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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】治療剤放出のための眼球装着装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/30 20060101AFI20240403BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20240403BHJP
   A61N 1/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61N1/30
A61F9/007 170
A61N1/04
【請求項の数】 53
(21)【出願番号】P 2021539571
(86)(22)【出願日】2020-01-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 US2020012552
(87)【国際公開番号】W WO2020146362
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】62/790,313
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520497472
【氏名又は名称】トゥウェンティ トゥウェンティ セラピューティクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】グティアレズ、クリスチャン
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0214985(US,A1)
【文献】特表平4-505861(JP,A)
【文献】特表2007-535353(JP,A)
【文献】特表2018-502639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0093742(US,A1)
【文献】特開平7-185016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/00 ― 9/013
A61N 1/00 ― 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療剤送達装置であって、
放出領域、送達領域、および受容領域を含むポリマー基板と、
前記ポリマー基板の前記放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバと、
前記1またはそれ以上のリザーバ内に配置される治療剤と、
前記1またはそれ以上のリザーバから前記ポリマー基板の前記送達領域の少なくとも一部に前記治療剤放出を制御するための制御放出機構であって、前記制御放出機構が前記1またはそれ以上のリザーバの出口の少なくとも一部を覆い、前記放出領域内に配置され、前記放出領域が前記送達領域と流体連通する、前記制御放出機構と、および
前記ポリマー基板上に形成される回路であって、電流源と、少なくとも部分的に標的組織に接触するように構成され、エレクトロマイグレーションを介して前記送達領域から前記標的組織内に前記治療剤を輸送するための前記送達領域内に配置される第1のイオントフォレシス電極と、前記ポリマー基板によって完全に包まれ、前記組織内の電気的中立性を維持するための前記受容領域内に配置される第2のイオントフォレシス電極と、を含む回路と、
を含む、治療剤送達装置。
【請求項2】
請求項1記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー基板が、ポリイミド、液晶ポリマー、パリレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、硬質ガス透過性フルオロシリコーンアクリレート、シリコンベースのポリマー、シリコーンアクリレート、環状オレフィン共重合体(COP/COC)、ヒドロゲル、またはこれらの組み合わせで形成される、治療剤送達装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の治療剤送達装置において、前記放出領域および前記送達領域は、前記ポリマー基板内で少なくとも部分的に重なり合っているか、またはさもなければ同位置に配置される、治療剤送達装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の治療剤送達装置において、前記放出領域は、前記ポリマー基板内の前記送達領域とは別に配置される、治療剤送達装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記送達領域の少なくとも一部は前記ポリマー基板の外部環境に曝される、治療剤送達装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記受容領域は前記ポリマー基板内の前記送達領域とは別に配置される、治療剤送達装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の治療剤送達装置であって、前記ポリマー基板の実質的な全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層をさらに含む、治療剤送達装置。
【請求項8】
請求項7記載の治療剤送達装置において、前記オーバーモールドポリマー層は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される、治療剤送達装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の治療剤送達装において、第1のイオントフォレシス電極は、前記ポリマー基板の前記放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバの下に配置される、治療剤送達装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記第1のイオントフォレシス電極が銀(Ag)のアノードであり、前記第2のイオントフォレシス電極が塩化銀(AgCl)のカソードである、治療剤送達装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記制御放出機構はポリマー層である、治療剤送達装置。
【請求項12】
請求項11記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー層が、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される、治療剤送達装置。
【請求項13】
請求1~10のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記制御放出機構はバルブである、治療剤送達装置。
【請求項14】
請求項13記載の治療剤送達装置において、前記バルブが、前記電流源に電気的に接続される金属薄膜である、治療剤送達装置。
【請求項15】
請求1~14のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー基板は、0.01mm~2mmの平均厚さを有し、半円形状である、治療剤送達装置。
【請求項16】
請求1~14のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー基板は、0.01mm~2mmの平均厚さを有し、ドーナツ型の形状である、治療剤送達装置。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の治療剤送達装置であって、前記1またはそれ以上のリザーバまたは前記送達領域内に配置される対イオンをさらに含み、前記治療剤がイオン化され、前記対イオンが前記治療剤とは反対の電荷を有する、治療剤送達装置。
【請求項18】
治療剤送達装置であって、
遠位表面と近位表面を有し、その間に1またはそれ以上のポリマー層が配置される基板と、
前記1またはそれ以上のポリマー層内に形成されるリザーバであって、前記リザーバは、治療剤のための保持チャンバーと、出口と、前記リザーバの前記出口を通して前記治療剤の放出を制御するように構成される制御放出機構とを含む、前記リザーバと、
前記1またはそれ以上のポリマー層内に形成され、前記リザーバと流体連通するアノードチャンバーであって、前記アノードチャンバーは、前記出口に対向する前記リザーバの一部と接触し、前記治療剤が前記出口を通って放出されるときに標的組織と流体連通するように構成されたアノードを含む、前記アノードチャンバーと、
前記1またはそれ以上のポリマー層内に形成されるカソードチャンバーであって、前記カソードチャンバーは前記アノードチャンバーから少なくとも所定の距離だけ離れており、前記カソードチャンバーは前記基板によって完全に包まれたカソードを含む、前記カソードチャンバーと、および
前記1またはそれ以上のポリマー層上または内に形成される回路であって、電流源と、前記アノードと、および前記カソードとを含み、前記治療剤が前記保持チャンバーから放出された後に、前記回路内の前記アノードから前記カソードに流される電流が、前記治療剤を前記標的組織にイオントレフォシス送達する、前記回路と、
を含む、治療剤送達装置。
【請求項19】
請求項18記載の治療剤送達装置であって、
前記ポリマーの1またはそれ以上の層上または内に形成され、前記電流源に電気的に接続される1またはそれ以上のプロセッサーと、
前記ポリマーの1またはそれ以上の層上または内に形成され、前記電流源に電気的に接続されるバッテリーと、および
前記ポリマーの1またはそれ以上の層上または内に形成され、前記1またはそれ以上のプロセッサーに電気的に接続されるアンテナと、
を含む、治療剤送達装置。
【請求項20】
請求項18または19記載の治療剤送達装置において、前記アノードが銀(Ag)を含み、前記カソードが塩化銀(AgCl)を含む、治療剤送達装置。
【請求項21】
請求項18、19、または20記載の治療剤送達装置であって、前記リザーバまた前記はアノードチャンバー内に配置される対イオンをさらに含み、前記治療剤がイオン化され、前記対イオンが前記治療剤とは反対の電荷を有する、治療剤送達装置。
【請求項22】
請求項18、19、20、または21記載の治療剤送達装置であって、前記基板の実質的な全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層をさらに含む、治療剤送達装置。
【請求項23】
請求18~22のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記治療剤送達装置は0.01mm~3mmの平均厚さを有する、治療剤送達装置。
【請求項24】
請求項18~23のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記基板は0.01mm~2mmの平均厚さを有する、治療剤送達装置。
【請求項25】
請求項18~24のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記リザーバと前記アノードチャンバーが、前記1またはそれ以上のポリマー層内で少なくとも部分的に重なり合っているか、またはさもなければ同位置に配置される、治療剤送達装置。
【請求項26】
請求項18~24のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記リザーバは前記1またはそれ以上のポリマー層内で前記アノードチャンバーとは別に配置される、治療剤送達装置。
【請求項27】
請求項18~26のいずれかに記載の治療剤送達装置であって、前記アノードは前記アノードチャンバー内に配置された複数のアノードを含む、治療剤送達装置。
【請求項28】
請求項18~24のいずれかに記載の治療剤送達装置であって、
前記1またはそれ以上のポリマー層内に形成される複数のリザーバであって、前記リザーバが前記複数のリザーバの1つである、前記リザーバと、および
各々が少なくとも1つの電極を含み、前記1またはそれ以上のポリマー層内に形成される複数のアノードチャンバーであって、前記アノードチャンバーが前記複数のアノードチャンバーの1つである、前記アノードチャンバと、をさらに含み、
前記複数のアノードチャンバーの各アノードチャンバーが、前記複数のリザーバの各リザーバとそれぞれ少なくとも部分的に重なり合っているか、またはさもなければ同位置に配置され、および、
前記少なくとも1つのアノードの各々は、前記出口に対向する前記複数のリザーバの各リザーバの一部に接触するように構成され、前記制御放出機構が前記出口を遮断していないときに、それぞれ前記組織と流体連通するように構成される、治療剤送達装置。
【請求項29】
請求項28のいずれかに記載の治療剤送達装置において、第1のタイプの治療剤は、前記複数のリザーバの第1のサブセット内に配置され、第2のタイプの治療剤が、前記複数のリザーバの第2のサブセット内に配置され、前記治療剤が前記第1のタイプの治療剤である、治療剤送達装置。
【請求項30】
請求項18~25のいずれかに記載の治療剤送達装置であって、前記ポリマーの1またはそれ以上の層内に形成される複数のカソードチャンバーをさらに備え、前記カソードチャンバーは、前記複数のカソードチャンバーのうちの1つであり、前記複数のカソードチャンバーのそれぞれは、前記アノードチャンバーから少なくとも所定の距離だけ離れている、治療剤送達装置。
【請求項31】
請求項18~30のいずれかに記載の治療剤送達装置であって、前記制御放出機構が、ポリマー層、バルブ、またはそれらの組み合わせである、治療剤送達装置。
【請求項32】
請求項31記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー層は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される、治療剤送達装置。
【請求項33】
請求項31または32に記載の治療剤送達装置において、前記バルブは、前記電流源に電気的に接続される金属薄膜である、治療剤送達装置。
【請求項34】
治療剤送達装置であって、
放出領域、送達領域、および受容領域を含むポリマー基板であって、前記放出領域が前記送達領域と流体連通する、前記ポリマー基板と、
前記ポリマー基板の前記放出領域の第1の部分内に形成される第1のセットのリザーバと、
前記第1のリザーバのセット内に配置される第1のタイプの治療剤と、
前記ポリマー基板の前記放出領域の第2の部分内に形成される第2のセットのリザーバと、
前記第2のセットのリザーバ内に配置される第2のタイプの治療剤と
前記第1のセットのリザーバから前記送達領域の第1の部分に前記第1のタイプの治療剤を放出するための第1の制御放出機構であって、前記第1の制御放出機構が前記放出領域の第1の部分内に配置される、前記制御放出機構と、
前記第2のセットのリザーバから前記送達領域の第2の部分に前記第2のタイプの治療剤を放出するための第2の制御放出機構であって、前記第2の制御放出機構が前記放出領域の第2の部分内に配置される、前記第2の制御放出機構と、および
前記ポリマー基板上に形成される回路であって、電流源と、前記送達領域の第1の部分からエレクトロマイグレーションを介して標的組織に第1のタイプの治療剤を輸送するための前記送達領域の第1の部分内に配置される第1のイオントフォレシス電極と、前記送達領域の第2の部分からエレクトロマイグレーションを介して標的組織に第2のタイプの治療剤を輸送するための前記送達領域の第2の部分内に配置される第2のイオントフォレシス電極と、および前記組織内の電気的中立性を維持するために前記受容領域に配置されるイオントフォレシス電極と、を含む前記回路と、
を含む、治療剤送達装置。
【請求項35】
請求項34記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー基板が、ポリイミド、液晶ポリマー、パリレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、硬質ガス透過性フルオロシリコーンアクリレート、シリコンベースポリマー、シリコーンアクリレート、環状オレフィン共重合体(COP/COC)、ヒドロゲル、またはそれらの組み合わせで形成される、治療剤送達装置。
【請求項36】
請求項34または35に記載の治療剤送達装置において、前記放出領域と前記送達領域が少なくとも部分的に重なり、前記ポリマー基板上に同位置に配置される、治療剤送達装置。
【請求項37】
請求項34または35に記載の治療剤送達装置において、前記放出領域は前記ポリマー基板上の前記送達領域とは別に配置される、治療剤送達装置。
【請求項38】
請求項34~37のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記送達領域の少なくとも一部が前記ポリマー基板の外部環境に曝される、治療剤送達装置。
【請求項39】
請求項34~3のいずれかに記載の治療剤送達装置であって、前記ポリマー基板の実質的な全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層をさらに含む、治療剤送達装置。
【請求項40】
請求項39記載の治療剤送達装置において、前記オーバーモールドポリマー層が、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される、治療剤送達装置。
【請求項41】
請求項34~4のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記第1のセットのイオントフォレシス電極が前記第1のセットのリザーバの下に配置され、前記第2のセットのイオントフォレシス電極が前記第2のセットのリザーバの下にはいちされる、治療剤送達装置。
【請求項42】
請求項34~4のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記第1のイオントフォレシス電極および前記第2のイオントフォレシス電極が銀(Ag)アノードであり、前記受容領域内に位置する前記イオントフォレシス電極が塩化銀(AgCl)カソードである、治療剤送達装置。
【請求項43】
請求項34~4のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記第1の制御放出機構が、ポリマー層、バルブ、またはそれらの組み合わせである、治療剤送達装置。
【請求項44】
請求項34~4のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記第2の制御放出機構が、ポリマー層、バルブ、またはそれらの組み合わせである、治療剤送達装置。
【請求項45】
請求項4または4記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー層が、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される、治療剤送達装置。
【請求項46】
請求項4、4、または4記載の治療剤送達装置において、前記バルブは、前記電流源に電気的に接続される金属薄膜である、治療剤送達装置。
【請求項47】
請求項34~4のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー基板は、0.01mm~2mmの平均厚さを有し、半円形状である、治療剤送達装置。
【請求項48】
請求項34~4のいずれかに記載の治療剤送達装置において、前記ポリマー基板は、0.01mm~2mmの平均厚さを持ち、ドーナツ型の形状である、治療剤送達装置。
【請求項49】
請求項34~4のいずれかに記載の治療剤送達装置であって、
前記第1のセットのリザーバまたは前記送達領域の第1の部分内に配置される第1のタイプの対イオンであって、前記第1のタイプの治療剤がイオン化され、前記第1のタイプの対イオンが前記第1のタイプの治療剤とは反対の電荷を有する対イオンと、および
前記第2のセットのリザーバまたは前記送達領域の第2の部分内に配置される第2のタイプの対イオンであって、前記第2のタイプの治療剤がイオン化され、前記第2のタイプの対イオンが前記第2のタイプの治療剤とは反対の電荷を有する対イオンと、
をさらに含む、治療剤送達装置。
【請求項50】
システムであって、
ポリマー基板上に形成される1またはそれ以上のプロセッサーと、および
前記ポリマー基板上に形成されるメモリであって、前記メモリは前記1またはそれ以上のプロセッサーに結合され、前記メモリは、前記1またはそれ以上のプロセッサーによって実行可能な複数の命令を格納し、前記複数の命令は、前記1またはそれ以上のプロセッサーによって実行されると、前記1またはそれ以上のプロセッサーに以下の処理
御放出機構によって、前記ポリマー基板の放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバから前記ポリマー基板の送達領域の少なくとも一部に治療剤を放出する工程であって、前記制御放出機構は前記1またはそれ以上のリザーバの出口の少なくとも一部を覆う、前記放出する工程
ントローラーによって、回路を流れる電流を生成するために前記ポリマー基板上に形成される回路に電位を印加する工程であって、前記回路は、電流源標的組織に少なくとも部分的に接触するように構成され、送達領域内に配置される第1のイオントフォレシス電極、および前記ポリマー基板によって完全に包まれ、前記ポリマー基板の受容領域内に配置される第2のイオントフォレシス電極と、を含む、前記印加する工程と、
前記第1のイオントフォレシス電極によって、前記回路を流れる前記電流に基づき、前記治療剤を前記送達領域から組織へと電気泳動させる工程と、および
前記第2のイオントフォレシス電極によって、前記回路を流れる前記電流に基づき、前記組織内の電気的中性を維持する工程と、を実行させる命令を含む、前記メモリと、
を含む、システム。
【請求項51】
請求項5記載のシステムにおいて、前記放出する工程は、前記コントローラーによって、前記制御放出機構に別の電位を印加する工程を含む、システム。
【請求項52】
請求項5または5記載のシステムにおいて、
前記制御放出機構によって、前記ポリマー基板の前記放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバから、前記ポリマー基板の前記送達領域に異なる治療剤を放出する工程と、
前記回路を流れる後続の電流を生成するために、前記コントローラーによって、前記ポリマー基板上に形成される回路に後続の電位を印加する工程と、
前記第1のイオントフォレシス電極によって、前記回路を流れる前記後続の電流に基づき、前記送達領域から前記組織へと異なる治療剤を電気泳動する工程と、
前記第2のイオントフォレシス電極によって、前記回路を流れる前記後続の電流に基づき、前記組織内の電気的中性を維持する工程と、
を含む、治療剤送達装置。
【請求項53】
請求項5または5記載のシステムであって、前記制御放出機構によって、前記ポリマー基板の前記放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバから前記ポリマー基板の前記送達領域に異なる治療剤を放出する工程をさらに含み、前記回路に電位を印加する工程が前記回路を流れる前記電流に基づき、前記第1のイオントフォレシス電極によって前記送達領域から前記組織に異なる前記治療剤を電気泳動させる、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、治療剤の送達に関するものであり、より詳細には、治療剤を眼の治療部位に標的化して制御して送達するための装置およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療行為を行う際には、患者の身体の特定の部位に治療剤(医薬品、化学物質、低分子医薬品、遺伝子など)を投与する必要がある。多くの治療剤が直面する大きな課題は、特定の部位に効果的な方法で送達できないことである。従来の治療剤の送達システムでは、経口摂取(例:固体や液体)、吸入剤、または血管内注射などにより、治療剤は循環系、肺系、またはリンパ系などを経由して全身に行き渡る。ほとんどの治療剤では、患者に投与された治療剤のかなりの部分(例えば、約99%)が腫瘍部位に到達しない化学療法のように、治療剤のごく一部だけが影響を受ける特定の部位や病的組織に到達する。
【0003】
従来の全身的な送達システムとは対照的に、ターゲットを絞った治療剤送達では、治療剤を目的の部位や組織に集中させ、残りの組織では治療剤の相対的な濃度を下げることを目指す。標的治療剤送達システムの目的は、病気の組織(体の特定の部分)と治療剤の相互作用を長持ちさせ、局所化し、標的化し、保護することにある。しかし、病気の中には、現在利用可能な治療法では治療が困難なものや、アクセスが困難な解剖学的領域に薬剤を投与しなければならないものがある。患者の眼は、アクセスが困難な解剖学的領域の典型的な例であり、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、および緑内障などの多くの眼疾患は、現在利用可能な治療法の多くで治療が困難である。
【0004】
過去数十年にわたり、これらの眼疾患に対処するために、治療剤の処方と送達システムの開発の両方を含む多くのアプローチが行われてきた。しかし、治療剤の開発には大きな進歩があったにもかかわらず、現在利用可能な治療剤の送達装置やシステムは、主に2つの投与経路:1)局所的な点眼、2)眼内注射に限られる。これらの2つの投与方法は、治療法が厳密に維持される場合には有効であるが、眼の治療部位における治療剤の局在性の維持や、治療剤の投与における患者のコンプライアンスの欠如が主な原因で、患者に長期的な治癒結果をもたらすことができない。そのため、局所点眼薬や眼内注射の欠点を補うために、眼内治療剤の投与方法の改善が求められる。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 国際公開第2007/050645号
(特許文献2) 国際公開第2009/086112号
(特許文献3) 国際公開第2016/118933号
(特許文献4) 米国特許第6,319,240号明細書
(特許文献5) 国際公開第2006/047788号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
様々な実施形態において、治療剤送達装置が提供され、それは以下を含む:放出領域、送達領域、および受容領域を含むポリマー基板と、前記ポリマー基板の前記放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバと、前記1またはそれ以上のリザーバ内に配置される治療剤と、前記1またはそれ以上のリザーバから前記送達領域に前記治療剤を放出するための能動的、受動的、またはそれらの組み合わせによる制御放出機構であって、前記制御放出機構が前記放出領域内に配置され、前記放出領域が前記送達領域と流体連通している前記制御放出機構と、前記ポリマー基板上に形成される回路であって、電流源と、前記送達領域内に配置され、エレクトロマイグレーションにより前記送達領域から標的組織内に前記治療剤を輸送する第1のイオントフォレシス電極と、前記受容領域内に配置され、前記組織内の電気的中立性を維持する第2のイオントフォレシス電極と、を備える前記回路と、を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、ポリマー基板は、ポリイミド、液晶ポリマー、パリレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、硬質ガス透過性フルオロシリコーンアクリレート、シリコンベースのポリマー、シリコーンアクリレート、環状オレフィン共重合体(COP/COC)、ヒドロゲル、またはこれらの組み合わせで形成される。
【0007】
いくつかの実施形態では、放出領域および送達領域は、ポリマー基板内で少なくとも部分的に重なり合っているか、さもなければ同位置に配置される。他の実施形態では、放出領域は、ポリマー基板内の送達領域とは別個に配置される。任意で、送達領域の少なくとも一部は、ポリマー基板の外部の環境にさらされる。任意で、受容領域は、ポリマー基板内の送達領域とは別に配置される。
【0008】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、ポリマー基板の実質的に全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層をさらに備える。任意で、オーバーモールドポリマー層は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される。
【0009】
いくつかの実施形態では、第1のイオントフォレシス電極は、ポリマー基板の放出領域内に形成された1またはそれ以上のリザーバの下に位置する。ある実施形態では、第1のイオントフォレシス電極は銀(Ag)のアノードであり、第2のイオントフォレシス電極は塩化銀(AgCl)のカソードである。
【0010】
いくつかの実施形態では、制御放出機構は、ポリマー層である。任意で、ポリマー層は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される。いくつかの実施形態では、放出制御機構はバルブである。任意で、バルブは、電流源に電気的に接続される金属薄膜である。
【0011】
いくつかの実施形態では、ポリマー基板は、0.01mm~2mmの間の平均厚さを有し、半円形状である。他の実施形態では、ポリマー基板は、0.01mm~2mmの間の平均厚さを有し、ドーナツ形状を有する。
【0012】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、1またはそれ以上のリザーバまたは送達領域内に配置された対イオンをさらに含み、治療剤はイオン化され、対イオンは治療剤とは反対の電荷を有するものである。
【0013】
様々な実施形態において、治療剤送達装置が提供され、それは以下を含む:遠位表面と近位表面を含み、その間に1またはそれ以上のポリマー層が配置される基板と、前記1またはそれ以上のポリマー層内に形成されるリザーバであって、前記リザーバは、治療剤の保持チャンバーと、出口と、前記保持チャンバーから前記出口への治療剤の通過を一時的に遮断する能動的、受動的、またはそれらの組み合わせによる制御放出機構と、を備える前記リザーバと、前記1またはそれ以上のポリマー層内に形成され、前記リザーバと流体連通するアノードチャンバーであって、前記アノードチャンバーの一部が前記遠位表面において前記基板の外側の環境に露出しており、前記アノードチャンバーが第1のイオントフォレシス電極を含む前記アノードチャンバーと、前記ポリマーの1またはそれ以上の層内に形成されるカソードチャンバーであって、前記カソードチャンバーの一部が遠位表面で前記基板外の環境に露出しており、前記カソードチャンバーが前記アノードチャンバーから少なくとも所定の距離だけ離れており、前記カソードチャンバーが第2のイオントフォレシス電極を備えるカソードチャンバーと、前記ポリマーの1またはそれ以上の層上またはその中に形成された回路であって、前記回路が電流源、前記第1のイオントフォレシス電極、および前記第2のイオントフォレシス電極を含む回路と、を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、ポリマーの1またはそれ以上の層上または内に形成される電流源に電気的に接続される1またはそれ以上のプロセッサーと、ポリマーの1またはそれ以上の層上または内に形成される電流源に電気的に接続されるバッテリーと、ポリマーの1またはそれ以上の層上または内に形成される1またはそれ以上のプロセッサーに電気的に接続されたアンテナと、をさらに備える。
【0015】
いくつかの実施形態では、第1のイオントフォレシス電極は銀(Ag)のアノードであり、第2のイオントフォレシス電極は塩化銀(AgCl)のカソードである。
【0016】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、リザーバまたはアノードチャンバー内に配置される対イオンをさらに含み、治療剤はイオン化され、対イオンは治療剤とは反対の電荷を有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、基板の実質的に全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層をさらに備える。いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、0.01mm~3mmの間の平均厚さを有する。いくつかの実施形態では、基板は、0.01mm~2mmの間の平均厚さを有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、リザーバとアノードチャンバーは、ポリマーの1またはそれ以上の層の中で少なくとも部分的に重なり合っているか、さもなければ同位置に配置される。他の実施形態では、リザーバは、ポリマーの1またはそれ以上の層の中でアノードチャンバーとは別に配置される。
【0019】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、アノードチャンバーと共に配置された複数のアノード電極をさらに備え、第1のイオントフォレシス電極は、複数のアノード電極の1つであることを特徴とする。
【0020】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、ポリマーの1またはそれ以上の層内に形成される複数のリザーバであって、前記リザーバが複数のリザーバのうちの1つであるリザーバと、および前記ポリマーの1またはそれ以上の層内に形成される複数のアノードチャンバであって、前記アノードチャンバが複数のアノードチャンバのうちの1つであるアノードチャンバーと、をさらに備える。任意で、複数のアノードチャンバーの各アノードチャンバーは、少なくとも部分的に、複数のリザーバの各リザーバとそれぞれ重なるか、さもなければ同位置に配置される。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1のタイプの治療剤が、複数のリザーバの第1のサブセット内に配置され、第2のタイプの治療剤が、複数のリザーバの第2のサブセット内に配置され、治療剤は第1のタイプの治療剤である。
【0022】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、ポリマーの1またはそれ以上の層内に形成された複数のカソードチャンバーをさらに備え、カソードチャンバーは、複数のカソードチャンバーのうちの1つであり、複数のカソードチャンバーのそれぞれは、アノードチャンバーから少なくとも所定の距離だけ離れる。
【0023】
いくつかの実施形態では、放出制御機構は、ポリマー層、バルブ、またはそれらの組み合わせである。任意で、ポリマー層は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される。任意で、バルブは、電流源に電気的に接続される金属薄膜である。
【0024】
様々な実施形態において、治療剤送達装置が提供され、これは、以下を含む。放出領域、送達領域、および受容領域を含むポリマー基板であって、前記放出領域が前記送達領域と流体連通しているポリマー基板と、前記ポリマー基板の前記放出領域の第1の部分に形成された第1のセットのリザーバと、前記第1のセットのリザーバ内に配置される第1のタイプの治療剤と、前記ポリマー基板の前記放出領域の第2の部分に形成される第2のセットのリザーバと第2のリザーバセット内に配置された第2のタイプの治療剤と、第1のリザーバセットから送達領域の第1の部分に第1のタイプの治療剤を放出するための第1の能動的、受動的、またはそれらの組み合わせによる制御放出機構であって、第1の制御放出機構が放出領域の第1の部分内に配置される第1の制御放出機構と、第2のリザーバセットから送達領域の第2の部分に第2のタイプの治療剤を放出するための第2の能動的、受動的、またはそれらの組み合わせによる制御放出機構であって、第2の制御放出機構が放出領域の第2の部分内に配置される第2の制御放出機構とポリマー基板上に形成された回路であって、電流源と、送達領域の第1の部分からエレクトロマイグレーションを介して標的組織に第1のタイプの治療剤を輸送するための送達領域の第1の部分内に配置された第1のイオントフォレシス電極と、を備える回路と送達領域の第2の部分に配置される第2のイオントフォレシス電極であって、送達領域の第2の部分からエレクトロマイグレーションを介して標的組織に第2のタイプの治療剤を送達するための第2のイオントフォレシス電極と、受容領域に配置されるイオントフォレシス電極であって、組織内の電気的中立性を維持するためのイオントフォレシス電極とを備える。
【0025】
いくつかの実施形態では、ポリマー基板は、ポリイミド、液晶ポリマー、パリレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、硬質ガス透過性フルオロシリコーンアクリレート、シリコンベースのポリマー、シリコーンアクリレート、環状オレフィン共重合体(COP/COC)、ヒドロゲル、またはこれらの組み合わせで形成される。
【0026】
いくつかの実施形態では、放出領域および送達領域は、少なくとも部分的に重なっており、ポリマー基板上に同居する。他の実施形態では、放出領域は、ポリマー基板上の送達領域とは別に配置される。
【0027】
いくつかの実施形態では、送達領域の少なくとも一部は、ポリマー基板の外部の環境にさらされる。いくつかの実施形態では、受容領域は、ポリマー基板上の送達領域とは別に配置される。
【0028】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、ポリマー基板の実質的に全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層をさらに備える。任意で、オーバーモールドポリマー層は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1セットのイオントフォレシス電極は、第1セットのリザーバの下に位置し、第2セットのイオントフォレシス電極は、第2セットのリザーバの下に位置する。いくつかの実施形態では、第1セットのイオントフォレシス電極および第2セットのイオントフォレシス電極は、銀(Ag)アノードであり、受信領域内に位置するイオントフォレシス電極は、塩化銀(AgCl)カソードである。
【0030】
いくつかの実施形態では、第1の制御放出機構は、ポリマー層、バルブ、またはそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、第2の制御放出機構は、ポリマー層、バルブ、またはそれらの組み合わせである。任意に、ポリマー層は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される。任意で、バルブは、電流源に電気的に接続される金属薄膜である。
【0031】
いくつかの実施形態では、ポリマー基板は、0.01mm~2mmの間の平均厚さを有し、半円形状である。いくつかの実施形態では、ポリマー基板は、0.01mm~2mmの間の平均厚さを有し、ドーナツ形状である。
【0032】
いくつかの実施形態では、治療剤送達装置は、第1のリザーバのセットまたは送達領域の第1の部分に配置された第1のタイプの対イオンであって、第1のタイプの治療剤がイオン化され、第1のタイプの対イオンが第1のタイプの治療剤と反対の電荷を有する対イオンと、第2のリザーバのセットまたは送達領域の第2の部分に配置された第2のタイプの対イオンであって、第2のタイプの治療剤がイオン化され、第2のタイプの対イオンが第2のタイプの治療剤と反対の電荷を有する対イオンと、をさらに備える。
【0033】
様々な実施形態において、ポリマー基板上に形成された1またはそれ以上のプロセッサと、ポリマー基板上に形成されたメモリとを備え、メモリは1またはそれ以上のプロセッサに結合され、メモリは1またはそれ以上のプロセッサによって実行可能な複数の命令を格納し、複数の命令は、1またはそれ以上のプロセッサによって実行されると、1またはそれ以上のプロセッサに以下の処理を実行させる命令:制御放出機構によって、ポリマー基板の放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバからポリマー基板の送達領域に治療剤を放出する工程と、コントローラーによって、ポリマー基板上に形成される回路に電位を印加して、回路を流れる電流を生成する工程であって、回路は、電流源と、送達領域内に配置された第1のイオントフォレシス電極と、ポリマー基板の受容領域内に配置された第2のイオントフォレシス電極とを備える工程と、前記第1のイオントフォレシス電極によって、回路を流れる電流に基づき、治療剤を送達領域から組織に電気泳動させ、前記第2のイオントフォレシス電極によって、回路を流れる電流に基づき、組織内の電気的中性を維持する工程を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、コントローラーによって、制御放出機構に別の電位を適用する工程を含む放出が行われる。
【0035】
いくつかの実施形態では、プロセスは、さらに以下:制御放出機構によって、ポリマー基板の放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバからポリマー基板の送達領域に異なる治療剤を放出する工程と、コントローラーによって、ポリマー基板上に形成される回路に後続の電位を印加して、回路を流れる後続の電流を生成する工程と、第1のイオントフォレシス電極によって、回路を流れる後続電流に基づき、異なる治療剤を送達領域から組織に電気泳動する工程と、第2のイオントフォレシス電極によって、回路を流れる後続電流に基づき、組織内の電気的中性を維持する工程と、を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、プロセスは、制御放出機構によって、ポリマー基板の放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバからポリマー基板の送達領域に異なる治療剤を放出する工程をさらに含み、回路に電位を印加することによって、回路を流れる電流に基づき、第1のイオントフォレシス電極によって送達領域から組織に異なる治療剤を電気泳動させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明は、以下の非限定的な図を見て、よりよく理解されるだろう。
【0038】
図1A図1Aは、様々な実施形態に沿った局所的、注射、および能動的な薬物送達モダリティを描いた図である。
図1B図1Bは、様々な実施形態に沿った動的な治療窓を有する局所的、注射、および能動的な薬物送達モダリティを描いた図である。
図2図2A~2Eは、様々な実施形態に沿った強膜治療剤放出装置を示す。
図3図3は、様々な実施形態に沿った送達が容易な強膜治療剤放出装置の足下の位置関係を示す。
図4図4は、様々な実施形態に沿ったイオントフォレティック電極システムを示す。
図5図5は、様々な実施形態に沿った眼の組織内への送達が促進された強膜治療剤放出装置を示す。
図6図6A~6Gは、様々な実施形態に沿った送達が容易な強膜治療剤放出装置を示す。
図7図7A~7Dは、様々な実施形態に沿った送達が促進された角膜治療剤放出装置を示す。
図8図8は、様々な実施形態に沿った治療剤の放出および送達のためのシステムを示し、および
図9図9は、様々な実施形態に沿った治療剤の放出および送達のためのプロセスのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
I.導入
以下の開示は、目の治療部位への治療剤の標的化された制御された送達のための装置およびシステムを説明する。本明細書で使用される場合、「標的化された」または「標的化された送達」という語句は、対象者の治療部位における治療剤の濃度を、治療部位の外側の領域と比較して増加させる、局所的な方法で治療剤を対象者に送達する技術を指す。本明細書では、「制御された」または「制御された送達」という用語は、治療剤を局所的または全身的に、所定の速度で、所定の期間送達する技術を意味する。本明細書では、「治療剤」または「エージェント」という用語は、患者の領域に1またはそれ以上の活性剤を投与するための、任意の所望の医薬剤または個々の医薬剤の混合物などを含む。様々な実施形態において、治療剤送達装置またはシステムは、治療剤を眼球の治療部位に標的化して制御して送達するために、眼球の表面(例えば、角膜または強膜の表面)に配置されるように設計される。治療剤送達装置またはシステムは、水性(液体)、ゲル、乾燥(粉末)、またはそれらの組み合わせを含む1またはそれ以上の物理的形態の治療剤を収容するリザーバ(複数可)を含む。リザーバは、治療部位への投与前に、治療剤を一時的に保管するためのものである。いくつかの実施形態では、治療剤の放出および送達は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせで、1またはそれ以上の機構によって制御され、目薬などの局所投与と比較して、治療剤の関心領域(例えば、強膜、角膜外層、後眼部など)における滞留時間を約30秒から30分以上に大幅に増加させる、完全にカスタマイズ可能な標的治療剤送達レジームを実現する。
【0040】
従来の眼の治療剤を投与するシステムや装置(1)局所点眼、2)眼内注射、には、コンプライアンスや投与プロファイルのカスタマイズという問題がある。例えば、従来の眼の治療剤投与システムや装置では、コンプライアンスの欠如が主な原因で、最終的に患者の長期的な治療効果を得ることができず、患者がコンプライアンスを達成できるような補助的な薬剤投与技術が必要とされる。さらに、従来のシステムおよび装置は、投与量または送達の積極的な制御がない患者支援処置(例えば、点眼薬)または外来処置(例えば、針注射)に依存しており、したがって、患者固有の治療を実施する能力がない。図1Aは、局所投与、注射、および能動的な薬剤投与の様式を描いた図である。従来の薬剤投与方法と比較して、能動的な投与方法は、治療域内の生理的に適切な濃度を維持するのに理想的である。図1Bは、動的な治療域を有する局所的、注射、および能動的な薬物送達様式を示す図である。従来の薬剤投与方法と比較して、能動的な送達は、治療域が時間的に変化する条件下で、生理的に適切な濃度を維持できる唯一の方法である。
【0041】
これらの問題に対処するために、本実施形態は、完全にカスタマイズ可能な標的治療剤送達レジームを達成するために、治療剤の放出および送達を制御する1またはそれ以上の機構を含む治療剤送達装置またはシステムに向けられる。例示的な実施形態では、治療剤送達装置が提供され、それは以下:放出領域、送達領域、および受容領域を含むポリマー基板と、ポリマー基板の放出領域内に形成される1またはそれ以上のリザーバと、1またはそれ以上のリザーバ内に配置される治療剤と、1またはそれ以上のリザーバから送達領域に治療剤を放出するための能動的、受動的、またはそれらの組み合わせによる制御放出機構であって、制御放出機構が放出領域内に配置され、放出領域が送達領域と流体連通する制御放出機構と前記ポリマー基板上に形成される回路であって、電流源と、前記送達領域内に配置され、エレクトロマイグレーションにより前記送達領域から標的組織内に治療剤を輸送する第1のイオントフォレシス電極と、前記受容領域内に配置され、前記組織内の電気的中立性を維持する第2のイオントフォレシス電極と、を含む回路と、を含む。
【0042】
有利なことに、これらのアプローチは、可動部品を持たず、関心のある領域での薬剤の滞留時間を増加させ、経強膜または経角膜送達を介して前眼部または後眼部でのバイオアベイラビリティを向上させる治療剤送達装置またはシステムを提供する。さらに、これらのアプローチは、一次の一定した放出プロファイルからオンデマンドのパルス性放出まで、完全にカスタマイズ可能な薬物放出レジームを達成することができる治療剤送達装置またはシステムを提供し、これにより、許容可能な濃度の薬剤を眼内組織に安全に送達し、一方で、薬剤への全身暴露を最小限に抑えることができる。眼のために設計された治療剤送達装置またはシステムは、様々な実施形態の例として提供されるが、この解決策は、治療剤の標的化された制御された送達から利益を得ることができる他の組織にも適用可能であることが理解されるべきである。
【0043】
II.治療剤送達装置
強膜治療剤放出装置
様々な実施形態において、カスタマイズされたオンデマンドの強膜治療剤放出のために、眼装着可能な眼下(under eyelid)医療装置が提供される。図2Aは、強膜治療剤放出のための眼下装置200の眼202への配置を示す。装置200は、角膜表面を露出させてそのままにして、眼瞼の下に目立たないように装着するように設計される。いくつかの実施形態では、装置200は、治療剤放出のために角膜強膜接合部または辺縁を超える強膜領域への優先的な接触を維持しながら、一日中常に隠れるように下瞼の下に配置されても良い。装置200は、角膜低酸素症のリスクが存在する標準的なコンタクトレンズと比較して、強膜上局部は新生血管のリスクが低い領域であるため、継続的に装着することができる。さらに、治療剤送達装置またはシステムの強膜への足下の配置は、角膜などの他の治療部位よりも後セグメントの治療療法にとって好ましいものである。なぜなら、強膜は、治療剤で一般的な高分子量の分子(例えば、約70kDaまでの分子)に対して透過性があり、一方、角膜は、1kDa未満の分子に対してのみ透過性があり、したがって、後セグメントで利用可能な超角膜治療の選択肢が制限されるからである。後眼部とは、眼球の後方3分の2の部分で、前ヒアロイド膜と、その後方にある硝子体、網膜、脈絡膜、および視神経などの全ての光学的構造を指す。
【0044】
表面に放出された治療剤は、水晶体-虹彩の隔膜が眼球後部組織に到達するための主な物理的障壁となるため、強膜を介してこの障壁を回避することが好ましい。さらに、強膜は約17cmの大きな表面積を持ち、人間の眼球の表面積の95%を占める。この大きな面積は、経皮的な治療剤の吸収のための豊富なスペースを提供し、神経保護剤、抗酸化剤、血管静菌剤、抗血管内皮成長因子(VEGF)治療剤を網膜の特定の領域に送達することを可能にする。この種の装置が治療上有益な後眼部疾患の例としては、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、網膜静脈閉塞症、鎌状赤血球網膜症、緑内障、脈絡膜新生血管、網膜新生血管、網膜浮腫、網膜虚血、増殖性硝子体網膜症などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
図2Bは、様々な実施形態に従った強膜治療剤放出のための装置200を示す。装置200は、1またはそれ以上のリザーバ215を含む放出領域(複数可)210を含むポリマー基板205を含む。ポリマー基板205は、ポリイミド、液晶ポリマー、パリレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、硬質ガス透過性フルオロシリコーンアクリレート、シリコンベースのポリマー、シリコーンアクリレート、環状オレフィン共重合体(COP/COC)、ヒドロゲル、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー基板205は、0.01mm~2mmの間の平均厚さ(装置の全長に沿った厚さ)、例えば約1mmを有する。いくつかの実施形態では、治療剤送達装置200は、0.01mm~3mmの間、例えば約1.5mmの平均厚さ(装置の全長に沿った厚さ)を有する。ポリマー基板205は、眼球などの組織の輪郭に取り付けるための形状と十分な柔軟性を有する。特定の実施形態では、形状は、図2Aに示すような半円形状である。ポリマー基板205の柔軟性は、ポリマー基板205を構成するポリマー層の曲げ強度または曲げ弾性率に基づいて特徴付けられても良い。材料の曲げ強度は、荷重下での変形に抵抗する能力である。大きく変形するが(十分な柔軟性)、破断しない材料の場合、典型的には外面の5%の変形/歪みで測定される降伏時の荷重が、曲げ強度または曲げ降伏強度として報告される。特定の実施形態では、ポリマー基板205は、30MPa~175MPaの間、好ましくは40MPa~130MPaの間、例えば約100MPaの曲げ強度または曲げ降伏強度を有し、ASTM D70またはISO 178試験を用いて測定される0.5~7.5GPaの間、好ましくは1.0GPa~5.0GPaの間、例えば約3GPaの曲げ弾性率を有する。
【0046】
図2Cは、1またはそれ以上のリザーバ215のうちの2つを有する装置200の断面を示す。いくつかの実施形態では、ポリマー基板205は、遠位表面220と、その間に配置された1またはそれ以上のポリマーの層を有する近位表面225とを備える。本明細書で使用される場合、用語「近位表面」は、基板の第1の表面を指し、一方、用語「遠位表面」は、第1の表面に対向する第2の表面を指す。例えば、遠位表面220は、組織230の表面(後方)と接触していても良く、近位表面225は、組織230の表面(前方)から露出していても良いし、組織230の表面と接触していなくても良い。いくつかの実施形態では、治療剤の放出は、強膜または組織に接触する表面に優先的に標的化されるため、涙の流出および排水によって薬剤が失われる可能性がある近位表面225または前側に薬剤が浪費されない。これにより、意図しない全身的な副作用を排除しつつ、より高い有効性を得ることができる。
【0047】
様々な実施形態において、1またはそれ以上のリザーバ215は、ポリマーの1またはそれ以上の層と一体化しているか、またはその中に形成される。1またはそれ以上のリザーバ215は、治療剤240のための保持チャンバー235と、保持チャンバー235から治療剤240を放出するための出口245とを含んでいても良い。1またはそれ以上のリザーバ215は、水性(液体)、ゲル、乾燥(粉末)、またはそれらの他の組み合わせを含む、様々な物理的形態の治療剤に適合する。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のリザーバ215は、1またはそれ以上のタイプの治療剤240を一時的に保管する手段を提供して、制御された速度でプログラムされた時間に治療剤をオンデマンドで放出および送達することを可能にし、それによって経強膜吸収を介して眼に対する治療効果を提供する。いくつかの実施形態では、各リザーバ215は、単一のタイプの治療剤240(他のリザーバと同じまたは異なる)を保持する。他の実施形態では、各リザーバ215は、複数のタイプの治療剤240を保持する(他のリザーバと同じまたは異なる)。他の実施形態では、第1のタイプの治療剤240は、複数のリザーバ215の第1のサブセット内に配置され、第2のタイプの治療剤240は、複数のリザーバ215の第2のサブセット内に配置される。1またはそれ以上のリザーバ215は、0.01nL~100μL、例えば0.01nL~10μLまたは約1.0μLの体積を有し、既知の量または体積の治療剤を貯蔵しても良い。本明細書では、「実質的に(substantially)」、「およそ(approximately)」、および「約(about)」という用語は、当業者が理解するように、大部分は指定されたものであるが、必ずしも完全には指定されていない(完全に指定されたものを含む)と定義される。開示された任意の実施形態において、「本質的に」、「およそ」、または「約」という用語は、指定されたものの「[パーセンテージ]以内」で置き換えられても良く、パーセンテージには、0.1、1、5、および10パーセントが含まれる。1またはそれ以上のリザーバ215は、誘電体(例えば、SiO、Al)、または他の承認された薬剤接触材料などの受動的、密閉的、絶縁体、および/または不活性コーティングで裏打ちされても良い。
【0048】
図2Bおよび図2Cに示すように、装置200は、電源250、コンデンサー255、通信装置265(例えば、WiFiアンテナ)、および電子機器モジュール270(すなわち、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせ)をさらに含んでも良い。いくつかの実施形態では、電源250、コンデンサー255、通信装置265、および電子機器モジュール270は、ポリマーの1またはそれ以上の層と一体化するか、またはその中に形成される。他の実施形態では、電源250、コンデンサー255、通信装置265、および電子機器モジュール270は、ポリマーの1またはそれ以上の層の上面に形成され、例えば、近位表面225に形成される。他の実施形態では、電源250、コンデンサー255、通信装置265、および電子機器モジュール270は、基板205と一体化した別のポリマー基板上に形成される。さらに他の実施形態では、電源250、コンデンサー255、通信装置265、および電子機器モジュール270は、基板205および/または別の基板と一体化したハウジング内に形成される。ハウジングは、ポリマー、高周波透過用のバイオセラミックスやバイオグラスなどの生体適合性を有する材料や、チタンなどの金属で構成されていても良い。
【0049】
電源250は、電子機器モジュール270の構成要素に電力を供給し、動作させるために、電子機器モジュール270に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電源250は、コンデンサー255に接続(例えば、電気的に接続)されて、1またはそれ以上の回路275に電力を供給し、電流の流れを提供しても良い。通信装置265は、例えば高周波(RF)テレメトリまたはWiFiを介して外部装置と有線または無線で通信するために、電子機器モジュール270に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電子機器モジュール270は、電子機器モジュール270が1またはそれ以上の回路275に接続されたゲート、電極、またはセンサなどの電子部品に信号または電流を印加することができるように、コンデンサー255および1またはそれ以上の回路275に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電子機器モジュール270は、制御放出機構に電位を印加する、回路に電位を印加する、または1またはそれ以上の電極に電位を印加するなど、装置200に起因する機能を生成することができるアナログおよび/またはデジタル回路を実装するディスクリートおよび/または集積電子回路コンポーネント(例えば、1またはそれ以上のプロセッサー)を含むことができる。様々な実施形態において、電子機器モジュール270は、コンデンサー255または1またはそれ以上の回路275に電圧、電位、電流、光信号、または超音波信号を電子部品に送達させる信号を生成する信号発生器、通信装置265を介して外部装置から受信するか、または1またはそれ以上の回路275に接続された電極またはセンサを介して信号を決定または感知し、装置200の放出および送達パラメータを制御し、および/または、1またはそれ以上のリザーバ215を介して治療剤240の放出および送達を行うコントローラーと、治療剤240を放出または送達するための1またはそれ以上のプロセスを実行するために、信号発生器およびコントローラーによって動作可能なプログラム命令を有するメモリなどのソフトウェアおよび/または電子回路部品を含むことができる。
【0050】
様々な実施形態において、装置200は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせによる制御放出機構280を介して、1またはそれ以上のリザーバ215から組織230への治療剤240の放出を実現する(例えば、図2C参照)。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のリザーバ215は、治療剤240のための保持チャンバー235と、出口245と、保持チャンバー235から出口245を通る治療剤240の通過を一時的に遮断する能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構280とを含む。いくつかの実施形態では、単一の制御放出機構280が、1またはそれ以上のリザーバのそれぞれに対して提供される(同じまたは異なる機構が各リザーバに対して提供される)。他の実施形態では、複数の制御放出機構280が、1またはそれ以上のリザーバのそれぞれに対して提供される(同じまたは異なる機構が各リザーバに対して提供される)。他の実施形態では、単一の制御放出機構280が1またはそれ以上のリザーバの一部に対して提供され、複数の制御放出機構280が1またはそれ以上のリザーバの他の部分に対して提供される(同一または異なる機構(複数可)が各リザーバに対して提供される)。制御放出機構、リザーバ、および治療剤の配置は、本明細書において、いくつかの記載された実施形態に関して特に詳細に説明されるが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、他の配置が考えられることを理解すべきである。例えば、制御放出機構、リザーバ、および治療剤の異なる配置は、治療剤(複数可)の放出および送達が、組織内への最適な治療剤の移送が起こり得る組織の表面(例えば、眼の強膜表面)に、時間的および空間的に標的化されるように、本明細書において企図される。
【0051】
いくつかの実施形態では、制御放出機構280は受動的である。本明細書で使用される「受動的」とは、治療剤の放出のための機構の開閉を引き起こすために外部からの刺激が加えられないことを意味する。特定の実施形態では、制御放出機構280は、受動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)である。例えば、制御放出機構の一部として受動的ポリマー装置を使用して、長期間にわたる一定量の治療剤240の制御放出、周期的な投与、および親水性および疎水性の両方の治療剤の調整可能な放出を提供することができる。ポリマー装置は、拡散制御(膜またはモノリス制御)装置、分解制御(侵食または化学的制御)装置、または溶媒活性化制御(膨潤-または浸透圧制御)装置であっても良い。リザーバタイプの拡散コントローラーでは、治療剤はポリマー膜の後ろにカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、ポリマー層によってリザーバ内にカプセル化されるか、または閉じられる)。ポリマー膜を介した拡散が速度制限の工程となる。ポリマー膜は、シリコーンエチレン酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、シリコーンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。モノリシックタイプの拡散コントローラーでは、治療剤をポリマーマトリックスに分散させても良い。例えば、治療剤は、治療期間中に劣化しない非膨潤性または完全膨潤性のマトリックスに溶解(または濃度がポリマーの溶解度限界を超える場合は分散)していても良い。ポリマー膜を介した拡散が速度制限の工程となる。さらに、涙液のような環境中の液体は、ポリマーがその液体に対して透過性がある場合、治療剤をマトリックスから浸出させる可能性があります。可溶性の添加物がポリマーマトリックスに混合される場合、流体は添加物を溶かすことによってマトリックスに入り、治療剤を放出するための相互接続されたチャネルを形成することができる。ポリマーマトリックスは、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成される。
【0052】
分解性制御装置では、治療剤はポリマー膜の後ろにカプセル化されるか、またはポリマーに物理的に固定化されており、ポリマーの侵食(例えば、ポリマーの生分解または化学分解)によってのみ放出される。このタイプの装置は、リザーバタイプの装置またはモノリシックタイプの装置として構築されても良い。ポリマー膜の劣化が速度制限工程となる。さらに、化学物質(例えば、ポリマーの分解を引き起こす薬剤)がポリマーに結合していても良く、ポリマーからの化学物質の放出/活性化、例えば、加水分解または酵素による結合の切断(例えば、涙膜中の成分による)が、最終的にポリマーの分解を引き起こす可能性がある。分解性ポリマーは、ポリ-(ビニルピロリドン)、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の部分エステル化共重合体、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリアンハイドライド、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。
【0053】
膨潤制御装置では、治療剤は、拡散しにくいポリマーマトリックスに分散または溶解される。このポリマーマトリックスが、ポリマーと熱力学的に適合する環境流体(例えば、涙液)に置かれると、流体はポリマーに吸収され、ポリマーを膨らませる。膨らんだ部分の治療剤は、その後、装置の外へと拡散する。膨潤性ポリマーは、ヒドロゲル、アクリルアミド、ポリエチレングリコール、またはそれらの組み合わせで形成される。浸透圧制御装置では、浸透圧を駆動力として利用することにより、治療剤がカプセル化された状態や、少なくとも1つの出口またはオリフィスを備えた半透膜の背後から放出される。水性環境(例えば、涙液との接触)では、水のような流体は、浸透によってカプセル化された、または半透膜の後ろに運ばれる。非伸長性ポリマーは、静水圧の構築を容易にし、治療剤と流体の溶液は、出口またはオリフィスからポンプで排出される。非伸長性ポリマーは、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成されていても良い。
【0054】
いくつかの実施形態では、制御放出機構280は能動的である。本明細書で使用される「能動的(active)」とは、治療剤の放出のための機構の開閉を引き起こすために外部刺激が加えられることを意味する。例えば、装置200は、装置200内の1またはそれ以上のリザーバ215に物理的に結合された少なくとも1つのバルブ(制御放出機構280)の電子制御を通じて、オンデマンドの薬剤放出を実現しても良い。特定の実施形態では、回路(例えば、1またはそれ以上の回路275)がポリマー基板205上に形成され、回路は、電流源(例えば、電源250およびコンデンサー255)と、少なくとも1つのバルブを開閉するために刺激を加えることができるような少なくとも1つのバルブ(制御放出機構280)とを含む。単一のリザーバは、強膜表面への拡散に利用可能な有効表面積を増加させるために、選択された時間に活性化することができるいくつかの「バルブ」を含むことができる。これにより、所定の時間に提供される有効量が増加する。また、バルブを時間経過とともに作動させることで、治療に必要な有効量を一定に保つことができる。また、バルブを備えた複数のリザーバを設置し、それぞれのリザーバにボーラス投与用の薬剤を個別に充填することもできる。
【0055】
バルブは、単回使用で、リザーバ内の治療剤がバルブの開口部を通って組織(例えば強膜表面)に向かって通過するように、電子的にオンデマンドで開くことができる。あるいは、バルブは複数回使用可能で、電子的にオンデマンドで開閉され、リザーバ内の治療剤がバルブの開口部を通って組織(例えば強膜表面)に向かって通過することができる。バルブの開口部の動作は、装置と強膜の間に位置する装置後の薄い涙膜に治療剤の放出を開始する。バルブの開口部と強膜の間の距離は、涙液によって満たされており(20μm未満)、治療剤が強膜表面に拡散するための短い距離を提供する。薄い涙液、足下の装置の配置、強膜表面への治療剤の優先的な放出の組み合わせにより、治療剤の滞留時間の増加(>30分 対 局所投与の場合は~30秒)と強膜表面での治療剤の利用可能性の増加を促進する準静的な環境を提供し、経強膜吸収と後眼部のバイオアベイラビリティを最大化する。
【0056】
特定の実施形態では、制御放出機構280は、活性ポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)である。例えば、制御放出機構の一部として活性ポリマー装置を使用して、治療剤240の制御放出を、長期間にわたって一定量で、一次の一定放出プロファイルに従って、またはオンデマンドのパルス性信号/コマンドに従って提供しても良い。いくつかの実施形態では、治療剤は、ポリマー膜の後ろにカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能するポリマー層によってリザーバ内にカプセル化されるか、または閉鎖される)。ポリマー膜は、外部からの刺激に応じて物理的または化学的な挙動変化を起こす能力を有する環境制御装置であっても良い。例えば、温度またはpHの変化がポリマーの挙動変化を引き起こすために使用されても良いが、超音波、イオン強度、酸化還元電位、電磁放射線、および化学的または生化学的薬剤などの他の刺激が使用されても良い。挙動変化の種類としては、溶解性の遷移、親水性-疎水性バランスの遷移、コンフォメーションの遷移などが考えられる。刺激を受けて挙動が変化すると、環境制御装置はリザーバから治療剤を放出することができる。環境制御装置のポリマーには、ヒドロゲル、ミセル、ポリプレックス、ポリマーと薬物の結合体、またはそれらの組み合わせが含まれる。ヒドロゲルは、多量の水や生物学的流体を吸収することができる親水性の(共)ポリマーネットワークである。物理的または共有結合的な架橋により、ヒドロゲルは水に溶けなくなることがある。本発明では、様々な刺激に反応するようにヒドロゲルを設計することができる。
【0057】
特定の実施形態では、制御放出機構280は、活性金属装置(または同様の材料で構成された装置)である。例えば、制御放出機構の一部として活性金属装置を使用して、治療剤240の制御放出を、長期間にわたって一定量で、一次の一定放出プロファイルに従って、またはオンデマンドのパルス性信号/コマンドに従って提供しても良い。いくつかの実施形態では、治療剤は、金属膜の後ろにカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能する金属層によってリザーバ内にカプセル化されるか、または閉鎖される)。治療剤の放出は、バルブを構成する金属薄膜に電位または低レベルの電圧刺激を加えることで、電子的に起動させることができる。いくつかの実施形態では、薄膜はリザーバの側面にシールを形成し、組織に対して配置することができる(例えば、図2Cを参照)。金属膜は、環境流体285(例えば、涙の膜)の存在下で電位が印加されると、電気分解を受ける。放出メカニズムは、以下の平衡方程式(1)
【数1】
で記述することができ、速度制限工程は、表面からの金錯体の活性化された脱離である。
【0058】
いくつかの実施形態では、金が金属膜材料として使用される。これは、金は蒸着やパターン化が容易で、他の物質との反応性が低く、全pH範囲にわたる多くの溶液で自発的な腐食に抵抗するためである。また、金は生体適合性の高い材料であることがわかる。しかし、涙液に自然に含まれるような少量の塩化物イオンが存在すると、可溶性の塩化金錯体の形成に有利な電位領域が生じる。この腐食領域の陽極電位を0.8~1.2V、例えば約1.0Vに保つことで、約50nm~約500nmの厚さを持つフィルムの再現性のある金溶解が可能になる。この領域より低い電位では、低すぎて腐食が起こりにくいが、この領域より高い電位では、ガスが発生し、不動態化する金酸化物層が形成されるため、腐食が遅くなったり、止まったりする。銅やチタンなどの他の金属は、このような条件では自然に溶解する傾向があり、電位を印加しても可溶性物質を形成しない。いくつかの実施形態では金を使用するが、他の材料を使用して同様の電気分解を介した薬剤放出を実現することができることを理解されたい。
【0059】
いくつかの実施形態では、制御放出機構280は、1またはそれ以上の受動的な装置と1またはそれ以上の能動的な装置との組み合わせである。特定の実施形態では、制御放出機構280は、受動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)および能動的なポリマーまたは金属装置である。例えば、1またはそれ以上のリザーバ215から治療剤240の制御された放出を提供するために、制御放出機構の一部として活性ポリマーまたは金属装置を使用しても良い。治療剤240は、ポリマー層または金属層の背後にカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能するポリマー層または金属層によってリザーバ内にカプセル化されるか、または閉鎖される)。活性ポリマーまたは金属装置が外部刺激を介して開かれると、治療剤240は、出口245を介して保持チャンバー235からポリマーマトリックスまたはヒドロゲルなどの受動的ポリマー装置の中に放出されても良い。治療剤240が受動的ポリマー装置を通過すると(例えば、拡散または浸透圧ポンプを介して)、治療剤240が放出され、標的組織230の表面(例えば、強膜表面)に送達されても良い。あるいは、1またはそれ以上のリザーバ215から治療剤240の制御された放出を提供するために、制御放出機構の一部として受動的なポリマー装置を使用しても良い。治療剤240は、ポリマー層の後ろにカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能するポリマー層によってリザーバ内にカプセル化されるか、または閉鎖される)。治療剤240が受動的ポリマー装置を通過すると(例えば、拡散または浸透圧ポンプを介して)、治療剤240は、出口245を介して保持チャンバー235から、ポリマー層または金属層の背後にカプセル化または提供されているような能動的ポリマーまたは金属装置に放出されても良い。活性ポリマーまたは金属装置が外部刺激を介して開かれると、治療剤240が放出され、標的組織230の表面(例えば、強膜表面)に送達されても良い。
【0060】
図2Dおよび2Eに示すように、装置200は、ポリマー基板205の実質的な全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層290をさらに含んでも良い。いくつかの実施形態では、ポリマー基板205は、オーバーモールドポリマー層290によって完全にカプセル化される(例えば、図2D参照)。オーバーモールドポリマー層290は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。特定の実施形態では、オーバーモールドポリマー層290は、30%~50%の間の含水率、例えば約45%の含水率を有する。いくつかの実施形態では、制御放出機構280は、金属薄膜295とオーバーモールドポリマー層290との組み合わせ(高分子受動素子)である。治療剤240は、金属薄膜295の背後に封入または提供されても良い(例えば、バルブとして機能する金属層によってリザーバ内に封入または閉鎖される)。一旦、金属薄膜295が外部刺激および溶解を介して開かれると、治療剤240は、図2Dに示すように、リザーバ215の保持チャンバー235から出口245を介してオーバーモールドポリマー層に放出されても良い。治療剤240が受動的ポリマー装置を通過すると(例えば、拡散または浸透圧ポンプを介して)、治療剤240が放出され、標的組織230の表面(例えば、強膜表面)に送達されても良い。治療剤のこの放出機構は、完全にプログラム可能でカスタマイズ可能な能動的放出開始を伴うとはいえ、受動的な負荷および放出の薬剤溶出アプローチに類似した薬剤放出動態を達成するために使用され得る。
【0061】
他の実施形態では、装置200は、オーバーモールドポリマー層290(例えば、ヒドロゲル)に露出したアクセスポイントまたは開口部297を含み、これは、1またはそれ以上のリザーバ215の表面を露出させる(例えば、図2Eを参照)。これらの実施形態では、装置後の涙膜または組織230は、制御放出機構280またはリザーバ215の出口245と直接接触する。本明細書で使用される用語「直接的」または「直接」は、その間に何かがないこととして定義されても良い。本明細書で使用される「間接」または「間接的」という用語は、その間に何かがあると定義されても良い。治療剤240がチャンバー235から放出されると、治療剤240は、装置後の涙膜または組織230に直接浸透する。この放出のメカニズムは、目薬の局所的な適用と同様に、完全にプログラム可能でカスタマイズ可能な活性放出を伴う代替的な放出動態を達成するために使用され得るが、しかしながら、滞留時間の大幅な増加、バイオアベイラビリティの増加、および薬物損失の最小化という利点を有する。より一般的には、装置200は、局所的な点眼薬や眼球内注射では現在利用できない、カスタマイズされたデリバリープロファイルを可能にする。有利なことに、緑内障のように概日リズムによって治療期間が変化したり周期的に変化したりする場合、装置200は完全にカスタマイズされた方法でこれらの変化に対応することができる。
【0062】
本明細書では、眼に装着可能な眼瞼下治療剤放出装置に関する様々な実施形態が開示されるが、これは限定的なものであることを意図したものではない。カスタマイズされたオンデマンドの強膜治療剤放出を提供することに加えて、本明細書に開示された教示は、他の組織のための他の治療剤放出装置にも適用することができる。例えば、治療剤放出装置は、目の前のセグメントへの治療剤放出のために角膜への優先的な接触を維持しながら、装置が何らかの形で視界を遮ったり影響を与えたりせず、標準的なコンタクトレンズ材料と互換性があるように、角膜表面の少なくとも一部の上に目立たないようにフィットするように設計されても良い。前眼部とは、眼球の前3分の1の部分で、硝子体の前にある構造物である角膜、虹彩、毛様体、水晶体を指す。この種の装置やシステムが治療に役立つ前眼部疾患の例としては、角膜炎、擦過傷、角膜新生血管形成、フチのジストロフィー、円錐角膜、円錐角膜炎、虹彩炎、およびブドウ膜炎などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
デリバリーが容易な強膜治療剤放出装置
様々な実施形態において、カスタマイズされたオンデマンドのイオントフォレティック治療剤の送達のために、眼装着可能な眼下(under eyelid)医療装置が提供される。図3は、強膜治療剤の放出および送達のための眼下装置300の眼305への配置を示す。装置300は、角膜表面を露出させてそのままにして、眼瞼の下に目立たないように装着するように設計される。いくつかの実施形態では、装置300は、治療剤放出のために角膜強膜接合部または辺縁を超える強膜領域への優先的な接触を維持しながら、一日中常に隠れるように下瞼の下に配置され得る。この広い領域は、経強膜的な治療剤の吸収のための豊富なスペースを提供し、神経保護剤、抗酸化剤、血管静菌剤、抗血管内皮成長因子(VEGF)治療剤を網膜の特定の領域に送達することを可能にする。さらに、外部エネルギー源、特にイオントフォレシスによって、受動的な拡散だけではなく、強膜への薬剤の浸透性を大幅に高めることもできる。この種の装置が治療上有益である後眼部疾患の例としては、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、網膜静脈閉塞症、鎌状赤血球網膜症、緑内障、脈絡膜新生血管、網膜新生血管、網膜浮腫、網膜虚血、増殖性硝子体網膜症などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
イオントフォレシスは、電界を印加することでイオン化した治療剤の組織への浸透を促進する、局所的な非侵襲性の技術である。電界に使用される電流密度は0.5mA/cm~50mA/cmの範囲で、例えば5.0mA/cm程度である。治療剤は、治療剤と同じ電荷を持つ電極で印加することができ、反対の電荷を持つ接地電極は、他の場所にある非活性種と接触して回路を完成させる。治療剤は、組織を介して電流の導体として機能する。図4に示すように、イオントフォレシスは、電気泳動、電気浸透、エレクトロポレーションという3つのメカニズムによって治療剤の送達を促進する。電気泳動は、印加された電界によってイオン種の移動が促進されることである。電気浸透は、電界によって誘発される対流性溶媒の流れによって、中性種および荷電種の輸送を助ける(または遅らせる)ことである。エレクトロポレーションは、膜の内在的な透過性を増加させるバリアーの変化を表す。イオン化した物質は、陽極(正の電荷を持つ物質の場合)または陰極(負の電荷を持つ物質の場合)のいずれかでの電気的反発によって組織内に送り込まれる。ネルンスト・プランク効果として知られるこのイオンと電界の相互作用は、小さなイオンの流束増強に最も大きく寄与するが、唯一のものではない。電気浸透流は、帯電した膜に電圧差が生じたときに起こるバルク流体の流れである。ヒトの膜はpH4以上では負に帯電しているので、電気浸透流は陽イオンの対イオンの流れとして、陽極から陰極に向かって発生する。大きな一価のイオンでは、電気浸透流が主な流れのメカニズムとなる。
【0065】
様々な実施形態では、局所的なpHレベルを維持し、可溶性のバルク電極種を排除する能力のために、Ag-Ag/Cl電極システムなどの電極システム400が使用される。しかし、電極システム400は、白金、白金/イリジウム(PtIr)およびそれらの合金、炭素、塩化亜鉛/塩化亜鉛、金、所定のpH範囲で溶液中の電気分解に抵抗する他の適切な不溶性および不活性金属、およびそれらの組み合わせなどの他の電極材料から構成されても良い。アノードチャンバー405は、イオン化剤D+とその対イオンA-およびNaCl(涙膜)を含む。電位の印加により、回路410に電流が流れる。電極溶液界面415では、Ag+とCl-が反応して不溶性のAgClが形成され、これが電極表面420に堆積する。エレクトロマイグレーションにより、イオン化剤D+を含むカチオンがアノードコンパートメント405から組織425に輸送される。同時に、内因性のアニオン、主にCl-がアノードコンパートメント405に移動する。カソードチャンバー430では、Cl-イオンが電極表面435から放出され、電気的中性には、カソードチャンバー430からアニオンが失われるか、組織425からカソードチャンバー430にカチオンが入るかのいずれかが必要である。イオントフォレティックデリバリーの範囲と浸透の深さは、電界と適用の持続時間に関係する。
【0066】
いくつかの実施形態では、電極システム400は、精密な微小電極形状、低電流密度、および長時間(例えば、数時間から数日)を組み合わせた完全に歩行可能なウェアラブルシステムであり、これにより、繋がれた臨床環境では現在不可能な治療剤投与パラダイムを促進する。ある実施形態では、電荷制御イオントフォレシス(CCI)を用いて、組織のインピーダンスの変化に応じて電圧を自動的に調整し、電極界面の電流密度と電荷を正確に制御する。例えば、リソグラフィで定義された100×100μmのアノード電極に1uAを印加すると、強膜イオントフォレシスに安全かつ効果的なレベルである10mA/cmの電流密度が得られる。いくつかの実施形態では、電極システム400は、適切な電場を生成するために、単一のアノードおよび単一のカソードを利用する。他の実施形態では、複数の微小電極(アノードおよび/またはカソード)を利用して、適切な電場を生成する。薄い涙液、足下の装置の配置、および強膜表面への優先的な治療剤の放出の組み合わせは、治療剤の滞留時間の増加(>30分 対 局所投与の場合は~30秒)および強膜表面での治療剤の利用可能性の増加を促進する準静的な環境を提供し、その結果、経強膜吸収および後セグメントのバイオアベイラビリティを最大化する。
【0067】
また、電極間の物理的な距離がイオン導入に影響するため、基板や装置上の陽極と陰極の電極の配置も重要である。ネルンスト・プランク理論によると、イオン穿孔中の分子の全フラックスは、JIONTO=J+JEM+JEOで与えられる。式中、Jは受動的なフラックス、JEMはエレクトロマイグレーション(電気泳動)の寄与、JEOは電気浸透の寄与を表す。かなりの電荷を持つイオンの場合、
【数2】
式中、Dは膜上の溶質の拡散係数、zは溶質の電荷、Cは溶質の濃度、Fはファラデー定数、Rは気体定数、Tは絶対温度である。実質的に中性である分子の場合、JEMはゼロに等しく、JEO(uLcm-2-1)、すなわち組織を横切る電流誘導水流は、JIONTOに実質的に等しい。したがって、いくつかの実施形態では、複数のカソードチャンバーおよび/またはカソードのそれぞれは、複数のアノードチャンバーおよび/またはアノードのそれぞれから少なくとも所定の距離だけ離れている。特定の実施形態では、所定の距離は、1.0mmよりも大きく、例えば1.5mmから8mmの間、または約2.0mmである。イオントフォレシスによる眼球治療剤の送達の利点は、高い眼球内治療剤組織濃度を安全に提供しながら、全身への薬物曝露を最小限に抑えることができる。また、繰り返し治療剤を投与することができるため、外傷(網膜剥離、眼内炎、球穿孔)、感染症、炎症、出血などの眼内注射に伴うリスクを最小限に抑えながら、慢性・長期の眼内疾患を治療することができる。
【0068】
図5は、様々な実施形態に従った、足下のイオントフォレティック治療剤送達のための装置500を示す図である。いくつかの実施形態では、装置500は、網膜への電流ベースの損傷を回避し、この領域のより薄い脈絡膜に起因する血管吸収を最小化するために、理想的には、パープラナ領域上の結膜上に配置される。図2A~2Dに関して説明したように、治療剤は、積極的に放出されても良く、すなわち、リザーバから電子的にオンデマンドで放出されて、治療剤がイオントフォレティックに(iontophoretically)505に送達されることができる装置の送達領域に放出されても良い。加えて、または代わりに、治療剤は、例えば、ポリマーマトリックスまたはゲルから受動的に放出され、次に、イオン穿孔法で送達されても良い。つまたは複数の治療剤の能動的および受動的な治療剤放出を含むそれらの組み合わせは、装置500によって実行され、イオントフォレティック作用505を介した能動的な経皮的送達と組み合わせて使用されても良い。
【0069】
図6Aに示すように、治療剤送達装置600(例えば、図5に関して議論された足下イオントフォレティック治療剤送達装置)は、放出領域610、送達領域615、および受容領域620を含むポリマー基板605を含んでも良い。放出領域610は、1またはそれ以上のリザーバ625を支持する装置600の1またはそれ以上の領域、1またはそれ以上のリザーバ625内に配置された治療剤630、および1またはそれ以上のリザーバ625から送達領域615内に治療剤630を放出するための能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構635を含む。送達領域615は、治療剤630を送達領域615からエレクトロマイグレーションを介して標的組織632(例えば、硝子体液)に輸送するための第1のイオントフォレシス電極640(例えば、陽極)を構成するチャンバーまたはコンパートメント(例えば、陽極チャンバー)を支持する装置600の1またはそれ以上の領域を含む。受領領域620は、組織632(例えば、強膜)内の電気的中立性を維持するための第2のイオントフォレシス電極645(例えば、陰極)を構成するチャンバーまたはコンパートメント(例えば、陰極チャンバー)を支持する装置600の1またはそれ以上の領域を含む。装置600の特徴(例えば、ポリマー基板605、放出領域610、1またはそれ以上のリザーバ625、治療剤630、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構635)の多くは、図2A~2Dの装置200に関して説明された特徴と同じであるので、そのような特徴の詳細な説明は、簡潔にするためにここでは繰り返さず、代わりに、このセクションでは、特徴(例えば、送達領域615、受容領域620、第1のイオントフォレシス電極640、および第2のイオントフォレシス電極645)は、治療剤630の組織632への配信のための外部エネルギー源を提供する。
【0070】
図6Bは、放出領域610と送達領域615とが少なくとも部分的に重なっているか、さもなければポリマー基板605内に併置されている状態の装置600の断面を示す。受信領域620は、送達領域615を有する端部とは反対側の装置605の端部に配置される。いくつかの実施形態では、ポリマー基板205は、その間に配置された1またはそれ以上のポリマーの層を有する遠位表面650および近位表面655を備える。例えば、遠位表面650は、組織632の表面(posterior)と接触していても良く、近位表面655は、組織632の表面(anterior)から露出していても良いし、接触していなくても良い。いくつかの実施形態では、治療剤の放出は、強膜または組織と接触する表面に優先的に標的化されるため、涙の流出および排水によって薬剤が失われる可能性のある近位表面655または前側に薬剤が無駄に放出されない。これにより、意図しない全身的な副作用を排除しつつ、より高い効果が得られる。
【0071】
様々な実施形態において、1またはそれ以上のリザーバ625は、ポリマーの1またはそれ以上の層と一体化しているか、またはその中に形成される。1またはそれ以上のリザーバ625は、治療剤630のための保持チャンバーと、保持チャンバーから治療剤630を放出するための出口とを含んでいても良い。1またはそれ以上のリザーバ625は、水性(液体)、ゲル、乾燥(粉末)、またはそれらの他の組み合わせを含む治療剤の様々な物理的形態に適合する。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のリザーバ625は、1またはそれ以上のタイプの治療剤を一時的に保管するための手段を提供し、制御された速度でプログラムされた時間に治療剤をオンデマンドで放出および送達することを可能にし、それによって経強膜送達を介して眼に対する治療効果を提供する。いくつかの実施形態では、各リザーバは、単一のタイプの治療剤(他のリザーバと同じまたは異なる)を保持する。他の実施形態では、各リザーバは、複数の種類の治療剤(他のリザーバと同じまたは異なる)を保持する。1またはそれ以上のリザーバ625は、0.01nLから100μL、例えば0.01nLから10.0μLまたは約1.0μLの体積を有し、既知の量または体積の治療剤を貯蔵しても良い。1またはそれ以上のリザーバ625は、誘電体(例えば、SiO、Al)などの受動的、密閉的、絶縁体、および/または不活性コーティング、または他の承認された薬剤接触材料で裏打ちされても良い。
【0072】
図6Aおよび図6Bに示すように、装置600は、電源660、コンデンサー662、通信装置665(例えば、WiFiアンテナ)、および電極機器モジュール667(すなわち、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせ)をさらに含んでも良い。電源660は、電極機器モジュール667に接続(例えば、電気的に接続)されて、電極機器モジュール667の構成要素に電力を供給し、動作させても良い。電源660は、コンデンサー662に接続(例えば、電気的に接続)されて、1またはそれ以上の回路670に電力を供給し、電流の流れを提供しても良い。通信装置665は、例えば、高周波(RF)テレメトリまたはWiFiを介して外部装置と有線または無線で通信するために、電極機器モジュール667に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電極機器モジュール667は、電極機器モジュール667が1またはそれ以上の回路670に接続されたゲート、電極、またはセンサなどの電子部品に信号または電流を印加できるように、コンデンサー662および1またはそれ以上の回路670に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上の回路670は、電流源(例えば、電源660およびコンデンサー662)と、治療剤630を送達領域615からエレクトロマイグレーションを介して標的組織632に輸送するために送達領域615内に配置された第1のイオントフォレシス電極640と、組織632内の電気的中立性を維持するために受容領域620内に配置された第2のイオントフォレシス電極645とを含む。
【0073】
様々な実施形態において、装置600は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせによる制御放出機構635を介して、1またはそれ以上のリザーバ625から送達領域615または組織632との界面への治療剤630の放出を実現する(例えば、図6Bを参照)。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のリザーバ625は、治療剤630のための保持チャンバーと、出口と、保持チャンバーから出口を通る治療剤630の通過を一時的に遮断する能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構635と、を備える。いくつかの実施形態では、制御放出機構635は、受動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)である。いくつかの実施形態では、制御放出機構635は、能動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)である。いくつかの実施形態では、制御放出機構635は、アクティブな金属装置(または同様の材料で構成された装置)である。いくつかの実施形態では、制御放出機構635は、1またはそれ以上の受動的装置と1またはそれ以上の能動的装置との組み合わせである。いくつかの実施形態では、制御放出機構635は、受動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)および能動的なポリマーまたは金属装置である。
【0074】
いくつかの実施形態では、放出領域610および送達領域615は、流体的に連絡している。本明細書で使用される「流体連通」とは、治療剤などの流体が、互いに連通または接続している領域の間を流れることができることを意味する。例えば、治療剤630が、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構635を介して1またはそれ以上のリザーバ625から放出されると、治療剤630は、送達領域615または組織632との界面に流入することが可能である。特定の実施形態では、送達領域615の少なくとも一部は、ポリマー基板605の外部の環境にさらされる。外部環境は、ポリマー性基材605と涙液または強膜表面との間の界面などの組織界面であっても良い。いくつかの実施形態では、アノードチャンバーなどの1またはそれ以上の第1の電極チャンバーが、ポリマーの1またはそれ以上の層内(例えば、送達領域615内)に形成され、1またはそれ以上のリザーバ625と流体連通する。1またはそれ以上の第1の電極チャンバーは、第1のイオントフォレシス電極640を構成する。特定の実施形態では、第1のイオントフォレシス電極640は、ポリマー基板605の放出領域610内に形成された1またはそれ以上のリザーバ625の下に位置する。さらに、1またはそれ以上の第1の電極チャンバーの少なくとも一部は、遠位表面650において、ポリマー基板605の外部の環境にさらされる。つまたは複数の第1の電極チャンバーは、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構635を介した治療剤630の放出時に、リザーバから治療剤630を受け取ることができる。治療剤630は、イオン化可能であっても良く、対イオン(対イオンは、治療剤630の電荷と反対の電荷を有する)が、1またはそれ以上のリザーバ625または1またはそれ以上の第1の電極チャンバー内(例えば、送達領域615内)に配置されても良い。複数のタイプの治療剤が使用される実施形態では、複数のタイプの対イオンも使用されても良い(例えば、第1のタイプの治療剤がイオン化され、第1のタイプの対イオンが第1のタイプの治療剤とは反対の電荷を有し、第2のタイプの治療剤がイオン化され、第2のタイプの対イオンが第2のタイプの治療剤とは反対の電荷を有する場合がある。いくつかの実施形態では、カソードチャンバーなどの第2の電極チャンバーが、ポリマーの1またはそれ以上の層内(例えば、受容領域620内)に形成され、第2の電極チャンバーの少なくとも一部が、遠位表面650でポリマー基板605の外部の環境に露出する。第2の電極チャンバーは、第2のイオントフォレシス電極645を構成する。
【0075】
図6Cに示すように、装置600は、点滴送達領域615とは別に配置された単一のリザーバ625を含んでいても良い。リザーバ625は、制御放出機構635を介して治療剤630を、治療剤630が組織632内に駆動される可能性のあるイオンフォレティック送達領域615に放出しても良い。送達領域615は、少なくとも1つの第1のイオントフォレティック電極640(例えば、単一のアノード電極または複数のアノード電極)を有する第1の電極チャンバーを備える。リザーバ625からの放出は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせであっても良い。受容領域620は、送達領域615から組織内への治療剤630の外向きの電気泳動を確実にするために、装置600の対向する端部に配置されている。受領領域620は、少なくとも1つの第2のイオントフォレティック電極645(例えば、単一のカソード電極または複数のカソード電極)を有する第2の電極チャンバを備える。
【0076】
図6Dおよび図6Eに示すように、装置600は、装置600の中心に位置する単一のリザーバ625を含んでいても良い。リザーバ625は、制御放出機構635を介して治療剤630を、治療剤630が組織632内に駆動され得るイオントフォレティック送達領域615に放出しても良い。送達領域615はまた、装置600の中心に位置し、少なくとも1つの第1のイオントフォレティック電極640(例えば、単一のアノード電極または複数のアノード電極)を有する第1の電極チャンバを備える。リザーバ625からの放出は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせであっても良い。少なくとも2つの受容領域620は、送達領域615から組織内への治療剤630の外向きの電気泳動を確実にするために、装置600の対向する端部に配置される。少なくとも2つの受容領域620の各々は、少なくとも1つの第2のイオントフォレティック電極645(例えば、単一のカソード電極または複数のカソード電極)を有する第2の電極チャンバーを構成する。
【0077】
図6Fに示すように、装置600は、少なくとも部分的にイオンフォレティック送達領域615と重なるか、または他の方法で同位置に配置された単一のリザーバ625を含んでも良い。リザーバ625は、制御放出機構635を介して治療剤630をイオンフォレティック送達領域615に放出しても良く、ここで治療剤630は組織632に駆動されても良い。送達領域615は、複数の第1のイオントフォレティック電極640(例えば、複数のアノード電極)を有する第1の電極チャンバーを備える。リザーバ625からの放出は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせであっても良い。受容領域620は、送達領域615から組織内への治療剤630の外向きの電気泳動を確実にするために、装置600の対向する端部に配置される。受領領域620は、少なくとも1つの第2のイオントフォレティック電極645(例えば、単一のカソード電極または複数のカソード電極)を有する第2の電極チャンバーを備える。
【0078】
図6Gに示すように、装置600は、ポリマー基板605の実質的な全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層675をさらに含んでも良い。いくつかの実施形態では、ポリマー基板605は、オーバーモールドポリマー層675によって完全に封止される。他の実施形態では、装置600は、オーバーモールドポリマー層675(例えば、ヒドロゲル)に露出したアクセスポイントまたは開口部を含み、これにより、1またはそれ以上のリザーバ625(図6Gには示さないが、例えば、図2Eを参照)の表面が露出する。オーバーモールドポリマー層675は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。特定の実施形態では、オーバーモールドポリマー層675は、30%から50%の間の含水率、例えば約45%の含水率を有する。いくつかの実施形態では、制御放出機構635は、金属薄膜680とオーバーモールドポリマー層675との組み合わせ(高分子受動素子)である。治療剤630は、金属薄膜685の背後に封入または提供されても良い(例えば、バルブとして機能する金属層によってリザーバ内に封入または閉鎖される)。一旦、金属薄膜680が外部刺激および溶解を介して開かれると、治療剤630は、図6Gに示されるように、オーバーモールドポリマー層675への出口を介して、リザーバ625の保持チャンバーから放出されても良い。治療剤630がオーバーモールドポリマー層675を通過すると(例えば、拡散または浸透圧ポンプを介して)、治療剤630は、送達領域615に放出されても良い。送達領域615は、複数の第1のイオントフォレティック電極640(例えば、複数のアノード電極)を有する第1の電極チャンバを備える。受容領域620は、送達領域615から組織内への治療剤630の外向きの電気泳動を確実にするために、装置600の対向する端部に配置される。受領領域620は、少なくとも1つの第2のイオントフォレティック電極645(例えば、単一のカソード電極または複数のカソード電極)を有する第2の電極チャンバを備える。
【0079】
本明細書では、送達が容易な眼球装着型の強膜下治療剤放出装置に関する様々な実施形態が開示されるが、これは限定的なものであることを意図したものではない。カスタマイズされたオンデマンドの強膜治療剤放出および送達を提供することに加えて、本明細書に開示された教示は、他の組織のための他の治療剤放出および送達装置にも適用することができる。例えば、治療剤送達装置は、目の後セグメントへの治療剤送達のために角膜への優先的な接触を維持しながら、装置が何らかの形で視界を遮ったり影響を与えたりせず、標準的なコンタクトレンズ材料と互換性があるように、角膜表面の少なくとも一部の上に目立たないようにフィットするように設計されても良い。このタイプの装置が治療上有益な後眼部疾患の例としては、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、網膜静脈閉塞症、鎌状赤血球網膜症、緑内障、脈絡膜新生血管、網膜新生血管、網膜浮腫、網膜虚血、増殖性硝子体網膜症などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
送達が容易な角膜治療剤放出装置
角膜は、親油性の上皮と親水性の間質からなる有効なバリアーである。例えば、親油性の上皮が治療剤をブロックしない場合でも、親水性の間質が治療剤をブロックしてしまう。この障害を克服するために、プロドラッグと呼ばれる治療剤が開発された。分子量が小さく、薬物が角膜を受動的に通過する際に形態を変化させる(親油性から親水性へ)能力を持つ。この結果、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、網膜静脈閉塞症、鎌状赤血球網膜症、緑内障、脈絡膜新生血管、網膜新生血管、網膜浮腫、網膜虚血、増殖性硝子体網膜症などの疾患の治療のために、かなりの濃度の薬物を房水にゆっくりと放出することができる。しかし、非薬物療法または大分子療法が必要とされる状況では、角膜は依然として効果的な治療に対する実質的な障壁となる。そこで、本発明では、カスタマイズされたオンデマンドのイオントフォレティック治療剤送達のための、目に装着可能な角膜(コンタクトレンズのように角膜上にある)医療機器を提供する。
【0081】
図7Aに示すように、治療剤送達装置700(例えば、角膜イオン導入治療剤送達装置)は、放出領域710、送達領域715、および受容領域720を構成するポリエー基板705を含んでも良い。ポリマー基板705は、ポリイミド、液晶ポリマー、パリレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、硬質ガス透過性フルオロシリコーンアクリレート、シリコンベースのポリマー、シリコーンアクリレート、環状オレフィン共重合体(COP/COC)、ヒドロゲル、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー基板705は、0.01mm~2mm、例えば約1mmの間の平均厚さ(装置の長さまたは直径の全体に沿った厚さ)を有する。いくつかの実施形態では、治療剤送達装置200は、0.01mmと3mmの間、例えば約1.5mmの平均厚さ(装置の長さまたは直径全体に沿った厚さ)を有する。ポリマー基板705は、眼球などの組織の輪郭に取り付けるための形状と十分な柔軟性を有する。特定の実施形態では、形状は、図7Aに示すようなドーナツ形状である。
【0082】
放出領域710は、複数のリザーバ725を支持する装置700の1またはそれ以上の領域と、1またはそれ以上のリザーバ725内に配置された治療剤730と、1またはそれ以上のリザーバ725のそれぞれから送達領域715に治療剤730を放出するための能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構735とを含む。送達領域715は、治療剤730を送達領域715からエレクトロマイグレーションを介して標的組織732(例えば、硝子体液)に輸送するための1またはそれ以上の第1のイオントフォレシス電極740(例えば、アノード)を含む1またはそれ以上のチャンバーまたはコンパートメント(例えば、アノードチャンバー)を支持する装置700の1またはそれ以上の領域を含む。受信領域720は、組織732(例えば、強膜)内の電気的中立性を維持するための1またはそれ以上の第2のイオントフォレシス電極745(例えば、カソード)を構成する1またはそれ以上のチャンバーまたはコンパートメント(例えば、カソードチャンバ)を支持する装置700の1または以上の領域を含む。特徴の多くとして(例えば、装置700の特徴(ポリマー基板705、放出領域710、1またはそれ以上のリザーバ725、治療剤730、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構735、送達領域715、受容領域720、第1のイオントフォレシス電極740、および第2のイオントフォレシス電極745)は、それぞれ図2A~2Dおよび6A~6Gの装置200および600に関して説明された特徴と同じであるので、そのような特徴の詳細な説明は、簡潔にするためにここでは繰り返さない。
【0083】
図7Bは、放出領域710および送達領域715が少なくとも部分的に重なるか、さもなければ、ポリマー基板705内に併置される状態の装置700の断面を示す。放出領域710および送達領域715は、装置700の外周の周りに配置されており、一方、受信領域720は、放出領域710および送達領域715を包含する外周の内側に中心から外れて配置される。いくつかの実施形態では、ポリマー基板705は、その間に配置された1またはそれ以上のポリマーの層を有する遠位表面750および近位表面755を備える。例えば、遠位表面750は、組織732の表面(posterior)と接触していても良く、近位表面755は、組織732の表面(anterior)から露出していても良いし、接触していなくても良い。いくつかの実施形態では、治療剤の放出は、角膜または組織と接触する表面に優先的に標的化されるため、涙の流出および排水によって薬剤が失われる可能性がある近位表面755または前側に薬剤が無駄に放出されない。これにより、意図しない全身的な副作用を排除しつつ、より高い効果が得られる。
【0084】
様々な実施形態において、1またはそれ以上のリザーバ725は、ポリマーの1またはそれ以上の層と一体化しているか、またはその中に形成される。1またはそれ以上のリザーバ725は、治療剤730のための保持チャンバーと、保持チャンバーから治療剤730を放出するための出口とを含んでいても良い。1またはそれ以上のリザーバ725は、水性(液体)、ゲル、乾燥(粉末)、またはそれらの他の組み合わせを含む、治療剤の様々な物理的形態に適合する。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のリザーバ725は、1またはそれ以上のタイプの治療剤を一時的に保管するための手段を提供して、制御された速度でプログラムされた時間に治療剤をオンデマンドで放出および送達することを可能にし、それによって経皮的送達を介して眼に対する治療効果を提供する。図7Aは、前眼部疾患(例えば、緑内障)の管理において、2つの異なる単剤またはタイプの治療剤を用いて構成された装置700を示す。第1のタイプの治療剤(装置700の左側に示す)および第2のタイプの治療剤(装置700の右側に示す)は、パッケージ化され、基板705内に位置するマイクロリザーバに格納することができる。例えば、第1のタイプの治療剤730は、複数のリザーバ725の第1のサブセット内に配置されても良く、第2のタイプの治療剤730は、複数のリザーバ725の第2のサブセット内に配置されても良い。所望の治療剤(第1または第2)は、プログラムされた時間に個々のリザーバから放出され、イオントフォレシスを介して角膜内に駆動することができる(アノードおよびカソードの位置が示される)。いくつかの実施形態では、各リザーバは、単一のタイプの治療剤(他のリザーバと同じまたは異なる)を保持する。他の実施形態では、各リザーバは、複数の種類の治療剤を保持する(他のリザーバと同じまたは異なる)。1またはそれ以上のリザーバ725は、0.01nL~100μL、例えば0.01nL~10.0μLまたは約1.0μLの体積を有しても良く、既知の量または体積の治療剤を貯蔵する。1またはそれ以上のリザーバ725は、誘電体(例えば、SiO、Al2O)などの受動的、密閉的、絶縁体、および/または不活性コーティング、または他の承認された薬剤接触材料で裏打ちされても良い。
【0085】
図7Aおよび図7Bに示すように、装置700は、電源760、コンデンサー762、通信装置765(例えば、WiFiアンテナ)、および電子機器モジュール767(すなわち、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせ)をさらに含んでも良い。電源760は、電子機器モジュール767の構成要素に電力を供給して動作させるために、電子機器モジュール767に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電源760は、コンデンサー762に接続(例えば、電気的に接続)されて、1またはそれ以上の回路770に電力を供給し、電流の流れを提供しても良い。通信装置765は、例えば、高周波(RF)テレメトリまたはWiFiを介して外部装置と有線または無線で通信するために、電子機器モジュール767に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電子機器モジュール767は、電子機器モジュール767が、1またはそれ以上の回路770に接続されたゲート、電極、またはセンサなどの電子部品に信号または電流を印加できるように、コンデンサー762および1またはそれ以上の回路770に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上の回路770は、電流源(例えば、電源760およびコンデンサー762)と、治療剤730を送達領域615からエレクトロマイグレーションを介して標的組織732に輸送するために送達領域715内に配置された第1のイオントフォレシス電極740と、組織732内の電気的中立性を維持するために受容領域720内に配置された第2のイオントフォレシス電極745とを含む。
【0086】
様々な実施形態において、装置700は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせによる制御放出機構735を介して、1またはそれ以上のリザーバ725から送達領域715または組織732との界面への治療剤730の放出を実現する(例えば、図7Bを参照)。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のリザーバ725は、治療剤730のための保持チャンバー、出口、および保持チャンバーから出口を通る治療剤730の通過を一時的に遮断する能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構735を備える。いくつかの実施形態では、制御放出機構735は、受動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)である。いくつかの実施形態では、制御放出機構735は、能動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)である。いくつかの実施形態では、制御放出機構735は、能動的な金属装置(または同様の材料で構成された装置)である。いくつかの実施形態では、制御放出機構735は、1またはそれ以上の受動的な装置と1またはそれ以上の能動的な装置との組み合わせである。いくつかの実施形態では、制御放出機構735は、受動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)および能動的なポリマー装置または金属装置である。
【0087】
いくつかの実施形態では、放出領域710および送達領域715は、流体的に連絡している。例えば、治療剤730が、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構735を介して1またはそれ以上のリザーバ725から放出されると、治療剤730は、送達領域715または組織732との界面に流入することができる。特定の実施形態では、送達領域715の少なくとも一部は、ポリマー基板705の外部の環境にさらされる。外部環境は、ポリマー基板705と涙液または角膜表面との間の界面のような組織界面であっても良い。いくつかの実施形態では、アノードチャンバーなどの1またはそれ以上の第1の電極チャンバーが、ポリマーの1またはそれ以上の層内(例えば、送達領域715内)に形成され、1またはそれ以上のリザーバ725と流体連通する。1またはそれ以上の第1の電極チャンバーは、第1のイオントフォレシス電極740を構成する。特定の実施形態では、第1のイオントフォレシス電極740は、ポリマー基板705の放出領域710内に形成された1またはそれ以上のリザーバ725の下に位置する。さらに、1またはそれ以上の第1の電極チャンバーの少なくとも一部は、遠位表面750において、ポリマー基板705の外部の環境にさらされる。1またはそれ以上の第1の電極チャンバーは、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせの制御放出機構735を介した治療剤730の放出時に、リザーバから治療剤730を受け取ることができる。治療剤730は、イオン化可能であっても良く、対イオン(対イオンは、治療剤730の電荷と反対の電荷を有する)が、1またはそれ以上のリザーバ725または1またはそれ以上の第1の電極チャンバー内(例えば、送達領域715内)に配置されても良い。いくつかの実施形態では、カソードチャンバーなどの第2の電極チャンバーが、ポリマーの1またはそれ以上の層内(例えば、受容領域720内)に形成され、第2の電極チャンバーの少なくとも一部は、遠位面750でポリマー基板705の外部の環境に露出する。第2の電極チャンバーは、第2のイオントフォレシス電極745を含む。
【0088】
図7Cに示すように、装置700は、1またはそれ以上の点滴送達領域715とは別に配置された1またはそれ以上のリザーバ725内の治療剤ストレージ730を含んでも良い。つまたは複数のリザーバ725は、制御放出機構735を介して治療剤730を1またはそれ以上の点滴送達領域715に放出しても良く、ここで治療剤730は組織732に駆動されても良い。送達領域715の各々は、少なくとも1つの第1のイオン交換電極740(例えば、単一のアノード電極または複数のアノード電極)を有する第1の電極チャンバーを構成する。つまたは複数のリザーバ725からの放出は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせであっても良い。受容領域720は、1またはそれ以上の送達領域715から組織内への治療剤730の外向きの電気泳動を確実にするために、装置700の中心から外れた位置に配置される。受容領域720は、少なくとも1つの第2のイオントフォレティック電極745(例えば、単一のカソード電極または複数のカソード電極)を有する第2の電極チャンバーを備える。
【0089】
図7Dに示すように、装置700は、ポリマー基板705の実質的な全体の周りに形成されるオーバーモールドポリマー層775をさらに含んでも良い。いくつかの実施形態では、ポリマー基板705は、オーバーモールドポリマー層775によって完全に封入される。他の実施形態では、装置700は、オーバーモールドポリマー層775(例えば、ヒドロゲル)に露出したアクセスポイントまたは開口部を含み、これにより、1またはそれ以上のリザーバ725(図7Dには未提示だが、例えば、図2Eを参照)の表面が露出する。オーバーモールドポリマー層775は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。特定の実施形態では、オーバーモールドポリマー層775は、30%から50%の間の含水率、例えば約45%の含水率を有する。いくつかの実施形態では、制御放出機構635は、金属薄膜780とオーバーモールドポリマー層775との組み合わせ(ポリマー受動素子)である。治療剤730は、金属薄膜785の背後に封入または提供されても良い(例えば、バルブとして機能する金属層によってリザーバ内に封入または閉鎖される)。金属薄膜780が外部刺激および溶解を介して開放されると、治療剤730は、図7Dに示すように、オーバーモールドポリマー層775への出口を介して、リザーバ725の保持チャンバーから放出されても良い。治療剤730がオーバーモールドポリマー層775を通過すると(例えば、拡散または浸透圧ポンプを介して)、治療剤730は送達領域715に放出されても良い。送達領域715は、複数の第1のイオントフォレティック電極740(例えば、複数のアノード電極)を有する第1の電極チャンバーを備える。受領領域720は、送達領域715から組織内への治療剤730の外向きの電気泳動を確実にするために、装置700の中心から外れた位置にある。受容領域720は、少なくとも1つの第2のイオントフォレティック電極745(例えば、単一のカソード電極または複数のカソード電極)を有する第2の電極チャンバを備える。
【0090】
治療剤の放出と送達のためのシステム
図8は、様々な実施形態に従った治療剤放出および送達システム800を示す。いくつかの実施形態では、治療剤放出および送達システム800は、1またはそれ以上の送達装置805(例えば、図2A-2E、6A-6G、および7A-7Dに関してそれぞれ記載された装置200/600/700)と、任意の封入層810(例えば、オーバーモールドポリマー層290/675/775(例えば、それぞれ図2A-2E、6A-6G、および7A-7Dに関して記載される)、および基板815(例えば、それぞれ図2A-2E、6A-6G、および7A-7Dに関して記載されるポリマー基板205/605/705)である。特定の実施形態では、治療剤放出および送達システム800は、患者の片目または両目に配置される。基板815は、能動的またはカスタマイズされたオンデマンドのイオントフォレティック経強膜または経角膜治療剤送達を提供するソフトウェアおよび/または電子回路コンポーネントを含む。ソフトウェアおよび/または電子回路構成要素は、電源820(例えば、図2A~2E、6A~6G、および7A~7Dに関してそれぞれ記載された電源250/660/760)、コントローラー825(例えば、図2A~2E、6A~6G、および7A~7Dに関してそれぞれ記載された電子機器モジュール270/667/767)、1またはそれ以上のリザーバ830(例えば、それぞれ、図2A~2E、6A~6G、および7A~7Dに関して記載されたリザーバ215/625/725)、イオントフォレシス電極送達システム835(例えば。例えば、6A-6Gおよび7A-7Dに関してそれぞれ記載された電極送達システム)、1またはそれ以上の投与量センサー840、および通信装置845(例えば、図2A-2E、6A-6G、および7A-7Dに関してそれぞれ記載された通信装置265/665/765)である。
【0091】
特定の実施形態では、コントローラー825は、本実施形態の機能性、工程、および/または性能を実装するために装置805の他の様々なコンポーネントの1またはそれ以上の動作および性能を制御するためのプログラム命令など、コンピュータ可読プログラム命令を解釈および実行するように動作する処理回路を含む、1またはそれ以上の従来のプロセッサー、マイクロプロセッサー、または特殊な専用プロセッサーを含む。特定の実施形態では、コントローラー825は、コンピュータ可読プログラム命令によって動作可能に実装され得る本発明のプロセス、工程、機能、および/または動作を解釈し、実行する。例えば、コントローラー825は、1またはそれ以上の回路865を介して、1またはそれ以上のリザーバ830、イオントフォレシス電極送達システム835、1またはそれ以上の投与量センサー840、および通信装置845と対話的に通信する制御ロジック845、投与ロジック850、変調ロジック855、および通信ロジック860を含む。いくつかの実施形態では、コントローラー825によって取得または生成された情報、例えば、薬剤の送達の状態、薬剤の投与量、治療ウィンドウ内の時間的な位置などは、記憶装置870に格納することができる。
【0092】
記憶装置870は、磁気および/または光記録媒体などの非一時的な機械可読記憶媒体およびそれらに対応するドライブなどの、取り外し可能/非取り外し可能、揮発性/不揮発性のコンピュータ可読媒体を含むことができるが、これらに限定されない。ドライブおよびそれらの関連するコンピュータ可読媒体は、本発明の異なる態様に従ったコントローラ825の動作のためのコンピュータ可読プログラム命令、データ構造、プログラムモジュール、およびその他のデータの記憶を提供する。いくつかの実施形態では、記憶装置870は、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラム、およびプログラムデータを格納する。
【0093】
システムメモリ875は、例えば、フラッシュメモリなどの非一過性機械可読記憶媒体、リードオンリーメモリ(「ROM」)などの永久メモリ、ランダムアクセスメモリ(「RAM」)などの半永久メモリ、他の任意の適切なタイプの非一過性記憶構成要素、またはそれらの任意の組み合わせを含む、1またはそれ以上の記憶媒体を含んでも良い。いくつかの実施形態では、起動時など、装置805の他の様々なコンポーネント間で情報を転送するのに役立つ基本的なルーチンを含む入出力システム(BIOS)が、ROMに格納されても良い。さらに、オペレーティングシステム、プログラムモジュール、アプリケーションプログラム、および/またはプログラムデータの少なくとも一部など、1またはそれ以上のプロセッサにアクセス可能な、および/または現在操作されているデータおよび/またはプログラムモジュールが、RAMに含まれていても良い。実施形態では、プログラムモジュールおよび/またはアプリケーションプログラムは、例えば、制御ロジック845、投与ロジック850、変調ロジック855、および通信ロジック860を構成することができ、これらは、1またはそれ以上のプロセッサの実行のための命令を提供する。
【0094】
通信装置845は、装置805が、モバイル装置や、ネットワーク環境、例えば、クラウド環境のサーバなどの他のコンピューティング装置などのリモート装置またはシステムと通信することを可能にする、任意のトランシーバのような機構(例えば、ネットワークインターフェース、ネットワークアダプタ、モデム、またはそれらの組み合わせ)を含んでも良い。例えば、装置805は、通信装置845を使用して、1またはそれ以上のローカルエリアネットワーク(LAN)および/または1またはそれ以上のワイドエリアネットワーク(WAN)を介して、リモート装置またはシステムに接続されても良い。
【0095】
コントローラー825は、外部コンピューティング装置などの外部プログラマーまたはリーダー845を介して、インプラント後にリモートでアクセスすることができる。例えば、外部プログラマーまたはリーダー845は、患者への配布前または配布後に(例えば、患者が装置805を装着している間に)コントローラー825をチェックおよびプログラムし、送達プロセス中に放出および送達パラメータを調整し、例えば、放出および送達パラメータの初期セットを提供し、投与レジメン中または投与後に装置の投与量、送達、およびコンプライアンスに関する任意のデータを読み取るために、医療専門家が使用することができる。いくつかの実施形態では、外部プログラマーまたはリーダー845は、メモリ850(例えば、記憶装置またはシステムメモリ)と、1またはそれ以上のプロセッサー855と、WiFiアンテナなどの通信装置とを備える。外部プログラマーまたはリーダー845は、例えば、無線電波送信などの有線または無線の通信手段を介してコントローラー825と通信しても良い。
【0096】
本明細書で述べたように、装置800は、1またはそれ以上のリザーバから送達領域への治療剤の放出を制御し、送達領域から組織への治療剤のエレクトロマイグレーションを引き起こす回路を流れる電流を生成するために、回路への電位の印加を制御するように構成されても良い。特に、装置800は、コントローラー825が、システムメモリ875などの非一過性機械可読記憶媒体に含まれるプログラム命令を実行することに応答して、タスク(例えば、プロセス、工程、方法および/または機能)を実行しても良い。プログラム命令は、データ記憶装置870などの別のコンピュータ可読媒体(例えば、非一過性機械可読記憶媒体)から、または通信装置845もしくはクラウド環境の内外のサーバを介して外部プログラマーもしくはリーダー845などの別の装置から、システムメモリ875に読み込まれても良い。いくつかの実施形態では、オペレーターは、本明細書に記載された様々な態様に従って、タスクの実行を容易にし、および/またはそのようなタスクの最終結果を実現するために、1またはそれ以上の入力装置および/または1またはそれ以上の出力装置を介して、外部プログラマーまたはリーダー845と対話することができる。追加または代替の実施形態では、ハードワイヤード回路をプログラム命令の代わりに、またはプログラム命令と組み合わせて使用して、異なる側面に一致するタスク、例えば、工程、方法および/または機能を実現しても良い。したがって、本明細書に開示されている工程、方法および/または機能は、ハードウェア回路とソフトウェアの任意の組み合わせで実装することができる。
【0097】
図9は、様々な実施形態による治療剤の放出および送達のために実行される処理を示す簡略化されたフローチャートを示す。図9の工程は、例えば、図2A~2E、6A~6G、7A~7D、および8の装置およびシステム環境で実施されても良い。本明細書で述べたように、図9のフローチャートは、本発明の様々な実施形態によるシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品の可能な実装のアーキテクチャ、機能、および動作を示している。これに関連して、フローチャートまたはブロック図の各ブロックは、指定された論理機能を実装するための1またはそれ以上の実行可能な命令からなる、コードのモジュール、セグメント、または部分を表す。また、いくつかの代替実装では、ブロックに記載されている機能が、図に記載されている順序から外れて発生する可能性があることにも留意する必要がある。例えば、連続して示されている2つのブロックは、実際には実質的に同時に実行されることがあり、また、関係する機能に応じて、ブロックは時に逆の順序で実行されることがある。また、ブロック図および/またはフローチャート図の各ブロック、およびブロック図および/またはフローチャート図のブロックの組み合わせは、指定された機能または行為を実行する特別目的のハードウェアベースのシステム、または特別目的のハードウェアとコンピュータ命令の組み合わせによって実装することができることにも留意されたい。
【0098】
図9を参照すると、工程905において、治療剤が、ポリマー基板の放出領域内に形成された1またはそれ以上のリザーバから、ポリマー基板の送達領域に放出される。いくつかの実施形態では、放出は、コントローラーが制御放出機構またはバルブを開くように起動することによって引き起こされる。例えば、放出は、コントローラーによって、制御放出機構に電位を印加することを含んでも良い。工程910では、電位(リザーバからの薬剤の放出を引き起こす電位とは異なる)をポリマー基板上に形成された回路に印加して、回路を流れる電流を生成しても良く、回路は、電流源と、送達領域内に位置する第1のイオントフォレシス電極と、ポリマー基板の受容領域内に位置する第2のイオントフォレシス電極とを備える。工程915では、治療剤は、回路を流れる電流に基づいて、第1のイオントフォレシス電極によって、送達領域から組織へとエレクトロマイグレーションを起こすことができる。例えば、電位を印加すると、回路に電流が流れる。電極溶液の界面では、Ag+とCl-などのイオンが反応して不溶性のAgClが生成され、電極表面に沈着する。エレクトロマイグレーションは、治療剤を含むカチオンをアノード区画から組織内へと輸送する。工程920では、回路を流れる電流に基づいて、第2のイオントフォレシス電極によって組織内の電気的中立性を維持することができる。例えば、カソード室では、Cl-イオンなどのイオンが第2のイオントフォレシス電極から放出され、エレクトロンニュートラルには、カソード室から陰イオンが失われるか、組織から陽イオンが入ることが必要である。イオントフォレシス送達の範囲および浸透深さは、電界および電位の印加時間に関連する。工程905~920は、静的または時間的に変化する治療ウィンドウを有する条件において、生理学的に関連する濃度を維持するために、1またはそれ以上の治療剤を積極的に放出および送達するために、必要に応じて繰り返されても良い。
【0099】
本発明を詳細に説明してきましたが、本発明の精神と範囲内での変更は、当業者には容易に明らかになるだろう。本発明の側面および様々な実施形態の一部と、上記および/または添付の特許請求の範囲に記載された様々な特徴は、全体または一部を組み合わせたり、交換したりすることができることを理解すべきである。様々な実施形態に関する前述の説明において、別の実施形態を参照するそれらの実施形態は、当業者が理解するように、他の実施形態と適切に組み合わせることができる。さらに、当業者は、前述の説明が例示に過ぎず、本発明を限定することを意図していないことを理解するだろう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9