(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】漢方薬の疾患に対する有効性の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/15 20060101AFI20240404BHJP
A61H 39/06 20060101ALI20240404BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
A61H39/06 320
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2020150206
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】518043184
【氏名又は名称】田 政
(73)【特許権者】
【識別番号】520345852
【氏名又は名称】米井 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田 政
(72)【発明者】
【氏名】米井 嘉一
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136053(JP,A)
【文献】特表2008-511555(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146230(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/023280(WO,A1)
【文献】特開2004-277357(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114075591(CN,A)
【文献】ZHENG, T. et al.,Meridian thermal stimulation diagnostic device.,GLYCATIVE STRESS RESEARCH,2020年03月31日,Vol.7/No.1,pp.50-69,doi:10.24659/gsr.7.1_50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
G01N 33/48-33/98
A61K 35/00-36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
漢方薬の疾患に対する有効性判定方法であって、
前記漢方薬を使用する前における前記疾患に罹患している被験者の身体の状態である第1状態において、
前記被験者の経絡に対応する体表面に温熱刺激を当て、前記温熱刺激が前記被験者の体表面のうち経絡に対応した位置に当てられてから、前記被験者が前記温熱刺激を感じるまでの第1時間を測定し、
次に、漢方薬を使用した後における前記被験者の身体の状態である第2状態において、
前記体表面と同じ体表面に温熱刺激を当て、前記温熱刺激が前記体表面に当てられてから、前記被験者が前記温熱刺激を感じるまでの第2時間を測定し、
前記第1時間及び前記第2時間の測定を12個の経絡において行い、
少なくとも一つの経絡において、前記第1時間が8秒未満又は12秒より大きい異常時間であり、且つ、前記第2時間が8秒以上12秒以下の正常時間である場合、前記漢方薬は前記疾患に対して有効であると判定する、ことを特徴とする漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【請求項2】
前記経絡は、太陰肺経、陽明大腸経、陽明胃経、太陰脾経、少陰心経、太陽小腸経、太陽膀胱経、少陰腎経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陽胆経、及び、厥陰肝経からなる12個の経絡であることを特徴とする請求項1に記載の漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【請求項3】
所定経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、前記所定経絡の左側での測定において第2時間が正常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第2時間が正常時間である場合、前記漢方薬は前記疾患に対して有効であると判定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【請求項4】
所定経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第1時間が正常時間であるが、前記所定経絡の左側での測定において第2時間が正常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第2時間が正常時間である場合、前記漢方薬は前記疾患に対して有効であると判定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【請求項5】
所定経絡の左側での測定において第1時間が正常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、前記所定経絡の左側での測定において第2時間が正常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第2時間が正常時間である場合、前記漢方薬は前記疾患に対して有効であると判定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【請求項6】
所定経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、前記所定経絡の左側での測定において第2時間が異常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第2時間が異常時間である場合、前記漢方薬は前記疾患に対して有効ではないと判定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【請求項7】
所定経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、前記所定経絡の左側での測定において第2時間が異常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第2時間が正常時間である場合、前記漢方薬は前記疾患に対して有効ではないと判定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【請求項8】
所定経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、前記所定経絡の左側での測定において第2時間が正常時間であり、前記所定経絡の右側での測定において第2時間が異常時間である場合、前記漢方薬は前記疾患に対して有効ではないと判定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【請求項9】
12個の経絡において、所定経絡においては試験対象の漢方薬は有効であると判定されるが、前記所定経絡と異なる経絡においては試験対象の漢方薬は有効ではないであると判定される場合、有効であると判定される経絡の数が有効ではないと判定される経絡の数よりも多い場合、前記漢方薬が前記疾患に対して有効であると判定する、ことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の漢方薬の疾患に対する有効性判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漢方薬の疾患に対する有効性の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
西洋医学の治療は原因療法あるいは対処療法である。病気の原因を除去するのが原因療法であり、原因が不明の場合は鎮痛剤を投与するのが対処療法である。漢方医学では、患者の状態全体から症状を把握する。病気は一つの臓器のものではなく体全体に影響を及ぼすものとして、全体的に判断する点に特徴がある。
【0003】
漢方薬は平成18年(2006年)施行の第十五日本薬局方に収載されて以降、局方の改正・追補毎に追加収載されてきた(非特許文献1)。また、1967年より漢方薬は薬価に収録され、保険適用の対象となった。漢方薬には西洋医薬に見られない特徴がある。漢方薬に対する保険適用の拡大・普及のためにも、漢方薬の評価に対するニーズは大きい。
【0004】
しかし、漢方薬は複数の生薬を含有し、その生薬も複数の化合物を有効成分として含有しているため、漢方薬に含まれる多数の化合物を特定してその薬理薬効をそれぞれ測定し漢方薬を評価する作業は困難を極める。
【0005】
経絡は、古代中国の医学において、人体の中の気血栄衛(代謝物質)の通り道として考え出されたものである。経は経脈を、絡は絡脈を表し、経脈は縦の脈、絡脈は横の脈を意味する。経脈は十二の正経と呼ばれるものと、八の奇経と呼ばれるものがある。正経は陰陽で分類され、陰は太陰、少陰、厥陰の三陰に、陽は太陽、陽明、少陽の三陽に分けられ、手、足それぞれに三陽三陰の属する経脈が割り振られて計十二脈になる。
【0006】
非特許文献2には、臨床において検査法および評価法の目的で用いた経絡テストの有用性が記載されている。この非特許文献2には、経絡テストによって全身から自覚していない不調を検出し、治療後の身体変化を自覚していない患者に対して経絡テスト陽性数を用いてその変化を示すことができたことが記載されている。
【0007】
非特許文献3には、内科疾患に対する鍼灸経絡治療の有用性が記載されている。この非特許文献3には、ある臓器が不調になるとその関連する経絡の気血の流れが悪くなるため、経絡に対応する体表の経穴を針や灸を用いて刺激することにより、気血の流れを調整することで体の歪みを治し臓腑の調子を整えることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】「現代医療における漢方薬」11頁、監修:日本生薬学会、2008年4月発行、(株式会社南江堂)
【文献】経絡テストの有用性 全日本鍼灸学会雑誌56(4), 636-643, 2006-08
【文献】内科疾患に対する鍼灸経絡治療の有用性 日医大医会誌2013; 9(4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、経絡に対する刺激を利用する漢方薬の疾患に対する有効性の判定方法は、開示されてはいない。
【0010】
本発明は、経絡に対する刺激を利用して漢方薬の疾患に対する有効性の判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる漢方薬の疾患に対する有効性判定方法は、前記漢方薬を使用する前における前記疾患に罹患している被験者の身体の状態である第1状態において、前記被験者の経絡に対応する体表面に温熱刺激を当て、前記温熱刺激が前記被験者の体表面のうち経絡に対応した位置に当てられてから、前記被験者が前記温熱刺激を感じるまでの第1時間を測定し、次に、漢方薬を使用した後における前記被験者の身体の状態である第2状態において、前記体表面と同じ体表面に温熱刺激を当て、前記温熱刺激が前記体表面に当てられてから、前記被験者が前記温熱刺激を感じるまでの第2時間を測定し、前記第1時間及び前記第2時間の測定を12個の経絡において行い、少なくとも一つの経絡において、前記第1時間が8秒未満又は12秒より大きく、且つ、前記第2時間が8秒以上12秒以下の場合がある場合、前記漢方薬は前記疾患に対して有効であると判定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易な手法により、漢方薬の疾患に対する有効性を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態にかかる経絡温熱刺激診断装置の概略図である。
【
図2】太陰肺経、陽明大腸経、陽明胃経、太陰脾経、少陰心経、太陽小腸経、太陽膀胱経、少陰腎経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陽胆経、及び、厥陰肝経からなる12個の経絡を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本発明にかかる試験対象である漢方薬の疾患に対する有効性判定方法は、まず、漢方薬を使用する前における疾患に罹患している被験者の身体の状態である第1状態において、被験者の経絡に対応する体表面に温熱刺激を当て、温熱刺激が被験者の体表面のうち経絡に対応した位置に当てられてから、被験者が温熱刺激を感じるまでの第1時間を測定する。
【0016】
次に、漢方薬を使用した後における被験者の身体の状態である第2状態において、体表面と同じ体表面に温熱刺激を当て、温熱刺激が体表面に当てられてから、被験者が温熱刺激を感じるまでの第2時間を測定する。
【0017】
これらの手順を12個の経絡において行い、それぞれにおいて第1時間及び第2時間の測定をする。
【0018】
その結果、少なくとも一つの経絡において、第1時間が8秒未満又は12秒より大きい異常時間であり、且つ、第2時間が8秒以上12秒以下の正常時間の場合、試験対象の漢方薬は疾患に対して有効であると判定する。
【0019】
被験者の経絡に対応する体表面に温熱刺激を当て、温熱刺激が被験者の体表面のうち経絡に対応した位置に当てられてから、被験者が温熱刺激を感じるまでの時間の測定については、
図1に示される経絡温熱刺激診断装置50を用いることができる。経絡温熱刺激診断装置50は、温熱刺激具1と、活動電位測定部2と、電源をオンオフするスイッチ3と、SDカード挿入口4と、情報を表示する画面5と、身体判定部6と、装置を冷却するための冷却ファン7と、時間測定部8と、本体10と、を有する。活動電位測定部2は、活動電位計算部21と、シグナル拡大部22と、貼付用測定切片23と、を有する。
【0020】
温熱刺激具1は、経絡に対応する被験者の体表面に当てられて被験者に温熱刺激を与える。温熱刺激具1は棒状構造であり、その先端部に例えばヒーターが設けられており、その先端部は例えば50℃~80℃にて発熱可能である。
【0021】
時間測定部8は、例えばタイマーであり、温熱刺激具1が被験者の体表面のうち経絡に対応した位置に当てられてから、被験者が温熱刺激具の温熱刺激を感じるまでの時間を測定する。例えば温熱刺激具1が被験者の体表面に当てられた時に時間の測定を開始し、次に被験者が温熱刺激を感じる旨の発言があった時に時間の測定を停止することで、温熱刺激具1が被験者に当てられてから、被験者が温熱刺激具の温熱刺激を感じるまでの時間を測定できる。
【0022】
なお、被験者が幼児や高齢者等の場合は、温熱刺激具1の温熱刺激を感じる旨の発言を適切に行うことができない虞もある。その場合は神経細胞や筋細胞の膜が温熱刺激に応じて活動電位を発生することを利用して、活動電位測定部2により被験者が温熱刺激を感じたか否かを判断することができる。例えば貼付用測定切片23を被験者の腕部や脚部に貼り付け、温熱刺激に対応して発生した活動電位をシグナル拡大部22により増幅し、活動電位計算部21により被験者の活動電位を計算する。
【0023】
身体判定部6は、時間測定部8により測定された時間が8秒以上12秒以下の場合(正常時間の場合)、被験者は正常であると判定する。しかし、時間測定部8により測定された時間が8秒より少ない場合又は12秒よりも多い場合(異常時間の場合)、被験者に疾患の存在の可能性を判定する。
【0024】
経絡は、太陰肺経、陽明大腸経、陽明胃経、太陰脾経、少陰心経、太陽小腸経、太陽膀胱経、少陰腎経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陽胆経、及び、厥陰肝経からなる12個の経絡である(
図2)。
【0025】
図2に示されるように、体の片側には12本ずつの経絡があり、それぞれ左右対称になっている。各経絡に沿って、ツボ(経穴)と呼ばれる特定のポイントがあり、気はそのポイントから体の表面へ流れている。下記にある経絡における左側と右側の判定が異なる場合を含めて説明をする。
【0026】
ある経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、その経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、その経絡の左側での測定において第2時間が正常時間であり、その経絡の右側での測定において第2時間が正常時間である場合、試験対象の漢方薬は疾患に対して有効である。
【0027】
ある経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、その経絡の右側での測定において第1時間が正常時間であるが、その経絡の左側での測定において第2時間が正常時間であり、その経絡の右側での測定において第2時間が正常時間である場合、試験対象の漢方薬は疾患に対して有効である。
【0028】
ある経絡の左側での測定において第1時間が正常時間であり、その経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、その経絡の左側での測定において第2時間が正常時間であり、その経絡の右側での測定において第2時間が正常時間である場合、試験対象の漢方薬は疾患に対して有効である。
【0029】
ある経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、その経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、その経絡の左側での測定において第2時間が異常時間であり、その経絡の右側での測定において第2時間が異常時間である場合、試験対象の漢方薬は疾患に対して有効ではない。
【0030】
ある経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、その経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、その経絡の左側での測定において第2時間が異常時間であり、その経絡の右側での測定において第2時間が正常時間である場合、試験対象の漢方薬は疾患に対して有効ではないと判定することができる。左右ともに正常時間ではないため有効性に疑問が残るからである。
【0031】
ある経絡の左側での測定において第1時間が異常時間であり、その経絡の右側での測定において第1時間が異常時間であるが、その経絡の左側での測定において第2時間が正常時間であり、その経絡の右側での測定において第2時間が異常時間である場合、試験対象の漢方薬は疾患に対して有効ではないと判定することができる。左右ともに正常時間ではないため有効性に疑問が残るからである。
【0032】
上記の結果を下記表1に示す。ここで○は正常時間を示し×は異常時間を示す。
【0033】
【0034】
次に、経絡は12個あるが、そのうちある経絡においては試験対象の漢方薬は有効であると判定されるが、その経絡と異なる経絡においては試験対象の漢方薬は無効であると判定される場合、有効であると判定される経絡の数が無効であると判定される経絡の数よりも多い場合のみ、試験対象の漢方薬は疾患に対して有効であると判定する。
【0035】
本発明の経絡温熱刺激診断装置50では、温熱刺激具1を12個全ての経絡に対応する被験者の体表面に当てて検査を行う。例えば
図3に示す被験者の体表面に温熱刺激具1を当てて検査を行うことが可能である。
【0036】
十二経脈の流れには一定の順序があり、
図4に示されるように、手太陰肺経から始まり、順に従って足厥陰肝経に至り、再び太陰肺経にもどる。もっとも検査を行う12個の経絡の順番は、特に限定されるものではない。手太陰肺経は肺に属し、大腸に絡し、手陽明大腸経は大腸に属し、肺に絡す。手厥陰心包経は心包に属し、三焦に絡し、手少陽三焦経は三焦に属し、心包に絡す。手少陰心経は心に属し、小腸に絡し、手太陽小腸経は小腸に属し、心に絡す。足太陰脾経は脾に属し、胃に絡し、足陽明胃経は胃に属し、脾に絡す。足厥陰肝経は肝に属し、胆に絡し、足少陽胆経は胆に属し、肝に絡す。足少陰腎経は腎に属し、膀胱に絡し、足太陽膀胱経は膀胱に属し、腎に絡す。即ち、肺経と大腸経、心包経と三焦経、心経と小腸経、脾経と胃経、肝経と胆経、腎経と膀胱経が、それぞれ相互に表裏を為している。
【0037】
太陰肺経において、中府、云門、天府、侠白、少商等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは少商である。
【0038】
陽明大腸経において、商陽、二間、三間、合谷、陽谿等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは商陽である。
【0039】
陽明胃経において、解渓、衝陽、陥谷、内庭、レイダ等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくはレイダである。
【0040】
太陰脾経において、隠白、大都、太白、公孫、商丘等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは隠白である。
【0041】
少陰心経において、青霊、少海、霊道、通里、陰ゲキ等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは陰ゲキである。
【0042】
太陽小腸経において少沢、前谷、後渓、腕骨、陽谷等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは少沢である。
【0043】
太陽膀胱経において金門、京骨、束骨、足通谷、至陰等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは至陰である。
【0044】
少陰腎経において湧泉、然谷、太渓、大鐘、水泉等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは湧泉である。
【0045】
厥陰心包経において間使、内関、大陵、労宮、中衝等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは中衝である。
【0046】
少陽三焦経において関衝、液門、中渚、陽池、外関等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは関衝である。
【0047】
少陽胆経において丘墟、足臨泣、地五会、キョウ渓、足キョウ陰等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは足キョウ陰である。
【0048】
厥陰肝経において大敦、行間、太衝、中封、レイ溝等から選択して温熱刺激具1を当てることが可能で有り、好ましくは大敦である。
【実施例】
【0049】
1.実施例1
被験者X1(女性、40歳)は、悪寒、子宮の冷え、むくみを訴えた。被験者X1は主として冷え症の症状と思われた。被験者X1に対して、温熱刺激具1を12個全ての経絡(太陰肺経、陽明大腸経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陰心経、太陽小腸経、太陰脾経、厥陰肝経、陽明胃経、少陽胆経、太陽膀胱経、及び、少陰腎経)に対応する被験者の左右それぞれの体表面に当てて検査を行った。表2に示すように、太陰肺経及び太陽膀胱経等に12秒より多い異常時間が認められた。被験者X1に桂枝茯苓丸(ツムラ漢方桂枝茯苓丸料エキス顆粒A)を処方した。桂枝茯苓丸は、月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症注)、肩こり、めまい、頭重、打ち身(打撲症)、しもやけ、しみ、湿疹・皮膚炎、にきび等に効用があるとされる。被験者X1が桂枝茯苓丸を服用後に測定したところ、太陰肺経及び太陽膀胱経ともに正常時間になった。これにより桂枝茯苓丸は冷え症の症状にも有効であることが示唆された。
【0050】
【0051】
2.実施例2
被験者X2(女性、29歳)は、悪寒、膀胱の冷え、月経不調、乳腺増大を訴えた。被験者X2は主として乳腺症の症状と思われた。被験者X2に対して、温熱刺激具1を12個全ての経絡(太陰肺経、陽明大腸経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陰心経、太陽小腸経、太陰脾経、厥陰肝経、陽明胃経、少陽胆経、太陽膀胱経、及び、少陰腎経)に対応する被験者の左右それぞれの体表面に当てて検査を行った。表3に示すように、陽明大腸経及び及び太陽膀胱経等に12秒より多い異常時間が認められた。被験者X2に当帰芍薬散(ツムラ漢方当帰芍薬散料エキス顆粒)を処方した。当帰芍薬散は、月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り等に効用があるとされる。被験者X2が当帰芍薬散を服用後に測定したところ、陽明大腸経では異常時間のままであった。太陽膀胱経では左側では正常時間であったが右側では異常時間のままであった。これにより当帰芍薬散は乳腺炎の症状には有効ではないことが示唆された。
【0052】
【0053】
3.実施例3
被験者X3(男性、66歳)は、悪寒、脾臓の冷え、頻繁な痰を訴えた。被験者X3は主として脾膿瘍の症状と思われた。被験者X3に対して、温熱刺激具1を12個全ての経絡(太陰肺経、陽明大腸経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陰心経、太陽小腸経、太陰脾経、厥陰肝経、陽明胃経、少陽胆経、太陽膀胱経、及び、少陰腎経)に対応する被験者の左右それぞれの体表面に当てて検査を行った。表4に示すように、太陰肺経及び陽明大腸経等に8秒より少ない異常時間が認められた。被験者X3に柴胡加竜骨牡蛎湯(ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯)を処方した。柴胡加竜骨牡蛎湯は、神経症、子どもの夜泣き、高血圧に伴う不眠、神経性の心悸亢進の改善等に効用があるとされる。被験者X3が柴胡加竜骨牡蛎湯を服用後に測定したところ、太陰肺経及び陽明大腸経ともに正常時間になった。これにより柴胡加竜骨牡蛎湯は脾膿瘍の症状にも有効であることが示唆された。
【0054】
【0055】
4.実施例4
被験者X4(女性、44歳)は、上熱下寒、崩漏(子宮の内部がただれて出血する病気)を訴えた。被験者X4は主として崩漏の症状と思われた。被験者X4に対して、温熱刺激具1を12個全ての経絡(太陰肺経、陽明大腸経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陰心経、太陽小腸経、太陰脾経、厥陰肝経、陽明胃経、少陽胆経、太陽膀胱経、及び、少陰腎経)に対応する被験者の左右それぞれの体表面に当てて検査を行った。表5に示すように、太陽膀胱経及び少陰腎経等に12秒より多い異常時間が認められた。被験者X4に補中益気湯(ツムラ補中益気湯)を処方した。補中益気湯は、胃腸虚弱、かぜ、寝汗、食欲不振等に効用があるとされる。被験者X4が補中益気湯を服用後に測定したところ、太陽膀胱経では異常時間のままであった。少陰腎経では左側では正常時間であったが右側では異常時間のままであった。これにより補中益気湯は崩漏の症状には有効ではないことが示唆された。
【0056】
【0057】
5.実施例5
被験者X5(女性、51歳)は、上熱下寒、膀胱の冷え、失眠、腰筋過労を訴えた。被験者X5は主として膀胱炎の症状と思われた。被験者X5に対して、温熱刺激具1を12個全ての経絡(太陰肺経、陽明大腸経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陰心経、太陽小腸経、太陰脾経、厥陰肝経、陽明胃経、少陽胆経、太陽膀胱経、及び、少陰腎経)に対応する被験者の左右それぞれの体表面に当てて検査を行った。表6に示すように、太陽膀胱経にその左側に12秒より多い異常時間が認められた。被験者X5に八味地黄丸(ツムラ八味地黄丸)を処方した。八味地黄丸は、頻尿・夜間頻尿、排尿困難、残尿感、軽い尿漏れ、腰痛、しびれ、かすみ目など、老化にともなう症状等に効用があるとされる。被験者X5が八味地黄丸を服用後に測定したところ、太陽膀胱経の左側では異常時間のままであり、右側では異常時間となった。これにより八味地黄丸は膀胱炎の症状には有効ではないことが示唆された。
【0058】
【産業上の利用可能性】
【0059】
漢方薬の疾患に対する有効性の判断に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1:温熱刺激具
2:活動電位測定部
3:スイッチ
4:SDカード挿入口
5:画面
6:身体判定部
7:冷却ファン
8:時間測定部
10:本体
50:経絡温熱刺激診断装置