(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】乳化性粘土油複合粉末
(51)【国際特許分類】
C09K 23/00 20220101AFI20240404BHJP
B01F 23/50 20220101ALI20240404BHJP
A61K 8/06 20060101ALN20240404BHJP
A61K 8/25 20060101ALN20240404BHJP
A61K 8/31 20060101ALN20240404BHJP
A61K 8/891 20060101ALN20240404BHJP
A61K 8/92 20060101ALN20240404BHJP
A61Q 1/14 20060101ALN20240404BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20240404BHJP
A61Q 19/10 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
C09K23/00
B01F23/50
A61K8/06
A61K8/25
A61K8/31
A61K8/891
A61K8/92
A61Q1/14
A61Q19/00
A61Q19/10
(21)【出願番号】P 2020011478
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日:平成31年4月7日 掲載アドレス:http://www.be-ryu.net/
(73)【特許権者】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500039865
【氏名又は名称】株式会社 美粒
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】桝谷 優輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】中野 満
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141482(JP,A)
【文献】特表2007-522288(JP,A)
【文献】特開2010-235513(JP,A)
【文献】特開2019-142769(JP,A)
【文献】特開2018-090700(JP,A)
【文献】特開2009-019085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 23/00-23/56
B01F 23/50
A61K 8/06
A61K 8/25
A61K 8/31
A61K 8/891
A61K 8/92
A61Q 1/14
A61Q 19/00
A61Q 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水膨潤性粘土と油分とを含み、下記水和性試験における水和時間が
5分未満である、乳化性粘土油複合粉末。
〔水和性試験〕
容量200mLのグリフィンビーカーに25℃の水を100mL入れて静止し、乳化性粘土油複合粉末1.0gを水面に落とす。水面に落とした再乳化性乾燥乳化物のすべてが水でぬれるまでにかかる時間を水和時間とする。
【請求項2】
増粘剤を含む請求項1に記載の乳化性粘土油複合粉末。
【請求項3】
前記増粘剤が水溶性高分子を含む請求項2に記載の乳化性粘土油複合粉末。
【請求項4】
前記油分が鉱物油、シリコーン油及びスクワランの少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化性粘土油複合粉末。
【請求項5】
前記水膨潤性粘土がスメクタイトを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の乳化性粘土油複合粉末。
【請求項6】
前記乳化性粘土油複合粉末中、前記油分の含有量が、前記水膨潤性粘土100質量部に対して0.1~160質量部である請求項1~5のいずれか1項に記載の乳化性粘土油複合粉末。
【請求項7】
水性媒体と水膨潤性粘土と油分との混合物を湿式高圧処理に付して乳化液を得る工程と、得られた乳化液を乾燥する工程とを含む請求項1~6のいずれか1項に記載の乳化性粘土油複合粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の乳化性粘土油複合粉末と水性媒体とを混合することにより、該乳化性粘土油複合粉末の自己乳化性によって該水性媒体中に該乳化性粘土油複合粉末を乳化分散させることを含む、乳化性粘土油複合粉末の乳化分散方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性媒体中にそれ自体で乳化分散することができる粘土油複合粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化液はスキンケア化粧品、医薬品、食品、農薬、塗料等に広く用いられている。例えば、スキンケア化粧品として、肌の水分と油分とのバランスを整えるために、油分を水性媒体中に乳化分散してなる水中油(O/W)型の乳化液(いわゆる乳液)が広く用いられている。
これらの乳化液は一般に、油分を水性媒体中に安定的に分散させるため、乳化剤として界面活性剤が添加されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
乳化剤を用いて油分を水性媒体中に乳化分散させた乳化液であっても、長期に亘る保存安定性の向上には制約がある。また、水と有機物(油分、界面活性剤)とを併せ持つ組成に起因して、保存環境によっては微生物による腐敗を生じる懸念もある。
本発明者らは、乳化液を乾燥し、この乾燥品を、出荷時ないし使用時に水性媒体と混ぜることにより、乾燥品をそれ自体で水性媒体中に再分散(再乳化)させる形態とできれば、上記の長期に亘る保存安定性の問題に対処できるとの着想に至った。しかし現実には、界面活性剤を用いた乳化液を乾燥処理に付すと、乳化状態が再分散不能なレベルまで崩壊してしまう。結果、再分散可能な乾燥品を得ることは困難である。
【0004】
そこで本発明は、油分を含有し、乳化分散のための特別な処理(乳化剤の添加、機械による均質化処理)を行わなくても、それ自体で水性媒体中に乳化分散することができる分散質素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑み種々検討を重ねた。その結果、油分を水性媒体中に乳化分散させるに当たり、界面活性剤に代えて水膨潤性の粘土鉱物を共存させ、これを湿式高圧処理装置により均質化処理することにより、油分と水膨潤性粘土鉱物とが一体化して粘土鉱物が乳化剤のように作用し、乳化安定性に優れた乳化液が得られることを見出した。さらに、こうして得られた乳化液は乾燥して粉末化できること、この乾燥粉末を再度水性媒体中に混合すればそれ自体で再分散して乳化液が得られることを見出した。本発明をこれらの知見に基づき完成させるにいたった。
【0006】
本発明の上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
水膨潤性粘土と油分とを含み、下記水和性試験における水和時間が30分未満である、乳化性粘土油複合粉末。
〔水和性試験〕
容量200mLのグリフィンビーカーに25℃の水を100mL入れて静止し、乳化性粘土油複合粉末1.0gを水面に落とす。水面に落とした再乳化性乾燥乳化物のすべてが水でぬれるまでにかかる時間を水和時間とする。
<2>
増粘剤を含む<1>に記載の乳化性粘土油複合粉末。
<3>
上記増粘剤が水溶性高分子を含む<2>に記載の乳化性粘土油複合粉末。
<4>
上記油分が鉱物油、シリコーン油及びスクワランの少なくとも1種を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の乳化性粘土油複合粉末。
<5>
上記水膨潤性粘土がスメクタイトを含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の乳化性粘土油複合粉末。
<6>
上記乳化性粘土油複合粉末中、上記油分の含有量が、上記水膨潤性粘土100質量部に対して0.1~160質量部である<1>~<5>のいずれか1つに記載の乳化性粘土油複合粉末。
<7>
水性媒体と水膨潤性粘土と油分との混合物を湿式高圧処理に付して乳化液を得る工程と、得られた乳化液を乾燥する工程とを含む<1>~<6>のいずれか1つに記載の乳化性粘土油複合粉末の製造方法。
<8>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の乳化性粘土油複合粉末と水性媒体とを混合することにより、該乳化性粘土油複合粉末の自己乳化性によって該水性媒体中に該乳化性粘土油複合粉末を乳化分散させることを含む、乳化性粘土油複合粉末の乳化分散方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の乳化性粘土油複合粉末は、水性媒体と混ぜればそれ自体で水性媒体中に分散し、乳化液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0009】
[乳化性粘土油複合粉末]
本発明の乳化性粘土油複合粉末は水膨潤性粘土と油分とを含む複合体であり、後述するように特定の高い水和性を有する。本発明の乳化性粘土油複合粉末は、水性媒体を混ぜるとそれ自体で、特別な処理(乳化剤の添加、機械による均質化処理)を行わなくても水中油型に乳化分散することができる。すなわち、本発明の乳化性粘土油複合粉末は分散質素材である。
本発明において「乳化性」とは、上記の通り、水性媒体を混ぜるとそれ自体で乳化分散することができる特性(自己乳化性)を有することを意味する。
本発明において「複合粉末」又は「複合体」という場合、水膨潤性粘土と油分とが、単なる混合物ではなく、一体不可分の構造物となっていることを意味する。
本発明において「粉末」とは、乾燥品を広く含む意味である。すなわち、液媒体を有して流動性を示す形態ではなく、粉体や顆粒といった固形物であることを意味する。「粉末」には、結着剤やプレス加工等により所望の大きさに成形されているものも含まれる。本発明において「粉末」の含水率(水分量)は通常は20質量%以下である。
本発明の乳化性粘土油複合粉末を構成する各成分について、また、当該粉末の水和特性、調製方法、乳化分散方法について、順に説明する。
【0010】
<水膨潤性粘土>
本発明の乳化性粘土油複合粉末は水膨潤性粘土(水膨潤性粘土鉱物)を含む。上記水膨潤性粘土は層状ケイ酸塩であることが好ましい。層状ケイ酸塩の一般的な結晶構造は単位結晶層からなり、この結晶層は負に帯電し、この負電荷を中和する形で層間には陽イオンが取り込まれている。また、この陽イオンはイオン交換が可能であるため、多くに層状ケイ酸塩は陽イオン交換性を示し、水膨潤性を示す。
上記水膨潤性粘土は、天然のものであっても、合成されたものであってもよく、また、未変性のものでも変性したものでもよい。本発明の再乳化性乾燥乳化物を構成する水膨潤性粘土は、少なくとも1種のスメクタイトを含むことが好ましく、少なくとも1種のスメクタイトで構成されていることがより好ましい。なお、本発明に用いる水膨潤性粘土としてのスメクタイトは、天然の粘土鉱物が通常有し得る夾雑物を含んでいてもよい。上記スメクタイトは天然スメクタイト、合成粘土(好ましくは合成スメクタイト)、又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0011】
天然スメクタイトとしては、天然由来のヘクトライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、スチーブンサイト、ノントロナイト、ソーコナイト等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
天然スメクタイトとして、モンモリロナイトを主成分とするベントナイトを用いることも好ましい。ベントナイトは天然に産出する無機系粘土鉱物であるため安全性に優れている。また、ベントナイトは土中の微生物によって分解されることがなく長期的に安定であり、さらに低価格である利点がある。ベントナイトは市販品を用いることができ、市販品として例えば、天然のベントナイトを精製したクニピア-F(クニミネ工業株式会社製)が挙げられる。
【0012】
合成粘土は、常法により合成することができ、市販品を用いてもよい。市販品としては、合成サポナイトとしてスメクトン-SA(クニミネ工業株式会社製)、合成ヘクトライトとしてスメクトン-SWN(クニミネ工業株式会社製)等が挙げられる。
【0013】
水膨潤性粘土はサポナイト又はモンモリロナイトを含むことが好ましく、サポナイト又はモンモリロナイトであることがより好ましい。
【0014】
<油分>
本発明の乳化性粘土油複合粉末は、油分を含む。本発明において「油分」とは、通常よりも広義の意味に用いている。すなわち、本発明において「油分」という場合、水に対して非相溶性の成分を広く包含する意味である。ここで、「水に対して非相溶性」とは、25℃において水と混合したときに水と混じり合わず、水と油分とが各々独立した相で存在する関係にあることを意味する。油分を構成する成分は1種でもよく、2種以上でもよい。また、「油分」は親油性成分を含んでいてもよい。親油性成分は上記油分に対して溶解性であり、かつ水に対しても相溶性を有する成分である。上記親油性成分の具体例は、セラミド、コレステロール、タンパク誘導体、ラノリン、ラノリン誘導体、レシチン、植物性アロマオイル、抗菌成分等の油性基剤、色素等である。油分が親油性成分を含む場合、親油性成分を含めた全体が本発明で規定する「油分」である。
上記油分は常温で液状であることが好ましい。油分の具体例としては、インドデカン等の鉱物油、シクロペンタシロキサン等のシリコーン油、スクワラン、流動パラフィン、流動イソパラフィン、オリーブ油、米胚芽油、大豆油、ゴマ油、菜種油、ひまわり油、タラ肝油、エステル油等が挙げられる。なかでも本発明の乳化性粘土油複合粉末を構成する油分は、鉱物油、シリコーン油及びスクワランの少なくとも1種を含むことが好ましく、鉱物油、シリコーン油、及びスクワランの少なくとも1種がより好ましい。上記油分の融点は、好ましくは上記水膨潤性粘土の融点より低い。
また、後述するとおり、水膨潤性粘土は油分を取り囲んだ構造となっており、耐熱性向上に寄与していると考えられる。
【0015】
本発明の乳化性粘土油複合粉末中、前記油分の含有量は、目的に応じて適宜に設定される。通常は、前記水膨潤性粘土100質量部に対して前記油分の含有量は0.1~160質量部である。油分の含有量を0.1~160質量部とすることにより、乳化性粘土油複合粉末の水性媒体中への乳化分散性を十分に高めることができ、また、得られる乳化液中の油分の有効量も目的に応じて確保することができる。本発明の乳化性粘土油複合粉末中、前記油分の含有量は、前記水膨潤性粘土100質量部に対して1~150質量部がより好ましく、5~130質量部がさらに好ましい。また、10~120質量部としてもよく、20~100質量部とすることもでき、30~80質量部とすることもでき、40~60質量部とすることも好ましい。
【0016】
本発明の乳化性粘土油複合粉末は増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤を含ませることにより、本発明の水和性粉末を水性媒体中に乳化分散して得られる乳化液の分散安定性をより高めることができる。上記増粘剤の好ましい具体例としては、キサンタンガム、カラギナン、グアーガム、水溶性デンプン等の水溶性高分子、セルロースナノファイバー等を挙げることができ、増粘剤として水溶性高分子の1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
本発明の乳化性粘土油複合粉末は、本発明の効果を損なわない範囲で、増粘剤以外の水溶性成分を含んでいてもよい。これらの成分は乳化性粘土油複合粉末の適用用途等に目的に応じて適宜に選択される。例えば適用用途がスキンケア化粧品であれば、グリセリン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ソルビトール、マルチトール、イソマルチトールなどの多価アルコール類、乳糖、果糖、ショ糖、マルトース、トレハロース、イソマルトオリゴ糖などの糖類、ピロリドンカルボン酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、食塩などの有機又は無機塩類、pH調整剤、殺菌剤、キレート剤、抗酸化剤、血行促進剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、動植物由来の天然エキス、アスコルビン酸及びその誘導体、アントシアニンなどのフラボノイド類及びその誘導体、水溶性ビタミン類、アミノ酸類、感光素、色素、顔料、香料などを配合することができる。
【0018】
本発明の乳化性粘土油複合粉末は、本発明の効果を損なわない範囲でさらに他の成分を含ませることができる。例えば、界面活性剤等の乳化剤を含んでいてもよい。他方、乳化性粘土油複合粉末は水膨潤性粘土が乳化剤のように作用して十分な分散性を示すため、界面活性剤等の乳化剤を含まないことも、本発明の乳化性粘土油複合粉末の形態として好ましい。
【0019】
<水和特性>
本発明の乳化性粘土油複合粉末は水に対する濡れ性が高く、下記水和性試験における水和時間が30分未満である。
【0020】
-水和性試験-
容量200mLのグリフィンビーカーに25℃の水を100mL入れて静止し、乳化性粘土油複合粉末1.0gを水面に落とす。水面に落とした再乳化性乾燥乳化物のすべてが水でぬれるまでにかかる時間を水和時間とする。
ここで、「水でぬれる」とは、粉末が水中に浸ること、並びに、水面の粉末が水面に存在するままで毛細管現象によってぬれた状態となることを意味する。
【0021】
上記水和性試験における水和時間が30分未満とすることにより、水性媒体と混ぜたときに、十分に高い乳化分散性を示すことができる。上記水和試験において、水中には油分が遊離しないことが好ましい。しかし、油分の一部が遊離しても、分散質中に油分を十分に確保できていれば本発明に効果を享受しており、このような乳化性粘土油複合粉末も本発明に包含される。
水和性試験における水和時間は20分未満が好ましく、10分未満がより好ましく、5分未満が更に好ましく、3分未満が特に好ましく、2分未満がより一層好ましく、1分未満が最も好ましい。水和時間が短いほど、水性媒体中に混ぜた際に乳化分散速度が速まる。
なお、乳化性粘土油複合粉末が結着剤やプレス加工等により粒子同士が結着している場合、粉末化してから水和性試験に付すものとする。
【0022】
<乳化性粘土油複合粉末の調製>
本発明の乳化性粘土油複合粉末の調製方法は、上記水和特性を示す複合粉末を得ることができれば特に制限されない。好ましくは、水膨潤性粘土、油分、必要に応じて添加されるその他の成分を含む混合物を、水性媒体を媒体液として湿式高圧処理に付して水中油型乳化物を得、上記水中油型乳化物を乾燥して水性媒体を除去して調製される。
上記湿式高圧処理の方法は、圧力エネルギーを運動エネルギーに変換してジェット流を生成し、このジェット流の中に生じるせん断力により均質化し、油分を水性媒体中に乳化分散させて乳化液を生成する方法である。湿式高圧処理それ自体は公知であり、例えば、特許第5791142号公報、特許第5972434号公報等を参照することができる。湿式高圧処理装置として、例えば、美粒社製NEW BERYU MINIが市販されている。
湿式高圧処理を採用することにより、高圧により生じるジェット流による強力なせん断力が水膨潤性粘土の層間を切り開き、これが油分と水膨潤性粘土との相互作用を効率化して水膨潤性粘土が乳化剤のように作用し、安定な乳化液を得ることが可能になると考えられる。
【0023】
湿式高圧処理して得た上記水中油型乳化液の乾燥方法は特定の方法に限定されない。上記乾燥方法の具体例として、熱乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等を挙げることができる。熱乾燥の場合、加熱温度は40~200℃が好ましく、50~100℃がより好ましい。
【0024】
湿式高圧処理して得た上記水中油型乳化液の水性媒体は、水を含み、さらに必要により水溶性有機溶媒を含むことができる。この水性媒体は50質量%以上が水であることが好ましい。水溶性有機溶媒に特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択される。例えばスキンケア化粧品を想定して場合、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのアルコール類を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
湿式高圧処理して得た上記水中油型乳化物中の水性媒体以外の成分濃度に特に制限はない。通常は0.1~50質量%である。
【0026】
<乳化性粘土油複合粉末の乳化分散>
本発明の乳化性粘土油複合粉末は、水性媒体と混ぜるだけで、乳化性粘土油複合粉末それ自体で自然に再分散して乳化液が得られる。つまり、乳化分散のための特別な処理(乳化剤の添加、機械により均質化処理)を要さない。本発明の乳化性粘土油複合粉末を乳化分散させる水性媒体の好ましい形態は、上述した、湿式高圧処理して得た水中油型乳化液の水性媒体と同じである。
【0027】
本発明の乳化性粘土油複合粉末を水性媒体中に乳化分散して得られる水中油型乳化物中の油分の粒度分布は、単一ピークを示すことが好ましい。
【0028】
本発明の乳化性粘土油複合粉末を乳化分散してなる乳化液は、水膨潤性粘土が本来的に有する優れた機能性を享受することができる。一例としては、乳化液を化粧料やボディケア製品として使用すれば、べたつきがなく、滑らかで、さわやかな感触を実現でき、また、皮膚表面で伸びが良く、さらにクレンジング性能も有し、使用後の質感、仕上がり感も良好なものとすることができる。特にモンモリロナイト、サポナイト等のスメクタイトは、安価でありながらも上記のような好ましい使用感を付与することができ、また高分子増粘剤と同等の増粘効果を示し、化粧料を容器から取り出す際の液切れを良くする等の利点も付与することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を下記の実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は本発明で規定すること以外は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1~6]
表1に示される水膨潤性粘土を水中に2.5質量%の濃度で分散させた水分散液995gに、表1に示される油分5gを添加し、攪拌機(AS ONE製TORNADO SM-102)を使用して回転数1000rpmで10分間混合した。得られた混合物を湿式高圧処理機(株式会社美粒製NEW BERYU MINI)を用いた高圧ジェット流のせん断力により均質化し、水中油型乳化液を得た。このうちの500gを計り取り、表1に示される熱乾燥(約105℃)又は凍結乾燥に付した。こうして乳化性粘土油複合粉末15gを得た。
表1中、「スメクトン-SA」(クニミネ工業社製)は合成サポナイト、「クニピア-F」(クニミネ工業社製)はベントナイト、「スメクトン-SWN」(クニミネ工業株式会社製)は合成ヘクトライトである。
【0031】
[比較例1及び2]
2.5質量%の濃度でTWEEN 20が溶解した995gの水溶液にスクワラン5gを添加し、攪拌機(AS ONE製TORNADO SM-102)を使用して回転数1000rpmで10分間混合した。得られた混合物を湿式高圧処理機(株式会社美粒製NEW BERYU MINI)を用いた高圧ジェット流のせん断力により均質化し、水中油型乳化液を得た。このうちの500gを計り取り、熱乾燥(約105℃)又は凍結乾燥に付した。しかし、乾燥中に水とスクワランが分離して、粉末を得られなかった。
【0032】
実施例1~6の乳化性粘土油複合粉末の水和性及び再分散性を以下のように評価した。
【0033】
<水和性の評価>
農薬製剤ガイドCIPAC法MT53水和性試験方法に準拠し、水和性を評価した。まず、容量200mLのグリフィンビーカーに25℃の蒸留水100mLを入れて静止した。実施例1~6のそれぞれで得られた各乳化性粘土油複合粉末1.0gを圧縮しないよう注意しながらはかり取り、ビーカーの淵から一度に水面に落とした。このとき、水面に過度の衝撃を与えないように注意した。水和性粉末を水面に落とした時から水和性粉末が完全に水でぬれるまで(水面の粉末が水面に存在するままで毛細管現象によってぬれたり、水中に浸ったりして、すべての水和性粉末が水でぬれるまで)の時間を秒単位まで測定し、測定された時間を水和時間とした。
また、完全にぬれた後、水中への油分の遊離状態を観察した。
結果を以下の判定基準に当てはめ評価した。
【0034】
-水和時間-
A:5分未満
B:5分以上10分未満
C:10分以上30分未満
D:30分以上
【0035】
-油分の遊離-
A:油分の遊離が認められない。
B:油分の遊離が認められる。
【0036】
<再分散性の評価>
実施例1~6の乳化性粘土油複合粉末0.1gを水49.9g中に添加し、攪拌し、得られた混合液の状態を観察し、下記評価基準に当てはめ再分散性を評価した。
【0037】
-再分散性-
A:水中油型に乳化分散しており、沈殿が生じていない。
B:水中油型に乳化分散しており、わずかに沈殿が生じている。
C:乳化分散状態が形成されず、沈殿が生じている。
【0038】
<粒度分布の評価>
上記の再分散性の評価で調製した水中油型乳化液について、油分の湿式粒度分布を堀場製作所製 LA-950V2で測定し、以下の判定基準で評価した。
A:湿式粒度分布が単一ピークを示す。
B:湿式粒度分布が複数のピークを示す。
また、メディアン径(d50)を求めた。
【0039】
結果を下記表1に示す。
【0040】
【0041】
実施例1~6の乳化性粘土油複合粉末は、水膨潤性粘土と油分とが一体となった複合体であり、水になじみやすく、水への再分散性(自己乳化性)に優れていた。
また、再分散後の乳化液中の油分の粒度分布は単一ピークで単分散性を示し、この粒度分布は乾燥処理前の乳化液の粒度分布と類似するものであった。また、再分散後の乳化液中の油分の粒子径(d50)は十分に小さかった。これらの事実もまた、本発明の乳化性粘土油複合粉末が自己乳化性に優れていることを裏付けるものである。