(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ショートアーク型放電ランプ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 61/073 20060101AFI20240404BHJP
H01J 61/06 20060101ALI20240404BHJP
H01J 9/385 20060101ALI20240404BHJP
H01J 9/02 20060101ALI20240404BHJP
H01J 61/86 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H01J61/073 B
H01J61/06 Z
H01J9/385 B
H01J9/02 L
H01J61/86
(21)【出願番号】P 2020149928
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】團 雅史
(72)【発明者】
【氏名】山根 巧
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123232(JP,A)
【文献】実開昭50-123172(JP,U)
【文献】特開平09-115479(JP,A)
【文献】特開平10-055757(JP,A)
【文献】特開昭56-106346(JP,A)
【文献】米国特許第04806826(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/00-61/28
H01J 61/50-65/08
H01J 9/00-9/18
H01J 9/24-9/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管の内部に一対の電極が対向して配置されると共に所定の発光物質が封入されており、1kW以上の電力で直流点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記一対の電極のうちの少なくとも一方の電極の外表面には、炭化物系セラミックスを含む被膜が形成され、
前記被膜は、前記炭化物系セラミックスの粒子の焼結体であり、
非点灯状態での前記発光管の内部の酸素濃度が、100volppm以下であることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
定格電力で点灯させたときの前記被膜の少なくとも一部の温度は、400℃以上3000℃以下であることを特徴とする請求項1記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
前記炭化物系セラミックスは、ジルコニウムカーバイド、タンタルカーバイド、ニオブカーバイド、チタンカーバイド、バナジウムカーバイド、モリブデンカーバイド、ハフニウムカーバイド、シリコンカーバイドのうち少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1または2記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項4】
発光管の内部に一対の電極が対向して配置されると共に所定の発光物質が封入されており、1kW以上の電力で直流点灯されるショートアーク型放電ランプの製造方法であって、
前記発光管を準備する工程と、
炭化物系セラミックスの粒子を溶媒に分散させたペーストを少なくとも一方の電極の外表面に塗布する工程と、
前記ペーストが塗布された電極を真空雰囲気中で1200℃~1800℃、8時間以上熱処理することにより、前記電極の外表面に炭化物系セラミックスを含む被膜を形成する工程と、
前記被膜が形成された電極と前記発光管とを含む各部材を組み合わせる工程と、
前記発光管の内部を真空排気する工程と、
真空排気した前記発光管内に前記発光物質を封入する工程と、を含むことを特徴とするショートアーク型放電ランプの製造方法。
【請求項5】
前記真空排気する工程において、前記発光管を加熱しながら真空排気することを特徴とする請求項4に記載のショートアーク型放電ランプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型放電ランプに関し、特にランプ点灯時に電極温度を低下させるために電極の外表面に放熱層が形成されているショートアーク型放電ランプ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体素子、液晶表示素子等の製造工程に用いられる露光装置や、種々の映写機においては、光源としてショートアーク型放電ランプ(以下、単に「ランプ」ともいう)が用いられている。このショートアーク型放電ランプは、発光管内に陽極および陰極が互いに対向して配置されると共に、当該発光管内に、水銀、キセノンガス等の発光物質が封入されて構成されている。
【0003】
このようなショートアーク型放電ランプにおいては、点灯時に陽極にかかる熱的負荷が高いことから、陽極の過熱等に起因する電極材料の蒸発が生じ、この蒸発物が発光管の内壁に付着して光透過率が低下する、いわゆる黒化が生じることが知られている。
【0004】
このような問題を解決するため、電極表面に放熱層を形成して電極の温度上昇を抑制する技術が知られており、下記特許文献1には、放電灯の陽極先端放電部分がカーバイドで覆われていることを特徴とする短電弧形高圧放電灯が開示されている。
【0005】
特許文献1には、電極の被覆材質としてジルコニウムカーバイドを用いる例が開示されている。セラミックスの中でも、炭化物系セラミックスは放射率が高く、また、耐熱性が高いという特徴がある。さらに、炭化物系セラミックスは、酸化物系セラミックスと比べて金属との付着性も良好である。このため、炭化物系セラミックスは、電極の放熱層として好適に使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電極表面を金属炭化物で被覆した電極を用いてショートアーク型放電ランプを作製し、点灯させたところ、炭化物系セラミックスの酸化により生じる遊離炭素及び一酸化炭素の影響で、所望の性能が得られない、という問題が生じた。
【0008】
遊離炭素は発光管内壁に付着して黒化の要因となる。また、一酸化炭素は気相状態で発光管内を拡散する。そして、アークに到達した一酸化炭素は、電極先端にタングステンの炭化物を生成させる。そうすると、電極先端の融点が下がり、電極材料であるタングステンが蒸発しやすくなり、蒸発したタングステンによって発光管が黒化する。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑み、発光管の内部に一対の電極が対向して配置され、前記一対の電極のうちの少なくとも一方の電極の外表面に放熱層が形成されているショートアーク型放電ランプにおいて、放熱性に優れ、かつ長寿命のショートアーク型放電ランプ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るショートアーク型放電ランプは、発光管の内部に一対の電極が対向して配置されると共に所定の発光物質が封入されており、1kW以上の電力で直流点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記一対の電極のうちの少なくとも一方の電極の外表面には、炭化物系セラミックスを含む被膜が形成され、
非点灯状態での前記発光管の内部の酸素濃度が、100volppm以下である。
【0011】
この構成によれば、電極の外表面は、炭化物系セラミックスを含む放射率が高い被膜(放熱層)で覆われているため、放射性に優れる。また、発光管の内部の不純ガスとなる酸素を所定の濃度以下としているため、放熱層を構成する炭化物系セラミックスの酸化を防止できる。すなわち、放熱層の機能が長期に亘って維持されるため、電極の温度上昇が適切に抑制され、放電ランプの発光管内壁の黒化を少なくして、放電ランプの使用寿命を長くすることができる。
【0012】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、定格電力で点灯させたときの前記被膜の少なくとも一部の温度は、400℃以上3000℃以下であるという構成でもよい。
【0013】
被膜の温度がこの範囲であれば、炭化物系セラミックスの酸化を防止し、かつ電極材料の蒸発を防止できる。この温度が400℃を下回る場合には、炭化物系セラミックスの酸化が問題となりにくい。一方、この温度が3000℃を超える場合には、電極の材料自体が蒸発する可能性がある。
【0014】
また、本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記炭化物系セラミックスは、ジルコニウムカーバイド、タンタルカーバイド、ニオブカーバイド、チタンカーバイド、バナジウムカーバイド、モリブデンカーバイド、ハフニウムカーバイド、シリコンカーバイドのうち少なくとも1種からなるという構成でもよい。
【0015】
これらの炭化物系セラミックスであれば、放射率が高いため、電極の温度上昇を適切に抑制することができる。
【0016】
また、本発明に係るショートアーク型放電ランプの製造方法は、発光管の内部に一対の電極が対向して配置されると共に所定の発光物質が封入されており、1kW以上の電力で直流点灯されるショートアーク型放電ランプの製造方法であって、
前記発光管を準備する工程と、
炭化物系セラミックスの粒子を溶媒に分散させたペーストを少なくとも一方の電極の外表面に塗布する工程と、
前記ペーストが塗布された電極を真空雰囲気中で1200℃~1800℃、8時間以上熱処理することにより、前記電極の外表面に炭化物系セラミックスを含む被膜を形成する工程と、
前記被膜が形成された電極と前記発光管とを含む各部材を組み合わせる工程と、
前記発光管の内部を真空排気する工程と、
真空排気した前記発光管内に前記発光物質を封入する工程と、を含む。
【0017】
この製造方法によれば、電極の外表面に炭化物系セラミックスを含む被膜が形成され、非点灯状態での発光管の内部の酸素濃度が100volppm以下であるショートアーク型放電ランプを製造することができる。上記のように、このショートアーク型放電ランプは、放熱性に優れ、かつ長寿命である。
【0018】
また、本発明に係るショートアーク型放電ランプの製造方法において、前記真空排気する工程において、前記発光管を加熱しながら真空排気するという構成でもよい。
【0019】
この構成によれば、発光管内の部材の表面に吸着している酸素を除去し、さらに発光管の材料である石英ガラスに含まれるOH基を低減させることができる。OH基は、点灯時に解離して発光管内にて酸素となり得るため、OH基を低減させることで発光管内の酸素濃度を低減できる。その結果、炭化物系セラミックスの酸化を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るショートアーク型放電ランプの構成を示す説明図
【
図2】
図1に示すショートアーク型放電ランプのP領域拡大図
【
図3】発光管の内部の酸素濃度を分析する装置を示す模式図
【
図4】ショートアーク型放電ランプの製造方法の一例を示すフローチャート
【
図5】ショートアーク型放電ランプの製造方法の別例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るショートアーク型放電ランプにつき、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0022】
以下において、XYZ座標系を適宜参照して説明される。また、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0023】
[構造]
図1は、ショートアーク型放電ランプの一実施形態を示している。本実施形態のショートアーク型放電ランプ100(以下、「ランプ100」という)は、発光管1と、発光管1の内部に、Y方向(第一軸方向)に離間して対向配置される陽極3及び陰極4と、第一リード棒5aと、第二リード棒5bと、を有する。
【0024】
発光管1は、発光管部10及びその両端に連設された封止管部11a,11bを備える。発光管部10は、ガラス管の中央を膨らませて形成される。発光管部10は、-Y方向に位置する一端及び+Y方向に位置する他端から、それぞれ中央に向かうにつれて、その内径が大きくなるガラス管の領域である。発光管部10は、略球状である。
【0025】
第一封止管部11aは、発光管部10の一端に連なり、Y方向において陰極4から遠ざかる側(-Y方向)に延伸する。第二封止管部11bは、発光管部10の他端に連なり、Y方向において陽極3から遠ざかる側(+Y方向)に延伸する。言い換えると、発光管1は、2個1組である第一封止管部11aと第二封止管部11bとの間に発光管部10が挟まれるように、構成されている。
【0026】
第一封止管部11a及び第二封止管部11bがそれぞれ有する中心軸は互いに重なり、
図1の軸A1で示される。また、軸A1は、発光管部10の中心点を通過するとよい。発光管部10、第一封止管部11a及び第二封止管部11bの内部には、水銀、キセノンガス等の発光物質が、所定量、封入されている。
【0027】
発光管1の内部に陽極3及び陰極4が設けられる。本明細書において、ショートアーク型放電ランプとは、陽極3と陰極4とが10mm以下の間隔(熱膨張をしていない常温時の値)を空けて、互いに対向配置される放電ランプである。本実施形態において、陽極3はタングステン、陰極4はトリエーテッドタングステンで形成されている。
【0028】
第一リード棒5aは陽極3に接続され、第一封止管部11a内をY方向に延伸する。第二リード棒5bは陰極4に接続され、第二封止管部11b内をY方向に延伸する。第一リード棒5a及び第二リード棒5bのそれぞれの中心軸は、軸A1と重なるとよい。第一リード棒5a及び第二リード棒5bは、例えばタングステンで形成されている。
【0029】
口金12aは、第一封止管部11aの陽極3から遠ざかる側(-Y方向側)を覆い、口金12bは、第二封止管部11bの陰極4から遠ざかる側(+Y方向側)を覆う。口金12aは第一リード棒5aに電気的に接続され、口金12bは第二リード棒5bに電気的に接続される。なお、
図1において、口金12bは断面図で示し、口金12aは側面図で示しているが、口金12a及び第一封止管部11aの内部構造は、口金12b及び第二封止管部11bと同様の構造を有する。
【0030】
ランプ100は、口金12a,12bを介して不図示の外部電源から給電される。この口金12a,12bに電圧を印加することにより、放電が開始し、ランプ100は直流点灯する。本実施形態のランプ100は、1kW以上の電力で直流点灯される大型のランプである。1kW以上の電力が投入されるランプについては、点灯時に電極にかかる熱的負荷が特に高いため、電極の放熱性を高める必要がある。入力電力の上限値は、ランプ100の大きさや出力にも依存するため、本発明では限定されないが、一例として、7kW未満である。
【0031】
封止管を代表して第二封止管部11bの構造を説明する。第二封止管部11bの端部においては、第二リード棒5bが段継ガラス7によって封着されており、この段継シール構造によって発光管1内を気密に保っている。第二封止管部11bは、その一部が絞り込まれるように加工された縮径領域9bによって、第二リード棒5bを支持している。
【0032】
縮径領域9bは、Y方向に関して、その周囲の第二封止管部11bよりも内径の小さい領域である。縮径領域9bは、第二封止管部11bを絞り込んで成型される。縮径領域9bは、例えば、支持部材6を介して第二リード棒5bを支持してもよい。縮径領域9bは、第二リード棒5bを挿入した筒状の第二封止管部11bを、ガスバーナ等で加熱して絞り込むことで成型される。縮径領域9bは、段継ガラス7よりも陰極4に近い。
【0033】
非点灯状態において、発光管1の内部の酸素濃度は、100volppm以下である。なお、従来のランプにおいて、発光管1の内部の酸素濃度は180~300volppm程度である。このように、本発明のランプ100は、発光管1内の酸素濃度が従来のランプよりも大幅に低下されている。この方法については製造方法の説明の箇所で後述される。
【0034】
図3は、発光管1の内部の酸素濃度(volppm)を分析する装置を示す模式図である。この分析装置は、ランプ100を破壊して分析をする装置である。
【0035】
まず、試料破壊室のチャンバ101にランプ100を入れ、チャンバ101を真空引きする。真空引き後に真空ポンプ102のバルブを閉じて、直線導入機103をランプ100に押し当て、ランプ100を破壊する。
【0036】
これにより発光管1内のガスがチャンバ101に満たされる。チャンバ101と検出装置をつなぐバルブを開けて真空に引いている装置側にガスを流し、その一部を質量分析計(Mass)104に導入してガス成分を定性分析する。
【0037】
定量分析するには試料破壊室にサンプルを入れていない状態で、上記同様にチャンバ101を真空引き後に濃度既知の標準ガスを導入して、上記と同様の操作で質量分析計104にガスを導入し、そのイオン電流値を標準として、発光管1内のガス量を定量分析する。
【0038】
図2は、
図1に示すランプ100のP領域拡大図である。陽極3の外表面には、放熱層としての被膜2が設けられている。ここで、陽極3の外表面とは、陰極4に対向する先端面3aを除く外表面である。陽極3の先端面3aは、ランプ100の点灯時に被膜2の融点以上にまで温度が上昇する場合があるため、本実施形態においては陽極3の先端面3aには被膜2を設けていない。本実施形態では、陽極3の外表面のうち、軸A1を中心とした円柱状の胴部の外周面3bに被膜2が設けられているが、外周面3bと先端面3aの間に位置するテーパ面3cにも被膜2を設けても構わない。さらに、陽極3の外周面3bの-Y側に位置する後部テーパ面3dに被膜2を設けても構わない。
【0039】
被膜2の材料としては、融点、蒸気圧、放射率、熱膨張率等が重要となる。陽極3の温度を下げるためには、被膜2は、放熱量が多くなるように放射率が高い材料で構成されるのが好ましい。すなわち、被膜2は、放熱性を向上させるための高輻射膜であり得る。
【0040】
被膜2の材料は、炭化物系セラミックスを含む。炭化物系セラミックスは、ジルコニウムカーバイド、タンタルカーバイド、ニオブカーバイド、チタンカーバイド、バナジウムカーバイド、モリブデンカーバイド、ハフニウムカーバイド、シリコンカーバイドのうち少なくとも1種からなる。
【0041】
ランプ100を定格電力で点灯させたときの被膜2の少なくとも一部の温度は、400℃以上3000℃以下であるのが好ましい。被膜2の温度がこの範囲であれば、炭化物系セラミックスの酸化を防止し、かつ電極材料の蒸発を防止できる。なお、被膜2を含む電極の温度を測定する方法としては、例えば特開平02-259434号公報に開示された公知の方法を用いることができる。
【0042】
以上のように本実施形態に係るランプ100は、陽極3の外表面には、炭化物系セラミックスを含む被膜2が形成され、非点灯状態での発光管1の内部の酸素濃度が、100volppm以下となっている。
【0043】
この構成によれば、陽極3の外表面は、炭化物系セラミックスを含む被膜2で覆われているため、放射性に優れる。また、発光管1の内部の不純ガスとなる酸素の濃度を100volppm以下としているため、放熱層を構成する炭化物系セラミックスの酸化を防止できる。すなわち、放熱層の機能が長期に亘って維持されるため、陽極3の温度上昇が適切に抑制され、ランプ100の発光管1の内壁の黒化を少なくして、ランプ100の使用寿命を長くすることができる。
【0044】
[製造方法]
次に、ランプ100の製造方法について詳細に説明する。
図4は、ランプ100の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0045】
初めに、発光管1、陽極3、陰極4、リード棒5a,5b、口金12a,12b等の各部材を準備する(
図4では図示していない)。なお、陽極3以外の部材の準備は、後述するステップST30よりも前であればよく、そのタイミングは特に限定されない。
【0046】
次いで、ステップST10において、被膜2を構成する炭化物系セラミックスの粒子(例えば、粒径10μm以下のジルコニウムカーバイドの粒子)を溶媒(例えば、ニトロセルロースと酢酸ブチルからなる溶媒)に分散させ、このセラミックスペーストを陽極3の外周面3bに筆で塗布する。なお、セラミックスペーストの陽極3の外周面3bへの塗布は、スプレーコートなど、筆によるもの以外であっても構わない。
【0047】
次いで、ステップST20において、150℃で30分間乾燥した後、真空雰囲気下、任意の温度・時間で陽極3を熱処理して炭化物系セラミックスの粒子を焼結させる。このとき、炭化物系セラミックスが酸化しない範囲内の温度で焼結させる必要があり、ジルコニウムカーバイドでは、例えば1600℃で加熱する。この熱処理は、炭化物系セラミックスの粒子を焼結させて被膜2を形成させるという役割のほか、電極材料に含まれる酸素を除去するという、脱ガス処理としての役割も果たす。熱処理の時間は適宜設定されるが、例えば8時間以上である。長時間の熱処理をすることで、酸素をより多く除去できる。なお、加熱温度は、1200℃以上、1800℃以下であるのが好ましい。
【0048】
次いで、ステップST30において、被膜2が形成された陽極3と発光管1とを含む各部材を組み合わせる。
【0049】
次いで、ステップST40において、ランプの姿になった後、発光管1に取り付けられている枝管と、真空ポンプからの吸気用の管とを接続し、発光管1の内部を真空排気する。
【0050】
最後に、ステップST50において、真空排気した発光管1内に、発光物質(キセノンランプであればキセノンガス、水銀ランプであれば水銀)を導入し、枝管をバーナーで焼き切り、封じる。
【0051】
この製造方法によれば、陽極3の外表面に炭化物系セラミックスを含む被膜2が形成され、非点灯状態での発光管1の内部の酸素濃度が、100volppm以下であるランプ100を製造することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0053】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよい。
【0054】
(1)上記の実施形態では、陽極3の外表面のみに被膜2が設けられているが、陰極4の外表面にも被膜2を設けてもよく、陰極4の外表面のみに被膜2を設けても構わない。
【0055】
(2)上記のランプ100の製造方法において、ステップST40に代えて、
図5に示すようなステップST41の温排気をするようにしてもよい。温排気は、真空排気できるように枝管が付いた状態の発光管1を排気台に接続し、枝管から内部空間を真空に排気しながら電気炉により発光管1を高温に保持して行う。このとき、発光管1は例えば1000℃に加熱される。
【0056】
温排気をする際は、発光管1の第一封止管部11a及び第二封止管部11bに使用されるガラスは高温に耐えられないため、発光管1のうち発光管部10の部分のみを加熱する。温排気をすることで、発光管1内の部材(発光管1の内面、電極3,4、リード棒5a,5b)の表面に吸着している酸素を除去し、さらに発光管1の材料である石英ガラスに含まれるOH基を低減させることができる。温排気の時間は適宜設定されるが、例えば4時間以上である。長時間の温排気をすることで、石英ガラスに含まれるOH基をより多く除去できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0058】
[実施例1]
実施例1のランプ100は、
図4に示す製造方法によって製造した。初めに、発光管1、陽極3、陰極4、及びその他の部材(リード棒5a,5b、口金12a,12bなど)をそれぞれ準備した。次いで、粒径10μm以下のジルコニウムカーバイドの粒子を溶媒(例えば、ニトロセルロースと酢酸ブチルからなる溶媒)に分散させ、このセラミックスペーストを陽極3の外周面3bに筆で塗布した。次いで、塗布後の陽極3を、150℃で30分間乾燥した後、真空雰囲気下、1600℃で8時間熱処理を行い、ジルコニウムカーバイドの粒子を焼結させた。次いで、被膜2が形成された陽極3を、発光管1の内部に組み付け、その他の各部材も組み合わせた。次いで、発光管1に取り付けられている枝管と、真空ポンプからの吸気用の管とを接続し、発光管1の内部を真空排気した。最後に、真空排気した発光管1内に、発光物質を導入し、枝管をバーナーで焼き切り、封じた。完成したランプ100において、非点灯状態での発光管1の内部の酸素濃度は100volppmであった。なお、酸素濃度は、上記の方法にてランプ100を破壊して測定した。以下の実施例2~4及び比較例1~2についても、同様の方法にて酸素濃度を測定した。
なお、実施例1のランプ100は、発光管1が石英ガラス製であり、発光管部10の寸法は外径80mm、長さ120mmである。なお、以下の実施例2~4及び比較例1~2において、ランプ100の形状及び寸法は実施例1と同一とした。
【0059】
[実施例2]
実施例2のランプ100は、
図5に示す製造方法によって製造した。具体的には、各部材を組み合わせた後、発光管1の内部を真空排気する工程において、発光管部10を1000℃に加熱しながら、発光管1の内部を4時間真空排気(温排気)したこと以外は、実施例1と同じ製造方法によって製造した。完成したランプ100において、非点灯状態での発光管1の内部の酸素濃度は50volppmであった。
【0060】
[実施例3]
実施例3のランプ100は、温排気の時間を8時間としたこと以外は実施例2と同じ製造方法によって製造した。完成したランプ100において、非点灯状態での発光管1の内部の酸素濃度は30volppmであった。
【0061】
[実施例4]
実施例4のランプ100は、温排気の時間を16時間としたこと以外は実施例2と同じ製造方法によって製造した。完成したランプ100において、非点灯状態での発光管1の内部の酸素濃度は10volppmであった。
【0062】
[比較例1]
比較例1の被膜は、タングステンの粒子を焼結させたもので、粒径10μm以下のタングステンの粒子を溶媒(例:ニトロセルロースと酢酸ブチル)に分散させ、このタングステンのペーストを陽極3の外周面3bに筆で塗布した。次いで、塗布後の陽極3を、150℃で30分間乾燥した後、真空雰囲気下、2000℃で2時間熱処理を行い、タングステンの粒子を焼結させた。その他の工程は、実施例1と同じとした。完成したランプにおいて、非点灯状態での発光管の内部の酸素濃度は200volppmであった。
【0063】
[比較例2]
比較例2は、陽極3の真空熱処理の時間を4時間としたこと以外は実施例1と同じ製造方法によって製造した。完成したランプにおいて、非点灯状態での発光管の内部の酸素濃度は140volppmであった。
【0064】
なお、実施例、比較例共に、陰極4は同じ条件での真空熱処理を実施した。
【0065】
これらのランプについて、定格電力6kWで2時間点灯、30分消灯のサイクルで繰り返し点灯した。照度が点灯開始時の初期照度の70%(照度維持率70%)となるまでの時間を比較した。結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
比較例1では、電極材料の蒸発が生じ、黒化が生じた。比較例1が照度維持率70%となる時間を1とした場合、比較例2はほぼ同等の結果となった。これは、発光管内の酸素濃度が高く、ジルコニウムカーバイドの被膜の酸化により生じた遊離炭素及び一酸化炭素の影響で、早期に黒化が生じたためである。他方、実施例1~4については1を超える結果となり、ランプ寿命改善の効果が確認された。すなわち、実施例1~4によれば、比較例1~2と比べて、ランプ100の発光管部10の内壁の黒化の経時的な進行が抑制されていることが示唆される。
【符号の説明】
【0068】
1 :発光管
2 :被膜
3 :陽極
4 :陰極
10 :発光管部
11a :第一封止管部
11b :第二封止管部
12a :口金
12b :口金
100 :ショートアーク型放電ランプ(ランプ)