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特許7465285セミフィニッシュトレンズおよび眼鏡レンズの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】セミフィニッシュトレンズおよび眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
G02C7/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021567118
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044737
(87)【国際公開番号】W WO2021131541
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2019232743
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 隆二
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087925(JP,A)
【文献】特開2014-002342(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186767(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/186766(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0115486(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 ― 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側の面と眼球側の面を有し、前記眼球側の面が加工されることにより完成された眼鏡レンズとなるセミフィニッシュトレンズであって、
前記物体側の面に光学的領域と非光学的領域を備え、
前記光学的領域は、所定の設計形状の光学面を有し、前記非光学的領域は、前記光学面と異なる設計形状を有し、かつ、前記光学的領域と前記非光学的領域は、境界において、曲率の値が非連続に変化する、セミフィニッシュトレンズ。
【請求項2】
前記非光学的領域は、前記眼鏡レンズの加工時における削り代である、請求項1に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項3】
前記非光学的領域は、前記セミフィニッシュトレンズの外縁部の少なくとも一部を含む、請求項1又は2に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項4】
前記非光学的領域は、前記光学的領域を挟んで対向する位置に配置された、2つの領域として形成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項5】
前記光学的領域の垂直方向のサグ量は、前記セミフィニッシュトレンズの中央から周縁に向けて増加し、前記非光学的領域の垂直方向のサグ量は、一定、又は、前記セミフィニッシュトレンズの中央から周縁に向けて、前記光学的領域の垂直方向のサグ量の増加割合よりも緩やかな割合で増加する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項6】
前記光学的領域と前記非光学的領域とは、垂直方向又は水平方向の少なくとも一方の曲率が異なる、請求項1乃至のいずれか一項に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項7】
前記光学的領域の垂直方向の曲率は、前記非光学的領域の垂直方向の曲率よりも大きい、請求項1乃至のいずれか一項に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項8】
前記非光学的領域の垂直方向の曲率と水平方向の曲率が異なる、請求項1乃至のいずれか一項に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項9】
前記非光学的領域の水平方向の曲率が、垂直方向の曲率よりも大きい、請求項1乃至のいずれか一項に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項10】
前記光学的領域の形状は、フレームの形状に合わせて設定される、請求項1乃至のいずれか一項に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項11】
レンズ処方値に応じたレンズ度数を有する、眼鏡レンズの製造方法であって、
物体側の面と眼球側の面を有するセミフィニッシュトレンズを用意する工程と、
前記セミフィニッシュトレンズの眼球側の面を、レンズ処方値に応じて加工する工程と、を有し、
前記セミフィニッシュトレンズは、前記物体側の面に、互いに設計形状が異なる、光学的領域と非光学的領域を備え、
前記光学的領域は、所定の設計形状の光学面を有し、前記非光学的領域は、前記光学面と異なる設計形状を有し、かつ、前記光学的領域と前記非光学的領域は、境界において、曲率の値が非連続に変化する、眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体側の面と眼球側の面を有し、この眼球側の面が加工されることにより完成された眼鏡レンズとなるセミフィニッシュトレンズ、および眼鏡レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、通常、フィニッシュトレンズとセミフィニッシュトレンズに大別される。フィニッシュトレンズは、レンズの物体側の面(通常、凸面)および眼球側の面(通常、凹面)が、ともに処方レンズ度数を満足する鏡面の光学面であるレンズであり、光学面の曲面加工を必要としないレンズを意味する。なお、レンズの物体側の面とは、レンズを構成する面のうち、レンズを眼鏡として装用した場合に視認される対象側となる面をいう。また、レンズの眼球側の面とは、レンズを構成する面のうち、レンズを眼鏡として装用した場合に装用者の眼球側となる面をいう。
【0003】
一方、セミフィニッシュトレンズは、レンズの物体側の面(通常、凸面)および眼球側の面を有しているが、視力補正機能を有しないレンズであり、物体側の面のみが鏡面加工された光学面を有し、眼球側の面は未加工面である。レンズ製造者側が、レンズ処方度数に対応させて、眼球側の面を表面加工(研削加工、切削加工、研磨加工など)して視力補正機能を有するレンズを作り出すことができるように、加工により除去される取り代を残したレンズ厚の設計となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-228806号公報
【文献】特開2014-182278号公報
【文献】特開2019-179219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、眼鏡レンズの装用者に負担がかからないように、眼鏡レンズを少しでも軽くするために、装用者の処方値とフレーム形状に合わせてレンズのフレーム縁厚(コバ厚)が最小となるよう、眼鏡レンズの形状を設計している(例えば特許文献3を参照)。
【0006】
しかし、レンズのフレーム縁厚を最小とするゆえに、セミフィニッシュトレンズの周縁部がレンズ加工中に切り込まれてしまうことがある。特にプラス強度度数や乱視処方のセミフィニッシュトレンズの加工中に周縁部に切り込み(「ナイフエッジ」とも呼ぶ。)が発生しやすく、加工中にレンズが割れてしまうこともある。
【0007】
また、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面を研磨加工する工程では、セミフィニッシュトレンズを固定するためのブロッキングで物体側のレンズ全面を固定すると、加工面の切削時にブロッキング素材をレンズと一緒に切削してしまい、レンズ加工時の廃棄物の処理問題が生じる。一方、このブロッキング素材の切削を防ぐために、セミフィニッシュトレンズを必要最小なブロッキング径で固定すると、ブロッキング径の外側の固定されていない範囲にフレームの周辺部分が含まれる。このため、加工精度が確保できず、光学的に不安定な面となる問題が生じる。
【0008】
また、レンズ周縁部が切り込まれて欠損部が生じると、レンズの研磨加工後に、不都合が生じる。例えば、レンズ凸面又は凹面に反射防止コートやハードコートなどの表面処理を施す際に、レンズ外周形状がレンズ保持器具の形状と一致しない場合がある。このため、本来は表面処理が不要な面まで表面処理が施されてしまうなど、表面処理工程でも不都合が生じる。
【0009】
従来の特許文献1には、レンズ側面に内部に向かってくびれた溝部を有し、該溝部を横断する断面の平面視形状が非円形である構造の眼鏡用プラスチックレンズの製造方法が開示されている。
【0010】
また、従来の特許文献2には、光軸方向から見て長方形状に形成された2つのレンズ面を有するレンズ本体部と、このレンズ本体部から側方に突出する相対的に薄い縁部とから構成された眼鏡レンズ基材(セミフィニッシュトレンズ)が開示されている。
【0011】
上記特許文献1に開示された製造方法により得られる眼鏡用プラスチックレンズによれば、眼鏡製造工程での廃棄物量を低減できる効果はあるものの、上述の課題、すなわちセミフィニッシュトレンズの加工過程でのレンズ周縁部の切り込みの発生を回避することはできない。
また、上記特許文献2に開示された構造の眼鏡レンズ基材においては、眼球側の面の加工時に薄い縁部での切り込みが発生しやすく、やはり上述の課題を解決することはできない。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止できるセミフィニッシュトレンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下の構成を有する発明によって上記課題を解決できることを見出した。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0014】
(構成1)
物体側の面と眼球側の面を有し、前記眼球側の面が加工されることにより完成された眼鏡レンズとなるセミフィニッシュトレンズであって、
前記物体側の面に光学的領域と非光学的領域を備える、セミフィニッシュトレンズ。
【0015】
(構成2)
前記非光学的領域は、前記眼鏡レンズの加工時における削り代である、構成1に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0016】
(構成3)
前記非光学的領域は、前記セミフィニッシュトレンズの外縁部の少なくとも一部を含む、構成1又は2に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0017】
(構成4)
前記光学的領域は、所定の設計形状の光学面を有し、前記非光学的領域は、前記光学面と異なる設計形状を有し、かつ、
前記光学的領域と前記非光学的領域は、境界において、連続又は非連続に接する、構成1乃至3のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0018】
(構成5)
前記光学的領域の垂直方向のサグ量は、前記セミフィニッシュトレンズの中央から周縁に向けて増加し、
前記非光学的領域の垂直方向のサグ量は、一定、又は、前記セミフィニッシュトレンズの中央から周縁に向けて、前記光学的領域よりも緩やかな割合で増加する、構成1乃至4のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0019】
(構成6)
前記光学的領域と前記非光学的領域の境界では、曲率が変化する、構成1乃至5のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0020】
(構成7)
前記光学的領域と前記非光学的領域とは、垂直方向又は水平方向の少なくとも一方の曲率が異なる、構成1乃至6のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0021】
(構成8)
前記光学的領域の垂直方向の曲率は、前記非光学的領域の垂直方向の曲率よりも大きい、構成1乃至7のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0022】
(構成9)
前記非光学的領域の垂直方向の曲率と水平方向の曲率が異なる、構成1乃至8のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0023】
(構成10)
前記非光学的領域の水平方向の曲率が、垂直方向の曲率よりも大きい、構成1乃至9のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0024】
(構成11)
前記光学的領域の形状は、フレームの形状に合わせて設定される、構成1乃至10のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0025】
(構成12)
前記セミフィニッシュトレンズの材質はプラスチックである、構成1乃至11のいずれか一つに記載のセミフィニッシュトレンズ。
【0026】
(構成13)
レンズ処方値に応じたレンズ度数を有する、眼鏡レンズの製造方法であって、
物体側の面と眼球側の面を有するセミフィニッシュトレンズを用意する工程と、
前記セミフィニッシュトレンズの眼球側の面を、レンズ処方値に応じて加工する工程と、を有し、
前記セミフィニッシュトレンズは、前記物体側の面に、互いに設計形状が異なる、光学的領域と非光学的領域を備える、
眼鏡レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明のセミフィニッシュトレンズによれば、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができる。また、本発明のセミフィニッシュトレンズによれば、このようなレンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができるので、上述した従来のレンズ加工時の廃棄物の処理の問題や、レンズ加工後の表面処理工程での問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のセミフィニッシュトレンズの第1の実施の形態を示す平面図である。
図2図1における矢印A方向から見たセミフィニッシュトレンズの側面図である。
図3図1における矢印B方向から見たセミフィニッシュトレンズの側面図である。
図4】第1の実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1の垂直方向のサグ量の変化の一例を示すグラフである。
図5】第1の実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1の垂直方向のサグ量の変化の一例を示すグラフである。
図6】本発明のセミフィニッシュトレンズの第2の実施の形態を示す平面図である。
図7】上記第2の実施の形態の全体斜視図である。
図8図6における矢印A方向から見たセミフィニッシュトレンズの側面図である。
図9図6における矢印B方向から見たセミフィニッシュトレンズの側面図である。
図10】本発明のセミフィニッシュトレンズの第3の実施の形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳述する。
【0030】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明のセミフィニッシュトレンズの第1の実施の形態を示す平面図である。図2は、図1における矢印A方向から見たセミフィニッシュトレンズの側面図である。また、図3は、図1における矢印B方向から見たセミフィニッシュトレンズの側面図である。
【0031】
上記セミフィニッシュトレンズは、レンズの物体側の面(通常、凸面)および眼球側の面を有しているが、物体側の面のみが鏡面加工された光学面を有し、眼球側の面は未加工面である。レンズ製造者側が、レンズ処方値に応じて所望のレンズ度数となるように、眼球側の面を表面加工(研削加工、切削加工、研磨加工など)することにより、視力補正機能を有する完成された眼鏡レンズとなる。例えば、眼球側に、凹面のみをもつ眼鏡レンズ、あるいは一部に凸面を含む凹面をもつ眼鏡レンズなどが得られる。
【0032】
眼鏡レンズの材質としては、プラスチックが主流であり、本発明のセミフィニッシュトレンズの材質としてもプラスチックが好ましく用いられる。具体的には、通常プラスチックレンズとして使用される種々の基材を用いることができ、レンズ形成鋳型内にレンズモノマーを注入して、硬化処理を施すことによって製造することができる。
【0033】
レンズモノマーとしては、特に限定されず、プラスチックレンズの製造に通常使用される各種のモノマーを用いることができる。例えば、分子中にベンゼン環、ナフタレン環、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合を有するものなどが使用できる。また、硫黄、ハロゲン元素を含む化合物も使用でき、特に核ハロゲン置換芳香環を有する化合物も使用できる。上記官能基を有する単量体を1種又は2種以上用いることによりレンズモノマーを製造できる。例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリル(イソ)フタレート、ジベンジルイタコネート、ジベンジルフマレート、クロロスチレン、核ハロゲン置換スチレン、核ハロゲン置換フェニル(メタ)アクリレート、核ハロゲン置換ベンジル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体の(ジ)(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体のジアリルカーボネート、ジオルトクロロベンジルイタコネート、ジオルトクロロベンジルフマレート、ジエチレングリコールビス(オルトクロロベンジル)フマレート、(ジ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの多官能イソシアネートの反応物、核ハロゲン置換フェノール誘導体のモノヒドロキシアクリレートと多官能イソシアネートの反応物、核ハロゲン置換ビフェニル誘導体のモノヒドロキシアクリレートと多官能イソシアネートの反応物、キシレンジイソシアネートと多官能メルカプタンの反応物、グリシジルメタクリレートと多官能メタクリレートの反応物等、およびこれらの混合物が挙げられる。レンズ基材の材質は、例えば、ポリチオウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂等のポリウレタン系材料、ポリスルフィド樹脂等のエピチオ系材料、ポリカーボネート系材料、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系材料等が好ましく挙げられる。
【0034】
上記セミフィニッシュトレンズとしては、通常無色のものが使用されるが、目的・用途によっては透明性を損なわない範囲で着色したものを使用することができる。
【0035】
本発明のセミフィニッシュトレンズは、上記構成1にあるとおり、物体側の面と眼球側の面を有し、前記眼球側の面が加工されることにより完成された眼鏡レンズとなるセミフィニッシュトレンズであって、前記物体側の面に光学的領域と非光学的領域を備えたことを特徴とするものである。
【0036】
図1に示すように、第1の実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1では、その物体側の面10に、光学的領域11と非光学的領域12、13を備えている。なお、図1は平面図であるが、非光学的領域12、13が図面上わかりやすいようにハッチングを付している。
【0037】
非光学的領域12、13は、セミフィニッシュトレンズ1の外縁部の少なくとも一部を含んで構成されている。本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1では、平面視で楕円形状の光学的領域11の上縁部側に非光学的領域12を、下縁部側に非光学的領域13をそれぞれ備えており、物体側の面10の全体は円形状を成している。
【0038】
図1に参照されるように、セミフィニッシュトレンズ1の物体側の面10を平面視したとき、非光学的領域12、13は、光学的領域11を挟んで対向する位置に配置された、2つの領域として形成されている。非光学的領域12、13の形状は、例えば、円柱面であるが、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止する効果が得られる強度が確保できる形状であれば、特に限定されない。
【0039】
光学的領域11は、鏡面加工され光学的に仕上げられた凸面となっており、光学的に有効な面となっている。また、光学的領域11は、必ずレンズを装着するフレーム形状より大きな領域であり、他方、非光学的領域12、13は、上記フレーム形状より外側になる部分に位置し、光学的に無効な面となっている。なお、セミフィニッシュトレンズ1の眼球側の面16は、本実施の形態では例えば平面となっている(図2図3参照)が、凹面であってもよいし、凸面であってもよい。
【0040】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1では、光学的領域11は、あらかじめ定めた設計形状(つまり、眼鏡レンズの処方に基づいた形状、又は想定される処方に基づいた形状)の光学面を有する。一方、非光学的領域12、13は、光学面と異なる設計形状(つまり、眼鏡レンズの処方とは関係のない形状)を有する。設計形状とは、設計に基づいて決定された形状である。そして、光学的領域11と非光学的領域12、13は、境界14、15において、連続又は非連続に接することができる。
【0041】
本発明において、「垂直方向」と「水平方向」を以下のように定義する。セミフィニッシュトレンズの光学的領域をフレーム(眼鏡フレーム)に対応させたとき、「水平方向」とは、フレームの横幅(Aサイズ)に沿う方向を言い、「垂直方向」とは、フレームの縦幅(Bサイズ)に沿う方向を言うものとする。ここで、Aサイズ、Bサイズとは、JIS規格およびISO規格でのフレームサイズの規格であり、ボクシングシステム方式でのAサイズ、Bサイズである。
【0042】
したがって、図1の平面図では、図示する矢印L方向が上記「垂直方向」であり、矢印H方向が上記「水平方向」である。また、本明細書において、垂直方向を上下方向、水平方向を左右方向として表現することがある。
【0043】
図4および図5は、本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1の垂直方向のサグ量の変化の一例を示すグラフである。なお、本明細書において、サグ量とは、レンズ中心における物体側の面10のZ座標(厚さ方向座標)と、特定の位置における物体側の面10のZ座標との差を意味する。
【0044】
光学的領域11の垂直方向のサグ量は、図4および図5に示すように、セミフィニッシュトレンズ1の中央から周縁に向けて増加する。一方、非光学的領域12、13の垂直方向のサグ量は、図4に示すように、一定であるか、又は、図5に示すように、セミフィニッシュトレンズ1の中央から周縁に向けて、光学的領域11よりも緩やかな割合で増加することが好ましい。これにより、非光学的領域12、13の厚みや面積を確保しやすくなるため、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止する効果をより顕著に得ることができる。
【0045】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1では、その物体側の面10における光学的領域11と非光学的領域12の境界14、および光学的領域11と非光学的領域13の境界15では、それぞれ曲率が変化する。すなわち、境界14では光学的領域11の曲率の値から非光学的領域12の曲率の値に、また、境界15では光学的領域11の曲率の値から非光学的領域13の曲率の値にそれぞれ変わる。上記の曲率の値は、図3に参照されるように、非連続に変化してもよく、また連続的に変化してもよい。
【0046】
ところで、曲率とは、一般に曲線や曲面の曲がり具合を表す量であるが、曲率の大きさの指標として、例えばベースカーブの値を用いることができる。眼鏡レンズでは、レンズの物体側の屈折面をベースカーブと呼んでいる。眼鏡レンズでは、最初に物体側の屈折面形状を決め、これをベース(基準)にして眼球側の屈折面の形状や中心厚を決めていくためである。ベースカーブの値は、レンズの表面屈折力によって表される。一般的に、屈折率nのレンズでは、以下の式によって表面屈折力が計算できる。
表面屈折力 D[ジオプトリー]=(n-1)/R
ここで、Rは屈折面の曲率半径で、単位はm[メートル]。
【0047】
したがって、ベースカーブの値が大きいほど曲率の大きな曲面であり、ベースカーブの値が小さいほど曲率の小さな曲面であることを表す。また、ベースカーブの値が「0(ゼロ)」の場合は、フラットな面であることを表す。
【0048】
本実施の形態では、光学的領域11と非光学的領域12、13とは、垂直方向又は水平方向の少なくとも一方の曲率が異なる。
【0049】
また、本実施の形態では、光学的領域11の垂直方向の曲率は、非光学的領域12、13の垂直方向の曲率よりも大きいことが好ましい。これにより、非光学的領域12、13の厚みや面積を確保しやすくなるため、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止する効果をより顕著に得ることができる。
【0050】
また、本実施の形態では、非光学的領域12、13の垂直方向の曲率と水平方向の曲率が異なることが好ましい。例えば、非光学的領域12、13の水平方向の曲率が、垂直方向の曲率よりも大きくなる構成とすることができる。非光学的領域12、13の垂直方向の曲率は、ゼロであっても構わない。非光学的領域12、13の任意の位置のレンズ厚みは、例えば、眼球側の面16を凹面とすることで、光学的領域11と非光学的領域12、13との境界14、15の最小厚みより大きくすることができる。
【0051】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1では、例えば一例を示すと、光学的領域11の垂直方向の曲率は、5ベースカーブ、水平方向の曲率は、同じく5ベースカーブである。なお、「ベースカーブ」を以下「BC」と略記する。
【0052】
また、非光学的領域12の垂直方向の曲率は、0(ゼロ)BC、水平方向の曲率は、4BCである。また、非光学的領域13の垂直方向の曲率は、0(ゼロ)BC、水平方向の曲率は、4BCである。
以上の曲率の値はあくまでも一例であって、これに限定されるものではなく、フレーム形状やレンズ処方値などに合わせて最適化してもよい。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1は、光学的領域11の上下に隣接して、それぞれ光学的に無効な非光学的領域12、13を設けている。光学的領域11は、最終的に眼鏡レンズが装着されるフレーム形状より大きく、非光学的領域12、13は、フレーム枠入れ時にフレームの外側となる範囲である。そして、好ましくは、光学的領域11と非光学的領域12、13のそれぞれに対して、垂直方向と水平方向の曲率の値を上述のように調節することである。
【0054】
光学的領域11の形状は、基本的にはフレームの形状に合わせて設定される。ここでいうフレームの形状とは、レンズを装着する特定のフレームが定まっている場合の、該フレームの形状のみならず、あらかじめ様々なフレーム形状を、その特徴により大別して定めた、複数のフレームタイプをいう場合も含まれる。また、光学的領域11の曲率(ベースカーブ)をどう設定するか、すなわちどの程度のベースカーブを有するセミフィニッシュトレンズを選択するのかは、通常、処方値、フレーム形状、レンズのレイアウト、装用パラメータ等により決定される。
【0055】
なお、光学的領域11は、例えば、小玉レンズを下部に有するバイフォーカル(二重焦点)レンズや累進屈折力レンズ形状であっても構わない。バイフォーカルレンズの場合、小玉レンズのフレーム外側となる部分が非光学的領域13により欠損していても構わない。また、累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)および累進部領域(中間領域)が下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれるが、遠用部又は近用部のフレーム外側となる部分が非光学的領域12、13により欠損していても構わない。
【0056】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1によれば、光学的領域11の上下に隣接して、それぞれ光学的に無効な非光学的領域12、13を設けることにより削り代を作ることができるので、フレーム形状に最適なレンズ縁厚にした場合でも、眼鏡装用者の処方度数やフレーム形状等に関係なく、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができる。
【0057】
また、このようなレンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができ、レンズ周縁部が切り込まれた欠損部が生じないので、レンズの外径が保たれる。そのため、レンズの研磨加工後に、レンズ凸面又は凹面に反射防止コートやハードコートなどの表面処理を施す際に、レンズ外周形状がレンズ保持器具の形状と一致するため、上述した従来のレンズ加工後の表面処理工程での問題を解決することができる。また、レンズ加工時に、フレーム全体を覆えるブロッキング径でブロッキングしても、フレームの外側になる部分のレンズ外周部で、ブロッキング素材を切削することが無くなり、上述した従来のレンズ加工時の廃棄物の処理が容易になる。更に、フレームの大きさに関係なく、セミフィニッシュトレンズの外径に従ってブロッキングすることができ、ブロッキング時に使用するブロックリングの種類を低減できる。
【0058】
従来のセミフィニッシュトレンズにおいては、様々なフレーム形状に対応できる汎用性を持たせるため、削り代を設けていない。これに対し、本発明では、フレーム形状を予め絞り込んで、眼鏡レンズの加工時における削り代(非光学的領域)を設けている。これにより、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができる。すなわち、本発明では、従来のセミフィニッシュトレンズと比べて、汎用性を犠牲にする代わりに、加工時の切り込みの発生を防止している。本発明のセミフィニッシュトレンズは、ある程度フレーム形状が絞り込まれた眼鏡レンズを製造する際に、好適に用いることができる。
【0059】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明のセミフィニッシュトレンズの第2の実施の形態を示す平面図であり、図7は、上記第2の実施の形態の全体斜視図である。また、図8は、図6における矢印A方向から見たセミフィニッシュトレンズの側面図であり、図9は、図6における矢印B方向から見たセミフィニッシュトレンズの側面図である。
【0060】
図6に示すように、第2の実施の形態のセミフィニッシュトレンズ2では、その物体側の面20に、光学的領域21と非光学的領域22、23を備えている。なお、図6は平面図であるが、非光学的領域22、23が図面上わかりやすいようにハッチングを付している。
【0061】
非光学的領域22、23は、セミフィニッシュトレンズ2の外縁部の少なくとも一部を含んで構成されている。本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ2では、平面視でたる型形状の光学的領域21の上縁部側に非光学的領域22を、下縁部側に非光学的領域23をそれぞれ備えており、物体側の面20の全体は円形状を成している。
【0062】
図6に参照されるように、セミフィニッシュトレンズ2の物体側の面20を平面視したとき、非光学的領域22、23は、光学的領域21を挟んで対向する位置に配置された、2つの領域として形成されている。非光学的領域22、23の形状は、例えば、円柱面であるが、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止する効果が得られる強度が確保できる形状であれば、特に限定されない。
【0063】
本実施の形態においても光学的領域21は、鏡面加工され光学的に仕上げられた凸面となっており、光学的に有効な面となっている。また、光学的領域21は、必ずレンズを装着するフレーム形状より大きな領域であり、他方、非光学的領域22、23は、上記フレーム形状より外側になる部分に位置し、光学的に無効な面となっている。なお、セミフィニッシュトレンズ2の眼球側の面26は、本実施の形態では例えば平面となっている(図8図9参照)が、凹面であってもよいし、凸面であってもよい。
【0064】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ2では、光学的領域21は、あらかじめ定めた設計形状(つまり、眼鏡レンズの処方に基づいた形状、又は想定される処方に基づいた形状)の光学面を有する。一方、非光学的領域22、23は、光学面と異なる設計形状(つまり、眼鏡レンズの処方とは関係のない形状)を有する。設計形状とは、設計に基づいて決定された形状である。そして、光学的領域21と非光学的領域22、23は、境界24、25において、連続又は非連続に接することができる。
【0065】
図示は省略するが、本実施の形態においても、光学的領域21の垂直方向のサグ量は、セミフィニッシュトレンズ2の中央から周縁に向けて増加する。一方、非光学的領域22、23の垂直方向のサグ量は、一定であるか、又は、セミフィニッシュトレンズ2の中央から周縁に向けて、光学的領域21よりも緩やかな割合で増加することが好ましい。これにより、非光学的領域22、23の厚みや面積を確保しやすくなるため、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止する効果をより顕著に得ることができる。
【0066】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ2では、その物体側の面20における光学的領域21と非光学的領域22の境界24、および光学的領域21と非光学的領域23の境界25では、それぞれ曲率が変化する。すなわち、境界24では光学的領域21の曲率の値から非光学的領域22の曲率の値に、また、境界25では光学的領域21の曲率の値から非光学的領域23の曲率の値にそれぞれ変わる。上記の曲率の値は、図9に参照されるように、非連続に変化してもよく、また連続的に変化してもよい。
【0067】
本実施の形態においても、光学的領域21と非光学的領域22、23とは、垂直方向又は水平方向の少なくとも一方の曲率が異なる。
【0068】
また、本実施の形態においても、光学的領域21の垂直方向の曲率は、非光学的領域22、23の垂直方向の曲率よりも大きいことが好ましい。これにより、非光学的領域22、23の厚みや面積を確保しやすくなるため、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止する効果をより顕著に得ることができる。
【0069】
また、本実施の形態においても、非光学的領域22、23の垂直方向の曲率と水平方向の曲率が異なることが好ましい。例えば、非光学的領域22、23の水平方向の曲率が、垂直方向の曲率よりも大きくなる構成とすることができる。非光学的領域22、23の垂直方向の曲率は、ゼロであっても構わない。非光学的領域22、23の任意の位置のレンズ厚みは、光学的領域21と非光学的領域22、23との境界24、25の最小厚みより大きくすることができる。
【0070】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ2では、例えば一例を示すと、光学的領域21の垂直方向の曲率は、5BC、水平方向の曲率は、同じく5BCである。
【0071】
また、非光学的領域22の垂直方向の曲率は、0(ゼロ)BCより大きく5BC未満、水平方向の曲率は、5BCである。また、非光学的領域23の垂直方向の曲率は、0(ゼロ)BCより大きく5BC未満、水平方向の曲率は、5BCである。
以上の曲率の値はあくまでも一例であって、これに限定されるものではなく、フレーム形状やレンズ処方値などに合わせて最適化してもよい。
【0072】
以上説明したように、本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ2では、フレーム形状より大きな光学的領域21の上下に隣接して、それぞれ光学的に無効な非光学的領域22、23を設けている。そして、好ましくは、光学的領域21と非光学的領域22、23のそれぞれに対して、垂直方向と水平方向の曲率の値を上述のように調節することである。
【0073】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ2によっても、前述の第1の実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1と同様の効果を奏する。すなわち、本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ2によれば、光学的領域21の上下に隣接して、それぞれ光学的に無効な非光学的領域22、23を設けることにより削り代を作ることができるので、フレーム形状に最適なレンズ縁厚にした場合でも、眼鏡装用者の処方度数やフレーム形状等に関係なく、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができる。また、このようなレンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができるので、レンズの外径が保たれるため、上述した従来のレンズ加工後の表面処理工程での不都合が生じない。また、上述した従来のレンズ加工時の廃棄物の処理の問題も解決できる。
【0074】
[第3の実施の形態]
図10は、本発明のセミフィニッシュトレンズの第3の実施の形態を示す平面図である。
【0075】
図10に示すように、第3の実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3では、その物体側の面30に、光学的領域31と非光学的領域32を備えている。なお、図10は平面図であるが、非光学的領域32が図面上わかりやすいようにハッチングを付している。
【0076】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3では、平面視で楕円形状の光学的領域31の周縁部に非光学的領域32を備えており、物体側の面30の全体は円形状を成している。本実施の形態においても光学的領域31は、鏡面加工され光学的に仕上げられた凸面となっており、光学的に有効な面となっている。また、光学的領域31は、必ずフレーム形状より大きな領域であり、他方、非光学的領域32は、フレーム形状より外側になる光学的に無効な面となっている。
なお、セミフィニッシュトレンズ3の眼球側の面は図示していないが、例えば平面であってもよいし、凹面であってもよいし、凸面であってもよい。
【0077】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3では、光学的領域31は、あらかじめ定めた設計形状(つまり、眼鏡レンズの処方に基づいた形状、又は想定される処方に基づいた形状)の光学面を有し、非光学的領域32は、光学面と異なる設計形状(つまり、眼鏡レンズの処方とは関係のない形状)を有する。設計形状とは、設計に基づいて決定された形状である。そして、光学的領域31と非光学的領域32は、境界33において、連続又は非連続に接することができる。
【0078】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3では、非光学的領域32が光学的領域31の周囲を囲むように配置されている。つまり、第1、第2の実施の形態とは異なり、光学的領域31の左右方向にも非光学的領域32が配置されている。これにより、レンズ周縁部における、複数方向の切り込みの発生を防止することができる。
【0079】
図示は省略するが、本実施の形態においても、光学的領域31の垂直方向のサグ量は、セミフィニッシュトレンズ3の中央から周縁に向けて増加する。一方、非光学的領域32の垂直方向のサグ量は、一定であるか、又は、セミフィニッシュトレンズ3の中央から周縁に向けて、光学的領域31よりも緩やかな割合で増加することが好ましい。これにより、非光学的領域32の厚みや面積を確保しやすくなるため、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止する効果をより顕著に得ることができる。
【0080】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3では、その物体側の面30における光学的領域31と非光学的領域32の境界33では、曲率が変化する。すなわち、境界33では光学的領域31の曲率の値から非光学的領域32の曲率の値に変わる。上記の曲率の値は、非連続に変化してもよく、また連続的に変化してもよい。
【0081】
本実施の形態においても、光学的領域31と非光学的領域32とは、垂直方向又は水平方向の少なくとも一方の曲率が異なる。
【0082】
また、本実施の形態においても、光学的領域31の垂直方向の曲率は、非光学的領域32の垂直方向の曲率よりも大きいことが好ましい。これにより、非光学的領域32の厚みや面積を確保しやすくなるため、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止する効果をより顕著に得ることができる。
【0083】
また、本実施の形態においても、光学的領域31の周縁部に配置された非光学的領域32では、その垂直方向の曲率と水平方向の曲率が異なることが好ましい。例えば、非光学的領域32の水平方向の曲率が、垂直方向の曲率よりも大きくなる構成とすることができる。非光学的領域32の垂直方向の曲率は、ゼロであっても構わない。非光学的領域32の任意の位置のレンズ厚みは、光学的領域31と非光学的領域32との境界33の最小厚みより大きくすることができる。
【0084】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3では、例えば一例を示すと、光学的領域31の垂直方向の曲率は、5BC、水平方向の曲率は、同じく5BCである。
【0085】
また、光学的領域31の周縁部に配置された非光学的領域32では、その垂直方向の曲率は、0(ゼロ)BC、水平方向の曲率は、3BCである。
以上の曲率の値はあくまでも一例であって、これに限定されるものではなく、フレーム形状やレンズ処方値などに合わせて最適化してもよい。
【0086】
以上説明したように、本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3では、フレーム形状より大きな光学的領域31の外側であって、セミフィニッシュトレンズ3の外縁部に沿って、光学的に無効な非光学的領域32を設けている。そして、好ましくは、光学的領域31と非光学的領域32のそれぞれに対して、垂直方向と水平方向の曲率の値を上述のように調節することである。
【0087】
本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3によっても、前述の第1の実施の形態のセミフィニッシュトレンズ1と同様の効果を奏する。すなわち、本実施の形態のセミフィニッシュトレンズ3によれば、光学的領域31の周縁部に光学的に無効な非光学的領域32を設けることにより削り代を作ることができるので、フレーム形状に最適なレンズ縁厚にした場合でも、眼鏡装用者の処方度数やフレーム形状等に関係なく、レンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができる。また、このようなレンズ加工中のレンズ周縁部での切り込みの発生を防止することができるので、レンズの外径が保たれるため、上述した従来のレンズ加工後の表面処理工程での不都合が生じない。また、上述した従来のレンズ加工時の廃棄物の処理の問題も解決できる。
【0088】
以上、本発明のセミフィニッシュトレンズについて、第1から第3の実施の形態を挙げて詳細に説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0089】
例えば、非光学的領域は、球面でも非球面でも良く、円柱面や乱視面(トーリック面)であってもよい。更に、これらの面を複数種組み合わせて含む領域であってもよい。また平面を含んでも良い。
【0090】
また、上記第1の実施の形態では、セミフィニッシュトレンズ1の非光学的領域12、13は、光学的領域11を挟んで対向する位置に配置された、2つの領域として形成されているが、必ずしも2つである必要はなく、例えば1つでも良い。上記第2の実施の形態においても、同様である。
【0091】
更に、本願発明は、眼鏡レンズの製造方法を含む。すなわち、レンズ処方値に応じたレンズ度数を有する、眼鏡レンズの製造方法であって、物体側の面と眼球側の面を有するセミフィニッシュトレンズを用意する工程と、前記セミフィニッシュトレンズの眼球側の面を、レンズ処方値に応じて加工する工程と、を含むものとする。前記セミフィニッシュトレンズは、前記物体側の面に、互いに設計形状が異なる、光学的領域と非光学的領域を備える。この製造方法において用意されるセミフィニッシュトレンズは、上記した各実施の形態におけるセミフィニッシュトレンズの好ましい特徴を有することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 セミフィニッシュトレンズ
10 物体側の面
11 光学的領域
12、13 非光学的領域
14、15 (光学的領域と非光学的領域の)境界
16 眼球側の面
2 セミフィニッシュトレンズ
20 物体側の面
21 光学的領域
22、23 非光学的領域
24、25 (光学的領域と非光学的領域の)境界
26 眼球側の面
3 セミフィニッシュトレンズ
30 物体側の面
31 光学的領域
32 非光学的領域
33 (光学的領域と非光学的領域の)境界
L 垂直方向
H 水平方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10