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  • 特許-ブクリョウの栽培方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ブクリョウの栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20240404BHJP
   A01G 18/50 20180101ALI20240404BHJP
【FI】
A01G18/20
A01G18/50
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020018369
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021122238
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391000519
【氏名又は名称】一般財団法人日本きのこセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】592072791
【氏名又は名称】鳥取県
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 雅則
(72)【発明者】
【氏名】奥田 康仁
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-8112(JP,A)
【文献】特開2000-92986(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105917960(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伐採後4か月以上経過したスギ原木にマツホドの種菌を接種する種菌接種工程と、
前記マツホドの種菌を培養し、前記スギ原木に菌糸を形成させる種菌培養工程と、
を含む、ブクリョウの栽培方法。
【請求項2】
前記スギ原木は、
伐採後9か月以上経過している、
請求項1に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項3】
前記種菌培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記スギ原木で、前記種菌接種工程及び前記種菌培養工程をさらに行う、
請求項1又は2に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項4】
前記菌糸が形成された前記スギ原木にマツホドの菌核を接種する菌核接種工程と、
前記菌核を培養する菌核培養工程と、
をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項5】
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記スギ原木で、前記種菌接種工程、前記種菌培養工程、前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
請求項4に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項6】
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記スギ原木で、前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
請求項4又は5に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項7】
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後に前記スギ原木を滅菌してから前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
請求項6に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項8】
前記種菌接種工程では、前記スギ原木を滅菌してから前記スギ原木に前記マツホドの種菌を接種する、
請求項1から7のいずれか一項に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項9】
前記スギ原木を保持する第1の袋が第2の袋に入れられた状態で前記スギ原木を滅菌する、
請求項7又は8に記載のブクリョウの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブクリョウの栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マツホド(Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson、Wolfiporia extensa又はPoria cocos)は、サルノコシカケ科のきのこである。マツホドの菌核は利尿や鎮静の効果がある生薬“茯苓(ブクリョウ)”として知られている。日本国内で使用されるブクリョウの99.8%は中国産である。近年、輸入されたブクリョウに殺虫剤及び除草剤等の農薬が検出されることがあり、安全性が懸念されている。また、中国における急激な人口増加及び健康志向の高まりによって、ブクリョウの価格が高騰している。
【0003】
中国において広く行われているブクリョウの栽培方法は、伐採原木に野外で種菌を接種して栽培する未滅菌原木栽培である。未滅菌原木栽培は、滅菌の工程を含まない粗放的な手法である。このため、天候の影響及び害虫の発生等の問題が発生しやすくブクリョウの収量が少なくなることがある。
【0004】
一方、滅菌原木栽培は伐採原木を滅菌後、種菌を接種し、屋内で無菌的に栽培する方法である。例えば、特許文献1にはアカマツのオガクズを基材として使用するブクリョウの人工栽培方法が開示されている。特許文献2には、輪切りにしたマツ原木を袋に入れて、無菌化した条件下で種菌を接種及び培養して菌核を袋内で得ることを特徴とするブクリョウの人工栽培方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/156759号
【文献】特開2000-092986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2では、基材及び原木にマツ又はスギ等を使用することが提案されている。マツ及びスギ等には、抗菌性物質が含まれる。抗菌性物質によって、菌糸の伸長が阻害され、菌核の成長が抑制されるおそれがある。この結果として、ブクリョウの収量が低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ブクリョウの収量を増大させることができるブクリョウの栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法は、
伐採後4か月以上経過したスギ原木にマツホドの種菌を接種する種菌接種工程と、
前記マツホドの種菌を培養し、前記スギ原木に菌糸を形成させる種菌培養工程と、
を含む。
【0009】
この場合、前記スギ原木は、
伐採後9か月以上経過している、
こととしてもよい。
【0010】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記種菌培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記スギ原木で、前記種菌接種工程及び前記種菌培養工程をさらに行う、
こととしてもよい。
【0011】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記菌糸が形成された前記スギ原木にマツホドの菌核を接種する菌核接種工程と、
前記菌核を培養する菌核培養工程と、
をさらに含む、
こととしてもよい。
【0012】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記スギ原木で、前記種菌接種工程、前記種菌培養工程、前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
こととしてもよい。
【0013】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記スギ原木で、前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
こととしてもよい。
【0014】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後に前記スギ原木を滅菌してから前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記種菌接種工程では、前記スギ原木を滅菌してから前記スギ原木に前記マツホドの種菌を接種する、
こととしてもよい。
【0016】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記スギ原木を保持する第1の袋が第2の袋に入れられた状態で前記スギ原木を滅菌する、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
ブクリョウの収量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1に係るブクリョウの栽培方法のフローチャートを示す図である。
図2】実施の形態2に係るブクリョウの栽培方法のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る実施の形態について説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法は、図1に示すように、種菌接種工程(ステップS1)と、種菌培養工程(ステップS2)と、を含む。原木としては、ブクリョウの栽培に使用できる任意の原木が使用できる。原木は、例えば、針葉樹、マツ科樹木、スギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツ、トドマツ、クロマツ、バシリマツ(バビショウ)、ハイマツ、ウンナンマツ及びシナニッケイ等である。好適には、原木は日本国内に間伐材が豊富にあるスギである。
【0023】
原木は、伐採後4か月以上経過したものである。伐採後の経過期間は、4か月以上であれば特に限定されないが、例えば、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月又は12か月である。好ましくは伐採後9か月以上、特に好ましくは12か月以上経過した原木を用いる。伐採した原木は、使用するまで、例えば屋外に放置し、風雨に曝してもよいし、屋内で保管してもよい。種菌接種工程の前に、原木を所定の時間、例えば2日間、水に浸してもよい。種菌接種工程での操作性を考慮して、原木を伐採直後又は種菌接種工程の直前に任意の大きさに切断してもよい。
【0024】
種菌接種工程では、原木にマツホドの種菌を接種する。マツホドの種菌は、野生から採取してもよいし、ATCC(American TypeCulture Collection)及び農業生物資源ジーンバンク(NIAS GeneBank)等の保存機関から入手してもよい。マツホドの種菌の原木への接種は公知の方法で行えばよい。
【0025】
種菌培養工程では、マツホドの種菌を培養し、原木に菌糸を形成させる。培養の温度は、例えば20~32℃、より好ましくは22~30℃、特に好ましくは23℃である。培養時の湿度は60%以上とすることが好ましい。マツホドの種菌の培養は明下で行ってもよいが、好ましくは暗下で行う。種菌接種工程は、原木を任意の容器に入れて行ってもよい。原木を容器に保持する場合、雑菌及び害虫の侵入を防ぐため、容器に封をすることが好ましい。
【0026】
マツホドの種菌を一定期間以上、例えば20日以上培養することにより、菌糸が原木表面に繁茂する。菌糸同士が密着し、内部の水分が抜けて組織が硬く密になると菌核、すなわちブクリョウが形成される。種菌培養工程で形成されたブクリョウは、収穫して皮を剥いで乾燥させてもよい。
【0027】
下記実施例1に示すように、原木を伐採後の経過期間が短いと菌糸の伸長が抑制され、伐採後の経過期間が長いほどブクリョウの収量が大きくなる。本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法では、伐採後4か月以上経過した原木を使用するため、ブクリョウの収量を増大させることができる。
【0028】
上記ブクリョウの栽培方法では、原木はスギであってもよいこととした。ブクリョウの栽培にはマツが用いられることが多いが、日本国内においてはブクリョウの栽培のためにマツを安定的に供給することが難しいことが予想される。スギは間伐材が豊富にあるため、マツに比べ、コストを抑制することができる。また、間伐材を有効に利用することで、林業にも貢献できる。
【0029】
なお、本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法では、種菌培養工程において形成されたブクリョウを採取後の原木で、種菌接種工程及び種菌培養工程をさらに行ってもよい。これにより、伐採後4か月以上経過した原木を有効に再利用することができる。原木の再利用は、森林資源の保護の観点で有利である。
【0030】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法では、種菌接種工程において、原木を滅菌してから原木にマツホドの種菌を接種する。
【0031】
原木を滅菌する前に、原木を所定の時間、例えば2日間、水に浸してもよい。滅菌での操作性を考慮して、原木は伐採直後又は滅菌の直前に任意の大きさに切断してもよい。好ましくは、任意の容器に入れた状態で原木を滅菌する。容器の容量に応じて、原木の大きさは適宜調整され、1個の原木を割って容器に入れてもよい。また、1個の容器に1個又は複数個の原木を入れてもよい。
【0032】
滅菌の条件は、原木の種類及び原木の量に応じて設定される。原木の滅菌は、例えば高圧蒸気で滅菌される。滅菌の温度は、80~150℃、85~140℃、90~130℃又は95~120℃である。滅菌には複数の温度を用いてもよく、例えば、90~110℃又は95~105℃の第1の温度を所定時間維持することで滅菌し、続いて第1の温度より高温の100~140℃又は110~130℃の第2の温度を維持して滅菌してもよい。滅菌時間は、例えば0.5~4時間、1~3時間又は1.5~2時間である。好ましくは、滅菌後に、例えば室温まで原木を冷却する。原木を高温で滅菌する場合、原木を保持する容器としては、例えば耐熱袋が好ましい。
【0033】
伐採直後のマツ及びスギは樹液(ヤニ)を多く含むため、高温で滅菌した場合に熱せられた樹液により原木を保持する耐熱袋が溶けてしまうことがある。耐熱袋が溶けると、害虫の発生及び雑菌の繁殖等の影響により、ブクリョウの収量が低下してしまう不都合がある。このため、高温で滅菌する場合、好適には、原木を保持する耐熱袋(第1の袋)が別の耐熱袋(第2の袋)に入れられた状態で原木を滅菌する。
【0034】
伐採後4か月以上経過すると原木のヤニが流出して減少しているため、滅菌時の耐熱袋の破損を抑制することができる。さらに、原木を入れた耐熱袋を別の耐熱袋に入れて原木を滅菌することによって、外側の耐熱袋の損傷を避けることができる。これにより、滅菌のやり直し等の発生が抑えられ、ブクリョウを持続可能に効率よく栽培することができる。なお、外側の耐熱袋を内側の耐熱袋として再利用できる点でもコストが抑えられる。
【0035】
本実施の形態における種菌接種工程では、滅菌した原木にマツホドの種菌を接種する。この場合、クリーンベンチ等の無菌設備で原木にマツホドの種菌を接種するのが好ましい。種菌の培養中は、雑菌及び害虫の侵入を防ぐため、耐熱袋に封をすることが好ましい。原木を入れた耐熱袋を別の耐熱袋に入れて原木を滅菌した場合、その状態を維持したまま、種菌接種工程において原木にマツホドの種菌を接種するのが好ましい。
【0036】
なお、種菌培養工程において形成されたブクリョウを採取後の原木で、種菌接種工程及び種菌培養工程をさらに行う場合も、種菌接種工程において、原木を滅菌してから原木にマツホドの種菌を接種してもよい。原木を滅菌することで、再利用される原木における雑菌を除去し、ブクリョウの収量を増大させることができる。
【0037】
(実施の形態3)
本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法は、図2に示すように、上記実施の形態1又は実施の形態2で説明した種菌接種工程(ステップS1)及び種菌培養工程(ステップS2)に加え、菌核接種工程(ステップS3)と、菌核培養工程(ステップS4)とを含む。本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法における種菌接種工程及び種菌培養工程は、上記実施の形態1又は実施の形態2と同様である。以下では、菌核接種工程及び菌核培養工程について主に説明する。
【0038】
菌核接種工程では、菌糸が形成された原木にマツホドの菌核(ブクリョウ菌核ともいう)を接種する。菌核の接種では、種菌培養工程で菌糸が形成された原木に菌核を載置すればよい。菌核の量は特に限定されないが、例えば、5~40g又は10~30gである。菌核は、未成熟であっても成熟していてもよい。菌核には皮がついたままでもよいが、皮を除去してもよい。菌核は、1個の原木に1個接種しても複数個接種してもよい。
【0039】
菌核培養工程では、菌核を培養する。菌核を培養する際の温度は、20~35℃、21~30℃又は22~25℃である。菌核を培養する際の湿度は、60%以上とすることが好ましい。マツホドの菌核の培養は明下で行ってもよいが、好ましくは暗下で行う。菌核の培養中は、雑菌及び害虫の侵入を防ぐため、原木を保持する容器に封をすることが好ましい。このような条件で、例えば60~120日、好ましくは80~100日程度培養することにより、菌核が肥大化する。なお、菌核は、例えば100日以上又は半年以上に渡って、培養してもよい。
【0040】
下記実施例2に示すように、伐採後の経過期間が長いほどブクリョウの収量が大きくなる。本実施の形態に係る栽培方法は、上記実施の形態1よりも収量をさらに増大させることができる。
【0041】
また、本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法では、菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の原木で、種菌接種工程、種菌培養工程、菌核接種工程及び菌核培養工程をさらに行ってもよい。ブクリョウを採取した後の原木表面に菌糸があまりない場合は、原木を種菌接種工程に再利用して、原木における菌糸の形成を促すことで、ブクリョウの収量を増大させやすい。この際、雑菌が原木表面に発生している等の場合は、種菌接種工程において、原木を滅菌してから原木にマツホドの種菌を接種してもよい。原木を種菌接種工程に再利用する場合、ブクリョウを採取後の原木を水に浸さずに使用するのが好ましい。
【0042】
なお、菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の原木で、菌核接種工程及び菌核培養工程をさらに行ってもよい。特に、ブクリョウを採取した後の原木表面に菌糸が蔓延しており、雑菌が発生していない場合は、原木を菌核接種工程にそのまま使用すればよい。一方、雑菌が原木表面に発生している等の場合は、再利用する原木を滅菌してから当該原木にマツホドの菌核を接種してもよい。
【0043】
別の実施の形態では、ブクリョウ栽培用基材が提供される。当該ブクリョウ栽培用基材は、伐採後4か月以上経過した原木を備える。原木の大きさは特に限定されず、適宜調整される。他の実施の形態では、当該ブクリョウ栽培用基材と、容器と、を備えるブクリョウ栽培キットが提供される。容器は、特に限定されないが、耐熱性を有する素材で形成された容器が好ましい。容器は、例えば耐熱袋である。ブクリョウ栽培キットでは、ブクリョウ栽培用基材及び容器が滅菌されていてもよい。好ましくは、ブクリョウ栽培用基材は、容器内に保持されて滅菌の状態が維持されている。こうすることで、使用者は、ブクリョウ栽培用基材に対して種菌接種工程をすぐに行うことができるため、ブクリョウを効率よく栽培することができる。
【実施例
【0044】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
伐採したスギ原木を伐採から0~2か月、2~4か月、4~6か月、6~8か月又は10~12か月間、風雨に曝した。当該スギ原木を、フィルター付きの耐熱袋(厚さ50μm、フィルター穴径40φ、折径325mm×ガゼット62mm×長さ450mm;ST50-TMS 40φ、エフテック社製)に入る長さに切断した。切断したスギ原木を入れた耐熱袋を高圧蒸気で滅菌した。滅菌では、温度を20分かけて100℃にし、続いて20分かけて118℃にし、1時間30分間維持した。滅菌後、温度を制御できる部屋に耐熱袋を一晩静置して耐熱袋を冷却した。なお、滅菌時に高温になった樹液により耐熱袋に穴が開くおそれがある場合は、スギ原木を入れた耐熱袋をさらに耐熱袋に入れて滅菌を行った。
【0046】
無菌操作下で、耐熱袋1個あたり、オガクズで培養したマツホド種菌(TMIC-36031株)を約30ml(20g)を耐熱袋内のスギ原木に接種した。フィルター付きの耐熱袋に封をし、23℃、暗下で培養した。接種から5か月後に菌核を収穫した。
【0047】
(実施例2)
実施例1と同様にスギ原木を滅菌後、マツホド種菌をスギ原木に接種し、培養した。1か月程度経過後、マツホドの菌核20g(生重量)をスギ原木の上に載せた。4か月経過後、菌核を収穫した。
【0048】
(結果)
伐採後0~2か月、2~4か月又は4~6か月経過したスギ原木を入れた耐熱袋は、滅菌時に高温の樹液によって底面に穴が開いた。伐採後0~2か月経過したスギ原木では、ほぼすべての耐熱袋に穴が開いたが、伐採後の経過期間が長くなるにつれて、穴が空いた耐熱袋の割合は減少する傾向にあった。スギ原木を入れた耐熱袋をさらに耐熱袋に入れて滅菌しても、伐採後の経過期間が短いスギ原木では外側の耐熱袋にも穴が開いたが、伐採後6か月以上経過したスギ原木では、ほとんど耐熱袋に穴が開かなかった。
【0049】
高温の滅菌における樹液の漏出により耐熱袋に穴が開く被害を低減するためには伐採後に風雨に曝す期間が重要である。伐採後、少なくとも4か月以上経過したスギ原木であれば、スギ原木を入れた耐熱袋をさらに耐熱袋に入れることで、滅菌で耐熱袋に穴が開く被害を抑制できることが明らかとなった。
【0050】
スギ原木の伐採後の経過期間ごとの菌核の収量を表1に示す。なお、表1における“耐熱袋の個数”は、スギ原木を入れた耐熱袋をさらに耐熱袋に入れた場合も、1個として計数した。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1では伐採後、0~2か月経過したスギ原木を使用した場合、接種したマツホド種菌の伸長が抑制され、スギ原木に菌糸が蔓延せず、菌核の形成はほぼみられなかった。伐採後の経過期間が長くなるにつれ、菌核の収量が増加した。
【0053】
実施例2では実施例1に比べ、収量が全体的に多く、伐採後の経過期間が長いほど収量が増加した。10~12か月経過のスギ原木では平均267.9gの収量が得られた。伐採後のスギ原木の経過期間は菌糸の蔓延とその後の菌核形成に重要であることが示された。スギは抗菌性物質を含むため、伐採後すぐに種菌を接種すると菌糸伸長が阻害され、菌核が生長しないか、生長が大きく遅延してしまうと考えられる。
【0054】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ブクリョウの製造に好適である。
図1
図2