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特許7465351延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240403BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20240403BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/14
C21D8/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022536707
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 KR2020017377
(87)【国際公開番号】W WO2021125623
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0168003
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, サン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ウ-ギョム
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2001-0060760(KR,A)
【文献】特開2010-229528(JP,A)
【文献】特開2008-169468(JP,A)
【文献】国際公開第2011/099408(WO,A1)
【文献】特開2007-246985(JP,A)
【文献】特開2007-119899(JP,A)
【文献】特開平11-092858(JP,A)
【文献】特開2016-079476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00ー38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.14~0.17%、シリコン(Si):0.3~0.5%、マンガン(Mn):0.9~1.2%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.005%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.06%、チタン(Ti):0.005~0.02%、ニオブ(Nb):0.005~0.02%、窒素(N):0.002~0.006%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織、ポリゴナルフェライトの基地組織と20~30面積%のパーライトからなる複合組織で構成され
前記ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが4.0~8.0μmであり、
厚さが15mm以下である、延性に優れた高強度鋼
【請求項2】
前記鋼は、降伏強度が355MPa以上、引張強度が490MPa以上であり、比例伸び率が30%以上である、請求項1に記載の延性に優れた高強度鋼
【請求項3】
重量%で、炭素(C):0.14~0.17%、シリコン(Si):0.3~0.5%、マンガン(Mn):0.9~1.2%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.005%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.06%、チタン(Ti):0.005~0.02%、ニオブ(Nb):0.005~0.02%、窒素(N):0.002~0.006%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1,100~1,200℃の温度範囲で再加熱する段階、
前記再加熱された鋼スラブを粗圧延する段階、
前記粗圧延された鋼スラブを850~950℃の仕上げ圧延終了温度に仕上げ圧延して、厚さが15mm以下である圧延鋼を得る段階、及び
前記圧延鋼を空冷によって冷却する段階を含む、請求項1に記載の延性に優れた高強度鋼の製造方法。
【請求項4】
前記冷却の冷却速度は1~5℃/sである、請求項に記載の延性に優れた高強度鋼の製造方法。
【請求項5】
前記仕上げ圧延の累積圧下率は70~90%である、請求項に記載の延性に優れた高強度鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、高強度特性を備えながらも延性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海洋構造物、建築構造物などに使用される構造用鋼材は、用途上、高強度特性が求められる傾向にある。鋼構造物において求められる構造強度を満たしながら構造物を軽量化するためには、鋼材の強度が高くなければならない。
【0003】
一方、鋼構造物を作製する過程において、通常、曲げ加工が伴なうが、延性が足りない場合、曲げ加工時の鋼板に亀裂が発生し得る。このような曲げ加工などによって鋼板に亀裂が入った場合、作製工期が長くなるという問題が発生し得る。
【0004】
さらに、船舶運航時の座礁又は船舶間の衝突によって船体外壁に亀裂が入るおそれがあるが、この場合、浸水又は沈没につながり、人命及び財産上の被害が発生し得る。特に、船舶の貨物が原油又は石油製品である場合には深刻な海洋環境事故につながり得る。
【0005】
このように、船舶運航中の衝突や鋼構造物作製時の曲げ加工などによる鋼板の亀裂や、外部物体との衝突時に生じる船体外壁の亀裂を防ぐためには、外壁に適用された鋼材の延性が衝突エネルギーを吸収できる程度に十分優れていなければならない。
【0006】
しかし、強度と延性は反比例関係にあるため、強度と延性が同時に優れている鋼板を作製することは容易でない。それにもかかわらず、上述した問題を解決するために多大な努力が行われてきている。
【0007】
例えば、特許文献1は、主相であるフェライトの平均粒径を3~12μmとし、フェライトの分率を90%以上に制御し、第2相の平均円相当径を0.8μm以下に制御することによって、引張強度が490MPa以上でありながら均一伸び率が15%以上ある、衝突吸収性に優れた鋼板について記載している。
【0008】
しかし、特許文献1は、引張強度が490MPa以上でありながら均一伸び率が15%以上である鋼板については記載しているものの、鋼板の破断には、均一伸び率より総伸び率(または破断伸び率)の関連性が高いにもかかわらず、上記発明によって確保される総伸び率については明確に記載していない。
【0009】
特許文献2は、圧延後の冷却過程において、前段冷却、空冷、後段冷却からなる製造条件を適用することによって、組織がフェライトと硬質第2相からなり、上記フェライトの体積分率が板厚さの全体において75%以上であり、硬度がHv140以上、160以下、平均結晶粒径が2μm以上である鋼材について特定している。これを通じて、引張強度が490MPa以上でありながら均一伸び率が20%以上である鋼材を提供することができる。
【0010】
しかし、特許文献2は、引張強度が490MPa以上でありながら均一伸び率が20%以上と極めて優れているが、均一伸び率に優れているからといって、必ずしも総伸び率まで優れているわけではないため、破断伸び率に該当する総伸び率がどの程度であるかは不明確である。
【0011】
特許文献3は、衝突時のエネルギー吸収能を増加させるために、組織を、フェライト主相とパーライトを主体とする第2相で構成し、上記第2相の硬度、分率、平均面積、平均周り長さが所定の条件を満たしながら、フェライトの平均電位密度を一定以下に低くした厚鋼板について記載している。このために、鋼素材を通常の再加熱温度より高い高温に加熱した後、制御圧延を行い、空冷又は弱水冷する製造方法を提示している。
【0012】
特許文献4は、フェライトの面積率が80~95%、パーライトの面積率が5~20%を満たし、フェライトの結晶粒の大きさ、縦横比、電位密度について規定して、表層部と厚さ中心部との硬度差を最小化する高強度高延性鋼板を製造する方法について記載している。これを通じて、引張強度が490MPa以上でありながら、伸び率が板厚さによって23~40%以上である鋼板を提供することができる。
【0013】
しかし、特許文献3及び4は、引張強度が490MPa以上でありながら延性に優れた鋼板を製造することはできるものの、Sを0.003%以下に制御するためには製鋼負荷を伴わざるを得ず、再加熱温度が通常の範囲から外れていることから、鋼板製造時の困難が予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】韓国登録特許第0914590号公報
【文献】韓国公開特許第2016-0104077号公報
【文献】特許第5994819号公報
【文献】特許第6007968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高強度特性を備えながらも伸び率に優れた鋼材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0016】
本発明の課題は上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全般的な内容から本発明の更なる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、重量%で、炭素(C):0.14~0.17%、シリコン(Si):0.3~0.5%、マンガン(Mn):0.9~1.2%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.005%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.06%、チタン(Ti):0.005~0.02%、ニオブ(Nb):0.005~0.02%、窒素(N):0.002~0.006%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織として、ポリゴナルフェライトの基地組織とパーライトの残りの組織からなる複合組織を含み、上記ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが4~8μmであり、厚さが15mm以下である、延性に優れた高強度鋼材を提供することができる。
【0018】
上記パーライトの分率は20~30面積%であることができる。
【0019】
上記鋼材は、降伏強度が355MPa以上、引張強度が490MPa以上であり、比例伸び率が30%以上であることができる。
【0020】
また、本発明は、重量%で、炭素(C):0.14~0.17%、シリコン(Si):0.3~0.5%、マンガン(Mn):0.9~1.2%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.005%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.06%、チタン(Ti):0.005~0.02%、ニオブ(Nb):0.005~0.02%、窒素(N):0.002~0.006%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1,100~1,200℃の温度範囲で再加熱する段階、上記再加熱された鋼スラブを粗圧延する段階、上記粗圧延された鋼スラブを850~950℃の仕上げ圧延終了温度で仕上げ圧延して、厚さが15mm以下である圧延鋼材を得る段階、及び上記圧延鋼材を空冷によって冷却する段階を含む、延性に優れた高強度鋼材の製造方法を提供することができる。
【0021】
上記冷却の冷却速度は1~5℃/sであることができる。
【0022】
上記仕上げ圧延の累積圧下率は70~90%であることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、高強度特性を備えながらも伸び率に優れた鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の好ましい実現例を説明する。本発明の実現例は様々な形態に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実現例に限定されるものとして解釈されてはならない。本実現例は、当該発明が属する技術分野において、通常の技術者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
以下では、本発明の鋼合金組成について詳しく説明する。
【0027】
本発明において特に言及しない限り、各元素の含量を表示する%は重量を基準とする。
【0028】
本発明による鋼材は、重量%で、炭素(C):0.14~0.17%、シリコン(Si):0.3~0.5%、マンガン(Mn):0.9~1.2%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.005%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.06%、チタン(Ti):0.005~0.02%、ニオブ(Nb):0.005~0.02%、窒素(N):0.002~0.006%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなることができる。
【0029】
炭素(C):0.14~0.17%
炭素(C)は、パーライトの分率に影響を及ぼして引張強度を左右する元素であって、圧延後、水冷の代わりに空冷が必須である本発明においては、十分な炭素(C)含量が引張強度の確保に必須的である。本発明において目標とする引張強度を確保するために0.14%以上添加されなければならない。一方、その含量が0.17%を超えると、引張強度は確保することができるものの、本発明において目標とする延性の確保は困難になる。延性はパーライトの面積率に反比例するため、炭素(C)含量が増加するとパーライトが増加して延性の確保に不利になる。
【0030】
従って、炭素(C)の含量は0.14~0.17%であることができ、より好ましくは0.15~0.165%であることができる。
【0031】
シリコン(Si):0.3~0.5%
シリコン(Si)は、脱酸に効果的であり、硬化能を高める元素であって、引張強度の確保のために0.3%以上添加されなければならない。ただし、その含量が0.5%を超えると、引張強度が過度に高くなり、強度増加による延性低下が現れ、本発明において目標とする伸び率の確保が困難になる。
【0032】
従って、シリコン(Si)の含量は0.3~0.5%であることができ、より好ましくは0.35~0.5%であることができる。
【0033】
マンガン(Mn):0.9~1.2%
マンガン(Mn)は、硬化能を高める元素であって、引張強度の確保のために0.9%以上添加されなければならない。ただし、その含量が1.2%を超えると、引張強度が過度に高くなり、延性が低下するという問題点がある。
【0034】
従って、マンガン(Mn)の含量は0.9~1.2%であることができ、より好ましくは1.0~1.2%であることができる。
【0035】
リン(P):0.02%以下
リン(P)は、鋼材の製造過程中、不可避に含まれる不純物であって、延性を低下させるため、最小化する必要がある。ただし、リン(P)の含量を低くすると、製鋼工程上の負荷が増加するようになり、製鋼コストが増加するため、その上限を0.02%に制限する。
【0036】
従って、リン(P)の含量は0.02%以下であることができ、より好ましくは0.012%以下であることができる。
【0037】
硫黄(S):0.005%以下
硫黄(S)は、鋼材の製造過程中、不可避に含まれる不純物であって、MnSを形成して延性を大きく低下させるため、最小化する必要がある。ただし、硫黄(S)の含量を低くすると、製鋼工程上の負荷が増加するようになり、製鋼コストが増加するため、その上限を0.005%に制限する。
【0038】
従って、硫黄(S)の含量は0.005%以下であることができ、より好ましくは0.003%以下であることができる。
【0039】
アルミニウム(Al):0.01~0.06%
アルミニウム(Al)は、Siと同様に脱酸に効果的な元素であって、脱酸のために0.01%以上含まれなければならない。ただし、その含量が0.06%を超えると、溶接部の靭性が低下し得る。
【0040】
従って、アルミニウム(Al)は0.01~0.06%であることができ、より好ましくは0.02~0.04%であることができる。
【0041】
チタン(Ti):0.005~0.02%
チタン(Ti)は、Nと結合してTiNを形成させて、再加熱時にオーステナイトが粗大に成長することを抑制し、これによって、最終微細組織のフェライト結晶粒を微細化させることで引張強度の向上に寄与するため、0.005%以上添加されなければならない。ただし、その含量が0.02%を超えると、TiNが粗大になり、オーステナイトが高温で成長することを防ぐことができなくなる。これによって、最終組織においてフェライトの微細化を確保することができず、本発明において目標とする引張強度と伸び率の確保が困難になる。
【0042】
従って、チタン(Ti)の含量は0.005~0.02%であることができ、より好ましくは0.007~0.015%であることができる。
【0043】
ニオブ(Nb):0.005~0.02%
ニオブ(Nb)は、オーステナイトの微再結晶域を拡張させて、圧延時にオーステナイトをパンケーキ化するため、最終微細組織においてフェライトの結晶粒を微細化させる。これを通じて、鋼の引張強度と伸び率を同時に向上させるため、0.005%以上添加されなければならない。ただし、その含量が0.02%を超えると、鋼の溶接性を大きく低下させるという問題点がある。
【0044】
従って、ニオブ(Nb)の含量は0.005~0.02%であることができ、より好ましくは0.007~0.015%であることができる。
【0045】
窒素(N):0.002~0.006%
窒素(N)は、Tiと共にTiNを形成して、再加熱時にオーステナイトが粗大に成長することを抑制するため、0.002%以上添加されなければならない。ただし、その含量が0.006%を超えると、鋼板の表面品質を大きく低下させるという問題点がある。
【0046】
従って、窒素(N)の含量は0.002~0.006%であることができ、より好ましくは0.003~0.005%であることができる。
【0047】
本発明の鋼材は、上述した組成以外に、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物からなることができる。不可避不純物は、通常の製造工程で意図せずに混入され得るため、これを排除することはできない。このような不純物は、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を特に本明細書では言及しない。
【0048】
以下においては、本発明の鋼の微細組織について詳しく説明する。
【0049】
本発明において特に言及しない限り、微細組織の分率を表示する%は面積を基準とする。
【0050】
上述した合金組成を満たす本発明の鋼材は、微細組織として、20~30%のパーライト及び残りのポリゴナルフェライトを含み、上記ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが4~8μmであることができる。
【0051】
微細組織として、20~30%のパーライト及び残りのポリゴナルフェライトを含むことができる。
【0052】
ポリゴナルフェライトとパーライトで構成された微細組織を有する鋼において、引張強度を確保するためには、ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが極めて小さいか、パーライトの分率が高くなければならない。ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさを極めて微細化するためには、再加熱温度を極めて低くするか、圧延時に圧下率を高くするなど、工業的に多大な努力が必要である。
通常の厚鋼板の圧延下において、フェライト結晶粒の大きさを2μm以下に有することは極めて困難である。さらに、フェライト結晶粒の大きさが一定以下になると、均一伸び率が大きく減りながら総伸び率も共に減少する。従って、本発明において目標とする引張強度を確保するためには、フェライト結晶粒の大きさを小さくしながらもパーライトの分率が十分高くなければならない。パーライトの面積率が20%未満であると、本発明において目標とする引張強度の確保が困難であり、30%を超えると、伸び率の確保が困難になる。
【0053】
その他の組織として、ベイナイトは含まれないことが好ましい。ベイナイトが含まれる場合、強度は増加するものの、本発明において目標とする延性の確保が困難になり得る。
【0054】
フェライト結晶粒の大きさは、円相当径基準で4~8μmであることができる。
【0055】
フェライト結晶粒の大きさが4μm未満であると、強度は増加するものの、均一伸び率の低下により総伸び率の確保が困難になる。一方、その大きさが8μmを超えると、引張強度の確保が困難になる。
【0056】
以下においては、本発明の鋼の製造方法について詳しく説明する。
【0057】
本発明による鋼材は、上述した合金組成を満たす鋼スラブを再加熱、熱間圧延及び冷却して製造され得る。
【0058】
再加熱
上述した合金組成を満たす鋼スラブを1,100~1,200℃の範囲の温度に再加熱することができる。
【0059】
再加熱温度は、オーステナイトの粗大化及びNb固溶の観点から決定され得る。再加熱温度が高いほど、オーステナイト組織が粗大化し、Nb固溶量が増加して、圧延過程においてオーステナイトをパンケーキ化させる。再加熱温度が1,200℃を超えると、Nb固溶が増加するが、オーステナイトが再加熱中に過度に粗大になり、最終微細組織においてポリゴナルフェライトの結晶粒が十分微細化されない問題点がある。ただし、その温度が1,100℃未満であると、Nb固溶が足りなくなり、圧延中、オーステナイトのパンケーキ化が十分達成されないため、ポリゴナルフェライトの微細化に限界がある。
【0060】
再加熱時間は、鋼鋳片の厚さによって変わる。再加熱時間は特に制限しないが、通常、鋼鋳片の厚さ1mm当たり1分程度加熱すれば充分である。
【0061】
熱間圧延
熱間圧延は、粗圧延と仕上げ圧延に分けて行われる。
【0062】
粗圧延
再加熱された鋼スラブを再加熱炉から抽出した後、すぐに粗圧延することができる。
【0063】
粗圧延は、最終鋼板の幅を確保するための幅出し圧延を含み、スラブを、仕上げ圧延を開始する厚さになるように圧延する。
【0064】
仕上げ圧延
粗圧延された鋼材を850~950℃の仕上げ圧延終了温度に仕上げ圧延することができる。
【0065】
仕上げ圧延終了温度が850℃未満であると、最終組織においてポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが円相当径で4μm未満になり、十分高い強度を確保することができるものの、強度の増加に伴う伸び率の低下現象によって、本発明において目標とする延性の確保が困難である。一方、その温度が950℃を超えると、ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが円相当径で8μmを超えるようになり、本発明において目標とする引張強度を確保することが困難である。
【0066】
仕上げ圧延の累積圧下率は70~90%にすることができる。
【0067】
仕上げ圧延の累積圧下率が70%未満であると、ポリゴナルフェライトが十分微細化されないことから強度の確保が困難であり、90%を超えると、伸び率の確保が困難になる。
【0068】
冷却
圧延された鋼材を1~5℃/sの冷却速度で空冷することができる。
【0069】
空冷を適用すると、ポリゴナルフェライトとパーライトのみで構成された微細組織を得るのに有利である。一方、水冷を適用すると、第2相として、パーライトだけでなく、ベイナイトを含んで強度が過度に上昇し、空冷に対する鋼材内の冷却不均一が深化して、伸び率のばらつきが増加するようになる。 同様の理由により、空冷であっても、冷却速度が過度に速いと上述した問題点が発生し得るため、冷却速度の上限を5℃/sにすることができる。ただし、空冷速度が過度に遅くなると、ポリゴナルフェライトが粗大になって引張強度の確保が困難になるため、その冷却速度が1℃/s以上は確保されなければならない。また、鋼板の空冷速度は鋼板の厚さによって決定され得るため、鋼板の空冷速度を1℃/s以上確保するために、鋼板の厚さを15mm以下に制限することができる。本発明において、鋼板は、通常の圧延を通じて製造されるものであって、鋼板の厚さの下限は制限しないようにする。
【0070】
上記のように製造された本発明の鋼材は、降伏強度が355MPa以上、引張強度が490MPa以上であり、比例伸び率が30%以上であって、高強度特性を備えながら優れた延性を備えることができる。
【0071】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を例示し、より詳細に説明するためだけのものであって、本発明の権利範囲を制限するためのものでないという点に留意する必要がある。
【0072】
(実施例)
表1に示した合金成分を有する溶鋼を製造し、連続鋳造法を通じて250mm厚さの鋼鋳片を鋳造した。このように製造された鋼鋳片を表2に示した条件で再加熱、圧延及び冷却を通じて、11、15mm厚さの鋼板に製造した。冷却は空冷と水冷を適用し、空冷は、厚さが15mm以下の鋼において、冷却速度が1~5℃/sを満たした。水冷は、冷却速度18℃/sを適用し、冷却終了温度は約710℃にして加速冷却した後、常温まで空冷する条件を適用した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
鋼板の微細組織を分析するために、製造された鋼板から板厚さの1/4地点で試片を採取した。以降、試片を研磨し、ナイタール腐食溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で観察した。光学顕微鏡に連結されたイメージ分析器(Image Analyzer)を用いて、ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさに該当する平均円相当径、パーライトの面積率及びベイナイトの面積率を測定し、表3に示した。
【0076】
また、製造された鋼板から鋼板幅の1/4地点で引張試片を採取し、引張試験を実施した。引張試片は、試片の長さが鋼板の幅方向と平行になるように加工し、韓国船級(KR)に登載された比例試片であるR14B試片の規則に沿って、試片の幅を25mm、試片の厚さは鋼板の厚さとし、標点長さを5.65×√(試片の幅×試片の厚さ)とする比例試片に加工した。加工された引張試片を常温で引張試験し、降伏強度、引張強度及び比例伸び率を求めて表3に示した。
【0077】
【表3】
【0078】
上記表1~3に示したとおり、発明例1~8は、本発明の合金組成及び製造条件をすべて満たし、本発明において目標とする降伏強度、引張強度、比例伸び率をすべて満たした。
【0079】
ただし、比較例1は、C含量が本発明の範囲より低く、パーライトの分率が20%未満になり、引張強度が490MPaに到達できなかった。
【0080】
比較例2は、C含量が本発明の範囲より高く、パーライトの分率が30%を超え、これによって、降伏強度及び引張強度に優れているものの、延性が劣位になり、本発明において目標とする伸び率を確保できなかった。
【0081】
比較例3は、Nb含量が足りず、ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが本発明の範囲から外れたところ、本発明において目標とする降伏強度と伸び率を満たせなかった。
【0082】
比較例4は、本発明の合金組成は満たしているものの、再加熱温度が過度に高く、ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが十分制御できなかったため、本発明において目標とする伸び率を確保できなかった。
【0083】
比較例5は、仕上げ圧延終了温度が本発明の範囲から外れたものであって、ポリゴナルフェライトの結晶粒の大きさが過度に小さくなり、比例伸び率が良好でなかった。
【0084】
比較例6は、圧延後の冷却方法として、空冷の代わりに水冷を適用したものであって、第2相として、パーライトだけでなくベイナイトが形成されて、強度は優れているものの、本発明において目標とする伸び率には到達できなかった。
【0085】
比較例7は、鋼板の厚さが15mmを超え、圧延後の冷却速度に達していないものであって、降伏強度及び引張強度を確保できなかった。
【0086】
以上、実施例を通じて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。従って、以下に記載された請求項の技術的思想と範囲は実施例に限定されない。