(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】帽子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A42C 1/06 20060101AFI20240404BHJP
A42C 1/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A42C1/06
A42C1/00 H
A42C1/00 N
(21)【出願番号】P 2020107350
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】597093115
【氏名又は名称】株式会社シオジリ製帽
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】塩尻 英一
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-292512(JP,A)
【文献】特表2019-521261(JP,A)
【文献】特開2017-166086(JP,A)
【文献】特開2018-096005(JP,A)
【文献】実開昭57-106723(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0037947(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42C 1/00-1/06
A42B 1/00-1/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の頭部を覆う半球状のクラウンと、
クラウン前部の下縁から前方に突出して設けられた前鍔と、
クラウン前部の内面に沿った状態に設けられ、クラウン前部を補強する前立てと
を備えた帽子の製造方法であって、
クラウンに対して前立てが位置ずれしないようにクラウンに対して前立てを縫着する前立て位置決め工程を行った後、
クラウンに対して前鍔を縫着する前鍔縫着工程を行う
とともに、
前鍔縫着工程を行うよりも前に、
クラウン前部を構成する複数枚の生地を繋ぎ合わせたクラウン第一部分を得るクラウン第一部分形成工程と、
クラウン横部及びクラウン後部を構成する複数枚の生地を繋ぎ合わせたクラウン第二部分を得るクラウン第二部分形成工程と、
クラウン第一部分とクラウン第二部分とを縫合して半球状のクラウンとするクラウン全体形成工程と
を行い、
前立て位置決め工程における前立ての縫着が、クラウン全体形成工程でクラウン第一部分とクラウン第二部分とを縫合するときに、クラウン第一部分とクラウン第二部分との縫合部分において、前立ての側縁も一緒に縫合することによって行われる
ことを特徴とする帽子の製造方法。
【請求項2】
着用者の頭部を覆う半球状のクラウンと、
クラウン前部の下縁から前方に突出して設けられた前鍔と、
クラウン前部の内面に沿った状態に設けられ、クラウン前部を補強する前立てと
を備えた帽子の製造方法であって、
クラウンに対して前立てが位置ずれしないようにクラウンに対して前立てを縫着する前立て位置決め工程を行った後、
クラウンに対して前鍔を縫着する前鍔縫着工程を行う
とともに、
前立て位置決め工程を行った後に、クラウン前部に刺繍を施してマーク入れを行うマーク入れ工程を行い、
マーク入れ工程における刺繍を前立てまで貫通して行う
ことを特徴とする帽子の製造方法。
【請求項3】
着用者の頭部を覆う半球状のクラウンと、
クラウン前部の下縁から前方に突出して設けられた前鍔と、
クラウン前部の内面に沿った状態に設けられ、クラウン前部を補強する前立てと
を備えた帽子の製造方法であって、
クラウンに対して前立てが位置ずれしないようにクラウンに対して前立てを縫着する前立て位置決め工程を行った後、
クラウンに対して前鍔を縫着する前鍔縫着工程を行う
とともに、
クラウン前部の下縁中央部に切欠部を設け、
メッシュ生地からなる前立てを、前記切欠部からクラウン外部へ露出した状態とする
ことを特徴とする帽子の製造方法。
【請求項4】
前鍔縫着工程を行う際に、クラウンの下縁に沿って環状に設けられるビン皮も、クラウンに対して縫着する請求項1~3いずれか記載の帽子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラウン前部の内面側に前立てを有する帽子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
着用者の頭部を覆う半球状のクラウンと、クラウン前部の下縁から前方に突出して設けられた前鍔とを備えた帽子においては、クラウン前部の内面に沿った箇所に、「前立て」と呼ばれる部材(例えば、特許文献1の第1図における「前立て部材5」を参照。)が設けられることがある。特に、野球帽等は、前立てが設けられたものが多い。この前立ては、クラウン前部を内面側から補強することで、クラウン前部の型崩れを防止したり、クラウン前部に表したマーク(エンブレム)が帽子を被ったときに後方へ倒れたりしないようにするためのものとなっている。前立ては、以前は、セルロイド等の合成樹脂シートで形成されることが多かったが、近年は、合成樹脂繊維を織製したメッシュ生地で形成されることが多くなっている。
【0003】
前立てを備えた帽子は、
[1] クラウンを形成する三角状の生地(その形が蓮華の花びらに似ていることから「れんげ」と呼ばれることがある。)を縫合により繋ぎ合わせ、半球状に形成する。
[2] 半球状に形成されたクラウンの前部下縁に、前立ての下縁と、前鍔の基端縁(後縁)とを重ねて縫合する。
という工程を経て製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記[2]の工程を行う際には、クラウンと、前立てと、前鍔の少なくとも3つの部材を互いに位置ずれしないように手で押さえた状態で、クラウンを回しながらミシン掛けする必要がある。このため、上記[2]の工程は、難易度が高く、作業者に技術が要求される。クラウンの下縁に沿った箇所に「ビン皮」と呼ばれる部材が環状に縫着されたものもあるところ、このビン皮を備えた帽子では、上記[2]の工程の難易度は、さらに高くなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、前立て付きの帽子を容易に製造することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、
着用者の頭部を覆う半球状のクラウンと、
クラウン前部の下縁から前方に突出して設けられた前鍔と、
クラウン前部の内面に沿った状態に設けられ、クラウン前部を補強する前立てと
を備えた帽子の製造方法であって、
クラウンに対して前立てが位置ずれしないようにクラウンに対して前立てを縫着する前立て位置決め工程を行った後、
クラウンに対して前鍔を縫着する前鍔縫着工程を行う
ことを特徴とする帽子の製造方法
を提供することによって解決される。
【0008】
ここで、「前立て位置決め工程」とは、クラウンに対して前立てが位置ずれしないように、前立てをクラウンに縫着する工程のことをいい、クラウンに対する前立ての縫着の全てが、この前立て位置決め工程で完結することを意味しない。換言すると、「前立て位置決め工程を行った後、・・・前鍔縫着工程を行う」という記載は、前鍔縫着工程を開始するときに、クラウンに対する前立ての縫合が全て終わっていることを意味しない。前立て位置決め工程よりも後に行われる他の工程(前鍔縫着工程等)で、前立てとクラウンとに互いに縫合される部分があってもよい。
【0009】
このように、クラウンに対して前立てを位置ずれしないように縫着してから、クラウンに対して前鍔を縫着することによって、前鍔とクラウンとをミシン掛けする際に、ミシンの操作者が手で押さえなければならない部材の数を少なくすることができる。したがって、前立てを備えた帽子であっても容易に製造することができる。
【0010】
ところで、一般的な前立て付きの帽子では、前立ては、その下縁のみがクラウンに対して縫着された状態となっているこの点、本発明の製造方法のように、前立て位置決め工程を行った後に前鍔縫着工程を行う場合において、その前立て位置決め工程で前立ての「下縁」をクラウンに縫着するようにすると、前鍔縫着工程を終えたときのクラウンの下縁には、前立て位置決め工程における縫い目と前鍔縫着工程における縫い目とが二重に形成されるようになる。これら2本の縫い目の間隔が場所によって異なっている(2本の縫い目が非平行である)と、帽子の見栄えが悪くなるおそれがある。しかし、別々のタイミングで形成される2本の縫い目を、平行にすることや、重なり合って完全に一致させることは、必ずしも容易ではない。
【0011】
このため、本発明の製造方法においては、前立て位置決め工程における前立ての縫着を、前立ての下縁(クラウンの前部下縁)以外の箇所で行うことが好ましい。具体的には、前立て位置決め工程における前立ての縫着を、前立ての左右の側縁をクラウンに対して縫着することによって行うことが好ましい。これにより、クラウンの下縁に2本の縫い目が形成されないようにし、帽子の見た目を良くすることができる。
【0012】
加えて、前立ての左右の側縁をクラウンに縫着すると、以下のような効果も奏される。すなわち、一般的な前立て付きの帽子では、前立てが「下縁」のみでクラウンに縫着されているため、前立ての上縁を下側に引き出すことによって、クラウンの下縁から下方に前立てを降ろした状態とすることができる。しかし、前立てを降ろすと、前立てに好ましくないクセが付くため、前立ては降ろした状態としない方が好ましい。ところが、子供等は、降ろした前立てがサングラス等のように見えることを面白がり、前立てを降ろした状態で帽子を着用することがある。この点、前立ての左右の側縁をクラウンに縫着することによって、前立てを下側に引き出すことができない状態とすることができる。
【0013】
本発明の製造方法においては、
前鍔縫着工程を行うよりも前に、
クラウン前部を構成する複数枚の生地を繋ぎ合わせたクラウン第一部分を得るクラウン第一部分形成工程と、
クラウン横部及びクラウン後部を構成する複数枚の生地を繋ぎ合わせたクラウン第二部分を得るクラウン第二部分形成工程と、
クラウン第一部分とクラウン第二部分とを縫合して半球状のクラウンとするクラウン全体形成工程と
を行い、
前立て位置決め工程における前立ての縫着を、クラウン全体形成工程でクラウン第一部分とクラウン第二部分とを縫合するときに、クラウン第一部分とクラウン第二部分との縫合部分において、前立ての側縁も一緒に縫合することによって行うことも好ましい。
【0014】
クラウン第一部分とクラウン第二部分との縫合は、通常、袋縫いによって行われ、その縫い目はクラウンの内側に隠れた状態(クラウンの外側に表れない状態)となる。したがって、この袋縫いの部分で前立ても縫合すれば、クラウンと前立てとの縫合部分の縫い目がクラウンの外側に表れないようにして、帽子の見栄えをさらに良くすることができる。また、前立て位置決め工程とクラウン全体工程とを同時に行うことができるので、工程数を減らして、帽子の製造コストを抑えることも可能になる。
【0015】
本発明の製造方法においては、前鍔縫着工程を行う際に、クラウンの下縁に沿って環状に設けられるビン皮も、クラウンに対して縫着することが好ましい。既に述べたように、ビン皮を備えた帽子は、その縫製が難しくなりやすいところ、本発明の製造方法では、ビン皮をクラウンに縫着する際には、既に前立てがクラウンに縫着されている。このため、ビン皮をクラウンに縫着する際の煩わしさを大幅に軽減することができる。
【0016】
本発明の製造方法においては、前立て位置決め工程を行った後に、クラウン前部に刺繍を施してマーク入れを行うマーク入れ工程を行い、マーク入れ工程における刺繍を前立てまで貫通して行うことも好ましい。これにより、前立てをクラウンに対してさらにしっかりと固定することが可能になる。また、マーク入れを行った前立て付きの帽子の製造をシンプルにすることができる。
【0017】
すなわち、マーク入れは、縫製工程とは別の工程で行われるため、従来の前立て付きの帽子では、
[1] 縫製工程でクラウン第一部分(クラウン前部)をつくる。
[2] クラウン第一部分をマーク入れ工程に送る。
[3] クラウン第一部分にマーク入れを行う。
[4] マーク入れを行ったクラウン第一部分を縫製工程に送り戻す。
[5] クラウン第一部分に他の部材(クラウン第二部分や前立てやビン皮等)を縫合する。
という手順でマーク入れを行っており、工程が複雑化していた。この点、上記の構成を採用すれば、縫製工程で帽子の縫製を全て終えてからマーク入れを行うことができるようになる。
【0018】
本発明の製造方法においては、クラウン前部の下縁中央部に切欠部を設け、メッシュ生地からなる前立てを、前記切欠部からクラウン外部へ露出した状態(前記切欠部に重なる箇所にも前立ては存在している。)とすることが好ましい。これにより、クラウン前部の下縁中央部から、クランの内部へ空気を導入したり、クラウンの内部の空気を排出したりする等、クラウンのベンチレーションを行うことが可能になる。このとき、クラウン前部の下縁中央部に切欠部があると、クラウン前部の下縁と前立ての下縁とが一部でしか重ならなくなる。このため、前立ての下縁のみでクラウンに縫着する従来の方法では、クラウンに対する前立ての縫着がより難しくなるところ、本発明の製造方法では、クラウン前部の下縁中央部に切欠部がある場合でも、クラウンに対する前立ての縫着を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によって、前立て付きの帽子を容易に製造することを目的としたものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る帽子を前方から見た状態を示した斜視図である。
【
図2】本発明に係る帽子を後方から見た状態を示した斜視図である。
【
図3】本発明に係る帽子を下方から見た状態を示した底面図である。
【
図4】本発明に係る帽子におけるクラウン後部を、左右方向に垂直な平面で切断した状態を拡大して示した断面図である。
【
図5】本発明に係る帽子におけるクラウン前部の下縁中央部周辺を拡大して示した斜視図である。
【
図6】本発明に係る帽子におけるクラウン前部及び前鍔を、左右方向に垂直な平面で切断した状態を示した端面図である。
【
図7】本発明に係る帽子におけるクラウンを下方から見た状態を示した底面図であって、クラウンに対して前立て等を縫着する前の状態を示した図である。
【
図8】本発明に係る帽子におけるクラウンを下方から見た状態を示した底面図であって、クラウンに対して前立て等を縫着した後の状態を示した図である。
【
図9】本発明に係る帽子におけるビン皮を下方から見た状態を示した底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の帽子の製造方法の好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。まず、本発明の帽子の製造方法によって製造される帽子(本発明に係る帽子)について説明する。
図1は、本発明に係る帽子を前方から見た状態を示した斜視図である。
図2は、本発明に係る帽子を後方から見た状態を示した斜視図である。本発明に係る帽子は、
図1及び
図2に示すように、クラウン10と前鍔20とを備えている。クラウン10は、着用者の頭部を覆うためのものとなっている。前鍔20は、帽子の着用者の目に日光が入らないようにするための部分(庇としての機能を発揮する部分)となっている。
【0022】
図3は、本発明に係る帽子を下方から見た状態を示した底面図である。本実施形態の帽子においては、
図3に示すように、クラウン10の内側に、前立て30とビン皮40も設けている。前立て30は、クラウン10の前側部分(後述するクラウン前部11,12)を内側から補強することで、クラウン前部11,12の型崩れを防止したり、クラウン前部11,12に表したマーク70(エンブレム)が後方へ倒れたりしないようにするために、クラウン前部11,12の内側に宛がわれる保形用の面状芯材となっている。ビン皮40は、着用者の頭部の汗を吸い取るため部分となっている。
【0023】
また、本実施形態の帽子においては、
図2及び
図3に示すように、クラウン10の後側部分(後述するクラウン後部15,16)の下縁に沿った箇所に、切欠部10a(後側切欠部)を設けており、この後側切欠部10aに、サイズ調節ベルト50を取り付けている。このため、クラウン10の下縁部の周長を、帽子の着用者の頭囲に応じて調節することが可能となっている。
【0024】
以下、本発明の帽子を構成する各部材について詳しく説明する。
【0025】
1.クラウン
クラウン10は、
図1に示すように、半球状を為している。クラウン10は、通常、複数枚の生地を繋ぎ合わせることによって形成される。本実施形態の帽子においても、クラウン左前部11を形成する生地と、クラウン右前部12を形成する生地と、クラウン左横部13を形成する生地と、クラウン右横部14を形成する生地と、クラウン左後部15を形成する生地と、クラウン右後部16を形成する生地との計6枚の生地(れんげ)を繋ぎ合わせることによって、クラウン10を形成している。以下においては、クラウン左前部11及びクラウン右前部12を「クラウン前部11,12」と表記し、クラウン左横部13及びクラウン右横部14を「クラウン横部13,14」と表記し、クラウン左後部15及びクラウン右後部16を「クラウン後部15,16」と表記することがある。
【0026】
クラウン10を構成する複数枚の生地(れんげ)の繋ぎ合わせは、通常、縫合によって行われる。しかし、シームレス加工(例えば、超音波による振動で生地同士を摩擦することで熱を発生させ、生地を溶融させて互いに溶着させる加工等)によって生地(れんげ)を繋ぎ合わせる場合もある。シームレス加工によって、クラウン10に縫い目が形成されないようにし、帽子の見た目をさらに良くすることができる。
【0027】
また、本実施形態の帽子では、既に述べたように、クラウン後部15,16に後側切欠部10aを設けているところ、
図2及び
図3に示すように、この後側切欠部10aの上縁を縁取りするように、ベンチレーション用メッシュ生地60をクラウン10の内側から宛がっている。このベンチレーション用メッシュ生地60は、クラウン10に重ならず、後側切欠部10aから露出する露出部61と、クラウン10に重なって、後側切欠部10aから露出しない非露出部62(
図2においては非露出部62を斜線ハッチングで示している。)とを有している。
【0028】
ベンチレーション用メッシュ生地60は、
図2に示すように、アーチ状(円弧状)を為している。このベンチレーション用メッシュ生地60は、その左側と右側の下縁に沿った箇所α(
図3)では、クラウン10に対して縫着されているものの、他の箇所(後述するベンチレーション用メッシュ生地60の中心の箇所β(
図3)を除く。)では、クラウン10に対して縫着されず、ふらされた状態となっている。
【0029】
図4は、本発明に係る帽子におけるクラウン後部15,16を、左右方向に垂直な平面で切断した状態を拡大して示した断面図である。本実施形態の帽子では、上記のように、ベンチレーション用メッシュ生地60を設けるとともに、それをふらした状態としたことで、
図4の矢印γ
1に示すように、後側切欠部10aの付近にある空気A
1を、ベンチレーション用メッシュ生地60を通じてクラウン10の内部に取り込むだけでなく、同図の矢印γ
2に示すように、後側切欠部10aの付近にある空気A
1を、クラウン10とベンチレーション用メッシュ生地60との隙間を通じてクラウン10の内部に取り込むことができるようになっている。また逆に、クラウン10の内側の空気を後側切欠部10a付近からクラウン10の外側へ排出することができるようになっている。したがって、クラウン10の後側部分でベンチレーションを行うことができるようになっている。
【0030】
ただし、ベンチレーション用メッシュ生地60の左側及び右側の下縁のみをクラウン10に縫着しただけでは、ベンチレーション用メッシュ生地60の中央部分全体が、クラウン10から浮いた状態となるため、本来は、非露出部62であるべき部分が下側にズレ出て後側切欠部10aから露出した状態となるおそれがある。このような状態になると、帽子の見た目が悪くなるだけでなく、クラウン10の後側部分で所望のベンチレーションを行うことができなくなるおそれもある。
【0031】
このため、本実施形態の帽子では、ベンチレーション用メッシュ生地60の中央付近の箇所β(
図3)でも、ベンチレーション用メッシュ生地60をクラウン10に対してスポット的に縫着している。これにより、
図4の矢印γ
2の空気の流れを阻害することなく、ベンチレーション用メッシュ生地60が後側切欠部10aからズレ出てこないように、クラウン10に対してベンチレーション用メッシュ生地60の中央部分を位置決めすることが可能となっている。
【0032】
図3に示した例では、ベンチレーション用メッシュ生地60とクラウン10とをスポット的に縫着する箇所βを、クラウン10における、後側切欠部10aの上縁に沿った領域の左右方向中央付近に1箇所のみに設けたが、当該上縁に沿った領域の複数個所に設けてもよい。しかし、スポット的に縫着する箇所βを多く設けすぎると、
図4の矢印γ
2の空気の流れが生じにくくなって、クラウン10の後側部分におけるベンチレーション効果が限定的になるおそれがある。このため、スポット的に縫着する箇所βの数は、多くても5~7箇所程度に抑えることが好ましい。
【0033】
ベンチレーション用メッシュ生地60の箇所βにおける縫着は、波縫いや返し縫い等の直線縫いであってもよい。しかし、箇所βにおける縫着は、スポット的であることに加えて、縫着される対象の生地の一方がメッシュ生地(ベンチレーション用メッシュ生地60)であるため、直線縫いでは縫い目が解れるおそれがある。このため、本実施形態の帽子では、箇所βにおける縫着は、閂止めによって行っている。
【0034】
ところで、ベンチレーション用メッシュ生地60における露出部61の幅W
1(
図4)が狭すぎると、
図4の矢印γ
2の空気の流れが生じにくくなる。このため、露出部61の幅W
1(場所によって幅W
1が異なる場合には、その最小値。以下、幅W
1の下限値において同じ。)は、5mm以上確保することが好ましく、10mm以上確保することがより好ましい。ただし、露出部61の幅W
1を広くしすぎると、サイズ調節ベルト50を短めに設定したときに、露出部61に目立つシワが形成されやすくなる等、帽子の見た目が悪くなるおそれがある。このため、露出部61の幅W
1(場所によって幅W
1が異なる場合には、その最大値。以下、幅W
1の上限値において同じ。)は、50mm以下に抑えることが好ましく、30mm以下に抑えることがより好ましい。
【0035】
また、ベンチレーション用メッシュ生地60における非露出部62の幅W
2(
図4)が狭すぎても、
図4の矢印γ
2の空気の流れが生じにくくなる。加えて、ベンチレーション用メッシュ生地60の上縁が後側切欠部10aから露出しやすくなる。このため、露出部61の幅W
2(場所によって幅W
2が異なる場合には、その最小値。以下、幅W
2の下限値において同じ。)は、5mm以上確保することが好ましく、10mm以上確保することがより好ましい。ただし、非露出部62の幅W
2を広くしすぎると、非露出部62の面積が広くなりすぎてしまい、非露出部62をクラウン10の内面に綺麗に沿わせにくくなる。このため、非露出部62の幅W
2(場所によって幅W
2が異なる場合には、その最大値。以下、幅W
2の上限値において同じ。)は、50mm以下に抑えることが好ましく、30mm以下に抑えることがより好ましい。
【0036】
さらに、本実施形態の帽子では、
図5に示すように、クラウン前部11,12の下縁中央部にも切欠部10b(前側切欠部)を設けている。
図5は、本発明に係る帽子におけるクラウン前部11,12の下縁中央部周辺を拡大して示した斜視図である。クラウン前部11,12の内側には、
図6に示すように、前立て30が位置しており、前側切欠部10bからは、クラウン前部11,12の裏側(内側)に配されたメッシュ生地からなる前立て30の下部が露出した状態となっている。
図6は、本発明に係る帽子におけるクラウン前部11,12及び前鍔20を、左右方向に垂直な平面で切断した状態を示した端面図である。
【0037】
上記のように、クラウン前部11,12に前側切欠部10bを設けたことによって、
図6の矢印γ
3,γ
4に示すように、クラウン10の前方にある空気A
2,A
3を、前側切欠部10bを通じてクラウン10の内部に取り込むことができるようになっている。また逆に、クラウン10の内側の空気を前側切欠部10bからクラウン10の外側へ排出することができるようになっている。したがって、クラウン10の前側部分でベンチレーションを行うことができるようになっている。
【0038】
前側切欠部10bを設ける場所は、クラウン前部11,12であれば、特に限定されない。しかし、前側切欠部10bを目立ちやすい箇所に設けることは好ましくない。このため、本実施形態の帽子においては、クラウン前部11,12における、クラウン10の下縁に沿った箇所(前鍔20との境界部付近)に、前側切欠部10bを設けている。これにより、前側切欠部10bを目立ちにくくして、帽子の見た目を良くすることが可能となっている。また、クラウン前部11,12の中央部分にエンブレムを表わす等、帽子のデザインの自由度を高めることもできる。
【0039】
また、前側切欠部10bからクラウン10の内側に取り入れられた空気は、着用者の頭部の表面に沿って流れるようになるところ、前側切欠部10bよりも下側には行きにくい。この点、前側切欠部10bを設ける場所自体を、クラウン10の下縁部に沿った箇所(低い位置)としたことによって、前側切欠部10bからクラウン10の内側に取り入れられた空気を、クラウン10の内側における広い範囲に行き渡らせることも可能となっている。本実施形態の帽子においては、前側切欠部10bを1箇所のみに設けているが、複数個所に分断して設けてもよい。
【0040】
前側切欠部10bの横幅W
3(
図5)は、ある程度広く確保される。前側切欠部10bの横幅W
3が狭すぎると、クラウン10の前側部分のベンチレーションが効率的に行われにくくなるからである。前側切欠部10bの横幅W
3(上下位置によって横幅W
3が異なる場合にはその最大値。以下同じ。)は、50mm以上とすることが好ましく、100mm以上とすることがより好ましい。ただし、前側切欠部10bの横幅W
3が広すぎると、空気取入口10が目立ちやすくなるおそれがある。このため、前側切欠部10bの横幅W
3は、200mm以下とすることが好ましく、150mm以下とすることがより好ましい。
【0041】
また、前側切欠部10bの縦幅W
4(
図5)も、ある程度広く確保される。前側切欠部10bの縦幅W
4が狭すぎると、クラウン10のベンチレーションが効率的に行われにくくなるからである。前側切欠部10bの縦幅W
4(左右位置によって縦幅W
4が異なる場合にはその最大値。以下同じ。)は、3mm以上とすることが好ましく、5mm以上とすることがより好ましい。ただし、前側切欠部10bの縦幅W
4を広くしすぎると、空気取入口10が目立ちやすくなるおそれがある。このため、前側切欠部10bの縦幅W
4は、50mm以下とすることが好ましく、30mm以下とすることがより好ましい。
【0042】
2.前鍔
前鍔20は、クラウン前部11,12の下縁から前方に突出して設けられている。本実施形態の帽子においては、
図6に示すように、前鍔20を、前鍔20の保形を行う保形芯21と、保形芯21の上側を覆う上側生地22a,22bと、保形芯21の下側を覆う下側生地23とで構成している。保形芯21は、樹脂やエラストマーや厚紙等、ある程度の厚みと硬さを有する素材で形成される。また、上側生地22aは、薄手のメッシュ生地となっており、上側生地22bは、厚手のメッシュ生地となっている。さらに、下側生地23は、薄手のメッシュ生地となっている。
【0043】
本実施形態の帽子は、既に述べたように、クラウン前部11,12に設けた前側切欠部10bを通じてクラウン10のベンチレーションを行うものとなっている。しかし、前側切欠部10bを設けただけでは、前鍔20の上面側にある空気A
2(
図6)を前側切欠部10bからクラウン10の内側に取り入れることができても、前鍔20の下面側にある空気A
3(
図6)を前側切欠部10bからクラウン10の内側に取り入れることができない。このため、前側切欠部10bにより得られるベンチレーション効果が限定的になる。
【0044】
このため、本実施形態の帽子においては、前鍔20の基端(クラウン10の下縁に接続される側の端縁)寄りの部分に、空気透過部20aを設けている。この空気透過部20aを設けたことによって、前鍔20の下面側の空気A2が、空気透過部20aを透過して前鍔20の上面側に移動し、前側切欠部10bからクラウン10の内側に取り込まれるようになる。したがって、クラウン10の前側部分のベンチレーションをより効果的に行うことが可能となっている。
【0045】
空気透過部20aは、前鍔20の基端寄りの部分に設けられるのであれば、その配置を特に限定されない。本実施形態の帽子においては、前鍔20の基端縁に達する状態で空気透過部20aを設けている。具体的には、前鍔20の保形芯21(
図6)の基端縁中央部に切欠部を設け、その切欠部が空気透過部20aとして機能するようにしている。
【0046】
これにより、前側切欠部10bに連続する形で空気透過部20aを設け、空気透過部20aを下側から上側に透過してきた空気(前鍔20の下面側にあった空気A3)が前側切欠部10bに効率的に取り込まれるようになっている。加えて、帽子の着用者の額に保形芯21の基端縁が突き当たりにくくして、帽子の被り心地が良くなっている。本実施形態の帽子においては、空気透過部20aを1箇所のみに設けているが、複数個所に分断して設けることもできる。
【0047】
空気透過部20aの形態は、特に限定されない。本実施形態の帽子においては、
図5に示すように、空気透過部20aを半円形状に設けている。換言すると、前鍔20の保形芯21をU字状に形成し、その保形芯21における半円形状に凹んだ部分が、空気透過部20aとなるようにしている。このため、空気透過部20aを広く確保しながらも、保形芯21をシンプルで安定性に優れた形態とすることが可能となっている。
【0048】
前鍔20の下面側にある空気A
3(
図6)が空気透過部20aを通過しやすくするためには、空気透過部20aの面積を、ある程度大きくすることが好ましい。具体的には、空気透過部20aの面積(空気透過部20aを複数個所に分断して設ける場合には、それぞれの空気透過部20aの面積を合計した値。以下同じ。)を、10cm
2以上とすることが好ましく、15cm
2以上とすることがより好ましい。ただし、空気透過部20aの面積を大きくしすぎると、前鍔20の形態を維持しにくくなるおそれがある。このため、空気透過部20aの面積は、広くしすぎるのもよくない。空気透過部20aの面積は、50cm
2以下とすることが好ましく、30cm
2以下とすることがより好ましい。
【0049】
空気透過部20aの横幅W
5(
図3)は、ある程度広く確保する。空気透過部20aの横幅W
5が狭いと、空気透過部20aを通過する空気の流量を確保しにくくなるからである。空気透過部20aの横幅W
5(前後位置によって縦幅W
5が異なる場合にはその最大値。以下同じ。)は、50mm以上とすることが好ましく、100mm以上とすることがより好ましい。ただし、空気透過部20aの横幅W
5を広くしすぎると、クラウン10に対して前鍔20をしっかりと固定しにくくなり(前鍔20の向きを安定させにくくなり)、前鍔20が垂れ下がりやすくなる。このため、空気透過部20aの横幅W
5は、170mm以下とすることが好ましく、150mm以下とすることがより好ましい。
【0050】
空気透過部20aの縦幅W
6(
図3)も、ある程度広く確保する。空気透過部20aの縦幅W
6が狭いと、前鍔20の下面側にある空気A
3(
図6)が空気透過部20aを通じて前鍔10の上面側に透過しにくくなるからである。空気透過部20aの横幅W
5は、10mm以上とすることが好ましく、30mm以上とすることがより好ましい。ただし、空気透過部20aの縦幅W
6を広くしすぎると、空気透過部20aが前鍔20の先端縁(前端縁)近くまで延在するようになり、前鍔20の強度を維持しにくくなるおそれもある。空気透過部20aの縦幅W
6は、100mm以下とすることが好ましく、50mm以下とすることがより好ましい。
【0051】
既に述べたように、本実施形態の帽子においては、空気透過部20aを、前鍔20の保形芯21に設けた開口部(乃至は切欠部)の形態で設けている。この空気透過部20aは、開口したままとしてもよいが、この場合には、空気透過部20aを通じて帽子着用者の目に日光が入りやすくなり、前鍔20が庇としての機能を発揮しにくくなる。加えて、空気透過部20aが目立ちやすくなり、帽子の見た目が悪くなるおそれもある。
【0052】
このため、本実施形態の帽子においては、
図5に示すように、空気透過部20aを、メッシュ生地で覆っている。具体的には、
図6に示すように、前鍔20を、保形芯21と、前鍔20における上側生地22a,22b及び下側生地23をメッシュ生地で形成したところ、保形芯21を切り欠いた部分(空気透過部20aとなる部分)に、上側生地22a,22b及び下側生地23を延在させている。これにより、空気透過部20aが設けられた帽子をスタイリッシュに見せることが可能となっている。
【0053】
3.前立て
前立て30は、保形性を有するメッシュ生地によって形成されている。前立て30の縁部には、縁取りを施しており、解れが生じないようにしている。一般的な前立て付きの帽子では、前立て30は、その下縁全体を、クラウン10に対して縫着されるところ、本実施形態の帽子では、クラウン前部11,12の下縁中央部に前側切欠部10bを設けたため、前側切欠部10bが存在する区間では、前立て30の下縁をクラウン10に縫着することができない。このため、本実施形態の帽子では、前立て30の下縁は、その左右両端部(
図1における区間δ)では、クラウン10に対して縫着しているものの、その間の区間(前側切欠部10bが存在する区間)では、クラウン10に対して縫着せず、前鍔20の基端縁(後端縁)に対して縫着している。
【0054】
加えて、一般的な前立て付きの帽子では、前立て30の下縁以外の縁部(左右の側縁及び上側の側縁)は、クラウン10に対して縫着されておらず、ふらされた状態となっている。これに対し、本実施形態の帽子では、後述するように、前立て30の左右の側縁も、クラウン10に対して縫着している。具体的には、前立て30の左側の側縁を、クラウン左前部11とクラウン左横部13との境界に沿って縫着しており、前立て30の右側の側縁を、クラウン右前部12とクラウン右横部14との境界に沿って縫着している。このように、前立て30をクラウン10に対してしっかりと固定することで、前立て30でクラウン前部11,12を内側からしっかりと補強し、クラウン前部11,12の型崩れをより確実に防止することが可能となっている。
【0055】
前立て30の形状は、クラウン10の形状等に応じて適宜決定される。本実施形態の帽子においては、上縁中央部が円弧状に盛り上がった形状の前立て30を、クラウン10の形状に沿うように、クラウン前部11,12の下縁部に沿って湾曲させている。
図3に示すように、クラウン10の内側を下側から見たときには、前立て30がU字状乃至はV字状に見えるようになっている。この他、前立て30は、クラウン前部11,12を形成する生地(れんげ)に倣った三角形状に形成することもできる。
【0056】
前立て30をクラウン前部11,12におけるどの程度の高さまで設けるかは特に限定されない。しかし、前立て30が低いと、前立て30でクラウン前部11,12をしっかりと補強することができなくなる。加えて、本発明の帽子において、前立て30は、上記の前側切欠部10bを内側から覆う機能をも有するところ、前立て30が低いと、前側切欠部10bの全体を前立て30で覆うことができなくなるおそれもある。
【0057】
このため、前立て30は、少なくとも、前側切欠部10bの上端よりも高い位置まで設けられ、好ましくは、クラウン前部11,12の高さの1/2以上の位置まで設けることが好ましい。本実施形態の帽子においては、
図6に示すように、クラウン前部11,12における屈曲部付近の高さまで前立て30を設けている。このため、前側切欠部10bの全体が前立て30で内側から覆われた状態となっている。また、クラウン前部11,12における中央部には、ワッペンや刺繍によりマーク70(
図1)が施されることが多いところ、このマーク70が施される部分の裏側(内側)も、前立て30で補強することができるようになっている。
【0058】
4.ビン皮
ビン皮40は、
図3に示すように、クラウン10の内側でクラウン10の下縁に沿って環状に設けられた帯状の素材となっている。
図6に示すように、ビン皮40の下縁は、クラウン10の下縁に沿って縫着(固着)される。前立て30は、クラウン10とビン皮40との間に挟まれた状態に設けられる。ビン皮40の上縁部は、クラウン10に対して縫着されておらず、ふらされた状態となっている。
【0059】
このビン皮40は、着用者の頭部の汗を吸収する機能を有している。このため、ビン皮40は、吸水性と速乾性に優れた素材で形成することが好ましい。本実施形態の帽子においては、内層(着用者の頭部に接触する側の層)に太い繊維を用い、外層に細い繊維を用いた織物でビン皮40を形成している。このため、着用者の頭部の汗を毛細管現象によりビン皮40に速やかに吸収させることができるようになっている。
【0060】
5.サイズ調節ベルト
サイズ調節ベルト50は、クラウン10の下縁の周長を、帽子の着用者の頭囲に応じて調節するためのものとなっている。サイズ調節ベルト50は、従来の帽子で採用されている各種のものを用いることができる。本実施形態の帽子では、サイズ調節ベルト50を、左右一対のベルトで構成している。一方のベルトには、複数の凸部が所定間隔で設けられており、他方のベルトには、複数の凹部(前記凸部に嵌合可能な凹部)が所定間隔で繰り返し設けられている。このサイズ調節ベルト50は、嵌合させる凹凸を切り替えることによって、長さを調節することができるものとなっている。
【0061】
6.帽子の製造方法
続いて、上記の帽子の製造方法について説明する。既に述べたように、一般的な前立て付きの帽子では、クラウン10に対して前立て30と前鍔20とを同時に縫着するところ、本発明に係る帽子を製造する際には、クラウン10に対して前立て30が位置ずれしないようにクラウン10に対して前立て30を縫着する前立て位置決め工程を行ってから、クラウン10に対して前鍔20を縫着する前鍔縫着工程を行うようになっている。これにより、前鍔縫着工程で前鍔20とクラウン10とをミシン掛けする際に、ミシンの操作者が手で押さえなければならない部材の数を少なくすることができる。
【0062】
本実施形態の製造方法では、クラウン第一部分形成工程と、クラウン第二部分形成工程と、クラウン全体形成工程と、前立て位置決め工程と、ベンチレーション用メッシュ生地縫着工程と、前鍔縫着工程と、ビン皮縫着工程と、マーク入れ工程等を経て、帽子を製造するようにしている。後述するように、クラウン第二部分形成工程を行う際には、ベンチレーション用メッシュ生地縫着工程を同時に行い、クラウン全体形成工程を行う際には、前立て位置決め工程を同時に行い、前鍔縫着工程を行う際には、ビン皮縫着工程を同時に行うようにしている。以下、各工程について説明する。
【0063】
7.クラウン第一部分形成工程
クラウン第一部分形成工程は、
図7に示すように、クラウン前部11,12を構成する2枚の生地(れんげ)を繋ぎ合わせたクラウン第一部分10cを得る工程である。
図7は、本発明に係る帽子におけるクラウン10を下方から見た状を示した底面図であって、クラウン10に対して前立て30等を縫着する前の状態を示した図である。クラウン左前部11とクラウン右前部12との縫合部分には、内側から裏打ちテープ(バイアステープ)を縫着している。
【0064】
8.クラウン第二部分形成工程(ベンチレーション用メッシュ生地縫着工程)
クラウン第二部分形成工程は、
図7に示すように、クラウン横部13,14及びクラウン後部15,16を構成する複数枚の生地(れんげ)を繋ぎ合わせたクラウン第二部分10dを得る工程である。ベンチレーション用メッシュ生地縫着工程は、ベンチレーション用メッシュ生地60をクラウン10に対して縫着する工程である。本実施形態においては、クラウン第二部分形成工程を行う際に、ベンチレーション用メッシュ生地縫着工程も行うようにしている。
【0065】
具体的には、クラウン左横部13とクラウン左後部15との縫合は、
図7における線分R
3R
10に沿った箇所で行い、クラウン右横部14とクラウン右後部16との縫合は、
図7における線分R
3R
6に沿った箇所で行うところ、これらの縫合を行う際に、ベンチレーション用生地60の左側の側縁S
1S
2を、クラウン左横部13及びクラウン左後部15における線分R
10R
11に沿った箇所に縫合し、ベンチレーション用生地60の右側の側縁S
5S
5を、クラウン右横部14及びクラウン右後部16における線分R
6R
12に沿った箇所に縫合するようにしている。これにより、ベンチレーション用生地縫着工程を別途行うことなく、クラウン10に対してベンチレーション用生地60を固定することが可能となっている。
【0066】
ベンチレーション用生地60は、その中央付近の箇所β(
図3)でも、クラウン10に対して縫着することは、既に述べたが、この箇所βにおける縫着も、このときに行うことができる。クラウン第一部分形成工程とクラウン第二部分形成工程(ベンチレーション用生地縫着工程)を終えると、続いて、クラウン全体形成工程及び前立て位置決め工程を行う。
【0067】
9.クラウン全体形成工程及び前立て位置決め工程
クラウン全体形成工程は、
図7に示すクラウン第一部分10cとクラウン第二部分10dとを縫合し、
図8に示すように、半球状のクラウン10を得る工程である。また、前立て位置決め工程は、クラウン10に対して前立て30が位置ずれしないようにクラウン10に対して前立て30を縫着する工程である。
図8は、本発明に係る帽子におけるクラウン10を下方から見た状態を示した底面図であって、クラウン10に対して前立て30等を縫着した後の状態を示した図である。本実施形態においては、クラウン全体形成工程を行う際に、前立て位置決め工程も行うようになっている。
【0068】
具体的には、クラウン全体形成工程は、
図7に示すように、クラウン第一部分10cの外縁Q
1Q
7を、クラウン第二部分10dの外縁R
1R
3に縫合し、クラウン第一部分10cの外縁Q
5Q
7を、クラウン第二部分10dの外縁R
5R
3に縫合することによって、行うところ、これらの縫合を行う際に、前立て30の左側の側縁P
1P
8を、クラウン第一部分の外縁Q
1Q
8(クラウン第二部分の外縁R
1R
2)に縫合し、前立て30の右側の側縁P
5P
6を、クラウン第一部分の外縁Q
5Q
6(クラウン第二部分の外縁R
5R
4)に縫合するようにしている。これにより、前立て位置決め工程を別途行うことなく、クラウン10に対して前立て30を動かない状態で固定することが可能となっている。したがって、帽子の製造工程をシンプルにすることができる。
【0069】
加えて、外縁Q1Q7と外縁R1R3との縫合、及び、外縁Q5Q7と外縁R5R3との縫合は、袋縫い(クラウン第一部分10c及びクラウン第二部分10dを裏返して、外縁Q1Q7と外縁R1R3、及び、外縁Q5Q7と外縁R5R3をそれぞれ中表の状態で重ねた状態で縫合した後、クラウン第一部分10c及びクラウン第二部分10dを再び裏返す縫い方)によって行うため、その縫い目はクラウン10の外側に表れない状態となる。したがって、この袋縫いの部分で前立て30も縫合すれば、クラウン10と前立て30とを縫着した際の縫い目がクラウンの外側に表れないようにすることができる。よって、帽子の見栄えをさらに良くすることができる。
【0070】
クラウン第一部分10c(クラウン前部11,12)を形成する生地には、クラウン第二部分10d(クラウン横部13,14及びクラウン後部15,16)を形成する生地よりも、厚手で硬めの生地(保形性に優れた生地)が用いられる場合が多く、この場合にクラウン10を構成する各生地11~16を不適切な順番で繋ぎ合わせると、クラウン10の形が綺麗にならない場合がある。この点、本実施形態のように、まず、クラウン前部11,12を繋ぎ合わせてクラウン第一部分10cとするとともに、クラウン横部13,14及びクラウン後部15,16を繋ぎ合わせてクラウン第二部分10dとした後、クラウン第一部分10cとクラウン第二部分10dとを繋ぎ合わせるようにすることで、クラウン10を綺麗な半球状に仕上げることができる。
【0071】
その後、
図8に示すように、クラウン全体形成工程における縫合部分に、内側から裏打ちテープ(バイアステープ)を縫着し、クラウン全体形成工程(前立て位置決め工程)が完了する。クラウン全体形成工程及び前立て位置決め工程を終えると、続いて、前鍔縫着工程及びビン皮縫着工程を行う。
【0072】
10.前鍔縫着工程及びビン皮縫着工程
前鍔縫着工程は、クラウン10の下縁に対して前鍔20を縫着する工程である。また、ビン皮縫着工程は、クラウン10の下縁に対してビン皮40を縫着する工程である。本実施形態においては、前鍔縫着工程を行う際に、ビン皮縫着工程も行うようになっている。
【0073】
前鍔縫着工程及びビン皮縫着工程は、
図8に示す状態のクラウン10におけるクラウン前部11,12の下縁(同図における点P
1,P
2,P
3,P
4,P
5を結ぶ区間)に前鍔20の基端縁を重ねるとともに、クラウン10の下縁における略全周部に、
図9に示す状態のビン皮40の下縁を重ね、クラウン10を回転させながら、クラウン10の下縁における略全周部をミシン等で縫合することによって行われる。
図9は、本発明に係る帽子におけるビン皮40を下方から見た状態を示した底面図である。
【0074】
前鍔縫着工程及びビン皮縫着工程を終えたときには、前鍔20の基端縁は、
図8に示す区間P
1P
2(区間Q
1Q
2)及び区間P
4P
5(区間Q
4Q
5)でクラウン10及び前立て30に縫合され、区間Q
2Q
4で前立て30に縫合された状態となる。クラウン10の下縁における区間Q
2Q
4には、前側切欠部10bが存在しているため、クラウン10の下縁における区間Q
2Q
4は、前鍔20の基端縁は縫合されない(
図6を参照。)。前鍔縫着工程及びビン皮縫着工程を終えると、続いて、マーク入れ工程を行う。
【0075】
11.マーク入れ工程
マーク入れ工程は、クラウン前部11,12にマーク70(
図1)を入れる工程である。これにより、帽子の意匠性を高めることができる。マーク70は、通常、クラウン前部11,12における、その内側(裏側)に前立て30が重ねられる範囲に施される。マーク70は、熱転写等によって入れてもよいが、本実施形態においては、刺繍により入れている。この刺繍は、クラウン前部11,12及び前立て30を貫通した状態で行う。これにより、刺繍を施した部分(前立て30の中央部分)でも、クラウン前部11,12に対して前立て30を縫合することができ、クラウン前部11,12に対して前立て30をさらにしっかりと固定することができる。
【0076】
マーク入れ工程を終えると、帽子が完成する。完成後の帽子には、必要に応じて、スチームプレス等でクラウン10の形を整える等の仕上げ工程を行ってもよい。
【0077】
12.帽子の製造方法のまとめ
以上のように、本実施形態の帽子の製造方法では、前立て位置決め工程において、クラウン10に対して前立て30を位置ずれしないように縫着してから、その後に行われる前鍔縫着工程において、クラウン10に対して前鍔20を縫着するようにしたことから、その前鍔縫着工程で前鍔20とクラウンとをミシン掛けする際に、ミシンの操作者が前立て30を手で押さえなくて済む。したがって、前立て30を備えた帽子であっても容易に製造することができる。
【0078】
また、本実施形態の帽子の製造方法では、前立て位置決め工程における前立て30とクラウン10との縫着を、前立て30の左右の側縁をクラウン10に対して縫着することによって行ったため、完成後の帽子におけるクラウン10の下縁に沿った箇所には、前鍔縫着工程(ビン皮縫着工程)における縫い目が1本のみ形成されるようになる。加えて、前立て30の左右の側縁は、クラウン10におけるクラウン第一部分10cとクラウン第二部分10dとを縫合(袋縫い)する部分でクラウン10に縫合したため、前立て30の左右の側縁をクラウン10に縫合した際の縫い目は、クラウン10の外面に表れない。このため、帽子の見た目を良くすることができる。さらに、前立て30の左右の側縁をクラウン10に縫合したことで、クラウン前部11,12に対して前立て30をしっかりと固定し、クラウン前部11,12の保形性を良好に保つことができるようになっている。さらにまた、工程数を減らして、帽子の製造コストを抑えることも可能になる。
【0079】
13.用途
本発明の製造方法で製造された帽子は、その用途を特に限定されず、各種の用途で用いることができる。なかでも、暑い環境下で着用されることが多い運動帽や作業帽や通学帽として好適に用いることができる。特に、野球帽として好適である。野球帽は、クラウンの前面部の内面に沿って前立てが設けられることが一般的であり、本発明の帽子に係る構成を無理のない自然な状態で実現することができるからである。
【符号の説明】
【0080】
10 クラウン
10a 後側切欠部(切欠部)
10b 前側切欠部(切欠部)
10c クラウン第一部分
10d クラウン第二部分
11 クラウン左前部(クラウン前部)
12 クラウン右前部(クラウン前部)
13 クラウン左横部(クラウン横部)
14 クラウン右横部(クラウン横部)
15 クラウン左後部(クラウン後部)
16 クラウン右横部(クラウン後部)
20 前鍔
20a 空気透過部
21 保形芯
22a 上側生地
22b 上側生地
23 下側生地
30 前立て
40 ビン皮
50 サイズ調節ベルト
60 ベンチレーション用メッシュ生地
61 露出部
62 非露出部
70 マーク