、前記第1の接着材料を硬化させるステップを備える、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記固定するステップは、前記尖端(28)の各々に第2の接着材料を配置することにより、前記尖端において前記固浸レンズを前記平面マウントにさらに固定し、前記第2の接着材料を硬化させる後続のステップを備え、前記第1の接着材料は第2の接着材料よりも硬化時間が短い、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記固定するステップは、前記周方向チャネル(30)の長さに沿って第3の接着材料を配置し、前記第3の接着材料を硬化させる後続のステップを備える、請求項1または1に記載の方法。
【請求項20】
方法であって、
治具(70)を提供することを備え、前記治具は、前記治具の上面に形成された第1の直線チャネル(72)と、前記第1の直線チャネルに平行な、前記第1の直線チャネルの床に形成された第2の直線チャネル(80)とを有し、さらに、
前記平面マウント(20)を前記第1の直線チャネルの中に配置することと、
前記固浸レンズが前記マウントの前記面を貫通する前記開口の中に配置されるように、前記固浸レンズ(14)を前記第2の直線チャネルの中に配置することと、
請求項15~19のいずれか1項に記載のステップを実行することとを備える、方法。
【請求項21】
前記治具(70)には、前記第1および第2の直線チャネルの間の各境界に沿って前記第1の直線チャネルの前記床に形成された実矧ぎ溝(90)が設けられている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
試料に対して超解像光学顕微鏡法を実行する方法であって、
請求項1~13のいずれか1項にしたがって、または請求項15~21のいずれか1項に記載のステップを実行することによって、レンズアセンブリ(10)を提供することと、
前記固浸レンズの前記平面の上にまたは前記平面に隣接して前記試料(40)を配置することと、
前記試料を極低温環境(42)に配置することと、
超解像光学顕微鏡技術を用いて前記固浸レンズを通して前記試料を撮像することにより、前記試料の超解像画像を提供することとを備える、方法。
【請求項23】
前記超解像光学顕微鏡技術は単一分子局在化光学顕微鏡技術である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
相関撮像の方法であって、
請求項22または23に記載のステップを実行することにより、前記試料の超解像光学画像を提供するステップ(320)と、
前記試料に対して電子顕微鏡法またはX線顕微鏡法を実行することにより、前記試料のさらなる画像を提供するステップ(330)と、
前記超解像光学画像と各試料の前記さらなる画像とを相関させることにより、前記試料の相関画像を提供するステップ(340)とを備える、方法。
【請求項25】
前記極低温環境(42)は、200ケルビン未満の温度、133ケルビン未満の温度、100ケルビン未満の温度、77ケルビン未満の温度、液体窒素を用いて維持される、および窒素蒸気を用いて維持される、のうちの少なくとも1つである、請求項1から24のいずれか1項に記載の装置または方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温環境に置かれた試料の顕微鏡撮像に用いるレンズアセンブリと、そのようなレンズアセンブリの構築および使用方法とに関する。たとえば、当該顕微鏡撮像は、単一分子局在化技術などの技術を用いる超解像光学撮像を含んでもよい。
【背景技術】
【0002】
導入
従来の顕微鏡法の解像度は光の回折のために制限されており、達成可能な空間分解能はアッベ回折限界によって近似的に定まる。したがって、達成可能な空間分解能は、対物レンズの開口数などの光学パラメータに依存しており、これは、高屈折率の流体を用いて対物レンズと撮像対象の試料とを光結合する液浸技術の使用などによるさまざまな方法で高めることができる。
【0003】
光学構成を変更する以外の、光学撮像系の空間分解能限界を克服するための他のさまざまな技術も先行技術において開発されており、一般に超解像顕微鏡法の技術と称され得る。そのような技術として、たとえば、発光体同士を分離し、近似の点広がり関数を用いてそれらの位置を合わせる単一分子局在化技術がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのような超解像顕微鏡技術は、たとえば天然状態でガラス化された生物試料を正確に撮像することができるように、極低温で実行することが望ましい場合が多い。したがって本発明は、先行技術のこれらのおよび他の局面に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
極低温において単一分子局在化顕微鏡技術などの超解像顕微鏡技術の解像度をさらに向上させることは、液浸対物レンズを使用することの困難さのためにさらに困難になることが見出されている。というのも、通常の顕微鏡法の液浸に用いられる流体はそのような低温に適していないからである。したがって本発明の局面は、極低温での超解像顕微鏡法における固浸レンズの使用を支持する。有利には、この目的で無収差固浸レンズを用いることにより、湿式対物レンズ浸漬液の使用の困難を伴わずに、選択された超解像顕微鏡技術を用いて得られる解像度をさらに高めることができる。
【0006】
これらの目的で固浸レンズを用いることにより、対物レンズ-固浸レンズ系の開口数および集光効率が高まるため、顕微鏡技術の利用可能な解像度が向上する。
【0007】
極低温における単一分子局在化顕微鏡技術または他の超解像光学顕微鏡技術を固浸レンズとこのように組み合わせることにより、極低温状態において数十ナノメートルの画像解像度を達成することができ、したがって、相関撮像動作における同様の解像度での同じ試料の電子顕微鏡画像との組み合わせに適切な画像解像度が提供される。これら2つの技術の間のこのような相関撮像は、ガラス化技術を用いてほぼ天然状態に保存されている生物試料を撮像する際に特に有利であり得る。
【0008】
したがって本発明は、極低温環境における試料の顕微鏡撮像に用いるレンズアセンブリであって、自身を貫通する開口を含むマウントと、撮像用の試料を受容するための平面を含む固浸レンズとを含み、固浸レンズは開口の中に装着されるレンズアセンブリを提供する。特に、マウントは平面マウントとして説明される場合があり、開口はその場合、たとえばマウントの主平面などの面を貫通してもよい。当然のことながら、マウントは平面状または概して平面状であると説明される場合があるが、これは、取り扱いまたは位置決めに用いられる素子などの1つ以上の特徴がそのような面の外に延びる可能性を排除するものではない。
【0009】
特に、固浸レンズは無収差固浸レンズ(aplanatic solid immersion lens)(ASIL)であってもよく、当該レンズには以下に記載されるように光学性能に関してさらなる利点がある。
【0010】
レンズの平面は、マウントの面と、または1つ以上の顕微鏡の内部にレンズアセンブリを位置決めするために用いられるマウントの平面と、平行または実質的に平行であってもよい。このように、固浸レンズの光軸は、たとえばそのような顕微鏡の内部のレンズアセンブリの任意の軸回転が起きた場合でも、注意深く制御されて予測可能であるため、顕微鏡法の性能および固浸レンズの使用が向上する。
【0011】
一般的に、固浸レンズは、開口からマウントを貫通して、マウントの面から離れる両方向に延在し得る。固浸レンズは次いで、開口の中の最大直径領域にまたは最大直径領域の近くに、すなわちレンズの赤道または赤道領域に固定されてもよい。
【0012】
開口は、平面マウントと固浸レンズとの間に周方向チャネルを含んでもよく、平面マウントは次いで、固浸レンズの位置を合わせる、支持する、または制御するために、固浸レンズに向かって周方向チャネル内に延在する複数の尖端または突起を含んでもよい。特に、尖端は、レンズが開口の中に配置されたときにレンズの正確な位置を提供するのを助けることができ、これによって、レンズと平面マウントとのその後の結合を、たとえばレンズを選択位置から引き離す傾向がある毛管作用などの流体力にもかかわらず、この正確な位置を維持して実行することができる。
【0013】
尖端は、たとえば、周方向チャネルを横切って延在して固浸レンズに触れてもよく、または、たとえばチャネルを横切って90%を超えて延在するなど、それよりもわずかに短くてもよい。
【0014】
そのために、少なくとも3つのそのような尖端を用いることにより、毛管力が等しいこと、したがってレンズがいずれの特定の方向にも優先的に引っ張られないことを確実にすることができる。複数の尖端を周方向チャネルの周りに均一に、すなわち互いに実質的に等しい間隔で分散させることにより、レンズがいずれの特定の方向にも優先的に引っ張られないことをさらに確実にすることができる。
【0015】
レンズアセンブリは、周方向チャネルの内側に接着材料を含んでもよく、接着材料は平面マウントと固浸レンズとをつなぐ。この接着材料は上述の尖端に加えて設けられることが好ましいが、尖端の位置決め作用にもかかわらず起こる可能性があるレンズとマウントとの望ましくない位置ずれをさらに回避するために、接着材料を特定の方法で塗布することが有利な場合もある。特に、接着材料は、マウントの中のレンズに堅固な支持を与えるために、周方向チャネルの周りに連続的に延在してもよい。そのような接着材料は尖端を覆ってもよい。
【0016】
固浸レンズの形は一般的に、上述の平面状の試料面が追加された球形であり得る。固浸レンズの赤道断面は次いで一般的に円形であり得る。他の形状および形態が用いられてもよいが、開口は同様に円形であってもよく、任意に平面マウントの周辺または周囲も円形であってもよい。開口を、開口の中に保持すべきレンズの周囲と実質的に同じ形状であるように設けると、周方向チャネル全体の周りに接着材料を均一に塗布するのに役立ち、さらに、たとえば接着剤の塗布時の未硬化の接着剤の流体力によって、および硬化時に起こり得る歪みによって起こるレンズの位置ずれを回避するのに役立つ。
【0017】
マウントは、金属、白金、セラミック、および半導体、のうちの少なくとも1つで形成されてもよく、または当該少なくとも1つを含んでもよい。金属を用いる場合、金属は白金または別の生体適合性金属であってもよいが、他の金属および材料を用いてもよい。
【0018】
本発明はまた、上述のレンズアセンブリを使用するための装置、たとえば試料に対して超解像光学顕微鏡法を実行するための装置であって、上述のレンアセンブリと、固浸レンズの平面の上のまたは平面に隣接した試料と、試料が配置される極低温環境と、試料の超解像光学画像を、たとえば固浸レンズを通して当該画像を得ることによって提供するように配置された超解像光学顕微鏡とを含む装置を提供する。
【0019】
本発明はまた、上述のレンズアセンブリの製造または構築方法、たとえば極低温環境における試料の顕微鏡撮像に用いる固浸レンズを装着する方法であって、固浸レンズは、撮像用の試料を受容するための平面を含み、当該方法は、自身を貫通する開口を含むマウント、たとえば概して平面状のマウントを提供することと、周方向チャネルが固浸レンズとマウントとを分離するように、かつ、固浸レンズが、開口から、マウントから離れる、より具体的にはマウントの主平面から離れる両方向に延在するように、固浸レンズを開口の中に装着することとを含む方法を提供する。
【0020】
上述のように、開口は複数の尖端または突起を含んでもよく、装着するステップは次いで、各尖端が、固浸レンズの近位部に向かって周方向チャネル内に延在し、任意に周方向チャネルを横切ってまたは実質的に横切って固浸レンズに触れるまたはほぼ触れるように、固浸レンズを尖端の各々の先端に接触させてまたは近接して開口の中に配置することを含んでもよい。
【0021】
装着するステップは、接着材料を用いて固浸レンズを開口の中に固定する後続のステップを含んでもよい。しかしながら、液状のそのような接着材料はレンズにかなりの流体力および硬化力を与えるため、尖端を用いた正確な位置決めにもかかわらず、レンズの望ましくない位置ずれが生じる可能性がある。
【0022】
したがって、固定するステップは、尖端の各々に、尖端の各々の上に、または尖端の各々の周りに第1の接着材料を配置することにより、尖端において固浸レンズをマウントに固定するステップを含んでもよい。次いで、さらなるステップを行う前に第1の接着材料を硬化させてもよい。
【0023】
固定するステップは任意に次いで、尖端の各々に、尖端の各々の上に、または尖端の各々の周りに第2の接着材料を配置することにより、尖端において固浸レンズを平面マウントにさらに固定し、第2の接着材料を硬化させる後続のステップをさらに含んでもよい。この場合、第1の接着材料は第2の接着材料よりも硬化時間が短くてもよい。というのも、レンズは第1の接着剤を用いてすでに少なくとも部分的に固定されているので移動する可能性が低いためであり、硬化時間が長いほど、第2の接着剤を用いてさらに確実な結合を提供することができる。
【0024】
第2の接着材料が上述のように用いられるか否かにかかわらず、固定するステップは、周方向チャネルの周りに、たとえばレンズの周りのチャネルの全長またはチャネルの少なくとも約90%に沿って、第3の接着材料を配置し、第3の接着剤を硬化させる後続のステップを含んでもよい。特に、この目的で極低温適合性の接着剤が用いられてもよい。
【0025】
上述のような接着剤塗布のための固浸レンズおよび平面マウントを提示するのに適した保持機構を提供するために、方法はさらに、治具またはプラットフォームを提供することを含んでもよく、治具は、治具の上面に形成された第1のチャネルまたは溝と、第1のチャネルの床に形成された第2のチャネルまたは溝とを有する。第1および第2のチャネルは直線かつ平行であってもよい。次いで、平面マウントを第1のチャネルの中に配置または設置し、第1のチャネルの床は平面マウントを支持しており、固浸レンズを第2のチャネルの中に設置し、第2のチャネルは、固浸レンズがマウントの面を貫通する開口の中に位置するような、たとえば固浸レンズの赤道領域が開口の中に位置するような深さおよび位置を第1のチャネルの中に有する。固浸レンズは、レンズの平面が第2のチャネルの床に着座するように向けられてもよい。第1および第2のチャネルの床を平行な面として設けることによって、これを用いることにより、接着材料を用いる結合に先立って固浸レンズと平面マウントも平行であることを確実にすることができる。
【0026】
本発明はまた、上述のレンズアセンブリを使用する方法、たとえば試料に対して超解像光学顕微鏡法を実行する方法であって、上述のレンズアセンブリを提供することと、固浸レンズの平面の上にまたは平面に隣接して試料を配置することと、試料を極低温環境に配置することと、超解像光学顕微鏡技術を用いて固浸レンズを通して試料を撮像することにより、試料の超解像画像を提供することとを含む方法を提供する。
【0027】
たとえば、超解像光学顕微鏡技術は単一分子局在化光学顕微鏡技術であってもよい。
本発明はまた、相関撮像の方法であって、たとえば、上述の超解像光学顕微鏡法の方法を実行することにより、試料の超解像光学画像を提供するステップと、試料に対して電子顕微鏡法またはX線顕微鏡法を実行することにより、試料のさらなる画像を提供するステップと、超解像光学画像と各試料のさらなる画像とを相関させることにより、試料の相関画像を提供するステップとを含む方法を提供する。
【0028】
本文書で極低温環境について言及する場合、そのような環境は、200ケルビン未満の温度、133ケルビン未満の温度、100ケルビン未満の温度、77ケルビン未満の温度、および/または液体窒素を用いてもしくは窒素蒸気を用いて維持される、のうちの少なくとも1つを提供し得る。
【0029】
添付の図面を参照して、本発明の実施形態をほんの一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明を具体化するレンズアセンブリの斜視図であり、一般的にともに用いられる接着材料は明確にするために省略している。
図2】本発明を具体化するレンズアセンブリの平面図であり、一般的にともに用いられる接着材料は明確にするために省略している。
図3図2に対応するが、接着材料も示されている図である。
図4図1図3のレンズアセンブリを用いて極低温環境に置かれた試料に対して超解像顕微鏡法を実行するための装置の概略図である。
図5】治具を用いたレンズアセンブリの構成要素の位置合わせを示す図である。
図6】接着材料の塗布を伴う、レンズアセンブリを構築するための方法のフローチャート図である。
図7】レンズアセンブリを用いた相関撮像のための方法のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
実施形態の詳細な説明
ここで図1を参照して、極低温環境で試料に対して顕微鏡法、たとえば超解像光学顕微鏡法を実行するためのレンズアセンブリ10が斜視図で示されている。対応する平面図が図2に示されており、図3は以下に説明される接着材料も所定位置に配置された状態の対応する平面図を示す。これらの配置において一般的に用いられる接着材料は、明確にするために図1および図2から省かれている。
【0032】
顕微鏡法を用いた撮像用または他の分析用の試料(これらの図には図示せず)が、固浸レンズ14の平面12に隣接してまたは接触して配置されてもよい。特に、図1に示されるように、これは、以下により詳細に記載される切頭球形のボールレンズの形態をとる無収差固浸レンズ(ASIL)として提供されてもよい。レンズアセンブリはまた、図1においてそれぞれ上面および下面として示されている、対向する、一般的に平行な主面24、26を有する平面マウント20を含むが、レンズアセンブリはいずれかの選択された向きで用いられればよいことに留意されたい。平面マウント20および当該主面は、平面マウントの主平面内に延在する。平面マウントには、マウント20の面を貫通する開口22が設けられており、固浸レンズは開口の中に装着または固定される。
【0033】
図1に示されるように、固浸レンズ14は、開口22から、マウントの面から上向きおよび下向きとして図1に示されている、マウントの主平面から離れる両方向に延在してもよい。特に、固浸レンズ14は、固浸レンズの赤道領域が開口の中に固定されるように装着されてもよい。
【0034】
固浸レンズ14は、固浸レンズの平面12がマウントの主平面に平行または実質的に平行であるように、たとえば平面マウントの対向主面24、26の一方または両方に実質的に平行であるように、開口の中に装着されてもよい。実質的に平行とは、たとえば、対向面24、26の一方もしくは両方および/または主平面と平行から約1度以内または約0.1度以内であってもよい。これにより、ユーザは、レンズアセンブリが適切な顕微鏡機器の内部に設置された際に平面12の向きに高い信頼を置くことができる。
【0035】
図1に示される平面マウント20の周辺は平面図で円形であり、開口22も円形であり、平面マウントの中心に位置決めされる。しかしながら、平面マウントの周辺の他の形状、ならびに開口の他の形状および位置が用いられてもよく、たとえばそのような形状は、要求に応じて、正方形、長方形、他の多角形の形態、および不規則などであってもよい。マウントは一般的に、金属、セラミック、または半導体などの単一材料で形成され得るが、2つ以上の異なる材料が、たとえば、層、コーティングとして、または機能的特徴を追加するために用いられてもよい。生物試料がレンズアセンブリとともに用いられる場合は、平面マウントの材料には白金などの生体適合性材料が好ましい場合がある。また、固浸レンズの材料の熱膨張係数に近い、さらに任意に、レンズをマウントに結合するために用いられる接着剤、特に以下に説明される第3の接着剤の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有する材料をマウントに用いることが好ましい場合がある。
【0036】
図面に示されている平面マウントは、要求に応じて、レンズアセンブリおよび装着された固浸レンズの取り扱い、装着、もしくはその位置の較正を助ける、またはレーザー機械加工もしくは向きを助ける構造など、平面マウントの主平面の内部のまたは主平面の外に延びる他の特徴および構造によって増強されてもよい。
【0037】
固浸レンズは、開口22の周辺から周方向チャネル30内に延在する複数の尖端28またはスパイクによって開口の中に支持され、周方向チャネル30は固浸レンズ14と平面マウントとの間のレンズの周囲に延在する。図1および2では3つのそのような尖端が設けられているが、たとえば4つ、5つ、または6つなど、3つよりも多い尖端が用いられてもよい。尖端は、固浸レンズが開口の中の選択位置に置かれると固浸レンズの周囲にほぼ触れる(たとえばレンズの赤道領域で触れる)ように、たとえば周方向チャネルを横断する距離の少なくとも90%を延在するように配置されることが好ましいが、尖端は、レンズが開口の中に置かれると、実際に触れるように、またはさらには変形するように、それよりもわずかに長く形成されてもよい。
【0038】
尖端は一般的に円錐形にまたは尖っているように形成され得るが、他の形状および形態が用いられてもよく、他の形状および形態の各々は一般的に、それらの基部において、開口の周辺の距離のごく一部だけ、たとえば尖端28ごとに周辺の5%以下だけ延在し得る。
【0039】
尖端28を用いて固浸レンズ14を開口22の中に位置合わせして位置決めすることができるが、尖端28は、完成したレンズアセンブリの取り扱い時および使用時にレンズを所定位置に保持することを意図していない。したがって、平面マウントの開口の周辺と固浸レンズとをつなぐことによってレンズを所定位置によりよく固定するために、図3に示されるような接着材料32が周方向チャネル30の内側にさらに設けられる。接着材料32は、チャネルの周囲にこのように連続的に延在してもよく、尖端を覆ってもよく、さらにチャネルの深さを実質的に充填してもよく、要求に応じて、任意にチャネルを完全に充填してさらにチャネルの外に延在してもよい。以下により詳細に記載されるように、接着材料は、製造処理の異なる段階で塗布される2つ以上の異なる接着材料として設けられてもよく、たとえば、まず第1の接着材料が尖端28の近傍に塗布され、続いて少なくとも第3の接着材料が周方向チャネル30の周りに塗布されてもよい。
【0040】
図面に示されているレンズアセンブリのいくつかの一般的な寸法は、平面マウントの直径が約2~6mmの範囲であり、固浸レンズの直径が約0.5~3mmであり、平面マウントの厚みが約0.1~0.4mmであり得る。開口の周辺から固浸レンズに向かうまたは固浸レンズまでの尖端の各々の延在長さ、したがってさらに、周方向チャネル30のおおよその幅は、たとえば約5~20μmであり得る。
【0041】
レンズアセンブリの外形寸法および形状が、直径約3mmの円形状および平面状で提供されることが多い一般的な電子顕微鏡グリッドの外形寸法および形状に全体的に対応するように、レンズアセンブリを構築することが有利であり得るが、他の直径も頻繁に用いられる。このように、関連の試料が固浸レンズ14の平面12に配置された特定のレンズアセンブリ10は、たとえば超解像顕微鏡技術が用いられる場合に、たとえばこれらの2つの技術の間の相関撮像の処理において、光学顕微鏡法および電子顕微鏡法の両方の動作においてより容易に用いることできる。
【0042】
図4は、極低温環境42で試料40に対して光学顕微鏡法を、より具体的には超解像光学顕微鏡法を実行するための装置を示す。レンズアセンブリ10はここでは断面で示されている。上述のように、試料40は、レンズアセンブリ10の固浸レンズ14の平面12に隣接してまたは接触して配置される。
【0043】
1つ以上の光源46を用いてプローブ光が形成され、プローブ光は一般的に、プローブ光光学部品48を用いて調整または制御されてから、たとえばビームスプリッタ52を経由して対物レンズ50に送られる。対物レンズ50は、プローブ光を試料に送達するために、かつ試料から画像光を収集してCCDまたはCMOSカメラなどの1つ以上の撮像素子54に送るために、固浸レンズ14に向けられている。試料40から固浸レンズ14を通って1つ以上の撮像素子54に至る画像光の経路は、ビームスプリッタ52および画像光光学部品56を経由してもよい。
【0044】
少なくとも試料40が極低温環境42の中に含まれているが、さらに固浸レンズ14およびレンズアセンブリ10の一部またはすべてが極低温環境の中に都合よく含まれていてもよい。極低温環境は、試料が200ケルビン未満、133ケルビン未満、100ケルビン未満、または77ケルビン未満の温度であるようなものであってもよく、あるいは、液体窒素もしくは窒素蒸気、または別の寒剤、たとえば試料40および/もしくは固浸レンズ14に近接もしくは接触しているそのような寒剤を用いて維持されることによって規定されてもよい。
【0045】
試料40は、たとえば、1つ以上の細胞、細胞小器官、または薄膜など、生物材料もしくは他の材料からなるまたは当該材料を含む薄い試料または膜であってもよい。あるいは、試料は、たとえば量子ドットを含む、生物材料で形成された素子、または検査対象の無機材料の塊などの非生物材料で形成された素子など、より厚い試料素子の表面領域によって提供されてもよい。試料は図4に示されるように固浸レンズ14と接触していてもよく、またはレンズの表面からわずかに、一般的には約100nm未満であるが、ずれていてもよい。
【0046】
図4の配置を用いて、極低温環境42で試料40に対して超解像顕微鏡法が実行される。超解像顕微鏡法を用いることにより、用いられる光学配置の回折限界を超える試料の画像解像度が達成される。たとえば図4の配置では、超解像顕微鏡法を用いることにより、対物レンズ50および固浸レンズ14を含む配置の回折限界を超える。
【0047】
多種多様な超解像顕微鏡技術が用いられ得るが、当該技術は一般的に単一分子局在化技術であり得る。一般的にそのような技術では、撮像素子54を用いて試料40を何度も順次撮像し、試料内の分子の小さい異なるサブセットのみが各画像内に表わされる。このように、単一の点として見える個々の分子を各画像内で別個に識別することができるので、たとえば、予想される点広がり関数の曲線を各分子の検出画像に適合させてから、対応する重心の位置を特定することによって、個々の分子の位置を光学配置の回折限界よりも良好な位置精度で特定することができる。複数のそのような画像についてこの処理を繰り返すことによって、解像度がはるかに高い試料の画像を構築することができる。天然状態で時間分解的に撮像可能な性質の分子は、たとえば量子ドット、有機色素および蛍光タンパク質などほんの数種類しかない。試料の大半は、照明時に輝度が変動する蛍光発光体でラベリングされる追加工程が必要である。
【0048】
いくつかのそのような技術では、試料の個々の分子は、たとえば蛍光発光体などの発光体でラベリングされてもよく、プローブ光は、それらの発光体の小さいサブセットのみが各画像内で発光しているように、当該発光体によって間欠的な蛍光イベントが生じるように使用または制御される。いくつかの特定の実施形態では、超解像顕微鏡技術は、STORMと称されることが多い確率的光学再構築顕微鏡法(stochastic optical reconstruction microscopy)技術であってもよい。本発明での使用に適しているそのようなSTORM技術のいくつかの特定の実現例は、Bo Huang et al., Science 319, 810 (2008), "Three-dimensional super-resolution imaging by stochastic optical reconstruction microscopy"、およびDoory Kim et al., PLos ONE 10(4): e0124581, April 2015, "Correlative stochastic optical reconstruction microscopy and electron microscopy"に記載されている。
【0049】
そのような蛍光撮像技術用の試料を準備する際は、他の蛍光撮像技術についての態様とほぼ同じ態様で試料の着色およびラベリングが実行され得る。たとえばAlexa Fluor 647など、多くのAlexa FluorおよびAtto色素がSTORM撮像に使用可能である。有機色素とは別に、mEOSおよびPAmCherryなどの多くの蛍光タンパク質も適している。
【0050】
しかしながら、本発明は、たとえば構造化照明顕微鏡法(structured illumination microscopy)(SIM)および誘導放出抑制(stimulated emissions depletion)(STED)顕微鏡法など、試料を極低温環境に配置することが望ましい、画像解像度を向上させるためのさまざまな他の超解像顕微鏡技術とともに用いられてもよい。
【0051】
平面マウントの中に装着される固浸レンズ14は、より具体的には無収差固浸レンズ(ASIL)であってもよい。そのようなASILは、(図4に表示されているように)厚みがr+r/nの実質的に切頭球形のボールレンズであることによって特徴付けられる場合があり、rはボール半径であり、nはボールレンズの材料の屈折率である。これは、実質的に平面状の切頭面の位置が半球固浸レンズとは異なり、半球形の場合はレンズの厚みはrである。試料と実質的に接触している半球固浸レンズを用いることにより、対物レンズ50と組み合わせて、対物レンズ50単独の開口数の倍数nを有する開口数を提供することができる。対照的に、対物レンズ50と組み合わされた無収差固浸レンズは、nの最大値を上限として、対物レンズ50単独の開口数の倍数nを有する開口数を達成することができる。
【0052】
当然のことながら、固浸レンズはそれぞれの光学配置において光学的に用いられる表面によって規定されていれば十分であるので、撮像対象の試料から遠い曲面は一般的には実質的に球形であり、撮像対象の試料に近い表面は一般的には実質的に平面状であるが、無収差固浸レンズの他の部分はボール形状または図1に示される理想的な切頭球体を必ずしも完成させる必要はない。
【0053】
さらに、SILまたはASILは、球形である曲面を用いて実現されてもよいが、非球面が用いられてもよい。たとえば、Brunner et al. (2004), “Diffraction-based solid immersion lens”, Journal of the Optical Society of America, A 2(7):1186-1191、およびCohn et al. (2002), “Transient photoinduced diffractive solid immersion lens for infrared microscopy”, Applied Physics Letters, 81(19):3678-3680参照。
【0054】
無収差固浸レンズはまた、半球固浸レンズよりも広い有効視野を提供することができるが、色収差が多少増加する場合がある。この増加は、さまざまな光波長について対物レンズ50とASIL14との間の間隔をわずかに変化させることによって補償することができる。そのような収差および設計上の考慮事項は、たとえばLin Wang et al., Applied Optics, Vol. 49, No. 31, 6160 - 6169に記載されている。
【0055】
図4の配置における固浸レンズまたはASILの使用に起因する開口数の増加は、レンズに用いられる材料の屈折率に直接依存する。したがって、屈折率が2.2の二酸化ジルコニウムなどの高屈折率の材料が用いられてもよい。レンズのサイズは、視野および収差効果などの要因同士の折り合いをつけるように選択されてもよい。球径が約3mmのASILが用いられ、材料が二酸化ジルコニウムである場合は、レンズ深さは約2.18mmになる。
【0056】
図4に示されるように、極低温環境42で試料40に対して超解像顕微鏡法を実行するために固浸レンズ14、より具体的にはASILを用いることにより、光学撮像配置において高開口数を達成することができ、したがって、撮像素子54が検出する特徴の超解像局在化において高精度を達成することができる。高開口数を達成する代替的な方法は、高指数浸漬液の塊が湿式対物レンズおよび試料と接触してこれらの間の光学空間を埋めている状態で当該湿式対物レンズを用いることであろう。しかしながら、そのような高指数浸漬液は、極低温環境と関連する低温に対する耐性がない。低温は、たとえば、撮像対象の試料内の標的構造が、超解像撮像処理が成功するためにはガラス化が必要な細胞内小器官または他の生物学的構造である場合など、検査対象の試料の性質によって必要となることが多い。したがって、固浸レンズを用いる本発明は、超解像顕微鏡法を実行する際に、液浸レンズを用いて利用可能な開口数よりも高い開口数、および極低温に対する耐性の両方を提供する。対照的に、一般的な顕微鏡浸漬オイルは、DIN/ISOによって規定されているように摂氏約23°に対して標準化されている。特殊用途向け浸漬オイルの中には、摂氏18°、20°または37°での使用に得ることができものもある。
【0057】
乾式対物レンズ50は、固浸レンズ14を収容できるように十分長い作動距離を有するべきである。一般的な作動配置では、適切なレンズは50X Mitutoyo Plan Apo Infinity Corrected Long WD Objective(NA 0.55、作動距離13mm)であってもよい。
【0058】
レイリー基準に従って、対物レンズ50と無収差固浸レンズとの組み合わせの光学分解能は
【0059】
【数1】
【0060】
である。
ここで、λは収集した画像光の波長であり、nはASIL材料の屈折率であり、NAは乾式対物レンズの開口数である。なお、nとNAとの積はnの最大値の影響を受ける。
【0061】
次いで、以下の局在化精度
【0062】
【数2】
【0063】
を用いて、画像内の別個の分子の検出に基づく超解像技術の分解能を評価することができる。
【0064】
ここで、Nは各単一分子から収集した光子数である。したがって、そのような超解像技術の局在化精度は
【0065】
【数3】
【0066】
として表わされ得る。
一例として、光波長が500nmであり、光子数が控えめに見積もって1000であると仮定すると、一般的な作動配置の局在化精度は15nmとなる。
【0067】
本発明のレンズアセンブリに用いる固浸レンズまたはASILは、たとえばKnight Optics社(https:/www.knightoptical.com)またはAWI社(http://www.awi-industries.com)の製品として入手してもよい。平面マウントは、レーザー切断によって、または白金金属のシートなどの適切な材料のシートからの微細機械加工、フォトエッチングもしくはフォトリソグラフィなどの他の処理によって都合よく形成されてもよく、この切断処理は尖端28の形成を含む。
【0068】
次いで、たとえば図5に示される治具配置を用いて、固浸レンズ14を平面マウント20とともに必要な位置に位置合わせした後、以下に記載されて図6に示されるような複数段階で結合処理を実行することによって、上述のレンズアセンブリ10を構築するかまたは組み立ててもよい。
【0069】
図5は、ここでは断面で示されている治具70を用いて平面マウント20および固浸レンズ14がどのように位置合わせされ得るかを示す。治具70は、床74を有する第1の溝72を含み、床74は、好ましくは平坦であり、平面マウント20を第1の溝72の中に受容するのに十分な幅を有する。たとえば、第1の溝は平面マウントよりもわずかに幅広であってもよく、第1の溝72の側壁76は溝の長さに沿った(図の平面に入る/図の平面から出る)方向において平行であってもよい。
【0070】
治具70は第2の溝80をさらに提供し、第2の溝80は、好ましくは第1の溝の床74の中央に位置し、さらに深い床82を提供し、床82も好ましくは平坦であり、たとえば固浸レンズの平面12が床82上に静止した状態で固浸レンズを受容するのに十分な幅を有する。第2の溝は、緊密な嵌合を形成するように、第2の溝の頂部において固浸レンズよりもわずかに幅広であってもよい。
【0071】
第1および第2の溝の深さは、第2の溝に着座しているときの固浸レンズ12と、第1の溝に着座しているときの平面マウントとが、所望の位置および向きで互いに対して正確に配置されるように構成される。特に、第1の溝72の床74の面と第2の溝の床82の面とは、完成時に、固浸レンズの平面が平面マウントの主平面と、または平面マウントの上下面24、26のうちの少なくとも一方と平行であることを確実にするために、(たとえば、1度よりも良好な、または0.1度よりも良好な許容誤差で)平行または実質的に平行であってもよい。
【0072】
レンズのどの部分が尖端28と接触しているか、または尖端28に非常に近いか、という点での固浸レンズの位置も、第2の溝80の適切な深さを提供することによって設定することができる。たとえば、固浸レンズの赤道または最も幅広の周囲に尖端が触れてもよく、当該赤道または周囲は平面マウントに隣接して配置されてもよく、これにより、レンズおよびマウントを互いに取り付けるための最も確実な位置を提供することができるが、必要に応じて他の位置も可能である。レンズおよびマウントが正しく配置されると、各尖端28は、レンズが尖端の各々と接触する、またはほぼ接触するように、マウントとレンズとの間で周方向チャネル30を横切って延在することになる。
【0073】
第1および第2の溝のすべての側壁を平行にし、これらの溝を治具の一端で開口するように延在させ、治具の両端で開口するように任意に延在させることによって、位置合わせ処理を実行するユーザは、溝に沿って平面マウントおよび固浸レンズまで見やすくなり、目で、または適切な光学機器を用いて、以下に記載されるさらなる結合動作の前および最中に正しい位置合わせを確認することができる。たとえば、レンズの球面のために、レンズが第2の溝の中で平坦であるか否かを上から確かめることは困難であり、第2の溝の基部に沿った見通し線を用いてこれを確認することができ、治具の端部からの側面図をさらに用いて、マウントが第1の溝の中で平坦であること、およびレンズがマウントの中で正しく位置決めされていることを確実にすることできる。
【0074】
同様に、そのような確認は、これも治具の上から用いてレンズおよびマウントの位置決めを確認することができる機械視覚システムを用いて、自動的に行ってもよい。
【0075】
さらに、第1の溝と第2の溝との間の境界における実矧ぎ溝90が、レンズとマウントとの間の周方向チャネルが第1の溝の床の真上ではなくこれらの実矧ぎ溝90の上に位置するように、設けられてもよい。これらの実矧ぎ溝はこの場合、周方向チャネルの中に配置された接着材料が治具70にも結合する可能性を低下させる。
【0076】
たとえば図5の治具または同様のものを用いて、平面マウント20と固浸レンズ14との正確な相対的位置決めが提供されると、固浸レンズは、尖端28(図5には図示せず)によって平面マウントの開口22の中の適切な中心位置に保持される。レンズは次いで、1つ以上の接着材料を用いて、たとえば以下に説明されて図6のフロー図に示されるような方法を用いて、所定位置にさらに確実に取り付けられてもよい。接着材料は一般的に、手または機械によって、適切に小さいノズルを通して、またはスパチュラもしくは細い毛髪やまつげなどの他の運搬体を用いて塗布され、実体顕微鏡などの視覚補助具によって任意に誘導され得る。
【0077】
図6に記載されるように、第1のステップ102は、固浸レンズ14および平面マウント20を互いに対して正確に所望の位置および向きに配置することからなる。次いでステップ104において、第1の接着材料を、開口の周辺と尖端に隣接したレンズとの間を結合するように尖端の各々に塗布し、これらの領域における平面マウントへのレンズの最初の結合を提供するために乾燥または硬化させる。固浸レンズは小さいため、第1の接着剤の表面張力および他の流体効果によって開口22の中の所望の位置から容易に引き離され得る。比較的少量の第1の接着材料を尖端の近傍のみに塗布すると、この効果が最小限に抑えられるため、第1の接着材料が十分に硬化すると、レンズが所定位置に十分に確実に取り付けられてさらなる接着材料を塗布することができ、レンズが当該さらなる接着材料によって所定位置から引き抜かれるというリスクがない。たとえば、図6の第2のステップにおいて塗布される第1の接着材料の体積は、後続のステップにおいて塗布されるさらなる接着材料の体積の20%未満、または10%未満であってもよい。
【0078】
また、たとえば接着力および/または表面張力によって接着剤が各尖端においてレンズに与える引張効果の間の力のバランスまたは平衡を提供するために、同様の量の第1の接着材料を各尖端において用いることが望ましい。
【0079】
第1の接着材料が十分に硬化すると、図6に示されるように1つ以上のさらなるステップにおいてさらなる接着材料を塗布してもよい。場合によっては、同様に尖端の近傍のみに第2の接着材料を塗布するステップ106を実行してもよい。そのような場合、第1の接着剤は第2の接着剤よりも硬化が速い接着剤であってもよく、たとえば、第1の接着剤については5分程度未満であり、第2の接着剤については数時間程度であってもよい。
【0080】
たとえばステップ104における、および任意にステップ106における、尖端の近傍における接着材料の塗布に続いて、図6のステップ108において、平面マウントと固浸レンズとの間の周方向チャネル30の長さの大部分またはすべてに沿って第3の接着材料を塗布する。どのような間隙も、使用中の冷却処理時に熱収縮の問題を引き起こして、結合が失敗するおそれのある箇所をもたらす可能性があるので、接着剤は、周方向チャネルに沿って連続的に間隙がないように塗布することが望ましい場合がある。たとえば、この第3の接着材料は、チャネルを充填するのに十分な体積で塗布されてもよい。
【0081】
この第3の接着材料は、極低温状態で用いられる場合は、熱安定性のために特に選択された極低温適合性の接着剤であることが好ましい。そのような極低温適合性の接着剤として、LoctiteブランドとしてHenkel社から入手可能なStycast熱伝導性エポキシカプセル体(たとえばhttp://www.loctite.co.uk参照)がある。そのような適切な製品の1つは、たとえばLakeshore Cryotronics社から入手可能な、Catalyst 23LV硬化剤とともに用いられるStycast 2850 FTである。
【0082】
一般的に、チャネル30の周囲全体に塗布するための接着材料は、たとえば高温で数時間にわたって加熱硬化されるなど、第1または第2の接着材料よりも硬化が遅い接着剤であり得る。
【0083】
上述の第1および第2の接着材料はまた、要求に応じて、適切なエポキシカプセル体などの極低温適合性の接着剤であってもよいが、これらの材料については極低温適合性である必要性は低い場合がある。要求に応じて、上述のようにまたは図6に示されるように結合段階のうちの2つ以上に同じ接着材料が用いられてもよい。
【0084】
上述の尖端構造の使用を含む、平面マウントの中に固浸レンズを固定するためのこれらの説明された方法を用いることにより、接着材料の塗布時に起こる意図された位置からの望ましくないずれのリスクを減らして、レンズをより正確に取り付けることができる。
【0085】
本発明を用いることにより、上述した図4に示される極低温超解像顕微鏡技術を用いて取得された画像データが、同様に極低温環境に置かれた1つもしくは複数の試料を用いて実行された電子顕微鏡法および/もしくはX線顕微鏡法を用いて取得された画像データと組み合わされるかまたは相関付けられる、試料の相関撮像を実現することができる。この目的で、図7は相関撮像の方法を示すフローチャートである。
【0086】
図7のステップ300において、たとえば本文書の他の箇所でより詳細に記載されているように、上述のようにレンズアセンブリ10に含まれているたとえばASILなどの固浸レンズ14の平面12と接触してまたは直接隣接して試料を準備する。次いでレンズアセンブリを、試料を極低温環境42の中に維持するのに適切なクライオスタットの中に装填してもよい。
【0087】
試料は次いで、試料の超解像画像データ360を得るために、本文書の他の箇所で説明されたように極低温超解像顕微鏡技術を受ける。
【0088】
超解像画像データ360が得られると、試料は次いで、試料の電子顕微鏡画像データ370を得るために、図7のステップ330において電子顕微鏡技術を受ける。都合よく、超解像顕微鏡法ステップ320で用いられる固浸レンズに接触または隣接するように試料を準備しているので、固浸レンズおよびレンズアセンブリは、試料を大きく乱すことなく、電子顕微鏡法ステップ330の間は試料の支持台として機能し続けることができる。超解像顕微鏡処理時にレンズアセンブリがクライオスタットの中にある場合は、レンズアセンブリは同じクライオスタット内の所定位置にとどまって電子顕微鏡装置に移送されて電子顕微鏡装置の内部で使用されてもよい。
【0089】
電子顕微鏡装置は、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)装置など、試料を撮像するための多種多様な電子顕微鏡法を提供し得る。いくつかのこのような技術については、超解像顕微鏡法ステップ320の前に、および電子顕微鏡法ステップ330の前に、試料のさらなる準備が適切な場合がある。必要に応じて、図7の超解像顕微鏡段階と電子顕微鏡段階とを逆にしてもよく、ならびに/または、他の顕微鏡段階、たとえば、同じもしくは異なる顕微鏡技術、超解像顕微鏡技術、および電子顕微鏡技術の他の撮像段階を含む顕微鏡段階が用いられてもよい。軟X線顕微鏡技術などのX線顕微鏡技術が、電子顕微鏡技術に加えてまたは電子顕微鏡技術の代わりに用いられてもよい。
【0090】
同じ試料の超解像画像データ360および電子顕微鏡画像データ370が得られると、試料内の構造的特徴が一致するように、たとえば基準マーカまたは特徴検出アルゴリズムを用いてこの画像データ対を位置合わせしてもよいし、または相関付けてもよい。次いで、必要に応じてそのような位置合わせを用いて、超解像画像データ360と電子またはX線顕微鏡画像データ370とを組み合わせることにより、試料の組み合わせ画像または相関画像380を形成してもよい。
【0091】
試料のそのような組み合わせ画像または相関画像380は、別々に考慮される超顕微鏡画像360または電子もしくはX線顕微鏡画像のいずれに対しても大きな利点を提供し得る。たとえば、相関的な光および電子またはX線顕微鏡法は、細胞の超微細構造の文脈において、特定の生体分子の分子分布および組成のマルチモーダリティ撮像ソリューションを提供する。
【0092】
超解像光学顕微鏡装置および電子顕微鏡装置の両方での使用により適切であり、極低温において安定しているように構築されるレンズアセンブリを提供することによって、そのような相関撮像の信頼性および利便性を高めることができる。
【0093】
本発明の特定の実施形態が説明されたが、当業者であれば本発明の範囲から逸脱することなくさまざまな修正および変更がなされ得ることを理解するであろう。
【0094】
たとえば、単一分子局在化顕微鏡法だけでなく、構造化照明顕微鏡法、誘導放出抑制(STED)顕微鏡法、超解像放射状変動(super-resolution radial fluctuations)(SRRF)技術、超解像光学変動撮像(super-resolution optical fluctuation imaging)(SOFI)、および可逆的飽和性光学線形蛍光遷移(reversible saturable optical linear fluorescence transitions)(RESOLFT)技術など、他の確立された超解像顕微鏡技術も、説明された装置および方法を用いて実現することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7