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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ヘテロコア光ファイバセンサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20240404BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
G01N21/27 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020025847
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021131278
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-02-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「根圏ケミカルの網羅的解析と新規根圏モニター技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条第1項の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598123138
【氏名又は名称】学校法人 創価大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515117682
【氏名又は名称】株式会社コアシステムジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細木 藍
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 望
(72)【発明者】
【氏名】西山 道子
(72)【発明者】
【氏名】久米川 宣一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博幸
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/073623(WO,A1)
【文献】細木 藍ら,脂質膜を固定化したヘテロコア光ファイバの化学センシングへの応用,電子情報通信学会 信学技報,2019年10月04日,OFT2019-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01J 1/00-G01J 1/60
G01J 11/00
G02B 6/02-G02B 6/10
G02B 6/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及びクラッドを有する光伝送部と、該光伝送部のコア及びクラッドに各々連なるコア及びクラッドを有するヘテロコア部とを備え、該ヘテロコア部のコアが該光伝送部のコアよりも小径である光ファイバを備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置であって、
該ヘテロコア部のクラッドの外周面に、負荷電性脂質からなる被覆膜を備え、
該被覆膜の周囲の外界に、キニーネ、シンコニジン、ヒドロキニジン、ストリキニーネ、グラミン、パパベリン、ノルラウダノシン、カフェイン、デオフィリン、チアミン、ダイゼインからなる群から選択される該負荷電性脂質に作用する化合物が存在すると、該負荷電性脂質に作用する化合物の作用により該被覆膜の屈折率が変化し、該光伝送部の該コアを介して伝送された光が該ヘテロコア部において該クラッドに漏れ出し、該漏れ出した光の該屈折率が変化した被覆膜で反射する強度の変化による光損失スペクトルを測定することにより、該負荷電性脂質に作用する化合物を検知することを特徴とするヘテロコア光ファイバセンサ装置。
【請求項2】
請求項1記載のヘテロコア光ファイバセンサ装置において、前記負荷電性脂質は、オレイン酸又はリン酸ジオクチルであることを特徴とするヘテロコア光ファイバセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロコア光ファイバセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コア及びクラッドを有する光伝送部と、該光伝送部のコア及びクラッドに各々連なる一方、該光伝送部のコアと異なる直径のコア及びクラッドを有するヘテロコア部とを備えるヘテロコア光ファイバを各種センサに用いることが検討されている。
【0003】
従来、ヘテロコア光ファイバを用いるヘテロコア光ファイバセンサ装置として、例えば、前記ヘテロコア部の前記クラッドの外周面に水素吸蔵物質のナノ粒子が疎である状態で固定されてなる光応答部を備える光ファイバ水素センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-32229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の光ファイバ水素センサでは、光を受けたときの前記光応答部の応答、例えば光伝送部からヘテロコア部のクラッドに進入する光の外部に漏洩する割合が、該光ファイバの周囲の水素濃度に応じて変化する。そこで、前記光ファイバ水素センサによれば、前記ヘテロコア部における所定波長の光の吸収度合(ひいては、光ファイバでの所定波長の光の伝送強度の減衰度合)を検出することにより、該光ファイバの周囲の水素濃度を検知することができる。
【0006】
しかしながら、従来のヘテロコア光ファイバセンサ装置では、特定の化合物又は該化合物の濃度を検知の対象とするだけであり、単一の装置で複数の化合物を検知の対象とすることが困難であるという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、単一の装置で複数の化合物を検知の対象とすることができるヘテロコア光ファイバセンサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置は、コア及びクラッドを有する光伝送部と、該光伝送部のコア及びクラッドに各々連なるコア及びクラッドを有するヘテロコア部とを備え、該ヘテロコア部のコアが該光伝送部のコアよりも小径である光ファイバを備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置であって、該ヘテロコア部のクラッドの外周面に、負荷電性脂質からなる被覆膜を備え、該被覆膜の周囲の外界に、キニーネ、シンコニジン、ヒドロキニジン、ストリキニーネ、グラミン、パパベリン、ノルラウダノシン、カフェイン、デオフィリン、チアミン、ダイゼインからなる群から選択される該負荷電性脂質に作用する化合物が存在すると、該負荷電性脂質に作用する化合物の作用により該被覆膜の屈折率が変化し、該光伝送部の該コアを介して伝送された光が該ヘテロコア部において該クラッドに漏れ出し、該漏れ出した光の該屈折率が変化した被覆膜で反射する強度の変化による光損失スペクトルを測定することにより、該負荷電性脂質に作用する化合物を検知することを特徴とする。
【0009】
本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置では、前記光伝送部のコアを介して光を伝送すると、前記ヘテロコア部でクラッドに漏れ出した光が前記負荷電性脂質からなる被覆膜で反射する。このとき、前記被覆膜の周囲の外界に前記負荷電性脂質に作用する化合物が存在すると、該化合物の作用により該負荷電性脂質からなる該被腹膜の屈折率が変化し、この結果、該被覆膜で反射する光の強度が変化する。
【0010】
そこで、本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置によれば、前記ヘテロコア部の前記被覆膜で反射する光の強度の変化を検出することにより、前記被覆膜の周囲の外界に存在する化合物を検知することができる。このとき、前記負荷電性脂質からなる前記被腹膜の屈折率の変化は、該負荷電性脂質に作用する化合物により異なるので、前記ヘテロコア部の前記被覆膜で反射する光の強度の変化度合により、複数の化合物を検知の対象とすることができる。
【0011】
本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置では、前記負荷電性脂質として、オレイン酸又はリン酸ジオクチルを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置のセンサ部の構成を示す説明的断面図。
図2】本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置の装置構成の一例を示す説明図。
図3】本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置において、オレイン酸からなる被覆膜を備えるときに検出された各化合物の光損失を示すグラフ。
図4】本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置において、リン酸ジオクチルからなる被覆膜を備えるときに検出された各化合物の光損失を示すグラフ。
図5】本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置において、オレイン酸からなる被覆膜を備えるときに検出された光損失スペクトルであって、水と複数の濃度のキニーネとの比較を示すグラフ。
図6】本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置において、リン酸ジオクチルからなる被覆膜を備えるときに検出された光損失スペクトルであって、水とキニーネとの比較を示すグラフ。
図7】本発明のヘテロコア光ファイバセンサ装置において、オレイン酸からなる被覆膜を備えるときに検出された各化合物の光損失と、リン酸ジオクチルからなる被覆膜を備えるときに検出された各化合物の光損失との比較を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のヘテロコア光ファイバセンサ装置1は、光伝送部2,2の間に挟まれた所定長のヘテロコア部3を有するヘテロコア光ファイバ4を備える。光伝送部2は、コア5aと、コア5aの外周面を被覆するクラッド6aとからなるマルチモード光ファイバであり、ヘテロコア部3は、コア5aより小径のコア5bと、コア5bの外周面を被覆するクラッド6bとからなるシングルモード光ファイバである。
【0016】
ヘテロコア光ファイバセンサ装置1は、ヘテロコア部3のクラッド6bの外周面に形成された負荷電性脂質からなる被覆膜7を備えている。前記負荷電性脂質としては、例えば、オレイン酸又はリン酸ジオクチルを用いることができる。
【0017】
被腹膜7は、例えば、ヘテロコア部3のクラッド6bの外周面を濃度5~20ミリモルのポリリジン水溶液で処理して正に荷電させ、次いで該外周面に、水-エタノール容液に分散した前記負荷電性脂質を滴下して、20~24時間放置することにより形成することができる。前記水-エタノール容液は、例えば、2.5質量%のエタノールを含み、該水-エタノール容液の全量に対し、例えば、1質量%の前記負荷電性脂質を含んでいる。
【0018】
図2に示すように、本実施形態のヘテロコア光ファイバセンサ装置1は、被検出部21にヘテロコア光ファイバ4のヘテロコア部3を配置したときに、光ファイバ4の一方の端部にLFD等の光源22を備え、光ファイバ4の他方の端部に例えばスペクトルアナライザ、分光器等の検出装置23を備える。また、検出装置23には、検出装置23で検出された反射光の強度の変化度合いを解析するパソコン等の解析装置24が接続されている。
【0019】
本実施形態のヘテロコア光ファイバセンサ装置1では、光源22から光伝送部2に導入された光を光伝送部2のコア5aを介して伝送すると、ヘテロコア部3でそのクラッド6bに漏れ出た光が被覆膜7で反射する。このとき、被覆膜7の周囲の外界に前記負荷電性脂質に作用する化合物が存在すると、該化合物の作用により該負荷電性脂質からなる被腹膜7の屈折率が変化し、この結果、被覆膜7で反射する光の強度が変化する。
【0020】
前記負荷電性脂質に作用する化合物としては、例えば、キニーネ、シンコニジン、ヒドロキニジン、ストリキニーネ、グラミン、パパベリン、ノルラウダノシン、カフェイン、デオフィリン、チアミン、ダイゼイン等の化合物を挙げることができる。
【0021】
そこで、本実施形態のヘテロコア光ファイバセンサ装置1によれば、ヘテロコア部3の被覆膜7で反射する光の強度の変化を検出装置23で検出し、解析装置24で解析することにより、被覆膜7の周囲の外界に存在する化合物を検知することができる。このとき、前記負荷電性脂質からなる被覆膜7の屈折率の変化は、該負荷電性脂質に作用する化合物により異なるので、ヘテロコア部3の被覆膜7で反射する光の強度の変化度合により、複数の化合物を検知の対象として識別することができる。
【0022】
次に、キニーネ、シンコニジン、ヒドロキニジン、ストリキニーネ、グラミン、パパベリン、ノルラウダノシン、カフェイン、デオフィリン、チアミン、ダイゼインをそれぞれ10ミリモルの濃度で含む11種類の水溶液を調製した。
【0023】
次に、オレイン酸からなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1のヘテロコア部3を各水溶液に浸漬し、光源22から波長範囲360-2000nmの白色光を光伝送部2に導入し、検出装置23で各水溶液の純水に対する光損失を検出した。結果を図3に示す。また、リン酸ジオクチルからなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1を用いた以外は、オレイン酸からなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1の場合と全く同一にして、前記各水溶液の純水に対する光損失を検出した。結果を図4に示す。
【0024】
図3及び図4から、オレイン酸からなる被覆膜7又はリン酸ジオクチルからなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1によれば、前記キニーネ、シンコニジン、ヒドロキニジン、ストリキニーネ、グラミン、パパベリン、ノルラウダノシン、カフェイン、デオフィリン、チアミン、ダイゼインについて、純水に対してそれぞれ異なる光損失が検出され、前記キニーネ、シンコニジン、ヒドロキニジン、ストリキニーネ、グラミン、パパベリン、ノルラウダノシン、カフェイン、デオフィリン、チアミン、ダイゼインのそれぞれを識別できることが明らかである。
【0025】
次に、オレイン酸からなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1のヘテロコア部3を、純水、10ミリモル-キニーネ水溶液、50ミリモル-キニーネ水溶液にそれぞれ浸漬し、光源22から波長範囲360-2000nmの白色光を光伝送部2に導入し、検出装置23でそれぞれの純水に対する光損失スペクトルを測定した。結果を図5に示す。
【0026】
図5から、オレイン酸からなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1によれば、純水に比較すると、キニーネ水溶液に対する光損失が全体に増加することが明らかであり、さらにキニーネの濃度の増加に伴って光損失が全体に増加することが明らかである。
【0027】
また、リン酸ジオクチルからなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1のヘテロコア部3を、純水、10ミリモル-キニーネ水溶液にそれぞれ浸漬し、光源22から波長範囲360-2000nmの白色光を光伝送部2に導入し、検出装置23でそれぞれの純水に対する光損失スペクトルを測定した。結果を図6に示す。
【0028】
図6から、リン酸ジオクチルからなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1によれば、純水に比較すると、キニーネ水溶液に対する光損失が全体に増加することが明らかである。
【0029】
次に、キニーネ、シンコニジン、ヒドロキニジン、ストリキニーネ、グラミン、パパベリン、ノルラウダノシン、カフェイン、デオフィリン、チアミン、ダイゼインをそれぞれ10ミリモルの濃度で含む11種類の水溶液の純水に対する光損失の、オレイン酸からなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1による検出結果と、リン酸ジオクチルからなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1による検出結果とを重ねて、図7に示す。
【0030】
図7から、同一の化合物の水溶液であっても、オレイン酸からなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1と、リン酸ジオクチルからなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1とでは、純水に対する光損失の値が異なっており、オレイン酸からなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1の検出結果と、リン酸ジオクチルからなる被覆膜7を備えるヘテロコア光ファイバセンサ装置1の検出結果とを合わせることにより、特定の化合物をより確実に識別できることが明らかである。
【符号の説明】
【0031】
1…ヘテロコア光ファイバセンサ装置、 2…光伝送部2、 3…ヘテロコア部、 4…光ファイバ、 5a、5b…コア、 6a、6b…クラッド、 7…被腹膜、 21…被検出部、 22…光源22、 23…検出装置、 24…解析装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7