(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】Staple核酸を利用したタンパク質翻訳反応の抑制法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240404BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240404BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/7088
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2020552638
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019042049
(87)【国際公開番号】W WO2020085510
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2018201074
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】勝田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 正規
(72)【発明者】
【氏名】井原 敏博
(72)【発明者】
【氏名】北村 裕介
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0046932(US,A1)
【文献】ROULEAU SG. et al.,Small antisense oligonucleotides against G-quadruplexes: specific mRNA translational switches,Nucleic Acids Research, 2015, Vol. 43, No. 1, p. 595-606
【文献】HAGIWARA, M. et al.,Antisense-Induced Guanine Quadruplexes Inhibit Reverse Transcription by HIV-1 Reverse Transcriptase,J. AM. CHEM. SOC., 2010,Vol.132,pp.11171-11178
【文献】RAJENDRAN, A. et al.,HIV-1 Nucleocapsid Proteins as Molecular Chaperones for Tetramolecular Antiparallel G-Quadruplex For,J. AM. CHEM. SOC., 2013,Vol.135,pp.18575-18585
【文献】GE, B. et al.,A Robust Electronic Switch Made of Immobilized Duplex/Quadruplex DNA,Angew. Chem. Int. Ed., 2010,Vol.49,pp.9965-9967
【文献】遠藤政幸 他,DNAオリガミを使った1分子解析,生物物理, 2013,vol.53, no.3,pp.153-157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一、第二、第三及び第四のグアニン繰り返し配列(それぞれ、第一G配列、第二G配列、第三G配列、第四G配列という)を含む標的RNAに対し、前記グアニン繰り返し配列を近づけてグアニン四重鎖構造を形成させるオリゴヌクレオチドであって、
(i)前記オリゴヌクレオチドの一端側の一部の領域(一端側領域)の核酸が前記第一G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、他端側の一部の領域(他端側領域)の核酸が前記第二G配列、第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(ii)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が前記第二G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、他端側領域の核酸が前記第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、又は
(iii)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が前記第三G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、他端側領域の核酸が前記第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズする、
前記オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
(i)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第一G配列と第二G配列との間の領域の配列であって前記第一G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第二G配列、第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(ii)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第一G配列と第二G配列との間の領域の配列であって前記第二G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(iii)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第二G配列と第三G配列との間の領域
の配列であって前記第二G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(iv)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第二G配列と第三G配列との間の領域
の配列であって前記第三G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第二G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(v)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第三G配列と第四G配列との間の領域の配列であって前記第三G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第二G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、又は
(vi)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第三G配列と第四G配列との間の領域の配列であっ
て前記第四G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第二G配列若しくは第三G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズする、
請求項
1に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
オリゴヌクレオチドの折り返しの方向がグアニン四重鎖構造側を向いてハイブリダイズするように設計される、請求項
1又は2に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
標的RNAがTPM3又はMYD88のmRNAである、請求項1~3のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
DNA
、RNA又は人工核酸である、請求項
1~4のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
ダイマーである、請求項
1~5のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
請求項
1~6のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドの製造方法であって、
(i)前記オリゴヌクレオチドの一端側の一部の領域(一端側領域)の核酸が前記第一G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、他端側の一部の領域(他端側領域)の核酸が前記第二G配列、第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(ii)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が前記第二G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、他端側領域の核酸が前記第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、又は
(iii)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が前記第三G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、他端側領域の核酸が前記第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズするように
設計し合成することを特徴とする前記
オリゴヌクレオチドの製造方法。
【請求項8】
(i)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第一G配列と第二G配列との間の領域の配列であって前記第一G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第二G配列、第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(ii)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第一G配列と第二G配列との間の領域の配列であって前記第二G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(iii)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第二G配列と第三G配列との間の領域
の配列であって前記第二G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第三G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(iv)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第二G配列と第三G配列との間の領域
の配列であって前記第三G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第二G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、
(v)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第三G配列と第四G配列との間の領域の配列であって前記第三G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第二G配列若しくは第四G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズし、又は
(vi)前記オリゴヌクレオチドの一端側領域の核酸が、前記第三G配列と第四G配列との間の領域の配列であっ
て前記第四G配列の近傍
の領域の配列とハイブリダイズし、前記他端側領域の核酸が、前記第一G配列、第二G配列若しくは第三G配列の近傍の領域の配列とハイブリダイズする、
請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
請求項
1~6のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド、又は請求項
7若しくは8に記載の方法により製造されたオリゴヌクレオチドを含む、タンパク質発現
又はRNAの逆転写反応抑制キット。
【請求項10】
タンパク質発現が、タンパク質翻訳反応である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド、又は請求項7若しくは8に記載の方法により製造されたオリゴヌクレオチドを含む、タンパク質発現又はRNAの逆転写反応抑制剤。
【請求項12】
タンパク質発現が、タンパク質翻訳反応である、請求項11に記載の抑制剤。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド、請求項7若しくは8に記載の方法により製造されたオリゴヌクレオチド、又は請求項11若しくは12に記載の抑制剤を含む、医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド、請求項7若しくは8に記載の方法により製造されたオリゴヌクレオチド、請求項9若しくは10に記載のキット、又は請求項11若しくは12に記載の抑制剤を使用することを特徴とするタンパク質発現又はRNAの逆転写反応を抑制する方法(ヒト体内での抑制を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列選択的に標的mRNA配列に結合し、標的mRNA上にグアニン四重鎖構造の形成を誘発することによりリボゾームのペプチド合成反応を阻害し、タンパク質翻訳反応を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNAやsiRNAなど様々な遺伝子発現抑制技術が知られている1,2(非特許文献1、2)。しかし、いずれの技術に関してもmRNAに結合するという単純な機構で遺伝子発現抑制機能を発揮するため、予期せぬ効果(オフ・ターゲット効果)が避けられない3(非特許文献3)。また、導入核酸の細胞内安定性向上を目的として修飾核酸を使用すると、マイクロRNA効果やsiRNA活性が著しく低下し、期待するタンパク質発現抑制効果が得られない問題も生じる4(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Fire, A.; Xu, S.; Montgomery, M. K.; Kostas, S. A.; Driver, S. E.; Mello, C. C. Nature 1998, 391, 806.
【文献】Ambros, V. Nature 2004, 431, 350.
【文献】Jackson, A. L.; Linsley, P. S. Nature reviews. Drug discovery 2010, 9, 57.
【文献】Jackson, A. L.; Burchard, J.; Leake, D.; Reynolds, A.; Schelter, J.; Guo, J.; Johnson, J. M.; Lim, L.; Karpilow, J.; Nichols, K.; Marshall, W.; Khvorova, A.; Linsley, P. S. Rna 2006, 12, 1197.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
創薬を視野に入れた核酸医薬を開発するには、生体内で安定な修飾核酸が利用可能であり、且つ、オフ・ターゲット効果が生じにくいタンパク質翻訳抑制技術を採用することが求められる。
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、Staple核酸と呼ばれるオリゴマーを用いることにより、配列選択的にグアニン四重鎖を形成させ、ひいてはタンパク質合成を抑制することに成功し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)第一、第二、第三及び第四のグアニン繰り返し配列(それぞれ、第一G配列、第二G配列、第三G配列、第四G配列という)を含む標的RNAに対し、前記グアニン繰り返し配列の近傍にハイブリダイズするオリゴマーを用い、当該オリゴマーの折り返しにより前記グアニン繰り返し配列を近づけてグアニン四重鎖構造を形成させることによりタンパク質発現を抑制する方法であって、
前記オリゴマーの一端側の一部の領域(一端側領域)の核酸及び他端側の一部の領域(他端側領域)の核酸が、第一G配列と第二G配列との間であってそれぞれ第一G配列の近傍及び第二G配列の近傍、第二G配列と第三G配列との間であってそれぞれ第二G配列の近傍及び第三G配列の近傍、又は第三G配列と第四G配列との間であってそれぞれ第三G配列の近傍及び第四G配列の近傍にハイブリダイズする、前記方法。
(2)前記オリゴマーは、その折り返しの方向がグアニン四重鎖構造側を向いてハイブリダイズするように設計される、(1)に記載の方法。
(3)標的RNAがmRNA、TPM3又はMYD8である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)オリゴマーがDNA又はRNAである、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)オリゴマーがダイマーである、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)タンパク質発現が、逆転写反応又はタンパク質翻訳反応である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)第一、第二、第三及び第四のグアニン繰り返し配列(それぞれ、第一G配列、第二G配列、第三G配列、第四G配列という)を含む標的RNAに対し、前記グアニン繰り返し配列を近づけてグアニン四重鎖構造を形成させるオリゴマーであって、
前記オリゴマーの一端側の一部の領域(一端側領域)の核酸及び他端側の一部の領域(他端側領域)の核酸が、第一G配列と第二G配列との間であってそれぞれ第一G配列の近傍及び第二G配列の近傍、第二G配列と第三G配列との間であってそれぞれ第二G配列の近傍及び第三G配列の近傍、又は第三G配列と第四G配列との間であってそれぞれ第三G配列の近傍及び第四G配列の近傍にハイブリダイズして、その折り返しにより前記グアニン繰り返し配列を近づけるものである、
前記オリゴマー。
(8)前記折り返しの方向がグアニン四重鎖構造側を向いてハイブリダイズするように設計される、(7)に記載のオリゴマー。
(9)DNA又はRNAである、(7)又は(8)に記載のオリゴマー。
(10)ダイマーである、(7)~(9)のいずれか1項に記載のオリゴマー。
(11) (7)~(10)のいずれか1項に記載のオリゴマーの製造方法であって、
オリゴマーの一端側の一部の領域(一端側領域)の核酸及び他端側の一部の領域(他端側領域)の核酸が、第一G配列と第二G配列との間であってそれぞれ第一G配列の近傍及び第二G配列の近傍、第二G配列と第三G配列との間であってそれぞれ第二G配列の近傍及び第三G配列の近傍、又は第三G配列と第四G配列との間であってそれぞれ第三G配列の近傍及び第四G配列の近傍にハイブリダイズするように設計し合成することを特徴とする前記方法。
(12) (7)~(10)のいずれか1項に記載のオリゴマー、又は(11)に記載の方法により製造されたオリゴマーを含む、タンパク質発現抑制キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、配列選択的に標的mRNA配列に結合(ハイブリダイズ)するオリゴマーの設計法を開発し、設計されたオリゴマーを用いて標的mRNAに安定なグアニン四重鎖構造を誘起することで、リボゾームのペプチド合成反応を阻害することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】グアニン四重鎖(G-quadruplex)の概要図である。(a)G-quadruplexの構造。グアニン繰り返し領域が4本近接することによってG-quadruplex構造を形成する。(b)G-quadruplex形成ルール。核酸の熱安定性に基づく高次構造予測によるとグアニンが3塩基以上繰り返し、グアニン繰り返し配列同士をつなぐ塩基数が7塩基以下の場合G-quadruplexを構築すると言われている。(c)mRNA中においてG-quadruplexを構築するとリボソームのペプチド伸長反応が阻害され、結果、タンパク質合成反応が抑制されることが知られている。
【
図2】DNAオリガミ法の概要を示す図である。(a)1本鎖環状DNAに226本の短いDNA鎖を混ぜてアニーリングすることによって任意のDNAナノ構造体を作ることができる。(b)作製したナノ構造体を高速原子間力顕微鏡(高速AFM)で観察した結果。
【
図3】Thioflavin Tを用いたG-quadruplexの形成を確認した検討結果を示す図である。(a)Thioflavin Tの化学構造式。(b)2+2 100nt型および2+2 100nt mutA型テンプレートRNAの配列。赤文字:近接させるグアニン繰り返し配列。およびアデニン繰り返し配列。(c)staple核酸を導入した後の構造イメージ。グアニン繰り返し配列が近接することでG-quadruplexを構築する。(d)蛍光シグナルを測定した結果。
【
図4】ストップアッセイ評価の概要を示す図である。(a)ストップアッセイの原理。RNA G-quadruplexは逆転写酵素の伸長反応を停止させる。従って逆転写酵素が止まった位置までにできたcDNAの塩基配列を解読することで、RNA G-quadruplexが構築されている位置を確認できる。(b)2+2 100nt RNAを用いたストップアッセイの結果。inside loop2以外はRNA G-quadruplexの存在を示す顕著なピークを確認することができた。(c)グアニンの柱同士を繋ぐループ塩基の長さを変えた場合のストップアッセイの結果。(d)1+3 100nt RNA型をストップアッセイで評価した結果。(d)導入するstaple核酸をDNAからRNAに変えた結果。
【
図5】in vitro translationアッセイの概要を示す図である。(a)5’UTR領域に2+2 100nt RNA等様々なパターンの評価対象をFirefly Luciferaseの上流に配置し、Staple核酸によるタンパク質発現抑制効果を評価した結果。(b)2+2 100nt RNAを対象にしたin vitro translationアッセイの結果。(c)全てのパターンのmRNAに対してin vitro translationアッセイを行った結果。
【
図6】天然配列を標的としたStaple核酸の評価実験の結果を示す図である。(a)評価に用いたTPM3とMYD88の配列。(b)TPM3およびMYD88を対象としたストップアッセイの結果。Staple核酸の存在によりRNA G-quadruplexが構築されていることがわかる。(c)TPM3およびMYD88を標的としたin vitro translationアッセイの結果。いずれもStaple核酸の存在でタンパク質発現量が減少していることがわかる。(d)細胞内におけるstaple核酸の機能評価を行うための評価対象のデザイン。IRESが存在することで5’末端、およびIRESの二ヶ所からリボソームが侵入し、タンパク質が合成される。(e)細胞内タンパク質翻訳アッセイの結果。
【
図7】Staple核酸を逆向きに連結したときの評価実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、第一、第二、第三及び第四の4つのグアニン繰り返し配列を有するRNAに対し、前記グアニン繰り返し配列の近傍領域にハイブリダイズするオリゴマーを用いて前記グアニン繰り返し配列を近づけてグアニン四重鎖構造を形成させることにより、タンパク質発現を抑制する方法に関する。
【0010】
mRNA上に存在する安定なグアニン四重鎖構造(G-quadruplex構造ともいう)は、リボソームのペプチド伸長反応を阻害することが知られている。任意のmRNA上に、人為的にG-quadruplex構造を誘起することが出来れば、疾病に関連するタンパク質の発現量を抑制することが可能となる。本発明は,DNA origami技術を応用し,配列選択的に標的mRNAを捉えて折りたたみ、標的mRNA上に安定なG-quadruplex構造を誘起することで,標的mRNA選択的にタンパク質の翻訳を抑制する新規核酸医薬の設計法を提供するものである。
【0011】
本発明において使用されるオリゴマーは、その一端側の一部の領域(一端側領域)の核酸及び他端側の一部の領域(他端側領域)の核酸が、RNAの第一のグアニン繰り返し配列(第一G配列という)、第二のグアニン繰り返し配列(第二G配列という)、第三のグアニン繰り返し配列(第三G配列という)及び第四のグアニン繰り返し配列(第四G配列という)において、それぞれ、第一G配列と第二G配列、第二G配列と第三G配列、及び第三G配列と第四G配列の近傍領域の核酸にハイブリダイズするものである。このオリゴマーを、本発明では、「Staple核酸」ともいう。
【0012】
本発明の方法が細胞内で機能するには,核酸の配列認識能とG-quadruplex構造形成能を同時に満たす必要があり,これまでの核酸医薬を凌駕する標的選択性が実現できる。本発明の有用性は、モデル配列を利用した検証により、(1)グアニン繰り返し領域の長さや配列に関わらずStaple核酸を導入することでRNA G-quadruplexが構築されること、(2)誘起されたG-quadruplex構造が、逆転写酵素の伸長反応やリボソームのタンパク質翻訳反応を抑制することにより証明した。また,がん関連遺伝子であるTMP3とMYD88 mRNAの5’UTRに存在するグアニンクラスターを折りたたみ,タンパク質合成を阻害できることが,無細胞系発現システムおよび哺乳動物細胞を用いた発現評価により確認できた。
【0013】
本発明においては、タンパク質の翻訳抑制機構にRNA四重鎖構造であるRNA G-quadruplex構造に着目した(
図1(a))。RNA G-quadruplex構造は、3塩基以上のグアニン連続配列が、7塩基未満の近接したスペーシングで4箇所存在する時に構築される安定なRNA高次構造である(
図1(b))
5。このRNA G-quadruplex構造がmRNAの5’非翻訳領域(5’UTR)に存在すると、リボソームのタンパク質合成反応を抑制する(
図1(c))
6。
【0014】
近年、本発明者は7塩基以上のスペーシングで存在するグアニン連続配列が、RNA G-quadruplex構造を構築することを見い出した7。この事実は、mRNAが形成する高次構造により、一次配列で離れた位置にあるグアニン連続配列が空間的に近接し、RNA G-quadruplex構造を形成していることを示すものである。この知見を基に、本発明者は、離れた位置に存在するグアニン連続配列を空間的に近接させ、標的とするmRNA上に人為的なRNA G-quadruplex構造を誘起させる本発明の方法を考案した。
【0015】
ところで、7000塩基を超える一本鎖環状DNAを、設計された200本程度の30塩基強の短鎖DNA(Staple oligomer)と自己集合させることでナノ構造体を作る技術であるDNA origami法が知られている(
図2)
8。この技術のStaple oligomerは、一本鎖環状DNAの離れた位置に存在している配列を手繰り寄せ、コンパクトな構造体を形成する。この技術に習い、標的mRNA上のグアニン連続配列を近接させるStaple核酸を設計・導入すれば、標的mRNA上にG-quadruplex構造を誘起することが期待され、結果、タンパク質翻訳反応を抑制することが可能となる。そこで本発明では、人為的なRNA G-quadruplex構造の誘起に、DNAナノ構造体の作製法であるDNA origami法を応用することができる。
【0016】
前記の通り、グアニン繰り返し領域が4本近接すると、G-quadruplex構造を形成する(
図1a)。本発明においては、RNA上に存在する4か所のグアニン繰り返し領域を近づけるため、所定のオリゴマーを用いる。このオリゴマーは、第一のグアニン繰り返し配列と第二のグアニン繰り返し配列、第二のグアニン繰り返し配列と第三のグアニン繰り返し配列、又は第三のグアニン繰り返し配列と第四のグアニン繰り返し配列とを近づけて全体として4か所のグアニン繰り返し配列が近接するように機能するオリゴマーであり、本明細書では「Staple核酸」という。
【0017】
ここで、標的RNAとしては、例えばmRNA、TPM3、MYD8などが挙げられる。TPM3とは、筋収縮に関連する遺伝子であり、MYD8とは、Tollおよびインターロイキン(IL)1受容体シグナル伝達を媒介するアダプタータンパク質である。
標的となるRNAに含まれるグアニン繰り返し配列は、4か所に限らず、5か所以上含まれていてもよい。また、第一、第二、第三及び第四のグアニン繰り返し配列は、4か所以上のグアニン繰り返し配列から任意に選択される4か所の配列を意味し、必ずしも、連続する4か所のグアニン繰り返し配列にG-quadruplex構造を形成させることを意味するものではない。例えば、あるRNAに6か所のグアニン繰り返し配列が存在すると仮定すると、5’側から順に第1、第2、第3及び第4番目のグアニン繰り返し配列によりG-quadruplex構造を形成させてもよく、第1、第2、第5及び第6番目のグアニン繰り返し配列によりG-quadruplex構造を形成させることもできる。要するに、G-quadruplex構造を形成してRNAのタンパク質発現が抑制される限り、4か所のグアニン繰り返し単位の位置は不問である。
ここで、本発明においてタンパク質発現の抑制とは、例えばmRNAからの逆転写反応の抑制、RNAからタンパク質への翻訳反応の抑制などが含まれる。
【0018】
図3(b)は、第一及び第二のグアニン繰り返し配列(図の左から1番目及び2番目の「●●●」印)、並びに第三及び第四のグアニン繰り返し配列(図の左から3番目及び4番目の「●●●」印)が互いに近接しており、第二のグアニン繰り返し配列と第三のグアニン繰り返し配列とが100ヌクレオチドの長さを有する態様を示す。
図3bにおいて、左から1番目のグアニン繰り返し配列を第一G配列、左から2番目のグアニン繰り返し配列を第二G配列、左から3番目のグアニン繰り返し配列を第三G配列、左から4番目のグアニン繰り返し配列を第四G配列とすると、第二G配列と第三G配列との間が離れているため、この領域を折りたたんで第二G配列と第三G配列とを近づけるようにする。
【0019】
そこで、Staple核酸は、その一端側(例えば3’側)の一部の領域の核酸が第二G配列のすぐ下流の領域の核酸とハイブリダイズし、他端側(例えば5’側)の一部の領域の核酸が第三G配列のすぐ上流の領域の核酸とハイブリダイズするように設計する。この場合、前記一端側領域及び他端側領域の核酸は、折り返し方向(凸側)がG-quadruplex構造側を向くようにハイブリダイズする。Staple核酸がRNAとハイブリダイズする領域は、RNAの種類に応じて適宜設計することができる。例えば
図3bに示すRNAに対してStaple核酸を設計する場合は、第二G配列の下流側の13~20塩基塩基の領域から、ハイブリダイズする領域として13~20塩基の領域を選択し、また、第三G配列の上流側の13~20塩基塩基の領域から、ハイブリダイズする領域として13~20塩基の領域を選択すればよい。他の領域に対するStaple核酸を設計する場合も同様である。
Staple核酸は、DNAであってもよく、RNAであってもよい。Staple核酸の長さは、26~40ヌクレオチド長である。Staple核酸がRNAにハイブリダイズする領域の長さは、前記一端側領域及び他端側領域の長さが同じであっても異なってもよく、限定されるものではない。Staple核酸は、市販の核酸合成装置を用いることにより容易に得ることができる。
【0020】
このように設計されたStaple核酸を用いて、グアニン繰り返し配列を近接させた態様を
図4に示す。
図4bにおいて、「Inside loop 1」の態様は、Staple核酸の両端側の一部のがRNAにハイブリダイズするとともに、Staple核酸の折り返し(折り畳み)方向がグアニン四重鎖構造側を向いている。
図4では、折り返し方向は理解しやすくするためにループ状で表示してあるが、本発明のStaple核酸は、RNAにハイブリダイズする一方の領域と他方の領域との境界を支点として折り返される。
図4bにおいて、「Outside loop」の態様もInside loop 1と同様であり、Staple核酸の両側の一部の領域がRNAにハイブリダイズするとともに、折り返し方向(ループ状に表示してある部分の凸側(外周側))がG-quadruplex構造側を向いている。また本発明においては、Staple核酸は1本鎖である必要はなく、2本以上が結合又はハイブリダイズしてダイマー、トリマー等を形成することもできる。
図4bにおいて、「Dimer]の態様は、2本のStaple核酸により構成されており、RNAにハイブリダイズしない領域同士(1又は複数の塩基)がハイブリダイズして折り返し領域を形成するとともに(図では折り返し領域は複数の塩基で例示してある)、全体としてダイマーを形成している。このダイマー型Staple核酸においては、両側の一部の領域がRNAにハイブリダイズするとともに、折り返し部がG-quadruplex構造側を向いている。
【0021】
上記のとおり設計されたStaple核酸とRNAとの反応、すなわち、G-quadruplex構造の形成反応は、例えば、RNAを含む溶液中にStaple核酸を混合して、アニーリングすることにより行うことができる。あるいはRNAを含む溶液中にStaple核酸を単に混ぜるだけでもよい。あるいはShort hairpin expression vectorを導入し、細胞内からStaple核酸を発現させることで行うことができる。RNAとStaple核酸との反応時間は、例えば1分(試験管実験)~2日(細胞実験)であり、反応温度は例えば24~55℃である。G-quadruplex構造が形成されたことの確認は、例えば実施例に示されるin vitroトランスレーションアッセイのほか、チオフラビンTと反応させることによる蛍光シグナル測定法、ストップアッセイ法などにより行うことができる。
【0022】
本発明の方法により設計されたStaple核酸は、タンパク質発現抑制に使用されることから、タンパク質発現抑制キットに含めることができる。従って、本発明は、前記オリゴマー(Staple核酸)を含む、タンパク質発現抑制キットを提供する。本発明のキットには、前記オリゴマーのほか、緩衝液、PCR用試薬、in vitro translation用試薬、ルシフェラーゼ、使用説明書などを含めることができる。
【0023】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
1.材料
(1)DNAオリゴヌクレオチド
DNAオリゴヌクレオチドはユーロフィンジェノミクス株式会社、Integrated DNA Technologies株式会社、Thermo Fisher Scientific株式会社より購入した。すべてのサンプルはOPC精製または脱塩されており、RNA G-quadruplexの形成や存在位置の確認やin vitroにおけるタンパク質翻訳反応阻害効果を評価するために使用した。
【0025】
2.方法
(1)2+2_100nt RNA、2+2_100nt_Mut A RNAの準備とThioflavin Tを用いたRNA G-quadruplex形成の確認
下記ヌクレオチドを用いてアニールエクステンションを行った。
5’-TAATACGACTCACTATAGATTAGCATACGCTACTGCAGATGCGC-3’(配列番号1)
5’-GCTGAATAGCTTGCAAGTCATGGCATGCGCATCTGCAGTAGCGT-3’ (配列番号2)
【0026】
伸長されたヌクレオチドを鋳型として、以下のプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物は、pMD19 vector(タカラバイオ.)にクローニングした。
フォワードprimer:5’-TAATACGACTCACTA TAG-3’(配列番号3)
リバースprimer:5’- TCCAACTATGTATACCTGCTGAATAGCTTGCAAGTC-3’ (配列番号4)
【0027】
そして、上記で作製したplasmid DNAを鋳型とし、以下のプライマーを用いてPCR増幅を行い、insert DNAを作製した。
フォワードprimer:5’-CTATAGTGAGTCGTATTAAATCGTCGAACGGCAGG-3’ (配列番号5)
リバースprimer:5’-CAGGTATA CATAGTTGGAAATCTCTGGAAGATCCG-3’ (配列番号6)
【0028】
また、下記配列を有するヌクレオチドを鋳型及びプライマーとして用いてPCR増幅を行い、linear vectorを作製した。
鋳型:
5’-ACACAGGAAACAGCTATGACCATGATTACGCCAAGTTTGCACG CCTGCCGTTCGACGATTTAATACGACTCACTATAGATTAGCATACGCTACTGCAGTGGGTGGGTGTCGACCTAGATTAATGCAATTCGTACGAAGTTCATAGCATTTCCAGCACCCAATTGAAGCTTTGGGTGGGTGCATGCCATGACTTGCAAGCTATTCAGCAGGTATACATAGTTGGAAATCTCTGGAAGATCCGCGCGTACCGAGTTCTAATTCACTGGCCGTCGTTTTACAACGTCGTGACTGGGAAAACCCTGGCGTTACCCA-3’ (配列番号7)
フォワードprimer:5’-TAATACGACTCACTATAGAA-3’ (配列番号8)
リバースprimer:5’-TCCAACTATGTATAC CTG-3’ (配列番号9)
【0029】
そして、HiFiAssembly(NEB)を用いて作製したinsert DNA とlinear vectorを繋げた(pMD19-2+2_63nt)。さらに、pUC19 vector(タカラバイオ.)を鋳型にし、以下のプライマーを用いてPCR増幅を行い、insert DNAを作製した。
フォワードprimer:5’-CCTAGATTAATGCAATTC GTGTGAAGATCCTTTTTGATAATCTCATGAC-3’ (配列番号10)
リバースprimer:5’-TCAATTGGGTGCT GGAAATGAACTCACGTTAAGGGATTTTGGTCATGAG-3’ (配列番号11)
【0030】
また、pMD19-2+2_63ntを鋳型にし、以下のプライマーを用いてPCR増幅を行い、linear vectorを作製した。
フォワードprimer:5’-CATTTCCA GCACCCAATTGAAGCTT-3’ (配列番号12)
リバースprimer:5’-ACGAATTGCATTAATCTAG GTCGAC-3’ (配列番号13)
【0031】
そして、HiFiAssembly(NEB)を用いて作製したinset DNAとlinear vectorを繋げた(pMD19-2+2_100nt)。
【0032】
作製したpMD19-2+2_100ntを鋳型として、以下のプライマーを用いてPCRにより2+2_100ntを増幅し、pIRES vector(タカラバイオ.)のEcoR Iサイトにクローニングした。
フォワードprimer:5’- CTAGCCTCGAGAATTGATTAGCAT ACGCTACTGC-3’ (配列番号14)
リバースprimer:5’- CCATGGTGGCGAATTCTGAATAGCTTGCAAGTC AT-3’ (配列番号15)
【0033】
GGGからAAAへの変異体である2+2_100nt_Mut Aでは鋳型DNA、フォワードprimer、リバースprimerに、以下の配列のものを用いてそれぞれアニールエクステンションを行い、得られた産物をPCRによって繋いだ(2+2_100nt_Mut A)。
(i) MutA-1
鋳型:5’-AGGGATTAGCATACGCTACTGCAGTAAAT AAATGTCGACCTAG-3’(配列番号16)
フォワードprimer:5’-CGGTACCCGGGGATCTAATACGACTCACTATAGGGAT TAGC-3’(配列番号17)
リバースprimer:5’-CACGAATTGCATTAATCTAGGTCGAC-3’(配列番号18)
(ii) MutA-2
鋳型:pMD19-2+2_100nt
フォワードprimer:5’-GTCGACCTAGATTAATGCAATTCGTG-3’(配列番号19)
リバースprimer:5’-AAGCTTCAATTGGGTGCTGGAA ATG-3’(配列番号20)
(iii) MutA-3
鋳型:5’-ATTGAAGCTTTAAATAAATGCATGCCATGACTTGCAAG-3’(配列番号21)
フォワードprimer:5’-CATTTCCAGCACCCAATTGAAGCTT-3’(配列番号22)
リバースprimer:5’-CGACTCTAGAGGATCCTGAATAGCTT GCAAGTCAT-3’(配列番号23)
【0034】
これをpUC19 vector(タカラバイオ.)のBamH Iサイトにクローニングした(pUC19-2+2_100nt_Mut A)。すべてのPCR産物は1%アガロースゲル電気泳動後、切り出し精製を行った。作製したpIRES-2+2_100ntおよびpUC19-2+2_100nt_Mut Aを鋳型とし、以下のいずれかのプライマーを用いてPCR増幅によりRNA転写に用いるlinear dsDNAsを準備した。
フォワードprimer:5’-TAATACGACTCACTATAGG GCTAGCCTCGAG-3’ (配列番号24)
リバースprimer:5’-CCATGGTGGCGAATTCTGAATAGCTTGCAAGTCAT-3’ (配列番号25)
または
フォワードprimer:5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’ (配列番号26)
リバースprimer: 5’-CGACTCTAGAGGATCCTGAATAG CTTGCAAGTCAT-3’ (配列番号27)
【0035】
さらに、このdsDNAsを鋳型としてRiboMAXTM Large Scale RNA Production System-T7(Promega)を用いてdsDNAsからRNAsを転写した。残ったNTPsを除去するためにRNAsはNAP-5カラムを用いて精製した。作製したRNA(400 nM)、KCl(40 mM)、20 mM Tris-HCl buffer(pH 7.6)、Staple(500 nM)またはmilliQ(control)となるように測定溶液を調製し、90℃で2分間インキュベートし、毎分1℃の速さで20℃まで温度を下げた。その後、200 nM ThTとなるようにThTを添加して室温で30分間インキュベートし、FP-8500 spectrofluorometer(JASCO)を用いて440 nmの光で励起させ、487 nmの蛍光を測定した。測定波長は450 nm~700 nmの範囲で測定を行った。
【0036】
(2)人工配列(2+2_100nt)および天然遺伝子(TPM3、MYD88)の5’UTR配列を用いたStop Assay
human genomic DNA(Novagen)を鋳型にし、以下のプライマーを用いてTPM3-5’UTRとMYD88-5’UTRの PCR増幅を行った。
フォワードprimer:5’-GTCACATCC GGGCGGGTTGGTGAGT-3’(配列番号28)
リバースprimer:5’-GGTGCCCACCCAGCTACTGCTCGCG-3’(配列番号29)
または
フォワードprimer:5’-AGATTCCTACTTCTTACGCCCCCCA-3’(配列番号30)
リバースprimer:5’-TGTCTGCCAGCGCTTCCTCTTTCTC-3’(配列番号31)
【0037】
得られたPCR産物を鋳型にして以下のプライマーを用いてさらにPCR増幅を行い、得られたPCR産物をpMD19 vector(タカラバイオ.)にクローニングした(pMD19-TPM3、pMD19-MYD88)。
フォワードprimer:5’-TAATACGACTCACTATAGGTCACATCCGG GCGGGTTGGTGAGT-3’(配列番号32)
リバースprimer:5’-TCCAACTATGTATACCTGGGTGCCCACCCAGCTACT GCTCGCG-3’(配列番号33)
または
フォワードprimer:5’-TAATACGACTCACTATAGAGATTCCTACTTCTTACGCCCCC CA-3’(配列番号34)
リバースprimer:5’-TCCAACTATGTATACCTGTGTCTGCCAGCGCTTCCTCTTTCTC-3’(配列番号35)
【0038】
pMD19-5’UTR (2+2_100nt、TPM3、MYD88)を鋳型として、以下のプライマーを用いてPCR増幅を行い、RNA転写に用いるlinear dsDNAsを準備した。
フォワードprimer:5’-ACACAGGAAACAGCTATGACCATGATTACGC CAAG-3’(配列番号36)
リバースprimer:5’-TGGGTAACGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTG-3’(配列番号37)
【0039】
さらに、このdsDNAsを鋳型とし、HiScribe T7 High Yield RNA Synthesis Kit(NEB)を用いてdsDNAsからRNAsを転写した。転写したRNAsはAfter Tri-Reagent RNA Clean-Up Kit(チヨダサイエンス)を用いて精製した。
RNA(0.3 μM)と5’-FAM-labeled 3’-DNA primer(0.1 μM)、Staples(1 μM)を含む溶液を80℃で3分間インキュベートし、30分かけて30℃まで温度を下げた。この溶液にReverTra Ace reverse transcriptase(TOYOBO)、MgCl2、dNTPsを加えて30分間逆転写反応を行い、得られた逆転写産物をABI3500キャピラリーDNAシーケンサー(ライフテクノロジーズジャパン)によりフラグメント解析を行った。
【0040】
(3)人工配列(2+2_100nt)および天然遺伝子(TPM3、MYD88)の5’UTR配列を用いたin vitro translation
psiCHECK-2 vector(タカラバイオ.)を鋳型とし、以下のプライマーを用いてFirefly luciferase(F.L.)のPCR増幅を行い、得られたPCR産物をpIRES vector(タカラバイオ.)のEcoR Iサイトにクローニングした(pIRES-F.L.)。
フォワードprimer:5’-CTAGCCTCGAGAATT CGCCACCATGGCCGATGCTAAGAAC-3’(配列番号38)
リバースprimer: 5’- CTCGACGCGTGAATTTT ACACGGCGATCTTGCC-3’(配列番号39)
【0041】
フォワードprimerはクローニング後にF.L.の上流にEcoR Iサイトが復活するように設計した。5’UTR (2+2_100nt、TPM3、MYD88)はpMD19-5’UTR(2+2_100nt、TPM3、MYD88)を鋳型として、以下のプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物をpIRES-F.L. vectorのEcoR Iサイトにクローニングした(pIRES-5’UTR-F.L.(5’UTR:2+2_100nt、TPM3、MYD88))。
フォワードprimer:5’-CTAGCCTCGAGAATTGAT TAGCATACGCTACTGC-3’ (配列番号40)
リバースprimer:5’-CCATGGTGGCGAATTCTGAATAGCTTGCAAGTC AT-3’ (配列番号41)
または
フォワードprimer:
5’-CTAGCCTCGAGAATTTCACATCCGGGCGGGTTG-3’ (配列番号42)若しくは
5’-CTAGCCT CGAGAATTAGATTCCTACTTCTTACGCC-3’ (配列番号43)
リバースprimer:5’-CCATGGTGGCGAATTGTTTTCCC AGTCACGACG-3’ (配列番号44)
【0042】
すべてのPCR産物は1%アガロースゲル電気泳動後、切り出し精製を行った。pIRES-5’UTR-F.L.を鋳型とし、以下のプライマーを用いたPCR増幅によりRNA転写に用いるlinear dsDNAsを準備した。
フォワードprimer:
5’-TAATACGACTCACTATAGGGCTAGCCT CGAG-3’ (配列番号45)
5’-TAATACGACTCACTATAGGGTCACATCCGGG-3’ (配列番号46)または
5’-TAATACGACTCACTATAGGGAGATTCCTAC-3’ (配列番号47)
リバースprimer:5’-CTCGACGCGTGAAT TTTACACGGCGATCTTGCC-3’ (配列番号48)
【0043】
さらに、このdsDNAsを鋳型としてRiboMAXTM Large Scale RNA Production System-T7(Promega)を用いてdsDNAsからRNAsを転写した。残ったNTPsを除去するためにRNAsはNAP-5カラム(GE Healthcare)を用いて精製した。得られた5’UTR-F.L.(5’UTR:2+2_100nt or TPM3 or MYD88)は、Staple(100 nM)またmilliQ(control)を含む無細胞タンパク質合成反応溶液(RTS 100 Wheat Germ Kit、biotechrabbit)12.5 μlのmRNA(1 μg)として用いた。この反応溶液を24℃で1時間インキュベートした後、Luciferase Assay kit(Promega)とPOWERSCAN・H1 microplate reader(BioTek)を用いてルシフェラーゼ活性を評価した。
【0044】
(4)天然遺伝子(TPM3、MYD88)の5’UTR配列を用いたin celltranslation
nLuc vector(タカラバイオ.)またはpsiCHECK-2 vector(タカラバイオ.)を鋳型とし、以下のプライマーを用いてNanoLuc luciferase(nLuc)およびrenilla luciferase(renilla)のPCR増幅を行い、得られたPCR産物をそれぞれpIRES vector(タカラバイオ.)のEcoR I、Not Iサイトにクローニングした(pIRES-nLuc-renilla)。
フォワードprimer:5’-CTAGCCTCGAGAATTCGCCACCATGGTCTTCACACTCGAAG-3’(配列番号49)
リバースprimer: 5’-CTAGCCTCGAGAATTCGCCACCATGGTCTTCACACTCGAAG-3’(配列番号50)
または
フォワードprimer:5’-TCGACCCGGGCGGCCATGGCTTCCAAGGTGTACG-3’(配列番号51)
リバースprimer:5’-TAAAGGGAAGCGGCCTTACTGCTCGTTCTTCAGC-3’(配列番号52)
【0045】
nLucのPCRに用いたフォワードprimerはクローニング後にnLucの上流にEcoR Iサイトが復活するように設計した。すべてのPCR産物は1%アガロースゲル電気泳動後、切り出し精製を行った。さらに、pMD19-TPM3またはpMD19-MYD88を鋳型として、以下のプライマーを用いてPCRにより増幅し、得られたPCR産物をpIRES-nLuc-renillaのEcoR Iサイトにクローニングした(pIRES-5’UTR-nLuc-renilla(5’UTR:TPM3、MYD88))。
フォワードprimer:5’-CTAGCCTCGAGAATTTCACATCCGGGCGGGTTG-3’(配列番号53)または5’-CTAGCC TCGAGAATTAGATTCCTACTTCTTACGCC-3’(配列番号54)
リバースprimer: 5’-CCATGGTGGCGAATT GTTTTCCCAGTCACGACG-3’(配列番号55)
【0046】
また、以下のプライマーの組合せのいずれかを用いてそれぞれアニールエクステンションを行い、Staples(TPM3_30nt、26ntおよびMYD88_30nt、26nt)を作製した。
(i)プライマーSTM1
フォワードprimer:5’-GATCCCCTACCGGAACTCACCA GCTACTGCTCGCGCTTTTTTA-3’ (配列番号56)
リバースprimer:5’-AGCTTAAAAAAGCGCGAGCAGTAGCTGGT GAGTTCCGGTAGGG-3’ (配列番号57)
【0047】
(ii)プライマーSTM2
フォワードprimer:5’-GATCCCCCCGGAACTCACCAGCTACTGCTCGCG TTTTTA-3’ (配列番号58)
リバースprimer:5’-AGCTTAAAAACGCGAGCAGTAGCTGGTGAGTTCCGGGGG-3’ (配列番号59)
【0048】
(iii)プライマーSTM3
フォワードprimer:5’-GATCCCCTCTATCTCCTGCGGCACAATCTGGAGCCCCTTTTTA-3’ (配列番号60)
リバースprimer:5’-AGCT TAAAAAGGGGCTCCAGATTGTGCCGCAGGAGATAGAGGG-3’ (配列番号61)
【0049】
(iv)プライマーSTM4
フォワードprimer:5’-GATCCCCTATCTCCTGCGGCACAATCTGGAGCCTTTTTA-3’ (配列番号62)
リバースprimer:5’-AGCTTAAAAAGG CTCCAGATTGTGCCGCAGGAGATAGGG-3’ (配列番号63)
【0050】
作製したStaple核酸の塩基配列を以下に示す。
ThT実験に用いたStaple(40nt) 2+2_100nt:
insideloop TTGCATTAATCTAGGTCGACAAGCTTCAATTGGGTGCTGG(配列番号64)
Stop assayに用いたStaple 2+2_100nt:
insideloop 40nt TTGCATTAATCTAGGTCGACAAGCTTCAATTGGGTGCTGG(配列番号65)
2+2_100nt:
insideloop_逆連結 40nt AAGCTTCAATTGGGTGCTGGTTGCATTAATCTAGGTCGAC(配列番号66)
TPM3:DNA Staple insideloop 40nt GAAATACCGGAACTCACCAAAGCTACTGCTCGCGCTCCGG(配列番号67)
MYD88:DNA Staple outsideloop 40nt TTCCTCTTTCTCCTGCGGCATACAATCTGGAGCCCCGAGC(配列番号68)
2+2_100nt:RNA Staple insideloop 30nt UUAAUCUAGGUCGACAAGCUUCAAUUGGGU(配列番号69)
2+2_100nt:RNA Staple insideloop 26nt AAUCUAGGUCGACAAGCUUCAAUUGG(配列番号70)
【0051】
in vitro translationに用いたStaple(40nt)
2+2_100nt:insideloop TTGCATTAATCTAGGTCGACAAGCTTCAATTGGGTGCTGG(配列番号71)
2+2_100nt:insideloop_逆連結AAGCTTCAATTGGGTGCTGGTTGCATTAATCTAGGTCGAC(配列番号72)
TPM3:insideloop TGAAATACCGGAACTCACCAGCTACTGCTCGCGCTCCGGT(配列番号73)
MYD88:outsideloop CTTCCTCTTTCTCCTGCGGCACAATCTGGAGCCCCGAGCA(配列番号74)
【0052】
In cell translationに用いたRNA Staple TPM3:
RNA Staple insideloop 30nt UACCGGAACUCACCAGCUACUGCUCGCGCU(配列番号75)
TPM3:RNA Staple insideloop 26nt CCGGAACUCACCAGCUACUGCUCGCG(配列番号76)
MUD88:RNA Staple UAU outsideloop 30nt UCUAUCUCCUGCGGCACAAUCUGGAGCCCC(配列番号77)
MYD88:RNA Staple UAU outsideloop 26nt UAUCUCCUGCGGCACAAUCUGGAGCC(配列番号78)
【0053】
これをpSuper neo. A(oligoengine)のBgl II-Hind IIIサイト間にクローニングした(pSuper neo. A-Staple(Staple:TPM3_30nt、26ntおよびMYD88_30nt、26nt))。HEK293T細胞は培地A( 100 units/mlペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、10 %(v/v) fetal bovine serumを含むDulbecco’s modified Eagle medium)を用いて37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で培養した。96-well plateに1 well当たり2×104 cellsのHEK293T細胞をまいた。
【0054】
24 時間後、Transfection試薬(FuGENE、Promega)を用いてpSuper neo. A-Staple(Staple:TPM3_30nt、26ntおよびMYD88_30nt、26nt)またはmilliQ(control)をHEK293T細胞に導入しインキュベートした。48時間後、同様にしてpIRES-5’UTR-nLuc-renilla(5’UTR:TPM3 or MYD88)をHEK293T細胞に導入しインキュベートした。
6時間後、細胞をPBSで洗浄しPassive Lysis Bufferを用いて細胞溶解液を回収した。この細胞溶解液を4℃、3000 rpmで1分間遠心した後、その上澄み液とLuciferase Assay kit(Promega)、POWERSCAN・H1 microplate reader(BioTek)を用いてルシフェラーゼ活性を評価した。
【0055】
結果:
Staple核酸によるG-quadruplex構造の構築は、G-quadruplex構造に結合すると蛍光シグナルを発することが知られているThioflavin Tを指示薬として用いて評価した(図 3(a))
9。この実験では、100塩基のループ配列の両末端に近接したグアニン連続配列が2つ存在するモデルDNA配列(2+2 100nt型)を設計・使用した。また、コントロールとして、グアニン連続配列のグアニンをアデニンに変異させたDNA(2+2 100nt mutA型)を用いた(
図3(b)(c))。
これらのDNA配列に対してStaple核酸を加えた結果、2+2 100nt型のDNAはStaple核酸の存在下でのみThioflavin Tの蛍光シグナルが増大した。一方で、2+2 100nt mutA型ではStaple核酸の有無にかかわらず、顕著な蛍光シグナル増大を確認することはできなかった。この結果は、Staple核酸が2+2 100nt型上にG-quadruplex構造を誘起したことを示すものである。
【0056】
G-quadruplex構造は、カリウムイオンの依存的に構築される10。2+2 100nt型モデル配列とStaple核酸で形成された構造体が、G-quadruplex構造であることを確認するため、KCl またはMgCl2を含むトリス緩衝液中におけるThioflavin Tの蛍光シグナル強度の比較検討を行った。
その結果、KClを含むトリス緩衝液中においてのみ強い蛍光シグナルが観察された(図 3(d))。これらの結果は、2+2 100nt型モデルDNAがStaple核酸により折りたたまれ、G-quadruplex構造を形成したことを示すものである。
【0057】
次に、Staple核酸によるRNA G-quadruplex構造形成能を、逆転写酵素によるcDNA合成により評価した(ストップアッセイ)。Staple核酸非存在下において、設計した鋳型RNAからは、逆転写反応により完全長cDNAを得ることができる。しかし、Staple核酸を加えるとRNA G-quadruplex構造が形成され、逆転写酵素のDNA伸長反応は停止し、不完全長のcDNAが合成される。得られたcDNAサンプルをシーケンシングで解析することで、RNA G-quadruplex構造形成部での逆転写反応の停止が確認できる(
図4(a))
11。
【0058】
本実施例においては、100塩基のループ配列の両末端に近接したグアニン連続配列が2つ存在するモデルRNA配列(2+2 100nt RNA型)と、4種の短鎖DNA (inside loop 1, outside loop, dimer, inside loop 2)を設計・利用した。Staple核酸として機能するinside loop 1, outside loop, dimerの3種類を加えた時、RNA G-quadruplex構造の構築を示すピークが観察された。一方で、Staple核酸として機能しないと予想していたinside loop 2はRNA G-quadrulex構造を構築せず、完全長のcDNAのみが得られた(
図4(b))。
【0059】
この結果は、RNAが鋳型である場合でも、DNA origami技術によりRNAが設計通り折りたたまれ、RNA G-quadruplex構造を誘起できることを意味する。また、ループ長が63nt、140ntという2種類のモデルRNA配列(2+2 63nt RNA型, 2+2 140nt RNA型)を設計して、inside loop 1を用いた同検討を行ったところ、いずれのRNAに対してもRNA G-quadruplex構築を示すピークが確認された(
図4(c))。
【0060】
また、片方の末端にはグアニン繰り返し配列が1回、もう片方の末端には3回としたグアニン連続配列のパターンの異なるモデルRNA配列(1+3 100nt RNA型)においてもStaple核酸の導入によりRNA G-quadruplex構造の構築を示すピークが観察された(
図4(d))。この結果は、多様なRNA種をStaple核酸により折りたたみ、RNA G-quadruplex構造を形成できることを示しており、本発明の方法が任意のmRNA標的に対して利用可能であることを示す。Staple核酸は、DNAだけでなくRNAを利用した場合でも、同様の効果を示すことから(
図4(e))、相補鎖形成能を持つ人工修飾核酸の利用も可能である。
【0061】
RNA G-quadruplex構造は逆転写反応のみならず、タンパク質翻訳反応も抑制することが知られている
6。Staple核酸を用いて標的mRNA上に人為的なRNA G-quadruplexを構築することができれれば、標的遺伝子のタンパク質発現を抑制できるため、医薬品応用の可能性も広がると考えられる。そこで本実施例では、2+2 100nt RNA型5’-UTR領域としてその下流にFireflyルシフェラーゼ遺伝子が導入されているmRNA(2+2 100nt RNA型_Firefly)を作製し、無細胞タンパク質翻訳システムを用いてstaple核酸の有無によるタンパク質合成量を定量的に評価した(
図5(a))。
【0062】
その結果、inside loop1が存在する場合には、下流に存在するFirefly Luciferaseタンパク質の発現量が低下した。一方、inside loop 2存在下ではタンパク質発現量が低下していないことから、単にstaple核酸が標的mRNAに結合してアンチセンス効果を発揮しているのではなく、RNA G-quadruplexを構築することで遺伝子発現抑制効果を示していることが示される(
図5(b))。
【0063】
また、ストップアッセイに用いた2+2 63nt RNA型_Firefly、2+2 140nt RNA型_Firefly、1+3 63nt RNA型_Firefly、1+3 100nt RNA型_Firefly、1+3 140nt RNA型_Fireflyに関しても同様の検討を行ったところ、いずれの場合においてもRNA G-quadruplex構造を形成できるinside loop 1を加えた場合のみ、Fireflyルシフェラーゼの発現量が減少することを示せた(
図5(c))。この結果は、Staple核酸によるRNA G-quadruplex構造の人為的誘起と誘起されたRNA G-quadruplex構造によるタンパク質翻訳反応の抑制に対する一般性を示すものである。
【0064】
次に、Staple核酸によるRNA G-quadruplex構想形成および遺伝子発現抑制効果を天然遺伝子配列であるTPM3とMYD88において評価した(
図6(a))。まず、TPM3とMYD88の5’-UTRにおいてRNA G-quadruplex構造の誘起が可能なStaple核酸を設計した。TPM3に関してはグアニン連続配列を繋ぐループ塩基は103塩基でStaple核酸はinside loop1型として設計した。MYD88についてはグアニン連続配列を繋ぐループ塩基が28塩基と短いため、outside loop型で設計した。
【0065】
ストップアッセイによる評価で、どちらの5’UTRにおいても設計したStaple核酸でRNA G-quadruplex構造が誘起されることを確認した(
図6(b))。次に、TPM3とMYD88の5’-UTRをFireflyルシフェラーゼ遺伝子に配置したモデルmRNAを作製し、Staple核酸のタンパク質翻訳抑制能を評価した。
その結果、無細胞タンパク質翻訳システムを用いたレポーターアッセイで、どちらの5’UTRを配置したモデルmRNAからのタンパク質翻訳もStaple核酸存在下で約60%抑制された(
図6(c))。この結果は、Staple核酸が天然の標的mRNAからのタンパク質発現を抑制することを強く示す。
【0066】
最後に、哺乳動物細胞内におけるStaple核酸のタンパク質翻訳阻害活性を評価した。細胞実験を行う上で、本発明者は、NanoLucとRenillaルシフェラーゼが発現する遺伝子を用意した。二つの遺伝子は一本のmRNAに導入されており、NanoLucは5’-capから翻訳されるのに対し、RenillaルシフェラーゼはInternal Ribosomal Entry Site(IRES)から翻訳される。このシステムを用いることでtransfection効率やmRNAの安定性の影響をRenillaルシフェラーゼ遺伝子の発現量で規格化し、5’-capからの翻訳反応を定量的に比較できる(
図6(d))
12。
【0067】
本実施例においてはNanoLucの上流にTPM3及びMYD88の5’-UTR領域を配置したレポータ遺伝子を導入し、HEK293細胞内でのStaple核酸の効果を評価した。細胞実験では、Short hairpin expression vector (pSuper) により発現される RNA Staple核酸を利用し、Staple核酸によるタンパク質翻訳反応への影響を評価した。その結果、Staple核酸を導入するとタンパク質翻訳量の減少が確認され、細胞内においてもStaple核酸が機能することが示された(
図6(e))。
【0068】
核酸医薬開発は明らかに停滞している。その原因は細胞内導入が難しいこと、またオフ・ターゲット効果を避けることができないことなどが考えられる。細胞内導入に関する問題点は近年におけるドラッグ・デリバリーシステムの研究開発の貢献により大きな改善が認められる一方、オフ・ターゲット効果の改善は以前困難である。この原因はアンチセンス核酸やsiRNAはいずれも標的mRNAに結合するために相補核酸を利用していることである。相補核酸の認識能を向上させるような修飾核酸を導入すると、siRNAはたちまちRISC複合体形成能が低下し、効果が大きく減少する。このように一つ問題を解決しようと試みると新しい問題が生じるというジレンマに挟まれる。
【0069】
このような背景から、本発明者は、今までにない新しいタンパク質翻訳反応抑制システムを提案した。このシステムは意図せぬ位置にStaple核酸が結合しても近接させるグアニン繰り返し配列が存在せず、タンパク質抑制効果は発現しない。また導入するStaple核酸はDNAのみではなくRNAでも同様の効果を得ることができることも明らかにしている。この事実は、Staple核酸の多様性を示すものである。
【0070】
通常、天然核酸配列は細胞内に導入することで分解されてしまうため、核酸医薬を目指す上では化学合成による修飾核酸を使う必須である。本発明の方法は、siRNAのようなタンパク質複合体を形成する必要がないことから、単純に細胞内安定性を向上させることのみに専念すればよく、原理上、修飾核酸によるタンパク質発現抑制効果の減少は考えにくい。様々な修飾を施すことが可能である本発明の方法は、核酸医薬開発のために極めて有用である。
【実施例2】
【0071】
Materials & Methods(Staple_TPM3_26nt_逆連結)
(1)DNAオリゴヌクレオチド
DNAオリゴヌクレオチドはユーロフィンジェノミクス株式会社、Integrated DNA Technologies株式会社、Thermo Fisher Scientific株式会社より購入した。すべてのサンプルはOPC精製または脱塩されており、RNA G-quadruplexの形成や存在位置の確認やin vitroにおけるタンパク質翻訳反応阻害効果を評価するために使用した。
【0072】
(2)Method
天然遺伝子(TPM3、MYD88)の5’UTR配列を用いたin cell translation (Staple_TPM3_26nt_逆連結)
【0073】
1. pIRES-TPM3_5’UTR_nLuc_ renillaの作製
nLuc vector(タカラバイオ.)またはpsiCHECK-2 vector(タカラバイオ.)を鋳型とし、以下のプライマー1のセット又はプライマー2のセットを用いてNanoLuc luciferase(nLuc)およびrenilla luciferase(renilla)のPCR増幅を行い、得られたPCR産物をそれぞれpIRES vector(タカラバイオ.)のEcoR I、Not Iサイトにクローニングした(pIRES-nLuc-renilla)。
【0074】
(i) プライマー1
フォワードプライマー1:
fw. primer[5’-CTAGCCTCGAGAATTCGCCACCATGGTCTTCACACTCGAAG-3’](配列番号79)
リバースプライマー1:
rv. primer[5’-CTCGACGCGTGAATTTTACGCCAGAATGCGTTCG-3’](配列番号80)
(ii) プライマー2
フォワードプライマー2:
fw. primer[5’-TCGACCCGGGCGGCCATGGCTTCCAAGGTGTACG-3’](配列番号81)
リバースプライマー:
rv. primer[5’-TAAAGGGAA GCGGCCTTACTGCTCGTTCTTCAGC-3’](配列番号82)
【0075】
nLucのPCRに用いたfw. primerはクローニング後にnLucの上流にEcoR Iサイトが復活するように設計した。すべてのPCR産物は1%アガロースゲル電気泳動後、切り出し精製を行った。
human genomic DNA(Novagen)を鋳型にし、以下のプライマーを用いてTPM3-5’UTRの PCR増幅を行った。
fw. primer[5’-GTCACATCC GGGCGGGTTGGTGAGT-3’](配列番号83)
rv. primer[5’-GGTGCCCACCCAGCTACTGCTCGCG-3’](配列番号84)
得られたPCR産物を鋳型にして以下のプライマーを用いてさらにPCR増幅を行い、得られたPCR産物をpMD19 vector(タカラバイオ.)にクローニングした(pMD19-TPM3)。
fw. primer[5’-TAATACGACTCACTATAGGTCACATCCGG GCGGGTTGGTGAGT-3’](配列番号85)
rv. primer[5’-TCCAACTATGTATACCTGGGTGCCCACCCAGCTACTGCTCGCG-3’](配列番号86)
【0076】
さらに、pMD19-TPM3を鋳型として、以下のプライマーを用いてPCRにより増幅し、得られたPCR産物をpIRES-nLuc-renillaのEcoR Iサイトにクローニングした(pIRES-TPM3_5’UTR-nLuc-renilla)。
fw. Primer:[5’-CTAGCCTCGAGAATTTCACATCCGGGCGGGTTG-3’](配列番号87))
rv. primer:[5’-CCATGGTGGCGAATT GTTTTCCCAGTCACGACG-3’](配列番号88)
【0077】
2. pSuper neo. A-Staple (Staple: TPM3_26nt_逆連結)の作製
また、以下のプライマーを用いてアニーリングを行い、Staple insert(TPM3_26nt_逆連結)を作製した。これをpSuper neo. A(oligoengine)のBgl II-Hind IIIサイト間にクローニングした(pSuper neo. A-Staple(Staple:TPM3_26nt_逆連結))。
fw. primer[5’- GATCCCCGCTACTGCTCGCGCCGGAACTCACCAT TTTTA -3’](配列番号89)
rv. primer[5’- AGCTTAAAAATGGTGAGTTCCGGCGCGAGCAGTAGCGGG -3’](配列番号90)
【0078】
3. in cell translation
HEK293T細胞は培地A( 100 units/mlペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、10 %(v/v) fetal bovine serumを含むDulbecco’s modified Eagle medium)を用いて37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で培養した。96-well plateに1 well当たり2×104 cellsのHEK293T細胞をまいた。24 時間後、Transfection試薬(FuGENE、Promega)を用いてpSuper neo. A-Staple(Staple:TPM3_26nt_逆連結)またはmilliQ(control)をHEK293T細胞に導入しインキュベートした。
【0079】
48時間後、同様にしてpIRES-TPM3_5’UTR-nLuc-renillaをHEK293T細胞に導入しインキュベートした。6時間後、細胞をPBSで洗浄しPassive Lysis Bufferを用いて細胞溶解液を回収した。この細胞溶解液を4℃、3000 rpmで1分間遠心した後、その上澄み液とLuciferase Assay kit(Promega)、POWERSCAN・H1 microplate reader(BioTek)を用いてルシフェラーゼ活性を評価した。
結果を
図7に示す。TPM3をStaple核酸として使用(結合)しなかった場合は、発現の抑制は観察されなかった(
図7)。
【0080】
参考文献
(1) Fire, A.; Xu, S.; Montgomery, M. K.; Kostas, S. A.; Driver, S. E.; Mello, C. C. Nature 1998, 391, 806.
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(3)Jackson, A. L.; Linsley, P. S. Nature reviews. Drug discovery 2010, 9, 57.
(4)Jackson, A. L.; Burchard, J.; Leake, D.; Reynolds, A.; Schelter, J.; Guo, J.; Johnson, J. M.; Lim, L.; Karpilow, J.; Nichols, K.; Marshall, W.; Khvorova, A.; Linsley, P. S. Rna 2006, 12, 1197.
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(12)Jang, S. K.; Davies, M. V.; Kaufman, R. J.; Wimmer, E. Journal of virology 1989, 63, 1651.
【配列表フリーテキスト】
【0081】
配列番号1~68、71-74、79-90:合成DNA
配列番号69、70、75-78:合成RNA
【配列表】