IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャープ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-金属空気電池装置 図1
  • 特許-金属空気電池装置 図2
  • 特許-金属空気電池装置 図3
  • 特許-金属空気電池装置 図4
  • 特許-金属空気電池装置 図5
  • 特許-金属空気電池装置 図6
  • 特許-金属空気電池装置 図7
  • 特許-金属空気電池装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】金属空気電池装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20240403BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20240403BHJP
   H01M 50/211 20210101ALI20240403BHJP
   H01M 50/253 20210101ALI20240403BHJP
   H01M 50/291 20210101ALI20240403BHJP
【FI】
H01M12/06 A
H01M12/06 D
H01M12/06 F
H01M12/08 K
H01M50/211
H01M50/253
H01M50/291
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022514370
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2021011427
(87)【国際公開番号】W WO2021205847
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2020069047
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】佐多 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 章人
(72)【発明者】
【氏名】水畑 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】北川 知
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-288571(JP,A)
【文献】特開2016-012468(JP,A)
【文献】特開2016-081643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 12/08
H01M 50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、前記正極に対向して配置された負極と、前記正極および前記負極を内部に収容する外装体と、を有する少なくともつの金属空気電池と、
前記少なくともつの金属空気電池に外部から接触して、前記少なくともつの金属空気電池を部分的に所定の厚さ以下に規制し、樹脂または金属からなる規制部材と、
を備え、
前記少なくともつの金属空気電池は、前記規制部材により規制されて前記外装体が内部に向けて湾曲した湾曲部を有
前記規制部材は、前記正極と前記負極とが積層された積層方向と略直交する方向における前記少なくとも2つの金属空気電池の中央部に渡って直線状に規制する複数の棒状部を有し、
前記積層方向における前記複数の棒状部の間隔は、一定であり、
前記複数の棒状部のうちの1の棒状部は、前記少なくとも2つの金属空気電池が隣り合う金属空気電池同士の間に配置される、
金属空気電池装置。
【請求項2】
前記規制部材は、前記正極と前記負極とが積層された積層方向に、前記少なくともつの金属空気電池を挟むように設けられる、請求項1に記載の金属空気電池装置。
【請求項3】
前記規制部材は、前記複数の棒状部同士を連結する連結部を有する、請求項に記載の金属空気電池装置。
【請求項4】
前記規制部材は、隣り合う棒状部同士が前記連結部により連結された輪状部を有し、前記輪状部に前記少なくともつの金属空気電池が挿通している、請求項に記載の金属空気電池装置。
【請求項5】
前記輪状部における前記複数の棒状部と前記連結部とが連結された連結領域が曲面になっている、請求項に記載の金属空気電池装置。
【請求項6】
前記外装体の内部に収容された電解液を備える、請求項1~のいずれか1項に記載の金属空気電池装置。
【請求項7】
前記正極と前記負極との間に設けられたセパレータを備える、請求項1~のいずれか1項に記載の金属空気電池装置。
【請求項8】
前記正極は板状の正極集電体を有し、
前記負極は板状の負極集電体を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の金属空気電池装置。
【請求項9】
前記負極は、スラリー状の負極活物質を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の金属空気電池装置。
【請求項10】
前記正極は、酸素還元能を有する触媒を含む触媒層を含み、
前記触媒層は、前記規制部材により規制されて前記外装体が湾曲した湾曲部を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の金属空気電池装置。
【請求項11】
前記規制部材における前記金属空気電池に接触する部分の一部が曲面である、請求項1~10のいずれか1項に記載の金属空気電池装置。
【請求項12】
前記外装体は、前記正極と対向する面に設けられた開口部を有し、前記開口部を被う撥水膜を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の金属空気電池装置。
【請求項13】
前記撥水膜は、前記規制部材と対向する、請求項12に記載の金属空気電池装置。
【請求項14】
前記金属空気電池は複数であり、前記正極と前記負極とが積層された積層方向に並ぶ前記複数の金属空気電池を収容する筐体を備える、請求項1~13のいずれか1項に記載の金属空気電池装置。
【請求項15】
前記筐体は、前記積層方向に略直交する方向に対向する側壁を有し、前記側壁に前記筐体内の空気が供給される少なくとも1つの穴が設けられている、請求項14に記載の金属空気電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池装置に関する。本開示は、2020年4月7日に、日本に出願された特願2020-069047号に基づく優先権を主張するものであり、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、複数の金属空気電池が収納された金属空気電池装置の一例が記載されている。特許文献1に記載の金属空気電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配されたセパレータと、電解液と、正極、負極、セパレータ及び電解液を収容する外装体とを有する。外装体の正極側の表面には、開口部が形成されている、外装体と正極との間には、撥水膜が配されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-67616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の金属空気電池装置においては、例えば、金属空気電池装置に備えられた各金属空気電池が放電に伴い膨張し、放電容量やレート特性が低下する等の電池特性の低下が懸念され得る。
本開示の主な目的は、電池特性の低下が抑制された金属空気電池装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態の金属空気電池装置は、正極と、前記正極に対向して配置された負極と、前記正極および前記負極を内部に収容する外装体と、を有する少なくとも1つの金属空気電池と、前記少なくとも1つの金属空気電池に外部から接触して、前記少なくとも1つの金属空気電池を部分的に所定の厚さ以下に規制する規制部材と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態1の金属空気電池の一例を示す平面図である。
図2図1におけるA-A断面図である。
図3】金属空気電池の別の例を示す図である。
図4】実施形態1の金属空気電池装置の一例を示す模式的断面図である。
図5図4における規制部材の一例を示す平面図である。
図6】金属空気電池に規制部材を設けた状態の一例を示す正面図である。
図7】金属空気電池に別の例の規制部材を設けた状態を示す正面図である。
図8】金属空気電池にさらに別の例の規制部材を設けた状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0008】
<実施形態1>
本実施形態にかかる金属空気電池装置1に備えられる金属空気電池10の一例について、図1図2に基づいて説明する。図1は、金属空気電池10の正面図である。図2は、図1におけるA-A矢視断面図である。
【0009】
図1に示すように、金属空気電池10は、第1樹脂フィルム11および第2樹脂フィルム12を貼り合せて構成される外装体を備える。さらに、金属空気電池10は、この外装体の内部に収容された、空気極(正極)13、金属負極(負極)14、セパレータ25および撥水膜16を備える。また、外装体の内部には、例えば、アルカリ水溶液(例えば、KOH水溶液)等の電解液(不図示)が充填されている。電解液は、空気極13と金属負極14との間に介在し、空気極13と金属負極14との間で電荷を移動させる電解質を含む。
【0010】
第1樹脂フィルム11は、後述の第1収容部S11に空気を取り込むための開口として空気取込口111を有する。また、第1樹脂フィルム11は、公知の金属空気電池に採用される樹脂フィルムを用いることができる。より具体的には、第1樹脂フィルム11は、第2樹脂フィルム12との溶着が可能であり、耐アルカリ性に優れた熱可塑性樹脂により形成されることが好ましく、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系の樹脂フィルムを用いることができる。なお、補強のために、第1樹脂フィルム11および第2樹脂フィルム12の外気側に対して、ナイロン(登録商標)あるいはポリエチレンテレフタレートなどの樹脂フィルム層やアルミニウム箔あるいはステンレス箔などの金属フィルム層を積層した構成であってもよい。また、第1樹脂フィルム11の厚さは、特に限定されないが、0.02mm~0.25mmが好ましい。第1樹脂フィルム11の厚さが0.02mm未満であれば、溶着時に十分に溶け合わず接合強度が不足するおそれがあり、一方で、第1樹脂フィルム11の厚さ0.25mmを超えると、フィルムが伸びにくくなるため、電池が膨張した際に溶着部に応力が集中し、溶着部が剥がれるおそれがある。また、第1樹脂フィルム11に対する空気取込口111の開口率は10%~70%であることが好ましい。
【0011】
第2樹脂フィルム12は、第1樹脂フィルム11と対向して配置される。第2樹脂フィルム12は、第1樹脂フィルム11で用いられる樹脂フィルムから適宜用いることができる。第2樹脂フィルム12の厚さは、第1樹脂フィルム11と同様の理由で、0.02mm~0.25mmであることが好ましい。
【0012】
セパレータ15は第1樹脂フィルム11および第2樹脂フィルム12と対向して配置されている。つまり、セパレータ15は、第1樹脂フィルム11と第2樹脂フィルム12との間に設けられている。セパレータ15の周縁部は、第1樹脂フィルム11の周縁部に溶着されている。セパレータ15の周縁部は、第2樹脂フィルム12の周縁部に溶着されても良く、第1樹脂フィルム11の周縁部と第2樹脂フィルムの周縁部の両方に溶着されていても良い。セパレータ15は、第1樹脂フィルム11や第2樹脂フィルム12と溶着可能な材料であれば、金属空気電池の分野で一般的に用いられるセパレータ材料を用いることができる。セパレータ15の厚さは、特に限定されないが、0.05mm~0.4mmが好ましい。セパレータ15の厚さが0.05mm未満であれば、放電中の負極活物質の体積膨張に伴いセパレータ15が破断するおそれがあり、一方で、セパレータ15の厚さが0.4mmを超えると、内部抵抗の増加の結果、電池出力が低下するおそれがある。
【0013】
第1樹脂フィルム11とセパレータ15との間は第1収容部S11となっている。第1収容部S11には、空気極13および撥水膜16が収容される。より具体的には、撥水膜16は空気取込口111よりも一回り大きく、空気取込口111を内側から覆うようにして第1樹脂フィルム11に溶着されている。空気極13は、撥水膜16とセパレータ15との間に配置されている。
【0014】
撥水膜16は、空気取込口111から空気極13に空気を取り込むとともに、空気取込口111からの電解液の漏洩を防ぐために設けられており、空気透過性と気液分離機能とを有する。撥水膜16は、空気取込口111を内側から覆うように第1樹脂フィルム11に溶着などで固定される。撥水膜16の材料は、金属空気電池の分野で一般的に用いられ、第1樹脂フィルム11に固定できる材料であれば特に限定されない。撥水膜16の厚さは、0.05mm~0.5mmであることが好ましい。なお、本実施形態における撥水膜16は、金属空気電池10の外部に露出しており、外装体の一部ということができる。
【0015】
空気極13は、例えば、触媒層132および触媒層132の内部に配置された正極集電体131により構成されている。正極集電体131の一部は、外装体の外側に延伸され、金属空気電池10のリード部133となっている。正極集電体131は、金属空気電池の分野で一般的に用いられる金属等の導電性の材料であれば特に限定されるものではない。また、正極集電体131の厚さは特に限定されないが、0.05mm~0.5mmであることが好ましい。
【0016】
触媒層132は、少なくとも空気極触媒を含む。空気極触媒は、少なくとも酸化還元能を有する触媒である。空気極触媒としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン等の導電性カーボン、白金などの金属、酸化マンガンなどの金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これにより、空気極触媒上において、酸素ガスと水と電子とが共存する三相界面を形成することが可能になり、放電反応を進行させることができる。本実施形態のように、金属空気電池10が一次電池である場合、触媒層132は、二酸化マンガンなどの触媒を含むものとすることができる。また、金属空気電池10は、二次電池であってもよく、この場合、触媒層132が酸素還元能を有する空気極触媒だけでなく、酸素発生能を有する触媒を含んでいてもよく、酸素発生能と酸素還元能との両方を有するBi-functional触媒を含んでいてもよい。
【0017】
触媒層132に含まれる空気極触媒の質量割合は、触媒層132の5質量%以上であることが好ましい。空気極触媒層は、空気極触媒以外に結着剤を含んでいてもよい。また、触媒層132には、ポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤を用いることができる。触媒層132の厚みは、0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましい。
【0018】
第2樹脂フィルム12とセパレータ15との間は第2収容部S12となっている。第2収容部S12には金属負極14が収容される。尚、第2収容部S12においては、セパレータ15の周縁部が第2樹脂フィルム12の周縁部に溶着されていてもよい。但し、セパレータ15および第2樹脂フィルム12が溶着されている場合であっても、第2収容部S12の外周を形成しているのは、第1樹脂フィルム11と第2樹脂フィルム12との溶着部である。
【0019】
金属負極14は、例えば、空気極13と対向して配置され、負極集電体141と負極活物質層142とを含む。負極活物質層142は、少なくとも負極活物質を含む。より具体的には、第2収容部S12に、負極集電体141と粒子状の負極活物質(例えば、亜鉛または酸化亜鉛)を別途投入して金属負極14が形成されている。負極集電体141の一部は、外装体の外側に延伸され、金属空気電池10のリード部143となっている。負極集電体141の厚みは特に限定されないが、0.05mm~0.50mmであることが好ましい。また、負極活物質の結着性やレオロジー特性を向上させるための樹脂添加剤などが適宜含まれていてもよい。
【0020】
負極活物質は、金属空気電池の分野で一般的に用いられる材料から適宜採用される。例えば、負極活物質は、カドミウム種・リチウム種・ナトリウム種・マグネシウム種・鉛種・亜鉛種・錫種・アルミニウム種・鉄種などの金属種を用いることができる。例えば、金属空気電池10が二次電池の場合、負極活物質は、充電されることで還元されるため、金属酸化物の状態であってもよい。
【0021】
負極活物質は、平均粒子径が1nm~500μmであることが好ましい。より好ましくは5nm~300μmであり、さらに好ましくは100nm~250μmであり、特に好ましくは、200nm~200μmである。上記平均粒子径は、粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0022】
また、第2収容部S12には、負極活物質に用いられている金属種によって適宜選択される電解液(不図示)が収容されている。金属負極14は、電解液に負極活物質が分散されたスラリー状(言い換えるとスラリー状の負極活物質層142)であってもよい。その場合、負極活物質の重量に対する電解液の重量の比は0.3~2.0であることが好ましい。また、その場合、負極活物質の粒径は、10μm~800μmであることが好ましく、75μm~425μmであることがより好ましい。
【0023】
本実施形態に係る金属空気電池10では、第1樹脂フィルム11、第2樹脂フィルム12、空気極13、金属負極14、セパレータ15、撥水膜16および電解液の何れも、金属空気電池の分野において従来用いられているものが使用可能である。
【0024】
続いて、金属空気電池10の製造方法の一例を説明する。
【0025】
まず、第1樹脂フィルム11に空気取込口111を形成する(空気取込口111の形成された第1樹脂フィルム11を準備する)。
【0026】
そして、空気取込口111を覆うようにして、撥水膜16を第1樹脂フィルム11に接着する。このとき、撥水膜16は空気取込口111よりも一回り大きいサイズであり、撥水膜16を空気取込口111の縁部分(接着領域)で積層して熱溶着する。
【0027】
続いて、撥水膜16の空気取込口111とは反対側の面に触媒層132を積層する。
【0028】
さらに、触媒層132上に正極集電体131を、1辺が接着領域より延伸するように積層し、これらをプレスで圧着する。尚、正極集電体131における延伸部に電気的に接続されたリード部133をさらに備え、リード部133の両面には、タブフィルムが貼付されていてもよい。
【0029】
続いて、正極集電体131上にセパレータ15を積層し、セパレータ15を第1樹脂フィルム11に熱溶着する。このとき、セパレータ15は撥水膜16よりも一回り大きいサイズであり、セパレータ15が第1樹脂フィルム11に重なる部分で溶着する。尚、リード部にタブフィルムが使用されている場合は、セパレータ15はタブフィルムとも重なる部分で熱溶着される。
【0030】
続いて、セパレータ15上に負極集電体141を積層する。負極集電体141に電気的に接続されたリード部143をさらに備え、リード部143の両面には、タブフィルムが貼付されていてもよい。
【0031】
さらに、負極集電体141上に第2樹脂フィルム12を積層し、下辺(リード部133およびリード部143が外装体の外側へ延伸されていない辺、例えば、リード部133およびリード部143が外装体の外側へ延伸している辺と対向する辺)を除く3つの各辺を熱溶着する。このとき、2つの側辺では少なくとも第1樹脂フィルム11と第2樹脂フィルム12同士が重なった部分を熱溶着する。また、上辺では、少なくとも第1樹脂フィルム11、第2樹脂フィルム12が重なる部分を熱溶着する。
【0032】
最後に、溶着されていない1辺(下辺)の開口より、例えば、負極活物質としての亜鉛粉および7M-KOH水溶液からなる電解液を入れたのち、その辺を接着する。このとき、セパレータ15は第1樹脂フィルム11と既に溶着されている。下辺では樹脂フィルム同士(第1樹脂フィルム11および第2樹脂フィルム12)が重なった部分を、例えば溶着幅が4mmとなるように熱溶着する。
【0033】
なお、本実施形態における金属空気電池10は、上記の構成に限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、上記の構成において、第2樹脂フィルムが設けられた部分に負極を挟んで、さらにセパレータ15、正極集電体131、触媒層132、撥水膜16、第1樹脂フィルム11を積層した、第2の空気極を有する構造であってもよい。また、第2の空気極に代えて、酸素発生触媒能を有する充電用の正極であってもよい。充電用の正極は、例えば、酸素発生触媒能を有するNiを含む電極である。
【0034】
次に、本実施形態にかかる金属空気電池装置1の一例について、図4図5図6に基づいて説明する。図4は、金属空気電池装置1の概略の側面図である。図5は、規制部材21の一例を示す平面図である。図6は、規制部材21が装着された金属空気電池の正面図である。
【0035】
本実施形態にかかる金属空気電池装置1は、図4に示すように、筐体20内に、空気極13と金属負極14とが積層された方向に並べられた少なくとも1つの金属空気電池10を備える。図4においては、3つの金属空気電池10を筐体20内に並べた場合を例示しているが、金属空気電池10の数は特に限定されるものではなく、複数であってよい。
【0036】
規制部材21は、図5に示すように、例えば、直線状の棒状部21a・21b・21c・21d、連結部21e・21fを備える。規制部材21は、棒状部21a・21b・21c・21dが連結部21e・21fにより連結された構造を有している。また、規制部材21は、隣り合う棒状部21a・21bおよび連結部21e・21fで囲まれた輪状部21gを有する。同様に、隣り合う棒状部21b・21cおよび連結部21e・21fで囲まれた部分、ならびに隣り合う棒状部21c・21dおよび連結部21e・21fで囲まれた部分も輪状部となっている。各輪状部は輪状部21gと同様である。そして、各金属空気電池10は、輪状部21g、各輪状部に挿通している。規制部材21の材質は特に限定されるものではなく、例えば金属空気電池10の膨張に従う柔軟性を有してもよい。また 、規制部材21の厚みは特に限定されるものではなく、薄すぎると規制部材21が破損しやすくなり、厚すぎると金属空気電池10の空気取込口111を塞ぐことになり電池性能の低下に繋がる。規制部材21の厚みは、例えば、0.5mm以上5mm以下である。本実施形態においては、輪状部が3つ連なった構造となっているが、これに限定されるものではなく、輪状部は単数でも複数連なった構成であってよい。
【0037】
より具体的には、金属空気電池装置1における金属空気電池10(外装体)は、空気極13と金属負極14とが積層された積層方向に、外部から棒状部21aおよび棒状部21bにより挟まれている。この時の棒状部21aと棒状部21bとの間隔をL1とする。つまり、金属空気電池10は、棒状部21aと棒状部21bとの間の間隔L1に相当する厚さに規制される。そして、金属空気電池10には、棒状部21a・21bにより規制されて湾曲した湾曲部10aが形成され、棒状部21a・21bとの接触部を境に第1部分10bおよび第2部分10cに分けられる。言い換えれば、棒状部21a・21bが金属空気電池10、つまり外装体を湾曲させている。以上の構成により、金属空気電池10の湾曲部10aの厚さ、言い換えれば上記所定の厚さは、棒状部21aと棒状部21bとにより規制されていない場合の金属空気電池10の厚さよりも、薄くなっている。
【0038】
棒状部21a・21bの積層方向の幅は、特に限定されるものではないが、例えば金属空気電池10が膨張した際に隣り合う金属空気電池10の撥水膜16同士が接触して空気取込口111を塞がない程度の距離を保てればよく、できるだけ小さいほうが好ましい。棒状部21a・21bの幅を小さくすることにより、金属空気電池装置1をよりコンパクトにすることができる。言い換えれば、上記所定の厚さは、金属空気電池10が膨張した場合の最大の厚さよりも、薄いと言える。また、上記では棒状部21a・21bが直線状である例を挙げたが、これに限らず、例えば波状等の他の形状であってもよい。さらに、上記では、棒状部21a・21bの間に規制しているが、例えば、金属空気電池10を固定し、棒状部21a・21bのいずれか一方で規制するように構成してよい。
【0039】
なお、金属空気電池10は、放電に従い膨張し得る。金属空気電池10の放電していない場合の厚さは、つまり、金属空気電池10の放電していない初期段階(例えば、作成時)の厚さW1は、膨張時の厚さW2よりも小さな値となる。膨張時の厚さW2がL1よりも大きくなった場合には、金属空気電池10は、規制部材21に規制されて湾曲した湾曲部が形成される。このように、W1がL1よりも小さくとも、W2がL1よりも大きくなる場合、つまり金属空気電池10が膨張して規制部材により規制されて湾曲部が形成される場合も、金属空気電池10が湾曲部を有することになる。さらにまた、規制部材21は、金属空気電池10の一部分に接触して、金属空気電池10の一部分の厚みが増大することを抑制すると言い換えることができる。
【0040】
湾曲部10aは、例えば、第1樹脂フィルム11、第2樹脂フィルム12および撥水膜16を含む外装体における、棒状部21a・21bと接触する領域に形成される。棒状部21a・21bにおける外装体と接触する部分の少なくとも一部は、曲面になっていることが好ましい。これにより、棒状部21a・21bが接触する外装体、特に撥水膜16の破損を抑制することができる。湾曲部10aでは、第1樹脂フィルム11、撥水膜16、触媒層132が積層された状態で湾曲していることが好ましく、さらに、正極集電体131、スラリー状の負極活物質層142が収容された第2収容部S12が積層されている状態で湾曲していることが好ましい。このように予め触媒層132および/または正極集電体131を湾曲させていることで、放電に伴う金属空気電池10の膨張を抑えることができる。そのため、金属空気電池10の膨張による電極間距離の変化に起因した空気極13の面方向による放電反応の不均一さを解消することができる。
【0041】
本実施形態の金属空気電池装置1によれば、金属空気電池10は、棒状部21a・21bによって少なくとも部分的に所定の厚さ以下、つまり棒状部21aと棒状部21bとの間隔以下に規制されるため、負極活物質層142等の膨張があったとしても、正極集電体131と負極集電体141との間隔の変動が抑制される。特に、規制部材21は、棒状部21a・21b同士が、連結部21e・21fにより連結されているため、棒状部21aと棒状部21bとの間隔の変動をより抑制することができる。これにより、金属空気電池10における電池反応がより均一になり、レート特性や電池容量等の電池特性の低下を抑制することができる。なお、上記では、棒状部21aおよび棒状部21bの両端を連結部21eおよび連結部21fで連結しているが、連結部21eまたは連結部21fのいずれか一方で連結していてもよい。
【0042】
さらに、図5に示すように、輪状部21gにおける、規制部材21の棒状部21a・21bと連結部21e・21fとが連結された連結領域21hは、曲面となるように構成されている。これにより、金属空気電池10が膨張した際に規制部材21にかかる応力に耐え、規制部材21の破損を防止することができる。
【0043】
金属空気電池10における正極集電体131および負極集電体141は、板状となっていることが好ましい。ここで、板状の正極集電体131または板状の負極集電体141とは、それぞれを構成するワイヤ状の導電性の材料を配列させ、または編み込み、湾曲させ、板状に形成したものも含む。さらに、正極集電体131は、規制部材21の棒状部21a・21bによって湾曲していることが好ましい。これにより、正極集電体131と負極集電体141との間隔の変動をより一層抑制し、金属空気電池10における電池反応をより均一にすることができ、レート特性や電池容量の低下をより抑制することができる。なお、正極集電体131および負極集電体141は、例えば、多孔質体であっても、メッシュ状であってもよい。また、負極集電体141の厚みは、特に限定しないが、湾曲できる程度の厚みであることが好ましい。
【0044】
さらに、棒状部21a・21bは、例えば、上記積層方向と略直交する方向に金属空気電池10の中央部を渡って金属空気電池10を規制している。ここで、略直交とは所定の方向に対して90°±5°のことであり、中央部とは上記積層方向と略直交する方向(つまり、各構成要素の面方向)における空気極の周縁部から4分の1よりも中央に位置する領域のことである。この構成により、金属空気電池10は、第1部分10bと第2部分10cとをほぼ均等な状態とすることができ、金属空気電池10における電池反応がより均一になり、レート特性や電池容量等の電池特性の低下をより抑制することができる。
【0045】
なお、棒状部21b・21c、棒状部21c・21dも、上記棒状部21a・21bと同様の効果を奏する。
【0046】
また、規制部材21に複数の金属空気電池10を装着した場合、隣り合う金属空気電池10同士の間には、棒状部が配置されるため、隙間が設けられる。この隙間により、金属空気電池10における撥水膜16同士が接触して空気取込口111が塞がれることを防止でき、金属空気電池10へ空気を供給しやすくなる。
【0047】
さらに、規制部材21に複数の金属空気電池10を装着した場合、金属空気電池10が膨張するに伴い、隣り合う金属空気電池10との間に挟まれる棒状部を介して、隣り合う金属空気電池10に力が加わる。その加わる力により、隣り合う金属空気電池10は、棒状部によって押されて膨張が抑制される。複数の金属空気電池10が規制部材21に装着された場合に、複数の金属空気電池10の相互で同様に膨張を抑制する効果が得られるため、特に好ましい。これにより、複数の金属空気電池10それぞれの厚さをほぼ均一にすることができ、複数の金属空気電池10それぞれにおけるレート特性等の電池特性をそろえることができ、金属空気電池10間のばらつきを抑制することができる。
【0048】
本実施形態における金属空気電池装置1は、金属空気電池10を規制部材21に装着して、筐体20に収納することにより容易に製造することができる。規制部材21の一部は、筐体20と内接していることが好ましい。例えば、金属空気電池10と筐体20との間に配される規制部材21の棒状部21aは、筐体20と内接していることがより好ましい。これにより、規制部材21によって規制された複数の金属空気電池10それぞれの厚さがより均一になる。そのため、同じ筐体20に含まれる複数の金属空気電池10それぞれにおけるレート特性等の電池特性をそろえることができ、金属空気電池10間のばらつきを抑制することができる。さらに、筐体20には、金属空気電池10が並べられた方向、および/または金属空気電池10が並べられた方向とは略直交する方向に、穴が設けられることが好ましい。この穴を形成することにより、金属空気電池10に空気を供給しやすくなり、電池特性の低下を抑制することができる。金属空気電池10が並べられた方向とは略直交する方向における筐体20の穴は、空気取込口111と平行な方向に空気が流れやすくなるため、金属空気電池10への空気の供給が容易となり好ましい。
【0049】
また、筐体20における金属空気電池10が並べられた方向、つまり積層方向とは略直交する方向に対向する側壁の穴は、規制部材21により形成された金属空気電池10同士の間の空間に対向するように設けることが好ましい。これにより、各金属空気電池10に容易に空気を供給することができる。なお、上記側壁の穴は、1つでも複数であってもよい。
【0050】
さらに、上記では、規制部材21の棒状部21a・21bで金属空気電池10の縦方向の中央部を規制する例を挙げたが、規制部材21の数、規制する部位は、これに限定されるものではない。複数の規制部材21で金属空気電池10を規制する場合、規制する部位は金属空気電池10の空気取込口111の縦方向および/または横方向を略等分する部位を規制することが好ましい。例えば、図7に示すように、2つの規制部材21を用いて金属空気電池10の空気取込口111の縦方向のみ規制する場合は、2つの規制部材21により、金属空気電池10の空気取込口111の縦方向を略3等分する部位を規制してもよいし、図8に示すように、4つの規制部材21を用いて金属空気電池10の空気取込口111の縦方向および横方向を規制する場合は、図7の構成に加えて、さらに金属空気電池10の空気取込口111の横方向を略3等分する部位を規制するようにしてもよい。複数の規制部材21により金属空気電池10を規制する部分を増やすことにより、より効率的に金属空気電池10の厚さW1を規制することができる。
【0051】
上記では、規制部材21と、筐体20とは別個に設けたが、これらを一体に形成した構成であってもよい。尚、本実施形態における金属空気電池装置1では、筐体20は、樹脂や金属等の一般的な材料を使用することができる。規制部材21と筐体20は、同じ材料を使用しても良く、異なる材料を用いても良い。
【0052】
<実施例および比較例>
下記の要領で上記実施形態に係る金属空気電池10と実質的に同様の構成を有する金属空気電池を作製した。
【0053】
まず、第1樹脂フィルムとして、110mm×110mmの正方形状の樹脂フィルムを用意した。樹脂フィルムは、厚みが15μmのナイロン(登録商標)フィルムと、厚みが100μmのポリエチレン(PE)フィルムとの積層体である。この第1樹脂フィルムには、60×60mmの大きさの開口である空気取込口を形成した。
【0054】
次に、樹脂フィルムの空気取込口を被うように70mm×70mmの大きさの、厚みが200μmのポリテトラフルオロエチレンフィルムからなる撥水膜を配置し、樹脂フィルムに熱溶着した。溶着幅は、2mmとした。
【0055】
次に、樹脂フィルムと熱溶着された撥水膜の反対側の面上に、70mm×70mmの触媒層を積層した。触媒層は、酸素還元触媒としてのMnO、酸素還元触媒兼導電剤としてのアセチレンブラック、及びバインダーとしてのポリテトラフルオロエチレンを含む多孔質体(厚み:500μm)である。
【0056】
この触媒層の上に、リードが接続された77mm×70mmの正極集電体を積層した。正極集電体は、厚さ180μmのNiエキスパンドである。リードは、タブフィルムが貼付けされた50×10mm、100μm厚のNi箔を用いた。
【0057】
次に、これらをプレス圧着により接着した。
【0058】
次に、正極集電体の上に、セパレータを積層し、セパレータの周縁部を第1樹脂フィルムおよびリードのタブフィルムに熱溶着した。セパレータは、92mm×80mm、厚さ200μmのポリオレフィン不織布である。なお、セパレータと第1樹脂フィルム、セパレータとタブフィルムとの溶着幅は、2mmとした。
【0059】
次に、セパレータの上に、77mm×70mmの負極集電体を積層した。負極集電体は、厚さ280μmのCuエキスパンドである。負極集電体は、50mm×10mm、厚さ100μmのNi箔からなるタブフィルムを貼り付けたリードを有する。
【0060】
次に、負極集電体の上に、第1樹脂フィルムと同様の110mm×110mmの正方形状の樹脂フィルムを第2樹脂フィルムとして積層した。そして、第1樹脂フィルムと第2樹脂フィルムとを、1辺を除く3つの辺を溶着幅が2mmとなるように相互に溶着した。熱溶着した。
【0061】
次に、第1樹脂フィルムと第2樹脂フィルムとの溶着されていない1辺から、電解液及び負極活物質を、セパレータと第2樹脂フィルムとの間に挿入した。電解液は、7MのKOH水溶液である。負極活物質粒子は、亜鉛粉である。所定量の電解液及び負極活物質を挿入した後、第1樹脂フィルムと第2樹脂フィルムとの残りの1辺を溶着した。具体的には、第1樹脂フィルム及び第2樹脂フィルムが重なった部分を4mmの溶着幅となるように溶着した。
【0062】
作製された金属空気電池は、厚さが8mmであった。同様にして金属空気電池を作製した。
【0063】
一方、各実施例の規制部材として、厚さ2mmの図5に示す形状のものを用意した。なお、各実施例における金属空気電池の初期段階の厚さW1、棒状部間の距離(輪状部の幅)L1は、下記の表1に示す通りである。L1は3つある輪状部で同様である。各実施例の各規制部材に上記で作製した3つの金属空気電池を図6に示す位置に装着し、筐体内に設置した。隣接する金属空気電池の正極と負極を連結することにより、各実施例にかかる金属空気電池装置を作製した。各実施例にかかる規制部材と筐体の材料として、ABS樹脂を使用した。なお、比較例1では、規制部材を使用せず、3つの金属空気電池を単に連結した金属空気電池装置を作製した。
【0064】
実施例および比較例の金属空気電池装置に関し、放電容量の試験を行った。放電試験は、金属空気電池装置を負荷装置に接続し、室温環境下、表1に示す放電レートにおいて電圧が2.4Vを下回るまで放電試験を行った。その結果を表1に示す。なお、放電容量は、実施例2を基準(100)とした相対値で示す。
【表1】
【0065】
なお、実施例5では、初期段階ではL1がW1より大きいが、放電中に金属空気電池が膨張し、規制部材により規制されて湾曲部が形成された。
【0066】
表1に示す結果から、実施例における金属空気電池装置においては、比較例の金属空気電池装置に比べ、各放電レートにおいて放電容量が高いことが明らかとなった。
【0067】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、上記実施の形態で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8