(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】異種金属の接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
B23K20/12 310
B23K20/12 360
(21)【出願番号】P 2020034578
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】596091956
【氏名又は名称】冨士端子工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【氏名又は名称】森本 直之
(72)【発明者】
【氏名】長岡 亨
(72)【発明者】
【氏名】京田 猛
(72)【発明者】
【氏名】土居 憲太
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-042117(JP,A)
【文献】特開2004-066331(JP,A)
【文献】国際公開第01/062430(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016105927(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を摩擦攪拌接合によって接合する異種金属の接合方法であって、
上記第1の金属部材と第2の金属部材を、
あいだに境界ができるように突き合せて配置し、
上記第1の金属部材と第2の金属部材の
上記境界に沿う領域を少なくとも覆うように補助金属材を載置し、
上記第1の金属部材に侵入させるプローブと、上記プローブの根元側にあって上記プローブよりも径の大きいショルダー部とを有する回転工具を準備し、
回転する
上記プローブの外周縁が上記境界
と一致するよう、上記回転工具を上記補助金属材の上から上記第1の金属部材に挿入した状態で、上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1の金属部材と第2の金属部材を接合する
際に、
上記ショルダー部の下面に外周部から中心部に向かう傾斜を設けた上記回転工具を使用し、上記補助金属材の厚みを、上記ショルダー部の下面に設けられた傾斜によって形成される空間の深さよりも大きくなるよう設定する
ことを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
上記回転工具を挿入する第1の金属部材を、第2の金属部材よりも硬度が低い金属とする
請求項1記載の異種金属の接合方法。
【請求項3】
上記回転工具を挿入する第1の金属部材を、第2の金属部材よりも融点が低い金属とする
請求項1記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
上記補助金属材を、上記回転工具を挿入する第1の金属部材と実質的に同じ種類の金属とする
請求項1~3のいずれか一項に記載の異種金属の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに種類が異なる2つの金属部材を摩擦攪拌接合により接合する異種金属の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合は、部材の接合技術のひとつである。円筒状の回転工具を用い、上記回転工具を回転させながら、部材同士の接合部に押し付けて挿入することによって接合する。上記回転工具を貫入させる際に発生する摩擦熱で部材を軟化させ、上記回転工具の回転力で接合部の周辺を塑性流動させることにより、複数の部材を一体化する。
【0003】
このような摩擦攪拌接合は、たとえばアーク溶接と比較すると、部材の溶融を伴わないため、接合部の熱影響を抑制でき、騒音や粉塵の発生が少ないという利点がある。また、電子ビーム溶接と比較すると、接合環境に真空を必要としないため、装置の小型化が図れるという利点がある。
【0004】
例えば、2枚のアルミニウム板の端面を突き合わせて接合する場合、接合線の真上から回転工具を挿入し、上記接合線に沿って回転工具を移動させることで、2枚の板材を接合することが行われる。
【0005】
このような摩擦攪拌接合に関する先行技術文献として、出願人は下記の特許文献1を把握している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
上記特許文献1は、アルミニウム合金製の鉄道車両や建築物等に使用されるパネルを摩擦接合法で接合する技術に関するものであり、下記の記載がある。
[0014]
図1の実施例は、パネルとしての中空型材31,32の継ぎ手部の形状が突合せタイプの場合である。・・・中空型材31,32はアルミニウム合金の押出し型材である。・・・摩擦接合時において、回転工具50の大径部51と小径部の凸部52との境53が中空型材31,32の上面に位置している。
[0015]
摩擦接合は回転工具50を回転させながら、凸部52を中空型材31、32の接合部に挿入し、接合部に沿って移動させて行う。凸部52の回転中心は2つの板36、36の間にある。
[0040]
・・・
図11に示すように、ハニカムパネル80a,80bは、2つの面板81,82と、ハニカム状のセルを有する芯材83と、面板81,82の端面に沿って配置した縁材84とからなり、芯材83、縁材84は面板81,82にろう付けされ、一体になっている。面板81,82、芯材83、および縁材84はアルミニウム合金である。・・・
[0041]
図11の実施例は
図1の実施例に相当するものである。回転工具50の凸部52の高さは面板81,82の厚さよりも大きい。これによって、面板81、82、および縁材84、84が接合される。主として縁材84がパネル80a、80bに作用する荷重を伝達する。パネル80a、80bを製作後、両者を組み合わせ、摩擦接合を行う。
[0044]
図13の実施例は、
図7に相当するものである。2つのハニカムパネル80a0,80bを組み合わせた後、面板81,81の上面に板86を載せ、板81,81に溶接で仮止めしたものである。板86は塑性流動によって流出する材料を補うものである。・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1は、同種の金属(アルミニウム合金同士)を接合する技術に関するものである。2枚の金属板を突き合せた境界と回転工具の回転軸を一致させ、突き合せた2枚の金属板材の双方に塑性流動を生じさせて接合する方法を開示する。
ところが、上記特許文献1の技術によって異種金属を接合しようとすると、接合部分では、2種類の金属が互いに相手側に流動し、不均一に混在した領域となる。異種金属が混在した領域では、混在した異種金属が介在物として作用するおそれがある。また、このような領域は、激しい塑性流動で材料が飛散等することによるボイドが生じやすい。したがって、接合部全体にわたって接合強度の低下を引き起こす可能性がある。しかも、超音波によるボイドの非破壊検査をしようとしても、混在する異種金属がノイズとなってしまい、まともな検査結果が得られない。このような介在物やボイドが存在すると、接合部の経時劣化が助長されるおそれがあり、長期的な信頼性が求められる接合技術においては致命的な課題である。
加えて、異種金属では、硬度が一致しないことが多く、塑性流動時の粘性も異なっている。このため、硬度や粘性が異なる金属同士の境界に回転工具を挿入して移動させると、移動方向に直交した方向に力が生じ、回転工具に多大な負荷がかかってしまう。また、塑性流動時の粘性が高い方の金属が、回転工具に付着するといった問題も生じる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎの目的をもってなされたものである。
互いに種類が異なる2つの金属部材を、摩擦攪拌接合法によって良好に接合できる異種金属の接合方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の異種金属の接合方法は、上記目的を達成するため、下記の構成を採用した。
互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を摩擦攪拌接合によって接合する異種金属の接合方法であって、
上記第1の金属部材と第2の金属部材を、あいだに境界ができるように突き合せて配置し、
上記第1の金属部材と第2の金属部材の上記境界に沿う領域を少なくとも覆うように補助金属材を載置し、
上記第1の金属部材に侵入させるプローブと、上記プローブの根元側にあって上記プローブよりも径の大きいショルダー部とを有する回転工具を準備し、
回転する上記プローブの外周縁が上記境界と一致するよう、上記回転工具を上記補助金属材の上から上記第1の金属部材に挿入した状態で、上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1の金属部材と第2の金属部材を接合する際に、
上記ショルダー部の下面に外周部から中心部に向かう傾斜を設けた上記回転工具を使用し、上記補助金属材の厚みを、上記ショルダー部の下面に設けられた傾斜によって形成される空間の深さよりも大きくなるよう設定する。
【0011】
請求項2記載の異種金属の接合方法は、請求項1記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具を挿入する第1の金属部材を、第2の金属部材よりも硬度が低い金属とする。
【0012】
請求項3記載の異種金属の接合方法は、請求項1記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具を挿入する第1の金属部材を、第2の金属部材よりも融点が低い金属とする。
【0013】
請求項4記載の異種金属の接合方法は、請求項1~3のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記補助金属材を、上記回転工具を挿入する第1の金属部材と実質的に同じ種類の金属とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の異種金属の接合方法は、互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を摩擦攪拌接合によって接合する。
まず、上記第1の金属部材と第2の金属部材を、あいだに境界ができるように突き合せて配置する。たとえば、2枚の金属板を突き合せたような状態とする。
ついで、上記第1の金属部材と第2の金属部材の上記境界に沿う領域を少なくとも覆うように補助金属材を載置する。たとえば、上記2枚の金属板を突き合せた境界を覆うように、補助金属材を重ねて載せる。上記補助金属材も板材を使用することができる。
つぎに、上記第1の金属部材に侵入させるプローブと、上記プローブの根元側にあって上記プローブよりも径の大きいショルダー部とを有する回転工具を準備する。回転する上記プローブの外周縁が上記境界と一致するよう、上記回転工具を上記補助金属材の上から上記第1の金属部材に挿入する。上記外周縁とは、回転しているプローブにおける最も外側の回転軌跡である。上記回転軌跡を上記境界と一致させるようにして回転工具を挿入する。このとき上記回転工具は、上記補助金属材の上から挿入を開始する。
そして、上記回転工具を上記第1の金属部材に至るまで挿入させた状態で、上記回転工具を上記境界に沿って移動させる。これにより、上記第1の金属部材に塑性流動が生じて第2の金属との境界に密着し、上記第1の金属部材と第2の金属部材が接合される。
このとき、上記ショルダー部の下面に外周部から中心部に向かう傾斜を設けた上記回転工具を使用し、上記補助金属材の厚みを、上記ショルダー部の下面に設けられた傾斜によって形成される空間の深さよりも大きくなるよう設定する。
【0018】
上述したように、回転工具を、その外周縁が上記境界と略一致するよう、上記補助金属材の上から上記第1の金属部材に挿入する。このようにすることにより、上記第1の金属部材だけに塑性流動が生じ、第2の金属部材では塑性流動がほとんど起こらない。このとき、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。
また、回転工具を第1の金属部材の側にだけ挿入することにより、従来問題であった回転工具にかかる垂直方向の力を大きく緩和し、工具の劣化を防止できる。さらに、塑性流動時の粘性が小さい金属だけに回転工具を挿入できるため、回転工具への金属の付着も抑制される。したがって、回転工具に付着した金属を除去する、回転工具を交換する等のメンテナンスの頻度を減らすことができる。
また、上記ショルダー部の下面に外周部から中心部に向かう傾斜を設けた上記回転工具を使用し、上記補助金属材の厚みを、上記ショルダー部の下面に設けられた傾斜によって形成される空間の深さよりも大きくなるよう設定している。これにより、回転工具を移動させたときに、上記第1の金属部材および第2の金属部材に上記ショルダー部が接触せず、第2の金属部材の流動による異種金属の混在が確実に防止される。
【0019】
請求項2記載の異種金属の接合方法は、上記回転工具を挿入する第1の金属部材を、第2の金属部材よりも硬度が低い金属とする。
塑性流動時の粘性が小さい第1の金属部材だけに回転工具を挿入するため、回転工具への金属の付着が抑制され、回転工具のメンテナンスの頻度を減らすことができる。また、塑性流動を生じさせるために必要なエネルギーが小さくて済むため、動力の節減に有利である。
【0020】
請求項3記載の異種金属の接合方法は、上記回転工具を挿入する第1の金属部材を、第2の金属部材よりも融点が低い金属とする。
仮に、回転工具を挿入する第1の金属部材のほうが融点が高ければ、第1の金属部材が塑性流動するまで高温になったころに相手材である第2の金属部材が溶融しはじめ、接合不良や欠陥が生じるおそれがある。上記回転工具を挿入する第1の金属部材を、第2の金属部材よりも融点が低い金属とすることにより、上記のような不都合の発生を防止できる。
【0021】
請求項4記載の異種金属の接合方法は、上記補助金属材を、上記回転工具を挿入する第1の金属部材と実質的に同じ種類の金属とする。
激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、ボイドの発生を減少させる。このとき、異種金属の混在が問題にならない極めて良好な接合状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の異種金属の接合方法の実施形態を説明する図である。
【
図3】回転工具と補助金属材の関係を説明する図である。
【
図4】上記実施形態の異種金属の接合方法を実施する状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0027】
〔工程〕
図1は、本発明の異種金属の接合方法の実施形態を説明する図である。(A)は正面から見た状態、(B)は上から見た状態であり、(C)は回転工具の移動状態を示す図である。
【0028】
本実施形態の異種金属の接合方法は、第1の金属部材10と第2の金属部材20を摩擦攪拌接合によって接合する。第1の金属部材10と第2の金属部材20は、互いに種類が異なる異種金属である。上記第1の金属部材10と第2の金属部材20は、純金属でもよいし合金でもよい。図示した例は、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20は、それぞれおなじ厚みに設定された長方形の板材である。
【0029】
まず、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20を、実質的に隙間ができないように隣接して配置する。図示した例では、それぞれ長方形の板材である第1の金属部材10と第2の金属部材20を金床40上に載せ、互いの長辺を突き合せて配置する。上記第1の金属部材10と第2の金属部材20と突き合せたところに境界3が形成される。上記金床40は、第1の金属部材10と第2の金属部材20を突き合せた状態より、すこし大きな四角形に形成されている。この例では、上記金床40の上面に、凹部41が形成されている、上記凹部41は、突き合せた第1の金属部材10と第2の金属部材20の境界3に沿うように、溝状に形成されている。
【0030】
ついで、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20の境界3に沿う領域を少なくとも覆うように補助金属材1を載置する。上記補助金属材1は、この例では帯状の板材である。上記補助金属材1は、おなじ厚みの第1の金属部材10と第2の金属部材20を突き合せた面一となった境界3を覆うよう、それらの上面に載置される。上記補助金属材1は、純金属でもよいし合金でもよい。
【0031】
つぎに、回転する回転工具30の外周縁31Eが上記境界3と略一致するよう、上記回転工具30を上記補助金属材1の上から上記第1の金属部材10に挿入し、その状態で上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させる。このとき、上記境界3に沿って第1の金属部材10に塑性流動が生じ、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20の上記境界3が接合される。
【0032】
上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも硬度が低い金属とするのが好ましい。このようにすることにより、塑性流動時の粘性が小さい第1の金属部材10だけに回転工具30を挿入するため、回転工具30への金属の付着が抑制される。また、塑性流動を生じさせるために必要なエネルギーが小さくて済む。
【0033】
上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも融点が低い金属とするのが好ましい。このようにすることにより、接合不良や欠陥の発生を防止できる。仮に、回転工具30を挿入する第1の金属部材10のほうが融点が高ければ、第1の金属部材10が塑性流動するまで高温になったころに相手材である第2の金属部材20が溶融しはじめ、接合不良や欠陥が生じるおそれがある。上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも融点が低い金属とすることにより、上記のような不都合の発生を防止できるのである。
【0034】
たとえば、上記第1の金属部材10としてアルミニウム系の材料を使用し、上記第2の金属部材20として銅系の材料を使用することができる。もちろん、本発明を、上記の組み合わせに限定する趣旨ではない。
【0035】
〔回転工具30〕
図2は、上記回転工具30を示す図である。(A)は縦断面図、(B)は側面図である。上記回転工具30は、上記第1の金属部材10に侵入させるプローブ31と、上記プローブ31の根元側にあって上記プローブ31よりも径の大きいショルダー部32とを有している。
【0036】
上記ショルダー部32は、円柱状を呈した回転工具30の把持部である。上記ショルダー部32が軸旋回するチャック装置に把持され、回転中心30Aを軸として上記回転工具30が回転する。上記回転工具30の回転方向は、この例では右ねじのねじ込み方向である。つまり上から見た状態で右回転である(図示の矢印R)。上記ショルダー部32の下面中央にプローブ31が形成されている。上記ショルダー部32の下面は、上記回転中心30Aを垂直にした状態で、外周部から中心部に向かって10°程度の傾斜(図示の角度α)が設けられている。
【0037】
上記プローブ31は、上記ショルダー部32と同軸状に形成された大略円柱状であり、上記補助金属材1の上から上記第1の金属部材10に挿入される部分である。上記プローブ31は、上記補助金属材1と第1の金属部材10の厚みを貫通して先端が上記凹部41に達する程度の長さに設定される。上記プローブ31が補助金属材1と第1の金属部材10に挿入されて移動することにより、補助金属材1と第1の金属部材10に塑性流動が生じる。上記第1の金属部材10と第2の金属部材20の境界3の近傍で、上記第1の金属部材10に塑性流動を生じさせることにより、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20が接合される。
【0038】
上記プローブ31の外周には、逆ねじ部33が形成されている。上記回転工具30は、右ねじのねじ込み方向に回転させながら軸方向に沿って下降させ、補助金属材1と第1の金属部材10に向かって侵入させる。このとき、上記プローブ31の外周に逆ねじ部33が設けられていることにより、プローブ31を材料に侵入させるときに攪拌作用が生じ、塑性流動が促進される。
【0039】
上記回転工具30を上記補助金属材1の上から上記第1の金属部材10に挿入するときに、回転する回転工具30の外周縁31Eを上記境界3に略一致させる。上記外周縁31Eは、材料に侵入させるプローブ31を回転させたときに、最も外側に形成される工具の回転軌跡である。この例では、上記回転中心30Aの軸と平行に逆ねじ部33のねじ山頂部を通る仮想線である。
【0040】
ここで、回転工具30の外周縁31Eを境界3に略一致させるとは、具体的には、回転工具30の外周縁31Eが上記境界3から0.1mm程度離れた状態から、回転工具30の外周縁31Eが上記境界3を超えて第2の金属部材20側に入り込む状態までの各状態である。これらの状態であれば、良好な接合を得ることができる。
【0041】
上記回転工具30を上記補助金属材1の上から上記第1の金属部材10に挿入した状態で、上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させる。移動方向は、上記境界3に沿うとともに、第1の金属部材10と第2の金属部材20を突き合せて面一となった上面に対して平行な方向である。
【0042】
〔補助金属材1〕
図3は、回転工具30と補助金属材1の関係を説明する図である。
図3(A)は、ショルダー部32の径と補助金属材1の幅の関係を示す。
図3(B)は、ショルダー部32の形状と補助金属材1の厚みの関係を示す。
【0043】
図3(A)に示すように、上記補助金属材1を、上記回転工具30を移動させたときに上記ショルダー部32が通過する領域を少なくとも覆うものとするのが好ましい。具体的には、上記ショルダー部32の外径32Dよりも、補助金属材1の幅1Wを大きくすることが行われる。このようにすることにより、回転工具30を移動させたときに、上記第1の金属部材10および第2の金属部材20の上面に、上記ショルダー部32が接触するのを防止できる。
【0044】
図3(B)に示すように、上記補助金属材1を、上記回転工具30を移動させたときに上記第1の金属部材10および第2の金属部材20に上記ショルダー部32が接触しない厚みとするのが好ましい。具体的には、上記ショルダー部32の下面に設けられた傾斜によって形成されるヌスミ空間の深さ32Tよりも上記補助金属材1の厚み1Tが大きくなるように設定する。このようにすることにより、回転工具30を移動させたときに、上記第1の金属部材10および第2の金属部材20の上面に、上記ショルダー部32が接触するのを防止できる。
【0045】
上記補助金属材1は、上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10と実質的に同じ種類の金属とするのが好ましい。たとえば、上記第1の金属部材10をアルミニウム系の材料とし、上記第2の金属部材20を銅系の材料とした場合、上記補助金属材1は、第1の金属部材10とおなじアルミニウム系の材料とすることができる。実質的に同じとは、上記第1の金属部材10と補助金属材1がいずれもアルミニウム系合金であれば、合金の品種が必ずしも一致していなくてもよい趣旨である。このようにすることにより、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材1が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、ボイドの発生を減少させる。
【0046】
〔実施状態〕
図4は、上記実施形態の異種金属の接合方法を実施する状態を説明する図である。(A)は、境界3に沿う方向に見た模式図、(B)は、境界3を側面から見た模式図である。
【0047】
上記回転工具30を、たとえば1000~2000rpm程度で回転させる。上記回転工具30は、プローブ31が、上記補助金属材1と第1の金属部材10の厚みを貫通して先端が上記凹部41に達するまで挿入される。この状態で、上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させる。矢印Tで示す移動方向は、第1の金属部材10と第2の金属部材20を突き合せて面一となった上面に対して平行である。たとえば第1の金属部材10と第2の金属部材20の厚みが10mmであれば、移動速度は毎分150~250mm程度である。また、上記補助金属材1の厚みは2~3mm程度に設定する。
【0048】
上記回転工具30を、その移動方向Tに対して回転中心30Aを実質的に垂直とし、その状態を維持しながら上記回転工具30を移動させる。つまり、上記移動方向Tと回転中心30Aの軸がなす角度βは90°である。本実施形態では、上記補助金属材1が上記塑性流動に加わって材料が補われるため、上記回転工具30を移動方向Tに対して垂直にして移動できる。
【0049】
図5は、変形例を説明する図である。
この例では、境界3が直線ではなく、曲線から構成されている。上述したように、本実施形態では、上記回転工具30を移動方向Tに対して垂直にして移動できるため、曲線から構成された境界3に沿うように回転工具30を移動させることができる。
【0050】
〔実施形態の効果〕
上記実施形態の異種金属の接合方法は、回転工具30を、その外周縁31Eが上記境界3と略一致するよう、上記補助金属材1の上から上記第1の金属部材10に挿入する。このようにすることにより、上記第1の金属部材10だけに塑性流動が生じ、第2の金属部材20では塑性流動がほとんど起こらない。このとき、激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材1が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。
また、回転工具30を第1の金属部材10の側にだけ挿入することにより、従来問題であった回転工具30にかかる垂直方向の力を大きく緩和し、工具の劣化を防止できる。さらに、塑性流動時の粘性が小さい金属だけに回転工具30を挿入できるため、回転工具30への金属の付着も抑制される。したがって、回転工具30に付着した金属を除去する、回転工具30を交換する等のメンテナンスの頻度を減らすことができる。
【0051】
上記実施形態の異種金属の接合方法は、上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも硬度が低い金属とする。
塑性流動時の粘性が小さい第1の金属部材10だけに回転工具30を挿入するため、回転工具30への金属の付着が抑制され、回転工具30のメンテナンスの頻度を減らすことができる。また、塑性流動を生じさせるために必要なエネルギーが小さくて済むため、動力の節減に有利である。
【0052】
上記実施形態の異種金属の接合方法は、上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも融点が低い金属とする。
仮に、回転工具30を挿入する第1の金属部材10のほうが融点が高ければ、第1の金属部材10が塑性流動するまで高温になったころに相手材である第2の金属部材20が溶融しはじめ、接合不良や欠陥が生じるおそれがある。上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも融点が低い金属とすることにより、上記のような不都合の発生を防止できる。
【0053】
上記実施形態の異種金属の接合方法は、上記補助金属材1を、上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10と実質的に同じ種類の金属とする。
激しい塑性流動で材料が飛散等したとしても、上記補助金属材1が上記塑性流動に加わることにより材料が補われ、ボイドの発生を減少させる。このとき、異種金属の混在が問題にならない極めて良好な接合状態を得ることができる。
【0054】
上記実施形態の異種金属の接合方法は、上記回転工具30は、上記第1の金属部材10に侵入させるプローブ31と、上記プローブ31の根元側にあって上記プローブ31よりも径の大きいショルダー部32とを有している。そして、上記補助金属材1を、上記回転工具30を移動させたときに上記ショルダー部32が通過する領域を少なくとも覆うものとする。
回転工具30を移動させたときに、上記第1の金属部材10および第2の金属部材20に上記ショルダー部32が接触せず、第2の金属部材20の流動による異種金属の混在が確実に防止される。
【0055】
上記実施形態の異種金属の接合方法は、上記回転工具30は、上記第1の金属部材10に侵入させるプローブ31と、上記プローブ31の根元側にあって上記プローブ31よりも径の大きいショルダー部32とを有している。そして、上記補助金属材1を、上記回転工具30を移動させたときに上記第1の金属部材10および第2の金属部材20に上記ショルダー部32が接触しない厚みとする。
回転工具30を移動させたときに、上記第1の金属部材10および第2の金属部材20に上記ショルダー部32が接触せず、第2の金属部材20の流動による異種金属の混在が確実に防止される。
【0056】
上記実施形態の異種金属の接合方法は、上記回転工具30を、その移動方向に対して回転中心30Aを実質的に垂直とし、その状態を維持しながら上記回転工具30を移動させる。
つまり、激しい塑性流動で部材の一部が飛散するのを防止するため、回転工具30を傾けて移動するケースがある。この場合は移動方向はたとえばX方向だけに限定される。本発明では上記補助金属材1が上記塑性流動に加わって材料が補われるため、上記回転工具30を移動方向に対して垂直にして移動できる。このため、たとえば移動方向をX方向に加えてY方向にも移動させるなど、加工設計の自由度が格段に向上する。
【0057】
〔変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は図示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
【符号の説明】
【0058】
1:補助金属材
1W:幅
1T:厚み
3:境界
10:第1の金属部材
20:第2の金属部材
30:回転工具
30A:回転中心
31:プローブ
31E:外周縁
32:ショルダー部
32D:外径
32T:ヌスミ空間の深さ
33:逆ねじ部
40:金床
41:凹部