(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】PEG-リン脂質分子を用いたエクスビボ臓器処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/685 20060101AFI20240404BHJP
A61K 31/77 20060101ALI20240404BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240404BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240404BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A61K31/685
A61K31/77
A61K47/60
A61P9/00
A01N1/02
(21)【出願番号】P 2021529705
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 SE2019051215
(87)【国際公開番号】W WO2020112018
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-25
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】521225269
【氏名又は名称】アイコート メディカル アクチエボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン,ボー
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン エクダール,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン ワエルン,マリアンヌ
(72)【発明者】
【氏名】寺村 裕治
(72)【発明者】
【氏名】ビグラルニア,アリレザ
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-524260(JP,A)
【文献】国際公開第2006/093314(WO,A1)
【文献】Molecular Immunology,2015年,Vol.67,pp.121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61P 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシピエント対象における臓器移植片の再灌流後に進行する再灌流と関連する低血圧症
の阻
害または予防
のための薬剤の製造のための
、ポリ(エチレングリコール)-リン脂質(PEG-リン脂質)
の使用。
【請求項2】
前記PEG-リン脂質が、PEG-リン脂質分子を含む溶液として配合されかつ前記PEG-リン脂質分子での血管系の内膜のコーティングを可能にするための前記臓器移植片の血管系中へのエクスビボ注入を目的とする、請求項1に記載の使
用。
【請求項3】
臓器または前記臓器の一部を処置するエクスビボ方法であって、
前記臓器または前記臓器の一部の血管系中にポリ(エチレングリコール)-リン脂質(PEG-リン脂質)分子を含む溶液をエクスビボ注入すること;および
PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に前記臓器または前記臓器の一部を浸漬しておきながら前記PEG-リン脂質分子での前記血管系の前記内膜の少なくとも一部のコーティングを可能にするために前記血管系中でPEG-リン脂質分子を含む溶液をエクスビボインキュベートすること
を含む、方法。
【請求項4】
前記血管系から非結合PEG-リン脂質分子を流し出すために前記血管系中に臓器保存溶液をエクスビボ注入すること
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記血管系中にPEG-リン脂質分子を含む溶液をエクスビボ注入する前に前記血管系中に臓器保存溶液をエクスビボ注入すること
をさらに含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
溶液をエクスビボ注入することが、
前記血管系の動脈および静脈の一方をエクスビボクランピングすること;
前記動脈および前記静脈の他方の中にPEG-リン脂質分子を含む溶液をエクスビボ注入すること;ならびに
前記動脈および前記静脈の他方をエクスビボクランピングすること
を含む、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液をエクスビボ注入することが、前記血管系中に0.25mg/mLから最大で25mg/mL
のPEG-リン脂質分子を含む溶液をエクスビボ注入することを含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶液をエクスビボ注入することが、前記血管系中に5mLから最大で250mL
のPEG-リン脂質分子を含む前記溶液をエクスビボ注入することを含む、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
エクスビボインキュベートすることが、0℃を超えるが8℃未満
の温度でPEG-リン脂質分子を含む前記臓器保存溶液中に前記臓器または前記臓器の一部を浸漬しておきながら前記血管系中でPEG-リン脂質分子を含む前記溶液をエクスビボインキュベートすることを含む、請求項3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記臓器保存溶液が、ヒスチジン-トリプトファン-ケトグルタル酸(HTK)溶液、クエン酸溶液、ウィスコンシン大学(UW)溶液、コリンズ溶液、セルシオ溶液、京都大学溶液およびInstitut Georges Lopez-1(IGL-1)溶液からなる群より選択される、請求項3から9のいずれかに一項に記載の方法。
【請求項11】
エクスビボインキュベートすることが、10分から最大で48時
間の期間前記血管系中でPEG-リン脂質分子を含む前記溶液をエクスビボインキュベートすることを含む、請求項3から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記PEG-リン脂質分子が、PEG-リン脂質からなる非官能化PEG-リン脂質分子、前記PEG-リン脂質分子のPEGに結合された各官能化分子を含む官能化PEG-リン脂質分子、およびそれらの混合物からなる群より選択される;ならびに
前記官能化分子が、補体阻害剤、凝固阻害剤、血小板阻害剤、補体阻害剤を結合できる分子、凝固阻害剤を結合できる分子、血小板阻害剤を結合できる分子、およびそれらの混合物からなる群より選択される、
請求項3から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記PEG-リン脂質分子が、式(I)または式(II):
【化1】
【化2】
(式中、
n、mは、10から最大で16の範囲内で独立して選択される整数であり
、
pは、PEG鎖が1000Daから最大で40000Daの範囲
内の平均分子量を有するように選択される;および
Rは、H、CH
3
、NH
2、マレイミド基、ビオチン基、ストレプトアビジン基、アビジン基または補体阻害剤、凝固阻害剤、血小板阻害剤、補体阻害剤を結合できる分子、凝固阻害剤を結合できる分子、血小板阻害剤を結合できる分子、およびそれらの混合物からなる基から選択される官能化分子である)
を有する、請求項3から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記官能化分子が、ヘパリン結合ペプチド、補体受容体1(CR1)のN-末端4~6ショートコンセンサスリピート(SCR)、CD46補体調節タンパク質(CD46)、補体崩壊促進因子(DAF)、因子H結合分子、アデノシン二リン酸(ADP)分解酵素、およびそれらの混合物からなる群より選択さ
れる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記臓器が、腎臓、肝臓、膵臓、心臓、肺、子宮、膀胱、胸腺および腸からなる群より選択される、請求項3から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記臓器が、腎臓である;および
エクスビボインキュベートすることが、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に前記腎臓を浸漬しておきながらPEG-リン脂質分子での腎臓血管系の腎臓内皮のコーティングおよび腎実質の尿細管のコーティングを可能にするために前記血管系中でPEG-リン脂質分子を含む前記溶液をエクスビボインキュベートすることを含む、
請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にエクスビボ臓器処置に、特に、臓器再灌流により誘導された血栓炎症および低血圧症を阻害すること、または、予防することができるそのようなエクスビボ臓器処置に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血再灌流(I/R)障害(IRI)は、すべて血栓炎症を誘導する、移植、血栓性疾患、敗血症および心肺バイアスを含む、いくらかの病状の病理に対する主要な誘因である。
【0003】
現在まで、腎臓移植は、末期腎臓病を有する患者の最も効果的な処置である。1960年代に導入されたものと比較して、治療成績における素晴らしい改善にも関わらず、依然として5年後に25%、10年後にほぼ50%の移植片機能損失がある。IRIは、急性腎不全、臓器移植後臓器機能障害およびリモート臓器不全を引き起こすので、腎臓移植結果を改善するための主な標的は、IRIである。免疫抑制は、体液性自然免疫系にそれほど大きな程度に影響せず、そのためIRIを軽減しない。移植分野はまた、臓器不足により妨害される。ドナープールを増加させるための1つの選択肢は、死亡した心停止後(DCD)ドナーからのものなどのマージナル臓器の使用の増加である。しかし、これらの臓器はまた、IRIにより深刻に影響される。
【0004】
虚血の間、代謝は、最終的に炎症状態をもたらす嫌気性条件へと切り替わり、これは、活性化B細胞の核因子カッパ-軽鎖エンハンサー(NF-κB)を誘導する多数の遺伝子およびそれによるサイトカイン、ケモカインおよび組織因子(TF)だけでなく、ヘムオキシゲナーゼ(HO-1)、低酸素誘導因子(HIF)1および2ならびにニトロチロシンなどの虚血に対して保護する遺伝子のアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションにより誘発される。正常酸素圧条件下で、内皮細胞表面は、グリコカリックス(GCX)と呼ばれる負電荷の「ヘアリー」メッシュにより覆われ、それは、微小血管恒常性を確実にし、かつ血栓炎症を予防するために抗炎症性および抗凝固性タンパク質を組み込むプロテオグリカン類、グリコサミノグリカン類および糖タンパク質類の複合ネットワークを含む。さらに、厚いGCXは、細胞表面ならびに細胞間接着分子1(ICAM-1)、血管細胞接着分子1(VCAM-1)およびE-セレクチンなどの接着分子をシールドし、それにより白血球および血小板が内皮表面に集まるのを予防する。GCXは、酸化ストレスおよび虚血誘導性構造的損傷に対して非常に感受性であり、結果として、頻繁にGCXコートの急速な損失をもたらす。これは、内皮細胞株におけるヘパリナーゼおよびメタロプロテイナーゼの発現により引き起こされ、結果として、自然免疫の攻撃から内皮細胞を保護するGCXの開裂および破壊をもたらす。GCXは、肝細胞増殖因子(HGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)などの、多数の増殖因子を内包し、それらは従ってGCXの分解中に放出される。これは結果として、補体、凝固および接触系の調節因子が細胞表面から放出されることももたらす。そのような調節因子は、例えば、アンチトロンビン(AT)、タンパク質C、組織因子経路阻害剤(TFPI)、C4b-結合タンパク質(C4BP)、因子HおよびC1-阻害剤(C1-INH)であり、その結果内皮細胞表面が補体、凝固および接触系による攻撃に対して保護されない。最終的に、虚血が長引く場合、アデノシン三リン酸(ATP)の貯蔵は、枯渇し、アポトーシスおよびネクローシスに至る。
【0005】
虚血臓器の再灌流は、修復プロセスを誘導するが、当初それは、虚血によりすでに誘導された病理学的変化に起因して臓器に壊滅的な損傷を起こす。急速な酸素投与は、活性酸素種(ROS)の生成を伴う損傷を引き起こし、保護されていない内皮表面は、補体および接触系の破壊的な活性化を誘発する。移植時に、移植腎におけるコレクチン-11/12(CL-11/12)発現は、虚血細胞を認識し、レクチン経路(LP)を介して補体活性化に寄与する。また、LPのマンノース-結合レクチン(MBL)およびフィコリン-2などの他の認識分子は、補体の活性化と関連している。補体活性化の証拠は、近脈管柔組織における膜侵襲複合体(MAC)沈着と組み合わせた内皮細胞へのC4dの沈着であり、これらの領域での細胞障害を示唆する。アップレギュレートされたTF発現および接触系活性化により誘発され、繊維素沈着は、凝固系が関与することを明らかにする。補体活性化、フォンビルブラント因子(vWF)のアップレギュレーションおよび曝露の組み合わせ、それに続く内皮表面への血小板および多形核好中球(PMN)の結合および活性化により、血栓炎症が誘発される。この血栓炎症の多くは、腎臓移植のマウスモデルにおいて明らかに示される局所的に生産された補体因子により引き起こされ、ここでC3のノックアウトは、移植された臓器を拒絶から保護する。
【0006】
移植された臓器の再灌流はまた、再灌流後の血行動態の不安定性とも関連する。以前は再灌流後症候群(PRS)として説明されたこの現象は、移植肝の再灌流後に重度の血行動態の不安定性を経験した肝臓移植レシピエントにおいて最初に説明された。しかし、この現象はまた、再灌流後に瞬間的な血行動態の不安定性に頻繁に悩まされている腎臓および膵臓移植レシピエントにおいても観察される。したがって、全身動脈圧の急速な低下は結果として、移植片の灌流不全および移植片の温虚血の延長をもたらす。これらの患者は、臓器移植後臓器機能障害、拒絶および早期移植片機能損失の増加した危険性に悩まされる可能性がある。
【0007】
両親媒性ポリマーであるポリ(エチレングリコール)-リン脂質(PEG-共役リン脂質または単にPEG-リン脂質)は、疎水的相互作用により細胞膜の脂質二重膜に自然に組み込まれる[1,2]。さらに、PEG-リン脂質による人工細胞表面層の作成は、糖尿病マウスにおいて門脈内注入後に即座の血液介在性炎症反応(IBMIR)を軽減し、かつ膵島の生存期間および機能の両方を延長できた[3,6]。
【0008】
アピラーゼおよび因子Hなどの、自然免疫調節因子と共役したPEG-リン脂質が、細胞および物質の表面をインビトロでの自然免疫攻撃に対して保護することが、以前に示されている[4,5]。
【0009】
しかし、臓器移植に関連して改善の必要性がある。
【0010】
一般的な目的は、臓器移植に関連して改善を提供することである。
【0011】
この目的および他の目的は、本明細書に開示されたような実施形態により満たされる。
【0012】
本発明は、独立請求項において定義される。本発明のさらなる実施形態は、従属請求項において定義される。
【0013】
臓器または臓器の一部を処置するエクスビボ方法は、PEG-リン脂質分子を含む溶液を、臓器または臓器の一部の血管系にエクスビボ注入することを含む。方法はまた、PEG-リン脂質分子を含む溶液を血管系でエクスビボインキュベートして、臓器または臓器の一部をPEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に浸漬しておきながらPEG-リン脂質分子で血管系の内膜の少なくとも一部のコーティングを可能にすることを含む。
【0014】
本発明はまた、レシピエント対象における臓器移植片の再灌流後に進行する再灌流と関連する低血圧症の阻害または予防における使用のためのPEG-リン脂質にも関する。
【0015】
PEG-リン脂質分子でエクスビボ処置された臓器移植片は、TATなどの凝固マーカー、ならびにC3aおよびsC5b-9などの相補的マーカーの血漿中濃度により反映されるように、未処置の対照臓器移植片と比較して血栓炎症が有意に低かった。また、サイトカインの発現、特にIL-6およびIL-1βは、PEG-リン脂質処置臓器移植片においてさらに抑制された。臓器機能は、PEG-リン脂質処置臓器移植片において改善された。PEG-リン脂質処置臓器移植片はまた、C3bおよびMACなどの相補的マーカーの低減された沈着、ならびにC5aRの発現も示した。非常に驚いたことであるが、医療的に重要なことは、PEG-リン脂質分子を用いて臓器移植片をエクスビボ処置する効果は、そのようなPEG-リン脂質処置が、頻繁に臓器移植片の再灌流と関連する、レシピエントにおける破壊的な血圧低下を低減できたことであった。さらに、4日後にPEG-リン脂質処置は、適応免疫応答の活性化と関連する、T細胞依存性サイトカインIL-4およびIL-12における増加を低減できた。
【0016】
実施形態は、さらなる目的およびその利点と共に、以下の説明を添付図面と共に参照することにより、最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、PEG-脂質分子の、細胞膜の脂質二重層との疎水的相互作用の機構を概略的に示す。
【
図2A】
図2A~
図2Cは、コートされたMSCがインビトロチャンドラーループモデルにおいて分析されたときの、凝固(
図2A)および補体(
図2Bおよび
図2C)に対するPEG-リン脂質の種々の官能基の効果を、対照(未コート細胞)と比較して示す。
【
図2B】
図2A~
図2Cは、コートされたMSCがインビトロチャンドラーループモデルにおいて分析されたときの、凝固(
図2A)および補体(
図2Bおよび
図2C)に対するPEG-リン脂質の種々の官能基の効果を、対照(未コート細胞)と比較して示す。
【
図2C】
図2A~
図2Cは、コートされたMSCがインビトロチャンドラーループモデルにおいて分析されたときの、凝固(
図2A)および補体(
図2Bおよび
図2C)に対するPEG-リン脂質の種々の官能基の効果を、対照(未コート細胞)と比較して示す。
【
図3】
図3は、2mg/mLのFITC-PEG-リン脂質25mLでの灌流中の、60分間の液相濃度を示す。円は、接続した腎臓がないものを示し、四角は、接続した腎臓を有するものを示す。PEG-リン脂質の算出された取り込みは、76%であった。
【
図4】
図4A-
図4F。
図4A~
図4Fは、再灌流後5分(
図4A:対照、
図4B:処置)、60分(
図4C:対照、
図4D:処置)および360分(
図4E:対照、
図4F:処置)の時点での対照および処置腎臓から回収した生検を示す。腎臓を、ビオチン-PEG-リン脂質溶液で灌流し、PEG-リン脂質を用いた腎臓内皮のコーティングの検証を、ストレプトアビジン-488を用いる対比染色により実行した。切片を、共焦点顕微鏡により分析した。
【
図5A】
図5A~
図5Eは、短期同種間ブタ腎臓移植モデルにおける補体活性化を示す。腎臓からの生検における、
図5Aは、血漿C3a、
図5Bは、sC5b-9、
図5Cは、C4d、
図5Dは、C3b、
図5Eは、MAC沈着である。矢印がある四角および棒は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、矢印がない円および棒は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
【
図5B】
図5A~
図5Eは、短期同種間ブタ腎臓移植モデルにおける補体活性化を示す。腎臓からの生検における、
図5Aは、血漿C3a、
図5Bは、sC5b-9、
図5Cは、C4d、
図5Dは、C3b、
図5Eは、MAC沈着である。矢印がある四角および棒は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、矢印がない円および棒は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
【
図5C】
図5A~
図5Eは、短期同種間ブタ腎臓移植モデルにおける補体活性化を示す。腎臓からの生検における、
図5Aは、血漿C3a、
図5Bは、sC5b-9、
図5Cは、C4d、
図5Dは、C3b、
図5Eは、MAC沈着である。矢印がある四角および棒は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、矢印がない円および棒は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
【
図5D】
図5A~
図5Eは、短期同種間ブタ腎臓移植モデルにおける補体活性化を示す。腎臓からの生検における、
図5Aは、血漿C3a、
図5Bは、sC5b-9、
図5Cは、C4d、
図5Dは、C3b、
図5Eは、MAC沈着である。矢印がある四角および棒は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、矢印がない円および棒は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
【
図5E】
図5A~
図5Eは、短期同種間ブタ腎臓移植モデルにおける補体活性化を示す。腎臓からの生検における、
図5Aは、血漿C3a、
図5Bは、sC5b-9、
図5Cは、C4d、
図5Dは、C3b、
図5Eは、MAC沈着である。矢印がある四角および棒は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、矢印がない円および棒は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
【
図6A】
図6A~
図6Dは、短期同種間腎臓移植モデルにおける凝固活性化を示す。
図6Aは、血漿TAT、
図6Bは、TF、
図6Cは、FXII/AT、
図6Dは、FXII/C1INHである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001である。
【
図6B】
図6A~
図6Dは、短期同種間腎臓移植モデルにおける凝固活性化を示す。
図6Aは、血漿TAT、
図6Bは、TF、
図6Cは、FXII/AT、
図6Dは、FXII/C1INHである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001である。
【
図6C】
図6A~
図6Dは、短期同種間腎臓移植モデルにおける凝固活性化を示す。
図6Aは、血漿TAT、
図6Bは、TF、
図6Cは、FXII/AT、
図6Dは、FXII/C1INHである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001である。
【
図6D】
図6A~
図6Dは、短期同種間腎臓移植モデルにおける凝固活性化を示す。
図6Aは、血漿TAT、
図6Bは、TF、
図6Cは、FXII/AT、
図6Dは、FXII/C1INHである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01、***は、p<0.001である。
【
図7A】
図7A~
図7Cは、短期同種間腎臓移植モデルにおける炎症促進性サイトカインの濃度を示す。
図7Aは、血漿IL-1β、
図7Bは、IL-6、
図7Cは、TNFである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01である。
【
図7B】
図7A~
図7Cは、短期同種間腎臓移植モデルにおける炎症促進性サイトカインの濃度を示す。
図7Aは、血漿IL-1β、
図7Bは、IL-6、
図7Cは、TNFである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01である。
【
図7C】
図7A~
図7Cは、短期同種間腎臓移植モデルにおける炎症促進性サイトカインの濃度を示す。
図7Aは、血漿IL-1β、
図7Bは、IL-6、
図7Cは、TNFである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01である。
【
図8A】
図8A~
図8Cは、長期同種間腎臓移植モデルにおける補体および凝固活性化を示す。
図8Aは、血漿C3a、
図8Bは、sC5b-9、
図8Cは、TATである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01である。
【
図8B】
図8A~
図8Cは、長期同種間腎臓移植モデルにおける補体および凝固活性化を示す。
図8Aは、血漿C3a、
図8Bは、sC5b-9、
図8Cは、TATである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01である。
【
図8C】
図8A~
図8Cは、長期同種間腎臓移植モデルにおける補体および凝固活性化を示す。
図8Aは、血漿C3a、
図8Bは、sC5b-9、
図8Cは、TATである。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05、**は、p<0.01である。
【
図10A】
図10Aおよび
図10Bは、短期(
図10A)および長期(
図10B)同種間腎臓移植モデルにおけるPEG-リン脂質処置された腎臓の機能評価を示す。
図10Aにおいて、利尿を評価し、
図10Bにおいて、クレアチン濃度を測定した。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05である。
【
図10B】
図10Aおよび
図10Bは、短期(
図10A)および長期(
図10B)同種間腎臓移植モデルにおけるPEG-リン脂質処置された腎臓の機能評価を示す。
図10Aにおいて、利尿を評価し、
図10Bにおいて、クレアチン濃度を測定した。四角は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円は、未処置対照を表す。*は、p<0.05である。
【
図11】
図11は、長期同種間腎臓移植モデルにおける、対照腎臓を移植された動物と比較した、PEG-リン脂質処置された腎臓を移植されたブタにおける再灌流直後の脈拍数の補整的増加に関する機能評価を示す。*は、p<0.05である。
【
図12】
図12は、(1)調達、(2)静置低体温灌流および(3)PEG-リン脂質灌流後のブタ腎臓の肉眼形態を示す。
【
図13】
図13は、CCRF-CEM細胞を使用する、異なる長さのPEGサブユニット(1kDaが円、5kDaが四角、40kDaが三角)を有するPEG-リン脂質分子の保持を示す。
【
図14】
図14は、[
68Ga]NO2A-プロピル-アジドの合成を示す。
【
図15】
図15は、
68Ga-NO2A-PEG-脂質の合成を示す。
【
図16A】
図16Aおよび
図16Bは、PEG-リン脂質添加HTK溶液(処置)またはHTK溶液のみ(対照)中でのブタ腎臓の4℃での24時間のインキュベート後の、TAT値および血漿クレアチニン値を示す。
【
図16B】
図16Aおよび
図16Bは、PEG-リン脂質添加HTK溶液(処置)またはHTK溶液のみ(対照)中でのブタ腎臓の4℃での24時間のインキュベート後の、TAT値および血漿クレアチニン値を示す。
【
図17A】
図17A~
図17Dは、長期同種間腎臓移植モデルにおける補体および凝固活性化、ならびにクレアチニン濃度、血漿TAT(
図17A)、C3a(
図17B)、sC5b-9(
図17C)およびクレアチニン(
図17D)を示す。四角のある線は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円のある線は、未処置対照を表す。*は、p<0.05である。
【
図17B】
図17A~
図17Dは、長期同種間腎臓移植モデルにおける補体および凝固活性化、ならびにクレアチニン濃度、血漿TAT(
図17A)、C3a(
図17B)、sC5b-9(
図17C)およびクレアチニン(
図17D)を示す。四角のある線は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円のある線は、未処置対照を表す。*は、p<0.05である。
【
図17C】
図17A~
図17Dは、長期同種間腎臓移植モデルにおける補体および凝固活性化、ならびにクレアチニン濃度、血漿TAT(
図17A)、C3a(
図17B)、sC5b-9(
図17C)およびクレアチニン(
図17D)を示す。四角のある線は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円のある線は、未処置対照を表す。*は、p<0.05である。
【
図17D】
図17A~
図17Dは、長期同種間腎臓移植モデルにおける補体および凝固活性化、ならびにクレアチニン濃度、血漿TAT(
図17A)、C3a(
図17B)、sC5b-9(
図17C)およびクレアチニン(
図17D)を示す。四角のある線は、PEG-リン脂質処置された腎臓を表し、円のある線は、未処置対照を表す。*は、p<0.05である。
【
図19-1】
図19は、5kDのPEG-脂質のために1つの腎臓を使用しおよび40kDaのPEG-脂質のために他の腎臓を使用した、4頭の異なるブタからの腎臓へのPEG-脂質分子の注入後の5kDaのPEG-脂質および40kDaのPEG-脂質の取り込みを示す。腎臓を、FITC-PEG-リン脂質溶液で灌流し、PEG-リン脂質による腎臓内皮および柔組織のコーティングの検証を、可視化した。切片を、共焦点顕微鏡により分析した。
【
図19-2】
図19は、5kDのPEG-脂質のために1つの腎臓を使用しおよび40kDaのPEG-脂質のために他の腎臓を使用した、4頭の異なるブタからの腎臓へのPEG-脂質分子の注入後の5kDaのPEG-脂質および40kDaのPEG-脂質の取り込みを示す。腎臓を、FITC-PEG-リン脂質溶液で灌流し、PEG-リン脂質による腎臓内皮および柔組織のコーティングの検証を、可視化した。切片を、共焦点顕微鏡により分析した。
【
図20】
図20は、3つの一般に使用される灌流液(HTK、IGL-1およびUW)におけるPEG-脂質分子の混合性能を示す。沈殿は、2mg/mLのPEG-脂質濃度で、これらの混合物のいずれにおいても観察されなかった。
【発明の概要】
【0018】
本発明は一般に、エクスビボ臓器処置、特に臓器再灌流により誘導される適応免疫系の活性化、および低血圧症に先行する、血栓炎症を処置、阻害または予防できる、そのようなエクスビボ臓器処置に関する。
【0019】
本発明のエクスビボ方法は、内膜または血管系の内皮およびそのような臓器またはそのような臓器の一部の柔組織の保護的シールドまたはコーティングを提供することにより、臓器移植および臓器処置において有意な改善をもたらす。この保護的コーティングは、血栓炎症および虚血再灌流(I/R)障害(IRI)の有害作用に対する効果的保護を構成する。
【0020】
グリコカリックスは、微小血管うっ血および血栓炎症の予防を確実にするために必須である。しかし、このグリコカリックスは、酸化ストレスおよび虚血誘導性損傷に対して非常に感受性である。したがって、保護的グリコカリックスコーティングは、インビトロでの臓器調達および臓器保存に関連して生じる虚血中に急速に失われる。臓器移植片が移植され再灌流されると、修復プロセスが誘導され、これは、グリコカリックスがないことやそれへの損傷のため臓器移植片への壊滅的な損傷を開始する。したがって、補体および接触系が、活性化される。血小板は、消費され、白血球は、活性化され、かつ臓器移植片に浸透するようになる。これらの系の活性化の結果として、サイトカインが最終的に生成され、細胞死および移植片機能損失または臓器移植後臓器機能障害をもたらす。臓器移植片へのこの壊滅的な損傷は、血栓炎症であり、これは主に、血液のカスケード系、すなわち、補体、接触/凝固および線維素溶解系、からなる体液性自然免疫系により誘発される。これらの系の活性化はその後、内皮細胞、白血球および血小板の活性化を誘導し、最終的に、血栓性および炎症反応をもたらす。
【0021】
本明細書に示すように、臓器または臓器の一部をポリ(エチレングリコール)-リン脂質(PEG-リン脂質)分子でエクスビボ処置することにより、臓器または臓器の一部を、血栓炎症に対して保護できる。したがって、PEG-リン脂質分子は、臓器または臓器の一部の血管系の内膜の細胞膜に結合でき、それによりグリコカリックスの損失を埋め合わせる。したがって、PEG-リン脂質分子は、凝固および補体活性化のレベルの低下、サイトカイン発現の抑制および移植片機能の一般的な改善を含む、血栓炎症の有害効果を阻害するか、または少なくとも有意に低減する、内皮の保護コーティングを形成する。
【0022】
特に、臓器のPEG-リン脂質分子を用いたエクスビボ処置は、インターロイキン4(IL-4)およびIL-12を含むT細胞特異的サイトカインなどのサイトカインにおける顕著な低減をもたらした。非処置対照臓器において、移植後の数日間、高レベルのそのようなサイトカインがあり、これは免疫付与の継続およびさらなる免疫抑制に対して負の効果を有する。したがって、PEG-リン脂質分子による内皮のコーティングは、サイトカインに誘導された効果および移植後の臓器または臓器の一部への損傷を阻害し、また、移植後の免疫抑制の結果も改善する。
【0023】
PEG-リン脂質分子を用いて臓器または臓器の一部をエクスビボ処置することにより達成された別の非常に驚くべき効果は、臓器移植片の再灌流後に進行する再灌流と関連する心拍数増加および低血圧症を伴う血行動態の不安定性の処置、阻害または予防であった。移植に関連するそのような低血圧症は、結果として、灌流の低下、臓器不全をもたらし、さらには、患者の死をもたらし得る。低血圧症は、臓器移植片が患者の血管系と接続され、それにより再灌流されるときに誘導される。低血圧症を処置できない場合、移植中の患者の死の大きな危険性があるので、そのような低血圧症の処置は今日では、臓器移植中の重要な課題である。しかしながら、PEG-リン脂質分子で移植前に臓器移植片をエクスビボ処置することにより、低血圧症は、予防されるか、少なくとも有意に阻害または低減され得た。したがって、臓器移植に関連する低血圧症が誘導する損傷の危険性は、本発明のPEG-リン脂質分子を使用することにより低減される。本発明のPEG-リン脂質分子はそのため、再灌流後症候群(PRS)の処置、予防および/または阻害において有用である。
【0024】
本発明の一態様はしたがって、臓器または臓器の一部を処置するエクスビボ方法に関する。方法は、PEG-リン脂質分子を含む溶液を、臓器または臓器の一部の血管系および任意で柔組織に、エクスビボ注入することを含む。方法はまた、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液に臓器または臓器の一部を浸漬しておきながら、PEG-リン脂質分子での血管系の内膜の少なくとも一部、好ましくは柔組織のコーティングを可能にするように、PEG-リン脂質分子を含む溶液を血管系中で、任意で柔組織中でエクスビボインキュベートすることを含む。
【0025】
したがって、エクスビボ方法は、PEG-リン脂質分子を臓器または臓器の一部の血管系に導入することを含み、そこで、PEG-リン脂質分子が内皮または柔組織の細胞膜と相互作用しかつそれに結合することを可能にする。
図1は、内皮の脂質二重膜と疎水的に相互作用し、それによりリン脂質基を介して細胞膜中でPEG-リン脂質分子を固定または結合する、PEG-リン脂質分子を用いるこの原理を概略的に示す。
【0026】
PEG-リン脂質分子の、内皮、任意で、腎臓の場合には腎実質などの、柔組織の脂質二重膜との間の相互作用は、エクスビボで生じ、一方で臓器または臓器の一部は、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に置かれるか、浸漬される。本明細書において提示されるような実験データは、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に臓器を浸漬しておくことが、臓器または臓器の一部の血管系および任意で柔組織がPEG-リン脂質分子でコートされる場合であっても、PEG-リン脂質分子がない臓器保存溶液中に臓器または臓器の一部を単に浸漬しておく場合と比較して、結果として有意に低いカスケード系の活性化およびサイトカイン発現をもたらすことを示唆する。
【0027】
したがって、臓器または臓器の一部の効果的なエクスビボ処置を達成するため、臓器または臓器の一部の血管系、および任意で柔組織は、PEG-リン脂質分子に曝露される必要があり、臓器または臓器の一部は、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に浸漬される必要がある。そのようなエクスビボ処置の抗血栓炎症効果は、PEG-リン脂質分子を含む溶液を臓器または臓器の一部の血管系、および任意でその柔組織に単にエクスビボ注入することと比較して有意に改善される。実際に、本発明のエクスビボ処置の抗血栓炎症効果は、臓器または臓器の一部が、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に浸漬しておいた場合、すなわち、臓器または臓器の一部の再灌流前であっても、冷虚血期間中に既に誘導されていた。
【0028】
特定の実施形態において、臓器または臓器の一部は最初に、PEG-リン脂質分子を含む溶液を用いて臓器または臓器の一部の血管系、および任意でその柔組織にエクスビボ注入される。このエクスビボ注入は有利には、ドナーの体内から臓器または臓器の一部を外植および除去した後に、可能な限り早く起こる。灌流された臓器または臓器の一部はその後、PEGリン脂質を含む臓器保存溶液中に浸漬され、その中で、好ましくは約4℃などの低温で維持され、これは本明細書においてさらに議論される。
【0029】
別の特定の実施形態において、臓器または臓器の一部は、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に最初に浸漬され、その後PEG-リン脂質分子を含む溶液を、臓器または臓器の一部の血管系、および任意でその柔組織にエクスビボ注入する。このエクスビボ注入は、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に臓器または臓器の一部を浸漬しておきながら、実行できる。代わりに、臓器または臓器の一部は、臓器保存溶液から一時的に取り出され、エクスビボ注入を実行し、その後、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液に戻される。
【0030】
一実施形態において、方法はまた、臓器保存溶液を血管系にエクスビボ注入して非結合PEG-リン脂質分子を血管系から洗い流すことも含む。したがって、非結合PEG-リン脂質分子は好ましくは、1回または複数回の、すなわち、少なくとも2回の、臓器保存溶液を使用する洗浄工程において洗い流される。
【0031】
そのような臓器保存溶液はまた、1回または複数回の洗浄工程においてPEG-リン脂質分子を含む溶液を注入する前に臓器または臓器の一部の血管系を洗浄するためにも使用できる。そのような実施形態において、方法はまた、PEG-リン脂質分子を含む溶液を血管系にエクスビボ注入する前に血管系に臓器保存溶液をエクスビボ注入することも含む。PEG-リン脂質分子を添加する前の臓器保存溶液の初期注入は、臓器または臓器の一部の血管系を洗浄し、それによりPEG-リン脂質分子での内皮の効果的なコーティングを促進する。
【0032】
一実施形態において、PEG-リン脂質分子を含む溶液のエクスビボ注入は、血管系の動脈および静脈の1つをエクスビボクランピングすることを含む。この実施形態はまた、PEG-リン脂質分子を含む溶液を動脈および静脈の他方にエクスビボ注入し、動脈および静脈のその他方をエクスビボクランピングすることも含む。
【0033】
したがって、一実施形態において、臓器または臓器の一部の血管系の静脈(または動脈)は、最初にクランプされて、添加される溶液が血管系から流出することを防止する。PEG-リン脂質分子を有する溶液は、血管系の動脈(または静脈)に添加され、この動脈(または静脈)はその後、クランプされて、添加される溶液が血管系から流出することを防止する。したがって、臓器または臓器の一部の血管系の血管の入口および出口は、クランピングにより閉じられて、それによりPEG-リン脂質分子を含む溶液を血管系内に維持し、それにより血管系の内皮にPEG-リン脂質分子を結合させることを可能にする。
【0034】
別の実施形態において、PEG-リン脂質分子を有する溶液は、溶液が臓器または臓器の一部の静脈(または動脈)で出現するまで、臓器または臓器の一部の血管系の動脈(または静脈)に注入される。これは、PEG-リン脂質分子を有する溶液が、血管系を充填したことを確認する。その時点で、動脈および静脈をクランプする。
【0035】
PEG-リン脂質分子を含む溶液は、静脈を通って、または動脈を通って添加できる。特定の実施形態において、溶液は、動脈に注入される。そのような特定の実施形態において、任意の初期クランピングがその後、血管系の静脈でなされることが好ましい。
【0036】
上述したクランピングの実施形態は特に、血管系にエクスビボ注入される溶液が、臓器または臓器の一部が浸漬される臓器保存溶液とは異なる、および/または溶液中に含まれるPEG-リン脂質分子が、臓器保存溶液に含まれるPEG-リン脂質分子とは異なる場合に有用である。他の場合、臓器または臓器の一部が浸漬されるのと同じPEG-リン脂質含有臓器保存溶液がエクスビボ注入されるので、クランピングの必要はない。
【0037】
PEG-リン脂質分子を含む溶液は好ましくは、10分から最大で48時間の期間、血管系中でエクスビボインキュベートされて、PEG-リン脂質分子が内皮の細胞膜と疎水的に相互作用することを可能にし、それにより臓器または臓器の一部の血管系の少なくとも一部をコートする。エクスビボインキュベーションは好ましくは、20分間から最大で36時間、より好ましくは30分間から最大で24時間、例えば30分間から最大で12時間、最大で8時間、最大で4時間、または最大で1時間実行される。
【0038】
血管系に注入されるPEG-リン脂質分子を含む溶液の量は、臓器の種類および臓器のサイズ(成人対小児)に依存する。一般に、溶液の体積は、臓器の血管系を満たすのに充分である必要がある。最も実用的な用途において、5mLから最大で250mLのPEG-リン脂質分子を含む溶液が、血管系にエクスビボ注入される。好ましい実施形態において、5mLから最大で100mL、好ましくは、5mLから最大で50mLのPEG-リン脂質分子を含む溶液が、血管系にインビボ注入される。
【0039】
一実施形態において、溶液は、0.25mg/mLから最大で25mg/mLのPEG-リン脂質分子を含む。好ましい実施形態において、溶液は、0.25mg/mLから最大で10mg/mL、好ましくは、0.25mg/mLから最大で5mg/mL、例えば、2mg/mLのPEG-リン脂質分子を含む。
【0040】
PEG-リン脂質分子の上述した濃度はまた、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液のために使用できる。
【0041】
本発明によれば、PEG-リン脂質分子を含む溶液は、臓器または臓器の一部をPEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に置かれたまたは浸漬されたままにしながら、血管系中でエクスビボインキュベートされる。加えて、臓器または臓器の一部は好ましくはまた、0℃より高いが8℃よりも低い温度、好ましくは0℃より高いが6℃以下である温度、より好ましくは0℃より高いが4℃以下である温度で維持される。
【0042】
この実施形態において、臓器または臓器の一部は、PEG-リン脂質分子が血管系の内皮の細胞膜と相互作用しかつそれに結合させられるインキュベーション時間の間、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に浸漬される。臓器または臓器の一部はまた好ましくは、冷たくして、すなわち、0℃付近であるが0℃より高い温度で維持される。
【0043】
本発明によれば、臓器または臓器の一部は、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液中に浸漬されたままである。
【0044】
臓器保存のための理論的に完全な温度は、4℃~8℃であることが示されている。より高い温度は、代謝が効率的に低下しないので臓器の低酸素性損傷をもたらし、4℃より低い温度は、タンパク質変性を伴う低温損傷のリスクを高める。
【0045】
現在、臨床臓器移植におけるドナー臓器保存のための絶対的基準は、3つのプラスチック袋およびアイスボックスを使用する。第1のプラスチック袋は、臓器保存溶液に浸漬された臓器自体を含む。この第1のプラスチック袋を、生理食塩水で満たされた第2のプラスチック袋に入れ、その後これらの2つのプラスチック袋を、生理食塩水で満たされた第3のプラスチック袋に入れ、その後それをアイスボックスに入れる。温度制御された環境で臓器を維持するためのさらに進んだ臓器保存デバイスが利用可能であり、Paragonix Technologies社からのSherpa Pak(商標)輸送システム、Waters Medical SystemsからのWaves、Organ Recovery systemsからのLifePortトランスポーターなどを、使用できる。
【0046】
PEG-リン脂質分子を含む溶液は、生理食塩水、水性緩衝溶液または臓器保存溶液であり得る。
【0047】
使用できる水性緩衝溶液の具体的ではあるが、限定されない例は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびクエン酸溶液を含む。
【0048】
PEG-リン脂質分子をエクスビボ注入する前またはその後にPEG-リン脂質分子を注入する、および/または臓器もしくは臓器の一部の血管系を洗浄するのに使用できる、および/または、臓器もしくは臓器の一部をその中に浸漬できる臓器保存溶液は、既知の臓器保存溶液から選択できる。そのような臓器保存溶液の具体的ではあるが、限定されない例は、ヒスチジン-トリプトファン-ケトグルタル酸(HTK)溶液、クエン酸溶液、ウィスコンシン大学(UW)溶液、コリンズ溶液、セルシオ溶液、京都大学溶液およびInstitut Georges Lopez-1(IGL-1)溶液を含む。
【0049】
本明細書において提示されるような実験データは、PEG-リン脂質分子が、沈殿なしで臓器保存溶液中に容易に混合可能であることを示す(
図20)。
【0050】
一実施形態において、PEG-リン脂質分子は、PEG-リン脂質からなる非官能化PEG-リン脂質分子である。したがって、本実施形態において、PEG-リン脂質分子は、あらゆる官能基を含まない。これは、
図1において、CH
2またはHと等しいRを有するものに相当する。
【0051】
別の実施形態において、PEG-リン脂質分子は、PEG-リン脂質分子のPEGに結合された各官能化分子を含む官能化PEG-リン脂質分子である。
【0052】
さらなる実施形態において、溶液は、PEG-リン脂質からなる非官能化PEG-リン脂質分子およびPEG-リン脂質分子のPEGに結合された各官能化分子を含む官能化PEG-リン脂質分子の混合物を含む。
【0053】
官能化PEG-リン脂質分子のみまたは官能化および非官能化PEG-リン脂質分子の混合物を含む実施形態において、官能化分子は好ましくは、補体阻害剤、凝固阻害剤、血小板阻害剤、補体阻害剤を結合できる分子、凝固阻害剤を結合できる分子、血小板阻害剤を結合できる分子、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0054】
補体阻害剤の具体的ではあるが、限定されない例は、因子H;C4b-結合タンパク質(C4BP);C3b/C4b受容体または分化抗原群35(CD35)としても既知の補体受容体1(CR1)のN-末端4~6ショートコンセンサスリピート(SCR);膜補因子蛋白質(MCP)としても既知のCD46補体調節タンパク質(CD46);およびCD55としても既知の補体崩壊促進因子(DAF)を含む。
【0055】
凝固阻害剤の具体的ではあるが、限定されない例は、ヘパリンを含む。
【0056】
血小板阻害剤の具体的ではあるが、限定されない例は、アピラーゼなどのアデノシン二リン酸(ADP)分解酵素およびCD39としても既知のエクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ-1(NTPDase1)である。
【0057】
補体阻害剤を結合できる分子の具体的ではあるが、限定されない例は、[4]に開示される5C6などの因子H結合ペプチド;および[5]に開示されるストレプトコッカスMタンパク質由来ペプチドM2-N、M4-NまたはM22-NなどのC4BP結合ペプチドである。
【0058】
凝固阻害剤を結合できる分子の具体的ではあるが、限定されない例は、[7]に開示されるようなヘパリン結合ペプチドである。
【0059】
したがって、一実施形態において、官能化分子は、ヘパリン結合ペプチド、CR1のN-末端4~6SCR、CD46、DAF、因子H結合分子、ADP分解酵素、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0060】
特定の実施形態において、官能化分子は、ペプチド5C6、アピラーゼ、CD39、C4BP、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0061】
一実施形態において、PEG-リン脂質分子は、式(I)または式(II):
【化1】
【化2】
を有する。
【0062】
一実施形態において、n、mは、10から最大で16の範囲内で独立して選択される整数である。パラメータn、mは好ましくは、独立して10、12、14または16であり、より好ましくは、n=m=14である。
【0063】
一実施形態において、pは、PEG鎖が、1000Daから最大で40000Daの範囲内で選択される平均分子量を有するように選択される。パラメータpは好ましくは、PEG鎖が3000から最大で10000Da、より好ましくは、5000Daの平均分子量を有するように選択される。
【0064】
本明細書において定義されるような平均分子量は、個々のPEG-リン脂質分子が、この平均分子量とは異なる分子量を有してよいこと、しかし平均分子量が、PEG-リン脂質分子の中間分子量を表すことを示唆する。これはさらに、PEG-リン脂質試料についてこの平均分子量付近の分子量の自然分布があることを含む。
【0065】
末端基Rは、一実施形態において、H、CH2、NH2、マレイミド(malemide)基、ビオチン基、ストレプトアビジン基、アビジン基または官能化分子である。官能化分子の場合、これは好ましくは、補体阻害剤、凝固阻害剤、血小板阻害剤、補体阻害剤を結合できる分子、凝固阻害剤を結合できる分子、血小板阻害剤を結合できる分子、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0066】
PEG-リン脂質分子の脂肪酸鎖は、飽和されてよい。少なくとも1つまたは両方の脂肪酸鎖はあるいは、不飽和であり得る、すなわち、少なくとも1つの-CH=CH-基、少なくとも1つの-C≡C-基またはそれらの組み合わせを含む。各脂肪酸鎖は、直鎖または分岐であり得る。
【0067】
臓器または臓器の一部の血管系、および任意で柔組織にエクスビボ注入されるPEG-リン脂質分子は、臓器または臓器の一部を浸漬しておく臓器保存溶液に含まれるPEG-リン脂質分子と同じ種類であり得る。別の実施形態において、臓器または臓器の一部を浸漬しておく臓器保存溶液と比較して異なる種類のPEG-リン脂質分子が、臓器または臓器の一部の血管系、および任意でその柔組織にエクスビボ注入される溶液に使用できる。例えば、PEG鎖のサイズは、PEG-リン脂質分子について異なってよく、臓器または臓器の一部の血管系、および任意でその柔組織において標的サイズに到達するように選択されたPEG-リン脂質分子のPEG鎖のサイズを有する。
図19に示すように、PEG鎖のサイズは、その中にPEG-リン脂質分子が到達できる、血管系および柔組織の部分を制限する。特に、5kDaのPEG-リン脂質分子は、より大きな40kDaのPEG-リン脂質分子と比較して血管系および柔組織のより大きい部分に到達できる。
【0068】
したがって、一実施形態において、臓器または臓器の一部の血管系および任意で柔組織にエクスビボ注入される溶液に含まれるPEG-リン脂質分子は、臓器または臓器の一部が浸漬される臓器保存溶液に含まれるPEG-リン脂質分子と比較して、異なる平均サイズのPEG鎖を有してよい。
【0069】
加えて、または代わりに、エクスビボ注入溶液中のPEG-リン脂質分子および臓器保存溶液中のPEG-リン脂質分子は、異なる官能基、すなわち、式(I)および(II)中の末端基Rを有してよい。
【0070】
本発明のエクスビボ方法は、血管系を有し、臓器移植片として使用できる、すなわち、レシピエントに移植されるあらゆる臓器または臓器の一部に適用できる。そのような臓器の具体的ではあるが、限定されない例は、腎臓、肝臓、膵臓、心臓、肺、子宮、膀胱、胸腺および腸を含む。
【0071】
特定の実施形態において、臓器は、腎臓である。この特定の実施形態において、血管系中でのPEG-リン脂質分子を含む溶液のエクスビボインキュベーションは、PEG-リン脂質分子による腎臓血管系の腎臓内皮のコーティングだけでなく好ましくは、腎実質の細管のコーティングも可能にする。したがって、本明細書において提示されるような実験データは、PEG-リン脂質分子が、大動脈基部を通じてPEG-リン脂質分子を含む溶液をエクスビボ注入する場合、尿細管周囲血管、糸球体および腎臓の細管に均一に分布されたことを示す。
【0072】
本明細書において提示されるような実験データは、PEG-リン脂質処置臓器移植片が、TATなどの凝固マーカー、およびC3aおよびsC5b-9などの補体マーカーの血漿中濃度により反映されるように未処置対照臓器移植片と比較して有意に少ない血栓炎症を有したことを示す。また、サイトカイン発現、特にIL-6およびIL-1βも、PEG-リン脂質処置臓器移植片において非常に抑制された。臓器機能は、PEG-リン脂質処置臓器移植片において改善された。PEG-リン脂質処置臓器はまた、C3bなどの補体マーカーおよび膜侵襲複合体の低減された沈着、およびC5aRの発現も示した。
【0073】
したがって、PEG-リン脂質分子を用いた臓器移植片のエクスビボコーティングは、I/R誘導性血栓炎症に対して保護し、これは、臨床移植におけるI/R損傷に対する可能性があることを示唆する。
【0074】
本発明のさらなる態様は、臓器移植片の再灌流後に進行する再灌流に関連する低血圧症の処置、阻害または予防における使用のためのPEG-リン脂質に関する。
【0075】
本発明のさらに別の態様は、PRSの処置、阻害または予防において使用するためのPEG-リン脂質に関する。
【0076】
臓器移植の間およびその直後、典型的には24時間までの合併症は、レシピエントにおける臓器移植片の再灌流後の血圧における顕著な低下である。レシピエントにおけるこの血行動態的変化は重度の場合、レシピエントの臓器においておよび移植された移植片において虚血をもたらす可能性があり、処置が成功しない場合これらの実体のいずれかへの損傷および患者の死さえも引き起こす。
【0077】
PEG-リン脂質による血管の不安定性に対する観察された保護は、接触/カリクレイン系の阻害によるものであり得る。接触/カリクレイン系が再灌流後に活性化されたことが、予期せず確認された。接触/カリクレイン系は、血管拡張および透過性の増加を誘導し低血圧症をもたらす、高度に血管作動性のペプチドであるブラジキニンを生成し、それは代償性頻脈を引き起こす。手術中に、血圧の低下は、医薬品および液体で処置され、依然として生命を脅かすような状況が発生する可能性がある。したがって、低血圧症を予防する可能性は、大いに臨床的な価値がある。
【0078】
したがって、臓器移植片の再灌流と関連するそのような低血圧症および血圧における低下を予防する、処置する、または少なくとも低減することは、臓器移植に関連する重要な改善である。本明細書において提示されるような実験データは、PEG-リン脂質分子を含む溶液を用いて移植前の臓器移植片をエクスビボ処置することが、臓器移植片が再灌流される場合にそのような低血圧症または血圧低下に対しレシピエントを保護したことを示す。
【0079】
一実施形態において、PEG-リン脂質は、PEG-リン脂質分子を含む溶液として配合され、PEG-リン脂質分子による血管系の内膜および柔組織のコーティングを可能にする臓器移植片の血管系へのエクスビボ注入を目的とする。
【0080】
本発明の関連する態様は、臓器移植片の再灌流後に進行する再灌流と関連する低血圧症の処置、阻害または予防のための薬剤の製造のためのPEG-リン脂質の使用を定義する。一態様はまた、臓器移植片の再灌流後に進行する再灌流に関連する低血圧症を処置する、阻害する、または予防するための方法に関する。この方法は、任意ではあるが好ましくは、PEG-リン脂質分子を含む臓器保存溶液に臓器移植片を浸漬しておきながら、PEG-リン脂質分子による血管系の内皮の少なくとも一部のコーティングを可能にするための、PEG-リン脂質分子を含む溶液を臓器移植片の血管系にエクスビボ注入するおよび血管系中でPEG-リン脂質分子を含む溶液をエクスビボインキュベートする、以前説明した方法ステップを含む。
【発明を実施するための形態】
【0081】
実験1
材料、方法および動物実験
PEG-リン脂質誘導体の合成
【0082】
a.FITC-PEG-リン脂質
PEG-リン脂質の合成を、以前説明した方法[1]により実行した。簡潔に言うと、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(日油株式会社、東京、日本、DPPE、21mg)をジクロロメタン(シグマ-アルドリッチケミカル社(セントルイス、MO、USA))3mLに溶解した。α-N-ヒドロキシスクシンイミジル-ω-tert-ブトキシカルボニルポリ(エチレングリコール)(NOFからのNHS-PEG-Boc、Mw:5000、185mg)およびトリエチルアミン(3μL、ナカライテスク(京都、日本))を反応溶液に加え、その後、室温(RT、約20℃)で4日間撹拌した。NHS-PEG-BocのNHS基は、リン脂質のアミノ基とすぐに反応した。保護基、Boc、アミノ基を、99%トリフルオロ酢酸(和光純薬工業(大阪、日本))2mLの添加後に除去し、4℃で30分間、追加でインキュベートした。粗生成物をジエチルエーテル(ナカライテスク)中での再沈殿により精製した。クロロホルム(ナカライテスク)を用いた抽出および蒸発濃縮の後、PEG-リン脂質を白色固体として得た。収率は、85%であった。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)(同仁科学研究所(熊本、日本))を用いる蛍光標識のために、PEG-リン脂質(200mg)をFITC(31mg)と12時間、アセトン中で反応させた。FITC-PEG-リン脂質を、ゲル浸透クロマトグラフィ(Sephadex G-25、GEヘルスケア(バッキンガムシャー、UK))により精製した。
【0083】
FITC-PEG-リン脂質(40kDa)の合成は、以下に従った。α-N-ヒドロキシスクシンイミジル-ω-マレイミジルポリ(エチレングリコール)(NHS-PEG(40k)-Mal、Mw:40,000)およびDPPE(9.6mg)をジクロロメタン3mLに溶解し、トリエチルアミン(3μL、ナカライテスク)を反応溶液に加え、その後、室温(RT、約20℃)で4日間撹拌した。粗生成物を、ジエチルエーテル中での再沈殿により精製した。クロロホルムを用いた抽出および蒸発濃縮の後、Mal-PEG-リン脂質(40kDa)を白色固体として得た。収率は、80%であった。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)を用いる蛍光標識のために、Mal-PEG-リン脂質(40kDa)(1200mg)をDMSO(ナカライテスク、20mL)に溶解し、その後、FITC-グリシン-システイン(FITC-GC、株式会社ベックス、東京、日本、12mg)を加え37℃で24時間インキュベートした。粗生成物を、ジエチルエーテル中での再沈殿により精製した。クロロホルムを用いた抽出および蒸発濃縮の後、FITC-PEG-リン脂質(40kDa)を黄色固体として得た。
【0084】
b.ビオチン-PEG-リン脂質
ビオチン-PEG-リン脂質を、ポリ(エチレングリコール)(N-ヒドロキシスクシンイミド5-ペンタノエート)エーテル2-(ビオチニルアミノ)エタン(NOFからのビオチン-PEG-NHS、Mw:5000、180mg)および1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE)(20mg)をトリエチルアミン(50μL)およびジクロロメタン(4mL)と組み合わせること、およびRTで48時間撹拌することにより合成した。ジエチルエーテルを用いた沈殿により、ビオチン-PEG-リン脂質を白色粉末(165mg、80%収率)として得た。ビオチン-PEG-リン脂質を、さらなる精製なしで視覚化に使用した。
【0085】
c.PEG-リン脂質
PEG-リン脂質を、α-スクシンイミジルオキシスクシニル-ω-メトキシ,ポリオキシエチレン(NOFからのMeO-PEG-NHS、Mw:5000、171mg)およびDPPE(22mg)をトリエチルアミン(25μL)およびジクロロメタン(5mL)と組み合わせること、およびRTで72時間撹拌することにより合成した。ジエチルエーテルを用いた沈殿により、PEG-リン脂質を白色粉末(160mg、80%収率)として得た。PEG-リン脂質を、さらなる精製なしで腎臓処置に使用した。
【0086】
種々の種類のPEG-リン脂質の官能性評価
官能基部分がその保護特性に対する影響を有するかどうかを評価するため、一連の実験を、初代ヒト間葉系幹細胞(hMSC)で行った。hMSCを、PEG-リン脂質、FITC-PEG-リン脂質およびビオチン-PEG-リン脂質でコートした。表面修飾後に、コートされた細胞の生存率を、メーカーの説明書にしたがいAllmar blueアッセイ(ライフテクノロジーズ、ストックホルム、スウェーデン)により分析した。簡潔に言うと、コートされた細胞を、96ウェル細胞培養マイクロプレートで、MSC培養培地中で培養した。6時間培養後に、Allmar blue試薬10μLを培養培地100μLに加え、その後37℃で4時間インキュベートした。続いて、蛍光発光を580~610nmで測定した。
【0087】
hMSCの血液適合性を測定するため、表面修飾MSCを、以前説明した[7]ようにループモデルにおいて全血に曝露した。要約すると、全血を健常人からヘパリンコートチューブ(Corline AB、ウプサラ、スウェーデン)に採取した。ヘパリン添加PVCチューブ(30cm)を使用した。各チューブを血液3mLで満たし、それに10,000MSC/mLを加えた。チューブを37℃で60分間30rpmの速度で回転させた。インキュベーション後に、血液1.2mLを、最終濃度10mMでEDTAを含む2mLチューブ(エッペンドルフ、ドイツ)に収集した。続いて、血液を4200×gで15分間、4℃で遠心分離して血漿を得た。血漿をアリコートに分割し、さらなる分析まで-80℃で貯蔵した。
【0088】
異なる長さのPEGサブユニットを有するPEG-リン脂質の保持
細胞(CCRF-CEM、浮遊細胞株、n=3)を、RTで30分間FITC-PEG-リン脂質(PBS中2mg/mL)とインキュベートし、続いて培養培地で洗浄した。ここで、異なる分子量、1kDa、5kDaおよび40kDaのPEG鎖を有するFITC-PEG-リン脂質を使用した。処置細胞を37℃で培養培地中にて培養し、0時間、1時間、3時間、6時間、24時間および48時間でフローサイトメトリー分析のために収集した。
【0089】
ブタ同種間移植モデル
人間のものと非常に似ているその解剖学的構造および生理のため、ブタを大型動物モデルとして選択した。特に、腎臓の構造および機能は、霊長類の臓器と非常に類似している。ブタでのすべての研究において、健康水準が高い従来品種を使用した。長期間の生存実験において、動物を2週間の期間順化させ、訓練および社会化プログラムを受けさせた。尿路の超音波、血液学、および臨床病理を含む臨床検査を、頻繁に実行し、ドナーおよびレシピエントをミスマッチさせるため、SLA-タイピングを移植前に実行した。レシピエントブタは、術後急速に回復したが、免疫抑制剤で処置しなかった。そのような薬剤の投与は、免疫応答を妨害し、実験から除外した。ブタをそのため、移植の急性拒絶反応を回避するために、96時間後に安楽死させた。完全剖検を、安楽死後に実行した。すべての研究は、ウプサラ、スウェーデンの動物実験倫理委員会により承認された。
【0090】
A.短期モデル(40分間のPEG-リン脂質単独での腎臓の灌流)
虚血再灌流障害(I/R障害)は、移植、血栓性疾患、敗血症および心肺バイパスを含むいくつかの病状の病理への主要な誘因である。本実験は、PEG-リン脂質でのブタ腎臓移植片の虚血性細胞表面のエクスビボコーティングが、一括同種間腎臓移植モデルにおいて、I/R損傷に対して保護するかどうかを試験した。
【0091】
動物。研究を、ヘデンスティエナ実験施設、ウプサラ大学病院、スウェーデンで実行した。両方の性のブタ6頭のドナーおよび6頭のレシピエントブタを含めた。ブタの体重および年齢は、それぞれ30~35kgおよび10~12週で異なった。ノンサバイバル手順を適用し、動物を、8時間の移植後観察期間の後、犠牲にした。
【0092】
麻酔。研究室に到着したとき、ゾラゼパム6mg/kg(Zoletil;ビルバック、カロ、フランス)と組み合わせた2.2mg/kgのキシラジン(ロンプン;バイエル、レバークーゼン、ドイツ)の筋肉内注射を鎮静のために与えた。続いて、動物を腹臥位で固定した。末梢静脈カテーテルを、麻酔の導入および維持のため、ならびに流体投与のため、両耳に導入した。上気管最小皮切開を、気管の曝露および人工呼吸Servo-I人工呼吸器、MAQUET、メディカルシステムズ、US用の経気管挿管のために行った。動物に、5.0~5.5kPaのCO2を得るため、空気中の30%酸素を通した。>60mmHgの平均動脈圧(MAP)は、充分な臓器灌流を確保することを目的とした。
【0093】
移植モデル。我々は、ドナーからレシピエント動物への両腎臓の二重一括回収および移植を可能にするブタ移植モデルを開発した。一括パッケージ内で無作為に選択された1つのみの腎臓の、孤立性のエクスビボPEG-リン脂質インキュベーションにより、この技術は、我々が、1頭のレシピエントブタにおいて、処置された臓器をその完全にマッチした対照組織とともに共移植することを可能にし、これは実験動物の数を低減しただけでなく、実験的交絡変数を最小化した。
【0094】
2つの腎臓、尿管および完全腎血管系からなる一括パッケージが作成されるように腎動脈上部および腎動脈下部大動脈の主要部ならびに下大静脈を固定した。一括パッケージを直ちに取り出し、HTK(カストジオール;ケーラーケミーGmbH、ドイツ)溶液を低温で流した。その後、一括パッケージをHTK溶液中、4℃で24時間低温貯蔵した。
【0095】
保存後、各一括パッケージ内の1つの腎臓を、PEG-リン脂質インキュベーションのために無作為に選択した。対側腎(対照)の静脈および動脈ならびに選択された腎臓の静脈をクランプした。2mg/mLの濃度のPEG-リン脂質溶液全10~15mLを、選択された腎臓に徐々に注入した。その後、処置された腎臓の動脈をクランプし、一括パッケージを4℃でさらに40分間、HTK中で低温貯蔵した。インキュベーション後かつ移植前に、余分なPEG-リン脂質を、対照からのクランプを除去することなく、HTKを有する処置された腎臓から流した。
【0096】
レシピエントブタを、以前説明したように扱い麻酔をかけた。一括パッケージを水平に、腹部内に配置した。移植の大静脈および大動脈の遠位端を、それぞれレシピエントの大静脈および大動脈に端から端まで吻合した。脱クランプの際、処置された腎臓および対照腎臓を、対照腎臓の脱クランプを数秒ずつ遅らせることにより順次再灌流し、一方で処置された腎臓からの流出物を流出させた。これは、大動脈導管内に残っているPEG-リン脂質溶液が対照腎臓に混入することを防止するために行われた。両方の移植尿管に、尿量の記録のために別個にカテーテルを挿入した。
【0097】
B.長期モデル(40分間のPEG-リン脂質単独での腎臓の灌流)
動物。SLAタイピングからの結果に基づいて、ドナー(n=12)およびレシピエント(n=21)の雑種のブタを、ミスマッチ移植のために選択した。動物を、互いに目が届き声が聞こえる、3m2程度の各檻に収容した。藁および木の削りくずを、寝床として使用した。14:10時間の明/暗スケジュール(06:00時に点灯)を適用し、赤外線ランプ(24時間)を各檻に与えた。温度は、16~18℃であった。動物に、成長促進剤(SOLO330、ラントマネン、スウェーデン)を含まない市販の仕上げ飼料を、1日2回、BWに応じた量で、スウェーデン農業科学大学のブタ育成計画にしたがって与えた。水を、自由に与えた。ドナーブタを、0.1mg/kgBWの用量でメデトミジン(Domitor(登録商標)vet、1mg/mL;オリオンファーマアニマルヘルス、ソーレントゥーナ、スウェーデン)、0.2mg/kgBWの用量でブトルファノール(Butomidor vet、10mg/mL;サルファームスカンディナヴィア、ヘルシンボリ、スウェーデン)および5mg/kgBWの用量でケタミン(Ketaminol(登録商標)vet、100mg/mL;インターベットインターナショナルBV、ボクスメール、オランダ)の組み合わせを筋肉内(i.m.)で用いて麻酔し、腎臓を、線形(10MHz)および曲線形(4MHz)のプローブを使用して超音波(Logiq e R6、GEヘルスケア、ウォーワトサ、U.S.A.)で調べて、腎嚢胞を有するブタを除外した。腎臓の長さ、エコー輝度および皮髄定義を評価し、腎盂領域を、腎盂拡張の証拠について評価し、カラードプラを使用して腎臓における血流の存在を評価した。2週間の順応期間中、ブタを、移植後に拘束なしで異なる試験を実行するために毎日扱い訓練した。
【0098】
移植モデル。麻酔を、0.05mg/kgBWの用量でメデトミジン(Domitor(登録商標)vet、1mg/mL;オリオンファーマアニマルヘルス、ソーレントゥーナ、スウェーデン)、ならびに5mg/kgBWの用量でチレタミンおよびゾラゼパム(Zoletil(登録商標)、50mg+50mg/mL;ビルバック、リーディング、カロ、フランス)の組み合わせを用いてi.m.で導入した。0.01mg/kgBWの用量でブプレノルフィン(Vetergesic(登録商標)vet、0.3mg/mL;オリオンファーマアニマルヘルス、ソーレントゥーナ、スウェーデン)を筋肉内に、0.1mg/kgの用量で硬膜外モルヒネ(Morfin Epidural Meda、2mg/mL;メーダ、ソルナ、スウェーデン)を術前に追加の鎮痛剤として与えた。プロカインベンジルペニシリン(Penovet(登録商標)vet、300mg/mL;ベーリンガーインゲルハイムベトメディカ、インゲルハイム・アム・ライン、ドイツ)を20mg/kgBWの用量で術前にi.m.で与えた。麻酔導入後に、長期使用のための静脈カテーテル(Careflow(商標)、3Fr、200mm、BD、フランクリンレイクス、NJ、USA)をセルディンガーテクニックにより耳介静脈に挿入した。術後、カテーテルは、ストレスフリーの採血を促進した。1日1回、カテーテルにヘパリン添加生理食塩水100IE/mL(ヘパリンLEO、5000IE/mL;レオファーマ、バレルプ、デンマーク)を流した。麻酔を、酸素中に気化したイソフルラン(IsoFlo(登録商標)vet;オリオンファーマアニマルヘルス、ソーレントゥーナ、スウェーデン)で維持した。ブタは、継続的に晶質液(Ringer-acetat;フレゼニウスカービ、バート・ホムブルク、ドイツ)を用いる輸液療法を受けた。コロイド(Gelofusine(登録商標)40mg/mL;ブラウン、メルズンゲン、ドイツ)およびドブタミン(ドブタミンカリノ、250mg/mL;カリノファルム、エルゼ、ドイツ)を、血圧を基準値内に維持するために必要な場合与えた。麻酔の間、呼吸および循環器系パラメータを監視した。
【0099】
ドナー手順。最初の一連の実験(3+3のドナーおよび6+5のレシピエント)において、両方の腎臓を調達し、HTK灌流で同様に処置し(n=11)、氷上で一晩維持し、その後、腎臓の一方を、挿入前にPEG-リン脂質で60分間、無作為に処置し、一方で他方の腎臓を未処置のままにした。PEG-リン脂質の交互投与を、PEG-リン脂質を含むHTK灌流または標準のHTK灌流溶液のいずれかで処置した別の10の腎臓(5のドナーおよび10のレシピエント)に適用した。その手順後に、ドナーブタを、全身麻酔下でペントバルビタールナトリウム(Allfatal vet、100mg/mL;Omnidea AB、ストックホルム、スウェーデン)のi.v注射により安楽死させた。
【0100】
移植手術。レシピエントブタは、同種間単一腎臓移植を受けた。すべての手順を15~20cmの正中切開を通じて腹部内で実行し、右腸骨窩内の腸骨血管を確認し、穏やかに動かした。大静脈および腸骨動脈の末節(大動脈からのその出現から)を、周囲のリンパ節組織を封止して集めた。腎移植片をその後、腸骨血管の近傍で右腸骨窩に配置した。腎静脈および動脈を切り取り、続いて、ポリプロピレン製7/0連続縫合糸(PROLENE(登録商標)、エチコン、U.S.)を使用してレシピエントの右腸骨窩および遠位大静脈に端側吻合の様式で吻合した。尿管を管膀胱外尿管膀胱吻合術によって6-0ポリジオキサノン縫合糸(PDS(登録商標)、エチコン、US)により膀胱の頂部に移植した。その後、元の腎臓の両側腎出除術を実行した。正中切開を、連続2/0ポリグラクチン(VICRYL(登録商標)エチコン、US)帯状縫合糸および皮膚クリップにより閉じた。外科手術の平均期間は、3時間(2.5~5.5時間)であった。
【0101】
外科手術の終わりに向かって、イソフルラン投与を中断し、吸気酸素濃度を増加させ(FiO2 1.0)、人工呼吸器を止めてブタに自発呼吸を回復させた。ブタを、職員により容易に連続的に監視できる、集約的ケアケージに入れた。酸素供給を行い、心拍数、呼吸数、酸素飽和度および体温を、ブタの意識が戻るまで観察した。1日目の間、ブタに果実を手で与え、必要であれば、水を飲むのを支援した。ブタが立って歩くことも支援し、ブタは中殿筋、大腿二頭筋および大殿筋に数回マッサージを受けた。術後痛覚脱失のため、ブプレノルフィンを2日間i.v.で投与した。
【0102】
安楽死および剖検。レシピエントを、96時間後に過剰量のペントバルビタールナトリウム(Allfatal vet、100mg/mL;Omnidea AB、ストックホルム、スウェーデン)を用いて安楽死させた。組織学的検査のための腎生検を、死後検査直後に回収し、すべてのブタは、生体医科学獣医公衆衛生学科、病理部、SLUで死後検査を受けた。
【0103】
HTK溶液の前処置。別の実験のセットにおいて、4頭のブタにPEG-リン脂質処置腎臓を移植し、5頭のブタに、対照腎臓を移植した。この実験のセットにおいて、調達後に、腎臓を、2mg/mLのPEG-リン脂質を有する(処置された腎臓)か、PEG-リン脂質を有しない(対照腎臓)HTK(カストジオール;ケーラーケミーGmbH、ドイツ)溶液で灌流した。腎臓をまた、4℃で24時間2mg/mLのPEG-リン脂質を有するHTK溶液(処置された腎臓)またはPEG-リン脂質を有しないHTK溶液(対照腎臓)に浸漬して貯蔵した。
【0104】
C.腎臓内皮からのPEG-リン脂質の分離の評価のための長期モデル
腎臓をドナーブタから調達し、上述したような2週間の順化および訓練の後レシピエントブタに移植した。腎臓を、挿入前60分でPEG-リン脂質を受けた移植片と同じ手順を使用して処置した。内皮からの分離を測定するため、PEG-リン脂質を蛍光標識した。同じ麻酔および外科手術プロトコルを使用したが、元の腎臓を、レシピエント中に残した(n=4)。ブタを、それぞれ12時間、24時間、48時間および72時間後に安楽死させた。すべてのブタで剖検を行い、生検を組織学および蛍光のモニタリングのために収集した。
【0105】
採血
短期モデルにおいて、血液試料を、再灌流の開始後5分、15分、30分、60分、120分、240分および360分に左右の腎臓移植片静脈から得た。長期モデルにおいて、血液を、1時間、24時間、48時間、72時間および96時間後に得た。試料をEDTAバキュテイナチューブ(ベクトン・ディッキンソンAB、スウェーデン)に採取し、その直後、RTで15分間遠心分離した。収集した血漿を、さらなる分析のために-80℃で貯蔵した。
【0106】
TAT、C3aおよびsC5b-9のEIA
血漿中のTAT、C3a、およびsC5b-9を、以前説明した[7]ようにサンドイッチEIAにより測定した。簡潔に言うと、TATの評価のため、血漿試料を標準クエン酸リン酸デキストロース(CPD)血漿で1/100に希釈した。抗ヒトトロンビンモノクローナル抗体を捕捉のために使用し、HRP結合抗ヒトアンチトロンビン抗体(AT)を検出のために使用した(Enzyme Research Laboratories、サウスベンド、IN、USA)。標準品を、プールしたヒト血清を標準CPD血漿で希釈することにより調製した。値を、μg/Lで表した。C3aの評価のため、血漿を作業緩衝液(0.05%のTween20、10mg/mLのBSAおよび10mMのEDTAを含むPBS)で1/1000に希釈した。抗ヒトC3a mAb 4SD17.1を、C3aを捕捉するために使用し、ビオチン化ポリクローナルウサギ抗C3a抗体、その後HRP共役ストレプトアビジンを、血漿C3aの検出のために使用した。精製C3aに対して校正されたザイモサン活性化血清は、標準品として機能した。値を、ng/mLで表した。sC5b-9、血漿を作業緩衝液(上述)で1/50に希釈した。sC5b-9を、抗ヒトC5b-9 mAb(a9e)により捕捉し、抗ヒトC5ポリクローナルウサギ抗体(Dako)およびHRP共役抗ウサギIgG(Dako)により検出した。6×104AU/mLを含むザイモサン活性化血清を、標準品として使用した。値を、AU/mLで表した。
【0107】
組織学的解析
腎臓組織生検を、対照およびビオチン-PEG-リン脂質処置腎臓から再灌流後5分、60分および360分で採取した。PEG-リン脂質の検出のため、生検を液体窒素中ですぐに凍結し、さらなる分析まで-80℃で貯蔵した。ビオチン-PEG-リン脂質で処置した腎臓の凍結した断片(4μm厚)を、RTで10分間Alexa488-ストレプトアビジン(GEヘルスケア、1:500)中にてインキュベートした。その断片を、共焦点レーザー走査型顕微鏡(LSM510、META、カール・ツァイス、ドイツ)により分析した。ビオチン-PEG-リン脂質およびFITC-PEG-リン脂質(5kDa、40kDa)の両方を評価した。
【0108】
組織試料をまた、4%パラホルムアルデヒド溶液中で一晩固定し、パラフィンに埋め込まれるまで70%エタノール中で貯蔵した。パラフィン断片(5μm厚)をキシレン中で脱脂し、エタノールで再水和した。熱誘導抗原賦活を、クエン酸ナトリウム緩衝液中で2回、断片を沸騰させることにより実行した。一次抗体のインキュベーション前にヤギ血清でブロックした。スライスされた断片を、ヘマトキシリンおよびエオシン(HE染色)、ならびにC5aR(Acris Antibodies、ヘルフォルト、ドイツ)、C3b(Bioss Antibodies、ウォーバン、MA、USA)、C4d(アブカム、ケンブリッジ、UK)およびC5b-9(MAC;アブカム)などの補体マーカーのための抗体で染色した。対照実験として、IgGウサギ(Dako、グロストルプ、デンマーク)およびIgGマウス(アブカム)を使用した。一次抗体検出を、Dako real検出システムアルカリホスファターゼレッド(Dako)で実行し、続いてヘマトキシリンで対比染色した。スライドを、Zeiss Axio Imager A1顕微鏡を使用して可視化した。レンズは対物が10×であり、評価した視野は、800,000μm2であった。正方形領域を、Axio Visio(rel.4.8)ソフトウェア(Zeiss、イェーナ、ドイツ)を使用して免疫反応領域の強度および面積について定量した。結果を、平均濃度測定合計赤として表す。組織学的解析を、尿細管拡張および壊死、糸球体障害および空胞変性の検出のため、試料に対する病理学者の二重盲検により実行した。
【0109】
統計解析
結果を、平均±SEMとして表す。データプロットおよび統計解析を、マッキントッシュソフトウェアのためのPrismバージョン6(Graphpad、サンディエゴ、CA、USA)を使用して実行した。2群の平均間の差をウィルコクソンの対応あり検定を使用して統計的に評価し、一方で2つより多い群間の統計的有意性を、二元配置反復測定ANOVAに続く事後解析ボンフェローニ評価により分析した。群間の比較を、p<0.05の場合、有意であるとみなすが、それを超える値は、有意でない(ns)とみなした。
【0110】
結果
種々のPEG-リン脂質製剤の機能特性の比較
hMSCを各種のPEG-リン脂質製剤で処置した。hMSCの生存率は、PEG-リン脂質単独(97.3%)、FITC標識PEG-リン脂質(98.3%)およびビオチン標識PEG-リン脂質(97%)での表面修飾後でも変わらず、PEG-リン脂質が生存率に影響しないことを示唆した。
【0111】
異なる長さのPEGサブユニットを有するPEG-リン脂質の保持を、CCRF-CEM浮遊細胞を使用して試験した。細胞を、FITCと共役した1kDa、5kDaおよび40kDaのPEGサブユニットを有するPEG-リン脂質でコートした。細胞を37℃でインキュベートし、結合をフローサイトメトリーで監視した。全製剤の結合が、24時間後に90%失われたが、5kDa製剤が最も長い時間保持されたものであったことが示された(
図13)。
【0112】
TATレベルは、未コート細胞と比較してPEG-リン脂質コートされた細胞が全血に曝露される場合に有意に低下した。TAT生成におけるこの減少は、PEG-リン脂質コーティングがない対照(110±7.6)と比較した場合、PEG-リン脂質単独(61.5±2.9対110±7.6)、FITC標識PEG-リン脂質(60.1±2.7)またはビオチン標識PEG-リン脂質(61.4±5.1)のいずれかでコートされた細胞と類似であった(
図2A)。
【0113】
類似の傾向が、コートされた細胞および未コート細胞を全血に曝露した場合、補体活性化マーカーについて観察された。血液曝露後60分で、C3aおよびsC5b-9の血漿中濃度は、細胞がPEG-リン脂質(50.8±3.2、37.7±1.5)、FITC標識PEG-リン脂質(51.3±3.8、35.0±2.1)、およびビオチン標識PEG-リン脂質(49.8±4.1、38.3±2.0)でコートされた場合、未コートグ細胞(104±7.7、104±6.2)と比較して有意に低下した(
図2Aおよび
図2B)。
【0114】
PEG-リン脂質で処置したブタ腎臓におけるFITC標識リン脂質の分布
同種腎臓を、材料および方法において説明したように一括でレシピエント(n=6)に移植した。レシピエントにおける再灌流後の腎臓組織におけるPEG-リン脂質の分布を、5分、60分および360分で採取した生検で分析した。
図4に示すように、FITC標識PEG-リン脂質からの再灌流前の蛍光は、腎臓全体の尿細管周囲血管、糸球体および尿細管に均一に分布し、腎臓組織が、大動脈基部を通るPEG-リン脂質溶液の注射を介してPEG-リン脂質で均等に修飾されたことを反映した。対照的に、対照腎臓組織には蛍光がなく、試験腎臓と対照腎臓の間で顕著な漏出がなかったことを示唆した。
【0115】
5分、60分および360分での腎臓組織を比較した場合、FITC標識PEG-リン脂質処置された腎臓組織における特に糸球体、また尿細管周囲血管および尿細管の蛍光は、時間の経過とともに徐々に低下し、360分で管に結合したPEG-リン脂質が依然としていくらかあるにも関わらず、PEG-リン脂質が細胞から分離したことを示唆した。
【0116】
分離の評価の長期研究(C.腎臓内皮からのPEG-リン脂質の分離の評価のための長期モデル)において、24時間後には僅かな蛍光しか見られず、48時間後には蛍光が観察されず、全PEG-リン脂質が分離されたことを示す。エクスビボFITC標識PEG-リン脂質はまた、心臓血管の内皮に結合した。
【0117】
A.短期同種間移植モデル
移植された腎臓の免疫組織学的解析
移植された腎臓を、アルブミン漏出、補体沈着および受容体発現(C3a、sC5b-9、C4d、C3b;
図5A~
図5D)について免疫組織学により分析した。組織学的評価は、対照腎臓と比較してPEG-リン脂質処置された腎臓においてC3b/iC3bおよびC5b-9などの補体活性化マーカーの沈着の量ならびに補体受容体C5aRの発現が少ないことを明らかにした。灌流後のPEG-リン脂質処置された腎臓において5分でC3b/iC3b沈着における有意な低減があった。アルブミンまたは酸化ストレスマーカーHO-1、iNOSおよびニトロチロシンについて、それらのマーカーが対照腎臓と比較してPEG-リン脂質処置された腎臓においてより低いという傾向(ns)があった。したがって、組織学的ランク付けからの結果は、PEG-リン脂質による腎臓移植片の表面処置が補体活性化に対して保護すること、および酸化ストレスを抑制する傾向があることを支持する。
【0118】
凝固および補体活性化
短期ブタ一括同種間移植モデルにおける腎臓の再灌流後の血管自然免疫系に対するPEG-リン脂質処置の影響を評価するため、血液中の凝固活性化(TAT、
図6A)および補体活性化マーカー(C3a、sC5b-9、
図5Aおよび
図5B)を分析した。TAT量は、対照レシピエントと比較してPEG-リン脂質処置された腎臓を有するレシピエントの血液中でより低かった。PEG-リン脂質処置された腎臓対未コート対照でのTAT量における有意な低減は、5分(46.1±5.2対73±12.3、p:0.01)、15分(48±8.4対73±9、p:0.02)、30分(41±9.1対57±4.9、ns)、60分(32±4.8対58±3.7、p:0.02)、および120分(28.6±5.1対53±4、p:0.02)で観察されたが、再灌流後の240分後(32±4対49±6.1、ns)および360分後(29±9対41±14、ns)では観察されなかった。これらの結果は、凝固活性化が、腎臓移植後、表面修飾により有意に抑制されたことを示唆した。
【0119】
類似の結果が補体マーカー(C3aおよびsC5b-9)について観察された。対照レシピエントと比較してPEG-リン脂質処置された腎臓を移植したレシピエントの血液中でのC3a量における有意な低減が、5分後(40±2.8対63.6±5.4、p:0.03)、15分後(39±4対61±7.2、p:0.04)、60分後(41±5.2対68±5.1、p:0.01)、120分後(44±6.1対67±3.1、p:0.03)、240分後(45±12対93±3、p<0.0001)および360分後(45±12対80±16、p<0.001)にあったが、再灌流後の30分(39±5.8対54±5.9、ns)ではなかった。加えて、sC5b-9量における有意な低減も対照レシピエントと比較して観察された。処置された腎臓からの試料中のsC5b-9の生成は、対照と比較して5分後を除いてすべての時点で低減された。処置されたおよび対照の腎臓の再灌流後5分でのsC5b-9の血漿中濃度は、(16±6対31±5、p:0.2)、15分後(15±3対45±11、p:0.01)、30分後(16±4対45±3、p:0.01)、60分後(25±7対54±4、p:0.01)、120分後(36±12対64±9、p:0.01)、240分後(45±11対75±11、p:0.01)、および360分後(44±14対79±11、p=0.008)であった。したがって、これらの結果は、PEG-リン脂質を用いて内皮をコートすることにより、補体活性化が有意に抑制されたことを示した。
【0120】
腎機能
腎機能を、PEG-リン脂質処置ありおよびなしの腎臓移植後の利尿を評価することにより分析した(
図10A)。再灌流後360分で対照レシピエントと比較して、PEG-リン脂質処置された腎臓を有するレシピエントからの全尿生産において有意な増加があった(48.3±22.2mL対33.5±18.2mL、p<0.05)。しかし、レシピエントの腎臓が除去されなかったので、利尿時間または血清クレアチニンの濃度に関して群間に有意差はなかった。
【0121】
B.長期同種間移植モデル
凝固および補体活性化
長期ブタ同種間移植モデルにおいて腎臓の再灌流後の血管自然免疫系に対するPEG-リン脂質処置の影響を評価するため、血液中の補体活性化マーカー(C3a、sC5b-9、
図8Aおよび
図8B)および凝固活性化(TAT、
図8C)を分析した。TAT量は、対照レシピエントと比較してPEG-リン脂質処置された腎臓を有するレシピエントの血液中でより低かった。PEG-リン脂質処置された腎臓対コートされない対照におけるTAT量の有意な低減は、24時間(372±123対137±21、p<0.05)、48時間(365±82対152±17、p<0.05)、72時間(467±96対135±18、p<0.001)、および96(428.6±111対168±23、p<0.01)で観察されたが、再灌流後の1時間後(378±82対176±24、ns)では観察されなかった。これらの結果は、凝固活性化が腎臓移植後の表面修飾により有意に抑制されたことを示唆した。
【0122】
類似の結果が補体マーカー(C3aおよびsC5b-9)について観察された。対照レシピエントと比較してPEG-リン脂質処置された腎臓を移植されたレシピエントの血液中でのC3a量における有意な低減が、48時間後(119±40対67±9、p<0.001)、72時間後(95±13対63±10、p<0.01)にはあったが、再灌流後の1時間後(68±11対54±4、ns)、24時間分後(128±54対63±18、ns)または96時間後(103±21対74±8、ns)にはなかった。加えて、sC5b-9量における有意な低減もまた、対照レシピエントと比較して観察された。処置された腎臓からの試料中のsC5b-9の生成は、対照と比較して、5分後を除いてすべての時点で低減された。処置された腎臓および対照腎臓の再灌流後5分でのsC5b-9の血漿中濃度は、24時間分(73±29対33±16、p<0.05)、48時間(94±33対33±11、p<0.001)、72時間(126±46対41±18、p<0.0001)、および96(108±23対51±11、p<0.01)であったが、1時間後(63±11対33±16、ns)ではなかった。したがって、これらの結果は、補体活性化がPEG-リン脂質で内皮をコートすることにより有意に抑制されたことを示した。
【0123】
炎症性サイトカイン
長期同種間腎臓移植におけるサイトカイン/ケモカインの濃度を評価した。マルチプレックスアッセイを使用して、INFγ、IL-1β、IL-2、IL-1α、IL-1R、IL-4、IL-6、IL-10、IL-18、IL-8、IL-12、およびTNFの血漿中の濃度を評価した。
図9A~
図9Lを参照のこと。IL-1β、IL-1R、IL-4、IL-6、IL-12、IL-18およびTNFの量は、4日後に、PEG-脂質処置された腎臓を移植された動物において有意に低かった。
【0124】
腎機能
すべての動物は、移植後順調に回復し、24時間以内に食事を開始した。尿生産を、超音波検査で確認し、尿がすべてのブタにおいて72時間以内に膀胱で検出された。腎機能を、PEG-リン脂質処置ありおよびなしで腎臓移植後のクレアチン量を評価することにより分析した(
図10B)。全4日の期間にわたり対照レシピエントと比較してPEG-リン脂質処置された腎臓を有するレシピエントにおいて有意に低い量があった。
【0125】
剖検
腎臓移植に関連する変化以外の疾患の兆候は観察されなかった。死後検査を、病理部門、SLU、ウプサラで実行した。
【0126】
灌流後症候群
我々の長期生存ブタ研究において、PEG-リン脂質処置腎臓を移植された動物は、再灌流後の心拍数および動脈血圧の変化が最小であったか、変化がなかったことが示された。したがって、PEG-リン脂質生成物はまた、接触系の活性化および最終的にPRSを予防した。
図11を参照のこと。
【0127】
HTK溶液の前処置
図16Aおよび
図16Bは、4℃でPEG-リン脂質追加HTK溶液中24時間のブタ腎臓のインキュベーションの評価の結果を示す。TAT値を
図16Aに示し、血漿クレアチニン値を
図16Bに示す。HTK溶液のみおよびPEG-リン脂質処置なしの対照と比較して、PEG-リン脂質が追加されたHTK溶液中にブタ腎臓を維持すると、有意な改善があった。処置ブタ腎臓において見られる低血漿クレアチニン濃度は、追加の免疫抑制がなくても得られた。
【0128】
臓器貯蔵
+4℃での移植片の長期にわたる貯蔵と組み合わせてPEG-脂質を灌流液に溶解した場合、再灌流時、PEG-脂質処置された腎臓においてカスケード系活性化(
図17A~
図17D)およびサイトカインの発現量(
図18A~
図18G)が有意に低かった。
【0129】
FITC-PEG-リン脂質の組織学的分析
図19は、対照と一緒に、FITC-PEG-リン脂質(5kDa)およびFITC-PEG-リン脂質(40kDa)で処置された腎臓からの生検の共焦点顕微鏡画像を示す。これらの画像はしたがって、4つの異なるブタからの腎臓へのPEG-脂質のエクスビボ注入後の5kDaのPEG-脂質および40kDaのPEG-脂質の取り込みを示し、ここで1つの腎臓を、5kDaのPEG-脂質に使用し、残りを、40kDaのPEG-脂質に使用した。
図19に示すように、5kDaのPEG-脂質は、40kDaのPEG-脂質と比較して、より効果的に腎臓の柔組織に浸透した。したがって、40kDaのPEG-脂質分子は、5kDaのPEG-脂質分子ほど効果的にネフロンの糸球体を通して濾過されなかった。
【0130】
考察
多くの疾患および病的状態において、虚血は、病理変化を誘導する。原則として、4種のメカニズムが、組織に虚血を誘導する、つまり、血栓症、移植、動脈のクランピングが、臓器および敗血症をもたらす。IRIは、臓器移植中の回避不可能なイベントであるが、それはまた脳死、敗血症、心臓手術などの幅広い他の臨床的に関連のある状況でならびに脅迫的な心筋梗塞または脳卒中における虚血領域の再灌流後にも生じる。本実験において、我々は、短期および長期の両方のブタ同種間移植モデルにおける移植の前の、PEG-リン脂質構築物での内膜および尿細管システムのコーティングが、インビボでGXCを機能的に置き換えかつ初期I/R損傷応答を強く軽減することを示す。
【0131】
移植される腎臓は、ドナー中での期間~実際の移植イベントの種々の段階で虚血損傷に曝露される。死後ドナーは臓器提供の主な提供者としての役割を果たすので、死後ドナーにおける循環の血行動態の不安定性は、虚血の主な原因の1つである。温虚血は、死後ドナーからの臓器調達中に経験され、冷虚血損傷は、より低い温度で臓器保存中に生じる。レシピエントにおける臓器の再灌流は、I/R損傷を完了させる。
【0132】
これらの問題を克服するため、我々は、腎臓移植における自然免疫攻撃からの局所保護の新規方法を提示する。腎臓内皮および腎尿細管を、細胞脂質二重膜との疎水的相互作用によりPEG-リン脂質でコートし、それによりGXC層を置き換えた。PEG鎖は、不活性であり、高い生体適合性を提供する。したがって、PEG-リン脂質は単独で、内皮および尿細管細胞膜を遮蔽することにより、およびタンパク質が腎臓の内皮細胞表面に到達し活性化するのを妨害することにより、I/R損傷に対して保護する。
【0133】
レシピエントにおいてPEG-リン脂質処置された腎臓は、TAT、FXIIa、TF、C3aおよびsC5b-9の低下した血漿中濃度、ならびに腎臓移植片の内皮表面上へのC3bの沈着に反映されるように、低い免疫活性化を示した。このことは、脂質二重膜から突き出るPEG鎖が、補体活性化を阻害でき、かつレシピエントからの新鮮な血液の再灌流後に補体成分の沈着から細胞膜を保護できることを示した。それはまた、凝固活性化の抑制をもたらした。補体および凝固活性化は、I/Rの特性であり、補体マーカーの低下した量は、拒絶をもたらすI/R損傷に対する遮蔽効果の概念を確証する。
【0134】
短期研究において、移植を、腎機能および局所的な血液適合性の評価のために、最大6時間追跡した。PEG-リン脂質懸濁液が、2つの腎臓移植片の一般的な大動脈部分を介して注射された場合、糸球体を含む試験腎臓全体の組織は、PEG-リン脂質で等しくコートされた(
図4B、
図4D、
図4F)。腎臓移植片の肉眼形態は、変化せず、腎臓移植片のPEG-リン脂質での処置が、細胞生存率に対して有害作用がないことを示唆した。また、全尿生産を対照腎臓およびPEG-リン脂質処置された腎臓の間で比較した場合、利尿の有意な改善が試験腎臓で観察された。これらの結果は、腎臓内皮が自然免疫攻撃から保護されただけでなく、糸球体がPEG-リン脂質でコートされたにも関わらず、腎機能が充分に保存されたことを示唆する。生存および非生存の腎臓の間をエクスビボで識別するためのツールとしての虚血損傷後の形態学的変化および腎機能の間の確立された関連を考慮すると、我々の短期観察研究は、腎機能に対するあらゆる有害作用なしにI/R攻撃を軽減するためのPEG-リン脂質コーティングの有効性を示す。
【0135】
結合が疎水的相互作用により介在されるので、PEG-リン脂質の効果は、細胞表面に限定される。腎臓に結合したPEG-リン脂質の蛍光の監視から、短期および長期モデルの両方において、観察期間中に強度における低下があったことが示され、PEG-リン脂質が内皮から分離したことを示唆した。蛍光は、糸球体から尿細管系に移動し、最終的に移植後6時間で尿細管細胞の基部に到達するように見えた。蛍光は、観察期間中、尿中に認められ、これはPEG-リン脂質分子が腎臓により代謝されたことを支持する。長期研究において、かなりの蛍光が、再灌流後12~24時間まで検出され、48時間後に完全に失われた。初期にはPEG-リン脂質の過剰飽和があり、これは容易に洗い流され、および内皮細胞の実際の保護が、僅かな蛍光のみを与える分子により実行される可能性がある。これは、血液中のTAT、C3a、およびsC5b-9の量ならびに腎臓移植片中のC3b沈着における有意な差により示唆されるように、自然免疫攻撃に対する保護効果と組み合わせて、移植後の6時間後の短期研究における比較的低いPEG-リン脂質蛍光により確証される。これはまた、内皮表面に挿入されたPEG-リン脂質のより低い密度が観察されたにも関わらず72時間までの長期研究において有効性が維持されたことによっても支持される。そのため、PEG-リン脂質の長期安定性は、充分である。
【0136】
この短期研究は、血栓炎症を直接抑制することによりI/R損傷イベントを軽減するソリティアPEG-リン脂質コーティングの有効性の概念実証を提供する。PEG-リン脂質は、細胞に結合した自然免疫の調節因子のためのリンクおよびスペーサとして機能するように開発された。官能化PEG-リン脂質分子は、補体活性化、接触系活性化および血小板の活性化などの種々の自然免疫および血栓反応を軽減するのに非常に効果的である。例えば、因子Hに親和性を有するペプチドは、補体活性化を阻害し、アピラーゼは、血小板活性化に関連する血栓反応を低減できる。これらの2つの調節因子の組み合わせは、ブタ大動脈内皮細胞が全血インビボシステムにおいてヒト血液と接触するようになる場合、異種システムにおいて誘発される血栓炎症を全体的に阻害できる。PEG-リン脂質単独による大きな影響を考慮すると、PEG-リン脂質への調節因子の添加は、同種間腎臓移植においてI/R損傷を阻害することに関して構築物をさらに改善する。
【0137】
自然免疫の一部である接触系の活性化は、再灌流後の心血管障害および血行動態の不安定性などの深刻な術中合併症を引き起こす可能性がある。再灌流後症候群(PRS)として以前に説明されているこの現象は、肝臓移植片の再灌流後に重度の血行動態の不安定性を経験した肝臓移植レシピエントにおいて最初に観察された。しかし、この現象はまた、再灌流後の瞬間的な血行動態の不安定性に頻繁に悩まされている腎臓および膵臓移植レシピエントにおいても観察される。PRSの間に、血漿タンパク質因子XII、プレカリクレインおよび高分子量キニノーゲンが活性化され、凝固カスケードの開始および血行動態の不安定性を引き起こす非常に強力な血管拡張剤であるブラジキニンの生産をもたらす。したがって、全身動脈圧の急速な低下は、移植片灌流障害および移植片の温虚血の延長をもたらす。これらの患者は、臓器移植後臓器機能障害、拒絶の増加した危険性および早期の移植片機能損失に悩まされる可能性がある。健康な個体において、増加した心拍数は、血圧における低下を部分的に補うことができる。
【0138】
我々の長期生存ブタ研究において、PEG-リン脂質処置された腎臓を移植された動物は、再灌流後に心拍数および動脈血圧の変化が最小であったか、変化がなかったことが示された。したがって、PEG-リン脂質生成物はまた、接触系の活性化および最終的にPRSを予防した。
【0139】
異なる長期実験間の差は、前者の実験における移植片が、灌流液に浸漬されることなく+4℃で24時間、冷蔵庫で貯蔵されたこと、ならびにPEG-リン脂質が腎臓の移植前40分に血管系に灌流により投与されたことであった。後者の実験において、移植片は、調達後すぐにPEG-リン脂質で灌流され、その後移植および再灌流まで+4℃で24時間、灌流液に溶解したPEG-リン脂質中に浸漬された。すでに最初の研究において、PEG-リン脂質処置された動物において有意に低いカスケード系活性化(
図8A~
図8C)およびサイトカイン発現(
図9A~
図9L)があった。しかし、第2の研究において、カスケード系活性化(
図17A~
図17D)およびサイトカイン発現(
図18A~
図18G)は、最初の研究と比較してさらに低く、加えて、PEG-リン脂質処置は、カスケード系活性化(
図17A~
図17D)およびサイトカイン発現(
図18A~18G)の有意な低減をもたらした。したがって、本実験は、灌流液およびPEG-リン脂質の組み合わせが、優れた組み合わせであったことを明らかに示した。この実験において、サイトカイン発現がPEG-リン脂質処置移植片(
図18A~
図18G)の移植片の再灌流直後に明らかに低かったことも示され、抗炎症効果が、おそらく上述した虚血中のCL-11に対する阻害効果のために、再灌流前の冷虚血期間中にすでに誘導されたことを示唆する。
【0140】
実験2
実験の目的は、ラットにおけるリン脂質(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-ホスファチジルエタノールアミン、DPPE)と共役したPEGの安全性評価である。化合物の単一用量を、静脈内に投与し、14日の回収期間が続いた。臨床現場において、PEG(MW:5.0kDa)/リン脂質化合物2gを、レシピエントでの挿入の前に、臓器移植片にエクスビボで常に投与される灌流溶液1000mLで希釈する。低用量群のラットに、同じ濃度を、高用量群のラットに、その濃度の10倍をそれぞれ与えた。
【0141】
研究デザイン
両方の性別のスプラーグドーリーラット30匹を、チャールズ・リバーから購入し、ウプサラに輸送した。実験を、全体で4週間実行し、2週間の順化期間で開始し、その後、動物に無作為順序でNaCl、低用量または高用量のPEG-リン脂質のいずれかを注射した(1日目)。注射を側尾静脈で行った。ラットをその後、急性毒性の兆候についての神経機能および運動機能の延長臨床試験を含むアーウィン観察試験を使用して、6時間それらのケージ中で繰り返し観察した。観察者は、処置について知らされなかった。週5日の臨床試験をその後、2週間継続した。研究の最後に、血液を、終末麻酔下での心臓穿刺により採取した。安楽死後に、すべての動物をすぐに剖検に供した(15日目)。
【0142】
第1群:NaCl1mLを受けた10匹の対照動物(5匹のメス、5匹のオス)
第2群:2mg/mLのPEG-リン脂質1mLを受けた10匹のラット(5匹のメス、5匹のオス)
第3群:20mg/mLのPEG-リン脂質1mLを受けた10匹のラット(5匹のメス、5匹のオス)
【0143】
臨床観察
研究全体にわたり、すべての動物を週5日で検査し取り扱った。ラットをケージから取り出し、一度に1匹または2匹で1枚の合成フリースに載せた。週3回、すべてのラットを、クライミング、水浴びおよび調査のために、一度にラット5匹で大きい遊び場に入れた。陽性強化を、取り扱い直後にコーンフレークの形状で使用した。ラットは、動物施設への到着時におよび物質の注入前に徹底的な臨床試験を受けた。注射直後に、ラットを、設定時間間隔で6時間、毒性の兆候について観察した。ラットをその後、経験豊富な獣医により、定期的に検査した。疾患または毒性の臨床徴候は、順化および実験期間中、すべての動物において観察されなかった。
【0144】
体重
すべての動物の体重を、静脈注射の前およびその後、研究の残りの期間、週2回で記録した。動物の体重増加は、3つの群で同じ規模であった。
【0145】
眼科的検査
すべての動物は、PEG-リン脂質の注射前1週間、および注射後1週間に生体顕微鏡(KOWA-SL17)および検眼鏡検査(Heine Omega 500)による眼科的検査を受けた。ラットは、検査前にMydriacyl(登録商標)(トロピカミド)点眼薬、0.5%、5mg/mLを受けた。ラットを、手順の間ずっと、穏やかな手動の拘束で保持した。
【0146】
毒性の兆候は、眼科的検査により観察されなかった。物質の投与前に、1匹のメスラットは、右眼に角膜混濁があり、2匹のメスラットは、レンズに核性の混濁があり、1匹は両眼に、他方は右眼のみにあった。眼科学的変化は、1匹のメスにおける軽い上皮の刺激を除いて、物質の投与後に見られなかった。2匹のオスラットは、物質の注射前に角膜変性症があり、1匹は両側に、他の1匹は、右の角膜のみにあった。1匹のオスは、レンズの核欠陥があり、別の1匹は白内障であった。左眼における硝子体出血が、1匹のオスラットで確認できた。物質の投与後、変化をオスのラットで確認できず、出血は再吸収された。
【0147】
臨床病理
研究の終わりに、血液をすべての動物から心臓穿刺により採取し、血液1mLをEDTA-およびLi-ヘパリンチューブに分割した。3000rpmで10分間の遠心分離後、血漿を収集し、臨床生化学の分析まで-20℃で貯蔵した。EDTA血液をすぐに、アドヴィア2120シーメンスヘルスケアインスツルメントを用いて血液学について、およびArchitect c4000、アボット・ラボラトリーズを用いて血漿について、ユーザマニュアルおよびSOPにしたがい臨床病理学科、SLU、ウプサラで分析した。分析を、げっ歯類について検証する。以下の血液学的検査:B-血小板(B-TPK)、B-赤血球(B-EPK)、B-ヘモグロビン(B-Hb)、B-平均血球体積(B-MCV)、B-平均赤血球ヘモグロビン濃度(B-MCHC)、ery-網赤血球、赤血球分布幅(RDW)、平均赤血球ヘモグロビン(MCH)、平均血小板体積(MPV)、ery-形態、B-白血球(B-LPK)、B-好中球、B-好酸球、B-好塩基球、B-リンパ球、B-単球、がなされ、臨床生化学のために以下の測定:ナトリウム、カリウム、グルコース、総コレステロール、尿、クレアチニン、総タンパク質およびアルブミン、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)および胆汁酸、を実行した。可能な場合、以下の尿の分析:pH、タンパク質、グルコースおよび血液、を実行した。
【0148】
すべての血液および血漿分析からの結果は、8~16週齢のスプラーグドーリーラットの基準範囲内であった。5つの尿試料において、血液が検出された。
【0149】
病理
すべての動物を、イソフルランおよび酸素麻酔下での瀉血により15日目に、予定された剖検のために安楽死させた。体重を、安楽死後に記録し、肉眼的病理を実行した。すべての動物において巨視的異常は認められなかった。
【0150】
結論
眼科的研究を含む臨床検査は、低用量、高用量および対照群の動物のいずれにおいても毒性のあらゆる兆候を明らかにしなかった。血液学的分析および生化学的分析は、すべて基準範囲内であり、巨視的異常は、すべての動物において剖検時に認められなかった。静脈内に投与されたPEG-リン脂質が、最大で20mg/mLの濃度でラットにおいて充分耐性があると結論づけることができる。
【0151】
実験3
ガリウム-68(68Ga)は、半減期が68分の陽電子放出体であり、陽電子放出断層撮影(PET)/コンピュータ断層撮影(CT)において診断用放射性核種として一般に使用される。放射標識PEG-リン脂質分子、68Ga-NO2A-PEG-リン脂質を、二段階合成で生産した。
【0152】
緩衝液および原液の調製
68Ga-溶出のための塩酸(HCl)0.1M。濃HCl(9.00mL、d=1.17g×mL-1、11.23M、微量金属分析用の32~35%Ultrapure NORMATOM)を水(1000mL、サーモフィッシャー、超微量分析用)に添加し、混合し、直接水フラスコ中で暗所にて4℃で貯蔵した。アリコートを、発生剤溶出前にプラスチックフラスコ(ナルゲン高密度ポリエチレン低金属樹脂、サーモフィッシャー)中、RTで維持した。
【0153】
無金属水。脱イオン水を、浄水器(MillieQ)からガラスフラスコ中に得た。アリコートをプラスチック容器に移し、金属イオンを除去するためにChelex-100上で貯蔵した。
【0154】
DMSOおよび水中のNO2A-アジド1.0M溶液。1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-ビス(酢酸)-7-(3-アジドプロピルアセトアミド)三塩酸塩(NO2A-アジド、Macrocyclics、式量494.8g/mol)(1.0mg、2.0μmol)をエッペンドルフチューブ(2mL)に添加した。固体を最初にジメチルスルホキシド(DMSO、50μL)に溶解し、均質な1.0M溶液が得られるまで、無金属水(1950μL)を非常にゆっくりと滴下で希釈した。
【0155】
酢酸ナトリウム1.0M緩衝液pH3.5。無金属水を緩衝液の調製におけるすべての工程で使用した。酢酸ナトリウム(8.203g、0.100mol、99.995%微量金属ベース、TraceSELECT)を、プラスチックボトル(ナルゲン、HDPE低金属樹脂)中で水(100mL)に溶解し、pHを、プラスチックピペットを使用して濃酢酸(≧99%、微量分析用TraceSELECT)の添加により4.5、4.0または3.5に調節した。最終体積は、塩および酸の添加のため100mL超であり、したがって、最終溶液のモル濃度は、1.0M未満であった。約5mLの緩衝液のアリコートを順次取り出し、pHを、校正したpHメーター(メトラー・トレド)で測定した。アリコートを、pHプローブからのあらゆる金属汚染を回避するために、pH測定後に廃棄した。最終緩衝液をChelex 100上で貯蔵し、さらなる使用の前に0.5μmシリンジフィルタに通して濾過した。
【0156】
水酸化ナトリウム1.0M溶液。水酸化ナトリウム溶液(100μL、10M、生物学エキストラグレード、シグマアルドリッチ)を、エッペンドルフチューブ中にて無金属水(900μL)で希釈した。
【0157】
68Ga-発生剤の溶出
68Gaを、10mLプラスチックシリンジおよび電動シリンジドライバ(Univentor 864、Malta)を使用して、0.1M HCl(5.0mL、約0.8mL/分)で68Ga/68Ge-発生剤(50mCi発生剤、オブニンスク、ロシア)から溶出した。得られる溶液をエッペンドルフチューブに分画して小容量および高放射能濃度を得た。
【0158】
画分1:時間0~45秒、600μl、0MBq-廃棄
画分2:時間45~1分15秒、400μl、212MBq-標識用に維持
画分3:時間1分15秒~6分15秒、4000μl、281MBq-廃棄
【0159】
HPLC法
手動インジェクタ(Rehodyne 7225i、20μLループサイズ)、光ケーブルと接続した接続した外部分析用UVフローセル(2μL)を有する(UV検出器(4D LWL、Knauer)を備えたLaPrepシグマHPLCシステム(日立)、およびUV検出器の後に順に取り付けられた拡張範囲モジュールFC6106(エッカート・アンド・チーグラー)およびPMT/NaIウェル検出器FC-3300(エッカート・アンド・チーグラー)を備えた放射能検出器(Flow Count、Bioscan)。分析される放射性物質の粘着性のため、無線検出器内のプラスチックループよりもステンレス鋼ループが好ましかった。HPLC装置を、OpenLAB(アジレント)を使用してソフトウエア制御し、結果を、同じソフトウエアを使用して分析した。
【0160】
イオンチャンバ(VDC 202、Veenstra Instruments、使用した68Ga用の校正係数は751であった)。
【0161】
方法A:逆相C18カラムYMC-Pack ODS-AL、AL12S05-1046WT、AL-301、(YMC Europe GmbH)100×4.6mm(I.D)、5μm、120A。溶媒A:水および0.1%TFA、溶媒B:アセトニトリルおよび0.1%TFA。溶媒グラジェントは、5分かけて5~70%のB、その後3分間70%のB。流速1.0ml・min-1。
【0162】
方法B:サイズ排除クロマトグラフィ、カラム:Superdex(商標)Peptide10/300GL、GEヘルスケア。イソクラティック溶離30%B。流速0.80mL・min-1。
【0163】
[68Ga]NO2A-アジドの合成
水酸化ナトリウム1.0M(40μL、40μmol)および酢酸ナトリウム緩衝液0.10M(25μL、pH3.5)をエッペンドルフチューブ(2mL)で混合し、0.1M HCl(400μL)中の
68Ga(179MBq)に添加した。その後、NO2A-アジド溶液(10μL、体積によるDMSO/純水混合物(1/39)中で1.0M)を添加し(総反応体積250μL)、バイアルをボルテックスし、遠心分離し、ヒートブロック中で15分間、80℃に加熱して
68Ga標識NO2A-アジドを形成した。
図14を参照のこと。粗反応混合物を、ラジオ-HPLC法A、波長λ=215nm、t
R:信号なし(UV)、3.7分(ラジオ)を使用して分析し、さらなる精製なしで後続の反応に使用した。ラジオ-HPLC、方法Bを使用して、クリック反応での未反応1の参照を有した、t
R:信号なし(UV)t
R:25.7分(ラジオ)。
【0164】
DBCO-PEG-脂質の合成
Mal-PEG-脂質(20mg)を、RTで1時間PBS(1mL)中でシステイン(2mg)と反応させ、スピンカラム(タンパク質脱塩スピンカラム、サーモフィッシャーサイエンティフィック)により精製して、凍結乾燥後にCys-PEG-脂質を得た。その後、Cys-PEG-脂質(PBS中10mg)を、RTで1時間DMSO(1mL)中でDBCO-C6-NHSエステル(6mg、クリクケミストリーツールズLLC)と反応させた。純水10mLの添加後に、沈殿を濾過(孔径:0.2μm、Millex(登録商標)-GV、メルクミリポア社)により除去し、続いて真空で乾燥させて、DBCO-PEG-脂質(5mg)を得た。標識効率DBCOは、DBCOのUV吸収から算出して80%であった。
【0165】
68Ga-NO2A-PEG-脂質の合成
DBCO-PEG-脂質(2.0mg、333nmol脂質、75%DBCO官能化、250nmol DBCO)およびPBS(50μL)をエッペンドルフチューブ(2mL)に加えた。遠心分離を使用して、すべての物質をバイアルの底に移動させた。続いて、予め調製した[68Ga]NO2A-アジド溶液(116MBq、9.0nmol)からの450μLを添加した。反応混合物中の最終DBCO/アジド比は、モル比で1/28であった。反応をRTで10分間放置し、その後、ヒートブロック中で10分間、60℃に加熱した。
【0166】
反応混合物の450μLをNAP-5カラム(PBS5mLで予め平衡化したSephadex(登録商標)G-25DNAグレードカラム、カットオフ5kDa、GEヘルスケア)に移し、これをPBSで200μL画分に溶出した。
図15を参照して、所望の生成物
68Ga-NO2A-PEG-脂質を、画分2~4(35.0MBq、添加された[
68Ga]NO2A-アジドの量に基づくクリック反応での32%の減衰補正放射化学的収率、溶出
68Gaの全量に基づく7%の非減衰補正放射化学的収率)に溶出し、サイズ排除クロマトグラフィカラム(Superdex(商標)ペプチド10/300GL、GE)を備えたラジオ-HPLCで分析した、波長λ=254nm、t
R:21.5分、>92%の放射化学的純度。主な不純物は、未反応の[
68Ga]NO2A-アジド(5%)、t
R:25.7分であった。
【0167】
実験4
ブタ腎臓におけるPEG-リン脂質構築物の分布を追跡するために、および腎臓に分布されるPEG-リン脂質の量を推定するために、インビボ研究からの結果に基づいてPET/磁気共鳴画像(MRI)検査を実行した。
【0168】
68Ga-NO2A-PEG-脂質(PBS中)を、使用直前に非標識MeO-PEG-脂質(HTK溶液中)と混合した(68Ga-NO2A-PEG-脂質/MeO-PEG-脂質=1/4のモル比、[PEG-脂質]=2.0mg/mL)。
【0169】
血液を冷PBSでブタ腎臓から洗い流し、その後、腎臓に4℃でHTK溶液を流し、HTK溶液で満たされたプラスチック袋に一晩入れた。68Ga-NO2A-PEG-脂質の溶液(2mg/mL、HTK中、20mL、少なくとも10MBq)を、注射器によりブタ腎臓の動脈を通じて慎重に注射し、氷上で30分間インキュベートした。腎臓を冷HTK溶液(50mL)で洗浄した後、処置腎臓をPET/MRI装置(nanoScan(登録商標)、メディゾ・メディカル・イメージング・システムズ、ブダペスト、ハンガリー)のステージに載せた。ステージは、小動物PET/3T MRI前臨床スキャナのラージラット用であった。MRスカウトスキャン(GRE Multi-FOV)を使用して、PETでの全腎臓スキャン用のベッド位置を設定した。静的PET試験、複数ベッドスキャンを40分間実行した。MRI測定を、ブタ腎臓送受信コイルの全体を使用して3Tで実行した。グラジェントエコー(GRE MultiFOV)シーケンスを、以下のパラメータ:励起回数(NEX):2;繰り返し時間(TR):396ms;エコー時間(TE):4.15ms;フリップ:45;スライス:180;スライス厚:1mm;視野(FOV):64×64mm2;空間分解能:0.5×0.5mm2;収集時間:14分で収集した。リストモードPETデータを、Tera tomo 3Dアルゴリズム(4反復、ボクセルサイズ:0.40mm、マトリクス:212×212×582)を使用して再構築した。
【0170】
PETおよびMRI画像を、PMOD(バージョン3.510;PMODテクノロジーズ社)を使用して分析した。関心対象物の体積を、腎臓全体および周囲の髄質領域を含むように、融合PET-MR画像上に手動で描いた。腎臓の残りのトレーサ分布を、腎臓全体および周囲の髄質領域からの値を減じることにより推定した。
【0171】
各組織における取り込みを、MBq、注射時に補正された減衰で表した。注射された放射能の量およびすべての洗浄工程からの静脈からの流出物を、ドーズキャリブレータ(VDC-405、Veenstra Instrumenten、オランダ)中で測定し、減衰を注射時に補正した。すべての測定を、RTで実行した。PET/MRIおよびガンマカウンターによる最初の測定の後で、腎臓を再度冷HTK溶液(50mL)で洗浄し、その後、腎臓を第2の測定のためにPEG/MRI装置のステージに載せた。
【0172】
結果
ブタ腎臓を、ブタレシピエントへの腎臓移植と同様の方法で68Ga-NO2A-PEG-脂質で処置し、その後PET/MRI撮像に供した。注射および動脈を通る洗い流しによる68Ga-NO2A-PEG-脂質での腎臓の処置後に、撮像を、68Ga-NO2A-PEG-脂質の分布を評価するために実行した。68Ga-NO2A-PEG-脂質のシグナルは、腎臓全体にわたって分布しており、またより高いシグナルが、皮質領域(19%)と比較して髄質の領域(81%)で特に検出された。同じ腎臓を、HTK溶液でのさらなる洗浄後の90分で再撮像した場合、撮像結果は、ほとんど同じであった。68Ga-NO2A-PEG-脂質のシグナルは、依然として腎臓全体にわたって分布しており、より高いシグナルが、皮質領域(7%)と比較して髄質領域(93%)で検出された。これらの結果は、腎臓内のすべての組織および血管が、注射により68Ga-NO2A-PEG-脂質でコートされ、かつ髄質中の組織および血管が、68Ga-NO2A-PEG-脂質で充分に修飾されたことを示した。
【0173】
上述した実施形態は、本発明の数個の例示的な例として理解されるべきである。本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に対して種々の修正、組み合わせおよび変更がなされ得ることは、当業者により理解される。特に、異なる実施形態における異なる部分解決策は、技術的に可能である他の構成において組み合わせることができる。しかし、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定義される。
【0174】
参考文献
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[4]Nilsson et al., Autoregulation of thromboinflammation on biomaterial surfaces by a multicomponent therapeutic coating. Biomaterials. 2013, 34(4):985-994.
[5]Engberg et al., Inhibition of complement activation on a model biomaterial surface by streptococcal M protein-derived peptides. Biomaterials. 2009, 30(13):2653-2659.
[6]Teramura and Iwata, Surface Modification of Islets With PEG-Lipid for Improvement of Graft Survival in Intraportal Transplantation. Transplantation. 2009, 88(5):624-630.
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