(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ピペット・ファミリのピペットで使用するピペット・チップを備えたピペット・チップ・ファミリ、およびピペット・チップ・ファミリのピペット・チップで使用するピペットを備えたピペット・ファミリ
(51)【国際特許分類】
B01L 3/02 20060101AFI20240403BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20240403BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20240403BHJP
G01F 11/06 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N1/00 101K
G01N35/10 G
G01F11/06
(21)【出願番号】P 2022533571
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 EP2020084608
(87)【国際公開番号】W WO2021110902
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-06-03
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591121683
【氏名又は名称】エッペンドルフ エスイー
【氏名又は名称原語表記】Eppendorf SE
【住所又は居所原語表記】Barkhausenweg 1, 22339 Hamburg,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【氏名又は名称】杉谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・クンシュ
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03560596(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03575000(EP,A1)
【文献】特開昭58-084049(JP,A)
【文献】特表2021-520994(JP,A)
【文献】特開2011-031041(JP,A)
【文献】特開2020-110794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
G01F 11/00-46
G01N 1/00-44、35/00-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペット・ファミリのピペット・タイプが異なるピペット(1)で使用するための、ピペット・チップ・タイプの異なるピペット・チップ(66)を備えるピペット・チップ・ファミリであって、
・各ピペット・チップ(66)は、チップ・シリンダ(67)と、
・チップ・プランジャ(68)と、を備え、
・前記チップ・シリンダ(67)は、その下端部に先端開口部(70)を備えた中空本体(69)と、その上端部に装着用開口部(71)と、その内周に、ピペット(1)のスピゴット(4)のクランプ領域(9)に固締するためのシート領域(87)と、前記先端開口部(70)と前記シート領域(87)との間に円筒状のプランジャ走行路(77)を有し、
・前記チップ・プランジャ(68)は、前記プランジャ走行路(77)に密閉して案内されるプランジャ(79)と、ピペット(1)のストローク・ロッド(17)の下端部に孔を有する軸内径部に固締するための、上方に突出しているプランジャ・ロッド(80)とを有し、
前記ピペット・チップ・ファミリは2以上のサブファミリを含み、
・同じサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)は、チップ・タイプが同じであるピペット・チップ(66)か、チップ・タイプが異なるピペット・チップ(66)であり、前記チップ・プランジャ(68)のそれぞれ最深位置にある前記プランジャ・ロッド(80)の上端部が、前記シート領域(87)
に対して同じ位置にあり、
・異なるサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)は、前記チップ・プランジャ(68)のそれぞれ最深位置にある前記プランジャ・ロッド(80)の上端部が、前記シート領域(87)
に対して異なる位置にあり、
・そのため、各サブファミリ(86)の前記ピペット・チップ(66)が、それに適合するピペット・タイプのピペット(1)を用いてピペット操作するのに使用でき、かつそれに適合しないピペット・ファミリのピペット・タイプのピペットを用いては、ピペット操作するのに使用できない、ピペット・チップ・ファミリ。
【請求項2】
チップ・タイプの異なる前記ピペット・チップ(66)が、公称容積によって互いに異なる、請求項1に記載のピペット・チップ・ファミリ。
【請求項3】
前記ピペット・チップ(66)がカラー(72)を有し、前記カラー(72)は、前記装着用開口部(71)を上端部に備え、前記シート領域(87)を前記カラー(72)の内周に備える、請求項1または2に記載のピペット・チップ・ファミリ。
【請求項4】
チップ・タイプの異なるピペット・チップ(66)を備えた少なくとも1つのサブファミリ(86)を備え、これらのピペット・チップ(66)のそれぞれは、前記チップ・タイプの特有の高さを備えたカラー(72)を有し、これらのピペット・チップ(66)は、そのシート領域(87)が同じピペット・タイプのピペット(1)のスピゴット(4)の同じクランプ領域(9)にあるカラー(72)の内周に固締されるように設計されているので、それらのカラー(72)を用いてピペット・チップはそのスピゴット(4)上の高さが異なる、請求項3に記載のピペット・チップ・ファミリ。
【請求項5】
少なくとも1つのサブファミリ(86)のチップ・タイプが異なるピペット・チップ(66)の公称容積が、1または2以上の小数点以下の桁数が互いに異なる、請求項1から4のいずれか一項に記載のピペット・チップ・ファミリ。
【請求項6】
前記ピペット・チップ(66)の前記シート領域(87)が、ピペット(1)の前記スピゴット(4)の外周で円周環状溝(8)に、あるいはピペット(1)の前記スピゴット(4)の外周で前記クランプ領域(9)の円周ビードにスナップ嵌めするために、ビード(75)を前記チップ・シリンダ(67)の内周に、あるいは前記チップ・シリンダ(67)の内周に円周環状溝を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のピペット・チップ・ファミリ。
【請求項7】
チップ・プランジャ(68.1,68.3)のそれぞれ最深位置に、それに適合する第1のピペット・タイプのピペット(1.1)で使用するためにチップ・シリンダ(67.1,67.3)の内周にあるビード(75.1,75.3)の上の第1の位置に配置されているプランジャ・ロッド(80.1,80.3)の上端部を有する、第1のサブファミリ(86.1)のうちの少なくとも1つのチップ・タイプのピペット・チップ(66.1,66.3)と、チップ・プランジャ(68.2,68.4)のそれぞれ最深位置に、それに適合する第2のピペット・チップのピペット(1.2)で使用するためにチップ・シリンダ(67.2,67.4)の内周に配置されているビード(75.2,75.4)の下の第2の位置に配置されているプランジャ・ロッド(80.2,80.4)の上端部を有する、第2のサブファミリ(86.2)のうちの少なくとも1つの別のチップ・タイプのピペット・チップ(66.2,66.4)と、チップ・プランジャ(68.5)のそれぞれ最深位置に、それに適合する第3のピペット・タイプのピペット(1.3)で使用するために前記第1の位置と前記第2の位置との間にある第3の位置に配置されているプランジャ・ロッド(80.5)の上端部を有する、第3のサブファミリ(86.3)のうちの少なくとも1つの別のチップ・タイプのピペット・チップと(66.5)、を備える、請求項6に記載のピペット・チップ・ファミリ。
【請求項8】
第1のピペット・タイプ(86.1)のピペット(1.1)で使用するための公称容積が10μlと100μlの第1のサブファミリ(86.1)のピペット・チップ(66.1,66.3)と、第2のピペット・タイプのピペット(1.2)で使用するための公称容積が25μlと250μlの第2のサブファミリ(86.2)のピペット・チップ(66.2,66.4)と、第3のピペット・タイプのピペット(1.3)で使用するための公称容積が1000μlの第3のサブファミリ(86.3)のピペット・チップ(66.5)とを備える、請求項1から7のうちの一項に記載のピペット・チップ・ファミリ。
【請求項9】
ピペット・チップ(66)を備え、
・前記プランジャ・ロッド(80)が、前記ストローク・ロッド(17)に配置されている少なくとも1つのクランプ要素(30)を堅固に固締するためのクランプ溝(83)を上端部の下に有し、かつ/または、
・前記プランジャ・ロッド(80)が、前記ストローク・ロッド(17)に配置されているクランプ要素(30)を堅固に固締するための外径が大きな下部ロッド部(81)を有し、この上に、上部ロッド部(82)を有し、前記上部ロッド部(82)は前記下部ロッド部(81)よりも直径が小さいので、前記上部ロッド部(82)は前記ストローク・ロッド(17)の前記クランプ要素(30)によって堅固に固締することは不可能であり、かつ/または、
・前記チップ・プランジャ(68)が、前記クランプ溝(83)および/または前記下部ロッド部(81)の下に、前記ストローク・ロッド(17)の下端部にある孔(25)の縁に支持するためのハード・ストップ(89)を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のピペット・チップ・ファミリ。
【請求項10】
ピペット・チップ・ファミリのチップ・タイプが異なるピペット・チップで使用するための、ピペット・タイプが異なるピペットを備えたピペット・ファミリであって、各ピペット(1)は、
・棒状のピペット・ハウジング(2)と、
・前記ピペット・ハウジング(2)の下端部にあるスピゴット(4)であって、装着用開口部(71)を有するピペット・チップ(66)のチップ・シリンダ(67)の内周にシート領域(87)を固締するためのクランプ領域(9)を外周に有し、前記ピペット・チップ(66)のチップ・プランジャ(68)のプランジャ・ロッド(80)を挿入するための貫通内径部(5)を備えるスピゴット(4)と、
・駆動装置(12)であって、前記貫通内径部(5)に向いているストローク・ロッド(17)であって、このストローク・ロッドは、前記スピゴット(4)の長手方向に変位可能に案内され、前記チップ・プランジャ(80)を案内するための軸内径部(24)と孔(25)とを下端部に有し、前記軸内径部(24)に前記チップ・プランジャ(80)を堅固に固締するためのクランプ装置(30)とを有するストローク・ロッド(17)と、操作要素(18)であって、前記ピペット・ハウジング(2)に対して変位可能に前記ピペット・ハウジング(2)から突出しており、下端部にある先端開口部(70)と前記チップ・シリンダ(67)の前記シート領域(87)との間にあるプランジャ走行路(77)に密封式に案内される前記チップ・プランジャ(68)のプランジャ(79)を変位させるために前記ストローク・ロッド(17)に連結されている操作要素(18)とを備える駆動装置(12)と、
・細長の第1の検知要素(44)であって、前記装着用開口部(71)で前記スピゴット(4)に押し込まれたピペット・チップ(66)の軸内径部(24)内に挿入されているチップ・プランジャ(68)の上端部を検知するために前記操作要素(18)が離されると、前記ストローク・ロッド(17)の前記軸内径部(24)内で上方に変位可能である、第1の検知要素(44)と、
・前記第1の検知要素に連結されている制御装置(88)であって、前記ピペット(1)のピペット・タイプに適合する前記ピペット・チップ・ファミリのサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)のプランジャ・ロッド(80)を検知するときに、前記ピペット(1)をピペット操作可能な状態にするように設計されており、前記プランジャ・ロッド(68)のそれぞれ最深位置にあるプランジャ・ロッド(80)の上端部は前記シート領域(87)と同じ位置にあり、前記ピペット・タイプに適合しないサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)のプランジャ・ロッド(80)を検知するときに、前記ピペット(1)をピペット操作不能な状態にするように設計されており、前記チップ・プランジャ(68)のそれぞれ最深位置にある前記プランジャ・ロッド(80)の上端部は、前記ピペット・チップに適合する前記サブファミリ(86)の前記ピペット・チップ(66)と前記シート領域(87)が異なる位置にある制御装置(88)と、を備える、ピペット・ファミリ。
【請求項11】
各ピペット(1)の前記制御装置(88)が、(i.)前記ピペット(1)に適合するサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)の前記プランジャ・ロッド(80)の長さを有するプランジャ・ロッド(80)を検知する場合、前記駆動装置(12)をピペット操作が可能な状態にし、かつ前記ピペット・チップ(66)を前記スピゴット(4)およびストローク・ロッド(17)に堅固に固締することができる状態にし、かつ/または、(ii.)前記ピペット(1)に適合するサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)の前記プランジャ・ロッド(80)よりも短いプランジャ・ロッド(80)を検知する場合、前記駆動装置(12)をピペット操作ができない状態にし、かつ/または、(iii.)前記ピペット(1)に適合するサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)の前記プランジャ・ロッド(80)よりも長いプランジャ・ロッド(80)を検知する場合、前記ピペット・チップ(66)を前記スピゴット(4)および/またはストローク・ロッド(17)に堅固に固締しないようにするように設計されている、請求項10に記載のピペット・ファミリ。
【請求項12】
各ピペットの前記制御装置(88)が、
・前記ピペット・ハウジング(2)内に回転可能に装着される湾曲支持部(32)を備える吐出装置(31)と、
・前記ピペット・ハウジング(2)内で前記スピゴット(4)の長手方向に変位可能に案内される前記細長い第1の検知要素(44)にある、第2の検知要素(48)であって、前記第2の検知要素(48)は、前記湾曲支持部(32)の周縁部にある第1の曲線部(39)で案内される、第2の検知要素(48)と、
・前記湾曲支持部(32)に接続され、前記ピペット・ハウジング(2)から突出し、前記ピペット・ハウジング(2)に対して回転可能な操作要素(18)と、を備え、
・前記吐出装置(31)は、前記操作要素(18)をピペット操作位置から吐出位置へと回転させることによって前記湾曲支持部(32)を回転させるように設計されており、前記第1の曲線部(39)は、前記第2の検知要素(48)を下方に変位させるので、前記細長い第1の検知要素(44)が前記スピゴット(4)に保持されたピペット・チップ(66)を前記スピゴット(4)から押し離し、
・前記吐出装置(31)は、前記ピペット(1)に適合するサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)の前記プランジャ・ロッド(80)よりも短いプランジャ・ロッド(80)が前記細長の第1の検知要素(44)によって検知されるときに、前記操作要素(18)を前記吐出位置から前記ピペット操作位置へと回転しないように設計されているので、ピペット操作が防止される、請求項11に記載のピペット・ファミリ。
【請求項13】
各ピペットの前記制御装置(88)が、
・前記スピゴット(4)が、ピペット・チップ(66)に形状適合的に接続する装置(9)であって、前記スピゴット(4)を弾性的に収縮させつつ、かつ/または、その形状適合的に前記スピゴット(4)に接続する前にピペット・チップ(66)を弾性的に拡張させつつ、ピペット・チップ(66)を前記スピゴット(4)に押し付けることができる装置(9)を有し、
・ロック装置(50)が、前記スピゴット(4)および/または前記ストローク・ロッドに同心円状に配置されているロック・スリーブ(51)と、前記ロック・スリーブ(51)から上方へ突出しており、前記ピペット・ハウジング(2)内で前記スピゴット(4)の方向に変位可能に案内される制御ロッド(52)と、前記制御ロッド(52)から突出している第3の検知要素(54)と、前記湾曲支持部(32)の周縁部にある第2の曲線部(40)であって、この上で前記第3の検知要素(54)が案内され、前記ピペット操作位置に前記操作要素(18)を配置するときに、ロック位置にある前記ロック・スリーブ(51)が前記スピゴット(4)を内側で制限し、かつ/または前記チップ・シリンダ(66)を外側で制限し、かつ/または前記ストローク・ロッド(17)を外側で制限するように設計されているので、前記ロック・スリーブ(51)は、前記スピゴット(4)および/または前記ストローク・ロッド(17)に形状適合的に接続されているピペット・チップ(66)が、前記スピゴット(4)および/または前記ストローク・ロッド(17)から外れるのを防ぐ、第2の曲線部(40)と、を備え、
・前記操作要素(18)を前記ピペット操作位置から前記吐出位置へと回転させることによって、前記スピゴット(4)および/または前記ピペット・チップ(60)が少なくとも部分的に露出されるように前記ロック・スリーブ(51)が上方に変位可能であり、前記細長の第1の検知要素(44)が前記ピペット・チップ(66)を前記スピゴット(4)から押し離し、前記細長の第1の検知要素(44)を用いてプランジャ・ロッド(80)を検知するとき、前記プランジャ・ロッド(80)は前記ピペット(1)に適合するサブファミリ(86)のピペット・チップ(66)の前記プランジャ・ロッド(80)よりも長く、前記ピペット・チップ(66)を前記ピペット(1)に堅固に固締することを防ぐように、前記ロック・スリーブ(51)が前記ロック位置へと変位することは不可能である、請求項12に記載のピペット・ファミリ。
【請求項14】
各ピペット(1)の前記制御装置(88)がハード・ストップを備え、前記ハード・ストップは前記ピペット・チップ(66)を前記スピゴット(4)に押し付けることを制限するので、前記ピペット(1)に適合するサブファミリ(86)の前記ピペット・チップ(66)のカラー(72)よりも長いカラー(72)を有するピペット・チップ(66)を前記スピゴット(4)に押し付ける場合に、前記ハード・ストップは前記ピペット・チップ(66)が前記ピペット(1)に堅固に固締されるのを防ぐ、請求項10から13のうちの一項に記載のピペット・ファミリ。
【請求項15】
請求項1から9のうちの一項に記載のピペット・チップ・ファミリと、請求項10から14のうちの一項に記載のピペット・ファミリを備える、ピペット・システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペット・ファミリのピペットで使用するピペット・チップを備えたピペット・チップ・ファミリ、およびピペット・チップ・ファミリのピペット・チップで使用するピペットを備えたピペット・ファミリに関する。
【0002】
ピペットは、特に、選択された容量の液体を計量するための、医学的、分子生物学的、および、製薬的用途で、科学工業用の実験室において利用される。この液体は、特に、単一の液体成分からなる均質(単相)液体、または複数の液体成分(溶液)の均質混合物であってもよい。さらに、この液体はまた、別の液体を含む(エマルジョン)または固体(懸濁液)を含む不均一な(多相)液体混合物であってもよい。
【0003】
ピペットは、スティック状のピペット・ハウジングを有し、ピペット・チップを固締するためのスピゴット(アタッチメント)を下端部に備えている。スピゴットは、たいていは、円錐形、円筒形、または部分的に円錐形および円筒形の凸部であり、「作業円錐部」とも呼ばれる。ピペット・チップは、下端部に先端開口部と上端部に装着用開口部とを備えた中空チューブであり、ピペット・チップは装着用開口部によってスピゴットに固締可能である。液体をピペット・チップに吸入し、そこから吐出する。液体を吸入したり吐出したりすることは、ピペットによって制御される。容積の固定されたピペットは、一定容積をピペット操作する役割を果たす。可変ピペットでは、計量する容量を調節可能である。機械的カウンタを用いて設定された容積を表示する。容量を設定するために、そのカウンタに連結されている設定装置によって駆動装置のストロークを調節することができる。使用後、このピペット・チップはアタッチメントから取り外し、新しいピペット・チップと交換可能である。このようにして、後続のピペット操作中の相互汚染を防ぐことができる。
【0004】
エア・クッション式ピペットは、チャネルによってスピゴットの貫通孔に接続されているプランジャ-シリンダ・システムをピペット・ハウジング内に有する。エア・クッション式ピペットのピペット・チップ(エア・クッション式ピペット・チップ)には、一体型プランジャがない。駆動装置を用いてシリンダ内でプランジャを変位させることによって、スピゴットに固締されているピペット・チップに液体を吸引し、そこからその液体を排出するために、エア・クッションが移動する。エア・クッション式ピペットでは計量誤差がひとつの欠点であるが、それは、吸引された液体の重さのためにエア・クッションの長さが変化することや、温度や空気圧や空気湿度が変化することによるものである。エアゾールによるピペットの汚染もまた、問題となり得る。
【0005】
エア・クッション式ピペットは、様々なサイズで提供されており、ある公称容積を有する1つのエア・クッション式ピペット・チップのみがそれぞれ嵌合しているか、あるいは公称容積が極めて類似している複数のエア・クッション式ピペット・チップが嵌合している。正確に対比しやすくするために、エア・クッション式ピペットとエア・クッション式ピペット・チップとをカラーコードで識別することが知られている。この状況では、ユーザがピペットとピペット・チップとを誤って組み合わせて使用するような、ユーザによる誤解の危険性がある。
【0006】
米国特許第6,749,812B2号は、自動的チップ・エジェクタを有するエア・クッション式ピペットを記載しており、この自動的チップ・エジェクタは、ピペット・チップを装着するためのバネ式アタッチメントと、その上に案内されるバネ式エジェクタ・スリーブとを有する。さらに、チップ・タイプが異なると基本的な構成が異なるというピペット・チップのチップ認識が存在する。このようなチップ認識では、エジェクタ・スリーブに対するアタッチメントの相対変位の差に基づいて異なるピペット・チップ・タイプが認識され、この差が電子センサによって検出される。
【0007】
容積式ピペットは、一体型プランジャを有するピペット・チップ(容積式ピペット・チップ)とともに使用される。このタイプのピペットは、ピペット・チップを固締するスピゴットと、一体型プランジャ(チップ・プランジャ)に連結可能な、プランジャを移動させるための駆動装置とを有する。プランジャは液体と直接接触するようになるので、エア・クッションの影響がなくなる。容積式ピペットは、特に、高蒸気圧、高粘度、または高密度の液体の計量や、汚染を避けるためにエアゾールの存在しないことが重要となる分子生物学における用途に適している。
【0008】
使い捨てまたは再利用のエア・クッションまたは容積式ピペット・チップは、プラスチックまたはガラスからなる。
【0009】
容積式ピペットであるエッペンドルフ(Eppendorf)社のBiomaster(登録商標)4830では、駆動装置がプランジャをピペット・チップ内で変位させるためのストローク・ロッドを有し、このストローク・ロッドは、中空の下部ストローク・ロッド部と、上から下部ストローク・ロッド部に挿入される上部ストローク・ロッド部とを有する。上部ストローク・ロッド部は、ピペット・ハウジングの上端部から突出した操作要素に接続されている。公称容量が20μlであるエッペンドルフ社のMastertip(登録商標)ピペット・チップは、ピペットのスピゴットに固締することが可能である。操作要素を押圧することで、ピペット・チップのチップ・プランジャのプランジャ・ロッドの上端部が下部ストローク・ロッド部に押し込まれるように、ストローク・ロッドが下方へ変位可能である。ストローク・ロッドが下部のハード・ストップまで下方へ変位すると、ばね装置に予め張力がかかる。操作要素が解除された後、ばね装置はストローク・ロッドを上部のハード・ストップまで変位させ、そこでチップ・プランジャが入り込み、液体がピペット・チップに吸引されることができる。吸引された液体は、操作要素を下部のハード・ストップに再び押圧することによって吐出可能である。ピペット・チップを解除するために、別のばね装置が圧縮し、上部ストローク・ロッド部が下部ストローク・ロッド部内で下方へ変位し、プランジャを下部ストローク・ロッド部から押し出してピペット・チップをスピゴットから押し離すように、ユーザは大きな力で操作要素を押さなければならない。Biomaster(登録商標)のピペットおよびMastertip(登録商標)のピペット・チップは、1μlから20μlの容量の範囲でピペット操作可能なように設計されている。
【0010】
欧州特許第3560596A1号は、異なる種類の少なくとも2つのピペット・チップを備えたピペット・チップ・ファミリを記載しており、それぞれのピペット・チップは、下端部にある先端開口部と、上端部にある装着用開口部と、ピペット・チップの種類に特有の高さを備えた装着用開口部をその上端部に有するカラーと、カラーの内周にある、ピペットのある輪郭を有するスピゴットに固締するためのシート領域とを有する。異なる種類のピペット・チップは、そのシート領域を同じスピゴットに固締することができるので、カラーを使用して、異なる高さでスピゴットの上に立つことができる。公称容積が10μlおよび100μlのピペット・チップは、カラーの内側にビードを有する。両実施形態では、一旦ピペット・チップがピペットのスピゴットにしっかりと固締されると、ビードはピペットのスピゴットに等しく隣接する。この文脈では、公称容積が10μlのピペット・チップは、そのカラーの内側にある内段によって、スピゴットのショルダに隣接する。内段の上に突出するカラーの上縁部は、ピペットのスライドを上方に移動させ、それによって、部分的にストロークが機械的カウンタの2つのカウンタ・ローラ間の異なる位置に押し込まれる。そのカラーの上縁部によって、100μlのピペット・チップがスピゴットのショルダに接するので、スライドは移動せず、機械式カウンタの表示は変化しない。このように、高さの異なるカラーによってカウンタの異なる表示が設定される。両ピペット・チップに関しては、プランジャ・ロッドの上端部は、ビードから同じ距離であり、一旦ビードを有するピペット・チップがスピゴットにしっかりと固締されると、ピペットのストローク・ロッドに同じ範囲まで押し込まれる。
【0011】
欧州特許2574402B1号および独国特許19948818A1は、コード化部を備えたシリンジと、シリンジのコード化部を検知し、そのシリンジの種類に応じて表示を出力するセンサを備えた計量装置とを記載している。シリンジは、把持レバーやラッチを用いてシリンジ・シリンダのシリンジ・フランジやシリンジ・プランジャの溝に保持されるが、スピゴットに固締されたり、直接変位式ピペット・チップのような中空のストローク・ロッド内に固締されたりしない。
【0012】
このような背景に対して、本発明の目的は、広範囲の用途を持つ直接変位式ピペット・チップおよびエア・クッション式ピペット・チップを提供することである。この点に関して、使用ミスが可能な限り防がれることとなる。
【0013】
本目的は、請求項1によるピペット・チップ・ファミリによって達成される。ピペット・チップ・ファミリの有利な実施形態は、従属請求項に示されている。
【0014】
本発明によるピペット・チップ・ファミリは、ピペット・ファミリのピペット・タイプが異なるピペットで使用するための、ピペット・チップ・タイプの異なるピペット・チップを備え、
・ 各ピペット・チップは、チップ・シリンダと、
・ チップ・プランジャと、を備え、
・ チップ・シリンダは、その下端部に先端開口部を備えた中空本体と、その上端部に装着用開口部と、ピペットのスピゴットのクランプ領域に固締するための内周のシート領域と、先端開口部とシート領域との間に円筒状のプランジャ走行路とを有し、
・ チップ・プランジャは、プランジャ走行路に密閉して案内されるプランジャと、ピペットのストローク・ロッドの下端部に孔を有する軸内径部に固締するための、上方に突出しているプランジャ・ロッドとを有し、
ピペット・チップ・ファミリは2以上のサブファミリを含み、
・ 同じサブファミリのピペット・チップは、チップ・タイプが同じであるピペット・チップか、チップ・タイプが異なるピペット・チップであり、チップ・プランジャのそれぞれ最深位置にあるプランジャ・ロッドの上端部が、シート領域に対して同じ位置にあり、
・ 異なるサブファミリのピペット・チップは、チップ・プランジャのそれぞれ最深位置にあるプランジャ・ロッドの上端部が、シート領域に対して異なる位置にあり、
・ そのため、各サブファミリのピペット・チップが、それに適合するピペット・タイプを用いてピペット操作するのに使用でき、かつそれに適合しないピペット・タイプを用いてはピペット操作するのに使用できない。
【0015】
さらに、本目的は、請求項10によるピペット・ファミリによって達成される。ピペット・ファミリの有利な実施形態は、従属請求項に示されている。
【0016】
本発明によるピペット・ファミリは、ピペット・チップ・ファミリのチップ・タイプが異なるピペット・チップで使用するための、ピペット・タイプが異なるピペットを備え、各ピペットは以下の特徴を備える:
・ 棒状のピペット・ハウジングと、
・ ピペット・ハウジングの下端部にあるスピゴットであって、上端部に装着用開口部を有するピペット・チップのチップ・シリンダの内周にシート領域を固締するためのクランプ領域を外周に有し、ピペット・チップのチップ・プランジャのプランジャ・ロッドを挿入するための貫通内径部を備えるスピゴットと、
・ 駆動装置であって、貫通内径部に向いているストローク・ロッドであって、スピゴットの長手方向に変位可能に案内され、チップ・プランジャの上端部を案内するための軸内径部と孔とを下端部に有し、この孔にチップ・プランジャの上端部を堅固に固締するためのクランプ装置とを有するストローク・ロッドと、操作要素であって、ピペット・ハウジングに対して変位可能なピペット・ハウジングから突出しており、下端部にある先端開口部とチップ・シリンダのシート領域との間にあるプランジャ走行路に密封式に案内されるチップ・プランジャのプランジャを変位させるためのストローク・ロッドに連結されている操作要素とを備える駆動装置と、
・ 細長の第1の検知要素であって、装着用開口部でスピゴットに押し込まれたピペット・チップのチップ・プランジャの上端部を検知するために操作要素が離されるとストローク・ロッドの軸穴内で上方に変位可能であり、このチップ・プランジャは軸内径部内に挿入されている第1の検知要素と、
・ 第1の検知要素に連結されている制御装置であって、ピペットのピペット・タイプに適合するピペット・チップ・ファミリのサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドを検知するときに、ピペットをピペット操作可能な状態にするように設計されており、ここではプランジャ・ロッドのそれぞれ最深位置にあるプランジャ・ロッドの上端部はシート領域と同じ位置にあり、ピペット・タイプに適合しないサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドを検知するときに、ピペットをピペット操作不能な状態にするように設計されており、ここではチップ・プランジャのそれぞれ最深位置にあるプランジャ・ロッドの上端部は、ピペット・チップに適合するサブファミリのピペット・チップとシート領域が異なる位置にある制御装置と、を備える。
【0017】
本発明によるピペット・チップ・ファミリでは、一体型プランジャのこれらのピペット・チップが異なるチップ・タイプを備えることで、用途が拡大する。たとえば、公称容積によって様々なチップ・タイプが互いに異なるピペット・チップ・ファミリでは、ピペット操作が可能な容積範囲は拡大され、かつ/または異なる容積がピペット操作可能な正確性が向上する。さらに、ピペット・チップ・ファミリの応用可能な範囲は、チップ・タイプが同じであるピペット・チップか、チップ・タイプが異なるピペット・チップによってそれぞれ形成される複数のサブファミリを含むものまで広がり、プランジャのそれぞれ最深位置にあるプランジャ・ロッドの上端部が、シート領域と同じ位置にある。このようにして、チップ・タイプが異なるピペット・チップを、それに適合するピペット・タイプの同じピペットで使用することが可能である。
【0018】
本発明によるピペット・ファミリでは、これらのピペットが異なるタイプを備えることで、用途が拡大する。たとえば、公称容積が異なるピペット・チップで使用可能な、様々なピペット・タイプが互いに異なるピペット・ファミリでは、ピペット操作が可能な容積範囲は拡大され、かつ/または異なる容積がピペット操作可能な正確性が向上する。さらに、応用範囲は、特定のピペット・タイプの各ピペットを、それに適合するサブファミリのピペット・チップすべてで使用可能であることに拡大される。このようにして、チップ・タイプの異なるピペット・チップを、同じピペットで使用することが可能である。
【0019】
各サブファミリのピペット・チップはそれに適合したピペット・タイプのピペットでしか使用することができず、特定のピペット・タイプのピペットはそれに適合したサブファミリのピペット・チップでしか使用することができないので、曖昧な誤差や不正確な計量、および他の適用ミスが防止される。
【0020】
ピペット操作とは、ピペット・チップに流体を吸入し、ピペットを用いて流体をピペット・チップから分注することをいう。ピペットを備えたピペット・チップの使用とは、ピペット・チップをピペットに保持すること、ピペットを移動させることによってピペットに保持されているピペット・チップを移動させること、およびピペット・チップとピペットとを用いてピペット操作することをいう。
【0021】
別の実施形態によると、チップ・タイプの異なるピペット・チップが、以下の特徴のうちの1つ以上で互いに異なっている:公称容積、形状、寸法、材料、表面コーティング、表面処理の有無、電気絶縁性または電気伝導性、純度。本発明は、特に前述の特徴に関してピペット・チップの適用範囲を拡大すると同時に、適用ミスを防止する。
【0022】
別の実施形態によると、ピペット・チップがカラーを有し、そのカラーは、装着用開口部を上端部に備え、シート領域をそのカラーの内周に備える。カラーは、貯蔵、搬送、およびピペット・チップをピペットのスピゴット上に固締する間、ピペット・チップをホルダ(ラック)に保持するのに特に有利である。さらに、カラーは、ピペット・チップをスピゴットに正確に位置決めし、ピペット・チップをスピゴットから分離するのに有利となり得る。
【0023】
別の実施形態は、チップ・タイプが異なるピペット・チップを備えた少なくとも1つのサブファミリを備え、これらのピペット・チップのそれぞれは、そのチップ・タイプ特徴的な高さを備えたカラーを有し、これらのピペット・チップは、そのシート領域が同じピペット・タイプのピペットのスピゴットの同じクランプ領域上にあるカラーの内周に固締されるように設計されているので、それらのカラーを用いてピペット・チップはそのスピゴット上の高さが異なる。カラーの高さは、カラーの上縁部からピペット・チップのシート領域までの垂直方向の距離であることが好ましい。この実施形態では、検知装置はピペット・チップの種類に応じてピペットの表示装置の表示を設定するように、高さの異なるカラーを備えたピペット・チップが、ピペットの検知装置の検知要素を制御することができる。したがって、チップ・タイプの異なるピペット・チップをピペットのスピゴットに固締する間、この表示がそれぞれ装着されたピペット・チップのチップ・タイプを示すように設定される。特に、このことによって、ピペットによって表示された体積を、装着されたピペット・チップの公称容積に設定することができる。高さの異なるカラーを備えたピペット・チップが、欧州特許第18168763.3号(欧州特許公開第3560596A1号)の請求項8および明細書の対応する部分、ならびに例示的実施形態に記載されている。高さの異なるカラーを検知するための検知装置を備えたピペットが、同じ特許出願の請求項1から請求項16および明細書の対応する部分、ならびに例示的実施形態に記載されている。この点に関して、上述の特許出願を参照し、これによってその内容は本願に組み込まれるものとする。
【0024】
別の実施形態によると、それに適合する同じピペット・タイプのピペットで使用する、異なるタイプのピペット・チップの公称容積は1または2以上の小数点以下の桁数が互いに異なる。このことは、カウンタの異なる小数点以下の桁数へマークを調整することにより、機械式カウンタを用いて体積表示を自動的に設定するのに有利となる。
【0025】
別の実施形態によると、ピペット・チップのシート領域は、ピペットのスピゴットの外周にクランプ領域の円周環状溝とスナップ嵌めするための円周ビードをチップ・シリンダの内周に有し、かつ/または、ピペット・チップのシート領域は、ピペットのスピゴットの外周にクランプ領域の円周ビードをスナップ嵌めするための円周環状溝を内周に有する。このようにして、ピペット・チップがスピゴットにしっかりと保持される。さらに、これによって、ピペット・チップがスピゴットの規定位置に確実に適合することができる。このことは、各サブファミリのピペット・チップがそれに適合したピペットでしか使用できない状況の一因となる。好ましい実施形態によると、チップ・プランジャのそれぞれ最深位置にあるプランジャ・ロッドの上端部によって占める位置が、ピペット・チップのビードまたは環状溝に関係する。この実施形態によると、プランジャ・ロッドの上端部がシート領域に対してチップ・プランジャのそれぞれ最深位置にある位置とは、プランジャ・ロッドの上端部がピペット・チップのビードまたは環状溝に対してチップ・プランジャのそれぞれ最深位置にある位置である。換言すれば、この文脈では、シート領域がビードまたは環状溝によって画定される。
【0026】
別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリが、第1のサブファミリのうちの少なくとも1つのチップ・タイプのピペット・チップであって、チップ・プランジャのそれぞれ最深位置に、それに適合する第1のピペット・タイプのピペットで使用するためにチップ・シリンダの内周にあるビードの上の第1の位置に配置されているプランジャ・ロッドの上端部を有する、ピペット・チップと、第2のサブファミリのうちの少なくとも1つの別のチップ・タイプのピペット・チップであって、チップ・プランジャのそれぞれ最深位置に、それに適合する第2のピペット・チップのピペットで使用するためにチップ・シリンダの内周に配置されているビードの下の第2の位置に配置されているプランジャ・ロッドの上端部を有する、ピペット・チップと、第3のサブファミリのうちの少なくとも1つの別のチップ・タイプのピペット・チップであって、チップ・プランジャのそれぞれ最深位置に、それに適合する第3のピペット・タイプのピペットで使用するために第1の位置と第2の位置との間にある第3の位置に配置されているプランジャ・ロッドの上端部を有するピペット・チップと、を備える。この実施形態では、ピペット・チップを間違って使用したことによる誤差を特に高信頼性で防ぐことができる。別の実施形態によると、第3のサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドの上端部が、チップ・プランジャのそれぞれ最深位置にあるビードとほぼ同じ高さに配置されている。
【0027】
別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリが、第1のピペット・タイプのピペットで使用するための公称容積が10μlと100μlの第1のサブファミリのピペット・チップと、第2のピペット・タイプのピペットで使用するための公称容積が25μlと250μlの第2のサブファミリのピペット・チップと、第3のピペット・タイプのピペットで使用するための公称容積が1000μlの第3のサブファミリのピペット・チップとを備える。
【0028】
別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッド、および/または、ピペット・ファミリのピペットのストローク・ロッドが、少なくとも下端部に弾性的に形成されるので、プランジャ・ロッドの弾性変形によってプランジャ・ロッドがストローク・ロッドの軸内径部に、かつ/またはストローク・ロッドの下端部に圧入可能である。別の実施形態によると、ピペット・ファミリのピペットが、長手方向に走る少なくとも1つのスロットを下端部に有するストローク・ロッドを有している。この少なくとも1つのスロットによって、ストローク・ロッドの弾性的な拡張が促進される。別の実施形態によると、ストローク・ロッドがそれぞれ複数のスロット、たとえば3つのスロットを有する。別の実施形態によると、スロット間に残るストローク・ロッドの部分が内側に突出するフック部材として下部に形成される。このフックを用いて、プランジャ・ロッドが特に高信頼性で堅固に固締される。
【0029】
別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリがピペット・チップを備え、ここでは、プランジャ・ロッドが、ストローク・ロッドの1つのクランプ要素または複数のクランプ要素を堅固に固締するためのクランプ溝を有する。
【0030】
別の実施形態によると、クランプ要素が、スロット間のストローク・ロッドの部分に形成されるフックである。別の実施形態によると、フックがクランプ溝に形状適合的に係合するように形成されている。別の実施形態によると、クランプ要素がクランプ用ばねである。
【0031】
別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリがピペット・チップを備え、ここでは、プランジャ・ロッドが、ストローク・ロッドの1つのクランプ要素を堅固に固締するための外径が大きな下部ロッド部を有し、この上に、上部ロッド部を有し、上部ロッド部は下部ロッド部よりも直径が小さいので、上部ロッド部はストローク・ロッドのクランプ要素によって堅固に固締することは不可能である。別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリがピペット・チップを備え、ここでは、プランジャ・ロッドが、外径が大きな下部ロッド部にストローク・ロッドの少なくとも1つのクランプ要素を堅固に固締するクランプ溝を有し、この上の上部ロッド部では、下部ロッド部よりも直径が小さい。このことによって、ピペット・チップが目的の種類のピペットにのみ接続可能となる。
【0032】
別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリがピペット・チップを備え、ここでは、プランジャ・ロッドが、ストローク・ロッドの下端部の孔の縁に、上端部から一定の距離を置いて支持するためのハード・ストップを有する。ハード・ストップによって、プランジャ・ロッドがストローク・ロッドへ深く圧入されることが防がれる。このように深く圧入されると、たとえば高粘度の流体をピペット操作する際に、ピペット・チップに入り込んだ液体が完全には分注できないという影響がある。
【0033】
別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリがピペット・チップを備え、ここでは、チップ・プランジャが、ストローク・ロッドの少なくとも1つのクランプ要素を堅固に固締するための下部ロッド部の下に、かつ/またはストローク・ロッドの少なくとも1つのクランプ要素を堅固に固締するためのクランプ溝の下に、ストローク・ロッドの下端部の孔の縁に、支持するためのハード・ストップを有する。ハード・ストップによって、ピペット・チップによって吸入された流体が完全には分注できない深さまでプランジャ・ロッドがストローク・ロッドのシートへ深く圧入されることが防がれる。ハード・ストップがなければ、たとえば高粘度の流体をピペット操作する場合にこのことが生じてしまう。ピペット・チップから高粘度の流体を分注するとき、流体の流動抵抗が高いためにプランジャに強い力が作用し、それによってプランジャがシートのより深いところに押し込まれる可能性がある。このことは、ストローク・ロッドの下端部にある孔の縁にハード・ストップを配置することによって防止される。このようにして、ピペット操作の誤差が回避される。
【0034】
別の実施形態によると、ピペット・チップ・ファミリが、1つ以上のプラスチックから作られたピペット・チップを備える。別の実施形態によると、ピペット・チップがポリプロピレン、および/またはポリエチレンからなる。別の実施形態によると、ピペット・チップがポリプロピレンからなり、チップ・プランジャがポリエチレンからなる。
【0035】
本発明によるピペット・ファミリの別の実施形態によると、ピペットの制御装置が、少なくとも1つのピペット・タイプ用の機械的制御装置である。別の実施形態によると、すべてのピペット・タイプのピペットが、機械的制御装置を有する。
【0036】
別の実施形態によると、ピペット・ファミリの各ピペットの制御装置が以下のように設計されている:(i.)ピペットに適合するサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドの長さを有するプランジャ・ロッドを検知する場合、駆動装置をピペット操作が可能な状態にし、ピペット・チップをスピゴットおよびストローク・ロッドに堅固に固締することができる状態にし、かつ/または、(ii.)ピペットに適合するサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドよりも短いプランジャ・ロッドを検知する場合、駆動装置をピペット操作ができない状態にし、かつ/または、(iii.)ピペットに適合するサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドよりも長いプランジャ・ロッドを検知する場合、ピペット・チップをスピゴットおよび/またはストローク・ロッドに堅固に固締しないようにする。このようにして、各ピペット・タイプのピペットが、それに適合したサブファミリのピペット・チップでのみ使用することが可能となる。
【0037】
別の実施形態によると、ピペット・ファミリの各ピペットの制御装置が、
・ ピペット・ハウジング内に回転可能に装着される湾曲支持部を備える吐出装置と、
・ ピペット・ハウジング内でスピゴットの長手方向に変位可能に案内される細長い第1の検知要素にある、第2の検知要素であって、この第2の検知要素は、湾曲支持部の周縁部にある第1の曲線部を案内される、第2の検知要素と、
・ 湾曲支持部に接続され、ピペット・ハウジングから突出し、ピペット・ハウジングに対して回転可能な操作要素と、を有し、
・ 吐出装置は、操作要素をピペット操作位置から吐出位置へと回転させることによって湾曲支持部を回転させるように設計されており、第1の曲線部は、第2の検知要素を下方に変位させるので、細長い第1の検知要素がスピゴットに保持されたピペット・チップをスピゴットから押し離し、
・ 吐出装置は、細長の第1の検知要素を用いて、ピペットに適合するサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドよりも短いプランジャ・ロッドを検知するときに、操作要素を吐出位置からピペット操作位置へと回転しないように設計されているので、ピペット操作が防止される。
【0038】
本実施形態では、制御装置は、同時に、使用済のピペット・チップをピペットから取り外すのに使用可能な吐出装置でもある。操作要素をピペット操作位置から吐出位置へと回転させることによって、ピペット・チップをスピゴットから押し離すことが可能である。ピペット・チップをスピゴットに装着する場合、第1の検知要素がピペットに適合するサブファミリのプランジャ・ロッドを検知すると、操作要素が吐出位置からピペット操作位置へと回転する。プランジャ・ロッドが短ければ、操作要素はピペット操作位置まで回転しないので、吐出装置がピペット操作することはない。本実施形態では、たとえプランジャ・ロッドが短くて細長の第1の検知要素によって検知されなくても、操作要素は吐出位置からピペット操作位置まで回転しないので、ピペット操作が防止される。
【0039】
別の実施形態によると、ピペット・ファミリの各ピペットの制御装置が、
・ スピゴットが、ピペット・チップに形状適合的に接続する装置であって、スピゴットを弾性的に収縮させつつ、かつ/または、チップ・シリンダ、プランジャ・ロッドの下端部、および/またはプランジャ・ロッドの上端部を形状適合的にスピゴットに接続する前に弾性的に拡張させつつ、ピペット・チップをスピゴットに押し付けることができ、かつ/または、ストローク・ロッドをスピゴットに押しつけることができ、かつ/またはストローク・ロッド内に押し込むことができる装置と、
・ ロック装置であって、スピゴットおよび/またはストローク・ロッドに同心円状に配置されているロック・スリーブと、ロック・スリーブから上方へ突出しており、ピペット・ハウジング内でスピゴットの方向に変位可能に案内される制御ロッドと、制御ロッドから突出している第3の検知要素と、湾曲支持部の周縁部にある第2の曲線部であって、この上に第3の検知要素が案内され、ピペット操作位置に操作要素を配置するときに、ロック位置にあるロック・スリーブがスピゴットを内側で制限し、かつ/またはチップ・シリンダを外側で制限し、かつ/またはストローク・ロッドを外側で制限し、かつ/またはプランジャ・ロッドを外側で制限するように設計されているので、ロック・スリーブは、スピゴットおよび/またはストローク・ロッドに形状適合的に接続されているピペット・チップが、スピゴットおよび/またはストローク・ロッドから外れるのを防ぐ、第2の曲線部と、を備えるロック装置と、を備え、
・ 操作要素をピペット操作位置から吐出位置へと回転させることによって、スピゴットおよび/またはピペット・チップが少なくとも部分的に露出されるようにロック・スリーブが上方に変位可能であり、細長の第1の検知要素がピペット・チップをスピゴットから押し離し、細長の第1の検知要素を用いてプランジャ・ロッドを検知するとき、このプランジャ・ロッドはピペットに適合するサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドよりも長く、ピペット・チップをピペットに堅固に固締することを防ぐように、ロック・スリーブがロック位置へと変位可能である。
【0040】
本実施形態では、制御装置は、同時に、ピペット・チップをピペットに形状適合的に接続する装置でもあるので、ピペット・チップをピペットに特に堅固に保持することが可能である。ピペット・チップをスピゴットに装着し、そのためにプランジャ・ロッドがピペットに適合するピペット・チップの長さを有する場合、ロック・スリーブが第1の検知要素によってロック位置へと回転し、このようにしてピペットがスピゴットに固定される。プランジャ・ロッドがピペットに適合するサブファミリのピペット・チップのプランジャ・ロッドよりも長い場合、ピペット・チップが十分にスピゴットに押される前に、すなわちロック・スリーブがロック位置まで変位できない程度までスピゴットが弾性的に収縮し、かつ/またはピペット・チップが弾性的に拡張すると、ロック・スリーブがロック位置へと変位する。このことによって、ピペット・チップがスピゴットへさらに押し込まれることはないので、ピペット操作が可能となるようなピペット・チップとピペットとの接続が不可能となる。さらに、操作要素が吐出位置からピペット操作位置へとならないので、このことによってもピペット操作が防止される。
【0041】
互いに形状適合的に接続可能であるピペット・チップおよびピペットと、ピペットに形状適合的に接続されているピペット・チップが外れないようにするロック装置とが、独国特許出願第102020118587.1号に記載されている。
【0042】
別の実施形態によると、各ピペット用の制御装置はハード・ストップを備え、このハード・ストップはピペット・チップをスピゴットに押し付けることを制限するので、ピペットに適合するサブファミリのピペット・チップのカラーよりも長いカラーを有するピペット・チップをスピゴットに押し付ける場合に、ハード・ストップはピペット・チップがピペットに堅固に固締されるのを防ぐ。本実施形態では、制御装置は、同時に、ピペットに適合するピペット・チップがスピゴットの規定のシートを有することを確保する。このようにして、ピペット・チップをスピゴットに固締し、ピペット・チップをスピゴットから取り外すための力も制限することができる。特に、ハード・ストップは、ピペット・ハウジングの底面、スピゴットの肩部、またはピペットの別のハード・ストップに対して変位可能な第4の検知要素の底面によって形成することができる。
【0043】
別の実施形態によると、スピゴットが特定の形状を有する。別の実施形態によると、スピゴットは、円錐形、円筒形、または部分的に円錐形および円筒形の凸部である。
【0044】
別の実施形態によると、スピゴットが円錐角度の異なる複数の円錐部を有する。さらに、スピゴットは少なくとも1つの円筒部を有していてもよい。
【0045】
さらに、本発明は、請求項1から9のうちの一項に記載のピペット・チップ・ファミリと、請求項10から14のうちの一項に記載のピペット・ファミリからなるピペット・システムに関する。
【0046】
本発明を、例示的実施形態の添付図面に基づいて、以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】ピペット・チップがスピゴットに取り付けられている、容積式ピペットの部分的に切り抜いた斜視図である。
【
図2】ピペット・チップが取り付けられている同じ容積式ピペットの内側に隣接するロック・スリーブを有する、スロット付きスピゴットの拡大斜視図である。
【
図6】
図1の容積式ピペットのピペット・ハウジングがない拡大図である。
【
図7】同じ容積式ピペットの、吐出ロッドおよびロック・スリーブが開始位置にある回転スリーブの斜視図である。
【
図8】開始位置にある同じ直接変位式ピペットの部分的に切り抜いた断面図である。
【
図9】ピペット操作中の同じ直接変位式ピペットの部分的に切り抜いた断面図である。
【
図10】吐出中の同じ直接変位式ピペットの部分的に切り抜いた断面図である。
【
図12】5つのピペット・チップ・タイプと公称容積が10μl(
図12a)、25μl(
図12b)、100μl(
図12c)、250μl(
図12d)および1000μl(
図12e)のピペット・チップを含む3つのサブファミリとを有するピペット・チップ・ファミリの縦断面図である。
【
図13】公称容量が1000μl(
図13a)、10μl(
図13b)、100μl(
図13c)、25μl(
図13d)および250μl(
図13e)のピペット・チップが装着されている、最大で1000μlのサンプルをピペット操作するために設計された同じ直接変位式ピペットの部分的に切り抜かれた縦断面図である。
【
図14】公称容量が10μl(
図14a)、100μl(
図14b)、25μl(
図14c)、250μl(
図14d)および1000μl(
図14e)のピペット・チップが装着されている、最大で100μlのサンプルをピペット操作するために設計された同じ直接変位式ピペットの部分的に切り抜かれた縦断面図である。
【
図15】公称容量が25μl(
図15a)、250μl(
図15b)、10μl(
図15c)、100μl(
図15d)および1000μl(
図15e)のピペット・チップが装着されている、最大で250μlのサンプルをピペット操作するために設計された同じ直接変位式ピペットの部分的に切り抜かれた縦断面図である。
【
図16】ハード・ストップがスピゴットに装着されているピペット・チップを備えた、直接変位式ピペットの下端部の縦断面図である。
【
図17】5つのピペット・チップ・タイプと公称容積が10μl(
図17a)、25μl(
図17b)、100μl(
図17c)、250μl(
図17d)および1000μl(
図17e)のピペット・チップを含む3つのサブファミリとを有するピペット・チップ・ファミリの縦断面図である。
【0048】
本出願では、「上部」および「下部」、ならびに「垂直」および「水平」という表記や、これらに由来するたとえば「上」、「下」、「直立」および「上下逆」ならびに「一方を他方の上に」などの用語は、スピゴットが垂直に向いており、ピペット・ハウジングの下向きの端部に位置する、ピペットの配置を示す。ピペット・チップに関して、これらの表記は、ピペット・チップの中央軸の垂直の向きを示し、先端開口部は底部に配置され、装着用開口部は頂部に配置されている。
【0049】
図1によると、容積式ピペットとして構成されているピペット1が、ロッド状の(たとえば円筒形の)ピペット・ハウジング2を有する。中空の円筒形の軸部3がピペット・ハウジング2の下端部から下方へ突出している。スピゴット4が軸部3の下端部から突出しており、このスピゴット4は、
図1および
図4によると、貫通孔をその下端部に備えた貫通内径部5を有する。貫通内径部5の内径は、軸部3の内径よりも小さい。
【0050】
スピゴット4は、中空の円錐形状をした上部スピゴット部6と、その下に、中空の円錐形状をした下部スピゴット部7とを有する。
【0051】
上部スピゴット部6は、下部スピゴット部7よりも小さな円錐角を有する。環状溝8が上部スピゴット部6と下部スピゴット部7との間でスピゴット4の外周を周回する。
【0052】
上部スピゴット部6、環状溝8、および下部スピゴット部7が、ピペットをピペット・チップに形状適合的に接続するための第1の装置を形成する。環状溝8は、ピペット・チップの対応するビード用のクランプ領域9を形成する。
【0053】
さらに、スピゴット4は、その長手方向に走行する、好ましくは3つのスロット10、11を有し、スロット10、11は、スピゴット4の円周に等間隔に分配されている。スロット10、11はスピゴット4の下端部から全長にわたり延びている。
【0054】
図1、
図5、および
図6によると、駆動装置12がピペット・ハウジング2内にあり、伝達ロッド14の形をした伝達要素13と、伝達機構15と、ストローク・ロッド17の形をしたドライブ要素16とを備える。さらに、駆動装置12は、操作レバー19の形をした操作要素18を備え、バー20を介して支持プレート21に堅固に接続されている。
【0055】
図6によると、支持プレート21は、広幅の丸い端部と狭幅の丸い端部とを備えた楕円形であり、操作レバー19が狭幅の丸い端部の縁部から突出している。この縁部に加えて、支持プレート21は第1の湾曲スロット22を有し、第1の湾曲スロット22は狭幅の丸い端部の輪郭にほぼ平行に走行する。さらに、支持プレート21は、狭幅の丸い端部側にある第1の湾曲スロット22の中央に、矩形の第1の縁部切り欠き部23を有する。
【0056】
図1および
図5によると、ストローク・ロッド17が軸部3およびスピゴット4に上から挿入される。
図4によると、ストローク・ロッド17は中空であり、ストローク・ロッド17の下端部にある孔25まで延びる軸内径部24を備えている。さらに、ストローク・ロッド17は、その上端部から始まり長手方向を走行しその下端部の前で終端する縦スロット26を有する。縦スロット26があるために、ストローク・ロッド17の断面はC字形をしている。その下端部が、プランジャ・ロッドの上端部用のシート27を形成している。
【0057】
図13によると、ストローク・ロッド17が、その下端部に隣接するスロットなしの領域に、円周方向のクランプ用ばね溝28を有する。ストローク・ロッド17の直径方向に対向する両側には、クランプ用ばね溝28内にクランプ用スロット29.1、29.2があり、クランプ用ばね溝28は、ストローク・ロッド17の内側に向かって開口している。クランプ用ばね30は、クランプ用ばね溝28に挿入され、クランプ用スロット29.1、29.2を用いてストローク・ロッド17の内側断面で合する。
【0058】
伝達機構15は、操作レバー19を繰り返し下方へ変位させると、その下方の変位の間で操作レバー19が上方に変位し、操作レバー19の変位の間にストローク・ロッド17が上下に交互に変位するように構成されている。したがって、操作レバー19を下方に押圧することによって、ストローク・ロッド17を下部位置から上部位置へ変位させることができ、ストローク・ロッド17は、その後操作レバー19が上方へ変位する間、上部位置を保持し、次いで操作レバー19を下方へ押圧することによって、ストローク・ロッド17が再び下方へ変位する。このことは、必要な頻度で繰り返すことができる。
【0059】
図1、
図5、および
図6によると、ピペット1が吐出装置31を備える。吐出装置31は、ピペット・ハウジング2内に回転可能に取り付けられており、中空の円筒形回転スリーブ33として構成されている湾曲支持部32を備える。回転スリーブ33は、たとえばその外周によってピペット・ハウジング2の内周に回転可能に取り付けられ、その上下の端部はピペット・ハウジング2の内周にある段のレッジに支持されるので、ピペット・ハウジング2内で軸方向に変位することは不可能である。回転スリーブ33の回転軸は、ピペット・ハウジング2の縦軸およびスピゴット4の縦軸と一致する。
【0060】
回転スリーブ33は直径方向に対向する両面にその回転軸に平行な切り欠き部34、35を有し、切り欠き部34、35は回転スリーブ33の上縁部から延びその下縁部からある距離のところで終端する。したがって、回転スリーブ33は、切り欠き部の下では環状ベース36からなり、また、側面では2つの切り欠き部34、35に隣接する環状部の、直径方向に対向する2つのセクタ37、38からなる。
【0061】
第1の曲線部39および第2の曲線部40が、回転スリーブ33の環状ベース36の外周に配置されている。第1の曲線部39は、逆(上下逆)Yの形をした第1の溝41として構成されている。そのY形の垂直部42は、セクタ37の上縁部の直前でセクタ37に向かってさらに上方へ延びている。第2の曲線部40は、直立したVの形をした回転スリーブ33のベース36の外周にある第2の溝43である。第1の曲線部39および第2の曲線部40は、回転スリーブの円周上で互いに90度ずれるように配置されている。第1の曲線部39および第2の曲線部40はそれぞれ、回転スリーブ33の円周にわたって90度未満の角範囲にわたって延びている。
【0062】
図1、
図5、および
図6によると、吐出装置31は第1の細長の検知要素44(吐出ロッド)を備え、検知要素44は、帯状の上部吐出ロッド部45と円筒形の下部吐出ロッド部46とを備える。上部吐出ロッド部45および下部吐出ロッド部46は互いに平行であり、互いに対して側方にずれるように配置されている。上部吐出ロッド部45の下端部が、2つの吐出ロッド部に対して斜めに傾斜している帯状の接続ロッド部47によって、下部吐出ロッド部46の上端部に接続されている。第1のガイド・ピン49の形をした第2の検知要素48が、上部吐出ロッド部45の内側から直角に延びている。第1の検知要素44は、好ましくは、たとえば硬質プラスチックや金属から単一部品として構成される。
【0063】
図1、
図4、および
図7によると、第1の検知要素44がガイド・ピン49によって第1の溝41に案内され、接続ロッド部47がストローク・ロッド17の縦スロット26を貫通し、下部吐出ロッド部46がその下端部の直前までストローク・ロッド17内で延びている。
【0064】
図1、
図4、
図5、および
図6によると、ピペット1はロック装置50を備え、ロック装置50は、ロック・スリーブ51と、それに平行な帯状の制御ロッド52とを備える。ロック・スリーブ51の上端部および制御ロッド52の下端部が第2の接続ロッド部53によって互いに接続されており、第2の接続ロッド部53はロック・スリーブ51および制御ロッド52に対して斜めに角度をつけられている。第2のガイド・ピン55の形をした第3の検知要素54が、制御ロッド52の内側から突出している。
【0065】
図1および
図7によると、第2のガイド・ピン55が第2の溝43に案内される。
図1および
図4によると、ロック・スリーブ51が軸部3に上から挿入され、スピゴット4の内面に当接する。ストローク・ロッド17および細長の第1の検知要素44が、上からロック・スリーブ51に挿入される。
【0066】
第1の湾曲スロット22を備えた操作要素18が、回転スリーブ33のセクタ37に押し付けられ、そのセクタ内で第1の溝41が延びている。
図1、
図6、および
図7によると、回転スリーブ33は、2つのセクタ37、38をつなぎ、回転スリーブ33を安定化させる支持リング56に頂部で接続されている。支持リング56は、その外縁部で下方へ突出するジャケット57を有し、ジャケット57は2つのセクタ37、38をその外縁部に沿って包囲する。さらに、支持リング56はセクタ38の上縁部を占める第2の湾曲スロット58を有し、この上縁部は溝41、43を備えていない。ジャケット57の径方向反対側には、操作レバー19と支持プレート21との間にバー20を受けるように構成された、底部に開口した直線状の第2の縁切欠き部59がある。
【0067】
支持リング56は、たとえば、接着により、かつ/または形状が適合するように、回転スリーブ33に接続されている。
【0068】
回転スリーブ33およびロック・スリーブ51、ならびに操作要素18は、たとえば1つ以上の硬質プラスチックおよび/または金属から作られる。回転スリーブ33、支持リング56、操作要素18、および/またはロック・スリーブ51は、好ましくはそれぞれ1つの部品として構成される。また、操作要素18の操作ボタンは、弾性プラスチックもしくは軟質弾性プラスチック、またはゴムから製造することもできる。
【0069】
図11によると、操作レバー19が外側から操作可能となるように、操作レバー19は、第1のハウジング・スロット60を通ってピペット・ハウジング2から延びており、第1のハウジング・スロット60は、ピペット・ハウジング2の縦軸を横断し、ピペット・ハウジング2の円周の一部に亘って延びている。第1のハウジング・スロット60は、ピペット・ハウジング2の長手方向に走行する第2のハウジング・スロット61の中央に接続されている。
【0070】
ばね装置の作用に反して、操作レバー19は、支持リング56から第2のハウジング・スロット612に沿って下方へ変位可能であり、回転スリーブ33のセクタ37にある第1の湾曲スロット22を用いてスライドする。ばね装置は、解除後、操作レバー19を独立して上方へ戻して変位させる。
【0071】
スリーブ状の第4の検知要素62が軸部3の外側で案内される。軸部に案内されるコイルばね63の形をしたばね装置が、ピペット・ハウジング2の底面および第4の検知要素62の頂面に当接する。コイルばね63を用いて、第4の検知要素62が上から軸部3のハード・ストップ要素またはスピゴット4に押圧される。
【0072】
計量体積を調整する調整つまみ64が、ピペット・ハウジング2の頂部に配置されている。この調整つまみ64を回転させることによって、計量体積を調整することができる。調整つまみ64の下のピペット・ハウジング2内に配置されているカウンタ65が、それぞれの場合に調整された計量体積を表示する。調整つまみ64および/またはカウンタ65は、伝達機構15に連結されている。伝達機構15は、特定の調整された計量体積に応じてストローク・ロッド17のストロークを変更するように構成されており、このストロークは操作要素18を下方へ変位させることによって行われる。
【0073】
図1から
図4によると、チップ・シリンダ67およびチップ・プランジャ68を備えるピペット・チップ66が、スピゴット4に取り付けられている。チップ・シリンダ67は、先端開口部70を有する管状本体69を下端部に、装着用開口部71を有するカラー72を上端部に、スピゴット4にクランプ締めするための接続領域73をカラー72の内周に備える。接続領域73は、スピゴット4と相補的であり、円錐形の下部スピゴット部7を収容するための円錐形の下部接続部74を底部に、スピゴット4の環状溝8に係合するための円周ビード75をその上に、円筒形の上部スピゴット部6を収容するための円錐形の上部接続部76をその上に有する輪郭をしている。下部接続部74、ビード75、および上部接続部76は、ピペット・チップ66をピペット1に形状適合的に接続するための第2の装置を形成する。
【0074】
接続領域73の下に、管状本体69は円筒形のプランジャ走行路77を有する。その下に、管状本体69は下方へ先細りする先端部78を有し、その形状は円錐台である。先端部78は
図4に示されており、簡略化のため他の図面では省略されている。
【0075】
チップ・プランジャ68が管状本体69に挿入される。チップ・プランジャ68は、プランジャ走行路77に案内されるプランジャ79を備える。プランジャ・ロッド80は、プランジャ79から上方へ突出し、プランジャ79よりも直径が小さい。プランジャ・ロッド80は直径の大きな下部ロッド部81と、この上に、下部ロッド部81よりも直径が小さな上部ロッド部82とを有する。下部ロッド部81には、プランジャ・ロッド80は円周クランプ溝83を外側に有する。
【0076】
図12によると、ピペット・チップ・ファミリが、5つの異なるピペット・チップ・タイプを備える。これらは、ピペット・チップ・タイプ66.1~66.5であり、10μl(
図12a)、25μl(
図12b)、100μl(
図12c)、250μl(
図12d)および1000μl(
図12e)の3つの異なる公称容積を備える。
図12によるピペット・チップ66.1~66.5のすべてにおいて、チップ・プランジャ68.1~68.5がチップ・シリンダ67.1~67.5に可能な限り深く押し込まれた位置にある。
【0077】
チップ・プランジャ68.1~68.3をチップ・シリンダ67.1~67.3に押し込むことは、ディスク84.1~84.3によって公称容積10μl、25μl、および100μlであるより小さいピペット・チップ66.1~66.3において制限され、このディスク84.1~84.3は、チップ・シリンダ67.1~67.3内のレッジ85.1~85.3に着座するプランジャ・ロッド80.1~80.3とプランジャ79.1~79.3との間のチップ・プランジャ68.1~68.3に配置されている。この2つの大きなピペット・チップ66.4、66.5は、公称容積が250μlおよび1000μlであるが、チップ・プランジャ68.4、68.5をチップ・シリンダ67.4、67.5において中心を合わせる働きをするディスク84.4、84.5も有する。ピペット・チップ66.4~66.5では、チップ・プランジャ68.4~68.5の最深位置は、チップ・シリンダ67.3~67.5の下端部にある円錐先端部78.4~78.5に円錐プランジャ79.4~79.5を配置することによって(追加的に)規定される。
【0078】
異なる公称容積は、チップ・シリンダ67.1~67.5のカラー72.1~72.5の異なる高さによって識別される。カラー72.1~72.5の高さは、ビード75.1~75.5からカラーの上縁部までの距離として示される。
【0079】
公称容積が10μlおよび100μlのピペット・チップ66.1、66.3は、第1のサブファミリ86.1を形成する。これらのピペット・チップ66.1、66.3では、チップ・プランジャ68.1、68.3がその最深位置にあるとき、プランジャ・ロッド80.1、80.3の上端部が、円周ビード75.1、75.3によって画定されるシート領域87.1、87.3の上方の同じ位置を占める。
【0080】
公称容積が25μlおよび250μlのピペット・チップ66.2、66.4は、第2のサブファミリ86.2を形成する。これらのピペット・チップ66.2、66.4では、チップ・プランジャ68.2、68.4がその最深位置にあるとき、プランジャ・ロッド80.2、80.4の上端部が、ビード75.2、75.4によって画定されるシート領域87.2、87.4の下方の同じ位置にある。
【0081】
公称容積が1000μlのピペット・チップ66.5は、第3のサブファミリ86.3を形成する。これは、単一のファミリ部材のみで構成される。このサブファミリ86.3では、チップ・プランジャ68.5がその最深位置にあるとき、プランジャ・ロッド80.5の上端部が、ビード75.5によって画定されるシート領域87.5の上縁部とほぼ同じ高さで配置される。
【0082】
図13から
図15によると、ピペット1.1~1.3が異なるピペット・チップ66.1~66.5でピペット操作するために異なるように構成されている。
図13によると、ピペット1.3が、100μlから1000μlの範囲にある第3のサブファミリ86.3のピペット・チップ66.5でピペット操作するように構成されている。
図14によると、ピペット1.1が、1μlから100μlの範囲にある第1のサブファミリ86.1のピペット・チップ66.1、66.3でピペット操作するように構成されている。
図15によると、ピペット1.2が、2.5μlから250μlの範囲にある第2のサブファミリ86.2のピペット・チップ66.2、66.4でピペット操作するように構成されている。
【0083】
図13から
図15によると、チップ・プランジャ68はいずれの場合もチップ・シリンダ67の最深位置に配置されている。この状況においてプランジャ・ロッド80の上端部が占める位置を、本出願では「開始位置」と呼ぶ。
【0084】
図13aは、公称容積が1000μlのピペット・チップ66.5が装着されている、1000μlまでの容積をピペット操作するためのピペット1.3を示す図である。この開始位置では、プランジャ・ロッド80.5の上端部が、チップ・シリンダ67.5のビード75.5の上縁部とほぼ同じ高さにある。ビード75.5に関して、ピペット・チップ66.5のカラー72.5は、公称容積が1000μlのピペット・チップ66.5に対して特定の長さを超えて上方に突出する。
【0085】
図13bによると、ピペット・チップ66.1はピペット1.3では使用不可能である。これは、ピペット・チップ66.1をスピゴット4上にさらに押し付けることができないように、カラー72.1の上縁部が第4の検知要素62を上部ハード・ストップに押し付けるためである。したがって、プランジャ・ロッド80.1が第1の検知要素44をピペット1.3に十分に上方に押し込まないので、このことによって、操作要素18が第2のハウジング・スロット61の上方にある第1のハウジング・スロット60の中央にあるピペット操作位置まで変位しない。第1のハウジング・スロット60の側方に枢動される操作要素18の位置によって、ピペット操作が防止される。
【0086】
図13cによると、ピペット・チップ66.3はピペット1.3では使用不可能である。これは、ロック・スリーブ51をロック位置まで変位させるために、プランジャ・ロッド80.3の上端部が第1の検知要素44を押し上げているためである。しかしながら、この時、ロック・スリーブ51がロック位置に到達しないように、したがって、回転スリーブ33および操作要素18がさらに回転運動することが阻止されるように、スピゴット4がビード75.3によって共に押圧される。このために、操作要素18はまた、第1のハウジング・スロット60内の吐出位置とピペット操作位置との間の側方位置に留まり、このことによってもピペット操作が防止される。
【0087】
図13dによると、ピペット・チップ66.2がスピゴット4に押し付けられ、第4の検知要素62を上部ハード・ストップに押圧する。ビード75.2は環状溝8に係合しておらず、プランジャ・ロッド80.2は短すぎるので第1の検知要素44を押し上げることができない。したがって、操作要素18が第2のハウジング・スロット61の上方中央にあるピペット操作位置まで第1のハウジング・スロット60内を変位しない。クランプ用ばね30は、クランプ溝83.2に係合しない。ピペット操作は不可能である。
【0088】
図13eによると、ピペット・チップ66.4がピペット1.3に固締され、ここでは、溝8およびクランプ用ばね30を備えたビード75.4がクランプ溝88.4にスナップ嵌めされる。しかし、プランジャ・ロッド80.4は、第1のスロット60内の操作要素18を第2のスロット61の上方中央にあるピペット操作位置まで変位させるのに十分遠くに第1の検知要素44を押し上げるには短すぎる。ロック・スリーブ51もロック位置まで変位しない。全体としては、このようにしてピペット操作が防止される。
【0089】
図14aによると、公称容積が10μlのピペット・チップ66.1が、100μlまでの容積をピペット操作するためのピペット1.1に装着されている。この開始位置では、プランジャ・ロッド80.1の上端部が、チップ・シリンダ67.1のビード75.1に対して一定の長さにわたって上方に突出している。ビード75.1に関して、ピペット・チップ66.1のカラー72.1は、公称容積が10μlのピペット・チップ66.1に特有の長さにわたって上方に突出している。
【0090】
図14bによると、公称容積が100μlのピペット・チップ66.3がピペット1.1に装着されている。ピペット・チップ66.3に関して、プランジャ・ロッド80.3の上端部は、ピペット・チップ66.1と同じ高さでビード75.3の上方に位置する。ピペット・チップ66.3のカラー72.3は、ピペット・チップ66.3に特有の長さにわたってビード75.3から上方に突出している。
【0091】
図14c、14d、および14eでは、ピペット・チップ66.2、66.4および66.5がピペット1.1に固締されている。しかし、プランジャ・ロッド80.2、80.4、80.5は短すぎるので、
図13eに関して述べた理由からピペット操作が不可能である。
【0092】
図15aによると、公称容積が25μlのピペット・チップ66.2が、250μlまでの容積のサンプルをピペット操作するためのピペット1.2に装着されている。ピペット・チップ66.2のプランジャ・ロッド80.2の上端部が、ビード75.2の下に一定の長さにわたって配置されている。ピペット・チップ66.2のカラー72.2は、ピペット・チップ66.2に特有の長さにわたってビード75.2から上方に突出している。
【0093】
図15bによると、公称容積が250μlのピペット・チップ66.4がピペット1.2に装着されている。この開始位置では、ピペット・チップ60.4のプランジャ・ロッド80.4の上端部が、ビード75.4の下にピペット・チップ66.2と同じ長さで配置されている。ピペット・チップ66.4のカラー72.4は、ピペット・チップ66.4に特有の長さまでビード75.4に対して上方に突出している。
【0094】
図15c、15d、15eによると、ピペット・チップ66.1、66.3、66.5のビード75.1、75.3、75.5は環状溝8に係合しないので、
図13bに関して述べた理由からピペット操作が不可能である。ここでは、ピペット・チップ66.1のカラー72.1が、第4の検知要素62をハード・ストップに押圧している。
【0095】
さらに、ピペット・チップ66.1、66.3、66.5のプランジャ・ロッド80.1、80.3、80.5はそれぞれ長すぎるので、
図13cに関して述べた理由からピペット操作が不可能である。
【0096】
吐出装置31およびロック装置50は、第1の検知要素44に連結されている機械的制御装置88の構成部品であり、この制御装置88は、検知されたプランジャ・ロッド80に応じてピペット1をピペット操作が可能な状態や、ピペット操作ができない状態にする。
【0097】
ピペット1は以下のように使用可能である。
【0098】
図1および
図8によると、ピペット・チップ66が開始状態でピペット1に保持されている。シート領域87は、特に、環状溝8に係合しているビード75を用いてスピゴット4に形状適合的に接続されている。操作要素18は、第2のハウジング・スロットの上端部にある開始位置に配置され、第1のハウジング・スロットに両方向にねじ留めすることが可能である。最大回転角度は、第1の溝41および第2の溝43の周方向の間隔、または第1のハウジング・スロットの間隔によって、その感覚のどちらが小さいかに応じて制限される。
【0099】
図4によると、ロック・スリーブ51は、ピペット・チップ66がスピゴット4から意図せずに解除されないように、最深位置に配置される。形状が適合している接続を解除するには、スピゴット4の径方向の収縮が実際に必要となるが、この位置ではロック・スリーブ51がこのように径方向に収縮することはできない。上部ロッド部82を備えたチップ・プランジャ68が、ストローク・ロッド17のシート27内に堅固に固締される。
【0100】
第4の検知要素62は、予め張力を加えたコイルばね63によって装着済みピペット・チップ66の上縁部に押圧される。第4の検知要素62の位置は、ピペット・チップ66のカラー72の高さや、ビード75に対してカラー72が突出している高さによる。カラー72の高さは、使用されるピペット・チップ66の公称容積特有のものである。第4の検知要素62が、図示が省略されているスライドや別の伝達装置によって、カウンタ65にあるパネルや別の範囲調整装置に連結されている。したがって、カウンタ65は、操作要素18を用いて調整されたストロークを考慮して、それぞれの装着済みピペット・チップ66によってピペット操作が可能な容積を表示する。ピペット・チップのカラーの高さを検知する検知装置を有するピペットの実施形態、および異なるタイプの(たとえば、異なる公称容積を有する)ピペット・チップが異なる高さのカラーを有するピペット・チップ・ファミリの実施形態が、欧州特許出願第許18168763.3号に記載されている。
【0101】
液体を吸入するためには、ピペット・チップ66の下端部を保持した状態でピペット1を液体に浸す。ついで、操作要素18を下方へ再び押圧する。この移動は、伝達装置15によってストローク・ロッド17のストローク移動に変換される。その結果、チップ・プランジャ68が上方へ変位する。そうすることで、ロッド部82は、第1のガイド・ピン49がY字状の第1の溝41の垂直部42内を上方へスライドするように、第1の検知要素44を引き込む。この間、ロック・スリーブ45はその位置を維持している。このことは
図9に示されている。
【0102】
一旦操作要素18が設定されたストロークを行うと、ピペット・チップ66が特定量の液体で充填される。ついで、操作要素18は解除され、ばね装置によって、支持リング56まで上方へ戻って変位する。この液体量を吐出するために、ピペット・チップ66を備えたピペット1を別の容器へと向けてもよい。操作要素18を再び下方へ押すことによって、ストローク・ロッド17が下方に変位し、その量の液体が吐出される。そうすることで、第1のガイド・ピン49は、第1の溝41の節点まで下方へスライドする。
【0103】
設定量の液体に応じて、しながら操作要素18によって液体を吸入したり吐出したりしながら行われる操作ストロークは、設定量の液体による。
【0104】
液体の吸入吐出は、複数回行われてもよい。
【0105】
ピペット・チップ66を排出するには、開始位置にある操作要素18が右または左に揺動して吐出位置になる。このようにして、回転スリーブ33が回転するので、ロック・スリーブ51がスピゴット4を径方向内側へ変形可能となる程度まで解除して、第2の溝43が第2のガイド・ピン55を変位させ、したがってロック・スリーブ51を上方へ変位させる。このことを達成するために、ロック・スリーブ51が貫通内径部5から引き抜かれるのが好ましい。さらに、回転スリーブ33を回転させることによって、第1のガイド・ピン49が第1の溝41の下部の2つの側部のうちの1つで下方へ変位するので、第1の検知要素44は、先端部78の底部で支持されているチップ・プランジャ68を押圧する。そうすることで、ビード75がスピゴット4に径方向の力を及ぼしてスピゴット4を収縮させ、ピペット・チップ66とスピゴット4との形状適合的な接続を解除する。このようにして、ピペット・チップ66がスピゴット4から解除される。このことは
図10に示されている。ピペット・チップ66をスピゴット4から抜き取ることは、第4の検知要素62によって補助することが可能であり、第4の検知要素62は予め張力を加えたコイルばね63によってピペット・チップ66の上縁部に押圧される。
【0106】
使用済みのピペット・チップ66をスピゴット4から一旦解除すると、新しいピペット・チップ66をスピゴット4に接続することができる。このことを達成するために、ピペット1を支持部に設けられているピペット・チップ66の装着用開口部71にスピゴット4を使用して挿入可能である。そうすることで、第4の検知要素62が上方へ変位し、コイルばね63に予め張力がかかる。このようにして、カウンタ65の表示が装着済みピペット・チップ66に設定される。さらに、上部ロッド部82は、第1のガイド・ピン49が第1の溝41の第1の分岐点までスライドするように、第1の検知要素44の底面を押圧する。そうすることで、操作要素18がピペット操作位置に配置されるまで、回転スリーブ33がピペット・ハウジング2内で回転する。同時に、第2のガイド・ピン55が第2の溝43内で下部位置までスライドする。このことによって、ロック・スリーブ51が
図4のロック位置まで変位し、ここではピペット・チップ66がスピゴット4から解除されない。
【0107】
上述のようにして、チップ・プランジャ68をストローク・ロッド17に接続してピペット操作することができる。
【0108】
図16は、
図15eのピペット・チップ66.5とは異なるピペット・チップ66.6を示しており、プランジャ・ロッド80.6が下部ロッド部81.6の下端部にあるクランプ溝83.6の下にハード・ストップ89.1を有する。ハード・ストップ89.1は上方に拡張する円錐部90.1の頂部によって形成される。代替として、ハード・ストップ89.1が、ディスクの頂部によって、またはプランジャ・ロッド80.6の円周にわたり同じ高さで分布されている複数の外側に突出した突起によって形成される。
【0109】
ハード・ストップ89.1は、クランプ用ばね30がクランプ溝83.6に係合するようにプランジャ・ロッド80.6をシート27内に十分に押し込むことができるよう位置決めされている。ハード・ストップ89.1を孔25の縁部に配置することによって、プランジャ・ロッド80.6がシート27にさらに押し込まれることを防止する。クランプ用ばね30のクランプ力を超えることによってのみ、チップ・プランジャ68.6をシート27から引き抜くことができる。したがって、チップ・プランジャ68.6は、ストローク・ロッド17によって上下方向に移動不能に保持されている。このことによって、液体を吸入吐出する際のピペット操作のミスを防ぐ。
【0110】
図17によると、ピペット・チップ・ファミリが、5つの異なるピペット・チップ・タイプを備える。これらは、ピペット・チップ・タイプ66.7~66.11であり、10μl(
図17a)、25μl(
図17b)、100μl(
図17c)、250μl(
図17d)および1000μl(
図17e)の異なる3つの公称容積を備える。
図17によるピペット・チップ66.7~66.11のすべてにおいて、チップ・プランジャ86.7~86.11がチップ・シリンダ67.7~67.11に可能な限り深く押し込まれた位置にある。
【0111】
ピペット・チップ66.7~66.11は、プランジャ・ロッド80.7~80.11が幅狭のクランプ溝83.1~83.5の代わりに幅広の環状溝83.7~83.11を有する点で、ピペット・チップ66.1~66.5と実質的に異なる。さらに、プランジャ・ロッド80.7~80.11は、下部ロッド部81.7~81.11の下端部にクランプ溝83.7~83.11を有し、各クランプ溝83.7~83.11はハード・ストップ89.2~89.6を有する。各ハード・ストップ89.2~89.6は、その上方に配置された環状溝83.7~83.11の下方の境界を同時に形成する。ハード・ストップ89.2~89.6は、上方に拡張する円錐部90.2~90.6の頂部によってそれぞれ形成される。代替として、ハード・ストップ89.2~89.6が、ディスクの頂部によって、またはプランジャ・ロッド80.7~80.11の円周にわたり同じ高さで分布されている複数の外側に突出した突起によって形成される。
【0112】
チップ・プランジャ68.7~68.11は、下端部に複数のスロットを有するストローク・ロッド17に形状適合的に接続可能であるように構成されており、スロット間にあるストローク・ロッド17の部分は、プランジャ・ロッド80.7~80.11のクランプ溝83.7~83.11にスナップ嵌めするように形成されかつ寸法が決められた、内側に突出するフックを形成する。ストローク・ロッド17およびチップ・プランジャとのその相互作用は、特に、独国特許第102020118587.1号の
図12a、
図13、および
図14に記載されている。
【0113】
プランジャ・ロッド80.7~80.11は、ハード・ストップ89.2~89.6がストローク・ロッドの下端部に当接するまで、ストローク・ロッド17の軸内径部24内に挿入可能である。ついで、フックが環状溝83.7~83.11に係合する。このことにより、プランジャ・ロッド80.7~80.11がストローク・ロッドにさらに挿入されることが防止される。ストローク・ロッド17の下端部のばね力を超えることによってのみ、チップ・プランジャ68.7~68.11をシートから引き抜くことができる。ピペットが独国特許第102020118587.1号によるロック・スリーブを備えている場合、そのロック・スリーブがロック位置から解除位置まで上方に変位した場合にのみプランジャをストローク・ロッド17から解除することができる。このことによって、チップ・プランジャ68.7~68.11をストローク・ロッド17に移動できないように保持し、流体を吸入吐出する際のピペット操作のミスを防ぐ。
【0114】
図12のピペット・チップのように、異なる公称容積は、
図17のピペット・チップにおけるチップ・シリンダ67.7~67.11のカラー72.7~72.11の異なる高さによって識別される。カラー72.7~72.11の高さは、ビード75.7~75.11からカラーの上縁部までの距離として示される。
【0115】
図12のピペット・チップと同様に、
図17の同じサブファミリのピペット・チップでは、チップ・プランジャ68.7~68.11の最深位置にあるプランジャ・ロッド80.7~80.11の上端部は、円周ビード75.7~75.11によって画定されるように、シート領域87.7~87.11の上方の同じ位置を占める。したがって、公称容積が10μlおよび100μlのピペット・チップ66.7、66.9は、第1のサブファミリ86.4を形成し、最深位置にあるプランジャ・ロッド80.7、80.9の上端部は、ビード75.7、75.9の上方の同じ位置を占める。
【0116】
さらに、公称容積が25μlおよび250μlのピペット・チップ66.8、66.10は、第2のサブファミリ86.5を形成し、チップ・プランジャ68.8、68.10の最深位置にあるプランジャ・ロッド80.8、80.10の上端部は、ビード75.8、75.10と同じ高さの同じ位置を占める。
【0117】
最後に、公称容積が1000μlのピペット・チップ66.11は、単一のファミリ部材のみで構成される第3のサブファミリ86.6を形成する。このサブファミリ86.6では、チップ・プランジャ68.11の最深位置にあるプランジャ・ロッド80.11の上端部は、ビード75.11の上方に位置し、具体的には、サブファミリ86.4のピペット・チップ66.7、66.9の約半分のみビードの上に位置する。
【符号の説明】
【0118】
1 ピペット
2 ピペット・ハウジング
3 軸部
4 スピゴット
5 貫通内径部
6 上部スピゴット部
7 下部スピゴット部
8 環状溝
9 クランプ領域
10 スロット
11 スロット
12 駆動方向
13 伝達要素
14 伝達ロッド
15 伝達機構
16 ドライブ要素
17 ストローク・ロッド
18 操作要素
19 操作レバー
20 バー
21 支持プレート
22 第1の湾曲スロット
23 第1の縁部切り欠き部
24 軸内径部
25 孔
26 縦スロット
27 シート
28 クランプ用ばね溝
29.1 クランプ用スロット
29.2 クランプ用スロット
30 クランプ用ばね
31 吐出装置
32 湾曲支持部
33 回転スリーブ
34 切り欠き部
35 切り欠き部
36 ベース
37 セクタ
38 セクタ
39 第1の曲線部
40 第2の曲線部
41 第1の溝
42 垂直部
43 第2の溝
44 第1の検知要素
45 上部吐出ロッド部
46 下部吐出ロッド部
47 接続ロッド部
48 第2の検知要素
49 第1のガイド・ピン
50 ロック装置
51 ロック・スリーブ
52 制御ロッド
53 第2の接続ロッド部
54 第3の検知要素
55 第2のガイド・ピン
56 支持リング
57 ジャケット
58 第2の湾曲スロット
59 第2の縁部切り欠き部
60 第1のハウジング・スロット
61 第2のハウジング・スロット
62 第4の検知要素
63 コイルばね
64 調整つまみ
65 カウンタ
66 ピペット・チップ
67 チップ・シリンダ
68 チップ・プランジャ
69 本体
70 先端開口部
71 装着用開口部
72 カラー
73 接続領域
74 下部接続部
75 ビード
76 上部接続部
77 プランジャ走行路
78 先端部
79 プランジャ
80 プランジャ・ロッド
81 下部ロッド部
82 上部ロッド部
83 クランプ溝
84 ディスク
85 レッジ
86 サブファミリ
87 シート領域
88 制御装置
89 ハード・ストップ
90 円錐部