(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】磁場測定装置および磁場測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/20 20060101AFI20240404BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20240404BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20240404BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01R33/20
G01R33/02 A
G01N24/00 E
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2020083739
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-01-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
(72)【発明者】
【氏名】大塚 努
(72)【発明者】
【氏名】橋本 将輝
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
(72)【発明者】
【氏名】林 寛
(72)【発明者】
【氏名】竹村 祐輝
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0178959(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0136291(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0049776(US,A1)
【文献】国際公開第2021/054141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
G01N 24/00
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有する磁気共鳴部材と、
前記磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加する高周波磁場発生器と、
前記高周波磁場発生器に前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、
前記磁気共鳴部材から、被測定磁場に対応する物理的事象を検出する検出装置と、
前記高周波電源を制御し、前記検出装置により検出された前記物理的事象の検出値を特定する測定制御部と、
前記検出値に基づいて前記被測定磁場を演算する演算部とを備え、
前記複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、
前記磁気共鳴部材は、前記被測定磁場に対して、前記所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による前記被測定磁場の感度を略最大とする向きに配置されて
おり、
前記磁気共鳴部材は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとしたときに、前記被測定磁場が、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの2軸に対して、それぞれ略((180-θ)/2)度をなすように配置されており、
前記所定の複数の軸は、前記被測定磁場に対して略((180-θ)/2)度をなす前記2軸であること、
を特徴とする磁場測定装置。
【請求項2】
複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有する磁気共鳴部材と、
前記磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加する高周波磁場発生器と、
前記高周波磁場発生器に前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、
前記磁気共鳴部材から、被測定磁場に対応する物理的事象を検出する検出装置と、
前記高周波電源を制御し、前記検出装置により検出された前記物理的事象の検出値を特定する測定制御部と、
前記検出値に基づいて前記被測定磁場を演算する演算部とを備え、
前記複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、
前記磁気共鳴部材は、前記被測定磁場に対して、前記所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による前記被測定磁場の感度を略最大とする向きに配置されており、
前記磁気共鳴部材は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとし、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの2軸の間の中心を通る直線に対する前記被測定磁場の角度をαとしたとき、前記被測定磁場が、(a)前記2軸に対して同一の角度をなし、かつ、(b)前記αが略arctan(tan(θ/2)/3)となるように配置されており、
前記所定の複数の軸は、前記4軸のうちの前記2軸を含む3軸であること、
を特徴とする磁場測定装置。
【請求項3】
複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有する磁気共鳴部材と、
前記磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加する高周波磁場発生器と、
前記高周波磁場発生器に前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、
前記磁気共鳴部材から、被測定磁場に対応する物理的事象を検出する検出装置と、
前記高周波電源を制御し、前記検出装置により検出された前記物理的事象の検出値を特定する測定制御部と、
前記検出値に基づいて前記被測定磁場を演算する演算部とを備え、
前記複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、
前記磁気共鳴部材は、前記被測定磁場に対して、前記所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による前記被測定磁場の感度を略最大とする向きに配置されており、
前記磁気共鳴部材は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとしたときに、前記被測定磁場が、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸に対して、それぞれ略(θ/2)度をなすように配置されており、
前記所定の複数の軸は、前記4軸であること、
を特徴とする磁場測定装置。
【請求項4】
前記マイクロ波は、前記被測定磁場に対して前記所定の複数の軸に対応する所定のディップ周波数を含む周波数成分を有することを特徴とする請求項1
から請求項3のうちのいずれか1項記載の磁場測定装置。
【請求項5】
複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有する磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するステップと、
前記磁気共鳴部材から被測定磁場に対応する物理的事象を検出し前記物理的事象の検出値を特定するステップと、
前記検出値に基づいて前記被測定磁場を演算するステップとを備え、
前記複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、
前記磁気共鳴部材は、前記被測定磁場に対して、前記所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による前記被測定磁場の感度を略最大とする向きに配置されて
おり、
前記磁気共鳴部材は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとしたときに、前記被測定磁場が、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの2軸に対して、それぞれ略((180-θ)/2)度をなすように配置されており、
前記所定の複数の軸は、前記被測定磁場に対して略((180-θ)/2)度をなす前記2軸であること、
を特徴とする磁場測定方法。
【請求項6】
複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有する磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するステップと、
前記磁気共鳴部材から被測定磁場に対応する物理的事象を検出し前記物理的事象の検出値を特定するステップと、
前記検出値に基づいて前記被測定磁場を演算するステップとを備え、
前記複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、
前記磁気共鳴部材は、前記被測定磁場に対して、前記所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による前記被測定磁場の感度を略最大とする向きに配置されており、
前記磁気共鳴部材は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとし、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの2軸の間の中心を通る直線に対する前記被測定磁場の角度をαとしたとき、前記被測定磁場が、(a)前記2軸に対して同一の角度をなし、かつ、(b)前記αが略arctan(tan(θ/2)/3)となるように配置されており、
前記所定の複数の軸は、前記4軸のうちの前記2軸を含む3軸であること、
を特徴とする磁場測定方法。
【請求項7】
複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有する磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するステップと、
前記磁気共鳴部材から被測定磁場に対応する物理的事象を検出し前記物理的事象の検出値を特定するステップと、
前記検出値に基づいて前記被測定磁場を演算するステップとを備え、
前記複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、
前記磁気共鳴部材は、前記被測定磁場に対して、前記所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による前記被測定磁場の感度を略最大とする向きに配置されており、
前記磁気共鳴部材は、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとしたときに、前記被測定磁場が、前記ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸に対して、それぞれ略(θ/2)度をなすように配置されており、
前記所定の複数の軸は、前記4軸であること、
を特徴とする磁場測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場測定装置および磁場測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁気計測装置は、電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)で磁気計測を行っている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ODMRでは、サブレベルの準位と光学遷移準位とをもつ磁気共鳴部材に高周波磁場(マイクロ波)と光をそれぞれサブレベル間の励起と光遷移間の励起のために照射することで、サブレベル間の磁気共鳴による占有数の変化などが光信号により高感度で検出される。通常、基底状態の電子が緑光で励起された後、基底状態に戻る際に赤光を発する。一方、例えば、ダイヤモンド構造中の窒素と格子欠陥(以下、ダイヤモンド窒素-空孔中心(NVセンタ:Nitrogen Vacancy Center)という)中の電子は、2.87GHz程度の高周波磁場の照射により、光励起により初期化された後では、基底状態中の3つのサブレベルの中で一番低いレベル(スピン磁気量子数ms=0)から、基底状態中のそれより高いエネルギー軌道のレベル(ms=±1)に遷移する。その状態の電子が緑光で励起されると、無輻射で基底状態中の3つのサブレベルの中で一番低いレベル(ms=0)に戻るため発光量が減少し、この光検出より、高周波磁場により磁気共鳴が起こったかどうかを知ることができる。ODMRでは、このような、NVセンタを有するダイヤモンドといった光検出磁気共鳴部材が使用される。
【0004】
そして、NVセンタを使用した直流磁場の測定方法として、ラムゼイパルスシーケンス(Ramsey Pulse Sequence)を使用した測定方法がある。ラムゼイパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンタに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスをNVセンタに印加し、(c)第1のπ/2パルスから所定の時間間隔ttでマイクロ波の第2のπ/2パルスをNVセンタに印加し、(d)測定光をNVセンタに照射してNVセンタの発光量を測定し、(e)測定した発光量に基づいて磁束密度を見積もれる。
【0005】
また、NVセンタを使用した交流磁場の測定方法として、スピンエコーパルスシーケンス(Spin Echo Pulse Sequence)を使用した測定方法がある。スピンエコーパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンタに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスを被測定磁場の位相0度でNVセンタに印加し、(c)マイクロ波のπパルスを被測定磁場の位相180度でNVセンタに印加し、(d)マイクロ波の第2のπ/2パルスを被測定磁場の位相360度でNVセンタに印加し、(e)測定光をNVセンタに照射してNVセンタの発光量を測定し、(f)測定した発光量に基づいて磁束密度を見積もれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダイヤモンド窒素-空孔中心(NVセンタ)は、窒素と空孔との配列方向(以下、N-V方向ともいう)に対して平行な磁場成分に対して感度を有するため、N-V方向に対する被測定磁場Btの方向によっては、被測定磁場Btが良好な感度で検出されない可能性がある。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、被測定磁場Btを良好な感度で検出する磁場測定装置および磁場測定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁場測定装置は、複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有する磁気共鳴部材と、磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加する高周波磁場発生器と、高周波磁場発生器にマイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、磁気共鳴部材から、被測定磁場に対応する物理的事象を検出する検出装置と、高周波電源を制御し、検出装置により検出された物理的事象の検出値を特定する測定制御部と、その検出値に基づいて被測定磁場を演算する演算部とを備える。そして、上述の複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、上述の磁気共鳴部材は、被測定磁場に対して、上述の所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による被測定磁場の感度を略最大とする向きに配置されている。さらに、次の(A)、(B)、および(C)のいずれかの構成を備える。(A)上述の磁気共鳴部材は、上述のダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとしたときに、被測定磁場が、上述のダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの2軸に対して、それぞれ略((180-θ)/2)度をなすように配置されており、上述の所定の複数の軸は、被測定磁場に対して略((180-θ)/2)度をなす上述の2軸である。(B)上述の磁気共鳴部材は、上述のダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとし、上述のダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの2軸の間の中心を通る直線に対する被測定磁場の角度をαとしたとき、被測定磁場が、(a)上述の2軸に対して同一の角度をなし、かつ、(b)αが略arctan(tan(θ/2)/3)となるように配置されており、上述の所定の複数の軸は、上述の4軸のうちの上述の2軸を含む3軸である。(C)上述の磁気共鳴部材は、上述のダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとしたときに、被測定磁場が、上述のダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸に対して、それぞれ略(θ/2)度をなすように配置されており、上述の所定の複数の軸は、上述の4軸である。
【0010】
本発明に係る磁場測定方法は、複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有する磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するステップと、磁気共鳴部材から被測定磁場に対応する物理的事象を検出し物理的事象の検出値を特定するステップと、検出値に基づいて被測定磁場を演算するステップとを備える。そして、上述の複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、上述の磁気共鳴部材は、被測定磁場に対して、上述の所定の複数の軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による被測定磁場の感度を略最大とする向きに配置されている。さらに、上述の(A)、(B)、および(C)のいずれかの構成を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被測定磁場Btを良好な感度で検出する磁場測定装置および磁場測定方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁場測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1における磁気共鳴部材1のNVセンタの複数の向きについて説明する図である。
【
図3】
図3は、NVセンタの複数の向きに対応するNVセンタのゼーマン分裂後の蛍光強度の周波数特性について説明する図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1における被測定磁場Btの印加方向を説明する斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態2における被測定磁場Btの印加方向を説明する斜視図である。
【
図6】
図6は、実施の形態3における被測定磁場Btの印加方向を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
実施の形態1.
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁場測定装置の構成を示す図である。
図1に示す磁場測定装置は、磁気センサ部10と、演算処理装置11と、高周波電源12とを備える。
【0016】
磁気センサ部10は、所定の位置(例えば、検査対象物体の表面上または表面上方)において、被測定磁場Bt(例えばその強度など)を検出する。なお、被測定磁場は、直流磁場でもよいし、単一周波数の交流磁場でもよいし、複数の周波数成分を有する所定周期の交流磁場でもよい。
【0017】
この実施の形態では、磁気センサ部10は、磁気共鳴部材1および高周波磁場発生器2を備える。また、必要に応じて、磁気センサ部10は、静磁場発生部3を備える。
【0018】
磁気共鳴部材1は、複数のダイヤモンド窒素-空孔中心(NVセンタ)を含むダイヤモンド結晶を有する。つまり、磁気共鳴部材1は、アンサンブルな磁気共鳴部材であり、この実施の形態では、光検出磁気共鳴部材として使用される。ここでは、磁気共鳴部材1は、ダイヤモンド結晶の板材であって、支持部材1aに固定されている。
【0019】
高周波磁場発生器2は、後述のマイクロ波を磁気共鳴部材1に印加する。ここでは、高周波電源12は、そのマイクロ波の電流を生成して高周波磁場発生器2に導通させる。高周波磁場発生器2は例えばコイルや、LC共振装置や、スリットアンテナや、棒状アンテナなどの一種であるか、それらの複数の装置を組み合わせたものである。
【0020】
なお、静磁場発生部3は、磁気共鳴部材1内のNVセンタのエネルギー準位をゼーマン分裂させる静磁場(直流磁場)を印加する。静磁場発生部3としては、永久磁石、コイル(つまり、電磁石)などが使用される。静磁場発生部3としてはコイルが使用される場合、直流電源が設けられ、そのコイルに電気的に接続され、そのコイルに直流電流を供給し、これにより、静磁場が発生する。NVセンタでは、基底状態がms=0,+1,-1の三重項状態であり、ms=+1の準位およびms=-1の準位が上述の静磁場によってゼーマン分裂する。磁気共鳴部材1におけるNVセンタは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、また、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向き(つまり、上述のN-V方向)を取り得る。
【0021】
また、この実施の形態では、磁気センサ部10は、磁気共鳴部材1から、被測定磁場に対応する物理的事象(ここでは蛍光)を検出する検出装置として、照射装置4および受光装置5を備える。照射装置4は、光検出磁気共鳴部材としての磁気共鳴部材1に光(所定波長の励起光と所定波長の測定光)を照射する。受光装置5は、測定光の照射時において磁気共鳴部材1から発せられる蛍光を検出する。なお、この物理的事象は、ここでは光学的に検出されるが、電気特性の変化(磁気共鳴部材1の抵抗値の変化など)であってもよく、電気的に検出されてもよい。
【0022】
図2は、
図1における磁気共鳴部材1のNVセンタの複数の向きについて説明する図である。
図2に示すように、ダイヤモンド結晶において、欠陥(空孔)(V)および不純物としての窒素(N)によってNVセンタが形成される。ダイヤモンド結晶内の欠陥(空孔,V)に対して、隣接する窒素(N)の取り得る位置(つまり、N-V方向)は4種類ある。
【0023】
磁気共鳴部材1は、この4つのN-V方向のうちの複数(2つ、3つ、4つのうちのいずれか)のN-V方向のNVセンタを含んでおり、ダイヤモンド結晶格子上での窒素および空孔の位置関係に基づき、各NVセンタは、4つのN-V方向のいずれかを有し、被測定磁場Btにおける、N-V方向に対して平行な成分に対して感度を有するため、そのN-V方向と被測定磁場Btとのなす角度に応じた強度で、被測定磁場Btに反応する。
【0024】
このように、磁気共鳴部材1内の複数のNVセンタは、ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の軸(以下、対象軸という)の方向にそれぞれ配列しているNVセンタを含む。そして、磁気共鳴部材1は、被測定磁場Btに対して、上述の対象軸の方向にそれぞれ配列しているNVセンタによる被測定磁場Btの感度を略最大とする向きに配置されている。
【0025】
図3は、NVセンタの複数の向きに対応するNVセンタのゼーマン分裂後の蛍光強度の周波数特性(マイクロ波周波数に対する蛍光強度の特性)について説明する図である。なお、磁気共鳴部材1に静磁場Boが印加されている場合には、4つのN-V方向のNVセンタにおけるゼーマン分裂後のサブ準位が互いに異なり、
図3に示すように、マイクロ波の周波数に対する蛍光強度の特性において、それぞれの向きiに対応して、互いに異なるディップ周波数対(fi+,fi-)が現れる。このように、上述の4つのN-V方向iに対応して、4つのディップ周波数対(fi+,fi-)がそれぞれ個別的に現れる。
【0026】
また、上述のマイクロ波は、被測定磁場Btに対して上述の対象軸に対応する所定のディップ周波数(つまり、ODMRにおいて蛍光強度が落ち込むマイクロ波周波数)を含む周波数成分を有する。静磁場Boが磁気共鳴部材1に印加されている場合には、この所定のディップ周波数は、
図3に示すようなゼーマン分裂後のものであり、静磁場Boが磁気共鳴部材1に印加されていない場合には、この所定のディップ周波数は、ゼーマン分裂していない状態のものである。
【0027】
図4は、実施の形態1における被測定磁場Btの印加方向を説明する斜視図である。
【0028】
実施の形態1では、上述の対象軸を
図4における上述の4軸A1~A4のうちの2軸A1,A2とし、対象軸A1,A2のうちの一方の軸に対する被測定磁場Btの角度を変数とすると、感度(ここでは、被測定磁場Btにおける2軸A1,A2にそれぞれ平行な成分の和)を最大にする変数の値は、ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθ(約109度)としたとき、((180-θ)/2)度となる。
【0029】
したがって、実施の形態1では、
図4に示すように、磁気共鳴部材1は、被測定磁場Btが、磁気共鳴部材1内のダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸A1~A4のうちの2軸A1,A2に対して、それぞれ略((180-θ)/2)度をなし、その4軸のうちの残りの2軸A3,A4に対して、それぞれ略90度をなすように配置されている。
【0030】
つまり、
図4に示すように、軸A1,A2の張る平面をP1とし、軸A3,A4の張る平面をP2とし、平面P1,P2の両方に垂直な平面をP3としたとき、被測定磁場Btの方向が平面P1,P3に対して略平行であり、かつ平面P2に対して略垂直となるように、磁気共鳴部材1は配置される。
【0031】
したがって、実施の形態1では、上述のマイクロ波は、上述の2軸A1,A2に対応する所定のディップ周波数を含む周波数成分を有する。
【0032】
実施の形態1では、被測定磁場Btのうちの対象軸A1,A2方向の成分の大きさは、それぞれ、Bt×cos((180-θ)/2)となり、軸A3,A4方向の成分の大きさは、0となる。したがって、実施の形態1での磁気共鳴部材1の感度は、基準感度に比べ、2×cos((180-θ)/2)倍(つまり、約1.63倍)となる。ここで、基準感度は、ダイヤモンド結晶の1軸のみに対して平行に被測定磁場Btを磁気共鳴部材1に印加し、その1軸の方向がN-V方向となっているNVセンタによる感度である。
【0033】
図1に戻り、演算処理装置11は、例えばコンピュータを備え、プログラムをコンピュータで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置11は、検出された光学的あるいは電気的な信号データを図示せぬ記憶装置(メモリーなど)に保存し、測定制御部21および演算部22として制御および演算動作を行う。
【0034】
測定制御部21は、高周波電源12を制御し、上述の検出装置(ここでは、照射装置4および受光装置5)により検出された物理的事象(ここでは蛍光の強度)の検出値を特定する。
【0035】
この実施の形態では、測定制御部21は、ODMRに基づき、所定の測定シーケンスに従って高周波電源12および照射装置4を制御し、受光装置5により検出された蛍光の検出光量を特定する。例えば、照射装置4は、レーザーダイオードなどを光源として備え、受光装置5は、フォトダイオードなどを受光素子として備え、測定制御部21は、受光素子の出力信号に対して増幅などを行って得られる受光装置5の出力信号に基づいて、上述の検出光量を特定する。
【0036】
演算部22は、測定制御部21によって得られ、記憶装置に保存されていた検出値に基づいて被測定磁場を演算する
【0037】
例えば、測定制御部21は、所定測定シーケンスで高周波電源12および照射装置4を制御して、上述の物理的事象の検出値を特定する。この実施の形態では、この測定シーケンスは、被測定磁場の周波数などに従って設定される。例えば、被測定磁場が直流磁場、比較的低速で単調増加する磁場、または比較的低速で単調減衰する磁場である場合には、この測定シーケンスには、ラムゼイパルスシーケンスが適用され、被測定磁場が比較的高周波数の交流磁場である場合には、この測定シーケンスには、スピンエコーパルスシーケンス(ハーンエコーシーケンスなど)が適用される。ただし、測定シーケンスは、これに限定されるものではない。例えば、被測定磁場が比較的低周波数の交流磁場である場合、被測定磁場の1周期において、複数回、ラムゼイパルスシーケンス(つまり、直流磁場の測定シーケンス)で、磁場測定を行い、それらの磁場測定の結果に基づいて、被測定磁場(強度、波形など)を特定するようにしてもよい。
【0038】
次に、実施の形態1に係る磁場測定装置の動作について説明する。
【0039】
まず、磁気センサ部10が、被測定磁場Btの方向に応じて上述のように磁気共鳴部材1が配置されるように配置される。
【0040】
次に、測定制御部21は、所定の測定シーケンスを実行し、磁気共鳴部材1の物理的事象の検出値(ここでは蛍光強度)を磁気センサ部10から取得し、演算部22は、その検出値に基づいて、測定位置の磁場(強度など)を特定する。その際、複数の対象軸による物理的事象(ここでは蛍光)の強度が合成されることで検出値が大きくなり、感度が高くなる。
【0041】
その測定シーケンスにおいて、測定制御部21は、所定のタイミングで、高周波電源12で、上述のように対象軸に対応するディップ周波数の周波数成分を含むマイクロ波の電流を高周波磁場発生器2に導通させ、高周波磁場発生器2にそのようなマイクロ波を磁気共鳴部材1に印加させる。
【0042】
以上のように、上記実施の形態1によれば、磁気共鳴部材1は、複数のダイヤモンド窒素-空孔中心を含むダイヤモンド結晶を有し、高周波磁場発生器2は、磁気共鳴部材1にマイクロ波の磁場を印加する。上述の複数のダイヤモンド窒素-空孔中心は、ダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの所定の複数の対象軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心を含み、上述の磁気共鳴部材1は、被測定磁場Btに対して、上述の所定の複数の対象軸の方向にそれぞれ配列しているダイヤモンド窒素-空孔中心による被測定磁場Btの感度を略最大とする向きに配置されている。
【0043】
具体的には、実施の形態1では、対象軸は、磁気共鳴部材1内のダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの2軸であり、磁気共鳴部材1は、ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθとしたときに、被測定磁場Btが対象軸の2軸に対してそれぞれ略((180-θ)/2)度をなし、その4軸のうちの残りの2軸に対して、それぞれ略90度をなすように配置されている。
【0044】
これにより、対象軸(実施の形態1では2軸)に対して最適な角度で被測定磁場Btが印加されるため、被測定磁場Btが良好な感度で検出される。
【0045】
実施の形態2.
【0046】
図5は、実施の形態2における被測定磁場Btの印加方向を説明する斜視図である。
【0047】
実施の形態2では、
図5に示すように、上述の対象軸が、上述の4軸A1~A4のうちの3軸A1,A2,A3とされ、ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθ(約109度)としたときに、磁気共鳴部材1内のダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸のうちの2軸A1,A2の間の中心を通る直線Lに対する被測定磁場Btの角度をαとし、このαを変数とすると、感度(ここでは、被測定磁場Btにおける3軸A1~A3にそれぞれ平行な成分の和)を最大にする変数の値は、arctan(tan(θ/2)/3)となる。
【0048】
したがって、実施の形態2では、磁気共鳴部材1は、被測定磁場Btが、(a)上述の2軸A1,A2に対して同一の角度をなし、かつ、(b)上述のαが略arctan(tan(θ/2)/3)となるように配置されている。
【0049】
つまり、
図5に示すように、軸A1,A2の張る平面をP1とし、軸A3,A4の張る平面をP2としたとき、被測定磁場Btの方向が、平面P2に対して略平行であり、かつ、平面P1に対して略角度αで交差するように、磁気共鳴部材1は配置される。
【0050】
したがって、実施の形態2では、上述のマイクロ波は、上述の3軸A1,A2,A3に対応する所定のディップ周波数を含む周波数成分を有する。
【0051】
実施の形態2では、被測定磁場Btのうちの対象軸A1,A2方向の成分の大きさは、それぞれ、Bt×cos(α)×cos(θ/2)となり、対象軸A3方向の成分の大きさは、Bt×cos(θ/2-α)となる。したがって、実施の形態2での磁気共鳴部材1の感度は、基準感度に比べ、(2×cos(α)×cos(θ/2)+cos(θ-α))倍(つまり、上述の角度αが約25.0度(=arctan(0.467))であるので、約1.92倍)となる。ここで、基準感度は、上述したものと同様である。
【0052】
なお、実施の形態2に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0053】
以上のように、上記実施の形態2によれば、対象軸が3軸とされ、その対象軸に対して最適な角度で被測定磁場Btが印加されるため、被測定磁場Btが良好な感度で検出される。
【0054】
実施の形態3.
【0055】
図6は、実施の形態3における被測定磁場Btの印加方向を説明する斜視図である。
【0056】
実施の形態3では、上述の対象軸を
図6における上述の4軸A1~A4のすべてとし、対象軸A1~A4のうちの1つの軸に対する被測定磁場Btの角度を変数とすると、感度(ここでは、被測定磁場Btにおける4軸A1~A4にそれぞれ平行な成分の和)を最大にする変数の値は、ダイヤモンド結晶における炭素原子の結合角をθ(約109度)としたとき、(θ/2)度となる。
【0057】
したがって、実施の形態3では、
図6に示すように、磁気共鳴部材1は、被測定磁場Btが、磁気共鳴部材1内のダイヤモンド結晶における炭素原子の4つの結合方向を示す4軸に対して、それぞれ略(θ/2)度をなすように配置されている。
【0058】
つまり、
図6に示すように、軸A1,A2の張る平面をP1とし、軸A3,A4の張る平面をP2とし、平面P1,P2の両方に垂直な平面をP3としたとき、被測定磁場Btの方向が、平面P1,P2に対して略平行であり、かつ、平面P3に対して略垂直となるように、磁気共鳴部材1は配置される。
【0059】
したがって、実施の形態3では、上述のマイクロ波は、上述の4軸A1~A4に対応する所定のディップ周波数を含む周波数成分を有する。
【0060】
実施の形態3では、被測定磁場Btのうちの軸A1,A2,A3,A4の方向の成分の大きさは、それぞれ、Bt×cos(θ/2)となる。したがって、実施の形態3での磁気共鳴部材1の感度は、基準感度に比べ、(4×cos(θ/2))倍(つまり、約2.32倍)となる。ここで、基準感度は、上述したものと同様である。
【0061】
なお、実施の形態3に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0062】
以上のように、上記実施の形態3によれば、対象軸が4軸とされ、その対象軸に対して最適な角度で被測定磁場Btが印加されるため、被測定磁場Btが良好な感度で検出される。
【0063】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、例えば、磁場測定装置および磁場測定方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 磁気共鳴部材
2 高周波磁場発生器
3 静磁場発生部
4 照射装置(検出装置の一例の一部)
5 受光装置(検出装置の一例の一部)
12 高周波電源
21 測定制御部
22 演算部