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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】吸脱着が容易な綴じ金具
(51)【国際特許分類】
   B42F 13/16 20060101AFI20240403BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B42F13/16 Z
H01F7/02 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023057655
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2023-05-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-18
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722012903
【氏名又は名称】株式会社TOMORI
(74)【代理人】
【識別番号】100162961
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 悟
(72)【発明者】
【氏名】李 森浩
(72)【発明者】
【氏名】秋山 健鴻
【合議体】
【審判長】殿川 雅也
【審判官】藤本 義仁
【審判官】嵯峨根 多美
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42F 1/00-23/00
H01F 1/00-41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の綴じリングを有する金属製綴じ具および多数の永久磁石を細長にした配列構造を有する背板からなる綴じ金具において、当該配列構造は、背板に中央帯および左右のサプセット帯が配置され、当該左右のサプセット帯には、当該中央帯から当該背板の左右端部に向けて、左右の隣接部、 左右の接続部および左右の端部が連なって配置され、ここで、当該右隣接部に配置された強または中の磁力を有する永久磁石に対峙して磁極の向きを0度にそろえて強または中の磁力を有する永久磁石が当該左隣接部に配置され、当該左右の接続部には磁極の向きが1 8 0度異なる複数個の永久磁石が交互に並んで配置され、かつ、当該左右の端部には当該右端部に配置された中または弱の磁力を有する永久磁石に対して磁極の向きが1 8 0度異なる中または弱の磁力を有する永久磁石が当該左端部に配置されていることを特徴とする当該金属製綴じ具が当該背板に対して吸脱着が容易な綴じ金具。
【請求項2】
前記左右の接続部は磁力の強さが異なることを特徴とする請求項1に記載の吸脱着が容易な綴じ金具。
【請求項3】
前記永久磁石がネオジム、鉄、およびホウ素を含むネオジム合金であることを特徴とする請求項1に記載の吸脱着が容易な綴じ金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石を用いた吸脱着が容易な綴じ金具、特に複数の綴じリングを有する金属製綴じ具および背板からなる綴じ金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バインダ、メモ用紙やスクラップブックなどの複数の綴じリングを有する紙押え具、2穴式や6穴式等の金属製リングを連ねたリングバインダ、あるいは、システム手帳、ノートブック、日記帳、スケッチブックなどの10穴式等の金属製またはプラスチック製のリングバインダを用いた金属製綴じ具は広く販売されたり紹介されたりしている。また、これらの製品のなかに永久磁石の磁力を利用した吸脱着が容易な綴じ金具が用いられている製品もいくつか知られている。
【0003】
例えば、実全昭51-133515号の紙その他シート状物の挟持装置には、同図面を参照すると、吸着板(9)が挟持板(2)の永久磁石帯(10)と吸着し合い、シート状物(14)を吸脱着が容易に挟持垂下できることが開示されている。また、特表2022-536832号のモジュール式筆記帳システムは、第5図を参照すると、モジュール式筆記帳カバー(5)およびモジュール式筆記帳ページ束(30)を含むシステム構成では、ページ束(30)が磁気パッド(1)および結束要素(32)を介してカバー(5)に吸脱着が容易に結合されていることがわかる。
【0004】
また、実公昭52-52659号公報(後述する特許文献1)には、第5図に示すように3本のピンを並列状に突設した紙押えピン(3)および紙押え本体(1)からなる磁石式紙押え具が開示されている。この紙押え具は、第1図および第4図(b)に示すように、この紙押えピン(3)および紙押え本体(1)それぞれに磁石(2)を内蔵している。すなわち、磁石式紙押え具における紙押えピン(3)の横長方向の2個の磁石(2)と対峙する紙押え本体(1)の横長方向の2個の磁石(2)とは、対峙する吸着面積が最大になるように、磁極を異にして吸脱着が容易になっていることがわかる。
【0005】
しかしながら、この2個の磁石(2)のそれぞれを多数個の永久磁石に置き換えた場合、紙押えピンは上下左右方向から紙押え本体へ位置合わせしづらくなる。例えば上下1個の磁石(2)を3個の永久磁石( a0, b0, c0 ; a1, b1, c1 )にそれぞれ置き換えた場合、紙押えピン(3)の両端の永久磁石( a0, c0 )はどちらでも紙押え本体(1)の両端の磁石( a1, c1 )のいずれかと吸着することができる。このため紙押えピン(3)が紙押え本体(1)のずれた位置で吸着した場合、紙押えピン(3)と紙押え本体(1)が横長方向に沿ってずれたまま保持される。
【0006】
紙押えピン(3)は磁石(2)の磁力が強ければ強いほど紙押え本体(1)から容易に外すことができなくなる。このような磁石(2)によって紙押えピン(3)と紙押え本体(1)がずれたまま吸着すると、紙押えピン(3)は上下左右にスライドすることができず、紙押え本体(1)から引きはがすのに強力な外力を必要とする。このように永久磁石の個数が増え、かつ、永久磁石の磁力が強力になればなるほど、紙押えピン(3)と紙押え本体(1)の位置合わせが難しくなり、引き外すのにも余計な外力が必要になる。
【0007】
また、実公昭55-046539号公報(後述する特許文献2)には、同図面を参照すると、永久磁石(4)の極間に強磁性体からなる板体を挾着させて平板状に揃えた磁性吸着板(3)が開示され、第2図に同極同士を対向させた5本の角棒状永久磁石(4)からなる磁性吸着板(3)があり、第1図にこの磁性吸着板(3)を2個並置した磁性バインダのアルバムに使用した例が開示されている。また、背表紙の裏側に取付けられた1個の磁性吸着板(3)が紙葉の端部に取り付けた鋼板(7)に吸脱着が容易に吸着されていることがわかる。よって、第1図に示すように、鋼板(7)の長さを背表紙(2)の高さと等しくするなどすれば、雑誌(12)を台上で水平方向へ移動することによってアルバム(1)の背表紙(2)の裏側に位置合わせすることが可能になる。
【0008】
他方、第1図と異なって鋼板の長さが背表紙の高さと等しくない場合、鋼板を一次元的に移動(スライド)しても背表紙の所定の位置に合わせることは困難になる。鋼板と背表紙がずれた位置で吸着した場合、強い外力で鋼板を磁性吸着板から引き離して鋼板を再度位置合わせする必要がある。しかし、磁性吸着板の永久磁石の個数が増え、かつ、個々の永久磁石の磁力が強くなると、特許文献1と同様に、位置合わせの作業が難しくなって鋼板と背表紙の位置合わせは事実上不可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実公昭52-52659号公報
【文献】実公昭55-046539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記した課題に着目してなされたものである。本願発明の主な目的は、背板の溝内にインレーされた永久磁石によって細長の配列構造に沿って複数の綴じリングを有する金属製綴じ具をスライドし、金属製綴じ具を背板に吸着・脱着することができる吸脱着が容易な綴じ金具を提供することである。また、本願発明の主な目的は、背板と金属製綴じ具との位置合わせがずれた場合でも、背板の細長の配列構造に沿って金属製綴じ具をスライドすることによって正確な位置合わせをすることができる綴じ金具を提供することである。また、本願発明の主な目的は、複数の綴じリングを有する金属製綴じ具が背板のインレー内に配置された永久磁石の配列構造に沿ってスライドし、背板に吸着・脱着することで背板と金属製綴じ具との取り外しが容易な綴じ金具を提供することである。特に、永久磁石の個数が増え、永久磁石全体の磁力が強くなればなるほど、本発明の背板の配列構造が有利になる吸脱着が容易な綴じ金具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
すなわち、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具の一つは、複数の綴じリングを有する金属製綴じ具および多数の永久磁石を細長にした配列構造を有する背板からなる綴じ金具において、当該配列構造は、背板に中央帯および左右のサブセット帯が配置され、当該左右のサブセット帯には、左右の端部、左右の接続部よび左右の隣接部が配置され、ここで、当該中央帯は当該左右の隣接部における永久磁石の磁極の向きと180度異なる磁極が形成される領域であり、当該左右の隣接部には磁極の向きを0度にそろえて強または中の磁力を有する永久磁石が対峙され、かつ、当該左右の端部には磁極の向きが180度異なる中または弱の磁力を有する永久磁石が配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具のもう一つは、複数の綴じリングを有する金属製綴じ具および多数の永久磁石を細長にした配列構造を有する背板からなる綴じ金具において、当該配列構造は、背板に中央帯および左右のサブセット帯が配置され、当該左右のサブセット帯には、左右の端部、左右の接続部よび左右の隣接部が配置され、ここで、当該中央帯は極弱の磁力を有する永久磁石が配置され、当該左右の隣接部には磁極の向きを0度にそろえて強または中の磁力を有する永久磁石が対峙され、かつ、当該左右の端部には磁極の向きが180度異なる中または弱の磁力を有する永久磁石が配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の吸脱着が容易な綴じ金具において、細長形状の配列構造にしたのは複数の綴じリングを有する金属製綴じ具を背板の長手方向に沿って一次元的に吸着させるためである。本発明の背板は多数の永久磁石が細長形状に配列されているので、細長形状と直行する方向の磁力が平行方向の磁力よりも圧倒的に強くなり、金属製綴じ具が直行方向へ移動することができない。配列構造の磁力線の強さは永久磁石の種類や数や大きさによって適宜調節することができる。
【0014】
また、本発明の配列構造は多数の永久磁石が1本の棒磁石のように設計されている。すなわち、左右の隣接部には極を0度にそろえて強または中の磁力を有する永久磁石が対峙され、かつ、当該左右の端部には極を180度異ならせて中または弱の磁力を有する永久磁石が配置されている。中央帯(2)には、仮想の磁力を有する永久磁石が配置されてもよく、常磁性や反磁性の金属片を配置してもよく、または、強または中の磁力を有する磁石を、極を180度異ならせて配置されていても良い。
【0015】
磁力の強さは、吸脱着が容易な綴じ金具における細長形状の配列構造を1本の棒磁石にみたてると、背板の表面から発散する磁力線の大きさによって極弱から強までの4段階の区分を見定めることができる。すなわち、永久磁石の磁力の強さは 極弱 < 弱 < 中 < 強 の順序になる。左右の接続部には強~弱の3段階の磁力を有する永久磁石を配置することができる。この場合の磁極は同極の0度でも180度異なっても±90度回転してもよい。より好ましくは、左接続部の磁力および右接続部の磁力の強さが異なることである。
【0016】
本発明の金属製綴じ具は磁力が強力な永久磁石を利用することができる。例えば、綴じ金具が背板と強力に吸着して指で引きはがせないほど吸着していても差し支えない。綴じリングをもって金属製綴じ具を移動可能な方向へ指でつまんでひっぱると、背板の長手方向に沿って金属製綴じ具を簡単にスライドすることができるからである。本発明の綴じリングは、金属製綴じ具から突きでた部分を意味し、背板の長手方向に沿って金属製綴じ具をスライドするための取っ手の役目をする。本発明の「リング」の形状は円形や円弧形状にこだわらず、開いた多角形でもよい。本発明の金属製綴じ具は磁力に左右されないので、金属製綴じ具側に背板側の永久磁石と対をなす永久磁石の配列構造を設けてもよい。複数の綴じリングのいずれかの先端部に永久磁石を配置することもできる。
【0017】
本発明の吸脱着が容易な綴じ金具の配列構造において左右のサブセット帯それぞれの磁力の強さまたは長さや永久磁石の配列が異なることが好ましい。配列構造の長手方向に沿って磁力の強いほうから弱いほうへ金属製綴じ具をスライドすることによって金属製綴じ具を磁力の弱いほうの位置に移動しやすくすることができる。この移動によって金属製綴じ具と永久磁石の対峙する面積が減少する。この位置で金属製綴じ具を持ち上げると、金属製綴じ具は外しやすくなる。さらに、左右の接続部は磁力の強さが異なることがより好ましい。
【0018】
また、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具においては左右の接続部はそれぞれ複数個の永久磁石が配置されていることが好ましい。左右のサブセット帯それぞれの磁力の強さをコントロールしやすくなるからである。本発明の永久磁石の磁力は背板の表面から上方へ強く発散し、背板の側面や背面から弱く発散していることが好ましい。左右の接続部の一部または全部をハルバッハ配列にすることもできる。ハルバッハ配列にすると、棒磁石の裏面や側面から磁力線の無駄な漏洩を避けることができる。より好ましくは背板の側面や背面から磁力線が発散しないことである。
【0019】
また、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具においては中央帯の長さが前記左右の接続部のいずれの長さよりも短く、かつ、前記強の磁力を有する永久磁石の長さよりも長いことが好ましい。中央帯の長さが接続部の長さよりも長くなると、本発明の配列構造を1本の棒磁石にみたてることができにくくなるからである。また、中央帯の長さが強の磁力を有する永久磁石の長さよりも短くなると中央帯が強の永久磁石の磁力の影響を受けやすくなるからである。
【0020】
また、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具においては永久磁石がネオジム、鉄、およびホウ素を含むネオジム合金であることが好ましい。希土類磁石はフェライト磁石やアルニコ磁石よりも望ましい。希土類磁石の中では、ネオジム合金が磁力の強い希土類磁石の代表的な合金であり、サマリウムコバルト磁石よりも望ましい。永久磁石は粉末冶金法によって製造されるのが望ましい。
【0021】
また、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具においては金属製綴じ具の対峙面が強磁性金属を含むことが望ましい。また、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具においては金属製綴じ具の対峙面が鉄合金またはニッケル合金を含むことが望ましい。
【0022】
また、本発明の左右の接続部は、強から弱までの3段階の磁力を有する永久磁石がそれぞれ複数個配置されているのが望ましい。永久磁石の個数が増えれば増えるほど、または、1個の永久磁石の磁力が強力になればなるほど左右の接続部の磁力が強力になる。接続部の磁力が強力になればなるほど金属製綴じ具は細長形状と直行する方向へ移動しにくくなっていく。また、綴じ金具の適用される物品に応じて永久磁石の数を適宜選択すると、金属製綴じ具の吸着力を強くしたり弱くしたりすることができる。
【0023】
また、本発明の綴じ金具では、前記背板の材質や形状については特に限定されないが、常磁性金属または反磁性金属を含むことが望ましい。特に、背板が銅合金、アルミニウム合金またはチタン合金であることが好ましい。金属製綴じ具と同様の重量感を背板にもたせたい場合は銅合金が望ましく、軽量感をもたせたい場合はアルミニウム合金が望ましく、腐食を避けたい場合はチタン合金が望ましい。アルミニウム合金またはチタン合金は陽極酸化して光沢を調えることができる。場合によっては金めっきや銀めっき等をコーティングした背板を用いることができる。
【0024】
また、背板の材質等は永久磁石の磁力線を吸収させる金属を含むこともできる。例えば、プラスチック樹脂に磁性体粉末を分散させた背板を用いてもよく、プラスチック樹脂体の背板の溝に永久磁石を埋め込むこともできる。背板は永久磁石の磁力線が平面上だけに発散するのがもっとも望ましい。背板の内部や外部に磁力線の遮蔽シートを設けてもよい。
【0025】
また、本発明の金属製綴じ具では、金属製綴じ具の材質や形状については特に限定されないが、強磁性金属を含むことが望ましい。特に、鉄合金またはニッケル合金であることが望ましい。鉄合金にはステンレス鋼も含まれる。鉄合金にニッケルめっきやクロムめっきをすることもできる。場合によっては白金めっきやロジウムめっきをコーティングした金属製綴じ具を用いることができる。
【0026】
本発明の金属製綴じ具は、背板に対峙する表面が背板に吸着する金属から構成される綴じ具であることを意味する。背板と吸着することができなければ、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具とならないからである。金属製綴じ具も多数の永久磁石を埋め込むことができうる。また、背板と同様に、綴じリングの一部にプラスチック樹脂等を含んでいてもよい。なお、綴じリングは、特許文献1のように開いた形状の綴じリングであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の吸脱着が容易な永久磁石の綴じ金具は、以上説明したように、背板の細長形状の配列構造に沿ってスライドしやすく、細長方向と直行する方向へ移動しにくい配列構造になっている。すなわち、金属製綴じ具は一次元方向しか移動しないので、背板との位置ずれも一次元方向だけになる。位置ずれした金属製綴じ具は、綴じリングをつまんで背板の細長形状に沿って簡単にスライドすることができるので、位置合わせは容易である。また、背板の細長形状に沿ってスライドすると、金属製綴じ具と背板が接している永久磁石の面積が減少していく。全体の磁力が弱くなるため背板から金属製綴じ具を容易に外すことが可能になる。
【0028】
このように背板に強力な永久磁石の配列構造を用いた場合でも、金属製綴じ具は背板上でスライドして簡単に位置合わせをすることができる。また、綴じリングをつまんで背板の細長形状に沿って引っ張ると、金属製綴じ具を背板から簡単に取り外すことができるという効果を有する。また、本発明の配列構造は永久磁石が一本の棒磁石のように配置されているので、磁力線の無駄な浪費がなく永久磁石の寿命が長くなるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は背板の溝内に埋めた17個のネオジム磁石を真上方向から模式的に示した平面図である。この配列構造(1)は背板の細長方向に沿って永久磁石が配置されている状態を示す。配列構造(1)は、左右のサブセット帯(L、R)および中央帯(2)から構成され、左のサブセット帯(L)には8個の永久磁石が配置され、右のサブセット帯(R)には9個の永久磁石が配置されている。中央帯(2)には永久磁石が配置されていないので、左右の隣接部(7、8)は中央帯(2)の距離だけ離れて配置されている。この中央帯(2)の離反距離は、強の磁力を有する永久磁石(13)の長さより長く左右のサブセット帯(L、R)の長さよりも短い。図1に例示する中央帯(2)の長さは、図2を参照すると、強の磁力を有する永久磁石(13)2個分の長さに相当している。
【0030】
図1の永久磁石の図のなかで、右斜め斜線と左斜め斜線とは磁極が180度異なっていることを示す。また、太い斜線で示す面積の大きいほうが強の磁力を有する永久磁石をあらわし、細い斜線で示す面積の小さいほうが中の磁力を有する永久磁石をあらわし、更に細い斜線で示す面積のさらに小さいほうが弱の磁力を有する永久磁石をあらわす。例えば、左右の端部(5、6)にある永久磁石(9、10)はS極とN極が異なる弱の磁力を有する永久磁石が配置されていることをあらわす。左右の隣接部(7、8)にある永久磁石(11、11)はS極とN極が同じ中の磁力を有する永久磁石が配置されていることをあらわす。
【0031】
図1の右のサブセット帯(R)は、右隣接部(7)、右接続部(4)および右端部(5)から構成される。右隣接部(7)には、左隣接部(8)にある中の磁力を有する永久磁石(11)に対峙して、同様の永久磁石(11)がある。右接続部(4)には中および強の磁力を有する永久磁石がそれぞれ5個および2個ある。すなわち、右隣接部(7)から右端部(5)の方向へ、中の磁力を有する永久磁石(14)、磁極が逆の中の磁力を有する永久磁石(11)、中の磁力を有する永久磁石(14)、磁極が逆の中の磁力を有する永久磁石(11)そして中の磁力を有する永久磁石(14)、さらに、強の磁力を有する永久磁石(13)および磁極が逆の強の磁力を有する永久磁石(12)が配置されている。右端部(5)は弱の磁力を有する1個の永久磁石(9)がある。
【0032】
図1の左のサブセット帯(L)は、左端部(6)、左接続部(3)および左隣接部(8)から構成される。左端部(6)は弱の磁力を有する1個の永久磁石(10)があり、左隣接部(8)は中の磁力を有する1個の永久磁石(11)がある。左接続部(3)には強および中の磁力を有する永久磁石がそれぞれ3個ある。すなわち、左端部(6)から左接続部(3)の方向へ、強の磁力を有する永久磁石(13)および磁極が逆の強の磁力を有する永久磁石(12)があり、続いて中の磁力を有する永久磁石(11)および磁極が逆の中の磁力を有する永久磁石(14)が交互に並んで配置されている。更に続いて強の磁力を有する永久磁石(13)および磁極が逆の中の磁力を有する永久磁石(14)が配置されている。
【0033】
ここで、強の磁力を有する永久磁石の形状は、ネオジム磁石の磁極の向きにかかわらず、長さ12mm、幅2.2mmおよび高さ1.2mmである。中の磁力を有する永久磁石の形状も同様に長さ6mm、幅2.2mmおよび高さ1.2mmである。弱の磁力を有する永久磁石の形状も同様に長さ4mm、幅2.2mmおよび高さ1.2mmである。これらの永久磁石の配列構造(1)は、背板の細長方向に沿って17個の永久磁石が幅および高さをそろえて整列している。
【0034】
図2は、銅合金製の背板の表面にインレー溝を設け、図1に示す配列構造の17個の永久磁石を幅および高さをそろえて適宜配置したものである。ここで、銅合金は銅と亜鉛の比率が70対30の黄銅(JIS規格C2600)を使用した。17個の永久磁石からなる配列構造の上に紙を置き、紙の上に鉄粉をばらまいて本発明の配列構造の磁力分布を具現化した。永久磁石はネオジム、鉄、およびホウ素を含むネオジム合金である。図2に示すとおり、背板の細長方向と直行する方向へ17個の永久磁石の磁力線が発散している。複数の綴じリング(図示しない)は背板の細長形状に沿っているので、背板の細長方向と直行する方向に金属製綴じ具を移動することができないことがわかる。
【0035】
右端部(5)および左端部(6)の永久磁石(9,10)は、図2に示すように、弱の磁力しかないので吸着する鉄粉の量が少なくなっている。なお、図2では左端部(6)の永久磁石(10)の磁極を「-」記号で示し、右端部(5)の永久磁石(9)の磁極を「+」記号で便宜的に示す。同様に、左隣接部(8)および右隣接部(7)の中の磁力を有する永久磁石(11,11)の磁極を「+」記号で便宜的に示す。図2から明らかなとおり、左端部(6)の永久磁石(10)および右端部(5)の永久磁石(9)は磁極が異なっているので、全体の磁力線は閉じたループを描く。
【0036】
図2に示すように、右隣接部(7)および左隣接部(8)の磁極は同極なので反発する。ところが、中央帯(2)に反発力を吸収・消失等する金属片または磁極が逆の極弱の磁力を有する永久磁石があると、背板の溝内に埋めたネオジム磁石の配列構造(1)は、あたかも1本の棒磁石のようにふるまうことができる。左右の隣接部(7、8)の磁力は左右の端部(5、6)の磁力よりも強いので、この金属製綴じ具は中央帯(2)のところでしっかりと吸着できるように設計されている。
【0037】
次に、右接続部(4)における全体の磁力および左接続部(3)における全体の磁力を比較する。図1を参照すると、右接続部(4)には中の磁力を有する永久磁石が5個と強の磁力を有する永久磁石が2個あることがわかる。同様に、左接続部(3)には中の磁力を有する永久磁石が3個と強の磁力を有する永久磁石が3個ある。結局、右接続部(4)には中の磁力を有する永久磁石が2個多くあり、左接続部(3)には強の磁力を有する永久磁石が1個多くあることになる。
【0038】
強の磁力を有する永久磁石1個は中の磁力を有する永久磁石1個よりも磁力が強い関係にあるが、強の磁力を有する永久磁石1個と中の磁力を有する永久磁石2個の場合は明らかではない。ところが、図2を参照すると、右接続部(4)における磁力よりも左接続部(3)における磁力のほうが強くなっていることがわかる。すなわち、強の磁力を有する永久磁石1個および中の磁力を有する永久磁石2個が金属製綴じ具と対峙する面積は24mmと(12mm+12mm)で同じである。ところが、鉄粉の分布をみると、強の磁力を有する永久磁石1個のほうが中の磁力を有する永久磁石2個よりも磁力が強いことがわかる。
【0039】
複数の綴じリングをつかむと金属製綴じ具は背板の細長方向に力を加えやすくなるので、金属製綴じ具をスライドすることができる。金属製綴じ具をスライドすると、金属製綴じ具と永久磁石との向かい合っている接触面積が減少するので、金属製綴じ具は細長形状の背板から簡単に外すことができる。よって、複数の綴じリングをつまんで左のサブセット帯(L)を右のサブセット帯(R)のほうにスライドし、右サブセット帯(R)を持ち上げると金属製綴じ具は背板から簡単に外すことができる。
【0040】
本発明の吸脱着が容易な綴じ金具は以上のような構成および効果により、ルフィル(穴あき用紙)、メモ帳用紙、スクラップブックなどの薄紙だけでなく、ノート、ファイル、アルバム、地図、ガイドブック、テキストブック、マニュアルなどの種々の紙製品に適用することができる。特に、本発明の吸脱着が容易な綴じ金具はシステム手帳やスケジュール帳、アドレス帳、名刺入れなどの頻繁に整理を行う物品の部材として最適である。
【0041】
なお、本発明の具体的な配列構造は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形や応用範囲が可能である。例えば、複数のリングの先端部分が磁極をそろえた、または、磁極の異なる永久磁石構造であってもよい。また、細長形状の背板における配列構造は1本の配列構造を複数列設けてもよいし、1本の配列構造を複数本の配列構造に分割してもよい。さらに、1本の配列構造を湾曲したデザインにすることも可能である。また、複数列の配列構造の長さを長短にしてもよく、複数本の配列構造もそれぞれ異なる長さにしてもよい。背板を縦方向にも横方向にも複数個に分割してもよい。
【0042】
さらに、金属製綴じ具の対峙面を強磁性金属にするだけでなく、強磁性金属面と反磁性金属面の複合面としてもよい。また、金属製綴じ具に永久磁石を埋設し、背板の配列構造と全部または一部の磁極を異ならせた配列構造にしてもよい。また、金属製綴じ具は綴じリング部分だけを異なる金属製またはプラスチック製にしてもよく、プラスチック製樹脂中に金属片または金属粉末を分散させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】は本発明の一実施形態に係る永久磁石の配列構造を示す模式図である。
図2】は同実施形態の磁力線の分布を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1…配列構造
2…中央帯
3…左接続部
4…右接続部
5…右端部
6…左端部
7…右隣接部
8…左隣接部
【要約】      (修正有)
【課題】複数の綴じリングを有する金属製綴じ具であり、背板のインレー内の配列構造に沿ってスライドして背板に吸着・脱着することができる吸脱着が容易な綴じ金具を提供する。
【解決手段】背板の溝内にある細長の配列構造(1)は、1本の棒磁石のように17個の永久磁石からなり、左サブセット帯(L)に8個と右サブセット帯(R)に9個配置されている。左右端部(5、6)は弱の磁力を有する永久磁石が極を異ならせて配置され、左右隣接部(7、8)は中の永久磁石が中央帯(2)を介して同極で対峙している。左接続部(3)には強および中の磁力を有する永久磁石がそれぞれ3個ずつあり、右接続部(4)には中の磁力を有する永久磁石が5個と、強の磁力を有する永久磁石が2個ある。
【選択図】図2
図1
図2