(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】リチウムまたはナトリウムイオン電池の活物質からリチウムまたはナトリウムをそれぞれ回収する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240404BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20240404BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240404BHJP
C25C 1/22 20060101ALI20240404BHJP
C01D 15/08 20060101ALI20240404BHJP
C01D 15/02 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/20
C22B26/12
C25C1/22
C01D15/08
C01D15/02
(21)【出願番号】P 2021522385
(86)(22)【出願日】2019-10-22
(86)【国際出願番号】 SG2019050523
(87)【国際公開番号】W WO2020086000
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】10201809492S
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】ワン・チン
(72)【発明者】
【氏名】ユー・ジュエジー
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-243353(JP,A)
【文献】特表2001-508925(JP,A)
【文献】特表2014-524124(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0245784(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池またはナトリウムイオン電池の活物質からリチウムまたはナトリウムをそれぞれ回収する方法であって、
(a)リチウムイオンまたはナトリウムイオンを含んで成る活物質を供給すること、
(b)溶媒とレドックス・メディエータとを含んで成るレドックス・メディエータ溶液に前記活物質を加えて、第1タンク内でリチウムまたはナトリウムイオンを形成すること、
(c)前記レドックス溶液を前記第1タンクからカソード電極を有するカソード室と、イオン選択膜によって分離されたアノード電極を有するアノード室とを含むレドックス・フローセルに移動させること、ならびに
(d)前記カソード電極上での電気化学反応を介して前記カソード室内の前記リチウムイオンをLiOHとして捕捉し、得られた水性LiOHカソード溶液を第2タンクに移すこと、
を含んで成り、
前記カソード電極および前記アノード電極は電源に接続されており、
前記レドックス溶液は、アノード電極上で電気化学反応に付され、ここで、前記アノード上で電気化学反応が起こり、
前記レドックス・メディエータを再生し、次いで前記第1タンクに戻し、ならびにイオン選択膜を介して前記リチウムイオンを前記カソード室へ輸送することを可能とし、前記水性カソード溶液を含んで成る第2タンクから得られるものとして水性カソード溶液を含んで成り、
前記活物質が消費されるまでステップ(c)およびステップ(d)を繰り返し得る、方法。
【請求項2】
活物質がカソード活物質および/またはアノード活物質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カソード活物質が、分解されたナトリウム-イオン電池もしくはリチウム-イオン電池のカソード電極に依然として取り付けられているか、または前記カソード電極から解放されて供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記カソード活物質は、1または複数のNaFePO
4、NaCoO
2、より具体的には、Li
xFePO
4、Li
xNiCoMnO
2、Li
xCoO
2、Li
xFePO
4、Li
xNi0
0.33Co
0.33Al
0.33O
2、Li
xMn
2O
4、Li
xNi
0.5Mn
1.5O
4、およびLi
xCoO
2から選択される(0<x≦1)、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記カソード活物質はLi
xFePO
4である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記レドックス・メディエータは、フェリシアン化物(M
3Fe(CN)
6)、フェロシアン化物(M
4Fe(CN)
6)、フェロセン(C
10H
10Fe)およびそれらの誘導体、ヨウ化物(MI)ならびに臭化物(MBr)からなる群の1または複数から選択され、この場合、Mは、独立に、Li、Na、KおよびNH
4からなる群より選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記レドックス・メディエータは、フェリシアン化物(M
3Fe(CN)
6)、フェロシアン化物(M
4Fe(CN)
6)、ヨウ化物(MI)、ならびに臭化物(MBr)からなる群より選択される1または複数から選択され、この場合、Mは、独立に、Li、Na、KおよびNH
4からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
フェロセンの前記誘導体は、ジ(エチルスルホン酸リチウム)フェロセン(C
14H
16FeS
2O
6Li
2)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒中に存在する前記レドックス・メディエータ
の総濃度は、例えば0.2Mのような0.05M~1.5Mである、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒は、純水である、請求項2~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記水性カソード溶液は、水、酸素を含んで成る水、空気を含んで成る水、酸素およびCO
2を含んで成る水、または空気およびCO
2を含んで成る水の1つから初期に選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(b)およびステップ(c)が完了した後に、前記水性カソード溶液は、水性LiOH溶液、酸素を含んで成る水性LiOH溶液、空気を含んで成る水性LiOH溶液、Li
2CO
3沈殿物とともに酸素およびCO
2を含んで成る水性LiOH溶液、またはLi
2CO
3沈殿物とともに空気およびCO
2を含んで成る水性LiOH溶液である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記活物質がカソード活物質および/またはアノード活物質であり、
前記アノード活物質が、分解されたリチウムイオン電池のアノード電極にまだ取り付けられているか、または前記アノード電極から解放されて供給される、請求項
1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記活物質がカソード活物質および/またはアノード活物質であり、
前記アノード活物質は、Li
4Ti
5O
12、グラファイト、シリコン、ハードカーボンの1または複数から選択される、請求項
1~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、リチウムおよび/またはナトリウムイオン電池の活物質からリチウムおよび/またはナトリウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
本明細書における以前に公開された文書のリストまたは議論は、その文書が最新技術の一部であるか、または一般的な知識であることの承認として必ずしも解釈されるべきではない。
【0003】
リチウムイオン電池(LIB)は、ポータブルデバイス用の誰もが認める電源の選択肢であり、電気エネルギー貯蔵(EE)および電気自動車(EV)のような用途に対する需要が高まっている。LIBの広範な用途により、特に懸念される2つの問題が発生している:(1)Li2CoO2およびLiFePO4のようなカソード材料の需要が大きいため、LiおよびCo原材料(Li2CO3およびCo3O4)の価格がそれぞれ1トンあたり24,000ドルおよび33,000ドルに引き上げられた。(2)LIBは、その寿命の終わりに大量の廃棄物を生成することは明らかである。これは環境への大きな懸念であり、材料の需要の増加は、それらが適切に再利用されない場合、Liおよび他の金属資源の枯渇を加速する。リチウムとコバルトは、地球の地殻では比較的まれであるため、戦略的資源として認識されている。さらに、使用済みLIBは、例えば、Al、Cu、Co、Liのような貴重な金属を含んで成り、これらの元素の濃度は天然鉱石よりもはるかに高い。
【0004】
LIBの需要の増加と、使用済みLIBから発生する廃棄物の蓄積を考えると、この技術の持続可能な展開のために、使用済みLIBから金属元素を抽出するための実行可能なリサイクルプロセスの重要性が高まっている。一部の企業や機関は、従来の湿式製錬抽出プロセスに基づいたLIBリサイクルのパイロットラインを確立している。典型的な湿式製錬抽出プロセスは、以下のステップ(または工程)から成る:(1)放電前処理によって使用済み電池の残留電力を放出すること;(2)電池からプラスチックのパッケージとケーシングを取り外し、カソード(または正極;cathode)およびアノード(または負極;anode)電極を分離すること;(3)電極からカソードおよびアノードの活物質をこすり落とすこと;(4)強酸(例えば、HClまたはH2SO4)を使用してカソード活物質(例えば、LiCoO2)を溶解し、Co2+、Li+、SO4
2-イオンを含む溶液を形成すること(浸出プロセス);(5)得られた溶液にNaOHを加えてCo(OH)2を沈殿させ、溶液中にLi+、Na+、OH-、SO4
2-イオンを残し、次にNa2CO3を溶液に加えてLi2CO3を沈殿させること(金属分離プロセス)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の湿式製錬抽出プロセスには、以下の問題がある。まず、プロセスは複雑で、多くのステップを含む。また、例えば、HCl、H2SO4、NaOH、Na2CO3のような化学物質を大量に加える必要があり、これに関連して、Li2CO3が沈殿した後に大量の廃棄物が発生し、二次汚染を引き起こす。さらに、従来の湿式製錬抽出プロセスでは、LiFePO4が酸に溶解しないため、効果的に抽出または浸出することができない。これは、LiFePO4が電気エネルギー貯蔵(EE)および電気自動車(EV)に広く使用されているカソード材料であるため問題である。
【0006】
したがって、強酸の使用を回避し、二次廃棄物の生成を軽減する、LIBをリサイクルするための改善された、より単純で低コストのプロセスが必要であり、これにより、上記で特定された1または複数の問題が解決される。
【0007】
発明の概要
次に、本発明の態様および実施形態を、以下の番号が付けられた項を参照することによって説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
項1
リチウムまたはナトリウムイオン電池の活物質からリチウムまたはナトリウムをそれぞれ回収する方法であって、
(a)リチウムまたはナトリウムイオンを含んで成る活物質を供給すること、
(b)溶媒とレドックス・メディエータとを含んで成るレドックス溶液に前記活物質を加えて、第1タンク内でリチウムまたはナトリウムイオンを形成すること、
(c)前記レドックス溶液を前記第1タンクからカソード電極(または正極電極;cathode electrode)を有するカソード室(;または正極室または正極区画;cathode compartment)と、イオン選択膜によって分離されたアノード電極(または負極電極;anode electrode)を有するアノード室(または負極室、または負極区画;anode compartment)とを含むレドックス・フローセルに移動させること、ならびに
(d)前記カソード電極上での電気化学反応を介して前記カソード室内の前記リチウムイオンをLiOHとして捕捉し、得られた水性LiOHカソード溶液を第2タンクに移すこと、
を含んで成り、
前記カソード電極および前記アノード電極は電源に接続されており、
前記レドックス溶液は、アノード電極上で電気化学反応に付され、ここで、前記アノード電極上で電気化学反応が起こり、
前記レドックス・メディエータを再生し、次いで前記第1タンクに戻し、ならびにイオン選択膜を介して前記リチウムイオンを前記カソード室へ輸送することを可能とし、前記水性カソード溶液を含んで成る第2タンクから得られるものとして水性カソード溶液(または水性カソード液溶液;aqueous catholyte solution)を含んで成り、
前記活物質が消費されるまでステップ(c)および(d)を繰り返し得る、方法。
項2
前記活物質がカソード活物質(または正極活物質;cathodic active material)および/またはアノード活物質(または負極活物質;anodic active material)である、項1に記載の方法。
項3
前記カソード活物質が、分解されたナトリウム-もしくはリチウム-イオン電池のカソード電極に依然として取り付けられているか、または前記カソード電極から解放されて供給される、項2に記載の方法。
項4
前記カソード活物質は、1または複数のNaFePO4、NaCoO2、より具体的には、LixFePO4、LixNiCoMnO2、LixCoO2、LixFePO4、LixNi00.33Co0.33Al0.33O2、LixMn2O4、LixNi0.5Mn1.5O4、およびLixCoO2から選択される(0<x≦1)、項2または3に記載の方法。
項5
前記カソード活物質はLixFePO4である、項4に記載の方法。
項6
前記レドックス・メディエータは、フェリシアン化物(またはフェリシアニド;ferricyanide)(M3Fe(CN)6)、フェロシアン化物(またはフェロシアニド;ferrocyanide)(M4Fe(CN)6)、フェロセン(C10H10Fe)およびそれらの誘導体、ヨウ化物(MI)ならびに臭化物(MBr)からなる群の1または複数から選択され、この場合、Mは、独立に、Li、Na、KおよびNH4からなる群より選択される、項1~5のいずれか1項に記載の方法。
項7
前記レドックス・メディエータは、フェリシアン化物(M3Fe(CN)6)、フェロシアン化物(M4Fe(CN)6)、ヨウ化物(MI)、ならびに臭化物(MBr)からなる群より選択される1または複数から選択され、この場合、Mは、独立に、Li、Na、KおよびNH4からなる群より選択される、項6に記載の方法。
項8
フェロセンの前記誘導体は、ジ(エチルスルホン酸リチウム)フェロセン(C14H16FeS2O6Li2)である、項7に記載の方法。
項9
前記溶媒中に存在する前記レドックス・メディエータの前記総濃度は、例えば0.2Mのような0.05M~1.5Mである、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
項10
前記溶媒は、純水である、項2~9のいずれか1項に記載の方法。
項11
前記水性カソード溶液は、水、酸素を含んで成る水、空気を含んで成る水、酸素および二酸化炭素を含んで成る水、または空気および二酸化炭素を含んで成る水の1つから初期に選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
項12
ステップ(b)および(c)が完了した後に、前記水性カソード溶液は、水性LiOH溶液、酸素を含んで成る水性LiOH溶液、空気を含んで成る水性LiOH溶液、Li2CO3沈殿物とともに酸素および二酸化炭素を含んで成る水性LiOH溶液、またはLi2CO3沈殿物とともに空気および二酸化炭素を含んで成る水性LiOH溶液である、項1~11のいずれか1項に記載の方法。
項13
前記アノード活物質が、分解されたリチウムイオン電池のアノード電極に依然として取り付けられているか、または前記アノード電極から解放されて供給される、項2~12のいずれか1項に記載の方法。
項14
前記アノード活物質は、Li4Ti5O12、グラファイト、シリコン、ハードカーボンの1または複数から選択される、項2~13のいずれか1項に記載の方法。
項15
前記活物質は、カソード活物質である、項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図面
本開示の特定の実施形態は、添付の図面を参照して以下により完全に説明される。
【
図1】
図1は、リチウムイオン電池のカソード活物質からリチウムを回収する方法に関する本発明の実施形態のセットアップおよび動作原理の概略図を示す。
【
図2】
図2は、(a)Li
xFePO
4の充電容量およびLi含有量残留物に関して印加電圧がどのように変化するか、および(b)本発明の実施形態から得られたLiOH粉末の写真を示す。
【
図3】
図3は、市販のLiOHと比較した、本発明の実施例1から得られたLiOH粉末のIRスペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
明細書
驚くべきことに、リチウムまたはナトリウムは、従来の湿式製錬抽出プロセスと比較して、二次汚染の発生が少ない、改良された低コストの方法で回収できることがわかっている。さらに、この方法は、浸出と分離を1つのステップに組み合わせ、同時に継続的に進行するため、現在の方法を操作する装置がはるかにコンパクトで効率的になる。電気自動車、エネルギー貯蔵、電子機器の需要の増加により大量の使用済みリチウムイオン電池が蓄積されているため、この方法は、この貴重な廃棄物をリサイクルするという重大な課題に対処するための商業的に実行可能なソリューション、特にリチウムイオン電池技術の持続可能性を提供する可能性がある。
【0011】
したがって、本明細書では、リチウムまたはナトリウムイオン電池の活物質からそれぞれリチウムまたはナトリウムを回収する方法が開示されており、その方法は、
(a)リチウムまたはナトリウムイオンを含んで成る活物質を供給すること、
(b)溶媒とレドックス・メディエータとを含んで成るレドックス・メディエータ溶液に前記活物質を加えて、第1タンク内でリチウムまたはナトリウムイオンを形成すること、
(c)前記レドックス溶液を前記第1タンクからカソード電極を有するカソード室と、イオン選択膜によって分離されたアノード電極を有するアノード室とを含むレドックス・フローセルに移動させること、前記カソード電極と、アノード電極とは電源に接続されており、
前記レドックス溶液は、アノード電極上で電気化学反応に付され、アノード電極上で電気化学反応が起こり、
前記レドックス・メディエータを再生し、次いで前記第1タンクに戻し、イオン選択膜を介して前記リチウムイオンを前記カソード室に輸送することを可能とし、前記水性カソード溶液を含んで成る第2タンクから得られるものとして水性カソード溶液を含んで成り、
(d)カソード電極上での電気化学反応を介してカソード室内のリチウムイオンをLiOHとして捕捉し、得られたLiOHカソード液水溶液を第2タンクに移すこと、
を含んで成り、
前記活物質が消費されるまでステップ(c)および(d)を繰り返し得る。
【0012】
本実施形態では、単語「含んで成る(comprising)」は、言及された特徴を必要とするものとして解釈する場合があるが、他の特徴の存在を制限するものではない。あるいは、単語「含んで成る(comprising)」は、リストされた成分/特徴のみが存在することを意図している場合もある(例えば、単語「含んで成る(comprising)」は、フレーズ「からなる(consists of)」または「から実質的になる(consists essentially of)に置き換えられ得る。より広い解釈とより狭い解釈の両方が、本発明のすべての態様および実施形態に適用され得ることが明確に企図されている。換言すると、単語「含んで成る」およびその同義語は、フレーズ「からなる」もしくは「から本質的になる」またはそれらの同義語に置き換えることができ、その逆も可能である。
【0013】
理解されるように、上記のプロセスは、活物質がカソードおよび/またはアノードから得られるかどうかにとらわれない。これは、カソード活物質が優先される場合もあるが、このプロセスは両方のタイプの活物質に対して機能するためである。
【0014】
理解されるように、上記のプロセスは、使用済み(廃棄)電池または製造プロセス中に生成された廃棄物からのリチウムの回収に関する。このように、上記の活物質は、現在の形態で電池内において機能することができない可能性があり、したがって、再利用のためにリチウムを回収する必要がある。
【0015】
セパレータは、カソード室をアノード室から分割する。それは、電気活性イオン伝導膜(例えば、リチウムまたはナトリウムイオン伝導膜)であり得る。セパレーターは、レドックス・メディエータの交差拡散を防ぎ、電気活性イオン(例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、銀イオン、銅イオン、プロトン、またはそれらの組み合わせ)の移動を可能にする。例えば、セパレータは、酸窒化リチウムリンガラス、チオリン酸リチウムガラス、酸窒化ナトリウムリンガラス、チオリン酸ナトリウムガラス、NASICON型リチウム導電性ガラスセラミック、NASICON型ナトリウム導電性ガラスセラミック、ガーネット型リチウムもしくはナトリウム導電性ガラスセラミック、セラミックナノ濾過膜、リチウムもしくはナトリウムイオン交換膜、またはそれらの適切な組み合わせであり得る。
【0016】
装置内の両方の電極、すなわち、カソードおよびアノードは、炭素、金属、またはそれらの組み合わせであり得る。好ましくは、これらの2つの電極は、電荷収集プロセスを容易にするために、1または複数の触媒の有無にかかわらず、高い表面積を有する。それらは、炭素、金属、またはそれらの組み合わせで作ることができる。電極の例は、Skyllas-Kazacosら, Journal of the Electrochemical Society, 158, R55-79(2011)およびWeberら, Journal of Applied Electrochemistry, 41, 1137-64(2011)に記載されている。
【0017】
上記の一般的なプロセスは、フローセルタイプの配置を利用し、その一実施形態が
図1に示されている。この図に示されている一般的な設計は、カソードおよびアノード活物質回収プロセスの両方に適用可能であることが理解されよう。
【0018】
図1において、装置10は、2つのタンク100,200を備える。一方のタンクは、回収される活物質、溶媒およびこの回収を行うために使用される関連化学物質を収容し、他方のタンクは、回収されたリチウムを収容するためのものであり、最初は純水(または同様の溶媒)が含まれている場合がある。両方のタンク100,200は、イオン選択膜330によって分離されたカソード室310およびアノード室320を含むレドックス・フローセル300に接続されている。カソード室310は、カソード電極315を含み、一方、アノード室は、アノード電極325を含む。レドックス・フローセル300はまた、カソード315およびアノード325電極に接続された電源340を含む。機能するために、装置10はまた、以下を含む:第1タンク100からアノード室320まで続き、そして第1タンクに戻る第1流体経路350、ならびに第2タンク200からカソード室310に続き、そして第2タンクに戻る第2流体経路360。第1流体経路はまた、ポンプ355を備える。第2流体経路もまた、ポンプ365を備える。上記の構成は、カソードおよび/またはアノード活物質の回収とともに使用するのに適した構成に関する。
【0019】
レドックス・メディエータは、活物質と同じタンク(すなわち、第1タンク)に配置された溶媒中に存在する(例えば、溶解した)化合物を指し、分子シャトルとして作用して、タンクが接続されているフローセル内の電極にリチウムを輸送する。
【0020】
タンク(すなわち、第1のタンク)で使用される活物質および溶媒と適合性のある任意の適切なレドックス・メディエータを使用することができる。本明細書で言及され得る適切なレドックス・メディエータとしては、これらに限定されないが、フェリシアニド(M
3Fe(CN)
6)、フェロシアン化物(M
4Fe(CN)
6)、フェロセン(C
10H
10Fe)およびそれらの誘導体、ヨウ化物(MI)ならびにそれらの組み合わせが挙げられ、ここで、Mは、独立に、Li、Na、K、およびNH
4からなる群より選択される。理解されるように、活物質がリチウムを含む場合、Mは好ましくはLiであり得、活物質がナトリウムを含む場合、MはNaであり得る。任意の適切な濃度のレドックス・メディエータを使用することができる。例えば、溶媒中に存在するレドックス・メディエータの総濃度は、0.05M~1.5M、例えば、0.1M~1M、例えば、0.3Mか~0.5M、例えば、0.2Mであり得る。本明細書で言及され得るフェロセン誘導体は、構造:
【化1】
または
【化2】
を有する。
【0021】
上記式において、Xは、H、F、Cl、Br、I、NO2、COOR、C1-20アルキル、CF3、およびCORから選択され、ここで、Rは、HまたはC1-20アルキルであり、nは0から20である。
【0022】
本明細書で言及され得るフェロセンの特定の誘導体としては、これらに限定されないが、ブロモフェロセン、フェロセニルメチルジメチルエチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Fc1N112-TFSI)、N-(ピリジン-2-イルメチレン)-1-(2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル)エタンアミン(FeCp2PPh2RCN)、1,1-ジメチルフェロセン(DMFc)、テトラフェロセン、ジ(エチルスルホン酸ナトリウム)フェロセン(C14H16FeS2O6Na2)、およびジ(トリメタンスルホン酸ナトリウム)フェロセン(C16H22FeS2O6Na2)が挙げられる。
【0023】
本明細書で言及され得る本発明の特定の実施形態において、フェロセンの誘導体は、ジ(トリメタンスルホン酸ナトリウム)フェロセン(C16H22FeS2O6Na2)またはジ(エチルスルホン酸ナトリウム)フェロセン(C14H16FeS2O6Na2)であり得る。
【0024】
本発明で使用することができるさらなるレドックス・メディエータは、WO2013 /012391を参照して以下に記載される。
【0025】
本明細書で言及され得るさらに適切なレドックス・メディエータとしては、これらに限定されないが、(NH4)2Sx、またはより具体的には、ビオロゲン、Li2SX、Na2Sx、およびK2Sxが挙げられ、ここで、xは、1以上8以下である。
【0026】
ビオロゲンは、適切な対イオン(例えば、Cl-、F-、Br-およびI-)を有する1,1’-二置換4,4’-ビピリジニウムイオン(ピリジン環の窒素原子がアルキル基(例えば、C1~C12アルキル)で置換されている)である。このタイプのビオロゲンの例はパラコートである。本明細書で使用される場合、ビオロゲンは、例えば、ジクワットおよびバイポーラロンのような関連化合物を含み得る。
【0027】
レドックス・メディエータの例は、参照により本明細書に組み込まれる国際出願公開番号WO 2013/012391で詳細に論じられている。例えば、WO2013 / 012391に開示されるレドックス・メディエータとしては、例えば、メタロセン誘導体、トリアリールアミン誘導体、フェノチアジン誘導体、フェノキサジン誘導体、カルバゾール誘導体、遷移金属錯体、芳香族誘導体、ニトロキシドラジカル、ジスルフィド、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
レドックス・メディエータとして使用されるメタロセン誘導体は、以下の構造:
【化3】
を有し得る。
【0029】
上記式中、MはFe、Co、Ni、Cr、またはVであり得;各シクロペンタジエニル環は、独立に、F、Cl、Br、I、NO2、COOR、C1-20アルキル、CF3、およびCORの1または複数で置換し得、ここで、RはHまたはC1-20アルキルであり得る。
【0030】
レドックス・メディエータとして使用されるトリフェニルアミン誘導体は、以下の構造:
【化4】
を有し得る。
【0031】
上記式中、各フェニル環は、独立に、以下の群:F、Cl、Br、I、NO2、COOR、C1-20アルキル、CF3およびCORの1または複数で置換され得、ここで、RはHまたはC1-20アルキルであり得る。
【0032】
レドックス・メディエータとして使用されるフェノチアジン誘導体およびフェノキサジン誘導体は、以下の構造:
【化5】
を有し得る。
【0033】
RaはHまたはC1-20アルキルであり得、XはOまたはSであり得、各芳香部位は、以下の群:F、Cl、Br、I、NO2、COOR、R、CF3およびCORの1または複数で任意に置換され得、ここで、RはHまたはC1-20アルキルであり得る。
【0034】
レドックス・メディエータとして使用されるカルバゾール誘導体は、以下の構造:
【化6】
の1つを有し得る。
【0035】
RxはHまたはC1-20アルキルであり得、各芳香部位は以下の群:F、Cl、Br、I、NO2、COOR、C1-20アルキル、CF3、およびCORの1または複数で任意に置換さ得、RはHまたはC1-20アルキルであり得る。
【0036】
レドックス・メディエータとして使用される遷移金属錯体は以下の構造:
【化7】
を有し得る。
【0037】
上記式中、MはCo、Ni、Fe、Mn、RuまたはOsであり得、各芳香部位は置換されておらずまたは以下の群:F、Cl、Br、I、NO
2、COOR’、R’、CF
3、COR’、OR’またはNR’R’’の1もしくは複数で置換され、各R’およびR’’は独立にH、またはC
1-20アルキルであり得、各X、Y、およびZは独立にF、Cl、Br、I、NO
2、CN、NCSe、NCS、またはNCOであり得、各QおよびWは、独立に
【化8】
から選択され得る。
【0038】
上記式中、各R1、R2、R3、R4、R5、およびR6はF、Cl、Br、I、NO2、COOR’、R’、CF3、COR’、OR’、またはNR’R’’であり得る。各芳香族部位は以下の群:F、Cl、Br、I、NO2、COOR’、C1-20アルキル、CF3、COR’、OR’、またはNR’R’’のうちの1または複数で任意に置換され、各R’’およびR’は独立にHまたはC1-20アルキルであり得る。誤解を避けるために、各QおよびWの金属への付着点は、上記のQおよびW分子のそれぞれに存在する2つの窒素原子を介しており、よって、QおよびWは遷移金属錯体の二座配位子として機能する。
【0039】
レドックス・メディエータとして使用される芳香族誘導体は、以下の構造:
【化9】
を有し得る。
【0040】
上記式中、各R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、C1-20アルキル、F、Cl、Br、I、NO2、COOR’、CF3、COR’、OR’、OP(OR’)(OR’’)、またはNR’R’’であり得、各R’およびR’’は独立にHおよびC1-20アルキルであり得る。
【0041】
レドックス・メディエータとして使用されるニトロキシドラジカルは、以下の構造:
【化10】
を有し得る。
【0042】
上記式中、各R1およびR2は独立にC1-20アルキルまたはアリールであり得る。R1、R2、およびNはともにヘテロアリール、ヘテロアラアルキル、またはヘテロシクロアルキル環を形成し得る。
【0043】
レドックス・メディエータとして使用されるジスルフィドは、以下の構造:
【化11】
を有し得る。
【0044】
上記式中、各R1およびR2は独立にC1-20アルキル、COOR’、CF3、COR’、OR’、またはNR’R’’であり得、各R’およびR’’は独立に、HまたはC1-20アルキルであり得る。
【0045】
理解されるように、上記の方法はまた、活物質を含むタンクと、前記活物質からリサイクルされる金属イオンを収集するタンクの両方に溶媒が存在することを必要とする。適切な溶媒は水であり、これは、単独で、または電池での使用に適した有機溶媒と組み合わせて使用することができる。本明細書で言及され得る適切な有機溶媒は、これらに限定されないが、例えば、グライム溶媒、環状カーボネート(例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、および/またはビニレンカーボネートなど)、線状炭酸エステル(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートなど)、環状エステル(例えば、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなど)、線状エステル(例えば、メチルホルメート、酢酸メチル、および酪酸メチルなど)、グライム以外の環状または線状エーテル(例えば、テトラヒドロフラン(およびその誘導体など)、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、および1,4-ジブトキシエタンなど)、ニトリル(例えば、アセトニトリル、および/またはベンゾニトリルなど)、ジオキソランまたはその誘導体、硫化エチレン、スルホラン、ならびにスルホンまたはその誘導体が挙げられる。これらの溶媒は、グライム溶媒(例えば、テトラグライム)に関して任意の適切な重量比で使用することができる。例えば、追加の溶媒は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、スルホラン、およびアセトニトリルから選択される群の1または複数から選択され得る。
【0046】
グライム溶媒は、エチレングリコールジメテイルエーテル(モノグライム)、ジグリム、トリグライム、テトラグライム、メチルノナフルオロブチルエーテル(MFE)およびそれらの類似体からなる群のうちの1または複数から選択され得る。言及され得るテトラグリム(CH3(O(CH2)2)4OCH3)の類似体は、これらに限定されないが、そのCH3端成分の一方または両方が-C2H5もしくは-CH2CH2Cl、または他の同様の置換のいずれかで修飾され得る化合物が挙げられる。
本明細書で言及され得る本発明の特定の実施形態において、グライム溶媒はテトラグライムである。
【0047】
本明細書で言及され得る特定の実施形態では、第1または第2のタンクで使用される溶媒は、水単独、またはグライム溶媒と組み合わせた水(例えば、水およびテトラグライム)であり得る。例えば、両方のタンクの溶媒は単に純水であり得る。第1および第2タンク、カソード電極およびアノード電極、イオン選択膜、電源、および本明細書で使用される流路は、この分野で従来から使用されているものであればどれでもよく、これらの成分に特別な制限はない。
【0048】
本明細書に概説する方法は、活物質からのリチウムまたはナトリウムの回収に有用であり得るが、主にリチウムが希少金属であり、ナトリウムが豊富であるため、この方法は活物質からのリチウムの回収に特に適している可能性があると考えられる。
【0049】
本明細書で言及され得る特定の実施形態では、活物質は、カソード活物質であり得る。したがって、そのような実施形態では、以下のステップを含んで成る方法が開示される:
(a)リチウムイオンを含んで成る活物質を供給すること、
(b)溶媒とレドックス・メディエータとを含んで成るレドックス・メディエータ溶液に前記カソード活物質を加えて、第1タンク内でリチウムイオンを含んで成るレドックス溶液を形成すること、
(c)前記レドックス溶液を前記第1タンクからカソード電極を有するカソード室と、イオン選択膜によって分離されたアノード電極を有するアノード室とを備えるレドックス・フローセルに移動させること、ならびに
(d)前記カソード電極上での電気化学反応を介して前記カソード室内のリチウムイオンをLiOHとして捕捉し、得られた水性LiOHカソード溶液を第2タンクに移すこと、
を含んで成り、
前記カソード電極およびアノード電極は電源に接続されており、
前記レドックス溶液は、前記アノード電極上で電気化学反応に付され、アノード電極上で電気化学反応が起こり、
前記レドックス・メディエータを再生し、次いで前記第1タンクに戻し、イオン選択膜を介して前記リチウムイオンを前記カソード室に輸送することを可能にし、前記水性カソード溶液を含んで成る第2タンクから得られるものとして水性カソード溶液を含んで成り、
前記活物質が消費されるまでステップ(c)および(d)を繰り返し得る
【0050】
上記のように、カソード活物質は、消耗した(廃棄された)電池から、またはそのような電池を製造するための製造プロセスから由来し得る。任意の形態のカソード活物質を使用することができる。例えば、カソード活物質は、解体されたナトリウムまたはリチウムイオン電池のカソード電極に依然として取り付けられていてもよく、またはカソード電極から解放されて供給されてもよい。
【0051】
カソード活物質の例は、これらに限定されないが、例えば、NaFePO4、NaCoO2、LixFePO4、LixNiCoMnO2、LixCoO2、LixFePO4、LixNi00.33Co0.33Al0.33O2、LixMn2O4、LixNi0.5Mn1.5O4、およびLixCoO2ならびにそれらの組み合わせが挙げられ、0<x≦1である。本明細書で参照することができる本発明の特定の実施形態では、カソード活物質は、LixFePO4、LixNiCoMnO2、LixCoO2、LixFePO4、LixNi00.33Co0.33Al0.33O2、LixMn2O4、LixNi0.5Mn1.5O4、LixNi0.5Mn1.5O4、およびLixCoO2のうちの1または複数から選択することができる。本発明のさらに別の実施形態では、カソード活物質は、LixFePO4であり得る。
【0052】
前述の任意の適切なレドックス・メディエータを、カソード活物質からナトリウムまたはより具体的にはリチウムイオンを回収するための方法で使用することができる。本明細書で言及され得る特定の例としては、これらに限定されないが、例えば、フェリシアン化物(M3Fe(CN)6)、フェロシアン化物(M4Fe(CN)6)、フェロセン(C10H10Fe)およびそれらの誘導体(例えば、ジ(エチルスルホン酸リチウム)フェロセン(C14H16FeS2O6Li2)、ヨウ化物(MI)および臭化物(MBr)が挙げられ、いずれの場合も、MはLi、Na、K、およびNH4からなる群より独立して選択される。より具体的には、レドックス・メディエータは、フェリシアン化物(M3Fe(CN)6)、フェロシアン化物(M4Fe(CN)6)、ヨウ化物(MI)、および臭化物(MBr)からなる群のうちの1または複数から選択され得、Mは、Li、Na、K、およびNH4からなる群より独立して選択される。カソード活物質からナトリウムを回収しようとする場合に理解されるように、レドックス・メディエータ中のMは好ましくはナトリウムであり得、カソード活物質からリチウムを回収しようとする場合、レドックス・メディエータ中のMは好ましくはリチウムであり得る。
【0053】
レドックス・メディエータの任意の適切な濃度を、第1タンクに存在する溶媒中で使用することができる。適切な濃度の例としては、これらに限定されないが、例えば、溶媒中に存在するレドックス・メディエータの総濃度が0.05M~1.5M、例えば0.2Mであることが挙げられる。本明細書で使用される場合、用語「総濃度」は、レドックス・メディエータの濃度の合計(複数のレドックス・メディエータが存在する場合)が引用された範囲内にあることを意味することを意図している。
【0054】
第1タンクには、任意の適切な溶媒を使用することができる。例えば、上記で言及した溶媒(および溶媒の組み合わせ)のいずれかである。本明細書で言及することができる特定の例では、第1タンク内の溶媒は水であり得る。
【0055】
最初に、水性カソード溶液は、水、酸素を含んで成る水、空気を含んで成る水、酸素とCO2とを含んで成る水、または空気とCO2とを含んで成る水であり得る。本明細書で使用する場合、水に言及する場合は、純水、つまり脱イオン水を指すことを意図している。その後、この方法が実行されると、水性カソード溶液はLiOHを含み始めるため、上記の方法のステップ(b)および(c)が完了した後、水性カソード溶液は水性LiOH溶液、酸素を含んで成る水性LiOH溶液、空気を含んで成る水性LiOH溶液、酸素とLi2CO3沈殿物とともに酸素とCO2とを含んで成る水性LiOH溶液、またはLi2CO3沈殿物とともに空気とCO2とを含んで成る水性LiOH溶液であり得る。
【0056】
上記のプロセスの特定の実施形態は、以下の実施例セクションで提供される。完全を期すために、プロセスの動作原理を、消耗したリチウムイオン電池の処理を参照して詳細に説明する。
【0057】
前処理ステップでは、使用済みリチウムイオン電池を完全に放電した後、電池を分解してカソードおよびアノード活物質を得る。アノード、特にカソード活物質は、リチウムイオン電池の電極材料に依然として付着している状態で、または電極から除去した後(例えば、任意の適切な手段によって)。
図1は、カソード活物質がLi
xFePO
4(0≦x≦1)である例を示している。
【0058】
図1において、Li
xFePO
4活物質(例えば、カソード電極から削り取られた)は、フェリシアン化物(Li
3Fe(CN)
6)水溶液、すなわち[Fe(CN)
6]
3-を含む第1タンク100に入れられる。リチウムイオンは、式1に示す浸出反応でLi
xFePO
4から抽出され、これにより、(溶液から沈殿する)固体FePO
4と[Fe(CN)
6]
4-イオン(つまり、Li
4Fe(CN)
6)とが溶液中で形成される。同時に、[Fe(CN)
6]
4-およびLi
+を含む前記溶液が、アノード電極325を含むレドックス・フローセル300のアノード室320に循環される。第1タンクおよびアノード室は、適切なパイプまたは他の手段およびポンプ355によって形成され得る第1流体経路350の手段によって互いに接続される。アノード室では、[Fe(CN)
6]
4-イオンが[Fe(CN)
6]
3-(式2)に再生され、第1流体経路の手段によって第1タンク100に戻され、カソード活物質からのリチウム浸出の新ラウンドを開始する。アノード室におけるこの[Fe(CN)
6]
3-の再生は、イオン選択膜330を介してフローセル300のカソード室310へのリチウムイオンの移動を駆動する。カソード室310は、第1流体経路350によるアノード室320と第1タンク100との間の流体接続について上述したのと同様の方法で、ポンプ365を備える第2流体経路360によって第2タンク200に接続される。カソード室はカソード電極を組み込んでおり、この室では、酸素還元反応(ORR、式3)または水素発生反応(HER、式4)のいずれかによってOH
-が生成され、LiOHが生成される。カソードでの酸素還元反応の場合、電圧を印加し、O
2ガスはセルのカソード室に吹き込まれる。理解されるように、第2タンクおよびカソード室は、最初は純水を含むことができるが、浸出プロセスが続くと、その室およびタンク内におけるLiOHの濃度は、浸出プロセスが停止する(例えば、カソード活物質が枯渇する場合)まで増加する。上記と同じプロセスをアノード活物質に対して繰り返すことができ、以下で詳細に説明する。
【0059】
第2タンクで得られた濃縮LiOHは、CO2をこの溶液にバブリングすることで、Li2CO3を合成するために使用でき(例えば、式5を参照)、またはリチウムイオン電池のカソード材料合成の原料として直接使用できる。
【0060】
アノードタンク(320):
LixFePO4+[Fe(CN)6]3-→FePO4+[Fe(CN)6]4-+xLi+
(1)
【0061】
アノード電極(325):
[Fe(CN)6]4-→[Fe(CN)6]3-+e- (2)
【0062】
カソード電極(315):
O2+2H2O+4Li++4e-→4LiOH (3)
2H2O+2e-+2Li+→H2↑+2LiOH (4)
【0063】
カソードタンク(310):
2LiOH+CO2→Li2CO3+H2O (5)
【0064】
類似の反応は、現在説明されているプロセスに付される他のカソード活物質に対しても発生する。理解されるように、正確な反応は、活物質の性質および使用されるレドックス・メディエータに依存する。
【0065】
本明細書で言及され得る特定の実施形態では、活物質はアノード活物質であり得る。よって、そのような実施形態では、以下のステップを含んで成る方法が開示されている:
(a)リチウムイオンを含んで成るアノード活物質を供給すること、
(b)溶媒とレドックス・メディエータとを含んで成るレドックス・メディエータ溶液に前記活物質を加えて、第1タンク内でリチウムイオンを含んで成るレドックス溶液を形成すること、
(c)前記レドックス溶液を前記第1タンクからカソード電極を有するカソード室と、イオン選択膜によって分離されたアノード電極を有するアノード室とを含むレドックス・フローセルに移動させること、ならびに
(d)カソード電極上での電気化学反応を介してカソード室内のリチウムイオンをLiOHとして捕捉し、得られた水性LiOHカソード溶液を第2タンクに移すこと
を含んで成り、
前記カソード電極と、アノード電極とは電源に接続されており、
前記レドックス溶液は、アノード電極上で電気化学反応に付され、カソード電極上で電気化学反応が起こり、
前記レドックス・メディエータを再生し、次いで前記第1タンクに戻し、イオン選択膜を介して前記リチウムイオンをカソード室へ輸送することを可能とし、前記水性カソード溶液を含んで成る第2タンクから得られるものとして水性カソード溶液を含んで成り、
前記アノード活物質が消費されるまでステップ(c)および(d)を繰り返し得る。
【0066】
特に明記しない限り、上記と同じ成分がこのプロセスでも使用される。
【0067】
本明細書に記載のプロセスは、カソードまたはアノード活物質のみを別々に使用するが、カソードおよびアノード活物質の組み合わせに対して、上記と同じプロセスを実行できることは理解されるであろう。
【0068】
上記のように、アノード活物質は、消耗した(廃棄された)電池に由来する場合がある。任意の形態の陽極活物質を使用することができる。例えば、アノード活物質は、分解されたナトリウム-またはリチウム-イオン電池のアノード電極に依然として付着するか、またはアノード電極から解放されて供給される。
【0069】
アノード活物質の例は、これらに限定されないが、Li4Ti5O12、グラファイト、シリコン、ハードカーボン(または硬質炭素;hard carbon)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。グラファイト、シリコン、およびハードカーボンは、電池での使用後にナトリウム、より具体的にはリチウムを含浸させてもよいことが理解されるであろう。
【0070】
前述の任意の適切なレドックス・メディエータは、アノード活物質からナトリウムイオン、またはより具体的にはリチウムイオンを回収する方法に使用することができる。例えば、特にカソード活物質の回収に関連して前述したレドックス・メディエータ(およびそれらの濃度レベル)は、アノード活物質からのナトリウムまたはリチウムの回収にも使用することができる。
【0071】
アノード活物質を回収するプロセスは、カソード活物質を回収するための前述のプロセスと同様である。
【0072】
現在の方法は、次の理由により、従来の湿式冶金抽出プロセスよりも優れている:
(1)現在の方法は浸出試薬としてレドックス・メディエータを使用するが、従来のプロセスは浸出試薬として強酸(H2SO4)を使用する。
(2)現在の方法では、浸出試薬はその場で再生して再利用・リサイクルできるが、従来のプロセスでは再利用できない(二次廃棄物が発生し、追加コストが発生する)。
(3)現在の方法では、統合されたセットアップを使用してLi+を他の元素から分離するが、従来のプロセスでは、分離のためにLi+と他の元素を沈殿させるために追加の化学物質(例えば、強塩基または炭酸塩)が必要である。
(4)現在の方法の浸出および分離プロセスは、従来のプロセスが異なる試薬を使用する2段階のプロセスであるのに対し、同時にかつ連続的に進行できる。
【0073】
従来のリサイクルプロセスと比較して、現在の方法の浸出試薬はセル内で再生して再利用できるという事実は、現在の方法が二次汚染とコストを削減することを意味する。
【0074】
さらに、現在の方法では、浸出と分離を1つのステップに組み合わせて、同時にかつ連続的に進行させる。これにより、現在の方法を操作する装置がはるかにコンパクトで効率的になる。またこれにより、電池リサイクル事業の収益性も向上する。さらに、多数の並列デバイスを実行することができ、高スループットおよび再利用のための所望の金属の回収を可能にすることが理解されるであろう。
【0075】
本発明のさらなる態様および実施形態は、以下の非限定的な実施例において提供される。
【実施例】
【0076】
実施例
本発明の一実施形態は、リチウムイオン電池(LIB)の活物質からリチウムを回収する方法に関する。この方法は、従来の湿式冶金抽出プロセスの問題に対処することが示されている、新しいレドックス・ターゲット・ベースのリチウムイオン電池リサイクルプロセスを含む。
【0077】
この方法は、機械的プロセスとレドックス・ターゲッティング・ベースの浸出および分離プロセスとの2つの部分で構成される。機械的プロセスは、従来の湿式冶金抽出プロセスと同じである。これは、(1)放電前処理により使用済みバッテリーの残留電力を放出するステップ、(2)電池からプラスチックのパッケージとケーシングを取り除き、カソードおよびアノード電極を分離するステップ、ならびに必要に応じて(3)電極からカソードおよびアノード活物質をこすり取るステップから構成される。
【0078】
レドックス・ターゲティング・ベースの浸出および分離プロセスは、(4)ステップ3からのカソードまたはアノード活物質をレドックス・メディエータ溶液に加え、該活物質を酸化して、第1タンク内のリチウムイオン溶液を放出するステップを含んで成る。同時に、(5)反応した溶液をレドックス・フローセルに移動して、レドックス・メディエータを再生し、膜を通ってカソード室にリチウムイオンの移動を駆動する。ここで、OH-は酸素還元反応(ORR)または水素発生反応(HER)により生成する。組み合わされた反応は、カソード室の第2タンクにLiOH溶液を生成する。必要に応じて、生成されたLiOH溶液にCO2をバブリングすることにより、Li2CO3を沈殿させて第2タンクで取得し、遷移金属酸化物またはリン酸塩を第1タンクで最終生成物として取得できる。その結果、現在の方法では、浸出(ステップ4)および金属分離(ステップ5)が同時にかつ継続的に進行する。
【0079】
以下の実施例ではリチウムを回収するが、ナトリウムも同様の方法で適切な出発物質およびレドックス・メディエータを用いて回収することができる。
【0080】
動作原理
レドックス・ターゲッティング・ベースの浸出および分離プロセスの動作原理は、
図1および以下の式を参照して示される。
【0081】
一例として、カソード活物質LixFePO4(0≦x≦1)を使用して、削り取られたカソード活物質を、アノード室の第1タンク10内の0.2mol/L[Fe(CN)6]3-溶液に浸漬し、浸漬によりLixFePO4から溶液中にLi+を抽出し、固体としてFePO4を形成する(ステップ4:浸出プロセス;式1を参照)。
【0082】
同時に、式1の水性生成物(Fe(CN)6]4-およびLi+)がレドックス・フローセルに循環され、電気化学反応に付される。ここで、前記反応により[Fe(CN)6]3-(式2)が再生され、浸出プロセスで使用するための第1タンクに戻され、Nafion117膜を介して、第2タンク20から得られる純粋な水性媒体(水)を含んで成るセルのカソード室へのLi+の輸送および移動を可能にする。OH-は酸素還元反応(ORR、式3)または水素発生反応(HER、式4)によって生成されるため、Li+はLiOH溶液として第2タンク内で捕捉される。ORRの場合、電圧を印加し、セルのカソード室にO2ガスを吹き込む。
【0083】
生成された濃縮LiOHは、この溶液にCO2をバブリングすることでLi2CO3を合成するために使用でき(式5)、または、リチウムイオン電池のカソード合成の原料として直接使用できた。
【0084】
Li
xFePO
4の浸出効率は、セルの充電時間を監視することで評価できる。以下の反応メカニズムに基づいて、浸出効率(μ
L)は次の式:
【数1】
(式中、tは充電時間であり、iは電流であり、cはLi
xFePO
4の比容量(160mAh/g)であり、mは使用したLi
xFePO
4の重量である)
で算出される。
【0085】
第1タンク:
LixFePO4+[Fe(CN)6]3-→FePO4+[Fe(CN)6]4-+xLi+
(1)
【0086】
アノード:
[Fe(CN)6]4-→[Fe(CN)6]3-+e- (2)
【0087】
カソード:
O2+2H2O+4Li++4e-→4LiOH (3)
2H2O+2e-+2Li+→H2↑+2LiOH (4)
【0088】
第2タンク:
2LiOH+CO2→Li2CO3+H2O (5)
【0089】
原料および事前調製
原料は、以下のソースから購入した。
【0090】
リチウムフェロシアン化物Li3Fe(CN)6は、LiOHおよびプルシアンブルー(PB)から生成された。
LiOH(試薬グレード)およびPB(試薬グレード)は、シグマ・アルドリッチから購入した。
LiFePO4はシグマ・アルドリッチから購入した。
Nafion117膜はDupontから購入した。
カーボン・フェルトは電極として使用した。
【0091】
脱イオン(DI)水は、脱イオン装置から入手した。
【0092】
レドックス・フローセルは、Nafion117を2片のカーボン・フェルトで挟み、カーボン・フェルトを2片のステンレス鋼でクランプされた。ゴムフレームはガスケットとして使用された。
【0093】
セルの電圧は、Arbin電池試験システムによって監視された。
【0094】
実施例1:カソード活物質からのリチウムの回収
電池材料のサイクリングのための現在の方法を検証するために、3.8gのLiFePO4をカソード電極シートのアルミニウム箔基板から削り取り、第1タンク内の0.2M Li3Fe(CN)6溶液(60mL)に浸漬した。脱イオン水(H2O、30mL、塩無添加)を第2タンクにおけるカソード液として使用した。この配置では、HER(式4)が支配的であり、O2をバブリングすることにより、ORR(式3が支配的)になる。カソード液(または正極液;catholyte)とアノード液(または負極液;anolyte)の両方が、レドックス・フローセルおよびタンクを流れるようにポンプで送られた。外部回路とセルとの間を循環する電流は、電極面積4cm2(電極の全表面積)で20mAに維持された。
【0095】
結果
図2aに示すように、充電プロセスの最後に、550mAhの充電容量で1.8Vまで電圧が徐々に上昇することが観察された。「動作原理」のセクションに記載されている式に基づいて、充電容量に基づく約90%の浸出効率が算出された。充電後、カソード液を収集し、70℃のオーブンで乾燥させて水を蒸発させた。カソード液を一晩乾燥させた後、LiOHの白い粉末(
図2b)が得られた。得られたLiOHは、FTIRによって特徴付けられた(スペクトルは
図3に示されている)。この量は、セルの充電容量とほぼ一致していた。
【0096】
適切なレドックス・メディエータを使用すると、LiCoO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2およびその他の正極材料を使用して電池をリサイクルするために、同様のプロセスを実施できる。
【0097】
実施例2:アノード活物質からのリチウムの回収
使用済み電池のアノードからLi4Ti5O12をこすり取り、第1タンク内の0.2M Li3Fe(CN)6溶液(60mL)に浸漬した。脱イオン水(H2O、30 mL、塩無添加)を第2タンクのカソード液として使用した。カソード液およびアノード液の両方が、レドックス・フローセルおよびタンクを流れるようにポンプで送られた。外部回路とセルとの間を循環する電流は、4cm2の電極面積で20mAに維持された。
【0098】
実施例3:ナトリウムの回収
NaFePO4/NaCoO2を使用済みナトリウムイオン電池のカソードからこすり取り、第1タンク内の0.2M Na3Fe(CN)6溶液(60mL)に浸漬した。脱イオン水(H2O、30mL、塩無添加)を第2タンクのカソード液として使用した。カソード液およびアノード液の両方が、レドックス・フローセルおよびタンクを流れるようにポンプで送られた。外部回路とセルとの間を循環する電流は、4cm2の電極面積で20mAに維持された。
【0099】
さらなる開発
さらなる開発には、LIB内の電解質をリサイクルまたは処理する方法の研究が含まれる。前記電解質には、H2Oと接触するとHFを放出する、例えば、LiPF6のようなリチウム塩が含まれている場合がある。したがって、前記電解質は、現在の方法の浸出プロセスの前に除去すべきである。
【0100】
現在のレドックス・ターゲティング・ベースのリチウム電池リサイクル技術の可能性および結果を確立したので、本発明者らは、前記反応、特にアノード電極上の反応を最適化し続けるだろう。
【符号の説明】
【0101】
(原文に記載なし)
100 第1タンク
200 第2タンク
310 カソード室
315 カソード電極
320 アノード室
325 アノード電極
330 イオン選択膜
350 第1流体経路
360 第2流体経路