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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】走査型電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20240403BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/244
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023111232
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2021093595の分割
【原出願日】2021-06-03
(65)【公開番号】P2023123828
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 岳志
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-192538(JP,A)
【文献】特開平2-061953(JP,A)
【文献】特開2012-112927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01B 15/00-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を試料上で走査しながら前記試料に前記電子線を照射する電子線照射装置と、
前記電子線が通る光軸を回転軸として互いに回転対称の位置に配置された3つ以上の検出面を有する検出器であって、前記電子線が照射された前記試料から放出された反射電子を検出する検出器と、
前記3つ以上の検出面の中の少なくとも2つの検出面によって検出された反射電子の信号量に基づいて、画像を生成する信号処理装置と、
を含み、
前記信号処理装置は、前記検出器が有する少なくとも2つの検出面によって検出された反射電子の信号量の差に基づいて、画像を生成し、前記信号量の差に基づいて、前記試料の表面の高さを算出し、
更に、前記信号処理装置は、前記試料の表面にて前記電子線が照射された走査位置毎に前記試料の表面の高さを算出し、各走査位置の前記信号量の差に基づいて前記試料の表面の各平坦部分を抽出し、平坦部分のラベリング処理を実行することで、平坦部分毎に弁別し、同一の平坦部分に含まれる複数の走査位置の高さの平均値を変えずに前記同一の平坦部分に含まれる各走査位置の高さが等しくなるように、前記同一の平坦部分に含まれる各走査位置の高さを補正する、
ことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型電子顕微鏡において、
前記信号処理装置は、各平坦部分の補正後の高さを用いて、平坦部分と他の平坦部分との間の高さを補正する、
ことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の走査型電子顕微鏡において、
前記信号処理装置は、更に、高さに応じた色を用いて前記画像を着色する、
ことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の走査型電子顕微鏡において、
前記信号処理装置は、更に、前記画像から、前記試料の表面に形成されている段差の形状から結晶の欠陥を抽出し、その抽出結果をディスプレイに表示させる、
ことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の走査型電子顕微鏡において、
前記欠陥の位置を示す情報が、他の分析装置又は加工装置に用いられる、
ことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の走査型電子顕微鏡において、
前記試料に対する反射電子の放出角度が定められ、
前記電子線のエネルギー、前記試料に印加されるバイアス電圧、及び、前記試料と前記検出器との間の距離に基づいて、前記検出器によって検出可能な反射電子の放出角度の範囲が定められる、
ことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項6に記載の走査型電子顕微鏡において、
前記信号処理装置は、前記放出角度の範囲を示す情報をディスプレイに表示させる、
ことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の走査型電子顕微鏡において、
前記電子線のエネルギー、前記試料に印加されるバイアス電圧、及び、前記試料と前記検出器との間の距離の中から2つのパラメータがユーザーによって指定され、前記2つのパラメータに基づいて、前記放出角度の範囲内の角度で放出される反射電子を検出するための残りのパラメータが算出される、
ことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)においては、電子線が試料に照射され、試料に入射した電子は、試料を構成する原子との相互作用によって散乱し、二次電子を励起しながら拡散する。そして、試料の表面に到達した一部の電子が、試料の外部に放出される。このときの散乱や放出の過程で、電子は試料の組成や形状の影響を受けるため、放出される電子の量は、試料の組成や形状によって変わる。そのため、電子線を試料上で走査しながら放出される電子を検出し、電子線の走査位置と信号量とに基づいて画像を生成することで、試料表面の形状や組成を画像として観察することができる。
【0003】
電子は、試料内での散乱によっては入射位置から離れた位置からも放出される。そのため、検出された電子から得られる情報は、電子線の入射位置の組成や形状だけでなく、電子が放出した位置の組成や形状の情報も含み得る。そのため、走査型電子顕微鏡の分解能は、電子線を限りなく点に絞っても、散乱の広さより小さくなることはない。一般的な走査型電子顕微鏡では、入射電子の散乱領域が原子サイズよりも大きいため、原子分解能の画像を得ることは難しい。
【0004】
通常、なるべく多くの信号を集めて検出することで、SEM像のSNは改善する。そのため、多くの信号を取得することができる位置に検出器を配置したり、検出器の周辺の電磁場を制御して電子を検出器に集めて検出したりする方法が採用されることがある。
【0005】
なお、特許文献1には、反射電子に基づいて三次元形状を表す画像を生成することが記載されている。また、特許文献2には、反射電子に基づいて、試料表面の凹凸形状を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-238400号公報
【文献】実開昭51-96494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、試料で散乱した電子は、広いエネルギー・角度範囲をもって試料から放出される。放出された電子のエネルギーや角度によって、試料の特性を反映した強度が得られる。そのため、電子のエネルギーや角度を選択して電子を検出することで、試料の特徴が強調された画像が得られる。しかし、SNの改善を優先して検出器を設計すると、その検出器によって得られる情報には、試料の様々な情報が混在することになる。そのため、ユーザーが必要とする情報が見え難くなることがある。
【0008】
そのような情報として、例えば、試料の表面の形状に関する情報が挙げられる。例えば、半導体ウエハの表面は、基本的には、平坦部分と段差のみによって構成されている。この構造は、ステップとテラスとの組み合わせの構造である(以降、ステップ&テラス構造と称す)。段差の部分がステップであり、平坦部分がテラスである。この構造に関する情報が、得られ難くなることがある。一般的に、半導体ウエハの性能は、結晶の欠陥密度が低いほど良いとされる。結晶中に欠陥が存在すると、半導体ウエハ表面のステップ&テラス構造に歪みの影響が現れる。そのため、表面のステップ&テラス構造に基づいて、半導体ウエハの性能を評価することができる。
【0009】
しかしながら、試料の様々な情報が混在したSEM像から、原子数層分の厚さや形状を検出することは難しく、ステップ&テラス構造を評価することは難しい。
【0010】
本発明の目的は、試料の極表面の情報を持つ電子を検出し、原子数層分の形状に関する情報を取得することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様は、電子線を試料上で走査しながら前記試料に前記電子線を照射する電子線照射装置と、前記電子線が通る光軸を回転軸として互いに回転対称の位置に配置された2つの検出面を有する検出器であって、前記電子線が照射された前記試料から放出された反射電子を検出する検出器と、前記試料を回転させる制御装置と、前記試料を回転させながら前記電子線を前記試料に照射することで前記検出器によって検出された反射電子の信号量に基づいて、画像を生成する信号処理装置と、を含むことを特徴とする走査型電子顕微鏡である。
【0012】
本発明の1つの態様は、電子線を試料上で走査しながら前記試料に前記電子線を照射する電子線照射装置と、前記電子線が通る光軸を回転軸として互いに回転対称の位置に配置された3つ以上の検出面を有する検出器であって、前記電子線が照射された前記試料から放出された反射電子を検出する検出器と、前記3つ以上の検出面の中の少なくとも2つの検出面によって検出された反射電子の信号量に基づいて、画像を生成する信号処理装置と、を含むことを特徴とする走査型電子顕微鏡である。
【0013】
前記信号処理装置は、前記検出器が有する少なくとも2つの検出面によって検出された反射電子の信号量の差に基づいて、画像を生成してもよい。
【0014】
前記信号処理装置は、前記信号量の差に基づいて、前記試料の表面の高さを算出してもよい。
【0015】
前記信号処理装置は、前記信号処理装置は、前記試料の表面にて前記電子線が照射された走査位置毎に前記試料の表面の高さを算出し、各走査位置の前記信号差に基づいて前記試料の表面の各平坦部分を抽出し、平坦部分のラベリング処理を実行することで、平坦部分毎に弁別し、同一の平坦部分に含まれる複数の走査位置の高さの平均値を変えずに前記同一の平坦部分に含まれる各走査位置の高さが等しくなるように、前記同一の平坦部分に含まれる各走査位置の高さを補正してもよい。
【0016】
前記信号処理装置は、各平坦部分の補正後の高さを用いて、平坦部分と他の平坦部分との間の高さを補正してもよい。
【0017】
前記信号処理装置は、更に、高さに応じた色を用いて前記画像を着色してもよい。
【0018】
前記信号処理装置は、更に、前記画像から、前記試料の表面に形成されている段差の形状から結晶の欠陥を抽出し、その抽出結果をディスプレイに表示させてもよい。
【0019】
前記欠陥の位置を示す情報が、他の分析装置又は加工装置に用いられてもよい。
【0020】
前記試料に対する反射電子の放出角度が定められ、前記電子線のエネルギー、前記試料に印加されるバイアス電圧、及び、前記試料と前記検出器との間の距離に基づいて、前記検出器によって検出可能な反射電子の放出角度の範囲が定められてもよい。
【0021】
前記制御装置は、前記放出角度の範囲を示す情報をディスプレイに表示させてもよい。
【0022】
前記電子線のエネルギー、前記試料に印加されるバイアス電圧、及び、前記試料と前記検出器との間の距離の中から2つのパラメータがユーザーによって指定され、前記2つのパラメータに基づいて、前記放出角度の範囲内の角度で放出される反射電子を検出するための残りのパラメータが算出されてもよい。
【0023】
本発明の1つの態様は、走査型電子顕微鏡を用いた画像生成方法において、試料を回転させながら、電子線を前記試料に照射し、前記電子線の光軸を回転軸として互いに回転対称の位置に配置された2つの検出面を有する検出器によって、前記電子線が照射された前記試料から放出された反射電子を検出し、前記検出器によって検出された反射電子の信号量に基づいて、画像を生成する、ことを特徴とする走査型電子顕微鏡を用いた画像生成方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、試料の極表面の情報を持つ電子を検出し、原子数層分の形状に関する情報を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一般的な走査型電子顕微鏡の構成を示す図である。
図2】検出器と試料を示す断面図である。
図3】放出角度と散乱深さとの関係を示す図である。
図4】検出器と試料を示す断面図である。
図5】検出器と試料を示す断面図である。
図6】検出器と試料を示す断面図である。
図7】検出器と試料を示す断面図である。
図8】平行平板電極を示す図である。
図9】反射電子の軌道を示す図である。
図10】検出器と試料を示す断面図である。
図11】検出器と試料を示す断面図である。
図12】試料の一部を示す断面図である。
図13】試料の一部を示す断面図である。
図14】従来技術に係る検出器と試料の一部を示す斜視図である。
図15】第1実施形態に係る検出器を示す平面図である。
図16】第1実施形態に係る検出器と試料の一部を示す斜視図である。
図17】試料の一部を示す断面図である。
図18】SEM像を示す図である。
図19】SEM像を示す図である。
図20】第1実施形態に係る検出器と試料の一部を示す斜視図である。
図21】SEM像を示す図である。
図22】第1実施形態に係る走査型電子顕微鏡の構成を示す図である。
図23】信号処理装置によって実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図24】信号差のマップの一例を示す図である。
図25】高さのマップの一例を示す図である。
図26】試料の表面の三次元形状を示す図である。
図27】平坦部分の抽出結果を示す図である。
図28】ラベリング処理の結果を示す図である。
図29】高さのマップの一例を示す図である。
図30】y=0の行について補正された高さの一例を示す図である。
図31】補正された高さのマップの一例を示す図である。
図32】補正された高さのマップの一例を示す図である。
図33】高さを補正するための係数を示す図である。
図34】高さを補正するための係数を示す図である。
図35】補正された高さのマップの一例を示す図である。
図36】補正された三次元形状を示す図である。
図37】第2実施形態に係る検出器を示す平面図である。
図38】第2実施形態に係る検出器と試料の一部を示す斜視図である。
図39】第2実施形態に係る検出器と試料の一部を示す斜視図である。
図40】第2実施形態に係る検出器と試料の一部を示す斜視図である。
図41】SEM像を示す図である。
図42】SEM像を示す図である。
図43】欠陥密度を色で表現する画像を示す図である。
図44】目印を示す図である。
図45】SEM像を示す図である。
図46】SEM像を示す図である。
図47】SIM像を示す図である。
図48】CL法を実現する装置と走査型電子顕微鏡とが組み合わされた装置である。
図49】CL法を実現する装置と走査型電子顕微鏡とが組み合わされた装置である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する前に、図1を参照して、一般的な走査型電子顕微鏡について説明する。図1には、一般的な走査型電子顕微鏡100が示されている。走査型電子顕微鏡100は、試料に電子線を照射し、その試料から放出した反射電子を検出することで画像を生成する装置である。
【0027】
走査型電子顕微鏡100は、電子線を発生させる電子銃12と、レンズ群(集束レンズ14、偏向レンズ16及び対物レンズ18)と、コイル群(偏向コイルや走査コイル)と、試料22から放出した反射電子を検出する検出器20と、を含む。電子銃12、集束レンズ14、偏向レンズ16、対物レンズ18、検出器20、及び、試料22の順で、これらが配置されている。電子銃12、レンズ群、コイル群及び検出器20として、公知の構成が用いられる。
【0028】
試料22は、試料室内に配置される。試料室内にステージが設置されており、試料22は、そのステージ上に配置される。ステージは、例えば、x軸、y軸及びz軸の三次元方向(平面方向と高さ方向)に移動可能なステージであってもよいし、二次元方向(平面方向)に移動可能なステージであってもよい。
【0029】
図1に示されていないが、走査型電子顕微鏡100は、試料室内に設置される試料22を交換するための交換室、及び、試料室の内部等を減圧するための真空排気系等を含む。
【0030】
電子銃12から発生した電子線は、試料22に照射される。電子線は、レンズ群(集束レンズ14、偏向レンズ16及び対物レンズ18)によって試料22の表面上に集束され、走査コイルによって試料22上で走査される。電子線の照射によって試料22から反射電子や二次電子が放出される。
【0031】
検出器20は、試料22の上方(つまり電子銃12側)に配置されており、試料22から放出された反射電子を検出する。例えば、検出器20は半導体検出器である。試料22から放出された反射電子は、検出器20に照射されて検出器20によって検出される。その検出によって電気信号が生成され、その電気信号が増幅されて、反射電子の像が生成される。例えば、電気信号が画像処理装置に入力され、画像処理装置は、その電気信号に基づいて画像を生成する。その画像は、例えば、ディスプレイに表示される。
【0032】
図2を参照して、反射電子の放出角度について説明する。図2は、検出器20と試料22を示す断面図である。検出器20は、例えば円環状の形状を有する。つまり、検出器20の中央に、円形の貫通孔20aが形成されている。
【0033】
放出角度θは、試料22の表面を基準として定義される。試料22の表面に平行な角度に近い角度を低角度と称し、電子線が通る光軸に近い角度を高角度と称することとする。
【0034】
原子数層分のステップ形状を検出するためには、試料22の表面の極浅い領域で散乱した電子を検出する必要がある。例えば、試料22の表面に対して低角度で放出した電子群においては、試料22の表面に近い位置(つまり浅い位置)で散乱した電子の割合が多い。
【0035】
図3には、反射電子の放出角度と電子の散乱の深さとの関係が示されている。図3において、横軸は、反射電子の放出角度を示しており、縦軸は、試料22に入射した電子の散乱の深さを示している。試料22は窒化ガリウム(GaN)であり、一次電子の加速電圧は3kVである。縦軸の値は、放出角度毎の散乱の深さの平均値である。その平均値は、モンテカルロシミュレーションのCASINO(v2.4.8.1)を用いて算出された値である。
【0036】
図3に示すように、放出角度が低角度の反射電子ほど、散乱の深さは浅いことが分かる。したがって、低角度の反射電子によって画像を生成することで、試料22の表面の僅かな形状の変化を確認することができる。しかし、通常、高角度の反射電子の発生量は多いが、低角度の反射電子の発生量は少ない。そのため、一般的な測定条件の下で試料22を観察しても、低角度の反射電子に関する情報は、高角度の反射電子に関する情報によって埋もれてしまう。その結果、試料22の表面の僅かな形状の変化を観察することが難しくなる。
【0037】
これに対処するために、検出器20と試料22との間の距離を短くする方法を採用することが考えられる。試料22から放出した反射電子が直進すると仮定すると、検出器20と試料22との間の距離を短くすることで、検出することが可能な反射電子の角度が、低角度側にシフトする。例えば、試料22を検出器20に近づけることで、検出器20と試料22との間の距離を短くする。検出器20を試料22に近づけることで、検出器20と試料22との間の距離を短くしてもよい。
【0038】
また、減速法を採用することが考えられる。走査型電子顕微鏡においては、マイナス数kVの比較的高い電圧(試料バイアス電圧)を試料22に印加し、試料22と対物レンズ18との間に電場を生じさせることがある。この電場は、一次電子に対して減速場として作用する。これによって色収差が改善し、また、入射電子のエネルギーが低下するため、試料22内で電子が散乱する範囲が限定的となり、SEM像の分解能が改善する。
【0039】
減速法によって生成される電場は、試料22から放出された反射電子に対しては加速場として作用する。そのため、試料22から放出された反射電子は、対物レンズ18に向けて加速され、その結果、反射電子の進行方向は高角度側に偏向する。その結果、通常は、試料22と検出器20との間を通り抜けてしまうような低角度の反射電子が、検出器20に入射する。また、加速場によって、反射電子の運動エネルギーも増大する。
【0040】
図4を参照して、試料バイアス電圧の印加の有無に応じた反射電子の軌道について説明する。図4は、検出器20と試料22を示す断面図である。試料バイアス電圧が試料22に印加されていない場合、図4(a)に示すように、試料22から放出された低角度の反射電子24は、検出器20と試料22との間を通り抜けてしまい、検出器20によって検出されない。一方、試料バイアス電圧が試料22に印加されている場合、図4(b)に示すように、試料22から放出された反射電子26は、高角度側に偏向し、その結果、検出器20に入射する。
【0041】
検出器20として一般的に用いられる半導体検出器では、半導体検出器に入射した電子によってキャリアが発生し、それがP型半導体とN型半導体に移動することで、電気信号として取り出すことができる。このときに発生するキャリアの量は、半導体検出器に入射する電子の運動エネルギーが高いほど多く発生し、電気信号が大きくなる。そのため、電子を効率的に検出することができ、SNが改善する。つまり、減速法は、放出角度が低角度の反射電子を効率的に取得することができる手法であるといえる。
【0042】
しかし、試料バイアス電圧を試料22に印加すれば、必ずしも低角度の反射電子を効率的に取得できるとは限らない。
【0043】
例えば、電子線の加速電圧と試料バイアス電圧との差を小さくすることで、電子を試料22の手前で大きく減速させて、試料22に入射する電子のエネルギーを1keV以下に低下させることができる。しかし、入射電子のエネルギーが低下すると、反射電子のエネルギーも低下する。反射電子の放出エネルギーに対して試料バイアス電圧が大きいと、反射電子の軌道は高角度側に大きく偏向することになる。通常、検出器20には、一次電子線が通る貫通孔20aが形成されている。高角度側に大きく偏向した反射電子は、その貫通孔20aを通り抜けてしまい、検出器20に入射しない。
【0044】
図5には、反射電子の軌道のシミュレーション結果が示されている。図5は、検出器20と試料22を示す断面図である。
以下に、シミュレーションの条件を示す。
貫通孔20aの径:4mm
試料バイアス電圧:-2kV
検出器20と試料22との間の距離:3mm
電子線の加速電圧:2.1kV
上記の条件の下では、試料22に入射する時点での電子のエネルギーは、100eVになるので、試料22から放出される反射電子の最大エネルギーは100eVになる。
【0045】
試料22の表面から、0°~90°の角度範囲で100eVの反射電子が放出されていると仮定し、それらの反射電子が電場内でどのような軌道を通るのかをシミュレートした。
【0046】
その結果、図5に示すように、ほとんどの反射電子が貫通孔20aを通り抜けてしまい、検出器20には電子が入射していないことが分かる。
【0047】
このように、単に試料バイアス電圧を試料22に印加したからといって、低角度の反射電子を検出することができるとは限らない。低角度の反射電子を効率的に検出するために、試料バイアス電圧、検出器20の形状、検出器20と試料22との間の距離、及び、一次電子の加速電圧について、最適な観測条件がある。
【0048】
(最適な観察条件)
以下、低角度の反射電子を効率的に検出するための最適な観察条件について説明する。
【0049】
例えば、試料バイアス電圧を試料22に印加せず、かつ、検出器20付近に強磁場が発生していない場合、反射電子は放出時の角度のまま直進する。検出器20が検出できる反射電子の角度範囲は、検出器20の形状と、検出器20と試料22との間の距離と、に基づいて算出することができる。
【0050】
しかし、試料バイアス電圧を試料22に印加すると、検出器20と試料22との間に電場が発生し、それによって、反射電子は偏向されてしまうため、どの角度の反射電子が検出されているのかが分かり難くなる。そのため、観察条件が低角度の反射電子を効率的に検出する条件であるのか否かを判断することが難しくなる。
【0051】
この点に関して、図6及び図7を参照して説明する。図6及び図7は、検出器20と試料22を示す断面図である。
【0052】
電場によって反射電子が偏向され、図6に示すように、放出角度が0°の反射電子28が、検出器20の検出面(試料22に対向する面)の真ん中辺りに入射しているとする。0°よりも低い角度の反射電子は存在しないため、検出器20の検出面において、真ん中辺りの部分(放出角度が0°の反射電子28が入射する部分)よりも外側の部分には反射電子は入射せず、その部分は、信号の取得に使われていないことになる。
【0053】
これに対して、図7に示すように、放出角度が0°の反射電子30が検出器20の検出面の最外周の位置に入射するように観察条件を設定することで、検出器20の検出面の全部を使って反射電子を検出することができる。その結果、低角度の反射電子を効率的に検出することができる。このような結果が得られるように、試料バイアス電圧、検出器20の形状、検出器20と試料22との間の距離、及び、一次電子の加速電圧のそれぞれの条件を設定する必要がある。その条件は、例えば、シミュレーション等によって計算される。
【0054】
電磁場中の荷電粒子の軌道をシミュレーションによって計算することができるため、観察条件を変えてシミュレーションを実行することで、低角度の反射電子を効率的に検出することができる最適な観察条件を計算することができる。しかし、観察条件毎にシミュレーションを実行するのは手間である。また、走査型電子顕微鏡の各部品の形状が分かっていないと、シミュレーションを実行することができないため、ユーザーが各部品の形状を把握して計算することは難しい。
【0055】
そこで、実施形態では、最適な観察条件を簡単に求めるための式を求めた。具体的には、検出器20の検出面と試料22の表面を平行平板電極であると仮定し、検出器20の検出面と試料22の表面との間に電圧が印加されたときに平行平板電極間にある電子が受ける力の量に基づいて、電子の偏向量を求めた。実際の走査型電子顕微鏡では検出器20の検出面と試料22の表面は、無限に広がる平行平板でないため、その式で得られた結果には誤差が含まれる。しかし、その結果は、求められた観察条件が最適な観察条件(つまり、低角度の反射電子を効率良く取得することができる条件)であるか否かを判断するための材料として用いることができる。
【0056】
図8には、検出器20と試料22に相当する平行平板電極が示されている。なお、図8においては、検出器20に相当する平行平板電極の符号として検出器20の符号(20)を用いており、試料22に相当する平行平板電極の符号として試料22の符号(22)を用いている。
【0057】
試料22に印加される電圧をVと定義し、検出器20と試料22との間の距離をgと定義する。また、座標系(r,z)を定義する。その座標系の中心(r=0,z=0)は、試料22の中心である。rは径成分であり、zは高さ成分である。検出器20は、試料22の位置を基準として、z=gの位置に配置されている。
【0058】
試料22から放出した反射電子の最大運動エネルギーをVと定義し、反射電子の放出角度をθと定義する。θは、試料22からの角度である。
【0059】
試料22から放出した反射電子の軌道の座標(r,θ)は、以下の式(1)によって表現される。
【数1】
【0060】
反射電子が試料22から放出したときのエネルギーVは、通常は、試料22に入射する直前の一次電子のエネルギー(ランディングエネルギーと呼ばれる)と同じ値となる。
【0061】
図9に、上記の式(1)によって得られた軌道が示されている。図9において、横軸はr(mm)であり、縦軸はz(mm)である。図9には、放出角度が0°~45°の範囲において、5°毎の軌道が示されている。例えば、z=2mmの場合、r=4mm程度の外半径を有する検出器20(貫通孔20aの半径が1.5mm程度)を用いることで、放出角度が45°以下の反射電子を検出することができる。換言すると、r=4mm程度の外半径を有する検出器20を用いる場合、z=2mm程度の位置に検出器20を配置することで、放出角度が45°以下の反射電子を検出することができる。なお、反射電子のエネルギーは2keVであり、試料バイアス電圧は-2kVである。
【0062】
式(1)において、最終的に電子が検出器20に到達したときの座標はz=gとなる。この値を式(1)に代入し、0≦g、0≦V、V≦0、0≦θ≦90の条件に従って、式(1)を、rを求める式(2)に変換する。
【数2】
【0063】
式(2)によって、試料22に印加される電圧がVであり、検出器20と試料22との間の距離がgである場合に、運動エネルギーがVであり放射角度がθである反射電子が、検出器20の検出面に到達したときの座標rを計算することができる。rが、検出面の範囲内であれば、その角度を有する反射電子は検出器20によって検出することができると判断することができる。
【0064】
(低角度の反射電子の効率的な検出)
式(2)を用いて、低角度の反射電子を効率的に検出することができる観察条件を求める。
【0065】
図7に示すように、θ=0°の反射電子が検出器20の検出面の最外周の位置に入射する観察条件が、低角度の反射電子を効率的に検出することができる観察条件である。θ=0を式(2)に代入すると、以下に示す式(3)が得られる。
【数3】
【0066】
一次電子の入射エネルギーV、試料バイアス電圧V、及び、検出器20と試料22との間の距離gの中の2つのパラメータを設定することで、残りのパラメータを算出することができる。以下に示す式(4)、式(5)及び式(6)は、各パラメータを算出するための式である。式(4)は、入射エネルギーVを算出するための式である。式(5)は、試料バイアス電圧Vを算出するための式である。式(6)は、距離gを算出するための式である。
【数4】
【数5】
【数6】
【0067】
例えば、直径が10mmの検出面を有する検出器20によって低角度の反射電子を検出する場合において、r=0.005m、V=2000、及び、V=-2000の条件下で観察したい場合、これらの値を式(6)に代入することで、距離gを約2.5mmに設定すれば良いことが分かる。このようにして、低角度の反射電子を効率的に検出するための観察条件を算出することができる。
【0068】
例えば、ユーザーが、算出されたパラメータを観察条件として設定してもよいし、ユーザーがV、V及びgの中から2つのパラメータを選択し、残りのパラメータは、ユーザーによって選択された2つのパラメータに従って式(4)~(6)から算出されて、走査型電子顕微鏡に自動的に設定されてもよい。例えば、後述する制御装置51によって、残りのパラメータが算出されてもよい。
【0069】
例えば、ユーザーが、Vを2000に設定し、対物レンズ18の作動距離を3mmに設定したとする。検出器20の検出面の位置が、対物レンズ18から0.5mm離れた位置である場合、g=2.5mmとなる。この値を用いて式(5)からVを算出し、試料バイアス電圧をその算出されたVに自動的に設定することで、低角度の反射電子を効率的に検出することができる観察条件が設定される。
【0070】
なお、上述した方法は、低角度の反射電子の検出に限定されるものではなく、上述した方法が適用される放出角度の範囲は、限定されるものではない。また、上述した方法が、放出角度が厳密に何度以下の電子に適用されなければならないといった制限はない。
【0071】
(高角度側での調整)
試料によっては、検出の対象を低角度の反射電子に限定せずに、信号量の多い高角度の反射電子も検出の対象にした方が、SEM像の観察に有利な場合がある。そのような場合、例えば、放出角度が45°以下の反射電子を観察することが可能な観察条件が指定されてもよい。上述した式(2)を用いて、放出角度θで放出した反射電子が検出器20の貫通孔20aの縁(つまり、検出面の内周の縁)に入射するためのパラメータrを算出することで、放出角度がθ以下の反射電子を検出器20によって検出することができる。図10には、放出角度θで放出した反射電子32が、検出面の内周の縁に入射する様子が示されている。
【0072】
例えば、θ=45°を式(2)に代入すると、以下に示す式(7)が得られる。
【数7】
【0073】
検出面の内半径(つまり、貫通孔20aの半径)r=0.0015mとし、観察条件である一次電子の入射エネルギーV=2000とし、試料バイアス電圧V=-2000とした場合、検出器20と試料22との間の距離gは、以下の式(8)で表される。
【数8】
その結果、g=0.002049mが得られる。
【0074】
これにより、検出器20と試料22との間の距離gを約2mmにすれば、放出角度が45°以下の反射電子を検出することができる。
【0075】
例えば、ユーザーが、加速電圧V、試料バイアス電圧V、及び、検出器20と試料22との間の距離gの中の2つのパラメータと、ユーザーが検出したい反射電子の角度範囲(例えば、何度以上又は何度以下等)とを指定した場合、その指定された条件の下で反射電子を検出することができる他のパラメータが、自動的に設定されてもよい。
【0076】
図11を参照して、この点について詳しく説明する。図11は、検出器20と試料22を示す断面図である。検出器20の外周の半径はr1(外半径)であり、内周の半径(つまり、貫通孔20aの半径)はr2(内半径)である。反射電子34a,34bは、試料22から放出された電子である。反射電子34aは、検出器20の内周側に入射する電子である。反射電子34bは、検出器20の外周側に入射する電子である。
【0077】
放出角度がユーザーによってθ以上の角度に指定された場合、式(2)においてr=r1とし、ユーザーが指定した観察条件が式(2)に代入されることで、ユーザーが指定していない残りのパラメータが算出される。例えば、ユーザーが、試料バイアス電圧Vと、検出器20と試料22との間の距離gとを指定した場合、加速電圧Vが、式(2)から求められる。これにより、ユーザーが検出したい角度範囲の反射電子を検出することができる。
【0078】
(検出角度範囲の表示)
観察条件に基づいて、検出器20が検出することが可能な反射電子の角度範囲が計算され、その角度範囲が、ディスプレイに表示されてもよい。これにより、どのような角度範囲の反射電子が検出されているのかを、ユーザーに提示することができる。ユーザーは、その表示されている角度範囲を参照して、最適な観察条件に従って反射電子が検出されているか否かを判断することができる。
【0079】
観察条件から、一次電子の入射エネルギーVと試料バイアス電圧Vが定まる。検出器20の取付位置と対物レンズ18の作動距離(WD)から、検出器20と試料22との間の距離gが定まる。上記の式(2)から、rが検出器20の外半径r1のときの角度θ1と、rが検出器20の内半径r2のときの角度θ2とが求められる。例えば、θの値を0°~90°の範囲で0.1°ずつ変えながら式(2)に代入し、rの値が外半径r1に最も近づくθを求めることで、おおよそのθ1を求めることができる。同様にして、rの値が内半径r2に最も近づくθを求めることで、おおよそのθ2を求めることができる。このようにしてθ1,θ2が求められると、例えば、「検出角度範囲θ1°~θ2°」を示す情報が、ディスプレイに表示される。例えば、後述する制御装置51が、検出角度範囲を示す情報をディスプレイに表示させる。
【0080】
(分割された検出器)
低角度の反射電子から試料22の表面形状を反映した情報が得られ易いが、観察条件によっては、そのような情報が得られ難くなってしまう。以下、図12から図14を参照して、その理由について説明する。図12及び図13は、試料22の一部を示す断面図である。図14は、検出器20と試料22の一部を示す斜視図である。
【0081】
図12から図14に示すように、試料22の表面には段差22a(例えば、表面において壁を形成している部分)が形成されている。例えば、試料22の表面は、一方の方向に向かって徐々に高くなる階段状の形状を有し、これによって、試料22の表面に段差22aが形成されている。
【0082】
試料22の表面に段差22aが形成されている場合、低角度の反射電子の放出方向によって、検出器20によって検出される反射電子の量が変わる。
【0083】
例えば、図12に示すように、階段状の部分が高くなる方向に放出された反射電子36は、段差22aに遮られる場合がある。その遮られた反射電子36は、検出器20によって検出されないため、その段差22a付近の信号量が減る。
【0084】
一方、図13に示すように、階段状の部分が低くなる方向に放出された反射電子38は、段差22aに遮られずに、検出器20によって検出される。また、段差部分から放出される電子も加わる。そのため、図12に示されている状況と比べると、信号量は増える。
【0085】
このように、試料22の表面形状を反映した信号は方向性を有している。そのため、図14に示されている円環状の検出器20によって反射電子を検出すると、試料22の表面の凹凸形状を表す情報が相殺され、その凹凸形状を鮮明に表す画像が得られない。
【0086】
これに対処するために、第1実施形態では、図15に示されている検出器40が用いられる。図15は、第1実施形態に係る検出器40を示す平面図である。検出器40は、中央に貫通孔42が形成された円環状の形状を有する検出器である。また、検出器40は、分割線44を軸として軸対称となるように2分割されており、検出器40aと検出器40bとによって構成される。検出器40aの検出面と検出器40bの検出面は、同じ形状及び大きさを有する。なお、検出器40a,40bは、物理的に分離していてもよいし、物理的に分離していなくてもよい。
【0087】
検出器40a,40bは、電子線が通る光軸(つまり、貫通孔42の中心)を回転軸として、互いに180°の回転対称の位置に配置されている。つまり、検出器40aの検出面と検出器40bの検出面は、電子線の光軸を回転軸として、互いに180°の回転対称の位置に配置されている。検出器40は、互いに180°の回転対称の位置に配置された2つの検出面(つまり、検出器40aの検出面と検出器40bの検出面)によって反射電子を検出する。
【0088】
以下、検出器40aによって検出された反射電子に対応する信号量を信号量Iと称し、検出器40bによって検出された反射電子に対応する信号量を信号量Iと称することとする。
【0089】
図16を参照して、各方向について説明する。図16は、検出器40と試料22の一部を示す斜視図である。
【0090】
検出器40を検出器40aと検出器40bとに分割する分割線44が延びる方向を、X方向と定義する。試料22の表面において階段状の部分が高くなっていく方向(つまり、段差22aの昇り方向)を、Y方向と定義する。なお、階段状の部分が低くなっていく方向を、Y方向と定義してもよい。
【0091】
例えば、図16に示すように、X方向とY方向とが直交するように、つまり、検出器40の分割線44が延びる方向と段差22aの昇り降りの方向とが直交するように、検出器40と試料22との間の向きの関係が定められて、反射電子が検出器40a,40bによって検出される。
【0092】
図17を参照して、この状態での反射電子の検出について説明する。図17は、試料22の一部を示す断面図である。
【0093】
図17(a)に示すように、階段状の部分が下る方向に放出される反射電子38は、段差22aによって遮られない。この方向に放出される反射電子38は、検出器40aによって検出されるので、信号量Iは増大する。
【0094】
一方、図17(b)に示すように、階段状の部分が上る方向に放出される反射電子36は、段差22aによって遮られる。この方向に放出される反射電子36は、検出器40bによって検出されるので、信号量Iは減少する。
【0095】
このように、段差22a付近においては、信号量Iと信号量Iとの差が大きくなる。一方で、段差22a以外の部分(つまり、平坦な部分)では、反射電子が遮られることがないため、信号量Iと信号量Iとの差は小さくなる。
【0096】
上記のような現象があるため、信号量Iと信号量Iとの差分を用いることで、段差22aを強調した画像が生成される。
【0097】
(段差の強調表示)
上述したように、信号量Iと信号量Iとの差分によって段差22aを強調した画像が得られるが、この方法では、検出器40の分割線44が延びる方向と階段状の部分が高くなる方向との関係によって、段差22aが明るく表示されたり、暗く表示されたりする。その場合、どの部分が段差22aであるのかをユーザーが判断するのが難しくなる。そのため、段差22aが明るく表示するための処理が必要となる。例えば、以下の式(9)に示すように、信号量Iと信号量Iとの差の絶対値Iを算出し、その絶対値Iを用いて像を作成することが考えられる。
【数9】
【0098】
なお、式(9)中のx、yは、試料22の表面上の位置を示している。
【0099】
段差22a付近では、信号量Iと信号量Iとの間で差が大きくなり、その差の絶対値Iを求めることで、段差22aを明るく表示することができる。逆に、段差22a付近を暗く表示したい場合には、その絶対値をマイナスにした信号を画像として用いてもよい。
【0100】
図18に示されているSEM像は、X方向とY方向とを直交させた状態で得られた絶対値Iに基づいて生成された画像である。検出器40の分割線44が延びる方向と階段状の部分が高くなる方向とが直交しているため、段差22aが明るく表示されている。
【0101】
また、得られたSEM像に対してフィルター処理が適用されてもよい。図19には、図18に示されているSEM像に対してガウシアンフィルターを適用することで得られた画像が示されている。図19に示すように、フィルターを提供することで、段差22aがより強調されて表示されている。
【0102】
また、検出器40に対して試料22が傾いている場合、つまり、検出器40の検出面と試料22の表面とが平行に配置されていない場合、上記の式(9)を用いて、段差22aが強調して表示されないことがある。その場合、例えば、信号量Iの平均値IAmeanと信号量Iの平均値IBmeanを算出し、(IA(x,y)-IAmean)と(IB(x,y)-IBmean)との差の絶対値に基づいて画像を生成すると、傾きに起因する信号差が補正されて、段差22aが見え易くなる。
【0103】
X方向とY方向との関係、つまり、検出器40の分割線44が延びる方向と階段状の部分が高くなる方向との関係によっては、段差22aが見え難くなることがある。例えば、図20に示すように、検出器40の分割線44が延びる方向(X方向)と、階段状の部分が高くなる方向(Y方向)とが一致している場合、信号量Iと信号量Iとの差はほとんどなくなるため、つまり、絶対値Iは小さくなるため、図21に示されているSEM像のように、段差22aは見えなくなる。
【0104】
そのため、絶対値Iに基づいて生成される画像を観察しながら、試料22が設置されているステージを回転させて、段差22aが強調して表示される向きに試料22の向きを合わせることが考えられる。試料22を入れ替える度にユーザーが手作業で向きを調整するのは手間がかかるため、この調整を自動的に行うことが考えられる。以下、この調整を自動的に行う処理について説明する。
【0105】
(試料用ステージの回転)
例えば、試料22用のステージを回転させながらSEM像を取得し、段差22aが見えているか否かを自動的に判定する必要がある。図18に示されているSEM像(段差22aが強調して表示される画像)と、図21に示されているSEM像(段差22aが強調して表示されていない画像)のそれぞれの標準偏差(SEM像の画素値の標準偏差)を計算すると、図18に示されているSEM像の方が、標準偏差は大きくなる。そのため、ステージを回転させながらSEM像を取得して標準偏差を計算し、その標準偏差を評価することで、検出器40の分割線44が延びる方向と階段状の形状が高くなる方向との関係が、段差22aを強調して表示するための最適な条件を満たしているのか否かを判断することができる。
【0106】
具体的には、ステージを回転させても試料22の表面を観察することができるように、ウエハ等の試料22がステージに設置される。試料22の表面に電子線をフォーカスさせ、ステージを所定角度毎に例えば0°~90°の範囲で回転させ、角度毎に信号量I,Iから絶対値Iを算出し、絶対値Iに基づいて画像を生成する。これにより、各角度における画像が得られる。角度毎に、得られた画像の標準偏差を計算する。標準偏差が最大となる角度にステージの角度を合わせることで、段差22aが強調された画像が得られる。なお、試料22が回転させられずに、又は、試料22が回転させられると共に、検出器40が回転させられてもよい。つまり、試料22及び検出器40の中の少なくとも1つが回転させられることで、X方向とY方向との間の相対的な回転角度の関係が変更されてもよい。
【0107】
(表面構造の三次元再構築)
式(9)によって定義される絶対値Iを用いることで、段差22aが強調された画像が得られるが、試料22の表面において階段状の部分が高くなっていく方向(Y方向)を特定することができない。つまり、段差22aを挟んだ平坦な部分について、どちらの平坦な部分の方が他の一方の平坦な部分よりも高い位置に配置されているのかを、特定することができない。
【0108】
階段状の部分が高くなっていく方向を特定するために、第1実施形態に係る走査型電子顕微鏡10は、検出器40による検出によって得られた信号から、試料22の表面の三次元の形状を再構築し、段差22aを含む階段状の形状を取得する。
【0109】
そのために、以下に示す式(10)を定義する。
【数10】
【0110】
式(10)に示すように、信号量Iと信号量Iとの差が、全体の信号量(I+I)で規格化される。式(10)で表される値Iが0である場合、試料22において電子線が入射する位置の付近に、凹凸形状の部分がなく、平坦な面が形成されていることが分かる。値Iが0ではない場合、電子線が入射する位置の付近に、何らかの凹凸形状の部分が存在し、その部分が階段状の形状を有する場合、電子線の入射位置と段差22aとの間の距離や、段差22aの高さによって、値Iは変わる。また、値Iが正の値か負の値かによって、階段状の部分が高くなる方向を特定することができる。つまり、表面の高さの変化量に対応する値を取得することができる。この値Iを積分すると、試料22の表面形状に相当する値が得られる。
【0111】
以下、具体的に表面形状を取得する装置の構成及び方向について説明する。
【0112】
図22には、第1実施形態に係る走査型電子顕微鏡10の構成が示されている。走査型電子顕微鏡10は、試料22に電子線を照射し、その試料22から放出した反射電子を検出することで画像を生成する装置である。
【0113】
走査型電子顕微鏡10は、図1に示されている走査型電子顕微鏡100と同様に、電子線を発生させる電子銃12と、レンズ群(集束レンズ14、偏向レンズ16及び対物レンズ18)と、コイル群(偏向コイルや走査コイル)と、を含む。なお、電子銃12、レンズ群及びコイル群が、電子線を試料22上で走査しながら当該試料に電子線を照射する電子線照射装置の一例に相当する。また、走査型電子顕微鏡10は、走査型電子顕微鏡100の検出器20の代わりに、図15に示されている検出器40を含む。電子銃12、集束レンズ14、偏向レンズ16、対物レンズ18、検出器40、及び、試料22の順で、これらが配置されている。走査型電子顕微鏡10は、試料22に数kV程度のマイナス電圧を印加することができる。なお、走査型電子顕微鏡10は、試料22にて発生した二次電子を検出する二次電子検出器を含んでもよい。
【0114】
試料22は、試料室内に配置される。試料室内にステージが設置されており、試料22は、そのステージ上に配置される。ステージは、例えば、x軸、y軸及びz軸の三次元方向(平面方向と高さ方向)に移動可能なステージであってもよいし、二次元方向(平面方向)に移動可能なステージであってもよい。また、ステージは、回転可能なステージである。ステージは、試料22を保持した状態で試料22を傾斜させることが可能な構成を有してもよい。
【0115】
図22に示されていないが、走査型電子顕微鏡10は、試料室内に設置される試料22を交換するための交換室、及び、試料室の内部等を減圧するための真空排気系等を含む。
【0116】
また、走査型電子顕微鏡10は、信号取得器46、信号処理装置48、ディスプレイ50及び制御装置51を含む。
【0117】
電子銃12から発生した電子線は、試料22に照射される。電子線は、レンズ群(集束レンズ14、偏向レンズ16及び対物レンズ18)によって試料22の表面上に集束され、走査コイルによって試料22上で走査される。電子線の照射によって試料22から反射電子や二次電子が放出される。
【0118】
検出器40は、試料22の上方(つまり電子銃12側)に配置されており、試料22から放出された反射電子を検出する。例えば、検出器40は半導体検出器である。試料22から放出された反射電子は、検出器40に照射されて検出器40によって検出される。より詳しく説明すると、反射電子の放出角度に応じて、反射電子は、検出器40a又は検出器40bのいずれかの検出器によって検出される。その検出によって電気信号が生成され、電気信号は、信号取得器46によって、電子線の走査位置と信号量のデータとして取得される。信号取得器46によって取得されたデータは、信号処理装置48に出力される。
【0119】
信号処理装置48は、信号取得器46から送られてきたデータに基づいて画像を生成する。その画像は、ディスプレイ50に表示される。例えば、信号処理装置48は、試料22の表面の形状を算出し、その算出によって得られた結果をディスプレイ50に表示させる。
【0120】
また、信号処理装置48は、画像の標準偏差の計算、及び、式(10)に従った計算を実行する。信号処理装置48は、式(9)に従った計算を実行してもよい。
【0121】
制御装置51は、走査型電子顕微鏡10の各部を制御する。例えば、制御装置51は、試料22が設置されるステージの回転を制御する。例えば、ステージを回転させるためのモータ等の構成が走査型電子顕微鏡10に設置されており、制御装置51は、そのモータの回転を制御することで、ステージの回転を制御する。これにより、制御装置51は、試料22の回転を制御する。例えば、走査型電子顕微鏡10は、試料22を回転させながら試料22に電子線を照射してSEM像を取得する。また、制御装置51は、式(1)~(8)のそれぞれに従った計算を実行し、上述した「検出角度範囲θ1~θ2」をディスプレイ50に表示させる。
【0122】
信号取得器46、信号処理装置48及び制御装置51は、例えば、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される。具体的には、これらの装置は、1又は複数のCPU等のプロセッサを備えている。当該1又は複数のプロセッサが、図示しない記憶装置に記憶されているプログラムを読み出して実行することで、これらの装置の機能が実現される。例えば、これらの装置は、パーソナルコンピュータ(PC)によって構成されてもよい。別の例として、これらの装置の各部は、プロセッサや電子回路やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア資源により実現されてもよい。その実現においてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。更に別の例として、これらの装置の各部は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によって実現されてもよい。
【0123】
信号処理装置48は、図23に示されているフローチャートに従って、処理を実行する。まず、信号処理装置48は、信号取得器46からデータを取得し(S01)、後述する式(11)に従って信号差を算出する(S02)。次に、信号処理装置48は、テラスを抽出し(S03)、ラベリングを行い(S04)、ラベル毎に平均値を算出する(S05)。テラスは、試料22の表面において段差22a以外の部分(つまり、平坦な部分)のことである。ラベリング及び平均値の算出の詳細については後述する。また、信号処理装置48は、高さラインプロファイルを取得し(S06)、各ラインにおいてラベル毎に平均化を行う(S07)。高さラインプロファイル及び平均化の詳細については後述する。次に、信号処理装置48は、高さラインプロファイルを補正し(S08)、三次元形状を表す画像を表示する(S09)。
【0124】
以下、信号処理装置48によって実行される各処理について詳しく説明する。
【0125】
まず、走査型電子顕微鏡10に試料22が設置され、観察条件が、試料22の表面に形成されている段差22aを観察することができる条件に設定される。つまり、X方向とY方向とが直交し、図18に示されているSEM像(段差22aが鮮明に表示される画像)が得られるように、観察条件が設定される。具体的には、上記の(試料用ステージの回転)の欄で説明したように、走査型電子顕微鏡10は、試料22の表面に電子線を照射し、制御装置51は、試料用ステージを所定角度毎に0°~90°の範囲で回転させる。これにより、所定角度毎に信号量I,I及び値Iが得られる。値Iに基づいて画像が生成され、その画像の標準偏差が計算され、その標準偏差が最大となる角度にステージの角度が合わせられる。これにより、段差22aが強調された画像が得られる。
【0126】
次に、走査型電子顕微鏡10は、電子線を走査しながら試料22からの反射電子を検出して信号を取得する。信号取得器46は、電子線の各走査位置(x,y)の信号量I(x,y),I(x,y)を取得する。つまり、信号取得器46は、試料22において電子線が照射された各位置(x,y)の信号量I(x,y),I(x,y)を取得する。
【0127】
信号処理装置48は、以下の式(11)に従って、信号量I,Iに基づいて信号差I(x,y)を算出する。
【数11】
【0128】
図24には、この信号差I(x,y)のマップの一例が示されている。図24には、各走査位置(x,y)におけるI(x,y)の具体的な値が示されている。図24中の(x,y)は、試料22上の走査位置(x,y)に対応する。
【0129】
(高さ算出)
次に、信号処理装置48は、信号差I(x,y)に基づいて、試料22の表面の各走査位置(x,y)の高さを算出する。なお、各走査位置(x,y)の高さは、予め定められた基準高さからの高さである。
【0130】
例えば、信号処理装置48は、y=0,1,・・・の各行について、以下の式(12)に従って、x方向にIを積分することで、各yにおける高さを算出する。
【数12】
【0131】
係数kは、高さを補正するための係数であり、観察条件によって変わる。以下、係数kについて説明する。
【0132】
例えば、既に別の高さ計測方法(例えば、Scanning Probe Microscope、SPM)によって表面の高さが計測されている試料について、k=1として式(12)に従って高さを算出する。この算出された高さは、別の高さ計測方法によって得られた高さと異なる。そこで、式(12)によって算出された高さが、別の高さ計測方法によって計測された高さと等しくなるように、係数kを求める。そして、同じ観察条件の下で、高さが未知の試料を測定し、その求められた係数kを用いて、式(12)に従って高さを算出する。これにより、高さが未知の試料の高さを算出することができる。
【0133】
また、半導体ウエハの表面のステップ&テラス構造は、半導体ウエハを構成する結晶に起因する構造である。そのため、結晶に歪みが無ければ、段差の高さは、結晶格子を反映した高さとなる。この特徴を利用し、視野内に原子1層分の段差が存在することが分かっている場合には、最小の段差の高さが、原子1層分の高さになるように係数kを決定する。これにより、正しい高さが算出される。
【0134】
図25には、k=0.2として、式(12)に従って、図24に示されている信号差I(x,y)の値に基づいて算出された高さの値が示されている。図25中の(x,y)は、試料22上の走査位置(x,y)に対応する。
【0135】
(高さ補正)
上記の高さZ(x,y)には、誤差が含まれる。図26を参照して、この誤差について説明する。図26は、試料22の表面の三次元形状を示す図である。濃淡によって、高さが表現されている。この高さは、式(12)によって算出された高さである。この試料22の表面は、x方向に関して、左側から右側にかけて階段状の形状を有し、y方向に関して、高さは同じである。しかし、y方向に凹凸が形成されており、実際の階段状の形状が正確に表現されていない。以下では、誤差を含む高さを補正することで、実際の階段状の形状を算出する方法について説明する。
【0136】
半導体ウエハ上のステップ&テラス構造においてテラス(平坦)部分は、原子レベルで平坦である。信号処理装置48は、この特徴を利用することで、平坦部分を抽出し、その平坦部分の高さを揃える。このようにして、高さが補正される。以下、高さ補正について詳しく説明する。
【0137】
(平坦部分の抽出)
信号処理装置48は、各走査位置の信号差I(x,y)の大きさに基づいて、試料22の表面が平坦であるのか否かを判断する。信号差I(x,y)が0であれば、検出器40a,40bに均等に反射電子が入射しているため、その信号差I(x,y)が得られる走査位置は、平坦部分であるといえる。実際には信号にノイズが含まれることがあるので、信号処理装置48は、閾値を設定し、信号差I(x,y)の絶対値が当該閾値以下である場合、その信号差I(x,y)が得られる走査位置は平坦部分であると判断する。
【0138】
例えば、信号処理装置48は、図24に示されている各信号差I(x,y)を対象として、信号差I(x,y)の絶対値が閾値(0.2)以下になる走査位置(x,y)を平坦部分として抽出する。図27には、その抽出結果が示されている。値「1」が割り当てられている領域が、平坦部分であると判断された領域である。値「0」が割り当てられている領域は、信号差I(x,y)の絶対値が閾値を超える領域である。
【0139】
平坦部分として抽出された領域において、値が「1」であり、他の部分と繋がって値「1」が連続している部分は、基本的に同じ高さを有するはずである。ところが、走査位置(x=0,y=2)や、走査位置(x=9,y=4)は、値が「1」である他の部分と繋がっておらず、独立している。これらの走査位置については、高さを揃える他の部分が存在しない。そこで、信号処理装置48は、独立した走査位置をフィルタリングによって除去する。除去された走査位置には値「0」が割り当てられる。
【0140】
(ラベリング処理)
次に、信号処理装置48は、値「1」の部分が連続する領域を1つのグループとして定めて、ラベリング処理を実行する。つまり、信号処理装置48は、値「1」の部分が連続する領域を1つのグループとして定め、各グループに異なるラベルを割り当てる。このラベリング処理として、公知のラベリング処理を用いることができる。
【0141】
例えば、信号処理装置48は、図27に示されている抽出結果に対してフィルタリングを実行し、フィルタリングが行われた抽出結果に対してラベリング処理を実行する。図28には、ラベリング処理の結果が示されている。図28に示す例では、あるグループにラベル「1」が割り当てられており、他のグループにラベル「2」が割り当てられている。このように、平坦部分が連続する領域毎にグループ化が行われ、各グループにラベルが割り当てられる。なお、信号差I(x,y)の絶対値が閾値を超える領域(図27中の値が「0」の領域)には、ラベル「0」が割り当てられている。以下では、ラベル「1」が割り当てられたグループを「グループ1」と称し、ラベル「2」が割り当てられたグループを「グループ2」と称することとする。
【0142】
(高さ補正処理)
以下、グループ毎に高さを揃える処理について説明する。
【0143】
図29には、図25と同様に、各走査位置(x,y)の高さが示されている。信号処理装置48は、グループ毎に高さの平均値を算出する。具体的には、信号処理装置48は、ラベル「1」が割り当てられたグループ1に属する各走査位置(x,y)の高さを抽出し、グループ1の高さの平均値を算出する。同様に、信号処理装置48は、ラベル「2」が割り当てられたグループ2に属する各走査位置(x,y)の高さを抽出し、グループ2の高さの平均値を算出する。
【0144】
グループ1の高さの平均値Zm1は、約14.86である。グループ2の高さの平均値Zm2は、約29.22である。
【0145】
信号処理装置48は、高さの平均値を用いて、y=0,1,・・・の各行を対象として、高さを補正する。
【0146】
まず、信号処理装置48は、y=0の行を対象として、グループ1に属する走査位置(x,y)群を抽出し、その抽出された走査位置(x,y)群に含まれる各走査位置(x,y)の高さに基づいて、その走査位置(x,y)群の高さの平均値Zm1y0を算出する。
【0147】
次に、信号処理装置48は、y=0の行の平均値Zm1y0がグループ1全体の高さの平均値Zm1と同じ値になるように、グループ1中のy=0の行に属する各走査位置(x,y)の高さを補正する。具体的には、信号処理装置48は、以下の式(13)に従って、グループ1中のy=0の行に属する各走査位置(x,y)の高さを補正する。Z´(x)は、補正後の高さである。
【数13】
【0148】
信号処理装置48は、グループ2についても、y=0の行を対象として同様の処理を実行する。つまり、信号処理装置48は、グループ2中のy=0の行の高さの平均値がグループ2全体の高さの平均値Zm2と同じ値になるように、グループ2中のy=0の行に属する各走査位置(x,y)の高さを補正する。
【0149】
図30には、y=0の行について、補正後の高さが示されている。図29と対比すると、グループ1,2のそれぞれにおいて、走査位置(x,y)の高さが補正されている。
【0150】
信号処理装置48は、y=1,2,・・・の各行についても、y=0の行に対する処理と同様の処理を実行する。これにより、グループ1,2のそれぞれにおいて、走査位置(x,y)の高さが補正される。図31には、補正された高さが示されている。y=0,1,2,・・・の各行を対象として、グループ1,2のそれぞれの高さが補正されている。つまり、信号処理装置48は、グループ1に含まれるy=1の行の平均値Zm1y1がグループ1全体の高さの平均値Zm1と同じ値になるように、グループ1中のy=1の行に属する各走査位置(x,y)の高さを補正する。y=2以降の各行についても同様の処理が行われる。グループ2についても同様の処理が行わる。
【0151】
図31に示すように、同じ平坦部分として抽出された同じグループに属する各走査位置(x,y)の高さが、互いに近い値となっている。つまり、グループ1に属する各走査位置(x,y)の高さは、互いに近い値となっており、グループ2に属する各走査位置(x,y)の高さは、互いに近い値となっている。
【0152】
高さの補正処理によって、平坦部分の高さは揃えられた。以下では、平坦部分以外の部分(主に段差の部分)の高さを補正する処理について説明する。
【0153】
まず、信号処理装置48は、y=0の行について、平坦部分として抽出された領域の端に相当する走査位置(x,y)と、平坦部分ではなく画像の端部に相当する走査位置(x,y)とを抽出する。ここでは、x=0,3,7,12のそれぞれの走査位置(x,y)が抽出される。なお、図32には、各行について抽出された走査位置(x,y)が、破線の円で囲まれている。
【0154】
次に、信号処理装置48は、抽出した走査位置(x,y)群を対象として、平坦部分以外の部分が間に入るように走査位置(x,y)のペアを生成する。y=0の行については、走査位置(0,0)と走査位置(3,0)とがペアを構成し、走査位置(7,0)と走査位置(12,0)とがペアを構成する。ここで、ペアを構成する2つの走査位置(x,y)について、左側の走査位置(x,y)の座標xを座標x1と称し、右側の走査位置(x,y)の座標xを座標x2と称する。信号処理装置48は、これらの座標の補正前の高さと補正後の高さとに基づいて、平坦部分以外の部分の高さを補正する。
【0155】
走査位置(0,0)と走査位置(3,0)とによって構成されるペアにおいては、走査位置(0,0)の補正前の高さ(つまり、座標x1=0における補正前の高さ)は、Z(x1)=3であり、補正後の高さは、Z´(x1)=3である。なお、走査位置(0,0)は平坦部分に含まれないため、補正後の高さは、補正前の高さと一致する。また、走査位置(3,0)の補正前の高さ(つまり、座標x=3における補正前の高さ)は、Z(x2)=11であり、補正後の高さは、Z´(x2)=15である。信号処理装置48は、これらの値を用いて、以下に示す式(14)及び式(15)に従って、高さを補正するための式に用いられる係数a,bを算出する。
【数14】
【数15】
【0156】
信号処理装置48は、係数a,bを用いて、以下の式(16)に従って、高さを補正する。
【数16】
【0157】
この補正処理によって、試料22の表面の凹凸形状が反映された状態で、ステップ(つまり、段差の部分)の傾斜量が補正される。
【0158】
図33には、y=0,1,2,・・・の各行について、x=0からグループ1の端部(つまり、x=3)までの領域に対する係数a,bが示されている。図34には、グループ1の端部(つまり、x=7)からグループ2の端部(つまり、x=12)までの領域に対する係数a,bが示されている。
【0159】
信号処理装置48は、y=0の行を対象として、0<x<3の範囲に含まれる各走査位置(x,y)の高さを、a=-1.22、b=0を用いて、式(16)に従って補正し、7<x<12の範囲に含まれる各走査位置(x,y)の高さを、a=0.02、b=-3.80を用いて、式(16)に従って補正する。信号処理装置48は、y=1,2,・・・の各行についても同様の処理を実行する。これにより、平坦部分以外の部分の高さが補正される。図35には、全走査位置(x,y)の補正後の高さが示されている。
【0160】
図36には、試料22の表面の三次元形状であって、高さが補正された三次元形状が示されている。図36に示されている三次元形状は、図26に示されている三次元形状の高さを補正することで得らえた形状である。
【0161】
高さが補正される前の三次元形状(図26参照)と、高さが補正された後の三次元形状(図36参照)とを比較すると、半導体ウエハである試料22の表面のテラス部分が平坦に補正され、ステップ形状が分かり易くなっている。
【0162】
半導体ウエハである試料22の表面の平坦部分と、検出器40の検出面とが、厳密に平行になるように、試料22と検出器40とを設置することは難しい。そのため、平坦部分について、式(9)によって得られる値が0になるとは限らない。その場合、試料22の表面の平坦部分について、式(9)によって得られる値が0になるように、信号処理装置48は、信号量I,Iを補正する。
【0163】
例えば、ユーザーが平坦部分を指定し、信号処理装置48は、その指定された走査位置(x,y)の値を用いて信号量I,Iを補正する。
【0164】
まず、信号処理装置48は、式(9)に従って値I(x,y)を算出し、この値I(x,y)を用いて画像を生成し、その画像をディスプレイ50に表示させる。ユーザーは、その画像を参照して、試料22の表面のステップ形状を確認し、平坦部分に相当する走査位置(x,y)を指定する。
【0165】
信号処理装置48は、その走査位置(x,y)の信号量I(x,y),I(x,y)を用いて、以下の式(17)及び式(18)に従って、信号量を補正する。
【数17】
【数18】
【0166】
信号処理装置48は、補正後の信号量I´と信号量I´との差分である値I´を算出する。これにより、平坦部分について信号差の小さい値が得られる。
【0167】
なお、ユーザーが複数の走査位置(x,y)を指定し、信号処理装置48は、当該複数の走査位置(x,y)の信号量Iの平均値と、当該複数の走査位置(x,y)の信号量Iの平均値を算出してもよい。この場合、式(17)及び式(18)中の信号量I(x,y),I(x,y)として、その算出された平均値が用いられる。
【0168】
上述した第1実施形態によれば、試料22を回転させながら電子線を試料22に照射し、2分割された検出器40(検出器40a,40b)によって、試料22から放出された反射電子を検出し、検出器40aによって検出された反射電子の信号量と検出器40bによって検出された反射電子の信号量との差を算出し、その差を評価することで、ステップが強調された画像が得られる、試料22の回転角度を特定することができる。試料22の回転角度をその回転角度に設定して反射電子を検出することで、ステップが強調された画像が得られる。
【0169】
また、得られた信号量の差に基づいて、試料22の表面の高さを算出し、ラベリング処理と平坦部分の抽出とを含む高さ補正処理を実行することで、試料22の表面の高さを補正することができる(図36参照)。
【0170】
また、電子線のエネルギー、試料22に印加されるバイアス電圧、及び、試料22と検出器40との間の距離に基づいて、検出器40によって検出可能な反射電子の放出角度の範囲が算出され、その範囲をユーザーに提示することができる。
【0171】
また、ユーザーが、電子線のエネルギー、試料22に印加されるバイアス電圧、及び、試料22と検出器40との間の距離の中の2つのパラメータを選択すれば、その放出角度の範囲内の角度で試料22から放出された反射電子を検出するための残りのパラメータが自動的に算出される。それ故、ユーザーが、全てのパラメータを手動で設定する必要がない。
【0172】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態に係る走査型電子顕微鏡について説明する。第2実施形態では、2分割された検出器40の代わりに、4分割された検出器52が用いられる。
【0173】
第1実施形態に係る検出器40を用いる場合、検出器40の分割線44の方向(X方向)と、試料22の表面において階段状の部分が高くなっていく方向(Y方向)との間の関係を調整する必要があり、そのために、試料用のステージを回転させる必要がある。第2実施形態に係る検出器52を用いることで、検出器52の分割線の方向と試料22の表面において階段状の部分が高くなっていく方向(Y方向)との間の関係を調整せずに、つまり、試料用のステージを回転させずに、段差が強調された画像が生成される。
【0174】
以下、図37を参照して、第2実施形態に係る検出器52について説明する。図37は、検出器52を示す平面図である。
【0175】
検出器52は、中央に貫通孔52eを有する円環状の検出器である。検出器52の検出面は、互いに直交する分割線52f,52gによって4つに分割されており、検出器52は、検出面52a,52b,52c,52dを有する。分割線52fによって、検出面52a,52bと検出面52c,52dとが分割され、分割線52gによって、検出面52a,52dと検出面52c,52bとが分割されている。検出面52a,52b,52c,52dは、電子線の光軸(つまり、貫通孔52eの中心)を回転軸として回転対称となるように配置されている。例えば、検出器52の周方向に沿って、検出面52a,52b,52c,52dの順番で各検出面が配置されており、また、各検出器は、光軸を回転軸として90°の回転対称の位置に配置されている。なお、各検出面は、物理的に他の検出面から分離していてもよいし、物理的に他の検出面から分離せずに配置されていてもよい。なお、図37に示す例では、検出面52a,52b,52c,52dの形状及び大きさは同じである。
【0176】
以下では、検出面52a,52b,52c,52dのそれぞれによって検出された反射電子の信号量を、信号量I,I,I,Iと称する。
【0177】
このような検出器52を用いることで、検出器52の分割線52f,52gの方向と試料22の表面において階段状の部分が高くなっていく方向(Y方向)との間の関係を調整せずに、段差が強調された画像を生成することができる。また、第1実施形態と同様に、試料用のステージを回転させながら反射電子を検出することで、信号量の差が最大となる回転角度に設定してもよい。この場合、2分割の検出器40と比べて、その回転の角度範囲が狭くなるので、短時間で回転角度を調整することができる。
【0178】
以下、図38及び図39を参照して、検出器52の分割線の方向と試料22の表面において階段状の部分が高くなっていく方向(Y方向)との間の関係を調整せずに、段差が強調された画像が生成される理由について説明する。図38及び図39は、検出器52と試料22の一部を示す斜視図である。
【0179】
図38に示すように、検出器52の一方の分割線(図38に示す例では分割線52f)が延在する方向と、試料22の表面において階段状の部分が高くなっていく方向(Y方向)とが直交している。換言すると、検出器52の他方の分割線(図38に示す例では分割線52g)と、Y方向とが平行となっている。この場合、信号処理装置48は、段差22aを間にして、検出器52の検出面の群を、ステップの上段側に配置されている検出面のペアと、ステップの下段側に配置されている検出面のペアとに分け、各ペアの信号量の合計を算出し、上段側のペアの信号量の合計と下段側のペアの信号量の合計との信号差を算出する。そして、その信号差を表す画像が生成されてディスプレイ50に表示される。
【0180】
図38に示す例では、上段側に検出面52a,52bが配置されており、検出面52a,52bによって1つのペアが構成される。また、下段側に検出面52c,52dが配置されており、検出面52c,52dによって1つのペアが構成される。上段側のペアの信号量の合計は(I+I)であり、下段側のペアの信号量の合計は(I+I)である。
【0181】
一方、図39に示すように、検出器52の分割線52f,52gが、Y方向と直交せず、また、Y方向と平行にならない場合、信号処理装置48は、貫通孔52eの中心を回転軸として、互いに180°の回転対称の位置に配置されている2つの検出面の信号量を用いて、信号差を算出する。例えば、信号処理装置48は、検出面52bの信号量Iと検出面52dの信号量Iとを用いて信号差を算出する。その信号差を表す画像が生成されてディスプレイ50に表示される。
【0182】
このように、検出器52の分割線に対して、階段状の部分が高くなる方向(Y方向)がどのような方向であっても、信号差を算出して、試料22の表面の三次元形状を算出することができる。
【0183】
図38に示すように、検出器52の分割線52f,52gの一方が延在する方向とY方向とを直交させることで、図39に示されている配置と比べて、反射電子を検出する検出面の面積が2倍になるため、信号のSNが向上する。つまり、図38に示す配置では、信号量の合計(I+I)と信号量の合計(I+I)を用いて信号差が算出され、図39に示す配置では、信号量Iと信号量Iを用いて信号差が算出される。したがって、図38に示す配置によれば、図39に示す配置と比べて、2倍の信号量を用いて信号差を算出することができる。
【0184】
(段差の強調表示)
4分割された検出器52を用いた場合であっても、段差22aを強調して表示することができる。例えば、信号量I,I,I,Iの中の最大値をSmaxと称し、それらの中の最小値をSminと称することとする。信号処理装置48は、各走査位置(x,y)にてSmaxとSminを算出し、これらの差I(x,y)を算出し、その差I(x,y)を表す画像を生成する。これにより、段差22aが鮮明に表された画像が得られる。
【0185】
以下に示す式(19)はSmaxの定義を示しており、式(20)はSminの定義を示しており、式(21)は、差I(x,y)の定義を示している。
【数19】
【数20】
【数21】
【0186】
式(21)以外の式が用いられてもよい。例えば、信号処理装置48は、以下の式(22)及び式(23)を用いて信号差を算出し、その信号差を表す画像を生成する。
【数22】
【数23】
【0187】
例えば、信号処理装置48は、S(x,y)及びS(x,y)のうち値の大きい方を用いて画像を生成する。
【0188】
(三次元再構築)
信号処理装置48は、例えば、信号量の合計(I+I)と信号量の合計(I+I)との組み合わせ1、又は、信号量の合計(I+I)と信号量の合計(I+I)との組み合わせ2を用いて、実施例1と同様の三次元形状を再構築することができる。
【0189】
組み合わせ1を用いる場合、信号処理装置48は、(I+I)を式(11)中のIとして用い、(I+I)を式(11)中のIとして用いて、Iを算出し、そのIを表す画像を生成する。これにより、試料22の表面の三次元形状を表す画像が得られる。
【0190】
組み合わせ2を用いる場合、信号処理装置48は、(I+I)を式(11)中のIとして用い、(I+I)を式(11)中のIとして用いて、Iを算出し、そのIを表す画像を生成する。これにより、試料22の表面の三次元形状を表す画像が得られる。
【0191】
別の例として、信号処理装置48は、貫通孔52eの中心を回転軸として互いに180°の回転対称の位置に配置されている検出面のペアの信号量を用いて、Iを算出してもよい。
【0192】
信号量Iと信号量Iとの組み合わせを用いる場合、信号処理装置48は、信号量Iを式(11)中のIとして用い、信号量Iを式(11)中のIとして用いて、Iを算出し、そのIを表す画像を生成する。これにより、試料22の表面の三次元形状を表す画像が得られる。
【0193】
信号量Iと信号量Iとの組み合わせを用いる場合、信号処理装置48は、信号量Iを式(11)中のIとして用い、信号量Iを式(11)中のIとして用いて、Iを算出し、そのIを表す画像を生成する。これにより、試料22の表面の三次元形状を表す画像が得られる。
【0194】
第1実施形態では、検出器40の分割線44が延在する方向とY方向との向きの関係によっては、段差22aが鮮明に表示されない場合がある。これに対して、図39を参照して説明したように、4分割された検出器52を用いることで、検出器52の分割線が延在する方向に対して階段状の部分が高くなる方向がどのような方向であっても、試料22の表面の三次元形状を算出することができる。
【0195】
4つの信号量(信号量I,I,I,I)を用いる場合、上述した方法以外の方法によって、信号差を表す画像を生成することができる。
【0196】
例えば、水平方向の信号差Ishと垂直方向の信号差Isvとを用いて、式(11)は、以下の式(24)及び式(25)で表現される。
【数24】
【数25】
【0197】
また、水平方向の高さZと、垂直方向の高さZは、以下の式(26)及び式(27)を用いて計算される。
【数26】
【数27】
【0198】
算出された高さは誤差を含んでいる。高さ補正を行うことで、より正確な高さが得られる。第1実施形態と同様に、信号処理装置48は、平坦部分を抽出し、その平坦部分の信号量を用いて高さを補正する。
【0199】
例えば、検出器52の検出面と試料22の表面とが平行に配置されている場合、平坦部分から得られる信号量I,I,I,Iは、ほぼ等しい値となる。そのため、信号量I,I,I,Iの中の最大値と最小値との差分が閾値以下である場合、信号処理装置48は、その信号量が得られる走査位置は平坦部分であると判断する。
【0200】
検出器52の検出面と試料22の表面とが平行でない場合、例えば、ユーザーが平坦部分の走査位置を指定する。信号処理装置48は、指定された走査位置の信号量I,I,I,Iと、各走査位置のI,I,I,Iとの差を算出し、そのすべての差が閾値以下である場合、指定された走査位置は平坦部分であると判断する。
【0201】
以上のようにして、平坦部分が抽出される。信号処理装置48は、第1実施形態と同様にラベリング処理を実行する。また、信号処理装置48は、ラベルが割り当てられたグループ毎に、高さZ,Zのそれぞれを補正する。これにより、補正後の高さである高さZ´,Z´が得られる。信号処理装置48は、以下に示す式(28)に従って高さZ´,Z´の平均値を算出する。
【数28】
【0202】
その高さZは、試料22の表面の高さである。このようにして、表面の三次元形状が算出される。
【0203】
上述した処理は一例であり、他の三次元再構築処理が実行されてもよい。例えば、半導体ウエハのテラス部分は原子レベルで平坦である。他の三次元再構築処理が用いられる場合であっても、平坦部分を抽出することができれば、その抽出された部分が平坦になるように高さを補正することで、正確なステップ&テラス構造が得られる。
【0204】
例えば、三次元構築処理に従来から用いられているPhotometric Stereo(PS)法によってステップ形状を取得し、そのステップ形状から平坦部分を抽出し、高さを補正するといった方法が実行されてもよい。
【0205】
第2実施形態では、4分割された検出器52が用いられるが、3分割された検出器が用いられてもよい。図40には、3分割された検出器54が示されている。図40は、検出器54と試料22の一部を示す斜視図である。
【0206】
円環状の検出器54の検出面は3つに分割されており、これにより、検出器54は、検出面54a,54b,54cを有する。検出面54a,54b,54cは、検出器54の中央に形成された貫通孔54dの中心(つまり電子線の光軸)を回転軸として、互いに120°の回転対称の位置に配置されている。
【0207】
図40に示す例では、検出面54aは、段差22aを間にして試料22の表面の上段側に配置されており、検出面54cは、その表面の下段側に配置されている。この場合、信号処理装置48は、検出面54aの信号量と検出面54cの信号量との差を算出し、その差を表す画像を生成する。これにより、段差22aが強調された画像が得られる。
【0208】
つまり、信号処理装置48は、検出面54a,54b,54cの中から2つの検出面を選択し、当該2つの検出面の信号量の差を算出し、その差を表す画像を生成する。例えば、信号処理装置48は、その差が最大となる2つの検出器を選択し、その差を表す画像を生成する。こうすることで、検出器54の分割線が延在する方向と、試料22の表面の階段状の形状が高くなる方向との関係に関わらず、段差22aが強調された画像が生成される。
【0209】
(段差の表示態様)
第1実施形態及び第2実施形態において、信号処理装置48は、試料22の表面の高さを色で表現し、SEM像において高さ毎に色を変えてもよい。つまり、信号処理装置48は、SEM像において同じ高さの部分を同じ色で表現し、高さに応じて色を変える。別の例として、信号処理装置48は、SEM像ではなく、各走査位置(x,y)の高さを色で表現した二次元画像を生成してもよい。
【0210】
別の例として、信号処理装置48は、段差が強調された画像において、同一のテラス部分を同じ色で表現し、テラス部分毎に色を変えてもよい。例えば、低いテラス部分から高いテラス部分まで連続して色が変わるカラースケールが用いられ、信号処理装置48は、そのカラースケールに従って、段差が強調された画像において、各テラス部分を着色する。信号処理装置48は、段差が強調された画像からその段差の境界を抽出し、その境界を着色してもよい。
【0211】
第1実施形態によって生成された段差の境界線は、実際の境界線よりも太く表示される。これは、一次電子が試料22で散乱して広がったことに起因する。信号処理装置48は、SEM像に表されている段差の境界線に対して垂直方向に信号量の分布を求め、信号量が最大となる走査位置を、実際の段差の位置として特定してもよい。また、信号処理装置48は、その特定した位置を描画してもよい。これにより、実際の段差の位置が反映された画像が生成されて、ディスプレイ50に表示される。
【0212】
信号処理装置48は、電子の散乱領域から点広がり関数(PSF)を推定し、段差が強調された画像に対して逆畳み込み積分を実行することで、実際の段差の位置を算出してもよい。
【0213】
また、信号処理装置48は、半導体ウエハの三次元構造から、当該半導体ウエハの品質の指標となる表面粗さを算出してもよい。例えば、信号処理装置48は、算術平均高さ等の粗さパラメータを算出し、そのパラメータをディスプレイ50に表示させてもよい。
【0214】
信号処理装置48は、段差の間隔に基づいて表面粗さを評価してもよい。例えば、信号処理装置48は、段差を基準としてテラスの垂直方向の長さを算出し、各テラスの長さやばらつきや平均を算出し、これらの値をディスプレイ50に表示させてもよい。
【0215】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について説明する。第3実施形態では、信号処理装置48は、試料の表面の形状に基づいて、試料の表面の欠陥を抽出する。
【0216】
上述したように、第1実施形態及び第2実施形態にて観察される段差は、結晶格子に相当する段差である。欠陥がない状態で結晶格子が並んでいる状態では、段差は途切れることがない。しかし、実際の試料を表す画像においては、段差を表す線が途切れていることがある。これは、らせん転位等の結晶格子の歪みに起因する。したがって、段差が途切れている箇所を特定することで、らせん転位が発生している位置を特定することができる。
【0217】
例えば、信号処理装置48は、信号量の差に基づいて生成された画像に対して特徴を抽出する画像処理を適用することで、段差が途切れている部分を特定することができる。例えば、コーナー検出法を用いることができる。
【0218】
以下、図41を参照して、段差の途切れを抽出する手順について説明する。図41には、信号差に基づいて生成された画像56,58,60が示されている。
【0219】
画像56は、段差が強調された画像である。画像56中の白い領域がテラス(つまり平坦部分)を表しており、黒い領域がステップ(つまり段差)を表している。
【0220】
画像58は、画像56に対してガウシアンフィルター等を用いたノイズ除去処理を行い、二値化処理を行うことで生成された画像である。これらの処理によって、ステップとそれ以外の部分とが明確に分けて表示される。ノイズ除去処理と二値化処理は、例えば、信号処理装置48によって実行される。
【0221】
画像58に対して一般的なコーナー検出法を適用した場合、白い領域の角と黒い領域の角の両方が検出される。ここではステップ(つまり段差)の途切れを検出することを目的としているため、信号処理装置48は、ステップのコーナー(つまり、黒い領域のコーナー)のみを抽出する。信号処理装置48は、得られた二値化像である画像58に対してコーナー抽出を適用することで、ステップに相当するコーナーを抽出する。これにより、ステップが途切れている部分が抽出され、らせん転位の位置が特定される。例えば、画像60において符号62が指し示す部分が、らせん転位の位置として特定される。
【0222】
(バーガースベクトルの表示)
上述した第1実施形態又は第2実施形態によって高さが補正された三次元形状(例えば図36に示されている三次元形状)に基づいてステップの三次元構造を特定することができる。信号処理装置48は、ステップの三次元構造に基づいて、らせん転位の巻き方向(右巻き又は左巻き)を特定してもよい。また、ステップの高さから転位の高さを特定することができる。信号処理装置48は、ステップの高さから転位の高さを特定し、バーガースベクトルを算出してもよい。
【0223】
例えば、信号処理装置48は、ステップが強調された画像(例えば画像56)から欠陥を抽出し、転位のバーガースベクトルを算出し、その大きさと向きを画像(例えば画像56)上で表現してもよい。例えば、信号処理装置48は、右巻きのらせん転位を赤色で表現し、左巻きのらせん転位を青色で表現する。
【0224】
図42は、着色された画像64が示されている。符号64aは、左巻きのらせん転位を指し示しており、符号64aが指し示している部分は、青色で表現されている。符号64bは、右巻きのらせん転位を指し示しており、符号64bが指し示している部分は、赤色で表現されている。信号処理装置48は、画像64上において、符号64aが指し示す部分に青色のマーカーを重ねて表示し、符号64bが指し示す部分に赤色のマーカーを重ねて表示してもよい。
【0225】
また、結晶の歪みはステップの形状に反映されるので、信号処理装置48は、三次元形状から欠陥の種類を特定してもよい。信号処理装置48は、ステップが強調された画像を解析することで、歪みの種類や量を評価してもよい。
【0226】
信号処理装置48は、機械学習やディープラーニング等の手法を用いることで、欠陥の位置や種類や量を特定してもよい。例えば、ステップが強調された画像から予め人によって目視で欠陥が抽出され、その抽出結果がコンピューターによって学習され、欠陥を抽出するモデルが作成されてもよい。信号処理装置48は、そのモデルを用いて、三次元形状から欠陥の位置や単位面積当たりの数を検出してもよい。信号量I,I,I,Iがコンピューターによって学習されて、欠陥の位置を抽出するモデルが作成されてもよい。
【0227】
ところで、電子線の加速電圧を変えて、一次電子の入射エネルギーを高くすると、電子が試料に深く入射するため、表面の構造は見え難くなる。一方で、結晶欠陥が存在する部分で電子の散乱条件が変わるので、表面構造からは分からない欠陥の状態を観察することができる。しかし、通常のSEM像からでは、試料内部に存在する欠陥から得られる信号差が検出されない可能性がある。
【0228】
そこで、第3実施形態によって欠陥の位置を確認した上で加速電圧を変えて、欠陥の付近に電子線を照射し、時間をかけて信号を解析することで、深さ方向に対する欠陥の状態を検出することができる。例えば、欠陥に対して、ある方向で反射電子の信号が多くなり、他の方向で反射電子の信号が少なくなるという現象が生じる。信号処理装置48は、この信号変化に基づいて、試料の深さ方向に対して欠陥が延びている方向や、歪みの種類を特定する。
【0229】
試料の深い位置での欠陥による信号変化は、通常のSEM像からでは検出され難いが、第3実施形態によれば、ステップの三次元形状から転位の位置を特定することができる。そのため、歪みによる信号変化が少なくても、転位位置での信号取得の時間を長くすることで、低ノイズで信号変化を検出することができる。その結果、歪みの詳細な解析が可能となる。
【0230】
以下、抽出された欠陥の量をユーザーに提示する方法について説明する。
【0231】
例えば、信号処理装置48は、ステップが強調された画像(例えば画像56)上にて、欠陥の位置を点やマーカーによって示す。また、信号処理装置48は、欠陥の種類に応じて、欠陥を表す色を変えてもよい。例えば、信号処理装置48は、らせん転位を赤色で表現し、刃状転位を青色で表現し、ボイド欠陥を緑色で表現する。
【0232】
また、信号処理装置48は、単位面積当たりの欠陥の数を算出し、その値をディスプレイ50に表示させてもよい。
【0233】
また、信号処理装置48は、ステップが強調された画像を複数の領域に分割し、領域毎に欠陥密度を算出してもよい。信号処理装置48は、当該画像において、欠陥密度の高さに応じて領域の色を変えてもよい。例えば、信号処理装置48は、当該画像において、欠陥密度の高い領域を赤色で表現し、欠陥密度の低い領域を青色で表現してもよい。信号処理装置48は、より細かく欠陥密度の範囲を設定して、各領域に色を付けてもよい。
【0234】
図43には、欠陥密度に応じた色が付された画像66が示されている。画像66は、信号差に基づいて生成された画像であってもよいし、ステップが強調された画像であってもよいし、電子線の走査位置(x,y)をマッピングすることで生成された画像であってもよい。
【0235】
符号66aが指し示す領域は、青色で表現されている。符号66bが指し示す領域は、黄色で表現されている。符号66cは、赤色で表現されている。例えば、符号66aが指し示す領域は、欠陥密度が第1閾値以上の領域である。符号66bが指し示す領域は、欠陥密度が第1閾値未満、かつ、第2閾値以上(第2閾値は第1閾値より小さい値)の領域である。符号66cが指し示す領域は、欠陥密度が第2閾値未満の領域である。
【0236】
例えば、画像66は、ディスプレイ50に表示される。ユーザーは、画像66を参照することで、試料の各領域の欠陥密度を把握することができる。
【0237】
例えば、欠陥密度の高い領域には欠陥の影響を受け難い素子を形成し、欠陥密度の低い領域には欠陥の影響を受けやすい素子を形成する等といった処理を行うことができる。また、欠陥が発生し易い領域を検出し、その検出結果に基づいて、欠陥が発生した原因を解析したり、その検出結果を参考にして半導体ウエハの製造プロセスを見直したりしてもよい。
【0238】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について説明する。第4実施形態では、第3実施形態にて特定された欠陥の位置を示す情報が、他の分析装置に用いられる。
【0239】
例えば、欠陥の位置情報が、集束イオンビーム装置(FIB)に送られる。集束イオンビーム装置は、その位置情報が示す欠陥を含む部分を透過型電子顕微鏡(TEM)用の試料として加工する。その加工後の試料が、透過型電子顕微鏡によって観察される。
【0240】
例えば、信号処理装置48は、半導体ウエハ上にて目印となる基準点を定め、その基準点に対する欠陥の方向を示す情報、及び、その基準点から欠陥までの距離を示す情報等を、欠陥の位置情報に含めて出力する。なお、欠陥の方向や距離は、信号処理装置48以外の装置によって特定されてもよい。その位置情報は、他の欠陥解析方法に用いられる。これにより、欠陥解析方法を実行した場合に、欠陥の位置を容易に特定して、欠陥を解析することができる。その結果、解析時間を短縮することができる。
【0241】
(欠陥の位置情報の出力)
以下、欠陥の位置情報について更に詳しく説明する。
【0242】
まず、試料である半導体ウエハの表面に目印となる基準点が配置される。半導体ウエハが特徴的な形状を有している場合において、その特徴箇所から欠陥の位置を特定することができる場合、その特徴箇所が基準点として定められてもよい。目印は、例えば、半導体ウエハの表面に形成された傷、顔料によって形成されたマーク、又は、表面に固定された粒子等である。目印はこれらに限られず、装置間で位置を共有できる目印であればよい。
【0243】
例えば、目印が1つの丸いマークである場合、装置間で目印の位置を共有することができるが、その目印の位置を基準とした方向が一意に定まらず、装置間で欠陥の位置を共有することができない。これに対処するために、例えばL字等の形状を有するマークを目印として用いることで、目印を基準とした方向が定まり、装置間で欠陥の位置を共有することができる。このような目印であっても、目印から離れた欠陥ほど、方向の誤差が大きくなる。そこで、互いに離れた複数の目印を設けることが好ましい。なお、通常は、目印を付ける段階では欠陥の詳細な位置が分からないため、任意の位置に目印を付してもよい。
【0244】
目印が付された試料22が、走査型電子顕微鏡10に設置され、その目印が付された位置を含む領域が走査型電子顕微鏡10によって撮影される。これにより、目印の位置がSEM像によって確認される。
【0245】
次に、第1実施形態又は第2実施形態が適用されることで、高さが補正された三次元形状が算出され、第3実施形態が適用されることで、欠陥の位置が特定される。信号処理装置48は、各欠陥の位置を特定し、目印から欠陥位置までの方向と長さを算出し、その方向を示す情報と長さを示す情報とを含む、欠陥の位置情報を出力する。
【0246】
欠陥の位置情報は、例えば、欠陥解析装置に出力されて欠陥解析装置によって共有される。欠陥解析装置は、欠陥の位置情報に基づいて、目印の位置を基準として各欠陥の位置を算出し、各欠陥を解析する。このように、走査型電子顕微鏡10によって得られた情報が、他の装置によって共有されて、欠陥の解析等に用いられる。
【0247】
以下、第4実施形態の具体例について説明する。一例として、欠陥の位置が特定され、その欠陥を含む部分が集束イオンビーム装置によって加工されることで薄片が作製され、その薄片が透過型電子顕微鏡によって観察されるものとする。
【0248】
まず、試料22の表面上の適当な位置に目印が付けられる。別の方法として、第3実施形態によって取得した三次元形状から欠陥の位置を特定し、その中から解析対象の欠陥を選び、その付近に目印が付されてもよい。図44には、目印の一例が示されている。目印68は、形状の異なる複数の目印部分によって構成される。各目印部分を基準とした方向が一意に定まるため、目印68を用いることで、欠陥の位置の把握が容易となる。
【0249】
目印が付された試料22は、走査型電子顕微鏡10に設置され、走査型電子顕微鏡10によって撮影される。例えば、ユーザーは、得られたSEM像を確認しながら、目印68がSEM像に表されるように、試料22の位置等を調整する。
【0250】
次に、第1実施形態又は第2実施形態を適用することで、試料22の表面のステップ強調像や三次元形状が算出され、ステップの形状(つまり段差の形状)が算出される。図45には、そのステップ形状を表す画像70が示されている。例えば、画像70は、ステップが強調された画像である。画像70には、目印68が表されている。
【0251】
信号処理装置48は、得られたステップの形状から欠陥の位置を特定する。図46には、欠陥が示されている。符号72は、欠陥を指し示している。解析対象の欠陥が特定されている場合、その欠陥とその近くの目印部分とが視野に入るように、観察倍率を上げて撮像してもよい。また、この後のFIB加工時に欠陥位置が求められるように、目印部分を基準とした欠陥の方向と距離とが記録されてもよい。これにより、目印部分と欠陥との位置関係が取得される。
【0252】
次に、試料22が集束イオンビーム装置に設置され、目印68が観察される。SEM像に表されている目印68と欠陥(符号72が指し示す部分)が、集束イオンビーム装置によって得られたSIM(Scanning Ion Microscope)像に重ねられる。これにより、欠陥の位置をSIM像上で把握することができる。図47には、SIM像74の一例が示されている。SIM像74には、目印68と欠陥(符号72が指し示す部分)が表されている。
【0253】
走査型電子顕微鏡と集束イオンビーム装置とでは光学系が異なるので、歪曲収差等の像の歪みが異なっている。その場合、目印部分間の相対的な位置ずれに基づいて歪曲収差等の歪み量が計算され、その計算結果に基づいて歪みが補正されてもよい。
【0254】
また、目印部分を基準として欠陥の方向と距離が記録されている場合、目印部分の向きと大きさに基づいて欠陥の位置を判断してもよい。
【0255】
以上のようにして求められた各欠陥位置を含む部分を、透過型電子顕微鏡用の試料として加工する。これにより、透過型電子顕微鏡用の試料が作製される。
【0256】
半導体ウエハの欠陥は、その半導体ウエハによって製造されるデバイスの性能を左右する。そのため、半導体ウエハの欠陥の種類を特定し、欠陥が発生した理由を解析することは、より性能の良いデバイスを開発するために有効である。以下では、第3実施形態を適用することで欠陥の位置を特定し、集束イオンビーム装置によって試料を加工することで薄片を作製し、透過型電子顕微鏡によって欠陥を解析する手順について説明する。
【0257】
半導体ウエハの欠陥を詳細に解析するためには、試料の欠陥を含む部分を薄片化し、その薄片を透過型電子顕微鏡によって観察する必要がある。試料の薄片化には集束イオンビーム装置が用いられるが、集束イオンビーム装置によって生成されるSIM像では、ステップの形状や欠陥の位置を把握することが困難である。一方、第3実施形態を適用することで、欠陥の位置を把握することができる。
【0258】
(カソードルミネッセンス法(CL法)を用いた欠陥の分析)
分析装置や加工装置が、走査型電子顕微鏡10に取り付けられてもよい。これにより、SEM像を観察しながら試料を分析したり、SEM像の観察後に試料を装置から取り出さずに試料を分析したりすることができる。つまり、走査型電子顕微鏡10が有する座標系と同じ座標系の下で、分析や加工を行うことができ、目印を用いて座標系を合わせる必要がない。以下、CL法を例に挙げて具体的な構成について説明する。
【0259】
CL法は、走査型電子顕微鏡を用いて、電子線の照射による試料の発光を検出する方法である。例えば、解析の対象が半導体ウエハの欠陥である場合、転位の状態(例えば貫通転位)も分析することができる。CL法を実現する装置と走査型電子顕微鏡10とを組み合わせることで、欠陥の位置の特定と欠陥の分析とを、1台の装置によって実現することができる。
【0260】
図48には、CL法を実現する装置と走査型電子顕微鏡とが組み合わされた装置10Aが示されている。装置10Aには、第1実施形態に係る検出器40が用いられている。検出器40の代わりに、第2実施形態に係る検出器52が用いられてもよい。
【0261】
装置10Aは、更に、CLを取得するための集光ミラー76と、CL法によって分析を行う分析器78とを含む。矢印80が示すように、集光ミラー76と検出器40は、切り替えて使用される。例えば、制御装置51の制御の下、集光ミラー76と検出器40が切り替えられて、集光ミラー76又は検出器40のいずれか一方が、電子線の光軸上に配置される。
【0262】
試料22の表面の欠陥の位置を特定する場合には、検出器40が、電子線の光軸上に配置され、第3実施形態が適用されることで、ステップの形状が取得されて欠陥の位置が特定される。次に、集光ミラー76が電子線の光軸上に配置され、欠陥に電子線が照射され、分析器78によって、CL光が分析される。通常は電子線を試料22上の全面で走査させながらCL光を分析するが、この方法では欠陥付近だけを選択して電子線を照射してCL光を分析することで、短時間で欠陥を解析することができる。
【0263】
図49には、別の装置10Bが示されている。装置10Bにおいては、検出器40と集光ミラー76が、電子線の光軸上に配置されている。例えば、試料22を囲むように検出器40が配置され、その検出器40よりも上方に集光ミラー76が配置されている。図49には示されていないが、装置10Bは、分析器78を含む。
【0264】
装置10Bによれば、検出器40と集光ミラー76とを切り替えずに、SEM像とCL光とを取得することができる。これにより、ステップの形状を取得しながら、CL法によって転位の状態を分析することができる。
【0265】
なお、装置10Bでは、試料22にバイアス電圧を印加すると、電子が検出器40に入射し難くなるため、バイアス電圧は試料22に印加されない。その代わりに、低エネルギー電子の検出が可能な検出器が、検出器40として用いられる。別の例として、検出器40の両極にプラスの電圧を印加することで電子を加速させて検出器40に入射させる機構が用いられてもよい。
【0266】
更に別の例として、電子線源とイオンビーム源の両方を有する集束イオンビーム装置に、検出器40又は検出器52が設置されて、欠陥位置の確認から欠陥を含む部分の薄片試料の作製までの工程が、1台の装置によって実現されてもよい。
【0267】
また、電子線の光学系を用いて目印と欠陥の位置を特定したときに、抽出された欠陥群の中の解析対象の欠陥を含む部分が、自動的に薄片化されてもよい。
【符号の説明】
【0268】
10 走査型電子顕微鏡、22 試料、40,40a,40b,52,54 検出器、48 信号処理装置、51 制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図11
図12
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図49