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特許7465518ガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20240404BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240404BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240404BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20240404BHJP
   C03C 17/28 20060101ALI20240404BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D7/63
C09D7/20
C09D7/41
C03C17/28 A
C03C17/30 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019215121
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021084967
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】594133814
【氏名又は名称】東邦化研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 敏則
(72)【発明者】
【氏名】嶋津 俊美
(72)【発明者】
【氏名】薄井 健史
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-066116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C03C 17/28
C03C 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤成分(I)、硬化剤成分(II)、溶剤成分(III)、及び希釈剤成分(IV)を含むガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物であって、
前記主剤成分(I)は、水酸基価10mgKOH/g~100mgKOH/gである水溶性アクリル樹脂(A)、及び着色成分(B)を含み、
前記硬化剤成分(II)は、前記水溶性アクリル樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上の水溶性メラミン樹脂(C)を含み、
前記溶剤成分(III)は、水溶性溶剤(D)を含み、
前記希釈剤成分(IV)は、脱イオン水及びシランカップリング剤(E)を含み、
前記シランカップリング剤(E)は、前記主剤成分(I)、前記硬化剤成分(II)、及び前記溶剤成分(III)の合計100質量部に対して、0.1質量部~5.0質量部である、
ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物をガラス瓶容器又はガラス部品の表面に塗装する、
ガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法であって、
前記ガラス瓶容器又はガラス部品の表面に前記ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を塗装する前に、前記ガラス瓶容器又はガラス部品を温めるプレヒーティング工程と、
ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を、ガラス瓶容器又はガラス部品の表面に塗装する塗装工程と、
ガラス瓶容器又はガラス部品を予備乾燥する乾燥工程と、
前記ガラス瓶容器又はガラス部品の表面に塗装した前記ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を加熱し、前記ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を前記ガラス瓶容器又はガラス部品に焼き付ける、焼付成膜工程と、
を備えたガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性アクリル樹脂(A)は、ガラス転移温度が10℃~70℃である、
請求項1に記載のガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法
【請求項3】
前記着色成分(B)は、金属を含む無機顔料と、発色する有機化合物を含む染料と、のうち少なくとも1種を含み、
前記着色成分(B)の含有量は、前記主剤成分(I)及び前記硬化剤成分(II)に含まれる合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部~50質量部である、
請求項1又は請求項2に記載のガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法
【請求項4】
前記主剤成分(I)及び前記硬化剤成分(II)は、前記水溶性溶剤(D)を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法
【請求項5】
前記溶剤成分(III)の主成分は、水溶性溶剤(D)である、
請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法
【請求項6】
前記シランカップリング剤(E)は、エポキシ基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、及び(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤から選ばれる少なくとも一種のシランカップリング剤を含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載のガラス瓶容器及びガラス部品塗装物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗膜をガラスの表面に形成するガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物、ガラス瓶容器塗装方法、及びガラス部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に塗装を施した装飾ガラスが、様々な分野で用いられている。例えば、特許文献1には、ガラス容器の表面に塗剤を吹き付け、焼き付けることにより塗膜を形成する塗装されたガラス容器の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-169353公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のガラス瓶容器の製造方法では、特許文献1に示すように塗料はシンナー等の有機溶剤に溶かした塗剤としてガラス容器の表面に吹き付けられる。有機溶剤は、いわゆる揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)である。近時、環境への取り組みの1つとして、VOCの削減が求められている。
【0005】
この発明の目的は、ガラスに対する密着性が高く、耐沸騰水性及び硬度に優れた塗膜をガラスの表面に形成し、かつ塗膜をガラスの表面に形成する際のVOCの排出量を低減することができるガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物、ガラス瓶容器塗装方法、及びガラス部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、主剤成分(I)、硬化剤成分(II)、溶剤成分(III)、及び希釈剤成分(IV)を含むガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物であって、前記主剤成分(I)は、水酸基価10mgKOH/g~100mgKOH/gである水溶性アクリル樹脂(A)、及び着色成分(B)を含み、前記硬化剤成分(II)は、前記水溶性アクリル樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上の水溶性メラミン樹脂(C)を含み、前記溶剤成分(III)は、水溶性溶剤(D)を含み、前記希釈剤成分(IV)は、脱イオン水及びシランカップリング剤(E)を含み、前記シランカップリング剤(E)は、前記主剤成分(I)、前記硬化剤成分(II)、及び前記溶剤成分(III)の合計100質量部に対して、0.1質量部~5.0質量部である。
【0007】
この構成により、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、ガラスに対する密着性が高く、耐沸騰水性及び硬度に優れた塗膜をガラスの表面に形成することができる。また、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、希釈剤成分(IV)として脱イオン水を液体成分に含む。これにより、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、VOCの含有量を低減することができる。VOCの含有量が低減することにより、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物から大気中に揮発する揮発性有機化合物VOCの排出量を低減することができる。
【0008】
また、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を用いてガラスの表面に形成された塗膜は、ガラスの融点付近で炭化する。炭化した塗膜は、容易にガラスの表面から剥がれる。このため、塗装したガラスをリサイクルする際に、特別な塗膜の除去工程又は除去処理が不要である。従って、本願発明のガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物で塗装されたガラスは、通常のガラスのリサイクル工程で繰り返しガラスを再利用できる。
【0009】
このように、本願発明は、大気中に揮発する揮発性有機化合物VOCの排出量を低減することができ、かつ効率よくリサイクルできるため、環境問題に対して貢献することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ガラスに対する密着性が高く、耐沸騰水性及び硬度に優れた塗膜をガラスの表面に形成し、かつ塗膜をガラスの表面に形成する際のVOCの排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る装飾ガラスの製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る装飾ガラスの製造ラインの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、主剤成分(I)、硬化剤成分(II)、溶剤成分(III)、及び希釈剤成分(IV)を含む。
【0013】
≪主剤成分(I)≫
主剤成分(I)は、水溶性アクリル樹脂(A)及び着色成分(B)を含む。水溶性アクリル樹脂(A)の水酸基価は、10mgKOH/g~100mgKOH/gであることが好ましい。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、水溶性アクリル樹脂(A)の水酸基価を上記範囲内とすることで、水酸基を必要十分な量とする。水酸基が必要十分な量であると、塗膜の硬化が適切に進み、かつ硬化しすぎてフレーキングが生じることも防止することができる。
【0014】
また、水溶性アクリル樹脂(A)は、ガラス転移温度が10℃~70℃であることが好ましい。水溶性アクリル樹脂(A)のガラス転移温度を上記範囲内とすることで、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、ガラスに対して密着性の高い、強固な塗膜を形成できる。
【0015】
なお、数種類の水溶性アクリル樹脂(A)を混合した場合の水溶性アクリル樹脂(A)コポリマーのガラス転移温度(Tgc)は、下記の式により算出する。
【0016】
1/Tgc(K)=C1/Tg1+C2/Tg2+・・・Tgn/Tgn
式中、Tg1~Tgnは各構成モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tg(K)であり、C1~Cnは各構成モノマーの重量分率である。
【0017】
着色成分(B)は、従来公知の顔料又は染料を使用できる。着色成分(B)は、金属を含む無機顔料と、発色する有機化合物を含む染料と、のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。無機顔料は、例えば鉄、チタン、バリウム、亜鉛、銅、又はこれらの酸化物等使用できる。染料は、例えば、アゾ系、又はフタロシアニン系等使用できる。
【0018】
着色成分(B)の含有量は、主剤成分(I)及び硬化剤成分(II)に含まれる合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部~50質量部であることが好ましい。これにより、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、ガラスを適切に着色し、かつ艶、強度及び密着性に優れた塗膜を得られる。
【0019】
≪硬化剤成分(II)≫
硬化剤成分(II)中の硬化剤は、少なくとも水溶性メラミン樹脂を含む。硬化剤は、他にも、例えば水溶性イソシアネート樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性カルボジイミド樹脂、又は水溶性オキサゾリン樹脂などを使用できる。水溶性メラミン樹脂は、安定性及び硬化性が優れていることから、硬化剤成分(II)に使用することが好ましい。
【0020】
硬化剤成分(II)は、水溶性アクリル樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上の水溶性メラミン樹脂(C)を含むことが好ましい。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、水溶性メラミン樹脂(C)を上記範囲内とすることで、水溶性アクリル樹脂(A)を適切に硬化させることができ、耐水性及び耐溶剤性に優れた強固な塗膜を形成することができる。
【0021】
水溶性メラミン樹脂は、例えばブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、又はエチル化メラミン樹脂などを使用できる。なかでも、メチル化メラミン樹脂は、水との相溶性及び低温硬化性に優れるため、硬化剤成分(II)に使用することが好ましい。
【0022】
≪溶剤成分(III)≫
溶剤成分(III)は、水溶性溶剤(D)を含む。溶剤成分(III)の主成分は、水溶性溶剤(D)であることが好ましい。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、溶剤成分(III)の主成分を水溶性溶剤(D)とすることで、水と混合してもエマルジョン化して不透明になること及び分離することを防止できる。
【0023】
水溶性溶剤(D)は、例えばアルコール系水溶性溶剤、アセテート系水溶性溶剤、ケトン系水溶性溶剤、エステル系水溶性溶剤、エーテル系水溶性溶剤、又はグリコールエーテル系水溶性溶剤などを使用できる。
【0024】
アルコール系水溶性溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、又は2-メチル-2-プロパノールなどを使用できる。アセテート系水溶性溶剤は、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどを使用できる。ケトン系水溶性溶剤は、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、又はメチルイソブチルケトンなどを使用できる。エステル系水溶性溶剤は、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、安息香酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル、又はプロピオン酸メチルなどを使用できる。エーテル系水溶性溶剤は、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタンなどを使用できる。
【0025】
エチレングリコールモノエーテルは、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、エチレングリコールモノ n-プロピルエーテル等を使用できる。エチレングリコールジエーテルは、例えばエチレングリコールジメチルエーテル、又はエチレングリコールジエチルエーテル等のエチレングリコールジエーテルを使用できる。ジエチレングリコールジエーテルは、例えばジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、又はジエチレングリコールブチルメチルエーテル等を使用できる。トリエチレングリコールジエーテルは、例えばトリエチレングリコールジメチルエーテル、又はトリエチレングリコールジビニルエーテル等を使用できる。テトラエチレングリコールジエーテルは、例えばテトラエチレングリコールジエチルエーテル等を使用できる。プロピレングリコールジエーテルは、例えばプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールジイソブチルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、又はプロピレングリコールジフェニルエーテル等を使用できる。ジプロピレングリコールジエーテルは、例えばジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、及びジプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジイソブチルエーテル、又はジプロピレングリコールアリルエーテル等を使用できる。トリプロピレングリコールジエーテルは、例えばトリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、及びトリプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジイソブチルエーテル、又はトリプロピレングリコールジアリルエーテル等を使用できる。ブチレングリコールジエーテルは、例えばブチレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールジエチルエーテル、又はブチレングリコールジ-n-ブチルエーテル等を使用できる。
【0026】
水溶性溶剤(D)としては、上記のアルコール系水溶性溶剤、アセテート系水溶性溶剤、ケトン系水溶性溶剤、又はグリコールエーテル系水溶性溶剤から選ばれる少なくとも1~3種が好ましい。アルコール系水溶性溶剤、アセテート系水溶性溶剤、ケトン系水溶性溶剤、又はグリコールエーテル系水溶性溶剤は、水との相溶性が高い。また、水溶性溶剤(D)における各水溶性溶剤の各含有率は、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物の粘度、又は塗布性等の仕様に応じて適宜調整することが可能である。なお、塗布性とは、ガラスにガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を塗布する時の塗り易さの尺度である。
【0027】
また、主剤成分(I)及び硬化剤成分(II)は、水溶性溶剤(D)を含むことが好ましい。主剤成分(I)及び硬化剤成分(II)は、有機化合物を含むため、水に比べて水溶性溶剤(D)との親和性が高い。このため、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、ガラスに対して均一な塗膜を形成できる。
【0028】
≪希釈剤成分(IV)≫
希釈剤成分(IV)は、脱イオン水、及び密着向上剤としてのシランカップリング剤(E)を含む。脱イオン水は、イオン交換樹脂などによりイオンを除去した水を示す。なお、脱イオン水に換えて、逆浸透膜で不要成分を除去した水又は蒸留水、水道水等を使用することも可能である。水道水は、日本国内の水質基準に適合するものであれば、脱イオン水と比較して塗布性等に差異がないため、使用できる。
【0029】
≪シランカップリング剤(E)≫
シランカップリング剤(E)は、特に限定しないが、例えばエポキシ基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、又は(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤等を使用できる。シランカップリング剤(E)は、エポキシ基含有シランカップリング剤が特に好ましい。
【0030】
エポキシ基含有シランカップリング剤は、例えば3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、又は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン等を使用できる。アミノ基含有シランカップリング剤は、例えば;3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、又はN-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等を使用できる。メルカプト基含有シランカップリング剤は、例えば3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を使用できる。ビニル基含有シランカップリング剤は、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、又はビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン等を使用できる。(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤は、例えば3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、又は3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン等を使用できる。
【0031】
シランカップリング剤(E)は、ガラスの表面に対する密着性を向上させる。シランカップリング剤(E)は、主剤成分(I)、硬化剤成分(II)、及び溶剤成分(III)の合計100質量部に対して、0.1質量部~10.0質量部が好ましく、0.1質量部~5.0質量部がさらに好ましい。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、シランカップリング剤(E)を上記範囲内とすることで、ガラスの表面に強固な塗膜を形成することができる。また、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、シランカップリング剤(E)を上記範囲内とすることで、得られる塗膜の耐水性及びガラス表面に対する付着性を向上できる。
【0032】
なお、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物の調整時において、シランカップリング剤(E)は、貯蔵安定性からガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物をガラスに塗布する直前に加えられることが好ましい。例えば、シランカップリング剤(E)は、希釈剤成分(IV)として混合され、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物をガラスに塗布する直前に主剤成分(I)、硬化剤成分(II)、及び溶剤成分(III)の混合物に加えられる。
【0033】
≪その他成分≫
ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、上記成分以外に塗料用添加剤を含んでいてもよい。塗料用添加剤は、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、分散助剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、硬化触媒、中和剤、脱水材、乾燥助剤、又はポリマー微粒子などを使用できる。
【0034】
本発明に係るガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、脱イオン水を含む希釈剤成分(IV)と、水溶性溶剤(D)を含む溶剤成分(III)とを含むため、VOCの含有量を低減できる。これにより、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、塗膜をガラスの表面に形成する際のVOCの排出量を低減することができる。すなわち、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、従来技術のように塗料をVOCに溶かした塗剤を使用する場合と比べて、大幅にVOCの排出量を低減することができる。なお、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、塗膜の仕様に応じてVOCの量を調節してもよい。この場合、VOCによりガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物の分散等のコントロールがし易くなり、かつ脱イオン水分のVOCの排出量を低減することができる。
【0035】
ガラスは、溶融して形成し直すことにより繰り返し再利用できる素材である。ガラスの融点は、1200℃~1400℃である。このため、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を用いてガラスの表面に形成された塗膜は、ガラスの融点付近で炭化する。炭化した塗膜は、容易にガラスの表面から剥がれる。すなわち、塗膜はガラスの再利用において通常行う加熱の工程で、簡単にガラスと分離して排除することができる。すなわち、塗装したガラスを再利用する際、特別な塗膜の除去工程又は除去処理などは不要である。また、ガラスが透明である場合、塗膜により色付けすることができる。このため、ガラス自体に色付けする必要がない。従って、従来の色付きガラス瓶のように、色別に分別して再利用する必要がなくなる。
【0036】
また、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は水溶性であるため、主成分の水溶性アクリル樹脂等は水に溶解する。このため、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、水溶性成分と疎水性成分とで分離及びエマルジョン化しない。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、エマルジョンのように濁らないため、透光性を高くできる。製造者は、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物中の着色成分(B)の色を視認できる。仮に、主成分又は硬化剤が分散している場合又はエマルジョン化により塗料の透光性が低下している場合、ガラスに吹き付けて焼き付けて乾燥する前に、製造者は、色調の確認をし難い。これに対して、本発明に係るガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、着色成分(B)の色調を鮮明に視認できる。このため、製造者は、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物の調整段階において、塗装後の色を把握し易くなる。また、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物では、主成分及び硬化剤は溶剤に均一に溶解しているため、溶剤中での安定性が高い。
【0037】
図1は、この発明の実施形態に係る装飾ガラスの製造方法のフローチャートである。図2は、本発明の実施形態に係る装飾ガラスの製造ラインの模式図である。以下、図1及び図2を参照しながら、ガラス瓶容器及びガラス部品の塗装方法、並びにガラス瓶容器及びガラス部品の製造方法について説明する。なお、以下の実施形態の説明はガラス瓶容器について説明をし、ガラス部品についての説明は同様であるため省略する。
【0038】
図1に示すように、ガラス瓶容器の塗装方法は、8段階の工程(S1~S8)を含む。図2に示すように、ガラス瓶容器は、製造ライン10で製造される。塗装の対象となるガラス瓶容器は、例えば製造ライン10のコンベア20等の搬送装置によって、8段階の各工程の装置又はチャンバ内を順に搬送される。
【0039】
工程S1は、取り付け工程である。工程S1において、製造者は、取り付け室11で塗装の対象となるガラス瓶容器を、コンベア20に保持させるためのホルダに取り付ける。コンベア20は、ガラス瓶容器を搬送する。
【0040】
工程S2は、プレヒーティングの工程である。工程S2において、プレヒート設備12は、搬送されたガラス瓶容器を温める。プレヒート設備12は、ヒータ又は温風により0℃~40℃程度にガラス瓶容器を加温する。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、希釈剤として脱イオン水を含む。脱イオン水は、VOCのような高い揮発性を有さない。このため、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物をガラス瓶容器に塗装する際、塗装の対象物であるガラス瓶容器の表面温度が低くすぎると、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物に含まれる脱イオン水は蒸発し難い。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物に含まれる脱イオン水がガラス瓶容器の表面で蒸発しない場合、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物はガラス瓶容器の表面からたれ落ちたり、後の工程S6の焼付成膜工程において、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物の脱イオン水がガラス瓶容器の表面で突沸を起こすことにより、塗装不良品が発生する可能性がある。ここで、塗装の対象物であるガラス瓶容器は、工程S2において温められることにより18℃~25℃に保温できる。これにより、工程S2は、後の工程S5の乾燥工程を補助し、塗装不良品の発生を防ぐことができる。
【0041】
工程S3は、洗浄工程である。工程S3において、ブロアは洗浄室13でガラス瓶容器の表面から余分なごみを排除する。これにより、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、ガラス瓶容器の表面に均一に塗布されやすくなる。なお、工程S3は、イオナイザーを用いて静電気の除去を行ってもよい。静電気の除去は、例えば、ガラス瓶容器の表面に大気中の塵などを引き付けることを防止できる。
【0042】
工程S4は、塗装工程である。工程S4においては、予め調製されたガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、ダイヤフロムポンプを使用した塗装用圧送ポンプの貯留タンクに充填されている。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物の調製は、主剤成分(I)、硬化剤成分(II)、及び溶剤成分(III)からなる混合物を、シランカップリング剤(E)を含む希釈剤成分(IV)で希釈する。シランカップリング剤(E)を含む希釈剤成分(IV)は、主剤成分(I)、硬化剤成分(II)、及び溶剤成分(III)からなる混合物100質量部に対して、30質量部~80質量部である。
【0043】
スプレーガンは、塗装ブース14内において貯留タンクに充填されたガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物をガラス瓶容器へ吹き付ける。スプレーガンの吹付圧力値は、例えば、2.0kPa~4.0kPaである。また、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物の圧送は、圧力値は、例えば、0.5kPa~1.0kPaである。コンベア20は、固定されたスプレーガンの前でガラス瓶容器を水平移動するように搬送する。このとき、塗装ブース14内に設けられた強制回転機構により、個々のガラス瓶容器はコンベア20に搬送されながら独立して横に回転する。これにより、スプレーガンは、ガラス瓶容器の表面にガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を均一に吹き付けることができる。回転速度又は搬送速度は塗装の態様に応じて、適宜設定変更できる。さらに、スプレーガンによるガラス表面への塗装は、段階的に行ってもよい。例えば、スプレーガンが3つ配置され、ガラス表面への塗装は、各スプレーガンにより下塗り、中塗り、及び上塗りの三段階で積層するように行ってもよい。なお、工程S4は、本発明におけるガラス瓶容器又はガラス部品の塗装方法の一例である。
【0044】
工程S5は、乾燥工程である。工程S5において、ガラス瓶容器は、所定時間セッティングゾーン15に滞留することにより予備乾燥する。なお、セッティングゾーン内にヒータを配置してガラス瓶容器を加熱することにより、ガラス表面へ付着した塗装は積極的に乾燥することができる。これにより、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物から不要な溶媒が揮発する。例えば、溶剤成分(III)又は希釈剤成分(IV)などが揮発する。従って、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、ガラス表面に定着し、ガラス表面から液垂れすることが防止できる。また、予備乾燥は、次の焼付成膜工程の加熱時間を短縮することができる。
【0045】
なお、本発明に係るガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、VOCより沸点の高い水を含むため、VOCを溶剤とした塗料と比べて溶媒が揮発し難い。このため、工程S4の吹き付け中において、溶媒の揮発が遅いため、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、塗りむらを防止できる。
【0046】
工程S6は、焼付成膜工程である。工程S6において、焼付乾燥炉16は、表面にガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物を定着されたガラス瓶容器を加熱する。焼付乾燥炉16は、ガラス瓶容器を遠赤外線、又は熱風等によって加熱する。焼付乾燥炉16の内部は、例えば180℃~210℃に維持されている。ガラス瓶容器は、焼付乾燥炉16の内部を、例えば20分~30分間搬送通過される。これにより、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物中の主剤成分(I)、硬化剤成分(II)、及びシランカップリング剤(E)が反応して、ガラス瓶容器の表面に塗膜が形成される。なお、加熱温度又は時間は、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物の組成に応じて適宜変更可能である。
【0047】
工程S7は、冷却工程である。工程S7において、冷却室17は、搬送されたガラス瓶容器を室温まで冷却する。冷却室17は、例えばブロアを用いて空気をガラス瓶容器の表面に吹き付けることにより、ガラス瓶容器を冷却する。
【0048】
工程S8は、取り外し工程である。工程S8において、製造者は、搬送されたガラス瓶容器を取り外し室18でホルダから取り外す。なお、工程S8において、ガラス瓶容器の仕上がり等の検査をしてもよい。
【0049】
工程S1から工程S8までの工程により、製造者は、既存の装置又は設備を用いて、表面に堅牢な塗膜が形成されたガラス瓶容器を得ることができる。また、工程S1から工程S8までの工程により、製造者は同様にガラス部品に塗装を施したガラス部品塗装物を得ることができる。
【実施例
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明のガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物をさらに詳細に説明する。
【0051】
(実施例1)ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物1の調製
攪拌機を装備した容器に、水酸基価59(mgKOH/g)の水溶性アクリル樹脂70質量部、着色剤12質量部(ブルー染料液8.8質量部及びイエロー染料液3.2質量部)、水溶性メラミン樹脂30質量部、ブチルセロソルブ12質量部、イソプロピルアルコール12質量部、メチルエチルケトン(MEK)6質量部、及びアセトン20質量部を仕込んで攪拌した後、シランカップリング剤(E)4質量部を混合した脱イオン水81質量部を添加し攪拌して、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物1を得た。なお、表1にガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物1、及び以下に説明するガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物2、比較例1、比較例2に係る塗料組成物の組成を示す。なお、参考例は、従来の有機溶剤を用いた塗料組成物である。
【0052】
【表1】
【0053】
(実施例2)ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物2の調製
水溶性アクリル樹脂60質量部、及び水溶性メラミン樹脂40質量部であること以外は、調製例1と同様にしてガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物2を得た。
【0054】
(比較例1)比較例1に係る塗料組成物の調製
水溶性アクリル樹脂80質量部、及び水溶性メラミン樹脂20質量部であること以外は、調製例1と同様にして比較例1に係る塗料組成物を得た。
【0055】
(比較例2)比較例2に係る塗料組成物の調製
水溶性アクリル樹脂50質量部、及び水溶性メラミン樹脂50質量部であること以外は、調製例1と同様にして比較例2に係る塗料組成物を得た。
【0056】
(ガラス瓶容器の作製)
ガラス瓶容器を5.0m/分で地面と平行に横移動するコンベア式塗装ラインにセットし、コンベア式塗装ラインを稼働させる。初めに、ガラス瓶容器を、プレヒート設備で20℃に温めた。温められたガラス瓶容器から、ブロア及びイオナイザーを用いて静電気及び表面の塵を除去し洗浄した後、スプレー式自動ガン(アネスト岩田株式会社製)を用いてガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物1をガラス瓶容器にスプレー塗装した。塗装は、ガラス瓶容器とスプレー式自動ガンとの間の距離を15cm~25cmの距離を保った状態で、スプレー式自動ガンの吹付圧力2.0kPa~4.0kPaの圧力、かつ塗料の圧送圧力0.5mPa~1.0mPaの圧力の条件で行い、ガラス瓶容器に均一にガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物1を吹き付けた。ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物1を吹き付けたガラス瓶容器を、常温で5分間乾燥した後、焼付乾燥炉において200℃で25分間焼き付けた。ガラス瓶容器を、室温まで冷却し、コンベア式塗装ラインから取り外すことにより、塗装されたガラス瓶容器を得た。
【0057】
なお、ガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物2、比較例1に係る塗料組成物又は、比較例2に係る塗料組成物を塗装したガラス瓶容器についても同様に作製した。
【0058】
(ガラス瓶容器の性能試験)
実施例1、2のガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物及び比較例1、2の塗料組成物の性能試験の結果を表1に示す。
【0059】
(鉛筆硬度)
鉛筆硬度の試験は、JIS K5600-5-4に従って実施した。鉛筆は、uni(三菱鉛筆株式会社製)を、研磨紙は、P400フィニシングペーパー(KOVAX社製)を使用した。
【0060】
(透明性・色調)
透明性・色調の試験は、予め見本を準備し、見本と得られた各ガラス瓶容器とを目視で比較することにより評価した。評価は、透明性、色調、濃度について見本と所定の差がない場合を「基準内」として評価した。
【0061】
(密着性 クロスカット)
密着性 クロスカットの試験は、JIS K5600-5-6に従って実施した。カッターは、カッターA型(エヌティー株式会社製)を、テープは、CT405AP(ニチバン株式会社製)を使用した。
【0062】
(耐溶剤性)
耐溶剤性の試験は、JIS K5600-6-1に従って実施した。純度99.9%以上のエタノール「トレーサブル99(商品名)」(日本アルコール販売株式会社製、一級)をウエス「メリヤスウエス(商品名)」(有限会社綿テック社製)に浸透させ、たれ落ちがない程度に軽く絞ったものを、各ガラス瓶容器に対して一定の力で押し当て、30mm以上の運動幅を保ちながら20往復ガラス瓶容器の表面を擦る。その後、ガラス瓶容器の外観を予め準備した見本と目視で比較し、見本と所定の差があるかないかを評価した。また、試験後のウエスを確認し、ウエスに成膜された樹脂からの色落ちの有無を確認した。色落ちの確認は、色落ちが無く試験部位の変化がない場合をA、色落ちがあるが試験部位の変化がない場合をB、色落ちがあり、試験部位の変化がある場合をCという基準で判断した。
【0063】
実施例1、2のガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物及び比較例1、2の塗料組成物の性能試験の結果を表2に示す。なお、参考例として従来の有機溶剤で希釈した塗料組成物を用いた。参考例に係る塗料組成物を塗装したガラス瓶容器は、焼付乾燥炉において220℃で25分間焼き付けたものを使用した。
【0064】
【表2】
【0065】
(冷熱サイクル試験)
冷熱サイクル試験は、JIS K5600-7-4に従って実施した。表3に示す第1ステップから第4ステップを1サイクルとして、3サイクル実施した。最初に冷熱サイクル試験前のものを初期として評価し、その後3サイクルを1回行ったものを1回目、3サイクルを2回行ったものを2回目としてそれぞれ評価した。評価については、外観は目視で正常であるか否かを、密着性は、テープ試験又は上記クロスカット試験を行い、耐傷試験として鉛筆硬度試験を行った。高温恒湿機は、IG-420(ヤマト科学株式会社製)を使用した。
【0066】
【表3】
【0067】
(耐沸騰水性)
耐沸騰水性の試験は、水道水を容量40L以上の容器に入れ沸騰させた後にさらに5分~10分加熱して攪拌した沸騰水にガラス瓶容器を投入し、ガラス瓶容器が容器の底に接触しないように固定した状態で、60分間沸騰した状態の水道水に浸漬する。浸漬後、容器からガラス瓶容器を取り出し、自然冷却させたものを評価した。外観は、予め見本を準備し、見本と得られた各ガラス瓶容器とを目視で比較することにより評価した。JIS K5600-5-6に基づき、クロスカット試験を行い、規格内であるか否かを評価した。カッターは、カッターA型(エヌティー株式会社製)を、テープは、CT405AP(ニチバン株式会社製)を使用した。
【0068】
(結果)
表1に示すように、得られたガラス瓶容器に対する各試験において、実施例1、2のガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、比較例1、2と同等又は比較例1、2より良好な結果が得られた。鉛筆硬度については、実施例1及び比較例1は5Hであり、実施例2及び比較例1、比較例2は4H、参考例は3~4Hであった。透明性・色調については、実施例1、2、及び参考例は基準内であり、比較例1は平滑性に欠け、比較例2は艶が悪い。密着性クロスカット試験については、実施例1、2、比較例1、2、及び参考例はいずれも、剥がれが見られなかった。耐溶剤性については、実施例1及び比較例1はBであり、実施例2、比較例2、及び参考例はAであった。耐沸騰水試験後の密着性クロスカット試験については、実施例1、2、比較例1、2、及び参考例はいずれも、剥がれが見られなかった。
【0069】
冷熱サイクル試験後の結果についても、表2に示すように、実施例1、2のガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、比較例1、3と同等又は比較例1、3より良好な結果が得られた。外観については、実施例1、2、比較例1、2、及び参考例はいずれも、1回目のサイクル及び2回目のサイクルでも初期から著しい変化は確認されなかった。密着性クロスカットについては、実施例1、2、比較例1、2、及び参考例はいずれも、初期、1回目のサイクル及び2回目のサイクルで剥がれが確認されなかった。鉛筆硬度については、実施例1及び比較例1は、初期、1回目のサイクル及び2回目のサイクルでいずれも5Hであり、実施例2及び比較例2は、初期、1回目のサイクル及び2回目のサイクルでいずれも4Hであった。参考例は、初期、1回目のサイクル及び2回目のサイクルでいずれも3~4Hであった。これから、サイクル試験を2回繰り返しても、塗膜が安定していることが確認された。
【0070】
以上の様に、実施例1、2のガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、ガラスに対する密着性が高く、耐沸騰水性及び硬度に優れた塗膜をガラスの表面に形成することが確認された。
【0071】
表4は、従来の有機溶剤で希釈した塗料組成物(従来溶剤型)、及び本発明に係るガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物(水溶性)のVOC排出量を推定したものを示す。希釈剤成分(IV)として、従来のような有機溶剤のみを使用する場合と、本願発明のように脱イオン水を含有する場合(この例では脱イオン水のみ使用する。)と、についてそれぞれのVOC排出量を推定した。表中、一日当たりのVOC排出量(e)は、自社で従来溶剤型の塗料を使用してガラス瓶容器を製造する際の平均値である。年間VOC排出量(f)は、一日当たりのVOC排出量(e)に対して製造ラインの平均稼働日数250(日)をかけたものである。
【0072】
【表4】
【0073】
表4に示すように、従来溶剤型の塗料と比べて、本発明に係るガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は大幅にVOCの排出量を低減することができる。また、年間のVOCの排出量の削減量は、従来溶剤型の年間VOC排出量(f)の40800kgから水溶性の年間VOC排出量(f)の22100kgを引いた値の18700kgであり、年間のVOCの排出量の削減率は、45.83%であった。このように、本発明に係るガラス用熱硬化型水溶性塗料組成物は、大幅にVOCの排出量を低減できることが推定できる。
【0074】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
10…製造ライン
11…取り付け室
12…プレヒート設備
13…洗浄室
14…塗装ブース
15…セッティングゾーン
16…焼付乾燥炉
17…冷却室
18…取り外し室
図1
図2