(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法、プログラムおよび記憶媒体
(51)【国際特許分類】
H04N 23/60 20230101AFI20240403BHJP
H04N 23/55 20230101ALI20240403BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20240403BHJP
H04N 25/00 20230101ALI20240403BHJP
【FI】
H04N23/60 500
H04N23/55
G02F1/15
H04N25/00
(21)【出願番号】P 2022138337
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2018152436の分割
【原出願日】2018-08-13
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 和也
【審査官】高野 美帆子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-333329(JP,A)
【文献】特開2018-084805(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199988(WO,A1)
【文献】特開2008-242230(JP,A)
【文献】特開平09-331474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 23/60
H04N 23/55
G02F 1/15
H04N 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミック素子を用いる、光の透過率を電気的に制御可能な光学部材を通過した光で形成される被写体像を撮影した画像信号を含んだ画像データファイルを取得するデータ取得手段と、
前記画像データファイルに記録された情報に基づいて、撮影時における前記エレクトロクロミック素子の透過率の分布特性を表す情報を取得する情報取得手段と、
前記分布特性を表す情報に基づいて、前記画像信号に補正処理を実行する補正手段と、
を有
し、
前記画像データファイルには、撮影時に前記エレクトロクロミック素子に流れた電流値が記録されており、
前記情報取得手段は、前記電流値に基づいて前記透過率の分布特性を表す情報を取得することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記情報取得手段は、前記電流値に応じた前記エレクトロクロミック素子の電圧分布に基づいて前記分布特性を表す情報を取得することを特徴とする請求項
1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記情報取得手段は、前記エレクトロクロミック素子に印加される電圧が高くなるにつれて、前記エレクトロクロミック素子の透過率が低くなるとして前記分布特性を表す情報を取得することを特徴とする請求項
2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記分布特性を表す情報において透過率が低い部分のゲインが、前記分布特性を表す情報において透過率が高い部分のゲインよりも高くなるように前記画像信号を補正することを特徴とする請求項1乃至
3の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記エレクトロクロミック素子が、溶液型のエレクトロクロミック層を備えることを特徴とする請求項1乃至
4の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
エレクトロクロミック素子を用いる、光の透過率を電気的に制御可能な光学部材を通過した光で形成される被写体像を撮影した画像信号を含んだ画像データファイルを取得するデータ取得ステップと、
前記画像データファイルに記録された情報に基づいて、撮影時における前記エレクトロクロミック素子の透過率の分布特性を表す情報を取得する情報取得ステップと、
前記分布特性を表す情報に基づいて、前記画像信号に補正処理を実行する補正ステップと、
を有
し、
前記画像データファイルには、撮影時に前記エレクトロクロミック素子に流れた電流値が記録されており、
前記情報取得ステップにおいて、前記電流値に基づいて前記透過率の分布特性を表す情報を取得することを特徴とする画像処理方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1乃至
5の何れか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項
7に記載のプログラムを記憶したコンピュータが読み出し可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理方法、プログラムおよび記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラなどの撮像装置では、希望する撮影条件を実現するために、光量を削減する光学部材であるND(Neutral Density)フィルタを用いることがある。NDフィルタは濃度によって光量の削減効果が異なり、撮影状況に応じて適切な濃度のNDフィルタを用いる必要がある。撮影中にNDフィルタの濃度を変更可能とするため、ターレット式や挿抜式のNDフィルタユニットが搭載された撮像装置がある。これらの撮像装置において撮影中にNDフィルタを交換する場合、NDフィルタの端部やNDフィルタを移動させるためのメカ機構などが撮像用のイメージセンサの前を横切り、画像が乱れる。
【0003】
濃度の異なるNDフィルタを交換することによる画像の乱れを抑制するため、透過率が可変のNDフィルタの開発が進められている。その1つに、エレクトロクロミック素子(EC素子)を用いたNDフィルタがある。特許文献1には、EC素子の透過率を変化させるための制御装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EC素子を用いたNDフィルタは、濃度変更時に画像が乱れることなくイメージセンサに入射する光量を変化させることができる。しかしながら、EC素子は、比較的大きな電流が流れるため、電圧降下によってEC素子の面内に電位分布が生じる。この電位分布によって、EC素子の面内に光学濃度(透過率)のむらが発生する。光学濃度むらが発生すると、撮像された画像に明るさのむらが発生し、画質が低下してしまう。電圧降下の対策として、EC素子のエレクトロクロミック層(EC層)に電力を供給する透明電極の膜厚を厚くし抵抗を下げることが考えられるが、イメージセンサに入射する光量を増やしたい条件において、厚い透明電極によって光の透過率が低下してしまう。
【0006】
本発明は、撮像装置において、EC素子を用いた光学部材の透過率の分布に起因する画質の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明の実施形態に係る画像処理装置は、エレクトロクロミック素子を用いる、光の透過率を電気的に制御可能な光学部材を通過した光で形成される被写体像を撮影した画像信号を含んだ画像データファイルを取得するデータ取得手段と、前記画像データファイルに記録された情報に基づいて、撮影時における前記エレクトロクロミック素子の透過率の分布特性を表す情報を取得する情報取得手段と、前記分布特性を表す情報に基づいて、前記画像信号に補正処理を実行する補正手段と、を有し、前記画像データファイルには、撮影時に前記エレクトロクロミック素子に流れた電流値が記録されており、前記情報取得手段は、前記電流値に基づいて前記透過率の分布特性を表す情報を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、撮像装置において、EC素子を用いた光学部材の透過率の分布に起因する画質の低下を抑制する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る撮像装置の構成例を示すブロック図。
【
図2】
図1の撮像装置のエレクトロクロミック素子の断面を示す模式図。
【
図3】
図1の撮像装置のエレクトロクロミック素子の透過率の分布特性を示す図。
【
図4】
図1の撮像装置における、透過率の分布特性を補正する構成を示すブロック図。
【
図5】
図1の撮像装置の分布特性データの全データのマップを示す図。
【
図6】
図1の撮像装置の分布特性データの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る撮像装置の具体的な実施形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下の説明および図面において、複数の図面に渡って共通の構成については共通の符号を付している。そのため、複数の図面を相互に参照して共通する構成を説明し、共通の符号を付した構成については適宜説明を省略する。
【0011】
図1~7を参照して、本発明の実施形態による撮像装置の構成および動作について説明する。
図1は、本発明の実施形態における撮像装置100の内部構成の構成例を示すブロック図である。
【0012】
撮像装置100は、撮像レンズ103、絞り101、光の透過率を電気的に制御可能な光学部材である透過率可変部104、撮像部105、A/D変換器106、バリア102を含む。撮像レンズ103は、ズームレンズ、フォーカスレンズ、シフトレンズなどを含むレンズ群であり、被写体像を撮像部に結像させる。撮像レンズ103は、撮像装置100から取り外し可能であってもよい。絞り101は、光を通過させる開口の大きさを調節することで光量を調整する。透過率可変部104は、光の透過率を調整することで光量を調整するNDフィルタとして機能する。本実施形態において、透過率可変部104は、エレクトロクロミック素子を用いることによって、光の透過率を電気的に制御可能である。撮像部105は、光学像を電気信号に変換する複数の画素を有するCCDやCMOSイメージセンサなどの撮像素子を備え、透過率可変部104を通過した光で形成される被写体像を撮像する。また、撮像部105には、撮像素子における電荷蓄積動作の制御や、アナログゲインの変更、読み出し速度の変更などの機能も備えうる。A/D変換器106は、撮像部105から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するために用いられる。バリア102は、撮像装置100の、撮像レンズ103を含む撮像系を覆うことによって、撮像レンズ103、絞り101、撮像部105を含む撮像系の汚れや破損を防止する。
【0013】
撮像装置100は、さらに画像処理部107、メモリ制御部108、メモリ112、システム制御部110、表示部111、D/A変換器109、ジャイロ119、不揮発性メモリ118を含む。システム制御部110は1つ以上のプログラマブルプロセッサ(CPU、MPUなど)を含み、例えば不揮発性メモリ118に記憶されたプログラムをメモリ112に読み込んで実行することにより、撮像装置100のさまざま機能を実現する。
【0014】
画像処理部107は、A/D変換器106から出力される画像信号などのデータや、メモリ制御部108から出力されるデータに対し所定の画像処理を行う。画像処理は、例えば、画素補間処理、縮小処理といったリサイズ処理や、色変換処理、ガンマ補正処理、デジタルゲインの付加処理などの処理を含む。また、画像処理部107は、撮像した画像信号を用いて所定の演算処理を行い、演算結果をシステム制御部110に送信する。画像処理部107から送信された演算結果に基づいて、システム制御部110は、露出制御、測距制御、ホワイトバランス制御などの制御を行う。これによって、TTL(スルー・ザ・レンズ)方式のAF(オートフォーカス)処理、AE(自動露出)処理、AWB(オートホワイトバランス)処理などが行われる。また、ジャイロ119で検出した手振れなどによる撮像装置100の動きや姿勢変化に対して、システム制御部110は、撮像レンズ103のシフトレンズを動作させてもよい。また、システム制御部110は、画像処理部107で画像の切り出し範囲をずらすことによって像振れ補正を行ってもよい。
【0015】
A/D変換器106から出力されるデータは、画像処理部107およびメモリ制御部108を介して、または、メモリ制御部108を介してメモリ112に書き込まれる。メモリ112は、撮像部105によって撮像されA/D変換器106によりデジタルデータに変換された画像信号(画像データ)などのデータや、表示部111に表示するための画像データを格納する。また、メモリ112はシステム制御部110が実行するプログラムやプログラムの実行に必要な情報を記憶するシステムメモリとしても用いられる。メモリ112は、静止画像や所定時間の動画像および音声を格納するのに十分な記憶容量を備えうる。
【0016】
また、メモリ112は画像表示用のメモリ(ビデオメモリ)を兼ねていてもよい。D/A変換器109は、メモリ112に格納されている画像表示用のデータをアナログ信号に変換して表示部111に供給する。これによって、メモリ112に書き込まれた画像表示用のデータは、D/A変換器109を介して表示部111に表示される。表示部111は、液晶や有機ELなどを用いたディスプレイに、D/A変換器109から送信されたアナログ信号に応じた表示を行う。A/D変換器106によって一旦、A/D変換されメモリ112に蓄積されたデジタル信号をD/A変換器109においてアナログ変換し、表示部111に逐次転送して表示することで電子ビューファインダが実現され、スルー画像表示を行うことができる。
【0017】
不揮発性メモリ118は、電気的に消去・記録可能なメモリであり、例えばEEPROMなどが用いられる。不揮発性メモリ118は、システム制御部110の動作用の定数、プログラムや、各種の設定値、GUIデータ、撮像装置100の固有情報などが記憶された記憶部である。ここでいう、プログラムとは、後述する各種フローチャートで説明する動作を実現するためにシステム制御部110が実行するプログラムを含む。
【0018】
撮像装置100は、操作部113、録画スイッチ114、モード切替スイッチ115、電源制御部116、電源部117、システムタイマ120、システムメモリ121、記憶媒体I/F部122をさらに含む。システムタイマ120は各種制御に用いる時間や、内蔵された時計の時間を計測する計時部である。操作部113、録画スイッチ114、モード切替スイッチ115は、ユーザが撮像装置100を操作する際に、システム制御部110に各種の動作指示を入力するための操作部材である。
【0019】
モード切替スイッチ115は、撮像装置100の動作モードを、動画記録モード、静止画記録モード、再生モードなどの何れかに切り替える。動画記録モードや静止画記録モードに含まれるモードとして、オート撮影モード、オートシーン判定モード、マニュアルモード、撮影シーン別の撮影設定となる各種シーンモード、プログラムAEモード、カスタムモードなどがある。ユーザがモード切替スイッチ115を操作することによって、例えば動画撮影モードに含まれるこれらのモードの何れかに直接切り替えることができる。また、モード切替スイッチ115で動画撮影モードに一旦切り替えた後に、動画撮影モードに含まれるこれらのモードの何れかに、ユーザが他の操作部材を用いてモードを切り替えるようにしてもよい。録画スイッチ114は、撮影待機状態と動画撮影状態を切り替える。例えば、撮影待機状態にある撮像装置100の録画スイッチ114をユーザが押下することによって、撮像装置100は記録用の動画撮影を開始する。システム制御部110は、録画スイッチ114が押下され撮影状態になると、撮像部105からの画像信号の読み出しから記憶媒体123への動画および音声データの書込みまで、一連の動画撮影処理を開始する。
【0020】
操作部113にはシャッタボタン、メニューボタン、十字キー、SETボタンなどの操作部材が配されうる。撮影待機状態にある撮像装置100のシャッタボタンをユーザが半押しすると、システム制御部110はAE処理やAF処理などの静止画の撮影準備処理を実行する。また、シャッタボタンが全押しされると、システム制御部110は撮像部105からの画像信号の読み出しから記憶媒体123への静止画データの書き込みまで、一連の静止画撮影処理を開始する。操作部113に含まれる操作部材には、状況に応じて異なる機能が割り当てられうる。操作部材は、例えば終了ボタン、戻るボタン、画像送りボタン、ジャンプボタン、絞り込みボタン、属性変更ボタンなどとして機能しうる。また、メニューボタンが押されると各種の設定可能なメニュー画面が表示部111に表示される。ユーザは、表示部111に表示されたメニュー画面と、上下左右4方向の十字キーやSETボタンなどの操作部材を用いて直感的に各種の設定を行うことができる。
【0021】
電源制御部116は、電池検出回路、DC-DCコンバータ、通電するブロックを切り替えるスイッチ回路などを含み構成され、電池の装着の有無、電池の種類、電池残量の検出を行う。また、電源制御部116は、その検出結果およびシステム制御部110の指示に基づいてDC-DCコンバータを制御し、必要な電圧を必要な期間、記憶媒体123を含む各部へ供給する。電源部117は、アルカリ電池やリチウム電池などの一次電池やNiCd電池やNiMH電池、Liイオン電池などの二次電池、外部電源から電力の供給を受けるためのACアダプタなどを含む。記憶媒体I/F部122は、メモリカードやハードディスクなどのデータを記録するための記憶媒体123とのインターフェースである。記憶媒体123は、撮影された画像などを記録するためのメモリカードなどの記憶媒体であり、例えば、半導体メモリや磁気ディスクなどを含む。
【0022】
本実施形態の撮像装置100は、動画や静止画を記憶媒体123に記録する際、撮影時におけるエレクトロクロミック素子(EC素子)200の電流値I(t)、温度T(t)、経過時間t(後述)を例えば画像データファイルのヘッダなどに記録される付随情報(メタデータ)として記録することができる。あるいは、撮影時のEC素子200の透過率の分布特性を表す分布特性データ(後述)をメタデータとして記録することができる。これらのメタデータは、例えば画像データファイルにEC素子200の透過率の分布の影響を補正しない画像データを記録する場合に、記録後の補正を可能にする。
【0023】
次に、撮像装置100に入射した光の透過率を変化させる光学部材として機能する透過率可変部104について説明する。
図2は、透過率可変部104に備わる、透過率可変部104を通過する光の透過率を変化させるためのエレクトロクロミック素子(EC素子)200の断面を示す模式図である。EC素子200は、一対の透明基板201、一対の透明電極202、一対の透明電極202の間に配されているエレクトロクロミック層(EC層)203を含む。一対の透明電極202の間隔は、枠状のシール材204の厚みによって規定される。一対の透明電極202と、シール材204とで画定された空間にエレクトロクロミック化合物(EC化合物)を含むEC層203が配される。EC層203は蒸着法などを用いて形成された固体層であっても、電解質溶液に溶解させた溶液層であってもよい。換言すると、EC素子200は、固体型のEC層203を備えていてもよいし、溶液型のEC層203を備えていてもよい。
【0024】
EC化合物は、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。EC化合物に、透明状態から酸化反応によって着色するアノード性化合物が用いられてもよいし、透明状態から還元反応により着色するカソード性化合物が用いられてもよい。また、EC化合物にアノード性化合物とカソード性化合物の双方が用いられてもよい。有機化合物をEC化合物として用いる場合、アノード性有機化合物とカソード性有機化合物とを共に用いると、EC層203を流れる電流に対する着色効率がよくなりうる。
【0025】
本明細書において、アノード性化合物とカソード性化合物との双方を用いたEC素子200を相補型EC素子と呼び、アノード性化合物とカソード性化合物との何れか一方を用いたEC素子200を単極型EC素子と呼ぶ。単極型EC素子のうち、アノード性EC化合物はアノード材料、カソード性化合物はカソード材料とも呼ばれる。
【0026】
相補型EC素子を駆動させた場合、一方の電極では酸化反応によりEC化合物から電子が引き抜かれ、他方の電極では還元によりEC化合物が電子を受け取る。酸化反応によって、中性分子からラジカルカチオンが生成されてもよい。また還元反応によって、中性分子からラジカルアニオンが生成されてもよいし、ジカチオン分子からラジカルカチオンが生成されてもよい。一対の電極双方においてEC化合物が着色するため、着色時に大きな光学濃度(低い透過率)を必要とする場合、EC素子200として相補型EC素子が用いられてもよい。
【0027】
一方、単極型EC素子は、相補型EC素子と比較して消費電力を抑えることができる。これは、相補型EC素子では着色したアノード性EC化合物と着色したカソード性EC化合物が電子をやり取りすることによる自己消去現象を抑制するために大きな電流が必要であるためである。このため、撮像装置100において低消費電力化が必要な場合、EC素子200として単極型EC素子が用いられてもよい。
【0028】
EC化合物が無機化合物である場合、EC素子200は、EC層203と2つの透明電極202の内の少なくとも一方との間に電解質層を有していてもよい。一方、EC化合物が有機化合物である場合、EC素子200が、EC化合物が無機化合物であった場合と同様に電解質層を有していてもよいし、EC層203が、有機化合物とともに電解質溶液を含んでいてもよい。
【0029】
EC化合物が有機化合物の場合、ポリチオフェンやポリアニリン等の導電性高分子、ビオロゲン系化合物、アントラキノン系化合物、オリゴチオフェン誘導体、フェナジン誘導体等の有機低分子化合物などが用いられうる。EC化合物が無機化合物の場合、NiOxやWO3などの金属酸化物材料が用いられうる。
【0030】
EC層203は、上述のように、電解質を含む電解質層とEC化合物を含むEC層203との積層構造であってもよい。また、EC層203は、1種類のみのEC化合物によって構成されていてもよいし、複数の種類のEC化合物によって構成されていてもよい。EC層203が複数の種類のEC化合物を含有する場合、それぞれのEC化合物の間での酸化還元電位の差が小さい方が適している。EC層203が複数の種類のEC化合物を有する場合、例えば、EC層203は、アノード性化合物とカソード性化合物とをあわせて4種類以上のEC化合物を含んでいてもよい。さらに、EC素子200に含まれるEC層203は、5種類以上のEC化合物を含んでいてもよい。
【0031】
EC層203が複数の種類のEC化合物を有する場合、複数のアノード材料の酸化還元電位は60mV以内であってもよく、複数のカソード材料の酸化還元電位は60mV以内であってもよい。また、EC層203が複数の種類のEC化合物を有する場合、複数の種類のEC化合物は、波長400nm以上かつ500nm以下に吸収ピークを有する化合物と、波長500nm以上かつ650nm以下に吸収ピークを有する化合物と、波長650nm以上に吸収ピークを有する化合物と、を含んでいてもよい。吸収ピークは、半値幅が20nm以上のものを指す。また、光を吸収する場合の材料の状態は、酸化状態であってもよいし、還元状態であってもよいし、中性状態であってもよい。
【0032】
次いで、EC素子200を構成するそれぞれの部材について説明する。EC素子200に電解質を用いる場合、イオン解離性の塩であり、かつ溶媒に対して良好な溶解性、固体電解質においては高い相溶性を示す任意の電解質を用いることができるが、電子供与性を有する電解質が適している。これら電解質は、支持電解質と呼ぶこともできる。電解質として、例えば、各種のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩、環状4級アンモニウム塩などが用いられうる。具体的には、LiClO4、LiSCN、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiPF6、LiI、NaI、NaSCN、NaClO4、NaBF4、NaAsF6、KSCN、KClなどのLi、Na、Kのアルカリ金属塩などや、(CH3)4NBF4、(C2H5)4NBF4、(n-C4H9)4NBF4、(n-C4H9)4NPF4、(C2H5)4NBr、(C2H5)4NClO4、(n-C4H9)4NClO4などの4級アンモニウム塩および環状4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0033】
EC化合物および電解質を溶かす溶媒としては、EC化合物や電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、特に極性を有するものが適している。具体的には、水や、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、プロピオンニトリル、3-メトキシプロピオンニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジオキソランなどの有機極性溶媒が挙げられる。
【0034】
EC層203は、さらに、ポリママトリックスやゲル化剤を含んでいてもよい。EC層203がポリママトリックスやゲル化剤を含む場合、EC層203は、粘稠性が高い液体となり、場合によってはゲル状となりうる。ポリママトリックスやゲル化剤として、例えば、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、プルラン系ポリマ、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ナフィオン(登録商標)などが挙げられる。また、ポリママトリックスやゲル化剤として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が用いられてもよい。
【0035】
次に、透明基板201および透明電極202について説明する。透明基板201として、例えば、無色あるいは有色ガラス、強化ガラスなどが用いられうる。これらガラス材として、Corning社製#7059やBK-7ガラスなどの光学ガラス基板を使用することができる。また、プラスチックやセラミックなどの材料であっても十分な透明性があれば、透明基板201として適宜使用が可能である。
【0036】
透明基板201は、剛性で歪みを生じることが少ない材料が適している。なお、本明細書において透明とは、可視光の透過率が50%以上であることを示す。プラスチックやセラミックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリノルボルネン、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、PMMAなどが挙げられる。
【0037】
透明電極202として、例えば、酸化インジウムスズ合金(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化銀、酸化バナジウム、酸化モリブデン、金、銀、白金、銅、インジウム、クロム等の金属や金属酸化物、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系材料、カーボンブラック、グラファイト、グラッシーカーボン等の炭素材料などが挙げられる。また、透明電極202として、ドーピング処理などで導電率を向上させた導電性ポリマ、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との錯体なども用いられうる。
【0038】
本実施形態において、EC素子200は、消色状態で高い透過率を有するとよい。このため、透明電極202は、例えば、ITO、IZO、NESA、PEDOT:PSS、グラフェンなどの透明材料が適している。これらの透明材料は、バルク状、微粒子状など様々な形態で使用できる。透明電極202は、これらの材料を単独で使用してもよいし、複数の材料を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
シール材204として、化学的に安定で、気体および液体を透過せず、EC化合物の酸化還元反応を阻害しない材料であるとよい。シール材204として、例えば、ガラスフリットなどの無機材料や、エポキシ樹脂などの有機材料、また、金属材料などが挙げられる。
【0040】
また、EC層203が溶液型の場合、EC素子200は、EC層203内にスペーサを有していてもよい。スペーサは電極間の距離を規定する機能を有する。スペーサは、シリカビーズ、ガラスファイバーなどの無機材料や、ポリジビニルベンゼン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム、エポキシ樹脂などの有機材料で構成されていてもよい。また、スペーサの機能は、上述のように、シール材204が有していてもよい。
【0041】
EC素子200のEC層203が溶液型の場合、一対の透明電極202の間に設けられた間隙に、予め調製したEC化合物を含有する液体を真空注入法、大気注入法、メニスカス法などを用いて注入することによって、EC素子200が形成されうる。
【0042】
このように透過率可変部104にEC素子200を用いた撮像装置100において、撮像装置100に入射する被写体が明るい場合、EC素子200の濃度を濃くし、光の透過率を低く制御することによって撮像部105に入射する光量を減じることができる。さらに、EC素子200を移動させずに光の透過率を変更できるため、透過率が固定のNDフィルタを移動させて光の透過率を変更する場合と異なり、フィルタの移動機構などが撮像部105の前を横切ることによる画像の乱れを防止することができる。一方で、EC素子200は透過率を変化させる際に比較的大きな電流を流す必要があるため、電圧降下によって光を透過させる方向と交差するEC素子200の面内において電位分布が生じる。これによって、EC素子200の面内に光学濃度むら(濃度分布)が発生する。固体型のEC層203を備えるEC素子200よりも溶液型のEC層203を備えるEC素子200の方が流れる電流が多いため、溶液型のEC層203を備えるEC素子200の方が電位分布はより顕著となり、濃度むらもより顕著となる。このため、撮像装置100によって撮像された画像にも明るさのむらが発生し、画質が劣化してしまう。
【0043】
EC素子200に発生する濃度分布の例を
図3に示す。
図3は、X=9mm、Y=16mmの溶液型のEC層203を備えるEC素子200に電力を供給し、0.7Vの電圧を10秒間印加することによって駆動させたときの濃度分布を示している。中央部の光学濃度が1.45(透過率3.2%)に対し、周辺部は光学濃度が1.7(透過率1.8%)となっている。この濃度の差による光量の違いは、露出段数に換算すると約0.8段に相当し、空などの均一面を撮像した場合には、周辺部の減光として認識されうる。この中央部と周辺部との光量の違いを補正するために、撮像部105で取得した画像信号を補正する必要がある。この補正を行うには、EC素子200に生じる濃度分布(光の透過率の分布特性)を知る必要がある。
【0044】
EC素子200に生じる濃度分布(透過率の分布特性)を取得する方法について説明する。本実施形態において、撮像装置100は、詳細は後述するがEC素子200を流れる電流値を取得するための電流取得手段として機能する電流計測部と、EC素子200の温度を取得するための温度取得手段として機能する温度計測部と、を含む。EC素子200の透明電極202の面内の位置(x,y)における一対の透明電極202間の抵抗値は温度に依らず略一定と見なせる。このため、EC素子200を流れる電流値IとEC素子200の透明電極202間のEC層203の抵抗値Rとから、一対の透明電極202の対向する位置(x,y)の電位E1(x,y)と電位E2(x,y)との電位差ΔE(x,y)を、
ΔE(x,y)=E1(x,y)-E2(x,y)=I(x,y)・R(x,y)・・・(1)
として求めることができる。この電位差ΔE(x,y)は、位置(x,y)におけるEC素子200の濃度(光の透過率)に相当する。したがって、電流値Iに対して透明電極202の複数の位置(x,y)における電位差ΔE(x,y)(EC素子200の電圧分布)を求めることによって、EC素子200の透過率の分布特性(濃度分布)ΔODを得ることができる。そして、電流値Iに対するEC素子200の適切な濃度に対応する電位差ΔEref(x,y)を1としたときの個々の電位差ΔE(x,y)の割合(ΔE(x,y)/ΔEref(x,y))または差(ΔE(x,y)-ΔEref(x,y))を、透過率の分布特性データとして保存することができる。あるいは、ΔEref(x,y)に対応する透過率を1としたときのΔE(x,y)の透過率を分布特性データとして保存してもよい。
【0045】
ここで、透明電極202間の面内の所定の位置(x,y)における電位差ΔE(x,y)の求め方について、より詳しく説明する。電流計測部は、後述する素子制御部からEC素子200に供給される電流値Iを測定する。電流計測部は、例えば、素子制御部とEC素子200との間の電力供給ラインを流れる電流を測定する。電力供給ラインが1つの場合、電流値Iは1つの値でありうる。また、複数の電力供給ラインがある場合、電流値Iは1つの値であっても複数の値であってもよい。この電流値Iと予め取得したEC素子200の一対の透明電極202の面内の抵抗値の分布情報とから、透明電極202間の面内の所定の位置(x,y)における電流値I(x,y)を求めることができる。
【0046】
ここで、透明電極202の面内の抵抗値の分布情報とは、例えば、電流計測部によって電流値Iが測定されるポイントから透明電極202のそれぞれの位置(x,y)までの電流が流れる経路上の抵抗値でありうる。例えば、位置(x1,y1)と位置(x1,y1)よりも電流値Iを測定するポイントから遠い位置(x2,y2)とにおいて、電流値Iを測定するポイントから位置(x1,y1)までの方が、位置(x2,y2)までよりも電流経路上の抵抗値が小さくなりうる。この場合、電流値I(x,y)は、I(x1,y1)>I(x2,y2)となりうる。また、透明電極202間のEC層203の抵抗値R(x,y)は、EC層203に含まれるEC化合物の種類やEC層203の厚みなど、EC層203の構造から決定することができる。EC層203の抵抗値R(x,y)は、EC層203の構成や厚さが面内で略均一である場合、位置によらず一定でありうる。この所定の位置(x,y)における電流値I(x,y)と抵抗値R(x,y)とから、一対の透明電極202の対向する所定の位置(x,y)の電位E1(x,y)と電位E2(x,y)との電位差ΔE(x,y)を求めることができる。EC素子200の透明電極202の面内の抵抗値の分布情報は、例えば、EC素子200の製造時に測定して取得してもよいし、EC素子200の設計値から取得してもよい。また、EC層203の抵抗値Rも、EC素子200の製造時に測定して取得してもよいし、EC素子200の設計値から取得してもよい。
【0047】
また、EC素子200に電力の供給を開始してからEC層203の透過率が安定するまである程度の時間が必要である。このため、EC素子200の透過率を変更するためにEC素子200に供給される電力値が変化を開始してからの経過時間tを考慮し、電流計測部で取得した電流値I(t)から面内の位置(x,y)における一対の透明電極202間の電位差ΔE(t;x,y)を、
ΔE(t;x,y)=E1(t;x,y)-E2(t;x,y)
=I(t;x,y)・R(t;x,y)・・・(2)
として求めることができる。この電位差ΔE(t;x,y)から、EC素子200の透過率の分布特性ΔOD(t)を、より正確に取得することができる。つまり、EC素子200を流れる電流値Iに加え、EC素子200の透過率を変化させるためにEC素子200に供給される電力の電力値が変化してからの経過時間tを考慮することによって、透過率の分布特性ΔODをより正確に取得することができる。
【0048】
さらに、EC素子200のEC層203において、EC材料の透過率を変化させる拡散係数は、温度によって変化しうる。そこで、温度計測部で取得した温度Tにおける透過率の分布特性ΔOD(t,T)は、電極反応による着色分の透過率の分布特性ΔODc(t,T)と自己消去反応による消色分の透過率の分布特性ΔODb(t,T)の差として、
ΔOD(t,T)=ΔODc(t,T)-ΔODb(t,T)・・・(3)
として求めることができる。つまり、EC素子200を流れる電流値IとEC素子200に供給される電力値が変化してからの経過時間tとに加え、温度計測部によって測定された温度Tをさらに考慮することによって、さらに精度よく透過率の分布特性ΔODを取得することができる。
【0049】
ここで、第2項の自己消去反応による消色分は透明電極202間ギャップにも依存する量であり、着色分子が透明電極202間の略中央まで拡散して初めて発生するため、経過時間t~0では第1項のみによって決まることに注意する必要がある。このように、温度Tによって変化するEC材料の拡散係数を考慮することによって、より正確にEC素子200の透過率の分布特性ΔOD(t,T)を取得することが可能となる。
【0050】
このように、EC素子200のEC層203の面内のそれぞれの位置における光学濃度は、少なくとも電流値Iによって求めることができる。また、EC素子200のEC層203の面内のそれぞれの位置における光学濃度は、温度Tおよび経過時間tの1つ以上をさらに考慮することによって、さらに正確に求めることができる。画像処理部107は、取得した透過率の分布特性ΔODに応じて、撮像部105で取得した画像信号を補正する。透過率の分布特性は、上述の(1)~(3)式を用いて取得してもよい。また、予め不揮発性メモリ118などの記憶部に、EC素子200に流れるそれぞれが異なる電流値Iに関連づけられたEC素子200の透過率の複数の分布特性データを記憶させ、これを参照することによって補正が行なわれてもよい。さらに、予め不揮発性メモリ118などの記憶部に、それぞれが電流値I、経過時間t、温度Tの異なる組み合わせに関連づけられたEC素子200の透過率の複数の分布特性データを記憶させる。これを参照することによって、より正確な補正が行なわれてもよい。
【0051】
EC素子200の透過率の分布による明るさのむらを上述のように補正することによって、EC素子200のEC層203に電力を供給する透明電極202を厚くして抵抗を下げることで透過率の分布(濃度むら)を抑制する必要が低減する。これによって、撮像部105に入射する光量を増やしたい条件であっても、透明電極202を厚くすることによって光の透過率が低下してしまうことを抑制できる。入射する光を有効に利用することによって、撮像装置100で取得する画像の画質の低下を抑制できる。
【0052】
次に、透過率可変部104で発生する透過率の分布を画像処理部107で補正する方法について、
図1の一部を詳細に示した
図4と
図1のブロック図とを用いてより詳細に説明する。撮像レンズ103は、レンズ401とレンズ制御部402とを含む。レンズ401は、被写体を撮影するためのレンズや、ズーム、フォーカスなどを行うためのメカ機構を含む。レンズ制御部402は、レンズ401のメカ機構を動かすためのモーターなどの電気関連部である。絞り101は、絞り410と絞り制御部411とを含む。絞り410は、撮像レンズ103を通過した光の量を制御する絞りのメカ機構である。絞り制御部411は、絞り410のメカ機構を動作させるためのモーターなどの電気関連部である。
【0053】
透過率可変部104は、EC素子200と、上述の素子制御部403、温度計測部404および電流計測部405と、を含む。EC素子200は、透過率可変部104を通過する光の透過率を変化させる。素子制御部403は、EC素子200に供給する電力を制御することによって、EC素子200の透過率を制御する。温度計測部404は、EC素子200の温度Tを測定する。温度Tは、例えば、温度計測部404として熱電対などをEC素子200の近傍に配することによって測定することが可能である。電流計測部405は、素子制御部403から供給される電力によってEC素子200を流れる電流の電流値Iを測定する。上述のように、電流計測部405が、素子制御部403からEC素子200に電力を供給する電力供給ラインに流れる電流を測定することによって、電流値Iを取得してもよい。
【0054】
画像処理部107は、分布補正部406と現像部407とを含む。分布補正部406は、
図3に示すようなEC素子200に発生する透過率の分布特性に応じて、撮像部105で取得した画像信号を補正する。また、現像部407は、分布補正部406によって補正された画像を記録用にガンマ補正や色処理を施しうる。
【0055】
システム制御部110は、分布取得部409と撮像する際の明るさを制御するための露出制御部408とを含む。分布取得部409は、電流計測部405によって測定された素子制御部403から供給される電力によってEC素子200を流れる電流の電流値Iを電流計測部405から取得する。分布取得部409は、電流値Iに基づいて、EC素子200の透過率の分布特性を取得する。また、分布取得部409は、上述のように電流値Iに追加して、EC素子200に供給される電力が変化してからの経過時間tや温度計測部404から取得したEC素子200の温度Tに基づいて、EC素子200の透過率の分布特性を取得してもよい。
【0056】
ここでは、モード切替スイッチ115によって、撮像装置100が、動画記録モードかつマニュアル露出モードになっているとして説明する。また、EC素子200の透過率の分布は、上述の電流値I、経過時間t、温度Tに基づいて取得するとして説明する。ここで、マニュアル露出モードとは、絞り101の絞り値、透過率可変部104の透過率、撮像部105のゲインと電子シャッタスピード(露光時間)との全てを、ユーザが操作部113から設定して露出を決定するモードである。ユーザの操作部113の操作によって、透過率可変部104が入射した光を1/2にする設定にされたとする。これを受けて、システム制御部110の露出制御部408が、透過率可変部104のEC素子200の透過率を変更するために、素子制御部403へ制御命令を出す。これに従って、素子制御部403は、EC素子200の透過率を変化させる。ここでは一例としてユーザがマニュアルで露出条件を設定する例を示したが、これに限られることはない。現像部407で現像された結果を利用して、露出制御部408で露出を制御する自動露出(AE)モードが設定されている場合であっても、露出制御部408が決定した露出条件を用いてEC素子200の透過率を変更することができる。
【0057】
ここで、先に述べたように、EC素子200は、透過率が変化するともに面内での透過率の分布特性も変化し、分布特性は変化開始からの経過時間tと、その時点での電流値Iとから決定される。さらに、温度Tによっても透過率の分布特性が変化する。経過時間tは、例えば、素子制御部403が、EC素子の透過率をユーザなどによって設定された所定の透過率にするために、EC素子200に供給する電力が変化してからの時間を計測してもよい。また、上述したとおり、電流値Iは電流計測部405が計測し、温度Tは温度計測部404が計測する。この経過時間tと電流値Iと温度Tとが分布取得部409に送信され、分布取得部は、(2)、(3)式を用いて、取得した電流値Iと経過時間tと温度Tとに基づいて透過率の分布特性を算出する。例えば、分布取得部409は、EC素子200に印加される電圧が高くなるにつれて、EC素子200の透過率が低くなるものとして透過率の分布特性を取得する。この分布特性を分布取得部409は、画像処理部107の分布補正部406へ送信する。画像処理部107の分布補正部406は、透過率の分布特性に応じて撮像部105の撮像素子で取得した画像信号を補正する。例えば、分布補正部406が透過率の分布特性の逆特性を画像信号に対して適用することによって、EC素子200で発生した透過率の分布特性(むら)を打ち消す(相殺する)ことができる。つまり、画像処理部107の分布補正部406は、分布特性において透過率が低い部分のゲインが、分布特性において透過率が高い部分のゲインよりも高くなるように画像信号を補正してもよい。ここで、(2)、(3)式を用いて透過率の分布特性を算出する場合、演算能力が高いCPUが必要となる。このため、上述のように、不揮発性メモリ118などの記憶部に電流値I、経過時間tおよび温度Tに応じて、予め取得した透過率の計算結果や実測したデータを透過率の分布特性データとして登録しておく方法を利用してもよい。以下に、複数の分布特性データの中から、撮像部105の撮像素子において取得した画像信号を補正するために用いる分布特性データを選択する方法を示す。
【0058】
まず、不揮発性メモリ118に、電流値I、経過時間t、温度Tをそれぞれ複数の代表ポイントに分割し、3つのパラメータの組み合わせにそれぞれ関連づけられた複数の分布特性データを登録しておく。分布特性データは、出荷時に不揮発性メモリ118に記憶されていてもよいし、出荷後にメンテナンスモードなどを用いてユーザの操作によって記憶されてもよい。ここでは、それぞれのパラメータが、電流値I0~I4、経過時間t0~t4、温度T0~T4に5分割されているとする。不揮発性メモリ118に記憶された分布特性データのマップを
図5に示す。例えば、左上の(t0,I0)の四角は、温度T0かつ経過時間t0かつ電流値I0のときの分布特性データである。この、ある温度Tのときの経過時間tと電流値Iとの組み合わせのマップが、温度T0から温度T4まで5種類存在し、組み合わせとしては5×5×5=125種類の分布特性データを持つこととなる。
図5に示す複数の分布特性データのうち1つの分布特性データの例を
図6に示す。四角の縦と横は撮像部105から読み出された画像信号の縦と横に対応しており、中央の透過率(適正な透過率)を基準値1として、他の各部分については、適正な透過率に対する比率を記憶させておく。
図6に示される分布特性データにおいて、周辺に向かうに従って数値が低くなっている。これは、透過率の分布特性として中央が一番明るく、周辺が暗いことを示している。
【0059】
分布取得部409は、分布特性を取得する際、透過率可変部104から取得した電流値I、経過時間t、温度Tに対して、それぞれのパラメータの値が最も近い分布特性データをEC素子200の透過率の分布特性として取得してもよい。また、分布取得部409は、それぞれのパラメータに対して線形補間などを実施し、記憶された分布特性データから新たな分布特性を生成してもよい。
【0060】
分布取得部409が取得したEC素子200の透過率の分布特性は、画像処理部107の分布補正部406に送られる。画像処理部107は、撮像部105で取得した画像信号に対して、
図6に示す倍率のデジタルゲインを適用し画像信号を補正する。例えば、左上隅の分布特性データの値は0.83であるため、撮像部105の撮像によって取得した画像信号が、本来(1.0)の明るさに対して0.83の明るさで撮像されてしまっている。そこで、画像処理部107の分布補正部406は、左上隅で取得された画像信号に1/0.83倍のデジタルゲインを適用し、明るく補正する。これによって、本来の明るさとすることができる。このような、明るさを補正するためのデジタルゲインの適用処理を、画像処理部107の分布補正部406は、撮像部105に含まれる複数の画素によって得られた画面全体の画像信号に対して実施する。ここで、ブロック内の全画素について同一のデジタルゲインを適用すると、ブロックの境界での明るさの変化が目立つ可能性がある。このため、画像処理部107の分布補正部406は、分布特性に応じて撮像部105の撮像素子の複数の画素から出力された画像信号を画素単位で補正してもよい。例えば、ブロックとブロックとの境界において、適用されるデジタルゲインの値が、画素ごとに連続的にまたは段階的に変化するように設定されてもよい。
【0061】
次いで、
図7のフロー図を用いて、透過率可変部104のEC素子200の透過率の分布特性に起因する明るさのむらを補正する補正処理について説明する。この処理は、撮影された任意の画像に対して実行することができる。補正対象の画像は、記録用の画像であっても、表示用の画像であってもよい。また、動画であっても静止画であってもよい。なお、EC素子200の透過率を制御しない場合には補正処理は行わなくてもよい。また、補正処理は、リアルタイムに実行してもよいし、撮影時におけるEC素子200の電流値I(t)、温度T(t)、経過時間tを例えばメタデータとして有する記録済みの画像データに対して実行してもよい。
【0062】
まず、S701において、システム制御部110の分布取得部409は、透過率可変部104の電流計測部405および温度計測部404から、EC素子200の電流値I(t)および温度T(t)を取得する。経過時間tは、このS701において処理開始直後のため0である。システム制御部110は、電流値I(t)および温度T(t)を取得した後、処理をS702に進める。
【0063】
S702において、分布取得部409は、ある経過時間tにおける電流値I(t)に基づいて、分布特性ΔOD(t)を取得する。これは、
図5を用いて説明すると、経過時間tがt1、電流値IがI1の場合、分布取得部409は、温度T0の(t1,I1)、温度T1の(t1,I1)、温度T2の(t1,I1)、温度T3の(t1,I1)、温度T4の(t1,I1)の合計5つの分布特性データを取得することになる。これらの分布特性データを取得した後、システム制御部110は、処理をS703に遷移させる。
【0064】
S703において、分布取得部409は、S702で取得した分布特性データに対して、さらに温度T(t)の条件を付け加えた分布特性データ(分布特性ΔOD(t,T))を取得する。これは、
図5を用いてS702の続きとして説明すると、温度T(t)が温度T0である場合、分布取得部409は、温度T0の(t1、I1)の分布特性データを経過時間tにおける分布特性として取得することとなる。温度T0の(t1、I1)の分布特性データを取得した後、システム制御部110は、処理をS704に進める。
【0065】
S704において、画像処理部107の分布補正部406は、分布取得部409がS703で取得した分布特性に応じて、撮像部105で取得された画像信号を補正する。このとき補正される画像信号は、経過時間tにおいて撮像部105で取得された画像信号でありうる。画像を補正した後、システム制御部110は、処理をS705に進める。
【0066】
S705において、システム制御部110の分布取得部409は、経過時間t+Δtにおいて、透過率可変部104の電流計測部405および温度計測部404から、電流値I(t+Δt)と温度T(t+Δt)とを取得する。
図7に示される構成において、システム制御部110は、S704で画像を補正した後、処理をS705に遷移させるが、S704の処理とS705の処理とが、並行して行われてもよい。システム制御部110は、電流値I(t+Δt)および温度T(t+Δt)を取得した後、処理をS706へ進める。
【0067】
S706において、電流値I(t)と電流値I(t+Δt)との間の変化、および、温度T(t)と温度T(t+Δt)との間の変化が、それぞれ所定の閾値δIおよび閾値δTよりも小さくなったか否かを判定する。この判定は、例えば、システム制御部110によって行われてもよいし、システム制御部110と独立して配された判定を行うための判定部によって行われてもよい。ここでは、システム制御部110が、この電流値Iおよび温度Tの変化に関する判定を行うとして説明する。電流値Iおよび温度Tの変化が所定の閾値δIおよび閾値δTより小さい場合、システム制御部110は、EC素子200の透過率の濃度変化の反応が終了したと判定し、処理をS707に進める。システム制御部110は、S707において経過時間tを0にリセットしてS704に処理を戻す。その後、S705を経て、S706での電流値Iや温度Tの変化の有無の判定を繰り返す。一方、S706において、電流値Iおよび温度Tの変化が、所定の閾値δIおよび閾値δTを超えた場合、システム制御部110は、EC素子200の透過率の濃度変化の反応が継続していると判定し、処理をS708に遷移させる。システム制御部110は、S708において経過時間tを経過時間t+Δtに更新し、処理はS702に戻り、システム制御部110は、再度、分布特性を取得する。
【0068】
このように、EC素子200の透明電極202やEC層203の電気的特性とEC素子200に流れる電流に基づいて、EC素子の透過率の分布特性が取得され、その分布特性に応じて画像信号が補正される。これによって、透過率可変部104として用いられるEC素子200の電気的特性に起因する濃度むらによる影響を抑制し、EC素子200を用いた透過率可変部104に起因する画質の劣化が抑制される。また、撮像部105による撮像が、動画像の撮像のような連続した撮像であっても、透過率可変部104の透過率を変化させることによる画像の乱れを抑制しつつ、撮像部105による撮像が行われている間にEC素子200の透過率を変化させることが可能である。
【0069】
本実施形態においては、透過率可変部104が撮像装置100に設けられる構成について説明した。しかしながら、システム制御部110から透過率が制御可能であり、かつ少なくともEC素子200を流れる電流値Iをシステム制御部110が取得可能であれば、透過率可変部104は撮像装置100に設けられなくてもよい。つまり、透過率可変部104が、撮像装置に着脱可能な外部ユニットに設けられていてもよい。
【0070】
例えば、レンズ交換式の撮像装置100’において、撮像レンズ103(交換レンズ)と、撮像部105を含む撮像装置100’と、の間に取り付けられるアダプタとして、ユーザが透過率可変部104を含む外部ユニットを撮像装置100’に取り付けてもよい。この場合、撮像装置100’の交換レンズを取り付けるためのレンズマウントなどを介して、透過率可変部104が取り付けられてもよい。このレンズマウントを介して、撮像装置100’のシステム制御部110に含まれる露出制御部408は、透過率可変部104の素子制御部403に対してEC素子200の透過率を制御するための信号を送信する。この撮像装置100’の露出制御部408から受信した透過率を制御するための信号に従って、素子制御部403は、EC素子200の透過率を所望の透過率に変化させる。また、このレンズマウントを介して、透過率可変部104は、EC素子200の電流値Iや経過時間t、温度Tなどの情報を撮像装置100’の分布取得部409に送信する。これによって、透過率可変部104が撮像装置100’に着脱可能な外部ユニットとして、撮像装置100’とは独立して配される場合であっても、上述の撮像装置100内に透過率可変部104を配した場合と同様の効果を得ることができる。
【0071】
このとき、経過時間tは、システム制御部110が計時してもよく、例えば、システム制御部110が露出制御部408から透過率可変部104の素子制御部403に透過率を変化させるための信号を出力したときを経過時間t=0として計時してもよい。また、例えば、レンズ交換式の撮像装置100’において、撮像装置100’に着脱可能な外部ユニットである撮像レンズ103(交換レンズ)に、透過率可変部104の機能が搭載されていてもよい。この場合であっても、上述の撮像装置と撮像レンズとの間のアダプタとして透過率可変部104を含む外部ユニットを接続した場合と同様に、透過率可変部104を動作させることが可能であり、上述の撮像装置100と同様の効果が得られる。
【0072】
また、本実施形態において、撮像装置100の内部で撮像部105によって取得された画像信号を、分布取得部409によって取得した分布特性に従って補正することを説明したが、これに限られることはない。撮像部105によって取得された画像信号を、撮像装置100の外部において補正処理してもよい。例えば、撮像部105で撮像された画像信号を含む画像データファイルをメモリ112に記録する。このとき、画像データファイルには、撮影時にEC素子200に流れた電流値I、撮影時のEC素子200の温度T、および撮影時のEC素子に供給される電力が変化してからの経過時間tのデータが含まれていてもよい。画像信号のデータや電流値I、温度T、経過時間tのデータは、撮像装置100の内部には記憶されず、記憶媒体123に直接、記録されてもよい。この画像信号およびEC素子200のそれぞれのパラメータのデータを、記憶媒体123や有線通信、無線通信などを介して画像処理装置として機能するコンピュータ(例えば、パソコン)のデータ取得手段として機能するハードディスクなどの記憶部に取り込む。ユーザは、このデータを用いてコンピュータ上で、撮像装置100によって撮像された画像の補正をしてもよい。より具体的には、まず、画像データファイルに記録された上述の各種の情報に基づいて、コンピュータを情報取得手段として機能させ、撮影時におけるEC素子200の透過率の分布特性を表す情報を取得する。画像データファイルには、画像信号とともに少なくとも電流値Iのデータが記録されており、上述の(1)~(3)式を用いて透過率の分布特性を表す情報が取得されてもよい。また、画像データファイルには、撮影時におけるEC素子200の透過率の分布特性を表す分布特性データの情報が記録されており、画像データファイルからEC素子200の透過率の分布特性を表す情報が取得されてもよい。次いで、コンピュータを補正手段として機能させ、分布特性を表す情報に基づいて、画像信号に補正処理を実行する。これによっても、上述と同様の効果を得ることができる。
【0073】
以上、本発明に係る実施形態を示したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態は適宜変更、組み合わせが可能である。例えば、本実施形態で説明に用いた分布特性データやその補間方法などは一例であり、特に限定されるものではない。
【0074】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワークまたは各種の記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサ(例えば、CPUやMPU。)がプログラムを読み出して実行する処理である。また、1つ以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC。)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0075】
100:撮像装置、104:透過率可変部、105:撮像部、107:画像処理部、200:エレクトロクロミック素子、409:分布取得部