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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】組織を培養する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240403BHJP
   C12M 1/04 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240403BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20240403BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240403BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/04
C12N1/00 C
C12N5/071
A61P17/02
A61K35/36
A61L27/38
A61L27/60
A61L27/38 120
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022024753
(22)【出願日】2022-02-21
(62)【分割の表示】P 2017566399の分割
【原出願日】2016-06-24
(65)【公開番号】P2022068312
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】62/184,705
(32)【優先日】2015-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508037005
【氏名又は名称】オークランド ユニサービシズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダンバー,ピーター ロードリック
(72)【発明者】
【氏名】フェイスト,ヴォーン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】オウスタービーク,リース ネイル
(72)【発明者】
【氏名】シンプソン,ミリアム キャザー
(72)【発明者】
【氏名】トング,ユエン ジィー
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-528856(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0136225(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0248361(US,A1)
【文献】特開2006-320304(JP,A)
【文献】特開2014-236753(JP,A)
【文献】国際公開第2013/136372(WO,A1)
【文献】特表2005-514058(JP,A)
【文献】特開2003-235539(JP,A)
【文献】特表2011-521641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12M 1/00
C12N 5/071
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は組織を培養する装置であって、
第1の端壁と少なくとも1つの側壁とを備える容器と、前記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁と、
前記チャンバ内に配置される移動可能なスキャホールドと、前記スキャホールド上の基材とを備え、
前記第1の端壁の少なくとも一部が、気体透過性材料を含み、
そして前記スキャホールドは、
(a)第1のモードであって、前記チャンバ内の前記移動可能なスキャホールド上の前記基材が前記気体透過性材料と接触していない位置に前記移動可能なスキャホールドがある、第1のモードと、
(b)第2のモードであって、前記チャンバ内の前記移動可能なスキャホールド上の前記基材が前記気体透過性材料と接触している位置に前記移動可能なスキャホールドがある、第2のモードとの間で、構成変更可能であり、
また前記チャンバは、環境から液体封止可能であるものである、装置。
【請求項2】
前記第2の端壁の少なくとも一部又は前記少なくとも1つの側壁の少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容するものであり、
前記装置が、前記少なくとも1つの側壁を通って延在する係合手段を含み、これにより前記第1のモードと前記第2のモードとの間で前記スキャホールドの移動がもたらされるものであり、
また前記装置が、
i)前記第1の壁の気体透過性材料によって画成される、前記チャンバーの底部と、
ii)前記第2の端壁内の気体透過材料によって画成される、前記チャンバの上部、または前記側壁内の気体透過材料によって画成される、前記チャンバの側壁と
の間で前記スキャホールドの移動を許容する、請求項1記載の細胞又は組織を培養する装置。
【請求項3】
前記係合手段が、
前記スキャホールドを前記少なくとも1つの側壁と係合させることにより、(a)前記チャンバの前記第1の端壁と前記第2の端壁との間の少なくとも中途で、前記スキャホールドの実質的に直線の移動が許容され、かつ、前記少なくとも1つの側壁に対して垂直の軸を中心とした前記スキャホールドの回転又は反転が制限されるか、又は(b)前記少なくとも1つの側壁に対して垂直の軸を中心とした前記スキャホールドの回転的な移動が許容されるものである、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記気体透過性材料は、
a)気体透過性膜を含む、及び/又は
b)ポリジメチルシロキサンを含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記スキャホールドは、前記基材を受け入れて、前記基材の平面である両側に培養面をもたらす、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記基材は、
a)生体適合性材料を含む、及び/又は
b)生体適合膜を含む、及び/又は
c)気体透過性である、及び/又は
d)乳酸グリコール酸共重合体(poly(lactic co-glycolic acid))を含む、及び/又は
e)静電紡糸による乳酸グリコール酸共重合体を含む、及び/又は
f)細胞の接着、細胞の遊走、もしくは組織の層化を向上させるように処理した面を含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記スキャホールドは、
内周と外周とを画成する枠体であって、実質的に平面の上方面を備える前記枠体と、
前記枠体の前記内周を横断する実質的に平面である配置で保持する基材であって該基材の上に細胞を載置する基材とを備え、
前記スキャホールドは、少なくとも1つの気体透過性界面を備える培養装置内に前記スキャホールドが配置されるときに、前記基材もしくは前記基材上に存在する前記細胞もしくは組織の実質的に全てが気体透過性界面と接触するように構成されているか、又は
内周と外周とを画成する第1の枠体であって、実質的に平面の上方面を備える前記第1の枠体と、
内周と外周とを画成する第2の枠体であって、実質的に平面の上方面を備える前記第2の枠体とを備え、
前記第1の枠体及び前記第2の枠体は、それらの周囲の少なくとも一部の周辺で取り外し可能に係り合い、前記基材を受け入れて保持するものである界面を画成し、
前記基材は、保持されるとき、前記第1の枠体の前記内周を横断する実質的に平面である配置で保持され、
前記第1の枠体の前記上方面及び前記第2の枠体の前記上方面は、係り合うとき、実質的に同一平面上にある、
請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
第2の枠体が存在する場合に、前記第2の枠体のその上方面における前記内周の寸法が、前記第1の枠体のその上方面における前記外周の寸法よりも大きく、前記第1の枠体の少なくとも前記上方面において、前記第2の枠体が、前記第1の枠体の外周の周辺で係合する、請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記基材は、前記第1の枠体の前記上方面に、前記スキャホールドの内周を横断する実質的に平面である配置で保持され、それによって、前記基材の上方面が、体透過性界面と直接接触することを許容する、請求項7又は8に記載の装置。
【請求項10】
前記第2の枠体が存在する場合に、前記基材は、
前記第1の枠体の前記第2の枠体に対する摩擦嵌めによる係合によって、前記第1の枠体と前記第2の枠体との間に保持されるか、又は前記第1の枠体と前記第2の枠体との間に延びる1つもしくは複数の凸部によって、少なくとも一部は前記第1の枠体と前記第2の枠体との間に保持される、
請求項7から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記スキャホールドのその上方面における前記内周の寸法は、前記スキャホールドに保持される前記基材又は前記基材上に存在する前記細胞もしくは前記組織を接触させようとする、1つ又は複数の前記気体透過性界面の寸法よりも大きく、前記基材又は前記基材上に存在する前記細胞もしくは前記組織の実質的に全てが、前記気体透過性界面と接触することができる、請求項7から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
重層表皮組織又は全層皮膚組織を培養する方法であって、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に角化細胞及び線維芽細胞を含む懸濁液を提供するステップと、
(b)第1の端壁、少なくとも1つの側壁を備える容器と、前記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁と、前記チャンバ内に配置される移動可能なスキャホールドと、前記スキャホールド上の基材であって、該基材の上に載置される細胞に好適である前記スキャホールド上の前記基材とを備えるものである細胞培養装置に前記懸濁液を導入するステップであって、
前記第1の端壁の少なくとも一部が、気体透過性材料を含み、
前記移動可能なスキャホールドが、前記基材が前記懸濁液に浸漬し、かつ、気体透過性材料と接触していないものである第1のモードにあるものである、
前記細胞培養装置に前記懸濁液を導入するステップと、
(c)前記角化細胞及び/又は線維芽細胞の少なくとも一部が前記基材に接着するのに十分な時間の間、前記懸濁液を含有した前記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(d)前記移動可能なスキャホールドを、前記基材が及び/又は当該細胞が前記気体透過性材料と接触して配設されるものである第2のモードに合わせるステップと、
(e)表皮の層化が起こることを許容するのに十分な時間の間、前記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む、方法。
【請求項13】
それを必要としている患者の組織の損傷を治療するのに好適である組織を提供する方法であって、
(a)組織が成長するものである請求項1から11のいずれか一項に記載の装置を提供するステップ、又は、請求項12に記載の方法によって組織が成長するものである装置を提供するステップと、
(b)前記装置から前記組織を無菌状態下で回収するステップと、
(c)前記患者に適用するのに適した形態で前記組織を提供するステップとを含む、方法。
【請求項14】
前記組織は、上皮組織、重層上皮組織、表皮、もしくは重層表皮であ、及び/又は
前記組織を操作して、顎下腺管、付着歯肉、舌背、硬口蓋、食道、胃、大腸、小腸、直腸、肛門、胆嚢、甲状腺濾胞、皮膚、汗腺管、体腔の中皮、卵巣、卵管、子宮、子宮頸部、膣、大陰唇、直精細管、精巣網、精巣輸出管、精巣上体、輸精管、射精管、尿道球腺、精嚢、咽頭中央部、喉頭、喉頭、声帯、気管、呼吸細気管支、角膜、鼻、腎臓の近位尿細管、腎臓の細い上行脚、腎臓の遠位尿細管、腎臓の集合尿細管、腎盂、尿管、膀胱、尿道前立腺部、尿道膜性部、陰茎尿道もしくは外尿道口を含む構造を形成する、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞又は組織であって、例えば皮膚などである上皮細胞を含む上皮の細胞又は組織を培養する改良した装置及び方法に関する。本発明は、さらに、本発明の装置を用いて又は本発明の方法によって産生した組織、例えば全層皮膚などの上皮細胞を含む組織と、そうした組織の組織損傷治療への使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
in vitroで作製したヒト及び非ヒト動物の細胞又は組織は、治療的用途から商業的用途の範囲に及ぶ。
【0003】
例えば、ヒトの皮膚などの上皮細胞を含む培養組織(engineered tissue)は、熱傷や慢性的な創傷をもつ患者の自家移植又は医薬品、化粧品もしくは他の外用剤の開発及び試験に用いることができる。
【0004】
対応するin vivoの細胞又は組織と同様又は実質的に同一の構造及び/又は機能を有する培養細胞又は組織が、強く要望されている。しかしながら、その条件下でin vivoでの細胞成長及び分化ならびに複雑な組織の成長が起こるような、特に特殊で、厳密に制限された条件を再現することは極めて難しい。
【0005】
多くの細胞及び組織にとっては、空気-液体界面における培養が、細胞増殖と多層の細胞や組織の成長を促す高酸素濃度環境をもたらす。一部の細胞又は組織は、成長又は分化するために空気-液体界面と接触しなければならない。例えば、皮膚の角化細胞は、分化を刺激して表皮の層化を誘発するために、空気-液体界面と接触する必要がある。この分化と成長が、ヒトの全層皮膚の培養に不可欠である。
【0006】
高酸素濃度条件下及び/又はin vivoに存在する酸素を模倣した条件下で、in vitroにおけるヒト及び非ヒト動物の細胞又は組織の培養及び/又は作製を提供する方法及び/又は装置が要望され続けている。
【0007】
本発明の目的は、この要望を満たす方法及び/又は装置を提供することであり、又は少なくとも有用な選択肢を人々に提供することである。
【発明の概要】
【0008】
一態様において、本発明は細胞又は組織を培養する装置に関し、該装置は、
第1の端壁(底部)と少なくとも1つの側壁とを備える容器と、
上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、
細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備え、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁、又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも1つの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、
上記装置は、(a)上記基材が気体透過性材料と気体連通で配設されていないものである第1のモードと、(b)上記基材が気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードとの間で構成変更可能である。
【0009】
例えば、一実施形態において、本発明は細胞又は組織を培養する装置に関し、該装置は、
第1の端壁(底部)と少なくとも1つの側壁とを備える容器と、
上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、
細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備え、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁及び上記第2の端壁(上部)のうちの2つ以上の少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、
第1のモードでは、上記基材が気体透過性材料と接触せず、第2のモードでは、上記基材が気体透過性材料と接触する。
【0010】
一実施形態では、上記スキャホールドは、第1の位置から第2の位置へ移動可能であって、上記第2の位置では、上記基材を気体透過性材料に配設させる。一実施形態では、使用中に上記基材が上記第1の位置にあるとき、上記基材は浸漬する。
【0011】
一実施形態では、上記第1のモードで、上記スキャホールド及び/又は上記基材は、取り外し可能な気体不透過性の面により気体透過性材料と隔てられる。一実施形態では、上記取り外し可能な気体不透過性の面は、溶解により取り除かれる。一実施形態では、上記取り外し可能な気体不透過性の面は、物理的に取り除かれる。
【0012】
別の態様において、本発明は細胞又は組織を培養する装置に関し、該装置は、
第1の端壁(底部)と少なくとも1つの側壁とを備える容器であって、上記底部の少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容するものである上記容器と、
上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)であって、
上記第2の端壁(上部)の少なくとも一部又は上記少なくとも1つの側壁の少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容するものである上記第2の端壁(上部)と、
細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドであって、上記スキャホールドは上記少なくとも1つの側壁と係合して、(a)上記チャンバの上記第1の端壁(底部)と上記第2の端壁(上部)との間の少なくとも中途で、上記スキャホールドの実質的に直線の移動が許容され、かつ、上記少なくとも1つの側壁に対して垂直の軸を中心とした上記スキャホールドの回転又は反転が制限されるか、又は(b)上記少なくとも1つの側壁に対して垂直の軸を中心とした上記スキャホールドの回転的な移動が許容されるものである上記スキャホールドとを備える。
【0013】
一実施形態では、上記装置の反転が、上記チャンバの上記第1の端壁(底部)と上記第2の端壁(上部)との間の少なくとも中途で、上記スキャホールドの実質的に直線の移動を許容して、上記基材を、上記第2の端壁(上部)に存在する上記気体透過性材料に配設させる。
【0014】
一実施形態では、上記装置の回転が、上記少なくとも1つの側壁に対して垂直な軸を中心とした上記スキャホールドの実質的に回転的な移動を許容して、上記基材を、上記少なくとも1つの側壁に存在する上記気体透過性材料に配設させる。
【0015】
一実施形態では、本発明は細胞又は組織を培養する装置に関し、該装置は、
底部と少なくとも1つの側壁とを備える容器であって、上記底部の少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容するものである上記容器と、
上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な上部であって、上記上部の少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容するものである上記上部と、
細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドであって、該スキャホールドは上記少なくとも1つの側壁と係合して、(a)上記チャンバの上記底部と上記上部との間の少なくとも中途で、上記スキャホールドの実質的に直線の移動が許容され、かつ、(b)上記少なくとも1つの側壁に対して垂直の軸を中心とした上記スキャホールドの回転又は反転が制限されるものである上記スキャホールドとを備える。
【0016】
一実施形態では、使用中、気体透過性材料が上記底部と上記上部との両方に存在する場合、上記チャンバは、環境から液体封止可能であるが、上記環境と気体連通である。
【0017】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの気体透過性界面を備える培養装置における細胞又は組織の培養に関するスキャホールドに関し、該スキャホールドは、
内周と外周とを画成する枠体であって、実質的に平面の上方面を備える前記枠体と、
上記枠体の上記内周を横断する実質的に平面である配置で保持する、細胞に関して上に載置される基材とを備え、
上記スキャホールドは、少なくとも1つの気体透過性界面を備える培養装置内に上記スキャホールドが配置されるときに、上記基材又は上記基材上に存在する上記細胞もしくは組織の実質的に全てが気体透過性界面と接触するように構成されている。
【0018】
一実施形態では、上記基材は、上記枠体の上記平面の上方面に、実質的に平面である配置で保持される。
【0019】
一態様では、本発明は、細胞又は組織を培養するスキャホールドであって、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成された上記スキャホールドに関し、該スキャホールドは、
内周と外周とを画成する第1の枠体であって、実質的に平面の上方面を備える前記第1の枠体と、
内周と外周とを画成する第2の枠体であって、実質的に平面の上方面を備える前記第2の枠体とを備え、
上記第1の枠体及び上記第2の枠体は、それらの周囲の少なくとも一部の周辺で取り外し可能に係り合い、上記基材を受けて保持するものである界面を画成し、
上記基材は、保持されるとき、上記第1の枠体の上記内周を横断する実質的に平面である配置で保持され、
上記第1の枠体の上記上方面及び上記第2の枠体の上記上方面は、係り合うとき、実質的に同一平面上にある。
【0020】
一実施形態では、上記第2の枠体のその上方面における上記内周の寸法が、上記第1の枠体のその上方面における上記外周の寸法よりも大きく、上記第1の枠体の少なくとも上記上方面において、上記第2の枠体が、上記第1の枠体の外周の周辺で係合する。
【0021】
一実施形態では、上記基材は、上記第1の枠体の上記上方面に、上記スキャホールドの内周を横断する実質的に平面である配置で保持され、それによって、上記基材の上方面が、例えば気体透過性界面と直接接触することを許容する。
【0022】
様々な実施形態では、上記基材は、上記第1の枠体の上記第2の枠体に対する摩擦嵌めによる係合によって、上記第1の枠体と上記第2の枠体との間に保持される。例えば、上記摩擦嵌めによる係合は、上記基材を強固に固定して、上記スキャホールドの上記内周を横断する実質的に平面である配置で上記基材を維持するようにする。例えば、該枠体は係り合い、例えば上記基材が培地と接触する場合に、上記基材の収縮、伸長又は変形を防止する。
【0023】
様々な実施形態では、上記基材は、上記第1の枠体と上記第2の枠体との間に延びる1つ又は複数の凸部によって、少なくとも一部は上記第1の枠体と上記第2の枠体との間に保持される。一実施形態では、前記1つ又は複数の凸部のうちの1つ又は複数が、上記第1の枠体と上記第2の枠体との間で係合が形成されている界面内のある点において、上記基材を貫通する。
【0024】
様々な実施形態では、上記スキャホールドの下面は、上記スキャホールドの上記外周とその隣接する内周とに及ぶ少なくとも1つの部分を備え、前記部分は、上記スキャホールドの上面に向かって隆起する下面を有するものであって、前記スキャホールドを平らな面に置いたときに前記部分が空隙を画成する。一実施形態では、上記部分は、上記スキャホールドが浸漬される培地内にあるときに容易に気泡の除去が許容されるように設けられる凹部554を画成する。
【0025】
一実施形態では、スキャホールドが、細胞に関して上に載置される基材を備える。
【0026】
一実施形態では、上記スキャホールドのその上面における上記内周の寸法は、上記スキャホールドに保持される上記基材又は該基材上に存在する上記細胞もしくは上記組織を接触させようとする、1つ又は複数の上記気体透過性界面の寸法よりも大きく、上記基材又は該基材上に存在する上記細胞もしくは上記組織の実質的に全てが、上記気体透過性界面と接触することができる。
【0027】
様々な実施形態では、上記スキャホールドが、上記内周に架かって上記基材への支持をもたらす1つ又は複数の横断部材を備える。一例では、上記スキャホールドが、2つ以上の横断部材を備える。一例では、上記スキャホールドが、例えば図11に示すように、上記内周に架かって上記基材への支持をもたらす格子状の横断部材を備える。
【0028】
一実施形態では、気体透過性材料は、気体透過性膜である。
【0029】
一実施形態では、気体透過性材料は、ポリジメチルシロキサンである。
【0030】
一実施形態では、上記スキャホールドは、実質的に平面である。一実施形態では、上記スキャホールドは、上記底部と、又は上記上部と、又は上記底部及び上記上部の両方と実質的に平行に配向される。
【0031】
一実施形態では、上記スキャホールドは、上記少なくとも1つの側壁と係合して、上記容器の上記底部と上記上部との間で上記スキャホールドの実質的に直線の移動が許容される。例えば、上記少なくとも1つの側壁内にある1つ又は複数の相補的な溝と係合し、上記少なくとも1つの側壁に対する上記スキャホールドの並進的な移動は許容するが、上記少なくとも1つの側壁に対する上記スキャホールドの回転的な移動を制限するものである、1つ又は複数の突起を、上記スキャホールドが有する。
【0032】
一実施形態では、上記スキャホールドは上記基材を受け入れて、上記基材の平面である両側に培養面をもたらす。
【0033】
一実施形態では、上記基材は、生体適合膜などの生体適合性材料である。一実施形態では、上記基材は、生分解性膜である。様々な実施形態では、上記基材は、共重合体である。
【0034】
一実施形態では、上記基材は、気体透過性である。代替的な実施形態では、上記基材は、気体不透過性である。
【0035】
例えば、上記基材は、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA(poly(lactic co-glycolic acid))であるか、又は乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)を含む。一例では、上記基材は、静電紡糸によるPLGAであるか、又は静電紡糸によるPLGAを含む。
【0036】
一実施形態では、上記基材は、細胞の接着、細胞の遊走又は組織の層化を向上させるように処理した面を備える。
【0037】
一実施形態では、上記基材は、細胞の接着及び/又は遊走及び/又は層化を助ける1つ又は複数の分子を含む。例えば、上記基材は、1つもしくは複数の基底膜タンパク質、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンもしくはレクチンなどである1つもしくは複数のタンパク質、1つもしくは複数の糖類などである1つもしくは複数の炭水化物、又は2つ以上のこれらの任意の組み合わせを含む。
【0038】
別の実施形態では、上記基材は、移植片の生存力、維持又は長命を助ける1つ又は複数の他の試薬を含む。上記1つ又は複数の他の試薬は、製造時、培養中、又は基材上に存在する細胞又は組織の外科的移植前もしくは該移植中の任意の時点において、上記基材に組み込むことができる。例示的な試薬としては、1つ又は複数の抗生物質(例えば、銀コロイドもしくは金コロイド、又は、1つもしくは複数の化学的に合成した抗生物質(chemical antibiotic)、1つ又は複数の免疫抑制剤(例えば、1つ又は複数の抗炎症剤)、1つ又は複数の治癒又は血管新生の促進剤(例えば、VEGFなど)等が挙げられる。
【0039】
様々な実施形態では、上記基材は、コラーゲンI、フィブロネクチン、コラーゲンIV、コラーゲンVII、ラミニン5、先述のタンパク質のうちの1つに由来する1つもしくは複数の接着ペプチド、又は任意の2つ以上のこれらの組み合わせを含む。
【0040】
一実施形態では、上記基材は、基材に対して特定の細胞型を選択的に結合する、もしくは誘引する、又は基材に対して特定の細胞型の接着を促進もしくは可能にする、1つ又は複数の分子を含む。例えば、一実施形態では、上記基材は、例えば角化細胞である上皮細胞を選択的に結合する1つ又は複数の分子を含む。別の実施形態では、上記基材は、線維芽細胞を選択的に結合する1つ又は複数の分子を含む。
【0041】
様々な実施形態では、上記基材は、例えば1つもしくは複数の免疫グロブリンスーパーファミリーである細胞接着分子(IgSF CAM)、1つもしくは複数のインテグリン、1つもしくは複数のカドヘリン又は1つもしくは複数のセレクチンなどの1つ又は複数の細胞接着分子を含む。様々な実施形態では、上記基材は、1つもしくは複数の上皮カドヘリン(E-カドヘリン)、1つもしくは複数の胎盤カドヘリン(P-カドヘリン)、1つもしくは複数の神経カドヘリン(N-カドヘリン)、1つもしくは複数の網膜カドヘリン(R-カドヘリン)、1つもしくは複数の脳カドヘリン(B-カドヘリン又はT-カドヘリン)、もしくは、1つもしくは複数の筋肉カドヘリン(M-カドヘリン)、Eセレクチン、Lセレクチン、Pセレクチン、α1インテグリン(ITGA1)、α2インテグリン(ITGA2)、α2bインテグリン(ITGA2b)、α3インテグリン(ITGA3)、α4インテグリン(ITGA4)、α5インテグリン(ITGA5)、α6インテグリン(ITGA6)、α7インテグリン(ITGA7)、α8インテグリン(ITGA8)、α9インテグリン(ITGA9)、α10インテグリン(ITGA10)、α11インテグリン(ITGA11)、αDインテグリン(ITGAD)、αEインテグリン(ITGAE)、αLインテグリン(ITGAL)、αMインテグリン(ITGAM)、αVインテグリン(ITGAV)、αXインテグリン(ITGAX)、β1インテグリン(ITGB1)、β2インテグリン(ITGB2)、β3インテグリン(ITGB3)、β4インテグリン(ITGB4)、β5インテグリン(ITGB5)、β6インテグリン(ITGB6)、β7インテグリン(ITGB7)、β8インテグリン(ITGB8)、又はこれらの任意の2つ以上の組み合わせを含む。
【0042】
一実施形態では、上記基材は、例えば表皮の層化である、上皮の層化を助ける1つ又は複数の分子を含む。
【0043】
一実施形態では、上記スキャホールドの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか及び/又は気体透過性基材と係合すように構成され、気体透過性基材の全域にわたって穿孔されて気体交換を許容する。
【0044】
様々な実施形態では、上記容器又は上記取り外し可能な上部が、流体封止可能な少なくとも1つのアクセスポートを備える。例えば、上記少なくとも1つの側壁が、流体封止可能な少なくとも1つのアクセスポートを備える。
【0045】
様々な実施形態では、上記装置は、例えば、オートクレーブ滅菌又はガンマ線照射により滅菌可能である。
【0046】
一実施形態では、上記装置が第1のモード(例えば、直立の向き)にあるとき、上記スキャホールド及び上記基材はチャンバ内に配設され、かつ、上記基材が浸漬する。
【0047】
一実施形態では、上記装置が第2のモード(例えば、反転又は回転した向き)にあるとき、上記基材は気体透過性材料に配設される。例えば、第2のモードでは、上記スキャホールド及び上記基材が、上記チャンバの底部を画成して、気体透過性界面を含む。
【0048】
一実施形態では、使用中に、上記装置が第1のモード(例えば、直立の向き)にあるときに、上記チャンバが基材を浸漬するのに十分な量の培地を保持するように、上記装置を構成する。
【0049】
一実施形態では、使用中に、上記装置を第2のモードに構成すものであって、基材は気体透過性材料にあるか気体透過性材料と隣接する。例えば、一実施形態では、上記装置が第2のモード(例えば、反転又は回転した向き)にあるとき、上記基材は気体透過性界面を含む。
【0050】
別の態様において、本発明は細胞を培養する方法に関し、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に培養しようとする細胞を含む懸濁液を提供することと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備えるものである細胞培養装置であって、
少なくとも上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬し、かつ、任意に気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記懸濁液を導入することと、
(c)上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートすることと、
(d)上記細胞培養装置を、上記基材が任意に気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードに合わせることと、
(e)細胞コンフルエンス、細胞増殖、細胞分化、組織層化又は組織成長のうちの1つ又は複数を許容するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートすることとを含む。
【0051】
一実施形態では、ステップ(b)において、上記装置は、上記基材が気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第1のモードにある。一実施形態では、ステップ(d)において、上記装置は、上記基材が気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードにある。
【0052】
別の態様において、本発明は、基材上で1つまたは複数のコンフルエントな細胞の層を培養する方法に関し、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に培養しようとする細胞を含む懸濁液を提供するステップと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備えるものである細胞培養装置であって、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬し、かつ、気体透過性材料と気体連通でないものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記懸濁液を導入するステップと、
(c)上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(d)上記細胞培養装置を、上記基材が上記気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードに合わせるステップと、
(e)1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層であって、上記基材の少なくとも一部にわたって配設される前記1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層を形成するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む。
【0053】
様々な実施形態では、ステップ(e)は、細胞分化又は細胞増殖のうちの1つ又は複数を許容するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートすることを含む。
【0054】
様々な実施形態では、上記装置は本発明の装置である。
【0055】
一実施形態では、細胞の懸濁液を、上記チャンバに存在するアクセスポート、例えば上記容器に存在するアクセスポートを介して導入する。
【0056】
別の実施形態では、細胞の懸濁液を、上記上部を取り付ける前に上記容器に導入する。
【0057】
一実施形態では、上記培養しようとする細胞は、足場依存性(anchorage-dependent)細胞である。
【0058】
一実施形態では、上記細胞は、上皮細胞を含む。一実施形態では、上記細胞は、角化細胞を含む。一実施形態では、上記細胞は、線維芽細胞を含む。一実施形態では、上記細胞は、角化細胞及び線維芽細胞を含む。
【0059】
一実施形態では、細胞の懸濁液は、組織消化物から得た細胞集団を含む。
【0060】
一実施形態では、上記方法は、ステップ(d)及び(e)の間に、
(f)例えばアクセスポートを介して、培養しようとする細胞を含む第2の懸濁液を導入するステップと、
(g)上記第2の懸濁液内の上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記第2の懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、任意に、
(h)上記細胞培養装置を、上記基材又は上記細胞が気体透過性材料と気体連通で配設されるように合わせるステップとである追加のステップを含む。
【0061】
一実施形態では、上記方法は、ステップ(f)から(h)を、1回又は複数回繰り返すことを含む。
【0062】
一実施形態では、上記第2の懸濁液は、第1の懸濁液に存在する細胞型とは異なる、1つ又は複数の細胞型を含む。例えば、一実施形態では、上記第1の懸濁液が線維芽細胞を含み、上記第2の懸濁液が角化細胞を含む。
【0063】
一実施形態では、上記基材は生体適合性である。一実施形態では、上記基材は生分解性である。
【0064】
別の態様において、本発明は、例えば上皮組織である、組織を培養する方法に関し、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に上皮細胞を含む懸濁液を提供するステップと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備えるものである細胞培養装置に上記懸濁液を導入する装置であって、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬し、かつ、任意に気体透過性材料と気体連通するものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記懸濁液を導入するステップと、
(c)上記上皮細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(d)上記細胞培養装置を、上記基材が及び/又は該細胞が気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードに合わせるステップと、
(e)細胞の分化、増殖もしくは層化又は上皮組織の成長が起こることを許容するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む。
【0065】
一実施形態では、上記方法は、ステップ(b)に続く、
(f)上記装置から上記組織培地を回収するステップと、
(g)上記基材の面を洗浄して、接着していない細胞を回収するステップと、及び/又は、
(h)新しい組織培地を上記装置に加えるステップとのうちの1つ又は複数を含む。
【0066】
一実施形態では、上記上皮細胞は、角化細胞である。
【0067】
一実施形態では、上記懸濁液は、例えば線維芽細胞である第2の細胞集団をさらに含む。
【0068】
一実施形態では、ステップ(b)では、上記装置は、上記基材が任意に気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第1のモードにあり、ステップ(d)では、上記装置は、上記上皮細胞が気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードにある。例えば、上記上皮細胞は、気体透過性材料と直接接触している。
【0069】
別の態様において、本発明は、重層表皮組織又は全層皮膚組織を培養する方法に関し、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に角化細胞及び線維芽細胞を含む懸濁液を提供するステップと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備えるものである細胞培養装置に上記懸濁液を導入する装置であって、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬し、かつ、気体透過性材料と気体連通でないものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記懸濁液を導入するステップと、
(c)上記角化細胞及び/又は線維芽細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(d)上記細胞培養装置を、上記基材が及び/又は該細胞が気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードに合わせるステップと、
(e)表皮の層化が起こることを許容するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む。
【0070】
別の態様において、本発明は、重層上皮組織を培養する方法に関し、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に細胞を含む第1の懸濁液を提供するステップと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合して、注入ポートを備えるチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備えるものである細胞培養装置であって、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)の少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が該懸濁液に浸漬し、かつ、任意に気体透過性材料と気体連通するものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記第1の懸濁液を導入するステップと、
(c)上記第1の懸濁液内の上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、該懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(d)任意に、上記細胞培養装置を、上記基材が上記気体透過性材料と気体連通で配設されていないものである第2のモードに合わせるステップと、
(e)上皮細胞を含む第2の懸濁液を、上記注入ポートを介して上記細胞培養装置に導入するステップと、
(f)上記上皮細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記第2の懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(g)上記細胞培養装置を、上記基材が及び/又は上記上皮細胞が上記気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第1のモードに合わせるステップと、
(h)上皮の層化が起こるのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む。
【0071】
別の態様において、本発明は、全層皮膚組織又は重層表皮組織を培養する方法に関し、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に線維芽細胞を含む懸濁液を提供するステップと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合して、注入ポートを備えるチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備えるものである細胞培養装置であって、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬し、かつ、任意に気体透過性材料と気体連通するものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記懸濁液を導入するステップと、
(c)上記線維芽細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(d)任意に、上記細胞培養装置を、上記基材が上記気体透過性材料と気体連通で配設されていないものである第2のモードに合わせるステップと、
(e)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に角化細胞を含む懸濁液を、上記注入ポートを介して上記細胞培養装置に導入するステップと、
(f)上記角化細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(g)上記細胞培養装置を、上記基材が及び/又は上記角化細胞が上記気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第1のモードに合わせるステップと、
(h)表皮の層化が起こるのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む。
【0072】
一実施形態では、ステップ(d)において第2のモードに合わせることにより、上記線維芽細胞が上記気体透過性材料に対して固定されているのとは反対の上記基材の面が、露出することになる。
【0073】
一実施形態では、上記方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に線維芽細胞を含む懸濁液を提供することと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合して、注入ポートを備えるチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備える細胞培養装置に対して、上記懸濁液を導入することと、
(c)上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬するものである第1のモードにあることと、
(d)上記線維芽細胞の少なくとも一部が上記基材に接着し、かつ、任意に上記線維芽細胞が増殖して1つ又は複数の皮層を形成することを許容するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートすることと、
(e)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に角化細胞を含む懸濁液を、上記注入ポートを介して上記細胞培養装置に導入することと、
(f)上記角化細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートすることと、
(g)上記細胞培養装置を、上記角化細胞が上記気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードに合わせることと、
(h)表皮の層化が起こるのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートすることとを含む。
【0074】
別の実施形態では、上記方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に線維芽細胞を含む懸濁液を提供することと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合して、注入ポートを備えるチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備える、細胞培養装置であって、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬するものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記懸濁液を導入することと、
(c)上記線維芽細胞の少なくとも一部が上記基材に接着し、任意に上記線維芽細胞が増殖して1つ又は複数の皮層を形成することを許容するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートすることと、
(d)上記細胞培養装置を、上記線維芽細胞が上記気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードに合わせることと、
(e)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に角化細胞を含む懸濁液を、上記注入ポートを介して上記細胞培養装置に導入することと、
(f)上記角化細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートすることと、
(g)上記細胞培養装置を、上記角化細胞が上記気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第1のモードに合わせることと、
(h)表皮の層化が起こるのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートすることとを含む。
【0075】
一実施形態では、上記基材は、上記1つ又は複数の細胞に対して不透過性である。
【0076】
別の実施形態では、上記基材は、上記1つ又は複数の細胞に対して透過性である。
【0077】
一実施形態では、少なくとも一部の線維芽細胞の上記基材への又は上記基材を介した遊走を許容するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートする。
【0078】
一実施形態では、少なくとも一部の線維芽細胞の増殖を許容するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートする。
【0079】
一実施形態では、線維芽細胞が肥厚した真皮を産生するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートする。別の実施形態では、細胞外基質沈着が起こるのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートする。
【0080】
様々な実施形態では、少なくとも1週間の期間、例えば少なくとも2週間又は少なくとも3週間、上記細胞培養装置をインキュベートする。或る実施形態では、少なくとも約1ヶ月の期間、例えば少なくとも約2ヶ月、上記細胞培養装置をインキュベートする。
【0081】
別の態様において、本発明は、重層上皮組織を培養する方法に関し、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に上皮細胞を含む懸濁液を提供するステップと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合して、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドを備えるチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)とを備えるものである細胞培養装置であって、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬し、かつ、気体透過性材料と気体連通でないものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記懸濁液を導入するステップと、
(c)上記上皮細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(d)上記細胞培養装置を、上記基材が上記気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードに合わせるステップと、
(e)上皮の層化が起こるのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む。
【0082】
別の態様において、本発明は、重層表皮組織を培養する方法に関し、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に角化細胞を含む懸濁液を提供するステップと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合して、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドを備えるチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)とを備える、細胞培養装置であって、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬し、かつ、気体透過性材料と気体連通でないものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記懸濁液を導入するステップと、
(c)上記角化細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、
(d)上記細胞培養装置を、上記基材が上記気体透過性材料と気体連通で配設されるものである第2のモードに合わせるステップと、
(e)表皮の層化が起こるのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む。
【0083】
一実施形態では、上記基材は、上記1つ又は複数の細胞に対して不透過性である。
【0084】
別の実施形態では、上記基材は、上記1つ又は複数の細胞に対して透過性である。
【0085】
一実施形態では、線維芽細胞の1つ又は複数の層が、上記基材の面の少なくとも一部にわたって配設される。
【0086】
さらなる態様において、本発明は、重層上皮組織を培養する方法に関し、該方法は、
(a)基材の面の少なくとも一部にわたって配設される、接着した上皮細胞又は上皮細胞を含む組織を提供するステップと、
(b)細胞培養装置に上記接着した上皮細胞又は上皮細胞を含む組織を導入するステップであって、該装置は、第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)とを備え、上記細胞培養装置は培地を含有し、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
上記装置が、上記基材、該接着した上皮細胞及び/又は上皮細胞を含む組織が上記培地に浸漬し、かつ、気体透過性材料と気体連通するものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記接着した上皮細胞又は上皮細胞を含む組織を導入するステップと、
(c)上皮の層化が起こるのに十分な時間の間、上記接着した上皮細胞又は上皮細胞を含む組織を含有する上記細胞培養装置をインキュベートするステップとを含む。
【0087】
一実施形態では、上記接着した上皮細胞は、角化細胞であり、上記重層上皮組織は、重層表皮組織である。
【0088】
さらなる態様において、本発明は、全層皮膚組織を培養する方法に関し、該方法は、
(a)基材の面の少なくとも一部にわたって配設される、接着した細胞又は組織を提供するステップと、
(b)細胞培養装置に上記接着した細胞又は組織を導入するステップであって、該装置は、第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)とを備え、上記細胞培養装置は培地を含有し、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
上記装置が、上記基材、該接着した細胞及び/又は組織が上記培地に浸漬し、かつ、気体透過性材料と気体連通するものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記接着した細胞又は組織を導入するステップと、
(c)上記接着した細胞又は組織を含有する上記細胞培養装置を、表皮の層化が起こるのに、及び/又は全層皮膚の産生が起こるのに十分な時間の間、インキュベートするステップとを含む。
【0089】
一実施形態では、上記接着した細胞又は組織は、1つ又は複数の細胞集団を含む。
【0090】
一実施形態では、例えば角化細胞である上記接着した細胞は、基材の面の少なくとも一部に対して接着する。
【0091】
一実施形態では、上記接着した細胞又は組織は、線維芽細胞を含む。別の実施形態では、上記接着した細胞又は組織は、角化細胞を含む。さらなる実施形態では、上記接着した細胞又は組織は、線維芽細胞及び角化細胞を含む。
【0092】
一実施形態では、上記角化細胞は、未分化である。
【0093】
一実施形態では、上記基材が、上記チャンバ内に配設可能であるスキャホールドと係合する。例えば、上記チャンバが、上記基材を受け入れるように構成されたスキャホールドを備える。別の例では、上記スキャホールドを上記チャンバに導入する前に、上記スキャホールドが上記基材を受け入れる。
【0094】
別の態様では、本発明は、生体適合性の基材上で細胞を培養する方法に関し、該方法は、
(a)少なくとも1つの気体透過性の面を有するチャンバであって、実質的に平面である生体適合性の気体透過性基材を受け入れるように構成されたスキャホールドであって、第1の位置から、上記気体透過性の面にあるか又は該面と隣接し、かつ、該面と気体連通する第2の位置への実質的に直線の移動が可能である上記スキャホールドを備えるものである、上記チャンバを提供するステップと、
(b)上記スキャホールドが上記チャンバ内で液体不透過な容積を画成するものである第1の位置にあるような第1のモードに、上記チャンバをもたらし、上記容積に、培養しようとする細胞を含む懸濁液を導入するステップと、
(c)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に細胞を含む第1の懸濁液を、上記細胞培養装置に導入するステップと、
(d)上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着することを許容するのに十分な時間の間、上記チャンバをインキュベートするステップと、
(e)上記チャンバ内で液体不透過な容積を画成するものであって、上記基材が上記気体透過性の面と気体連通するものである、第2の位置に上記スキャホールドがあるような第2のモードに、上記チャンバをもたらすステップと、
(f)任意に、細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に細胞を含む第2の懸濁液を、上記細胞培養装置に導入するステップと、
(g)1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層であって、上記基材の少なくとも一部にわたって配設される前記1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層の形成を許容するのに十分な時間の間、上記チャンバをインキュベートするステップとを含む。
【0095】
一実施形態では、上記方法は、上皮細胞、表皮細胞、又は上皮及び表皮両方の細胞を培養する方法である。
【0096】
一実施形態では、上記第1の懸濁液は、線維芽細胞及び角化細胞を含む。
【0097】
別の態様では、本発明は、生体適合性の基材上で細胞を培養する方法に関し、該方法は、
(a)少なくとも2つの気体透過性の面を有するチャンバであって、実質的に平面である生体適合性の気体透過性基材を受け入れるように構成されたスキャホールドであって、第1の気体透過性の面にあるか又は該面と隣接し、かつ、該面と気体連通する第1の位置から、第2の気体透過性の面にあるか又は該面と隣接し、かつ、該面と気体連通する第2の位置への実質的に直線の移動が可能である上記スキャホールドを備えるものである、上記チャンバを提供するステップと、
(b)上記チャンバ内で液体不透過な容積を画成するものであって、上記基材が上記第1の気体透過性の面と気体連通するものである、第1の位置に上記スキャホールドがあるような第1のモードに、上記チャンバをもたらすステップと、
(c)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に細胞を含む第1の懸濁液を、上記細胞培養装置に導入するステップと、
(d)上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着することを許容するのに十分な時間の間、上記チャンバをインキュベートするステップと、
(e)上記チャンバ内で液体不透過な容積を画成するものであって、上記基材が上記第2の気体透過性の面と気体連通するものである、第2の位置に上記スキャホールドがあるような第2のモードに、上記チャンバをもたらすステップと、
(f)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に細胞を含む第2の懸濁液を、上記細胞培養装置に導入するステップと、
(g)上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着することを許容し、かつ、1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層であって、上記基材の少なくとも一部にわたって配設される前記1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層を形成することを許容するのに十分な時間の間、上記チャンバをインキュベートするステップとを含む。
【0098】
一実施形態では、上記方法は、上皮細胞、表皮細胞又は上皮及び表皮両方の細胞を培養する方法である。
【0099】
一実施形態では、第1の細胞の懸濁液は、線維芽細胞を含む。一実施形態では、第2の細胞の懸濁液は、角化細胞を含む。
【0100】
一実施形態では、上記1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層の形成は、1つ又は複数の重層表皮組織の形成である。
【0101】
一実施形態では、上記1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層の形成は、全層皮膚の形成である。
【0102】
一実施形態では、上記スキャホールドの移動は、上記第1の気体透過性の面にあるか又は該面と隣接し、かつ、該面と気体連通する第1の位置から、上記第2の気体透過性の面にあるか又は該面と隣接し、かつ、該面と気体連通する第2の位置への、実質的に直線の移動である。一実施形態では、前記直線の移動は、上記スキャホールドが上記直線の移動に対して垂直な軸を中心として有意な回転又は反転をすることのないものである。
【0103】
別の態様において、本発明は、重層表皮組織を産生する方法に関し、該方法は、
(a)基材であって、接着した角化細胞が上記基材の面の少なくとも一部にわたって配設されている上記基材を提供することと、
(b)少なくとも1つの気体透過性界面を備える細胞培養装置を提供することと、
(c)上記角化細胞が上記気体透過性界面と接触するように、上記基材を該装置に導入することと、
(d)表皮の層化が起こることを許容するのに十分な時間の間、上記細胞培養装置をインキュベートすることとを含む。
【0104】
一実施形態では、上記方法は、基材であって、接着した線維芽細胞が上記基材の面の少なくとも一部にわたって配設されている上記基材を提供することを含む。一実施形態では、接着した角化細胞及び接着した線維芽細胞が、上記基材の一方の面の少なくとも一部にわたって配設される。一実施形態では、接着した角化細胞が、上記基材の一方の面の少なくとも一部にわたって配設され、接着した線維芽細胞が、反対側の面の少なくとも一部にわたって配設される。
【0105】
一実施形態では、上記方法は、重層表皮及び真皮を含む組織を産生する方法である。一実施形態では、上記方法は、全層皮膚を産生する方法である。
【0106】
一実施形態では、上記生体適合性の基材は膜であり、上記スキャホールドが、該膜を緊張させて保持するように構成されている。
【0107】
様々な実施形態では、該基材は、以下の、上皮除去した無細胞化真皮(Alloderm);真皮;コラーゲンゲルを含むコラーゲン及びコラーゲンを含む組織;臍帯、胎盤、粘膜、消化管からの組織又は細胞を含む表皮又は上皮系統の組織又は細胞;フィブロネクチン/フィブリン;多血小板血漿;マトリゲル;線維芽細胞などの細胞より分泌された細胞外基質を含む、細胞外基質の成分又は該細胞外基質を含む組織;ヒアルロン酸;PLGAを含む静電紡糸による生体適合性材料;生体適合性ポリマー又は生体適合性ポリマーの組み合わせであって、ポリアクリル酸、ポリ-L-リジン、コラーゲン、ゼラチン、ナイロン及びポリエステルを含む特に静電紡糸可能なもの;ゼラチン;ペプチドハイドロゲル;ポリグラクチン足場;Dermagraft;エラスチン;キトサン;フィブロイン;スパイダーシルク;アガロース;及び、これらの2つ以上の任意の組み合わせのうちの、1つ又は複数であるか又は1つ又は複数を含む。
【0108】
上記に羅列した細胞及び組織は、ヒト、ウマ、ブタ、ヒツジ、マウス、イヌ、ネコ及びウシを含む任意の動物源よりのものであってよいということがわかるであろう。
【0109】
当業者は、本開示を一読することにより、1つ又は複数の生物由来の物質を含む基材は、概して、さらに変形することなく本発明の特定の実施形態で、表皮の層化が起こるのに適切な刺激を提供する一方で、1つ又は複数の合成材料を含む基材は、表皮の層化への刺激を提供する、例えばコーティングなどの変形を典型的に必要とすることとなるということを認識するであろう。
【0110】
本発明の方法は、任意の動物細胞の培養を受け入れ得るということがさらにわかるであろう。特に、ヒトを含む哺乳動物細胞が想定される。
【0111】
本発明の方法は、例えば角化細胞の単一細胞の厚い層や、基底層、有棘層、顆粒層、透明層及び角質層のうちの少なくとも2つを含む重層上皮や、真皮及び表皮の層を含む全層皮膚である、上皮を含む組織の調製に用いることができる。
【0112】
様々な実施形態では、上記気体透過性材料は、最適な気体交換ならびに/又は細胞の成長、増殖及び/もしくは層化に関して選択される。
【0113】
一実施形態では、上記気体透過性材料は、250μm未満の厚さを有する気体透過性膜である。
【0114】
様々な実施形態、特に単一細胞の懸濁液を上記細胞培養装置に導入する実施形態では、該装置は、少なくとも10日であって、例えば少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日又は少なくとも17日以上に対して十分な成長培地を含有するのに十分な容積の装置である。
【0115】
一態様では、本発明は、本明細書に記載した方法によって又は本明細書に記載した培養装置で調製した、例えば上皮細胞、角化細胞、線維芽細胞又は角化細胞及び線維芽細胞である細胞を提供する。
【0116】
一実施形態では、上記角化細胞は、分化した角化細胞である。
【0117】
一実施形態では、上記細胞は、基材と接着する。
【0118】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載した方法によって又は本明細書に記載した培養装置で調製した、例えば上皮組織、重層上皮組織、表皮、重層表皮、重層表皮及び真皮、又は全層皮膚である組織を提供する。
【0119】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載した方法によって又は本明細書に記載した培養装置で調製した、線維芽細胞を含む皮層、角化細胞を含む重層表皮層、及び生体適合性の基材を含む、組織を提供する。
【0120】
一実施形態では、上記生体適合性の基材は、生分解性基材である。一実施形態では、上記生分解性基材が、真皮及び表皮の層の間に存在する。
【0121】
一実施形態では、上記組織は、上記基材に少なくとも部分的に埋め込まれる又は上記基材に少なくとも部分的に付着する、線維芽細胞を含む皮層、及び表皮層を含む。別の実施形態では、上記組織は、基材、上記基材の一方の面に付着した皮層、及び上記基材の反対側の面に付着した表皮層を含む。別の実施形態では、上記組織は、表皮層、表皮層の一方の面に付着した基材、及び表皮層の反対側の面に付着した皮層を含む。
【0122】
様々な実施形態では、皮層、表皮層、又は皮層及び表皮層は、上記基材に埋め込まれるか又は付着する。
【0123】
別の態様において、本発明は、それを必要としている対象の組織の損傷の治療における、本明細書に記載した方法で調製した、例えば表皮、重層表皮、重層表皮及び真皮、又は全層皮膚である組織の使用に関する。
【0124】
様々な実施形態では、上記治療は、創傷や、熱傷や、手術瘢痕を含む傷の治療である。
【0125】
さらなる態様において、本発明は、それを必要としている患者の組織の損傷を治療する方法を提供するものであって、該方法は、
(a)例えば本明細書に記載した方法において、例えば上皮組織、重層上皮組織、表皮、重層表皮、重層表皮及び真皮、又は全層皮膚などである組織が成長するものである本発明の装置を提供するステップと、
(b)上記装置から上記組織を無菌状態下で回収するステップと、
(c)対象に上記組織を適用するステップとを含む。
【0126】
概して、上記対象への組織の適用は、外科手術によることとなる。一実施形態では、無菌状態下での回収は、手術中に又は手術直前に、例えば手術室で行われる。
【0127】
概して、上記対象への組織の適用は、組織の損傷部位で又は組織の損傷部位付近になされることとなる。
【0128】
様々な実施形態では、上記組織の損傷は、創傷、熱傷、傷、手術部位等から選択される。
【0129】
様々な実施形態では、上皮組織を、消化管、外皮系、生殖器、気道上皮、感覚系又は泌尿器の領域に適用する。様々な実施形態では、上皮組織を、顎下腺管、付着歯肉、舌背、硬口蓋、食道、胃、大腸、小腸、直腸、肛門、胆嚢、甲状腺濾胞、皮膚、汗腺管、体腔の中皮、卵巣、卵管、子宮、子宮頸部、膣、大陰唇、直精細管、精巣網、精巣輸出管、精巣上体、輸精管、射精管、尿道球腺、精嚢、咽頭中央部、喉頭、喉頭、声帯、気管、呼吸細気管支、角膜、鼻、腎臓の近位尿細管、腎臓の細い上行脚、腎臓の遠位尿細管、腎臓の集合尿細管、腎盂、尿管、膀胱、尿道前立腺部、尿道膜性部、陰茎尿道又は外尿道口に対して適用するか、又は上皮組織が、顎下腺管、付着歯肉、舌背、硬口蓋、食道、胃、大腸、小腸、直腸、肛門、胆嚢、甲状腺濾胞、皮膚、汗腺管、体腔の中皮、卵巣、卵管、子宮、子宮頸部、膣、大陰唇、直精細管、精巣網、精巣輸出管、精巣上体、輸精管、射精管、尿道球腺、精嚢、咽頭中央部、喉頭、喉頭、声帯、気管、呼吸細気管支、角膜、鼻、腎臓の近位尿細管、腎臓の細い上行脚、腎臓の遠位尿細管、腎臓の集合尿細管、腎盂、尿管、膀胱、尿道前立腺部、尿道膜性部、陰茎尿道又は外尿道口を形成する。
【0130】
さらなる態様において、本発明は、上皮組織を含む構造を作製する方法を提供するものであって、該方法は、
(a)例えば本明細書に記載した方法において、例えば上皮組織、重層上皮組織、表皮又は重層表皮などである組織が成長するものである本発明の装置を提供するステップと、
(b)上記装置から上記組織を無菌状態下で回収するステップと、
(c)回収した該組織を操作して上記構造を形成するステップとを含む。
【0131】
さらなる態様において、本発明は、上皮組織を含む構造を作製する方法を提供するものであって、該方法は、
(a)例えば本明細書に記載した方法において、例えば上皮組織、重層上皮組織、表皮又は重層表皮などである組織が成長するものである本発明の装置を提供するステップと、
(b)上記装置から上記組織を無菌状態下で回収するステップと、
(c)対象に上記組織を適用するステップと、
(d)上記組織を操作して上記構造を形成するステップとを含む。
【0132】
様々な実施形態では、上記構造には、消化管、外皮系、生殖器、気道上皮、感覚系又は泌尿器の構造が含まれる。様々な実施形態は、上記構造は、顎下腺管、付着歯肉、舌背、硬口蓋、食道、胃、大腸、小腸、直腸、肛門、胆嚢、甲状腺濾胞、皮膚、汗腺管、体腔の中皮、卵巣、卵管、子宮、子宮頸部、膣、大陰唇、直精細管、精巣網、精巣輸出管、精巣上体、輸精管、射精管、尿道球腺、精嚢、咽頭中央部、喉頭、喉頭、声帯、気管、呼吸細気管支、角膜、鼻、腎臓の近位尿細管、腎臓の細い上行脚、腎臓の遠位尿細管、腎臓の集合尿細管、腎盂、尿管、膀胱、尿道前立腺部、尿道膜性部、陰茎尿道又は外尿道口を含む。
【0133】
さらなる態様において、本発明は、組織に対する化合物又は組成物の毒性を試験する方法を提供するものであって、該方法は、
(a)例えば本明細書に記載した方法において、例えば上皮組織、重層上皮組織、表皮、重層表皮、重層表皮及び真皮、又は全層皮膚などである組織が成長するものである本発明の装置を提供するステップと、
(b)上記組織に対して上記化合物又は組成物を塗布するステップと、
(c)上記組織に対して組織の損傷又は細胞死が起こるか否かを評価するステップとを含む。
【0134】
さらなる態様において、本発明は、化合物又は組成物の組織への透過性(permeability)であって、例えば経皮の透過性を試験する方法を提供するものであって、該方法は、
(a)例えば本明細書に記載した方法において、例えば表皮、重層表皮、重層表皮及び真皮、又は全層皮膚などである組織が成長するものである本発明の装置を提供するステップと、
(b)上記組織に対して上記化合物又は組成物を塗布するステップと、
(c)上記組織への上記化合物又は組成物の透過性を評価するステップとを含む。
【0135】
さらなる態様において、本発明は、組織において変化をもたらす化合物又は美容組成物、治療組成物もしくは栄養機能組成物の効能を試験する方法を提供するものであって、該方法は、
(a)例えば本明細書に記載した方法において、例えば表皮、重層表皮、重層表皮及び真皮、又は全層皮膚などである組織が成長するものである本発明の装置を提供するステップと、
(b)上記組織に対して上記化合物又は組成物を塗布するステップと、
(c)上記組織において変化をもたらす上記化合物又は該組成物の効能を評価するステップとを含む。
【0136】
一実施形態では、上記方法は、ステップ(a)に続く、上記装置から上記組織を回収するステップをさらに含む。代替的な実施形態では、上記方法は、上記装置内において、in situで組織に対して上記化合物又は組成物を塗布することを含む。
【0137】
本明細書で開示する数字の範囲(例えば、1から10)への言及はまた、その範囲内にある全ての有理数(例えば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9及び10)への言及を組み込むものであり、また、その範囲内にある任意の有理数の範囲(例えば、2から8、1.5から5.5及び3.1から4.7)への言及を組み込むということを意図している。
【0138】
本発明の関連する分野の当業者によれば、添付の請求項で規定するような本発明の範囲から逸脱することなく、構成物における多くの変形ならびに本発明の多様な実施形態及び用途に想到するであろう。本明細書における開示及び記載は、単なる説明であり、いかなる意味においても限定することを意図していない。
【0139】
概して、本発明は、本出願の明細書において、個々に又はまとめて言及した又は示した部品、要素及び特徴の中に、ならびに、前記部品、要素又は特徴の任意の2つ以上の組み合わせのうちのいずれか又は全ての中に存在するということを述べることもできるものであり、また本発明の関連する分野における公知の均等物を有する、特定の完全体を本明細書において取り上げる場合、そうした公知の均等物は、あたかも個々に述べたかのように本明細書に組み込まれるものとみなされる。
【0140】
この明細書において、特許明細書及び他の文書を含む、外部の情報源に対して言及した場合、これは概して、本発明の特徴を論じるための文脈を提供することを目的としている。別段の定めをした場合を除き、そうした情報源への言及は、いかなる権力下においても、そうした情報源が従来技術である又はこの分野における共通の一般知識の一部を形成しているということへの承認として解釈されるべきではない。
【0141】
ここで、ほんの一例により、以下の図面を参照しながら本発明を説明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0142】
図1図1は、第1の実施形態の装置の2つの分解斜視図である。
図2図2は、図1に示す装置の分解斜視図である。
図3-1】図3は、第2の実施形態の装置の透視図であり、(A)第1の位置と(B)第2の位置との間のスキャホールドの移動を示す。
図3-2】同上。
図4-1】図4は、第3の実施形態の装置の透視図であり、(A)第1の透視及び(B)第2の透視の図を示す。
図4-2】同上。
図5図5は、第4の実施形態の装置の分解透視図である。
図6図6は、図5に示す装置の透視図であり、(A)第1の位置と(B)第2の位置との間のスキャホールドの移動を示す。
図7図7は、第5の実施形態の装置の上方正面斜視図を示し、後壁513の面で該装置を通る横断面を伴う。
図8図8は、図7に示す実施形態の正面図を示し、(A)第1の位置及び(B)第2の位置にあるスキャホールドを示す。
図9図9は、図7の実施形態のスキャホールドの上面斜視図を示し、基材と係合するスキャホールドを示す。
図10図10は、図9の実施形態の左方図を示す。
図11図11は、図9の実施形態の底面斜視図を示し、基材を伴わない。
図12図12は、(A)図10の実施形態のA-A面を通る左方分解断面図(基材なし)と、(B)基材と係合するスキャホールドを示す、A-A面を通る左方断面図とを示す。
図13図13は、図9のスキャホールドの下方部材の代替的な実施形態の上面透視図を示す。
図14図14は、(A)図13に示す実施形態の下方スキャホールド部材のB-B面を通る断面図と、(B)上方スキャホールド部材で留めた基材を係合するスキャホールドを示す同断面図とを示す。
図15図15は、図9の実施形態の、封入された空気の放出機構を強調した図を示す。
図16図16は、図9のスキャホールドの下方側の斜視図を示す。
図17図17は、図9のスキャホールドの右方図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0143】
本発明は、細胞を培養する装置及び方法に関する。該装置は、第1の端壁と少なくとも1つの側壁とを備える容器と、取り外し可能な第2の端壁とを備えるものであって、2つ以上の壁のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容する。
【0144】
本発明は、本明細書に記載した方法によってもしくは本明細書に記載した培養装置において調製した組織、又は、そうした組織の、それを必要としている患者の組織の損傷の治療への使用にさらに関する。
【0145】
本明細書に記載した装置及び方法は、空気-液体界面を模倣した条件下で、例えば上皮細胞、重層上皮細胞、角化細胞、線維芽細胞及び/又は皮膚などの上皮組織である、細胞及び組織の培養を提供する。この条件は、上皮細胞の分化及び/もしくは層化ならびに/又は多細胞層もしくは多層組織の成長を促す高酸素濃度環境を提供する。本発明の装置及び方法は、気体透過性界面と気体連通で、例えば気体透過性界面において、細胞及び組織の成長をなす。
【0146】
本発明の方法及び装置の実施形態は、多くの利点を有し、以下に限定するものではないが、
・細胞及び組織の実用的かつ有効な作製
・例えば動物由来の化合物又は物質など、生体異物を用いることのない完全合成組織の産生
・培養組織及び細胞の製造費用の低減
・培養細胞及び組織の培養中の、使用者による操作の低減
・培養組織及び細胞の汚染の低減、又は
・細胞又は組織の培養中の、細胞又は組織の損失の低減又は収量の向上、が含まれる。
1.定義
【0147】
用語「及び/又は(and/or)」は、「及び(and)」又は「又は(or)」を意味し得る。
【0148】
本明細書で用いる場合、用語「備える、含む(comprising)」は「~のうちの少なくとも一部から成る(consisting at least in part of)」を意味する。本明細書において、その用語や、各文章においてその用語で前置きされた特徴を含む文章を解釈する場合、その全てが存在する必要があるが、他の特徴もまた存在する可能性がある。「備えている、含んでいる(comprise)」及び「備えた、含んだ(comprised)」などの関連用語は、同様の方法で解釈されたい。
【0149】
本明細書で用いる場合、用語「気体-液体界面(gas-liquid interface)又は空気-液体界面(air-liquid interface)」は、増殖又は分化する細胞又は組織が、空気又は気体と液体とに同時に接触した状態であるような面を意味する。空気-液体界面は、一部の細胞及び組織の成長に必要である。例えば、全層皮膚の成長には、空気-液体界面が必要であって、その空気-液体界面では、表皮の層化を誘発するために、成長皮膚の皮層が液体の細胞培地と接触し、表皮層が空気と接触した状態にある。一部の細胞又は組織の型に関しては、空気-液体界面もしくは気体-液体界面における又は空気-液体界面もしくは気体-液体界面に隣接するという高濃度酸素の培養条件が、細胞の成長、分化もしくは層化及び/又は多細胞層もしくは多層組織の形成を促す。
【0150】
本明細書で用いる場合、用語「気体透過性界面」は、気体環境と閉鎖環境との間に位置する面であって、気体交換が起こることは許容するが液体封止されている面を意味する。本明細書に記載した装置内に1つ又は複数存在する気体透過性界面が、空気-液体又は気体-液体界面での場合と同様の方法で、細胞又は組織の増殖、分化及び/又は層化を促す界面を提供する。特に、本明細書に記載した装置内に1つ又は複数存在する気体透過性界面は、上皮細胞の、例えば角化細胞の増殖及び分化ならびに/又は上皮もしくは表皮の層化を促す界面を提供する。
【0151】
本明細書で用いる場合、用語「気体透過性材料」は、それを通して気体交換が起こり得る材料を意味する。本明細書に記載した装置での使用には、特に気体透過性膜を意図している。
【0152】
本明細書で用いる場合、用語「気体連通する」は、本発明の装置のスキャホールドと、気体透過性材料、又は基材及び気体透過性材料上に配設された基材、細胞もしくは組織との間の相互作用に関して、基材、細胞又は組織に対して例えば高濃度酸素を送達するために環境と基材又は細胞(例えばスキャホールドに配設された基材又は細胞)との間で気体交換が起こることを許容するように、スキャホールド、基材、細胞又は組織を気体透過性材料に対して十分に近接させることを意味する。一部の実施形態では、スキャホールド、基材又は細胞は、気体透過性材料と直接接触する。他の実施形態では、スキャホールド、基材又は細胞は、気体透過性材料と直接接触しない。例えば、様々な実施形態では、スキャホールド、基材又は細胞は、約0.01、0.025、0.05、0.1、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、9又は約10mm未満の距離に保たれ、有用な範囲としては、これらの値のいずれかの範囲の中から、例えば、約0から約10mm、約0から約5mm、約0から約2mm、約0から約1mm、約0から約0.5mm、約0から約1mm、約0.1から約10mm、約0.1から約5mm、約0.5から約5mm又は約2から約5mmから選択できる。
【0153】
名詞に続く用語「(s)」は、単数もしくは複数形又はその両方を意図する。
【0154】
用語「対象(subject)」は、動物であり、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指すことを意図する。哺乳動物対象は、ネコ、イヌ及びウマを含む。他の哺乳動物対象には、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、シカ又は家禽を含む農業動物又は、サル、ラット、マウス、ウサギ又はモルモットを含む実験動物が含まれる。
【0155】
用語「治療する」及びその派生語は、それらの最も広い、可能性のある文脈で解釈されたい。この用語は、対象が完全に回復するまで治療するということを暗示しているととるべきではない。したがって、「治療する」は、対象の疾患の進行、症状もしくは熱傷や創傷の、実質的に静的な水準の治癒を維持すること、症状の発症もしくは特定の状態、熱傷、創傷や他の負傷の重症度の対象の回復、改善及び/もしくは回避の割合を上げること、又は、患者の生活の質を上げることを広く含む。用語「治療する」はまた、過敏な患者の健康の維持と、疾患、感染又は伝染を回避する耐久力を育むこととを広く含む。
2.装置
【0156】
本発明の装置は、空気-液体界面への暴露を必要とし、又は空気-液体界面への暴露が有効となり、それらの成長、分化又は層化が刺激又は促される細胞及び/又は組織の培養又は作製(engineering)を提供する。本発明の装置は、液体に浸漬し、気体透過性の面と気体連通する細胞又は組織の培養を提供する。
【0157】
図1に、第1の実施形態の装置を示す。装置100が、第1の端壁111と少なくとも1つの側壁112とにより形成される容器110と、取り外し可能な第2の端壁120とを備える。
【0158】
容器110は、第2の端壁120と封着係合して、液封を形成するように構成されている。容器110と第2の端壁120とが係合すると、チャンバ130を画成する。
【0159】
図1に示すように本発明の第1の実施形態では、フランジ114が、末端113において又は末端113に面する容器110から横方向に延びる。一実施形態では、フランジ114が、Oリング(図示せず)、例えばゴム製Oリングを保持するように構成された溝115を画成する。容器が第2の端壁120と係合すると、Oリングが液封を形成する。
【0160】
一実施形態では、第2の端壁120が、容器110に固定される。例えば第2の端壁120は、ナット及びボルトを用いて容器110に固定される。
【0161】
様々な実施形態では、第2の端壁120は、摩擦嵌め、ねじ設備又は1つもしくは複数のクランプにより容器110と係合するように構成される。
【0162】
一実施形態では、側壁112又は第2の端壁120は、流体封止可能な少なくとも1つのアクセスポート117を備える。一実施形態では、上記装置は、ポート117と係合して液封を形成する栓又は他の部材などである、栓をさらに備える。例えば、一実施形態では、上記装置が、ポート117と係合して液封を形成するゴム製栓(図示せず)を備えるものであって、該ゴム製栓を介して、チャンバ内に細胞又は培地を注入する針を挿入できる。針を取り外すと、液封が復帰する。
【0163】
一実施形態では、容器110及び/又は第2の端壁120は、実質的にポリカーボネートで形成される。容器110及び/又は第2の端壁120の形成に用いる好適な材料は、滅菌可能である材料、例えば、オートクレーブ滅菌可能であるか又は照射できる材料である。
【0164】
第2の端壁120、端壁111及び少なくとも1つの側壁112のうちの2つ以上の少なくとも一部は、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成されている。例示的な実施形態では、第1の端壁111及び第2の端壁120のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成されている。
【0165】
一実施形態では、端壁又は側壁の内面に、気体透過性材料が配置される。一実施形態では、接着剤を用いて、気体透過性材料が取り付けられる。
【0166】
気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合する第2の端壁120、第1の端壁111及び/又は側壁112のうちの一部は、図1に示すように、穿孔されて気体交換を許容する。一実施形態では、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合する第2の端壁、第1の端壁及び/又は側壁のうちの一部は、複数の穿孔140を備える。例示的な実施形態では、穿孔140は直径約3mmである。一実施形態では、該穿孔は、気体透過性材料と実質的に同一の面積に広がり、それによって端壁120及び111のそれぞれの内面上に気体透過性界面を形成する。
【0167】
一実施形態では、装置100を外部の面に置くときに、第1の端壁111及び/又は第2の端壁120の外面が上記外部の面と接触しないように構成されたフランジが、第1の端壁111及び/又は第2の端壁120より延びている。装置内にフランジが1つ又は複数存在することで、穿孔140及び気体透過性材料を介した外部環境と装置のチャンバとの間での気体交換を高めることができる。
【0168】
一実施形態では、装置100の使用中、気体透過性材料が存在して穿孔140を全体的に覆うように広がっているとき、チャンバ130は、上記環境から液体封止可能であるが、上記環境と気体連通である。
【0169】
一実施形態では、気体透過性材料は、気体透過性膜である。
【0170】
様々な実施形態では、気体透過性材料は、約50、75、100、120、125、140、145、150、155、160、170、175、200、225、250、300、350、400、450μm未満か、又は約500μm未満の厚さを有し、有用な範囲は、これらの値のいずれかの範囲から選択でき、例えば、約50から約500μm、約100から約200μm、又は約125から約175μmである。
【0171】
一実施形態では、気体透過性材料は、ポリジメチルシロキサン、シリコーン、フルオロエチレンポリプロピレン、ポリオレフィン、又はエチレン酢酸ビニル共重合体である。
【0172】
気体透過性、透湿性、細胞との生体適合性及び物理的強度又は健全性の程度を含んだ特性が、装置で使用する好適な気体透過性材料を選択するために重要な検討事項となるということがわかるであろう。
【0173】
装置100は、チャンバ130内に配置される、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールド150をさらに備える。一実施形態では、スキャホールド150は、装置から取り外し可能である。
【0174】
一実施形態では、スキャホールド150は、第1の端壁111及び/又は第2の端壁120と実質的に平行に配向される。
【0175】
一実施形態では、スキャホールド150は、実質的に平面であり、基材を保持するように構成された枠体の形をとり得る。一実施形態では、スキャホールドは、スキャホールド内又はスキャホールド上に基材を緊張させて保持するクランプ又はクリップを備える。
【0176】
一実施形態では、基材は、スキャホールド150に対して直接的に固定されるか又は取り付けられる。
【0177】
一実施形態では、装置は複数のスキャホールドを備えるものであって、各スキャホールドは、独立した基材を備える。一実施形態では、各スキャホールドは、異なる基材を備える。一実施形態では、各スキャホールドは、同一の基材を備える。
【0178】
別の実施形態では、スキャホールドは、複数の分離した基材を備える。一実施形態では、該分離した基材は、同一の基材である。別の実施形態では、該分離した基材は、異なる基材である。
【0179】
代替的な実施形態では、基材を備える部材を、スキャホールド150に対して、例えば粘着により、固定により、又は摩擦嵌めにより嵌め込ませる。
【0180】
スキャホールド150は、1つ又は複数の側壁112と係合し、第1の端壁111における又は第1の端壁111に面する第1の位置と、第2の端壁120における又は第2の端壁120に面する第2の位置との間でのスキャホールド150の実質的に直線の移動が許容され、使用中で装置100が反転している場合には逆の方向への移動が許容されるように、構成されている。第1の位置もしくは第2の位置のいずれか又は第1の位置及び第2の位置の両方において、基材が気体透過性材料と気体連通する。一実施形態では、基材が気体透過性材料と接触する。
【0181】
例えば、使用中に第1の端壁111が装置の底部にあって第2の端壁120が上部にあるような第1のモードに装置100が配向されている場合は、スキャホールド150は、第1の端壁111における又は第1の端壁111に面する第1の位置に配置される。第1の端壁111が上部にあるように反転した第2のモードに装置100が配向されている場合には、スキャホールド150は、重力によって、第2の端壁120における又は第2の端壁120に面する第2の位置の方へ直線移動する。
【0182】
少なくとも1つの側壁112に対して垂直な軸を中心としたスキャホールドの回転又は反転が制限されるように、スキャホールド150は、1つ又は複数の側壁112と係合するように構成される。
【0183】
一実施形態では、スキャホールド150は、少なくとも1つの側壁112にある1つ又は複数の相補的な溝と係合する1つ又は複数の突起を有し、スキャホールド150の並進的な移動は許容するが回転的な移動を制限する。代替的な実施形態では、少なくとも1つの側壁112が、スキャホールド150内の1つ又は複数の相補的な溝と係合する1つ又は複数の突起を有する。
【0184】
一実施形態では、スキャホールド150は、ステンレス鋼により形成する。他の好適な材料としては、チャンバ130がある量の液体で満たされて、装置が反転するときに、スキャホールド150が第1の位置から第2の位置へ液体の中を移動するのに十分な密度の材料が挙げられるということがわかるであろう。スキャホールドを形成する好適な材料には、生体適合性があり、組織の培地が原因となる酸化又は分解に対して耐性がある材料が含まれる。
【0185】
一実施形態では、スキャホールド150は、装置100が反転するときにチャンバ130内で液体の移動を許容し、封入された空気を放出する1つ又は複数の孔を備える。
【0186】
スキャホールド150の並進的な移動は導くが回転的な移動を制限するような、他の系を用いてよいことがわかるであろう。
【0187】
代替的な実施形態では、図2に示すように、容器110は円筒形状である。この実施形態では、第1の端壁111、第2の端壁120、フランジ114及び/又はスキャホールド150もまた円形形状であり得る。
【0188】
スキャホールドの並進的な移動は導くが回転的な移動は制限する代替的な系を備えた、第2の実施形態の装置を図3に示す。
【0189】
装置200が、ダブルアームレバーにより操作されて第1及び第2の位置間で実質的に直線の移動を達成するスキャホールド250を備える。
【0190】
この実施形態では、スキャホールド250は、スキャホールド250の両側から側壁212に向かって延びるピン251に固定的に取り付けられるか又は該ピン251と一体である、枠体の形をとる。ヒンジ式レバー253が、移動可能にピン251と係合し、かつ、それぞれ反対の向きに延びて、側壁212を通って延びるピン254と固定的に係合する。
【0191】
一実施形態では、装置200は、側壁212内の孔と封止可能に係合し、ピン254を収納する1つ又は複数の栓255を備える。
【0192】
装置200は、互いに対向する側壁212の外側に配置されてピン254と固定的に係合される1つ又は複数の対向するハンドル256をさらに備える。複数のハンドルを備えた実施形態では、都合よく、ハンドル256が互いに反対の向きに延びる。
【0193】
図3の(A)に示す第1の位置からのスキャホールド250の並進的な直線の移動は、側壁212に対して垂直な軸を中心として1つ又は両方のハンドル256を回転して、ヒンジ式レバー253を開くように駆動し、スキャホールド250を図3の(B)に示す第2の位置に上昇させることで達成する。
【0194】
スキャホールドの並進的な移動は導くが回転的な移動は制限する、さらなる代替的な系を備えた、第3の実施形態の装置を図4に示す。
【0195】
この実施形態では、スキャホールド350が、スキャホールド350の互いに対向する側から側壁312に向かって延びるレバーアーム353と移動可能に係合する。レバーアーム353は、スキャホールド350の互いに対向するコーナーにおいて、又は該コーナーに面してスキャホールド350と係合する。
【0196】
レバーアーム353は、互いに対向する向きに延びて、側壁312を通って延びるピン354と固定的に係合する。
【0197】
装置300は、互いに対向する側壁312の外側に配置されてピン354と固定的に係合される1つ又は複数の互いに対向するハンドル356をさらに備える。複数のハンドルを備えた実施形態では、都合よく、ハンドル356が互いに対向する方向に延びる。
【0198】
スキャホールド350の、第1の位置からの第2の位置への並進的な直線の移動は、側壁312に対して垂直の軸を中心として1つ又は両方のハンドル356を回転させることによって、レバーアーム352を互いに広げるようにさせてスキャホールド350が上昇する、又は下降することで達成する。
【0199】
第4の実施形態の装置を図5に示す。
【0200】
装置400が、第1の端壁411と側壁412とにより形成される容器410と、第2の端壁420とを備える。
【0201】
容器410は、第2の端壁420と封着係合して、液封を形成して、チャンバ430を画成するように構成されている。装置400は、フランジ414と、装置100に関して上述した封止設備とを備えてよい。
【0202】
一実施形態では、少なくとも1つの側壁412が、流体封止可能な少なくとも1つのアクセスポートを備える。一実施形態では、装置は、ポートと係合して液封を形成する栓418又は他の部材をさらに備える。
【0203】
第2の端壁420の少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成されている。一実施形態では、図4に示すように、第2の端壁420の2つ以上に分離した領域が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成される。
【0204】
気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合する第2の端壁420の1つ又は複数の領域は、装置100で説明したように、穿孔されて気体交換を許容する。一実施形態では、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合する第2の端壁の1つ又は複数の領域は、複数の穿孔440を備える。
【0205】
一実施形態では、装置400が使用中、気体透過性材料が存在して穿孔440を備える両領域を全体的に覆うように広がっている場合、チャンバ430は、環境から液体封止可能であるが、上記環境と気体連通である。
【0206】
装置400は、チャンバ430内に配置される、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールド450をさらに備える。基材は、装置400について上述したように、スキャホールド450に取り付けられ得る又は嵌め込まれ得る。
【0207】
一実施形態では、スキャホールド450は、取り外し可能である。別の実施形態では、スキャホールド450は、装置400に固定される。
【0208】
スキャホールド450は、1つ又は両方の側壁412と係合し、1つ又は両方の側壁412に対して垂直な軸を中心としたスキャホールド450の実質的に回転的な移動が許容されるように構成される。
【0209】
スキャホールド450の移動を図6に示す。
【0210】
一実施形態では、スキャホールド450が、側壁412間のチャンバ430の幅の全域にわたって延びるピン451と係合する。
【0211】
一実施形態では、スキャホールド450は、ピン451に固定的に取り付けられる。ピン451は、1つ又は両方の側壁412に対して垂直な軸を中心として、自由に回転する。この実施形態では、装置が、容器410の外側に配置されて、ピン451の末端に固定的に取り付けられるハンドル452を備える。一実施形態では、装置は、ピン451の反対側の末端から延びる第2のハンドルを備える。
【0212】
スキャホールド450は、図6の(A)に示す第1の位置と、図6の(B)に示す第2の位置との間を移動する。第1の位置において、スキャホールド450の一方の側が、端壁420の第1の領域と接触している。一実施形態では、端壁420の第1の領域が、気体透過性材料を含み、基材が、第1の位置にある気体透過性材料と気体連通するか、又は第1の位置にある気体透過性材料と直接接触する。
【0213】
使用者は、スキャホールド450の反対側の平面が、端壁420の第2の領域と接触するように、ピン451を中心としてハンドル452を回転させることによってスキャホールド450を動かし、スキャホールド450を第2の位置へ移動させる。一実施形態では、端壁420の第2の領域が、気体透過性材料を含み、基材が、第2の位置にある気体透過性材料と気体連通するか、又は第2の位置にある気体透過性材料と直接接触する。
【0214】
スキャホールド450の回転的な移動を導く、他の系を用いてよいことがわかるであろう。
【0215】
一実施形態では、装置400が、第1の端壁411の内面から第2の端壁420の方へ延び、側壁412間に延びる仕切り(図示せず)を備え、チャンバ430を二等分して2つのサブチャンバを形成する。この仕切りは、スキャホールド450の回転的な移動を妨害しないように構成される。一実施形態では、ピン451が、この仕切り内に収納され得る。
【0216】
1つ又は両方のサブチャンバに、培地を加えることができる。1つのサブチャンバへ培地を加えることにより、チャンバの大きい気体容量を提供しつつ、サブチャンバ内に配置された細胞又は組織の成長及び分化に十分な量の培地を提供し、それによって、チャンバ内の培地及び気体間の界面における気体交換を最大化する。
【0217】
一実施形態では、容器の1つ又は複数の側壁を変形可能である。この実施形態では、変形可能な側壁を人手で操作することにより、容器の第1及び第2の端壁間の少なくとも中途で、スキャホールドの並進的な移動を有効にする又は許容する。
【0218】
一実施形態では、装置が、気体透過性材料を少なくとも部分的に覆う、取り外し可能な又は溶解可能なカバーを備える。このカバーは、使用者が取り除き、培地、細胞、組織又は基材を気体透過性材料と接触状態にさせることができる。
【0219】
一実施形態では、取り外し可能なカバーは、溶解可能な材料を含む。このカバーは、装置のチャンバに液体を加えると溶解する。
【0220】
第5の実施形態の装置を図7に示す。
【0221】
装置500が、側壁512、後壁513、前壁(図示せず)により形成される本体510と、互いに対向して取り外し可能な端壁520及び521とを備える。
【0222】
一実施形態では、本体510は、端壁520及び521と封着係合して、液封を形成するように構成されている。一実施形態では、端壁520及び521を、ねじを用いて本体510に固定すると、液封が形成される。当業者にとっては、上記で論じたものを含めて、用いられ得る他の好適な固定手段が明らかであるであろう。
【0223】
本体510と、端壁520及び521とが係合すると、チャンバを画成する。
【0224】
一実施形態では、本体510のいずれかの壁が、流体封止可能な少なくとも1つのアクセスポート517を備える。一実施形態では、上述したように、アクセスポート517と係合する栓又は他の部材を用いて液封を形成する。
【0225】
図7に示すように、端壁520及び521が、チャンバと環境との間の気体交換を許容する複数の穿孔540を備える。端壁520及び521の少なくとも一部は、装置500が使用中であるときに、チャンバが環境から液体的に封止されるが環境と気体連通であるように、穿孔540を全体的に覆うように広がる気体透過性材料(図示せず)と係合するように構成される。それによって、各端壁520及び521の内面で、気体透過性界面(GPI(gas permeable interface))が形成される。
【0226】
使用の際は、GPIが、装置内の培地への気体拡散を提供し、GPIと直接接触する基材上に細胞を播種したときに細胞又は組織の増殖、分化及び/又は層化を促す。
【0227】
装置500は、チャンバ内に配置される、基材551を受け入れるように構成されたスキャホールド550を備える。
【0228】
図8に示すように、スキャホールド550は、1つ又は複数の側壁512と係合して、端壁520における又は端壁520に面する第1の位置(A)と、端壁521における又は端壁521に面する第2の位置(B)との間でのスキャホールド550の実質的に直線の並進的な移動が許容されるように構成される。使用中、装置500を反転させると、スキャホールド550は、第1の及び第2の位置間を移動する。
【0229】
一実施形態では、装置500及びスキャホールド550の寸法は、スキャホールドのいずれかの寸法(幅又は長さ)が、装置よりも大きく、深くなるようにする。これら寸法が、回転的な移動を制限して装置内でのスキャホールド550の湾曲や詰まりを回避しつつ、第1の及び第2の位置間でのスキャホールド550の平滑な直線の並進的な移動を保証する。
【0230】
上述した系を含めて、スキャホールドの並進的な移動は導くが回転的な移動を制限する、他の系を用いてよいことがわかるであろう。
【0231】
使用中、スキャホールド500が図8Aに示す第1の位置にあるとき、基材551の上方面が、端壁520の内面のGPIと接触する。
【0232】
使用中、スキャホールド550が図8Bに示す第2の位置にあるとき、基材551の下方面が、端壁521の内面のGPIと近接はするが直接接触しない。
【0233】
使用の際は、角化細胞など、増殖、分化又は層化のためにGPIとの接触が必要な細胞又は組織は、基材551の上方面に播種するべきである。言い換えると、細胞又は組織は、スキャホールド550が図8Bに示す第2の位置にあるときに、装置に加えられるべきである。
【0234】
代替的な実施形態(図示せず)では、端壁521の一部が上昇して、気体透過性材料を係合するプラットフォームを形成する。この実施形態では、該プラットフォームは、使用中、スキャホールド550が第2の位置にあるときに、基材551の下方面が端壁521のGPIと接触するように構成される。この実施形態では、装置500を、使用中に基材551の上方面が第1の位置のGPIと接触して下方面が第2の位置のGPIと接触するように、操作することができる。
【0235】
使用中、チャンバに加えた細胞が、基材551に接着する。細胞は、基材551の上方面、基材551の下方面又は基材551の上方及び下方面の両方に接着できる。
【0236】
一実施形態では、スキャホールド550は、図9に示すような枠体の形を取る。スキャホールド550は、基材551を緊張させて保持するように構成される。好ましい実施形態では、基材551がスキャホールド550の上端の実質的に全てを覆う。
【0237】
一実施形態では、図10に示すように、スキャホールドが、下方部材552と上方部材553とを備える。
【0238】
一実施形態では、下方部材552は、図11に示すような格子を形成し、基材を支持して、使用中に装置を反転させたときに、液体及び空気がスキャホールドを通過することを許容する。
【0239】
図12に示すように、下方部材552及び上方部材553は、使用中にスキャホールド上に基材を保持するように構成されている。実質的に平面である基材551を、下方部材552の上面の全域にわたって配置する。下方部材552は、その周囲の周辺において上方部材553と係合して、基材551を緊張させて保持する摩擦嵌めを形成する形状である。一実施形態では、下方部材552及び上方部材553は、スキャホールド550の全周の周辺において基材を保持する。
【0240】
一実施形態では、スキャホールド550が、下方部材552及び上方部材553を固定的に係合する1つ又は複数のクリップ又はクランプ部材を備える。
【0241】
下方部材552の代替的な実施形態を図13に示す。この実施形態では、下方部材552が、その上面上に1つ又は複数の凸部5521を備える。使用の際は、上方部材553が、基材全体にわたって、下方部材552に嵌入するとき、凸部5521が、図14に示すように基材に突き刺さる。このように基材をスキャホールドに固定することで、使用中の基材の収縮又はズレを回避することができる。
【0242】
一実施形態では、スキャホールド550が、図15に示すように、基材の下に封入された空気がスキャホールドを通過することを許容する、1つ又は複数の孔554を備える。例示的な一実施形態では、孔554は、スキャホールド550の2つ以上のコーナーに位置する。
【0243】
一実施形態では、スキャホールド555が、図16及び17に示すように、スキャホールドの枠体の側部の長さに沿った位置に位置する1つ又は複数の凹部555を備える。使用の際は、工具を凹部555に挿し込み、下方部材552と上方部材553とが離れるように持ち上げ、基材をスキャホールドから外すことができる。
3.方法
【0244】
一部の細胞及び組織の培養又は作製は、酸素を豊富に含む環境から恩恵を受けるか又は酸素を豊富に含む環境を必要とする。これは、空気-液体界面において細胞又は組織の成長をなす培養技術を用いて達成できる。これら技術は、典型的に、組織培養容器のチャンバ内に存在する気体に近接した液体の組織培地の表面に、細胞又は組織を配置することが必要である。こうした技術は、特に、広い面積をもつ組織を成長させるためには、正確に実施することが極めて難しい。何週間にもわたってこうした培養を維持することは、組織の全ての部分に対して一貫した培地深さを維持することの現実的な難しさが原因となって、必然的に、細胞の成長にとって最適以下の条件となる。典型的に、複数回の培地の交換が必要であるが、これは細胞又は組織を汚染の危険にさらすものである。
【0245】
本発明は、空気-液体界面に暴露する必要がある、又は高酸素濃度環境の培養による恩恵を受ける、細胞又は組織を培養又は作製する、効果的で正確な方法を提供する。
【0246】
本明細書に記載した方法及び装置は、細胞から複雑な組織を培養又は作製するために用いることができる。上記方法及び装置は、細胞の増殖及び分化を促して複雑な組織構造が形成される環境を提供する。
【0247】
様々な実施形態では、上記方法は、例えば角化細胞などの表皮細胞である上皮細胞を培養する方法である。
【0248】
様々な実施形態では、上記方法は、上皮細胞の増殖又は分化を刺激又は維持する方法である。
【0249】
様々な実施形態では、上記方法は、基材上で1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層を培養する方法であって、該1つ又は複数のコンフルエントな層は、基材の少なくとも一部にわたって配設される。一実施形態では、上記方法は、多細胞層に細胞を培養する方法である。
【0250】
一実施形態では、上記方法は、組織を培養する方法である。様々な実施形態では、上記方法は、上皮組織(上皮)、重層上皮組織、表皮組織(表皮)、重層表皮組織、又は重層表皮組織及び真皮組織(真皮)を含む、組織を培養する方法である。
【0251】
一実施形態では、上記方法は、上皮を培養する方法である。様々な実施形態では、上記方法は、角化細胞の単一細胞の厚い層、又は基底層、有棘層、顆粒層、透明層及び角質層のうちの少なくとも2つを含む重層上皮を培養する方法である。
【0252】
特に想定される実施形態では、上記方法は、皮膚又は皮膚組織を培養する方法である。特に好ましい実施形態では、上記方法は、真皮及び表皮層、又は全層皮膚を含む皮膚を培養する方法である。
【0253】
様々な実施形態では、細胞、組織、上皮又は皮膚は、ヒト又は非ヒト動物由来である。一実施形態では、細胞、組織、上皮又は皮膚は、哺乳動物のものである。様々な実施形態では、細胞、組織、上皮又は皮膚は、ヒト、サル、ウサギ、ウマ、ブタ、ヒツジ、マウス、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ又はトリのものである。
【0254】
様々な実施形態では、上皮組織(上皮)は、単一細胞の密集である単層上皮、2つ以上の層の密集である重層上皮、円柱上皮、扁平上皮、立方上皮、移行上皮、又は多列上皮を含む。様々な実施形態では、上皮は、角化又は非角化である。一実施形態では、上皮は繊毛性である。一実施形態では、上皮は微小絨毛である。様々な実施形態では、上皮は、単層円柱上皮、重層扁平上皮、単層立方上皮又は多列円柱線毛上皮である。様々な実施形態では、上皮は、肺胞上皮、内皮、中皮、胚上皮、気道上皮、角膜上皮、嗅上皮又は尿路上皮である。
【0255】
一態様においては、本発明は、細胞を培養する方法を提供するものであって、該方法は、
(a)細胞の成長を支持するのに十分な量の組織培地中に培養しようとする細胞を含む懸濁液を提供することと、
(b)第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)と、細胞に関して上に載置される基材を受け入れるように構成されたスキャホールドとを備える、細胞培養装置であって、
少なくとも上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
該装置が、上記基材が上記懸濁液に浸漬し、かつ、任意に気体透過性材料と接触するものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に対して、上記懸濁液を導入することと、
(c)上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートすることと、
(d)上記細胞培養装置を、上記基材が気体透過性材料に配設されるものである第2のモードに合わせることと、
(e)上記細胞培養装置を、
(i)細胞のコンフルエンスが起こるか、
(ii)細胞の分化が起こるか、
(iii)細胞の増殖が起こるか、
(iv)1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層、例えば上記基材の少なくとも一部にわたって配設される1つ又は複数のコンフルエントな細胞の層が、形成されるか、
(v)重層組織、例えば重層表皮組織の形成が起こるか、
(vi)組織の成長が起こるか、
(vii)上記基材への又は上記基材を介した、例えば線維芽細胞である少なくとも一部の細胞の遊走が許容されるか、又は
(viii)(i)から(v)のうちの任意の2つ以上の組み合わせが起こるのに、十分な時間の間インキュベートすることとを含む。
【0256】
一実施形態では、上記懸濁液は、同種の(homogenous)細胞集団を含む。一実施形態では、上記懸濁液は、異種の(heterogenous)細胞集団を含む。
【0257】
一実施形態では、上記懸濁液は、組織消化物又は一部精製した組織消化物から得た細胞を含む。例えば、一実施形態では、上記懸濁液は、皮膚消化物から得た細胞を含む。
【0258】
様々な実施形態では、細胞は、足場依存性細胞又は接着細胞である。一実施形態では、細胞は、角化細胞、線維芽細胞、又は角化細胞及び線維芽細胞を含む。
【0259】
様々な実施形態では、細胞は、色素産生細胞、血管細胞、多能性幹細胞又は免疫細胞を含む。一実施形態では、細胞は、メラノサイト、内皮細胞、平滑筋細胞、モノサイト、マクロファージ、Tリンパ球、血小板、肥満細胞、脂肪細胞又は間葉細胞を含む。
【0260】
一実施形態では、組織培地は、Green培地である。様々な実施形態では、組織培地は、塩類、成長因子、ホルモン及び/又は抗生物質を含む。他の細胞又は組織の型の成長には、異なる組織培地が適切であり得、及び/又は異なる培地添加剤を用いてよいということがわかるであろう。
【0261】
様々な実施形態では、上記装置は本発明の装置である。
【0262】
一実施形態では、細胞の懸濁液は、チャンバに存在するアクセスポート、例えば容器に存在するアクセスポートを介して導入する。別の実施形態では、細胞の懸濁液は、第2の端壁(上部)を取り付ける前に容器に導入する。
【0263】
一実施形態では、基材は生体適合性である。一実施形態では、基材は生分解性である。一実施形態では、基材は細胞に対して不透過性である。別の実施形態では、基材は細胞に対して透過性である。一実施形態では、基材は気体透過性である。別の実施形態では、基材は気体不透過性である。
【0264】
様々な実施形態では、該基材は、上皮除去した無細胞化真皮(Alloderm);真皮;コラーゲンゲルを含むコラーゲン及びコラーゲンを含む組織;臍帯、胎盤、粘膜、消化管からの組織又は細胞を含む表皮又は上皮系統の組織又は細胞;フィブロネクチン/フィブリン;多血小板血漿;マトリゲル;線維芽細胞などの細胞より分泌された細胞外基質を含む、細胞外基質の成分又は該細胞外基質を含む組織;ヒアルロン酸;PLGAを含む静電紡糸による生体適合性材料;生体適合性ポリマー又は生体適合性ポリマーの組み合わせであって、ポリアクリル酸、ポリ-L-リジン、コラーゲン、ゼラチン、ナイロン及びポリエステルを含む特に静電紡糸可能なもの;ゼラチン;ペプチドハイドロゲル;ポリグラクチン足場;Dermagraft;エラスチン;キトサン;フィブロイン;スパイダーシルク;アガロース;及び、これらの2つ以上の任意の組み合わせのうちの、1つ又は複数であるか又は1つ又は複数を含む。
【0265】
例示的な実施形態では、上記基材は、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA(poly(lactic co-glycolic acid))であるか、又は乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)を含む。特に好ましい実施形態では、上記基材は、静電紡糸によるPLGAであるか、又は静電紡糸によるPLGAを含む。
【0266】
上記に羅列した細胞及び組織は、ヒト、ウマ、ブタ、ヒツジ、マウス、イヌ、ネコ及びウシを含む任意の動物源よりのものであり得ることがわかるであろう。
【0267】
当業者は、本開示を一読することにより、1つ又は複数の生物由来の物質を含む基材は、概して、さらに変形することなく本発明の特定の実施形態で、表皮の層化が起こるのに適切な刺激を提供する一方で、1つ又は複数の合成材料を含む基材は、表皮の層化への刺激を提供する、例えばコーティングなどの変形を典型的に必要とすることとなるということを認識するであろう。
【0268】
一実施形態では、上記基材は、細胞の接着もしくは遊走、分化、増殖及び/又は層化を助ける1つ又は複数の分子を含む。例えば、上記基材は、1つもしくは複数の基底膜タンパク質、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンもしくはレクチンなどである1つもしくは複数のタンパク質、1つもしくは複数の糖類などの1つもしくは複数の炭水化物、又は2つ以上のこれらの任意の組み合わせを含む。
【0269】
本発明の方法での使用に好適な気体透過性材料は、上記で論じている。様々な実施形態では、気体透過性材料は、最適な気体交換、細胞成長、細胞又は組織の増殖、組織の層化、及び/又は基材、細胞もしくは組織との生体適合性に関して選択される。
【0270】
一実施形態では、第1のモードで、基材を気体透過性材料に配設する。一実施形態では、第1のモード及び第2のモードで、基材を気体透過性材料に配設する。
【0271】
一実施形態では、上記方法は、ステップ(d)と(e)の間に、
(f)例えばアクセスポートを介して、培養しようとする細胞を含む第2の懸濁液を導入するステップと、
(g)上記第2の懸濁液内の上記細胞の少なくとも一部が上記基材に接着するのに十分な時間の間、上記第2の懸濁液を含有した上記細胞培養装置をインキュベートするステップと、任意に、
(h)上記細胞培養装置を、基材又は細胞が気体透過性材料に配設されるように合わせるステップとである追加のステップを含む。
【0272】
細胞又は組織の培養に関する分野で通常用いられるインキュベーション条件を用いてよいことがわかるであろう。例えば、一実施形態では、装置は、5%の二酸化炭素を含む加湿環境において、約37℃の温度でインキュベートする。
【0273】
皮層(真皮)及び表皮層(表皮)を含む全層皮膚は、本明細書に記載した方法を用いて形成され得る。線維芽細胞を装置に加え、培養されて真皮を形成する。
【0274】
装置に加え、培養された角化細胞は、分化及び増殖して、重層表皮を形成する。出願人は、最適な表皮層化が起こるには、基材に接着した角化細胞を、気体透過性界面に直接接触させなければならないということを観察した。
【0275】
一実施形態では、線維芽細胞及び角化細胞を、装置に同時に導入する。
【0276】
別の実施形態では、線維芽細胞及び角化細胞は、装置に順次導入する。例えば、この方法は、線維芽細胞を含む第1の懸濁液を導入することと、線維芽細胞が接着もしくは増殖する、又は、必要な厚さの真皮を形成するのに十分な時間の間、装置をインキュベートすることと、その後角化細胞を含む第2の懸濁液を導入することとを含む。この実施形態は、より厚い真皮の成長を可能にさせ得る。
【0277】
一実施形態では、線維芽細胞及び角化細胞は、基材の一方の面に播種される。別の実施形態では、基材の一方の面に線維芽細胞を播種し、基材の反対の面に角化細胞を播種する。
【0278】
一実施形態では、作製した組織が基材を含む。例えば、線維芽細胞が、基材内に移動し、全層皮膚の皮層を形成し得る。
【0279】
本発明の方法の例示的な実施形態は、以下のステップを含む。
【0280】
角化細胞及び線維芽細胞の異種細胞集団を含む懸濁液を提供する。該細胞は、少なくとも約14日の期間、細胞の成長を支持するのに十分な量の好適な組織培地、例えばGreen培地に提供される。
【0281】
コラーゲンIVで被覆した静電紡糸によるPLGAを含むスキャホールドを備えた装置が、提供される。この装置は、気体透過性材料を含み、穿孔を有する第1の壁が、その上部に配置されて気体透過性界面を形成するような向きで提供される。この装置は、任意に、これもまた穿孔されている反対側の第2の(底部)壁に配置された気体透過性材料を備える。
【0282】
スキャホールドは、基材の側が該底部の壁に面するように、装置に挿入される。例えば上述した第5の実施形態などの装置を用いる場合には、スキャホールドは、基材551の上面が、第1の(上部)壁に面するように装置に挿入される。
【0283】
細胞懸濁液を装置に加え、装置を封止する。装置を約48時間の間インキュベートし、基材の面の少なくとも一部で起こる細胞接着を許容する。
【0284】
スキャホールドが装置の反対側の端部(第1の壁)に移動するように、装置を反転させる。ここで、接着した細胞は、装置の上部壁における気体透過性界面と接触する。この装置を約14日の間インキュベートし、重層上皮の産生を誘発する。装置に対して、これ以上の操作をする必要はない。
【0285】
14日後、スキャホールドは全層皮膚を含んでいる。該皮膚は、メス又は他の工具を用いてスキャホールドから外され得る。
【0286】
第2の例示的な実施形態では、線維芽細胞及び角化細胞を別々に加えて、装置を2回インキュベートする。
【0287】
第1の例示的な実施形態として上述した装置を用いる。該装置は、基材が気体透過性材料と接触するように、第1のモードで提供される。同種の線維芽細胞集団を含む第1の細胞懸濁液を、装置に加える。この装置を封止して、48時間インキュベートする。
【0288】
48時間後、スキャホールドが装置の反対側の端部に移動するように、装置を反転させる。
【0289】
同種の角化細胞集団を含む第2の細胞集団を、例えば装置の側壁にあるアクセスポートを用いて加える。この装置を、角化細胞接着を達成するのに十分な期間、例えば約48時間インキュベートする。
【0290】
この装置に対して、スキャホールドが装置の反対側の端部に移動するように、2回目の反転を行い、角化細胞を気体透過性材料と接触させる。この装置を約14日の間インキュベートし、重層上皮の産生を誘発する。
【0291】
当業者は、本明細書を一読することにより、上記した方法の特定の実施形態が、装置において細胞播種後に培地を交換することや、又は、成長組織を取り外して培養容器間で移動することの必要がなくなることを含む利点を提供しているということがわかるであろう。例えば全層皮膚を産生するのに必要となる介入回数を低減することで、細胞又は組織を汚染の危険にさらすことを低減し、臨床で実施されている有意な防護を生成する費用を削減する。
【0292】
本発明の他の方法は、他の利点を達成するということがわかるであろう。
従来技術による全層皮膚を作製する方法では、空気-液体界面(ALI)を使用する必要がある。こうした方法の不利な点は、最適なALIにおいて成長組織を維持して成長及び表皮の層化を達成するために、培地高さを注意深く監視する必要があるということである。本発明の装置及び方法は、装置における培地の高さと量に依存しない気体透過性界面(GPI)を用いて、細胞又は組織の成長、分化及び/又は作製を提供するものであって、培養中の注意深い監視の必要性をなくす。
【0293】
例えば、本発明のさらなる方法は、重層表皮組織又は全層皮膚組織を培養する方法であって、該方法は、
(a)基材の面の少なくとも一部にわたって配設される、接着した細胞又は組織を提供するステップと、
(b)細胞培養装置に上記接着した細胞又は組織を導入するステップであって、該装置が、第1の端壁(底部)、少なくとも1つの側壁を備える容器と、上記容器と係合してチャンバを画成するように構成された取り外し可能な第2の端壁(上部)とを備え、
上記第1の端壁(底部)、上記少なくとも1つの側壁又は上記第2の端壁(上部)のうちの少なくとも一部が、気体透過性材料を含むか又は気体透過性材料と係合するように構成され、穿孔されて気体交換を許容し、かつ、
上記装置が、上記基材、上記接着した細胞又は組織が上記懸濁液に浸漬し、かつ、気体透過性材料と気体連通するものである第1のモードにあるような、上記細胞培養装置に上記接着した細胞又は組織を導入するステップと、
(c)上記接着した細胞又は組織を含有する上記細胞培養装置を、表皮の層化が起こる、又は全層皮膚の産生が起こるのに十分な時間の間、インキュベートするステップとを含む。
【0294】
例えば、上記接着した細胞又は組織は、培養容器内の表皮除去した真皮(DED(de-epidermised dermis))上で、角化細胞、又は線維芽細胞及び角化細胞を培養することによって調製し得る。細胞が接着すると、基材に配設された細胞は、培養容器から取り外され、装置に移動する。
【0295】
本発明の装置及び方法は、上皮細胞又は組織を含む、ある範囲の上皮又は組織を培養及び/又は作製するのに好適である。
【0296】
本発明の装置及び方法は、典型的に酸素を豊富に含む環境を必要とする多細胞層又は多層組織の培養に特に好適である。
【0297】
特に、本発明の方法及び装置は、単層扁平上皮、単層立方上皮及び単層円柱上皮を含む単層上皮、重層扁平上皮、重層立方上皮及び重層円柱上皮を含む重層上皮を含む、組織又は構造の作製に好適である。単層上皮は、上皮細胞の単一の層を含む。重層上皮は、上皮細胞の2つ以上の層を含む。重層上皮は、角化上皮もしくは非角化上皮、又は移行上皮であり得る。例えば、本発明の方法及び装置は、皮膚の外層(表皮)、角膜、口、食道及び直腸を含む消化管構造の内側(lining)、例えば膣や尿管である泌尿器もしくは生殖器構造の内側、肺の粘膜側、又は心膜、胸膜もしくは腹膜の壁を形成する上皮を含む、上皮の調製に好適である。
【0298】
特に、本発明の装置及び方法は、線維芽細胞、角化細胞の培養ならびに重層表皮及び/又は全層皮膚の産生に好適である。
【0299】
全層皮膚は、表皮及び皮層を含む。表皮は、角化細胞を含む重層上皮である。真皮は、表皮より下の層にあり、線維芽細胞と、コラーゲンを含む基質成分とを含む。
【0300】
in vitroでの全層皮膚の作製の難しい態様は、重層表皮組織の産生である。表皮の層化は、皮膚機能にとって極めて重要であり、角質層、皮膚のバリア機能をもたらす組織層の形成に必要である。
【0301】
現在全層皮膚の産生に用いられている方法では、表皮除去した真皮上に設置された環において角化細胞と線維芽細胞とを培養する必要がある。1日目に組織培地を交換し、2日目に環を取り外して空気-液体界面に移動させなければならない。通常の培地は交換が必要であり、培地汚染の機会を増加させる。
【0302】
本発明の装置及び方法は、真皮及び重層表皮組織を含む全層皮膚の作製を提供する。本発明は、成長表皮と接触するか又は成長表皮と近接する気体透過性界面を提供して、角化細胞の分化と表皮の層化に必要な気体交換を許容しながら、好適な基材での全層皮膚の成長を提供する。どの時点においても成長組織を別の培養容器に移動する必要がなく、培地の交換や使用者の介入を必要とすることがほとんどない。
【0303】
様々な実施形態では、本発明の装置及び方法はさらに、移植後に、本発明の方法によって産生した全層皮膚の機能を向上させるための追加の細胞及び組織を含む全層皮膚を提供する。
【0304】
一実施形態では、本発明の方法及び装置により産生した、分化した又は重層化した上皮を含む組織を、さらに操作して構造を形成する。上皮表面を含む任意の構造又は内側(lining)を形成できる、ということが想定される。例えば、組織を包むか又は折り畳んで、例えば血管、尿路又は食道などの管状構造を形成することができる。こうした方法は、例えば、Green et al., 2010. Tissue Engineering Vol 16, No 3, pages 1052-1064、Bhargava et al., 2004. BJU International, Vol 93, pages 807-811及びBhargava et al., 2008. European Urology, Vol 53, pages 1263-1271)に記載されている方法がこの分野において公知であり、これらは参照することによりここに組み入れられたものとする。
【0305】
本発明の方法及び装置により産生した組織を含む構造は、それを必要としている対象に対して移植するのに好適であり得る。
【0306】
代替的な実施形態では、本発明の方法により又は装置を用いて産生した上皮組織は、装置から回収されて、外科的な移植手順の間にin situの構造に形成される。例えば、一実施形態では、本発明の方法により又は装置を用いて産生した組織は、尿路形成術手順の間にin situの尿路に形成される。
【0307】
汚染の機会を減らすために、本明細書に記載した方法による本発明の装置により産生した組織は、実験室から手術室へ、装置に入れて移動させることができる。
組織の損傷の治療
【0308】
本発明は、それを必要としている対象の組織の損傷を治療するために、本明細書に記載した方法を用いて調製した、上皮、表皮、重層上皮、重層表皮及び真皮、分層皮又は全層皮膚などである組織の使用を提供する。
【0309】
本発明はさらに、それを必要としている対象の組織の損傷を治療する方法に関し、該方法は、
(a)例えば本明細書に上記したような方法において、例えば上皮、重層上皮、表皮、重層表皮、重層表皮及び真皮、分層皮、又は全層皮膚などである組織が成長するものである本発明の装置を提供するステップと、
(b)上記装置から上記組織を無菌状態下で回収するステップと、
(c)上記組織を患者に適用するステップとを含む。
【0310】
様々な実施形態では、組織の損傷は、創傷、慢性的な創傷、手術創傷、潰瘍、非治癒性創傷、傷、手術瘢痕、熱湯傷又は熱傷である。様々な実施形態では、熱傷はI度熱傷、II度熱傷、III度熱傷、真皮深層熱傷又は全層性熱傷である。
【0311】
様々な実施形態では、組織の損傷は、粘膜の面上に配置させる上皮である。様々な実施形態では、上皮は、皮膚、肺、消化管(例えば、食道又は口)、生殖器又は泌尿器(例えば、尿路)上又はその内部に配置する。
【0312】
好ましい実施形態では、組織は、対象の自己由来の細胞を用いて調製する。例えば、様々な実施形態では、組織は、対象の自己由来の線維芽細胞、角化細胞、又は線維芽細胞及び角化細胞を用いて調製する。代替的な実施形態では、組織は、対象に対して異種となる細胞を用いて調製する。さらなる実施形態では、組織は、対象の自己由来の細胞と、対象に対して異種となる細胞とを用いて調製する。
【0313】
対象の自己由来の細胞は、この分野で公知の任意の方法を用いて単離し得るということがわかるであろう。例えば、自己由来の細胞は、採取組織を消化して消化組織から線維芽細胞及び/又は角化細胞を分離することによって、対象から得た皮膚採取又は皮膚生検より単離され得る。
【0314】
一実施形態では、組織は、自家移植片、例えば皮膚の自家移植片である。様々な実施形態では、組織は、表皮の自家移植片、分層皮の自家移植片又は全層皮膚の自家移植片である。別の実施形態では、組織は、同種異系移植片である。
【0315】
自家移植であるような、細胞の自家移植片を用いて調製した組織を患者に適用することに対して、組織の免疫拒絶を低減又は回避し、かつ、継続する免疫療法又は別の補助的な治療の必要性が低減されることが強く要望されているということがわかるであろう。
【0316】
一実施形態では、上記組織は、上記基材をさらに含んでいる組織を含む。別の実施形態では、上記患者に適用する前に、上記基材から組織を分離する。
【0317】
概して、上記患者への組織の適用は、外科手術によることとなる。一実施形態では、無菌状態下での回収は、手術中に又は手術直前に、例えば手術室で行われる。
【0318】
概して、上記患者への組織の適用は、組織の損傷部位で又は組織の損傷部位付近に、なされることとなる。様々な実施形態では、上記組織は、組織の損傷部位を少なくとも一部覆うように又は組織の損傷部位を完全に覆うように適用する。
【0319】
一実施形態では、上記組織は、組織の損傷部位を一時的に覆うように適用する。代替的な実施形態では、組織は、組織の損傷部位を永久的に覆うように適用する。
in vitro試験
【0320】
局所的に塗布される医薬品、栄養補助品又は化粧品の効能及び安全性は、典型的に、動物の皮膚又は生きている動物、ヒトの死体の皮膚、又は合成ヒト皮膚モデルを用いて試験される。
【0321】
動物の皮膚とヒトの皮膚との形態上の違いが、切り取った動物の皮膚又は生きている動物は、製品試験には最適ではないということを意味している。また、化粧品試験用に生きている動物又は動物の皮膚を使用することについては、一部の国ではそうした試験を禁止しているということを含めて、重要な倫理的な問題が存在する。これら理由から、そうした製品の試験用の動物モデルに対する代替物を特定することが強く要望されている。
【0322】
ヒト死体皮膚を製品試験に用いた場合では、一貫せず大きく開きがある結果が観察されている。
【0323】
本明細書に記載した装置又は方法を用いて調製した細胞又は組織は、医薬品、栄養機能品又は化粧品のin vitro試験に有用である。
【0324】
様々な実施形態では、本明細書に記載した装置又は方法を用いて調製した細胞又は組織は、化合物の経皮透過を試験するため、表皮、真皮又は基底膜にわたる化合物の透過を試験するため、ある状態、例えばある皮膚状態を治療する又は回避するための有効成分の効能を試験するため、又は、化合物の毒性を試験するために用いられる。
【0325】
様々な実施形態では、細胞又は組織は、対象となる化合物が皮膚刺激物であるかどうかを判断するために、例えば、対象となる化合物が発疹、炎症又は接触性皮膚炎を引き起こすかどうかを判断するために用いられる。
【0326】
様々な実施形態では、細胞は、線維芽細胞、角化細胞又は免疫細胞、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせを含む。一実施形態では、細胞は、線維芽細胞及び角化細胞を含む。様々な実施形態では、組織は、表皮、重層表皮及び真皮、重層表皮及び真皮、分層皮、又は全層皮膚を含む群から選択される。
【0327】
様々な実施形態では、化合物は、医薬化合物、美容化合物、又は栄養機能化合物である。
【0328】
様々な実施形態では、試験用化合物を、単独で、又は、薬剤的にもしくは美容的に許容できる担体、賦形剤もしくは希釈剤とともに混合物として、組織に塗布する。
【0329】
様々な実施形態では、試験用化合物は、無菌のクリーム、ゲル、ポアオン又はスポットオンの製剤、懸濁液、ローション、軟膏、粉剤、水薬、スプレー、薬剤含有のドレッシング材、シャンプー、カラー又は皮膚パッチの形で、組織に局所的に塗布する。
【0330】
本発明は、前述に示されており、また、ほんの例であって本発明の範囲を限定しないように与えられる以下の構成物を想定している。
【実施例
【0331】
実施例1
この実施例は、本発明の装置及び方法を用いた全層皮膚の調製についての研究を概説している。
1.方法
【0332】
滅菌した基材(静電紡糸によるPLGA又は皮膚細胞成長に適合するその他の真皮代替物)を、ステンレス鋼製のスキャホールドに取り付ける。基材は、任意に、コラーゲンIV(コラーゲンIV型、シグマアルドリッチ社、C5533、10ug/cmで使用)で2時間被覆して、その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄する。
【0333】
基材を取り付けたスキャホールドを、コラーゲンIVを被覆した側を開口の方へ向けるようにして、気体透過性界面(GPI)をもつ装置内に配置する。
【0334】
250mlのGreen培地((DMEM:Hams F12(ライフテクノロジーズ社、31765-035)3:1、10%FCS、10ng/ml EGF(シグマアルドリッチ社、E9644)、0.4μg/mlヒドロコルチゾン(シグマアルドリッチ社、H0396)、0.1nMコレラトキシン(シグマアルドリッチ社、C8052)、180μMアデニン(シグマアルドリッチ社、A2786)、5ug/mlインスリン(シグマアルドリッチ社、19278)、5μg/mlアポトランスフェリン(シグマアルドリッチ社、T2036)、2nM 3,3,5-トリ-ヨードチロニン(3,3,5,-tri-idothyronine)(シグマアルドリッチ社、T2752)、1×ペニシリン/ストレプトマイシン、0.625μg/mlアムホテリシンB(Amphotercin B)(シグマアルドリッチ社、A2942))を上記装置に加える。
【0335】
線維芽細胞及び角化細胞を培養ディッシュから出し、カウントする。該GPI装置に、1cmあたり300,000の角化細胞及び100,000の線維芽細胞を加える。蓋を配置し、GPI装置を封止する。37℃、5%COで48時間、装置をインキュベートする。
【0336】
GPI装置を反転させ、スキャホールドを装置の反対側の端部に移動させ、基材が気体透過性膜と直接接触することを確実にする。37℃、5%COで14日間、装置をインキュベートする。
【0337】
GPI装置を開けて、全ての液体を除き、スキャホールドを取り外す。縁に沿ってメスで切り、皮膚をスキャホールドから外す。
2.結果
【0338】
この方法により、患者への移植に好適である、真皮及び重層表皮を含む全層皮膚が産生することとなる。
実施例2
【0339】
この実施例は、本発明の装置及び方法を用いた全層皮膚の調製についての研究を概説している。
1.方法
【0340】
実施例1で説明したように、滅菌した基材をステンレス鋼製のスキャホールドに取り付ける。基材は、任意に、コラーゲンIV(コラーゲンIV型、シグマアルドリッチ社、C5533、10ug/cmで使用)で2時間被覆して、その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄する。
【0341】
基材を取り付けたスキャホールドを、コラーゲンIVを被覆した側が開口とは反対を向くようにして、気体透過性界面(GPI)をもつ装置内に配置する。
【0342】
実施例1で説明したように、250mlのGreen培地を加える。
【0343】
1cmあたり100,000の線維芽細胞を該GPI装置に加える。GPI装置に蓋を配置し、封止する。37℃、5%COで少なくとも48時間、装置をインキュベートする。
【0344】
GPI装置を反転させて、スキャホールドが装置の反対側の端部に移動することを確実にする。
【0345】
基材の播種していない側に角化細胞を載置するように、1cmあたり300,000の角化細胞を、注入ポートを介してGPI装置に加える。37℃、5%COで48時間、装置をインキュベートする。
【0346】
GPI装置に対して2回目の反転を行い、スキャホールドを装置の反対側の端部に移動させ、基材を気体透過性膜と直接接触させることを確実にする。37℃、5%COで14日間、装置をインキュベートする。
【0347】
GPI装置を開けて、全ての液体を除き、スキャホールドを取り外す。縁に沿ってメスで切り、皮膚をスキャホールドから外す。
2.結果
【0348】
この方法により、患者への移植に好適である、真皮及び重層表皮を含む全層皮膚が産生することとなる。
実施例3
【0349】
この実施例は、本発明の装置及び方法を用いた重層表皮の調製についての研究を概説している。
1.方法
【0350】
実施例1で説明したように、滅菌した基材を、ステンレス鋼製のスキャホールドに取り付ける。
基材は、任意に、コラーゲンIV(コラーゲンIV型、シグマアルドリッチ社、C5533、10ug/cmで使用)で2時間被覆して、その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄する。
【0351】
基材を取り付けたスキャホールドを、コラーゲンIVを被覆した側を開口の方へ向けるようにして、気体透過性界面(GPI)をもつ装置内に配置する。
【0352】
実施例1で説明したように、250mlのGreen培地を加える。
【0353】
基材の播種していない側に角化細胞を載置するように、1cmあたり300,000の角化細胞をGPI装置に加える。GPI装置に蓋を配置し、封止する。37℃、5%COで48時間、装置をインキュベートする。
【0354】
GPI装置を反転させて、スキャホールドを装置の反対側の端部に移動させ、基材が気体透過性膜と直接接触することを確実にする。37℃、5%COで14日間、装置をインキュベートする。
【0355】
GPI装置を開けて、全ての液体を除き、スキャホールドを取り外す。縁に沿ってメスで切り、重層表皮をスキャホールドから外す。
2.結果
【0356】
この方法により、患者への移植に好適である、重層表皮が産生することとなる。
実施例4
【0357】
この実施例では、気体透過性界面(GPI)を利用した、本発明の方法を用いて調製した皮膚と、空気-液体界面(ALI)を利用した、従来技術による方法を用いて調製した皮膚とを比較している。
1.全層皮膚の調製
接着細胞の調製
【0358】
表皮除去した無細胞化真皮(DED(De-epidermised acellular dermis))を、ポリスチレン製組織培養ディッシュに配置した。直径10mmの開口及び深さ10mmのステンレス鋼製の環をDED上に設置し、Green培地で満たした。300,000の角化細胞及び100,000の線維芽細胞を環の中央に加えた。培地は24時間以内に2回交換した。
空気-液体界面(ALI)を用いた全層皮膚の調製
【0359】
以下のとおり、空気-液体界面を利用した従来技術による方法を用いて、全層皮膚を調製した。
【0360】
48時間後、DEDから環を取り除き、接着した線維芽細胞及び角化細胞を含むDEDを、Green培地を含む組織培養ディッシュ内のステンレス鋼製のラック上に移動させた。該ラックは、穴による格子で構成され、培養ディッシュの基部より7mm高くなっており、それを介して培地がDEDと接触できる。培養ディッシュ内での培地の高さは、金属製ラック上に載置したDEDの基部が培地と接触し、線維芽細胞及び角化細胞が播種されているDEDの上面が、空気-液体界面を形成している空気に暴露するように維持した。
【0361】
細胞を空気-液体界面で14日間培養し、完全な培地交換を2~3日毎に行った。
気体透過性界面を用いた全層皮膚の調製
【0362】
以下のとおり、気体透過性界面(GPI)利用して、全層皮膚を調製した。
【0363】
48時間後、DEDから環を取り除き、気体透過性膜を備えた装置にDEDを移動させた。接着した線維芽細胞及び角化細胞が、装置の底部に配置した気体透過性膜と接触するように、装置内にDEDを配置した。
【0364】
細胞を、気体透過性界面で14日間培養した。
【0365】
14日後、分析のために組織を回収し、空気-液体界面と又は気体透過性膜と接触させた状態で形成した皮膚の質を評価した。
2.全層皮膚の比較
【0366】
GPIを用いて産生した皮膚は、ALIを用いて生成した皮膚と、同様の厚さ及び外観であった。
【0367】
各皮膚サンプルを、角化幹細胞(keratinocyte stem cell)の標識のサイトケラチン19、基底角化細胞(basal keratinocyte)の標識のサイトケラチン14、及び基底上(suprabasal keratinocyte)の角化細胞の標識のサイトケラチン10に対する抗体で染色し、蛍光顕微鏡法で調べた。各凍結皮膚サンプルの5μmの厚さの横断切片をアセトンで固定し、0.25%カゼイン溶液でブロッキングした。サイトケラチン10、サイトケラチン14又はサイトケラチン19に対する一次抗体を入れた、1%ウシ胎児血清(FBS)含有トリス緩衝生理食塩水(TBS)溶液で、サンプル切片を覆った。1時間室温で、サンプルをインキュベートした。TBSでサンプルを1回洗浄し、その後各回5分間の振とう(rocking)を3回行った。Alexa488色素を結合させた、各一次抗体に対して特異的な二次抗体を入れた、核染色の4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole))含有の1%FBS含有TBSで、サンプル切片を覆った。30分間室温で、サンプルをインキュベートした。TBSでサンプルを1回洗浄し、その後各回15分間の振とうを2回行った。Prolong Gold封入剤(Prolong Gold mounting solution)でサンプルを覆い、上にカバーガラスを載せた。蛍光顕微鏡を用いて、DAPI染色及び各Alexa488染色された全てのサンプルの画像を得た。
【0368】
空気-液体界面(ALI)で成長した皮膚と、気体透過性界面(GPI)で成長した皮膚は、重層表皮の形成を見せた。
【0369】
いずれのサンプルタイプでも、多層の角化細胞が存在した。表皮内の角化細胞の核の形状が、基部から上部にかけて球状から扁平に変化していることが、ALIで成長した皮膚でもGPIで成長した皮膚でもいずれにおいても重層表皮が形成したということを示した。
【0370】
ALI又はGPIで成長した皮膚は、表皮の上層において、基底上の角化細胞の標識であるサイトケラチン10の発現を見せ、これは角質層が良好に形成されたことを示しており、角化細胞の分化及び表皮の層化の過程が良好に完結しているということもまた示している。
【0371】
ALI又はGPIで成長した皮膚は、角質層下の角化細胞の層において、基底角化細胞の標識であるサイトケラチン14の発現を見せ、これはこれら角化細胞が、重層表皮の形成を必要とする増殖段階にあったことを示している。ALI及びGPIで成長した皮膚は、角化細胞を含有し、角化幹細胞の標識であるサイトケラチン19が陽性に染色された。角化幹細胞の存在は、表皮の継続的な再生に必要な全ての角化細胞の細胞型が存在していたということを示す。
【0372】
ALIで産生した皮膚とGPIで成長した皮膚との比較は、GPIが、表皮に存在する角化幹細胞をより多数生じさせ得、より優れた重層表皮を産生する可能性があるということを示している。
【0373】
この実施例は、本発明の方法が、重層表皮と、従来技術による方法で産生した皮膚に類似する特徴とを有する、全層皮膚の調製を提供するということを表している。
実施例5
【0374】
この実施例は、本発明の方法及び装置を用いた皮膚組織の調製を示す。
【0375】
皮膚組織を、いずれもGPIを利用している(1)本明細書に記載した装置と(2)従来技術による装置とを用いて調製し、(3)ALIを利用した従来技術による方法を用いて調製した皮膚組織と比較した。
1.方法
【0376】
静電紡糸によるPLGAを、2時間37℃で、コラーゲンIV溶液(10ug/cm)で被覆し、基材を形成した。被覆したPLGAは、被覆した面に線維芽細胞及び角化細胞を播種する前に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。方法(1)では100cmの基材を、方法(2)では6cmの基材を、方法(3)では1cmの基材を用いた。
方法(1):本明細書に記載したGPI装置を用いた皮膚の調製
【0377】
コラーゲン被覆した静電紡糸によるPLGAを、被覆した側がスキャホールドの上面と同一面になるように、本発明のGPI装置のスキャホールドに固定した。
【0378】
静電紡糸によるPLGAの被覆した側が上向きになるように、GPI装置の底部にスキャホールドを配置した。
【0379】
GPI装置を、300mlのGreen培地で満たした。Green培地の成分は、実施例1で説明している。
【0380】
角化細胞及び線維芽細胞が、被覆した静電紡糸によるPLGAに接着できるように、13,000,000の角化細胞及び2,500,000の線維芽細胞をGPI装置に加えた。
【0381】
蓋(GPIを備える)をGPI装置上に配置し、GPI装置を封止した。
【0382】
48時間後、GPI装置を反転させ、スキャホールドを、装置の反対側の端部(上記蓋)に移動させた。この位置において、接着した線維芽細胞及び角化細胞が、上記蓋のGPIと直接接触した。
【0383】
14日間、細胞を培養したが、この期間、培地の交換を必要としない。
【0384】
14日後、分析のために皮膚組織を回収した。
方法(2):従来技術によるGPI装置を用いた皮膚の調製
【0385】
直径25mmの開口及び深さ10mmのステンレス鋼製の環を、直径5cmの培養ディッシュ内部の、被覆した静電紡糸によるPLGA上に設置し、Green培地で満たした。750,000の角化細胞及び200,000の線維芽細胞を環の中央に加えた。培地は24時間以内に2回交換した。
【0386】
48時間後、被覆した静電紡糸によるPLGAから環を取り除き、接着した線維芽細胞及び角化細胞がG-Rex10装置(ウィルソンウォルフ社(Wilson Wolf))の底面に位置しているGPIと接触するように、被覆した静電紡糸によるPLGAを、培養ディッシュから、20mLのGreen培地を含むG-Rex10装置に移動させた。
【0387】
14日間、細胞を培養したが、この期間、培地の交換を必要としない。
【0388】
14日後、分析のために皮膚組織を回収した。
方法(3):ALIを用いた皮膚の調製
【0389】
直径10mmの開口及び深さ10mmのステンレス鋼製の環を、6ウェル培養皿内部の、被覆した静電紡糸によるPLGA上に設置し、Green培地で満たした。
【0390】
130,000の角化細胞及び34,000の線維芽細胞を環の中央に加えた。培地は24時間以内に2回交換した。
【0391】
48時間後、被覆した静電紡糸によるPLGAから環を取り除き、接着した線維芽細胞及び角化細胞を含む被覆した静電紡糸によるPLGAを、Green培地を含む組織培養ディッシュ内のステンレス鋼製のラック上に移動させた。
該ラックは、穴による格子で構成され、培養ディッシュの基部より7mm高くなっており、それを介して培地が被覆した静電紡糸によるPLGAと接触できる。培養ディッシュ内での培地の高さは、金属製ラック上に載置した被覆した静電紡糸によるPLGAの基部が培地と接触し、角化細胞と線維芽細胞とが播種されている被覆した静電紡糸によるPLGAの上面が、空気-液体界面を形成している空気に暴露するように維持した。
【0392】
14日間、ALIで細胞を培養し、完全な培地交換を2~3日毎に行った。
【0393】
14日後、分析のために皮膚組織を回収した。
分析
【0394】
各皮膚サンプルを、表皮の質を評価するために全ての角化細胞の標識であるパンサイトケラチンと、真皮の質を評価するために線維芽細胞の標識であるビメンチンとに対する抗体で染色し、蛍光顕微鏡法で調べた。
【0395】
各凍結皮膚サンプルの5μmの厚さの横断切片をアセトンで固定し、0.25%カゼイン溶液でブロッキングした。パンサイトケラチン又はビメンチンに対する一次抗体を入れた、1%ウシ胎児血清(FBS)含有トリス緩衝生理食塩水(TBS)溶液で、サンプル切片を覆った。1時間室温で、サンプルをインキュベートした。TBSでサンプルを1回洗浄し、その後各回5分間の振とうを3回行った。Alexa488色素を結合させた、各一次抗体に対して特異的な二次抗体を入れた、核染色の4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)含有の1%FBS含有TBSで、サンプル切片を覆った。30分間室温で、サンプルをインキュベートした。TBSでサンプルを1回洗浄し、その後各回15分間の振とうを2回行った。Prolong Gold封入剤でサンプルを覆い、上にカバーガラスを載せた。蛍光顕微鏡を用いて、DAPI染色及び各Alexa488染色された全てのサンプルの画像を得た。
2.結果
【0396】
方法(1)、(2)及び(3)は全て、皮層を含み、該皮層の上部に重層表皮を伴う、全層皮膚を産生した。線維芽細胞の標識であるビメンチンの陽性染色により証明されたように、上記皮層は、産生した皮膚の底層であった。3つの全ての方法で産生した皮膚組織で、上記皮層は、単一細胞の厚い層であった。
【0397】
3つの全ての方法で産生した皮膚組織で、重層表皮層が上記皮層の上に形成された。角化細胞の標識であるパンサイトケラチンの陽性染色により証明されたように、該表皮は、多層の角化細胞を含んでいた。サイトケラチンの層形成から、パンサイトケラチン染色された皮膚サンプルにおいて、表皮の層化が観察された。基底層における角化細胞は球状であったが、角質層が上層を形成するまでに、介在する層内で扁平になる。
【0398】
表皮の層化はまた、DAPI染色により示される、表皮層における角化細胞の細胞核の形態に見られた。表皮の基底層では、角化細胞の細胞核は球状であったが、これは健康な基底角化細胞が増殖できることを示している。表皮層を経て、扁平になった角化細胞の細胞核が上昇してくるということは、層化を達成する必要がある分化過程をそれらが経たということを示している。角化細胞がその分化過程を完了しているものである上層では、細胞核は、極めて薄いか、又は、完全に消失して、死んだ角化細胞より成る角質層を産生した。
【産業上の利用可能性】
【0399】
本発明の装置及び方法は、皮膚移植ならびに医薬品及び化粧品の試験を含む、幅広い範囲の治療的、薬剤的、薬用美容的、栄養機能的及び他の実験室的な用途をもつ、多くの細胞及び組織を作製することへの有用性を有する。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17