(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】放射性同位体をキレート化し、PSMA受容体を標的とする特異的分子で修飾された表面を有するポリマーナノ粒子を調製するプロセスおよびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 51/08 20060101AFI20240404BHJP
A61K 51/06 20060101ALI20240404BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20240404BHJP
A61K 51/12 20060101ALI20240404BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240404BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A61K51/08 100
A61K51/08 200
A61K51/06 100
A61K51/06 200
A61K51/04 100
A61K51/04 200
A61K51/12 100
A61K51/12 200
A61P35/04
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2022504739
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 IB2019052218
(87)【国際公開番号】W WO2020188318
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】521435075
【氏名又は名称】ナノティア エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】コーチ,トマシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヤンチェヴィスカ,マグダレナ
(72)【発明者】
【氏名】ピクス,グジェゴジェ
(72)【発明者】
【氏名】コピラ,コンスタンシア
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/220488(WO,A1)
【文献】WASIAK, I. et al.,PLOS ONE,2016年,Vol. 11, No. 1, Article No. e0146237,pp. 1-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 51/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性同位体をキレート化し、癌細胞表面上のPSMA受容体を標的とする特異的分子で修飾されたその表面を有するポリマーナノ粒子を調製するためのプロセスであって、
a)デキストラン鎖が、過ヨウ素酸によってポリアルデヒドに酸化される段階、
b)リンカー分子によって修飾された、標的剤であるグルタミン酸とリシンとのα,α-尿素が、前記デキストラン鎖に存在する遊離アルデヒド基に結合する段階、
c)疎水性ジアミンまたはポリアミンの形態のフォールディング剤が、アルデヒド基に結合する前記フォールディング剤の1つまたは2つのアミノ基で結合する段階、
d)結果として生じるイミン結合が、アミン結合に還元される段階、
e)前記結合したフォールディング剤の遊離アミノ基に、キレート剤分子が、アミド結合を介して結合する段階、
f)結果として生じる混合物が、精製される段階、
g)ナノ粒子画分が、凍結乾燥に供される段階
を含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
段階f)からの前記混合物が、透析によって精製される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
PSMA受容体が存在する細胞が、前立腺癌細胞および転移性前立腺癌細胞である、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
PSMA受容体が存在する細胞が、乳癌細胞、肺癌細胞、結腸癌細胞、および膵臓癌細胞である、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記標的剤によるアルデヒド基の置換が、1~50%である、請求項1~4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
前記標的剤によるアルデヒド基の置換が、2.5~5%である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記キレート剤が、DOTA、DTPA、および/またはNOTAの誘導体である、請求項1~6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記リンカーが、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル 2,2-ジメチル-4-オキソ-3,8,11,14,17,20-ヘキサオキサ-5-アザトリコサ-23-エート(PEG
5)である、請求項1~7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
ドデシルアミン類、ジアミノオクタン類、ジアミノデカン類(DAD)、ポリエーテルジアミン類、ポリプロピレンジアミン類、およびブロックコポリマージアミン類などの脂溶性ジアミン類が、フォールディング剤として使用される、請求項1~8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
得られた前記ナノ粒子が、好ましくは、崩壊経路がベータプラス崩壊、ベータマイナス崩壊、ガンマ放出体崩壊を伴う同位体によって、放射化学的に標識される、請求項1~9のいずれかに記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の主題は、腫瘍細胞の表面上に存在するPSMA受容体への標的剤が結合した、放射性同位体の持続性かつ安定なキレート化が可能なポリマーナノ粒子の調製のためのプロセスである。記載された粒子は、前立腺癌細胞、転移性前立腺癌細胞、および局所療法(標的密封小線源療法)の治療法および診断法に主に使用される。
【背景技術】
【0002】
米国癌協会のデータによれば、約1410万例の癌および約820万例の癌による死亡が、2012年に世界全体で記録された。2015年には、1,658,370例の新規癌症例が米国で認められると予測され、このうち220,800例が前立腺癌を表す。それらの症例のうち589,430例(35.5%)は、死亡に至ると予測され、それらのうち27,540例は前立腺癌によって引き起こされる。推定では、2030年には、約2170万例の新規癌症例が認められ、そのうち約1300万例は死亡に至ることが示されている。上記の値は、正の出生率、およびますます強まり一般化する人口の高齢化に起因する。それらの予測は、文明およびライフスタイルに関連する決定要因(喫煙、悪い食生活、運動不足)のため、増え続けるであろう。
【0003】
前立腺癌の診断法は、明確に定められている。現在使用されている、超音波画像法およびMRIのハイブリッド法は、前立腺内の著しく病変した部位の確定的な同定をますます可能とする。この結果、その後の、依然として代替法がない生検は、より正確になる。しかしながら、転移性細胞の治療法は、いまだ現代医学の課題である。現在知られている、放射性同位体を使用する解決策は、3つのサブグループ:(i)キレート化された放射性同位体を有する標的分子によって導かれるコンジュゲート(prostascint(登録商標))、(ii)標的要素として代謝変化を使用する小分子(axumin(登録商標))、または(iii)骨組織、すなわち、転移性前立腺癌細胞の最好発部位への放射性同位体の自然蓄積を使用する、遊離同位体混合物(xofigo(登録商標))に分けることができる。
【0004】
コンジュゲートは、3つの構成要素:キレート剤(通常、二官能性キレート剤)、リンカー、および標的分子(アプタマー、オリゴペプチド、抗体、代謝拮抗剤)からなる化合物である。
【0005】
代謝拮抗剤および小分子(グルコース)は、腫瘍によってより大きい程度に吸収および使用される。この作用機序により、様々な種類の癌の普遍的な標的化が可能となる。この群の化合物は、FDG(フッ素18標識グルコース)およびAxumin(登録商標)(フッ素18標識フルシクロビン)、またはC-コリン(炭素11コリン)などのマーカーに使用される。記載の製品に共通する特有の特徴は、炭素化合物骨格の不可欠な部分である放射性同位体である。しかしながら、これは、「ホット」合成および放射性医薬品の迅速な輸送の必要性を伴う。
【0006】
放射性同位体の骨細胞への自然な生物学的親和性、およびそれらの骨組織に蓄積する傾向のため、非結合放射性同位体の溶液の形態で患者に投与される放射性医薬品が市販されている。そのような製剤の適用は、主に、転移性前立腺癌の患者の治療において正しいと認められる。Bayer社のXofigo(登録商標)は、そのような製剤の例であり得る。遊離同位体を投与することは、放射の活性が非特異的であることを意味する。それは、骨組織にある前立腺転移性細胞、ならびに骨格の適切な機能に不可欠な骨形成および骨吸収細胞の両方に影響を及ぼす。
【0007】
ナノ粒子に基づく治療法は、癌細胞によって高度に発現される表面受容体を認識することによって、1つの薬剤が前立腺癌のための薬物および造影剤を供給し得るため、有益な解決策である。前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、前立腺癌ヒト細胞株LNCaPで初めて検出されたII型膜貫通糖タンパク質である。利用可能な知識によれば、前立腺癌細胞の膜は、健康な前立腺細胞の10倍超のPSMA受容体を有する[The Prostate 2004, 58, 200-210.]
【0008】
PSMA発現は、通常、前立腺癌が進行および転移するにつれて増加し、特に、より侵襲性型の疾患の場合、画像化および癌の処置と共に有効な癌細胞の標的化のための完全な標的を提供する。過去20年間で、ホスホン酸類、リン酸類、およびホスホロアミデート(phosphoamidates)、ならびにチオール類および尿素などの、多くの低分子PSMA阻害剤が試験されてきた。さらに、高いPSMAレベルが、乳房、肺、結腸、および膵臓を含む、他の固形腫瘍系に関連する癌の内皮細胞で同定された。
【0009】
癌の処置における標的療法は、前臨床試験および臨床試験の両方で活発になっている領域である。ナノ粒子を使用する癌細胞への薬物の特異的送達は、ナノ粒子から腫瘍微小環境への治療薬の細胞外放出(受動輸送)、またはエンドサイトーシスによる細胞内薬物放出(能動輸送)のいずれかによって起こり得る。
【0010】
薬物ナノ粒子に別の物質を結合させることを含む能動的標的療法を使用することは、非常に有益であると思われ、癌細胞の膜受容体へのそのような物質の親和性は極めて高く、薬物と癌細胞との結合および薬物の取り込みを著しく増加させる(Moghimiら、2001)。これによって、特定の癌の種類に特徴的な受容体に適合する正しいリガンドを発見することが重要となる。
【0011】
発明の目的
発明の目的は、放射性同位体を、前立腺癌細胞、転移性前立腺癌細胞、およびPSMA受容体の過剰発現が確認されている任意の癌に運ぶ、特異的に標的化されたポリマーナノ粒子を提供することである。
【0012】
発明の目的は、PSMA受容体を標的とする特異的分子で修飾された表面を有するナノ粒子の調製のためのプロセスを提供することである。発明の別の目的は、治療法(局所密封小線源療法)およびPET、PET/MR診断法に使用され得る、特異的に標的化されたナノ粒子を提供することである。
【発明の概要】
【0013】
発明の主題は、放射性同位体をキレート化し、癌細胞表面上のPSMA受容体を標的とする特異的分子で修飾されたその表面を有するポリマーナノ粒子を調製するためのプロセスである。発明は、特許請求された方法に従って得られるナノ粒子およびその使用も対象とする。
【0014】
放射性同位体をキレート化し、癌細胞表面上のPSMA受容体を標的とする特異的分子で修飾されたその表面を有するポリマーナノ粒子を調製するためのプロセスは、
a)デキストラン鎖が、過ヨウ素酸によってポリアルデヒドに酸化される段階、
b)リンカー分子によって修飾された標的剤が、デキストラン鎖に存在する遊離アルデヒド基に結合する段階、
c)疎水性または親水性アミン、ジアミン、またはポリアミンの形態のフォールディング剤が、アルデヒド基に結合するフォールディング剤の1つまたは2つのアミノ基で結合する段階、
d)結果として生じるイミン結合が、アミン結合に還元される段階、
e)結合したフォールディング剤の遊離アミノ基に、キレート剤分子が、アミド結合を介して結合する段階、
f)結果として生じる混合物が、精製される段階、
g)ナノ粒子画分が、凍結乾燥に供される段階
のいくつかの段階を含む。
【0015】
好ましくは、段階(f)からの混合物は、透析によって精製される。
【0016】
好ましくは、PSMA受容体が存在する細胞は、前立腺癌細胞および転移性前立腺癌細胞である。
【0017】
また好ましくは、PSMA受容体が存在する細胞は、乳癌細胞、肺癌細胞、結腸癌細胞、および膵臓癌細胞である。
【0018】
発明のプロセスによれば、標的剤によるアルデヒド基置換レベルは、1~50%、好ましくは2.5~5%である。
【0019】
キレート剤として、DOTA、DTPA、および/またはNOTAの誘導体が使用される。
【0020】
標的剤として、グルタミン酸とリシンとのα,α-尿素が使用される。
【0021】
リンカーとして、好ましくは、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル 2,2-ジメチル-4-オキソ-3,8,11,14,17,20-ヘキサオキサ-5-アザトリコサ-23-エート(PEG5)が使用される。
【0022】
フォールディング剤として、ドデシルアミン類、ジアミノオクタン類、ジアミノデカン類(DAD)、ポリエーテルジアミン類、ポリプロピレンジアミン類、およびブロックコポリマージアミン類などの、疎水性または親水性アミン類、ジアミン類、またはポリアミン類が使用される。
【0023】
発明のプロセスによれば、結果として生じるナノ粒子は、放射化学的に標識される。好ましくは、ナノ粒子は、Cu-64、Ga-68、Ga-67、It-90、In-111、Lu-177、Ak-227、およびGd(MR用)などの、崩壊経路がベータプラス崩壊、ベータマイナス崩壊、ガンマ放出体を含む同位体で標識される。
【0024】
発明はまた、診断法および治療法に使用するための、上記プロセスによって得られるような、PSMA受容体を標的とする特異的分子で修飾された表面を有する、放射性同位体をキレート化するポリマーナノ粒子も含む。
【0025】
発明は、陽電子放射断層撮影(PET)、ハイブリッド陽電子放射断層撮影/磁気共鳴(PET/MRI)を使用した診断法における、放射性同位体をキレート化するポリマーナノ粒子の使用を含む。
【0026】
発明は、局所密封小線源療法における、放射性同位体をキレート化するポリマーナノ粒子の使用も対象とする。
【0027】
さらに、発明は、前立腺癌細胞および転移性前立腺癌細胞ならびにナノ粒子が親和性を示す残存病変細胞の治療法および診断法における、放射性同位体をキレート化するポリマーナノ粒子の使用を含む。
【0028】
発明のナノ粒子は、デキストラン、ヒアルロン酸、セルロース、およびその誘導体のようなポリマーを使用して得られ得る。ポリマーは、天然形態、およびアルデヒド基またはカルボキシル基に酸化された後の両方で使用される。ナノ粒子の合成は、イミンの形成およびそれに続くそれらの還元、ならびにカルボキシル基のエステルによって行われる。
【0029】
フォールディング剤として、疎水性または親水性アミン類、ジアミン類、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、または短いブロック-ブロックポリマーが使用され、1つまたは2つのアミン基が反応を起こし得る。
【0030】
標的剤として、グルタミン酸とリシンとのα,α-尿素、すなわちGlu-CO-Lys(GuL)が使用され、以下の式を有する。
【化1】
【0031】
2つのアミノ酸の尿素誘導体であるこの小分子化合物は、PSMA受容体に高い親和性を有する。それは、アミノ酸との水素結合、およびタンパク質内部の活性中心の亜鉛原子との配位結合を形成する。結果として、受容体に強く結合し、エンドサイトーシスによって細胞に侵入する複合体を形成する。GuLは、第一級アミノ基で選択的に修飾され得る化合物であり、その粒子の生体共役反応に多くの可能性を開く。
【0032】
標的分子(GuL)が結合するリンカー分子は、受容体タンパク質の構造により選択および適用された。オリゴペプチド誘導体を含むω-アミノ酸誘導体が、リンカーとして使用され、アミノ基は、tert-ブチルオキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルカルボニル基(Fmoc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、ベンジル基(Bn)、トリフェニルメチル基(Tr)のような基で保護され、一方、カルボニル基は、遊離酸(カルボキシル基)またはエステルとして生じる。使用されたリンカーの全体の構造式は、以下の図で示され、
【化2】
式中、RおよびR’は、以下の構造を有し得る:
【表1】
【0033】
標的剤が親和性を示す受容体のタンパク質構造により、以下の種類のリンカーを使用する:
【表2】
【0034】
以下に示されるように、nが5(PEG
5)またはnが4(PEG
4)のポリエチレンオキシド(PEG)を含有するリンカーを使用することが特に好ましい。
【表3】
【0035】
発明のナノ粒子は、水性環境中で、ポリマー鎖の化学修飾、続いて自己組織化による動的ミセル構造の形成によって得られる。
【0036】
初期段階で、デキストラン鎖は、ポリアルデヒドデキストラン(PAD)に酸化される。
【化3】
【0037】
デキストランは、過ヨウ素酸を使用して酸化されてアルデヒド基を形成する。アルデヒド基は、ポリマー鎖が破壊されることなく形成される。
【0038】
酸化プロセスで形成されたアルデヒド基の定量は、加えられる標的剤およびフォールディング剤の量の適切な計算に必要である。製剤は、プロセス再現性、およびその後の一連の調製されるナノ粒子間の類似性を確保するために、パーセント比率を保存して調製される。アルデヒド基の数は、200~800μmol/1g PAD、好ましくは300~600μmol/1g PADである。
【0039】
標的剤をナノ粒子に結合する前に、標的剤をリンカーと結合する。トリエステルの形態で反応に使用されるGlu-CO-Lys(GuL)は、リンカーとの架橋による修飾を受けて、そのアミン分岐を伸ばす。プロセスのこの段階は、阻害剤、すなわちPSMA受容体活性部位のポケットに正確にアクセスする標的分子を提供する。同時に、阻害剤は、ナノ粒子との結合後、その表面上に適切に露出する。
【0040】
次の段階は、ポリアルデヒドデキストラン(PAD)のアルデヒド基に、先に調製された、すでにリンカーに結合している標的剤(GuL)を結合させることを含み、イミノ化反応は、シッフ塩基の形成をもたらす。その後、脂溶性ジアミンの形態のフォールディング剤が、PADアルデヒド基に結合し、さらなるイミン結合の形成をもたらす。
【0041】
形成されたイミン結合は、水素化ホウ素エタノール溶液を使用して還元される。それは、水素化ホウ素またはシアノ水素化ホウ素ナトリウムまたはカリウムであり得る。続いて、キレート剤分子を、デキストラン鎖に結合したジアミンに由来する遊離アミン基に結合する。キレート剤分子は、アミンと、キレート剤分子のNHSエステル(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)との共役を介して結合する。
【0042】
標識化の準備ができた生成物を調製する重要な段階は、透析による製剤の精製である。
【0043】
透析は、水または適切な緩衝液で、12~72時間、好ましくは24~48時間、頻繁に液交換して行われる。外液対精製される試料の体積比は、20:1~200:1、好ましくは100:1である。キレート剤分子の結合後、反応後混合物を、pH5.0の酢酸緩衝液に対して精製し、葉酸(FA)分子の結合後、混合物を、pH7.4のリン酸緩衝液に対して精製する。
【0044】
次いで、精製されたナノ粒子を凍結乾燥に供し、これによってナノ粒子は乾燥フォームの形態で少なくとも3ヶ月間貯蔵することが可能となる。水と再結合させた後、ナノ粒子は、標的緩衝液中で穏やかに撹拌すると、約20分以内に再組織化する。
【0045】
最終ナノ粒子調製段階は、放射化学的標識化を含み得る。
【0046】
発明によるナノ粒子は、崩壊経路がベータプラス崩壊、ベータマイナス崩壊、ガンマ放出体崩壊を含む同位体で標識される。それらは、Cu-64、Ga-68、Ga-67、It-90、In-111、Lu-177、Ak-227、およびGd(MRI用)のような同位体である。これにより、発明は治療目的および診断目的の両方にとって有用となる。診断法は、様々な利用可能な方法:PET、SCEPT、MRI、およびそれらのハイブリッド、例えばPET/MRIを使用してもよい。
【0047】
そのような調製されたナノ粒子の画像診断法での使用は、処置の進行を監視する可能性と共に早期の癌検出および同時の標的治療により、前立腺癌または転移性前立腺癌に罹患している患者を完治させる可能性を高める。
【0048】
発明を説明する記載に含まれている図面は、以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】アルデヒド基がGuL標的剤で10%(BCS 0277)、30%(BCS 0290)、および2.5% BCS 0319)置換されたナノ粒子、ならびに置換されていないナノ粒子(ナノ粒子を含まない対照)の、様々な濃度、すなわち16μg、4μg、1.6μg、0.4μg、0.16μgのナノ粒子溶液を分析に使用した、PSMA受容体酵素活性阻害の蛍光アッセイ。
【
図2】リンカーを含まないGuLを有するナノ粒子(408)、およびリンカーを含むGuLを有するナノ粒子(277)による、様々な量、すなわち、8000ng、800ng、80ng、および8ngの標的剤でのPSMA阻害の蛍光アッセイ。
【発明を実施するための形態】
【0050】
発明の目的は、以下に記載される好ましい実施形態で説明される。
【0051】
実施例1
アルデヒド基がGuL標的剤で10%置換され、DADフォールディング剤で90%置換されたナノ粒子(BCS277)の調製
1.1.デキストランのポリアルデヒドデキストラン(PAD)への酸化
デキストラン酸化反応:
デキストラン5.00gを、超純水100mlに溶解した。過ヨウ素酸ナトリウム0.66gを加えた。酸化反応を、室温の暗所で一晩継続した。生成物を、100倍の体積の超純水で、水を少なくとも2回交換して、72時間の透析によって精製した。水を、40℃での留去によって除去した。
【0052】
PAD中のアルデヒド基の定量:
0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、およびPAD 20~100μlを、2mlチューブに加え、次いで、超純水(0~80μl)を加えて総体積500μlとした。アッセイを、3つの異なるPAD体積(20、60、および100μl)について行った。対照試料を調製した:0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、および超純水100μlを、チューブに加えた。試料を混合し、95℃で15分間インキュベートし、次いで、室温で5分間インキュベートした。0.05%TNBS溶液500μlを、試料ごとに加えた。試料を混合し、室温の暗所で60分間インキュベートした。インキュベーションの完了後、試料の吸光度を500nmの波長で測定した。超純水200μlと混合したpH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μlを、ブランク試料として使用した。これらの定量に基づいて、アルデヒド基含有量は480.3μmol/1g PADであると決定された。
【0053】
1.2.Glu-CO-Lys(OBu
t)
3NH
2とリンカーPEG
5との反応
【化4】
リンカー(化合物1)10.40mg(0.0205mmol)を、無水塩化メチレン0.5mlに溶解した。その後、tert-ブチルトリエステルの形態のグルタミン酸とリシンとのα,α-尿素(化合物2)10.00mg(0.0205mmol)、およびDIPEA 4μlを加えた。反応を、室温で24時間行った。その後、TFA 150μlを加え、それから24時間にわたって室温で撹拌を継続した。溶媒を留去し、油状残渣を超純水0.5mlに溶解し、次いで、5M水酸化ナトリウム溶液で、万能指示薬紙によってpH>11となるようにアルカリ化した。このように調製したリンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、精製することなく合成の次の段階に使用した。
【0054】
1.3.標的剤Glu-CO-Lysが結合したデキストランナノ粒子の形成
【化5】
PAD 427mg(205.1μmolのCHOを含有する)を、超純水4.3mlに溶解して10%(w/v)溶液を得た。リンカー修飾Glu-CO-Lys(化合物5)の水溶液を、この混合物に加えた。このように調製した反応混合物に、0.5M NaOH溶液を使用してpHを11.00にし、混合物を30℃で60分間撹拌し、修飾されたポリアルデヒドデキストラン(化合物6)を得た。その後、1,10-ジアミノデカン二塩酸塩の2%(w/v)超純水溶液2.27mlを加え、このように得られた反応混合物を、pHを制御し、20分ごとにpHを10に調整しながら、30℃で10分間撹拌した。反応終了後、0.5M HCl溶液を使用して、pHを7.4にした。その後、水素化ホウ素ナトリウムの1%(w/v)エタノール溶液1.60mlを加えた。還元反応を、37℃で60分間行った。反応終了後、0.5M HCl溶液で、pHを7.4にした。最終生成物8を、100倍の体積の超純水で、水を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子から凍結乾燥によって除去した。
【0055】
1.4.GuL標的剤を含有するナノ粒子へのDOTAキレート剤の結合
【化6】
ナノ粒子の凍結乾燥物(化合物8)100mgを、pH8.0の0.1Mリン酸緩衝液2.0mlに溶解した。その後、キレート剤18.5mgを含有する、DOTA-NHSの超純水懸濁液0.5mlを加えた。このように調製した反応混合物を、室温で90分間撹拌した。生成物を、100倍の体積のpH5.0の10mM酢酸緩衝溶液で、緩衝溶液を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子(化合物9)から凍結乾燥によって除去した。
【0056】
実施例2
アルデヒド基がGuL標的剤で30%置換され、DADフォールディング剤で70%置換されたナノ粒子(BCS290)の調製
2.1.デキストランのポリアルデヒドデキストラン(PAD)への酸化
デキストラン酸化反応:
デキストラン5.00gを、超純水100mlに溶解した。過ヨウ素酸ナトリウム0.66gを加えた。酸化反応を、室温の暗所で一晩継続した。生成物を、100倍の体積の超純水で、水を少なくとも2回交換して、72時間の透析によって精製した。水を、40℃での留去によって除去した。
【0057】
PAD中のアルデヒド基の定量:
0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、およびPAD 20~100μlを、2mlチューブに加え、次いで、超純水(0~80μl)を加えて総体積500μlとした。アッセイを、3つの異なるPAD体積(20、60、および100μl)について行った。対照試料を調製した:0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、および超純水100μlを、チューブに加えた。試料を混合し、95℃で15分間インキュベートし、次いで、室温で5分間インキュベートした。0.05%TNBS溶液500μlを、試料ごとに加えた。試料を混合し、室温の暗所で60分間インキュベートした。インキュベーションの完了後、試料の吸光度を500nmの波長で測定した。超純水200μlと混合したpH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μlを、ブランク試料として使用した。そのようなアッセイにより、アルデヒド基含有量は508.1μmol/1g PADであると決定された。
【0058】
2.2.Glu-CO-Lys(OBu
t)
3NH
2とリンカーPEG
5との反応
【化7】
リンカー(化合物1)15.50mg(0.0307mmol)を、無水塩化メチレン0.75mlに溶解した。その後、tert-ブチルトリエステルの形態のグルタミン酸とリシンとのα,α-尿素(化合物2)15.00mg(0.0307mmol)、およびDIPEA 6μlを加えた。反応を、室温で24時間行った。その後、TFA 234μlを加え、それから24時間にわたって室温で撹拌を継続した。溶媒を留去し、油状残渣を超純水0.75mlに溶解し、次いで、5M水酸化ナトリウム溶液を使用して、万能指示薬紙によってpH>11となるようにアルカリ化した。このように調製したリンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、精製することなく合成の次の段階に使用した。
【0059】
2.3.標的剤GuLが結合したデキストランナノ粒子の形成
【化8】
(101.6μmolのCHOを含有する)PAD 200mgを、超純水2.0mlに溶解して10%(w/v)溶液を得た。リンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、その混合物に加えた。このように調製した反応混合物に、0.5M NaOH溶液を使用してpHを11.00にし、混合物を30℃で60分間撹拌し、修飾されたポリアルデヒドデキストラン(化合物6)を得た。その後、1,10-ジアミノデカン二塩酸塩の2%(w/v)超純水溶液0.87mlを加え、このように得られた反応混合物を、pHを制御し、20分ごとにpHを10に調整しながら、30℃で10分間撹拌した。反応終了後、0.5M HCl溶液を使用して、pHを7.4にした。その後、水素化ホウ素ナトリウムの1%(w/v)エタノール溶液0.88mlを加えた。還元反応を、37℃で60分間行った。反応終了後、0.5M HCl溶液を使用して、pHを7.4にした。最終生成物8を、100倍の体積の超純水で、水を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子から凍結乾燥によって除去した。
【0060】
2.4.GuL標的剤を含有するナノ粒子へのDOTAキレート剤の結合
【化9】
ナノ粒子の凍結乾燥物(化合物8)100mgを、pH8.0の0.1Mリン酸緩衝液2.0mlに溶解した。その後、キレート剤18.5mgを含有する、DOTA-NHSの超純水懸濁液0.5mlを加えた。このように調製した反応混合物を、室温で90分間撹拌した。生成物を、100倍の体積のpH5.0の10mM酢酸緩衝液で、緩衝溶液を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子(化合物9)から凍結乾燥によって除去した。
【0061】
実施例3
アルデヒド基がGuL標的剤で5%置換され、DADフォールディング剤で95%置換されたナノ粒子(BCS 318)を得る
3.1.デキストランのポリアルデヒドデキストラン(PAD)への酸化
デキストラン酸化反応:
デキストラン5.00gを、超純水100mlに溶解した。過ヨウ素酸ナトリウム0.66gを加えた。酸化反応を、室温の暗所で一晩継続した。生成物を、100倍の体積の超純水で、水を少なくとも2回交換して、72時間の透析によって精製した。水を、40℃での留去によって除去した。
【0062】
PAD中のアルデヒド基の定量:
0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、およびPAD 20~100μlを、2mlチューブに加え、次いで、超純水(0~80μl)を加えて総体積500μlとした。アッセイを、3つの異なるPAD体積(20、60、および100μl)について行った。対照試料を調製した:0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、および超純水100μlを、チューブに加えた。試料を混合し、95℃で15分間インキュベートし、次いで、室温で5分間インキュベートした。0.05%TNBS溶液500μlを、試料ごとに加えた。試料を混合し、暗所で、室温で60分間インキュベートした。インキュベーションの完了後、試料の吸光度を500nmの波長で測定した。超純水200μlと混合したpH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μlを、ブランク試料として使用した。そのようなアッセイにより、アルデヒド基含有量は480.3μmol/1g PADであると決定された。
【0063】
3.2.Glu-CO-Lys(OBu
t)
3NH
2とリンカーPEG
5との反応
【化10】
リンカー(化合物1)10.40mg(0.0205mmol)を、無水塩化メチレン0.5mlに溶解した。その後、tert-ブチルトリエステルの形態のグルタミン酸とリシンとのα,α-尿素(化合物2)10.00mg(0.0205mmol)、およびDIPEA 4μlを加えた。反応を、室温で24時間行った。その後、TFA 150μlを加え、それから24時間にわたって室温で混合を継続した。溶媒を留去し、油状残渣を超純水0.5mlに溶解し、次いで、5M水酸化ナトリウム溶液を使用して、万能指示薬紙によってpH>11となるようにアルカリ化した。このように調製したリンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、精製することなく合成の次の段階に使用した。
【0064】
3.3.標的剤Glu-CO-Lysが結合したデキストランナノ粒子の形成
【化11】
(410.2μmolのCHOを含む)PAD 854mgを、超純水8.54mlに溶解して10%(w/v)溶液を得た。リンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、その混合物に加えた。このように調製した反応混合物に、0.5M NaOH溶液を使用して11.00のpHを確立し、混合物を30℃で60分間撹拌し、修飾されたポリアルデヒドデキストラン(化合物6)を得た。その後、1,10-ジアミノデカン二塩酸塩の2%(w/v)超純水溶液4.78mlを加え、このように得られた反応混合物を、pHを制御し、20分ごとにpHを10に調整しながら、30℃で10分間撹拌した。反応終了後、0.5M HCl溶液を使用して、pHを7.4にした。その後、水素化ホウ素ナトリウムの1%(w/v)エタノール溶液3.18mlを加えた。還元反応を、37℃で60分間行った。反応終了後、0.5M HCl溶液で、pHを7.4にした。最終生成物8を、100倍の体積の超純水で、水を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子から凍結乾燥によって除去した。
【0065】
3.4.GuL標的剤を含有するナノ粒子へのDOTAキレート剤の結合
【化12】
ナノ粒子の凍結乾燥物(化合物8)100mgを、pH8.0の0.1Mリン酸緩衝液2.0mlに溶解した。その後、キレート剤18.5mgを含有する、DOTA-NHSの超純水懸濁液0.5mlを加えた。このように調製した反応混合物を、室温で90分間撹拌した。生成物を、100倍の体積のpH5.0の10mM酢酸緩衝液で、緩衝溶液を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子(化合物9)から凍結乾燥によって除去した。
【0066】
実施例4
アルデヒド基がGuL標的剤で2.5%置換され、DADフォールディング剤で97.5%置換されたナノ粒子(BCS 319)を得る
4.1.デキストランのポリアルデヒドデキストラン(PAD)への酸化
デキストラン酸化反応:
デキストラン5.00gを、超純水100mlに溶解した。過ヨウ素酸ナトリウム0.66gを加えた。酸化反応を、室温の暗所で一晩継続した。生成物を、100倍の体積の超純水で、水を少なくとも2回交換して、72時間の透析によって精製した。水を、40℃での留去によって除去した。
【0067】
PAD中のアルデヒド基の定量:
0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、およびPAD 20~100μlを、2mlチューブに加え、次いで、超純水(0~80μl)を加えて総体積500μlとした。アッセイを、3つの異なるPAD体積(20、60、および100μl)について行った。対照試料を調製した:0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、および超純水100μlを、チューブに加えた。試料を混合し、95℃で15分間インキュベートし、次いで、室温で5分間インキュベートした。0.05%TNBS溶液500μlを、試料ごとに加えた。試料を混合し、暗所で、室温で60分間インキュベートした。インキュベーションの完了後、試料の吸光度を500nmの波長で測定した。超純水200μlと混合したpH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μlを、ブランク試料として使用した。そのようなアッセイにより、アルデヒド基含有量は480.3μmol/1g PADであると決定された。
【0068】
4.2.Glu-CO-Lys(OBu
t)
3NH
2とリンカーPEG
5との反応
【化13】
リンカー(化合物1)5.20mg(0.01025mmol)を、無水塩化メチレン0.25mlに溶解した。その後、tert-ブチルトリエステルの形態のグルタミン酸とリシンとのα,α-尿素(化合物2)5.00mg(0.01025mmol)、およびDIPEA 2μlを加えた。反応を、室温で24時間行った。その後、TFA 75μlを加え、それから24時間にわたって室温で混合を継続した。溶媒を留去し、油状残渣を超純水0.25mlに溶解し、次いで、5M水酸化ナトリウム溶液を使用して、万能指示薬紙によってpH>11となるようにアルカリ化した。このように調製したリンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、精製することなく合成の次の段階に使用した。
【0069】
4.3.標的剤Glu-CO-Lysが結合したデキストランナノ粒子の形成
【化14】
(410.2μmolのCHOを含有する)PAD 854mgを、超純水8.54mlに溶解して10%(w/v)溶液を得た。リンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、その混合物に加えた。そのように調製した反応混合物に、0.5M NaOH溶液を使用して11.00のpHを確立し、混合物を30℃で60分間撹拌し、修飾されたポリアルデヒドデキストラン(化合物6)を得た。その後、1,10-ジアミノデカン二塩酸塩の2%(w/v)超純水溶液4.90mlを加え、このように得られた反応混合物を、pHを制御し、20分ごとにpHを10に調整しながら、30℃で10分間撹拌した。反応終了後、0.5M HCl溶液を使用して、pHを7.4にした。その後、水素化ホウ素ナトリウムの1%(w/v)エタノール溶液3.14mlを加えた。還元反応を、37℃で60分間行った。反応終了後、0.5M HCl溶液を使用して、pHを7.4にした。最終生成物8を、100倍の体積の超純水で、水を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子から凍結乾燥によって除去した。
【0070】
4.4.GuL標的剤を含有するナノ粒子へのDOTAキレート剤の結合
【化15】
ナノ粒子の凍結乾燥物(化合物8)100mgを、pH8.0の0.1Mリン酸緩衝液2.0mlに溶解した。その後、キレート剤18.5mgを含有する、DOTA-NHSの超純水懸濁液0.5mlを加えた。このように調製した反応混合物を、室温で90分間撹拌した。生成物を、100倍の体積のpH5.0の10mM酢酸緩衝液で、緩衝溶液を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子(化合物9)から凍結乾燥によって除去した。
【0071】
実施例5
アルデヒド基がGuL標的剤で1%置換され、DADフォールディング剤で99%置換されたナノ粒子の生成
5.1.デキストランのポリアルデヒドデキストラン(PAD)への酸化
デキストラン酸化反応:
デキストラン5.00gを、超純水100mlに溶解した。過ヨウ素酸ナトリウム0.66gを加えた。酸化反応を、室温の暗所で一晩継続した。生成物を、100倍の体積の超純水で、水を少なくとも2回交換して、72時間の透析によって精製した。水を、40℃での留去によって除去した。
【0072】
PAD中のアルデヒド基の定量:
0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、およびPAD 20~100μlを、2mlチューブに加え、次いで、超純水(0~80μl)を加えて総体積500μlとした。アッセイを、3つの異なるPAD体積(20、60、および100μl)について行った。対照試料を調製した:0.8mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液100μl、pH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μl、および超純水100μlを、チューブに加えた。試料を混合し、95℃で15分間インキュベートし、次いで、室温で5分間インキュベートした。0.05%TNBS溶液500μlを、試料ごとに加えた。試料を混合し、暗所で、室温で60分間インキュベートした。インキュベーションの完了後、試料の吸光度を500nmの波長で測定した。超純水200μlと混合したpH5.8の0.6M酢酸緩衝液300μlを、ブランク試料として使用した。そのようなアッセイにより、アルデヒド基含有量は480.3μmol/1g PADであると決定された。
【0073】
5.2.Glu-CO-Lys(OBu
t)
3NH
2とリンカーPEG
5との反応
【化16】
リンカー(化合物1)5.20mg(0.01025mmol)を、無水塩化メチレン0.25mlに溶解した。その後、tert-ブチルトリエステルの形態のグルタミン酸とリシンとのα,α-尿素(化合物2)5.00mg(0.01025mmol)、およびDIPEA 2μlを加えた。反応を、室温で24時間行った。その後、TFA 75μlを加え、それから24時間にわたって室温で混合を継続した。溶媒を留去し、油状残渣を超純水0.25mlに溶解し、次いで、5M水酸化ナトリウム溶液を使用して、万能指示薬紙によってpH>11となるようにアルカリ化した。このように調製したリンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、精製することなく合成の次の段階に使用した。
【0074】
5.3.標的剤Glu-CO-Lysが結合したデキストランナノ粒子の形成
【化17】
(1025.5μmolのCHOを含有する)PAD 2135mgを、超純水21.35mlに溶解して10%(w/v)溶液を得た。リンカー修飾GuL(化合物5)の水溶液を、その混合物に加えた。このように調製した反応混合物に、0.5M NaOH溶液を使用してpHを11.00にし、混合物を30℃で60分間撹拌し、修飾されたポリアルデヒドデキストラン(化合物6)を得た。その後、1,10-ジアミノデカン二塩酸塩の2%(w/v)超純水溶液12.45mlを加え、このように得られた反応混合物を、pHを制御し、20分ごとにpHを10に調整しながら、30℃で10分間撹拌した。反応終了後、0.5M HCl溶液を使用して、pHを7.4にした。その後、水素化ホウ素ナトリウムの1%(w/v)エタノール溶液8.84mlを加えた。還元反応を、37℃で60分間行った。反応終了後、0.5M HCl溶液を使用して、pHを7.4にした。最終生成物8を、100倍の体積の超純水で、水を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子から凍結乾燥によって除去した。
【0075】
5.4.GuL標的剤を含有するナノ粒子へのDOTAキレート剤の結合
【化18】
ナノ粒子の凍結乾燥物(化合物8)100mgを、pH8.0の0.1Mリン酸緩衝液2.0mlに溶解した。その後、キレート剤18.5mgを含有する、DOTA-NHSの超純水懸濁液0.5mlを加えた。このように調製した反応混合物を、室温で90分間撹拌した。生成物を、100倍の体積のpH5.0の10mM酢酸緩衝液で、緩衝溶液を6回交換して、48時間の透析によって精製した。水を、このように精製したナノ粒子(化合物9)から凍結乾燥によって除去した。
【0076】
実施例6
GuL標的剤が結合したナノ粒子によるPSMA受容体の阻害
リンカーに埋め込まれたGuL標的剤が結合したナノ粒子の、PSMA受容体に対する特異性試験を行った。酵素インビトロアッセイを行って、GuLによるPSMA活性部位の遮断によって起こるPSMA活性の低下を調べた。試験を、以下のナノ粒子:
-BCS 0277 - GuL標的剤でアルデヒド基を10%置換
-BCS 0290 - GuL標的剤でアルデヒド基を30%置換
-BCS 0319 - GuL標的剤でアルデヒド基を2.5%置換
について、様々な濃度、すなわち16μg、4μg、1.6μg、0.4μg、0.16μgのナノ粒子溶液を分析に使用して行った。
【0077】
結果を
図1に示し、酵素活性の低下を反映する蛍光の減少を示す。このように、GuL標的剤が結合したナノ粒子によるPSMA阻害が確立された。
【0078】
試験は、ナノ粒子の結合(GuL含有量)が多くなるほど、PSMA酵素活性を表す蛍光が減少することを示した。GuL標的剤によるアルデヒド基の30%、10%、および2.5%置換について、結合したGuL標的剤の量の増加を確認する傾向が観察された。同時に、様々な値のナノ粒子溶液濃度についての結果の分析は、示された方法が、GuL剤の定量、および阻害が生じるのに必要な最小ナノ粒子濃度の決定を可能とすることを示す。
【0079】
試験は、一旦ナノ粒子構造に結合すると、リンカー上に配置されたGuL標的剤が、前立腺癌細胞の表面上に存在するPSMA受容体に高い親和性を有することの証明において決定的である。
【0080】
実施例7
GuL標的剤を有するナノ粒子のPSMA受容体への親和性
リンカー上に配置されたGuL標的剤を有するナノ粒子を、PSMA受容体の高度の過剰発現を示すLNCaP細胞(前立腺癌細胞株)の表面へのその結合の程度の測定によって、PSMA受容体に対する親和性について試験した。ナノ粒子を、放射性ルテチウムで標識し、次いで、50μg/mlの濃度で、LNCaPとともにマルチウェルプレート上でインキュベートした。ナノ粒子の結合能および細胞への内部移行を、ガンマ線の測定によって決定した。方法は、高感度の測定によって特徴づけられる。
以下のナノ粒子の結果を示す:
-BCS 0290 - GuL標的剤でアルデヒド基を30%置換
-BCS 0318 - GuL標的剤でアルデヒド基を5%置換
-BCS 0319 - GuL標的剤でアルデヒド基を2.5%置換
表1に示す結果は、すべての試験されたナノ粒子が、高度のPSMA受容体過剰発現を示すことを示唆する。試験は、2.5%~5%のアルデヒド基がGuL標的剤で置換されたナノ粒子が、PSMA受容体に対して有意に高レベルの親和性を有することを示す。
【表4】
【0081】
実施例8
PSMA受容体へのナノ粒子結合の特異性に対する、GuL標的剤リンカーの重要性の試験
GuL標的剤は、リンカー-PEG
5(BocNH-PEG5-NHS)分子を介して結合し、PSMA受容体への標的剤のアクセスの増加を担う。リンカーなしでナノ粒子に結合したGuL分子と比較したナノ粒子の表面上のGuLリンカー分子の優位性を確認するために、試験を行った。
図2に示す結果は、リンカーを含まないGuLを有するナノ粒子(408)、およびリンカーを含むGuLを有するナノ粒子(277)による、様々な量、すなわち、8000ng、800ng、80ng、および8ngの標的剤でのPSMA阻害を示す。
【0082】
行われた試験に基づいて、蛍光の減少は、PSMA受容体タンパク質に対する、GuL標的剤でのナノ粒子の結合の程度を反映することが見出された。得られた結果は、リンカーに結合した標的剤によるナノ粒子の結合の特異性を確認する。それらはまた、リンカーを含む標的剤が、リンカーを含まない標的剤と比較すると、結合プロセスの効率、および受容体に関連する得られたナノ粒子の効力を高めることを示す。
【0083】
略称
DOTA - 1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸
DTPA - ペンテト酸
NOTA - 1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸
DOTA-NHS - 1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸とN-ヒドロキシスクシンイミドとのモノエステル
DOTA-ブチルアミン - 1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリス(酢酸)-10-(4-アミノブチル)アセトアミド
DOTA-マレイミド - 1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリス-酢酸-10-マレイミドエチルアセトアミド
DOTA-SCN - 2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリス-酢酸
PET - 陽電子放射断層撮影
PET/MRI - 陽電子放射断層撮影および磁気共鳴画像法
NHS - N-ヒドロキシスクシンイミド
スルホNHS - N-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム塩
PFP - ペンタフルオロフェノール
TFP - 2,3,5,6-テトラフルオロフェノール
STP - 2,3,5,6-テトラフルオロ-4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム塩
SCN - チオシアナート
PAD - ポリアルデヒドデキストラン
DAD - ジアミノデカン
DIPEA - ジイソプロピルエチルアミン
TFA - トリフルオロ酢酸
GuLまたはGlu-CO-Lys - グルタミン酸とリシンとのα,α-尿素
Glu-CO-Lys(OBut)3NH2 - tert-ブチルトリエステルの形態のグルタミン酸とリシンとのα,α-尿素