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  • 特許-表面電位測定装置 図1
  • 特許-表面電位測定装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】表面電位測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/12 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
G01R29/12 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023133231
(22)【出願日】2023-08-18
【審査請求日】2023-09-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 放電・プラズマ・パルスパワー研究会 論文No:EPP23045、電気学会電子図書館(https://www.bookpark.ne.jp/cm/ieej/search.asp) 令和5年6月5日発行 [刊行物等] 電気学会 放電・プラズマ・パルスパワー研究会 令和5年6月10日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2022年度 情報・エレクトロニクス学科卒業研究発表会 令和5年2月10日開催
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】弁理士法人アイリンク国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】最上 智史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 俊之
(72)【発明者】
【氏名】平 虎太郎
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-167011(JP,A)
【文献】特開2021-32777(JP,A)
【文献】特開昭56-162059(JP,A)
【文献】特開昭55-149855(JP,A)
【文献】特開昭55-146052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/12-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象面の表面電位を検出する表面電位測定装置であって、
上記測定対象面にイオンを照射するイオン照射電極と、
上記測定対象面であって、上記イオン照射電極によるイオンが照射される部分であるイオン照射部と正対して、イオン照射中における上記イオン照射部の表面電位を検出する検出電極と、
上記イオン照射電極から上記検出電極に入力される電気力線とは逆極性の電気力線を上記検出電極に入力させるノイズ低減電極と
を備えた表面電位測定装置。
【請求項2】
上記ノイズ低減電極は、
電源に接続された電極本体を備え、
上記電極本体は、上記検出電極側の表面が曲面である
請求項1に記載の表面電位測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、帯電物体の表面電位を測定する表面電位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象の表面電位を非接触で測定する装置として、測定対象と検出電極との間の電界を振動子でチョッピングして交流電圧に変換し、その電圧から被測定物の表面電位を検出する表面電位測定装置が知られている。具体的には、上記検出電極の近傍に、周期的に開閉するチョッパを設け、このチョッパの開閉によって検出電極に入る電界の強度を周期的に変化させ、検出電極からアースへ流れる変位電流を表面電位の信号として検出している(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-192414号公報
【文献】特開2017-015575号公報
【文献】特開2017-167011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような表面電位測定装置で、検出電極の近傍に、電気ノイズを発生するノイズ発生源があった場合、検出電極は、ノイズ発生源による電界、すなわちノイズ発生源から発生する電気力線を、測定対象による電気力線と同時に検出してしまう。
そして、ノイズ発生源が発生する電界が大きければ、測定対象の表面電位による信号が、ノイズ発生源からのノイズに埋もれてしまって正確に検出できないことがある。
また、測定対象の表面電位が相対的に小さい場合に、検出電極の検出感度を上げることが考えられるが、その場合には検出電極による電気ノイズの検出が大きくなり過ぎて、表面電位測定装置での測定限界を振り切ってしまい測定そのものができないこともある。
【0005】
この発明の目的は、測定対象の近傍に電気ノイズを発生するノイズ発生源があった場合にも、測定対象の表面電位を正確に測定できる表面電位測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、測定対象面の表面電位を検出する表面電位測定装置であって、上記測定対象面にイオンを照射するイオン照射電極と、上記測定対象面であって、上記イオン照射電極によるイオンが照射される部分であるイオン照射部と正対して、イオン照射中における上記イオン照射部の表面電位を検出する検出電極と、上記イオン照射電極から上記検出電極に入力される電気力線とは逆極性の電気力線を上記検出電極に入力させるノイズ低減電極とを備えている。
【0008】
の発明は、上記ノイズ低減電極が、電源に接続された電極本体を備え、上記電極本体は、上記検出電極側の表面が曲面でる。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明は、ノイズ低減電極から検出電極に入る電気力線が、イオン照射電極から検出電極へ入る電気力線をキャンセルすることで、検出電極で検出されるイオン照射電極からの電気ノイズを低減することができる。したがって、イオン照射電極からの電気ノイズがある場合でも、測定対象面の表面電位を、電気ノイズと区別して正確に測定できる。
【0012】
の発明によれば、ノイズ低減電極の電極本体の表面から放電が起こりにくく、ノイズ低減電極からの電気力線を安定して検出電極に入力させることができる。そのため、電気ノイズを継続的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の測定装置のブロック図である。
図2】電極部分の拡大図である。
図3】ノイズ低減電極を作動させなかったときの測定値のグラフである。
図4】ノイズ低減電極を作動させたときの測定値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
以下に、この発明の実施形態を説明する。
この実施形態は、発明の表面電位測定装置を、塗膜の硬化度(乾燥度)を推測するために、塗膜の硬化度に依存する体積抵抗を検出する装置に適用したものである。
なお塗膜の体積抵抗を測定する原理は、例えば特許文献3などに記載されている。
【0016】
この実施形態では、接地された導電体のベース1上に形成された塗膜2が測定対象面である。この塗膜2の表面にイオン照射電極3からイオンを照射しながら、イオン照射部2aの表面電位を測定する。
図1に示す、実施形態の表面電位測定装置は、塗膜2に対向した電位検出部4と、電位検出部4に隣接したノイズ低減電極5とを備えている。
【0017】
上記電位検出部4は、上記した従来の表面電位測定装置と同様の構成で、塗膜2のイオン照射部2aに正対し、イオン照射部2aの表面電位に応じて電荷が誘導される検出電極6を備えている。また、図示していないが、塗膜2と検出電極6との間の電界をチョッピングして交流電圧に変換する振動子や、検出電流を処理するデータ処理部を備え、検出電極6からアースへ流れる変位電流を表面電位の信号として検出するものである。
【0018】
一方、上記ノイズ低減電極5は、金属製の電極本体からなり、電源7に接続されている。この電源7は、上記イオン照射電極3とは逆極性の電圧を、ノイズ低減電極5に印加する電源である。
【0019】
そして、上記ノイズ低減電極5は、上記電位検出部4を境にイオン照射電極3とほぼ反対側に配置され、電位検出部4側に位置する先端部5aと、電源7に接続された支持部5bとからなる。上記先端部5aは、表面形状が曲面であり、全表面に尖端部や角が存在しない形状にされている。例えば、先端部5aは、球体や、両端面を曲面とした円柱などである。この先端部5aの形状が、電極本体における検出電極6側の表面形状である。そして、先端部5aの表面に丸棒の支持部5bの先端が固定され、支持部5bの基端が電源7に接続されている。
このようなノイズ低減電極5に所定の電圧を印加することによって、先端部5aの表面からは電気力線E´が発生する(図2参照)。
【0020】
なお、上記イオン照射電極3は、針状の放電電極で、その周囲には図1に示すように、接地された筒電極8が設けられ、イオン照射電極3の先端が、筒電極8から突出しないようにされている。
筒電極8は、イオン照射電極3で生成された電荷の広がりを抑えて、イオン照射電極3から検出電極6へ直接入る電気力線を少なくするようにしている。
【0021】
[作用・効果等]
上記の表面電位測定装置で、塗膜2のイオン照射部2aの表面電位を測定する際には、イオン照射電極3にマイナスの電圧を印加し、放電を発生させて負電荷を塗膜2の表面のイオン照射部2aに照射する。この時、イオン照射部2aと検出電極6とが正対するように設定する。
電位検出部4は、イオン照射部2aの表面電位に応じて検出電極6に誘導される電荷を検出することで、イオン照射部2aの表面電位を検出する。
【0022】
なお、この塗膜2は塗料が生乾きの状態で、その体積抵抗は十分に低いものである。そのため、塗膜2のイオン照射部2aにおける表面電位の値は小さいはずである。
しかし、実際には、図2に示すように、検出電極6は、実細線で示したイオン照射部2aからの電気力線だけでなく、イオン照射電極3から直接発生したり、イオン照射電極3から塗膜2のイオン照射部2aに到達しない負電荷から発生したりする、破線で示した負の電気力線Eが入ってしまう。そのため、電位検出部4は、イオン照射部2aの表面電位によるものと、イオン照射電極3又は負電荷から発生する電気力線Eによるものとを一緒に検出することになる。この破線の電気力線Eが電気ノイズである。
【0023】
そのため、表面電位測定装置は、測定対象面であるイオン照射部2aの表面電位を正確に測定できない。特に、表面電位測定装置は、表面電位の小さな値を検出しようとして電位検出部4の検出感度を上げれば、上記電気ノイズによって測定値が振り切れてしまう。
【0024】
そこで、上記ノイズ低減電極5にプラスの電圧を印加して、この正のノイズ低減電極5から発生する正の電気力線E´を検出電極6に入力させる。このノイズ低減電極5からの正の電気力線E´によって、イオン照射電極3又は負電荷から発生する電気力線Eをキャンセルし、イオン照射電極3から発生した負の電気ノイズをキャンセルすることができる。
したがって、表面電位測定装置は、イオン照射中であっても、イオン照射部2aの表面電位を測定することができる。
【0025】
なお、上記電気ノイズのキャンセルには、電気ノイズを完全にキャンセルするということではなく、測定値を区別できる程度に低減できるものも含むものとする。
また、負の電極から検出電極6に向かう電気力線を負の電気力線E、正の電極から検出電極に向かう電気力線を正の電気力線E´ということにする。
【0026】
[確認実験]
上記ノイズ低減電極5の効果を確認する実験について説明する。
実験装置は、図3に示す通りで、イオン照射電極3には負の電圧(-2.1kV)を印加し、ノイズ低減電極5には正の電圧(+2.1kV)を印加する。
なお、上記電位検出部4は、上記ノイズ低減電極5に電圧を印加した状態で、予め表面電位がわかっている校正用サンプルを測定し、出力値を校正している。このように校正された電位検出部4によって、以下の実験を行なっている。
【0027】
確認実験では、処理対象面である低抵抗の塗膜2として、ジンクリッチペイントを亜鉛メッキ板に塗布したサンプル3種(A,B,C)を使用し、ノイズ低減電極5の作動の有無でイオン照射部2aの表面電位を測定した。
上記サンプルA,B,Cは、亜鉛粒子の密度によって体積抵抗が異なるように調整されたサンプルである。したがって、各サンプルA,B,Cは異なる表面電位になるはずである。
【0028】
具体的には、上記電位検出部4による測定を開始してから10秒後にイオン照射電極3に電圧を印加する。その後20秒間イオン照射部2aをコロナ帯電させ、20秒後に電圧印加をやめてから、30秒間帯電電位の測定を続ける。
なお、ノイズ低減電極5は、塗膜2の表面からの高さh、検出電極6の中央からの距離dを、それぞれh=2〔mm〕、d=7〔mm〕としている。これらの値は、ノイズ低減電極5から検出電極6へ入力する正の電気力線E´がノイズの電気力線Eとほぼ等量となって、ノイズを有効に低減できる位置として実験的に求めたものである。
【0029】
そして、ノイズ低減電極5と検出電極6との距離が小さく設定されることによって、ノイズ低減電極5への印加電圧が低くてもノイズを低減できることを確認している。
また、ノイズ低減電極5の先端部5aを、検出電極6の測定可能領域内に突出しないように設定することによって、測定対象面からの電気力線の検出を上記先端部5aが妨害しないようにしている。
【0030】
[実験結果]
上記確認実験で、ノイズ低減電極5を作動させなかった場合、表面電位の測定結果は図3に示すようになり、電位検出部4の検出限界(O.R.)を超えてしまう。したがって、コロナ帯電中の塗膜2の表面電位は全く読み取れなかった。
この場合、コロナ帯電を停止した後の表面電位のわずかな変化から、塗膜2の体積抵抗を推測しなければならない。しかし、図3からは、サンプルA,B,Cによる差を検出することはできなかった。
【0031】
一方、イオン照射電極3と同時にノイズ低減電極5を動作させた場合の測定結果は、図4に示すようになった。すなわち、コロナ帯電中の表面電位の測定値が、電位検出部4の検出可能範囲となり、体積抵抗の異なる塗膜(サンプルA,B,C)の表面電位をそれぞれ測定することができた。
以上のように、ノイズ低減電極5から検出電極6に入力する電気力線E´を生成させることによって、イオン照射電極3からの電気ノイズの電気力線Eをキャンセルし、測定対象面の電位を検出しやすくすることができる。
なお、図4では、イオン照射電極3及びノイズ低減電極5への印加電圧を切った直後に測定電位にスパイクが表れているが、これは検出電極6に誘導された電荷の放電によるものであり、本測定には影響しない。
【0032】
上記実施形態では、測定対象面にイオンを照射するためのイオン照射電極3がノイズ発生源になっているが、ノイズ発生源はこれに限らない。電極や、電源線、信号線など、周囲に電界を形成する物であれば、全て電気ノイズを発生するノイズ発生源となる可能性がある。どのようなノイズ発生源であっても、上記のようなノイズ低減電極5によって、ノイズ発生源から検出電極6に向かう電気力線と逆極性の電気力線を検出電極6に入力するようにすれば、電気ノイズを低減させることができる。
【0033】
この場合、ノイズ発生源から検出電極6で検出される電気力線と、ノイズ低減電極5から検出電極6で検出される電気力線とが等量であれば、電気ノイズを完全にキャンセルできることになる。ただし、これらの電気力線が等量でなくても、電気ノイズを十分に低減できれば、測定は可能になる。
【0034】
また、ノイズ低減電極5の先端の表面を、曲面にして、表面からの放電を防止することで、ノイズ低減の効果を高めている。もし、ノイズ低減電極5の表面に尖端部があると、そこが放電ポイントとなって放電が発生してしまうが、放電が発生すれば、検出電極6に入る電気力線E´が不安定になってしまう。
【0035】
なお、ノイズ低減電極5の先端部5aの位置は、先端部5aからの電気力線E´が、測定対象面に影響を与えないように設定することが好ましい。
ノイズ低減電極5が測定対象面に近すぎれば、測定対象面からの電気力線が検出電極6ではなく、ノイズ低減電極5に向かってしまう。しかし、上記のように、ノイズ低減電極5を、測定対象面より検出電極6の近くに設置することによって、ノイズ低減電極5から発生する正の電気力線E´が検出電極6に入りやすくなるとともに、測定対象面への影響を小さくできる。
また、上記ノイズ低減電極5からの正の電気力線E´が、測定対象面の表面電位に影響を与え、測定値に影響を与える可能性があっても、ノイズ低減電極を作動させた状態で電位検出部4の校正を行なうことで、測定値への影響を低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
イオンが照射されている部分の表面電位を、電気ノイズの影響を排除して測定することができる。
【符号の説明】
【0037】
2 (測定対象)塗膜
2a (測定対象面)イオン照射部
3 (ノイズ発生源)イオン照射電極
4 電位検出部
5 ノイズ低減電極
5a (電極本体の検出電極側)先端部
5b (電極本体)支持部
6 検出電極
【要約】
【課題】 測定対象の近傍に電気ノイズを発生するノイズ発生源があった場合にも、測定対象の表面電位を正確に測定できる表面電位測定装置を提供すること。
【解決手段】 電気ノイズを発生するノイズ発生源3の近傍に設けられた測定対象面2aの表面電位を検出する表面電位測定装置であって、測定対象面2aと正対して当該測定対象面の表面電位を検出する検出電極6と、ノイズ発生源3から検出電極6に入力される電気力線と逆極性の電気力線を上記検出電極に入力させるノイズ低減電極5とを備えている。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4