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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】脱水装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/12 20190101AFI20240404BHJP
【FI】
C02F11/12 ZAB
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020061071
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021159790
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・令和2年2月20日土木学会西部支部事務局より郵送配布 “令和元年 土木学会西部支部研究発表会(令和2年3月7日開催予定の所中止)”にて発表予定の論文「高含水粘土の簡易脱水法における排水材の種類と配置の影響 国立大学法人長崎大学 高野 真央・大嶺 聖・蒋 宇静・杉本 知史・フレミー サムエル オイ・張 子晨」を収録したCD-ROM ・2019年5月10日 International Journal of GEOMATE,Webサイトにて掲載 https://www.geomatejournal.com/node/1583
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大嶺 聖
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-020103(JP,A)
【文献】特開昭51-145160(JP,A)
【文献】実開昭53-144179(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含水比の粘土の含水比を減少させるための脱水装置であって、
所定の幅と長さと深さを有し、上面が開口して前記粘土を収容するの上面に、前記槽の幅方向にまたがって設置される吊下材と、
前記吊下材に上端を固定されて、前記槽内に吊下される排水材を備え、
前記排水材は、シート状であって、前記槽の深さを上回らない長さを有し、前記槽中の任意の点から最も近い前記排水材までの水平方向距離の平均を、以下の(1)式で求められる平均排水距離(L)としたとき、時間の経過に伴う前記粘土の含水比の推移と平均排水距離(L)との関係に基づき、所定の期間で含水比/液性限界が1以下となるよう、複数枚の前記排水材が前記槽の長さ方向に所定の間隔を開けて配置される
ことを特徴とする脱水装置。
【数1】
ここで、(1)式中、Dは、排水材近傍の平面領域を示し、Sは、領域Dの面積を示し、l min は、領域Dに含まれる任意の点(x,y)の排水材までの最短排水経路を示す。
【請求項2】
高含水比の粘土の含水比を減少させるための脱水装置であって、
所定の幅と長さと深さを有し、上面が開口して前記粘土を収容する槽の上面に、前記槽の幅方向にまたがって設置される吊下材と、
前記吊下材に上端を固定されて、前記槽内に吊下される排水材を備え、
前記排水材は、シート状であって、前記槽の深さを上回らない長さを有し、前記槽中の任意の点から最も近い前記排水材までの水平方向距離の平均を、以下の(2)式で求められる平均排水距離(L)としたとき、時間の経過に伴う前記粘土の含水比の推移と平均排水距離(L)との関係に基づき、所定の期間で含水比/液性限界が1以下となるよう、複数枚の前記排水材が前記槽の長さ方向に所定の間隔を開けて配置される
ことを特徴とする脱水装置。
【数2】
ここで、(2)式中、Sは、排水材近傍の平面領域Dの面積であり、ΔSは、領域Dをy軸、x軸に平行な格子でm,n等分して分割した小矩形の面積であり、l min は、領域ΔSに含まれる任意の点(x i ,y j )の排水材までの最短排水経路を示す。
【請求項3】
前記排水材は、前記槽の幅を上回らない幅を有する矩形状である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の脱水装置。
【請求項4】
前記排水材は、前記槽の幅より短い幅を有する短冊状であって、
前記槽の幅方向にも所定の間隔を開けて配置される
ことを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載の脱水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高含水比の粘土を脱水する脱水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設発生土の中で、トラックで運搬できない高含水比の粘土は、産業廃棄物の中で汚泥として取り扱わられ、適切な処理、処分が法律上の義務である。
【0003】
このような高含水比の粘土の含水比を下げるため、従来から提案されている処理方法として、粘土を広げて乾燥させる天日乾燥がある。しかし、天日乾燥は、低コストであるが、広い場所が必要で、移動や乾燥までの時間もかかる。これに対し、脱水機を使用する方法では、大量の粘土に対する処理ができない。最終的にセメント固化を行うためには、ある程度まで含水比を低下させる必要がある。
【0004】
高含水比の粘土の脱水方法として、毛細管現象を生じる物質を充填した水抜き菅をホッパー内に配置し、毛細管現象による脱水方法が従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。また、貯留槽に溜めた含水汚泥中にシリカゲル担持多孔質材による透水性部材を浸漬し、透水性部材の端部を貯留槽の外に出るように設置して、含水汚泥に含まれる水を、該透水性部材を通じて排出させる脱水方法も従来から知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
高含水比の粘土を袋に注入して脱水を行う処理では、表面よりの脱水が早く、袋の内部は未乾燥のままの問題点あり、この問題に着目して、袋の内部構造を工夫した技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、布やひもを排水材として使う技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。更に、乾燥床自体にシートを敷き、脱水する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
これに対し、非特許文献1では、粘土が入れられる容器内の底、あるいは底と内部にポリエステル材を入れ、このポリエステル材の一部を容器の外に出し、ポリエステル材の吸水、乾燥プロセスを利用した脱水方法が、本願発明者らにより提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-050901号公報
【文献】特開2010-264383号公報
【文献】特許第4533207号公報
【文献】特許第5658107号公報
【文献】特許第3799422号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】International Journal of GEOMATE, Nov., 2019 Vol.17, Issue 63, pp. 9 - 16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来から提案されている脱水方法から、低コスト、効率的、簡易的な脱水技術が検討され、繊維素材等を使い、その排水及び蒸発散効果により、粘土の含水比を低下させる技術が考えられる。
【0010】
そこで、立方体状の槽の内部に、繊維素材からなる紐を格子状に配置し、紐の一部を槽から露出させる構造を考えた。しかし、このような構造では、所定期間で含水比を液性限界まで低下させることができなかった。
【0011】
そこで、本発明は、簡単な構成で、効率よく高含水比の粘土の脱水を可能とした脱水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明は、高含水比の粘土の含水比を減少させるための脱水装置であって、所定の幅と長さと深さを有し、上面が開口して粘土を収容する槽の上面に、槽の幅方向にまたがって設置される吊下材と、吊下材に上端を固定されて、槽内に吊下される排水材を備え、排水材は、シート状であって、槽の深さを上回らない長さを有し、槽中の任意の点から最も近い排水材までの水平方向距離の平均を、以下の(1)式で求められる平均排水距離(L)としたとき、時間の経過に伴う粘土の含水比の推移と平均排水距離(L)との関係に基づき、所定の期間で含水比/液性限界が1以下となるよう、複数枚の排水材が槽の長さ方向に所定の間隔を開けて配置される脱水装置である。
【0013】
【数1】
【0014】
ここで、(1)式中、Dは、排水材近傍の平面領域を示し、Sは、領域Dの面積を示し、l min は、領域Dに含まれる任意の点(x,y)の排水材までの最短排水経路を示す。
【0015】
また、本発明は、高含水比の粘土の含水比を減少させるための脱水装置であって、所定の幅と長さと深さを有し、上面が開口して粘土を収容する槽の上面に、槽の幅方向にまたがって設置される吊下材と、吊下材に上端を固定されて、槽内に吊下される排水材を備え、排水材は、シート状であって、槽の深さを上回らない長さを有し、槽中の任意の点から最も近い排水材までの水平方向距離の平均を、以下の(2)式で求められる平均排水距離(L)としたとき、時間の経過に伴う粘土の含水比の推移と平均排水距離(L)との関係に基づき、所定の期間で含水比/液性限界が1以下となるよう、複数枚の排水材が槽の長さ方向に所定の間隔を開けて配置される脱水装置である。
【0016】
【数2】
【0017】
ここで、(2)式中、Sは、排水材近傍の平面領域Dの面積であり、ΔSは、領域Dをy軸、x軸に平行な格子でm,n等分して分割した小矩形の面積であり、l min は、領域ΔSに含まれる任意の点(x i ,y j )の排水材までの最短排水経路を示す。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な構成で、効率よく高含水比の粘土の脱水を可能とした脱水装置を提供することができる。また、所定の期間で含水比が所定の値となるように、平均排水距離に基づき、排水材の形、配置を決めることができ、効率の良い脱水が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】第1の実施の形態の脱水装置の一例を示す側断面図である。
図1B】第1の実施の形態の脱水装置の一例を示す平面図である。
図1C】第1の実施の形態の脱水装置の一例を示す正面図である。
図2】排水材の一例を示す斜視図である。
図3A】第1の実施の形態の脱水装置の変形例を示す側断面図である。
図3B】第1の実施の形態の脱水装置の変形例を示す平面図である。
図3C】第1の実施の形態の脱水装置の変形例を示す正面図である。
図4A】第2の実施の形態の脱水装置の一例を示す側断面図である。
図4B】第2の実施の形態の脱水装置の一例を示す平面図である。
図4C】第2の実施の形態の脱水装置の一例を示す正面図である。
図5】排水材の一例を示す斜視図である。
図6A】排水材の配置と槽中の任意の点から排水材までの距離との関係を示す説明図である。
図6B】排水材の配置と槽中の任意の点から排水材までの距離との関係を示す説明図である。
図7A】矩形の排水材の配置と平均排水距離の関係を示す説明図である。
図7B】矩形の排水材の配置と平均排水距離の関係を示す説明図である。
図7C】矩形の排水材の配置と平均排水距離の関係を示す説明図である。
図8A】短冊状の排水材の配置と平均排水距離の関係を示す説明図である。
図8B】短冊状の排水材の配置と平均排水距離の関係を示す説明図である。
図8C】短冊状の排水材の配置と平均排水距離の関係を示す説明図である。
図9A】平均排水距離と含水比/液性限界との関係を示すグラフである。
図9B】平均排水距離と含水比/液性限界との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の脱水装置の実施の形態について説明する。
【0021】
<本実施の形態の脱水装置の構成例>
図1Aは、第1の実施の形態の脱水装置の一例を示す側断面図、図1Bは、第1の実施の形態の脱水装置の一例を示す平面図、図1Cは、第1の実施の形態の脱水装置の一例を示す正面図である。
【0022】
第1の実施の形態の脱水装置1Aは、高含水比の粘土が入れられる槽2に入れられる排水材3Aと、排水材3Aを吊下する吊下材4Aを備える。
【0023】
槽2は、上面が開口した例えば直方体で、処理する粘土の量に応じた容器等で構成される。槽2は、6面体の底面及び4側面の内側が吸水材20で覆われる。吸水材20は、例えば、綿、麻等の天然繊維の糸、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリエチレン、ポリウレタン等の化学繊維の糸で編まれた繊維素材であり、槽2の形状に合わせた矩形の布、または短冊状の布の組み合わせ等で構成される。
【0024】
槽2は、槽2の大きさに合わせて縫製、接着等により上面が開口した6面体とされた吸水材20が内側に入れられ、底面及び4側面が吸水材20で覆われる構成としても良い。
【0025】
なお、槽2は、吸水材20の形状が保持できれば、底面及び4側面が板状の部材で覆われていなくても良く、柱状の部材を組み合わせた枠で構成されていても良いし、網目状の部材で構成されていても良い。
【0026】
排水材3Aは、シート状であって、綿、麻等の天然繊維の糸、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリエチレン、ポリウレタン等の化学繊維の糸で編まれた繊維素材、あるいは、不織布、多孔質樹脂をシート状とした多孔質樹脂シート等である。図2は、排水材の一例を示す斜視図である。排水材3Aは、槽2の形状に合わせた矩形のシートで構成される。排水材3Aは、矢印G1で示す幅方向の長さが、最大で槽2の幅G10より若干狭い程度の長さ、矢印H1で示す高さ方向の長さが、槽2の深さH10と同等あるいは若干短い程度の長さである。
【0027】
吊下材4Aは、槽2の幅G10より若干広い程度の長さを有し、槽2の幅方向にまたがって設置される。複数本の吊下材4Aは、槽2の上面の開口の所定の位置に、互いが平行となる向きで所定の間隔をあけて取り付けられる。各吊下材4Aは、矩形の排水材3Aの上端部が取り付けられる。
【0028】
脱水装置1Aは、吊下材4Aが槽2の上面の開口に直接取り付けられる構成でも良い。また、脱水装置1Aは、複数本の吊下材4Aが、槽2の上面の開口からの高さを異ならせて取り付けられるようにしても良い。
【0029】
図3Aは、第1の実施の形態の脱水装置の変形例を示す側断面図、図3Bは、第1の実施の形態の脱水装置の変形例を示す平面図、図3Cは、第1の実施の形態の脱水装置の変形例を示す正面図である。
【0030】
脱水装置1A′において、槽2は、上面が開口した例えば直方体で、処理する粘土の量が多い場合、地盤を採掘した穴等で構成される。また、槽2の大きさ等に応じて、吸水材20を6面体の立体とすることが難しい場合、槽2の底面、4側面の形状に合わせた矩形の吸水材20を、槽2の底面及び4側面に敷いても良い。
【0031】
槽2が直方体である場合、排水材3Aは、槽2の長手方向に延伸する矩形で、複数枚の排水材3Aが、槽2の短手幅方向に所定の間隔を開けて配置される構成でも良い。また、排水材3Aは、槽2の短手方向に延伸する矩形で、複数枚の排水材3Aが、槽2の長手方向に所定の間隔を開けて配置される構成でも良い。
【0032】
脱水装置1A′は、吊下材4Aが枠体40Aを介して槽2の上面の開口に取り付けられる構成でも良い。
【0033】
枠体40Aは、槽2の上面の開口を露出させる矩形で、槽2に対して着脱可能に取り付けられる。枠体40Aは、複数本の吊下材4Aが、互いが平行となる向きで所定の間隔をあけて取り付けられる。また、枠体40Aは、複数本の吊下材4Aが、槽2の上面の開口からの高さを異ならせて取り付けられるようにしても良い。
【0034】
以上の構成により、脱水装置1A、1A′は、吊下材4Aに排水材3Aが取り付けられ、排水材3Aが取り付けられた複数の吊下材4Aが、直接、または、枠体40Aを介して、槽2の上面の開口に所定の間隔で取り付けられる。これにより、脱水装置1A、1A′は、複数枚の排水材3Aが、槽2の長さ方向に所定の間隔を開けた状態で、槽2の内部に吊下された形態となる。
【0035】
排水材3Aが取り付けられた槽2は、上面の開口から高含水粘土が入れられる。槽2において、高含水粘土が入れられる量は、高含水粘土の上面が、吊下材4Aに取り付けられた排水材3Aの上端を覆う程度で良い。
【0036】
槽2では、外気に触れる粘土の表面で、粘土中の水分が蒸発する。また、槽2の底面及び4側面の内側を覆う吸水材20で、粘土中の水分が吸水される。但し、槽2の開口した上面での蒸発、及び、槽2の底面及び4側面での吸水材20による吸水だけでは、効率の良い脱水を行うことができない。
【0037】
そこで、脱水装置1A、1A′を使用し、槽2中の粘土に排水材3Aが入れられることで、粘土中の水分が排水材3Aで吸水される。排水材3Aに吸収された水分は、繊維素材の排水及び蒸発散効果により、排水材3Aを伝わって排水材3Aの粘土より露出した部位に運ばれ、外気に触れて蒸発する。これにより、排水材3Aが乾燥する。そして、排水材3Aでの吸水、排出、乾燥を繰り返すことで、粘土の含水比が低下する。
【0038】
図4Aは、第2の実施の形態の脱水装置の一例を示す側断面図、図4Bは、第2の実施の形態の脱水装置の一例を示す平面図、図4Cは、第2の実施の形態の脱水装置の一例を示す正面図である。
【0039】
第2の実施の形態の脱水装置1Bは、槽2に入れられる排水材3Bと、排水材3Bを吊下する吊下材4Bを備える。
【0040】
排水材3Bは、第1の実施の形態と同じシート状素材である。図5は、排水材の一例を示す斜視図である。排水材3Bは、短冊状のシート、布等で構成される。排水材3Bは、矢印G2で示す幅方向の長さが、槽2の幅G10より狭い長さ、矢印H1で示す高さ方向の長さが、槽2の深さH10と同等あるいは若干短い程度の長さである。
【0041】
吊下材4Bは、槽2の幅G10より若干広い程度の長さを有し、槽2の上面の開口の所定の位置に、複数本の吊下材4Bが、互いが平行となる向きで所定の間隔をあけて取り付けられる。吊下材4Bは、複数本の短冊状の排水材3Bの上端部が取り付けられる。
【0042】
脱水装置1Bは、吊下材4Bが槽2の上面の開口に直接取り付けられる構成でも良いし、図示しない枠体を介して槽2の上面の開口に取り付けられる構成でも良い。また、枠体40Bは、複数本の吊下材4Bが、槽2の上面の開口からの高さを異ならせて取り付けられるようにしても良い。
【0043】
以上の構成により、脱水装置1Bは、吊下材4Bに複数本の排水材3Bが取り付けられ、複数本の排水材3Bが取り付けられた複数の吊下材4Bが、直接、または、枠体40Bを介して、槽2の上面の開口に所定の間隔で取り付けられる。これにより、脱水装置1Bは、複数本の排水材3Bが、槽2の幅方向及び長さ方向に所定の間隔を開けた状態で、槽2の内部に吊下された形態となる。
【0044】
排水材3Bが取り付けられた槽2は、上面の開口から高含水粘土が入れられる。槽2において、高含水粘土が入れられる量は、高含水粘土の上面が、吊下材4Bに取り付けられた排水材3Bの上端を覆う程度で良い。
【0045】
脱水装置1Bでは、外気に触れる粘土の表面で、粘土中の水分が蒸発する。また、槽2の底面及び4側面の内側を覆う吸水材20で、粘土中の水分が吸水される。但し、槽2の開口した上面での蒸発、及び、槽2の底面及び4側面での吸水材20による吸水だけでは、効率の良い脱水を行うことができない。
【0046】
そこで、脱水装置1Bを使用し、槽2中の粘土に排水材3Bが入れられることで、粘土中の水分が排水材3Bで吸水される。排水材3Bに吸収された水分は、繊維素材の排水及び蒸発散効果により、排水材3Bを伝わって排水材3Bの粘土より露出した部位に運ばれ、外気に触れて蒸発する。これにより、排水材3Bが乾燥する。そして、排水材3Bでの吸水、排出、乾燥を繰り返すことで、粘土の含水比が低下する。
【0047】
図6A及び図6Bは、排水材の配置と槽中の任意の点から排水材までの距離との関係を示す説明図で、以下に、排水材3A、3Bの配置と、粘土の含水比の低下率との関係を、槽2中の任意の点から排水材3A、3Bまでの距離に基づき検証した。
【0048】
図6Aでは、例えば第2の実施の形態の脱水装置1Bのように、短冊状の排水材3Bが配置されている場合を示す。槽2中の任意の点から、最も近い排水材3Bまでの水平方向距離の平均を平均排水距離と称す。
【0049】
図6Aに示すように、排水材3Bを規則的に配置したときの平均排水距離(L)を以下の(1)式に示す。
【0050】
【数3】
【0051】
ここで、(1)式中、Dは、図6Aに示すように、排水材3B近傍の平面領域を示し、Sは、領域Dの面積を示し、lminは、領域Dに含まれる任意の点(x,y)の排水材3Bまでの最短排水経路を示す。
【0052】
また、図6Bに示すように、排水材3Aまたは排水材3Bの近傍の平面領域Dを格子状に分割した場合は,平均排水距離(L)が以下の(2)式で近似的に求められる。
【0053】
【数4】
【0054】
ここで、(2)式中、Sは、排水材近傍の平面領域Dの面積であり、ΔSは、領域Dをy軸、x軸に平行な格子でm,n等分して分割した小矩形の面積であり、lminは、領域ΔSに含まれる任意の点(xi,yj)の排水材までの最短排水経路を示す。
【0055】
図7A図7B及び図7Cは、矩形の排水材の配置と平均排水距離の関係を示す説明図、図8A図8B及び図8Cは、短冊状の排水材の配置と平均排水距離の関係を示す説明図である。
【0056】
図7A図7B及び図7Cでは、槽2の幅が1m、長さが1mで、矩形の排水材3Aの幅が1mである。図7Aでは、排水材3Aを12cm間隔で配置した。この配置での平均排水距離は、L=3.00cmである。図7Bでは、排水材3Aを10cm間隔で配置した。この配置での平均排水距離は、L=2.50cmである。図7Cでは、排水材3Aを8cm間隔で配置した。この配置での平均排水距離は、L=2.00cmである。
【0057】
図8A図8B及び図8Cでは、槽2の幅が1m、長さが1mである。図8Aでは、幅10cmの短冊状の排水材3Bを10cm間隔で配置した。この配置での平均排水距離は、L=1.80cmである。図8Bでは、幅11cmの短冊状の排水材3Bを11cm間隔で配置した。この配置での平均排水距離は、L=2.06cmである。図8Cでは、幅6cmの短冊状の排水材3Bを14cm間隔で配置した。この配置での平均排水距離は、L=2.03cmである。
【0058】
図9A及び図9Bは、平均排水距離と含水比/液性限界との関係を示すグラフで、図9A図9Bにおいて、
W1:1日後の含水比
W7:7日後の含水比
WL:液性限界
である。
【0059】
含水比/液性限界が1を超えると、粘土が液体であるとみなされ、含水比/液性限界が1以下であれば、粘土が塑性体であるとみなされる。本実施の形態の脱水装置1A、1A′、1Bでは、所定の期間で含水比/液性限界が1以下となることを目指す。
【0060】
図9A図9Bから、平均排水距離を短くすることで、効率の良い脱水ができることが判った。図9Bに示すように、1週間(7日間)で液性限界まで含水比を低下させるには、平均排水距離(L)を、2.0cm以下にする必要があることが判った。
【0061】
ここで、平均排水距離をより短くすれば、脱水の効率は上がるが、必要な排水材の量と配置の工数も増えるため、結果としてコスト上昇につながる。また乾燥後の粘土が取り出しにくく、作業性の点からも不利である。
【0062】
以上のことから、矩形の排水材3Aの場合、図7Cの配置が好ましく、短冊状の排水材3Bの場合、図8Aに示す配置が好ましいことが判る。
【0063】
これにより、所定の期間で含水比/液性限界が所定の値となるように、(1)式または(2)式で求められる平均排水距離(L)に基づき、排水材3Aまたは排水材3Bの形、配置を決めることができ、効率の良い脱水が可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1A、1A′1B・・・脱水装置、2・・・槽、20・・・吸水材、3A、3B・・・排水材、4A、4B・・・吊下材、40A、40B・・・枠体
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B