(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】間仕切壁と床版の接続構造とその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/82 20060101AFI20240404BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
E04B2/82 501K
E04B2/82 501T
E04B2/82 511J
E04B1/94 L
(21)【出願番号】P 2022508038
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2020037445
(87)【国際公開番号】W WO2021186770
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2020049538
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大内 渉
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0296789(US,A1)
【文献】特開2010-071021(JP,A)
【文献】特開2005-273328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/82
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪穴区画と、該竪穴区画に隣接して床版の上下にある上階室及び下階室と、を隔てる上方の第一間仕切壁及び下方の第二間仕切壁が、前記床版に接続されている、間仕切壁と床版の接続構造であって、
前記床版の上方には、前記第一間仕切壁を形成する第一スタッドの下端が収容される下ランナーが設置され、
前記床版の下方には、前記第二間仕切壁を形成する第二スタッドの上端が収容される上ランナーが設置されており、
前記竪穴区画において、前記第一スタッドから前記第二スタッドに跨って延設する第一壁材が、第一敷目板を介して前記第一スタッドに固定され、かつ第二敷目板を介して前記第二スタッドに固定されており、
前記上階室を形成する第二壁材と、前記第一スタッドと、前記下ランナーと、前記第一壁材は前記第一間仕切壁を形成し、
前記下階室を形成する第三壁材と、前記第二スタッドと、前記上ランナーと、前記第一壁材は前記第二間仕切壁を形成
し、
前記下ランナーと前記上ランナーがそれぞれ、前記床版における竪穴区画側の端面よりも上階室側と下階室側に、前記第一敷目板と前記第二敷目板の厚み分だけセットバックしている、間仕切壁と床版の接続構造。
【請求項2】
前記下ランナーは前記床版に対して固定部材により固定され、
前記上ランナーはランナー受け材に対して固定部材により固定され、該ランナー受け材が前記床版に直接的もしくは間接的に固定されている、請求項
1に記載の間仕切壁と床版の接続構造。
【請求項3】
前記床版が床梁に支持されており、
前記床梁に前記ランナー受け材が固定され、該ランナー受け材に前記上ランナーが固定されている、請求項
2に記載の間仕切壁と床版の接続構造。
【請求項4】
前記床版における竪穴区画側の端面と、前記第一壁材との間に、耐火材が配設されている、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の間仕切壁と床版の接続構造。
【請求項5】
前記第一壁材と、前記第二壁材と、前記第三壁材がいずれも、下張り材と上張り材が壁厚方向に積層した積層構造を有している、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の間仕切壁と床版の接続構造。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の間仕切壁と床版の接続構造を有する、建物。
【請求項7】
竪穴区画と、該竪穴区画に隣接して床版の上下にある上階室及び下階室と、を隔てる上方の第一間仕切壁及び下方の第二間仕切壁が、前記床版に接続されている、間仕切壁と床版の接続構造の施工方法であって、
ランナー設置工程と、スタッド建て込み工程と、間仕切壁形成工程と、を有し、
前記ランナー設置工程は、
前記床版の上方において、前記第一間仕切壁を形成する第一スタッドの下端が収容される下ランナーを設置し、前記床版の下方において、前記第二間仕切壁を形成する第二スタッドの上端が収容される上ランナーを設置し、
前記スタッド建て込み工程は、
前記第一スタッドの下端を前記下ランナーに収容して建て込んだ後、該第一スタッドの竪穴区画側に第一敷目板を取り付け、前記第二スタッドの上端を前記上ランナーに収容して建て込んだ後、該第二スタッドの竪穴区画側に第二敷目板を取り付け、
前記間仕切壁形成工程は、
前記竪穴区画において、前記第一スタッドから前記第二スタッドに跨って延設する第一壁材を、前記第一敷目板を介して前記第一スタッドに固定し、前記第二敷目板を介して前記第二スタッドに固定し、
前記上階室を形成する第二壁材を前記第一スタッドに固定し、該第二壁材と、該第一スタッドと、前記下ランナーと、前記第一壁材とにより前記第一間仕切壁を形成し、
前記下階室を形成する第三壁材を前記第二スタッドに固定し、該第三壁材と、該第二スタッドと、前記上ランナーと、前記第一壁材とにより前記第二間仕切壁を形成
し、
前記ランナー設置工程では、前記下ランナーと前記上ランナーをそれぞれ、前記床版における竪穴区画側の端面よりも上階室側と下階室側に所定量セットバックさせて前記床版に設置し、
前記所定量は、前記間仕切壁形成工程にて設置される前記第一壁材の設置位置を起点として、前記第一敷目板及び前記第二敷目板の厚みに相当する長さである、間仕切壁と床版の接続構造の施工方法。
【請求項8】
床梁にて支持される前記床版を施工する床版施工工程をさらに有し、
前記ランナー設置工程では、前記床梁に固定されているランナー受け材に対して前記上ランナーを固定する、請求項
7に記載の間仕切壁と床版の接続構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、間仕切壁と床版の接続構造とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物を構成する壁の防耐火性能は建築基準法に規定されており、壁の構造や構成材料については、建築基準法に規定された内装制限や防耐火性能を遵守する必要がある。例えば、建築基準法は、建築物の用途や規模、地域指定等に基づき、耐火建築物もしくは準耐火建築物として建築物全体の構造を規定するとともに、建築物の用途や規模、延焼防止、避難、排煙、消火等の観点から、内装材料や内壁構造、建具構造、配管貫通部等に関する防耐火性能を規制している。現行の建築基準法の下では、建築物の内装材料の不燃性能は、所定の不燃等級(不燃材、準不燃材、及び難燃材)に分類されている。また、建築物の壁の防耐火性能は、所定の構造種別(耐火構造、準耐火構造、防火構造、準防火構造等)に分類されている。
【0003】
一方、建築物の軽量化の観点から、軽量鉄骨製のスタッドの両面において、石膏ボードもしくは珪酸カルシウム板等の耐火ボードが取り付けられた乾式工法による耐火間仕切壁が、竪穴区画とその隣接空間との仕切壁として適用されている。この竪穴区画には、エレベータシャフトや階段室等が含まれ、それらに隣接する隣接空間には、エレベータホールや通路、居室等が含まれる。
【0004】
ところで、竪穴区画を間仕切壁で仕切り、竪穴区画に隣接する鉄筋コンクリート製等の床版の上下に上階室と下階室が配置される、接続構造の施工に際し、現場施工される床版には施工誤差が往々にして存在する。そのため、床版の竪穴区画側端面と面一にランナーを設置してスタッドを建て込み(従って、スタッドも床版の竪穴区画側端面と面一になる)、スタッドに竪穴区画に対向する壁材を施工することは困難である。そこで、床版の竪穴区画側端面から竪穴区画側に上下のランナーを張り出させた状態で床版に設置し、上下のランナーにスタッドを建て込み、上下のスタッドに対して竪穴区画に対向する壁材を施工する方法が適用されている。
【0005】
このことを、
図1を参照してより詳細に説明する。ここで、
図1は、従来の、竪穴区画と、竪穴区画に隣接する床版の上下にある上階室及び下階室とを隔てる、間仕切壁と床版の接続構造の一例を示す縦断面図である。
【0006】
図1において、竪穴区画10の左側には、H形鋼等の形鋼材により形成される床梁25に支持される、現場にて施工される鉄筋コンクリート製の床版20がある。床版20の上下にある上階室13及び下階室15と竪穴区画10とを隔てる、上方の第一間仕切壁30と下方の第二間仕切壁40が床版20と床梁25にそれぞれ接続されることにより、間仕切壁と床版の接続構造90が形成される。
【0007】
鉄筋コンクリート製の床版20は、施工誤差により、その竪穴区画側端面21に凹凸を有している。この凹凸は、
図1に示す縦方向に亘って存在する他にも、
図1の紙面奥行き方向にも存在する。そのため、床版20の上面においては、上方の第一間仕切壁30を構成し、建築用鋼製下地材により形成される下ランナー31が、竪穴区画側端面21から幅t1だけ竪穴区画側に張り出させた状態で配設され、ビスや鋲等の固定部材70により床版20に固定される。
【0008】
一方、床梁25の上下のフランジ25aのうち、ウエブ25bよりも竪穴区画側には、ランナー受け材37A,37Bが溶接等により固定される。また、ランナー受け材37A,37Bに対して、建築用鋼製下地材により形成される上下の床梁内ランナー35が双方の開口を対向させた姿勢でビスやタッピンねじ等の固定部材70にて固定される。そして、上下の床梁内ランナー35の内部において、床梁内スタッド36が配設される。これら上下の床梁内ランナー35も、床版20の竪穴区画側端面21から幅t1だけ竪穴区画側に張り出させた状態で、ランナー受け材37A,37Bに取り付けられる。
【0009】
さらに、床梁25の下方のフランジ25aの下面には、ランナー受け材37Cが溶接等により固定される。そして、ランナー受け材37Cに対して、下方の第二間仕切壁40を構成し、建築用鋼製下地材により形成される上ランナー33が、竪穴区画側端面21から幅t1だけ竪穴区画側に張り出させた状態で配設され、ビスやタッピンねじ等の固定部材70によりランナー受け材37Cに取り付けられる。
【0010】
第一間仕切壁30では、上方の上ランナー(図示せず)と下ランナー31の間において、壁の幅方向(
図1の奥行き方向)に間隔を置いて複数の第一スタッド32が建て込まれ、各第一スタッド32の室内側に第二壁材60Aが取り付けられる。一方、第二間仕切壁40では、下方の下ランナー(図示せず)と上ランナー33の間において、壁の幅方向(
図1の奥行き方向)に間隔を置いて複数の第二スタッド34が建て込まれ、各第二スタッド34の室内側に第三壁材60Bが取り付けられる。
【0011】
そして、第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36の竪穴区画側の端面には、第一スタッド32から第二スタッド34に跨って延設し、竪穴区画10に対向する第一壁材50が取り付けられている。
【0012】
第一壁材50、第二壁材60A及び第三壁材60Bはいずれも、例えば、下張り材51,61,64と、上張り材52,62,65が壁厚方向に積層した積層構造を有しており、第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36に対してビスやタッピンねじ等の固定部材70にて固定されている。ここで、下張り材51,61,64と、上張り材52,62,65は、いずれも石膏ボードにより形成されてもよいし、下張り材51,61,64と上張り材52,62,65の一方が石膏ボードにより形成され、他方が珪酸カルシウム板等により形成されてもよい。
【0013】
上階室を形成する第二壁材60Aと、第一スタッド32と、下ランナー31及び上ランナー(図示せず)と、第一壁材50とにより第一間仕切壁30が構成される。一方、下階室を形成する第三壁材60Bと、第二スタッド34と、上ランナー33及び下ランナー(図示せず)と、第一壁材50とにより第二間仕切壁40が構成される。そして、床梁25の周囲に耐火被覆材28が吹き付け施工等されることにより、耐火性能を有する間仕切壁と床版の接続構造90が形成される。
【0014】
図2に示すように、第一間仕切壁30や第二間仕切壁40に対して、例えば大規模な地震の際の大きな水平力Hが作用する場合を検証する。下ランナー31や上ランナー33,床梁内ランナー35が、床版20の竪穴区画側端面21から幅t1だけ竪穴区画側に張り出している。そのため、第一間仕切壁30等に水平力Hが作用すると、第一間仕切壁30等には水平力Hに起因する面外方向へのモーメントが生じる。そして、建築用鋼製下地材により形成される下ランナー31や上ランナー33,床梁内ランナー35の張り出し側の内側隅角部には、第一スタッド32や第二スタッド34、床梁内スタッド36から面外方向へのモーメントに起因する押し込み力Pが作用し得る。そして、この押し込み力Pにより、第一スタッド32、第二スタッド34、床梁内スタッド36の少なくとも一部が、幅t1よりもさらに竪穴区画側にずれ、下ランナー31や上ランナー33,床梁内ランナー35の張り出し箇所の少なくとも一部が折れ曲がって下方や上方に変形する(変形δ)。この結果、第一スタッド32、第二スタッド34、床梁内スタッド36の少なくとも一部が、下ランナー31、上ランナー33,床梁内ランナー35から外れることにより、接続構造90の少なくとも一部が破損に至り得る。また、施工性を勘案して、第二スタッド34の上端は、上ランナー33に対してクリアランスを有した状態で嵌め込まれる。そして、このことは、第一スタッド32の上端を不図示の上ランナーに対してや、床梁内スタッド36の上端を上の床梁内ランナー35に対して嵌め込む際にも同様である。そのため、第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36の上端は不図示の上ランナーや上ランナー33、上の床梁内ランナー35から外れ易くなっており、上記するように大きな水平力Hが作用した際には、第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36が、不図示の上ランナーや上ランナー33、上の床梁内ランナー35から外れることによっても、接続構造90が破損に至り得る。
【0015】
このように、下ランナー31や上ランナー33等の一部を床版20の竪穴区画側端面21から張り出させることにより、床版20の施工誤差を許容しながら、床版20に対して上方の第一間仕切壁30と下方の第二間仕切壁40が接続された接続構造90を形成する場合、大地震時等において接続構造90が破損に至り得るといった恐れがある。
【0016】
ここで、下地面材の横目地と、内装化粧板の縦目地との目地交差部に生じ得る局所的な耐火性能の劣化を防止し、間仕切壁の耐火性能を向上させる耐火目地材を備えた耐火間仕切壁が提案されている。具体的には、耐火目地材は、上下の水平耐火区画の間に延びる耐火間仕切壁の縦目地に挿入され、間仕切壁は、水平耐火区画の間に延びる垂直な軸組部材と、横張り方向に配向された下地面材と、下地面材の上に形成される内装化粧板とにより構成される。耐火目地材は、内装化粧板の縁部と、下地面材との間に介挿される挿入部と、内装化粧板の縦目地の目地底を隠蔽する目地底部分とを備え、耐火目地材は、少なくとも横目地及び縦目地の交差部において縦目地内に配置され、縦目地の目地底を閉塞する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に記載の耐火間仕切壁によれば、片側の室に火災が発生した際に、間仕切壁の裏面全域が比較的平均的に温度上昇し、局部的な高温域が発生せず、優れた耐火性能を発揮することができる。しかしながら、特許文献1に記載の耐火間仕切壁を適用したとしても、
図2を参照して説明した上記課題、すなわち、床版の施工誤差を許容しながら、床版に設置されている上下のランナーの変形に起因する接続構造の破損を解消して、上下のスタッドに対して竪穴区画に対向する壁材を精度よく接続するといった課題を解消することはできない。
【0019】
本開示は、大地震時等において、スタッドからランナーに押し込み力が作用した場合でもランナーが変形して接続構造が破損することがなく、竪穴区画に対向する壁材がスタッドに精度よく取り付けられている、間仕切壁と床版の接続構造とその施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示の一態様による間仕切壁と床版の接続構造は、
竪穴区画と、該竪穴区画に隣接して床版の上下にある上階室及び下階室と、を隔てる上方の第一間仕切壁及び下方の第二間仕切壁が、前記床版に接続されている、間仕切壁と床版の接続構造であって、
前記床版の上方には、前記第一間仕切壁を形成する第一スタッドの下端が収容される下ランナーが設置され、
前記床版の下方には、前記第二間仕切壁を形成する第二スタッドの上端が収容される上ランナーが設置されており、
前記竪穴区画において、前記第一スタッドから前記第二スタッドに跨って延設する第一壁材が、第一敷目板を介して前記第一スタッドに固定され、かつ第二敷目板を介して前記第二スタッドに固定されており、
前記上階室を形成する第二壁材と、前記第一スタッドと、前記下ランナーと、前記第一壁材は前記第一間仕切壁を形成し、
前記下階室を形成する第三壁材と、前記第二スタッドと、前記上ランナーと、前記第一壁材は前記第二間仕切壁を形成する。
【0021】
また、本開示の一態様による間仕切壁と床版の接続構造の施工方法は、
竪穴区画と、該竪穴区画に隣接して床版の上下にある上階室及び下階室と、を隔てる上方の第一間仕切壁及び下方の第二間仕切壁が、前記床版に接続されている、間仕切壁と床版の接続構造の施工方法であって、
ランナー設置工程と、スタッド建て込み工程と、間仕切壁形成工程と、を有し、
前記ランナー設置工程は、
前記床版の上方において、前記第一間仕切壁を形成する第一スタッドの下端が収容される下ランナーを設置し、前記床版の下方において、前記第二間仕切壁を形成する第二スタッドの上端が収容される上ランナーを設置し、
前記スタッド建て込み工程は、
前記第一スタッドの下端を前記下ランナーに収容して建て込んだ後、該第一スタッドの竪穴区画側に第一敷目板を取り付け、前記第二スタッドの上端を前記上ランナーに収容して建て込んだ後、該第二スタッドの竪穴区画側に第二敷目板を取り付け、
前記間仕切壁形成工程は、
前記竪穴区画において、前記第一スタッドから前記第二スタッドに跨って延設する第一壁材を、前記第一敷目板を介して前記第一スタッドに固定し、前記第二敷目板を介して前記第二スタッドに固定し、
前記上階室を形成する第二壁材を前記第一スタッドに固定し、該第二壁材と、該第一スタッドと、前記下ランナーと、前記第一壁材とにより前記第一間仕切壁を形成し、
前記下階室を形成する第三壁材を前記第二スタッドに固定し、該第三壁材と、該第二スタッドと、前記上ランナーと、前記第一壁材とにより前記第二間仕切壁を形成する。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、大地震時等において、スタッドからランナーに押し込み力が作用した場合でもランナーが変形して接続構造が破損することがなく、竪穴区画に対向する壁材がスタッドに精度よく取り付けられている、間仕切壁と床版の接続構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来の、竪穴区画と、竪穴区画に隣接する床版の上下にある上階室及び下階室とを隔てる、間仕切壁と床版の接続構造の一例を示す縦断面図である。
【
図2】従来の間仕切壁と床版の接続構造において、地震時の水平力が間仕切壁に作用した際の、破損の一例を説明する縦断面図である。
【
図3】実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造の一例を示す縦断面図である。
【
図4】実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造の施工方法の一例を説明する工程図である。
【
図5】
図4に続いて、実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造の施工方法の一例を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造とその施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造]
まず、
図3を参照して、実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造の一例について説明する。ここで、
図3は、実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造の一例を示す縦断面図である。
【0026】
図示する間仕切壁と床版の接続構造100は、竪穴区画10と、竪穴区画10に隣接して床版20の上下にある上階室13及び下階室15と、を隔てる上方の第一間仕切壁30及び下方の第二間仕切壁40が、床版20と床梁25にそれぞれ接続されることにより形成される。
【0027】
接続構造100が適用される竪穴区画10には、エレベータシャフトや階段室、ダクトシャフト、配管シャフト等が含まれ、それらに隣接する隣接空間である上階室13と下階室15には、エレベータホールや通路、居室、会議室、管理室等が含まれる。そして、接続構造100が適用される建物は、鉄骨造の建物は勿論のこと、RC(Reinforced Concrete)造の建物、木造建物等にも適用することができ、工場や倉庫、ビルやマンション、一般の戸建て住宅等が適用対象となる。
【0028】
鉄筋コンクリート製の床版20は現場施工にて形成されており、施工誤差に起因して、その竪穴区画側端面21に凹凸を有している。この凹凸は、図示する縦方向に存在するととともに、
図3の紙面奥行き方向にも存在する。
【0029】
床版20の上面において、上方の第一間仕切壁30を構成し、建築用鋼製下地材により形成される下ランナー31が、床版20における竪穴区画側端面21よりも上階室側に幅t3だけセットバックした位置に配設され、床版20に対してビスや鋲等の固定部材70により固定されている。
【0030】
一方、床梁25の上下のフランジ25aのうち、ウエブ25bよりも竪穴区画側には、ランナー受け材37A,37Bが溶接等により固定され、ランナー受け材37A,37Bに対して、建築用鋼製下地材により形成される上下の床梁内ランナー35が、双方の開口を対向させた姿勢でビスやタッピンねじ等の固定部材70にて固定されている。そして、上下の床梁内ランナー35の内部に床梁内スタッド36が配設される。これら上下の床梁内ランナー35の竪穴区画側フランジ35aが、床版20における竪穴区画側端面21よりも下階室側に幅t3だけセットバックした位置に配設され、上下のランナー受け材37A,37Bに対してビスやタッピンねじ等の固定部材70により固定されている。尚、上下の床梁内ランナー35の竪穴区画側フランジ35aは、上方のランナー受け材37Aと下方のランナー受け材37Bとの間において、下階室側に配設されている。
【0031】
さらに、床梁25の下方のフランジ25aの下面には、ランナー受け材37Cが溶接等により固定されている。このランナー受け材37Cに対して、下方の第二間仕切壁40を構成し、建築用鋼製下地材により形成される上ランナー33が、床版20における竪穴区画側端面21よりも下階室側に幅t3だけセットバックした位置に配設され、ビスやタッピンねじ等の固定部材70によりランナー受け材37Cに固定されている。
【0032】
第一間仕切壁30においては、上方の上ランナー(図示せず)と下ランナー31の間に壁の幅方向(
図3の奥行き方向)に間隔(例えば606mm以下の間隔で、606mm、455mm等)を置いて、リップ付き建築用鋼製下地材により形成される複数の第一スタッド32が建て込まれている。そして、各第一スタッド32の室内側には、第二壁材63が取り付けられている。
【0033】
一方、第二間仕切壁40においては、下方の下ランナー(図示せず)と上ランナー33の間に、壁の幅方向(
図3の奥行き方向)に間隔(例えば606mm以下の間隔で、606mm、455mm等)を置いて、リップ付き建築用鋼製下地材により形成される複数の第二スタッド34が建て込まれている。そして、各第二スタッド34の室内側には、第三壁材66が取り付けられている。
【0034】
尚、第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36は、リップ付き建築用鋼製下地材以外にも、角形鋼により形成されてもよい。第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36に適用される建築用鋼製下地材には、一般構造用軽量形鋼(JIS G 3350)、溶融亜鉛めっき鋼板(JIS G 3302)等が適用できる。また、建築用鋼製下地材としては、45乃至500×45乃至75×8乃至32で厚さ0.4mm以上のものが適用でき、角形鋼の形状寸法としては、45乃至500×40乃至350で厚さ0.4mm以上のものが適用できる。
【0035】
また、下ランナー31や上ランナー33、床梁内ランナー35に適用される建築用鋼製下地材には、一般構造用軽量形鋼(JIS G 3350)、溶融亜鉛めっき鋼板(JIS G 3302)等が適用でき、45乃至500×35乃至75で厚さ0.4mm以上のものが適用できる。
【0036】
そして、第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36の竪穴区画側の端面において、第一スタッド32から第二スタッド34に跨って延設する第一壁材50が取り付けられている。
【0037】
第一壁材50、第二壁材63及び第三壁材66はいずれも、例えば、下張り材51,61,64と、上張り材52,62,65が壁厚方向に積層した積層構造を有しており、第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36に対してビスやタッピンねじ等の固定部材70にて固定されている。ここで、下張り材51,61,64と、上張り材52,62,65は、いずれも石膏板や石膏ボードにより形成されてもよいし、下張り材51,61,64と上張り材52,62,65の一方が石膏板や石膏ボードにより形成され、他方が珪酸カルシウム板等により形成されてもよい。石膏ボードには、例えばJIS A 6901で規定される、厚みが9.5mm乃至25mmの石膏ボードが適用でき、具体的には、吉野石膏株式会社製の「タイガーボード(登録商標)・タイプZ」を適用することができる。また、下張り材51,61,64と、上張り材52,62,65は接着剤により相互に接着されている。この接着剤には、酢酸ビニル樹脂系接着剤やアクリル樹脂系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シリコーン系接着剤等が適用できる。
【0038】
また、図示を省略するが、第一壁材50における床梁25の下方位置において、第一壁材50を構成する下張り材51と上張り材52のいずれか一方、もしくは双方に、幅10mm以下の目透かしを設けてもよい。そして、この目透かしには、ポリウレタン系やアクリル系、シリコーン系等のシーリング材を充填してもよい。さらに、図示を省略するが、床版20の上には床仕上げ材が施工され、上張り材62,65の表面には、クロスや塗装等により内装仕上げが施され、内装仕上げ面が室内側に露出している。そして、図示を省略するが、床版20の上方に施工された床仕上げ材と内装仕上げ面に跨がるように、巾木が施工される。
【0039】
図3に示すように、第一壁材50と第一スタッド32は、厚みt2の第一敷目板80Aを介して相互にビスやタッピンねじ、ステープル等の固定部材70にて固定されている。また、第一壁材50と第二スタッド34は、同様の厚みt2の第二敷目板80Bを介して相互に固定部材70にて固定されている。さらに、第一壁材50と床梁内スタッド36は、同様の厚みt2の第三敷目板80Cを介して相互に固定部材70にて固定されている。
【0040】
ここで、第一敷目板80A、第二敷目板80B、及び第三敷目板80Cは、石膏板、石膏ボード、強化石膏ボード、不燃積層石膏ボード、繊維強化セメント板、グラスウール、ロックウール、グラスファイバーフェルト、ロックウールフェルト等により形成され、厚みは25mm以下程度で幅40mm以上のものが適用できる。尚、第一敷目板80A、第二敷目板80B、及び第三敷目板80Cは、それぞれ二枚以上の敷目板を重ねることにより、全体として厚みが25mmを超える形態であってもよい。
【0041】
竪穴区画10において第一壁材50が設置される設置ラインL1を起線として、第一スタッド32と第二スタッド34、及び床梁内スタッド36はそれぞれ、第一敷目板80A、第二敷目板80B、及び第三敷目板80Cの厚みt2だけ、上階室側及び下階室側にセットバックしている。その結果、下ランナー31、上ランナー33,及び床梁内ランナー35(の竪穴区画側フランジ35a)はいずれも、床版20における竪穴区画側端面21よりも上階室側と下階室側にそれぞれ幅t3だけセットバックした位置に配設される。このことにより、
図2に示すように、地震時に第一間仕切壁30や第二間仕切壁40に水平力Hが作用し、第一スタッド32や第二スタッド34等から下ランナー31や上ランナー33等に押し込み力Pが作用した場合でも、下ランナー31や上ランナー33等が変形することは無い。従って、下ランナー31や上ランナー33等の変形に起因する接続構造100の破損を防止できる。
【0042】
さらに、第一敷目板80A、第二敷目板80B、及び第三敷目板80Cが、第一スタッド32と第二スタッド34と床梁内スタッド36、及び第一壁材50の間に介在している。この構成により、現場施工される鉄筋コンクリート製の床版20が施工誤差によってその竪穴区画側端面21に凹凸を有している場合であっても、第一スタッド32と第二スタッド34と床梁内スタッド36に対して、第一壁材50を精度よく取り付けることができる。
【0043】
接続構造100では、床版20における竪穴区画側端面21と第一壁材50の間に形成されている隙間に、ロックウール等により形成される耐火材85が充填されている。また、床梁25の周囲には、吹き付け施工等により、耐火被覆材28が形成されている。この耐火被覆材28は、例えばフェルト状に成形された耐熱ロックウールと、難燃性不織布の積層体により形成される。
【0044】
このように、耐火性能のある第一間仕切壁30と第二間仕切壁40を有し、床梁25の周囲に耐火被覆材28が設けられるとともに、床版20における竪穴区画側端面21と第一壁材50の間の隙間に耐火材85が充填されていることにより、耐火性能に優れた接続構造100が形成される。
【0045】
[実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造の施工方法]
次に、
図4及び
図5を参照するとともに
図3を再度参照することにより、実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造の施工方法の一例について説明する。ここで、
図4、
図5及び
図3は順に、実施形態に係る間仕切壁と床版の接続構造の施工方法の一例を説明する縦断面図である。
【0046】
実施形態に係る施工方法は、床版施工工程と、ランナー設置工程と、スタッド建て込み工程と、間仕切壁形成工程とを有する。
【0047】
まず、
図4に示すように、H形鋼により形成される床梁25に支持されるようにして、鉄筋コンクリート製の床版20を現場施工する(床版施工工程)。
【0048】
次に、床版20の上方において、第一間仕切壁30を形成する第一スタッド32の下端が収容される下ランナー31を固定部材70にて固定する。さらに、床版20を支持する床梁25の下フランジ25aにおいて、第二間仕切壁40を形成する第二スタッド34の上端が収容される上ランナー33を固定部材70にて固定する。
【0049】
床梁25の上下のフランジ25aのうち、ウエブ25bよりも竪穴区画側には、ランナー受け材37A,37Bを溶接等により固定し、ランナー受け材37A,37Bに対して、上下の床梁内ランナー35を双方の開口を対向させた姿勢で固定部材70にて固定する。これら上下の床梁内ランナー35の内部には、床梁内スタッド36を配設する。
【0050】
ここで、竪穴区画10において第一壁材50が設置される設置ラインL1を起線として、下ランナー31と上ランナー33、及び床梁内ランナー35をそれぞれ、設置ラインL1上の起点Qから、第一敷目板80A、第二敷目板80B、及び第三敷目板80Cの厚みt2だけ、上階室側及び下階室側にセットバックさせた位置に設置する(以上、ランナー設置工程)。尚、ランナー設置工程に続いて、床梁25の周囲には、吹き付け施工等により耐火被覆材28を形成し、床版20における竪穴区画側端面21の側方には、耐火材85を充填する。
【0051】
次に、
図5に示すように、第一スタッド32の下端を、下ランナー31に収容して建て込む。尚、図示しない上ランナーに対して第一スタッド32の上端が嵌め込まれる。そして、第一スタッド32の竪穴区画側に、第一敷目板80Aを取り付ける。
【0052】
また、第二スタッド34の上端を、上ランナー33に収容して建て込む。尚、図示しない下ランナーに対して第二スタッド34の下端が嵌め込まれる。そして、第二スタッド34の竪穴区画側に第二敷目板80Bを取り付ける。
【0053】
さらに、床梁内スタッド36の竪穴区画側側面に第三敷目板80Cを設置する。ここで、第一スタッド32、第二スタッド34、及び床梁内スタッド36に対して、第一敷目板80A、第二敷目板80B、及び第三敷目板80Cが、粘着テープ(両面粘着テープを含む)や接着剤、タッピンねじ等により仮留めされる。ここで、粘着剤の種類は、アクリル樹脂系、ポリアミド系、天然ゴム系、合成ゴム系等の粘着剤が適用でき、厚みが3mm以下、幅100mm以下の寸法の粘着テープが適用できる。
【0054】
尚、第三敷目板80Cが予め床梁内スタッド36に仮固定されていて、ランナー設置工程において、床梁内スタッド36を設置した際に第三敷目板80Cの設置も同時に完了していてもよい(以上、スタッド建て込み工程)。
【0055】
次に、
図3に示すように、竪穴区画10において、第一スタッド32から第二スタッド34に跨って延設する第一壁材50を、第一敷目板80Aを介して固定部材70にて第一スタッド32に固定し、第二敷目板80Bを介して固定部材70にて第二スタッド34に固定し、第三敷目板80Cを介して固定部材70にて床梁内スタッド36に固定する。これらの固定部材70による固定により、第一スタッド32等に仮固定されていた第一敷目板80A等が、第一スタッド32等に対して強固に本固定される。
【0056】
さらに、上階室13を形成する第二壁材63を第一スタッド32に固定部材70にて固定することにより、第二壁材63と、第一スタッド32と、下ランナー31及び上ランナー(図示せず)と、第一壁材50とにより第一間仕切壁30を形成する。
【0057】
また、下階室15を形成する第三壁材66を第二スタッド34に固定部材70にて固定することにより、第三壁材66と、第二スタッド34と、上ランナー33及び下ランナー(図示せず)と、第一壁材50とにより第二間仕切壁40を形成し、接続構造100が施工される(以上、間仕切壁形成工程)。
【0058】
実施形態に係る施工方法によれば、下ランナー31や上ランナー33等が、床版20に対して、その凹凸を有する竪穴区画側端面21から上階室側と下階室側に所定量セットバックした位置に設置される。このことにより、地震時等における下ランナー31等の破損を解消することができ、かつ、第一敷目板80A等を介して第一壁材50が精度よく第一スタッド32等に取り付けられている接続構造100を効率的に施工することが可能になる。
【0059】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本開示はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0060】
本国際出願は、2020年3月19日に出願した日本国特許出願第2020-049538号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0061】
10:竪穴区画
13:上階室
15:下階室
20:床版
25:床梁
28:耐火被覆材
21:竪穴区画側端面
30:第一間仕切壁
31:下ランナー
32:第一スタッド
33:上ランナー
34:第二スタッド
35:床梁内ランナー
36:床梁内スタッド
37A:第一ランナー受け材(ランナー受け材)
37B:第二ランナー受け材(ランナー受け材)
37C:第三ランナー受け材(ランナー受け材)
40:第二間仕切壁
50:第一壁材
51:下張り材
52:上張り材
60A,63:第二壁材
60B,66:第三壁材
61,64:下張り材
62,65:上張り材
70:固定部材
80A:第一敷目板
80B:第二敷目板
80C:第三敷目板
85:耐火材
100:間仕切壁と床版の接続構造(接続構造)