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特許7465471グラフェンナノリボン、及びその製造方法、電子装置、並びにグラフェンナノリボン前駆体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】グラフェンナノリボン、及びその製造方法、電子装置、並びにグラフェンナノリボン前駆体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/182 20170101AFI20240404BHJP
   C01B 32/184 20170101ALI20240404BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C01B32/182
C01B32/184
H01L21/203 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021028353
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129618
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-06-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「グラフェンナノリボンの合成・評価とシミュレーション」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山口 淳一
(72)【発明者】
【氏名】林 宏暢
(72)【発明者】
【氏名】山田 容子
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-534535(JP,A)
【文献】特開2014-218386(JP,A)
【文献】特開2019-156791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/182
C01B 32/184
H01L 21/203
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)~(6)のいずれかで表されることを特徴とするグラフェンナノリボン。
【化1】
【化2】
ただし、前記構造式(1)~(6)中、mは整数を表す。
【請求項2】
不変量が0のトポロジー位相を有するセグメントと、Z不変量が1のトポロジー位相を有するセグメントとが交互に配列したヘテロ接合構造を有し、
前記構造式(1)~(3)のいずれかで表される請求項1に記載のグラフェンナノリボン。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される化合物を重合させることを特徴とするグラフェンナノリボンの製造方法。
【化3】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物を金属基板上に堆積し、基板加熱により前記化合物を重合させる工程を含む請求項3に記載のグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項5】
請求項1から2のいずれかに記載のグラフェンナノリボンと、
前記グラフェンナノリボンに接触して設けられた一対の電極と、を有することを特徴とする電子装置。
【請求項6】
一般式(1)で表されることを特徴とするグラフェンナノリボン前駆体。
【化4】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンナノリボン、及びその製造方法、電子装置、並びにグラフェンナノリボン前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、C原子が蜂の巣格子状に互いに強固に共有結合した二次元のシート構造の材料である。グラフェンは室温においても極めて高い電子移動度及びホール移動度を有し、グラフェンはバリスティック伝導及び半整数量子ホール効果等の特異な電子物性を示す。これらグラフェンの特徴的な電子的機能を活かしたエレクトロニクスデバイスの研究開発が近年盛んに行われている。
【0003】
ナノサイズのグラフェンとして、幅が数nmのリボン形状のグラフェン、所謂、グラフェンナノリボン(GNR)が広く知られている。GNRの物性は、エッジ構造やリボン幅の大きさによって大きく変化する。
【0004】
GNRの長さ方向に沿った両端のエッジ構造には、C原子が2原子周期で配列したアームチェア型であるアームチェアエッジ、及びジグザク型であるジグザグエッジの2種類が存在する。前記アームチェアエッジを有するアームチェアエッジGNR(AGNR)は、量子閉じ込め効果及びエッジ効果によって有限のバンドギャップが開き、AGNRは半導体的な性質を示す。一方、前記ジグザクエッジを有するジグザグエッジGNR(ZGNR)は、磁性や金属的な性質を示す。
【0005】
従来のGNRの作製技術としては、電子線リソグラフィ・エッチングによりグラフェンシートを裁断するトップダウン的手法(例えば、非特許文献1)、カーボンナノチューブを化学的に切開する方法(例えば、非特許文献2)、有機溶媒に溶解したグラファイトフレークからソノケミカル法により形成する方法(例えば、非特許文献3)等が提案されている。
【0006】
一方、予め有機化学合成により作製した前駆体分子を超高真空下で金属結晶基板に蒸着し、基板加熱により金属表面上で前駆体分子どうしを重合反応及び環化することにより、リボン幅やアームチェアエッジ構造が原子レベルで制御されたAGNRをボトムアップ的に形成する方法が提案されている(例えば、非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】M.Y.Han et al.,Phys.Rev.Lett.98,206805(2007)
【文献】D.V.Kosynkin et al.,Nature 458,872(2009)
【文献】X.Li et al.,Science 319,1229(2008)
【文献】J.Cai et al.,Nature 466,470(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、安定した物性を示すGNRを作製するには、リボン幅及びエッジ構造の制御が非常に重要である。前記トップダウン法では、原子レベルでのリボン幅及びエッジ構造の制御は容易ではなく、安定した物性を示すGNRを得ることが困難である。
【0009】
また、従来のGNRは、リボン幅に応じてバンドギャップの値が一義的に決まり、GNRのバンドギャップとしては、離散的に存在していた。そのため、バンドギャップの値の選択自由度が低かったという問題がある。
【0010】
本発明は、バンドギャップの値の選択自由度を高めることができるグラフェンナノリボン及びその製造方法、並びにグラフェンナノリボン前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様では、本件で開示するグラフェンナノリボンは、下記構造式(1)~(6)のいずれかで表される。
【化1】
【化2】
ただし、前記構造式(1)~(6)中、mは整数を表す。
【0012】
1つの態様では、本件で開示するグラフェンナノリボンの製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物を重合させる。
【化3】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。
【0013】
1つの態様では、本件で開示する電子装置は、前記構造式(1)~(6)のいずれかで表されるグラフェンナノリボンと、前記グラフェンナノリボンに接触して設けられた一対の電極と、を有する。
【0014】
1つの態様では、本件で開示するグラフェンナノリボン前駆体は、下記一般式(1)で表される。
【化4】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。
【発明の効果】
【0015】
1つの側面として、バンドギャップの値の選択自由度を高めることができるグラフェンナノリボン、及びその製造方法、電子装置、並びにグラフェンナノリボン前駆体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、7-AGNRの一般式を示した図である。
図2図2は、実施形態1で用いたグラフェンナノリボン前駆体分子(a)、前記グラフェンナノリボン前駆体分子の脱Br化及びC-C結合反応により形成される中間体ポリマー(b)、並びに前記中間体ポリマーの脱H化及び環化反応により形成されるグラフェンナノリボン9/13-AGNR(c)を表す構造式である。
図3図3は、図2のグラフェンナノリボン9/13-AGNRの第一原理シミュレーションで計算されたバンドの分散状態を表す図である。
図4図4は、実施形態2で用いたグラフェンナノリボン前駆体分子(a)、前記グラフェンナノリボン前駆体分子の脱Br化及びC-C結合反応により形成される中間体ポリマー(b)、並びに前記中間体ポリマーの脱H化及び環化反応により形成されるグラフェンナノリボン11/13-AGNR(c)を表す構造式である。
図5図5は、図4のグラフェンナノリボン11/13-AGNRの第一原理シミュレーションで計算されたバンドの分散状態を表す図である。
図6図6は、実施形態3で用いたグラフェンナノリボン前駆体分子(a)、前記グラフェンナノリボン前駆体分子の脱Br化及びC-C結合反応により形成される中間体ポリマー(b)、並びに前記中間体ポリマーの脱H化及び環化反応により形成されるグラフェンナノリボン13/17-AGNR(c)を表す構造式である。
図7図7は、図6のグラフェンナノリボン13/17-AGNRの第一原理シミュレーションで計算されたバンドの分散状態を表す図である。
図8図8は、実施形態4で用いたグラフェンナノリボン前駆体分子(a)、前記グラフェンナノリボン前駆体分子の脱Br化及びC-C結合反応により形成される中間体ポリマー(b)、並びに前記中間体ポリマーの脱H化及び環化反応により形成されるグラフェンナノリボン9/17-AGNR(c)を表す構造式である。
図9図9は、実施形態5で用いたグラフェンナノリボン前駆体分子(a)、前記グラフェンナノリボン前駆体分子の脱Br化及びC-C結合反応により形成される中間体ポリマー(b)、並びに前記中間体ポリマーの脱H化及び環化反応により形成されるグラフェンナノリボン11/17-AGNR(c)を表す構造式である。
図10図10は、実施形態6で用いたグラフェンナノリボン前駆体分子(a)、前記グラフェンナノリボン前駆体分子の脱Br化及びC-C結合反応により形成される中間体ポリマー(b)、並びに前記中間体ポリマーの脱H化及び環化反応により形成されるグラフェンナノリボン15/17-AGNR(c)を表す構造式である。
図11A図11Aは、実施形態7における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す上面図(その1)である。
図11B図11Bは、実施形態7における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す上面図(その2)である。
図11C図11Cは、実施形態7における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す上面図(その3)である。
図11D図11Dは、実施形態7における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す上面図(その4)である。
図11E図11Eは、実施形態7における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す上面図(その5)である。
図11F図11Fは、図11Dの切断線I-I’における切断面を示す断面図である。
図11G図11Gは、図11Eの切断線I-I’における切断面を示す断面図である。
図12A図12Aは、実施形態8における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その1)である。
図12B図12Bは、実施形態8における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その2)である。
図12C図12Cは、実施形態8における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その3)である。
図12D図12Dは、実施形態8における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その4)である。
図12E図12Eは、実施形態8における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その5)である。
図13A図13Aは、実施形態9における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その1)である。
図13B図13Bは、実施形態9における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その2)である。
図13C図13Cは、実施形態9における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その3)である。
図13D図13Dは、実施形態9における電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す模式図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
グラフェンはπ電子共役が二次元に拡張しているため、バンドギャップがゼロに等しく、金属的な性質(ギャップレス半導体)を示す。しかし、グラフェンのサイズがナノスケールになると、シート構造を成すバルクのC原子の個数とエッジを成すC原子の個数とが同等になり、その形状やエッジの影響を強く受けるため、バルクとは大きく異なる物性を示すようになる。
【0018】
一般に、リボン幅方向に存在するC原子の数が「N」であるAGNRは「N-AGNR」と呼ばれる。例えば、リボン幅方向に六員環が3つ配列したアントラセンを基本ユニットとし、前記基本ユニットがリボン長さ方向に縮合しているAGNRは7-AGNRと呼ばれる。図1に、7-AGNRの一般式を示す。基本ユニットであるアントラセンと隣接するアントラセンどうしを繋ぐリボン幅方向のC-C結合とにおいては、リボン幅方向に存在するC原子は、「7つ」となる。
【0019】
AGNRは、Nの値によって、N=3p、3p+1、3p+2(ここで、pは正の整数)の3つのサブファミリーに分類されることがある。理論計算によれば、同じサブファミリー内でのN-AGNRのバンドギャップの大きさEは、Nの値の増加、すなわち、リボン幅の増加に伴って減少することが示されている(例えば、L.Yang et al.,Phys.Rev.Lett.99,186801(2007))。また、各サブファミリー間で、EにはE 3p+1>E 3p>E 3p+2の大小関係がある。
【0020】
上述したように、安定した物性を示すGNRを作製するには、リボン幅及びエッジ構造の制御が非常に重要である。リボン幅及びエッジ構造が原子レベルで制御された高品質なGNRを形成するには、J.Cai et al.,Nature 466,470(2010)(非特許文献4)で示されるような前駆体分子を金属結晶面上で重合反応及び環化するボトムアップ法が有効である。
【0021】
前記ボトムアップ法の技術開示以降、各種デバイス応用に向けてGNRのバンドギャップエンジニアリングが試みられている。
これまで、GNRのバンドギャップ変調は、主にAGNRのリボン幅を変えることで実現されてきた。リボン幅の異なるAGNRを合成するために、様々な前駆体分子が提案されているものの、その種類は10種ほどに留まっている。
【0022】
前駆体分子設計の観点から、AGNRのリボン幅の変化のみによるバンドギャップ変調には限りがあり、リボン幅の他に、新たなリボン構造を利用したバンドギャップ変調の実現が求められている。
【0023】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、従来のリボン幅が揃ったGNRにおいては、リボン幅に応じてバンドギャップの値が一義的に決まり、GNRのバンドギャップの値としては、離散的に存在していたという問題がある。
これに対し、前記構造式(1)~(6)のいずれかで表されるGNRとすることで、GNRのエッジに周期配列構造を導入することができ、リボン幅の異なるN-AGNRセグメントがリボン長さ方向に周期的にヘテロ接合した構造をとることにより、離散的に存在していたバンドギャップの値と値との間の領域にバンドギャップの値を有するGNRを得ることができ、バンドギャップの値の選択自由度を高めることができることを見出し、開示の技術の完成に至った。
なお、ここで言う「ヘテロ接合」とは、リボン幅の異なるN-AGNRセグメントがsp結合で結晶構造として繋がっている状態を意味する。以下、ヘテロ接合構造を有するグラフェンナノリボンを「グラフェンナノリボン」、又は「ヘテロ接合GNR」と称することもある。
【0024】
(グラフェンナノリボン)
開示のグラフェンナノリボンは、構造式(1)~(6)のいずれかで表される。
【化5】
【化6】
ただし、前記構造式(1)~(6)中、mは整数を表す。
前記mとしては、特に制限はなく、所望のグラフェンナノリボンの長さなどの目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
前記グラフェンナノリボンの中でも、Z不変量が0のトポロジー位相を有するセグメントと、Z不変量が1のトポロジー位相を有するセグメントとが交互に配列したヘテロ接合構造を有し、前記構造式(1)~(3)のいずれかで表されるグラフェンナノリボンが、トポロジカルバンドギャップを有するトポロジカル絶縁体として利用可能である点で、好ましい。
【0026】
最近、Z不変量が0の7-AGNRセグメントと、Z不変量が1の9-AGNRセグメントとがヘテロ接合した7/9-AGNRをボトムアップ法により合成した例が報告されている(例えば、D.J.Rizzo et al.,Nature 560,204(2018))。
不変量が0と1のトポロジー位相を持つAGNRが隣り合うように接合されると、AGNRのバンドギャップ内に新たなトポロジカルバンドが出現するため、バンドギャップの変調が可能になる。前記7/9-AGNRのように、AGNRのトポロジカルエッジ構造を利用したバンドギャップエンジニアリングの例は少ない。そのため、Z不変量が0と1のN-AGNRが隣り合ってヘテロ接合したAGNR、及び当該AGNRを合成し得る新規の前駆体分子の提案が求められる。
【0027】
ここで、「Z不変量」とは、トポロジカル不変量の一種である。T.Cao et al.,Rhys.Rev.Lett.119,076401(2017)によれば、AGNRのトポロジー位相は、Z不変量(0又は1)と呼ばれる物理量によって特徴づけられることが示されている。
グラフェンナノリボンが、Z不変量が0のトポロジー位相を有するセグメントと、Z不変量が1のトポロジー位相を有するセグメントとが交互に配列したヘテロ接合構造を有し、エッジ構造に周期的トポロジーを有することにより、トポロジカルバンドギャップを有するトポロジカル絶縁体としての利用が期待される。
量子コンピューティングでは、エラー率を下げるためにマヨラナ粒子を用いるトポロジカル量子コンピューティングの手法がある。マヨラナ粒子の発現のためにトポロジカルバンドギャップを有するトポロジカル絶縁体の量子コンピューティングへの応用が期待される。
【0028】
前記Z不変量は、AGNRセグメントの形状、及びC原子の数「N」により、計算式により求めることができる(T.Cao et al.,Rhys.Rev.Lett.119,076401(2017)参照)。
開示のグラフェンナノリボンのように、各AGNRセグメントのリボン幅方向に存在するC原子の数「N」が奇数である場合、前記AGNRセグメントがリボン幅方向に凸であれば(下記構造式(i))、前記Z不変量は、下記計算式(i)により求めることができる。また、前記AGNRセグメントがリボン幅方向に凹であれば(下記構造式(ii))、前記Z不変量は、下記計算式(ii)により求めることができる。
【0029】
【化7】
【0030】
【化8】
【0031】
(グラフェンナノリボン前駆体)
開示のグラフェンナノリボン前駆体は、下記一般式(1)で表される。
【0032】
【化9】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。
【0033】
前記一般式(1)中、n及びnとしては、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表す。したがって、(n、n)の組み合わせとしては、(1、2)、(1、3)及び(2、3)の3通りの組み合わせがある。これらの組み合わせであると、ボトムアップ法でポリマー化することができる。
前記一般式(1)中、前記Xとしては、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表す。これらの中でも、X=Br、又はIの場合が好ましい。前記Yとしては、H又はCHを表す。
【0034】
前記一般式(1)で表される化合物は、ジハロベンゼン骨格にベンゼン環又はアセンを2つ導入したグラフェンナノリボン前駆体であり、六員環数nとnとを異なる数にすることにより、周期的なエッジ構造を有するヘテロ接合AGNRを合成することができる。
前記Yとして、Hに代えてCHを導入することにより、エッジ構造の異なるヘテロ接合AGNRを合成することができる。
【0035】
ここで、図面を参照して、開示のグラフェンナノリボンの一例について説明する。
図2は、前記一般式(1)で表される化合物において、n=1、n=2、X=Br、及びY=Hである化合物をグラフェンナノリボン前駆体分子(a)、前記グラフェンナノリボン前駆体分子の脱Br化及びC-C結合反応により形成される中間体ポリマー(b)、並びに前記中間体ポリマーの脱H化及び環化反応により形成されるグラフェンナノリボン9/13-AGNR(c)を表す構造式である。図2中、矢印は前記グラフェンナノリボン前駆体分子を金属結晶面上で重合反応及び環化したことを意味する。
図2(c)のグラフェンナノリボン9/13-AGNRにおいては、前記一般式(1)におけるX及びYが脱離し、隣接する前記一般式(1)どうしが連結してグラフェンナノリボン構造をなし、前記構造式(1)により表される。
前記一般式(1)におけるXを有する芳香族六員環は、グラフェンナノリボンの長さ方向の中心軸に相当し、n及びnの縮合環構造をとり得る芳香族六員環部分が、グラフェンナノリボンの幅方向に延びる構造部分に相当する。
【0036】
開示のグラフェンナノリボンは、前記一般式(1)中のn及びnが互いに異なり同一ではないことで、リボン幅の異なるN-AGNRセグメントがリボン長さ方向に周期的にヘテロ接合した構造をとる。開示のグラフェンナノリボンは、N/M-AGNR(ただし、N及びMは、互いに異なり同一ではない整数を表す)で表されるヘテロ接合構造をとる。
例えば、前記構造式(1)で表される、図2(c)の9/13-AGNRにおいては、C原子数Nが「9」である9-AGNRと、C原子数が「13」である13-AGNRとがヘテロ接合している。
9-AGNRのC原子の数え方としては、リボン幅方向に六員環が4つ配列したテトラセンと隣接するテトラセンどうしを繋ぐリボン幅方向のC-C結合とにおいて、リボン幅方向に存在するC原子数は、「9」となる。
また、13-AGNRのC原子の数え方としては、リボン幅方向に六員環が6つ配列したヘキサセンと隣接するヘキサセンどうしを繋ぐリボン幅方向のC-C結合とにおいて、リボン幅方向に存在するC原子数は、「13」となる。
【0037】
また、前記Z不変量について、図2(c)の9/13-AGNRにおいて、9-AGNRセグメント、及び13-AGNRセグメントは、いずれもC原子数「N」が奇数であり、リボン幅方向に凸である(前記構造式(i))。そのため、各AGNRセグメントのZ不変量は、前記計算式(i)により求めることができ、9-AGNRセグメントのZ不変量が1、13-AGNRセグメントのZ不変量が0と算出される。
なお、前記構造式(1)~(6)で表されるグラフェンナノリボンの各セグメントのZ不変量を、図2(c)、図4(c)、図6(c)、図8(c)、図9(c)、及び図10(c)の図中に示した。
【0038】
(グラフェンナノリボンの製造方法)
開示のグラフェンナノリボンの製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物を重合させる。
【化10】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。
【0039】
重合とは、ボトムアップ法によりグラフェンナノリボンを作製することを意味する。
前記グラフェンナノリボンの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記一般式(1)で表される化合物を金属基板上に堆積し、基板加熱により前記化合物を重合させる工程を含むことが好ましい。具体的には、予め有機化学合成により作製した前記一般式(1)で表される化合物(前駆体分子)を超高真空下で金属結晶基板に蒸着し、150℃~250℃の基板加熱により前記一般式(1)中のXが脱離して分子同士のC-C結合反応による重合反応(ポリマー化)が起き、次いで300℃~400℃の基板加熱により前記一般式(1)中の水素が脱離して環化反応が起きて、グラフェンナノリボンを作製することができる。
【0040】
前記金属基板としては、金属結晶面を有する基板であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単結晶基板、金属薄膜基板などが挙げられる。
前記単結晶基板としては、Au(111)単結晶基板、Cu(111)単結晶基板、Ni(111)単結晶基板、Rh(111)単結晶基板、Pd(111)単結晶基板、Ag(111)単結晶基板、Ir(111)単結晶基板、及びPt(111)単結晶基板などが挙げられる。
また、形成されるGNRの指向性を制御するために、数nm幅のステップアンドテラス周期構造を有する前記単結晶の高指数面基板(例えば、Au(788)基板)を利用することもできる。
【0041】
前記金属薄膜基板としては、例えば、マイカ、サファイア、MgOなどの絶縁基板上に前記単結晶基板として用いられる金属を堆積して形成した金属薄膜基板を利用することができる。
また、前記金属薄膜基板上のGNRの位置や指向性を制御するために、金属薄膜を電子線リソグラフィ・エッチング加工により数nm幅の細線状にパターンニングすることもできる。
金属性の結晶基板の他に、IV族半導体、III-V族化合物半導体、II-VI族化合物半導体、遷移金属酸化物半導体などの半導体性の結晶基板を用いることもできる。
【0042】
(電子装置)
開示の電子装置は、前記グラフェンナノリボンと、前記グラフェンナノリボンに接触して設けられた一対の電極と、を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
前記電子装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記グラフェンナノリボンをチャネルとして用いたトップゲート型電界効果トランジスタ(FET)、前記グラフェンナノリボンネットワーク膜を他の絶縁基板に転写して製造される薄膜トランジスタ(TFT)などが挙げられる。前記TFTとしては、例えば、ボトムゲート・トップコンタクト型TFT、及びトップゲート・トップコンタクト型TFTなどが挙げられる。
【0043】
前記電子装置の製造方法は、前記グラフェンナノリボンに接触する一対の電極を形成する工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記電子装置の製造方法としては、前記電子装置が、電界効果トランジスタであり、前記グラフェンナノリボンを、絶縁基板上にパターニング加工した金属層上に形成する工程と、前記グラフェンナノリボンに接触する一対の電極を形成する工程と、前記グラフェンナノリボン上に絶縁層及びゲート電極を順次形成する工程と、前記絶縁層及び前記ゲート電極を形成した後に前記グラフェンナノリボンの下層の前記金属層を除去する工程と、を含むことが好ましい。
また、前記電子装置の製造方法としては、前記電子装置が、薄膜トランジスタであり、前記グラフェンナノリボンが互いに接触したネットワーク膜を絶縁基板に転写する工程と、前記ネットワーク膜に接触する一対の電極を形成する工程と、前記ネットワーク膜に絶縁層を介して接触するゲート電極を形成する工程と、を含むことが好ましい。
【0044】
開示の技術によるグラフェンナノリボン、及びその製造方法、電子装置、並びにグラフェンナノリボン前駆体は、ナノエレクトロニクスやオプトエレクトロニクス分野において、バンドギャップエンジニアリングを利用するデバイス製造産業に利用可能である。
【0045】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面において、図示の便宜上、相対的に正確な大きさや厚みを示していない構成部材がある。
【0046】
<実施形態1>
本実施形態1では、一例として、前記一般式(1)において、n=1、n=2、X=Br、Y=Hである化合物[図2(a)]をグラフェンナノリボン前駆体分子として用いたグラフェンナノリボンの製造方法について説明する。
【0047】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図2(a)]は、以下の方法によって合成することができる。使用した反応条件や溶媒は一例であって、他の反応条件や溶媒を用いて実施することも可能である。
出発化合物である1,4-ジブロモ-2,5-ジヨードベンゼン(1,4-dibromo-2,5-diiodobenzene)を2つの連続した鈴木カップリング反応にかける。1,4-dibromo-2,5-diiodobenzeneと2-ナフタレンボロン酸(2-Naphthylboronic acid)を1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)に溶解させる。
次いで、触媒のジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)[PdCl(PPh]を加えて100℃で撹拌する。室温に冷却後、分液操作及びカラムクロマトグラフィーを用いた精製作業を行うことで第一のIがモノカップリングした生成物2-(2,5-ジブロモ-4-ヨードフェニル)ナフタレン[2-(2,5-dibromo-4-iodophenyl)naphthalene]が得られる。
次いで、この生成物の第二のIを、同様の鈴木カップリング反応により、フェニルボロン酸(Phenylboronic acid)とカップリングさせた後、カラムクロマトグラフィーによって精製して前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図2(a)]が合成される。
【0048】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子の合成では、所望とするグラフェンナノリボンのヘテロ接合構造や電子物性(バンドギャップ、仕事関数、及び電子親和力)に応じて、反応化合物の骨格や修飾基を適宜選択すればよい。
【0049】
前記金属基板としてAu(111)単結晶基板を用いて、前記金属基板の金属結晶面上にグラフェンナノリボンをボトムアップ法により形成した。
先ず、前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図2(a)]をAu(111)基板に蒸着する前に、Au表面上の有機系汚染物質の除去、並びに(111)結晶面の平坦性を向上させることを目的に、Arイオンスパッタと超高真空下でのアニールを1セットとする表面清浄処理を複数サイクル実施した。
表面清浄処理は1セットあたり、Arイオンスパッタはイオン加速電圧を1.0kV、イオン電流を10μAに設定して1分間行い、アニールは5×10-7 Pa以下の真空度を保持しつつ400℃~500℃で10分間行った。本実施形態1では3サイクル実施した。
【0050】
前記表面清浄処理を施したAu(111)基板を大気中に曝すことなく、超高真空の真空槽内でAu(111)基板の表面にGNRをin situ形成した。
基本真空度が5×10-8 Pa以下の超高真空下にて、前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図2(a)]をK-cell型エバポレーターを用いて約140℃に加熱及び昇華し、室温(約25℃)に保持したAu(111)基板上に堆積した。
蒸着速度は0.05nm/min~0.1nm/min、蒸着膜厚は0.5ML~1MLに設定した(ML:monolayer,1ML=約0.25nm)。
【0051】
次いで、前記Au(111)基板を室温から400℃まで1℃/min~5℃/minの昇温速度で昇温した。
150℃~250℃のAu(111)基板加熱により前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図2(a)]は、脱Br化及びC-C結合反応によりポリマー化し[図2(b)]、さらに300℃~400℃で脱水素化及び環化反応により、前記構造式(1)により表される9/13-AGNRのヘテロ接合GNRが形成される[図2(c)]。
【0052】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図2(a)]の構造を反映し、最終的に合成されるヘテロ接合AGNR[図2(c)]は、Z不変量が1のトポロジー位相を有する9-AGNRセグメントとZ不変量が0のトポロジー位相を有する13-AGNRセグメントが接合したトポロジカルエッジ構造を持つ。
【0053】
図3は、9/13-AGNRのヘテロ接合GNRの第一原理シミュレーション(密度汎関数法/一般化勾配近似:DFT-GGA)で計算されたバンドの分散状態を表す図である。バンドギャップは、E=0.97eVという結果が得られた。
【0054】
<実施形態2>
本実施形態2では、一例として、前記実施形態1で説明したボトムアップ法により、前記一般式(1)において、n=1、n=2、X=Br、Y=CHである化合物[図4(a)]をグラフェンナノリボン前駆体分子として用いたグラフェンナノリボンの製造方法について説明する。
【0055】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図4(a)]は、以下の方法によって合成することができる。使用した反応条件や溶媒は一例であって、他の反応条件や溶媒を用いて実施することも可能である。
実施形態1で示した生成物2-(2,5-ジブロモ-4-ヨードフェニル)ナフタレン[2-(2,5-dibromo-4-iodophenyl)naphthalene]と、第二のIの鈴木カップリング反応として、3,4-ジメチルフェニルボロン酸(3,4-dimethylphenylboronic acid)をカップリングさせた後、分液操作及びカラムクロマトグラフィーによって精製することで前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図4(a)]が合成される。
【0056】
前記実施形態1と同様にして、表面処理を施したAu(111)基板上に前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図4(a)]を蒸着した。前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図4(a)]を、約140℃に加熱及び昇華し、室温に保持したAu(111)基板上に堆積した。
150℃~250℃のAu(111)基板加熱により前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図4(a)]は、脱Br化及びC-C結合反応によりポリマー化し[図4(b)]、さらに300℃~400℃で脱水素化及び環化反応により、前記構造式(2)により表される11/13-AGNRのヘテロ接合GNRが形成される[図4(c)]。
【0057】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図4(a)]の構造を反映し、最終的に合成されるヘテロ接合AGNR[図4(c)]は、Z不変量が1のトポロジー位相を有する11-AGNRセグメントとZ不変量が0のトポロジー位相を有する13-AGNRセグメントが接合したトポロジカルエッジ構造を持つ。
【0058】
図5は、11/13-AGNRのヘテロ接合GNRの第一原理シミュレーション(密度汎関数法/一般化勾配近似:DFT-GGA)で計算されたバンドの分散状態を表す図である。バンドギャップは、E=1.01eVという結果が得られた。
【0059】
<実施形態3>
本実施形態3では、一例として、前記実施形態1で説明したボトムアップ法により、前記一般式(1)において、n=2、n=3、X=Br、Y=Hであるグラフェンナノリボン前駆体分子[図6(a)]を用いたグラフェンナノリボンの製造方法について説明する。
【0060】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図6(a)]は、以下の方法によって合成することができる。使用した反応条件や溶媒は一例であって、他の反応条件や溶媒を用いて実施することも可能である。
実施形態1で示した生成物2-(2,5-ジブロモ-4-ヨードフェニル)ナフタレン[2-(2,5-dibromo-4-iodophenyl)naphthalene]と、第二のIの鈴木カップリング反応として、2-アントラセンボロン酸(2-Anthraceneboronic acid)をカップリングさせた後、分液操作及びカラムクロマトグラフィーによって精製することで前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図6(a)]が合成される。
【0061】
前記実施形態1と同様にして、表面処理を施したAu(111)基板上に前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図6(a)]を蒸着した。前駆体分子は、六員環数が増加するにつれて、その昇華温度は高くなる。前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図6(a)]を、約180℃に加熱及び昇華し、室温に保持したAu(111)基板上に堆積した。
150℃~250℃のAu(111)基板加熱により前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図6(a)]は、脱Br化及びC-C結合反応によりポリマー化し[図6(b)]、さらに300℃~400℃で脱水素化及び環化反応により、前記構造式(3)により表される13/17-AGNRのヘテロ接合GNRが形成される[図6(c)]。
【0062】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図6(a)]の構造を反映し、最終的に合成されるヘテロ接合AGNR[図6(c)]は、Z不変量が0のトポロジー位相を有する13-AGNRセグメントとZ不変量が1のトポロジー位相を有する17-AGNRセグメントが接合したトポロジカルエッジ構造を持つ。
【0063】
図7は、13/17-AGNRのヘテロ接合GNRの第一原理シミュレーション(密度汎関数法/一般化勾配近似:DFT-GGA)で計算されたバンドの分散状態を表す図である。バンドギャップは、E=0.40eVという結果が得られた。
【0064】
<実施形態4>
本実施形態4では、一例として、前記実施形態1で説明したボトムアップ法により、前記一般式(1)において、n=1、n=3、X=Br、Y=Hであるグラフェンナノリボン前駆体分子[図8(a)]を用いたグラフェンナノリボンの製造方法について説明する。
【0065】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図8(a)]は、以下の方法によって合成することができる。使用した反応条件や溶媒は一例であって、他の反応条件や溶媒を用いて実施することも可能である。
出発化合物である1,4-ジブロモ-2,5-ジヨードベンゼン(1,4-dibromo-2,5-diiodobenzene)を2つの連続した鈴木カップリング反応にかける。1,4-dibromo-2,5-diiodobenzeneと2-アントラセンボロン酸(2-Anthraceneboronic acid)を1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)に溶解させる。
次いで、触媒のジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)[PdCl(PPh]を加えて100℃で撹拌する。室温に冷却後、分液操作及びカラムクロマトグラフィーを用いた精製作業を行うことで第一のIがモノカップリングした生成物2-(2,5-ジブロモ-4-ヨードフェニル)アントラセン[2-(2,5-dibromo-4-iodophenyl)anthracene]が得られる。
次いで、この生成物の第二のIを、同様の鈴木カップリング反応により、フェニルボロン酸(Phenylboronic acid)とカップリングさせた後、カラムクロマトグラフィーによって精製して前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図8(a)]が合成される。
【0066】
前記実施形態1と同様にして、表面処理を施したAu(111)基板上に前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図8(a)]を蒸着した。前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図8(a)]は、約160℃に加熱及び昇華し、室温に保持したAu(111)基板上に堆積した。
150℃~250℃のAu(111)基板加熱により前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図8(a)]は、脱Br化及びC-C結合反応によりポリマー化し[図8(b)]、さらに300℃~400℃で脱水素化及び環化反応により、前記構造式(4)により表される9/17-AGNRのヘテロ接合GNRが形成される[図8(c)]。
【0067】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図8(a)]の構造を反映し、最終的に合成されるヘテロ接合AGNR[図8(c)]は、Z不変量が1のトポロジー位相を有する9-AGNRセグメントとZ不変量が1のトポロジー位相を有する17-AGNRセグメントが接合した周期的なエッジ構造を持つ。
【0068】
<実施形態5>
本実施形態5では、一例として、前記実施形態1で説明したボトムアップ法により、前記一般式(1)において、n=1、n=3、X=Br、Y=CHである化合物[図9(a)]をグラフェンナノリボン前駆体分子として用いたグラフェンナノリボンの製造方法について説明する。
【0069】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図9(a)]は、以下の方法によって合成することができる。使用した反応条件や溶媒は一例であって、他の反応条件や溶媒を用いて実施することも可能である。
実施形態4で示した生成物2-(2,5-ジブロモ-4-ヨードフェニル)アントラセン[2-(2,5-dibromo-4-iodophenyl)anthracene]と、第二のIの鈴木カップリング反応として、3,4-ジメチルフェニルボロン酸(3,4-dimethylphenylboronic acid)をカップリングさせた後、分液操作及びカラムクロマトグラフィーによって精製することで前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図9(a)]が合成される。
【0070】
前記実施形態1と同様にして、表面処理を施したAu(111)基板上に前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図9(a)]を蒸着した。前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図9(a)]を、約160℃に加熱及び昇華し、室温に保持したAu(111)基板上に堆積した。
150℃~250℃のAu(111)基板加熱により前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図9(a)]は、脱Br化及びC-C結合反応によりポリマー化し[図9(b)]、さらに300℃~400℃で脱水素化及び環化反応により、前記構造式(5)により表される11/17-AGNRのヘテロ接合GNRが形成される[図9(c)]。
【0071】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図9(a)]の構造を反映し、最終的に合成されるヘテロ接合AGNR[図9(c)]は、Z不変量が1のトポロジー位相を有する11-AGNRセグメントとZ不変量が1のトポロジー位相を有する17-AGNRセグメントが接合した周期的なエッジ構造を持つ。
【0072】
<実施形態6>
本実施形態6では、一例として、前記実施形態1で説明したボトムアップ法により、前記一般式(1)において、n=2、n=3、X=Br、Y=CHである化合物[図10(a)]をグラフェンナノリボン前駆体分子として用いたグラフェンナノリボンの製造方法について説明する。
【0073】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図10(a)]は、以下の方法によって合成することができる。使用した反応条件や溶媒は一例であって、他の反応条件や溶媒を用いて実施することも可能である。
実施形態4で示した生成物2-(2,5-ジブロモ-4-ヨードフェニル)アントラセン[2-(2,5-dibromo-4-iodophenyl)anthracene]と、第二のIの鈴木カップリング反応として、6,7-ジメチル-2-ナフチルボロン酸(6,7-dimethyl-2-naphthylboronic acid)をカップリングさせた後、分液操作及びカラムクロマトグラフィーによって精製することで前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図10(a)]が合成される。
【0074】
前記実施形態1と同様にして、表面処理を施したAu(111)基板上に前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図10(a)]を蒸着した。前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図10(a)]を、約180℃に加熱及び昇華し、室温に保持したAu(111)基板上に堆積した。
150℃~250℃のAu(111)基板加熱により前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図10(a)]は、脱Br化及びC-C結合反応によりポリマー化し[図10(b)]、さらに300℃~400℃で脱水素化及び環化反応により、前記構造式(6)により表される15/17-AGNRのヘテロ接合GNRが形成される[図10(c)]。
【0075】
前記グラフェンナノリボン前駆体分子[図10(a)]の構造を反映し、最終的に合成されるヘテロ接合AGNR[図10(c)]は、Z不変量が1のトポロジー位相を有する15-AGNRセグメントとZ不変量が1のトポロジー位相を有する17-AGNRセグメントが接合した周期的なエッジ構造を持つ。
【0076】
<実施形態7>
本実施形態7では、前記ボトムアップ法により形成される開示のヘテロ接合GNRをチャネルに利用した電界効果トランジスタ(FET)の製造工程について、図11A図11Gを用いて説明する。図11A図11Eは、本実施形態5におけるFETの製造工程を順に示す上面図である。図11F及び図11Gは、それぞれ図11D及び図11Eの切断線I-I’における切断面を示す断面図である。
【0077】
先ず、図11Aに示すように、絶縁基板11上に金属層を堆積し、電子線リソグラフィ及びドライエッチングにより前記金属層をパターニングして、ライン状の金属層12を形成する。
【0078】
以下に図11Aの製造工程を説明する。例えば、絶縁基板11は、劈開して清浄表面を出したマイカ基板を用いる。マイカ基板の劈開面上に金属層としてAuを蒸着法により厚みが10nm~50nmとなるように堆積させる。Au蒸着時はマイカ基板を400℃~550℃で加熱し、Au(111)面配向性を向上させる。金属層の材料としては、Cu、Ni、Rh、Pd、Ag、Ir、及びPtが挙げられる。絶縁基板の種類に応じて金属層のエピタキシャル結晶面を制御することができる。
【0079】
次いで、絶縁基板11上の金属層をパターニングしてライン上の金属層12を形成する。
開示のグラフェンナノリボン前駆体の重合反応及び環化反応は、絶縁基板11上では誘起されない。したがって、金属層12の位置及びサイズによりヘテロ接合GNRの位置及びサイズを制御することができる。例えば、金属層12のパターニング幅としては、所望するヘテロ接合GNRのリボン幅を考慮して設計し、パターニング長さとしては、最終的に製造されるFETのチャネル長を考慮して設計すればよい。例えば、金属層12のパターニング幅は、1nm~5nmとし、パターニング長さは50nm~500nmとする。
【0080】
金属層/絶縁基板11上に電子線レジストをスピンコートし、金属層をエッチングするためのマスクパターンを電子線レジストに形成する。電子線レジストには、ZEP 520A(日本ゼオン社製)をZEP-A(同社製)で1:1に希釈したレジストを用いることができる。次いで、マスクパターンを用いて、Arイオンミリングにより金属層のエッチング処理を行う。このようにして、金属層12を形成することができる。
【0081】
次いで、図11Bに示すように、金属層12上にグラフェンナノリボン13を形成する。
【0082】
以下に図11Bの製造工程を説明する。グラフェンナノリボン13は、開示のグラフェンナノリボン前駆体を用いて形成することができる。前記実施形態1から6と同様にして、金属層12の表面清浄処理を行う。この表面清浄処理により、金属層12の表面に付着したレジスト残渣などの有機系汚染物質を除去することができ、さらに、Au(111)表面の平坦性をより向上させることができる。
前記表面清浄処理を施した金属層12/絶縁基板11を大気中に曝すことなく、超高真空の真空槽内で金属層12の表面にグラフェンナノリボン13をin situ形成する。
例えば、室温に保持した金属層12/絶縁基板11に開示のグラフェンナノリボン前駆体を蒸着した後、300℃~400℃に昇温する。この結果、開示のグラフェンナノリボン前駆体の重合反応及び環化反応が誘起され、金属層12により位置及びサイズが制御されたグラフェンナノリボン13が形成される(図11B)。
【0083】
続いて、図11Cに示すように、電子線リソグラフィ、蒸着法、及びリフトオフにより、グラフェンナノリボン13の一方の端部上にソース電極14を形成し、他方の端部上にドレイン電極15を形成する。ソース電極14及びドレイン電極15は、例えばTi膜及びその上のCr膜を含む2層電極である。
【0084】
ソース電極14及びドレイン電極15が堆積されていない領域(グラフェンナノリボン13チャネルの下層)の金属層は、後工程のウェットエッチングにより最終的に除去される。このため、ソース電極14及びドレイン電極15に利用する金属種は、金属層を成す金属種に対して十分なエッチング選択比を有する必要がある。後述するように、金属層のウェットエッチングにKI水溶液を用いる場合、KI水溶液に対して十分なエッチャント耐性のあるCr/Tiの2層電極は、電極の金属種として適当である。
【0085】
ソース電極14及びドレイン電極15の形成では、グラフェンナノリボン13、金属層12、及び絶縁基板11上に2層レジストをスピンコートし、電子線リソグラフィにより2層レジストに電極パターンを形成する。例えば、2層レジストの上層にはZEP 520Aの希釈レジストを用い、犠牲層である下層にはPMGI SFG2S(Michrochem社製)を用いる。電極パターンの形成後、厚みが0.5nm~1nmのTi膜及び厚みが30nm~50nmのCr膜を蒸着法により堆積する。続いて、2層レジストの除去によりリフトオフする。このようにして、図11Cに示すようにグラフェンナノリボン13に一対の電極が形成された構造体が得られる。
【0086】
続いて、図11D及び図11Fに示すように、電子線リソグラフィ、蒸着法、及びリフトオフにより、グラフェンナノリボン13上にゲート電極16及び絶縁層17(ゲート絶縁層)のゲートスタック構造を形成する。図11Fは、図11Dの切断線I-I’における切断面を示す断面図である。
ゲート電極16及び絶縁層17の形成では、ソース電極14及びドレイン電極15の形成と同様に、2層レジストをスピンコートし、電子線リソグラフィにより2層レジストにゲートパターンを形成する。例えば、2層レジストの上層にはZEP 520Aの希釈レジストを用い、犠牲層である下層にはPMGI SFG2Sを用いる。
本実施形態5では、例えば、ゲート長を10nmに設計する。ここで、後工程でチャネルの下層の金属層はウェットエッチングされるため、ゲートパターンはソース電極14及びドレイン電極15とオーバーラップさせずに、図11D及び図11Fに示すような開口部18を設けた構造にする必要がある。
【0087】
ゲートパターンの形成後、絶縁層17及びゲート電極16を順次、蒸着法により積層する。絶縁層17には、厚みが5nm~10nmのYが用いられる。真空槽内にOガスを導入しながらY金属を蒸着することでY絶縁層を形成することができる。ゲート電極16には、ソース電極14及びドレイン電極15と同じ膜厚でCr/Tiの2層電極が堆積される。
絶縁層17には他に、前記と同様のOガスを導入する蒸着法により、SiO、HfO、ZrO、La、TiOを用いることも可能である。絶縁層17及びゲート電極16に利用する材料としては、後工程のチャネルの下層の金属層の除去に用いるエッチャントに対して十分なエッチング耐性を有する必要がある。
続いて、2層レジストの除去によりリフトオフする。このようにして、図11D及び図11Fに示すようにゲート電極16及び絶縁層17のゲートスタック構造が形成される。
【0088】
次に、図11E及び図11Gに示すように、チャネルの下層の金属層をウェットエッチングにより除去して、空隙19を形成する。図11Gは、図11Eの切断線I-I’における切断面を示す図である。本実施形態7では、金属層のウェットエッチングにKI水溶液をエッチャントとして用いた。
金属層のウェットエッチング後には、純水による洗浄及びイソプロピルアルコールによるリンス処理を順次行う。続いて、乾燥処理として、溶液の表面張力や毛管力によるチャネルの切断を防ぐことを目的として、例えばCOガスを用いた超臨界乾燥処理を行う。
【0089】
以上の製造工程を経て、最終的に図11E及び図11Gのような一対の電極と絶縁層によってサスペンデッドされたグラフェンナノリボンをチャネルに利用したFETを製造することができる。
【0090】
<実施形態8>
本実施形態8では、前記ボトムアップ法により形成される開示のヘテロ接合GNRのネットワーク膜を、他の絶縁基板に転写して製造される薄膜トラジスタ(TFT)について、図12A図12Eを用いて説明する。
【0091】
前記実施形態7と同様にして、絶縁基板に11金属層12を形成する。絶縁基板11にはマイカ基板を用い、金属層12にはAuを蒸着する。金属層12に対して表面清浄処理を行った後、ボトムアップ法によりグラフェンナノリボン13を形成する。本実施形態6では、開示のグラフェンナノリボン前駆体を蒸着する厚みを2ML~4MLに設定することで、個々のグラフェンナノリボン13が互いに接触したネットワーク膜20を形成することができる。
【0092】
図12Aに示すように、ネットワーク膜20、金属層12、及び絶縁基板11の上面に、保護層21を形成する。ここで、保護層21にはCrを用いる。
Crの保護層21は、次の方法で形成する。Au(111)上にネットワーク膜20を形成した後、真空槽から暴露することなく、in situでネットワーク膜20上にCr金属を蒸着法で成膜する。蒸着速度は0.01nm/s~0.05nm/s、厚みは1nm~3nmとする。次いで、大気中に曝すことで自然酸化により、Cr金属はCr酸化物の保護層21となる。
このCr酸化物の保護層21は、後述するように、ネットワーク膜20の転写の際に用いる有機系支持層の残留物からネットワーク膜20を保護する機能を有する。
【0093】
保護層21には、容易に酸化して絶縁化する性質と、GNRを構成するC原子と化学結合しにくい性質との両方を備える必要がある。
保護層21の材料としては、Crの他に、例えば、SiO、Al、Sc、MnO、ZnO、Y、ZrO、MoO、及びRuOが挙げられる。
一方で、TiやNiは容易に酸化してTiOやNiOとなるが、それらをGNR上に堆積した場合、界面においてTiCやNiCを形成することでGNRの物性に影響を与えるため適当ではない。
【0094】
続いて、図12Bに示すように、保護層21上に支持層22を形成する。
支持層22は、アクリル樹脂のポリメタクリル酸メチル(polymethyl methacrylate、PMMA)をスピンコートして100nm~500nmの厚みに塗布する。
前記支持層22の材料としては、PMMAの他に、エポキシ樹脂、熱剥離テープ、粘着テープ、各種のフォトレジストや電子線レジスト、あるいは、それらの積層膜が挙げられる。
【0095】
次に、金属層12のAu(111)をKI水溶液のウェットエッチングにより除去し、絶縁基板から支持層22/保護層21/ネットワーク膜20を切り離す。次いで、支持層22/保護層21/ネットワーク膜20に対して、純水洗浄、乾燥処理を施した後、図12Cの矢印に示すように、上面に絶縁層17/ゲート電極16を具備した転写絶縁基板23上に、ネットワーク膜20と絶縁層17が接触する向きに、支持層22/保護層21/ネットワーク膜20を転写する。
【0096】
転写の後、支持層22のPMMAを約70℃のアセトンに浸漬して除去し、イソプロピルアルコールでリンス処理を施す。
一般的に、グラフェン上のPMMAは完全に取り除くことが難しく、その残留物がグラフェンの特性を劣化させることが知られている。本実施形態6では、ネットワーク膜20上に保護層21が形成されており、PMMAが直接接触しないため、PMMAの残留物による膜特性の劣化を抑制することができる。
【0097】
転写絶縁基板23には、熱酸化膜が形成されたSi基板を用いる。また、実施形態5と同様にして、電子線リソグラフィ、蒸着法、及びリフトオフを用いてCr/Tiのゲート電極16を形成する。絶縁層17は原子層堆積(ALD)法によりゲート電極16を覆うようにHfOを5nm~10nmの厚みで形成する。
【0098】
転写絶縁基板23は、平坦性が高い表面を有すること以外には特に制限はなく、例えば、ディスプレ等への応用のため、透明なガラス基板、あるいはフレキシブルなPET基板などを用いることもできる。また、ゲート電極16、さらに後述のソース電極14及びドレイン電極15の金属種についても特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Au/Ti、Pt/Ti、Pd/Ti、あるいは、透明電極材料のITO(酸化インジウムスズ)、In、SnO、AlZnO、及びGaZnOを利用することも可能である。
【0099】
続いて、電子線リソグラフィにより、ソース電極14及びドレイン電極15を形成するための電極のレジストパターンを形成する。ここで、ソース-ドレイン電極間の距離を10nm~50nmに設計する。
図12Dに示すように、ソース電極14及びドレイン電極15とネットワーク膜20との間に導通をとるため、電極の形成される領域のCrをウェットエッチングにより除去して、電極開口部24を形成する。エッチャントには、例えば、硝酸第二セリウムアンモニウムを用いることができる。その後、ゲート電極16を形成した方法と同様にしてCr/Tiを蒸着し、リフトオフすることで、ソース電極14及びドレイン電極15を形成する。
【0100】
以上の製造工程を経て、転写法を用いて、図12Eに示すようなヘテロ接合GNRのネットワーク膜20をチャネルに利用したボトムゲート・トップコンタクト型FETを製造することができる。
【0101】
<実施形態9>
実施形態8と同様にして、ヘテロ接合GNRのネットワーク膜を他の基板に転写することで製造されるトップゲート・トップコンタクト型FETについて、図13A図13Dを用いて説明する。
【0102】
図13Aに示すように、実施形態6と同様の工程を経て、図13A中の矢印で示すように、支持層22/保護層21/ネットワーク膜20を転写絶縁基板上23に転写する。
ここで、実施形態8と同様、支持層22はPMMA、保護層21はCr、転写絶縁基板23は熱酸化膜が形成されたSi基板である。
【0103】
転写してPMMAを除去した後、実施形態8と同様に、電子線リソグラフィにより、ソース電極14及びドレイン電極15を形成するための電極のレジストパターンを形成する。
図13Bに示すように、ソース電極14及びドレイン電極15とネットワーク膜20との間に導通をとるため、電極が形成される領域のCrをウェットエッチングにより除去することで、電極開口部24を形成する。
次いで、図13Cに示すように、Cr/Tiを蒸着した後、リフトオフすることで、ソース電極14及びドレイン電極15を形成する。
【0104】
続いて、電子線リソグラフィにより、ゲートスタックのレジストパターンを形成し、絶縁層17及びゲート電極16を順次、蒸着法により堆積する。
絶縁層17には、厚みが5nm~10nmのHfOを用いる。1×10-5Pa以下の真空中にOガスを導入しながらHf金属を蒸着することで、HfOの絶縁層17を形成することができる。ゲート電極16には、ソース電極14及びドレイン電極15と同様にしてCr/Tiを蒸着する。最後に、リフトオフを行い、Cr/Ti/HfOのゲートスタック構造を形成する。
【0105】
以上の製造工程を経て、転写法を用いて、図13Dに示すようなグラフェンナノリボンのネットワーク膜をチャネルに利用したトップゲート・トップコンタクト型TFTを製造することができる。
【0106】
更に以下の付記を開示する。
(付記1)
下記構造式(1)~(6)のいずれかで表されることを特徴とするグラフェンナノリボン。
【化11】
【化12】
ただし、前記構造式(1)~(6)中、mは整数を表す。
(付記2)
不変量が0のトポロジー位相を有するセグメントと、Z不変量が1のトポロジー位相を有するセグメントとが交互に配列したヘテロ接合構造を有し、
前記構造式(1)~(3)のいずれかで表される付記1に記載のグラフェンナノリボン。
(付記3)
下記一般式(1)で表される化合物を重合させることを特徴とするグラフェンナノリボンの製造方法。
【化13】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。
(付記4)
前記一般式(1)で表される化合物を金属基板上に堆積し、基板加熱により前記化合物を重合させる工程を含む付記3に記載のグラフェンナノリボンの製造方法。
(付記5)
付記1から2のいずれかに記載のグラフェンナノリボン(13)と、
前記グラフェンナノリボンに接触して設けられた一対の電極(14、15)と、を有することを特徴とする電子装置。(図11G図12E図13D
(付記6)
下記一般式(1)で表されることを特徴とするグラフェンナノリボン前駆体。
【化14】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。
(付記7)
下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物。
【化15】
ただし、前記一般式(1)中、n<nであり、nは、1又は2を表し、nは2又は3を表し、Xは、F、Cl、Br、及びIから選択される1種を表し、Yは、H又はCHを表す。
(付記8)
付記1から2のいずれかに記載のグラフェンナノリボン(13)に接触する一対の電極(14、15)を形成する工程を含むことを特徴とする電子装置の製造方法。(図11A~G、図12A~E、図13A~D)
(付記9)
前記電子装置が、電界効果トランジスタであり、
付記1から2のいずれかに記載のグラフェンナノリボン(13)を、絶縁基板(11)上にパターニング加工した金属層(12)上に形成する工程と、
前記グラフェンナノリボンに接触する一対の電極(14、15)を形成する工程と、
前記グラフェンナノリボン上に絶縁層(17)及びゲート電極(16)を順次形成する工程と、
前記絶縁層及び前記ゲート電極を形成した後に前記グラフェンナノリボンの下層の前記金属層を除去する工程と、を含む付記8に記載の電子装置の製造方法。(図11A~G)
(付記10)
前記電子装置が、薄膜トランジスタであり、
付記1から2のいずれかに記載のグラフェンナノリボン(13)が互いに接触したネットワーク膜を絶縁基板に転写する工程と、
前記ネットワーク膜に接触する一対の電極(14、15)を形成する工程と、
前記ネットワーク膜に絶縁層(17)を介して接触するゲート電極(16)を形成する工程と、を含む付記8に記載の電子装置の製造方法。(図12A~E、図13A~D)
【符号の説明】
【0107】
11 絶縁基板
12 金属層
13 グラフェンナノリボン
14 ソース電極
15 ドレイン電極
16 ゲート電極
17 絶縁層
18 開口部
19 空隙
20 ネットワーク膜
21 保護層
22 支持層
23 転写絶縁基板
24 電極開口部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図13D