(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ガスバリア層転写フィルム、物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20240404BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240404BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240404BHJP
C23C 14/20 20060101ALI20240404BHJP
B65D 65/42 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B32B27/40
C09D175/04
B05D7/24 302T
C23C14/20 A
B65D65/42 C
(21)【出願番号】P 2021050471
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古屋 祐仁
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-010661(JP,A)
【文献】特表2002-502777(JP,A)
【文献】米国特許第06534137(US,B1)
【文献】特開2018-188568(JP,A)
【文献】特開昭57-054266(JP,A)
【文献】特開2020-164243(JP,A)
【文献】特表2010-532284(JP,A)
【文献】特表2005-511356(JP,A)
【文献】国際公開第2021/044838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
B05D 1/00-7/26
C23C 14/00-14/58
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、前記樹脂基材に積層されたウェットコート層と、前記ウェットコート層に積層されたガスバリア層と、を備え、
前記ウェットコート層は、
ポリウレタン樹脂であり、
非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンを乾燥することにより得られ
、
前記非プロトン性極性溶媒は、N-メチルピロリドンである、ガスバリア層転写フィルム。
【請求項2】
前記ガスバリア層は、ケイ素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、酸化珪素、または、酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載のガスバリア層転写フィルム。
【請求項3】
前記ガスバリア層は、真空蒸着法により形成された層である、請求項1または2記載のガスバリア層転写フィルム。
【請求項4】
前記樹脂基材は、濡れ性が46dyne/cm
2以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガスバリア層転写フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスバリア層転写フィルムの前記ガスバリア層に、接着層を設ける工程と、
前記接着層が被転写基材に接触するよう、前記ガスバリア層転写フィルムを前記被転写基材に押し付ける工程と、
前記樹脂基材を剥離除去する工程と、を有する、ガスバリア性を有する物品の製造方法。
【請求項6】
前記被転写基材は、樹脂フィルムまたは包装材である、請求項5記載の物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア層転写フィルム、物品の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、種々の基材(たとえば積層時の高温処理に耐えられない基材)に対してもガスバリア性を付与することのでき、かつ、転写したガスバリア層を保護することのできるガスバリア層転写フィルム、物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品包装等の分野では、内容物を外気の影響から保護するためにガスバリア性を付与した包装材料が用いられている。樹脂基材に、真空蒸着法を用いてガスバリア層を積層することは、ガスバリア層形成方法の一つとして広く使用されている。これらの包装材料は、比較的安価に生産でき、連続生産が可能である。
【0003】
しかし、真空蒸着法によれば、基材が高真空状態とされる。また、ガスバリア層の形成時に基材が高熱にさらされる。そのため、高真空や高熱に対して反応性や脆弱性を示す基材(たとえばセロファン(PT)のような高真空状態で脆弱化する基材や、ポリエチレン(PE)、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、のような比較的耐熱性が低い基材)は、ガスバリア層を積層できないという問題があった。
【0004】
そこで、任意のフィルム、表示素子、その他各種のデバイスに対してガスバリア性を付与することを目的としたガスバリア層転写フィルムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のガスバリア層転写フィルムは、ガスバリア層を転写する対象が限定される。また、転写されたガスバリア層は、保護されていない。他方、昨今の包装業界の事情を鑑みると、蒸着は困難ではあるがバリア性が求められる環境対応基材のニーズは多くあると考えられ、また包装業界は環境問題を契機に環境対応基材へのガスバリア性付与のニーズは増加傾向にあり、その中でも紙やバイオ基材へのガスバリア層積層に関する市場要望は高まる一方であるが、特許文献1に記載のガスバリア層転写フィルムではその実現は困難であると言える。
【0007】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、種々の基材(たとえば積層時の高温処理に耐えられず、高熱に対して反応性や脆弱性を示す基材)に対してもガスバリア性を付与することのでき、かつ、転写したガスバリア層を保護することのできるガスバリア層転写フィルム、物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、基材上に、非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンを乾燥させて形成したウェットコート層を積層することにより、基材から剥離させやすく、転写の際にガスバリア層のクラック発生を抑制する為の保護機能を有することを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決する本発明のガスバリア層転写フィルム、物品の製造方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0009】
(1)樹脂基材と、前記樹脂基材に積層されたウェットコート層と、前記ウェットコート層に積層されたガスバリア層と、を備え、前記ウェットコート層は、ポリウレタン樹脂であり、非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンを乾燥することにより得られる、ガスバリア層転写フィルム。
【0010】
このような構成によれば、ガスバリア層転写フィルムは、種々の基材(たとえば積層時の高温処理に耐えられず、高熱に対して反応性や脆弱性を示す基材)に対してもガスバリア性を付与することができる。また、ガスバリア層転写フィルムは、転写したガスバリア層を保護することができる。特に、ガスバリア層転写フィルムは、ウェットコート層だけで、離型機能とガスバリア層保護機能とを両立することができる。そのため、ガスバリア層転写フィルムは、製造コストを削減することができ、比較的安価に製品を提供することができる。また、ガスバリア層転写フィルムは、接着層や被転写層を自由に選択することができる。そのため、ガスバリア層転写フィルムは、様々な形態のガスバリア材を提供することができる。さらに、ガスバリア層転写フィルムは、生分解性フィルムや素材などの非プラスチック基材に対してガスバリア性を付与することもできる。
【0011】
(2)前記ガスバリア層は、ケイ素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、(1)記載のガスバリア層転写フィルム。
【0012】
このような構成によれば、ガスバリア層転写フィルムは、ガスバリア層において、緻密な無機連続膜を形成することができ、ガスバリア性が優れる。
【0013】
(3)前記ガスバリア層は、アルミニウムまたは酸化珪素または酸化アルミニウムである、(1)または(2)記載のガスバリア層転写フィルム。
【0014】
このような構成によれば、ガスバリア層転写フィルムは、製造時にガスバリア性能を制御しやすい。
【0015】
(4)前記ガスバリア層は、真空蒸着法により形成された層である、(1)~(3)のいずれかに記載のガスバリア層転写フィルム。
【0016】
このような構成によれば、ガスバリア層転写フィルムは、ガスバリア層において、無機粒子同士の高い凝集力が得られ、より緻密な無機連続膜が形成されやすい。
【0017】
(5)前記樹脂基材は、濡れ性が46dyne/cm2以下である、(1)~(4)のいずれかに記載のガスバリア層転写フィルム。
【0018】
このような構成によれば、ガスバリア層転写フィルムは、転写時にウェットコート層を剥離しやすい。
【0019】
(6)(1)~(5)のいずれかに記載のガスバリア層転写フィルムの前記ガスバリア層に、接着層を設ける工程と、前記接着層が被転写基材に接触するよう、前記ガスバリア層転写フィルムを前記被転写基材に押し付ける工程と、前記樹脂基材を剥離除去する工程と、を有する、ガスバリア性を有する物品の製造方法。
【0020】
このような構成によれば、直接ガスバリア層を積層できない被転写基材に、ガスバリア層を付与された物品を得られる。
【0021】
(7)(6)記載の被転写基材は、樹脂フィルムまたは包装材である、(6)記載の物品の製造方法。
【0022】
このような構成によれば、直接ガスバリア層を積層できない樹脂フィルムまたは包装材に、ガスバリア層を付与することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、種々の基材(たとえば積層時の高温処理に耐えられず、高熱に対して反応性や脆弱性を示す基材)に対してもガスバリア性を付与することのでき、かつ、転写したガスバリア層を保護することのできるガスバリア層転写フィルム、樹脂フィルム、包装材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<ガスバリア層転写フィルム>
本発明の一実施形態のガスバリア層転写フィルム(以下、転写フィルムともいう)は、樹脂基材と、樹脂基材に積層されたウェットコート層と、ウェットコート層に積層されたガスバリア層とを備える。ウェットコート層は、ポリウレタン樹脂である。ポリウレタン樹脂は、非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンを乾燥することにより得られる。以下それぞれの構成について説明する。
【0025】
(樹脂基材)
樹脂基材は特に限定されない。一例を挙げると、樹脂基材は、ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等の高分子フィルムである。
【0026】
本実施形態の樹脂基材は、濡れ性が46dyne/cm2以下であることが好ましい。濡れ性が上記範囲内である樹脂基材が用いられることにより、転写フィルムは、転写時にウェットコート層を剥離しやすい。また、濡れ性が上記範囲にある樹脂基材は、たとえば、TAK製F68(12μm PET)、フタムラ化学製FOA(20μm OPP)等である。本実施形態において、濡れ性は、関東科学製ぬれ張力試験用混合液を用いて、JIS K 6768(プラスチック-フィルム及びシート-ぬれ張力試験方法)に基づいて測定することができる。
【0027】
一般に、基材の濡れ性が高い場合、ウェットコート層のはじき等が発生しにくく、比較的欠陥の少ない緻密な層が得られやすい。しかしながら、基材の濡れ性が高い場合、基材とウェットコート層との密着力も上がるため、基材とウェットコート層との層間剥離が困難となり得る。一方、基材の濡れ性が低い場合、ウェットコート層のはじき等が発生して、ウェットコート層の形成が困難となり得る。これに対し、本実施形態の転写フィルムは、樹脂基材の濡れ性が46dyne/cm2以下である場合であっても、後述するウェットコート層が、非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンを乾燥することにより得られるため、「剥離力」と「緻密なウェットコート層」とが両立され得る。
【0028】
樹脂基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、樹脂基材の厚みは、12μm以上であることが好ましい。また、樹脂基材の厚みは、200μm以下であることが好ましい。樹脂基材の厚みが上記範囲内であることにより、樹脂基材は、加工時のフィルム搬送が容易であり、フィルムの折れ等が生じにくい。また、樹脂基材は、連続加工性が優れる。さらに、得られるガスバリア層転写フィルムは、適度な剛性や強度を示し得る。
【0029】
(ウェットコート層)
ウェットコート層は、樹脂基材からガスバリア層を剥離し、かつ、ガスバリア層の機能を損ねないように保護する目的で設けられる。ウェットコート層は、樹脂基材に積層される。ウェットコート層は、樹脂基材の片面に設けられてもよく、両面に設けられてもよい。
【0030】
ウェットコート層は、ポリウレタン樹脂からなり、これにいわゆる「ハジキ」を解消できる物質を含ませれば良く、一般的に低表面張力を有する溶媒が使用可能であるが特に非プロトン性極性溶媒を含ませることが好ましい。非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンを乾燥することにより当該ウェットコート層が得られる。ここで、樹脂基材の濡れ性に関連して上記したとおり、「剥離力」と「緻密なウェットコート層」との両立には、所定の濡れ性(好適には46dyne/cm2以下)を示す樹脂基材上にウェットコート層を設ける際にハジキが起こらないように、塗材であるポリウレタンディスパージョンには非プロトン性極性溶媒が含まれている必要がある。これにより、得られる転写フィルムは、「剥離力」と「緻密なウェットコート層」とが両立され得る。なお、もし仮に、ウェットコート層が、非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンを乾燥する以外の方法(たとえば、ポリウレタンディスパーションにプロトン性極性溶媒を添加し乾燥することによりウェットコート層を設ける方法)によって設けられる場合には、樹脂基材との濡れ性の違いからへこみやハジキが起こり、得られる転写フィルムは、部分的に、あるいは全面にムラが生じ適切な転写ができない。
【0031】
非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンは特に限定されない。一例を挙げると、非プロトン性極性溶媒を含むポリウレタンディスパージョンは、DSM(株)製NeoRez R-960等である。
【0032】
非プロトン性極性溶媒は特に限定されない。一例を挙げると、非プロトン性極性溶媒は、N-メチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン等である。
【0033】
ポリウレタンディスパーションに含まれる非プロトン性極性溶媒の極性は特に限定されない。一例を挙げると、極性は、2.5D以上であることが好ましい。極性が上記範囲内であることにより、ウェットコート層は、樹脂基材との濡れ性が優れ、ハジキ等の塗膜不良を生じにくく、優れた剥離性が得られる。
【0034】
ポリウレタンディスパーションに含まれる非プロトン性極性溶媒の含有量は特に限定されない。非プロトン性極性溶媒の含有量は、ポリウレタンディスパーションの凝集等、塗材の性質に影響がない範囲であることが好ましい。一例を挙げると、非プロトン性極性溶媒の含有量は、ポリウレタンディスパーション中、5質量%以上であることが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の含有量は、ポリウレタンディスパーション中、20質量%以下であることが好ましい。ポリウレタンディスパーションに含まれる非プロトン性極性溶媒の含有量が上記範囲内であることにより、適切な剥離性および塗材の性質が得られる。
【0035】
ウェットコート層を樹脂基材に積層する方法は特に限定されない。一例を挙げると、ウェットコート層は、バーコーター等により樹脂基材に塗工して積層することができる。
【0036】
ポリウレタンディスパージョンを乾燥する方法は特に限定されない。一例を挙げると、ポリウレタンディスパージョンは、熱風乾燥機内で熱風に晒されることにより乾燥することができる。また、乾燥条件は、たとえば、120℃の設定で15秒である。
【0037】
ウェットコート層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、ウェットコート層の厚みは、0.6μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。また、ウェットコート層の厚みは、2.0μm以下であることが好ましく、1.8μm以下であることがより好ましい。ウェットコート層の厚みが上記範囲内であることにより、ウェットコート層は、樹脂基材からの剥離力が充分であり、かつ、剥離時の膜の凝集破壊が起こりにくく、機能性が損なわれにくい。
【0038】
(ガスバリア層)
ガスバリア層は、ウェットコート層に積層される。
【0039】
ガスバリア層は特に限定されない。一例を挙げると、ガスバリア層は、ケイ素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、これらは、酸化物、窒化物、または2種以上を含む金属間化合物であってもよい。これにより、転写フィルムは、緻密な無機連続膜を形成することができ、ガスバリア性が優れる。また、ガスバリア層は、アルミニウムまたはケイ素酸化物またはアルミニウム酸化物を含むことがより好ましい。アルミニウムおよびケイ素酸化物およびアルミニウム酸化物は、製造時に制御しやすい。また、アルミニウムおよびケイ素酸化物およびアルミニウム酸化物は、食品向け包装材をはじめとした種々のバリアフィルムとして使用することができ、様々な分野へ応用され得る。
【0040】
ガスバリア層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、ガスバリア層の厚みは、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。また、ガスバリア層の厚みは、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。ガスバリア層の厚みが上記範囲内であることにより、転写フィルムは、バリア性が発揮され、クラックを生じにくい。
【0041】
ガスバリア層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、ガスバリア層は、真空蒸着法により形成されることが好ましい。真空蒸着法の条件は、たとえば、3×10-2Paで、製膜速度は15Å/秒である。ガスバリア層は、真空蒸着法により形成されることにより、無機粒子同士の高い凝集力が得られ、より緻密な無機連続膜が形成されやすい。このような無機連続膜が得られることにより、より優れたバリア性を持ったガスバリア層転写フィルムを得られる。
【0042】
以上の本実施形態の転写フィルムは、種々の被転写基材に転写することができ、ガスバリア性を付与することができる。より具体的には、転写フィルムは、樹脂フィルム、包装材などの被転写基材に対しても転写することができる。これにより、ガスバリア性の付与された樹脂フィルム、包装材などの物品を作製することができる。
【0043】
樹脂フィルムは、たとえば、PT(セロファン)、PE(ポリエチレン)、PLA(ポリ乳酸)、PBS(ポリブチレンサクシネート)などである。これらの樹脂フィルムは、高真空雰囲気や高熱雰囲気においてガスバリア層を直接設けることが不可能である。しかしながら、本実施形態の転写フィルムは、これらの樹脂フィルムに対しても、ガスバリア性を付与することができる。
【0044】
包装材は、たとえば、平袋、ガゼット袋、ピロー袋、スタンディングパウチ、チャック付きパウチである。これらの包装袋は、樹脂フィルムが積層される。本実施形態の包装材は、直接ガスバリア層を転写してもよいし、ガスバリア層が転写された樹脂フィルムを積層してもよい。
【0045】
上記物品の製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、上記物品は、本実施形態の転写フィルムのガスバリア層に、接着層を設ける工程と、接着層が被転写基材に接触するよう、ガスバリア層転写フィルムを被転写基材に押し付ける工程と、樹脂基材を剥離除去する工程とにより、製造することができる。
【0046】
接着層は特に限定されない。一例を挙げると、接着層は、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エステル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤等が挙げられる。これらの接着剤は、ガスバリア層の表面に対して、任意の塗工方法で塗工され、乾燥される。
【0047】
接着層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、接着層の厚みは、1.0~5.0μmである。
【0048】
転写は、接着層を、被転写基材に付着させ、ロール転写機等を用いて行うことができる。
【0049】
本実施形態の転写フィルムは、ウェットコート層が形成されていることにより、転写したガスバリア層を保護することができる。特に、転写フィルムは、ウェットコート層だけで、離型機能とガスバリア層保護機能とを両立することができる。そのため、転写フィルムは、製造コストを削減することができ、比較的安価にガスバリア性を有する物品を提供することができる。また、転写フィルムは、接着層や被転写基材を自由に選択することができる。そのため、ガスバリア層転写フィルムは、様々な形態のガスバリア性を有する物品を提供することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。特に被転写基材は、これらの実施例1~10および比較例1~5では、転写後のガスバリア性の低下を示す目的で、樹脂基材と同じ基材を用いているが、これに限定されない。
【0051】
使用した原料を以下に示す。
(ウェットコート層用塗材の調製)
ウェットコート層に使用するポリウレタンディスパーションとして、DSM(株)製「NeoRez R-960」(N-メチルピロリドン16.9%(質量比)含有)を用いた。純水、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルセロソルブを、85/13/2(質量比)の比率で混合し、希釈溶液Aを得た。次にポリウレタンディスパーションに希釈溶液Aを、固形分が20%になるように混合して、塗工液Bを得た。
【0052】
(実施例1)
樹脂基材(TAK(株)製「F-68」、厚み12μm、両面未処理PETフィルム、濡れ性46dyne)に、バーコーター法により塗工液Bを塗布し、120℃の熱風乾燥炉で20秒乾燥して厚み1.2μmのウェットコート層を形成した。次いで、ウェットコート層上に真空蒸着法により、3.0×10-2Paの真空条件下で50nmのアルミニウムを積層し、ガスバリア層を形成し、転写フィルムを作製した。
【0053】
(実施例2)
ポリウレタンディスパーションを宇部興産(株)製「UW-5502」(N-メチルピロリドン11.0%(質量比)含有)に変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0054】
(実施例3)
ポリウレタンディスパーションを三井化学(株)製「タケラック W-405」(N-メチルピロリドン13.0%(質量比)含有)に変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0055】
(実施例4)
ガスバリア層を20nmのSiOxに変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0056】
(実施例5)
ポリウレタンディスパーションを宇部興産(株)製「UW-5502」(N-メチルピロリドン11.0%(質量比)含有)にし、ガスバリア層を20nmのSiOxに変更した以外は、実施例1と同様にして目的とするガスバリア層転写フィルムを得た。
【0057】
(実施例6)
ポリウレタンディスパーションを三井化学(株)製「タケラック W-405」(N-メチルピロリドン13.0%(質量比)含有)に変更し、ガスバリア層を20nmのSiOxに変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0058】
(実施例7)
樹脂基材をフタムラ化学(株)製「FOA」(20μm片面コロナ処理OPP)のコロナ面(濡れ性40dyne)に変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0059】
(実施例8)
樹脂基材をフタムラ化学(株)製「FOA」(20μm片面コロナ処理OPP)のコロナ面(濡れ性40dyne)に変更し、ガスバリア層を20nmのSiOxに変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0060】
(実施例9)
樹脂基材をフタムラ化学(株)製「FOA」(20μm片面コロナ処理OPP)の未処理面(濡れ性32dyne)に変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0061】
(実施例10)
樹脂基材をフタムラ化学(株)製「FOA」(20μm片面コロナ処理OPP)の未処理面(濡れ性32dyne)に変更し、ガスバリア層を20nmのSiOxに変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0062】
(比較例1)
ポリウレタンディスパーションを三井化学(株)製「タケラック WS-4022」(非プロトン性極性溶媒含有なし)に変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0063】
(比較例2)
ポリウレタンディスパーションを三井化学(株)製「タケラック W-6010」(非プロトン性極性溶媒含有なし)に変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0064】
(比較例3)
ポリウレタンディスパーションを三井化学(株)製「タケラック WS-4000」(非プロトン性極性溶媒含有なし)に変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0065】
(比較例4)
樹脂基材をフタムラ化学(株)製「FOA」(20μm片面コロナ処理OPP)の未処理面(特徴:濡れ性32dyne)に変更し、ポリウレタンディスパーションを三井化学(株)製「タケラック WS-4022」(非プロトン性極性溶媒含有なし)に変更した以外は、実施例1と同様にして転写フィルムを作製した。
【0066】
実施例1~10および比較例1~4において得られた転写フィルムについて、以下の評価方法によりガスバリア性、密着強度、濡れ性、劣化率を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
(転写方法)
それぞれの転写フィルムのガスバリア層表面に対し、ポリウレタン系樹脂(TM-320、東洋モートン(株)製)とポリイソシアネート系硬化剤(CAT-13B、東洋モートン(株)製)とを4/3の比率(重量比)で混合してなるポリウレタン系接着剤を、ワイヤーバーで塗工し、100℃の温風乾燥炉で1分乾燥させて3.0μmの接着層を設けた。次いで、以下の転写条件で、ロール転写機を用いて、転写フィルムの接着層を被転写基材に押し付け、その後、冷却後に樹脂基材を剥離した。これにより、ガスバリア層が転写されたサンプルを作製した。なお、実施例1~10および比較例1~4の被転写基材は、樹脂基材と同様のものを用いた。
(転写条件)
185℃、1.2m/分、10kg/cm2
【0068】
(ガスバリア性)
転写なされる前の転写フィルムと、上記の転写方法により得られたサンプルのガスバリア性(水蒸気透過度、WVTR)を、それぞれカップ法(JIS Z 0208)により測定した。
【0069】
(密着強度)
樹脂基材を剥離する前のサンプルの片端を、剥離角度が180°になるように固定し、オートグラフ((株)島津製作所製、AGS-100A)を使用して他端を引っ張り、サンプルが剥離した際の荷重(gf/15mm)を測定し、その境界面における剥離力(密着強度)を測定した。測定方法は、T型剥離(引張速度100mm/min)とした。
【0070】
(濡れ性)
樹脂基材の表面を関東科学製ぬれ張力試験用混合液を用いて、JIS K 6768(プラスチック-フィルム及びシート-ぬれ張力試験方法)に基づいた条件にて測定した。
【0071】
(劣化率)
上記方法で得られた転写フィルムのガスバリア性(a)と被転写フィルムのガスバリア性(b)とを、計算式(劣化率(%)=b/a×100)を使って求め、転写によるガスバリア性の劣化率を示した。尚、ガスバリア性は、ガスバリア層だけではなく基材自体のガスバリア性の影響を受けやすい。そこで、樹脂基材と非転写樹脂とを同じフィルムとし、ガスバリア性を比較することで、転写の影響によるガスバリア性の上昇(劣化)率を示した。この方法により、樹脂基材のガスバリア性の影響因子を除いたガスバリア性の劣化を示すことが可能となる。すなわち、この方法により、たとえば、転写時の熱や圧力によるガスバリア層の割れ、剥離時のガスバリア層の割れのといった、転写に影響によるガスバリア性の劣化を示すことが可能となり、ウェットコート層の転写性能を確認することが可能となる。
【0072】
【0073】
表1に示されるように、本発明の実施例1~10の転写フィルムは、低い密着強度となり、被転写基材に転写させやすいことがわかった。また、転写後に得られたサンプルは、ウェットコート層が設けられていることにより、優れたガスバリア性を示し、かつ、ガスバリア層が保護された。さらに、本発明の実施例1~10の転写フィルムを用いたサンプルは、転写前後のガスバリア性の劣化率の値が小さく、ガスバリア層の転写に最適なウェットコート層であることが分かった。
【0074】
(実施例11)
被転写基材をフタムラ化学(株)製「PL」(23μmプレーンセロファン(PT))に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア層が転写されたサンプルを作製した。
【0075】
(実施例12)
被転写基材を東洋紡(株)製「L4102」(25μmLLDPEフィルム(PE))に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア層が転写されたサンプルを作製した。
【0076】
(実施例13)
被転写基材を日生化学(株)製「バイオパール-B」(40μmPBSフィルム(PBS))に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア層が転写されたサンプルを作製した。
【0077】
実施例11~13において得られた転写フィルムについて、上記と同様の方法により、密着強度を測定した。結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
表2に示されるように、本発明の実施例11~13の転写フィルムは、低い密着強度となり、被転写基材に転写させやすいことがわかった。また、転写後に得られたサンプルは、ウェットコート層が設けられていることにより、優れたガスバリア性を示し、かつ、ガスバリア層が保護された。さらに、本発明は、直接蒸着することが難しいとされている種々の樹脂フィルムに対して、優れたガスバリア性を付与できる、好適な方法であることが分かった。