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特許7465310多用途性且つ効率的な遺伝子発現のためのRNAレプリコン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】多用途性且つ効率的な遺伝子発現のためのRNAレプリコン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20240403BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240403BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240403BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240403BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240403BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240403BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 15/40 20060101ALN20240403BHJP
   C07K 14/18 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K48/00
A61K35/76
A61P37/04
A61P31/00
A61P35/00
A61K9/10
A61K9/127
A61K47/18
A61K47/24
A61K47/14
A61K39/00 G
A61K9/72
C12N15/40 ZNA
C07K14/18
【請求項の数】 24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022123058
(22)【出願日】2022-08-02
(62)【分割の表示】P 2018549313の分割
【原出願日】2017-03-13
(65)【公開番号】P2022169553
(43)【公開日】2022-11-09
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/056165
(32)【優先日】2016-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519258736
【氏名又は名称】バイオエヌテック エスエー
(73)【特許権者】
【識別番号】515123258
【氏名又は名称】トロン- トランスラショナル オンコロジー アン デア ウニヴェリジテーツメディツィン デア ヨハネス グーテンベルク-ウニヴェルシテート マインツ ゲマインニューツィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRON- Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg-Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【住所又は居所原語表記】Freiligrathstr. 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ベイゼルト, ティム
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
(72)【発明者】
【氏名】ペルコビッチ, マリオ
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-530245(JP,A)
【文献】国際公開第2008/119827(WO,A1)
【文献】RNA,2001年,Vol.7, p.1638-1651
【文献】Journal of General Virology,2010年,Vol.91, p.1723-1727
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 48/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファウイルスの改変5’複製認識配列及び目的のタンパク質をコードする第1のオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンを含む薬学的組成物であって、改変5’複製認識配列は、全ての開始コドンが天然アルファウイルス5’複製認識配列の保存配列エレメント2(CSE2)から除去されていることを特徴とし、改変5’複製認識配列は、開始コドンの除去により導入される、一又は複数のステムループ(SL)内のヌクレオチド対合の破壊を補正する、一又は複数の追加のヌクレオチド変化を含み、
前記CSE2は、SL2からSL4にわたっており、かつアルファウイルスの非構造タンパク質であるnsP1の第1のアミノ酸残基をコードする天然開始コドンを含み、かつ
改変5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5’複製認識配列の予測二次構造と同等な予測二次構造により特徴付けられる、
薬学的組成物。
【請求項2】
RNAレプリコンが、3’複製認識配列を含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質を、鋳型としてのRNAレプリコンから発現することができる、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
RNAレプリコンが、目的のタンパク質をコードする第1のオープンリーディングフレームを含むサブゲノムRNAの産生を制御するサブゲノムプロモーターを含む、請求項1からの何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質を、RNAレプリコン及びサブゲノムRNAから発現することができる、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
RNAレプリコンが、目的のタンパク質をコードする第2のオープンリーディングフレームを含むサブゲノムRNAの産生を制御するサブゲノムプロモーターを含む、請求項1から5の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
サブゲノムプロモーターと、目的のタンパク質をコードする第2のオープンリーディングフレームとが、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームの下流に配置される、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
第1のオープンリーディングフレーム及び/又は第2のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質が、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質である、請求項からの何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
RNAレプリコンが、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
RNAレプリコンが、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない、請求項1からの何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトをさらに含み、RNAレプリコンが、トランスで、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる、請求項1から及び10の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
アルファウイルスが、セムリキ森林ウイルスである、請求項1から11の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
RNAレプリコンの粒子製剤を含み、粒子がタンパク質性粒子又は脂質含有粒子のどちらかである、請求項1から12の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
脂質含有粒子が、少なくとも1のカチオン性脂質を含む、請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記カチオン性脂質が、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA);ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチル塩化アンモニウム(DODAC)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-1,3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、又は2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウム(propanamium)トリフルオロ酢酸(DOSPA)である、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
カチオン性脂質が、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)を含む、三級アミン基を伴う脂質を含む、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
脂質含有粒子が、脂質/RNA複合体、リポソーム、リポプレックス、又はポリプレックスである、請求項13から16の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
リポプレックスが、カチオン性リポソームで形成される、請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
リポプレックスが、中性のヘルパー脂質を含む、請求項17又は18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
薬学的に許容される希釈剤及び/又は薬学的に許容される賦形剤及び/又は薬学的に許容される担体及び/又は薬学的に許容される媒体をさらに含む、請求項1から19の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
治療における使用のための請求項1から20の何れか一項に記載の薬学的組成物であって、治療が対象に薬学的組成物を投与することを含む、薬学的組成物。
【請求項22】
投与が、静脈内(i.v.)、皮下(s.c.)、皮内(i.d.)、吸入による、鼻腔内、眼内、腹腔内、間質内、口腔内投与、経皮、又は舌下投与である、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
治療における使用のための医薬の製造のための、請求項1から20の何れか一項に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項24】
組成物が、静脈内(i.v.)、皮下(s.c.)、皮内(i.d.)、吸入による、鼻腔内、眼内、腹腔内、間質内、口腔内投与、経皮、又は舌下投与に適する、請求項23に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルファウイルス由来のレプリカーゼにより複製することができるRNAレプリコンを包含する。RNAレプリコンは、レプリカーゼによる複製に必要とされる配列エレメントを含むが、これらの配列エレメントは、アルファウイルス非構造タンパク質又はその断片など、タンパク質又はその断片をコードしない。したがって、本発明に従うRNAレプリコンでは、レプリカーゼによる複製に必要とされる配列エレメントと、タンパク質コード領域とは、カップリングされていない。本発明によると、天然アルファウイルスゲノムRNAと比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去により、アンカップリングを達成する。RNAレプリコンは、薬学的に活性のタンパク質など、目的のタンパク質をコードする遺伝子を含みうる。レプリカーゼは、RNAレプリコンによりコードされる場合もあり、別個の核酸分子によりコードされる場合もある。
【背景技術】
【0002】
予防及び治療を目的とする、一又は複数のポリペプチドをコードする外来遺伝情報を含む核酸分子については、多年にわたり、生物医学的研究がなされている。先行技術の手法は、核酸分子の、標的細胞又は標的生物への送達を共有するが、核酸分子及び/又は送達システムの種類が異なる。デオキシリボ核酸(DNA)分子の使用と関連する安全性の懸念の影響で、近年、リボ核酸(RNA)分子が、ますます関心を集めている。ネイキッドRNAの形態、又は複合体化形態若しくはパッケージング形態、例えば、非ウイルス性送達媒体若しくはウイルス性送達媒体による、一本鎖RNA若しくは二本鎖RNAの投与を含む、多様な手法が提起されている。ウイルス及びウイルス性送達媒体では、典型的に、遺伝情報を、タンパク質及び/又は脂質(ウイルス粒子)により封入する。例えば、RNAウイルスに由来する、操作RNAウイルス粒子が、植物を治療する(国際公開第2000/053780A2号)ための送達媒体として、又は哺乳動物のワクチン接種(Tubulekas等, 1997, Gene, vol. 190, pp. 191-195)のために提起されている。一般に、RNAウイルスは、RNAゲノムを伴う感染性粒子の多様な群である。RNAウイルスは、一本鎖RNA(ssRNA)ウイルス及び二本鎖RNA(dsRNA)ウイルスへと細分することができ、ssRNAウイルスは一般に、プラス鎖[(+)鎖]及び/又はマイナス鎖[(-)鎖]ウイルスへと更に分けることができる。プラス鎖RNAウイルスは、明らかに、それらのRNAが、宿主細胞内の翻訳のための鋳型として直接用いられうるため、生物医学における送達システムとして魅力的である。
【0003】
アルファウイルスは、プラス鎖RNAウイルスの典型的な代表例である。アルファウイルスの宿主は、昆虫、魚類、並びに家畜及びヒトなどの哺乳動物を含む、広範にわたる生物を含む。アルファウイルスは、感染細胞の細胞質内で複製される(アルファウイルスの生活環の総説については、Jose等, Future Microbiol., 2009, vol. 4, pp. 837-856を参照されたい)。多くのアルファウイルスの総ゲノム長は、典型的に、11,000から12,000ヌクレオチドの間の範囲であり、ゲノムRNAは典型的に、5’キャップ及び3’ポリ(A)テールを有する。アルファウイルスのゲノムは、非構造タンパク質(ウイルスRNAの転写、修飾、及び複製、並びにタンパク質の修飾に関与する)及び構造タンパク質(ウイルス粒子を形成する)をコードする。ゲノム内には、典型的に、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。4つの非構造タンパク質(nsP1-nsP4)が、典型的に、ゲノムの5’末端の近傍において始まる第1のORFにより共にコードされるのに対し、アルファウイルスの構造タンパク質は、第1のORFの下流において見出される第2のORFにより共にコードされ、ゲノムの3’末端の近傍に伸びている。典型的に、第1のORFは、ほぼ2:1の比で、第2のORFより大型である。
【0004】
アルファウイルスが感染した細胞では、非構造タンパク質をコードする核酸配列だけが、ゲノムRNAから翻訳されるのに対し、構造タンパク質をコードする遺伝情報は、真核生物のメッセンジャーRNAに相似するRNA分子である、サブゲノム転写物から翻訳可能である(mRNA;Gould等, 2010, Antiviral Res., vol. 87 pp. 111-124)。感染後、すなわち、ウイルス生活環の早期において、(+)鎖ゲノムRNAは、メッセンジャーRNAと同様に、非構造ポリタンパク質(nsP1234)をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のために直接作用する。一部のアルファウイルスでは、nsP3のコード配列と、nsP4のコード配列との間に、オパール終止コドンが存在する。つまり、翻訳が、オパール終止コドンで終結すると、nsP1、nsP2、及びnsP3を含有するP123ポリタンパク質が産生され、加えて、nsP4も含有するポリタンパク質P1234が、このオパールコドンの読了時に産生される(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562、Rupp等, 2015, J. Gen. Virology, vol. 96, pp. 2483-2500)。nsP1234は、自己タンパク質分解により、断片であるnsP123及びnsP4へと切断される。ポリペプチドであるnsP123及びnsP4は、会合して、(+)鎖ゲノムRNAを鋳型として使用して、(-)鎖RNAを転写する、(-)鎖レプリカーゼ複合体を形成する。典型的に、後期には、nsP123断片は、個別のタンパク質である、nsP1、nsP2及びnsP3へと完全に切断され(Shirako及びStrauss, 1994, J. Virol. vol. 68, pp. 1874-1885)、全4つのタンパク質は、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、新たな(+)鎖ゲノムを合成する(+)鎖レプリカーゼ複合体を形成する(Kim等, 2004, Virology, vol. 323, pp. 153-163、Vasiljeva等, 2003, J. Biol. Chem. vol. 278, pp. 41636-41645)。
【0005】
感染細胞内では、サブゲノムRNA並びに新たなゲノムRNAには、nsP1により、5’キャップがもたらされ(Pettersson等 1980, Eur. J. Biochem. 105, 435-443、Rozanov等, 1992, J. Gen. Virology, vol. 73, pp. 2129-2134)、nsP4により、ポリアデニル酸[ポリ(A)]テールがもたらされる(Rubach等, Virology, 2009, vol. 384, pp. 201-208)。したがって、サブゲノムRNA及びゲノムRNAのいずれも、メッセンジャーRNA(mRNA)に相似する。
【0006】
アルファウイルスの構造タンパク質(ウイルス粒子の全ての構成要素である、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質E2、及びエンベロープタンパク質E1)は、典型的に、単一のサブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームによりコードされる(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。サブゲノムプロモーターは、シスで作用する、アルファウイルスの非構造タンパク質により認識される。特に、アルファウイルスレプリカーゼは、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、(+)鎖サブゲノム転写物を合成する。(+)鎖サブゲノム転写物は、アルファウイルスの構造タンパク質をコードする(Kim等, 2004, Virology, vol. 323, pp. 153-163、Vasiljeva等, 2003, J. Biol. Chem. vol. 278, pp. 41636-41645)。サブゲノムRNA転写物は、構造タンパク質を、1つのポリタンパク質としてコードするオープンリーディングフレームの翻訳のための鋳型として用いられ、ポリタンパク質は、切断されて、構造タンパク質をもたらす。宿主細胞内のアルファウイルス感染の後期には、nsP2のコード配列内に配置されるパッケージングシグナルが、構造タンパク質によりパッケージングされた出芽ビリオンへの、ゲノムRNAの選択的パッケージングを確保する(White等, 1998, J. Virol., vol. 72, pp. 4320-4326)。
【0007】
感染細胞内では、(-)鎖RNA合成は、典型的に、感染後最初の3-4時間だけにおいて観察され、後期では検出不能であり、この時間には、(+)鎖RNA(ゲノム及びサブゲノムのいずれも)だけの合成が観察される。Frolov等、2001、RNA,vol.7、pp.1638-1651に従い、RNA合成の調節についての現行のモデルは、非構造ポリタンパク質のプロセシングへの依存性を示唆する。つまり、非構造的ポリタンパク質であるnsP1234の初期の切断は、nsP123及びnsP4をもたらし、nsP4は、(-)鎖合成に活性のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)としては作用するが、(+)鎖RNAの生成には非効率的である。nsP2/nsP3接合部における切断を含む、ポリタンパク質であるnsP123の更なるプロセシングは、(+)鎖RNAの合成を増加させ、(-)鎖RNAの合成を減少又は終結させるように、レプリカーゼの鋳型特異性を変化させる。
【0008】
アルファウイルスRNAの合成はまた、4つの保存配列エレメントを含む、シス作用型RNAエレメントによっても調節される(CSE;Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562、及びFrolov, 2001, RNA, vol. 7, pp. 1638-1651)。
【0009】
一般に、アルファウイルスゲノムの5’複製認識配列は、異なるアルファウイルスの間の全体的な相同性が小さいことを特徴とするが、保存予測二次構造を有する。アルファウイルスゲノムの5’複製認識配列は、翻訳の開始だけに関与するのではなく、また、ウイルスRNAの合成に関与する、2つの保存配列エレメントであるCSE1及びCSE2を含む5’複製認識配列も含む。CSE1及びCSE2の機能のためには、二次構造は、直鎖状配列より重要であると考えられる(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。
【0010】
これに対し、アルファウイルスゲノムの3’末端配列、すなわち、ポリ(A)配列のすぐ上流の配列は、保存一次構造、特に、「19ntの保存配列」とも称される、(-)鎖合成の開始に重要な保存配列エレメント4(CSE4)を特徴とする。
【0011】
「接合部配列」とも称されるCSE3は、アルファウイルスゲノムRNAの(+)鎖上の保存配列エレメントであり、(-)鎖上の、CSE3の相補体は、サブゲノムRNAの転写のためのプロモーターとして作用する(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562、Frolov等, 2001, RNA, vol. 7, pp. 1638-1651)。CSE3は、典型的に、nsP4のC末端断片をコードする領域と重複する。アルファウイルスタンパク質に加えてまた、宿主細胞因子、おそらくは、タンパク質も、保存配列エレメントに結合しうる(Strauss及びStrauss, supra)。
【0012】
外来遺伝情報の、標的細胞又は標的生物への送達のために、アルファウイルス由来のベクターが提起されている。簡便法では、アルファウイルス構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームで置き換える。アルファウイルスベースのトランス複製システムは、2つの個別の核酸分子上の、アルファウイルスのヌクレオチド配列エレメントに依拠する。つまり、1つの核酸分子は、ウイルスレプリカーゼ(典型的に、ポリタンパク質であるnsP1234)をコードし、他の核酸分子は、トランスで、前記レプリカーゼによる複製が可能である(よって、トランス複製システムという呼称が与えられる)。トランス複製は、所与の宿主細胞内の、これらの核酸分子の両方の存在を必要とする。トランスにおける、レプリカーゼによる複製が可能な核酸分子は、アルファウイルスレプリカーゼによる認識及びRNA合成を可能とする、ある特定のアルファウイルス配列エレメントを含まなければならない。それぞれのレプリコンを、「WT-RRSによる鋳型RNA」として、図1に例示する。このようなレプリコンは、サブゲノムプロモーターの制御下で、目的の遺伝子の増幅を可能とする利点と関連するが、nsP1234をコードするオープンリーディングフレームが、アルファウイルスゲノムの5’複製認識配列(nsP1のコード配列)と重複し、典型的に、また、CSE3を含むサブゲノムプロモーター(nsP4のコード配列)とも重複するため、多用途性の大きなベクターの開発は困難である。
【0013】
例えば、Michelら(2007, Virology, vol. 362, pp. 475-487)は、95のサイレント突然変異(すなわち、コードされるタンパク質配列に影響を及ぼさない突然変異)の、アルファウイルスであるベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)のnsP1のコード領域への導入が、細胞内のVEEVの複製能を完全に消滅させたのは、おそらく、サイレント突然変異が、RNAの二次構造を破壊したためであることについて記載する。国際公開第2008/156829A2号及びKamrudら(2010, J. Gen. Virol., vol. 91, pp. 1723-1727)は、天然で見出されるVEEVのnsP1の開始コドンとして用いられる、特異的AUG塩基トリプレットを除去して(終止コドンへの転換により)、修飾コンストラクトを創出するように、修飾されたヘルパーRNA(すなわち、VEEVのカプシド及びエンベロープを発現させる、トランス複製型RNA)について記載する。Kamrudらによれば、nsP1の開始コドンの、終止コドンへの転換は、RNA複製の潜在的可能性を保存し、これらの修飾ヘルパーRNAがもたらすVEEV粒子の力価の低減はごくわずかであった。しかし、著者らは、CSE1/2領域内で見出される全てのAUGの、終止コドンへの転換が、アルファウイルスレプリカーゼの存在下における複製が良好でないヘルパーRNAを結果としてもたらしたことを観察した。著者らは、複製の不良を、根底的なRNA二次構造の破壊に帰している。著者らは、修飾ヘルパーRNAの適正なRNAフォールディングをコントロールしたとは述べていなかったので、二次構造の損壊による説明が極めて妥当である。
【0014】
5’複製認識配列を含むレプリコンは、典型的に、(少なくとも)一部アルファウイルス非構造タンパク質の、典型的に、nsP1のN末端断片をコードするため、RNAの複製に必要とされる5’複製認識配列が、nsP1のAUG開始コドンを含み、したがって、アルファウイルス非構造タンパク質のN末端断片のコード配列と重複するという事実は、アルファウイルスのベースのベクターの操作にとって重大なネックとなる。これは、いくつかの態様において不利である。
シスレプリコンの場合、この重複は、例えば、レプリカーゼORFのコドン使用の、異なる哺乳動物標的細胞(ヒト、マウス、農場動物)への適合化を制限する。ウイルス内で見出される、5’複製認識配列の二次構造は、あらゆる標的細胞においても最適なわけではないことが考えられる。しかし、レプリカーゼORF内で結果としてもたらされる可能性が高いアミノ酸変化を、レプリカーゼ機能に対する影響について、考え、調べなければならないので、二次構造を自由に変更することはできない。また、完全なレプリカーゼORFを、異種由来のレプリカーゼと交換することも、これは、5’複製認識配列構造の破壊を結果としてもたらすので、可能ではない。
トランスレプリコンの場合、この重複は、5’複製認識配列がトランスレプリコン内に保持される必要があるので、nsP1タンパク質の断片の合成を結果としてもたらす。nsP1の断片は、典型的に、必要とされず、所望されない。つまり、所望されない翻訳は、宿主細胞に、不要な負荷をかけ、薬学的に活性のタンパク質に加えて、nsP1の断片もコードする治療適用を意図されるRNAレプリコンは、規制への懸念に直面しうる。例えば、短縮nsP1が、望ましくない副作用をもたらさないことを裏付けることが必要であろう。加えて、5’複製認識配列内の、nsP1のAUG開始コドンの存在が、異種の目的の遺伝子をコードするトランスレプリコンのデザインであって、目的の遺伝子の翻訳のための開始コドンが、リボソームの翻訳開始にアクセス可能な、最も5’側の位置にある形のデザインを妨げている。一方、インフレームにおいて、nsP1の開始コドンとの融合タンパク質(このような融合コンストラクトは、例えば、Michel等, 2007, Virology, vol. 362, pp. 475-487により記載されている)としてクローニングされない限りにおいて、先行技術のトランスレプリコンRNAからの、トランス遺伝子の5’キャップ依存性翻訳は、難題である。このような融合コンストラクトは、上記で言及した、同じ不要なnsP1断片の翻訳をもたらし、上記と同じ懸念を生じさせる。更に、融合タンパク質は、融合させた目的のトランス遺伝子の機能又は活性を変更する場合もあり、ワクチンベクターとして使用されると、融合領域にわたるペプチドが、融合させた抗原の免疫原性を変更する場合もあるので、更なる懸念も引き起こす。
【発明の概要】
【0015】
これらの欠点を克服することが必要とされている。例えば、薬学的に活性のタンパク質など、目的のタンパク質をコードする核酸を、安全且つ効率的に発現させる、改善されたレプリコンを提供することが必要とされている。本明細書で記載される通り、本発明の態様及び実施態様は、この必要に取り組む。
【0016】
免疫療法的戦略は、例えば、感染性疾患及び癌疾患の防止及び治療のための、有望な選択肢を表す。ますます多数の病原体関連抗原及び腫瘍関連抗原の同定は、免疫療法に適する標的の広範なコレクションをもたらした。本発明は、一般に、疾患を防止及び治療するための免疫療法に適する抗原の効率的な発現も適する、改善された薬剤及び方法を包含する。
【0017】
第1の態様では、本発明は、天然アルファウイルス5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする5’複製認識配列を含むRNAレプリコンを提供する。
【0018】
一実施態様では、本発明のRNAレプリコンは、(修飾)5’複製認識配列と、5’複製認識配列の下流に配置される、第1のオープンリーディングフレームであって、目的のタンパク質、例えば、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質、又は、好ましくは、アルファウイルスに由来しないトランス遺伝子、特に、アルファウイルス非構造タンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームとを含み、この場合、5’複製認識配列と、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームとは、重複せず、好ましくは、5’複製認識配列は、RNAレプリコンのいかなるオープンリーディングフレームとも重複しない、例えば、5’複製認識配列は、機能的な開始コドンを含有せず、好ましくは、いかなる開始コドンも含有しない。最も好ましくは、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームの開始コドンは、RNAレプリコンの5’→3’方向において、第1の機能的な開始コドン、好ましくは、第1の開始コドンである。一実施態様では、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする。一実施態様では、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームと、好ましくは、全RNAレプリコンとは、アルファウイルス非構造タンパク質の断片、特に、nsP1及び/又はnsP4の断片など、非機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させない。一実施態様では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、5’複製認識配列に対して異種である。一実施態様では、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーターの制御下にはない。一実施態様では、RNAレプリコンは、目的のタンパク質をコードする、少なくとも1つの、更なるオープンリーディングフレームであって、サブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームを含む。一実施態様では、サブゲノムプロモーターと、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームとは、重複しない。
【0019】
一実施態様では、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスの5’末端における約250ヌクレオチドと相同な配列を含む。好ましい実施態様では、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスの5’末端における約300から500ヌクレオチドと相同な配列を含む。好ましい実施態様では、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、ベクターシステムに対して親である、特異的なアルファウイルス種の効率的な複製に必要とされる5’末端配列を含む。
【0020】
一実施態様では、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスの保存配列エレメント1(CSE1)及び保存配列エレメント2(CSE2)と相同な配列を含む。
【0021】
好ましい実施態様では、RNAレプリコンは、CSE2を含み、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの断片を含むことを更に特徴とする。より好ましい実施態様では、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの前記断片は、開始コドンを含まない。
【0022】
一実施態様では、5’複製認識配列は、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列を含み、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、天然アルファウイルスと比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0023】
好ましい実施態様では、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの、少なくとも天然の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0024】
好ましい実施態様では、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然の開始コドン以外の、一又は複数の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。より好ましい実施態様では、前記核酸配列は、加えて、非構造タンパク質、好ましくは、nsP1のオープンリーディングフレームの天然の開始コドンの除去を特徴とする。
【0025】
好ましい実施態様では、5’複製認識配列は、RNAの複製に関して、5’複製認識配列の機能性をもたらす、一又は複数のステムループを含む。好ましい実施態様では、5’複製認識配列の、一又は複数のステムループを、欠失させたり、破壊したりしない。より好ましくは、ステムループ1、3、及び5のうちの一又は複数、好ましくはステムループ1、3、及び4の全て、又はステムループ3及び4を、欠失させたり、破壊したりしない。より好ましくは、5’複製認識配列のステムループのうちのいずれも、欠失させたり、破壊したりしない。
【0026】
好ましい実施態様では、RNAレプリコンは、少なくとも1つの開始コドンの除去により導入される、一又は複数のステムループ内のヌクレオチド対合の破壊を補正する、一又は複数のヌクレオチド変化を含む。
【0027】
一実施態様では、RNAレプリコンは、短縮アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。
【0028】
一実施態様では、RNAレプリコンは、3’複製認識配列を含む。
【0029】
一実施態様では、RNAレプリコンは、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームを含む。
【0030】
一実施態様では、RNAレプリコンは、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質を、鋳型としてのRNAレプリコンから発現することができることを特徴とする。
【0031】
一実施態様では、RNAレプリコンは、サブゲノムプロモーターを含むことを特徴とする。典型的に、サブゲノムプロモーターは、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含むサブゲノムRNAの産生を制御する。
【0032】
好ましい実施態様では、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質を、鋳型としてのRNAレプリコンから発現することができる。より好ましい実施態様では、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質は、加えて、サブゲノムRNAから発現することもできる。
【0033】
好ましい実施態様では、RNAレプリコンは更に、目的のタンパク質をコードする、第2のオープンリーディングフレームを含むサブゲノムRNAの産生を制御するサブゲノムプロモーターを含むことも特徴とする。目的のタンパク質は、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質と同一であるか又は異なる、第2のタンパク質でありうる。
【0034】
より好ましい実施態様では、サブゲノムプロモーターと、目的のタンパク質をコードする、第2のオープンリーディングフレームとを、目的のタンパク質をコードする、第1のオープンリーディングフレームの下流に配置する。
【0035】
一実施態様では、第1のオープンリーディングフレーム及び/又は第2のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質である。
【0036】
一実施態様では、RNAレプリコンは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0037】
一実施態様では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、5’複製認識配列と重複しない。
【0038】
一実施態様では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするRNAレプリコンは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる。
【0039】
一実施態様では、RNAレプリコンは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。この実施態様では、レプリコンを複製するための、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を、本明細書で記載される通り、トランスで提供しうる。
【0040】
第2の態様では、本発明は、
機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトと、
トランスで、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンと
を含むシステムを提供する。好ましくは、RNAレプリコンは更に、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードしないことを特徴とする。
【0041】
一実施態様では、第1の態様に従うRNAレプリコン、又は第2の態様に従うシステムは、アルファウイルスが、セムリキ森林ウイルスであることを特徴とする。
【0042】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンをコードする核酸配列を含むDNAを提供する。
【0043】
第4の態様では、本発明は、
(a)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを更に含む、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンを得る工程と、
(b)RNAレプリコンを、細胞へと接種する工程と
を含む、細胞内で目的のタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0044】
方法についての多様な実施態様では、RNAレプリコンは、本発明のレプリコンについて上記で規定した通りである。
【0045】
第5の態様では、本発明は、
(a)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトを得る工程と、
(b)トランスで、(a)に従う機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンを得る工程と、
(c)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト、及びRNAレプリコンを、細胞へと共接種する工程と
を含む、細胞内で目的のタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0046】
方法についての多様な実施態様では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト、及び/又はRNAレプリコンは、本発明のシステムについて上記で規定した通りである。第5の態様によると、RNAレプリコンは、典型的に、それ自体では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードしない。
【0047】
第6の態様では、本発明は、第1の態様のRNAレプリコン、又は第2の態様のシステムを含有する細胞を提供する。一実施態様では、細胞を、本発明の第4の態様の方法に従い、又は第5の態様の方法に従い接種する。一実施態様では、細胞は、本発明の第4の態様の方法により、又は第5の態様の方法により得られる。一実施態様では、細胞は、生物の一部である。
【0048】
第7の態様では、本発明は、
(a)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを更に含む、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンを得る工程と、
(b)RNAレプリコンを、対象へと投与する工程と
を含む、対象において目的のタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0049】
方法についての多様な実施態様では、RNAレプリコンは、本発明のレプリコンについて上記で規定した通りである。
【0050】
第8の態様では、本発明は、
(a)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトを得る工程と、
(b)トランスで、(a)に従う機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンを得る工程と、
(c)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト、及びRNAレプリコンを、対象へと投与する工程と
を含む、対象において目的のタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0051】
方法についての多様な実施態様では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト、及び/又はRNAレプリコンは、本発明のシステムについて上記で規定した通りである。第8の態様によると、RNAレプリコンは、典型的に、それ自体では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードしない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】非修飾5’複製認識配列又は修飾5’複製認識配列を含むRNAレプリコンについての概略表示を示す図である。 略号:AAAA=ポリ(A)テール;ATG=開始(start)コドン/開始(initiation)コドン(DNAレベルにおけるATG;RNAレベルにおけるAUG);5×ATG=nsP1をコードする核酸配列内の、全ての開始(start)コドンを含む核酸配列(セムリキ森林ウイルスに由来するnsP1をコードする核酸配列の場合、5×ATGは、5つの特異的開始コドンに対応する;実施例1を参照されたい);Δ5ATG=nsP1をコードするが、天然で見出されるアルファウイルス内のnsP1をコードする核酸配列の、開始コドンを含まない核酸配列に対応する核酸配列(セムリキ森林ウイルスに由来するnsP1の場合、「Δ5ATG」は、天然で見出されるセムリキ森林ウイルスと比較した、5つの特異的開始コドンの除去に対応する;実施例1を参照されたい);EcoRV=EcoRV制限部位;nsP=アルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸配列(例えば、nsP1、nsP2、nsP3、nsP4);nsP1=nsP1のC末端断片を含まない、nsP1の断片をコードする核酸配列;nsP4=nsP4のN末端断片を含まない、nsP4の断片をコードする核酸配列;RRS=5’複製認識配列;SalI=SalI制限部位;SGP=サブゲノムプロモーター;SL=ステムループ(例えば、SL1、SL2、SL3、SL4)であり、SL1-4の位置は、図示される;UTR=非翻訳領域(例えば、5’-UTR、3’-UTR)
【化1】
WT=野生型。
WT-RRSによるシスレプリコン:アルファウイルスの構造タンパク質をコードする核酸配列が、目的の遺伝子(「トランス遺伝子」)をコードするオープンリーディングフレームで置き換えられていることを除き、アルファウイルスのゲノムに本質的に対応するRNAレプリコン。「WT-RRSによるレプリコン」を、細胞へと導入する場合、レプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームの翻訳産物(nsP1234又はその断片)は、RNAレプリコンの複製を、シスで駆動することが可能であり、サブゲノムプロモーター(SGP)の下流において、核酸配列(サブゲノム転写物)の合成を駆動しうる。
WT-RRSによるトランスレプリコン又は鋳型RNA:アルファウイルスの構造タンパク質であるnsP1-4をコードする核酸配列の大半が、除去されていることを除き、「WT-RRSによるレプリコン」に本質的に対応するRNAレプリコン。より具体的には、nsP1をコードする核酸配列及びnsP3は、完全に除去されており、nsP1をコードする核酸配列は、「WT-RRSによる鋳型RNA」が、nsP1の断片をコードするが、この断片が、nsP1のC末端断片を含まない(しかし、nsP1のN末端断片は含む;nsP1)ように切断されており、nsP4をコードする核酸配列は、「WT-RRSによる鋳型RNA」が、nsP4の断片をコードするが、この断片が、nsP4のN末端断片を含まない(しかし、nsP4のC末端断片は含む;nsP4)ように切断されている。この短縮nsP4配列は、完全に活性のサブゲノムプロモーターと部分的に重複する。nsP1をコードする核酸配列は、天然で見出されるアルファウイルス内のnsP1をコードする核酸配列の、全ての開始コドン(セムリキ森林ウイルスに由来するnsP1の場合、5の特異的開始コドン)を含む。
Δ5ATG-RRS:天然で見出されるアルファウイルス内のnsP1をコードする核酸配列の、開始コドンを含まない(セムリキ森林ウイルスの場合、「Δ5ATG-RRS」は、天然で見出されるセムリキ森林ウイルスと比較した、5つの特異的開始コドンの除去に対応する)ことを除き、「WT-RRSによる鋳型RNA」に本質的に対応するRNAレプリコン。開始コドンを除去するように導入された全てのヌクレオチド変化は、RNAの予測二次構造を保存するように、更なるヌクレオチド変化により補正した。
Δ5ATG-RRSΔSGP:サブゲノムプロモーター(SGP)を含まず、nsP4をコードする核酸配列を含まないことを除き、「Δ5ATG-RRS」に本質的に対応するRNAレプリコン。「トランス遺伝子1」=目的の遺伝子。
Δ5ATG-RRS:バイシストロニック:サブゲノムプロモーターの上流の、第1の目的の遺伝子(「トランス遺伝子1」)をコードする第1のオープンリーディングフレームと、サブゲノムプロモーターの下流の、第2の目的の遺伝子(「トランス遺伝子2」)をコードする第2のオープンリーディングフレームとを含むことを除き、「Δ5ATG-RRS」に本質的に対応するRNAレプリコン。第2のオープンリーディングフレームの配置は、RNAレプリコンである「Δ5ATG-RRS」内の目的の遺伝子(「トランス遺伝子」)の配置に対応する。
Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン:第1の目的の遺伝子が、オープンリーディングフレームをコードする機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードすること典型的に、ポリタンパク質nsP1-nsP2-nsP3-nsP4、すなわち、nsP1234をコードする、1つのオープンリーディングフレームを除き、「Δ5ATG-RRS-バイシストロニック」に本質的に対応するRNAレプリコン。「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」内の「トランス遺伝子」は、「Δ5ATG-RRS:バイシストロニック」内の「トランス遺伝子2」に対応する。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、サブゲノムプロモーターを認識し、目的の遺伝子(「トランス遺伝子」)をコードする核酸配列を含むサブゲノム転写物を合成することが可能である。「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」は、「WT-RRSによるシスレプリコン」と同様に、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を、シスでコードするが、「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」によりコードされるnsP1のコード配列が、全てのステムループを含む、「WT-RRSによるシスレプリコン」の正確な核酸配列を含むことを必要としない。
図2】5’複製認識配列内の開始コドンの除去は、トランスレプリコンRNAの複製に影響を及ぼさないことを示す図である。A:実施例2で使用される核酸分子の例示。B:エレクトロポレーションされたBHK21細胞による、ルシフェラーゼの発現の測定値。詳細については、実施例2を参照されたい。RNAレプリコン(「鋳型」)の、2つの独立に作製されたバッチについての、2つの独立の実験の平均値±SD(N=4)が示される。
図3】5’複製認識配列内の開始コドンの除去が、キャップ依存性翻訳を可能とすることを示す図である。左:実施例3で使用される核酸分子 (RNAレプリコン)の例示。右:エレクトロポレーションされたヒト包皮線維芽細胞による、ルシフェラーゼの発現の測定値。詳細については、実施例3を参照されたい。三連で実施された1つの実験についての平均値±SDが示される。
図4】トランスフェクションの直後において、5’複製認識配列内の開始コドンの除去を特徴とするトランスレプリコンからのキャップ依存性翻訳が、サブゲノム転写物からの翻訳より強力であることを示す図である。左:核酸分子の例示。実施例4で使用されるRNAレプリコンを、「Δ5ATG-RRS」及び「Δ5ATG-RRSΔSGP」として例示する。右:エレクトロポレーションされたBHK21細胞による、ルシフェラーゼの発現の測定値。詳細については、実施例4を参照されたい。三連で実施された1つの実験についての平均値が示される。
図5】5’複製認識配列内の開始コドンの除去を特徴とする、キャップありのトランスレプリコンが、早期におけるトランス遺伝子の発現を可能とすることを示す図である。左:実施例5で使用される「Δ5ATG-RRSΔSGP」核酸分子の例示。右:エレクトロポレーションされたBHK21細胞による、ルシフェラーゼの発現の測定値。詳細については、実施例5を参照されたい。三連で実施された1つの実験についての平均値±SDが示される。
図6】キャップジヌクレオチドの構造を示す図である。上:天然のキャップジヌクレオチドである、mGpppG。下:ホスホロチオエートキャップ類似体である、ベータ-S-ARCAジヌクレオチド:逆相HPLCにおけるそれらの溶出特徴に従い、D1及びD2と称する、立体中心であるP中心のために、ベータ-S-ARCAには、2つのジアステレオマーが存在する。
図7】ATGを欠失させた複製認識配列により再構築されたシスレプリコンが、機能的であることを示す図である。SFVレプリカーゼのORFを、サブゲノムプロモーター(SGP)の下流でホタルルシフェラーゼをコードする、「Δ5ATG-RRS」へと挿入した。挿入されたレプリカーゼ内で、CSE2及びコアSGPに対応する領域を、ヌクレオチド交換により破壊して(網掛けボックス)、これらの調節領域の重複を回避した。これは、再構築されたシスレプリコンを結果としてもたらした。BHK21細胞に、2,5μgの「WT-RRSによるシスレプリコン」又は「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」を一緒にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの24時間後に、ルシフェラーゼの発現を測定した。三連による1つの実験についての平均値±SD。
図8】バイシストロニックのトランスレプリコンが、いずれのトランス遺伝子も発現させることを示す図である。分泌型Nano-Luciferase(SNL)を、WT-RSSによるトランスレプリコンのサブゲノムプロモーター(SGP)の下流にクローニングした。SGPの上流の位置は、トランス遺伝子である(-)SGP(SNL)をコードしない。下のコンストラクトでは、SNLを、ΔATG-RSSの下流にクローニングし、ホタルルシフェラーゼ(Luc)を、SGPである(SNL)SGP(Luc)の下流に挿入した。BHK21細胞に、0.9μgのトランス複製型RNA、及び5μgのSFVレプリカーゼをコードするmRNAを一緒にエレクトロポレーションし、エレクトロポレーションの48時間後、SNL及びLucの発現を測定した。1つの実験についてのデータ。
図9】複製認識配列内の開始コドンを欠くシンドビスウイルストランスレプリコンが、効率的に複製されることを示す図である。シンドビスウイルスゲノムに由来するトランスレプリコンを、遺伝子合成により操作し、GFPを、サブゲノムプロモーター(SGP)の下流に挿入した。非修飾複製認識配列(WT-RSS)を伴う、このトランスレプリコンに加えて、その2つの変異体を作出した。ΔATG-RRSでは、元の開始コドン+4つの更なるATGを、WT-RRSから欠失させた。必要に応じてまた、RNAの二次構造を保つ、補正的ヌクレオチド変化も導入した。ΔATG-RRSΔSGPを作出するために、サブゲノムプロモーターに対応する領域を、ΔATG-RRSから欠失させる結果として、ATGを欠失させた5’RRSのすぐ下流にGFPを伴うベクターもたらした。BHK21細胞に、0.1μgトランス複製型RNAと、2.4μgのSFVレプリカーゼをコードするmRNAとを一緒にエレクトロポレーションした。24時間後におけるGFP発現(トランスフェクション率[%]及び平均値蛍光強度(MFI))を評価した。1つの実験についてのデータ。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明について、下記で詳細に記載するが、本発明は、それらは、変動しうるので、本明細書で記載される特定の方法、プロトコール、及び試薬に限定されるものでないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語法は、特定の実施態様について記載することだけを目的とするものであり、付属の特許請求の範囲だけにより限定される、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されたい。そうでないことが規定されない限りにおいて、本明細書で使用される、全ての技術用語及び科学用語は、当業者により一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0054】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)”、H.G.W.Leuenberger、B.Nagel、及びH.Koelbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel,Switzerland(1995)において記載されている通りに規定される。
【0055】
本発明の実施では、そうでないことが指し示されない限りにおいて、当技術分野の範囲内の、化学、生化学、細胞生物学、免疫学、及び組換えDNA法の従来の方法が利用され、これらについては、当技術分野の文献において説明されている(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, J. Sambrook等編, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989を参照されたい)。
【0056】
以下では、本発明の要素について記載する。これらの要素を、具体的な実施態様と列挙するが、それらを、任意の形及び任意の数で組み合わせて、更なる実施態様を創出しうることを理解されたい。様々に記載される例及び好ましい実施態様は、本発明を、明示的に記載された実施態様だけに限定するようには解釈されないものとする。この記載は、明示的に記載された実施態様を、任意の数の、開示された要素及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施態様を開示し、包含するように理解されるものとする。更に、本出願で記載される全ての要素の、任意の順列及び組合せは、文脈によりそうでないことが指し示されない限りにおいて、この記載により開示されると考えられるものとする。
【0057】
「約」という用語は、「およそ」又は「ほぼ」を意味し、本明細書で明示される数値又は範囲の文脈では、好ましくは、引用されるか又は主張される数値又は範囲の±10%を意味する。
【0058】
「ある(a)」及び「ある(an)」及び「その」、並びに本発明について記載する文脈で(とりわけ、特許請求の範囲の文脈で)使用される類似の言及は、本明細書でそうでないことが指し示されないか、又は文脈により明確に否定されない限りにおいて、単数及び複数の両方を対象とするように解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の列挙は、範囲内に収まる各個別の値に、個々に言及することの縮約法として用いられることだけを意図するものである。本明細書でそうでないことが指し示されない限りにおいて、各個別の値は、本明細書で個別に列挙された場合と同様に、本明細書で利用される。本明細書でそうでないことが指し示されないか、又は文脈により明確に否定されない限りにおいて、本明細書で記載される全ての方法は、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提示される、任意の例及び全ての例、又は例示のための表現(例えば、「など」)の使用は、本発明をよりよく例示することだけを意図するものであり、他の形で特許請求される本発明の範囲に、限定を施すものではない。本明細書におけるいかなる表現も、本発明の実施に不可欠な、任意の、特許請求されていない要素を指し示すとは解釈されないものとする。
【0059】
そうでないことが明示的に指定されない限りにおいて、「~を含むこと」という用語は、本文献の文脈では、「~を含むこと」により導入されるリストのメンバーに加えて、更なるメンバーも、任意選択で存在しうることを指し示すのに使用される。しかし、本発明の具体的実施態様として、「~を含むこと」という用語は、更なるメンバーが存在しない可能性も包含する、ことも想定される。すなわち、この実施態様の目的では、「~を含むこと」とは、「~からなること」の意味を有すると理解されるものとする。
【0060】
総称により特徴づけられる構成要素の相対量の表示は、前記総称が対象とする、全ての特異的変異体又はメンバーの総量を指すことを意図する。総称により規定される、ある特定の構成要素が、ある特定の相対量で存在することが指定され、この構成要素が、総称により特徴づけられる特定の変異体又はメンバーであることが更に特徴づけられる場合、総称により対象とされる構成要素の全相対量が、指定された相対量を超えるように、総称により対象とされる、他の変異体又はメンバーも更に存在することはなく、より好ましくは、総称により対象とされる、他の変異体又はメンバーは、全く存在しないことを意味する。
【0061】
いくつかの文献が、本明細書の本文を通して引用される。本明細書で引用される文献の各々(全ての特許、特許出願、学術刊行物、製造元の仕様、指示書などを含む)は、上記の引用であれ、下記の引用であれ、出典明示によりそれらの全体において利用される。本明細書におけるいかなる事柄も、本発明が、このような開示に先行する権利が与えられていないことの容認として解釈されないものとする。
【0062】
本明細書で使用される「~を低減する」又は「~を阻害する」などの用語は、好ましくは、5%又はこれを超える、10%又はこれを超える、20%又はこれを超える、より好ましくは、50%又はこれを超えるレベルの全体的な低下を引き起こし、最も好ましくは、75%又はこれを超えるレベルの全体的な低下を引き起こす能力を意味する。「~を阻害する」という用語又は同様の語句は、完全又は本質的に完全な阻害、すなわち、ゼロ又は本質的にゼロへの低減を含む。
【0063】
「~を増加させる」又は「~を増強する」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは、少なくとも20%、好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%、なおより好ましくは、少なくとも80%の増加又は増強に関し、最も好ましくは、少なくとも100%の増加又は増強に関する。
【0064】
「正味の電荷」という用語は、化合物又は粒子など、全対象物上の電荷を指す。
【0065】
全体的な正味の正の電荷を有するイオンが、カチオンであるのに対し、全体的な正味の負の電荷を有するイオンは、アニオンである。したがって、本発明によると、アニオンとは、陽子より多くの電子を伴うイオンであり、正味の負の電荷をもたらすが、カチオンとは、陽子より少ない電子を伴うイオンであり、正味の正の電荷をもたらす。
【0066】
所与の化合物又は粒子に言及する場合の「帯電した」、「正味の電荷」、「負に帯電した」、又は「正に帯電した」という用語は、pH7.0で、水中に溶解又は懸濁させた場合の、所与の化合物又は粒子の、正味の電荷を指す。
【0067】
本発明によると、「核酸」という用語はまた、ヌクレオチド塩基上、糖上、又はリン酸上の核酸の化学的誘導、及び非天然のヌクレオチド及びヌクレオチド類似体を含有する核酸も含む。一部の実施態様では、核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)である。一般に、核酸分子又は核酸配列とは、好ましくは、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)である核酸を指す。本発明によると、核酸は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、ウイルスRNA、組換えにより調製された分子、及び化学合成された分子を含む。本発明によると、核酸は、一本鎖又は二本鎖及び直鎖状分子又は共有結合的な閉環状分子の形態でありうる。
【0068】
本発明によると、「核酸配列」とは、核酸内、例えば、リボ核酸(RNA)内又はデオキシリボ核酸(DNA)内のヌクレオチドの配列を指す。用語は、全核酸分子(全核酸分子のうちの単一の鎖など)を指す場合もあり、その一部(例えば、断片)を指す場合もある。
【0069】
本発明によると、「RNA」又は「RNA分子」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは、リボヌクレオチド残基から、完全又は実質的に構成された分子に関する。「リボヌクレオチド」という用語は、β-D-リボフラノシル基の2’位に、ヒドロキシル基を伴うヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的又は完全に精製されたRNAなどの単離RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、並びに一又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換、及び/又は変更により、天然にあるRNAと異なる修飾RNAなど、組換えにより生成されたRNAを含む。このような変更は、RNAの末端又は内部、例えば、RNAの一又は複数のヌクレオチドなどにおける、非ヌクレオチド材料の付加を含みうる。RNA分子内のヌクレオチドはまた、天然にないヌクレオチド又は化学的な合成ヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドなどの非標準的ヌクレオチドも含みうる。これらの変更RNAを、類似体、特に、天然にあるRNAの類似体と称することができる。
【0070】
本発明によると、RNAは、一本鎖の場合もあり、二本鎖の場合もある。本発明の一部の実施態様では、一本鎖RNAが好ましい。「一本鎖RNA」という用語は、一般に、相補的な核酸分子(典型的に、相補的なRNA分子)が会合しないRNA分子を指す。一本鎖RNAは、RNAの一部が、フォールドバックして、限定せずに述べると、塩基対、ステム、ステムループ、及びバルジを含む二次構造モチーフを形成することを可能とする自己相補的配列を含有しうる。一本鎖RNAは、マイナス鎖[(-)鎖]として存在する場合もあり、プラス鎖[(+)鎖]として存在する場合もある。(+)鎖とは、遺伝情報を含むか又はコードする鎖である。遺伝情報は、例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列でありうる。(+)鎖RNAが、タンパク質をコードする場合、(+)鎖は、翻訳(タンパク質合成)のための鋳型として、直接用いられる。(-)鎖は、(+)鎖の相補体である。二本鎖RNAの場合、(+)鎖及び(-)鎖は、2つの個別のRNA分子であり、これらのRNA分子のいずれも、互いと会合して、二本鎖RNA(「二重鎖RNA」)を形成する。
【0071】
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」とは、分子の活性、量、又は数の半分を消失させるのに必要とされる時間に関する。本発明の文脈では、RNAの半減期は、前記RNAの安定性を示す。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続時間」に影響を及ぼしうる。半減期が長いRNAは、長時間にわたり発現することが予測される。
【0072】
「翻訳効率」という用語は、RNA分子によりもたらされる翻訳産物の量であって、特に、時間を伴う量に関する。
【0073】
核酸配列に言及する「断片」は、核酸配列の一部、すなわち、5’末端及び/又は3’末端において短縮された核酸配列を表す配列に関する。好ましくは、核酸配列の断片は、前記核酸配列に由来するヌクレオチド残基のうちの、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%を含む。本発明では、RNAの安定性及び/又は翻訳の効率を保持するRNA分子の断片が好ましい。
【0074】
アミノ酸配列(ペプチド又はタンパク質)に言及する「断片」は、アミノ酸配列の一部、すなわち、N末端及び/又はC末端において短縮されたアミノ酸配列を表す配列に関する。C末端で短縮された断片(N末端断片)は、例えば、オープンリーディングフレームの3’末端を欠く短縮オープンリーディングフレームの翻訳により得られる。N末端で短縮された断片(C末端断片)は、例えば、短縮オープンリーディングフレームが、翻訳を開始するのに用いられる開始コドンを含む限りにおいて、オープンリーディングフレームの5’末端を欠く短縮オープンリーディングフレームの翻訳により得られる。アミノ酸配列の断片は、例えば、アミノ酸配列に由来するアミノ酸残基のうちの、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含む。
【0075】
本発明によると、例えば、核酸及びアミノ酸配列に関する「変異体」という用語は、任意の変異体、特に、突然変異体、ウイルス株、スプライス変異体、コンフォメーション、アイソフォーム、対立遺伝子変異体、種変異体、及び種相同体、特に、天然に存在する変異体を含む。対立遺伝子変異体は、正常な遺伝子配列の変更に関するが、その意義は、不明であることが多い。完全な遺伝子シーケンシングは、所与の遺伝子に対する、多数の対立遺伝子変異体を同定することが多い。核酸分子に関して、「変異体」という用語は、縮重核酸配列を含むが、この場合、本発明に従う縮重核酸とは、遺伝子コードの縮重のために、コドン配列が基準核酸と異なる核酸である。種相同体とは、所与の核酸配列又はアミノ酸配列の種と由来が異なる種による核酸配列又はアミノ酸配列である。ウイルス相同体とは、所与の核酸配列又はアミノ酸配列のウイルスと由来が異なるウイルスによる核酸配列又はアミノ酸配列である。
【0076】
本発明によると、核酸変異体は、基準核酸と比較した、単一の又は複数のヌクレオチドの欠失、付加、突然変異、置換、及び/又は挿入を含む。欠失は、一又は複数のヌクレオチドの、基準核酸からの除去を含む。付加変異体は、1、2、3、5、10、20、30、50の、又はこれを超えるヌクレオチドなど、一又は複数のヌクレオチドの、5’末端及び/又は3’末端における融合を含む。置換の場合、配列内の少なくとも1つのヌクレオチドを除去し、少なくとも1つの他のヌクレオチドを、その場所に挿入する(塩基転換及び塩基転移など)。突然変異は、非塩基性部位、架橋部位、及び化学的に変更するか又は修飾した塩基を含む。挿入は、少なくとも1つのヌクレオチドの、基準核酸への付加を含む。
【0077】
本発明によると、「ヌクレオチド変化」は、基準核酸と比較した、単一の又は複数のヌクレオチドの欠失、付加、突然変異、置換、及び/又は挿入を指す場合がある。一部の実施態様では、「ヌクレオチド変化」は、基準核酸と比較した、単一のヌクレオチドの欠失、単一のヌクレオチドの付加、単一のヌクレオチドの突然変異、単一のヌクレオチドの置換、及び/又は単一のヌクレオチドの挿入からなる群から選択される。本発明によると、核酸変異体は、基準核酸と比較した、一又は複数のヌクレオチド変化を含みうる。
【0078】
特異的核酸配列の変異体は、好ましくは、前記特異的配列の、少なくとも1つの機能的な特性を有し、好ましくは、前記特異的配列と機能的に同等であり、例えば、核酸配列は、特異的核酸配列の特性と同一又は同様の特性を呈する。
【0079】
下記で記載される、本発明の一部の実施態様は、とりわけ、天然で見出されるアルファウイルスなど、アルファウイルスの核酸配列と相同な核酸配列を特徴とする。これらの相同な配列は、天然で見出されるアルファウイルスなど、アルファウイルスの核酸配列の変異体である。
【0080】
好ましくは、所与の核酸配列と、前記所与の核酸配列の変異体である核酸配列との間の同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも85%、なおより好ましくは、少なくとも90%、又は最も好ましくは、少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%であろう。同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約70、少なくとも約90、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、少なくとも約250、少なくとも約300、又は少なくとも約400ヌクレオチドの領域について与えられる。好ましい実施態様では、同一性の程度は、基準核酸配列の全長について与えられる。
【0081】
「配列類似性」とは、同一であるか、又は保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸の百分率を指し示す。2つのポリペプチド又は核酸配列の間の「配列同一性」とは、配列の間で同一なアミノ酸又はヌクレオチドの百分率を指し示す。
【0082】
「~%同一な」という用語は特に、比較される2つの配列の間の最適なアライメントにおいて同一なヌクレオチドの百分率であって、純粋に統計学的であり、2つの配列の間の差違が、配列の全長にわたり、ランダムに分布することが可能であり、2つの配列の間の最適なアライメントを得るために、比較される配列が、基準配列と比較した付加又は欠失を含む百分率を指すことを意図する。2つの配列の比較は通例、最適アライメントの後で、対応する配列の局所領域を同定するために、セグメント又は「比較域」に関して、前記配列を比較することにより実行する。比較のための最適アライメントは、手動で実行することもでき、Smith及びWaterman、1981、Ads App.Math.2,482による局所的相同性アルゴリズムを一助として実行することもでき、Needleman及びWunsch、1970、J.Mol.Biol.48,443による局所的相同性アルゴリズムを一助として実行することもでき、Pearson及びLipman、1988、Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444による類似性検索アルゴリズムを一助として実行することもでき、前記アルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N、及びTFASTA in Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、Wis.)を使用するコンピュータプログラムを一助として実行することもできる。
【0083】
同一性百分率は、比較される配列が対応する同一な位置の数を決定し、この数を、比較される位置の数で除し、この結果に100を乗ずることにより得られる。
【0084】
例えば、ウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgi上で入手可能なBLASTプログラムである、「BLAST2配列」を使用することができる。
【0085】
2つの配列が、互いと相補的である場合、核酸は、別の核酸と「ハイブリダイズすることが可能である」か、又はこれと「ハイブリダイズする」。2つの配列が、互いと安定的な二重鎖を形成することが可能である場合、核酸は、別の核酸と「相補的」である。本発明によると、ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能とする条件(厳密な条件)下で実行することが好ましい。厳密な条件については、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、J.Sambrook等編、2nd Edition、Cold Spring Harbor Laboratory press、Cold Spring Harbor,New York、1989、又はCurrent Protocols in Molecular Biology、F.M.Ausubel等編、John Wiley & Sons,Inc.、New Yorkにおいて記載されており、例えば、ハイブリダイゼーション緩衝液(3.5倍濃度のSSC、0.02%のFicoll、0.02%のポリビニルピロリドン、0.02%のウシ血清アルブミン、2.5mMのNaHPO(pH7)、0.5%のSDS、2mMのEDTA)中、65℃のハイブリダイゼーションを参照されたい。SSCとは、0.15Mの塩化ナトリウム/0.15Mのクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーションの後、DNAを転写した膜を、例えば、2倍濃度のSSC中、室温で洗浄し、次いで0.1-0.5×SSC/0.1×SDS中、最高68℃で洗浄する。
【0086】
相補性パーセントとは、第2の核酸配列と、水素結合(例えば、ワトソン-クリック型の塩基対合)を形成しうる、核酸分子内の連続残基の百分率(例えば、10のうちの5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10が、50%、60%、70%、80%、90%、及び100%相補的である)を指し示す。「完全に(perfectly)相補的」又は「完全に(fully)相補的」とは、核酸配列の全ての連続残基が、第2の核酸配列内の、同じ数の連続残基と水素結合することを意味する。好ましくは、本発明に従う相補性の程度は、少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも85%、なおより好ましくは、少なくとも90%、又は最も好ましくは、少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%である。最も好ましくは、本発明に従う相補性の程度は、100%である。
【0087】
「誘導体」という用語は、ヌクレオチド塩基上、糖上、又はリン酸上の核酸の任意の化学的誘導を含む。「誘導体」という用語はまた、天然にないヌクレオチド及びヌクレオチド類似体を含有する核酸も含む。好ましくは、核酸の誘導は、その安定性を増加させる。
【0088】
本発明によると、「核酸配列に由来する核酸配列」とは、それが由来する核酸の変異体である核酸を指す。好ましくは、それがRNA分子内の特異的配列を置き換える場合、特異的配列に対して変異体である配列は、RNAの安定性及び/又は翻訳の効率を保持する。
【0089】
「nt」とは、ヌクレオチド、又は核酸分子内のヌクレオチド、好ましくは、連続ヌクレオチドの略号である。
【0090】
本発明によると、「コドン」という用語は、リボソームにおける、タンパク質合成時に、どのアミノ酸が、次に付加されるのかを指定する、コード核酸内の塩基トリプレットを指す。
【0091】
「転写」及び「~を転写すること」という用語は、RNAポリメラーゼが、一本鎖RNA分子を作製するように、特定の核酸配列を伴う核酸分子(「核酸鋳型」)が、RNAポリメラーゼにより読み取られる過程に関する。転写時には、核酸鋳型内の遺伝情報が転写される。核酸鋳型は、DNAでありうるが、例えば、アルファウイルスの核酸鋳型からの転写の場合、鋳型は、典型的に、RNAである。その後、転写されたRNAは、タンパク質へと翻訳されうる。本発明によると、「転写」という用語は、「in vitro転写」を含み、この場合、「in vitro転写」という用語は、RNA、特に、mRNAが、in vitroの、細胞非含有のシステム内で合成される過程に関する。好ましくは、転写物の生成に、クローニングベクターを適用する。これらのクローニングベクターは一般に、転写ベクターと称し、本発明による「ベクター」という用語に包含される。クローニングベクターは、好ましくは、プラスミドである。本発明によると、RNAは、好ましくは、in vitro転写されたRNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のin vitro転写により得ることができる。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼのための、任意のプロモーターでありうる。in vitro転写のためのDNA鋳型は、核酸、特に、cDNAのクローニングと、これを、in vitro転写に適するベクターへと導入することとにより得ることができる。cDNAは、RNAの逆転写により得ることができる。
【0092】
転写時に産生される一本鎖核酸分子は、典型的に、鋳型の相補的な配列である核酸配列を有する。
【0093】
本発明によると、「鋳型」又は「核酸鋳型」又は「鋳型核酸」という用語は一般に、複製又は転写されうる核酸配列を指す。
【0094】
「核酸配列から転写された核酸配列」及び同様の用語は、該当する場合、鋳型核酸配列の転写産物である、完全なRNA分子の部分としての核酸配列を指す。典型的に、転写された核酸配列は、一本鎖RNA分子である。
【0095】
「核酸の3’末端」とは、本発明によると、遊離ヒドロキシ基を有する末端を指す。二本鎖核酸、特に、DNAについての概略表示では、3’末端は常に、右側にある。「核酸の5’末端」とは、本発明によると、遊離リン酸基を有する末端を指す。二本鎖核酸、特に、DNAについての概略表示では、5’末端は常に、左側にある。
5’末端 5’--P-NNNNNNN-OH-3’ 3’末端
3’-HO-NNNNNNN-P--5’
【0096】
「上流」とは、核酸分子の第1のエレメントの、この核酸分子の第2のエレメントに対する相対的配置であって、いずれのエレメントも、同じ核酸分子内に含まれ、第1のエレメントを、この核酸分子の第2のエレメントより、核酸の5’末端分子の近くに配置した相対的配置について記載する。したがって、第2のエレメントを、この核酸分子の第1のエレメントの「下流」であるという。第2のエレメントの「上流」に配置されるエレメントは、この第2のエレメントの「5’」側に配置されていることと同義に称することができる。二本鎖核酸分子については、「上流」及び「下流」などの表示は、(+)鎖に関してなされる。
【0097】
本発明によると、「機能的な連結」又は「機能的に連結された」は、機能的な関係内にある接続に関する。核酸は、それが、別の核酸配列と機能的に関連する場合、「機能的に連結」されている。例えば、プロモーターは、それが、前記コード配列の転写に影響を与える場合、コード配列へと機能的に連結されている。機能的に連結された核酸は典型的に、互いと隣接し、該当する場合、更なる核酸配列により隔てられ、特定の実施態様では、RNAポリメラーゼにより転写されて、単一のRNA分子(一般的な転写物)をもたらす。
【0098】
特定の実施態様では、核酸を、本発明によると、核酸に対して相同な場合もあり、異種の場合もある、発現制御配列と、機能的に連結する。
【0099】
「発現制御配列」という用語は、本発明に従うプロモーター、リボソーム結合性配列、及び遺伝子の転写、又はこれに由来するRNAの翻訳を制御する、他の制御エレメントを含む。本発明の特定の実施態様では、発現制御配列を調節することができる。発現制御配列の正確な構造は、種又は細胞型に応じて変動しうるが、通例、それぞれ、転写及び翻訳の開始に関与する、5’非転写配列、並びに5’非翻訳配列及び3’非翻訳配列を含む。より具体的には、5’非転写発現制御配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。発現制御配列はまた、エンハンサー配列又は上流のアクチベーター配列も含みうる。DNA分子の発現制御配列は、通例、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの、5’非転写配列、並びに5’非翻訳配列及び3’非翻訳配列を含む。アルファウイルスRNAの発現制御配列は、サブゲノムプロモーター、及び/又は1若しくは複数の保存配列エレメントを含みうる。本発明に従う具体的な発現制御配列は、本明細書で記載される、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターである。
【0100】
本明細書で指定される核酸配列、特に、転写可能なコード核酸配列は、前記核酸配列に対して、相同な場合もあり、異種の場合もある、任意の発現制御配列、特に、プロモーターと組み合わせることができるが、この場合、「相同」という用語は、核酸配列が、天然においてもまた、発現制御配列と機能的に連結されているという事実を指し、「異種」という用語は、核酸配列が、天然では、発現制御配列と機能的に連結されていないという事実を指す。
【0101】
転写される核酸配列、特に、ペプチド又はタンパク質をコードする核酸配列と、発現制御配列とは、それらが、互いと、転写される核酸配列の転写又は発現、特に、コード核酸配列の転写又は発現が、発現制御配列の制御下にあるか、又は影響下にあるような形で、共有結合的に連結されている場合、互いと「機能的に」連結されている。核酸配列を、機能的なペプチド又はタンパク質へと翻訳しようとする場合、コード配列へと機能的に連結された発現制御配列の誘導は、コード配列内でフレームシフトを引き起こさずに、又は所望されるペプチド又はタンパク質へと翻訳することが不可能なコード配列を伴わずに、前記コード配列の転写を結果としてもたらす。
【0102】
「プロモーター」又は「プロモーター領域」という用語は、RNAポリメラーゼに対する認識部位及び結合性部位をもたらすことにより、転写物、例えば、コード配列を含む転写物の合成を制御する核酸配列を指す。プロモーター領域は、前記遺伝子の転写の調節に関与する、更なる因子に対する、更なる認識部位又は結合性部位を含みうる。プロモーターは、原核生物の遺伝子の転写を制御する場合もあり、真核生物の遺伝子の転写を制御する場合もある。プロモーターは、「誘導性」プロモーターであり、インデューサーに応答して、転写を開始する場合もあり、転写が、インデューサーにより制御されず、「構成的」プロモーターである場合もある。インデューサーが非存在である場合、誘導性プロモーターは、極めてわずかな程度に限り発現するか、又は全く発現しない。インデューサーの存在下では、遺伝子は、「オンに切り替え」られるか、又は転写のレベルが増加する。これは通例、特異的転写因子の結合により媒介される。本発明に従う特異的プロモーターは、本明細書で記載される、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターである。他の特異的プロモーターは、アルファウイルスの、ゲノムのプラス鎖又はマイナス鎖のプロモーターである。
【0103】
「コアプロモーター」という用語は、プロモーターに含まれる核酸配列を指す。コアプロモーターは、典型的に、転写を適正に開始するのに必要とされるプロモーターの最小部分である。コアプロモーターは、典型的に、転写開始部位と、RNAポリメラーゼに対する結合性部位とを含む。
【0104】
「ポリメラーゼ」とは、一般に、単量体の構成単位からのポリマー分子の合成を触媒することが可能な分子実体を指す。「RNAポリメラーゼ」とは、リボヌクレオチド構成単位からのRNA分子の合成を触媒することが可能な分子実体である。「DNAポリメラーゼ」とは、デオキシリボヌクレオチド構成単位からのDNA分子の合成を触媒することが可能な分子実体である。DNAポリメラーゼ及びRNAポリメラーゼの場合、分子実体は、典型的に、タンパク質、又は複数のタンパク質のアセンブリー若しくは複合体である。典型的に、DNAポリメラーゼは、典型的にDNA分子である鋳型核酸に基づき、DNA分子を合成する。典型的に、RNAポリメラーゼは、DNA分子(この場合、RNAポリメラーゼは、DNA依存性RNAポリメラーゼであるDdRPである)、又はRNA分子(この場合、RNAポリメラーゼは、RNA依存性RNAポリメラーゼであるRdRPである)である鋳型核酸に基づき、RNA分子を合成する。
【0105】
「RNA依存性RNAポリメラーゼ」又は「RdRP」とは、RNA鋳型からのRNAの転写を触媒する酵素である。アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼの場合、ゲノムRNA及び(+)鎖のゲノムRNAの、(-)鎖相補体の逐次的合成は、RNAの複製をもたらす。したがって、アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼは、同義に、「RNAレプリカーゼ」とも称する。天然では、RNA依存性RNAポリメラーゼは、典型的に、レトロウイルスを除く、全てのRNAウイルスによりコードされる。RNA依存性RNAポリメラーゼをコードするウイルスの典型的な代表例は、アルファウイルスである。
【0106】
本発明によると、「RNAの複製」とは、一般に、所与のRNA分子(鋳型RNA分子)のヌクレオチド配列に基づき合成されるRNA分子を指す。合成されるRNA分子は、例えば、鋳型RNA分子と同一であるか、又は相補的でありうる。一般に、RNAの複製は、DNA中間体の合成を介して生じる場合もあり、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)により媒介される、RNA依存性RNAの複製により直接生じる場合もある。アルファウイルスの場合、RNAの複製は、DNA中間体を介して生じず、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)により媒介される。つまり、鋳型RNA鎖(第1のRNA鎖)又はその一部は、第1のRNA鎖又はその一部と相補的な、第2のRNA鎖の合成のための鋳型として用いられる。第2のRNA鎖又はその一部は、任意選択で、第2のRNA鎖又はその一部と相補的な、第3のRNA鎖の合成のための鋳型として用いられうる。したがって、第3のRNA鎖は、第1のRNA鎖又はその一部と同一である。したがって、RNA依存性RNAポリメラーゼは、鋳型の相補的なRNA鎖を、直接的に合成することが可能であり、同一なRNA鎖を、間接的に合成すること(相補的な中間体鎖を介して)が可能である。
【0107】
本発明によると、「鋳型RNA」という用語は一般に、RNA依存性RNAポリメラーゼにより転写又は複製することができるRNAを指す。
【0108】
本発明によると、「遺伝子」という用語は、一又は複数の細胞産物を産生し、且つ/又は1若しくは複数の細胞間機能若しくは細胞内機能を達成する一因となる、特定の核酸配列を指す。より具体的には、前記用語は、特異的なタンパク質又は機能的若しくは構造的なRNA分子をコードする核酸を含む核酸区画(典型的には、DNAであるが、RNAウイルスの場合には、RNA)に関する。
【0109】
本明細書で使用される「単離分子」とは、他の細胞物質など、他の分子を実質的に含まない分子を指すことを意図する。「単離核酸」という用語は、本発明によると、核酸が、(i)in vitroにおいて、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅されているか、(ii)クローニングにより、組換えで作製されているか、(iii)例えば、切断及びゲル電気泳動分画により精製されているか、又は(iv)例えば、化学合成により合成されていることを意味する。単離核酸は、組換え法による操作に利用可能な核酸である。
【0110】
「ベクター」という用語は、本明細書では、その最も一般的な意味で使用され、例えば、前記核酸を、原核宿主細胞及び/又は真核宿主細胞へと導入し、該当する場合、ゲノムへと組み込むことを可能とする、核酸のための任意の中間媒体を含む。このようなベクターは、細胞内で複製及び/又は発現されることが好ましい。ベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルスゲノム、及びこれらの部分を含む。
【0111】
本発明の文脈における「組換え」という用語は、「遺伝子操作により作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明の文脈における組換え細胞などの「組換え対象物」とは、天然にあるものではない。
【0112】
本明細書で使用される「天然にある」という用語は、対象物が、天然で見出されうるという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)に存在し、天然の供給源から単離することができ、実験室内で、意図的に改変されていないペプチド又は核酸は、天然にあるものである。「天然で見出される」という用語は、「天然で存在する」を意味し、公知の対象物のほか、いまだ、自然から発見及び/又は単離されていないが、将来、天然の供給源から発見及び/又は単離されうる対象物を含む。
【0113】
本発明によると、「発現」という用語は、その最も一般的な意味で使用され、RNA、又はRNA及びタンパク質の産生を含む。発現はまた、核酸の部分的な発現も含む。更に、発現は、一過性の場合もあり、安定的な場合もある。RNAに関して、「発現」又は「翻訳」という用語は、コードRNA(例えばメッセンジャーRNA)の鎖が、ペプチド又はタンパク質を作り出すように、アミノ酸の配列のアセンブリーを導く、細胞のリボソーム内の過程に関する。
【0114】
本発明によると、「mRNA」という用語は、「メッセンジャーRNA」を意味し、典型的に、DNA鋳型を使用することにより生成し、ペプチド又はタンパク質をコードする転写物に関する。典型的に、mRNAは、5’-UTR、タンパク質コード領域、3’-UTR、及びポリ(A)配列を含む。mRNAは、in vitro転写により、DNA鋳型から生成させることができる。当業者には、in vitro転写法が公知である。例えば、様々なin vitro転写キットが市販されている。本発明によると、修飾及びキャッピングを安定化させることにより、mRNAを改変することができる。
【0115】
本発明によると、「ポリ(A)配列」又は「ポリ(A)テール」という用語は、典型的に、RNA分子の3’末端に配置される、アデニル酸残基の、間断のない配列又は間断のある配列を指す。間断のない配列は、連続アデニル酸残基を特徴とする。天然では、間断のないポリ(A)配列が典型的である。ポリ(A)配列は、通常、真核DNA内ではコードされないが、真核細胞による転写後に、細胞の核内で、鋳型非依存性RNAポリメラーゼにより、RNAの遊離3’末端へと接合し、本発明は、DNAによりコードされるポリ(A)配列を含む。
【0116】
本発明によると、核酸分子に言及する、「一次構造」という用語は、ヌクレオチド単量体の直鎖状配列を指す。
【0117】
本発明によると、核酸分子に言及する、「二次構造」という用語は、核酸分子の二次元表示であって、塩基対合、例えば、一本鎖RNA分子の場合、特に、分子内塩基対合を反映する二次元表示を指す。各RNA分子は、単一のポリヌクレオチド鎖だけを有するが、分子は、典型的に、(分子内)塩基対の領域を特徴とする。本発明に従う「二次構造」という用語は、限定せずに述べると、内部ループ及び多分枝状ループなど、塩基対、ステム、ステムループ、バルジ、ループを含む構造モチーフを含む。核酸分子の二次構造は、塩基対合を示す二次元の図面(平面グラフ)により表すことができる。(RNA分子の二次構造の更なる詳細については、Auber等, J. Graph Algorithms Appl., 2006, vol. 10, pp. 329-351を参照されたい). 本明細書で記載される通り、ある特定のRNA分子の二次構造は、本発明の文脈において関連性がある。
【0118】
本発明によると、核酸分子の二次構造、特に、一本鎖RNA分子の二次構造を、RNA二次構造予測のためのウェブサーバー(http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.html)を使用する予測により決定する。好ましくは、本発明によると、核酸分子に言及する、「二次構造」は、具体的に、前記予測により決定される二次構造を指す。予測はまた、MFOLD構造予測(http://unafold.rna.albany.edu/?q=mfold)を使用して実施又は確認することもできる。
【0119】
本発明によると、「塩基対」とは、二次構造の構造モチーフであって、2ヌクレオチド塩基が、塩基上のドナー部位とアクセプター部位との水素結合を介して互いと会合する構造モチーフである。相補的な塩基である、A:U及びG:Cは、塩基上のドナー部位とアクセプター部位との水素結合を介して、安定的な塩基対を形成し、A:U塩基対及びG:C塩基対は、ワトソン-クリック型の塩基対と呼ばれる。弱い塩基対(ゆらぎ塩基対と呼ばれる)は、塩基であるG及びU(G:U)により形成される。塩基対であるA:U及びG:Cは、古典的塩基対と呼ばれる。他の塩基対G:U(RNA内で生じることが比較的多い)及び他の希少な塩基対(例えば、A:C、U:U)は、非古典的塩基対と呼ばれる。
【0120】
本発明によると、「ヌクレオチド対合」とは、それらの塩基が、塩基対(古典的塩基対又は古典的塩基対、好ましくは、古典的塩基対、最も好ましくは、ワトソン-クリック型の塩基対)を形成するように、互いと会合する2ヌクレオチドを指す。
【0121】
本発明によると、核酸分子に言及する、「ステムループ」又は「ヘアピン」又は「ヘアピンループ」という用語は、全て、互換的に、特定の核酸分子の二次構造、典型的に、一本鎖RNAなど、一本鎖核酸分子を指す。ステムループにより表される特定の二次構造は、ステムと、ヘアピンループともまた呼ばれる(末端の)ループとを含む連続核酸配列であって、ステムが、短い配列(例えば、3-10ヌクレオチド)により隔てられ、ステムループ構造のループを形成する、2つの、近接する、完全又は部分的に相補的な配列エレメントにより形成される連続核酸配列からなる。2つの、近接する、完全又は部分的に相補的な配列は、例えば、ステムループエレメントであるステム1及びステム2として規定することができる。ステムループは、これらの 2つの、近接する、完全又は部分的に逆相補的な配列、例えば、ステムループエレメントであるステム1及びステム2が、互いと塩基対を形成し、その末端において、ステムループエレメントであるステム1とステム2との間に配置される短い配列により形成される非対合ループを含む二本鎖核酸配列をもたらす場合に形成される。したがって、ステムループは、(核酸分子の二次構造のレベルでは)互いと塩基対を形成し、(核酸分子の一次構造のレベルでは)ステム1又はステム2の一部ではない、短い配列より隔てられた、2つのステム(ステム1及びステム2)を含む。例示のために、ステムループの二次元表示は、ロリポップ型の構造に相似する。ステムループ構造の形成は、それ自身の上にフォールドバックして、対合二重鎖を形成しうる配列の存在を必要とし、対合二重鎖は、ステム1及びステム2により形成される。対合ステムループエレメントの安定性は、典型的に、ステム2のヌクレオチドと、このような塩基対を形成することが可能ではない(ミスマッチ又はバルジ)ステム1のヌクレオチドの数と対比したステム2のヌクレオチドと、塩基対(好ましくは、古典的塩基対、より好ましくは、ワトソン-クリック型の塩基対)を形成することが可能な、ステム1のヌクレオチドの長さ、数により決定される。本発明によると、最適なループの長さは、3-10ヌクレオチド、より好ましくは、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、6ヌクレオチド、又は7ヌクレオチドなど、4から7ヌクレオチドである。所与の核酸配列が、ステムループを特徴とする場合、それぞれの相補的な核酸配列はまた、典型的に、ステムループも特徴とする。ステムループは、典型的に、一本鎖RNA分子により形成される。例えば、いくつかのステムループは、アルファウイルスゲノムRNAの5’複製認識配列内に存在する(図1に例示される)。
【0122】
本発明によると、核酸分子の特異的二次構造(例えば、ステムループ)に言及する、「破壊」又は「~を破壊する」とは、特異的二次構造が、非存在であるか、又は変更されていることを意味する。典型的に、二次構造の一部である、少なくとも1つのヌクレオチドの変化の結果として破壊されうる。例えば、ステムループは、ステムを形成する、一又は複数のヌクレオチドの変化であって、ヌクレオチドの対合を可能としないような変化により破壊されうる。
【0123】
本発明によると、「二次構造の破壊を補正する」又は「二次構造の破壊を補正すること」とは、核酸配列内の、一又は複数のヌクレオチド変化を指し、より典型的には、核酸配列内の一又は複数の第2のヌクレオチド変化であって、核酸配列がまた、以下:一又は複数の第2のヌクレオチド変化の非存在下における、一又は複数の第1のヌクレオチド変化は、核酸配列の二次構造の破壊を引き起こすが、一又は複数の第1のヌクレオチド変化と、一又は複数の第2のヌクレオチド変化との共発生は、核酸の二次構造の破壊を引き起こさないことによって特徴づけられる、一又は複数の第1のヌクレオチド変化も含む、第2のヌクレオチド変化を指す。共発生とは、一又は複数の第1のヌクレオチド変化、及び一又は複数の第2のヌクレオチド変化の両方の存在を意味する。典型的に、一又は複数の第1のヌクレオチド変化と、一又は複数の第2のヌクレオチド変化とは、同じ核酸分子内に、共に存在する。具体的な実施態様では、二次構造の破壊を補正する、一又は複数のヌクレオチド変化は、一又は複数のヌクレオチド対合の破壊を補正する、一又は複数のヌクレオチド変化である。したがって、一実施態様では、「二次構造の破壊を補正すること」とは、「ヌクレオチド対合の破壊」、すなわち、一又は複数のヌクレオチド対合の破壊、例えば、一又は複数のステムループ内の、一又は複数のヌクレオチド対合の破壊「を補正すること」を意味する。一又は複数のヌクレオチド対合の破壊は、少なくとも1つの開始コドンの除去により導入された可能性がある。二次構造の破壊を補正する、一又は複数のヌクレオチド変化の各々は、各々、一又は複数のヌクレオチドの欠失、付加、置換及び/又は挿入から独立に選択されうるヌクレオチド変化である。例示的な例では、ヌクレオチド対合であるA:Uが、AからCへの置換により破壊される(CとUとは、典型的に、ヌクレオチド対を形成するのに適さない)場合、ヌクレオチド対合の破壊を補正するヌクレオチド変化は、UのGによる置換であることが可能であり、これにより、C:Gヌクレオチド対合の形成を可能とする。したがって、UのGによる置換は、ヌクレオチド対合の破壊を補正する。代替例では、ヌクレオチド対合であるA:Uが、AからCへの置換により破壊される場合、ヌクレオチド対合の破壊を補正するヌクレオチド変化は、CのAによる置換であることが可能であり、これにより、元のA:Uヌクレオチド対合の形成を回復させる。一般に、本発明では、二次構造の破壊を補正するヌクレオチド変化であって、元の核酸配列を回復させたり、新規のAUGトリプレットを創出したりしないヌクレオチド変化が好ましい。上記の例のセットでは、UからGへの置換が、CからAへの置換より好ましい。
【0124】
本発明によると、核酸分子に言及する、「三次構造」という用語は、原子座標により規定される、核酸分子の三次元構造を指す。
【0125】
本発明によると、RNA、例えば、mRNAなどの核酸は、ペプチド又はタンパク質をコードしうる。したがって、転写可能な核酸配列又はその転写物は、ペプチド又はタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含有しうる。
【0126】
本発明によると、「ペプチド又はタンパク質をコードする核酸」という用語は、核酸が、適切な環境内、好ましくは、細胞内に存在する場合、翻訳の過程において、ペプチド又はタンパク質を産生するように、アミノ酸のアセンブリーを導きうることを意味する。好ましくは、本発明に従うコードRNAは、ペプチド又はタンパク質をもたらすように、コードRNAの翻訳を可能とする、細胞内翻訳機構と相互作用することが可能である。
【0127】
本発明によると、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチド及びポリペプチドを含み、ペプチド結合を介して互いと連結された、2又はこれを超える、好ましくは、3又はこれを超える、好ましくは、4又はこれを超える、好ましくは、6又はこれを超える、好ましくは、8又はこれを超える、好ましくは、10又はこれを超える、好ましくは、13又はこれを超える、好ましくは、16又はこれを超える、好ましくは、20又はこれを超える、最大で、好ましくは、50、好ましくは、100、又は、好ましくは、150の連続アミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大型のペプチド、好ましくは、少なくとも151アミノ酸を有するペプチドを指すが、本明細書では、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は通例、同意語として使用される。
【0128】
「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本発明によると、アミノ酸構成要素だけでなく、また、糖構造及びリン酸構造など、アミノ酸以外の構成要素も含有する物質を含み、また、エステル結合、チオエーテル結合、又はジスルフィド結合などの結合を含有する物質も含む。
【0129】
本発明によると、「開始(initiation)コドン」及び「開始(start)コドン」という用語は、同義に、RNA分子のコドン(塩基トリプレット)であって、リボソームにより翻訳される、潜在的な第1のコドンであるコドンを指す。このようなコドンは、典型的に、真核生物では、アミノ酸メチオニンをコードし、原核生物では、修飾メチオニンをコードする。真核生物及び原核生物において最も一般的な開始(initiation)コドンは、AUGである。本明細書で、AUG以外の開始(initiation)コドンを意味することが明言されない限りにおいて、RNA分子に言及する「開始(initiation)コドン」及び「開始(start)コドン」という用語は、コドンであるAUGを指す。本発明に従う「開始(initiation)コドン」及び「開始(start)コドン」という用語はまた、デオキシリボ核酸の対応する塩基トリプレット、すなわち、RNAの開始(initiation)コドンをコードする塩基トリプレットを指すのにも使用される。メッセンジャーRNAの開始(initiation)コドンが、AUGである場合、AUGをコードする塩基トリプレットは、ATGである。本発明に従う「開始(initiation)コドン」及び「開始(start)コドン」という用語は、好ましくは、機能的な開始(initiation)コドン又は開始(start)コドン、すなわち、翻訳を開始するのに、リボソームにより、コドンとして使用されるか、又は使用されることになる、開始(initiation)コドン又は開始(start)コドンを指す。RNA分子内には、例えば、コドンのキャップへの距離が短いために、翻訳を開始するのに、リボソームにより、コドンとして使用されないAUGコドンが存在する。これらのコドンは、機能的な開始(initiation)コドン又は開始(start)コドンという用語に包含されない。
【0130】
本発明によると、「オープンリーディングフレームの開始(start)コドン」又は「オープンリーディングフレームの開始(initiation)コドン」という用語は、コード配列内、例えば、天然で見出される核酸分子のコード配列内のタンパク質合成のための開始(initiation)コドンとして用いられる塩基トリプレットを指す。RNA分子内では、オープンリーディングフレームの開始(start)コドンは、5’非翻訳領域(5’-UTR)に先立たれることが多いが、これは、厳密に必要とされるわけではない。
【0131】
本発明によると、「オープンリーディングフレームの天然開始(start)コドン」又は「オープンリーディングフレームの天然開始(initiation)コドン」という用語は、天然コード配列内のタンパク質合成のための開始(initiation)コドンとして用いられる塩基トリプレットを指す。天然コード配列は、例えば、天然で見出される核酸分子のコード配列でありうる。一部の実施態様では、本発明は、天然で見出される核酸分子の変異体であって、天然の開始コドン(天然のコード配列内に存在する)が、除去されている(変異体核酸分子内に存在しないように)ことを特徴とする変異体を提供する。
【0132】
本発明によると、「最初のAUG」とは、メッセンジャーRNA分子の、最も上流のAUG塩基トリプレット、好ましくは、メッセンジャーRNA分子の、最も上流のAUG塩基トリプレットであって、翻訳を開始するのに、リボソームにより、コドンとして使用されるか、又は使用されることになるAUG塩基トリプレットを意味する。したがって、「最初のATG」とは、最初のAUGをコードする、コードDNA配列のATG塩基トリプレットを指す。場合によって、mRNA分子の、最初のAUGは、オープンリーディングフレームの開始(start)コドン、すなわち、リボソームによるタンパク質合成時の開始コドンとして使用されるコドンである。
【0133】
本発明によると、「除去を含む」又は「除去を特徴とする」という用語及び同様の用語は、核酸変異体のある特定のエレメントに言及し、前記ある特定のエレメントが、基準核酸分子と比較して機能的ではないか、又は核酸変異体内に存在しないことを意味する。限定なしに述べると、除去は、ある特定のエレメントの全部若しくは一部の欠失、ある特定のエレメントの全部若しくは一部の置換、又はある特定のエレメント機能的特性若しくは構造的特性の変更からなりうる。核酸配列の機能的エレメントの除去は、機能が、除去を含む核酸変異体の位置において認められないことを必要とする。例えば、ある特定の開始コドンの除去を特徴とするRNA変異体は、リボソームタンパク質の合成が、除去を特徴とするRNA変異体の位置において開始されないことを必要とする。核酸配列の構造エレメントの除去は、構造エレメントが、除去を含む、核酸変異体の位置において存在しないことを必要とする。例えば、ある特定の位置における、ある特定のAUG塩基トリプレット、すなわち、AUG塩基トリプレットの除去を特徴とするRNA変異体は、結果として得られる、変異体のヌクレオチド配列が、前記AUG塩基トリプレットを含まないように、例えば、ある特定のAUG塩基トリプレットの一部又は全部の欠失(例えば、ΔAUG)、又はある特定のAUG塩基トリプレットのうちの、1若しくは複数のヌクレオチド(A、U、G)の、任意の1若しくは複数の異なるヌクレオチドによる置換を特徴としうる。1つのヌクレオチドの適切な置換は、AUG塩基トリプレットを、GUG、CUG、若しくはUUGの塩基トリプレット、又はAAG、ACG、若しくはAGGの塩基トリプレット、又はAUA、AUC、若しくはAUUの塩基トリプレットへと転換する置換である。状況に応じて、より多くのヌクレオチドの適切な置換も選択することができる。
【0134】
本発明によると、「アルファウイルス」という用語は、広義に理解され、アルファウイルスの特徴を有する、任意のウイルス粒子を含む。アルファウイルスの特徴は、宿主細胞内の複製に適する遺伝情報をコードし、RNAポリメラーゼ活性を含む、(+)鎖RNAの存在を含む。多くのアルファウイルスの更なる特徴については、例えば、Strauss及びStrauss,Microbiol.Rev.、1994、vol.58、pp.491-562において記載されている。「アルファウイルス」という用語は、天然で見出されるアルファウイルスのほか、その任意の変異体又は誘導体を含む。一部の実施態様では、変異体又は誘導体は、天然では見出されない。
【0135】
一実施態様では、アルファウイルスは、天然で見出されるアルファウイルスである。典型的に、天然で見出されるアルファウイルスは、動物(ヒトなどの脊椎動物、及び昆虫などの節足動物を含む)など、一又は複数の任意の真核生物に対して感染性である。
【0136】
天然で見出されるアルファウイルスは、好ましくは、以下:バーマ森林ウイルス複合体(バーマ森林ウイルスを含む);東部ウマ脳炎複合体(東部ウマ脳炎ウイルスの7つの抗原型を含む);ミドルバーグウイルス複合体(ミドルバーグウイルスを含む);ヌドゥムウイルス複合体(ヌドゥムウイルスを含む);セムリキ森林ウイルス複合体(ベバルウイルス、チクングニヤウイルス、マヤロウイルス及びその亜型であるウナウイルス、オニョンニョンウイルス及びその亜型であるイグボ-オラウイルス、ロスリバーウイルス及びその亜型であるベバルウイルス、ゲタウイルス、サギヤマウイルス、セムリキ森林ウイルス及びその亜型であるメトリウイルスを含む);ベネズエラウマ脳炎ウイルス複合体(カバスーウイルス、エバーグレーズウイルス、モッソダスペドラスウイルス、ムカンボウイルス、パラマナウイルス、ピクスナウイルス、リオネグロウイルス、トロカラウイルス及びその亜型であるビジューブリッジウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む);西部ウマ脳炎ウイルス複合体(アウラウイルス、ババンキウイルス、キジラガチウイルス、シンドビスウイルス、オケルボウイルス、ワタロアウイルス、バギークリークウイルス、フォートモーガンウイルス、ハイランドJウイルス、西部ウマ脳炎ウイルスを含む);並びにサケ膵臓病ウイルス;睡眠病ウイルス;ミナミゾウアザラシウイルス;トナテウイルスを含む、一部の未分類ウイルスからなる群から選択される。より好ましくは、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルス複合体(セムリキ森林ウイルスを含む、上記に表示のウイルス型を含む)、西部ウマ脳炎ウイルス複合体(シンドビスウイルスを含む、上記に表示のウイルス型を含む)、東部ウマ脳炎ウイルス(上記に表示のウイルス型を含む)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス複合体(ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む、上記に表示のウイルス型を含む)からなる群から選択される。
【0137】
更に好ましい実施態様では、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルスである。代替的な、更に好ましい実施態様では、アルファウイルスは、シンドビスウイルスである。代替的な、更に好ましい実施態様では、アルファウイルスは、ベネズエラウマ脳炎ウイルスである。
【0138】
本発明の一部の実施態様では、アルファウイルスは、天然で見出されるアルファウイルスではない。典型的に、天然で見出されないアルファウイルスは、天然で見出されるアルファウイルスの変異体又は誘導体であって、ヌクレオチド配列内、すなわち、ゲノムRNA内の少なくとも1つの突然変異により、天然で見出されるアルファウイルスから識別される変異体又は誘導体である。ヌクレオチド配列内の突然変異は、天然で見出されるアルファウイルスと比較した、一又は複数のヌクレオチドの挿入、置換、又は欠失から選択することができる。ヌクレオチド配列内の突然変異は、ヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチド内又はタンパク質内の突然変異を伴う場合も伴わない場合もある。例えば、天然で見出されないアルファウイルスは、弱毒化アルファウイルスでありうる。天然で見出されない弱毒化アルファウイルスは、典型的に、そのヌクレオチド配列内の、少なくとも1つの突然変異であって、それにより、天然で見出されるアルファウイルスから識別される突然変異を有し、全く感染性ではないか、又は感染性であるが、病原能が低度であるか、若しくは病原能を全く有さないアルファウイルスである。例示的な例として述べると、TC83は、天然で見出されるベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)から識別される弱毒化アルファウイルス(McKinney等, 1963, Am. J. Trop. Med. Hyg., 1963, vol. 12; pp. 597-603)である。
【0139】
アルファウイルス属のメンバーはまた、ヒトにおけるそれらの相対的な臨床特色に基づいても分類することができる。つまり、主に脳炎と関連するアルファウイルス、並びに、主に、発熱、発赤、及び多発性関節炎と関連するアルファウイルスである。
【0140】
「アルファウイルスの」という用語は、アルファウイルス内で見出されるか、又はアルファウイルスに由来するか、又は、例えば、遺伝子操作により、アルファウイルスから導出されることを意味する。
【0141】
本発明によると、「SFV」とは、セムリキ森林ウイルスを表す。本発明によると、「SIN」又は「SINV」とは、シンドビスウイルスを表す。本発明によると、「VEE」又は「VEEV」とは、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを表す。
【0142】
本発明によると、「アルファウイルスの」という用語は、アルファウイルスに由来する実体を指す。例示のために、アルファウイルスのタンパク質は、アルファウイルス内で見出されるタンパク質、及び/又はアルファウイルスによりコードされるタンパク質を指す場合があり、アルファウイルスの核酸配列は、アルファウイルス内で見出される核酸配列、及び/又はアルファウイルスによりコードされる核酸配列を指す場合がある。好ましくは、「アルファウイルスの」核酸配列とは、「アルファウイルスゲノムの」核酸配列、及び/又は「アルファウイルスゲノムRNAの」核酸配列を指す。
【0143】
本発明によると、「アルファウイルスRNA」という用語は、アルファウイルスゲノムRNA(すなわち、(+)鎖)、アルファウイルスゲノムRNAの相補体(すなわち、(-)鎖)、及びサブゲノム転写物(すなわち、(+)鎖)、又はこれらの任意の断片のうちのいずれか一又は複数を指す。
【0144】
本発明によると、「アルファウイルスゲノム」とは、アルファウイルスゲノムの(+)鎖RNAを指す。
【0145】
本発明によると、「天然のアルファウイルス配列」という用語及び同様の用語は、典型的に、天然にあるアルファウイルス(天然で見出されるアルファウイルス)の(例えば、核酸)配列を指す。一部の実施態様では、「天然のアルファウイルス配列」という用語はまた、弱毒化アルファウイルスの配列も含む。
【0146】
本発明によると、「5’複製認識配列」という用語は、アルファウイルスゲノムの5’断片と同一又は相同な、好ましくは、連続核酸配列、好ましくは、リボ核酸配列を指す。「5’複製認識配列」とは、アルファウイルスレプリカーゼにより認識されうる核酸配列である。5’複製認識配列という用語は、天然5’複製認識配列のほか、例えば、天然で見出されるアルファウイルスの5’複製認識配列の機能的な変異体など、その機能的同等物を含む。本発明によると、機能的同等物は、本明細書で記載される、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする5’複製認識配列を含む。5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖相補体の合成に必要とされ、(-)鎖鋳型に基づく、(+)鎖ウイルスゲノムRNAの合成に必要とされる。天然の5’複製認識配列は、典型的に、nsP1の、少なくともN末端断片をコードするが、nsP1234をコードする、全オープンリーディングフレームを含まない。天然の5’複製認識配列は、典型的に、nsP1の、少なくともN末端断片をコードするという事実を念頭に置くと、天然の5’複製認識配列は、典型的に、少なくとも1つの開始コドン、典型的に、AUGを含む。一実施態様では、5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムの保存配列エレメント1(CSE1)又はその変異体と、アルファウイルスゲノムの保存配列エレメント2(CSE2)又はその変異体とを含む。5’複製認識配列は、典型的に、4つのステムループ(SL)、すなわち、SL1、SL2、SL3、SL4を形成することが可能である。これらのステムループの番号付けは、5’複製認識配列の5’末端で始まる。
【0147】
本発明によると、「アルファウイルスの5’末端における」という用語は、アルファウイルスゲノムの5’末端を指す。アルファウイルスの5’末端における核酸配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5’末端に配置されたヌクレオチドに加えて、任意選択で、更なるヌクレオチドの連続配列を包含する。一実施態様では、アルファウイルスの5’末端における核酸配列は、アルファウイルスゲノムの5’複製認識配列と同一である。
【0148】
「保存配列エレメント」又は「CSE」という用語は、アルファウイルスRNA内で見出されるヌクレオチド配列を指す。異なるアルファウイルスのゲノム内には、オーソログが存在し、異なるアルファウイルスのオーソログであるCSEは、好ましくは、高百分率の配列同一性及び/又は類似の二次構造若しくは三次構造を共有するため、これらの配列エレメントを、「保存的」と称する。CSEという用語は、CSE1、CSE2、CSE3、及びCSE4を含む。
【0149】
本発明によると、「CSE1」又は「44ntのCSE」という用語は、同義に、(-)鎖鋳型からの(+)鎖の合成に必要とされるヌクレオチド配列を指す。「CSE1」という用語は、(+)鎖上の配列を指し、CSE1の相補的配列((-)鎖上の)は、(+)鎖合成のためのプロモーターとして機能する。好ましくは、CSE1という用語は、アルファウイルスゲノムの、最も5’側のヌクレオチドを含む。CSE1は、典型的に、保存ステムループ構造を形成する。特定の理論に束縛されることを望まずに述べると、CSE1については、二次構造が、一次構造、すなわち、直鎖状配列より重要であることが考えられる。モデルのアルファウイルスである、シンドビスウイルスのゲノムRNAでは、CSE1は、ゲノムRNAの、最も5’側の44ヌクレオチドにより形成される、44ヌクレオチドの連続配列からなる(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。
【0150】
本発明によると、「CSE2」又は「51ntのCSE」という用語は、同義に、(+)鎖鋳型からの(-)鎖の合成に必要とされるヌクレオチド配列を指す。(+)鎖鋳型は、典型的に、アルファウイルスゲノムRNA又はRNAレプリコン(CSE2を含まないサブゲノムRNA転写物は、(-)鎖の合成のための鋳型として機能しないことに留意されたい)である。アルファウイルスゲノムRNAでは、CSE2は、典型的に、nsP1のコード配列内に局在化する。モデルのアルファウイルスである、シンドビスウイルスのゲノムRNAでは、51ntのCSEは、ゲノムRNAのヌクレオチド155-205位に配置される(Frolov等, 2001, RNA, vol. 7, pp. 1638-1651)。CSE2は、典型的に、2つの保存ステムループ構造を形成する。これらのステムループ構造は、アルファウイルスゲノムRNAの5’末端から数えて、アルファウイルスゲノムRNAの、それぞれ、第3の保存ステムループ及び第4の保存ステムループであるため、ステムループ3(SL3)及びステムループ4(SL4)と称する。特定の理論に束縛されることを望まずに述べると、CSE2については、二次構造が、一次構造、すなわち、直鎖状配列より重要であることが考えられる。
【0151】
本発明によると、「CSE3」又は「接合部配列」という用語は、同義に、アルファウイルスゲノムRNAに由来し、サブゲノムRNAの開始部位を含むヌクレオチド配列を指す。(-)鎖内のこの配列の相補体は、サブゲノムRNAの転写を促進するように作用する。アルファウイルスゲノムRNAでは、CSE3は、典型的に、nsP4のC末端断片をコードする領域と重複し、構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの上流に配置される、短い非コード領域に及ぶ。Strauss及びStrauss(Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)によると、CSE3は、コンセンサス配列
ACCUCUACGGCGGUCCUAAAUAGG(配列番号1;コンセンサス接合部配列(コンセンサスCSE3);下線を付したヌクレオチドは、サブゲノム転写物の最初の5ヌクレオチドを表す)
を特徴とする。
【0152】
本発明の一実施態様では、CSE3は、配列番号1又はその変異体からなるか、又はこれを含み、この場合、変異体は、好ましくは、配列番号1に対する、80%若しくはこれを超える、85%若しくはこれを超える、90%若しくはこれを超える、95%若しくはこれを超える、96%若しくはこれを超える、97%若しくはこれを超える、98%若しくはこれを超える、又は99%若しくはこれを超える、配列同一性の程度を特徴とする。
【0153】
本発明によると、「CSE4」又は「19ntの保存配列」又は「19ntのCSE」という用語は、同義に、アルファウイルスゲノムの3’非翻訳領域内のポリ(A)配列のすぐ上流の、アルファウイルスゲノムRNAに由来するヌクレオチド配列を指す。CSE4は、典型的に、19連続ヌクレオチドからなる。特定の理論に束縛されることを望まずに述べると、CSE4は、(-)鎖合成の開始のためのコアプロモーターとして機能すると理解され(Jose等, Future Microbiol., 2009, vol. 4, pp. 837-856)、且つ/又はアルファウイルスのCSE4及びポリ(A)テールゲノムRNAは、効率的な(-)鎖合成のために共に機能すると理解される(Hardy及びRice, J. Virol., 2005, vol. 79, pp. 4630-4639)。
【0154】
Strauss及びStraussによると、CSE4は、保存配列
AUUUUGUUUUUAAUAUUUC(配列番号2;19ntの保存配列)
を特徴とする。
【0155】
本発明の一実施態様では、CSE4は、配列番号2又はその変異体からなるか、又はこれを含み、この場合、変異体は、好ましくは、配列番号2に対する、80%若しくはこれを超える、85%若しくはこれを超える、90%若しくはこれを超える、95%若しくはこれを超える、96%若しくはこれを超える、97%若しくはこれを超える、98%若しくはこれを超える、又は99%若しくはこれを超える、配列同一性の程度を特徴とする。
【0156】
本発明によると、「サブゲノムプロモーター」又は「SGP」という用語は、核酸配列(例えば、コード配列)の上流(5’側)の核酸配列であって、RNAポリメラーゼ、典型的に、RNA依存性RNAポリメラーゼ、特に、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質に対する認識部位及び結合性部位をもたらすことにより、前記核酸配列の転写を制御する核酸配列を指す。SGPは、更なる因子に対する、更なる認識部位又は結合性部位を含みうる。サブゲノムプロモーターは、典型的に、アルファウイルスなど、プラス鎖RNAウイルスの遺伝子エレメントである。アルファウイルスのサブゲノムプロモーターは、ウイルスゲノムRNA内に含まれる核酸配列である。サブゲノムプロモーターは一般に、RNA依存性RNAポリメラーゼ、例えば、アルファウイルスレプリカーゼの存在下で、転写(RNA合成)の開始を可能とすることを特徴とする。RNA(-)鎖、すなわち、アルファウイルスゲノムRNAの相補体は、(+)鎖であるサブゲノム転写物の合成のための鋳型として用いられ、サブゲノム(+)鎖の合成は、典型的に、サブゲノムプロモーターにおいて、又はこの近傍で開始される。本明細書で使用される「サブゲノムプロモーター」という用語は、このようなサブゲノムプロモーターを含む核酸内の、任意の特定の配置に制約されない。一部の実施態様では、SGPは、CSE3と同一であるか、又はCSE3と重複するか、又はCSE3を含む。
【0157】
「サブゲノム転写物」又は「サブゲノムRNA」という用語は、同義に、RNA分子を鋳型(「鋳型RNA」)として使用する転写の結果として得られるRNA分子を指し、この場合、鋳型RNAは、サブゲノム転写物の転写を制御するサブゲノムプロモーターを含む。サブゲノム転写物は、RNA依存性RNAポリメラーゼ、特に、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質の存在下で得られる。例えば、「サブゲノム転写物」という用語は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、アルファウイルスが感染した細胞内で調製されるRNA転写物を指す場合がある。しかし、本明細書で使用される「サブゲノム転写物」という用語は、これに限定されず、また、異種RNAを鋳型として使用することにより得られる転写物も含む。例えば、サブゲノム転写物はまた、本発明に従うSGP含有レプリコンの(-)鎖相補体を鋳型として使用することによっても得られる。したがって、「サブゲノム転写物」という用語は、アルファウイルスゲノムRNAの断片を転写することにより得られるRNA分子のほか、本発明に従うレプリコンの断片を転写することにより得られるRNA分子を指す場合がある。
【0158】
「自家」という用語は、同じ対象に由来する何ものかについて記載するのに使用される。例えば、「自家細胞」とは、同じ対象に由来する細胞を指す。対象への自家細胞の導入は、これらの細胞が、そうでなければ、拒絶を結果としてもたらす、免疫学的障壁を越えるために、有利である。
【0159】
「同種」という用語は、同じ種の異なる個体に由来する何ものかについて記載するのに使用される。一又は複数の遺伝子座における遺伝子が同一ではない場合、2つ又はこれを超える個体を、互いと同種であるという。
【0160】
「同系」という用語は、同一な遺伝子型を有する個体又は組織、すなわち、同一な双生児若しくは同じ近交系の動物、又はそれらの組織若しくは細胞に由来する何ものかについて記載するのに使用される。
【0161】
「異種」という用語は、複数の異なるエレメントからなる何ものかについて記載するのに使用される。例としては、1つの個体の細胞の、異なる個体への導入は、異種移植を構成する。異種遺伝子とは、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0162】
以下は、本発明の個別の特色について、具体的変化形及び/又は好ましい変化形を提示する。本発明はまた、特に好ましい実施態様として、本発明の特色のうちの、2つ又はこれを超えるものについて記載される、具体的変化形及び/又は好ましい変化形のうちの、2つ又はこれを超えるものを組み合わせることにより生成しうる実施態様も想定する。
【0163】
RNAレプリコン
第1の態様では、本発明は、天然アルファウイルス5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする5’複製認識配列を含むレプリコンを提供する。レプリコンは、好ましくは、RNAレプリコンである。
【0164】
本明細書では、本発明に従う、天然アルファウイルス5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする5’複製認識配列を、「修飾5’複製認識配列」又は「本発明に従う5’複製認識配列」と称しうる。本明細書の下記で記載される通り、本発明に従う5’複製認識配列は、任意選択で、一又は複数の更なるヌクレオチド変化の存在を特徴としうる。
【0165】
レプリカーゼ、好ましくは、アルファウイルスレプリカーゼによる複製が可能な核酸コンストラクトを、レプリコンと称する。本発明によると、「レプリコン」という用語は、(DNA中間体を伴わずに)RNAレプリコンの、一又は複数の、同一であるか、又は本質的に同一なコピーをもたらす、RNA依存性RNAポリメラーゼにより複製することができるRNA分子を規定する。「DNA中間体を伴わずに」とは、レプリコンのデオキシリボ核酸(DNA)のコピー又は相補体が、RNAレプリコンのコピーを形成する過程において形成されず、且つ/又はRNAレプリコン又はその相補体のコピーを形成する過程において、デオキシリボ核酸(DNA)分子を鋳型として使用しうることを意味する。レプリカーゼ機能は、典型的に、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質によりもたらされる。
【0166】
本発明によると、「複製することができる」及び「複製が可能」という用語は、一般に、核酸の、一又は複数の、同一であるか、又は本質的に同一なコピーを調製しうることについて記載する。「レプリカーゼにより複製が可能」など、「レプリカーゼ」という用語と共に使用される場合、「複製することができる」及び「複製が可能」という用語は、レプリカーゼに関する、核酸分子、例えば、RNAレプリコンの機能的特徴について記載する。これらの機能的特徴は、(i)レプリカーゼが、レプリコンを認識することが可能であること、及び(ii)レプリカーゼが、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)として作用することが可能であることのうちの少なくとも1つを含む。好ましくは、レプリカーゼは、(i)レプリコンを認識すること、及び(ii)RNA依存性RNAポリメラーゼとして作用することの両方が可能である。
【0167】
「~を認識することが可能」という表現は、レプリカーゼが、レプリコンと物理的に会合することが可能であり、好ましくは、レプリカーゼが、典型的に、非共有結合的に、レプリコンに結合することが可能であることについて記載する。「結合すること」という用語は、レプリカーゼが、保存配列エレメント1(CSE1)又はその相補的な配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列エレメント2(CSE2)又はその相補的な配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列エレメント3(CSE3)又はその相補的な配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列エレメント4(CSE4)又はその相補的な配列(レプリコンに含まれる場合)のうちのいずれか一又は複数への結合能を有することを意味しうる。好ましくは、レプリカーゼは、CSE2[すなわち、(+)鎖]、及び/若しくはCSE4[すなわち、(+)鎖]への結合が可能であるか、又はCSE1[すなわち、(-)鎖]の相補体、及び/若しくはCSE3[すなわち、(-)鎖]の相補体への結合が可能である。
【0168】
「RdRPとして作用することが可能」という表現は、レプリカーゼが、アルファウイルスゲノムの(+)鎖RNAの(-)鎖相補体の合成を触媒することが可能であり、この場合、(+)鎖RNAが、鋳型機能を有すること、及び/又はレプリカーゼが、(+)鎖であるアルファウイルスゲノムRNAの合成を触媒することが可能であり、この場合、(-)鎖RNAが鋳型機能を有することを意味する。一般に、「RdRPとして作用することが可能」という表現はまた、レプリカーゼが、(+)鎖サブゲノム転写物の合成を触媒することが可能であり、この場合、(-)鎖RNAが、鋳型機能を有し、且つ、(+)鎖サブゲノム転写物の合成が、典型的に、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターにおいて開始されることも含みうる。
【0169】
「結合が可能」及び「RdRPとして作用することが可能」という表現は、通常の生理学的条件における能力を指す。特に、表現は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現するか、又は機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸をトランスフェクトされた細胞内部の条件を指す。細胞は、好ましくは、真核細胞である。結合能及び/又はRdRPとして作用する能力は、例えば、細胞非含有のin vitroシステム又は真核細胞において、実験により調べることができる。任意選択で、前記真核細胞は、レプリカーゼの由来を表す、特定のアルファウイルスが感染性である種に由来する細胞である。例えば、ヒトに対して感染性である、特定のアルファウイルスに由来するアルファウイルスレプリカーゼを使用する場合、正常な生理学的条件は、ヒト細胞内の条件である。より好ましくは、真核細胞(一例では、ヒト細胞)は、レプリカーゼの由来を表す、特定のアルファウイルスが感染性である、同じ組織又は器官に由来する。
【0170】
本発明によると、「天然のアルファウイルス配列と比較して」及び同様の用語は、天然のアルファウイルス配列の変異体である配列を指す。変異体は、典型的に、それ自体では、天然のアルファウイルス配列ではない。
【0171】
一実施態様では、RNAレプリコンは、3’複製認識配列を含む。3’複製認識配列は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により認識することができる核酸配列である。言い換えれば、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、3’複製認識配列を認識することが可能である。好ましくは、3’複製認識配列を、レプリコンの3’末端(レプリコンが、ポリ(A)テールを含まない場合)、又はポリ(A)テールのすぐ上流(レプリコンが、ポリ(A)テールを含む場合)に位置する。一実施態様では、3’複製認識配列は、CSE4からなるか、又はこれを含む。
【0172】
一実施態様では、5’複製認識配列及び3’複製認識配列は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質の存在下で、本発明に従うRNAレプリコンの複製を導くことが可能である。したがって、単独で、又は、好ましくは、共に存在する場合、これらの認識配列は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質の存在下で、RNAレプリコンの複製を導く。
【0173】
レプリコンの修飾5’複製認識配列及び3’複製認識配列のいずれも認識することが可能である、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を、シス(レプリコン上のオープンリーディングフレームにより、目的のタンパク質としてコードされる)、又はトランス(第2の態様において記載される、別個のレプリカーゼコンストラクト上のオープンリーディングフレームにより、目的のタンパク質としてコードされる)で、もたらすことが好ましい。一実施態様では、これは、3’複製認識配列が、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに対して天然であり、修飾5’複製認識配列が、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに対して天然である、5’複製認識配列の変異体である場合に達成される。天然とは、これらの配列の天然の由来が、同じアルファウイルスであることを意味する。代替的実施態様では、修飾5’複製認識配列及び/又は3’複製認識配列は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質が、レプリコンの修飾5’複製認識配列及び3’複製認識配列のいずれも認識することが可能であることを条件として、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに対して天然ではない。言い換えれば、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、修飾5’複製認識配列及び3’複製認識配列に対して適合性である。非天然の機能的なアルファウイルス非構造タンパク質が、それぞれの配列又は配列エレメントを認識することが可能である場合、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を、適合性(ウイルス間適合性)という。ウイルス間適合性が存在する限りにおいて、(3’/5’)複製認識配列及びCSEのそれぞれの、アルファウイルス非構造タンパク質との任意の組合せが可能である。本発明を実行する当業者は、機能的な被験アルファウイルス非構造タンパク質を、被験3’複製認識配列及び(任意選択で、修飾された)被験5’複製認識配列を有するRNAと共に、RNAの複製に適する条件で、例えば、適切な宿主細胞内でインキュベートすることにより、ウイルス間適合性について、たやすく調べることができる。複製が生じる場合、(3’/5’)複製認識配列と機能的なアルファウイルス非構造タンパク質とは、適合性であると決定される。
【0174】
少なくとも1つの開始コドンの除去は、先行技術のトランスレプリコン(例えば、図1の「WT-RRSによる鋳型RNA」により表されるトランスレプリコンなど)を上回る、いくつかの利点をもたらす。nsP1をコードする核酸配列内の開始コドンの非存在は、典型的に、nsP1(nsP1のN末端断片)を翻訳させないであろう。更に、nsP1は、翻訳されないので、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(「トランス遺伝子」)が、リボソームにアクセス可能な、最も上流のオープンリーディングフレームとなり、したがって、レプリコンが、細胞内に存在する場合、翻訳は、目的の遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム(RNA)の、最初のAUGにおいて開始される。これは、Spuul等(J. Virol., 2011, vol. 85, pp. 4739-4751)により記載されるトランスレプリコンなど、先行技術のトランスレプリコンを上回る利点を表す。Spuul等に従うレプリコンは、74アミノ酸のペプチドである、nsP1のN末端部分の発現を導く。先行技術からはまた、ある特定の突然変異は、RNAを複製不可能とし(国際公開第2000/053780A2号)、アルファウイルスの複製に重要な5’構造の一部の除去は、複製の効率に影響を及ぼす(Kamrud等, 2010, J. Gen. Virol., vol. 91, pp. 1723-1727)ので、RNAレプリコンの、全長ウイルスゲノムからの構築が瑣末事ではないことも公知である。
【0175】
先行技術のシスレプリコンを上回る利点は、少なくとも1つの開始コドンの除去が、アルファウイルス非構造タンパク質のコード領域を、5’複製認識配列から切り離すことである。これは、例えば、天然の5’複製認識配列を、人工配列、突然変異配列、又は別のRNAウイルスから採取された異種配列と交換することによる、シスレプリコンの更なる操作を可能とする。先行技術のシスレプリコンでは、このような配列操作は、nsP1のアミノ酸配列により制約される。任意の点突然変異、又は点突然変異のクラスターは、複製に影響が及び、タンパク質に対するそれらの有害な効果のために、フレームシフト突然変異をもたらす小規模な挿入又は欠失が不可能であるのかどうかについての実験による評価を必要とするであろう。
【0176】
本発明に従う、少なくとも1つの開始コドンの除去は、当技術分野で公知である、任意の適切な方法により達成することができる。例えば、本発明に従うレプリコンをコードする、すなわち、開始コドンの除去を特徴とする、適切なDNA分子を、コンピュータによりデザインし、その後、in vitroにおいて合成する(遺伝子合成)こともでき、代替的に、適切なDNA分子を、レプリコンをコードするDNA配列お部位指向突然変異誘発により得ることもできる。いずれの場合にも、それぞれのDNA分子を、in vitro転写のための鋳型として用い、これにより、本発明に従うレプリコンをもたらすことができる。
【0177】
天然のアルファウイルスの5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去は、特に、限定されるものではなく、一又は複数のヌクレオチド(DNAレベルで、開始コドンのA及び/又はT及び/又はGの置換を含む)の置換、一又は複数のヌクレオチド(DNAレベルで、開始コドンのA及び/又はT及び/又はGの欠失を含む)の欠失、及び一又は複数のヌクレオチド(DNAレベルで、開始コドンの、AとTとの間及び/又はTとGとの間の、一又は複数のヌクレオチド挿入を含む)の挿入を含む、任意のヌクレオチド修飾から選択することができる。ヌクレオチド修飾が、置換であるのか、挿入であるのか、欠失であるのかに関わらず、ヌクレオチド修飾は、新たな開始コドンの形成を結果としてもたらしてはならない(例示的な例としては、DNAレベルにおける挿入は、ATGの挿入であってはならない)。
【0178】
少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする、RNAレプリコンの5’複製認識配列(すなわち、本発明に従う修飾5’複製認識配列)は、好ましくは、天然で見出されるアルファウイルスゲノムの、5’複製認識配列の変異体である。一実施態様では、本発明に従う修飾5’複製認識配列は、好ましくは、天然で見出される、少なくとも1つのアルファウイルスゲノムの5’複製認識配列に対する、80%又はこれを超える、好ましくは、85%又はこれを超える、より好ましくは、90%又はこれを超える、なおより好ましくは、95%又はこれを超える、配列同一性の程度を特徴とする。
【0179】
一実施態様では、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスの5’末端における、すなわち、アルファウイルスゲノムの5’末端における約250ヌクレオチドと相同な配列を含む。好ましい実施態様では、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスの5’末端における、すなわち、アルファウイルスゲノムの5’末端における約250から500、好ましくは、約300から500ヌクレオチドと相同な配列と相同な配列を含む。「アルファウイルスの5’末端における」とは、アルファウイルスゲノムの最も上流のヌクレオチドにおいて始まり、これを含む核酸配列を意味する。言い換えれば、アルファウイルスゲノムの最も上流のヌクレオチドを、ヌクレオチド1と称し、例えば、「アルファウイルスゲノムの5’末端における250ヌクレオチド」とは、アルファウイルスゲノムのヌクレオチド1から250を意味する。一実施態様では、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、天然で見出される、少なくとも1つのアルファウイルスゲノムの5’末端における、少なくとも250ヌクレオチドに対する、80%又はこれを超える、好ましくは、85%又はこれを超える、より好ましくは、90%又はこれを超える、なおより好ましくは、95%又はこれを超える、配列同一性の程度を特徴とする。少なくとも250ヌクレオチドは、例えば、250ヌクレオチド、300ヌクレオチド、400ヌクレオチド、500ヌクレオチドを含む。
【0180】
天然で見出されるアルファウイルスの5’複製認識配列は、典型的に、少なくとも1つの開始コドン及び/又は保存二次構造モチーフを特徴とする。例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)の、天然の5’複製認識配列は、配列番号4のDNA内のATG塩基トリプレットに対応する、5つの特異的なAUG塩基トリプレット(実施例1を参照されたい)を含む。Frolov等(2001, RNA, vol. 7, pp. 1638-1651)によると、MFOLDによる解析は、セムリキ森林ウイルスの、天然の5’複製認識配列は、ステムループ1からステムループ4(SL1、SL2、SL3、SL4)と称する、4つのステムループ(SL)を形成することが予測されることを明らかにした。Frolov等に従い、MFOLDによる解析は、異なるアルファウイルスである、シンドビスウイルスの、天然の5’複製認識配列もまた、4つのステムループ:SL1、SL2、SL3、SL4を形成することが予測されることを明らかにした。本発明の実施例1では、セムリキ森林ウイルスの、天然の5’複製認識配列内の、4つのステムループの存在の予測を、RNAの二次構造予測についての2つのウェブサーバー
(http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.html)
(http://unafold.rna.albany.edu/?q=mfold)
により確認した。
【0181】
アルファウイルスゲノムの5’末端は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質によるアルファウイルスゲノムの複製を可能とする配列エレメントを含むことが公知である。本発明の一実施態様では、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスの保存配列エレメント1(CSE1)と相同な配列、及び/又は保存配列エレメント2(CSE2)と相同な配列を含む。
【0182】
アルファウイルスゲノムRNAの保存配列エレメント2(CSE2)は、典型的に、アルファウイルスの非構造タンパク質であるnsP1の第1のアミノ酸残基をコードする、少なくとも天然の開始コドンを含むSL2に先立たれる、SL3及びSL4により表される。しかし、本記載の一部の実施態様では、アルファウイルスゲノムRNAの保存配列エレメント2(CSE2)とは、SL2からSL4にわたり、アルファウイルスの非構造タンパク質であるnsP1の第1のアミノ酸残基をコードする、天然の開始コドンを含む領域を指す。好ましい実施態様では、RNAレプリコンは、CSE2又はCSE2と相同な配列を含む。一実施態様では、RNAレプリコンは、好ましくは、天然で見出される、少なくとも1つのアルファウイルスの、CSE2の配列に対する、80%又はこれを超える、好ましくは、85%又はこれを超える、より好ましくは、90%又はこれを超える、なおより好ましくは、95%又はこれを超える、配列同一性の程度を特徴とする、CSE2と相同な配列を含む。
【0183】
好ましい実施態様では、5’複製認識配列は、アルファウイルスのCSE2と相同な配列を含む。アルファウイルスのCSE2は、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの断片を含みうる。
【0184】
したがって、好ましい実施態様では、RNAレプリコンは、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列を含むことを特徴とする。非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、典型的に、天然で見出されるアルファウイルスの、非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片の変異体である。一実施態様では、非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、好ましくは、天然で見出される、少なくとも1つのアルファウイルスの、非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片に対する、80%又はこれを超える、好ましくは、85%又はこれを超える、より好ましくは、90%又はこれを超える、なおより好ましくは、95%又はこれを超える、配列同一性の程度を特徴とする。
【0185】
より好ましい実施態様では、本発明のレプリコンに含まれる、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームと相同な配列は、非構造タンパク質の天然の開始コドンを含まず、より好ましくは、非構造タンパク質の開始コドンを含まない。好ましい実施態様では、CSE2と相同な配列は、天然アルファウイルスのCSE2配列と比較した、全ての開始コドンの除去を特徴とする。したがって、CSE2と相同な配列は、好ましくは、開始コドンを含まない。
【0186】
オープンリーディングフレームと相同な配列が、開始コドンを含まない場合、オープンリーディングフレームと相同な配列は、翻訳のための鋳型として用いられないので、それ自体、オープンリーディングフレームではない。
【0187】
一実施態様では、5’複製認識配列は、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列を含み、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、天然アルファウイルスと比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0188】
好ましい実施態様では、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの、少なくとも天然の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。好ましくは、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、nsP1をコードするオープンリーディングフレームの、少なくとも天然の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0189】
天然の開始コドンは、RNAが、宿主細胞内に存在する場合に、宿主細胞内のリボソーム上の翻訳が開催されるAUG塩基トリプレットである。言い換えれば、天然の開始コドンは、例えば、天然の開始コドンを含むRNAを接種された宿主細胞内の、リボソームタンパク質の合成時に翻訳される、最初の塩基トリプレットである。一実施態様では、宿主細胞は、天然のアルファウイルスの5’複製認識配列を含む、特異的アルファウイルスの天然の宿主である真核生物種に由来する細胞である。好ましい実施態様では、宿主細胞は、American Type Culture Collection、Manassas、Virginia、USAから入手可能な「BHK21[C13](ATCC(登録商標)CCL10(商標))」細胞株に由来するBHK21細胞である。
【0190】
多くのアルファウイルスのゲノムは、完全にシーケンシングされ、一般にアクセス可能であり、これらのゲノムによりコードされる非構造タンパク質の配列もまた、一般にアクセス可能である。このような配列情報は、コンピュータにより、天然の開始コドンを決定することを可能とする。
【0191】
例示のために、実施例1に、SFV nsP1の天然の開始コドンに対応するDNA塩基トリプレットを記載する。
【0192】
一実施態様では、天然の開始コドンは、Kozak配列又は機能的に同等の配列に含まれる。Kozak配列とは、Kozak(1987, Nucleic Acids Res., vol. 15, pp. 8125-8148)により最初に記載された配列である。mRNA分子上のKozak配列は、翻訳の開始部位として、リボソームにより認識される。この出典によれば、Kozak配列は、AUG開始コドンの直後に、高度に保存的なGヌクレオチド:AUGG(配列番号4に従うDNA配列(実施例1)内の開始コドンもまた参照されたい)を含む。特に、この出典により、Kozak配列は、以下の通りである、(gcc)gccRccAUGG(配列番号6)により同定しうることが記載された。つまり(i)小文字は、塩基が変動しうる位置において、最も一般的な塩基を描示し、(ii)大文字は、高度に保存的塩基(例えば、「AUGG」)を指し示し、(iii)「R」プリン(アデニン又はグアニン)を指し示し、(iv)カッコ内の配列((gcc))は、意義不明であり、(v)下線を付したAUG塩基トリプレットは、開始コドンを表す。本発明の一実施態様では、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、Kozak配列の一部である、開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0193】
本発明の一実施態様では、レプリコンの5’複製認識配列は、RNAレベルで、AUGG配列の一部である、少なくとも全ての開始コドンの除去を特徴とする。
【0194】
好ましい実施態様では、アルファウイルスに由来する非構造タンパク質のオープンリーディングフレーム又はその断片と相同な配列は、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然の開始コドン以外の、一又は複数の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。より好ましい実施態様では、前記核酸配列は、加えて、天然の開始コドンの除去を特徴とする。例えば、天然の開始コドンの除去に加えて、任意の1の又は2の又は3の又は4の又は4を超える(例えば、5の)開始コドンを除去することができる。
【0195】
レプリコンが、天然の開始コドンの除去を特徴とし、任意選択で、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然の開始コドン以外の、一又は複数の開始コドンの除去を特徴とする場合、オープンリーディングフレームと相同な配列は、翻訳のための鋳型として用いられないので、それ自体、オープンリーディングフレームではない。
【0196】
好ましくは、天然の開始コドンの除去に加えて、除去された天然の開始コドン以外の、一又は複数の開始コドンを、翻訳を開始する潜在的可能性を有するAUG塩基トリプレットから選択することが好ましい。翻訳を開始する潜在的可能性を有するAUG塩基トリプレットを、「潜在的開始コドン」と称することができる。所与のAUG塩基トリプレットが、翻訳を開始する潜在的可能性を有するのかどうかは、コンピュータにより決定することもでき、細胞ベースのin vitroアッセイより決定することもできる。
【0197】
一実施態様では、所与のAUG塩基トリプレットが、翻訳を開始する潜在的可能性を有するのかどうかを、コンピュータにより決定する。つまり、この実施態様では、ヌクレオチド配列を検討し、AUG塩基トリプレットが、AUGG配列の一部、好ましくは、Kozak配列の一部(配列番号6)である場合は、翻訳を開始する潜在的可能性を有すると決定する。
【0198】
一実施態様では、細胞ベースのin vitroアッセイにおいて、所与のAUG塩基トリプレットが、翻訳を開始する潜在的可能性を有するのかどうかを決定する。つまり、天然の開始コドンの除去を特徴とし、天然の開始コドンの除去の位置の下流に、所与のAUG塩基トリプレットを含むRNAレプリコンを、宿主細胞へと導入する。一実施態様では、宿主細胞は、天然のアルファウイルスの5’複製認識配列を含む、特異的アルファウイルスの天然の宿主である真核生物種に由来する細胞である。好ましい実施態様では、宿主細胞は、American Type Culture Collection、Manassas、Virginia、USAから入手可能な「BHK21[C13](ATCC(登録商標)CCL10(商標))」細胞株に由来するBHK21細胞である。天然の開始コドンの除去の位置と、所与のAUG塩基トリプレットの位置との間には、更なるAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。RNAレプリコン(天然の開始コドンの除去を特徴とし、所与のAUG塩基トリプレットを含む)の、宿主細胞への導入後に、翻訳が、所与のAUG塩基トリプレットにおいて開始される場合、所与のAUG塩基トリプレットは、翻訳を開始する潜在的可能性を有すると決定される。翻訳が開始されるのかどうかは、当技術分野で公知である、任意の適切な方法により決定することができる。例えば、レプリコンは、所与のAUG塩基トリプレットの下流において、所与のAUG塩基トリプレットとインフレームで、翻訳産物(存在する場合)の検出を容易とするタグ、例えば、mycタグ又はHAタグをコードすることが可能であり、コードされるタグを有する発現産物が存在するのかどうかは、例えば、ウェスタンブロットにより決定することができる。この実施態様では、所与のAUG塩基トリプレットと、タグをコードする核酸配列との間には、更なるAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。細胞ベースのin vitroアッセイは、1つを超える所与のAUG塩基トリプレットについて、個別に実施することができる。つまり、各場合に、天然の開始コドンの除去の位置と、所与のAUG塩基トリプレットの位置との間には、更にAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。これは、天然の開始コドンの除去の位置と、所与のAUG塩基トリプレットの位置との間の、全てのAUG塩基トリプレット(存在する場合)を除去することにより達成することができる。これにより、所与のAUG塩基トリプレットは、天然の開始コドンの除去の位置の下流の、最初のAUG塩基トリプレットである。
【0199】
好ましくは、本発明に従うレプリコンは、天然の開始コドンの除去の位置の下流にあり、アルファウイルス非構造タンパク質又はその断片のオープンリーディングフレーム内に配置される、全ての潜在的な開始コドンの除去を特徴とする。したがって、本発明によると、5’複製認識配列は、好ましくは、タンパク質へと翻訳されうるオープンリーディングフレームを含まない。
【0200】
好ましい実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5’複製認識配列の二次構造と同等な二次構造を特徴とする。好ましい実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5’複製認識配列の予測二次構造と同等な予測二次構造を特徴とする。本発明によると、RNA分子の二次構造は、RNA二次構造予測のためのウェブサーバー(http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.html)により予測することが好ましい。
【0201】
天然のアルファウイルスの5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする、RNAレプリコンの5’複製認識配列の二次構造又は予測二次構造を比較することにより、ヌクレオチド対合の破壊の有無を同定することができる。例えば、少なくとも1つの塩基対は、所与の位置において、天然のアルファウイルスの5’複製認識配列、例えば、ステムループ、特に、ステムループのステム内の塩基対と比較して、非存在でありうる。
【0202】
好ましい実施態様では、5’複製認識配列の、一又は複数のステムループを、欠失させたり、破壊したりしない。より好ましくは、ステムループ3及びステムループ4を、欠失させたり、破壊したりしない。より好ましくは、5’複製認識配列のステムループのうちのいずれも、欠失させたり、破壊したりしない。
【0203】
一実施態様では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、5’複製認識配列の二次構造を破壊しない。代替的実施態様では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、5’複製認識配列の二次構造を破壊する。この実施態様では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、所与の位置における、少なくとも1つの塩基対、例えば、天然のアルファウイルスの5’複製認識配列と比較した、ステムループ内の塩基対の非存在の原因でありうる。塩基対が、天然のアルファウイルスの5’複製認識配列と比較して、ステムループ内で非存在である場合、少なくとも1つの開始コドンの除去がステムループ内にヌクレオチド対合の破壊を導入すると決定される。ステムループ内の塩基対は、典型的に、ステムループのステム内の塩基対である。
【0204】
好ましい実施態様では、RNAレプリコンは、少なくとも1つの開始コドンの除去により導入される、一又は複数のステムループ内のヌクレオチド対合の破壊を補正する、一又は複数のヌクレオチド変化を含む。
【0205】
少なくとも1つの開始コドンの除去が、ステムループ内に、天然のアルファウイルスの5’複製認識配列と比較して、ヌクレオチド対合の破壊を導入する場合、ヌクレオチド対合の破壊を補正することが予測される、一又は複数のヌクレオチド変化を導入することができ、これにより得られる二次構造又は予測二次構造を、天然のアルファウイルスの5’複製認識配列と比較することができる。
【0206】
周知の一般的な知見及び本明細書における本開示に基づき、当業者は、ある特定のヌクレオチド変化が、ヌクレオチド対合の破壊を補正することを予測することができる。例えば、天然のアルファウイルスの5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする、所与のRNAレプリコンの5’複製認識配列の二次構造又は予測二次構造の所与の位置において塩基対が破壊される場合、この位置において、好ましくは、開始コドンを再導入せずに、塩基対を回復させるヌクレオチド変化は、ヌクレオチド対合の破壊を補正することが予測される。一例では、少なくとも1つの開始コドンの除去により導入される、一又は複数のステムループ内の、ヌクレオチド対合の破壊を補正する、一又は複数のヌクレオチド変化を含む、レプリコンの5’複製認識配列は、配列番号5により表されるDNA配列(実施例1)によりコードされる。
【0207】
好ましい実施態様では、レプリコンの5’複製認識配列は、翻訳可能、すなわち、ペプチド又はタンパク質、特に、nsP、特に、nsP1、又はそのいずれかの断片へと翻訳可能な核酸配列と重複しないか、又はこれを含まない。「翻訳可能」であるために、ヌクレオチド配列は、開始コドンの存在を必要とし、開始コドンは、ペプチド又はタンパク質の、最もN末端のアミノ酸残基をコードする。一実施態様では、レプリコンの5’複製認識配列は、nsP1のN末端断片をコードする、翻訳可能な核酸配列と重複しないか、又はこれを含まない。
【0208】
下記で詳細に記載される一部の状況では、RNAレプリコンは、少なくとも1つのサブゲノムプロモーターを含む。好ましい実施態様では、レプリコンのサブゲノムプロモーターは、翻訳可能、すなわち、ペプチド又はタンパク質、特に、nsP、特に、nsP4、又はそのいずれかの断片へと翻訳可能な核酸配列と重複しないか、又はこれを含まない。一実施態様では、レプリコンのサブゲノムプロモーターは、nsP4のN末端断片をコードする、翻訳可能な核酸配列と重複しないか、又はこれを含まない。翻訳可能、例えば、nsP4のC末端断片へと翻訳可能な核酸配列と重複しないか、又はこれを含まないサブゲノムプロモーターを有するRNAレプリコンは、nsP4のコード配列の部分(典型的に、nsP4のN末端部分をコードする部分)を欠失させることにより作出することもでき、且つ/又は欠失させていないnsP4のコード配列の部分の中のAUG塩基トリプレットを除去することにより作出することもできる。nsP4のコード配列又はその部分の中のAUG塩基トリプレットを除去する場合、除去されるAUG塩基トリプレットは、好ましくは、潜在的な開始コドンである。代替的に、サブゲノムプロモーターが、nsP4をコードする核酸配列と重複しない場合、nsP4をコードする全核酸配列を欠失させることができる。
【0209】
一実施態様では、RNAレプリコンは、短縮アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。この実施態様の文脈では、特に、RNAレプリコンは、nsP1のN末端断片をコードするオープンリーディングフレームを含まず、任意選択で、nsP4のC末端断片をコードするオープンリーディングフレームを含まないことが好ましい。nsP1のN末端断片は、短縮アルファウイルスタンパク質であり、nsP4のC末端断片もまた、短縮アルファウイルスタンパク質である。
【0210】
一部の実施態様では、本発明に従うレプリコンは、アルファウイルスゲノムの5’末端のステムループ2(SL2)を含まない。上記Frolov等に従い、ステムループ2は、CSE2の上流の、アルファウイルスゲノムの5’末端において見出される保存二次構造であるが、複製には可欠である。
【0211】
一実施態様では、レプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルス非構造タンパク質又はその断片をコードする核酸配列と重複しない。したがって、本発明は、アルファウイルスゲノムRNAと比較して、任意選択で、1若しくは複数のアルファウイルス非構造タンパク質、又はその一部のコード領域の欠失と組み合わせた、本明細書で記載される、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするレプリコンを包含する。例えば、nsP2及びnsP3のコード領域を欠失させることもでき、nsP2及びnsP3のコード領域を、nsP1のC末端断片のコード領域及び/又はnsP4のN末端断片のコード領域の欠失と共に欠失させることもでき、且つ、本明細書で記載される通りに、一又は複数の残りの開始コドン、すなわち、前記除去の後で残存する開始コドンを除去することができる。
【0212】
一又は複数のアルファウイルス非構造タンパク質のコード領域の欠失は、標準的方法、例えば、DNAレベルにおける、制限酵素、好ましくは、オープンリーディングフレーム内の固有の制限部位を認識する制限酵素を一助とする切出し(例示のために、実施例1を参照されたい)により達成することができる。任意選択で、突然変異誘発、例えば、部位指向突然変異誘発により、固有の制限部位を、オープンリーディングフレームへと導入することができる。それぞれのDNAを、in vitro転写のための鋳型として使用することができる。
【0213】
制限部位は、核酸分子、例えば、DNA分子の制限(切断)であって、制限部位が、特異的制限酵素により含有される制限(切断)を導くのに必要且つ十分な核酸配列、例えば、DNA配列である。制限部位の1つのコピーが、核酸分子内に存在する場合、制限部位は、所与の核酸分子に固有である。
【0214】
制限酵素は、制限部位において、又はこの近傍において、核酸分子、例えば、DNA分子を切断するエンドヌクレアーゼである。
【0215】
代替的に、オープンリーディングフレームの一部又は全部の欠失を特徴とする核酸配列は、合成法により得ることができる。
【0216】
本発明に従うRNAレプリコンは、好ましくは、一本鎖RNA分子である。本発明に従うRNAレプリコンは、典型的に、(+)鎖RNA分子である。一実施態様では、RNA本発明のレプリコンは、単離核酸分子である。
【0217】
レプリコンに含まれる、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム
一実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、目的のペプチド又は目的のタンパク質をコードする、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む。好ましくは、目的のタンパク質は、異種核酸配列によりコードされる。目的のペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子は、「目的の遺伝子」又は「トランス遺伝子」と同義に称される。多様な実施態様では、目的のペプチド又はタンパク質は、異種核酸配列によりコードされる。本発明によると、「異種」という用語は、核酸配列が、天然では、アルファウイルスの核酸配列へと、機能的又は構造的に連結されていない事実を指す。
【0218】
本発明に従うレプリコンは、単一のポリペプチドをコードする場合もあり、複数のポリペプチドをコードする場合もある。複数のポリペプチドは、単一のポリペプチド(融合ポリペプチド)としてコードされる場合もあり、個別のポリペプチドとしてコードされる場合もある。一部の実施態様では、本発明に従うレプリコンは、それらの各々がサブゲノムプロモーターの制御下にあるか、又は制御下にないように、独立に選択しうる、1つを超えるオープンリーディングフレームを含みうる。代替的に、ポリタンパク質又は融合ポリペプチドは、任意選択で、自己触媒性プロテアーゼ切断部位(例えば、口蹄疫ウイルス2Aタンパク質)、又はインテインにより隔てられた、個別のポリペプチドを含む。
【0219】
目的のタンパク質は、例えば、レポータータンパク質、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質、細胞内インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤、及び機能的なアルファウイルス非構造タンパク質からなる群から選択することができる。
【0220】
レポータータンパク質
一実施態様では、オープンリーディングフレームは、レポータータンパク質をコードする。この実施態様では、オープンリーディングフレームは、レポーター遺伝子を含む。ある特定の遺伝子は、それらを発現する細胞又は生物に付与する特徴が、たやすく同定及び測定しうるか、又は選択用マーカーであるため、レポーターとして選び出すことができる。レポーター遺伝子は、ある特定の遺伝子が、細胞内又は生物集団内に取り込まれているか、又はこれらにおいて発現しているのかどうかについての指標として使用されることが多い。好ましくは、レポーター遺伝子の発現産物は、目視により検出可能である。目視により検出可能な、一般的なレポータータンパク質は、典型的に、蛍光タンパク質の又は発光タンパク質を有する。具体的なレポーター遺伝子の例は、それを発現する細胞を、青色光下で緑色に発光させる、クラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子、ルシフェリンとの反応を触媒して光をもたらす酵素であるルシフェラーゼ、及び赤色蛍光タンパク質(RFP)を含む。変異体が、目視により検出可能な特性を有する限りにおいて、これらの特異的レポーター遺伝子のうちのいずれかの変異体も可能である。例えば、eGFPは、GFPの点突然変異体である。レポータータンパク質の実施態様は、発現について調べるのに特に適する(例えば、実施例2から5を参照されたい)。
【0221】
薬学的に活性のペプチド又はタンパク質
本発明によると、一実施態様では、レプリコンのRNAは、薬学的に活性のRNAを含むか、又はこれからなる。「薬学的に活性のRNA」とは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードするRNAでありうる。好ましくは、本発明に従うRNAレプリコンは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードする。好ましくは、オープンリーディングフレームは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードする。好ましくは、RNAレプリコンは、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下にある、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0222】
「薬学的に活性のペプチド又はタンパク質」は、対象へと、治療有効量で投与されると、対象の状態(condition)又は疾患状態(disease state)に対して、肯定的であるか又は有利な効果を及ぼす。好ましくは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、治癒特性又は緩和特性を有し、疾患又は障害の、一又は複数の症状を改善するか、抑制するか、和らげるか、好転させるか、これらの発症を遅延させるか、これらの重症度を軽減するように投与することができる。薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、予防特性を有する場合もあり、疾患の発症を遅延させるか、又はこのような疾患若しくは病理学的状態の重症度を軽減するのに使用することができる。「薬学的に活性のペプチド又はタンパク質」という用語は、全タンパク質又は全ポリペプチドを含み、また、これらの薬学的に活性の断片を指す場合もある。「薬学的に活性のペプチド又はタンパク質」という用語はまた、ペプチド又はタンパク質の、薬学的に活性の類似体も含みうる。「薬学的に活性のペプチド又はタンパク質」という用語は、抗原であるペプチド及びタンパク質を含む、すなわち、ペプチド又はタンパク質は、対象において、治療的な場合もあり、部分的又は完全に保護的な場合もある、免疫応答を誘発する。
【0223】
一実施態様では、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、免疫学的に活性の化合物又は抗原又はエピトープであるか、又はこれを含む。
【0224】
本発明によると、「免疫学的に活性の化合物」という用語は、好ましくは、免疫細胞の成熟を誘導及び/若しくは抑制すること、サイトカインの生合成を誘導及び/若しくは抑制すること、並びに/又はB細胞による抗体産生を刺激することにより、体液性免疫を変更することにより、免疫応答を変更する、任意の化合物に関する。一実施態様では、免疫応答は、抗体応答(通例、免疫グロブリンG(IgG)を含む)の刺激を伴う。免疫学的に活性の化合物は、抗ウイルス活性及び抗腫瘍活性を含むがこれらに限定されない、強力な免疫刺激活性を有するが、また、例えば、TH免疫応答からの、免疫応答のシフティングであって、広範にわたるTH媒介性疾患を治療するのに有用であるシフティングにより、免疫応答の他の側面も下方調節しうる。
【0225】
本発明によると、「抗原」又は「免疫原」という用語は、免疫応答を誘発する任意の物質を対象とする。特に、「抗原」とは、抗体又はTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質に関する。本発明によると、「抗原」という用語は、少なくとも1つのエピトープを含む任意の分子を含む。好ましくは、本発明の文脈における抗原とは、任意選択で、プロセシングの後、免疫反応を誘導し、好ましくは、抗原に対して特異的な分子である。本発明によると、免疫反応のための候補物質であって、免疫反応が、体液性免疫反応並びに細胞性免疫反応のいずれでもありうる候補物質である、任意の適切な抗原を使用することができる。本発明の実施態様の文脈では、抗原は、細胞、好ましくは、抗原に対する免疫反応を結果としてもたらすMHC分子の文脈では、抗原提示細胞により、好ましくは、提示される。抗原は、好ましくは、天然にある抗原に対応するか、又はこれらに由来する産物である。このような天然にある抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物、及び他の感染作用物質を含みうるか、又はこれらに由来することが可能であり、病原体又は抗原はまた、腫瘍抗原でもありうる。本発明によると、抗原は、天然にある産物、例えば、ウイルスタンパク質又はその一部に対応しうる。好ましい実施態様では、抗原は、表面ポリペプチド、すなわち、天然で、細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍の表面上に提示されたポリペプチドである。抗原は、細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を誘発しうる。
【0226】
「病原体」という用語は、生物、好ましくは、脊椎生物において疾患を引き起こすことが可能な、病原性の生物学的物質を指す。病原体は、細菌、単細胞性真核生物(原虫)、真菌のほか、ウイルスなどの微生物を含む。
【0227】
本明細書では、「エピトープ」、「抗原ペプチド」、「抗原エピトープ」、「免疫原性ペプチド」、及び「MHC結合性ペプチド」という用語は、互換的に使用され、抗原など、分子内の抗原決定基、すなわち、特に、MHC分子の文脈で提示されると、免疫系により認識される、免疫学的に活性の化合物、例えば、T細胞により認識される、免疫学的に活性の化合物中の部分又はその断片を指す。タンパク質のエピトープは、好ましくは、前記タンパク質の連続的部分又は非連続的部分を含み、好ましくは、5から100アミノ酸の間、好ましくは、5から50アミノ酸の間、より好ましくは、8から30アミノ酸の間、最も好ましくは、10から25アミノ酸の間の長さであり、例えば、エピトープは、好ましくは、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25アミノ酸の長さでありうる。本発明によると、エピトープは、細胞の表面上のMHC分子などのMHC分子に結合することが可能であり、したがって、「MHC結合性ペプチド」又は「抗原ペプチド」でありうる。「主要組織適合性複合体」という用語及び「MHC」という略号は、MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子を含み、全ての脊椎動物において存在する、遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質又はMHC分子は、免疫反応における、リンパ球及び抗原提示細胞又は罹患細胞の間のシグナル伝達に重要であり、この場合、MHCタンパク質又はMHC分子は、ペプチドに結合し、それらを、T細胞受容体による認識のために提示する。MHCによりコードされるタンパク質は、細胞の表面上に発現し、自己抗原(細胞自体に由来するペプチド断片)及び非自己抗原(例えば、侵襲する微生物の断片)の両方を、T細胞へと提示する。好ましいこのような免疫原性部分は、MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子に結合する。本明細書で使用される免疫原性部分は、このような結合性が、当技術分野で公知の任意のアッセイを使用して検出可能である場合、MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子「に結合する」という。「MHC結合性ペプチド」という用語は、MHCクラスI分子及び/又はMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。クラスIのMHC/ペプチド複合体の場合、結合性ペプチドは、典型的に、8-10アミノ酸長であるが、より長いペプチド又はより短いペプチドも効果的でありうる。クラスIIのMHC/ペプチド複合体の場合、結合性ペプチドは、典型的に、10-25アミノ酸長であり、特に、13-18アミノ酸長であるが、この場合、より長いペプチド及びより短いペプチドも効果的でありうる。
【0228】
一実施態様では、本発明に従う目的のタンパク質は、標的生物へのワクチン接種に適するエピトープを含む。当業者には、免疫生物学及びワクチン接種の原理の1つが、疾患に対する免疫防御反応は、治療される疾患に関して、免疫学的に関連する抗原で、生物を免疫化することによりもたらされるという事実に基づくことが公知であろう。本発明によると、抗原は、自己抗原及び非自己抗原を含む群から選択される。非自己抗原は、好ましくは、細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、アレルゲン、又は寄生生物抗原である。抗原は、標的生物において、免疫応答を誘発することが可能であるエピトープを含むことが好ましい。例えば、エピトープは、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を誘発しうる。
【0229】
一部の実施態様では、非自己抗原は、細菌抗原である。一部の実施態様では、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染する細菌に対する免疫応答を誘発する。好ましくは、それに対する免疫応答が誘発される細菌は、病原性細菌である。
【0230】
一部の実施態様では、非自己抗原は、ウイルス抗原である。ウイルス抗原は、例えば、ウイルス表面タンパク質、例えば、カプシドポリペプチド又はスパイクポリペプチドに由来するペプチドでありうる。一部の実施態様では、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染するウイルスに対する免疫応答を誘発する。それに対する免疫応答が誘発されるウイルスは、病原性ウイルスである。
【0231】
一部の実施態様では、非自己抗原は、真菌に由来するポリペプチド又はタンパク質である。一部の実施態様では、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染する真菌に対する免疫応答を誘発する。それに対する免疫応答が誘発される真菌は、病原性真菌である。
【0232】
一部の実施態様では、非自己抗原は、単細胞性の真核寄生生物に由来するポリペプチド又はタンパク質である。一部の実施態様では、抗原は、単細胞性の真核免疫応答寄生生物、好ましくは、病原性の単細胞性真核寄生生物に対する免疫応答を誘発する。病原性の単細胞性真核寄生生物は、例えば、マラリア原虫(Plasmodium)属、例えば、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)、三日熱マラリア原虫(P.vivax)、四日熱マラリア原虫(P.malariae)、若しくは卵形マラリア原虫(P.ovale)、リーシュマニア(Leishmania)属、又はトリパノソーマ(Trypanosoma)属、例えば、クルーズトリパノソーマ(T.cruzi)若しくはブルーストリパノソーマ(T.brucei)に由来しうる。
【0233】
一部の実施態様では、非自己抗原は、アレルゲン性ポリペプチド又はアレルゲン性タンパク質である。アレルゲン性タンパク質又はアレルゲン性ポリペプチドは、減感作としてもまた公知の、アレルゲン免疫療法に適する。
【0234】
一部の実施態様では、抗原は、自己抗原、特に、腫瘍抗原である。当業者には、腫瘍抗原及びそれらの決定が公知である。
【0235】
本発明の文脈では、「腫瘍抗原」又は「腫瘍関連抗原」という用語は、正常条件下の、限定数の組織及び/若しくは器官又は特異的発生段階において特異的に発現するタンパク質に関し、例えば、腫瘍抗原は、正常条件下の、胃(stomach)組織、好ましくは、胃(gastric)粘膜、生殖器官、例えば、精巣、栄養膜組織、例えば、胎盤、又は生殖細胞系列細胞において、特異的に発現する場合があり、一又は複数の腫瘍組織内又は癌組織内で、発現又は異常に発現する。この文脈では、「限定数」とは、好ましくは、3を超えない、より好ましくは、2を超えない数を意味する。本発明の文脈における腫瘍抗原は、例えば、分化抗原、好ましくは、細胞型特異的分化抗原、すなわち、正常条件下の、ある特定の分化段階にある、ある特定の細胞型において、特異的に発現するタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち、正常条件下の、精巣内と、場合によって、胎盤内とで特異的に発現するタンパク質、生殖細胞系列特異的抗原を含む。本発明の文脈では、腫瘍抗原は、好ましくは、癌細胞の細胞表面に付随し、好ましくは、正常組織内では発現しないか、又はまれにしか発現しない。好ましくは、腫瘍抗原又は腫瘍抗原の異常な発現は、癌細胞を同定する。本発明の文脈では、対象、例えば、癌疾患を患う患者における癌細胞が発現する腫瘍抗原は、好ましくは、前記対象における自己タンパク質である。好ましい実施態様では、本発明の文脈における腫瘍抗原は、正常条件下の、非必須の組織内若しくは器官内、すなわち、免疫系により損傷しても、対象の死をもたらさない組織内若しくは器官内で、又は免疫系がアクセスしないか、若しくはほとんどアクセスしない器官内若しくは身体構造内で特異的に発現する。好ましくは、腫瘍抗原のアミノ酸配列は、正常組織内で発現する腫瘍抗原と、癌組織内で発現する腫瘍抗原との間で同一である。
【0236】
本発明において有用でありうる腫瘍抗原の例は、p53、ART-4、BAGE、ベータ-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、CLAUDIN-6、CLAUDIN-18.2、及びCLAUDIN-12など、claudinファミリーの細胞表面タンパク質、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(又はhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、又はMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/Melan-A、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、-2、-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190 minor BCR-abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1又はRU2、SAGE、SART-1又はSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、SURVIVIN、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTE、及びWTである。特に好ましい腫瘍抗原は、CLAUDIN-18.2(CLDN18.2)及びCLAUDIN-6(CLDN6)を含む。
【0237】
一部の実施態様では、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質が、免疫応答を誘発する抗原であることを必要とされない。適切な薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、免疫学的に活性の化合物(例えば、インターロイキン、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、インテグリン、アドレッシン、セレクチン、ホーミング受容体、T細胞受容体、免疫グロブリン)など、サイトカイン及び免疫系タンパク質、ホルモン(インスリン、甲状腺ホルモン、カテコールアミン、ゴナドトロピン、栄養ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、ドーパミン、ウシソマトトロフィン、レプチンなど)、成長ホルモン(例えば、ヒト成長ホルモン)、増殖因子(例えば、表皮増殖因子、神経増殖因子、インスリン様増殖因子など)、増殖因子受容体、酵素(組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、コレステロール生合成酵素又はコレステロール分解酵素、ステロイド産生酵素、キナーゼ、ホスホジエステラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、デヒドロゲナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アロマターゼ、チトクローム、アデニル酸シクラーゼ又はグアニル酸シクラーゼ、ノイラミニダーゼなど)、受容体(ステロイドホルモン受容体、ペプチド受容体)、結合性タンパク質(成長ホルモン結合性タンパク質又は増殖因子結合性タンパク質など)、転写因子及び翻訳因子、腫瘍増殖抑制タンパク質(例えば、血管新生を阻害するタンパク質)、構造タンパク質(など、コラーゲン、フィブロイン、フィブリノーゲン、エラスチン、チューブリン、アクチン、及びミオシン)、血液タンパク質(トロンビン、血清アルブミン、因子VII、因子VIII、インスリン、因子IX、因子X、組織プラスミノーゲンアクチベーター、プロテインC、フォンウィレブランド因子、抗トロンビンIII、グルコセレブロシダーゼ、エリスロポエチン顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、又は修飾因子VIII、抗凝固因子など)からなる群から選択することができる。一実施態様では、本発明に従う、薬学的に活性のタンパク質は、リンパ系のホメオスタシスの調節に関与するサイトカイン、好ましくは、T細胞の発生、プライミング、拡大、分化、及び/又は生存に関与し、好ましくは、これらを誘導又は増強するサイトカインである。一実施態様では、サイトカインは、インターロイキン、例えば、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、又はIL-21である。
【0238】
インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤
オープンリーディングフレームによりコードされる、更なる適切な目的のタンパク質は、インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤である。RNAを発現させるために導入した細胞の生存率は、特に、細胞に、RNAを、複数回にわたりトランスフェクトした場合、低減されることが報告されているが、IFN阻害剤は、RNAを発現する細胞の生存率を増強することが見出された(国際公開第2014/071963A1号)。好ましくは、阻害剤は、I型IFNシグナル伝達の阻害剤である。細胞外IFNによる、IFN受容体への会合を防止し、細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、細胞内のRNAの安定的発現を可能とする。代替的に、又は加えて、特に、細胞に、繰り返し、RNAをトランスフェクトする場合、細胞外IFNによる、IFN受容体への会合を防止し、細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、細胞の生存を増強する。理論に束縛されることを望まずに述べると、細胞内IFNシグナル伝達は、翻訳の阻害及び/又はRNAの分解を結果としてもたらしうることが想定される。これは、一又は複数のIFN誘導性抗ウイルス活性エフェクタータンパク質を阻害することにより対処することができる。IFN誘導性抗ウイルス活性エフェクタータンパク質は、RNA依存性タンパク質キナーゼ(PKR)、2’,5’-オリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)、及びRNアーゼLからなる群から選択することができる。細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、PKR依存性経路及び/又はOAS依存性経路を阻害することを含みうる。適切な目的のタンパク質は、PKR依存性経路及び/又はOAS依存性経路を阻害することが可能なタンパク質である。PKR依存性経路を阻害することは、eIF2-アルファのリン酸化を阻害することを含みうる。PKRを阻害することは、細胞を、少なくとも1つのPKR阻害剤で治療することを含みうる。PKR阻害剤は、ウイルス性のPKR阻害剤でありうる。好ましいウイルス性のPKR阻害剤は、ワクシニアウイルスE3である。ペプチド又はタンパク質(例えば、E3、K3)により、細胞内IFNシグナル伝達を阻害する場合、ペプチド又はタンパク質の細胞内発現が好ましい。ワクシニアウイルスE3は、dsRNAに結合し、これを隔離して、PKR及びOASの活性化を防止する、25kDaのdsRNA結合性タンパク質(E3L遺伝子によりコードされる)である。E3は、PKRに直接結合し、その活性を阻害する結果として、eIF2-アルファのリン酸化の低減をもたらす。IFNシグナル伝達の、他の適切な阻害剤は、単純ヘルペスウイルスICP34.5、トスカーナウイルスNS、カイコ(Bombyx mori)核多角体病ウイルスPK2、及びHCV NS34Aである。
【0239】
IFNシグナル伝達の阻害剤は、細胞へと、IFNシグナル伝達の阻害剤をコードする核酸配列(例えば、RNA)の形態で施すことができる。
【0240】
一実施態様では、細胞内IFNシグナル伝達又は細胞外IFNシグナル伝達の阻害剤は、mRNA分子によりコードされる。このmRNA分子は、本明細書で記載される、ポリペプチド配列非修飾型修飾、例えば、キャップ、5’-UTR、3’-UTR、ポリ(A)配列、コドン使用の適合化を含みうる。それぞれの実施態様を、例えば、実施例3に例示する。
【0241】
代替的実施態様では、細胞内IFNシグナル伝達又は細胞外IFNシグナル伝達の阻害剤は、レプリコン、好ましくは、トランスレプリコン又は本明細書で記載されるトランスレプリコンによりコードされる。レプリコンは、アルファウイルスレプリカーゼ、典型的に、CSE1、CSE2、及びCSE4による複製を可能とする核酸配列エレメントを含み、好ましくは、また、サブゲノム転写物、すなわち、CSE3を典型的に含む、サブゲノムプロモーターの作製を可能とする核酸配列エレメントも含む。レプリコンは、加えて、一又は複数の本明細書で記載される、ポリペプチド配列非修飾型修飾、例えば、キャップ、ポリ(A)配列、コドン使用の適合化を含みうる。複数のオープンリーディングフレームがレプリコン上に存在する場合、細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤は、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下にあるか又は制御下にない、オープンリーディングフレームのうちのいずれか1つによりコードされうる。好ましい実施態様では、細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤は、RNAレプリコンの、最も上流のオープンリーディングフレームによりコードされる。細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤が、RNAレプリコンの、最も上流のオープンリーディングフレームによりコードされる場合、細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤をコードする遺伝情報は、RNAレプリコンの、宿主細胞への導入後早期に翻訳され、結果として得られるタンパク質は、その後、細胞内IFNシグナル伝達を阻害しうる。
【0242】
機能的なアルファウイルス非構造タンパク質
オープンリーディングフレームによりコードされる、更なる適切な目的のタンパク質は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質である。「アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、アルファウイルス非構造タンパク質の、炭水化物修飾(グリコシル化など)形態及び脂質修飾形態を含む、各共翻訳修飾形態又は各翻訳後修飾形態、及びあらゆる共翻訳修飾形態又はあらゆる翻訳後修飾形態を含む。
【0243】
一部の実施態様では、「アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、アルファウイルス由来の、個別の非構造タンパク質(nsP1、nsP2、nsP3、nsP4)のうちのいずれか一又は複数、又はアルファウイルス由来の、1つを超える非構造タンパク質のポリペプチド配列を含むポリタンパク質を指す。一部の実施態様では、「アルファウイルス非構造タンパク質」とは、nsP123及び/又はnsP4を指す。他の実施態様では、「アルファウイルス非構造タンパク質」とは、nsP1234を指す。一実施態様では、オープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質は、単一の、任意選択で、切断可能なポリタンパク質:nsP1234としての、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4の全てからなる。一実施態様では、オープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質は、単一の、任意選択で、切断可能なポリタンパク質:nsP123としての、nsP1、nsP2、及びnsP3の全てからなる。この実施態様では、nsP4は、更なる目的のタンパク質であることが可能であり、更なるオープンリーディングフレームによりコードされうる。
【0244】
一部の実施態様では、アルファウイルス非構造タンパク質は、例えば、宿主細胞内で、複合体又は会合体を形成することが可能である。一部の実施態様では、「アルファウイルス非構造タンパク質」とは、nsP123(P123も同義)と、nsP4との複合体又は会合体を指す。一部の実施態様では、「アルファウイルス非構造タンパク質」とは、nsP1、nsP2、及びnsP3の複合体又は会合体を指す。一部の実施態様では、「アルファウイルス非構造タンパク質」とは、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4の複合体又は会合体を指す。一部の実施態様では、「アルファウイルス非構造タンパク質」とは、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4からなる群から選択される、任意の一又は複数の複合体又は会合体を指す。一部の実施態様では、アルファウイルス非構造タンパク質は、少なくともnsP4を含む。
【0245】
「複合体」又は「会合体」という用語は、2つ又はこれを超える、同じ又は異なるタンパク質分子であって、空間的に近接するタンパク質分子を指す。複合体のタンパク質は、互いと、直接的又は間接的な、物理的又は物理化学的接触にあることが好ましい。複合体又は会合体は、複数の異なるタンパク質(ヘテロ多量体)からなる場合もあり、且つ/又は1つの特定のタンパク質の複数のコピー(ホモ多量体)からなる場合もある。アルファウイルス非構造タンパク質の文脈では、「複合体又は会合体」という用語は、それらのうちの少なくとも1つが、アルファウイルス非構造タンパク質である、多数の、少なくとも2つのタンパク質分子について記載する。複合体又は会合体は、1つの特定のタンパク質の複数のコピー(ホモ多量体)からなる場合もあり、且つ/又は複数の異なるタンパク質(ヘテロ多量体)からなる場合もある。多量体の文脈では、「マルチ」とは、2、3、4、5、6、7、8、9、10の、又は10を超えるなど、1つを超えることを意味する。
【0246】
「機能的なアルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、レプリカーゼ機能を有するアルファウイルス非構造タンパク質を含む。したがって、「機能的なアルファウイルス非構造タンパク質」は、アルファウイルスレプリカーゼを含む。「レプリカーゼ機能」は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)、すなわち、(-)鎖RNA鋳型に基づく(+)鎖RNAの合成を触媒することが可能であり、且つ/又は(+)鎖RNA鋳型に基づく(-)鎖RNAの合成を触媒することが可能な酵素の機能を含む。したがって、「機能的なアルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、(+)鎖(例えば、ゲノムの)RNAを鋳型として使用して、(-)鎖RNAを合成するタンパク質又は複合体、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、新たな(+)鎖RNAを合成するタンパク質又は複合体、及び/又はゲノムRNAの(-)鎖相補体の断片を鋳型として使用して、サブゲノム転写物を合成するタンパク質又は複合体を指す場合がある。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、加えて、一又は複数の更なる機能、など、例えば、プロテアーゼ(自己切断のための)、ヘリカーゼ、末端のアデニルトランスフェラーゼ(ポリ(A)テール付加のための)、メチルトランスフェラーゼ、及びグアニリルトランスフェラーゼ(核酸に5’キャップを施すための)、核局在化部位、トリホスファターゼも有しうる(Gould等, 2010, Antiviral Res., vol. 87 pp. 111-124、Rupp等, 2015, J. Gen. Virology, vol. 96, pp. 2483-500)。
【0247】
本発明によると、「アルファウイルスレプリカーゼ」という用語は、天然にあるアルファウイルス(天然で見出されるアルファウイルス)に由来するRNA依存性RNAポリメラーゼ、及び弱毒化アルファウイルスなど、アルファウイルスの変異体又は誘導体に由来するRNA依存性RNAポリメラーゼを含む、アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼを指す。本発明の文脈では、文脈により、任意の特定のレプリカーゼが、アルファウイルスレプリカーゼではないことが指示されない限りにおいて、「レプリカーゼ」及び「アルファウイルスレプリカーゼ」という用語は、互換的に使用される。
【0248】
「レプリカーゼ」という用語は、アルファウイルス感染細胞が発現するか、又はレプリカーゼをコードする核酸をトランスフェクトされた細胞が発現する、アルファウイルスレプリカーゼの全ての変異体、特に、翻訳後修飾された変異体、コンフォメーション、アイソフォーム、及び相同体を含む。更に、「レプリカーゼ」という用語は、組換え法により作製されたレプリカーゼ、及び組換え法により作製されうるレプリカーゼの全ての形態を含む。例えば、実験室におけるレプリカーゼの検出及び/又は精製を容易とするタグ、例えば、mycタグ、HAタグ、又はオリゴヒスチジンタグ(Hisタグ)を含むレプリカーゼを、組換え法により作製することができる。
【0249】
任意選択で、レプリカーゼは、加えて、アルファウイルスの、保存配列エレメント1(CSE1)又はその相補的な配列、保存配列エレメント2(CSE2)又はその相補的な配列、保存配列エレメント3(CSE3)又はその相補的な配列、保存配列エレメント4(CSE4)又はその相補的な配列のうちのいずれか一又は複数への結合能によっても、機能的に規定される。好ましくは、レプリカーゼは、CSE2[すなわち、(+)鎖]、及び/若しくはCSE4[すなわち、(+)鎖]への結合が可能であるか、又はCSE1[すなわち、(-)鎖]の相補体、及び/若しくはCSE3[すなわち、(-)鎖]の相補体への結合が可能である。
【0250】
レプリカーゼの由来は、いかなる特定のアルファウイルスにも限定されない。好ましい実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然にあるセムリキ森林ウイルス、及び弱毒化セムリキ森林ウイルスなど、セムリキ森林ウイルスの変異体又は誘導体を含むセムリキ森林ウイルスに由来する非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然にあるシンドビスウイルス、及び弱毒化シンドビスウイルスなど、シンドビスウイルスの変異体又は誘導体を含むシンドビスウイルスに由来する非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然にあるVEEV、及び弱毒化VEEVなど、VEEVウイルスの変異体又は誘導体を含むベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)に由来する非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然にあるCHIKV、及び弱毒化CHIKVなど、CHIKVウイルスの変異体又は誘導体を含むチクングニヤウイルス(CHIKV)に由来する非構造タンパク質を含む。
【0251】
レプリカーゼはまた、1を超えるアルファウイルスに由来する非構造タンパク質も含みうる。したがって、本発明には、アルファウイルス非構造タンパク質を含み、レプリカーゼ機能を有する、異種の複合体又は会合体も、同様に含まれる。例示だけを目的として述べると、レプリカーゼは、第1のアルファウイルスに由来する、一又は複数の非構造タンパク質(例えば、nsP1、nsP2)と、第2のアルファウイルスに由来する、一又は複数の非構造タンパク質(例えば、nsP3、nsP4)とを含みうる。1を超える、異なるアルファウイルスに由来する非構造タンパク質は、個別のオープンリーディングフレームによりコードされる場合もあり、単一のオープンリーディングフレームにより、ポリタンパク質、例えば、nsP1234としてコードされる場合もある。
【0252】
一部の実施態様では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現する細胞内で、膜性複製複合体及び/又は液胞を形成することが可能である。
【0253】
機能的なアルファウイルス非構造タンパク質、すなわち、レプリカーゼ機能を伴うアルファウイルス非構造タンパク質が、本発明に従う核酸分子によりコードされる場合、存在する場合の、レプリコンのサブゲノムプロモーターは、前記レプリカーゼと適合性であることが好ましい。この文脈における適合性とは、アルファウイルスレプリカーゼが、存在する場合のサブゲノムプロモーターを認識することが可能であることを意味する。一実施態様では、これは、サブゲノムプロモーターが、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然である場合に達成される。すなわち、これらの配列の天然の由来は、同じアルファウイルスである。代替的実施態様では、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスレプリカーゼが、サブゲノムプロモーターを認識することが可能であるという条件で、アルファウイルスレプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然ではない。言い換えれば、レプリカーゼは、サブゲノムプロモーターと適合性(ウイルス間適合性)である。当技術分野では、サブゲノムプロモーターと、異なるアルファウイルスに由来するレプリカーゼとに関する、ウイルス間適合性の例が公知である。ウイルス間適合性が存在する限りにおいて、サブゲノムプロモーターとレプリカーゼとの任意の組合せが可能である。本発明を実行する当業者は、被験レプリカーゼを、被験サブゲノムプロモーターを有するRNAと共に、サブゲノムプロモーターからのRNA合成に適する条件でインキュベートすることにより、ウイルス間適合性について、たやすく調べることができる。サブゲノム転写物が調製される場合、サブゲノムプロモーターとレプリカーゼとは、適合性であると決定される。ウイルス間適合性の多様な例が公知である(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562により総説されている)。
【0254】
一実施態様では、アルファウイルス非構造タンパク質は、異種タンパク質、例えば、ユビキチンとの融合タンパク質としてはコードされない。
【0255】
本発明では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、RNAレプリコン上にもたらされる場合もあり、代替的に、別個の核酸分子、例えば、mRNA分子としてもたらされる場合もある。別個のmRNA分子は、任意選択で、例えば、キャップ、5’-UTR、3’-UTR、ポリ(A)配列、及び/又はコドン使用の適合化を含みうる。別個のmRNA分子は、本発明のシステムのために、本明細書で記載される通り、トランスでもたらされうる。
【0256】
機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームが、RNAレプリコン上にもたらされる場合、レプリコンは、好ましくは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる。特に、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするRNAレプリコンは、レプリコンによりコードされる、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸分子が、トランスでもたらされない場合、この実施態様は、強く好ましい。この実施態様では、レプリコンのシス複製を目的とする。好ましい実施態様では、RNAレプリコンは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームのほか、目的のタンパク質をコードする、更なるオープンリーディングフレームを含み、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる。この実施態様は、本発明に従う目的のタンパク質を作製するための一部の方法において、特に適する。それぞれのレプリコンの例を、図1(「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」)に例示する。
【0257】
レプリコンが、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む場合、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、5’複製認識配列と重複しないことが好ましい。一実施態様では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、存在する場合のサブゲノムプロモーターと重複しない。それぞれのレプリコンの例を、図1(「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」)に例示する。
【0258】
複数のオープンリーディングフレームがレプリコン上に存在する場合、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下にあるか又は制御下にない、オープンリーディングフレームのうちのいずれか1つであるが、好ましくは、サブゲノムプロモーターの制御下にないオープンリーディングフレームによりコードされうる。好ましい実施態様では、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、RNAレプリコンの、最も上流のオープンリーディングフレームによりコードされる。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質が、RNAレプリコンの、最も上流のオープンリーディングフレームによりコードされる場合、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする遺伝情報は、RNAレプリコンの、宿主細胞への導入後早期に翻訳され、結果として得られるタンパク質は、その後、複製を駆動し、任意選択で、宿主細胞内のサブゲノム転写物の産生を駆動しうる。それぞれのレプリコンの例を、図1(「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」)に例示する。
【0259】
機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームであって、レプリコンに含まれるか、又はトランスでもたらされる別個の核酸分子に含まれる、オープンリーディングフレームの存在は、レプリコンが複製され、結果として、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下にあるレプリコンによりコードされる目的の遺伝子が、高レベルで発現することを可能とする。これは、他のトランス遺伝子の発現システムと比較して、費用上の利点と関連する。例えば、動物へのワクチン接種の場合、ワクチンの費用は、獣医学的コミュニティー及び農村におけるその成功への鍵である。本発明のレプリコンは、例えば、ワクチン接種された動物の細胞内の、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質の存在下で複製することができるので、比較的低量のレプリコンRNAを投与する場合であってもなお、高レベルの目的の遺伝子の発現を達成しうる。低量のレプリコンRNAは、対象1例当たりのワクチンの費用に、肯定的に影響する。
【0260】
RNAレプリコン内の、少なくとも1つのオープンリーディングフレームの位置
RNAレプリコンは、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下における、目的のペプチド又は目的のタンパク質をコードする、一又は複数の遺伝子の発現に適する。多様な実施態様が可能である。各々が目的のペプチド又は目的のタンパク質をコードする、一又は複数のオープンリーディングフレームは、RNAレプリコン上に存在しうる。RNAレプリコンの、最も上流のオープンリーディングフレームを、「第1のオープンリーディングフレーム」と称する。一部の実施態様では、「第1のオープンリーディングフレーム」とは、RNAレプリコンのオープンリーディングフレームだけである。任意選択で、一又は複数の更なるオープンリーディングフレームは、第1のオープンリーディングフレームの下流に存在しうる。第1のオープンリーディングフレームの下流の、一又は複数の更なるオープンリーディングフレームを、それらが、第1のオープンリーディングフレームの下流に存在する順序で(5’から3’へと)、「第2のオープンリーディングフレーム」、「第3のオープンリーディングフレーム」などと称することができる。好ましくは、各オープンリーディングフレームは、典型的に、ATG(それぞれのDNA分子内の)に対応するAUG(RNA分子内の)である、開始コドン(塩基トリプレット)を含む。
【0261】
レプリコンが、3’複製認識配列を含む場合、全てのオープンリーディングフレームを、3’複製認識配列の上流に局在化させることが好ましい。
【0262】
一又は複数のオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンを、宿主細胞へと導入する場合、5’複製認識配列からの、少なくとも1つの開始コドンの除去のために、第1のオープンリーディングフレームの上流の位置では、翻訳が開始されないことが好ましい。したがって、レプリコンは、第1のオープンリーディングフレームの翻訳のための鋳型として、直接用いられうる。好ましくは、レプリコンは、5’キャップを含む。これは、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる遺伝子の、レプリコンからの直接の発現に有用である。
【0263】
一部の実施態様では、レプリコンの、少なくとも1つのオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーター、好ましくは、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターの制御下にある。アルファウイルスのサブゲノムプロモーターは、極めて効率的であり、したがって、高レベルの異種遺伝子の発現に適する。好ましくは、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルス内のサブゲノム転写物のためのプロモーターである。これは、サブゲノムプロモーターが、アルファウイルスに対して天然であり、好ましくは、前記アルファウイルス内の、一又は複数の構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの転写を制御するサブゲノムプロモーターであることを意味する。代替的に、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターの変異体であり、宿主細胞内のサブゲノムRNAの転写のためのプロモーターとして機能する任意の変異体も適する。レプリコンが、サブゲノムプロモーターを含む場合、レプリコンは、保存配列エレメント3(CSE3)又はその変異体を含むことが好ましい。
【0264】
好ましくは、少なくとも1つのサブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームを、サブゲノムプロモーターの下流に局在化させる。好ましくは、サブゲノムプロモーターは、オープンリーディングフレームの転写物を含むサブゲノムRNAの産生を制御する。
【0265】
一部の実施態様では、第1のオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーターの制御下にある。第1のオープンリーディングフレームが、サブゲノムプロモーターの制御下にある場合、その配置は、アルファウイルスのゲノム内の構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの配置に相似する。第1のオープンリーディングフレームが、サブゲノムプロモーターの制御下にある場合、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる遺伝子は、レプリコン並びにそのサブゲノム転写物のいずれ(機能的なアルファウイルス非構造タンパク質の存在下における後者)からも発現させることができる。それぞれの実施態様を、レプリコン「Δ5ATG-RRS」により、図1に例示する。好ましくは、「Δ5ATG-RRS」は、nsP4(nsP4)のC末端断片をコードする核酸配列内の開始コドンを含まない。各々がサブゲノムプロモーターの制御下にある、一又は複数の更なるオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーターの制御下にある第1のオープンリーディングフレームの下流に存在しうる(図1には例示しない)。一又は複数の更なるオープンリーディングフレーム、例えば、第2のオープンリーディングフレームによりコードされる遺伝子は、各々がサブゲノムプロモーターの制御下にある、一又は複数のサブゲノム転写物から翻訳されうる。例えば、RNAレプリコンは、第2の目的のタンパク質をコードする転写物の産生を制御するサブゲノムプロモーターを含みうる。
【0266】
他の実施態様では、第1のオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーターの制御下にない。第1のオープンリーディングフレームが、サブゲノムプロモーターの制御下にない場合、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる遺伝子は、レプリコンから発現させることができる。それぞれの実施態様を、レプリコンである「Δ5ATG-RRSΔSGP」により、図1に例示する。各々がサブゲノムプロモーターの制御下にある、一又は複数の更なるオープンリーディングフレームは、第1のオープンリーディングフレームの下流に存在しうる(2つの例示的な実施態様の例示については、図1の「Δ5ATG-RRS-バイシストロニック」及び「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」を参照されたい)。一又は複数の更なるオープンリーディングフレームによりコードされる遺伝子は、サブゲノム転写物から発現させることができる。
【0267】
本発明に従うレプリコンを含む細胞内では、レプリコンは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により増幅することができる。加えて、レプリコンが、サブゲノムプロモーターの制御下にある、一又は複数のオープンリーディングフレームを含む場合、一又は複数のサブゲノム転写物は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により調製されることが予測される。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、トランスでもたらされる場合もあり、レプリコンのオープンリーディングフレームによりコードされる場合もある。
【0268】
レプリコンが、1を超える目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む場合、各オープンリーディングフレームは、異なるタンパク質をコードすることが好ましい。例えば、第2のオープンリーディングフレームによりコードされるタンパク質は、第1のオープンリーディングフレームによりコードされるタンパク質と異なる。
【0269】
一部の実施態様では、第1のオープンリーディングフレーム及び/又は更なるオープンリーディングフレーム、好ましくは、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質、又はIFNシグナル伝達の阻害剤、例えば、E3タンパク質である。一部の実施態様では、第1のオープンリーディングフレーム及び/又は更なるオープンリーディングフレーム、好ましくは、第2のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質は、薬学的に活性のペプチド若しくはタンパク質、又はレポータータンパク質である。
【0270】
一実施態様では、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質である。この実施態様では、レプリコンは、好ましくは、5’キャップを含む。特に、第1のオープンリーディングフレームによりコードされる目的のタンパク質が、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質であり、好ましくは、レプリコンが、5’キャップを含む場合、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸配列は、レプリコンからの効率的な翻訳が可能であり、結果として得られるタンパク質は、その後、レプリコンの複製を駆動することが可能であり、サブゲノム転写物の合成を駆動しうる。この実施態様は、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする、更なる核酸分子を、レプリコンと共に使用しないか、又はこれが存在しない場合に好ましい場合がある。この実施態様では、レプリコンのシス複製を目的とする。
【0271】
第1のオープンリーディングフレームが、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする一実施態様を、「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」により、図1に例示する。nsP1234をコードする核酸配列の翻訳後、翻訳産物(nsP1234又はその断片)は、レプリカーゼとして作用することが可能であり、RNAの合成、すなわち、レプリコンの複製及び第2のオープンリーディングフレーム(図1の「トランス遺伝子」)を含むサブゲノム転写物の合成を駆動する。
【0272】
トランス複製システム
第2の態様では、本発明は、
機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトと、
トランスで、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンと
を含むシステムを提供する。
【0273】
第2の態様では、RNAレプリコンは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まないことが好ましい。
【0274】
したがって、本発明は、2つの核酸分子、すなわち、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるための(すなわち、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする)、第1のRNAコンストラクトと、第2のRNA分子である、RNAレプリコンとを含むシステムを提供する。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトを、「機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト」又は「レプリカーゼコンストラクト」として、本明細書で同義に称する。
【0275】
機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、上記で規定した通りであり、典型的に、レプリカーゼコンストラクトに含まれるオープンリーディングフレームによりコードされる。レプリカーゼコンストラクトによりコードされる、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、レプリコンの複製が可能な、任意の機能的なアルファウイルス非構造タンパク質でありうる。
【0276】
本発明のシステムを、細胞、好ましくは、真核細胞へと導入する場合、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは翻訳されうる。翻訳の後、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、トランスで、別個のRNA分子(RNAレプリコン)を複製することが可能である。したがって、本発明は、トランスでRNAを複製するためのシステムを提供する。結果として、本発明のシステムは、トランス複製システムである。第2の態様によると、レプリコンは、トランスレプリコンである。
【0277】
本明細書では、トランス(例えば、トランス作用型、トランス調節型の文脈における)とは、一般に、「異なる分子から作用すること」(すなわち、分子間で作用すること)を意味する。トランスとは、一般に、「同じ分子から作用すること」(すなわち、分子内で作用すること)を意味するシス(例えば、シス作用型、シス調節型の文脈における)の逆である。RNA合成(RNAの転写及び複製を含む)の文脈では、トランス作用型エレメントは、RNA合成が可能な酵素(RNAポリメラーゼ)をコードする遺伝子を含有する核酸配列を含む。RNAポリメラーゼは、第2の核酸分子、すなわち、それをコードする核酸分子以外の核酸分子を、RNAの合成のための鋳型として使用する。RNAポリメラーゼ、及びRNAポリメラーゼをコードする遺伝子を含有する核酸配列のいずれも、第2の核酸分子に対して「トランスで作用する」という。本発明の文脈では、トランス作用型のRNAによりコードされるRNAポリメラーゼは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質である。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、RNAレプリコンである、第2の核酸分子を、RNAレプリコンの複製を含む、RNAの合成のための鋳型として使用することが可能である。本発明に従う、トランスでレプリカーゼにより複製することができるRNAレプリコンを、「トランスレプリコン」として、同義に称する。
【0278】
本発明のシステムでは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質の役割は、レプリコンを増幅し、サブゲノムプロモーターが、レプリコン上に存在する場合に、サブゲノム転写物を調製することである。レプリコンが、発現させる目的の遺伝子をコードする場合、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質のレベルを改変することにより、目的の遺伝子の発現レベル、及び/又は発現の持続期間を、トランスで調節することができる。
【0279】
アルファウイルスレプリカーゼが一般に、トランスで、鋳型RNAを認識し、複製することが可能であるという事実は、1980年代に初めて発見されたが、とりわけ、トランス複製されたRNAは、効率的な複製を阻害すると考えられた(これは、感染細胞内のアルファウイルスゲノムと共に共複製される欠損干渉(DI)RNAの場合に発見された)ため、生物医学的適用のためのトランス複製の潜在的可能性は、認識されなかった(Barrett等, 1984, J. Gen. Virol., vol. 65 (Pt 8), pp. 1273-1283、Lehtovaara等, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 78, pp. 5353-5357、Pettersson, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 78, pp. 115-119)。DI RNAは、細胞株への、高ウイルスロードの感染時に、半天然で生じうるトランスレプリコンである。DIエレメントは、親ウイルスの毒力を低減し、これにより、阻害性寄生RNAとして作用する程度に効率的に共複製される(Barrett等, 1984, J. Gen. Virol., vol. 65 (Pt 11), pp. 1909-1920)。生物医学的適用への潜在的可能性は認識されなかったが、トランス複製の現象は、シスにおいて、同じ分子からのレプリカーゼを発現させることを必要とせずに、複製の機構を解明することを目的とする、いくつかの基礎研究において使用され、更に、レプリカーゼと、レプリコンとの分離はまた、それぞれの突然変異体が、機能喪失突然変異体であったにせよ、ウイルスタンパク質の突然変異体を伴う機能研究も可能とする(Lemm等, 1994, EMBO J., vol. 13, pp. 2925-2934)。これらの機能喪失研究及びDI RNAは、アルファウイルスエレメントに基づくトランス活性化システムが、最終的に、治療目的に適うように利用可能となりうることを示唆しなかった。
【0280】
本発明のシステムは、少なくとも2つの核酸分子を含む。したがって、本発明のシステムは、好ましくは、RNA分子である、2つ若しくはこれを超える、3つ若しくはこれを超える、4つ若しくはこれを超える、5つ若しくはこれを超える、6つ若しくはこれを超える、7つ若しくはこれを超える、8つ若しくはこれを超える、9つ若しくはこれを超える、又は10若しくはこれを超える核酸分子を含みうる。好ましい実施態様では、システムは、正確に2つのRNA分子、レプリコン及びレプリカーゼコンストラクトからなる。代替的な好ましい実施態様では、システムは、レプリカーゼコンストラクトに加えて、各々が、好ましくは、少なくとも1つの目的のタンパク質をコードする、1つを超えるレプリコンを含み、また、レプリカーゼコンストラクトも含む。これらの実施態様では、レプリカーゼコンストラクトによりコードされる機能的なアルファウイルス非構造タンパク質は、各レプリコンに作用して、それぞれ、サブゲノム転写物の複製及び作製を駆動しうる。例えば、各レプリコンは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードしうる。例えば、いくつかの異なる抗原に対する、対象のワクチン接種が所望される場合、これは有利である。
【0281】
好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、(+)鎖鋳型に基づく(-)鎖合成、及び/又は(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖合成に必要とされる、少なくとも1つの保存配列エレメント(CSE)を欠く。より好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスの、保存配列エレメント(CSE)を含まない。特に、アルファウイルスの4つのCSE(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562、Jose等, Future Microbiol., 2009, vol. 4, pp. 837-856)の中で、以下のCSE:CSE1、CSE2、CSE3、CSE4のうちの任意の一又は複数は、好ましくは、レプリカーゼコンストラクト上に存在しない。特に、任意の一又は複数のアルファウイルスCSEの非存在下で、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスゲノムRNAに相似するよりはるかによく、典型的な真核mRNAに相似する。
【0282】
本発明のレプリカーゼコンストラクトは、好ましくは、少なくとも、自己複製が可能でない点、及び/又はサブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームを含まない点で、アルファウイルスゲノムRNAから識別される。自己複製が不可能である場合、レプリカーゼコンストラクトはまた、「自殺コンストラクト」とも称される。
【0283】
トランス複製システムは、以下の利点を伴う:
まず何にもまして、本発明のシステムの多用途性は、レプリコン及びレプリカーゼコンストラクトを、異なる時点及び/又は異なる部位において、デザイン及び/又は調製しうることを可能とする。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトを、第1の時点において調製し、レプリコンを、後の時点において調製する。例えば、その調製後、レプリカーゼコンストラクトを、後の時点における使用のために保存することができる。本発明は、シスレプリコンと比較した柔軟性の増加を提供する。つまり、新たな病原体が出現したら、新たな病原体に対する免疫応答を誘発するポリペプチドをコードする核酸へと、レプリコンをクローニングすることにより、本発明のシステムを、ワクチン接種のためにデザインすることができる。既に調製されたレプリカーゼコンストラクトは、保存物から回収することができる。したがって、レプリカーゼコンストラクトを、デザイン及び調製する時点において、特定の病原体、又は特定の病原体の抗原(一又は複数)の性格が既知であることは必要とされない。結果として、レプリカーゼコンストラクトを、デザイン及び調製する時点において、特定の新たな病原体に対する免疫応答を誘発するポリペプチドをコードするレプリコンが利用可能であることは必要とされない。言い換えれば、レプリカーゼコンストラクトは、任意の特定のレプリコンから独立に、デザイン及び調製することができる。これは、レプリカーゼを欠くレプリコンの調製は、シスレプリコンの調製より、必要とされる労力及び資源が少ないため、新たな病原体、又は少なくとも1つの新たな抗原の発現を特徴とする病原体の出現に対して、迅速に反応することを可能とする。歴史は、病原体に対する迅速な反応を可能とするシステムが必要とされると語っており、これは、例えば、近年における、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラウイルス、及び多様なインフルエンザウイルス亜型を引き起こす病原体の発生により例示される。
【0284】
第2に、本発明に従うトランスレプリコンは、典型的なシスレプリコンより短い核酸分子である。これは、目的のタンパク質、例えば、免疫原性ポリペプチドをコードするレプリコンの、より迅速なクローニングを可能とし、高収率の目的のタンパク質をもたらす。
【0285】
本発明のシステムの更なる利点は、2つの個別のRNA分子上の、鍵となる遺伝情報の、核内の転写及び存在への非依存性であって、かつてないデザインの自由度をもたらす非依存性を含む。互いと組合せ可能な、その多用途性エレメントを念頭に、本発明は、レプリカーゼの発現を、所望のRNA増幅レベル、所望の標的生物、目的のタンパク質の所望の産生レベルなどに最適化することを可能とする。本発明に従うシステムは、量又は比を変動させるレプリコン及びレプリカーゼコンストラクトを、in vitro又はin vivoにおいて、任意の所与の細胞型(休眠細胞又は周期細胞)で共トランスフェクトすることを可能とする。本発明のトランス複製システムは、宿主細胞への接種に適し、宿主細胞内の目的の遺伝子の発現と関連する(例えば、実施例2、3、及び5を参照されたい)。
【0286】
本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、好ましくは、一本鎖RNA分子である。本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、典型的に、(+)鎖RNA分子である。一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、単離核酸分子である。
【0287】
本発明に従う、RNA分子の好ましい特色
本発明に従うRNA分子は、任意選択で、更なる特色、例えば、5’キャップ、5’-UTR、3’-UTR、ポリ(A)配列、及び/又はコドン使用の適合化を特徴としうる。詳細については、以下で記載する。
【0288】
キャップ
一部の実施態様では、本発明に従うレプリコンは、5’キャップを含む。
【0289】
一部の実施態様では、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、5’キャップを含む。
【0290】
「5’キャップ」、「キャップ」、「5’キャップ構造」、「キャップ構造」という用語は、前駆体メッセンジャーRNAなど、一部の真核細胞一次転写物の5’末端に見出されるジヌクレオチドを指すように、同義に使用される。5’キャップは、(任意選択で、修飾された)グアノシンを、5’-5’三リン酸連結(又は、ある特定のキャップ類似体の場合における、修飾三リン酸連結)を介して、mRNA分子の最初のヌクレオチドへと結合させた構造である。用語は、従来型のキャップを指す場合もあり、キャップ類似体を指す場合もある。例示のために、一部の特定のキャップジヌクレオチド(キャップ類似体ジヌクレオチドを含む)を、図6に示す。
【0291】
「5’キャップを含むRNA」又は「5’キャップを施されたRNA」又は「5’キャップで修飾されたRNA」又は「キャップありのRNA」とは、5’キャップを含むRNAを指す。例えば、RNAに5’キャップを施すことは、前記5’キャップの存在下における、DNA鋳型のin vitro転写により達成することができるが、この場合、前記5’キャップを、共転写により、生成するRNA鎖へと組み込むか、又は、例えば、in vitro転写により、RNAを生成させ、転写後に、キャッピング酵素、例えば、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して、5’キャップを、RNAへと接合させることができる。キャップありのRNAでは、(キャップありの)RNA分子の最初の塩基の3’位を、ホスホジエステル結合を介して、RNA分子の後続の塩基(「第2の塩基」)の5’位へと連結する。
【0292】
RNA分子上のキャップの存在は、それぞれのRNAの、宿主細胞又は宿主生物への導入後早期において、タンパク質をコードする核酸配列の翻訳が所望される場合に、強く好ましい。例えば、実施例4に示す通り、キャップの存在は、RNAレプリコンによりコードされる目的の遺伝子を、それぞれのRNAの、宿主細胞又は宿主生物への導入後早期において、効率的に翻訳することを可能とする。「早期」とは、典型的に、RNAの導入後、最初の1時間以内、又は最初の2時間以内、又は最初の3時間以内を意味する。
【0293】
RNA分子上のキャップの存在はまた、翻訳が、機能的なレプリカーゼの非存在下で、又は宿主細胞内に存在するレプリカーゼが、ごく低レベルである場合に生じることが所望される場合にも好ましい。例えば、レプリカーゼをコードする核酸分子を、宿主細胞へと導入する場合であってもなお、導入後早期のレプリカーゼのレベルは、典型的に、低レベルであろう。
【0294】
本発明に従うシステムでは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトは、5’キャップを含むことが好ましい。
【0295】
特に、本発明に従うRNAレプリコンが、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする第2の核酸分子(例えば、mRNA)と共に使用されないか又はもたらさない場合、RNAレプリコンは、5’キャップを含むことが好ましい。これとは別に、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードする第2の核酸分子と共に使用されるか又はもたらされる場合であってもまた、RNAレプリコンは、5’キャップを含みうる。
【0296】
「従来型の5’キャップ」という用語は、天然にある5’キャップ、好ましくは、7-メチルグアノシンキャップを指す。7-メチルグアノシンキャップでは、キャップのグアノシンは、修飾グアノシンであり、この場合、修飾は、7位におけるメチル化からなる(図6の上)。
【0297】
本発明の文脈では、「5’キャップ類似体」という用語は、従来型の5’キャップに相似する分子構造を指すが、好ましくは、in vivoにおいて、且つ/又は細胞内で、RNAに接合させた場合にそのRNAを安定化させる能力を有するように修飾されている。キャップ類似体は、従来型の5’キャップではない。
【0298】
真核細胞のmRNAの場合、5’キャップはまた、一般に、mRNAの効率的な翻訳に関与すると記載されてもいる。一般に、真核生物では、翻訳は、内部リボソーム侵入部位(IRES)が存在しない限りにおいて、メッセンジャーRNA(mRNA)分子の5’末端だけで開始される。真核細胞は、核内の転写時において、RNAに5’キャップを施すことが可能であり、新たに合成されたmRNAは通例、例えば、転写物が、20-30ヌクレオチドの長さに到達すると、5’キャップ構造で修飾される。まず、5’末端のヌクレオチドであるpppN(pppは、三リン酸を表し、Nは、任意のヌクレオシドを表す)は、細胞内で、RNA 5’-トリホスファターゼ活性及びグアニリルトランスフェラーゼ活性を有するキャッピング酵素により、5’GpppNへと転換される。GpppNはその後、細胞内で、(グアニン-7)-メチルトランスフェラーゼ活性を伴う第2の酵素によりメチル化して、モノメチル化mGpppNキャップを形成しうる。一実施態様では、本発明で使用される5’キャップは、天然の5’キャップである。
【0299】
本発明では、天然の5’キャップジヌクレオチドは、典型的に、非メチル化キャップジヌクレオチド(G(5’)ppp(5’)N、GpppNとも称される)及びメチル化キャップジヌクレオチド(mG(5’)ppp(5’)N、mGpppNとも称される)からなる群から選択される。mGpppN(式中、Nは、Gである)は、以下の式:
により表される。
【0300】
本発明のキャップありのRNAは、in vitroにおいて調製することができ、したがって、宿主細胞内のキャッピング機構に依存しない。in vitroにおいて、キャップありのRNAを作り出す、最もよく使用される方法は、4つのリボヌクレオシド三リン酸全て、及びmG(5’)ppp(5’)G(mGpppGともまた呼ばれる)などのキャップジヌクレオチドの存在下で、細菌RNAポリメラーゼ又はバクテリオファージRNAポリメラーゼにより、DNA鋳型を転写する方法である。RNAポリメラーゼは、次の鋳型ヌクレオシド三リン酸(pppN)のα-リン酸上のmGpppGのグアノシン部分の3’-OHによる求核攻撃により転写を開始する結果として、中間体であるmGpppGpN(式中、Nは、RNA分子の第2の塩基である)をもたらす。競合的GTPにより誘発される産物である、pppGpNの形成は、in vitro転写時のキャップ対GTPのモル比を、5-10の間に設定することにより抑制する。
【0301】
本発明の好ましい実施態様では、5’キャップ(存在する場合)は、5’キャップ類似体である。これらの実施態様は、特に、RNAが、in vitro転写により得られる、例えば、in vitro転写RNA(IVT-RNA)である場合に適する。キャップ類似体は、まず、in vitro転写による、RNA転写物の大スケールの合成を容易とすることが初期には記載されていた。
【0302】
メッセンジャーRNAについては、現在、一部のキャップ類似体(合成キャップ)が一般に記載されており、これらは全て、本発明の文脈でも使用することができる。理想的には、高度な翻訳効率、及び/又はin vivoにおける分解に対する耐性の増加、及び/又はin vitroにおける分解に対する耐性の増加と関連するキャップ類似体が選択される。
【0303】
1つの方向に限り、RNA鎖へと組み込まれうるキャップ類似体を使用することが好ましい。Pasquinelli等(1995, RNA J., vol., 1, pp. 957-967)は、in vitro転写時において、バクテリオファージのRNAポリメラーゼは、転写の開始のために、7-メチルグアノシン単位を使用するが、この場合、キャップを伴う約40-50%の転写物が、逆方向のキャップジヌクレオチド(すなわち、初期反応産物は、GpppmGpNである)を有することを裏付けた。適正なキャップを伴うRNAと比較して、逆キャップを伴うRNAは、核酸配列の、タンパク質への翻訳に関して、機能的ではない。したがって、適正な方向でキャップを組み込むこと、すなわち、mGpppGpNなどに本質的に対応する構造を伴うRNAを結果としてもたらすことが所望される。キャップ-ジヌクレオチドの逆組込みは、メチル化グアノシン単位の2’-OH基又は3’-OH基の置換により阻害されることが示されている(Stepinski等, 2001; RNA J., vol. 7, pp. 1486-1495、Peng等, 2002; Org. Lett., vol. 24, pp. 161-164)。このような「抗リバースキャップ類似体」の存在下で合成されるRNAは、従来型の5’キャップであるmGpppGの存在下でin vitro転写されるRNAより効率的に翻訳される。この目的で、メチル化グアノシン単位の3’OH基を、OCHで置き換えた、1つのキャップ類似体については、例えば、Holtkamp等、2006、Blood, vol. 108、pp. 4009-4017により記載されている(7-メチル(3’-O-メチル)GpppG、抗リバースキャップ類似体(ARCA))。ARCAは、本発明に従う、適切なキャップジヌクレオチド
である。
【0304】
本発明の好ましい実施態様では、本発明のRNAは、本質的にキャップ除去を受けにくい。一般に、培養哺乳動物細胞へと導入された合成mRNAから産生されるタンパク質の量は、天然におけるmRNAの分解により限定されるため、これは重要である。in vivoにおける、mRNA分解の1つの経路は、mRNAキャップの除去で始まる。この除去は、調節性サブユニット(Dcp1)と、触媒性サブユニット(Dcp2)とを含有する、ヘテロ二量体のピロホスファターゼにより触媒される。触媒性サブユニットは、三リン酸架橋のαリン酸基と、βリン酸基との間を切断する。本発明では、この種の切断を受けないか、又は受けにくい、キャップ類似体が選択されうるか、又は存在しうる。この目的に適するキャップ類似体は、式(I):
[式中、
は、任意選択で、置換アルキル、任意選択で、置換アルケニル、任意選択で、置換アルキニル、任意選択で、置換シクロアルキル、任意選択で、置換ヘテロシクリル、任意選択で、置換アリールと、任意選択で、置換ヘテロアリールとからなる群から選択され、
及びRは、独立に、H、ハロ、OHと、任意選択で、置換アルコキシとからなる群から選択されるか、又はR及びRは共に、O-X-Oを形成し、Xは、任意選択で、置換CH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)、及び
C(CHからなる群から選択されるか、又はRは、-O-CH-又は-CH-O-を形成するように、Rを接合させる環の4’位の水素原子と組み合わされ、
は、S、Se、及びBHからなる群から選択され、
及びRは、独立に、O、S、Se、及びBHからなる群から選択され、
nは、1、2、又は3である]
に従うキャップジヌクレオチドから選択することができる。
【0305】
、R、R3、R、R、Rに好ましい実施態様は、国際公開第2011/015347A1号に開示されており、したがって、本発明でも選択することができる。
【0306】
例えば、本発明の好ましい実施態様では、本発明のRNAは、ホスホロチオエート-キャップ類似体を含む。ホスホロチオエート-キャップ類似体は、三リン酸鎖内の3つの非架橋O原子のうちの1つを、S原子で置き換えた、すなわち、式(I)中のR、R、又はRのうちの1つが、Sである特異的キャップ類似体である。ホスホロチオエート-キャップ類似体は、J.Kowalska等、2008、RNA,vol.14、pp.1119-1131により、所望されないキャップ除去過程に対する解決策、したがって、in vivoにおけるRNAの安定性を増加させる解決策として記載されている。特に、5’キャップのベータ-リン酸基における、酸素原子の、硫黄原子への置換は、Dcp2に対する安定化を結果としてもたらす。本発明において好ましいこの実施態様では、式(I)中のRは、Sであり、R及びRは、Oである。
【0307】
更に本発明の好ましい実施態様では、本発明のRNAは、RNA 5’キャップのホスホロチオエート修飾を、「抗リバースキャップ類似体」(ARCA)修飾と組み合わせた、ホスホロチオエート-キャップ類似体を含む。それぞれのARCA-ホスホロチオエート-キャップ類似体は、国際公開第2008/157688A2号において記載されており、全て、本発明のRNA内で使用することができる。この実施態様では、式(I)中のR又はRのうちの少なくとも1つは、OHではなく、好ましくは、R及びRのうちの1つは、メトキシ(OCH3)であり、R及びRのうちの他の1つは、好ましくは、OHである。好ましい実施態様では、ベータ-リン酸基における酸素原子を、硫黄原子に置換する(式(I)中のRが、Sであり、R及びRが、Oであるように)。ARCAのホスホロチオエート修飾は、αホスホロチオエート基、βホスホロチオエート基、及びγホスホロチオエート基が、翻訳機構及びキャップ除去機構のいずれにおいても、キャップ結合性タンパク質の活性部位内に正確に配置されることを確保することが考えられる。少なくともこれらの類似体のうちの一部は、ピロホスファターゼであるDcp1/Dcp2に対して、本質的に耐性である。ホスホロチオエート修飾ARCAは、ホスホロチオエート基を欠く、対応するARCAより、eIF4Eに対して、はるかに大きなアフィニティーを有することが記載された。
【0308】
本発明において特に、好ましい、それぞれのキャップ類似体、すなわち、m2’ 7,2’-OGpppGを、ベータ-S-ARCAと称する(国際公開第2008/157688A2号、Kuhn等, Gene Ther., 2010, vol. 17, pp. 961-971)。したがって、本発明の一実施態様では、本発明のRNAを、ベータ-S-ARCAで修飾する。ベータ-S-ARCAは、以下の構造:
により表される。
【0309】
一般に、架橋リン酸における、酸素原子の、硫黄原子への置き換えは、HPLCにおけるそれらの溶出パターンに基づき、D1及びD2と称される、ホスホロチオエートジアステレオマーを結果としてもたらす。略述すると、「ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマー」又は「ベータ-S-ARCA(D1)」とは、HPLCカラム上で、ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマー(ベータ-S-ARCA(D2))と比較して、最初に溶出し、したがって、短い保持時間を呈する、ベータ-S-ARCAのジアステレオマーである。HPLCによる立体化学配置の決定については、国際公開第2011/015347A1号において記載されている。
【0310】
本発明の、第1の、特に好ましい実施態様では、本発明のRNAを、ベータ-S-ARCA(D2)ジアステレオマーで修飾する。ベータ-S-ARCAの2つのジアステレオマーは、ヌクレアーゼに対する感受性が異なる。ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマーを保有するRNAは、Dcp2切断に対して、ほぼ完全に耐性である(非修飾ARCA 5’キャップの存在下で合成されたRNAと比較して、6%の切断にとどまる)のに対し、ベータ-S-ARCA(D1)5’キャップを伴うRNAは、Dcp2切断に対する中程度の感受性(71%の切断)を呈することが示されている。更に、Dcp2切断に対する安定性の増加が、哺乳動物細胞内のタンパク質発現の増加と相関することも示されている。特に、ベータ-S-ARCA(D2)キャップを保有するRNAは、哺乳動物細胞内で、ベータ-S-ARCA(D1)キャップを保有するRNAより効率的に翻訳されることが示されている。したがって、本発明の一実施態様では、本発明のRNAを、式(I)に従うキャップ類似体であって、ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマーのPβ原子における立体化学配置に対応する式(I)中の置換基Rを含むP原子における立体化学配置を特徴とするキャップ類似体で修飾する。この実施態様では、式(I)中のRは、Sであり、R及びRは、Oである。加えて、式(I)中のR又はRのうちの少なくとも1つは、好ましくは、OHではなく、好ましくは、R及びRのうちの1つは、メトキシ(OCH3)であり、R及びRのうちの他の1つは、好ましくは、OHである。
【0311】
本発明の、第2の、特に好ましい実施態様では、本発明のRNAを、ベータ-S-ARCA(D1)ジアステレオマーで修飾する。この実施態様は、ワクチン接種などを目的とする、キャップありのRNAの、未成熟抗原提示細胞への導入に特に適する。ベータ-S-ARCA(D1)ジアステレオマーは、それぞれキャップありのRNAが、未成熟抗原提示細胞へと導入されると、RNAの安定性を増加させ、RNAの翻訳効率を増加させ、RNAの翻訳を延長し、RNAの全タンパク質発現を増加させ、且つ/又は前記RNAによりコードされる抗原又は抗原ペプチドに対する免疫応答を増加させるのに、特に適することが裏付けられている(Kuhn等, Gene Ther., 2010, vol. 17, pp. 961-971)。したがって、本発明の代替的実施態様では、本発明のRNAを、式(I)に従うキャップ類似体であって、ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学配置に対応する式(I)中の置換基Rを含むP原子における立体化学配置を特徴とするキャップ類似体で修飾する。それぞれのキャップ類似体及びそれらの実施態様については、国際公開第2011/015347A1号及びKuhn等、Gene Ther.、2010、vol.17、pp.961-971において記載されている。本発明では、国際公開第2011/015347A1号において記載されている、任意のキャップ類似体であって、置換基Rを含むP原子における立体化学配置が、ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学配置に対応するキャップ類似体を使用することができる。好ましくは、式(I)中のRは、Sであり、R及びRは、Oである。加えて、式(I)中のR又はRのうちの少なくとも1つは、好ましくは、OHではなく、好ましくは、R及びRのうちの1つは、メトキシ(OCH3)であり、R及びRのうちの他の1つは、好ましくは、OHである。
【0312】
一実施態様では、本発明のRNAを、式(I)に従う5’キャップ構造であって、任意の1つのリン酸基を、ボラノリン酸基又はホスホロセレノエート基で置き換えた5’キャップ構造で修飾する。このようなキャップは、in vitro及びin vivoのいずれにおいても、安定性を増加させている。任意選択で、それぞれの化合物は、2’-O-アルキル基又は3’-O-アルキル基(式中、アルキルは、好ましくは、メチルである)を有し、それぞれのキャップ類似体を、BH-ARCA又はSe-ARCAと称する。mRNAのキャッピングに特に適する化合物は、国際公開第2009/149253A2号に記載されている、β-BH-ARCA及びβ-Se-ARCAを含む。これらの化合物には、式(I)中の置換基Rを含むP原子における立体化学配置であって、ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学配置に対応する立体化学配置が好ましい。
【0313】
UTR
「非翻訳領域」又は「UTR」という用語は、転写されるが、アミノ酸配列へと翻訳されない領域、又はmRNA分子など、RNA分子内の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5’側(上流)(5’-UTR)、及び/又はオープンリーディングフレームの3’側(下流)(3’-UTR)に存在しうる。
【0314】
3’-UTRは、存在する場合、遺伝子の3’末端の、タンパク質コード領域の終結コドンの下流に位置するが、「3’-UTR」という用語は、好ましくは、ポリ(A)テールを含まない。したがって、3’-UTRは、ポリ(A)テール(存在する場合)の上流にあり、例えば、ポリ(A)テールに直に隣接する。
【0315】
5’-UTRは、存在する場合、遺伝子の5’末端の、タンパク質コード領域の開始コドンの上流に位置する。5’-UTRは、5’キャップ(存在する場合)の下流にあり、例えば、5’キャップに直に隣接する。
【0316】
本発明によると、5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域を、これらの領域が、前記オープンリーディングフレームを含むRNAの安定性及び/又は翻訳効率を増加させる形で、オープンリーディングフレームと関連するように、オープンリーディングフレームへと、機能的に連結することができる。
【0317】
一部の実施態様では、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、5’-UTR及び/又は3’-UTRを含む。
【0318】
好ましい実施態様では、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、
(1)5’-UTRと、
(2)オープンリーディングフレームと、
(3)3’-UTRと
を含む。
【0319】
UTRは、RNAの安定性及び翻訳効率に関与する。本明細書で記載される、5’キャップ及び/又は3’ポリ(A)テールに関する構造的修飾以外に、特異的5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域(UTR)を選択することにより、RNAの安定性及び翻訳効率のいずれも改善することができる。UTR内の配列エレメントは一般に、翻訳の効率(主に、5’-UTR)及びRNA安定性(主に、3’-UTR)に影響を及ぼすと理解される。レプリカーゼコンストラクトの翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために、活性の5’-UTRが存在することが好ましい。独立に、又は加えて、レプリカーゼコンストラクトの翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために、活性の3’-UTRが存在することが好ましい。
【0320】
第1の核酸配列(例えば、UTR)に言及する、「翻訳効率を増加させるために、活性である核酸配列」及び/又は「安定性を増加させるために、活性である核酸配列」という用語は、第1の核酸配列が、第2の核酸配列と共通の転写物内で、前記翻訳効率及び/又は安定性を、前記第1の核酸配列の非存在下における、前記第2の核酸配列の翻訳効率及び/又は安定性と比較して増加させる形で、前記第2の核酸配列の翻訳効率及び/又は安定性を修飾することが可能であることを意味する。
【0321】
一実施態様では、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに対して、異種又は非天然である、5’-UTR及び/又は3’-UTRを含む。これは、非翻訳領域を、所望の翻訳効率及びRNAの安定性に従いデザインすることを可能とする。したがって、異種UTR又は非天然UTRは、高度の柔軟性を可能とし、この柔軟性は、天然のアルファウイルスUTRと比較して有利である。特に、アルファウイルス(天然)RNAはまた、5’UTR及び/又は3’UTRも含むことが公知であるが、アルファウイルスのUTRは、二重の機能を果たす、すなわち、(i)RNAの複製を駆動するほか、(ii)翻訳を駆動する。アルファウイルスのUTRは、翻訳に非効率的であることが報告されている(Berben-Bloemheuvel等, 1992, Eur. J. Biochem., vol. 208, pp. 581-587)が、典型的に、それらの二重の機能のために、より効率的なUTRで、たやすく置き換えることはできない。しかし、本発明では、トランスにおける複製のためのレプリカーゼコンストラクト内に含まれる5’-UTR及び/又は3’-UTRを、RNAの複製に対する、それらの潜在的な影響から独立して選択することができる。
【0322】
好ましくは、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、ウイルス由来ではない、特に、アルファウイルス由来ではない、5’-UTR及び/又は3’-UTRを含む。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、真核細胞の5’-UTRに由来する5’-UTR、及び/又は真核細胞の3’-UTRに由来する3’-UTRを含む。
【0323】
本発明に従う5’-UTRは、任意選択で、リンカーにより隔てられた、1つを超える核酸配列の任意の組合せを含みうる。本発明に従う3’-UTRは、任意選択で、リンカーにより隔てられた、1つを超える核酸配列の任意の組合せを含みうる。
【0324】
本発明によると、「リンカー」という用語は、前記2つの核酸配列を接続するように、2つの核酸配列の間に付加される核酸配列に関する。リンカー配列に関する特定の制限は存在しない。
【0325】
3’-UTRは、典型的に、200から2000ヌクレオチド、例えば、500から1500ヌクレオチドの長さを有する。免疫グロブリンmRNAの3’非翻訳領域は、比較的短い(約300ヌクレオチド未満)が、他の遺伝子の3’非翻訳領域は、比較的長い。例えば、tPAの3’非翻訳領域は、約800ヌクレオチドの長さであり、因子VIIIの3’非翻訳領域は、約1800ヌクレオチドの長さであり、エリスロポエチンの3’非翻訳領域は、約560ヌクレオチドの長さである。哺乳動物mRNAの3’非翻訳領域は、典型的に、AAUAAAヘキサヌクレオチド配列として公知の相同性領域を有する。この配列は、ポリ(A)接合シグナルであると推定され、ポリ(A)接合部位の10から30塩基上流に位置することが多い。3’非翻訳領域は、エキソリボヌクレアーゼに対する障壁として作用するか、又はRNAの安定性を増加させることが公知のタンパク質(例えば、RNA結合性タンパク質)と相互作用する、ステムループ構造をもたらすようにフォールドしうる、一又は複数の逆位リピートを含有しうる。
【0326】
ヒトベータ-グロビンの3’-UTR、特に、ヒトベータ-グロビンの3’-UTRの、2つの連続する同一なコピーは、高度な転写物の安定性及び翻訳の効率に寄与する(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017)。したがって、一実施態様では、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、ヒトベータ-グロビンの3’-UTRの、2つの連続する同一なコピーを含む。したがって、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、5’→3’方向に:(a)任意選択で、5’-UTR;(b)オープンリーディングフレーム;(c)ヒトベータ-グロビンの3’-UTRの、2つの連続する同一なコピー、その断片、又はヒトベータ-グロビンの3’-UTR若しくはその断片の変異体を含む3’-UTRを含む。
【0327】
一実施態様では、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために活性であるが、ヒトベータ-グロビンの3’-UTR、その断片、又はヒトベータ-グロビンの3’-UTR若しくはその断片の変異体ではない3’-UTRを含む。
【0328】
一実施態様では、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために活性である5’-UTRを含む。
【0329】
本発明に従うUTR含有レプリカーゼコンストラクトは、例えば、in vitro転写により調製することができる。これは、5’-UTR及び/又は3’-UTRを伴うRNAの転写を可能とする形で、本発明の核酸分子(例えば、DNA)の発現を遺伝子改変することにより達成することができる。
【0330】
図1に例示する通り、レプリコンもまた、5’-UTR及び/又は3’-UTRを特徴としうる。レプリコンのUTRは、典型的に、アルファウイルスのUTR又はその変異体である。
【0331】
Poly(A)配列
一部の実施態様では、本発明に従うレプリコンは、3’ポリ(A)配列を含む。レプリコンが、保存配列エレメント4(CSE4)を含む場合、レプリコンの3’ポリ(A)配列は、好ましくは、CSE4の下流に、最も好ましくは、CSE4に直に隣接して存在する。
【0332】
一部の実施態様では、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトは、3’-ポリ(A)配列を含む。
【0333】
本発明によると、一実施態様では、ポリ(A)配列は、少なくとも20、好ましくは、少なくとも26、好ましくは、少なくとも40、好ましくは、少なくとも80、好ましくは、少なくとも100のAヌクレオチドであり、好ましくは、最大で500、好ましくは、最大で400、好ましくは、最大で300、好ましくは、最大で200のAヌクレオチドであり、特に、最大で150のAヌクレオチドであり、特に、約120のAヌクレオチドを含むか、又はこれらから本質的になるか、又はこれらからなる。この文脈では、「~から本質的になる」とは、ポリ(A)配列内の大半のヌクレオチド、典型的に、「ポリ(A)配列」内のヌクレオチドの数で、少なくとも50%であり、好ましくは、少なくとも75%が、Aヌクレオチド(アデニル酸)であるが、残りのヌクレオチドが、Uヌクレオチド(ウリジル酸)、Gヌクレオチド(グアニル酸)、Cヌクレオチド(シチジル酸)など、Aヌクレオチド以外のヌクレオチドであることを許容することを意味する。この文脈では、「~からなる」とは、ポリ(A)配列内の全てのヌクレオチド、すなわち、ポリ(A)配列内のヌクレオチドの数で100%が、Aヌクレオチドであることを意味する。「Aヌクレオチド」又は「A」という用語は、アデニル酸を指す。
【0334】
実際、約120のAヌクレオチドの3’ポリ(A)配列が、トランスフェクトされた真核細胞内のRNAのレベル、並びに3’ポリ(A)配列の上流(5’)に存在するオープンリーディングフレームから翻訳されるタンパク質のレベルに対して、有益な影響を及ぼすことが裏付けられている(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017)。
【0335】
アルファウイルスでは、少なくとも11の連続アデニル酸残基、又は少なくとも25の連続アデニル酸残基の、3’ポリ(A)配列が、マイナス鎖の効率的な合成に重要であると考えられる。特に、アルファウイルスでは、少なくとも25の連続アデニル酸残基の3’ポリ(A)配列は、保存配列エレメント4(CSE4)と共に機能して、(-)鎖の合成を促進すると理解される(Hardy及びRice, J. Virol., 2005, vol. 79, pp. 4630-4639)。
【0336】
本発明は、RNA転写時、すなわち、コード鎖と相補的な鎖内の、反復dTヌクレオチド(デオキシチミジル酸)内のポリ(A)配列を含むDNA鋳型に基づく、in vitro転写RNAの調製時に接合させる3’ポリ(A)配列を提供する。ポリ(A)配列(コード鎖)をコードするDNA配列を、ポリ(A)カセットと称する。
【0337】
本発明の好ましい実施態様では、DNAのコード鎖内に存在する3’ポリ(A)カセットは、dAヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)の分布が均等なランダム配列により中断されている。このようなランダム配列は、5から50、好ましくは、10から30、より好ましくは、10から20ヌクレオチドの長さでありうる。このような カセットは、国際公開第2016/005004A1号において開示されている。本発明では、国際公開第2016/005004A1号において開示されている、任意のポリ(A)カセットを使用することができる。dAヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)の分布が均等なランダム配列により中断されており、例えば、5から50ヌクレオチドの長さであるポリ(A)カセットは、DNAレベルでは、大腸菌(E.coli)内のプラスミドDNAの一定の繁殖を示し、なお、RNAレベルでは、RNAの安定性及び翻訳の効率の支援に関する有益な特性とも関連する。
【0338】
結果として、本発明の好ましい実施態様では、本明細書で記載されるRNA分子内に含有される3’ポリ(A)配列は、Aヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(A、C、G、U)の分布が均等なランダム配列により中断されている。このようなランダム配列は、5から50、好ましくは、10から30、より好ましくは、10から20ヌクレオチドの長さでありうる。
【0339】
コドン使用
一般に、遺伝子コードの縮重は、同じコード能を維持しながら(置き換えるコドンが、置き換えられるコドンと同じアミノ酸をコードするように)の、RNA配列内に存在するある特定のコドン(アミノ酸をコードする塩基トリプレット)の、他のコドン(塩基トリプレット)による置換を可能とするであろう。本発明の一部の実施態様では、RNA分子に含まれるオープンリーディングフレームの、少なくとも1つのコドンは、オープンリーディングフレームが由来する種における、それぞれのオープンリーディングフレーム内のそれぞれのコドンと異なる。この実施態様では、オープンリーディングフレームのコード配列を、「適合させた」又は「修飾された」という。レプリコンに含まれるオープンリーディングフレームのコード配列を、適合させることができる。代替的に、又は加えて、レプリカーゼコンストラクトに含まれる機能的なアルファウイルス非構造タンパク質のコード配列も、適合させることができる。
【0340】
例えば、オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる場合、高頻度で使用されるコドンを選択することができ、国際公開第2009/024567A1号は、核酸分子のコード配列の適合化であって、より高頻度で使用されるコドンによる、希少なコドンの置換を伴う適合化について記載する。コドン使用の頻度は、宿主細胞又は宿主生物に依存するので、この種の適合化は、核酸配列を、特定の宿主細胞又は宿主生物における発現へと適応させるのに適する。一般的に述べると、より高頻度で使用されるコドンは、典型的に、宿主細胞又は宿主生物において、より効率的に翻訳されるが、オープンリーディングフレームの全てのコドンの適合化が、常に必要とされるわけではない。
【0341】
例えば、オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる場合、各アミノ酸について、GC含量が最高となるコドンを選択することにより、G(グアニル酸)残基及びC(シチジル酸)残基の含量を変更することができる。オープンリーディングフレームがGCリッチなRNA分子は、免疫の活性化を低減し、翻訳及びRNAの半減期を改善する潜在的可能性を有することが報告されている(Thess等, 2015, Mol. Ther. 23, 1457-1465)。
【0342】
本発明に従うレプリコンが、アルファウイルス非構造タンパク質をコードする場合、アルファウイルス非構造タンパク質のコード配列を、所望の通りに適合させることができる。オープンリーディングフレームをコードすることアルファウイルス非構造タンパク質が、レプリコンの5’複製認識配列と重複しないために、この自由が可能となる。
【0343】
本発明の実施態様の安全性の特色
本発明では、単独で、又は任意の適する組合せにおける、以下の特色が好ましい。
【0344】
好ましくは、本発明のレプリコン又はシステムは、粒子形成システムではない。これは、本発明のレプリコン又はシステムによる宿主細胞の接種の後、宿主細胞が、次世代ウイルス粒子などのウイルス粒子を産生するわけではないことを意味する。一実施態様では、システムは、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、及び/又はエンベロープタンパク質E1など、任意のアルファウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝情報を全く含まない。本発明のこの態様は、安全性の点で、構造タンパク質がトランス複製ヘルパーRNA上でコードされる先行技術システム(例えば、Bredenbeek等, J. Virol, 1993, vol. 67, pp. 6439-6446)を上回る付加価値を提供する。
【0345】
好ましくは、本発明のシステムは、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、及び/又はエンベロープタンパク質E1など、任意のアルファウイルスの構造タンパク質を含まない。
【0346】
好ましくは、本発明のシステムのレプリコンと、レプリカーゼコンストラクトとは、互いと非同一である。一実施態様では、レプリコンは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードしない。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、(+)鎖鋳型に基づく(-)鎖合成、及び/又は(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖合成に必要とされる、少なくとも1つの配列エレメント(好ましくは、少なくとも1つのCSE)を欠く。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、CSE1及び/又はCSE4を含まない。
【0347】
好ましくは、本発明に従うレプリコンも、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトも、アルファウイルスパッケージングシグナルを含まない。例えば、SFVのnsP2のコード領域内に含まれるアルファウイルスパッケージングシグナル(White等, 1998, J. Virol., vol. 72, pp. 4320-4326)は、例えば、欠失又は突然変異により除去することができる。アルファウイルスパッケージングシグナルを除去する適切な方式は、nsP2のコード領域のコドン使用の適合化を含む。遺伝子コードの縮重は、コードされるnsP2のアミノ酸配列に影響を及ぼさずに、パッケージングシグナルの機能を欠失させることを可能としうる。
【0348】
一実施態様では、本発明のシステムは、孤立システムである。この実施態様では、システムは、哺乳動物細胞の内部など、細胞の内部に存在しないか、又は、アルファウイルスの構造タンパク質を含むコートの内部など、ウイルスカプシドの内部に存在しない。一実施態様では、本発明のシステムは、in vitroにおいて存在する。
【0349】
DNA
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンをコードする核酸配列を含むDNAを提供する。
【0350】
好ましくは、DNAは、二本鎖である。
【0351】
好ましい実施態様では、本発明に従うDNAの第3の態様は、プラスミドである。本明細書で使用される「プラスミド」という用語は、一般に、通例、染色体DNAとは独立に複製しうる、環状のDNA二重鎖である、染色体外の遺伝子素材のコンストラクトに関する。
【0352】
本発明のDNAは、DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されうるプロモーターを含みうる。これは、in vivo又はin vitroにおいてコードされるRNA、例えば、本発明のRNAの転写を可能とする。IVTベクターを、in vitro転写のための鋳型として、標準化された形で使用することができる。本発明に従う好ましいプロモーターの例は、SP6ポリメラーゼ、T3ポリメラーゼ、又はT7ポリメラーゼのためのプロモーターである。
【0353】
一実施態様では、本発明のDNAは、単離核酸分子である。
【0354】
RNAを調製する方法
本発明によると、任意のRNA分子は、本発明のシステムの一部であろうと、そうでなかろうと、in vitro転写により得られうる。本発明では、in vitro転写RNA(IVT-RNA)は、特に、関心の対象である。IVT-RNAは、核酸分子(特に、DNA分子)からの転写により得られる。本発明の第3の態様のDNA分子は、特に、DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されうるプロモーターを含む場合に、このような目的に適する。
【0355】
本発明に従うRNAは、in vitroにおいて合成することができる。これは、in vitro転写反応物へとキャップ類似体を添加することを可能とする。典型的に、ポリ(A)テールは、DNA鋳型上のポリ(dT)配列によりコードされる。代替的に、キャッピング及びポリ(A)テール付加は、転写後に。酵素的に達成することができる。
【0356】
当業者には、in vitro転写法が公知である。例えば、国際公開第2011/015347A1号で言及されている通り、様々なin vitro転写キットが市販されている。
【0357】
キット
本発明はまた、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコン又は本発明の第2の態様に従うシステムを含むキットも提供する。
【0358】
一実施態様では、キットの構成要素は、個別の実体として存在する。例えば、キットの1つの核酸分子は、1つの実体内に存在することが可能であり、キットの別の核酸は、別個の実体内に存在しうる。例えば、開放容器又は閉止容器は、適切な実体である。閉止容器が好ましい。使用される容器は、好ましくは、RNアーゼ非含有又は本質的にRNアーゼ非含有であるものとする。
【0359】
一実施態様では、本発明のキットは、細胞への接種及び/又はヒト対象又は動物対象への投与のためのRNAを含む。
【0360】
本発明に従うキットは、任意選択で、表示又は情報要素の他の形態、例えば、電子的データ担体を含む。表示又は情報要素は、指示書、例えば、印刷された書面の指示書、又は、任意選択で、印刷可能な、電子形態の指示書を含む。指示書は、少なくとも1つの、適切で可能なキットの使用を指す場合がある。
【0361】
薬学的組成物
本明細書で記載されるレプリカーゼコンストラクト及び/又はレプリコンは、薬学的組成物の形態で存在しうる。本発明に従う薬学的組成物は、本発明に従う、少なくとも1つの核酸分子、を含みうる。本発明に従う薬学的組成物は、薬学的に許容される希釈剤及び/又は薬学的に許容される賦形剤及び/又は薬学的に許容される担体及び/又は薬学的に許容される媒体を含む。薬学的に許容される担体、媒体、賦形剤、又は希釈剤の選出しは、特に限定されない。当技術分野で公知の、任意の適適切な、薬学的に許容される担体、媒体、賦形剤、又は希釈剤を使用することができる。
【0362】
本発明の一実施態様では、薬学的組成物は、RNAの完全性を保存することを可能とする、水性溶媒又は任意の溶媒などの溶媒を更に含みうる。好ましい実施態様では、薬学的組成物は、RNAを含む水溶液である。水溶液は、任意選択で、溶質、例えば、塩を含みうる。
【0363】
本発明の一実施態様では、薬学的組成物は、凍結乾燥組成物の形態にある。凍結乾燥組成物は、それぞれの水性組成物を凍結乾燥させることにより得られる。
【0364】
一実施態様では、薬学的組成物は、少なくとも1つのカチオン性実体を含む。一般に、カチオン性脂質、カチオン性ポリマー、及び正の電荷を伴う他の物質は、負に帯電した核酸との複合体を形成しうる。カチオン性化合物、好ましくは、例えば、カチオン性又はポリカチオン性のペプチド又はタンパク質などのポリカチオン性化合物との複合体化により、本発明に従うRNAを安定化させることが可能である。一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、プロタミン、ポリエチレンイミン、ポリ-L-リシン、ポリ-L-アルギニン、ヒストン、又はカチオン性脂質からなる群から選択される、少なくとも1つのカチオン性分子を含む。
【0365】
本発明によると、カチオン性脂質は、カチオン性両親媒性分子、例えば、少なくとも1つの親水性部分及び親油性部分を含む分子である。カチオン性脂質は、モノカチオン性の場合もあり、ポリカチオン性の場合もある。カチオン性脂質典型的に、ステロール鎖、アシル鎖、又はジアシル鎖などの親油性部分を有し、全体的な正味の正電荷を有する。脂質のヘッド基は、典型的に、正の電荷を保有する。カチオン性脂質は、好ましくは、1から10価の正電荷、より好ましくは、1から3価の正電荷を有し、より好ましくは、1価の正電荷を有する。カチオン性脂質の例は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA);ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチル塩化アンモニウム(DODAC)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-1,3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、及び2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウム(propanamium)トリフルオロ酢酸(DOSPA)を含むがこれらに限定されない。カチオン性脂質はまた、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)を含む三級アミン基を伴う脂質も含む。カチオン性脂質は、リポソーム、エマルジョン、及びリポプレックスなど、本明細書で記載される脂質製剤中でRNAを製剤化するのに適する。典型的に、正の電荷は、少なくとも1つのカチオン性脂質による寄与であり、負の電荷は、RNAによる寄与である。一実施態様では、薬学的組成物は、カチオン性脂質に加えて、少なくとも1つのヘルパー脂質を含む。ヘルパー脂質は、中性脂質の場合もあり、アニオン性脂質の場合もある。ヘルパー脂質は、リン脂質など、天然脂質の場合もあり、天然脂質の類似体の場合もあり、完全な合成脂質の場合もあり、天然脂質と類似しない脂質様分子の場合もある。薬学的組成物が、カチオン性脂質及びヘルパー脂質の両方を含む場合、カチオン性脂質の、中性脂質に対するモル比は、製剤の安定性などを念頭に、適切に決定することができる。
【0366】
一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、プロタミンを含む。本発明によると、プロタミンは、カチオン性担体薬剤として有用である。「プロタミン」という用語は、アルギニンに富む、比較的低分子量で、強塩基性の多様なタンパク質のうちのいずれかを指し、とりわけ、魚類など、動物の精子細胞内で、体細胞ヒストンに代わりに、DNAと会合していることが見出される。特に、「プロタミン」という用語は、魚類精子内で見出されるタンパク質、強塩基性、水中で可溶性であり、熱により凝固せず、複数のアルギニン単量体を含むタンパク質を指す。本明細書で使用される、本発明によると、「プロタミン」という用語は、天然供給源又は生物学的供給源から得られるか、又はこれらに由来する任意のプロタミンアミノ酸配列であって、その断片、及び前記アミノ酸配列又はその断片の多量体形態を含むプロタミンアミノ酸配列を含むことを意図する。更に、用語は、人工的であり、特異的目的で特異的にデザインされ、天然供給源又は生物学的供給源からは単離されえない(合成)ポリペプチドを包含する。
【0367】
一部の実施態様では、本発明の組成物は、一又は複数のアジュバントを含みうる。アジュバントを、ワクチンへと添加して、免疫系の応答を刺激しうるが、アジュバントは、典型的に、免疫自体はもたらさない。例示的なアジュバントは、限定せずに述べると、以下:無機化合物(例えば、アラム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化リン酸カルシウム)、鉱物油(例えば、パラフィン油)、サイトカイン(例えば、IL-1、IL-2、IL-12)、免疫刺激性ポリヌクレオチド(RNA又はDNA、例えば、CpG含有オリゴヌクレオチドなど)、サポニン(例えば、キラヤ(Quillaja)属、ダイズ、セネガ(Polygala senega)に由来する植物サポニン)、油エマルジョン又はリポソーム、ポリオキシエチレンエーテル製剤及びポリオキシエチレンエステル製剤、ポリホスファゼン(PCPP)、ムラミルペプチド、イミダゾキノロン化合物、チオセミカルバゾン化合物、Flt3リガンド(国際公開第2010/066418A1号)、又は当業者に公知の、他の任意のアジュバントを含む。本発明に従うRNAの投与に好ましいアジュバントは、Flt3リガンド(国際公開第2010/066418A1号)である。Flt3リガンドを、抗原をコードするRNAと共に投与すると、抗原特異的CD8T細胞の大幅な増加が観察される。
【0368】
本発明に従う薬学的組成物は、緩衝することができる(例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液で)。
【0369】
RNA含有粒子
一部の実施態様では、非保護RNAの不安定性のために、本発明のRNA分子を、複合体化形態又は封入形態で提供することが有利である。本発明では、それぞれの薬学的組成物が提供される。特に、本発明の一部の実施態様では薬学的組成物は、核酸含有粒子、好ましくは、RNA含有粒子を含む。それぞれの薬学的組成物を、粒子製剤と称する。本発明によると、粒子製剤では、粒子は、本発明に従う核酸と、核酸の送達に適する、薬学的に許容される担体、又は薬学的に許容される媒体とを含む。核酸含有粒子は、例えば、タンパク質性粒子の形態の場合もあり、脂質含有粒子形態の場合もある。適切なタンパク質又は脂質を、粒子形成剤と称する。タンパク質性粒子及び脂質含有粒子は、粒子形態におけるアルファウイルスRNAの送達に適すると、既に記載されている(例えば、Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。特に、アルファウイルスの構造タンパク質(例えば、ヘルパーウイルスによりもたらされる)は、タンパク質性粒子の形態における、RNAの送達のための、適切な担体である。
【0370】
本発明に従うシステムを、粒子製剤として製剤化する場合、各RNA分子種(例えば、レプリコン、レプリカーゼコンストラクト、及び、IFNを阻害するのに適するタンパク質をコードするRNAなど、任意選択の、更なるRNA分子種)を、個別の粒子製剤として、個別に製剤化することが可能である。この場合、各個別の粒子製剤は、1つのRNA分子種を含むであろう。個別の粒子製剤は、例えば、個別の容器内に、個別の実体として存在しうる。このような製剤は、粒子形成剤と併せた各RNA分子種を、個別に(典型的に、各々、RNA含有溶液の形態で)用意し、これにより、粒子の形成を可能とすることにより得られる。それぞれの粒子は、もっぱら、粒子が形成される場合にもたらされる特異的RNA分子種(個別の粒子製剤)を含有するであろう。
【0371】
一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、1つを超える個別の粒子製剤を含む。それぞれの薬学的組成物を、混合粒子製剤と称する。本発明に従う混合粒子製剤は、上記で記載した、個別の粒子製剤を、個別に形成するのに続き、個別の粒子製剤を混合する工程により得られる。混合工程により、RNA含有粒子の混合集団を含む1つの製剤が得られる(例示のために述べると、例えば、粒子の第1の集団は、本発明に従うレプリコンを含有することが可能であり、粒子の第2の製剤は、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトを含有しうる)。個別の粒子状集団は、個別の粒子製剤の混合集団を含む、1つの容器内に共に存在しうる。
【0372】
代替的に、薬学的組成物の全てのRNA分子種(例えば、レプリコン、レプリカーゼコンストラクト、及び、IFNを阻害するのに適するタンパク質をコードするRNAなど、任意選択の、更なる分子種)を、組合せ粒子製剤として、共に製剤化することが可能である。このような製剤は、粒子形成剤と併せた、全てのRNA分子種の組合せ(典型的に、組合せ溶液)を用意し、これにより、粒子の形成を可能とすることにより得られる。混合粒子製剤とは対照的に、組合せ粒子製剤は、典型的に、1つを超えるRNA分子種を含む粒子を含むであろう。組合せ粒子組成物では、異なるRNA分子種は、典型的に、単一粒子内に共に存在する。
【0373】
一実施態様では、本発明の粒子製剤は、ナノ粒子製剤である。この実施態様では、本発明に従う組成物は、ナノ粒子の形態にある、本発明に従う核酸を含む。ナノ粒子製剤は、多様なプロトコールにより、多様な複合体化化合物と共に得ることができる。脂質、ポリマー、オリゴマー、又は両親媒性物質は、ナノ粒子製剤の、典型的な構成要素である。
【0374】
本明細書で使用される「ナノ粒子」という用語は、粒子を、全身投与、特に、非経口投与に適するものとする直径を有する、任意の粒子であって、特に、典型的に、直径を1000ナノメートル(nm)又はこれ未満とする核酸の粒子を指す。一実施態様では、ナノ粒子は、約50nm-約1000nm、好ましくは、約50nm-約400nm、好ましくは、約150nm-約200nmなど、約100nm-約300nmの範囲の平均直径を有する。一実施態様では、ナノ粒子は、約200-約700nm、約200-約600nm、好ましくは、約250-約550nm、特に、約300-約500nm、又は約200-約400nmの範囲の直径を有する。
【0375】
一実施態様では、動的光散乱により測定される、本明細書で記載されるナノ粒子の多分散指数(PI)は、0.5若しくはこれ未満、好ましくは、0.4若しくはこれ未満、又は、なおより好ましくは、0.3若しくはこれ未満である。「多分散指数」(PI)とは、測定値粒子混合物中の個別の粒子(リポソームなど)の、均質又は不均質のサイズ分布であり、混合物中の粒子分布の幅を指し示す。PIは、例えば、国際公開第2013/143555A1号において記載されている通りに決定することができる。
【0376】
本明細書で使用される「ナノ粒子製剤」という用語又は同様の用語は、少なくとも1つのナノ粒子を含有する、任意の粒子製剤を指す。一部の実施態様では、ナノ粒子組成物は、ナノ粒子の一様なコレクションである。一部の実施態様では、ナノ粒子組成物は、リポソーム製剤又はエマルジョンなどの脂質を含有する薬学的製剤である。
【0377】
脂質を含有する薬学的組成物
一実施態様では、本発明の薬学的組成物は、少なくとも1つの脂質を含む。好ましくは、少なくとも1つの脂質は、カチオン性脂質である。前記脂質を含有する薬学的組成物は、本発明に従う核酸を含む。一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、小胞内、例えば、リポソーム内に封入されたRNAを含む。一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、エマルジョンの形態のRNAを含む。一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、カチオン性化合物と共に複合体化し、これにより、例えば、いわゆるリポプレックス又はポリプレックスを形成するRNAを含む。リポソームなどの小胞内のRNAの封入は、例えば、脂質/RNA複合体と顕著に異なる。脂質/RNA複合体は、例えば、RNAを、例えば、あらかじめ形成されたリポソームと混合する場合に得られる。
【0378】
一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、小胞内に封入されたRNAを含む。このような製剤は、本発明に従う、特定の粒子製剤である。小胞とは、球殻へと巻き込まれ、小空間を囲い込み、この空間を小胞外部の空間から隔てる脂質二重層である。典型的に、小胞内部の空間は、水性空間である、すなわち、水を含む。典型的に、小胞外部の空間は、水性空間である、すなわち、水を含む。脂質二重層は、一又は複数の脂質(小胞形成脂質)により形成される。小胞を囲い込む膜は、細胞膜のラメラ相と同様のラメラ相である。本発明に従う小胞は、多層型小胞の場合もあり、単層型小胞の場合もあり、これらの混合物の場合もある。小胞内に封入されると、RNAは、典型的に、任意の外部培地から隔てられる。したがって、RNAは、天然のアルファウイルス内の保護形態と機能的に同等な保護形態で存在する。適切な小胞は、粒子、特に、本明細書で記載されるナノ粒子である。
【0379】
例えば、RNAは、リポソーム内に封入することができる。この実施態様では、薬学的組成物は、リポソーム製剤であるか、又はこれを含む。リポソーム内の封入は、典型的に、RNAを、RNアーゼによる消化から保護するであろう。リポソームは、一部の外部RNA(例えば、それらの表面上の)を含むが、RNAのうちの少なくとも半分(及び理想的にはその全て)を、リポソームのコア内に封入することが可能である。
【0380】
リポソームは、リン脂質など、小胞形成脂質の、一又は複数の二重層を有することが多い、微小な脂質性小胞であり、薬物、例えば、RNAを封入することが可能である。本発明の文脈では、それらに限定せずに述べると、多層型小胞(MLV)、小型の単層型小胞(SUV)、大型の単層型小胞(LUV)、立体安定化リポソーム(SSL)、多胞性小胞(MV)、及び大型の多胞性小胞(LMV)のほか、当技術分野で公知の、他の二重層形態を含む、異なる種類のリポソームを利用することができる。リポソームのサイズ及びラメラ性は、調製方式に依存するであろう。単層から構成されるラメラ相、六方相及び逆六方相、立方相、ミセル、逆ミセルを含む脂質が、水性培地中に存在しうる、いくつかの他の形態の超分子構成が存在する。これらの相はまた、DNA又はRNAとの組合せでも得ることができ、RNA及びDNAとの相互作用は、相状態に、実質的に影響を及ぼしうる。このような相は、本発明のナノ粒子状RNA製剤中に存在しうる。
【0381】
リポソームは、当業者に公知の標準的方法を使用して形成することができる。それぞれの方法は、逆蒸発法、エタノール注射法、脱水-再水和法、超音波処理法、又は他の適する方法を含む。リポソームの形成後、リポソームをサイズ分けして、実質的に均一のサイズ範囲を有するリポソームの集団を得る。
【0382】
本発明の好ましい実施態様では、RNAは、少なくとも1つのカチオン性脂質を含むリポソーム内に存在する。それぞれのリポソームは、少なくとも1つのカチオン性脂質を使用することを条件として、単一の脂質から形成することもでき、脂質の混合物から形成することもできる。好ましいカチオン性脂質は、プロトン化が可能な窒素原子を有し、好ましくは、このようなカチオン性脂質は、三級アミン基を伴う脂質である。特に、適切な三級アミン基を伴う脂質は、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)である。一実施態様では、本発明に従うRNAは、国際公開第2012/006378A1号において記載されているリポソーム製剤、つまり、RNAを含む水性コアを封入する脂質二重層を有するリポソームであって、脂質二重層が、pKaが5.0から7.6の範囲にある脂質であり、好ましくは、三級アミン基を有する脂質を含むリポソーム内に存在する。好ましいカチオン性三級アミン基を伴う脂質は、DLinDMA(pKa 5.8)を含み、一般に、国際公開第2012/031046A2号において記載されている。国際公開第2012/031046A2号に従い、それぞれの化合物を含むリポソームは、RNAの封入に特に適し、したがって、リポソームによるRNAの送達に特に適する。一実施態様では、本発明に従うRNAは、リポソーム製剤中に存在し、この場合、リポソームは、それらのヘッド基が、プロトン化が可能な、少なくとも1つの窒素原子(N)を含む、少なくとも1つのカチオン性脂質を含み、この場合、リポソーム及びRNAは、1:1から20:1の間のN:P比を有する。本発明によると、「N:P比」とは、国際公開第2013/006825A1号において記載されている通り、カチオン性脂質内の窒素原子(N)の、脂質含有粒子(例えば、リポソーム)内に含まれるRNA内のリン酸原子(P)に対するモル比を指す。1:1から20:1の間のN:P比は、リポソームの正味の電荷、及び脊椎動物細胞へのRNAの送達効率に関与する。
【0383】
一実施態様では、本発明に従うRNAは、ポリエチレングリコール(PEG)部分を含む、少なくとも1つの脂質を含むリポソーム製剤中に存在し、この場合、RNAは、PEG部分が、国際公開第2012/031043A1号及び国際公開第2013/033563A1号に記載されている通り、リポソームの外殻上に存在するように、PEG化リポソーム内に封入されている。
【0384】
一実施態様では、本発明に従うRNAは、リポソーム製剤中に存在し、この場合、リポソームは、国際公開第2012/030901A1号に記載されている通り、60-180nmの範囲の直径を有する。
【0385】
一実施態様では、本発明に従うRNAは、リポソーム製剤中に存在し、この場合、RNA含有リポソームは、国際公開第2013/143555A1号において開示されている通り、ゼロに近いか、又は負である、正味の電荷を有する。
【0386】
他の実施態様では、本発明に従うRNAは、エマルジョンの形態で存在する。エマルジョンについては、RNA分子など、核酸分子の、細胞への送達に使用されることが既に記載されている。本明細書では、水中油エマルジョンが好ましい。それぞれのエマルジョン粒子は、油コア及びカチオン性脂質を含む。本発明に従うRNAを、エマルジョン粒子へと複合体化させた、カチオン性水中油エマルジョンがより好ましい。エマルジョン粒子は、油コア及びカチオン性脂質を含む。カチオン性脂質は、負に帯電したRNAと相互作用することが可能であり、これにより、RNAを、エマルジョン粒子へとアンカリングする。水中油エマルジョン中では、エマルジョン粒子は、水性連続相中に分散している。例えば、エマルジョン粒子の平均直径は、典型的に、約80nmから180nmでありうる。一実施態様では、本発明の薬学的組成物は、エマルジョン粒子が、国際公開第2012/006380A2号に記載されている通り、油コア及びカチオン性脂質を含む、カチオン性水中油エマルジョンである。本発明に従うRNAは、国際公開第2013/006834A1号に記載されている通り、エマルジョンのN:P比が、少なくとも4:1であるカチオン性脂質を含むエマルジョンの形態で存在しうる。本発明に従うRNAは、国際公開第2013/006837A1号に記載されている通り、カチオン性脂質エマルジョンの形態で存在しうる。特に、組成物は、油/脂質の比が、少なくとも約8:1(モル:モル)である、カチオン性水中油エマルジョンの粒子と複合体化させたRNAを含みうる。
【0387】
他の実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、リポプレックスのフォーマットで、RNAを含む。「リポプレックス」又は「RNAリポプレックス」という用語は、脂質と、RNAなどの核酸との複合体を指す。リポプレックスは、カチオン性(正に帯電した)リポソームと、アニオン性(負に帯電した)核酸とから形成することができる。カチオン性リポソームはまた、中性「ヘルパー」脂質も含みうる。最も単純な場合には、ある特定の混合プロトコールで、核酸を、リポソームと混合することにより、リポプレックスは、自発的に形成されるが、他の多様なプロトコールも適用することができる。正に帯電したリポソームと、負に帯電した核酸との静電相互作用が、リポプレックス形成の駆動力である(国際公開第2013/143555A1号)ことが理解される。本発明の一実施態様では、RNAリポプレックス粒子の正味の電荷は、ゼロに近いか、又は負である。RNA及びリポソームの、電気的に中性であるか、又は負に帯電したリポプレックスは、全身投与の後、脾臓樹状細胞(DC)内で、実質的なRNA発現をもたらすが、正に帯電したリポソーム及びリポプレックスについて報告されている毒性の増加を伴わない(国際公開第2013/143555A1号を参照されたい)ことが公知である。したがって、本発明の一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、(i)ナノ粒子内の正の電荷の数が、ナノ粒子内の負の電荷の数を超えず、且つ/又は(ii)ナノ粒子が、中性であるか、若しくは正味の負の電荷を有し、且つ/又は(iii)ナノ粒子内の、正の電荷の、負の電荷に対する電荷比が、1.4:1若しくはこれ未満であり、且つ/又は(iv)ナノ粒子のゼータポテンシャルが、0若しくはこれ未満である、ナノ粒子、好ましくは、リポプレックスナノ粒子のフォーマットで、RNAを含む。国際公開第2013/143555A1号において記載されている通り、ゼータポテンシャルとは、コロイド系における、動電学的ポテンシャルについての学術用語である。本発明では、(a)ゼータポテンシャル、及び(b)ナノ粒子内の、カチオン性脂質の、RNAに対する電荷比のいずれも、国際公開第2013/143555A1号において開示されている通りに計算することができる。まとめると、本発明の文脈では、規定された粒子サイズを伴うナノ粒子状リポプレックス製剤であって、粒子の正味の電荷が、国際公開第2013/143555A1号において開示されている通り、ゼロに近いか、又は負であるナノ粒子状リポプレックス製剤である薬学的組成物が、好ましい薬学的組成物である。
【0388】
タンパク質を作製するための方法
第4の態様では、本発明は、
(a)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを更に含む、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンを得る工程と、
(b)RNAレプリコンを、細胞へと接種する工程と
を含む、細胞内で目的のタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0389】
方法についての多様な実施態様では、RNAレプリコンが、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームと、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームとを含み、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる限りにおいて、RNAレプリコンは、本発明のRNAレプリコンについて、上記で規定した通りである。
【0390】
第5の態様では、本発明は、
(a)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトを得る工程と、
(b)トランスで、(a)に従う機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンを得る工程と、
(c)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト、及びRNAレプリコンを、細胞へと共接種する工程と
を含む、細胞内で目的のタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0391】
方法についての多様な実施態様では、RNAレプリコンが、トランスで、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む限りにおいて、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト、及び/又はRNAレプリコンは、本発明のシステムについて上記で規定した通りである。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトと、RNAレプリコンとは、同じ時点に接種することもでき、代替的に、異なる時点に接種することもできる。第2の場合には、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトを、典型的に、第1の時点に接種し、レプリコンを、典型的に、第2の時点、後の時点に接種する。この場合、レプリカーゼは、既に、細胞内で合成されているので、レプリコンは、すぐに複製されることが想定される。第2の時点は、典型的に、第1の時点の直後、例えば、第1の時点の1分間から24時間後である。
【0392】
一又は複数の核酸分子を接種しうる細胞を、「宿主細胞」と称することができる。本発明によると、「宿主細胞」という用語は、外因性核酸分子を形質転換又はトランスフェクトしうる、任意の細胞を指す。「細胞」という用語は、好ましくは、インタクトの細胞、すなわち、酵素、細胞小器官、又は遺伝子素材など、その正常な細胞内構成要素を放出していない、インタクトの膜を伴う細胞である。インタクト細胞は、好ましくは、生細胞、すなわち、その正常な代謝機能を実行ことが可能な生存細胞である。「宿主細胞」という用語は、本発明によると、原核細胞(例えば、大腸菌(E.coli))又は真核細胞(例えば、ヒト及び動物細胞、植物細胞、酵母細胞、並びに昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、及びヤギを含む家畜のほか、霊長動物に由来する細胞などの哺乳動物細胞が、特に好ましい。細胞は、複数の組織型に由来することが可能であり、初代細胞及び細胞株を含みうる。具体例は、角化細胞、末梢血白血球、骨髄幹細胞、及び胚性幹細胞を含む。他の実施態様では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に、樹状細胞、単球、又はマクロファージである。核酸は、宿主細胞内に、単一のコピー又はいくつかのコピーで存在することが可能であり、一実施態様では、宿主細胞内で発現する。
【0393】
細胞は、原核細胞の場合もあり、真核細胞の場合もある。原核細胞は、本明細書では、例えば、本発明に従うDNAの繁殖に適し、真核細胞は、本明細書では、例えば、レプリコンのオープンリーディングフレームの発現に適する。
【0394】
本発明の方法では、本発明に従うシステム、又は本発明に従うキット、又は本発明に従う薬学的組成物のうちのいずれかを使用することができる。RNAは、薬学的組成物の形態で使用することもできる、例えば、エレクトロポレーションのためのネイキッドRNAとして使用することもできる。
【0395】
本発明の方法に従い、宿主細胞内の、目的の遺伝子の効率的な発現を達成することができる(例えば、実施例2から5を参照されたい)。
【0396】
一実施態様では、更なるRNA分子、好ましくは、mRNA分子を、細胞へと接種することができる。任意選択で、更なるRNA分子は、本明細書で記載されるE3など、IFNの阻害に適するタンパク質をコードする。任意選択で、更なるRNA分子を、本発明に従うレプリコン又はレプリカーゼコンストラクト又はシステムの接種の前に接種することもできる。
【0397】
本発明に従う、細胞内でタンパク質を作製するための方法では、細胞は、抗原提示細胞であることが可能であり、方法を、抗原をコードするRNAを発現させるために使用することができる。この目的で、本発明は、抗原をコードするRNAの、樹状細胞などの抗原提示細胞への導入を伴いうる。樹状細胞などの抗原提示細胞のトランスフェクションのために、抗原をコードするRNAを含む薬学的組成物を使用することができる。
【0398】
一実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法は、in vitro法である。一実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法は、手術又は治療による、ヒト対象又は動物対象からの細胞の除去を含まない。
【0399】
この実施態様では、本発明の第4の態様に従い接種される細胞は、対象においてタンパク質を作製し、対象にタンパク質を施すように、対象へと投与することができる。細胞は、対象に関して、自家の場合もあり、同系の場合もあり、同種の場合もあり、異種の場合もある。
【0400】
他の実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法における細胞は、患者など、対象において存在しうる。これらの実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法は、RNA分子の、対象への投与を含むin vivo法である。
【0401】
この点で、本発明はまた、
(a)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを更に含む、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンを得る工程と、
(b)RNAレプリコンを、対象へと投与する工程と
を含む、対象において目的のタンパク質を作製するための方法も提供する。
【0402】
方法についての多様な実施態様では、RNAレプリコンが、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームと、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームとを含み、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができる限りにおいて、RNAレプリコンは、本発明のRNAレプリコンについて、上記で規定した通りである。
【0403】
本発明は、
(a)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトを得る工程と、
(b)トランスで、(a)に従う機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコンを得る工程と、
(c)機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト、及びRNAレプリコンを、対象へと投与する工程と
を含む、対象において目的のタンパク質を作製するための方法を更に提供する。
【0404】
方法についての多様な実施態様では、RNAレプリコンが、トランスで、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質により複製することができ、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む限りにおいて、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクト、及び/又はRNAレプリコンは、本発明のシステムについて上記で規定した通りである。機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトと、RNAレプリコンとは、同じ時点に投与することもでき、代替的に、異なる時点に投与することもできる。第2の場合には、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトを、典型的に、第1の時点に投与し、RNAレプリコンを、典型的に、第2の時点、後の時点に投与する。この場合、レプリカーゼは、既に、細胞内で合成されているので、レプリコンは、すぐに複製されることが想定される。第2の時点は、典型的に、第1の時点の直後、例えば、第1の時点の1分間から24時間後である。好ましくは、RNAレプリコン及び機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトが、同じ標的組織又は細胞に到達する見込みを増加させるために、RNAレプリコンの投与を、同じ部位に、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質を発現させるためのRNAコンストラクトの投与と同じ投与経路を介して実施する。「部位」とは、対象の身体の位置を指す。適切な部位は、例えば、左腕、右腕などである。
【0405】
一実施態様では、更なるRNA分子、好ましくは、mRNA分子を、対象へと投与することができる。任意選択で、更なるRNA分子は、本明細書で記載されるE3など、IFNの阻害に適するタンパク質をコードする。任意選択で、更なるRNA分子を、本発明に従うレプリコン又はレプリカーゼコンストラクト又はシステムの接種の前に投与することもできる。
【0406】
本発明に従うRNAレプリコン、本発明に従うシステム、又は本発明に従うキット、又は本発明に従う薬学的組成物のうちのいずれかを、本発明に従う、対象においてタンパク質を作製するための方法において使用することができる。例えば、本発明の方法では、RNAは、例えば、本明細書で記載される薬学的組成物のフォーマットで使用することもでき、ネイキッドRNAとして使用することもできる。
【0407】
対象へと投与される効能を念頭に、本発明に従うRNAレプリコン、本発明に従うシステム、又は本発明に従うキット、又は本発明に従う薬学的組成物の各々を、「医薬」などと称することができる。本発明は、本発明のRNAレプリコン、システム、キット、薬学的組成物が、医薬としての使用のために提供されることを見越す。医薬を使用して、対象を治療することができる。「~を治療する」とは、本明細書で記載される化合物又は組成物又は他の実体を、対象へと投与することを意味する。用語は、療法により、ヒト又は動物の身体を治療するための方法を含む。
【0408】
上記で記載した医薬は、典型的に、DNAを含まず、したがって、先行技術(例えば、国際公開第2008/119827A1号)に記載されているDNAワクチンと比較して、更なる安全性の特色と関連している。
【0409】
本発明に従う、代替的な医学的使用は、本発明の第4の態様に従う、細胞内でタンパク質を作製するための方法であって、細胞が、樹状細胞などの抗原提示細胞でありうる方法に続き、前記細胞の、対象への導入を行う方法を含む。例えば、抗原など、薬学的に活性のタンパク質をコードするRNAを、ex vivoにおいて、抗原提示細胞へと導入(トランスフェクト)することができる、例えば、対象から採取した抗原提示細胞と、任意選択で、ex vivoにおいて、クローン的に繁殖させた抗原提示細胞とを、同じ対象又は異なる対象へと導入することができる。トランスフェクトされた細胞は、当技術分野で公知の、任意の手段を使用して、対象へと再導入することができる。
【0410】
本発明に従う医薬は、それを必要とする対象へと投与することができる。本発明の医薬は、対象を治療する予防法のほか、治療法においても使用することができる。
【0411】
本発明に従う医薬は、有効量で投与する。「有効量」とは、単独で又は他の投与と共に、反応又は所望の効果を引き起こすのに十分な量に関する。対象における、ある特定の疾患又はある特定の状態の治療の場合、所望される効果は、疾患の進行の阻害である。これは、疾患の進行の減速化、特に、疾患の進行の中断を含む。疾患又は状態の治療における所望の効果はまた、疾患の発生の遅延又は疾患の発生の阻害でもありうる。
【0412】
有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、身長、及び体重を含む、患者の個別のパラメータ、治療の持続期間、併用療法(存在する場合)の種類、具体的投与方式、及び他の因子に依存するであろう。
【0413】
ワクチン接種
「免疫化」又は「ワクチン接種」という用語は、一般に、治療的理由又は予防的理由で、対象を治療する工程を指す。治療、特に、予防的治療は、好ましくは、例えば、一又は複数の抗原に対する、対象の免疫応答を誘導又は増強することを目的とする治療であるか、又はこれを含む。本発明によると、本明細書で記載されるRNAを使用することにより、免疫応答を誘導又は増強することが所望される場合、免疫応答は、RNAにより、誘発又は増強することができる。一実施態様では、本発明は、好ましくは、対象のワクチン接種であるか、又はこれを含む予防的治療を提供する。レプリコンが、目的のタンパク質として、免疫学的に活性の化合物又は抗原である、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードする、本発明の実施態様は、ワクチン接種に、特に、有用である。
【0414】
病原体又は癌を含む、外来の作用物質に対するワクチン接種のためのRNAについては、既に記載されている(近年、Ulmer等, 2012, Vaccine, vol. 30, pp. 4414-4418により総説されている)。先行技術における一般的な手法とは対照的に、本発明に従うレプリコンは、本明細書で記載される、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質による複製能のために、効率的なワクチン接種に、特に適するエレメントである。本発明に従うワクチン接種を、例えば、弱く免疫原性であるタンパク質に対する免疫応答の誘導のために使用することができる。本発明に従うワクチン接種を、例えば、弱く免疫原性であるタンパク質に対する免疫応答の誘導のために使用することができる。本発明に従うRNAワクチンの場合、タンパク質抗原を血清抗体へと曝露するのではなく、RNAの翻訳の後で、トランスフェクト細胞自体が産生する。したがって、アナフィラキシーは、問題とならないはずである。したがって、本発明は、アレルギー反応の危険性を伴わずに、患者の免疫化の反復を可能とする。
【0415】
本発明に従うワクチン接種を伴う方法では、特に、抗原を伴う疾患を有するか、又は抗原を伴う疾患により、疾病に罹患する危険性がある対象を治療することが所望される場合、本発明の医薬を、対象へと投与する。
【0416】
本発明に従うワクチン接種を伴う方法では、本発明に従うレプリコンによりコードされる目的のタンパク質は、例えば、それに対する免疫応答が導かれる細菌抗原、又はそれに対する免疫応答が導かれるウイルス抗原、又はそれに対する免疫応答が導かれる癌抗原、又はそれに対する免疫応答が導かれる単細胞生物の抗原をコードする。ワクチン接種の有効性は、生物に由来する抗原特異的IgG抗体の測定など、公知の標準的方法により評価することができる。本発明に従う、アレルゲン特異的免疫療法を伴う方法では、本発明に従うレプリコンによりコードされる目的のタンパク質は、アレルギーに関連する抗原をコードする。アレルゲン特異的免疫療法(減感作としてもまた公知である)は、原因アレルゲンへのその後の曝露に伴う症状が緩和される状態を達成するために、好ましくは、一又は複数のアレルギーを伴う生物へのアレルゲンワクチンの用量を増加させる投与として規定される。アレルゲン特異的免疫療法の有効性は、生物に由来するアレルゲン特異的IgG抗体及びアレルゲン特異的IgE抗体の測定など、公知の標準的方法により評価することができる。
【0417】
本発明の医薬は、例えば、対象のワクチン接種を含む、対象の治療のために、対象へと投与することができる。
【0418】
「対象」という用語は、脊椎動物、特に、哺乳動物に関する。例えば、本発明の文脈における哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどの家畜哺乳動物、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどなどの実験室動物のほか、動物園動物などの捕獲動物である。「対象」という用語はまた、鳥類(特に、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウなどの家禽)及び魚類(特に、養殖魚、例えば、サケ又はナマズ)など、哺乳動物以外の脊椎動物にも関する。本明細書で使用される「動物」という用語はまた、ヒトも含む。
【0419】
一部の実施態様では、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウなどの家畜、又は野生動物、例えば、キツネへの投与が好ましい。例えば、本発明に従う予防用ワクチン接種は、例えば、畜産業における動物集団にワクチン接種するのにも適し、野生の動物集団にワクチン接種するのにも適しうる。愛玩動物又は動物園動物など、他の捕獲動物集団にも、ワクチン接種することができる。
【0420】
対象へと投与されると、医薬として使用されるレプリコン及び/又はレプリカーゼコンストラクトは、好ましくは、治療される対象が属する種又は属に対して感染性であるアルファウイルスの種類に由来する配列を含まない。好ましくは、この場合、レプリコン及び/又はレプリカーゼコンストラクトは、それぞれの種又は属に感染しうるアルファウイルスに由来するヌクレオチド配列を含まない。この実施態様は、RNAを投与される対象が、(例えば、偶然に)感染性アルファウイルスに罹患した場合であってもなお、感染性(例えば、完全に機能的な又は野生型)アルファウイルスによる組換えが可能ではないという利点を保有する。例示的な例として述べると、ブタの治療のために、使用されるレプリコン及び/又はレプリカーゼコンストラクトは、ブタに感染しうるアルファウイルスに由来するヌクレオチド配列を含まない。
【0421】
投与方式
本発明に従う医薬は、任意の適切な経路により、対象へと適用することができる。
【0422】
例えば、医薬は、全身、例えば、静脈内(i.v.)、皮下(s.c.)、皮内(i.d.)、又は吸入により投与することができる。
【0423】
一実施態様では、本発明に従う医薬を、骨格筋などの筋肉組織、又は皮膚へと、例えば、皮下投与する。一般に、RNAの、皮膚又は筋肉への移入は、高度且つ持続的な発現と並行して、体液性免疫応答及び細胞性免疫応答の強力な誘導をもたらす(Johansson等, 2012, PLoS. One., 7, e29732、Geall等, 2012, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 109, pp. 14604-14609)ことが理解される。
【0424】
筋肉組織又は皮膚への投与に対する代替法は、皮内投与、鼻腔内投与、眼内投与、腹腔内投与、静脈内投与、間質内、口腔内投与、経皮投与、又は舌下投与を含むがこれらに限定されない。皮内投与及び筋内投与が、2つの好ましい経路である。
【0425】
投与は、多様な方式で達成することができる。一実施態様では、本発明に従う医薬を、注射により投与する。好ましい実施態様では、注射は、注射針を介する。無針注射を、代替法として使用することができる。
【0426】
本発明について、詳細に記載し、図及び例により例示してきたが、これらは、例示だけを目的として使用されるものであり、限定的であることを意図するものではない。記載及び例により、当業者は、それらもまた本発明に含まれる、更なる実施態様にアクセス可能である。
【実施例
【0427】
材料及び方法:
下記で記載される例では、以下の材料及び方法を使用した。
【0428】
プラスミドのクローニング、in vitro転写、RNA精製:
プラスミドは、標準技術を使用してクローニングした。本発明の実施例で使用される、個別のプラスミドのクローニングの詳細については、実施例1においてにおいて記載する。実施例1において記載されるプラスミドと、T7RNAポリメラーゼとを使用するin vitro転写、並びにRNAの精製は、既に記載されている通りに実施した(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017、Kuhn等, Gene Ther., 2010, vol. 17, pp. 961-971)。
【0429】
精製RNAの品質は、分光光度法、及び2100 BioAnalyzer(Agilent、Santa Clara、USA)上の解析により評価した。実施例で細胞へとトランスフェクトされる全てのRNAは、in vitro転写RNA(IVT-RNA)であった。
【0430】
RNAのトランスフェクション:
エレクトロポレーションのために、以下の設定:BHK21細胞用:750V/cm、16ミリ秒の1パルス;ヒト包皮線維芽細胞用:500V/cm、24ミリ秒の1パルスを使用する、方形波エレクトロポレーションデバイス(BTX ECM 830、Harvard Apparatus、Holliston、MA、USA)を使用して、RNAを、室温で、哺乳動物細胞へとエレクトロポレーションした。異なるRNA分子種の混合物を、RNアーゼ非含有チューブ内で調製し、トランスフェクションまで、氷上で保持した。エレクトロポレーションのために、RNA又はRNA混合物を、キュベットのギャップサイズ1mm当たりの最終容量62.5μl中に再懸濁させた。
【0431】
リポフェクションのために、増殖面積1cm当たりの細胞約20,000個で、細胞を播種し、製造元の指示書(Life Technologies、Darmstadt、Germany)に従い、1cm当たりの合計260ngのRNA及び1cm当たり1μlのMessengerMax試薬をトランスフェクトした。
【0432】
細胞培養物:
全ての成長培地、ウシ胎仔血清(FCS)、抗生剤、及び他の補充物質は、そうでないことが言明されない限りにおいて、Life Technologies/Gibcoにより提供された。System Bioscience(HFF、新生児)又はATCC(CCD-1079Sk)から得たヒト包皮線維芽細胞を、15%のFCS、1%の非必須アミノ酸、1mMのピルビン酸ナトリウムを含有する最小必須培地(MEM)中、37℃で培養した。細胞を、5%のCOへと平衡化させた加湿雰囲気中、37℃で増殖させた。American Type Culture Collection、Manassas、Virginia、USAから入手可能な「BHK21[C13](ATCC(登録商標)CCL10(商標))」細胞株に由来するBHK21細胞を、10%のFCSを補充した、イーグル最小必須培地中で増殖させた。
【0433】
フローサイトメトリー:
GFPをコードするRNAの発現は、FACS Canto IIフローサイトメーター(BD Bioscience、Heidelberg、Germany)を使用するフローサイトメトリーにより測定し、収集されたデータは、対応するDivaソフトウェア又はFlowJoソフトウェア(Tree Star Inc.、Ashland、OR、USA)により解析した。
【0434】
ルシフェラーゼアッセイ:
ホタルルシフェラーゼの発現について評価するために、トランスフェクト細胞を、96ウェル黒色マイクロプレート内に播種し、Nanolucトランスフェクト細胞に由来する上清を、96ウェル黒色マイクロプレート(Nunc、Langenselbold、Germany)へと移した。ホタルルシフェラーゼの検出は、Bright-Glo Luciferas Assay Systemにより測定し、NanoLucの発現は、製造元の指示書に従い、Nano-Glo Luciferaseアッセイシステムを使用して検出した(いずれも、Promega、Madison、WI、USA)。生物発光は、マイクロプレート発光リーダーである、Infinite M200(Tecan Group、Maennedorf、Switzerland)を使用して測定した。データは、相対光単位[RLU]で表し、ルシフェラーゼ陰性細胞を使用して、バックグラウンドシグナルを控除した。
【0435】
実施例1: プラスミドのクローニング
A.セムリキ森林ウイルスウイルス(SFV)に基づくレプリコンをコードするプラスミドは、PCRベースのシームレスクローニング法を使用して得た。シームレスクローニングとは、相同な配列の連なりを使用する、PCRにより作出した断片の、直鎖化ベクターへの組換えに基づくクローニング法を意味する。これにより、ウイルス構造遺伝子をコードするオープンリーディングフレームの非存在を除き、SFVゲノムに対応するレプリコンをコードするDNA配列を、pSFV-gen-GFP(Ehrengruber及びLundstrom, 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 96, pp. 7041-7046、Lundstrom, 2001, Histochem. Cell Biol., vol. 115, pp. 83-91)から、pST1プラスミド骨格(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017)の、T7ファージRNAポリメラーゼプロモーターのすぐ下流へと導入した。プラスミドによりコードされる、120アデニル酸残基のポリ(A)カセット(上記Holtkamp等)、又は10ヌクレオチドのランダム配列により隔てられた、30アデニル酸残基及び70アデニル酸残基からなる修飾ポリ(A)カセット(国際公開第2016/005004A1号)を、SFV 3’-UTRの、まさに最後のヌクレオチドのすぐ下流に付加した。SapI制限部位は、ポリ(A)カセット又は修飾ポリ(A)カセットのすぐ下流に配置した。更に、mycタグをコードするコード配列を、SFV nsP3の可変領域のコード領域内に見出されるXhoI部位へと挿入した。nsP3の可変領域への挿入は、レプリカーゼポリタンパク質の活性に影響を及ぼさない(Spuul等, 2010, J. Virol, vol. 85, pp. 7543-7557)。結果として得られるプラスミドは、T7ポリメラーゼのためのプロモーターの制御下で、SFVの5’複製認識配列をコードするDNA配列を含む。SFVの5’複製認識配列をコードするDNA配列を、配列番号4:
ATGGCGGATGTGTGACATACACGACGCCAAAAGATTTTGTTCCAGCTCCTGCCACCTCCGCTACGCGAGAGATTAACCACCCACGATGGCCGCCAAAGTGCATGTTGATATTGAGGCTGACAGCCCATTCATCAAGTCTTTGCAGAAGGCATTTCCGTCGTTCGAGGTGGAGTCATTGCAGGTCACACCAAATGACCATGCAAATGCCAGAGCATTTTCGCACCTGGCTACCAAATTGA(配列番号4)
により表す。
【0436】
配列番号4についての上記の表示では、最初の下線を付したATGは、nsP1のN末端断片の合成のための開始コドンとして用いられ、タンパク質へと翻訳される塩基は、太字で表される。nsP1コード領域内の更なるATGにも下線を付す。T7ポリメラーゼによる、SFVの5’複製認識配列(配列番号4により表される)を含むプラスミドのin vitro転写時には、配列番号3に対応するRNA配列を含む転写物が得られる:5’末端のGは、T7ポリメラーゼにより転写される最初のヌクレオチドに対応する。このGは、アルファウイルスの配列に先立ち、T7ポリメラーゼによる効率的な転写に必要とされる。
GATGGCGGATGTGTGACATACACGACGCCAAAAGATTTTGTTCCAGCTCCTGCCACCTCCGCTACGCGAGAGATTAACCACCCACGATGGCCGCCAAAGTGCATGTTGATATTGAGGCTGACAGCCCATTCATCAAGTCTTTGCAGAAGGCATTTCCGTCGTTCGAGGTGGAGTCATTGCAGGTCACACCAAATGACCATGCAAATGCCAGAGCATTTTCGCACCTGGCTACCAAATTGATCGAGCAGGAGACTGACAAAGACACACTCATCTTGGATATC(配列番号3)
【0437】
配列番号3についての上記の表示では、5つの特異的なATG塩基トリプレットに下線を付す。SFVレプリカーゼのコード領域内の、固有のEcoRV制限部位(GATATC)は、太字で強調する。
【0438】
結果として、プラスミドAが得られた。プラスミドAは、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質のためのオープンリーディングフレームを含む。
【0439】
B.非修飾5’複製認識配列を伴うトランスレプリコンをコードするプラスミドは、プラスミドA内の、EcoRVからSalIにわたる、非構造タンパク質のコード配列を除去することにより得た(上記を参照されたい)。これにより、nsP1234をコードするオープンリーディングフレームの主要部分、すなわち、固有のEcoRV制限部位から、固有のSalI制限部位に及ぶ配列を除去した。例示のために、GATATC(配列番号3の、最も3’側の6ヌクレオチド;上記の表示では太字)は、SFVレプリカーゼのコード配列の、固有のEcoRV制限部位に対応する。nsP1234をコードするオープンリーディングフレームの主要部分を除去した後でもなお、5’複製認識配列及びサブゲノムプロモーターは存在する。nsP1234をコードするオープンリーディングフレームの主要部分を除去したために、宿主細胞内に存在する場合は、それぞれのプラスミドによりコードされるRNAは、シスにおける複製を駆動することが可能ではなく、複製のために、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質の存在を必要とする。
【0440】
ホタルルシフェラーゼ(トランス遺伝子)をコードするオープンリーディングフレームを、サブゲノムプロモーター(SGP)の下流に挿入した。これにより、プラスミドBが得られた。それぞれのプラスミドによりコードされるRNAレプリコンを、「WT-RRSによる鋳型RNA」として、図1に例示する。
【0441】
RNA二次構造予測のためのウェブサーバー(http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.html)を使用して、非修飾5’複製認識配列(RNA)は、親RNAと識別できず、文献(Frolov, 2001, RNA, vol. 7, pp. 1638-1651)に従う、4つのステムループへとフォールドすることが予測されることを確認した。
【0442】
C-1.プラスミドBから出発して、5’複製認識配列の修飾を伴う、トランスレプリコンをコードするプラスミド(nsP1の最初のアミノ酸残基をコードするATG塩基トリプレットの除去のほか、5’複製認識配列内の、4つの更なるATG塩基トリプレットの除去を含む)を、単一ヌクレオチドの変化、すなわち、それぞれのATG塩基トリプレットの1つの塩基の、異なる塩基による置換(すなわち、A又はT又はGの置換)により作出した。言い換えれば、上記で下線を付した、配列番号3のATG塩基トリプレットの各々を、それぞれ、単一ヌクレオチドの変化(置換)により除去した。
【0443】
プラスミドによりコードされるトランスレプリコンRNAのフォールディングは、RNA二次構造予測のためのウェブサーバー(http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.html)、及びMfold(http://unafold.rna.albany.edu/?q=mfold)を使用して予測した。
【0444】
ATGの除去を特徴とする、修飾5’複製認識配列の予測フォールディングと比較した。万一、予測が、修飾5’複製認識配列の二次構造が、非修飾5’複製認識配列の二次構造と異なることを明らかにした場合は、ATG非含有の5’複製認識配列(Δ5ATG-RRS)のRNAフォールディングが、プラスミドBによりコードされる、非修飾5’複製認識配列のRNAフォールディングと同一であることが予測されるまで、一又は複数の更なるヌクレオチド変化(置換)を、試行錯誤法で実行した。結果として、配列番号5:
GATGGCGGATGTGTGACATACACGACGCCAAAAGATTTTGTTCCAGCTCCTGCCACCTCCGCTACGCGAGAGATTAACCACCCACGAGGCCGCCAAAGTGCTGTTGATATTGAGGCTGACAGCCCATTCATCAAGTCTTGCAGAAGGCATTTCCGTCGTTCGAGGTGGAGTCATTGAGGTACACCAAATACCATCAAATCCAGAGCATTTTCGCACCTGGTACCAAATTGATCGAGCAGGAGACTGACAAAGACACACTCATCTTGGATATC(配列番号5)
に従うDNA配列が得られた。
【0445】
予測される同一なフォールディングを特徴とする、修飾5’複製認識配列をコードするプラスミド、すなわち、配列番号5を含むプラスミドを、本明細書では、C-1と称する。
【0446】
それぞれのプラスミドによりコードされるRNAレプリコンについては、図1で例示し、「Δ5ATG-RRS」と称する。
【0447】
配列番号5で例示される、5つの特異的ATGの除去は、nsP1又はその断片の合成を防止することが理解される。nsP1の天然の開始コドンを除去したために、タンパク質の合成が、サブゲノムプロモーター(SGP)の下流の、第1の開始コドンにおいて開始される結果として、ホタルルシフェラーゼ(トランス遺伝子)をコードするオープンリーディングフレームの転写がもたらされることが理解される。
【0448】
C-2.C-1から出発して、SGPを、EcoRV及びSmaIを伴う消化と、再ライゲーションとにより除去した。それぞれのRNAレプリコンを、図1に概略的に描示し、「Δ5ATG-RRSΔSGP」と称する。それぞれのRNAレプリコンが、5’キャップを含む場合、ルシフェラーゼをコードするトランス遺伝子は、5’キャップの、直接的な翻訳制御下に置かれる。
【0449】
C-3.C-1から出発して、EcoRV及びSalI制限部位を使用して、SFVレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームを挿入した。これにより、自己複製が可能なRNAをコードするプラスミドが得られたが、この場合、レプリカーゼのORFは、5’複製認識配列とも、サブゲノムプロモーターとも重複しない。それぞれのRNAレプリコンを、図1に概略的に描示し、「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」と称する。
【0450】
D.レプリカーゼをコードする核酸配列の、非複製型mRNAからの翻訳を可能とするために、SFVレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームを、ヒトアルファ-グロビンの5’-UTR、合成3’-UTR、及び10ヌクレオチド(10nt)の安定化リンカーにより隔てられた、プラスミドによりコードされるポリ(A)テールの30+70アデニル酸残基を含有するプラスミド(国際公開第2016/005324A1号)へとクローニングした。SFVレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームを、ヒトアルファ-グロビン5’-UTRの下流にクローニングした。プラスミドは、SFVレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームを転写するための、T7プロモーターを含有した。
【0451】
E.ワクシニアウイルスプロテインキナーゼR阻害剤E3をコードする核酸配列の、非複製型mRNAからの翻訳を可能とするために、ワクシニアウイルスプロテインキナーゼR阻害剤E3(「E3」)をコードするオープンリーディングフレームを、ヒトアルファ-グロビンの5’-UTR、合成3’-UTR、及び10ヌクレオチド(10nt)の安定化リンカーにより隔てられた、プラスミドによりコードされるポリ(A)テールの30+70アデニル酸残基を含有するプラスミド(国際公開第2016/005324A1号)へとクローニングした。E3をコードするオープンリーディングフレームを、ヒトアルファ-グロビン5’-UTRの下流にクローニングした。プラスミドは、E3をコードするオープンリーディングフレームを転写するための、T7プロモーターを含有した。
【0452】
実施例2: 5’複製認識配列内の開始コドンの除去は、トランスレプリコンRNAの複製に影響を及ぼさない
BHK21細胞に、(i)SFVレプリカーゼをコードする、5μgのmRNA(実施例1のプラスミドDによりコードされる)、及び(ii)量を変動させるトランスレプリコンRNA(実施例1のプラスミドB又はC-1によりコードされる;図2:「鋳型」)を一緒にエレクトロポレーションした。トランスレプリコンは、ホタルルシフェラーゼ、野生型5’複製認識配列(図2:「WT-RRS」;プラスミドBによりコードされる)、又は全ての開始コドンの除去を特徴とする5’複製認識配列(図2:「Δ5ATG-RRS」;プラスミドC-1によりコードされる)を含有するトランスレプリコンをコードする。トランスレプリコンRNAは、キャップなし(キャップを伴わない)であった。エレクトロポレーションされたBHK21細胞5000個を、96ウェルプレートの各ウェルへと播種して、エレクトロポレーションの24時間後における、ルシフェラーゼの発現を測定した。結果を、図2Bに示す。
【0453】
実施例3: 5’複製認識配列内の開始コドンの除去は、キャップの制御下にあるトランス遺伝子の翻訳を可能とする
全ての開始コドンの除去を特徴とし、サブゲノムプロモーターを含むトランスレプリコン(図3:「Δ5ATG-RRS」;実施例1のプラスミドC-1によりコードされる)、全ての開始コドンの除去を特徴とするが、サブゲノムプロモーターを含まないトランスレプリコン(図3:「Δ5ATG-RRSΔSGP」;実施例1のプラスミドC-2によりコードされる)、及び全ての開始コドンを有し、サブゲノムプロモーターを含むトランスレプリコン(図3;「WT-RRSによる鋳型RNA」)を使用した。ヒト包皮線維芽細胞に、(i)図3に表示の、0.45μgずつのトランスレプリコンRNA、及び(ii-a)ワクシニアウイルスE3タンパク質をコードする、2.5μgのmRNA(実施例1のプラスミドE、図3:「E3」によりコードされる)、又は(ii-b)2.5μgのレプリカーゼをコードするmRNA(実施例1のプラスミドD、図3:「レプリカーゼ」によりコードされる)+ワクシニアウイルスE3タンパク質をコードする、2.5μgのmRNA(実施例1のプラスミドEによりコードされる)を一緒にエレクトロポレーションした。プロテインキナーゼRの活性化を阻害し、これにより、ルシフェラーゼ及びレプリカーゼの発現を促進するために、ワクシニアウイルスE3タンパク質をコードするmRNAを付加した。トランスレプリコンRNAは、キャップなし(図3:「キャップを伴わない」)、又はベータ-S-ARCA(D2)キャップ類似体(図3:「D2キャップ」)の共転写によるキャップありとした。ルシフェラーゼの発現は、24時間後に評価した。結果を、図3(右パネル)に示す。
【0454】
本実施例は、5’複製認識配列からの開始コドンの除去が、トランス遺伝子を、キャップありのトランスレプリコンRNAから直に、効率的に翻訳することを可能とすることを裏付ける。
【0455】
実施例4: トランスフェクション後早期において、5’複製認識配列内の開始コドンの除去を特徴とするトランスレプリコンからのキャップ依存性翻訳は、サブゲノムRNAからの翻訳より強力である
全ての開始コドンの除去を特徴とし、サブゲノムプロモーターを含むトランスレプリコン(図4:「Δ5ATG-RRS」;実施例1のプラスミドC-1によりコードされる)、及び全ての開始コドンの除去を特徴とするが、サブゲノムプロモーターを含まないトランスレプリコン(図4:「Δ5ATG-RRSΔSGP」;実施例1のプラスミドC-2によりコードされる)を使用した。BHK21細胞に、(i)0.45μgの、それぞれのトランスレプリコンRNA、及び(ii)2.5μgのレプリカーゼをコードするmRNA(実施例1のプラスミドDによりコードされる)を一緒にエレクトロポレーションした。トランスレプリコンRNAは、キャップなし(図4「キャップを伴わない」)、又はベータ-S-ARCA(D2)キャップ類似体(図4:「D2キャップ」)の共転写によるキャップありとした。ルシフェラーゼの発現は、時間経過にわたり評価した。結果を、図4(右パネル)に示す。
【0456】
実施例5: 5’複製認識配列内の開始コドンの除去を特徴とするトランスレプリコンからのキャップ依存性翻訳は、早期において、あらかじめのレプリカーゼの発現に依存せずに、トランス遺伝子の発現を可能とする
全ての開始コドンの除去を特徴とするが、サブゲノムプロモーターを含まないトランスレプリコン(図5:「Δ5ATG-RRSΔSGP」;実施例1のプラスミドC-2によりコードされる)を使用した。トランスレプリコンRNAは、キャップなし(図5「キャップを伴わない」)、又はベータ-S-ARCA(D2)キャップ類似体(図5:「D2キャップ」)の共転写によるキャップありとした。BHK21細胞に、(i)0.45μgの、それぞれのトランスレプリコンRNAをエレクトロポレーションし、表示の場合(図5における「レプリカーゼ」)、更に、(ii)2.5μgのレプリカーゼをコードするmRNA(実施例1のプラスミドDによりコードされる)もエレクトロポレーションした。ルシフェラーゼの発現は、時間経過に沿って評価した。結果を、図5(右パネル)に示す。
【0457】
実施例6: ATGを欠失させた複製認識配列により再構築されたシスレプリコンは、機能的である
SFVレプリカーゼのORFを、実施例1のプラスミドC-3の「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」を結果としてもたらし、サブゲノムプロモーター(SGP)の下流でホタルルシフェラーゼをコードする、「Δ5ATG-RRS」(図7A:「Δ5ATG-RRS」;実施例1のプラスミドC-1によりコードされる)へと挿入した。挿入されたレプリカーゼ内で、CSE2及びコアSGPに対応する領域を、ヌクレオチド交換により破壊して(網掛けボックス)、これらの調節領域の重複を回避した。これは、再構築されたシスレプリコンを結果としてもたらした。BHK21細胞に、2.5μgの「WT-RRSによるシスレプリコン」又は「Δ5ATG-RRSによるシスレプリコン」を一緒にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの24時間後に、ルシフェラーゼの発現を測定したが、これは、この再構築されたシスレプリコンが、機能的であることを裏付ける(図7B)。
【0458】
実施例7: バイシストロニックのトランスレプリコンは、いずれのトランス遺伝子も発現させる。
分泌型Nano-Luciferase(SNL)を、WT-RSSによるトランスレプリコン(実施例1のプラスミドB)のサブゲノムプロモーター(SGP)の下流にクローニングした。SGPの上流の位置は、翻訳にアクセス可能ではないので、トランス遺伝子をコードしない(図8A)。第2のコンストラクトでは、SNLを、ΔATG-RSS(実施例1のプラスミドC-1)の下流にクローニングし、ホタルルシフェラーゼ(Luc)を、SGPの下流に挿入した。BHK21細胞に、0.9μgのトランス複製型RNA、及び5μgのSFVレプリカーゼをコードするmRNAを一緒にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの48時間後、SNL及びLucの発現を測定した(図8B)。この実験は、トランス遺伝子が、「Δ5ATG-RRS:バイシストロニック」トランスレプリコン内のいずれの位置からも発現することの証拠をもたらす。
【0459】
実施例8: 複製認識配列内の開始コドンを欠くシンドビスウイルストランスレプリコンは、効率的に複製される
シンドビスウイルスゲノムに由来するトランスレプリコンを、実施例1において、SFVについて記載したコンストラクトと同様に、遺伝子合成により操作した。非修飾複製認識配列(WT-RSS)を伴うトランスレプリコンのほかに、2つの変異体を作出した。第1の変異体(ΔATG-RRS)は、元の開始コドン+4つの更なるATGの欠失と、RNAの二次構造を保存する、対応する補正的ヌクレオチド変化とを含有する。次の工程では、加えて、サブゲノムプロモーターに対応する領域も欠失させて、ΔATG-RRSΔSGPを得た。GFPを、Δ5ATG-RRSΔSGPベクター内の、ATGを欠失させた5’RRSのすぐ下流、又はΔ5ATG-RRSベクター内及びWT-RRSベクター内のサブゲノムプロモーター(SGP)の下流(図9A)のトランスレプリコンRNAへと挿入した。BHK21細胞に、0.1μgのトランス複製型RNAと、2.4μgのSFVレプリカーゼをコードするmRNAとを一緒にエレクトロポレーションし、24時間後におけるGFP発現(トランスフェクション率[%]及び平均値蛍光強度(MFI))を評価した(図9B)。この実験は、SFVによる操作レプリコンへと適用した配列修飾の同じ原理を、シンドビスウイルスによる操作レプリコンへも適用しうることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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